説明

独立気泡型ガラス発泡体からなる低周波用吸音材

【課題】本発明の目的は、安価で、製造が容易で、しかも十分な低周波吸収性を有する吸音材を提供することである。
【解決手段】1.実質的に独立気泡から構成されるガラス発泡体、特にかさ密度が1.6以下、吸水率が30%以下の独立気泡型ガラス発泡体からなる低周波用吸音材。2.天板、底板及び枠板から構成される籠状容器内に前記塊状低周波用吸音材を充填してなる籠状容器入り低周波用吸音材。これら低周波用吸音材は、450Hz以下の低周波領域において優れた吸音特性を有する。よって、建材等の構造材として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスリサイクルシステムによって回収されたガラス瓶等の廃棄ガラスから製造されるガラス発泡体を利用して製造される450Hz以下、特に400Hz以下の低周波に対して優れた吸音特性を有する吸音材に関する。
【背景技術】
【0002】
生活騒音、環境騒音に対する関心の高まりから、種々の防音対策が要求されるようになった。
これら問題を解決するための防音策としては、大きく分けて「遮音」と「吸音」の2つの対策方法がある。
このうち、「遮音」は、音をできるだけ多く反射することによって音をさえぎることをいう。遮音材の例としては、比較的密度の高い、鉄板、鉛シート、コンクリート、石膏ボード等を挙げることができる。
一方、「吸音」は、音が多くの小さな穴等の間隙を抜けるときに音の波(エネルギー)が消耗され減衰される現象をいい、代表的な吸音材としては、繊維系吸音板、板状材料に多数の孔を開けた孔あきボード、発泡体等の多孔質体を挙げることができる。繊維系吸音板としては、例えば、グラスウール、ロックウールなどの無機繊維、吸音用軟質繊維板、ロックウール化粧吸音板等を挙げることができる。孔あきボードの例としては、多数の孔を開けた、合板、セッコウボード、ハードボード、石綿セメント板などの板状材料を挙げることができる。無機物多孔質体を用いたものとしては焼結金属発泡体、ガラス発泡体、陶磁器発泡体、セメント発泡体などを挙げることができ、有機物系多孔質体としては、ゴムスポンジ、プラスチックフォーム、天然高分子多孔質体などを挙げることができる。
これら吸音特性(吸音力)は、各材料の吸音率、厚さ、密度などに依存する。
【0003】
ところで、最近、一般的な騒音のみならず、人の耳には聞こえないあるいは聞き取り難い低周波による騒音の問題がクローズアップされている。一般に、人間の耳に聞こえる音の周波数は20〜20,000Hzであるといわれており、このうち数百Hz以下の騒音を低周波騒音と呼んでいる。低周波騒音は耳に聞こえない、あるいは聞き取りがたい分だけ、厄介な問題であり、周囲にもなかなか理解されない。時に、これら低周波は、不眠、頭痛等の原因となる場合もある。
これら低周波を吸収するための材料について多くの改善の試みがなされ、例えば、以下のような報告がなされている。
しかし、これら低周波吸音材の多くは、複合材であって、構造が複雑であるが故に、製造が煩雑であり、また高価である等の欠点を有していた。また、これら文献ないし報告中で使用される「低周波」なる用語は、1000Hz以下のものを指して言う場合が多く、所謂450Hz以下、特に400Hz以下の低周波吸音に関する報告は少ない。
【0004】
1.低周波吸音材に関して;
(1)特開平11−256720号公報には、熱硬化性樹脂に無機粒子を分散させた発泡体からなり、無機粒子が発泡体を構成する気泡間の気泡柱に実質的に存在する吸音材について記載され、かつ該吸音材が低周波数帯域において優れた吸音特性を有すると記載されている。しかし、ここに言う低周波は単に1500Hz以下の領域を漠然と指すだけであって、450Hz以下、特に400Hz以下の低周波の吸収特性の改善については何ら教示していない。(特許文献1参照)
【0005】
(2)特開平11−219187号公報には、粉体とバインダー樹脂からなる粉体層が基材内に含浸形成された粉体層形成シートAと、多孔質材料3吸音材Bを積層してなる低周波数域における吸音特性を向上させた吸音材が記載されている。(特許文献2参照)
【0006】
(3)特開平10−12160号公報には、気孔率が60%以上、気孔径の主体が0.2〜2000μmの連通気孔を有し、通気率が1cm3・cm/cm2・sec・cmH2O以上の多孔質セラミックスブロックであって、その厚さ方向に直角な表面に深さ20mm以上の非貫通穴及び/又は非貫通溝を有し、該非貫通穴又は非貫通溝の底から裏面にその穴径又は溝幅以下の直径の貫通穴を裏面開口率が0.3〜14%となるように穿設したセラミックス吸音材と、該セラミックス吸音材の裏面側に設けた壁板と、該壁板と前記セラミックス吸音材との間に形成された背後空気層とからなる、低周波数域側の吸音性能を改善向上されたセラミックス吸音壁が記載されている。(特許文献3参照)
【0007】
(4)特開2004−232137号公報には、有機繊維が相互に交絡した、厚さ5〜50mm、通気度を1〜100cm/cm・secのシート状集合体からなり、かつ該有機繊維が部分的にフィブリル化した短繊維であることを特徴とする吸音材について記載され、かつ該吸音材は1000Hz以下の低周波領域での吸音性が顕著に向上している旨の報告がなされている。(特許文献4参照)
【0008】
(5)特開2004−191445号公報は、損失係数ηが0.05以上、通気量が0.1dm/s以上であり、かつ厚さが1〜50mmである、グラスウール若しくはロックウールからなる多孔質吸音材について提案しており、かつ該吸音材が、100Hz付近の低周波数領域から2000Hz付近の高周波数領域までの広い範囲に亘って高い吸音効果を有する旨を報告している。(特許文献5参照)
【0009】
(6)特開2003−316364号公報は、
