説明

燃焼炉における燃焼領域の検出方法および検出装置

【課題】燃焼むらによる悪影響を除去し得る燃焼炉における燃焼領域の検出装置を提供する。
【解決手段】燃焼ごみ表面からの放射エネルギーを計測するセンサ部11と、この計測データを入力して計測領域における各画素での計測データを少なくとも1画像分蓄積し得るデータ蓄積部13と、この蓄積された計測データを入力して各画素における計測データに対して平滑化処理を行う平滑化処理部14と、この平滑化された各画素における計測データを二値化して高温部を抽出する二値化処理部15と、この抽出された複数画像における高温部データを、各画像同士間で論理積処理を行い重複部分を抽出する重複部分抽出部17と、この抽出された重複部分のラベリング処理を行い高温領域を認識する高温領域認識部18と、この認識された高温領域のうち最大の領域を燃焼領域と判断する燃焼領域判断部20とを具備したもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば燃焼炉内でごみが燃焼する際の燃焼領域の検出方法および検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被燃焼物の燃焼を行う設備、例えばごみ燃焼炉などにおいては、適切な燃焼を行わせるために、現在の燃焼状態、例えば燃え切り点をできるだけ正確に把握することが好ましい。
【0003】
ところで、このような燃え切り点を把握する方法としては、燃焼領域の境界近傍をテレビカメラで撮影するとともに、この撮影された画像上の輝度に対する画素数の関係を輝度分布処理、具体的には、ごみの移動方向の直交方向での二値化処理を行い、そしてその画素数の和が閾値を越えた箇所を燃え切り点とするようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−274675(段落番号[0017]参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示された処理によると、輝炎のゆらぎが画素に残っている場合、ノイズであるにも拘わらず、主燃焼領域であると誤って判断してしまうことがあり、また高カロリーのごみが分散して主燃焼領域から離れた箇所で燃焼している場合にも、やはり、主燃焼領域を誤って判断する惧れがあった。
【0005】
そこで、上記課題を解決するため、本発明は、輝炎のゆらぎ、ごみの分散などに起因する燃焼むらによる悪影響を除去し得る燃焼炉における燃焼領域の検出方法および検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の燃焼炉における燃焼領域検出方法は、被燃焼物の燃焼表面から放出される放射エネルギーをセンサにより計測する計測ステップと、この計測ステップにて計測された計測データを入力してその計測領域における各画素での計測データを少なくとも1画像分蓄積するデータ蓄積ステップと、このデータ蓄積ステップにて蓄積された計測データを入力して各画素における計測データを二値化処理して高温部を抽出する二値化処理ステップと、この二値化処理ステップにて抽出された複数画像における高温部データを、各画像同士間で重ね合わせ処理を行い重複部分を抽出する重複部分抽出ステップと、この重複部分抽出ステップにて抽出された重複部分のラベリング処理を行い高温領域を認識する高温領域認識ステップと、この高温領域認識ステップにて認識された高温領域の面積を求めた後、最大面積の領域を燃焼領域と判断する燃焼領域判断ステップとを具備した方法である。
【0007】
また、本発明の燃焼炉における燃焼領域の検出装置は、被燃焼物の燃焼表面から放出される放射エネルギーを計測するセンサ部と、このセンサ部にて計測された計測データを入力してその計測領域における各画素での計測データを少なくとも1画像分蓄積し得るデータ蓄積部と、このデータ蓄積部に蓄積された計測データを入力して各画素における計測データに対して平滑化処理を行う平滑化処理部と、この平滑化処理部で平滑化された各画素における計測データを所定の閾値でもって二値化して高温部を抽出する二値化処理部と、この二値化処理部で抽出された複数画像における高温部データを、各画像同士間で重ね合わせ処理を行い重複部分を抽出する重複部分抽出部と、この重複部分抽出部にて抽出された重複部分のラベリング処理を行い高温領域を認識する高温領域認識部と、この高温領域認識部で認識された高温領域の面積を求める面積算出部と、この面積算出部で求められた最大面積の領域を燃焼領域と判断する燃焼領域判断部とを具備したものである。
【発明の効果】
【0008】
