説明

燃焼灰からの規制物質の溶出抑制方法

【課題】
フッ素、ホウ素、六価クロムおよび鉛を含む燃焼灰等について、土壌汚染対策法による環告第18号試験法で規定された規制物質のフッ素、ホウ素、六価クロムおよび鉛の溶出量を同時にしかも簡便に低減する方法を提供する。
【解決手段】
カルシウム、アルミニウムおよびケイ素が酸化物換算で20〜35質量%、22〜28質量%、30〜45質量%となるように混合した原燃料を燃焼炉に導入し、燃焼炉での燃焼温度を700〜1300℃に制御することでカルシウム、アルミニウムおよびケイ素を反応させる燃焼灰からの規制物質の溶出抑制方法である。さらに、前記規制物質が、フッ素、ホウ素、六価クロムおよび鉛である燃焼灰からの規制物質の溶出抑制方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼灰に含まれる土壌汚染対策法の規制対象物質であるフッ素、ホウ素および重金属の処理方法に関し、さらに詳しくは、燃焼灰に含まれるフッ素、ホウ素、六価クロムおよび鉛の溶出量の低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業廃棄物や一般廃棄物の燃焼灰には土壌汚染対策法の規制対象物質であるフッ素、ホウ素、六価クロムおよび鉛等の重金属が含有されている場合が多い。具体的には、燃焼灰には、燃焼炉で燃焼される原燃料、すなわち石炭やRPF(Refused Paper & Plastic Fuel)、RDF(Refused Derived Fuel)等の固形化廃棄物燃料、抄紙工程や排水処理工程から排出される製紙スラッジ(Paper Sludge、以下PSと称す)、古紙、廃タイヤ、廃プラスチック、建築廃材および木屑等の産業廃棄物、さらには下水汚泥や雑芥等の一般廃棄物に由来するものであり、これらを土壌改良用途等に使用する場合には、雨水等によって規制対象物質が基準値以上に溶出しないように義務づけられている。
【0003】
土壌に含まれる規制対象物質については、土壌汚染対策法を受けた平成15年環境省告示第18号に規定される溶出量の試験(以下、環告18号試験法と称す)で土壌環境基準の溶出量基準を充足し、かつ平成15年環境省告示第19号で規定される含有量の試験(以下、環告19号試験法と称す)で土壌環境基準の含有量基準を充足することが定められており、土壌用途に使用するには上記の規制対象物質を含有する燃焼灰等の場合、溶出量と含有量を低減して土壌環境基準を充足させる処理技術が必要となる。
【0004】
規制対象物質のうちフッ素、ホウ素、六価クロムおよび鉛は、上記の各種燃焼灰の中のいずれかにはほとんどと言ってよいほどに含まれている。これらの燃焼灰は、18号試験法で測定される溶出量は基準値を超えることが多く、これらの燃焼灰を土壌改良材や埋め戻し材に使う場合には、溶出する量を基準値以下に抑制する必要がある。なお、含有量については燃焼灰に含まれるフッ素、ホウ素や六価クロムが、基準値を超えることは、ほとんど見当たらない。
【0005】
規制対象物質のうちフッ素はPS灰等の紙に使用される填料に由来し、ホウ素は石炭灰に多く見られ、六価クロムは、PS灰や下水汚泥焼却灰等に、鉱物由来で含有されており、pHがある領域になると溶出量は基準値を超えることが多い。さらに鉛は、プラスチック類の安定剤として利用されており、古紙処理のリジェクトとして排出され、それがPSと一緒に燃焼されるので、PS灰あるいは廃プラスチックを原料とするRPF灰の中に含まれ、溶出pHが高い場合には、溶出量が基準値を超える場合がある。
【0006】
燃焼灰からの規制対象物質の溶出抑制法としては、「溶融固化法」、「セメント固化」、「石灰等の添加」、「酸またはその他の溶媒による抽出処理」あるいは「キレート剤等薬品処理」等が一般的である。しかし、フッ素、ホウ素、六価クロムおよび鉛を同時に溶出抑制できる手段はほとんどなく、実用的なものは皆無に近い状況である。
【0007】
溶融固化法(特許文献1)は、廃棄物を1400〜1600℃の高温になるまで加熱することによって、有機物を分解し、クロムや鉛等の有害物質を生成するスラグに封じ込み固定化するものである。しかし、フッ素およびホウ素が固定化される記載はなく、示唆もない。また、この方式は、安全性は最も高いとされているが、新たに発生するより高濃度の有害物質を含有する飛灰処理の問題等の欠点があり、また設備費を含めた処理コストが燃焼灰からの溶出抑制法の中では最も高いことも問題となっている。
