説明

環状アセチレン化合物およびその合成方法

【課題】 任意の原子を任意の数で含有する環状アセチレン化合物の合成、特にゲルマニウムを含有する環状アセチレン化合物ゲルマペリサイクリンの合成を実現すること。
【解決手段】 本発明に係る環状アセチレン化合物の合成方法は、少なくとも、非環状アセチレン化合物を生成させる工程を包含していればよいといえる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アセチレンと炭素以外の原子とが交互につながった多角形の環構造を有する環状アセチレン化合物およびその合成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、アセチレンを含有する有機化合物は、機能性有機材料として広く研究されている。特に、炭素とアセチレンが交互に配列した環状アセチレン化合物(すなわち、炭素−炭素三重結合が別の炭素と交互に配列した環状化合物)は、ペリサイクリンと名付けられ、分子または金属イオンを環内部に包接する能力を有し、包接化合物として期待されている。
【0003】
また、アセチレンと結合する上記炭素原子がケイ素原子またはリン原子に置換された化合物が報告されている。これらは、その形状およびアセチレンと連結する原子の種類に基づく命名が提唱されている。例えば、六角形型のケイ素を含有する化合物は、シラ[6]ペリサイクリンと命名されている。近年までに、ペリサイクリン化合物として、炭素含有環状アセチレン化合物であるペリサイクリン(例えば、非特許文献1参照)、ケイ素含有環状アセチレン化合物であるシラペリサイクリン(例えば、非特許文献2および3参照)、リン含有環状アセチレン化合物であるホスファペリサイクリン(例えば、非特許文献4参照)、あるいはケイ素およびリンの2種類の原子でアセチレンがつながれたミックスペリサイクリン(例えば、非特許文献5参照)が報告されている。
【0004】
デカメチル[5]ペリサイクリンは、Co2(CO)8と反応してモノ−Co2(CO)6錯体およびビス−Co2(CO)6錯体を生じ、このビス−Co2(CO)6錯体は、高い化学選択性を有する。ドデカメチル[6]ペリサイクリンは、同様の化学的性質を有する。また、シラ[6]ペリサイクリンは、椅子型およびボート型の立体配座で結晶化される。このように種々のペリサイクリン化合物が、その特異な構造および物性に基づいて研究されている。
【非特許文献1】L. T. Scott et al., J. Am. Chem. Soc. (1985) 107: 6546-6555
【非特許文献2】E. Hengge und A. Baumegger, J. Organometallic Chemistry (1989) 369:C39-C42
【非特許文献3】M. Unno et al., Chemistry Letters (1999) 1235-1236
【非特許文献4】G. Maerkl et al., Chem. Eur. J. (2000) 6: 3806-3820
【非特許文献5】R. Shiozawa and K. Sakamoto, Chemistry Letters (2003) 32: 1024-1025
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記環状アセチレン化合物の従来の合成方法では、所望の原子を任意の数で含有する環状アセチレン化合物を合成することができないという問題を生じる。
【0006】
具体的には、上記非特許文献1の開示する環状アセチレン化合物の合成方法を用いると、所望数の炭素原子を含有する非環状アセチレン化合物を生成した後に閉環させて、所望数の炭素原子を有する環状アセチレン化合物を合成することができる。しかし、この合成方法は、炭素原子以外の原子を含有する環状アセチレン化合物を合成する際に適用することができない。また、上記特許文献2〜4の開示する炭素原子含有環状アセチレン化合物の合成方法を用いると、熱力学的に安定な形状の環状アセチレン化合物のみを極微量しか得ることができないので、このような合成方法は有用性に乏しい。さらに、上記特許文献2〜4の開示する炭素原子含有環状アセチレン化合物の合成方法を用いると、同時に異なる環状アセチレン化合物が合成されてしまうので、各々を分離するための高価な設備および煩雑な操作を必要とする。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、所望の原子を任意の数で含有する環状アセチレン化合物の合成、特に、ゲルマニウムを含有する新規環状アセチレン化合物(ゲルマペリサイクリン)の合成を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、上記目的を達成すべく、環状アセチレン化合物について鋭意検討した。その結果、段階的に非環状アセチレン化合物を合成した後に閉環して環状アセチレン化合物を構築し得ることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の環状アセチレン化合物は、上記の課題を解決するために、式(−R2XC≡C−)n(ここで、Rは、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基(ここで、当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されてもよいアルキル基)、またはアリール基であり、Xは、Si、P、またはGeである)で表されることを特徴としている。
【0010】
好ましくは、本発明の環状アセチレン化合物は、上記XがGeであることを特徴としている。
【0011】
さらに好ましくは、本発明の環状アセチレン化合物は、以下の構造式:
【0012】
【化2】