(a)分子量500〜5000のジオールと、(b)分子量500以下のジオールと、(c)無機充填材と、(d)発泡剤としての水と、(e)イソシアネートの各成分から配合されていることを特徴とする発泡体が、300Hz付近以下の低周波数領域での吸音効果が高い旨を報告している。(特許文献6参照)
【0010】
(7)特開2003−122370号公報は、内部に連続気泡を有する発泡体であって、音源側の表面に薄膜層を前記発泡体と一体成型してなる吸音材について記載され、かつ、該吸音材が従来の技術に比べて約500Hz以下の低周波の吸音効果が高く、特に100Hz以下の低周波でも優れた効果を有する旨を報告している。(特許文献7参照)
【0011】
上記のとおり、低周波吸音材については様々な吸音材が報告されているが、これら吸音材の多くは、複合材であるが故に、構造が複雑である上に、高価であったり、製造が煩雑であったり、しかも450Hz以下、特に400Hz以下といった真の低周波の吸音特性も必ずしも満足し得るものではない等の問題が依然として残されているのが現状である。
また、特開2004−191445号公報にも記載されるように、周波数帯域でも例えば500Hz以下の周波数帯域に対してはグラスウールやロックウール等の多孔質吸音材の厚さを厚くしたり、吸音材の背後に空気層を設けるなどの試みがなされているが、十分な吸音効果を得ようとすると重量が重くなることやスペースを広くとらなければならない等の問題が生じていた。(特許文献8参照)
【0012】
2.ガラス発泡体を用いた吸音材について;
一方、これら吸音材のうち、ガラス発泡体は、自治体におけるガラスのリサイクル運動とあいまって最近注目を集めている。
これらガラス発泡体の多くは、粉末状のガラスに例えば、CaCO(石灰石)、MgCO(マグネサイト)、CaCO・MgCO(ドロマイト)のような焼成によって分解してCOを放出したり、SiC(炭化珪素)のような焼成によって酸素と反応してCOを放出したりする無機質の発泡材を混合し、その混合物を加熱することによって製造される。
また、これらガラス発泡体からなる吸音材については下記のような報告もなされている。
【0013】
(1)特開2001−220262号公報は、廃ガラスなどのガラスを主成分とする軽量骨材と無機質結合材とを焼成して成形した吸音材が提案されている。(特許文献9参照)
しかし、この吸音材は450Hz以下の周波数領域では吸音特性が改良されておらず、社会問題となっている低周波騒音に対しては十分な効果が期待できないのが現状である。
【0014】
(2)特開平11−45092号公報は、板状の遮音部材と、遮音部材に周縁部が支持される通気性表面部材と、遮音部材と通気性表面部材により形成される空間に充填される無機ガラス発泡粒体を備える吸音・遮音部材について報告している。(特許文献10参照)
【0015】
(3)特開平10−114917号公報は、ガラス質発泡体粒子とバインダーとによって多孔質に成形すると共に、下部から上部に向けて多数の貫通孔を有する多孔質吸音体と、上記多孔質吸音体の上部に設けられた無機繊維吸音体と、上記無機繊維吸音体の上部に設けられた反射板と、上記多孔質吸音体と無機繊維吸音体と反射板とをパネル状に一体化する枠体とからなることを特徴とする高架構造体の下に設置される吸音パネルについて報告している。(特許文献11参照)
【0016】
(4)特許第3581008号公報は、ガラス質廃材を粉砕して得られる0.21mm以上2.38mm以下の粒度分布を有する粗粉砕ガラス粉96〜80重量%と0.21mm未満の粒度分布を有する微粉砕ガラス粉4〜20重量%とを配合して成るガラス質配合粉に、該ガラス質配合粉に対して0.1〜3重量%の炭化珪素粉を閉塞壁の補強剤として添加、混合して成る混合粉を700〜980℃の温度で加熱焼成し、次で冷却することを特徴とするかさ密度1.2g/cm3 以下、吸水率20%以下であるガラス質発泡体の製造法について報告している。また、同公報には、該ガラス質発泡体が、軟弱地盤改良材、水捌け材、軽量骨材、断熱材、吸音材などの各種土木用資材、建築用資材として有用である旨が記載されている。しかし、低周波吸音については何ら具体的な記載はない。(特許文献12参照)
【0017】
3.発泡体の気泡構造と吸音特性について;
ところで、ガラス発泡体等の発泡体の気泡構造と吸音特性の関係について、以下のような報告がなされている。
【0018】
(1)特開2001−48557号公報は、発明が解決しようとする課題として、「一般的には、ガラス微粉末に発泡剤を混合し焼成せしめた板状発泡ガラスは、独立気泡を内蔵する場合は全くと言っていいほど吸音性はなく、又連続気泡を有し吸水率が50%を越える発泡ガラスであっても、その吸音率が実用性の目安となる0.4を超えるものの製造は出来ていなかった。」と報告している。(特許文献13参照)
【0019】
(2)特開2004−126487号公報は、ハニカム材層が空気層と発泡体層の複合構造層からなる吸音構造体に関して「本発明では発泡体の粒子構造の研究から手掛け先ずは独立気泡粒子と連通気泡粒子を区別し吸音構造に適切な発泡体の粒子構造を確認することとした。この結果、独立気泡構造は遮音に適しているが吸音材としては不向きであり、吸音には連通気泡構造の粒子構造が適切で又発泡体の材質選択が更に重要要素であると見え軟質系と硬質系の材質特性差の探求も課題とした。理論を分析すると発泡体の粒子サイズは音の減衰に大きな要素を占めると考えられ適度の硬質度があり連通で微細粒子構造の発泡体の発見を解決策の課題とした。」と報告している。(特許文献14参照)
このように、ガラス等の発泡体からなる吸音材の場合、独立気泡タイプは一般的に効果がないとされていた。また、複合材以外の、ガラス発泡体のみからなる真の低周波吸音材は知られていなかった。
【特許文献1】特開平11−256720号公報
【特許文献2】特開平11−219187号公報
【特許文献3】特開平10−12160号公報
【特許文献4】特開2004−232137号公報
【特許文献5】特開2004−191445号公報
