説明

特異なフッ素分布を有する歯科用材料

【課題】硬化後に良好な耐水性ならびに染色および微生物の付着に対する抵抗性を示し、そして同時に、良好な機械的特性を有する、歯科用材料組成物の提供。
【解決手段】(A)特的のエステル基を有するフッ素化ビニルシクロプロパン(B)特的のエステル基を有するビニルシクロプロパン(C)ビスフェノールAエーテルジ(メタ)アクリレートからなることを特徴とする組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、フッ素化されたビニルシクロプロパンに基づく材料に関し、この物質は、重合後に、この材料の表面のみでなく、この材料の内部においてもまた、かなりのフッ素含有量を示す。これらの材料は、歯科的な用途のために特に適切である。
【背景技術】
【0002】
フッ素化されたポリマーは、独特の高性能の特徴を提示し、これらの材料を、ポリマー材料および複合材料の製造、保護およびコーティングのために、特に魅力的にする。高度にフッ素化された側鎖を有するポリマーは、これらの材料の特徴的に低い表面エネルギーに基づいて、多数の用途を見出している。これらの材料は、主として、海洋環境および屋外環境(特許文献1(T.Hamiltonら)、特許文献2(G.B.Goodwinら)を参照)と、抗トロンボゲン形成デバイスのような生物医学システム(特許文献3を参照)(フッ素含有材料の生体適合性に起因する)との両方における、疎水性および疎油性(oleophobic)の非粘着性コーティングの提供のための表面技術において使用される。
【0003】
代表的に、低い表面エネルギーは、フルオロカーボン成分の分子内非適合性、および炭化水素成分との分子間非適合性に起因して、低いフッ素含有量でさえも得られ得る。これは、フルオロカーボン類似化合物が、それぞれの炭化水素類似化合物より低い表面張力を有するからである。例えば、種々のモノマーおよび充填剤を混合することによって形成される樹脂マトリックスにおいて、フッ素化されたモノマーは、それらの低い表面張力により駆動されて、ポリマーと空気との界面に移動する傾向があり、従って、フッ素化されたモノマーは、外側表面で優先的に濃縮され、そしてポリマーフィルムの内部から激減する。このことにより、このポリマーフィルムの表面張力は、低下する。樹脂内のフッ素化された成分の、拡散律速表面移動および濃縮は、非常に効果的かつ迅速であり、そしてモノマーが架橋して最終硬化がなされる前に、これらのモノマーの重合の時間規模で起こる(非特許文献1を参照)。
【0004】
フッ素の表面濃縮は、元素感受性表面分光技術によって、直接調査される。注目すべき例としては、様々にフッ素化されたポリ(メタ)アクリレートのX線光電子分光法(XPS)(J.Tsibouklisら、Macromolecules,33,8460(2000))、局在化電気化学インピーダンス分光法(LEIS)分析(R.D.van de Grampelら、Progr.Org.Coat.,45,273(2002))、および近吸収端X線吸収微細構造分光法(NEXAFS)(J.Lueningら、Macromolecules,34,1128(2001))が挙げられる。このような調査の全ては、フィルムの厚さ方向に表面に対して垂直に濃度勾配が存在することを確認し、これによって、外側層は、フッ素が次第に濃縮され、一方で、内部のバルク層では激減する。フッ素の表面濃縮はまた、一般に、疎水性フィルム表面の接触角の測定によって示される。例えば、フッ素化モノマーを組み込む架橋した(メタ)アクリレート樹脂について、外側表面でのフッ素化モノマーの優先的な滞留は、フッ素化モノマーを有さないそれぞれの架橋した(メタ)アクリレート樹脂についてよりもずっと大きい水接触角の測定によって、Stansburyらによって推定された(特許文献4を参照)。
【0005】
フッ素化モノマー成分による表面濃縮は、当該分野において公知であり、そしてフッ素化された成分の化学構造とは無関係に、この成分の樹脂コモノマー内での溶解限度の範囲内の任意の組成で、広範な樹脂処方物において起こる。例えば、ポリ(フッ化ビニリデン)アクリレートモノマーは、0.10重量%未満の濃度においてさえ、光硬化される樹脂フィルムにおいて表面修飾剤として作用する(非特許文献1を参照)。過フッ化ポリエーテルアクリレートは、光硬化されたポリマーのネットワークにおいて、ポリマーと空気との界面において濃縮され、そしてこのポリマーの表面エネルギーを低下させることによって、界面活性剤のように挙動することが見出されている(特許文献2を参照)。これらの場合のすべてにおいて、架橋したネットワーク構造は、重合の際に形成され、そしてその濃度勾配は、この樹脂において永続的に固定され、これによって、低い表面エネルギーの特性を生じる。
【0006】
フッ素化成分が表面に分離し、そしてポリマーの表面張力を低下させる傾向は、非常に明瞭であり、そして種々の構成の完全に異なるポリマー材料(例えば、フッ素化されたポリマーブロックからなるジブロックコポリマーまたはトリブロックコポリマー(非特許文献3を参照)、フルオロカーボン末端基を有するポリエステル(非特許文献4を参照)、フッ素化ポリマーのラングミュア単層(特許文献5を参照)、および半分フッ素化された単一樹状分岐側基を有するポリマー(特許文献6を参照))について、非常に効果的に区別する。
【0007】
低い表面エネルギーに加えて、フルオロカーボン含有ポリマーは、非常に疎水性であり、そして広範な化学物質と組み合わせて、軟化に対する優れた抵抗性を示す。さらに、染色および微生物付着に対する潜在的な抵抗性、ならびに一般的に良好な生体適合性は、フッ素化ポリマーを、歯科用途のために非常に魅力的にする。例えば、新規な半分フッ素化されたBisA−GMA(2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピル)−フェニル]プロパン)アナログ(非特許文献7を参照)は、かなり低い粘度(0.8Pa・s〜1.3Pa・s)を示し、そして80℃での等温重合について、メタクリレート二重結合のより高い変換を示した。さらに、これらの半分フッ素化されたBisA−BMAアナログに基づく材料は、低い水取り込みを示し、従って、BisA−GMAベースの材料と比較して、水で飽和したサンプルの高いビッカース硬度値を示した(非特許文献8を参照)。
【0008】
可視光で硬化する歯科用材料のさらなる調査(J.W.Stansburyら、Amer.Chem.Soc.Polym.Div.,Polym.Prepr.,36(1)、831(1995);J.W.Stansburyら、Amer,Chem.Soc.Polym.Div.,Polym.Prepr.,38(2)、96(1997);J.W.Stansburyら、Dent.Mater.,15:166−173(1999))は、一方で、ビスフェノールA(BisA)またはそのフッ素化アナログの、モノマーにおけるコア構造体としての使用が、複合材料に最も高い機械的強度を提供するが、他方で、伸長した過フルオロアルキル鎖におけるフッ素配置は、水の吸収を減少させず、そして代替のフッ素化芳香族末端器の使用と比較して、低い機械的強度を生じることを示した。フッ素化BisA−GMAアナログに対する代替のアプローチは、フッ素化ジメタクリレート反応性希釈剤(例えば、フッ素化トリエチレングリコールジメタクリレート)の使用であり、これは、歯科用複合材料において、水の吸収と重合収縮との両方の低下を生じた(非特許文献9および非特許文献10を参照)。
【0009】
非特許文献11は、水溶液中での、シクロデキストリン複合体を介する、フッ素化された共溶媒も界面活性剤も存在しない条件での、フッ素化された2−ビニルシクロプロパンのホモ重合、およびフッ素化された2−ビニルシクロプロパンとフッ素化されていない2−ビニルシクロプロパンとの共重合を記載する。調製されたポリマーは、液晶の挙動を示した。
【0010】
酸素の存在下でのモノマーのラジカル重合は、酸素によるラジカル反応の抑止に起因して、重合していない粘着性の表面層の形成を生じることが、当該分野において公知である。このスメア層は、通常、重合後に除去される。フッ素化モノマーは、この表面層に蓄積する傾向があるので、これらのモノマーは、このスメア層と一緒に、大部分が除去される。さらに、歯科用材料は、磨耗に供され、この磨耗は当然、主として、この表面層に影響を与える。従って、フッ素化された成分の含有量は、この表面層の侵食によって、さらに減少する。その結果、フッ素化されたモノマーに関連するポジティブな効果が、かなりの程度まで除外される。
【特許文献1】米国特許第6,723,376号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0121168号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0043789号明細書
【特許文献4】米国特許第6,185,339号明細書
【非特許文献1】F.Montefuscoら、Macromolecules、2004年、第37巻、p.9804
【非特許文献2】R.Bongiovanniら、Polymer,2000年、第41巻、p.409
【非特許文献3】M.Bertolucciら、Macromolecules,2004年、第37巻、p.3666
【非特許文献4】W.−K.Lee,Macromolecules,2001年、第34巻、p.3000
【非特許文献5】A.Fujimoriら、Macromol,Chem.Phys.2004年、第205巻、p.843
【非特許文献6】M.Xiangら、Macromolecules,2000年、第13巻、p.6106
【非特許文献7】M.Sankarapandianら、Amer.Chem.Soc,Polym.Div.,Polym.Prepr.,1997年、第38巻、第2号、p.92
【非特許文献8】M.Aankarapandianら、J.Mater.Sci.:Mater.Med.1997年、第8巻、p.465
【非特許文献9】G.Wangら、J.Macromol.Sci.−Pure Appl.Chem.,1999年、第A36巻、p.225
【非特許文献10】G.Wangら、J.Macromol.Sci.−Pure Appl.Chem.,1999年、第A36巻、p.373
【非特許文献11】Choiら、Macromol,Chem.Phys.2003年、第204巻、p.1475−1479
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、硬化後に良好な耐水性ならびに染色および微生物の付着に対する抵抗性を示し、そして同時に、良好な機械的特性を有する、組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下を提供する:
(項目1)
組成物であって、以下:
(A)式(I)
【0013】
【化4】