【0013】
(ここで、Rは、n−Bu、Phまたはi−Prである)
からなる群より選択されることを特徴としている。
【0014】
即ち、本発明の環状アセチレン化合物の合成方法は、上記の課題を解決するために、A)R2X(C≡CH)2を1当量の有機マグネシウム化合物および0.5当量のR2XCl2と反応させて非環状アセチレン化合物を生成する工程と、B)上記非環状アセチレン化合物を、2当量の有機リチウム化合物および1当量のR2XCl2と反応させて閉環する工程、とを包含する(ここで、Rは、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基(ここで、当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されてもよいアルキル基)、またはアリール基であり、Xは、Si、P、またはGeである)ことを特徴としている。
【0015】
即ち、本発明の環状アセチレン化合物の合成方法は、上記の課題を解決するために、A)R2X(C≡CH)2を1当量の有機マグネシウム化合物および0.5当量のR2XCl2と反応させて非環状アセチレン化合物を生成する工程と、B)上記非環状アセチレン化合物を、2当量の有機リチウム化合物および1当量のClR2XC≡CXR2Clと反応させて閉環する工程、とを包含する(ここで、Rは、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基(ここで、当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されてもよいアルキル基)、またはアリール基であり、Xは、Si、P、またはGeである)ことを特徴としている。
【0016】
即ち、本発明の環状アセチレン化合物の合成方法は、上記の課題を解決するために、R2XCl2を、NaOEtおよびHC≡CMgBrと反応させてR2X(OEt)(C≡CMgBr)を生成する工程、R2X(C≡CH)2を、有機マグネシウム化合物および上記R2X(OEt)(C≡CMgBr)と反応させて非環状アセチレン化合物を生成する工程、ならびに、上記非環状アセチレン化合物を、有機マグネシウム化合物およびR2XCl2と反応させて閉環する工程を包含することを特徴としている(ここで、当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されてもよいアルキル基)、またはアリール基であり、Xは、Si、P、またはGeである)。
【0017】
即ち、本発明の環状アセチレン化合物の合成方法は、上記の課題を解決するために、R2XCl2を、NaOEtおよびHC≡CMgBrと反応させてR2X(OEt)(C≡CMgBr)を生成する工程、R2X(C≡CH)2を、有機マグネシウム化合物および上記R2X(OEt)(C≡CMgBr)と反応させて非環状アセチレン化合物を生成する工程、上記非環状アセチレン化合物を、さらに有機マグネシウム化合物および上記R2X(OEt)(C≡CMgBr)と反応させてさらなる非環状アセチレン化合物を生成する工程、ならびに、上記さらなる非環状アセチレン化合物を、有機マグネシウム化合物およびR2XCl2と反応させて閉環する工程を包含することを特徴としている(ここで、Rは、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基(ここで、当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されてもよいアルキル基)、またはアリール基であり、Xは、Si、P、またはGeである)。
【0018】
即ち、本発明の環状アセチレン化合物の合成方法は、上記の課題を解決するために、R2XCl2を、NaOEtおよびHC≡CMgBrと反応させてR2X(OEt)(C≡CH)を生成する工程、上記R2X(OEt)(C≡CH)を、BrMgC≡CMgBrと反応させて非環状アセチレン化合物を生成する工程、ならびに、上記非環状アセチレン化合物を、有機マグネシウム化合物およびR2XCl2と反応させて閉環する工程を包含することを特徴としている(ここで、Rは、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基(ここで、当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されてもよいアルキル基)、またはアリール基であり、Xは、Si、P、またはGeである)。
【0019】
即ち、本発明の環状アセチレン化合物の合成方法は、上記の課題を解決するために、R2XCl2を、NaOEtおよびHC≡CMgBrと反応させてR2X(OEt)(C≡CH)を生成する工程、R2X(OEt)(C≡CMgBr)を、BrMgC≡CMgBrと反応させて非環状アセチレン化合物を生成する工程、上記非環状アセチレン化合物を、有機マグネシウム化合物およびR2X(OEt)(C≡CH)と反応させてさらなる非環状アセチレン化合物を生成する工程、ならびに、上記さらなる非環状アセチレン化合物を、有機マグネシウム化合物およびR2XCl2と反応させて閉環する工程を包含することを特徴としている(ここで、Rは、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基(ここで、当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されてもよいアルキル基)、またはアリール基であり、Xは、Si、P、またはGeである)。
【0020】
好ましくは、本発明の環状アセチレン化合物の合成方法は、上記有機マグネシウム化合物がEtMgBrであることを特徴としている。
【0021】
好ましくは、本発明の環状アセチレン化合物の合成方法は、上記有機リチウム化合物がBuLiであることを特徴としている。
【0022】
好ましくは、本発明の環状アセチレン化合物の合成方法は、上記XがGeであることを特徴としている。
【0023】
即ち、本発明の環状アセチレン化合物の合成方法は、上記の課題を解決するために、R2X(C≡CH)2を2当量の有機リチウム化合物および1当量のR2XCl2と反応させる工程を包含する(ここで、Rは、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基(ここで、当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されてもよいアルキル基)、またはアリール基であり、Xは、Si、P、またはGeである)ことを特徴としている。
【0024】
即ち、本発明の環状アセチレン化合物の合成方法は、上記の課題を解決するために、アセチレンを2当量の有機リチウム化合物および1当量のR2XCl2と反応させる工程を包含する(ここで、Rは、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基(ここで、当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されてもよいアルキル基)、またはアリール基であり、Xは、Si、P、またはGeである)ことを特徴としている。
【0025】
好ましくは、本発明の環状アセチレン化合物は、上記方法によって合成することを特徴としている。
【0026】
本発明のさらに他の目的、特徴、および優れた点は、以下に示す記載によって十分わかるであろう。また、本発明の利益は、添付図面を参照した次の説明で明白になるであろう。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る環状アセチレン化合物の合成方法は、以上のように、任意の長さの非環状化合物を生成する工程を包含するので、任意の形状およびサイズの環状アセチレン化合物を合成することができるという効果を奏する。従って、本発明に従えば、従来得ることができなかった熱力学的に不安定なペリサイクリンを合成することができる。また、反応によって複数種のペリサイクリンを生じることがないので、合成のための工程数を低減できるとともに、分離または精製のための器具または設備を必要せずに、ペリサイクリンを安価に合成することができる。
【0028】
また、本発明に係る環状アセチレン化合物の合成方法において、各反応工程において用いる試薬を適宜選択すれば、ペリサイクリン中に任意の置換基を導入することができる。さらに、このような任意の形状およびサイズの環状アセチレン化合物は、ナノ制御された固体表面修飾および/または包接化合物等の新規機能性材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、所望の原子を任意の数で含有する環状アセチレン化合物の合成、特に、ゲルマニウムを含有する新規環状アセチレン化合物(ゲルマペリサイクリン)の合成を実現することにある。
【0030】
本願発明者らは、所望の原子を任意の数で含有する環状アセチレン化合物の合成、特に、ゲルマニウムを含有する新規環状アセチレン化合物(ゲルマペリサイクリン)の合成を実現するために、環状アセチレン化合物について鋭意検討した。その結果、段階的に非環状アセチレン化合物を合成した後に閉環して環状アセチレン化合物を構築し得ることを見い出し、本発明を完成するに至った。さらに、本発明者らは、新規環状アセチレン化合物(ゲルマペリサイクリン)が、公知の環状アセチレン化合物(例えば、シラペリサイクリンなど)からは予想することができなかった新規物性を見出し、本発明を完成するに至った。
【0031】
本発明は、式(−R2XC≡C−)nで表される環状アセチレン化合物を提供する。好ましくは、Rは、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基(ここで、当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されてもよいアルキル基)、またはアリール基であり、Xは、Si、P、またはGeであり、より好ましくは、Rはn−Bu、Phまたはi−Prであり、XはGeである。好ましくは、nは3以上の整数である。好ましくは、本実施形態の環状アセチレン化合物は、上記XがGeである。さらに好ましくは、本実施形態の環状アセチレン化合物は、以下の構造式:
【0032】
【化3】