【特許文献6】特開2003−316364号公報
【特許文献7】特開2003−122370号公報
【特許文献8】特開2004−191445号公報
【特許文献9】特開2001−220262号公報
【特許文献10】特開平11−45092号公報
【特許文献11】特開平10−114917号公報
【特許文献12】特許第3581008号公報
【特許文献13】特開2001−48557号公報
【特許文献14】特開2004−126487号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
低周波騒音への関心が高まりつつあり、安価で高性能な低周波吸音材が求められている。しかしながら、従来の低周波吸音材の多くは複合材料であるが故に、構造が複雑であり、製造も煩雑であって、必然的にコストも高いものであった。
このような吸音材は、家屋や交通機関、公共施設、工事現場等において幅広く使用されることから、その普及のためには安価であることが絶対条件である。
したがって、本発明の目的は、安価で、製造が容易で、しかも十分な低周波吸収性を有する吸音材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、安価で、製造が容易で、しかも十分な低周波吸収性を有する吸音材を提供すべきことを目的として鋭意研究を行なった結果、リサイクルによって回収される廃ガラスを用いて製造されるある種の独立気泡型のガラス発泡体が極めて優れた低周波吸収特性を有することを見出して本発明を完成した。
従来、独立気泡構造は吸音材としては不向きであるとするのが定説であったが、意外にも450Hz以下の低周波領域においては独立気泡タイプの発泡体が極めて優れた吸音特性を有するということは実に驚くべきことであった。
【0022】
即ち、本発明は以下のとおりである。
1.かさ密度が1.6g/cm以下、吸水率が30%以下の独立気泡型ガラス発泡体からなる低周波用吸音材。
2.独立気泡型ガラス発泡体が炭化珪素粉を配合したガラス粉を焼結することによって得られるガラス発泡体であって、独立気泡の閉塞壁が該炭化珪素によって補強されている上記1に記載の低周波用吸音材。
3.粗粉砕ガラス粉と微粉砕ガラス粉とを配合してなるガラス質配合粉に炭化珪素粉を閉塞壁の補強剤として添加、混合してなる混合粉を700℃乃至980℃の温度で加熱焼成し、次で冷却、固化することによって得られる上記2に記載の低周波用吸音材。
4.管内法による垂直入射吸音率測定法(JIS A 1405)によって測定した吸音率のパターンが450Hz以下の周波数領域で最大値を有することを特徴とする上記1乃至3のいずれかに記載の低周波用吸音材。
5.吸音材が平板状又はブロック状である上記1乃至4のいずれかに記載の低周波用吸音材。
6.平板状又はブロック状の低周波用吸音材であって、その表面又は内部に繊維状又は網状の補強材を有する上記5に記載の低周波用吸音材。
7.平板状又はブロック状の低周波用吸音材であって、その少なくとも片面に、多孔質吸音板、繊維状吸音板、膜状又は板状吸音板、及び穴あき吸音板から選ばれる吸音板を積層してなる上記5又は6に記載の低周波用吸音材。
8.平板状又はブロック状の低周波用吸音材の少なくとも1面に、金属、木材、紙、陶器、織布、不織布、編布、プラスチック、発泡プラスチック及びガラスから選ばれる素材からなるシート材又は板材を積層してなる上記5乃至7のいずれかに記載の低周波用吸音材。
9.上記5乃至8のいずれかに記載の平板状又はブロック状の低周波用吸音材を、金属、木材、紙、陶器、織布、不織布、編布、プラスチック、セメント、発泡セメント、無機質繊維板、石膏ボード、発泡石膏ボード、発泡プラスチック、ガラス及び剛性ネットから選ばれる素材からなるシート材又は板材、あるいはこれらシート材又は板材に多数の小孔を設けた有孔シート材又は有孔板材から形成される外枠容器内に封入してなる低周波用吸音材。
10.吸音材が塊状である上記1乃至4のいずれかに記載の低周波用吸音材。
11.天板、底板及び枠板から構成され、かつ、該天板と底板の一方あるいは両方が剛性ネットである籠状容器内に請求上記10に記載の塊状低周波用吸音材を充填してなる籠状容器入り低周波用吸音材。
12.枠板が、金属、木材、竹材、陶器、プラスチック、セメント、発泡セメント、無機質繊維板、石膏ボード、発泡石膏ボード、発泡プラスチック、ガラス、又は剛性ネットからなる籠状容器に請求項10に記載の塊状低周波用吸音材を充填してなる上記11に記載の籠状容器入り低周波用吸音材。
13.上記10に記載の塊状の低周波用吸音材を、金属、木材、竹材、紙、陶器、織布、不織布、編布、プラスチック、セメント、発泡セメント、無機質繊維板、石膏ボード、発泡石膏ボード、発泡プラスチック、ガラス及び剛性ネットから選ばれる素材からなるシート材又は板材、あるいはこれらシート材又は板材に多数の小孔を設けた有孔シート材又は有孔板材から形成される外枠容器内に封入してなる低周波用吸音材。
14.ガラス発泡体表面に光触媒を担持してなる上記1乃至13のいずれかに記載の低周波用吸音材。
15.ガラス発泡体表面に樹脂を塗布してなる上記1乃至13のいずれかに記載の低周波用吸音材。
16.上記1乃至15に記載の低周波用吸音材からなる構造材。
17.450Hz以下の低周波の存在する環境下において、上記1乃至15に記載の低周波用吸音材によって低周波を吸音する方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明のガラス発泡体における吸音効果の発現については、詳細な理由は不明だが、複雑な表面乃至は気泡に入射した音波が伝搬していく過程でこれらの気泡を構成する壁面、特に炭化珪素によって補強された壁面との衝突及び摩擦等によりそのエネルギーが吸収されることによると考えられる。
