説明

燃焼評価方法

【課題】内燃機関における混合気状態および燃焼の状態の正確な監視を簡単な方法で可能にする燃焼評価方法を提供する。
【解決手段】火炎光信号のサンプル信号が当該サンプル信号に対応付けられた燃料・空気混合気の状態と共にデータベースに格納され、燃焼室内の燃焼の火炎光信号が検出されて、格納されたサンプル信号と比較され、測定された信号パターンと格納された信号パターンが一致する場合に燃焼室内の混合気の状態が推定されるとともに、火炎光信号の検出と同時にシリンダ内圧測定も実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃焼室内の燃料・空気混合気の状態または燃焼の状態あるいはその両方を評価するための方法であって、火炎光信号のサンプル信号がこのサンプル信号に対応付けられた前記燃料・空気混合気の状態と共にデータベースに格納され、燃焼室内の燃焼の火炎光信号が検出されて、格納された前記サンプル信号と比較され、測定された信号パターンと格納された信号パターンが一致する場合に燃焼室内の混合気の状態が推定される燃焼評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オットサイクル内燃機関の開発およびエンジン機器のキャリブレーションには、気筒ならびにサイクル固有のエミッションおよび排気温度の正確な情報が必要である。走行運転中の高負荷および部分負荷の連続的な繰り返しによって反応性ガスが触媒中に流入し、これによって、触媒の過熱および最終的には触媒の破損が生じ得る。
【0003】
エンジンスタート時および定常走行運転時、ただし特に過渡的な走行運転時にも、気化プロセスおよびアキュムレータ効果の遅れによって、燃料・空気混合気が十分に用意されず、これによって、高いエミッション、異常な燃焼プロセスまたはミスファイアが生ずることがある。この種の運転状態の認識および修正が低エミッションかつ安定したエンジン稼働の必要条件である。そこで、燃焼室内の混合気状態を早期に確認し、反応性ガス成分の比率の高まりの原因を診断することが重要となる。
【0004】
米国特許第3978720号公報(特許文献1)から内燃機関用の燃焼検出器が公知であり、この場合、シリンダ内において可視領域や赤外領域の火炎ビームがシリンダ壁またはシリンダヘッドに設けられた石英ガラス窓を経て測定される。このビームの検出は点火時点の制御または回転数またはミスファイアの検出に使用される。
【0005】
国際公開第97/31251号公報(特許文献2)には、内燃機関におけるノッキングおよびミスファイアを検出するための光ファイバー圧力センサが開示されている。ここでは、光圧力センサは点火プラグに組み込まれている。
【0006】
米国特許第5659133号公報(特許文献3)には、燃焼システムを制御するための制御量をもたらすことのできる内燃機関燃焼室用の光学式高温センサが開示されている。光信号は、例えば点火スパーク、燃焼開始および燃焼終了、ミスファイアおよびノッキング現象などのさまざまな事象を実時間で検出するために、トランスデューサによって取り扱われている。こうして得られた情報はエンジンのラフネスおよびサイクル安定性の制御に使用される。さらに、固有の火炎色によって、燃焼温度およびエミッション発生に関する判定を行うことが可能である。
【0007】
欧州特許公開第0412578号公報(特許文献4)には、燃焼室に配された光学式燃焼センサによって内燃機関のノッキング発生を認識するための方法が開示されている。この燃焼センサによって、シリンダ内の燃焼火炎強度または燃焼温度が測定される。このノッキング認識方法において、その燃焼室内の燃焼光が検出されて、この信号が所定の閾値と比較される。光センサによって取得された信号レベルが閾値以下であれば、ノッキング現象が存在すると認識される。
【0008】
さらに、特開昭63−105262号公報(特許文献5)には、内燃機関の空気/燃料比を制御するための方法が開示されており、その際、燃焼室内の火炎光が光センサによって検出され、気化器に供給される燃料量は空気/燃料比に対応する光センサの検出測定値に応じて制御される。
【0009】
フランス特許公開第2816056号公報(特許文献6)および特開2005−226893号公報(特許文献7)からも、可燃混合気の状態を評価するための方法が知られている。ここでは、燃焼中に測定された火炎光信号がデータベースに格納されているサンプル信号と比較され、測定された信号パターンと格納されている信号パターンが一致する場合に燃焼室内の混合気の状態が推定される。ただし、ある決まったケースにおいて、可燃混合気の状態の十分正確な評価を行うことが不可能となる。