【0008】
石炭灰中のホウ素を高炉セメントで固化して溶出抑制する方法(特許文献2)があるが、固化するまでに養生日数が1週間程度かかることに加え、灰の性状により固化しても、その固化物に耐久性がない場合がある。例えば、セメントが風化して灰の成分が溶出し、これによる汚染が考えられる。また、この方法で溶出抑制できるのはホウ素のみであり、フッ素に関しての効果は期待できない。また、使用するセメントによっては、六価クロムの溶出量が逆に増加する等の問題もある。
【0009】
セメントにカルシウム塩や混和材料を加えて、焼却灰中のフッ素又はホウ素を固化させて不溶化させる方法(特許文献3)等も提案されているが、養生に時間がかかり、固化するため利用に制限を受ける。また、燃焼飛灰の鉛溶出量を低減する処理方法として、セメント及び鉄粉末又はアルミニウム粉末等を混練して処方するセメント固化法等が既に開示されている(特許文献4)が、セメント固化に手間も養生時間もかかってしまう。
【0010】
汚泥に石灰、石炭燃焼灰および石膏を水の存在下で混錬し、フッ素およびホウ素の溶出を抑制する方法(特許文献5)もあるが、溶出量を土壌環境基準値以下にするための養生に時間がかかり、処理後の灰置場を要するといった制限を受ける。さらに、処理後は固化が進み、土壌改良材や盛土等への使用は困難になる。
【0011】
酸等の溶媒抽出によるホウ素除去(例えば、非特許文献1)は、処理に大量の水や時間がかかり、さらにホウ素を含む排水の処理といった付帯設備も必要となり、それらを合せると非常に大規模な設備を要し、設備費も莫大となり、実用には不向きである。さらに、酸を使ってpHを下げると鉛等の重金属の溶出を促進する場合があり、また、フッ素への効果も明らかではない。
【0012】
燃焼灰等に含まれる重金属の溶出量を抑制するための技術としては、例えば、重金属を含む燃焼灰等にキレート剤としてジチオカルバミン酸を混練、養生する方法(特許文献6)が既に開示されているが、養生に時間がかかる等の問題がある。
【0013】
また、燃焼飛灰の六価クロム溶出量を低減する処理方法として、水溶性の第一鉄塩を添加する方法が開示されている(特許文献7)が、水溶性の鉄塩(第一鉄塩)は、還元力が優れ不溶化する効果はあるものの、薬品が高価であり、実用的とは言い難い。
【0014】
さらに、最近、過熱水蒸気を用いる、いわゆる水熱反応の利用が有望視され、その酸化効果が注目されている(例えば、非特許文献2)。しかし、水熱反応は、重金属の溶出抑制に効果はあるが、フッ素やホウ素に対する効果は未だ明確ではない。
【0015】
一方、CaOを含む原料、Alを含む原料およびFeを含む原料を混合し、キルン等で1000〜1600℃の高温で処理してカルシウムアルミノフェライトを作り、水和活性を有する有害重金属捕集材の製造方法が開示されている(特許文献9)。しかし、この方法は、土壌にこの捕集材を撒いて土壌中の主に六価クロムを捕集する方法であり、本発明のように原燃料(化石燃料、固形化廃棄物燃料、産業廃棄物、一般廃棄物等)由来のフッ素、ホウ素、六価クロムおよび鉛を、同じく原燃料に含まれるカルシウム、アルミナおよびシリカによって、炉内で反応させて溶出を同時に抑制する方法ではない。
【0016】
また、CaO/Alモル比が1〜3であるガラス化率が50%以上のカルシウムアルミネートを含有する物質で、水中にある砒素および/またはセレンを捕集する方法が開示されている(特許文献10)。しかし、この方法は水中の砒素とセレンとを捕集する方法であり、本発明のように、原燃料を燃焼させる間に、これらに含まれるフッ素、ホウ素、六価クロムおよび鉛等の規制元素を、同じく原燃料に含まれるカルシウム、アルミナおよびシリカによって、炉内の反応で、溶出を同時に抑制する方法とは、全く思想および方法が異なる。
【0017】
さらに、本発明者の一人は、アルカリ土類、アルミナ、シリカ源となる原料粉末を混合し、混合した粉末を破砕してメカノケミカル反応を行い、それを700〜850℃で一時間以上反応させることで、アルミノシリカ非晶体をつくり、これを排水に含まれる重金属イオンの除去材料として提供している(特許文献11)が、本発明のように、原燃料に含まれるカルシウム、アルミナおよびシリカを700〜1300℃で比較的短時間の燃焼の間に反応させて、生成した燃焼灰からフッ素、ホウ素、六価クロムおよび鉛等の規制元素の溶出量を同時に基準値以下にする方法とは異なるものである。