本発明の低周波吸音材は、450Hz以下、特に400HZ以下の低周波に対して優れた効果があり、しかも複合材料ではなくガラス発泡体単独組成から構成されるので、製造も容易であり、しかも廃ガラスを原料としているので価格も極めて安価である。加えて、ガラス系であるため燃焼や有毒ガス発生の心配がない。
これら低周波吸音材のうち、平板状又はブロック状のものは壁材、天井材、床材等の建材、あるいは各種土木用材料として効果的に利用できる。また、塊状のものは、これに加えて、自動車騒音吸音材、屋内騒音吸音材、工場騒音吸音材、屋上バラス材等としても効果的に利用できる。
更に、該ガラス発泡体に樹脂を塗布して強化したものは、ガラス発泡体の弱点である脆さを克服することができる。また、2酸化チタン等の光触媒を塗布したものは、屋外の排気ガスや屋内のシックハウス症候群の原因であるホルムアルデヒド等の有毒ガスを分解し、無毒化する効果を併せ有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本明細書で使用する用語の意味は以下の通りである。
「実質的に独立気泡から構成されるガラス発泡体」とは、気泡の大部分が閉気孔の独立気泡からなるガラス発泡体を意味し、具体的には、かさ密度が1.6g/cm3以下(より具体的には1.6g/cm3乃至0.1g/cm3)、より好ましくは1.2g/cm3以下(より具体的には1.2g/cm3乃至0.2g/cm3)、吸水率が30%以下、より好ましくは20%以下の独立気泡型ガラス発泡体を意味する。
素材は、好ましくは廃ガラスからなる。より詳しくは、ガラス質廃材を粉砕して得られる0.21mm乃至2.38mmの粒度分布を有する粗粉砕ガラス粉96〜80重量%と0.21mm未満の粒度分布を有する微粉砕ガラス粉4〜20重量%とを配合して成るガラス質配合粉に、該ガラス質配合粉に対して0.1〜3重量%の炭化珪素粉を閉塞壁の補強剤として添加、混合して成る混合粉を700〜980℃の温度で加熱焼成し、次で冷却することによって得られるかさ密度1.6g/cm3以下、好ましくは1.2g/cm3 以下、吸水率30%以下、好ましくは20%以下のガラス発泡体を意味する。
「低周波」とは、ここでは450Hz以下の周波領域、好ましくは400Hz以下、さらに好ましくは350Hz以下の周波数領域を意味する。また「低周波吸音」とは、少なくとも450Hz以下の周波領域において吸音率の最大値(ピーク)を有する現象を意味する。なお、「低周波吸音」とは、当該低周波のみを吸収するだけでなく、併せて450Hzより高い周波数の音波を吸音してもよいことは勿論である。
「閉塞壁」とは、閉塞された個々の独立気泡の壁面、言い換えれば、隣接する気泡とを境界を構成する壁を意味する。閉塞壁の強度が不十分で、これが破壊された場合には、隣接する独立気泡が互いに連通することによって独立気泡の占有率が低下し十分な低周波吸音特性が得らない。
「かさ密度」とは、アルキメデス法にいって測定した密度を意味する。強度を重視するか、軽量性を重視するかによって異なるが、好ましいかさ密度は1.6g/cm以下、更に好ましくは1.2g/cm以下であり、具体的には0.1g/cm乃至1.6g/cm、更に好ましくは0.2g/cm乃至1.2g/cm、更に好ましくは0.2g/cm乃至0.9g/cmある。かさ密度は、発泡倍率即ちガラス発泡体における気泡の占有割合を示す指標であり、この値が高いほど低発泡であって気泡の占める割合が低く、逆にこの値が低いほど高発泡で軽量であることを意味する。かさ密度が1.6g/cm3以上だと発泡倍率が不十分であって好適な低周波吸音特性が得られない。
「吸水率」とは、水中に5分間浸漬した後、乾燥状態での重量をWとし、発泡ガラスを水中に5分保持して取り出した後、表面を湿った布で拭き取ったときの重量をW1としたとき、(W1−W)/W ×100で得られる吸水率である。好ましくは、吸水率は30%以下、更に好ましくは20%以下、具体的には30乃至0.5%、更に好ましくは20乃至0.5%である。吸水率は独立気泡の指標であり、吸水率が小さいほど独立気泡の占める割合が高く、逆にこの値が高いほど連続気泡が多くなるといえる。この値が30%以上だと十分な独立気泡を確保でず、好適な低周波吸音特性が得られない。
「管内法による垂直入射吸音率測定法」とはJISA1405に規定される吸音測定法である。
「独立気泡型発泡体」乃至「独立気泡から構成されるガラス発泡体」とは、「実質的に独立気泡から構成される発泡体」を意味する。「実質的に独立気泡から構成される発泡体」については前記のとおりである。
「粗粉砕ガラス粉」とは、空びんなどのガラス質廃材を粉砕して得られる0.2mm乃至2.4mm、好ましくは0.21mm乃至2.38mmの粒度分布を有する粉砕ガラス粉を意味する。
「微粉砕ガラス粉」とは、同じく空びんなどのガラス質廃材を粉砕して得られる0.21mm未満の粒度分布を有する粉砕ガラス粉を意味する。
「徐冷」とは、焼成後200℃程度まで徐々に冷却することを意味し、好ましくは毎分2℃で200℃以下まで冷却することである。焼成したガラス発泡体を型内で徐冷することによって、平板状乃至ブロック状のガラス発泡体を得ることができる。
「急冷」とは、焼成後、冷風を当てるなどして強制的に冷却することを意味する。焼成したガラス発泡体を急冷することによって、塊状状のガラス発泡体を得ることができる。
「平板状又はブロック状」とは、パネル等を形成するための平板又はブロック状(レンガ状)を意味する。寸法は、使用目的に合わせて適宜決定すればよく、特に限定されるものではなく任意である。しかし、好ましくは、建材として汎用されるパネル板や各種ブロックの規格に合わせるのがよい。
「繊維状又は網状の補強材」とは、木材やコンクリートに比べれば脆弱である発泡ガラスを強化ないし型崩れから保護するためのものである。材質的には、特に制限されるものではないが、例えば、金属繊維、無機鉱物繊維、ガラス繊維等からなる織布や不織布、編布、あるいは網状物(ネット)を挙げることができる。平板状乃至ブロック状のガラス発泡体の表面にこれら補強材を積層することにより、あるいはこれら補強材の両面に平板状乃至ブロック状のガラス発泡体をサンドイッチ状に積層することにより補強することが出来る。