による、少なくとも1種のフッ素化ビニルシクロプロパンであって、
は、Hまたは−CO−O−(CHCH−Rであり、
は、Hであるか、またはRと一緒になって、−CH−C(R)(R10)−CH−残基を形成し、
は、Hであり、
は、Hであるか、またはRと一緒になって、−CH−C(R)(R10)−CH−残基を形成し、
は、H、−CO−O−R、−CO−O−(CHCH−Rであるか、またはRと一緒になって、−CH−C(R)(R10)−CH−残基を形成し、
は、H、−CO−O−R、−CO−O−(CHCH−Rであるか、またはRと一緒になって、−CH−C(R)(R10)−CH−残基を形成し、
は、過フッ素化された、脂肪族または脂環式の、C〜C20基であり、
は、H、フェニル、ベンジル、または直鎖もしくは分枝鎖の脂肪族もしくは脂環式のC〜C12基であり、
は、H、ベンゾイル、アセチルまたはC〜Cアルキル基であり、
10は、Hまたは−CO−O−Rであり、
pは、1、2、3、または4であり、
ただし、式(I)の化合物は、少なくとも1つの−CO−O−(CHCH−R残基を含む、フッ素化ビニルシクロプロパン、
(B)少なくとも1種のフッ素化されていないビニルシクロプロパン誘導体、
(C)式(II)
【0014】
【化5】

による、少なくとも1種のビスフェノールAエーテルジ(メタ)アクリレートであって、
18は、HまたはCHであり、
19は、CHまたはCFであり、
Yは、OH基で置換されているかまたは置換されていない、C〜Cアルキレン残基である、ビスフェノールAエーテルジ(メタ)アクリレート、
を含有する、組成物。
【0015】
(項目2)
が、Hであり、
が、Hであり、
が、Hであり、
が、Hであり、
が、−CO−O−Rであり、そして
が、−CO−O−(CHCH−Rである、
項目1に記載の組成物。
【0016】
(項目3)
が、−CO−O−(CHCH−Rであり、
が、Hであるか、またはRと一緒になって、−CH−C(R)(R10)−CH−残基を形成し、
が、Hであり、
が、Hであるか、またはRと一緒になって、−CH−C(R)(R10)−CH−残基を形成し、
が、Hであるか、またはRと一緒になって、−CH−C(R)(R10)−CH−残基を形成し、
が、Hであるか、またはRと一緒になって、−CH−C(R)(R10)−CH−残基を形成する、
項目1に記載の組成物。
【0017】
(項目4)
が、過フッ素化された、脂肪族または脂環式の、C〜C14基であり、
が、脂肪族または脂環式のC〜C基であり、
が、H、ベンゾイル、またはアセチルであり、
10が、Hまたは−CO−O−Rであり、
pが、1である、
項目1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【0018】
(項目5)
成分(B)が、式(III)によるビニルクロロプロパン、ならびに式(IV)および式(V)によるビシクロ[3.1.0]ヘキサン
【0019】
【化6】