上記燃焼領域の検出方法および検出装置によると、被燃焼物からの放射エネルギーを計測するとともに、得られた計測データに対して所定の閾値でもって二値化し、この二値化処理された複数の画像データの画素同士で重ね合わせ処理を行うことにより、低温領域に対して高温領域をより明確にすることができ、さらに通常複数得られる高温領域のうち、最大の面積を有する高温領域を選択して残りの小さい高温領域部分を考慮しないようにしたので、継続して高温で燃焼している領域、すなわち輝炎などの燃焼むらや、ゆらぎの影響を受けない本来の主燃焼領域を検出することができ、したがって燃焼状態の制御を精度良く行うことができ、またこの燃焼領域から安定した着火点の位置を検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態に係る燃焼炉における燃焼領域の検出方法および検出装置について説明する。
【0010】
本実施の形態においては、被燃焼物としてごみである場合、すなわちごみ燃焼炉内のごみ表面の燃焼領域を検出する場合について説明する。
まず、ごみ燃焼炉の概略構成を図1に基づき説明する。
【0011】
このごみ燃焼炉1は例えばストーカ炉であり、その炉本体2内には、火格子3が乾燥段、燃焼段および後燃焼段に亘って配置されてなる燃焼床4が設けられた燃焼室5が具備されるとともに、炉本体2の一端側には、ごみ投入ホッパ6が接続されたごみ投入口2aが形成され、またその他端側には焼却残渣の排出口2bが形成されている。
【0012】
そして、このごみ燃焼炉1には、燃焼室5内でのごみの燃焼状態、すなわちごみの燃焼領域(正確には、主燃焼領域である)を、その放射エネルギーを計測することにより、検出し得る燃焼領域検出装置7が具備されている。
【0013】
この燃焼領域検出装置7は、図2に示すように、炉本体2の燃焼段から後燃焼段にかけての傾斜上壁部2cに設けられるとともに、燃焼ごみの表面から放出される放射エネルギーを入力して電気エネルギーに変換するセンサ(画素であり、具体的には、赤外線センサが用いられる)が縦横に複数個ずつ配置されてなる二次元センサ部11と、この二次元センサ部11で検出された検出信号(計測データであり、具体的には、電気信号である)を所定の時間間隔毎に入力して(所謂、サンプリングである)A/D変換を行うA/D変換部12と、このA/D変換部12で変換されてなる計測データ(放射エネルギー量に対応するセンサ出力値である)を入力してその計測領域(検出領域でもある)おける各画素での計測データを例えば1画像分(1フレーム分ともいう)蓄積し得るデータ蓄積部13と、このデータ蓄積部13に蓄積された計測データを入力して平滑化処理を行う平滑化処理部14と、この平滑化処理部14で平滑化された各画素での計測データと所定の閾値と比較して二値化処理を行い高温部を抽出する二値化処理部(高温部抽出部ともいえる)15と、この二値化処理部15で抽出された高温部データを複数フレーム分蓄積する高温データ蓄積部16と、この高温データ蓄積部16で蓄積された高温部データについて、フレーム同士間で重ね合わせて、すなわち画素同士のデータの論理積処理(重ね合わせ処理;所謂、and処理である)を行い重複部分を抽出する重複部分抽出部17と、この重複部分抽出部17で抽出された重複部分のラベリング処理を行い高温領域を認識する(通常は、大小の複数領域が認識される)高温領域認識部18と、この高温領域認識部18で認識された各高温領域の面積を求める面積算出部19と、この面積算出部19で求められた面積のうち、最大面積を有する領域を求めるとともに、当該求められた最大面積の高温領域を燃焼領域(主燃焼領域)と判断する燃焼領域判断部20とから構成されている。なお、上記計測データである画像については、時系列的に連続した複数の画像であってもよく、または所定周期毎にピックアップした時系列の画像であってもよい。
【0014】
ここで、上記平滑化処理部14での処理およびその有用性について説明しておく。
一般に、ストーカ炉では、ごみの予熱、乾燥、熱分解/部分燃焼、表面燃焼、冷却の5つの燃焼過程を経ることになる。具体的に説明すれば、火格子ブロックで分割されたごみの表面温度は、概ね燃焼火格子の1段目から上昇し、燃焼により燃焼火格子2段目または3段目で最高温度に達し、その後、熾き燃焼となった後、後燃焼火格子にかけて700℃程度迄低下するという温度プロフィールを示す。
【0015】
しかしながら、ごみの表面温度分布を細かく見ると、局部的に温度の低い所や高い所が存在して温度むらがあり、すなわち燃焼むらがあり、例えば高温の燃焼領域を検出する際の誤差要因(火格子上での着火点、燃え切り点などの位置を検出する際にも誤差要因となる)となるため、温度に対応する計測データに対して平滑化処理を施すことにより、燃焼むらの影響を除去するようにしたものである。
【0016】