「多孔質吸音板」とは、軟質ウレタンフォーム、発泡コンクリート、発泡石膏ボード等の所謂発泡体からなる板状の吸音材を意味する。ビニルスポンジ、塩化ビニルフォームであってもよい。
「繊維状吸音板」とは、繊維からなる不織布、織布、編布からなる吸音板を意味し、好ましくは間隙率が高く吸音材として汎用されている不織布が好ましい。具体的には、ロックウール、グラスウール、スラグウール、フェルト等を挙げることができる。
「膜状吸音板」は、具体的にはプラスチックフィルム、帆布キャンバス、レザー等である。
「板状吸音板」とは、板状体の振動による内部摩擦によって音を減衰するものであって、具体例としては合板、石膏ボード、ハードボード、木製パネル、プラスチックボード等を挙げることができる。
「穴あき吸音板」とは、上記板状体に多数の穴をあけたものであって、さらに吸音性が向上する。具体的には、穴あき石膏ボード、穴あき合板等であり、他に、穴あき金属板、スリット合板等を挙げることができる。
これら吸音板は、発泡ガラスと全面接着するのではなく点接着をするなどして、発泡ガラス層との間に空気層を設けることによって、その吸音性がさらに向上させることが可能である。
「積層のためのシート材又は板材」としては、金属、木材、竹材、紙、陶器、織布、不織布、編布、プラスチック、発泡プラスチック及びガラス等を挙げることができる。強化、装飾、劣化防止等、それぞれの目的に応じて、適宜材料を選択し使用することが出来る。
「外枠容器」とは、平板状又はブロック状の低周波用吸音材をその中に詰め込んで使用するための、例えば箱状の中空の外枠容器である。外枠容器の形状は、使用形態に合わせて、例えば、パネルとして使用する場合は、パネル状の平板形状にすればよく、また柱状態で使用する場合は、該容器を柱状にすればよい。素材は特に限定されるものではないが、例えば、金属、木材、竹材、紙、陶器、織布、不織布、編布、プラスチック、セメント、発泡セメント、無機質繊維板、石膏ボード、発泡石膏ボード、発泡プラスチック、ガラス及び剛性ネットから選ばれるシート材又は板材、あるいはこれらシート材又は板材に多数の小孔を設けた有孔シート材又は有孔板材を使用することができる。剛性ネットとは、金網等の外力に対して形状保持能力を有するネット(網)を意味する。
外枠容器は、平板状又はブロック状の低周波用吸音材に限らず、塊状の低周波用吸音材を該外枠容器内に充填して使用してもよい。表面材及び/又は裏面材としては、金網;織布、不織布、編布等からなる繊維材;発泡石膏ボード、発泡プラスチック等の発泡材;多数の小孔を設けた有孔シート材又は有孔板材が好適である。
「塊状(体)」乃至「不定形塊状(体)」とは、焼結させた発泡ガラスを、冷風を送るなどして急冷することによって、ガラス成形体にクラックが生じて、自然に崩壊してできる塊状体である。その粒径は、冷却速度等によっても異なるが、その90%以上が2mm乃至100mmの不定型塊状のガラス質発泡体である。徐冷することによって得られる上記平板状又はブロック状のガラス発泡体を粉砕することによって塊状体としてもよい。これら塊状体は、屋上にある程度の厚みをもってバラスとして敷き詰めるなどして、あるいは、パネル形状の外枠容器に充填して、あるいは金網等からなる籠状容器に充填して、またはプラスチックネットや不織布で所定形状に包み込むようにして使用することができる。このとき、塊状ガラス発泡体に加えて他の吸音材、例えば発泡プラスチック塊状体を混合して併用してもよい。なお、パネル形状の外枠容器に充填して使用するに当たっては、該パネルをハニカム構造とし、その間隙に充填すればさらに効果的である。
「天板、底板及び枠板から構成される籠状容器」とは、天板、底板及び枠板から構成される籠状容器を意味する。前記「外枠容器」の少なくとも一部、好ましくは天板と底板の一方あるいは両方に網状素材(金網等)を使用したものである。形状は使用形態に合わせて、例えば、パネルとして使用する場合は、パネル状の平板形状にすればよく、また柱状態で使用する場合は、該容器を柱状にすればよく、またブロック状態で使用する場合は、ブロック状にすればよい。天板及び底板は、好ましくは両者共に金網であるが、場合によっては、底板あるいは天板を枠板同様の剛性材料としてもよい。枠板としては、金属、木材、竹材、陶器、プラスチック、セメント、発泡セメント、無機質繊維板、石膏ボード、発泡石膏ボード、発泡プラスチック、ガラス等の剛性材、又は金網等の剛性ネットを使用することができる。
特に枠材として好適なのは、容器の形状保持及び低周波吸音特性の観点から、金属、木材、竹、陶器、プラスチック、セメント、発泡セメント、無機質繊維板、石膏ボード、発泡石膏ボード、発泡プラスチック、ガラス等の剛性材である。さらに好適には、金属、木材、発泡プラスチックである。
「光触媒」とは、代表的には2酸化チタンであり、このような光触媒をその表面に有する低周波発泡ガラス吸音材は、外気に接触する状態で使用するとき、吸音効果のみならず、新築家屋などにおけるシックハウス症候群の原因となるホルムアルデヒド等の害から身を守る効果が期待できる。また、「樹脂」とは、ガラス発泡体の表面に塗布する樹脂を意味する。ガラス発泡体は、脆弱であることから、外部から力が加わることにより崩壊しやすい。ガラス発泡体の表面に皮膜形成能を有する樹脂を塗布して、塗膜を形成することによってこのような崩壊を防止できる。樹脂は、塗膜形成を有すれば特に制限はない。具体的には、ペイントとして使用されるプラスチックを使用することが出来る。このとき樹脂に着色剤を加えてもよい。
「構造材」とは、所謂建材、土木資材を意味する。
【0025】
独立気泡型発泡ガラス及びその製造
本発明の独立気泡型発泡ガラスからなる低周波吸音材は、特に制限されるわけではないが、例えば特許第3581008号に記載される方法に従って製造することができる。