からなる群より選択されるビニルクロロプロパン誘導体であり、
11は、H、フェニル、ベンジル、またはC〜C10アルキル基であり、
12は、脂肪族もしくは脂環式のC〜C15基、またはC〜C14のアリール基であり、該基は、ブラケット内の基によってn回置換されており、
13は、C〜C10アルキレン基であり、該アルキレン基には、Oが介在し得るか、または該アルキレン基は存在しなくてもよく、
14は、脂肪族もしくは脂環式のC〜C15アルキル、またはC〜C14のアリール基であり、該基は、ブラケット内の基でm回置換されており、
15は、H、フェニル、ベンジル、またはC〜C10アルキル基であり、
16は、H、ベンゾイル、アセチル、またはC〜Cアルキル基であり、
17は、H、フェニル、ベンジル、またはC〜C10アルキル基であり、
Xは、O、NH、または非存在であり、R13が存在しない場合、Xは存在せず、
nは、1、2または3であり、
mは、1、2または3である、
項目1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【0020】
(項目6)
11が、ベンジルまたはC〜Cアルキル基であり、
12が、脂肪族もしくは脂環式のC〜C10アルキル基、またはフェニル基であり、該基は、ブラケット内の基によってn回置換されており、
13が、存在せず、
14が、脂肪族もしくは脂環式のC〜C10アルキル基、またはフェニル基であり、該基は、ブラケット内の基でm回置換されており、
15が、C〜Cアルキル基であり、
16が、H、ベンゾイル、またはアセチルであり、
17が、C〜Cアルキル基であり、
Xが、存在せず、
nが、1であり、
mが、1である、
項目5に記載の組成物。
【0021】
(項目7)
18が、CHであり、
19が、CHまたはCFであり、
Yが、メチルエチレンである、
項目1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【0022】
(項目8)
ラジカル重合のための開始剤をさらに含有する、項目1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【0023】
(項目9)
上記組成物の総重量に各々基づいて、
0.1重量%〜20重量%の成分(A)、
1.0重量%〜30重量%の成分(B)、
1.0重量%〜45重量%の成分(C)、
0.01重量%〜5重量%の、ラジカル重合のための開始剤、
を含有する、項目8に記載の組成物。
【0024】
(項目10)
上記組成物の総重量に各々基づいて、
0.1重量%〜15重量%の成分(A)、
1.0重量%〜20重量%の成分(B)、
1.0重量%〜40重量%の成分(C)、
0.01重量%〜5.0重量%の、ラジカル重合のための開始剤、
20重量%〜60重量%の充填剤、
を含有する、項目9に記載の組成物。
【0025】
(項目11)
上記組成物の総重量に各々基づいて、
0.1重量%〜10重量%の成分(A)、
1.0重量%〜20重量%の成分(B)、
1.0重量%〜40重量%の成分(C)、
0.01重量%〜5.0重量%の、ラジカル重合のための開始剤、
35重量%〜85重量%の充填剤、
を含有する、項目9に記載の組成物。
【0026】
(項目12)
安定化剤、UV吸収剤、着色剤および顔料からなる群より選択される、少なくとも1種のさらなる成分をさらに含有する、項目1〜11のいずれか1項に記載の組成物。
【0027】
(項目13)
項目1〜12のいずれか1項に記載の組成物から形成されたか、または該組成物でコーティングされた、物品。
【0028】
(項目14)
歯科修復物の形態を有する、項目13に記載の物品。
【0029】
(項目15)
物品を製造するための方法であって、該方法は、項目1〜12のいずれか1項に記載の組成物を、所望の形状を有する本体に成形する工程、該成形された組成物を硬化させる工程、および該硬化された本体の外側層を除去する工程を包含する、方法。
【0030】
(項目16)
項目1〜12のいずれか1項に記載の組成物を含有する歯科用材料。
【0031】
(項目17)
項目9に記載の組成物を含有する歯科コーティング材料。
【0032】
(項目18)
項目10に記載の組成物を含有する歯科セメント。
【0033】
(項目19)
項目11に記載の組成物を含有する歯科充填材料。
【0034】
(項目20)
歯科用材料としての、項目1〜12のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【0035】
(項目21)
歯科コーティング材料としての、項目9に記載の組成物の使用。
【0036】
(項目22)
歯科セメントとしての、項目10に記載の組成物の使用。
【0037】
(項目23)
歯科充填材料としての、項目11に記載の組成物の使用。
【0038】
組成物であって、以下:
(A)式(I)
【0039】
【化7】

による、少なくとも1種のフッ素化ビニルシクロプロパンであって、
は、Hまたは−CO−O−(CHCH−Rであり;
は、Hであるか、またはRと一緒になって、−CH−C(R)(R10)−CH−−残基を形成し;
は、Hであり;
は、Hであるか、またはRと一緒になって、−CH−C(R)(R10)−CH−−残基を形成し;
は、H、−CO−O−R、−CO−O−(CHCH−Rであるか、またはRと一緒になって、−CH−C(R)(R10)−CH−残基を形成し;
は、H、−CO−O−R、−CO−O−(CHCH−Rであるか、またはRと一緒になって、−CH−C(R)(R10)−CH−残基を形成し;
は、過フッ素化された、脂肪族または脂環式の、C〜C20基であり;
は、H、フェニル、ベンジル、または直鎖もしくは分枝鎖の脂肪族もしくは脂環式のC〜C12基であり;
は、H、ベンゾイル、アセチルまたはC〜Cアルキル基であり;
10は、Hまたは−CO−O−Rであり;
pは、1、2、3、または4であり、
ただし、式(I)の化合物は、少なくとも1つの−CO−O−(CHCH−R残基を含む、フッ素化ビニルシクロプロパン;
(B)少なくとも1種のフッ素化されていないビニルシクロプロパン誘導体;
(C)式(II)
【0040】
【化8】

による、少なくとも1種のビスフェノールAエーテルジ(メタ)アクリレートであって、
18は、HまたはCHであり;
19は、CHまたはCFであり;
Yは、OH基で置換されていても置換されていなくてもよい、C〜Cアルキレン残基である、ビスフェノールAエーテルジ(メタ)アクリレート、
を含有する、組成物。
【発明の効果】
【0041】
本発明により、硬化後に良好な耐水性ならびに染色および微生物の付着に対する抵抗性を示し、そして同時に、良好な機械的特性を有する、組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
本発明によれば、上記目的は、以下を含有する組成物によって達成される:
(A)式(I)
【0043】
【化9】