【0010】
【特許文献1】米国特許第3978720号公報(特開昭51−37304号公報)
【特許文献2】国際公開第97/31251号公報
【特許文献3】米国特許第5659133号公報
【特許文献4】欧州特許公開第0412578号公報(特開昭60−17239号公報)
【特許文献5】特開昭63−105262号公報
【特許文献6】フランス特許公開第2816056号公報
【特許文献7】特開2005−226893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、内燃機関における混合気状態および燃焼の状態の正確な監視を簡単な方法で可能にする燃焼評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、内燃機関の燃焼室内の燃料・空気混合気の状態または燃焼の状態あるいはその両方を評価するための、本発明による燃焼評価方法は、火炎光信号のサンプル信号がこのサンプル信号に対応付けられた前記混合気の状態と共にデータベースに格納され、燃焼室内の燃焼の火炎光信号が検出されて、格納された前記サンプル信号と比較され、測定された信号パターンと格納された信号パターンが一致する場合に燃焼室内の混合気の状態が推定されるとともに、前記火炎光信号の検出と同時にシリンダ内圧測定も実施される。なお、火炎光信号として火炎強度信号が用いられることが好適である。
【0013】
サンプル信号は既知の運転条件下とエミッション条件下での測定から記録されるかまたは混合気形成および燃焼に関する理論的考察から導出することができる。ただしまた、サンプル信号は火炎光信号とシリンダ内圧信号との結合演算(リレーショナルなデータ構造の構築などに基づく)から生成されるかまたはそのような結合演算から導出された信号、好ましくは熱放出曲線から生成されることも可能である。
【0014】
さらに、時間信号、好ましくはクランク角信号が検出されて、前記火炎光信号が前記時間信号に対応させられれば、特に有利である。これによって、前記火炎光信号の位置および推移から、混合気状態、点火時点、燃焼開始・終了、ミスファイアおよびノッキング現象ならびに燃焼の種類を推定することが可能である。
【0015】
検出された前記火炎光信号をデータベースに格納された前記サンプル信号と比較することにより、直接、混合気状態に関する判定を行うことができる。サイクルに一致させた同時圧力測定は前記判定品質の精度と信頼度とを高め、それによって本測定方法の高精度化をもたらす。シリンダ内圧と火炎光とのコンビネーション評価によって、燃料・空気混合気の状態に関する判定処理における精度および正確性の向上を実現することができる。
【0016】
その際、少なくとも1つのシリンダ内においてシリンダ内圧ピークが火炎光信号ピークと比較され、これにより、このシリンダ内圧ピークと前記光信号ピークとの間のずれから特にエンジン過渡運転時の異常燃焼が推定されるように構成すると、特に有利である。
【0017】
上記測定結果を基礎として、さらに続いて、噴射装置または空気スロットルあるいはそれら両方のパラメータ(設定値や調整値など)を決めるための最適化手順をスタートさせることができる。
【0018】
本発明の重要な利点は、各シリンダについてサイクルに一致した情報が得られることである。これによって、特に正確な実時間燃焼制御が可能となり、その結果、排気エミッションを大幅に改善することができる。
【0019】
多様なエンジンの判定を行えるように、前記火炎光信号または前記圧力測定信号あるいはそれら両方の信号をベースにして無次元特性値が求められ、前記特性値が混合気状態または燃焼の評価あるいはその両方の基礎とするような構成を採用すると、好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明を、図面を参照して、詳細に説明する。
【0021】
オットサイクル内燃機関の少なくとも1つの燃焼室において、光センサを介して火炎強度が測定され、それと同時に、信号たとえば時間的に対応したクランク角信号が検出される。火炎強度曲線Fの位置および推移から、均質な燃焼が生じているかそれとも不均質な燃焼が生じているかに関する大まかな判定を行うことができる。さらに、時間信号に対応した火炎強度Fは、燃焼サイクル位置に関する情報および異常燃焼または正常燃焼の存在に関する情報をもたらす。これらの情報はすでに、燃料噴射、空気スロットルまたは点火の大まかなキャリブレーションにとって貴重な基準情報を与えるが、同時にシリンダ内圧信号を測定することによりその有意性と精度はさらに高められる。特に、より詳細かつ正確な評価を可能にするため、火炎強度Fに加えてさらにシリンダ内圧pも測定される。クランク角KWとの関係のもとで火炎強度Fとシリンダ内圧pとを対比させることにより、この測定方式の高精度化を達成することができる。