【特許文献1】特開平9−271738号公報
【特許文献2】特開2001−310175号公報
【特許文献3】特開2004−89816号公報
【特許文献4】特開平7−185499号公報
【特許文献5】特開2002−346595号公報
【特許文献6】特開平4−267982号公報
【特許文献7】特開2003−113362号公報
【特許文献8】特開昭49−016714号公報
【非特許文献1】大林組技術研究所報、No.65、95〜100頁(2002)
【非特許文献2】「過熱水蒸気技術集成」、エヌ・ティー・エス、2005年9月発行、 133〜141頁、199〜203頁
【特許文献9】特許第3804950号公報
【特許文献10】特許第3877712号公報
【特許文献11】特開2004−51457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は上記の点を鑑みなされたもので、フッ素、ホウ素、六価クロムおよび鉛を含む燃焼灰等について、土壌汚染対策法による環告第18号試験法で規定された規制物質のフッ素、ホウ素、六価クロムおよび鉛の溶出量を、同時にしかも簡便に低減する方法を提供することにある。すなわち、従来の方法とは異なり、特定の組成比率となるように化石燃料や廃棄物等の原燃料に含まれる物質の量を制御して混合し、それを燃焼炉内の特定の燃焼条件下で反応させることによって、生成した燃焼灰から複数の規制物質を同時に溶出抑制する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者等は、規制物質を含む燃焼灰等を土壌用途に使用するために、燃焼灰等に含まれる複数の規制物質の溶出量を、同時にしかも簡便に低減すると言う驚くべき方法を見出し、本発明を完成するに至った。本発明は以下の各発明を包含する。
【0020】
(1)カルシウム、アルミニウムおよびケイ素が酸化物換算で20〜35質量%、22〜28質量%、30〜45質量%となるように混合した原燃料を燃焼炉に導入し、燃焼炉での燃焼温度を700〜1300℃に制御することでカルシウム、アルミニウムおよびケイ素を反応させる燃焼灰からの規制物質の溶出抑制方法。
【0021】
(2)前記規制物質が、フッ素、ホウ素、六価クロムおよび鉛である(1)に記載の燃焼灰からの規制物質の溶出抑制方法。
【0022】
(3)前記原燃料が化石燃料、固形化廃棄物燃料、産業廃棄物、一般廃棄物から選択される少なくとも一種である(1)または(2)に記載の燃焼灰からの規制物質の溶出抑制方法。
【0023】
(4)前記原燃料が製紙スラッジ、製紙スラッジ灰、石炭、石炭灰から選択される少なくとも一種である(1)〜(3)のいずれか1項に記載の燃焼灰からの規制物質の溶出抑制方法。
【発明の効果】
【0024】
環告第18号で溶出量が規制されているフッ素、ホウ素、六価クロムおよび鉛の四元素は、PS灰、石炭灰、RPF灰、バイオマス灰等の産業廃棄物燃焼灰には、常に溶出量が問題になる元素であり、その結果、環境基準値を超えると灰の利用先がセメント等に限定されてしまう。しかし、本発明によれば燃焼灰等に含まれるこれらの規制物質の溶出量を容易にかつ同時に基準値以下に低減できるので、環境に悪影響を及ぼすことなく、土壌改良材、草地改良材、埋め戻し材、盛土および砂礫などの土壌用途に幅広く利用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明において用いられる原燃料としては、石炭等の化石燃料、RPF、RDF等の固形化廃棄物燃料、PS、古紙、廃タイヤ、廃プラスチック、建築廃材および木屑等の産業廃棄物、さらには下水汚泥や雑芥等の一般廃棄物等が挙げられる。
【0026】
なかでも原燃料としてPS、PS灰、石炭、石炭灰から選択される少なくとも1種を含有することがカルシウム、アルミニウムおよびケイ素の三成分を適切に含んでいるため好ましい。
【0027】