による、少なくとも1種のフッ素化ビニルシクロプロパンであって、
は、Hまたは−CO−O−(CHCH−Rであり、
は、Hであるか、またはRと一緒になって、−CH−C(R)(R10)−CH−残基を形成し、
は、Hであり、
は、Hであるか、またはRと一緒になって、−CH−C(R)(R10)−CH−残基を形成し、
は、H、−CO−O−R、−CO−O−(CHCH−Rであるか、またはRと一緒になって、−CH−C(R)(R10)−CH−残基を形成し、
は、H、−CO−O−R、−CO−O−(CHCH−Rであるか、またはRと一緒になって、−CH−C(R)(R10)−CH−残基を形成し、
は、過フッ素化された、脂肪族または脂環式の、C〜C20基であり、
は、H、フェニル、ベンジル、または直鎖もしくは分枝鎖の脂肪族もしくは脂環式のC〜C12基、好ましくは、C〜C基であり、
は、H、ベンゾイル、アセチルまたはC〜Cアルキル基であり、
10は、Hまたは−CO−O−Rであり、
pは、1、2、3、または4であり、
ただし、式(I)の化合物は、少なくとも1つの−CO−O−(CHCH−R残基を含む、フッ素化ビニルシクロプロパン、
(B)少なくとも1種のフッ素化されていないビニルシクロプロパン誘導体、
(C)式(II)
【0044】
【化10】

による、少なくとも1種のビスフェノールAエーテルジ(メタ)アクリレートであって、
18は、HまたはCHであり、
19は、CHまたはCFであり、
Yは、OH基で置換されているかまたは好ましくは置換されていない、C〜Cアルキレン残基である、ビスフェノールAエーテルジ(メタ)アクリレート。
【0045】
驚くべきことに、これらの組成物は、硬化する際に、フッ素化モノマーの表面濃縮が起こらないことが見出された。逆に、この硬化した組成物のバルク相におけるフッ素濃度は、表面領域における濃度より高かった。その結果、酸素の存在下での重合の際に形成するスメア層は、フッ素化モノマーの使用に関連する所望の特性(すなわち、良好な耐水性、ならびに染色および微生物の付着に対する抵抗性)を損なうことなく、除去され得る。さらに、この硬化した材料の特性は、磨耗によって損なわれなかった。
【0046】
本発明の好ましい実施形態によれば、
が、Hであり、
が、Hであり、
が、Hであり、
が、Hであり、
が、−CO−O−Rであり、そして
が、−CO−O−(CHCH−Rである、
式(I)による物質が、成分Aとして使用される。
【0047】
これらの化合物は、以下の式Ia:
【0048】
【化11】

によって表される。
【0049】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、
が、−CO−O−(CHCH−Rであり、
が、Hであるか、またはRと一緒になって、−CH−C(R)(R10)−CH残基を形成し、
が、Hであり、
が、Hであるか、またはRと一緒になって、−CH−C(R)(R10)−CH残基を形成し、
が、Hであるか、またはRと一緒になって、−CH−C(R)(R10)−CH−残基を形成し、
が、Hであるか、またはRと一緒になって、−CH−C(R)(R10)−CH−残基を形成する、
式(I)による物質が、成分Aとして使用される。
【0050】
好ましくは、これらの化合物は、1つのみの−CH−C(R)(R10)−CH−残基を含む。これらの化合物は、式Ib:
【0051】
【化12】

によって表される。
【0052】
この型の特に好ましいモノマーは、式Icおよび式Idによる化合物:
【0053】
【化13】

である。
【0054】
式Ia〜Idにおいて、残基R〜R10、および変数pは、式Iについて上で定義されたとおりである。好ましくは、これらの変数は、以下の意味のうちの1つを有し、これらの意味は、互いに独立して選択され得る:
は、過フッ素化された、脂肪族または脂環式の、C〜C14基である、
は、C〜C12のアルキル基、好ましくは、C〜Cのアルキル基である、
は、H、ベンゾイル、またはアセチルである、
10は、Hまたは−CO−O−Rである、
pは、1である。
【0055】
成分(B)は、好ましくは、式(III)によるビニルクロロプロパン、ならびに式(IV)および式(V)によるビシクロ[3.1.0]ヘキサン
【0056】
【化14】

からなる群より選択されるビニルクロロプロパン誘導体であり、
11は、H、フェニル、ベンジル、またはC〜C10アルキル基であり、
12は、脂肪族もしくは脂環式のC〜C15基、またはC〜C14のアリール基であり、該基は、ブラケット内の基によってn回置換されており、
13は、C〜C10アルキレン基であり、該アルキレン基には、Oが介在し得るか、または該アルキレン基は存在しなくてもよく、
14は、脂肪族もしくは脂環式のC〜C15アルキル、またはC〜C14のアリール基であり、該基は、ブラケット内の基でm回置換されており、
15は、H、フェニル、ベンジル、またはC〜C10アルキル基であり、
16は、H、ベンゾイル、アセチル、またはC〜Cアルキル基であり、
17は、H、フェニル、ベンジル、またはC〜C10アルキル基であり、
Xは、O、NH、または非存在であり、R13が存在しない場合、Xは存在せず、
nは、1、2または3であり、
mは、1、2または3である。
【0057】
式III、式IVおよび式Vの変数は、好ましくは、以下の意味を有し、これらの意味は、互いに独立して選択され得る:
11は、ベンジルまたはC〜Cアルキル基である、
12は、脂肪族もしくは脂環式のC〜C10アルキル基、またはフェニル基であり、該基は、ブラケット内の基によってn回置換されている、
13は、存在しない、
14は、脂肪族もしくは脂環式のC〜C10アルキル基、またはフェニル基であり、該基は、ブラケット内の基でm回置換されている、
15は、C〜Cアルキル基である、
16は、H、ベンゾイル、またはアセチルである、
17は、C〜Cアルキル基である、
Xは、存在しない、
nは、1である、
mは、1である。
【0058】
式IIの変数は、以下の好ましい意味を有し、これらの意味は、互いに独立して選択され得る:
18は、CHである、
19は、CHまたはCFである、
Yは、メチルエチレンである。
【0059】
上記式において、アルキルは、分枝鎖基であっても、好ましくは直鎖基であってもよい。好ましい脂肪族基は、アルキル基であり、好ましい脂環式基は、シクロアルキル基である。
【0060】
上記式の化合物が、1つの型の数個のラジカル(例えば、数個のRラジカル)を含む場合、これらのラジカルは、同一であっても異なっていてもよい。
【0061】
上記式は、構造形態および立体異性形態の全て、ならびに異なる構造形態および立体異性形態の混合物(例えば、ラセミ体)を網羅する。上記式から見られ得るように、ラジカル−C(=CH)−C(=O)−O−Rは、橋原子を介して、または好ましくは、橋頭原子を介して、シクロプロパン環に結合し得る。上記式は、化学原子価論に矛盾しない化合物のみを網羅する。
【0062】
あるラジカルに、ヘテロ原子(例えば、酸素)が介在し得るという特徴は、これらのヘテロ原子のうちの1つ以上が、炭素鎖に介在していることを意味すると理解されるべきである。すなわち、これらのヘテロ原子は、末端ではあり得ない。すなわち、隣接する基への結合が、常に炭素原子を介して起こる。そしてヘテロ原子の数は、必然的に、炭素原子の数より小さい。
【0063】
式Iによるビニルシクロプロパンは、対応するビニルシクロプロパンカルボン酸の、適切な過フッ素化アルコールでのエステル化によって、容易に入手できる。
【0064】
例えば、式Iaによるビニルシクロプロパンは、以下のように調製され得る:
【0065】
【化15】