【0033】
(ここで、Rは、n−Bu、Phまたはi−Prである)
からなる群より選択される。
【0034】
上述した環状アセチレン化合物は、以下に記載する環状アセチレン化合物の合成方法を用いることによって合成することができる。
【0035】
本発明に係る環状アセチレン化合物の中で、ゲルマニウム原子を含有するゲルマペリサイクリンは、従来のペリサイクリン化合物とは異なる性質を有する。同類の炭素またはケイ素を含有するペリサイクリンよりも大きい環構造を含有するため、環内部への分子や金属イオンの包接能が広がり、その包接錯体も安定化される。また、固体表面の修飾に本発明のペリサイクリンを鋳型として使用することができる。
【0036】
また、本発明に係る環状アセチレン化合物の1つであるゲルマペリサイクリンは、加熱することによって、セラミクス状物質を形成する。このような性質は、他のペリサイクリンでは報告されていない(例えば、シラペリサイクリンは、加熱によって融解する)。従って、本発明に係る新規環状アセチレン化合物(ゲルマペリサイクリン)は、従来の環状アセチレン同様に包接化合物として機能する以外に、セラミクス材料として多分野にわたって利用することができる。
【0037】
本発明に係る環状アセチレン化合物の合成方法の一実施形態について、図1に基づいて説明すると以下の通りである。
【0038】
図1は、ゲルマニウムを偶数個含有する環状アセチレン化合物の一段階合成方法を示す。本実施形態の合成方法は、R2X(C≡CH)2を2当量の有機リチウム化合物および1当量のR2XCl2と反応させる工程を包含することを特徴としている。好ましくは、Rは、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基(ここで、当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されてもよいアルキル基)、またはアリール基であり、Xは、Si、P、またはGeであり、より好ましくは、Rはn−Bu、Phまたはi−Prであり、XはGeである。
【0039】
具体的には、本実施形態の合成方法は、GeCl4からR2GeCl2を生成する工程;アセチレンを1当量のEtMgBrと反応させてHC≡CMgBrを生成する工程;上記R2GeCl2を2当量のHC≡CMgBrと反応させてR2Ge(C≡CH)2を生成する工程;上記R2Ge(C≡CH)2を2当量のBuLiと反応させてR2Ge(C≡CLi)2を生成する工程;および上記R2Ge(C≡CLi)2をさらにR2GeCl2と反応させる工程、を包含する。
【0040】
より具体的には、GeCl4からR2GeCl2(ここで、Rは、n−Bu基、Ph基またはi−Pr基である)を生成した後、2当量のHC≡CMgBr(アセチレンを1当量のEtMgBrと反応させて生成した)と反応させてR2Ge(C≡CH)2を誘導する。R2Ge(C≡CH)2を2当量のBuLiと反応させてR2Ge(C≡CLi)2を生成した後、1当量のR2GeCl2を添加して、目的のゲルマ[4]ペリサイクリンとゲルマ[6]ペリサイクリンとの混合物を得ることができる。ゲル浸透クロマトグラフィーによって分離した後に再結晶して、ゲルマ[4]ペリサイクリンおよびゲルマ[6]ペリサイクリン
【0041】
【化4】

【0042】
(ここで、Rは、n−Bu、Phまたはi−Prである)
を単離することができる。
【0043】
本発明に係る環状アセチレン化合物の合成方法の他の実施形態について、図2に基づいて説明すると以下の通りである。
【0044】
図2は、ゲルマニウムを奇数個含有する環状アセチレン化合物の一段階合成方法を示す。本実施形態の合成方法は、アセチレンを2当量の有機リチウム化合物および1当量のR2XCl2と反応させる工程を包含することを特徴としている。好ましくは、Rは、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基(ここで、当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されてもよいアルキル基)、またはアリール基であり、Xは、Si、P、またはGeであり、より好ましくは、Rはn−Bu、Phまたはi−Prであり、XはGeである。
【0045】
具体的には、本実施形態の合成方法は、A)GeCl4からR2GeCl2を生成する工程;B)アセチレンを2当量のBuLiと反応させてLiC≡CLiを生成する工程;およびC)上記R2GeCl2を1当量のLiC≡CLiと反応させる工程、を包含する。
【0046】
より具体的には、GeCl4からR2GeCl2(ここで、Rは、n−Bu基またはPh基である)を生成した後、1当量のLiC≡CLi(アセチレンを2当量のBuLiと反応させて生成した)と反応させ、次いで、1当量のR2GeCl2を加えることによって、目的のゲルマ[5]ペリサイクリンとゲルマ[6]ペリサイクリンとの混合物を得ることができる。ゲル浸透クロマトグラフィーによって分離した後に再結晶して、ゲルマ[5]ペリサイクリンおよびゲルマ[6]ペリサイクリン
【0047】
【化5】

【0048】
(ここで、Rは、n−Bu、Phまたはi−Prである)
を単離することができる。
【0049】
本発明に係る環状アセチレン化合物の合成方法の好ましい実施形態について、図3に基づいて説明すると以下の通りである。
【0050】
図3は、ゲルマニウムとアセチレンとの結合を伸長させて非環状アセチレン化合物を生成した後に閉環反応を行なうゲルマニウム含有環状アセチレン化合物の合成方法を示す。本実施形態の合成方法は、A)R2X(C≡CH)2を1当量の有機マグネシウム化合物および1当量のR2XCl2と反応させて非環状アセチレン化合物を生成する工程と、B)上記非環状アセチレン化合物を、2当量の有機リチウム化合物および1当量のR2XCl2と反応させて閉環する工程、とを包含することを特徴としている。好ましくは、Rは、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基(ここで、当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されてもよいアルキル基)、またはアリール基であり、Xは、Si、P、またはGeであり、より好ましくは、Rはn−Bu、Phまたはi−Prであり、XはGeである。
【0051】
具体的には、本実施形態の合成方法は、GeCl4からR2GeCl2を生成する工程;アセチレンを1当量のEtMgBrと反応させてHC≡CMgBrを生成する工程;上記R2GeCl2を2当量のHC≡CMgBrと反応させてR2Ge(C≡CH)2を生成する工程;上記R2Ge(C≡CH)2を1当量のEtMgBrと反応させてR2Ge(C≡CH)(C≡CMgBr)を生成する工程;上記R2Ge(C≡CH)(C≡CMgBr)をさらに1当量のR2GeCl2と反応させて非環状化合物(HC≡C)[R2Ge(C≡C)]22Ge(C≡CH)を生成する工程;上記(HC≡C)[R2Ge(C≡C)]22Ge(C≡CH)をさらに2当量のBuLiと反応させて(LiC≡C)[R2Ge(C≡C)]22Ge(C≡CLi)を生成する工程;および上記(LiC≡C)[R2Ge(C≡C)]22Ge(C≡CLi)をさらに1当量のR2GeCl2と反応させる工程、を包含する。
【0052】
より具体的には、GeCl4からR2GeCl2を生成した後、2当量のHC≡CMgBr(アセチレンを1当量のEtMgBrと反応させて生成した)と反応させてR2Ge(C≡CH)2を誘導する。R2Ge(C≡CH)2を1当量のEtMgBrと−78℃で1時間反応させてR2Ge(C≡CH)(C≡CMgBr)を生成した後、次いで、1当量のR2GeCl2を加えて室温で12時間反応させ、非環状化合物(HC≡C)[R2Ge(C≡C)]22Ge(C≡CH)を合成する。続いて、この非環状化合物(HC≡C)[R2Ge(C≡C)]22Ge(C≡CH)を、2当量のBuLiと−78℃で1時間反応させて(LiC≡C)[R2Ge(C≡C)]22Ge(C≡CLi)を生成した後に1当量のR2GeCl2を添加し、室温で12時間反応させて閉環する。この化合物をゲル浸透クロマトグラフィーによって分離した後に再結晶して、ゲルマ[4]ペリサイクリン
【0053】
【化6】