【0022】
図1はそのため、クランク角KWと関係させた、火炎強度Fとシリンダ内圧pとを示している。図において、火炎強度曲線は記号Fで示された曲線であり、シリンダ内圧曲線は記号pで示された曲線である。燃焼が均質であれば、火炎強度Fはシリンダ内圧pないし温度曲線に同期して推移する。その際、火炎強度Fとシリンダ内圧pの最大値FIm、pは同一クランク角KWの位置にある。図2には火炎強度F/シリンダ内圧pの線図が示されている。そのなかで曲線1はヒステリシスなしないしごく僅かなヒステリシスを示して推移しており、その際、曲線1は火炎強度Fとシリンダ内圧pに関して明白な単一の最大値が符号2で示されている。シリンダ内圧pは圧縮過程の間上昇し、点火後には火炎強度Fも上昇する。双方の信号は予混合給気の燃焼時には同時に最大値に達し、また同時にわずかなヒステリシスを示して復帰する。矢印は信号ループの通過方向を示す。
【0023】
図3は不均質燃焼の測定例を示している。火炎強度Fとシリンダ内圧pとのそれぞれの測定曲線の位相がずれており、火炎強度の最大値FImとシリンダ内圧の最大値pとは時間的に明白に相違していることが理解できる。火炎強度曲線Fから、点火時点3、部分均質燃焼4およびその後の拡散燃焼5が明白に認められる。図4から読み取ることができる、火炎強度Fとシリンダ内圧pとの線図において、曲線6上の火炎強度Fの最大値とシリンダ内圧pの最大値とは一致せず、顕著なヒステリシスが形成されていることが理解できる。シリンダ内圧pは圧縮時に上昇する。火炎核形成はシリンダ内圧pの下降時に行なわれ、燃焼によって初めてシリンダ内圧pは再び上昇する。その際、火炎強度Fは第1の最大値M1に達する。第2の最大値M2は膨張の末期にリッチ混合気ゾーンの燃焼によって達成される。矢印は信号ループの通過方向を示す。
【0024】
図5は、非制御過早点火時の燃焼の測定例を示している。点火は、ここでは詳述しない加熱プロセスにより、初期圧縮過程の間の低シリンダ内圧p時に行われる。火炎強度信号の推移から、燃焼の大部分はすでに圧縮過程上死点前に行われることが明白である。圧縮規模を超える圧力発生は認められない。図6に示した火炎強度Fとシリンダ内圧pとの線図において、火炎強度Fの上昇は圧力上昇よりも顕著に早期に行われる。信号ループの通過は正常燃焼に比較して逆の順序で行われる。燃焼は低圧時に非制御(異常)過早点火によって開始する。その際、先ず火炎強度Fが上昇し、その後に初めて圧力上昇が観察できる。信号ループ7の通過は正常の点火に比較して逆の順序で行われる。これは矢印方向によって強調されている。この場合にも、火炎強度Fの最大値とシリンダ内圧の最大値とは一致していない。
【0025】
火炎強度Fとシリンダ内圧pとはそれぞれの信号最大値(FImax=100%およびpmax=100%)に基づいて正規化されて、無次元特性値として表されれば、特に有利である。これによって、異なったサイズおよびタイプの内燃機関を互いに比較することができるからである。特に、噴射時点、噴射量、空気スロットルまたは点火時点の制御のための、エンジンから独立した、自動的な評価が可能である。
【0026】
燃焼室内のシリンダ内圧pおよび火炎強度Fが同じ箇所で、好ましくは同じ部品によって測定されれば、特に高い精度を達成することができる。この測定箇所は点火箇所にできるだけ近い必要がある。光センサならびに圧力センサの双方が組み込まれたセンサ内蔵点火プラグの使用により上記方法で特に高い精度を達成することができる。
【0027】
なお本発明による燃焼評価方法に基づく好適な技術的構成として、サンプルとなる基準的な火炎強度−クランク角度関係と火炎強度−シリンダ内圧関係とをデータベース化し、実際の測定によって取得される、測定火炎強度−クランク角度関係や火炎強度−シリンダ内圧関係と照合し、測定された内燃機関の燃焼状態を評価することが提案される。その照合処理としては、相関係数を求めて閾値との相異度を評価し、あるいは、上記の関係を表している線図そのものをパターンマッチングし、そのマッチング度を評価し、そのような相異度やマッチング度から燃焼状態の各パラメータ、あるいは噴射器やスロットルなどのエンジン付属機器のパラメータを決定することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】一様に予混合された給気の燃焼(予混合燃焼)に関連する、クランク角と関係づけたシリンダ内圧および火炎強度の線図を示すグラフ図