具体的な例は、1−エトキシカルボニル−2−ビニルシクロプロパンカルボン酸(N.Moszner,F.Zeuner,V.Rheinberger,Macromol.Rapid Commun.18,775(1997))の、1H,1H,2H,2H−過フルオロドデカノール(これは、市販されている(Fluorochem.))でのエステル化であり、この反応は、1−エトキシカルボニル−1−[(1H,1H,2H,2H)−過フルオロドデシル]−オキシカルボニル−2−ビニルシクロ−プロパンを与える(S.W.Choi,O.Kretschmann,H.Ritter,M.Ragnoli,G.Galli,Macromol.Chem.Phys.,204,1475(2003)):
【0066】
【化16】

式III、式IVおよび式Vによるビニルシクロプロパンは、文献から公知の合成によって得られる。
【0067】
式IIIによる、1,1−二置換2−ビニルシクロプロパン(n=1)は、対応するマロニルジエステルを、トランス−1,4−ジブロモ−2−ブタンと反応させることによって、調製され得る(F.Zeuner,N.Moszner,V.Rheinberger,Macromol.Chem.Phis.,197,2745(1996)):
【0068】
【化17】

具体例:
【0069】
【化18】

式(III)による、多官能性1,1−二置換2−ビニルシクロプロパンは、対応するビニルシクロプロパンカルボン酸を、適切なポリヒドロキシ化合物でエステル化することによって、得られる(N.Moszner,F.Zeuner,V.Rheinberger,Macromol.Rapid Commun.,18,775(1997)):
【0070】
【化19】