【0054】
(ここで、Rは、n−Bu、Phまたはi−Prである)
を単離することができる。
【0055】
図4は、ゲルマニウムとアセチレンとの結合を伸長させて非環状アセチレン化合物を生成した後に閉環反応を行なうゲルマニウム含有環状アセチレン化合物の合成方法を示す。本実施形態の合成方法は、A)R2X(C≡CH)2を1当量の有機マグネシウム化合物および1当量のR2XCl2と反応させて非環状アセチレン化合物を生成する工程と、B)上記非環状アセチレン化合物を1当量のEtMgBrと反応させた後に1当量のR2GeCl2を加えて非環状化合物を伸長させる工程と、C)上記伸長させた非環状アセチレン化合物を、2当量の有機リチウム化合物および1当量のR2XCl2と反応させて閉環する工程、とを包含することを特徴としている。好ましくは、Rは、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基(ここで、当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されてもよいアルキル基)、またはアリール基であり、Xは、Si、P、またはGeであり、より好ましくは、Rはn−Bu、Phまたはi−Prであり、XはGeである。
【0056】
具体的には、本実施形態の合成方法は、GeCl4からR2GeCl2を生成する工程;アセチレンを1当量のEtMgBrと反応させてHC≡CMgBrを生成する工程;上記R2GeCl2を2当量のHC≡CMgBrと反応させてR2Ge(C≡CH)2を生成する工程;上記R2Ge(C≡CH)2を1当量のEtMgBrと反応させてR2Ge(C≡CH)(C≡CMgBr)を生成する工程;上記R2Ge(C≡CH)(C≡CMgBr)をさらに1当量のR2GeCl2と反応させて非環状化合物(HC≡C)[R2Ge(C≡C)]22Ge(C≡CH)を生成する工程;上記(HC≡C)[R2Ge(C≡C)]22Ge(C≡CH)を1当量のEtMgBrと反応させて(HC≡C)[R2Ge(C≡C)]22Ge(C≡CMgBr)を生成する工程;上記(HC≡C)[R2Ge(C≡C)]22Ge(C≡CMgBr)を1当量のR2GeCl2と反応させて(HC≡C)[R2Ge(C≡C)]32Ge(C≡CH)を生成する工程;上記(HC≡C)[R2Ge(C≡C)]32Ge(C≡CH)をさらに2当量のBuLiと反応させて(LiC≡C)[R2Ge(C≡C)]22Ge(C≡CLi)を生成する工程;および上記(LiC≡C)[R2Ge(C≡C)]22Ge(C≡CLi)をさらに1当量のR2GeCl2と反応させる工程、を包含する。
【0057】
より具体的には、GeCl4からR2GeCl2を生成した後、2当量のHC≡CMgBr(アセチレンを1当量のEtMgBrと反応させて生成した)と反応させてR2Ge(C≡CH)2を誘導する。R2Ge(C≡CH)2を1当量のEtMgBrと−78℃で1時間反応させてR2Ge(C≡CH)(C≡CMgBr)を生成した後、次いで、1当量のR2GeCl2を加えて室温で12時間反応させ、非環状化合物(HC≡C)[R2Ge(C≡C)]22Ge(C≡CH)を合成する。続いて、この非環状化合物(HC≡C)[R2Ge(C≡C)]22Ge(C≡CH)を、1当量のEtMgBrと−78℃で1時間反応させた後に、1当量のR2GeCl2を添加する。12時間後にこの反応物を0℃に冷却し、1当量の(C≡CH)2MgBrを添加した後に室温に戻す。この反応物を10時間撹拌して非環状化合物(HC≡C)[R2Ge(C≡C)]32Ge(C≡CH)を合成した。続いて、この非環状化合物(HC≡C)[R2Ge(C≡C)]32Ge(C≡CH)を、2当量のBuLiと−78℃で1時間反応させ後に1当量のR2GeCl2を添加して閉環する(室温で12時間)。この化合物をゲル浸透クロマトグラフィーによって分離した後に再結晶して、ゲルマ[5]ペリサイクリン
【0058】
【化7】

【0059】
(ここで、Rは、n−Bu、Phまたはi−Prである)
を単離することができる。
【0060】
本発明に係る環状アセチレン化合物の合成方法の別の好ましい実施形態について説明すると以下の通りである。
【0061】
偶数角型のゲルマペリサイクリンを、以下の反応式に従って合成する。
【0062】
【化8】