また、空びんから製造した軽石状の独立気泡型ガラス発泡体も市販されているので、これら独立気泡型発泡ガラスは市場からも容易に入手することができる。
【0026】
粉砕ガラスの準備
原料は、ガラス材であれば特に制限はないが、リサイクル効果等の観点からすると、好適には廃ガラスである。これらガラス材は、製品的にも組成的にも特に制限はない。廃ガラスの製品例としては、例えば、ガラスびん、板ガラス、窓ガラス、テレビやパソコンの前面ガラスパネル、ガラス製品工場からのスクラップ等を挙げることができる。また、これらガラス廃材の成分は、珪酸塩ガラス、アルミノほうけい酸ガラス、ほうけい酸塩ガラス、アルミノ珪酸塩ガラス等であるが、如何なる成分、如何なる成分比率であってもよい。原料の入手の容易性、回収の容易性の観点からすると、ガラスびん、板ガラス、窓ガラスの廃材は、比較的多量に回収ができるので、大量に生産でき有利である。
これら廃ガラスの粉砕から、焼成、成形に至る製造工程は、基本的には、例えば特許第3581008号公報に記載の方法に準じて行なえばよい。以下、特に、かさ密度1.2g/cm以下、吸水率20%以下のガラス発泡体の製造方法について詳述する。
【0027】
粉砕
ガラス廃材をハンマーミルなどの衝撃型破砕機を用いて粉砕する。その粉砕物を篩分けして、0.21mm乃至2.38mmの粒度を有する粗粉砕ガラス粉と粒度が0.21mm未満の微粉ガラス粉の重量比が、96:4乃至80:20となるように調製する。
粗粉砕ガラス粉の粒度が2.38mmを超える粗粒は再び粉砕して使用すればよい。
粗粉砕ガラス粉のみでも、あるいは微粉砕ガラス粉のみでも、目的とする良好な低周波吸収性ガラス発泡体得られない。上記のような特定な粒度の粗粉砕ガラス粉と微粉砕ガラス粉を特定の配合割合で混在せしめることにより独立気泡の生成が早期に且つ確実に得られ、目的とする良好な低周波吸収性ガラス発泡体得られる。
【0028】
焼成
前記のように配合したガラス質混合粉に対して0.1〜3重量%の炭化珪素粉を添加、混合し、これをガラスの軟化点以上に、焼成温度500℃以上に加熱、昇温し、少なくとも700℃以上で焼成昇温し、冷却して固化することにより、ガラス質壁で覆われた大きな独立気泡を無数に有するかさ密度1.2g/cm以下、吸水率20%以下の目的とするガラス質発泡体が得られる。
炭化珪素粉は、単なる酸素反応型発泡剤としてだけでなく、閉塞壁(気泡内壁)の補強剤として効果を発揮するものであり、独立気泡を構成する閉塞壁(気泡内壁)がガスの膨脹により破裂して連続気孔となることを防止し、気泡をより大きく成長させるために有益である。
更に、このとき、熱分解性の発泡剤として0.05〜2重量%の炭酸塩粉の少なくとも1種を添加、混合することによって、よりかさ高(かさ密度1g/cm以下)な、極めて軽量な発泡ガラス成形品を得ることができる。
かさ密度及び吸水率は、粗粉砕ガラス粉と微粉ガラス粉の配合比を調整することにより、また、炭化珪素粉及び熱分解性の発泡剤として炭酸塩(例えば、CaCO、MgCO)の添加量を調整することにより達成される。一般的傾向としては、発泡倍率を上げた場合、かさ密度は減少し、吸水率も高くなる。
【0029】
成形
上記冷却工程において、所定の成形型枠に入れ加熱焼成した後徐冷すれば、成形型枠に対応した形状、例えばレンガ状、平板パネル状、柱状の成形品とすることができる。一方、このとき冷風を当てるなどして急冷するならば、成形体に亀裂を生じ、これが自然に壊れて粒径2〜75mmの不定型塊状の不定形の塊状製品を得ることができる。
よって、レンガ状、板状、柱状等の所定の形状をもった成形品を所望のときは、例えば、所定の高温保持時間後、約200℃まで徐々に冷却すればよい。また、不定形の塊状を所望のときは急冷すればよいし、あるいは、レンガ状、平板パネル状を破砕することによって製造してもよい。
【0030】
加工
本発明の低周波吸収材は、使用目的に応じて様々に加工することが可能である。
例えば、表面を酸化チタン等の光触媒を常法乃至公知の方法に従ってコーティングしたガラス発泡体は、その強い酸化力により車の排気ガス等の空気浄化、シックハウス症候群の原因物質の分解浄化、水浄化、抗菌等の効果を期待することができる。
また、常法乃至公知の方法に従って樹脂の皮膜で被覆することにより、ガラス発泡体の弱点である脆弱性を改善することができる。樹脂皮膜は、普通のペイントであってもよい。
また、脆弱性を改善することを目的として、その表面又は内部を常法乃至公知の方法に従って繊維状又は網状の補強材で補強してもよい。補強材の材質は、特に制限されるものではないが、例えば、金属繊維、無機鉱物繊維、ガラス繊維等からなる織布や不織布、編布、あるいは網状物(ネット)を挙げることができる。
また、吸音効果をより一層高めるために、その少なくとも片面に、多孔質吸音板、繊維状吸音板、膜状又は板状吸音板、及び穴あき吸音板から選ばれる吸音板を常法乃至公知の方法に従って積層してもよい。多孔質吸音板としては、例えば、軟質ウレタンフォーム、発泡コンクリート、ビニルスポンジ、塩化ビニルフォー、発泡石膏ボード等の所謂発泡体を挙げることができる。繊維状吸音板としては、例えば、繊維からなる不織布、織布、編布、具体的には、ロックウール、グラスウール、スラグウール、フェルト等を挙げることができる。
膜状吸音板としては、例えば、プラスチックフィルム、帆布キャンバス、レザー等を上げることができる。板状吸音板としては、例えば、合板、石膏ボード、ハードボード、木製パネル、プラスチックボード等を挙げることができる。穴あき吸音板としては、例えば、穴あき石膏ボード、穴あき合板等であり、他に、穴あき金属板、スリット合板等を挙げることができる。
これら吸音板は、発泡ガラスと全面接着するのではなく点接着をするなどして、発泡ガラス層との間に空気層を設けることによって、その吸音性がさらに向上させることが可能である。