具体例:
【0071】
【化20】

二環式シクロプロピルアクリレートの合成の例は、以下の刊行物において報告されている:N.Moszner,F.Zeuner,U.K.Fischer,V.Rheinberger,A.de Meijere,V.Bagutski,Macromol.Rapid Commun.,24,269(2003)およびA.de Meijere,V.Bagutski,F.Zeuner,U.K.Fischer,V.Rheinberger,N.Moszner,Eur.J.Org.Chem.,3669(2004)。
【0072】
プロポキシ化ビスフェノール−A−ジ(メタ)アクリレート(2,2−ビス−[(4−(2−メタクリロイルオキシプロピル)−フェニル)]プロパン)(式(II)、R19=CH)は、公知のエトキシ化ビスフェノール−A−ジ(メタ)アクリレート(DE 1 921 869)と同様に、対応するジオールの、(メタ)アクリル酸によるエステル化、または(メタ)アクリル酸メチルでのエステル交換によって、合成され得る。従って、2,2−ビス−[(4−(2−メタクリロイルオキシプロピル)フェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン](式II、R19=CF)は、プロポキシ化2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンの、エステル化またはエステル交換によって、合成され得る。
【0073】
本発明の組成物はまた、好ましくは、ラジカル重合のための開始剤を含有する。本発明によるシクロプロピルアクリレートは、公知のラジカル開始剤を用いて、開環を伴って重合され得る(Encyclopedia of Polymer Science and Engineering,第13巻、Wiley−Intersci.Pub.,New York etc.1988,754ffを参照のこと)。ラジカル重合のために好ましい開始剤は、アゾ化合物(たとえば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)またはアゾビス−(4−シアノ吉草酸))、またはより好ましくは、過酸化物(例えば、過酸化ジベンゾイル、過酸化ジラウロイル、過オクタン酸tert−ブチル、過安息香酸tert−ブチル、またはジ(tert−ブチル)ペルオキシド))である。
【0074】
熱硬化のための開始剤としては、ベンゾピナコールおよび2,2’−(ジアルキルベンゾピナコール)が、特に適切である。
【0075】
さらに、光重合開始剤(J.P.Fouassier,J.F.Rabek(出版)、Radiation Curing in Polymer Science and Technology,第II巻、Elsvier Appoied Science,London and New Youk 1993を参照のこと)もまた、UV領域または可視領域のために使用され得る(例えば、ベンゾインエーテル、ジアルキルベンジルケタール、ジアルコキシアセトフェノン、アシルホスフィン酸オキシドまたはビスアシルホスフィン酸オキシド、α−ジケトン(例えば、9,10−フェナントレンキノン)、ジアセチル、フリル、アニシル、4,4’−ジクロロベンジル、4,4’−ジアルコキシベンジルおよびカンファーキノン)。カンファーキノンおよび2,2−ジメトキシ−2−フェニル−アセトフェノンが、好ましくは使用され、より好ましくは、α−ジケトン(例えば、カンファーキノン)が、還元剤としてのアミン(例えば、4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸エステル、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチル−sym−キシリジンまたはトリエタノールアミン)と組み合わせて、使用される。アシルホスフィン(例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニル−4−n−プロピルフェニルホスフィンオキシド)またはビス(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−n−プロピルフェニルホスフィンオキシド)もまた、特に適切である。
【0076】
室温で実施される重合のための開始剤としては、酸化還元開始剤の組み合わせ(例えば、過酸化ベンゾイルまたは過酸化ラウロイルと、N,N−ジ−メチル−sym−キシリジンまたはN,N−ジ−メチル−p−トルイジンとの組み合わせ)が、使用される。
【0077】
さらに、過酸化物と還元剤(例えば、アスコルビン酸、バルビツレートまたはスルフィン酸)とからなる酸化還元系が、適切である。
【0078】
さらに、本発明によって使用される組成物は、充填剤(好ましくは、有機粒子であり、またはより好ましくは、無機粒子である)を含有し得る。この充填剤は、機械的特性を改善するため、重合による収縮を減少させるため、または粘度を一定にするためのものである。これらの充填剤粒子は、好ましくは、0.005μm〜1.5μm、より好ましくは、0.01μm〜1μmの平均粒子サイズを有する。好ましい無機粒子充填剤は、酸化物(例えば、ZrOおよびTiO、またはSiO、ZrOおよび/もしくはTiOの混合酸化物)に基づく非晶質球状材料、ナノ粒子充填剤およびミニフィラーである。ナノ粒子充填剤とは、約5nm〜100nmの主要粒子サイズを有する充填剤(例えば、発熱性シリカ、または沈降シリカ)を意味する。同様に、ミニフィラー(すなわち、0.1μmと1.5μmとの間の粒子サイズを有する充填剤であり、例えば、微細に粉砕された石英、ガラスセラミックまたはガラス粉末)、およびX線不透過性充填剤(例えば、三フッ化イッテルビウム、微粒子状の酸化チタン(V)または硫酸バリウム)が、好ましくは、無機粒子充填剤として使用される。
【0079】
さらに、本発明による組成物は、必要とされる場合、さらなる成分(例えば、安定化剤、UV吸収剤、着色剤および/または顔料)を、含有し得る。
【0080】
本発明による組成物は、歯科用材料として、特に、歯科用コーティング材料、歯科用複合材料(例えば、固定セメントまたは充填材料)として、特に適切である。フッ素化モノマーに基づく公知の材料とは異なり、本発明の材料は、バルク相における高いフッ素含有量、および表面層における比較的低いフッ素濃度によって、特徴付けられる。このことは、歯科用途のために特に有利である。なぜなら、酸素の存在下でこの組成物が硬化する際に形成するスメア層が、フッ素化モノマーの使用に伴う利点を損なうことなく除去され得るからである。スメア層の硬化および除去の後に、これらの組成物は、依然として、良好な耐水性を示し、水をほとんど取り込まず、染色および微生物の付着(例えば、プラーク形成)に対する高い抵抗性を示す。
【0081】
さらに、本発明の組成物は、重合による収縮が小さく、そして硬化後に、非常に良好な機械的特性を有する。
【0082】
本発明の組成物は、好ましくは、
0.1重量%〜20重量%、好ましくは、1.0重量%〜15重量%の成分(A)、
1.0重量%〜30重量%、好ましくは、1.0重量%〜15重量%の成分(B)、
1.0重量%〜45重量%、好ましくは、5.0重量%〜40重量%の成分(C)、
0.01重量%〜5重量%、好ましくは、0.1重量%〜2.0重量%の開始剤、
を含有する。
【0083】
他に言及されない場合、全ての百分率は、重量に基づき、そして組成物の総重量に基づく。
【0084】
上記組成物は、0重量%〜25重量%の充填剤をさらに含有し得る。このような組成物は、コーティング材料として特に適切である。
【0085】
0.1重量%〜15重量%、好ましくは、1.0重量%〜10重量%の成分(A)、
1.0重量%〜20重量%、好ましくは、1.0重量%〜10重量%の成分(B)、
1.0重量%〜40重量%、好ましくは、5.0重量%〜30重量%の成分(C)、
0.01重量%〜5重量%、好ましくは、0.1重量%〜2.0重量%の開始剤、
20重量%〜60重量%、好ましくは、30重量%〜60重量%の充填剤、
を含有する組成物は、セメントとして特に適切である。
【0086】
0.1重量%〜10重量%、好ましくは、1.0重量%〜10重量%の成分(A)、
1.0重量%〜20重量%、好ましくは、1.0重量%〜10重量%の成分(B)、
1.0重量%〜40重量%、好ましくは、5.0重量%〜30重量%の成分(C)、
0.01重量%〜5.0重量%、好ましくは、0.1重量%〜2.0重量%の開始剤、
35重量%〜85重量%、好ましくは、40重量%〜80重量%の充填剤、
を含有する組成物は、充填材料として特に適切である。
【0087】
本発明の組成物は、物品を形成するため、または物品をコーティングするために使用され得、特に、歯科用製品を形成するため、または歯科用製品をコーティングするために使用され得る。これらの歯科用製品は、例えば、歯科用充填剤、インレー、アンレー、クラウンおよびブリッジ、前装または義歯である。
【0088】
このような物品またはコーティングされた物品は、本発明による組成物を、所望の形状を有する本体に成型する工程、または本体を、本発明による組成物でコーティングする工程、この形成された組成物を硬化させる工程、およびこの硬化した本体の外側層を除去する工程を包含する方法によって、調製され得る。
【0089】
以下において、本発明は、図および実施例を参照して、さらに説明される。
【0090】
図1は、本発明による好ましい組成物における、フッ素の分布を示す概略図である。第一の粒子は、未硬化材料のフッ素分布を示す。これらのフッ素原子は、黒い丸によって、概略的に表される。この未硬化材料のこのフッ素分布は、この材料の硬化の間、維持される(2番目の図)。例えば磨耗による、表面層の除去後、この表面層は、除去前よりもかなり多くのフッ素原子を含む(3番目の図)。
【実施例】
【0091】
(実施例1)
1−エトキシカルボニル−1−(1H,1H,2H,2H)−過フルオロドデシル−オキシカルボニル)−2−ビニルシクロプロパン(CVPF10)
【0092】
【化21】