本発明において用いられる各原料中にはカルシウム、アルミニウムおよびケイ素が酸化物換算で20〜35質量%、22〜28質量%、30〜45質量%の範囲の比率で含有されている必要がある。ここで、前記比率は原料を燃焼した後の全酸化物質量を基準(100質量%)とする。カルシウムの含有比率が20質量%未満であると、カルシウム、アルミニウムおよびケイ素の結合(以下CAS結合)の生成が少なくなり、カルシウムの含有比率が35質量%を超えると、CAS以外の結合が多くなる。アルミニウムの含有比率が22質量%未満であると、CAS結合の生成が少なくなり、アルミニウムの含有比率が28質量%を超えると、CAS以外の結合が多くなる。ケイ素の含有比率が30質量%未満であると、CAS結合の生成が少なくなり、ケイ素の含有比率が45質量%を超えると、CAS以外の結合が多くなる。以上のようにCAS結合の形成を促進し、維持するためには、CaO、Al、SiOを上記範囲に調整する必要がある。
【0028】
本発明に係わる各原燃料中における酸化物換算でのカルシウム、アルミニウムおよびケイ素の含有比率の測定は、好適にはXRF(蛍光X線分析装置)によって行う。これらの測定値に基づき、現燃料のCaO、Al、SiOの組成比を上記特定の範囲となるように化石燃料、固形化廃棄物燃料、産業廃棄物、一般廃棄物および燃焼灰を混合する。
【0029】
上記の混合に当たっては、燃焼炉の中に、単純に配合量の計算に基づいて投入するよりも、充分に混合した後、燃焼炉に投入する方法が好ましい。該混合には、リボンミキサー、ニーダー、カウレス分散機、アイリッヒインテンシブミキサー、ペレガイアミキサー等の公知のミキサーを用いることができる。このミキサーには、各廃棄物あるいは廃棄物灰のコンベヤーを用いて投入し、その回転数を制御することで、組成比を制御する方法が良い。ミキサーで混合後は、直接燃焼炉に投入しても良いし、一旦ホッパーに貯蔵した後、燃焼炉に投入しても良い。
【0030】
混合比が、上記の原燃料によって満たされない場合には、カルシウム源、アルミニウム源、ケイ素源の原料となる化合物あるいはその粉末を必要量加えても良い。
【0031】
カルシウム源となる化合物は、カルシウムの炭酸塩や水酸化物あるいは酸化物を採用することができる。このほか、カルシウムの硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩等を使用できる。
また、アルミニウム、ケイ素源としては、各種の粘土鉱物が使用できる。例えば、カオリナイト、ハロサイト、ディカイト、アロファン、イモゴライト、パイロフィライト等がある。この他に、アルミナシリカゲル、シリカゾル、アルミナゲル、γ−アルミナ、ベーマイト、シリカゲル、アルミナゲル等が採用される。また、これらの成分は原燃料からの燃焼灰にも含まれているので、それらの燃焼灰の一部を再利用しても良い。
【0032】
本発明において燃焼炉でカルシウム、アルミニウム、ケイ素を反応させる上で燃焼温度条件は非常に重要であり、炉内に一次空気あるいは二次空気を導入して、700〜1300℃に制御する必要がある。因みに燃焼温度が700℃未満であると、燃料効率が悪化するばかりでなく、反応に時間がかかり、該規制物質と廃棄物中のカルシウム、アルミニウムおよびケイ素との反応が不十分となり、溶出抑制効果が不十分となるおそれがある。逆に燃焼温度が1300℃を超えると、炉が高温に晒されるので、炉の材質が傷んだり、また、高温による廃棄物の一部に熔解が起こり、折角反応したカルシウム、アルミニウムおよびケイ素の結合が破壊されるおそれもあるので、好ましくない。燃焼炉での操業の容易さの点から850〜1100℃がより好ましい。
【0033】
本発明の700〜1300℃の温度下では燃焼炉内で、原燃料に含まれるカルシウムは酸化カルシウムの形になり、またアルミニウムおよびケイ素も酸化物になり、それらが反応してCAS結合を作る。この構造は非晶質であるが、一部は結晶性のアノーサイト(CaAlSi)にも変換する。また、温度が1000℃以上になると結晶性のゲーレナイト(CaAlSiO)の構造も増えてくるが、いずれもこれらはCAS結合を有している。この反応で形成されたCAS結合のため、フッ素、ホウ素、六価クロムおよび鉛を同時に効果的に溶出抑制することができるのである。
【0034】
本発明に係わる燃焼炉はストーカー炉、流動層炉、シャフト炉、溶融炉、箱型炉あるいはロータリキルン炉等、廃棄物を燃焼し、700〜1300℃の燃焼温度で燃焼できる炉であれば特に限定されないが、炉内での灰の流動性や攪拌性を考慮すると、流動層炉やロータリキルン炉が好ましい。
【0035】
本発明に係わる燃焼炉から排出される燃焼灰中のカルシウム、アルミニウムおよびケイ素の反応物はCAS結合を持つ非晶質でもアノーサイトやゲーレナイトのような結晶質の物でも良いが、非晶質の方がこれら規制物質の捕集効果がより大きくなる。燃焼炉に投入する廃棄物あるいは廃棄物灰の粒径は特に規定しないが、ハンドリング性および生成した灰の形状を考慮して、選べば良い。