【0063】
具体的には、本実施形態の合成方法は、GeCl4からR2GeCl2を生成する工程;アセチレンを1当量のEtMgBrと反応させてHC≡CMgBrを生成する工程;上記R2GeCl2を2当量のNaOEtと反応させてR2Ge(OEt)2を生成する工程;上記R2Ge(OEt)2をHC≡CMgBrと反応させてR2Ge(OEt)(C≡CH)(化合物2)を生成する工程;上記R2GeCl2を2当量のHC≡CMgBrと反応させてR2Ge(C≡CH)2(化合物1)を生成する工程;上記R2Ge(C≡CH)2(化合物1)を2当量のEtMgBrと反応させてR2Ge(C≡CMgBr)2を生成する工程;上記R2Ge(C≡CMgBr)2をさらに2当量のR2Ge(OEt)(C≡CH)と反応させて非環状化合物(HC≡C)[R2Ge(C≡C)]22Ge(C≡CH)(化合物3)を生成する工程;上記(HC≡C)[R2Ge(C≡C)]22Ge(C≡CH)(化合物3)をさらに2当量のEtMgBrと反応させて(BrMgC≡C)[R2Ge(C≡C)]22Ge(C≡CMgBr)を生成する工程;および、上記(BrMgC≡C)[R2Ge(C≡C)]22Ge(C≡CMgBr)をさらに1当量のR2GeCl2と反応させる工程を包含する。本実施形態の合成方法を用いて、ゲルマ[4]ペリサイクリン
【0064】
【化9】

【0065】
(ここで、Rは、n−Bu、Phまたはi−Prである)
を単離することができる。本実施形態の各合成工程において、Geの代わりに他の元素(Siなど)を用いることもできる。
【0066】
式(2)において、1つのエチニル基を選択的に導入するために反応性の低いR2Ge(OEt)2を用いる。Cl体(R2GeCl2)をOEt体に変換することによって、ゲルマニウム試薬の反応性を低下させることができ、その結果、1つのエチニル基を選択的に導入することができる。得られる化合物2は、対応する塩化物体よりも水に対し安定であるため、取り扱いや保存が容易である。
【0067】
式(3)に示した反応に従って、分子を伸長させる。次いで、式(4)に従って、n−BuLi試薬またはEtMgBr試薬を使用して、化合物3の末端アセチレン部位を活性化させ、分子内閉環反応によってゲルマ[4]ペリサイクリンを合成する。この反応において、活性化した末端アセチレン部位を有する化合物3の分子間反応を防ぐために、THF溶媒を加えてゲルマニウム反応物またはゲルマニウム試薬を低濃度にする。
【0068】
より大きなサイズの偶数角型ペリサイクリンを、式(3)と同様の反応を繰り返すことによって所望の長さまで分子を伸長させた後、式(4)と同様の分子内閉環反応を行なって合成することができる。
【0069】
例えば、ゲルマ[6]ペリサイクリンを、以下の反応式に従って合成する。
【0070】
【化10】

【0071】
具体的には、本実施形態の合成方法は、GeCl4からR2GeCl2を生成する工程;アセチレンを1当量のEtMgBrと反応させてHC≡CMgBrを生成する工程;上記R2GeCl2を2当量のNaOEtと反応させてR2Ge(OEt)2を生成する工程;上記R2Ge(OEt)2をHC≡CMgBrと反応させてR2Ge(OEt)(C≡CH)(化合物2)を生成する工程;上記R2GeCl2を2当量のHC≡CMgBrと反応させてR2Ge(C≡CH)2(化合物1)を生成する工程;上記R2Ge(C≡CH)2(化合物1)を2当量のEtMgBrと反応させてR2Ge(C≡CMgBr)2を生成する工程;上記R2Ge(C≡CMgBr)2をさらに2当量のR2Ge(OEt)(C≡CH)と反応させて非環状化合物(HC≡C)[R2Ge(C≡C)]22Ge(C≡CH)(化合物3)を生成する工程;上記(HC≡C)[R2Ge(C≡C)]22Ge(C≡CH)(化合物3)をさらに2当量のEtMgBrと反応させて(BrMgC≡C)[R2Ge(C≡C)]22Ge(C≡CMgBr)を生成する工程;;上記(BrMgC≡C)[R2Ge(C≡C)]22Ge(C≡CMgBr)を2当量のR2Ge(OEt)(C≡CH)(化合物2)と反応させてさらなる非環状化合物(HC≡C)[R2Ge(C≡C)]42Ge(C≡CH)(化合物4)を生成する工程;上記(HC≡C)[R2Ge(C≡C)]42Ge(C≡CH)(化合物4)をさらに2当量のEtMgBrと反応させて(BrMgC≡C)[R2Ge(C≡C)]42Ge(C≡CMgBr)を生成する工程;および、上記(BrMgC≡C)[R2Ge(C≡C)]42Ge(C≡CMgBr)をさらに1当量のR2GeCl2と反応させる工程を包含する。本実施形態の合成方法を用いて、ゲルマ[6]ペリサイクリン
【0072】
【化11】

【0073】
(ここで、Rは、n−Bu、Phまたはi−Prである)
を単離することができる。本実施形態の各合成工程において、Geの代わりに他の元素(Siなど)を用いることもできる。
【0074】
式(5)に示した反応に従って、分子を伸長させる。次いで、式(6)に従って、n−BuLi試薬またはEtMgBr試薬を使用して、非環状アセチレン化合物の末端アセチレン部位を活性化させ、分子内閉環反応によってゲルマ[6]ペリサイクリンを合成する。この反応において、活性化した末端アセチレン部位を有する非環状アセチレン化合物の分子間反応を防ぐために、THF溶媒を加えてゲルマニウム反応物またはゲルマニウム試薬を低濃度にする。
【0075】
奇数角型ペリサイクリンを、以下の反応式に従って合成する。ゲルマ[3]ペリサイクリンは大きなひずみを有するため、対応する炭素あるいはケイ素のペリサイクリンにおいても合成された例はない。しかし、式(7)の条件において、置換基および/または反応条件を適宜調整することによって、ゲルマ[3]ペリサイクリンが得られる。
【0076】
【化12】

【0077】
具体的には、本実施形態の合成方法は、アセチレンを1当量のEtMgBrと反応させてHC≡CMgBrを生成する工程;アセチレンを2当量のEtMgBrと反応させてBrMgC≡CMgBrを生成する工程;GeCl4からR2GeCl2を生成する工程;上記R2GeCl2を2当量のNaOEtと反応させてR2Ge(OEt)2を生成する工程;上記R2Ge(OEt)2をBrMgC≡CMgBrと反応させてR2Ge(OEt)(C≡CH)(化合物2)を生成する工程;R2Ge(OEt)(C≡CH)(化合物2)をBrMgC≡CMgBrと反応させて(HC≡C)[R2Ge(C≡C)]R2Ge(C≡CH)(化合物5)を生成する工程;上記(HC≡C)[R2Ge(C≡C)]R2Ge(C≡CH)(化合物5)を2当量のEtMgBrと反応させて(BrMgC≡C)[R2Ge(C≡C)]R2Ge(C≡CMgBr)を生成する工程;および、上記(BrMgC≡C)[R2Ge(C≡C)]R2Ge(C≡CMgBr)をさらに1当量のR2GeCl2と反応させる工程を包含する。本実施形態の合成方法を用いて、ゲルマ[3]ペリサイクリン
【0078】
【化13】