22.00g(39mmol)の1H,1H,2H,2H−過フルオロドデカノール、7.20g(39mmol)の1−エトキシカルボニル−2−ビニルシクロプロパン−1−カルボン酸および1.60g(11mmol)の4−ジメチルアミノピリジンの、75mlの無水ジクロロメタン中の溶液を、窒素雰囲気下で0℃まで冷却した。次いで、25mlの無水ジクロロメタン中の8.10g(39mmol)の1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミドを、ゆっくりと添加した。この混合物を、室温で3日間攪拌しながら維持した。この反応の間に形成された沈殿物を濾別し、そしてその有機溶液を、5%HCl、5%NaCOで抽出し、そしてNaSOで乾燥させた。引き続いて、その溶媒を減圧下でエバポレートし、そしてその粗生成物を、溶出液として酢酸エチル/n−ヘキサン(Rf=0.57)を使用するシリカゲルカラムフラッシュクロマトグラフィー(230〜400メッシュ)により精製し、18.31g(収率64%)のVCP−F10を、淡黄色の透明な液体として得た。
【0093】
【化22】

(実施例2)
プロポキシ化ビスフェノールAF(p.BisAF)
【0094】
【化23】

33.62g(100mmol)の2,2−ビス[4−(ヒドロキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンの、70mlのテトラヒドロフランおよび20mlの水の中の溶液、ならびに1.60g(40mmol)のNaOHを、均一になるまで室温で攪拌し、そして23.20g(331mmol)のプロピレンオキシドを添加した。この反応を、50℃で、10atmの窒素雰囲気下で、24時間実施した。次いで、HClを添加して中性にし、そして水層から分離した有機層を、減圧下でエバポレートした。その粗製残渣を、ジエチルエーテルに溶解し、水で洗浄し、そしてNaSOで乾燥させた。引き続いて、その溶媒を減圧下で蒸発させ、そして43.68g(収率94%)のp.BisAFを、粘性の淡黄色液体として収集した。
【0095】
【化24】

(実施例3)
保護されたビスフェノール−Fジメタクリレート(p.BisAF−MA)
【0096】
【化25】

25.89g(57mmol)のp.BisAFおよび17.34g(172mmol)のトリエチルアミンの、80mlの無水THF中の溶液を、0℃まで冷却した。次いで、17.78g(172mmol)のメタクリロイルクロリドの、20mlのTHF中の溶液を滴下し、そしてこの混合物を、室温で3日間攪拌した。次いで、その溶媒を減圧下でエバポレートし、そしてその残渣をジクロロメタンに溶解し、5%HCl、5%NaCO、および水で洗浄し、そしてNaSOで乾燥させた。引き続いて、その溶媒を減圧下でエバポレートし、そして23.87g(収率76%)のp.BisAF−MAを、粘性の淡黄色の透明な液体として収集した。
【0097】
【化26】

(実施例4)
歯科用充填材料の調製および特徴付け
以下の表1に対応して、モノマー、充填剤および光重合開始剤に基づく、種々の充填材料を、「Exakt」三本ロール練り機(Exakt Apparatebau,Norderstedt)によって調製した。
【0098】
試験片を、表1に詳述される材料から調製し、これらの試験片を、歯科用光源(Spectramat(登録商標);Ivoclar Vivadent AG)によって2回3分間照射することによって、硬化させた。
【0099】
XPS測定により、表1に記載される樹脂の表面化学組成の評価が可能であった。組成物C−DおよびC−Eは、内部より表面において、(化学量論的に)少ないフッ素を含有することが明らかである。従って、歯科用樹脂C−DおよびC−Eにおいて、その内部は、フッ素が濃縮されており、一方で、その表面ではフッ素が激減している(図1)。
【0100】
【表1】

a)比較例。
【0101】
(モノマー)
UDMA:2molの2−ヒドロキシエチル−メタクリレートと1molの2,2,4−トリメチルヘキサ−メチレンジイソシアネートとのウレタンジメタクリレート(比較モノマー)
BisA−GMA:2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピル)−フェニル]プロパン(比較モノマー)
BisAF−GMA:2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピル)−フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(比較モノマー)
VCP−F10:1−エトキシカルボニル−1−(1H,1H,2H,2H)−過フルオロ−ドデシル)オキシカルボニル−2−ビニルシクロプロパン(VCP F10)(実施例1)
VCP−DE:1,1−ジエトキシカルボニル−2−ビニルシクロプロパン
p.BisA−MA:2,2−ビス−[(4−(2−メタクリロイルオキシプロピル)フェニル)]−プロパン
p.BisAF−MA:2,2−ビス−[4−(2−メタクリロイルオキシプロピル)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(実施例3)
(充填剤)
F1:発熱性シリカOX−50(Degussa)
F2:三フッ化イッテルビウム(Rhone−Poulenc)
(光重合開始剤)
PI:カンファーキノンとN,N−ジエチル−3,5−ジ−tert−ブチルアニリンとの1:1(wt/wt)混合物
【0102】
【表2】

a)均一なモノマー分布を仮定して、これらの複合材料の組成に基づいて計算した。
【0103】
これらの結果は、処方物C−DおよびC−Eが、内部より表面において低いフッ素量を有する成型品を与えることを示す。このことは、フッ素化分子が外側層に移動または分離して、これらの分子を含有する材料の内部で激減するという、周知の傾向と対照的である。
【0104】
口内での歯科用樹脂の光重合による架橋後、歯科医は、ポリマー材料の比較的厚い層を除去してしまうために、バルク層が、口腔で曝露される。この処理の後では、表面に分離されたフッ素化樹脂の有効表面は、従来技術では、内部と同じフッ素が激減した組成を有し、従って、外側層において高フッ素濃度を有するフッ素化樹脂を利用することを期待し得ない。従って、本発明のバルク層におけるフッ素濃縮という特異な現象は、外側層の除去後に、非常にフッ素化された表面の特性を達成することを可能にする(図1)。
【0105】
さらに、硬化した試験片の屈曲強度および屈曲E係数を、ISO 4049に従って、37℃の水中で24時間の保存後、室温の空気中で24時間の保存後、および37℃の水中での7日間の保存後に、三点屈曲試験で決定した。これらの結果を、表3に示す。
【0106】
【表3】

これらの材料の線形重合収縮を、1.8mmの厚さを有する層において、青色光(Astralis(登録商標) 10青色光ランプ、Ivoclar Vivadent AG)を照射して、決定した(表4)。
【0107】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】図1は、本発明による好ましい組成物における、フッ素の分布を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物であって、以下:
(A)式(I)
【化1】