【実施例】
【0036】
以下に本発明を実施例により説明するが、これらは代表例であって、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0037】
フッ素、ホウ素、六価クロムおよび鉛の溶出量を低減するための実験方法は以下の通りである。
【0038】
工場で使用している石炭、製紙工場の製紙工程から排出されるリジェクトおよび排水処理工程で排出される製紙スラッジ(PS)、廃プラスチックと紙くずから作られるRPF、建築廃材などの木屑および廃タイヤをそれぞれ単独で、細かく粉砕した後、105℃で一昼夜乾燥した後、石炭および廃タイヤ以外は白金坩堝に適当量を取り、それを250℃から350℃の範囲で1時間、電気炉で炭化した。この石炭、廃タイヤ、炭化PS、炭化RPFおよび炭化木屑を、それぞれ適当量を採取し、乳鉢で充分混合した後、白金坩堝にいれ電気炉で、毎分10℃の速さで昇温し、所定の温度で3時間保持した。
【0039】
それらの燃焼灰に含まれるカルシウム、アルミニウムおよびケイ素の分析は、波長分散型蛍光X線分析(XRF)を用いて行った。
【0040】
燃焼灰に含まれるカルシウム、アルミニウムおよびシリカの結合度合いは、非晶質のCAS結合はX線回折(XRD)では、ブロードのふくらみ(ハロー)を持つが、その度合はピークがないので、定量的には量れない。しかしながら、それがさらに反応し結晶構造になったアノーサイトやゲーレナイトは、それぞれ回折角28.0度および回折角31.4度にメインピークを持つので、その強度から、推定できる。
【0041】
燃焼灰のフッ素、ホウ素、六価クロムと鉛の溶出量試験では、環告18号試験法に従って、燃焼灰の試料50gを蒸留水500ml中で常温にて6時間振盪溶出し、その溶出液を3,000rpmにて20分間の条件で遠心分離し、上澄液を調製した。次に、得られた上澄液について0.45μのメンブレンフィルタを使用して濾液を調製し、これらの元素濃度分析の検液とした。フッ素の濃度分析はイオンクロマトグフィーを使用し、ホウ素と鉛濃度の分析はICP発光分光分析法で行い、六価クロムの濃度はジフェニル・カルバジド法で行った。
【0042】
実施例1
原燃料として石炭と炭化PSを用い、それぞれXRFでCaO、AlおよびSiOを測定して、両者を混合した後の組成比が目標とする範囲に入るように混合した後、900℃で燃焼した(表1参照)。燃焼後の灰は、XRD測定でアノーサイトおよびゲーレナイトの生成を確認した。燃焼灰からのフッ素、ホウ素、六価クロムおよび鉛の溶出量は、環告18号試験法で測定し、これらの規制物質が環境基準を満足していることを確認した。その結果を表2に示す。
【0043】
実施例2
原燃料として炭化PSと炭化RPFを用いて、950℃で燃焼した以外は実施例1と同様に行い、目標とする規制物質が環境基準を充足できた。その結果を表2に示す。
【0044】
実施例3
原燃料として石炭と炭化PSおよび炭化RPFを用いて、1000℃で燃焼した以外は実施例1と同様に行い、目標とする規制物質が環境基準を充足できた。その結果を表2に示す。
【0045】
実施例4
原燃料として炭化PSおよび炭化木屑および廃タイヤを用いて、850℃で燃焼した以外は実施例1と同様に行い、目標とする規制物質が環境基準を充足できた。その結果を表2に示す。
【0046】
実施例5
原燃料として石炭と炭化RPFを用いて、1100℃で燃焼した以外は実施例1と同様に行い、目標とする規制物質の環境基準を充足できた。その結果を表2に示す。
【0047】
実施例6
原燃料として石炭と炭化RPFおよび炭化木屑を用いて、750℃で燃焼した以外は実施例1と同様に行い、目標とする規制物質が環境基準を充足できた。その結果を表2に示す。
【0048】
実施例7
原燃料として炭化RPFと炭化木屑および廃タイヤを用いて、1250℃で燃焼した以外は実施例1と同様に行い、目標とする規制物質が環境基準を充足できた。その結果を表2に示す。
【0049】
実施例8
原燃料として炭化PSと炭化RPFおよび炭化木屑を用いて、1050℃で燃焼した以外は実施例1と同様に行い、目標とする規制物質の環境基準を充足できた。その結果を表2に示す。
【0050】
比較例1