この平滑化処理においては、或る画素での温度についての計測データを求める場合、その画素の周囲に位置する周辺画素を含んだ計測データとの平均値を、当該或る画素での計測データとするものである。
【0017】
例えば、図3に示すように、中央に位置する画素(I,J)における温度に対する計測データT(I,J)を求める場合、下記(1)式が用いられる。但し、ここでは、平滑化処理の対象となる周辺画素を含んだ1ブロックが3画素×3画素である場合を示している。なお、この1ブロックの個数については、3画素×3画素に限定されるものでもなく、燃焼むらの大きさ(炉幅およびごみの移動方向)に合わせて、最適な画素数(例えば、5画素×5画素〜11画素×11画素など)が選択される。
【0018】
【数1】

【0019】
また、上記二値化処理部15で用いられる閾値としては、例えば着火点(判断指標)である900℃に相当する値が設定される。
さらに、上記重複部分抽出部17では、各フレームについて、同一画素同士の値(「0」または「1」)について、論理積処理が行われる。すなわち、この論理積処理により、全てのフレームに亘って、高温領域の部分だけが燃焼領域として残されることになり、したがって燃焼状態が不安定で燃焼むらが生じている部分や、輝炎のゆらぎを原因としたごく短時間の高温部分については燃焼領域外と判断され、ここでも、輝炎による影響を取り除くことができる。
【0020】
次に、上記燃焼領域検出装置7により、ごみ燃焼炉1の燃焼室5内でのごみの燃焼領域を検出する方法をステップ毎に説明する。
(ステップ1)
まず、燃焼室5内でのごみ表面から放出される放射エネルギー量を、二次元センサ部11により計測する(計測ステップ)。
(ステップ2)
上記計測ステップにて検出された検出信号をA/D変換部12に入力して、A/D変換を行う(A/D変換ステップ)。
(ステップ3)
上記A/D変換ステップにて得られた計測データを、複数フレーム分(計測領域における画像数枚分のデータである)データ蓄積部13に入力して蓄積する(データ蓄積ステップ)。
(ステップ4)
上記データ蓄積ステップにて蓄積された計測データを平滑化処理部14に入力して、所定の画素およびその周辺画素を含めた計測データの平均値を求めて、当該所定の画素についての計測データとする(平滑化ステップ)。この平滑化ステップにより、温度むらによるデータ変動の影響が軽減される。この平滑化処理により得られた画像を、図4(a)に示しておく。
(ステップ5)
次に、上記平滑化ステップにて求められた計測データを二値化処理部15に入力して、予め設定されている閾値(例えば、着火点の温度に相当する値)でもって二値化処理を行い、高温の燃焼領域(主燃焼領域)を抽出する(二値化ステップ)。なお、図4(a)において、着火点以上の部分については斜線で示し、それより低い部分については点線で示す。
【0021】
そして、この二値化ステップにて抽出された燃焼領域を示す画像データ、すなわち高温データを数フレーム分に亘って高温データ蓄積部16に蓄積する(高温データ蓄積ステップ)。
(ステップ6)
上記高温データ蓄積ステップにて蓄積された数フレーム分の画像データを重複部分抽出部17に入力して、各画素毎に論理積処理を行う(重複部分抽出ステップ)。
(ステップ7)
上記重複部分抽出ステップにて得られた画像データを高温領域認識部18に入力するとともに高温領域に対してラベリング処理を行いその領域(通常は複数の領域)を認識する(高温領域認識ステップ)。ここで認識された高温領域の画像を、図4(b)に示しておく(斜線部が高温領域である)。
(ステップ8)
上記高温領域認識ステップにて得られた複数の高温領域のデータを面積算出部19に入力して、それぞれの面積を算出する(面積算出ステップ)。
(ステップ9)
上記面積算出ステップにて算出された面積をそれぞれ燃焼領域判断部20に入力して、その中で最大のものを見つけるとともに、その他の高温領域については考慮しないで(無視する)、すなわちこの最大の高温領域だけを選択(検出)して燃焼領域(主燃焼領域)と判断する(燃焼領域検出ステップ)。この燃焼領域検出ステップにて選択された燃焼領域の画像を、図4(c)に示しておく(斜線部で示す)。
【0022】
これら一連のステップ(作業)により、燃焼領域、すなわち主燃焼領域が検出されたことになる。