また、装飾、補強、更なる遮音効果の向上等を望む場合は、これら平板状又はブロック状の低周波用吸音材の少なくとも片面に、金属、木材、竹材、紙、陶器、織布、不織布、編布、プラスチック、発泡プラスチック及びガラスから選ばれる素材からなるシート材又は板材を積層してもよい。両面に積層する場合は、同一の素材からなるシート材又は板材を、あるいは目的に応じて異なる素材を積層してもよい。これらシート材又は板材は、必要により多数の小孔を設けてもよいし、また、低周波用吸音材が平板状又はブロック状である場合は、パネル板等の建材乃至構造材としての外形を保持するための外枠容器にこれら平板状又はブロック状の低周波用吸音材を封入して使用することもできる。パネルとして使用する場合は、外枠容器の形状は箱状である。箱状の外枠容器内に平板状又はブロック状の低周波用吸音材を封入して、通常のパネルと同様にして使用することができる。
低周波用吸音材が不定形塊状体である場合の使用形態は大きく分けて2つである。1つは、不定形塊状体をそのまま、屋上等にある程度の厚みをもってバラスとして敷き詰めるなどして使用する方法である。いま1つの方法は、上記のごときパネル形状の外枠容器、あるいは金網等からなる籠状容器内に充填して、またはプラスチックネットや不織布で所定形状に包み込むようにして使用することができる。なお、パネル形状の外枠容器に充填して使用するに当たって、該パネルをハニカム構造とし、その間隙に充填すればさらに効果的である。
籠状容器は、天板、底板及び枠板から構成されるものである。枠板としては、金属、木材、竹、陶器、プラスチック、セメント、発泡セメント、無機質繊維板、石膏ボード、発泡石膏ボード、発泡プラスチック、ガラス等の剛性材、又は金網等の剛性ネットを使用することができる。天板及び底板は、好ましくは両者共に金網等の剛性ネットであるが、場合によっては、底板または天板の一方を枠板同様の剛性材料としてもよい。
特に興味があるのは、枠材が金属、木材、竹、陶器、プラスチック、セメント、発泡セメント、無機質繊維板、石膏ボード、発泡石膏ボード、発泡プラスチック、ガラス等の剛性材である場合である。後述の実施例から明らかなとおり、枠材をこれら剛性材とすることによって、天板、底板及び枠材の全てが金網等の剛性ネットである場合に比べて、形状保持性が向上するばかりでなく、450Hz以下の低周波領域における最大吸音ピーク(最高吸音率を示すピーク)をより低周波側にシフトさせること、言い換えればより低周波の吸音特性を格段に向上させることができる。理由は、不明であるが、この事実は予測し難い驚くべき現象であった。
これらガラス発泡体からなる低周波用吸音材は、パネル状、ブロック状あるいは塊状形態で使用することができ、また、軽量且つその断熱効果、さらに不燃性が高いことから低周波吸音性の構造材等として極めて有益である。
具体的には、その軽量性、保温性、吸水性、撥水性、不燃性等の性質を利用して、低周波吸音特性を有する外壁材、床材、天井材、屋上バラス、不燃ドアー、自動車用吸音材、工場騒音吸音材、屋内騒音吸音材、道路・鉄道軌道・トンネル等の防音壁、各種保温・保冷材、緑化資材等として幅広く利用することができる。
【実施例1】
【0031】
粗粉砕ガラス粉と微粉砕ガラス粉とを配合して成るガラス質配合粉に少量の炭化珪素粉を閉塞壁の補強剤として添加、混合してなる混合粉を700〜980℃の温度で加熱焼成し、次で冷却することによって得られたブロック状ガラス発泡体を得た。該ガラス発泡体は、実質的に独立気泡から構成され、かさ密度は0.35g/cm、吸水率は11%であった。このようにして得られたブロック状ガラス発泡体より直径97mm、厚さ38mmの円筒状試料を切り出して、管内法による垂直入射吸音率測定法(JISA1405)に従って吸音率を測定した。〔空気層厚み50mmで測定〕
結果
周波数300Hzにおいて吸音率は最大値を示し、その時の吸音率は1.0であった。従来は独立気泡のガラス発泡体は吸音効果がないとされていたが、驚くべきことに、300Hzの完全な低周波領域において吸音率が1.0であった。
【実施例2】
【0032】
実施例1で用いたガラス発泡体のシートを粉砕して得た10mm〜70mmの不定形塊状試料を、天板、底板及び枠板部分の全てが金網からなる直径97mm、幅(円柱幅)38mmの円筒型籠状容器の中に密に充填して、管内法による垂直入射吸音率測定法(JISA1405)に従って吸音率を測定した。〔空気層厚み50mmで測定〕
結果
周波数430Hzで吸音率は最大値を示した。このように、塊状体の場合であっても、やはり430Hzという低周波領域で吸音特性を示した。
【実施例3】
【0033】
実施例2で用いたものと同様のガラス発泡体の不定形塊状試料を各種の枠板材料から構成される円筒型の籠状容器(下記(1)〜(3))に充填して、管内法による垂直入射吸音率測定法(JISA1405)に従って吸音率を測定した。いずれも空気層厚み50mmで測定した。
結果は以下のとおりであった。
【0034】
(1)枠板を発泡ポリスチレンとした円筒型籠状容器を用いた試験;
外径97mm、内径68mm、幅59mmの円筒状の発泡ポリスチレンを枠板とし、金網を底板及び天板とする籠状容器を用いた他は、実施例2と同様である。不定形塊状試料の充填量は42gであった。
周波数320Hzにおいて吸音率は最大値を示し、その時の吸音率は0.8であった。
(2)枠板を木材とした円筒型籠状容器を用いた試験;
外径90mm、内径50mm、幅50mmの円筒状の杉材を枠板とし、金網を底板及び天板とする籠状容器を用いた他は、実施例2と同様である。不定形塊状試料の充填量は15gであった。
周波数270Hzにおいて吸音率は最大値を示し、その時の吸音率は1.0であった。
(3)枠板を金属とした円筒型籠状容器を用いた試験;
外径85mm、内径83mm、幅52mmの円筒状の鉄材を枠板とし、金網を底板及び天板とする籠状容器を用いた他は、実施例2と同様である。不定形塊状試料の充填量は45gであった。〔空気層厚み50mmで測定〕