実施例1で使用した原燃料の石炭と炭化PSを用いて混合する際に、シリカの含量が47%以上になるようにした以外は実施例1と同様に処理した。この場合には、ホウ素の溶出量が基準値を超過した。その結果を表2に示す。
【0051】
比較例2
実施例4で使用した原燃料の炭化PSと炭化木屑および廃タイヤを用いて混合する際に、アルミナの含量が30%以上になるようにした以外は実施例4と同様に処理した。この場合には、フッ素と鉛の溶出量が基準値を超過した。その結果を表2に示す。
【0052】
比較例3
実施例6で使用した原燃料の構成で、処理温度を650℃で処理した以外は、実施例6と同様に行った。この場合には、フッ素、六価クロムおよび鉛の溶出量が基準値を超過した。その結果を表2に示す。
【0053】
比較例4
実施例7で使用した原燃料の構成で、処理温度が1400℃で処理した以外は、実施例7と同様に処理した。この場合には、フッ素と鉛の溶出量が基準値を超過した。その結果を表2に示す。
【0054】
比較例5
炭化PSと炭化木屑を用いて、CaOの組成が18%以下にして混合した後、850℃で燃焼し、処理した。この場合には、ホウ素と六価クロムの溶出量が基準値を超過した。その結果を表2に示す。なお、表1中のPS、RPF、木屑は炭化品を表す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
表2から判るように、フッ素、ホウ素、六価クロムおよび鉛を含む原燃料を燃焼し、その生成する燃焼灰からの、これら規制物質の溶出抑制をするには、原燃料に含まれるCaO、AlおよびSiOを測定して混合割合を制御し、かつ適切な温度で燃焼することによって、カルシウム、アルミニウムおよびケイ素の反応が促進され、それによって生成する燃焼灰から、環境省告示18号試験法によるフッ素、ホウ素、六価クロムおよび鉛の溶出量が顕著に低減でき、土壌環境基準を充足することができることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
フッ素、ホウ素および六価クロムおよび鉛などの重金属を含有する石炭やRPF、製紙スラッジ、廃タイヤ、木屑等を燃焼した燃焼灰に関して、フッ素、ホウ素、六価クロムおよび鉛の溶出量を低減する方法として、それら灰の元である原燃料中のCaO、AlおよびSiOの混合割合を制御し、ある燃焼温度範囲で燃焼する技術は見出されていなかった。
本発明の成果として、燃焼灰の後処理をすることなく、原燃料の化学組成と温度の制御によって、燃焼灰には最も頻繁に問題になるフッ素、ホウ素、六価クロムおよび鉛の溶出量を同時に低減できる簡便で確実な方法を提供する事が可能となった。
【0059】
本技術を使用することによって、規制物質の溶出を基準値以下に低減した燃焼灰は、環境に悪影響を与えることなく、土壌改良材、草地改良材、埋め戻し材、盛土、砂礫等の土壌用途に利用することが可能となり、新たな循環系を構築し、社会に貢献する方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム、アルミニウムおよびケイ素が酸化物換算で20〜35質量%、22〜28質量%、30〜45質量%となるように混合した原燃料を燃焼炉に導入し、燃焼炉での燃焼温度を700〜1300℃に制御することでカルシウム、アルミニウムおよびケイ素を反応させることを特徴とする燃焼灰からの規制物質の溶出抑制方法。
【請求項2】
前記規制物質が、フッ素、ホウ素、六価クロムおよび鉛であることを特徴とする請求項1に記載の燃焼灰からの規制物質の溶出抑制方法。
【請求項3】
前記原燃料が化石燃料、固形化廃棄物燃料、産業廃棄物、一般廃棄物から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1または2に記載の燃焼灰からの規制物質の溶出抑制方法。
【請求項4】
前記原燃料が製紙スラッジ、製紙スラッジ灰、石炭、石炭灰から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃焼灰からの規制物質の溶出抑制方法。

【公開番号】特開2009−281604(P2009−281604A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131796(P2008−131796)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】