このように、ごみ表面からの放射エネルギーを計測するとともに、得られた計測データに対して平滑化処理を行い、温度むらすなわち燃焼むらをできるだけ除去した後、所定の閾値でもって二値化し、この二値化処理された複数の画像データの画素同士で論理積処理を行うことにより、低温領域に対して高温領域をより明確にすることができ、さらに通常複数得られる高温領域のうち、最大の面積を有する高温領域を選択して残りの小さい高温領域部分を考慮しないようにしたので、継続して高温で燃焼している領域、すなわち輝炎などの燃焼むらの影響を受けない本来の主燃焼領域を検出することができ、したがって燃焼状態の制御を精度良く行うことができ、またこの燃焼領域から安定した着火点の位置を検出することができる。例えば、着火点は、主燃焼領域の面積の1割を超えた地点とすることができるので、燃焼領域が正確であれば、当然に、着火点の位置も正確に知ることができる。なお、主燃焼領域の検出が可能であるため、着火点だけでなく、燃え切り点の検出にも適用することができる。
【0023】
また、上記実施の形態においては、各画素の計測データに対して平滑化処理を行う平滑化処理部(平滑化ステップ)を設けたが、場合によっては、省略することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態に係る燃焼領域検出装置が具備された燃焼炉の概略構成を示す断面図である。
【図2】同燃焼領域検出装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】同燃焼領域検出装置における平滑化処理部での処理内容を説明する図である。
【図4】同燃焼領域検出方法を説明するための燃焼領域を示す図で、(a)は平滑化処理後を示し、(b)は二値化処理後を示し、(c)は検出された燃焼領域を示す。
【符号の説明】
【0025】
1 ごみ燃焼炉
3 火格子
5 燃焼室
7 燃焼領域検出装置
11 二次元センサ部
12 A/D変換部
13 データ蓄積部
14 平滑化処理部
15 二値化処理部
16 高温データ蓄積部
17 重複部分抽出部
18 高温領域認識部
19 面積算出部
20 燃焼領域判断部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被燃焼物の燃焼表面から放出される放射エネルギーをセンサにより計測する計測ステップと、
この計測ステップにて計測された計測データを入力してその計測領域における各画素での計測データを少なくとも1画像分蓄積するデータ蓄積ステップと、
このデータ蓄積ステップにて蓄積された計測データを入力して各画素における計測データを二値化処理して高温部を抽出する二値化処理ステップと、
この二値化処理ステップにて抽出された複数画像における高温部データを、各画像同士間で重ね合わせ処理を行い重複部分を抽出する重複部分抽出ステップと、
この重複部分抽出ステップにて抽出された重複部分のラベリング処理を行い高温領域を認識する高温領域認識ステップと、
この高温領域認識ステップにて認識された高温領域の面積を求めた後、最大面積の領域を燃焼領域と判断する燃焼領域判断ステップとを
具備したことを特徴とする燃焼炉における燃焼領域検出方法。
【請求項2】
データ蓄積ステップと二値化処理ステップとの間に、データ蓄積部に蓄積された計測データを入力して各画素における計測データに対して平滑化処理を行う平滑化処理ステップを具備したことを特徴とする請求項1に記載の燃焼炉における燃焼領域検出方法。
【請求項3】
被燃焼物の燃焼表面から放出される放射エネルギーを計測するセンサ部と、
このセンサ部にて計測された計測データを入力してその計測領域における各画素での計測データを少なくとも1画像分蓄積し得るデータ蓄積部と、
このデータ蓄積部に蓄積された計測データを入力して各画素における計測データに対して平滑化処理を行う平滑化処理部と、
この平滑化処理部で平滑化された各画素における計測データを所定の閾値でもって二値化して高温部を抽出する二値化処理部と、
この二値化処理部で抽出された複数画像における高温部データを、各画像同士間で重ね合わせ処理を行い重複部分を抽出する重複部分抽出部と、
この重複部分抽出部にて抽出された重複部分のラベリング処理を行い高温領域を認識する高温領域認識部と、
この高温領域認識部で認識された高温領域の面積を求める面積算出部と、
この面積算出部で求められた最大面積の領域を燃焼領域と判断する燃焼領域判断部とを
具備したことを特徴とする燃焼炉における燃焼領域検出装置。
【請求項4】
データ蓄積部と二値化処理部との間に、データ蓄積部に蓄積された計測データを入力して各画素における計測データに対して平滑化処理を行う平滑化処理部を具備したことを特徴とする請求項3に記載の燃焼炉における燃焼領域検出装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−57398(P2007−57398A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−243519(P2005−243519)
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】