【0079】
(ここで、Rは、n−Bu、Phまたはi−Prである)
を単離することができる。本実施形態の各合成工程において、Geの代わりに他の元素(Siなど)を用いることもできる。
【0080】
式(7)に示した反応に従って、分子を伸長させ、次いで、n−BuLi試薬またはEtMgBr試薬を使用して、非環状アセチレン化合物の末端アセチレン部位を活性化させ、分子内閉環反応によってゲルマ[3]ペリサイクリンを合成する。この反応において、活性化した末端アセチレン部位を有する非環状アセチレン化合物の分子間反応を防ぐために、THF溶媒を加えてゲルマニウム反応物またはゲルマニウム試薬を低濃度にする。
【0081】
その他の奇数角型ペリサイクリンは、偶数角型と同様に段階的に分子を伸長させた後に分子内閉環反応を行なって合成する。ゲルマ[5]ペリサイクリンを、以下の反応式に従って合成する。
【0082】
【化14】

【0083】
具体的には、本実施形態の合成方法は、アセチレンを1当量のEtMgBrと反応させてHC≡CMgBrを生成する工程;アセチレンを2当量のEtMgBrと反応させてBrMgC≡CMgBrを生成する工程;GeCl4からR2GeCl2を生成する工程;上記R2GeCl2を2当量のNaOEtと反応させてR2Ge(OEt)2を生成する工程;上記R2Ge(OEt)2をBrMgC≡CMgBrと反応させてR2Ge(OEt)(C≡CH)(化合物2)を生成する工程;R2Ge(OEt)(C≡CH)(化合物2)をBrMgC≡CMgBrと反応させて(HC≡C)[R2Ge(C≡C)]R2Ge(C≡CH)(化合物5)を生成する工程;上記(HC≡C)[R2Ge(C≡C)]R2Ge(C≡CH)(化合物5)を2当量のEtMgBrと反応させて(BrMgC≡C)[R2Ge(C≡C)]R2Ge(C≡CMgBr)を生成する工程;上記(BrMgC≡C)[R2Ge(C≡C)]R2Ge(C≡CMgBr)を2当量のR2Ge(OEt)(C≡CH)(化合物2)と反応させて(HC≡C)[R2Ge(C≡C)]32Ge(C≡CH)を生成する工程;上記(HC≡C)[R2Ge(C≡C)]32Ge(C≡CH)を2当量のEtMgBrと反応させて(BrMgC≡C)[R2Ge(C≡C)]32Ge(C≡CMgBr)を生成する工程;および、上記(BrMgC≡C)[R2Ge(C≡C)]32Ge(C≡CMgBr)をさらに1当量のR2GeCl2と反応させる工程を包含する。本実施形態の合成方法を用いて、ゲルマ[5]ペリサイクリン
【0084】
【化15】

【0085】
(ここで、Rは、n−Bu、Phまたはi−Prである)
を単離することができる。本実施形態の各合成工程において、Geの代わりに他の元素(Siなど)を用いることもできる。
【0086】
式(8)に示した反応に従って、分子を伸長させ、次いで、n−BuLi試薬またはEtMgBr試薬を使用して、非環状アセチレン化合物の末端アセチレン部位を活性化させ、分子内閉環反応によってゲルマ[5]ペリサイクリンを合成する。この反応において、活性化した末端アセチレン部位を有する非環状アセチレン化合物の分子間反応を防ぐために、THF溶媒を加えてゲルマニウム反応物またはゲルマニウム試薬を低濃度にする。
【0087】
このような偶数角型または奇数角型の環状アセチレン化合物の合成方法において、合成途中に生成される非環状アセチレン化合物を上述したような伸長工程を繰り返し用いることによって、所望の大きさの環状アセチレン化合物を合成することができる。
【0088】
従来の合成法では、熱力学的に不安定な形状のペリサイクリンは生成しないか、または、生成しても極微量しか得られなかった。さらに様々な副生成物が生成するため、目的とする形状のペリサイクリンを単離するには多くの困難および労力をともなう。また現在、主に用いられているペリサイクリンの合成法である、ビスアセチレン体のアセチレン末端をブチルリチウムで活性化し、ジクロロ体とカップリングさる方法では、合成化学的に偶数角型のペリサイクリンのみ生成し、奇数角型のものは得られないかった。
【0089】
本発明に係る環状アセチレン化合物の合成方法を用いれば、所望の大きさの環状アセチレン化合物を合成することができる。すなわち、段階的に分子を延ばして非環状アセチレン化合物を生成し、目的の長さの非環状アセチレン化合物を分子内閉環反応させることによって、任意の形状のペリサイクリン(偶数角型及び奇数型)が合成することができる。従って、本発明に係る環状アセチレン化合物の合成方法に従えば、熱力学的に不安定な環状アセチレン化合物も選択的に合成することができる。さらに各段階で用いる試薬を選択すれば、任意の置換基を導入することができるので、これまでに報告されていない非対称ペリサイクリンもまた合成することができる。また、各合成段階においてゲルマニウムだけでなく他の元素(ケイ素など)を用いることもできるので、ミックスタイプの環状アセチレン化合物を合成することができる。
【0090】
なお、上述の具体的例示の説明では、アセチレンと結合する炭素以外の原子がゲルマニウムの場合について説明したが、これに限るものではなく、ケイ素であってもよい。当業者は、本明細書中の記載に基づけば、出発物質を適宜選択して所望の原子を含有する環状アセチレン化合物を合成することができる。特に、所望する原子がケイ素であれば、本実施形態と同様の収率が得られる。本実施形態のように、アセチレンと結合する炭素以外の原子がゲルマニウムの場合は、環状アセチレン化合物の環が大きく、よりかさ高い分子を包接する際に特に効果が大きいので好ましい。また、ゲルマペリサイクリンは、他のペリサイクリンとは異なり、加熱しても融解せずにセラミクス状になるので、セラミクス材料の前駆体として利用することができる。
【0091】
本願発明に係る環状アセチレン化合物の合成方法に用いられる溶媒は、反応により分解しないものであれば特に限定されず、例えば、THF、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒が挙げられる。溶媒の使用量は特に限定されない。
【0092】
本願発明に係る環状アセチレン化合物の合成方法に用いられる有機リチウム化合物は、カルバニオン系の塩基であり、例えば、ブチルリチウム、メチルリチウム、フェニルリチウム、s-ブチルリチウム、t-ブチルリチウム等が挙げられる。
【0093】
本発明者らは、使用する試薬を適宜選択し、当該試薬の当量数を調整することによって非環状アセチレン化合物を生成し、次いで閉環することによって環状アセチレン化合物を構築し得ることを見出した。さらに、本発明者らは、各工程において適切な試薬を選択することによって、様々な置換基および原子を含有する多角形型環状アセチレン化合物を合成することができることを見出した。
【0094】
このように、本発明に係る環状アセチレン化合物の合成方法は、少なくとも、非環状アセチレン化合物を生成する工程を包含していればよいといえる。そして、本発明に係る環状アセチレン化合物は、上記合成方法によって生成されればよいといえる。すなわち、炭素以外の複数の原子を含有する環状アセチレン化合物もまた本発明に含まれることに留意すべきである。
【0095】
つまり、本発明の目的は、アセチレンの数および環の形状を変更することによって、炭素以外の原子を含有する所望の大きさの(すなわち、所望の数の炭素以外の原子を含有する)環状アセチレン化合物を提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載した個々の金属原子に存するのではない。したがって、上記各方法以外を用いて合成された環状アセチレン化合物もまた本発明の範囲に属することに留意しなければならない。
【0096】
本発明は、以下の実施例によってさらに詳細に説明されるが、これに限定されるべきではない。
【実施例】
【0097】
本実施例における合成反応を、全て窒素ガス雰囲気下にて行った。溶媒には、当該分野において慣用的な方法を用いて蒸留したものを用いた。
【0098】
〔実施例1:Ph2Ge(C≡CH)2の合成〕
Ph2Ge(C≡CH)2の合成を、以下の反応式に従って行なった。
【0099】
【化16】