【図2】予混合燃焼に関する火炎強度/圧力線図を示すグラフ図
【図3】不均質給気の燃焼(不均質燃焼)に関連する、クランク角と関係づけたシリンダ内圧および火炎強度の線図を示すグラフ図
【図4】不均質燃焼に関連する火炎強度/シリンダ内圧の線図を示すグラフ図
【図5】非制御過早点火後燃焼(異常点火後燃焼)に関連する、クランク角と相関したシリンダ内圧および火炎強度の線図を示すグラフ図
【図6】異常点火後燃焼に関連する火炎強度/シリンダ内圧の線図を示すグラフ図
【符号の説明】
【0029】
p:シリンダ内圧
I:火炎強度
KW:クランク角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室内の燃料・空気混合気の状態または燃焼の状態あるいはその両方を評価するための方法であって、火炎光信号のサンプル信号が当該サンプル信号に対応付けられた前記燃料・空気混合気の状態と共にデータベースに格納され、燃焼室内の燃焼の火炎光信号が検出されて、格納された前記サンプル信号と比較され、測定された信号パターンと格納された信号パターンが一致する場合に燃焼室内の混合気の状態が推定される方法において、
前記火炎光信号の検出と同時にシリンダ内圧測定も実施されることを特徴とする燃焼評価方法。
【請求項2】
前記サンプル信号は既知の運転条件下とエミッション条件下での測定から記録されることを特徴とする請求項1に記載の燃焼評価方法。
【請求項3】
前記サンプル信号は混合気形成および燃焼に関する理論的考察から導出されることを特徴とする請求項1に記載の燃焼評価方法。
【請求項4】
前記サンプル信号は火炎光信号とシリンダ内圧信号との結合演算から生成されるかまたは前記結合演算から導出された信号から生成されることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の燃焼評価方法。
【請求項5】
時間信号が検出されて、前記火炎光信号は前記時間信号に対応させられることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の燃焼評価方法。
【請求項6】
前記火炎光信号の位置および推移から、混合気状態、点火時点、燃焼開始・終了、ミスファイアおよびノッキング現象ならびに燃焼の種類が推定されることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の燃焼評価方法。
【請求項7】
少なくとも1つのシリンダ内においてシリンダ内圧ピークと火炎光信号ピークとが比較されることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の燃焼評価方法。
【請求項8】
前記シリンダ内圧ピークと前記火炎光信号ピークとの間のずれから異常燃焼が推定されることを特徴とする請求項7に記載の燃焼評価方法。
【請求項9】
混合気状態に応じて、または前記シリンダ内圧ピークと前記火炎光信号ピークとの間のずれに応じて、あるいはその両方に応じて、噴射装置または空気スロットルあるいはその両方のパラメータを決めるための最適化手順が実施されることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の燃焼評価方法。
【請求項10】
前記火炎光信号または前記内圧測定信号あるいはそれら両方の信号をベースにして無次元特性値が求められ、前記特性値が混合気状態または燃焼の評価あるいはその両方の基礎とされることを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の燃焼評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−298782(P2008−298782A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144530(P2008−144530)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(597083976)アー・ファウ・エル・リスト・ゲー・エム・ベー・ハー (26)
【氏名又は名称原語表記】AVL LIST GMBH
【住所又は居所原語表記】HANS−LIST−PLATZ 1,A−8020 GRAZ,AUSTRIA
【Fターム(参考)】