による、少なくとも1種のフッ素化ビニルシクロプロパンであって、
は、Hまたは−CO−O−(CHCH−Rであり、
は、Hであるか、またはRと一緒になって、−CH−C(R)(R10)−CH−残基を形成し、
は、Hであり、
は、Hであるか、またはRと一緒になって、−CH−C(R)(R10)−CH−残基を形成し、
は、H、−CO−O−R、−CO−O−(CHCH−Rであるか、またはRと一緒になって、−CH−C(R)(R10)−CH−残基を形成し、
は、H、−CO−O−R、−CO−O−(CHCH−Rであるか、またはRと一緒になって、−CH−C(R)(R10)−CH−残基を形成し、
は、過フッ素化された、脂肪族または脂環式の、C〜C20基であり、
は、H、フェニル、ベンジル、または直鎖もしくは分枝鎖の脂肪族もしくは脂環式のC〜C12基であり、
は、H、ベンゾイル、アセチルまたはC〜Cアルキル基であり、
10は、Hまたは−CO−O−Rであり、
pは、1、2、3、または4であり、
ただし、式(I)の化合物は、少なくとも1つの−CO−O−(CHCH−R残基を含む、フッ素化ビニルシクロプロパン、
(B)少なくとも1種のフッ素化されていないビニルシクロプロパン誘導体、
(C)式(II)
【化2】

による、少なくとも1種のビスフェノールAエーテルジ(メタ)アクリレートであって、
18は、HまたはCHであり、
19は、CHまたはCFであり、
Yは、OH基で置換されているかまたは置換されていない、C〜Cアルキレン残基である、ビスフェノールAエーテルジ(メタ)アクリレート、
を含有する、組成物。
【請求項2】
が、Hであり、
が、Hであり、
が、Hであり、
が、Hであり、
が、−CO−O−Rであり、そして
が、−CO−O−(CHCH−Rである、
請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
が、−CO−O−(CHCH−Rであり、
が、Hであるか、またはRと一緒になって、−CH−C(R)(R10)−CH−残基を形成し、
が、Hであり、
が、Hであるか、またはRと一緒になって、−CH−C(R)(R10)−CH−残基を形成し、
が、Hであるか、またはRと一緒になって、−CH−C(R)(R10)−CH−残基を形成し、
が、Hであるか、またはRと一緒になって、−CH−C(R)(R10)−CH−残基を形成する、
請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
が、過フッ素化された、脂肪族または脂環式の、C〜C14基であり、
が、脂肪族または脂環式のC〜C基であり、
が、H、ベンゾイル、またはアセチルであり、
10が、Hまたは−CO−O−Rであり、
pが、1である、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
成分(B)が、式(III)によるビニルクロロプロパン、ならびに式(IV)および式(V)によるビシクロ[3.1.0]ヘキサン
【化3】

からなる群より選択されるビニルクロロプロパン誘導体であり、
11は、H、フェニル、ベンジル、またはC〜C10アルキル基であり、
12は、脂肪族もしくは脂環式のC〜C15基、またはC〜C14のアリール基であり、該基は、ブラケット内の基によってn回置換されており、
13は、C〜C10アルキレン基であり、該アルキレン基には、Oが介在し得るか、または該アルキレン基は存在しなくてもよく、
14は、脂肪族もしくは脂環式のC〜C15アルキル、またはC〜C14のアリール基であり、該基は、ブラケット内の基でm回置換されており、
15は、H、フェニル、ベンジル、またはC〜C10アルキル基であり、
16は、H、ベンゾイル、アセチル、またはC〜Cアルキル基であり、
17は、H、フェニル、ベンジル、またはC〜C10アルキル基であり、
Xは、O、NH、または非存在であり、R13が存在しない場合、Xは存在せず、
nは、1、2または3であり、
mは、1、2または3である、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
11が、ベンジルまたはC〜Cアルキル基であり、
12が、脂肪族もしくは脂環式のC〜C10アルキル基、またはフェニル基であり、該基は、ブラケット内の基によってn回置換されており、
13が、存在せず、
14が、脂肪族もしくは脂環式のC〜C10アルキル基、またはフェニル基であり、該基は、ブラケット内の基でm回置換されており、
15が、C〜Cアルキル基であり、
16が、H、ベンゾイル、またはアセチルであり、
17が、C〜Cアルキル基であり、
Xが、存在せず、
nが、1であり、
mが、1である、
請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
18が、CHであり、
19が、CHまたはCFであり、
Yが、メチルエチレンである、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
ラジカル重合のための開始剤をさらに含有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物の総重量に各々基づいて、
0.1重量%〜20重量%の成分(A)、
1.0重量%〜30重量%の成分(B)、
1.0重量%〜45重量%の成分(C)、
0.01重量%〜5重量%の、ラジカル重合のための開始剤、
を含有する、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物の総重量に各々基づいて、
0.1重量%〜15重量%の成分(A)、
1.0重量%〜20重量%の成分(B)、
1.0重量%〜40重量%の成分(C)、
0.01重量%〜5.0重量%の、ラジカル重合のための開始剤、
20重量%〜60重量%の充填剤、
を含有する、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物の総重量に各々基づいて、
0.1重量%〜10重量%の成分(A)、
1.0重量%〜20重量%の成分(B)、
1.0重量%〜40重量%の成分(C)、
0.01重量%〜5.0重量%の、ラジカル重合のための開始剤、
35重量%〜85重量%の充填剤、
を含有する、請求項9に記載の組成物。
【請求項12】
安定化剤、UV吸収剤、着色剤および顔料からなる群より選択される、少なくとも1種のさらなる成分をさらに含有する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の組成物から形成されたか、または該組成物でコーティングされた、物品。
【請求項14】
歯科修復物の形態を有する、請求項13に記載の物品。
【請求項15】
物品を製造するための方法であって、該方法は、請求項1〜12のいずれか1項に記載の組成物を、所望の形状を有する本体に成形する工程、該成形された組成物を硬化させる工程、および該硬化された本体の外側層を除去する工程を包含する、方法。
【請求項16】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の組成物を含有する歯科用材料。
【請求項17】
請求項9に記載の組成物を含有する歯科コーティング材料。
【請求項18】
請求項10に記載の組成物を含有する歯科セメント。
【請求項19】
請求項11に記載の組成物を含有する歯科充填材料。

【図1】
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【公開番号】特開2007−2244(P2007−2244A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−166223(P2006−166223)
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(501151539)イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト (54)
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
【住所又は居所原語表記】Bendererstr.2 FL−9494 Schaan Liechtenstein
【Fターム(参考)】