周波数260Hzにおいて吸音率は最大値を示し、その時の吸音率は1.0であった。
結果
理由は明らかではないが、天板、底板及び枠板の全面が金網からなる円筒状籠状容器に不定形塊状体を充填した場合(実施例2)はその最大吸音率を示す周波数が430Hzであったのに対し、天板及び底板はそのままとして、枠板として発泡ポリスチレンを採用した場合にはそのピークが320Hzに、同枠板を木材とした場合には270Hzに、また、同枠板を金属とした場合には更に260Hzまでその吸音ピークが低周波側に移行し、更に低周波側の吸音が可能となった。
したがって、この事実は、本発明の実質的に独立気泡から構成されるガラス発泡体からなる低周波用吸音材は、それ自体、低周波用吸音材として有効であることは勿論であるが、さらに木材、発泡ポリスチレンあるいは金属と組合すことにより、300Hzレベルは勿論のこと、200Hzあるいは100Hzレベルのより低周波領域の吸音が可能となることを教えるものである。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の低周波用吸音材は、例えば、平板状又はブロック状のものは壁材、天井材、床材等の建材、あるいは各種土木用材料として効果的に利用でき、また、塊状のものは、これに加えて自動車騒音吸音材、屋内騒音吸音材、工場騒音吸音材、屋上バラス材、緑化資材等としても効果的に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
かさ密度が1.6g/cm以下、吸水率が30%以下の独立気泡型ガラス発泡体からなる低周波用吸音材。
【請求項2】
独立気泡型ガラス発泡体が炭化珪素粉を配合したガラス粉を焼結することによって得られるガラス発泡体であって、独立気泡の閉塞壁が該炭化珪素によって補強されている請求項1に記載の低周波用吸音材。
【請求項3】
粗粉砕ガラス粉と微粉砕ガラス粉とを配合してなるガラス質配合粉に炭化珪素粉を閉塞壁の補強剤として添加、混合してなる混合粉を700℃乃至980℃の温度で加熱焼成し、次で冷却、固化することによって得られる請求項2に記載の低周波用吸音材。
【請求項4】
管内法による垂直入射吸音率測定法(JIS A 1405)によって測定した吸音率のパターンが450Hz以下の周波数領域で最大値を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の低周波用吸音材。
【請求項5】
吸音材が平板状又はブロック状である請求項1乃至4のいずれかに記載の低周波用吸音材。
【請求項6】
平板状又はブロック状の低周波用吸音材であって、その表面又は内部に繊維状又は網状の補強材を有する請求項5に記載の低周波用吸音材。
【請求項7】
平板状又はブロック状の低周波用吸音材であって、その少なくとも片面に、多孔質吸音板、繊維状吸音板、膜状又は板状吸音板、及び穴あき吸音板から選ばれる吸音板を積層してなる請求項5又は6に記載の低周波用吸音材。
【請求項8】
平板状又はブロック状の低周波用吸音材の少なくとも1面に、金属、木材、竹材、紙、陶器、織布、不織布、編布、プラスチック、発泡プラスチック及びガラスから選ばれる素材からなるシート材又は板材を積層してなる請求項5乃至7のいずれかに記載の低周波用吸音材。
【請求項9】
請求項5乃至8のいずれかに記載の平板状又はブロック状の低周波用吸音材を、金属、木材、竹材、紙、陶器、織布、不織布、編布、プラスチック、セメント、発泡セメント、無機質繊維板、石膏ボード、発泡石膏ボード、発泡プラスチック、ガラス及び剛性ネットから選ばれる素材からなるシート材又は板材、あるいはこれらシート材又は板材に多数の小孔を設けた有孔シート材又は有孔板材から形成される外枠容器内に封入してなる低周波用吸音材。
【請求項10】
吸音材が塊状である請求項1乃至4のいずれかに記載の低周波用吸音材。
【請求項11】
天板、底板及び枠板から構成され、かつ、該天板と底板の一方あるいは両方が剛性ネットである籠状容器内に請求項10に記載の塊状低周波用吸音材を充填してなる籠状容器入り低周波用吸音材。
【請求項12】
枠板が、金属、木材、竹材、陶器、プラスチック、セメント、発泡セメント、無機質繊維板、石膏ボード、発泡石膏ボード、発泡プラスチック、ガラス、又は剛性ネットからなる籠状容器に請求項10に記載の塊状低周波用吸音材を充填してなる請求項11に記載の籠状容器入り低周波用吸音材。
【請求項13】
請求項10に記載の塊状の低周波用吸音材を、金属、木材、竹材、紙、陶器、織布、不織布、編布、プラスチック、セメント、発泡セメント、無機質繊維板、石膏ボード、発泡石膏ボード、発泡プラスチック、ガラス及び剛性ネットから選ばれる素材からなるシート材又は板材、あるいはこれらシート材又は板材に多数の小孔を設けた有孔シート材又は有孔板材から形成される外枠容器内に封入してなる低周波用吸音材。
【請求項14】
ガラス発泡体表面に光触媒を担持してなる請求項1乃至13のいずれかに記載の低周波用吸音材。
【請求項15】
ガラス発泡体表面に樹脂を塗布してなる請求項1乃至13のいずれかに記載の低周波用吸音材。
【請求項16】
請求項1乃至15に記載の低周波用吸音材からなる構造材。
【請求項17】
450Hz以下の低周波の存在する環境下において、請求項1乃至15に記載の低周波用吸音材によって低周波を吸音する方法。

【公開番号】特開2007−133268(P2007−133268A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−328143(P2005−328143)
【出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(505420806)株式会社 アオバ・オーガニクス (2)
【出願人】(593025619)トーホー工業株式会社 (19)
【Fターム(参考)】