【0100】
(ここで、RはPhである)。
【0101】
0℃に冷却した(C≡CH)2MgBrのTHF溶液(0.5M、133mL)に、市販のPh2GeCl2(2.5g)を5分間かけて滴下した後、室温に戻した。16時間後に0℃にて飽和塩化アンモニウム水溶液を少量加えてクエンチした後、この反応物を室温に戻した。この反応物に水を加えた後にジエチルエーテルを用いて抽出し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過によって硫酸ナトリウムを除いた後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製し、Ph2Ge(C≡CH)2を得た(2.2g、収率94%)。
【0102】
〔実施例2:Phを有するゲルマ[4]ペリサイクリンおよびゲルマ[6]ペリサイクリンの合成〕
Phを有するゲルマ[4]ペリサイクリンおよびゲルマ[6]ペリサイクリンの合成を、以下の反応式に従って行なった。
【0103】
【化17】

【0104】
(ここで、RはPhである)。
【0105】
実施例1で得たPh2Ge(C≡CH)2(1.0g)をTHF(45mL)に溶解した後、−78℃に冷却した。この反応物に、BuLiのヘキサン溶液(1.6M、4.5mL)を5分間かけて滴下した後、2時間撹拌し、次いで、Ph2GeCl2(1.1g)のTHF(1mL)溶液を5分間かけてさらに滴下した。滴下後、反応物を室温に戻して静置した。14時間後に0℃にて飽和塩化アンモニウム水溶液を少量加えてクエンチした後、この反応物を室温に戻した。この反応物に水を加えた後にジエチルエーテルを用いて抽出し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過によって硫酸ナトリウムを除いた後、ゲル浸透クロマトグラフィーによる精製後、引き続く再結晶によって、ゲルマ[4]ペリサイクリン(85mg、収率7%)およびゲルマ[6]ペリサイクリン(490mg、収率27%)を得た。
【0106】
〔実施例3:Phを有するゲルマ[5]ペリサイクリンおよびゲルマ[6]ペリサイクリンの合成〕
Phを有するPhを有するゲルマ[5]ペリサイクリンおよびゲルマ[6]ペリサイクリンの合成を、以下の反応式に従って行なった。
【0107】
【化18】

【0108】
(ここで、RはPhである)。
【0109】
BuLiのへキサン溶液(1.6M、6.2mL)を−10℃に冷却し、アセチレンガスを45分間バブリングした後、−78℃に冷却した。この溶液にTHF(50mL)を添加し、Ph2GeCl2(3.0g)のTHF(4mL)溶液を滴下した。滴下後、反応物を室温に戻して静置した。14時間後に0℃にて飽和塩化アンモニウム水溶液を少量加えてクエンチした後、この反応物を室温に戻した。この反応物に水を加えた後にジエチルエーテルを用いて抽出し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過によって硫酸ナトリウムを除いた後、ゲル浸透クロマトグラフィーによる精製後、引き続く再結晶によって、ゲルマ[5]ペリサイクリン(141.6mg、収率6%)、およびゲルマ[6]ペリサイクリンを(101.1mg、収率4%)を得た。
【0110】
〔実施例4:Phを有するゲルマ[4]ペリサイクリンの多段階合成〕
Phを有するゲルマ[4]ペリサイクリンの多段階合成を、以下の反応式に従って行なった。
【0111】
【化19】

【0112】
(ここで、RはPhである)。
【0113】
実施例1で得たPh2Ge(C≡CH)2(2.0g)をTHF(7mL)に溶解した後、−78℃に冷却した。この溶液にEtMgBrのTHF溶液(1.0M、7.2mL)を5分間かけて滴下した後、2時間撹拌し、次いで市販のPh2GeCl2(1.1g)をさらに滴下した。滴下後、反応物を室温に戻して静置した。12時間後に0℃にて1N HClを少量加えてクエンチした後、この反応物を室温に戻した。この反応物に水を加えた後にジエチルエーテルを用いて抽出し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過によって硫酸ナトリウムを除いた後、ゲル浸透クロマトグラフィーによる精製後、引き続く再結晶によって、(HC≡C)[Ph2Ge(C≡C)]2Ph2Ge(C≡CH)を得た(2.1g、収率76%)。
【0114】
得られた(HC≡C)[Ph2Ge(C≡C)]2Ph2Ge(C≡CH)(2.0g)をTHF(7mL)に溶解した後、−78℃に冷却した。この溶液にBuLiのへキサン溶液(1.6M、3.2mL)を5分間かけて滴下した後、1時間撹拌し、次いで市販のPh2GeCl2(774mg)を滴下した後、この反応物を室温に戻した。12時間後に0℃にて飽和塩化アンモニウム水溶液を少量加えてクエンチした後、この反応物を室温に戻した。この反応物に水を加えた後にジエチルエーテルを用いて抽出し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過によって硫酸ナトリウムを除いた後、ゲル浸透クロマトグラフィーによる精製後、引き続く再結晶によって、ゲルマ[4]ペリサイクリンを得た(417.4mg、収率16%)。
【0115】
〔実施例5:(n−Bu)2Ge(C≡CH)2の合成〕
(n−Bu)2Ge(C≡CH)2の合成を、以下の反応式に従って行なった。
【0116】
【化20】

【0117】
(ここで、Rはn−Buである)。
【0118】
THF中0.5Mの(C≡CH)2MgBr(94mL)を0℃に冷却し、市販の(n−Bu)2GeCl2(5.8g)を5分間かけて滴下した後、室温に戻した。16時間後に0℃にて飽和塩化アンモニウム水溶液を少量加えてクエンチした後、この反応物を室温に戻した。この反応物に水を加えた後にジエチルエーテルを用いて抽出し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過によって硫酸ナトリウムを除いた後、減圧蒸留(88〜91℃、2kPa)による精製後、引き続く再結晶によって、(n−Bu)2Ge(C≡CH)2を得た(4.1g、収率91%)。
【0119】
〔実施例6:n−Buを有するゲルマ[4]ペリサイクリンおよびゲルマ[6]ペリサイクリンの合成〕
n−Buを有するゲルマ[4]ペリサイクリンおよびゲルマ[6]ペリサイクリンの合成を、以下の反応式に従って行なった。
【0120】
【化21】

【0121】
(ここで、Rはn−Buである)。
【0122】
実施例5で得た(n−Bu)2Ge(C≡CH)2(500mg)をTHF(30mL)に溶解した後、−78℃に冷却した。この反応物に、BuLiのヘキサン溶液(1.6M、2.6mL)を5分かけて滴下した後、2時間撹拌し、次いで、(n−Bu)2GeCl2(539mg)のTHF(0.5mL)溶液をさらに滴下した。滴下後、反応物を室温に戻して静置した。14時間後に0℃にて飽和塩化アンモニウム水溶液を少量加えてクエンチした後、この反応物を室温に戻した。この反応物に水を加えた後にジエチルエーテルを用いて抽出し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過によって硫酸ナトリウムを除いた後、ゲル浸透クロマトグラフィーによる精製後、引き続く再結晶によって、ゲルマ[4]ペリサイクリン(29.5mg、収率5%)およびゲルマ[6]ペリサイクリン(221.4mg、収率25%)を得た。
【0123】
〔実施例7:n−Buを有するゲルマ[5]ペリサイクリンおよびゲルマ[6]ペリサイクリンの合成〕
n−Buを有するゲルマ[5]ペリサイクリンおよびゲルマ[6]ペリサイクリンの合成を、以下の反応式に従って行なった。
【0124】
【化22】

【0125】
(ここで、Rはn−Buである)。
【0126】
BuLiのへキサン溶液(1.6M、6.2mL)を−10℃に冷却し、アセチレンガスを45分間バブリングした後、−78℃に冷却した。この溶液にTHF(50mL)を添加し、市販の(n−Bu)2GeCl2(2.5g)のTHF(4mL)溶液を滴下した。滴下後、反応物を室温に戻して静置した。14時間後に0℃にて飽和塩化アンモニウム水溶液を少量加えてクエンチした後、この反応物を室温に戻した。この反応物に水を加えた後にジエチルエーテルを用いて抽出し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過によって硫酸ナトリウムを除いた後、ゲル浸透クロマトグラフィーによる精製後、引き続く再結晶によって、ゲルマ[5]ペリサイクリン(128.6mg、収率6%)、およびゲルマ[6]ペリサイクリンを(101.2mg、収率5%)を得た。
【0127】
〔実施例8:(i−Pr)2GeCl2の合成〕
(i−Pr)2GeCl2の合成を、以下の反応式に従って行なった。
【0128】
【化23】

【0129】
GeCl4(10mL)をTHF(200mL)に溶解した後、−78℃に冷却した。この溶解物に、i−PrMgClのTHF溶液(2.0M、87.6mL)を1時間かけて滴下した。12時間後に、この反応物を−20℃に昇温し、その30分後に1N HClを少量加えてクエンチし、次いで、室温に戻した。この反応物に水を加えた後にジエチルエーテルを用いて抽出し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過によって硫酸ナトリウムを除いた後、減圧蒸留(62〜64℃、2kPa)によって、(i−Pr)2GeCl2を得た(9.4g、収率47%)。
【0130】
〔実施例9:(i−Pr)2Ge(C≡CH)2の合成〕
(i−Pr)2Ge(C≡CH)2の合成を、以下の反応式に従って行なった。
【0131】
【化24】

【0132】
(ここで、Rはi−Prである)。
【0133】
THF中0.5Mの(C≡CH)2MgBr(133mL)を0℃に冷却し、実施例8で得た(i−Pr)2GeCl2(5.8g)を5分間かけて滴下した後、室温に戻した。16時間後に0℃にて飽和塩化アンモニウム水溶液を少量加えてクエンチした後、この反応物を室温に戻した。この反応物に水を加えた後にジエチルエーテルを用いて抽出し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過によって硫酸ナトリウムを除いた後、減圧蒸留(64〜66℃、3.5kPa)によって精製し、(i−Pr)2Ge(C≡CH)2を得た(4.0g、収率76%)。
【0134】
〔実施例10:i−Prを有するゲルマ[6]ペリサイクリンの合成〕
i−Prを有するゲルマ[6]ペリサイクリンの合成を、以下の反応式に従って行なった。
【0135】
【化25】

【0136】
(ここで、Rはi−Prである)。
【0137】
実施例9で得た(i−Pr)2Ge(C≡CH)2(1.8g)をTHF(110mL)に溶解した後、−78℃に冷却した。この反応物に、ヘキサン中1.6MのBuLi(10.8mL)を5分間かけて滴下した後、2時間撹拌し、次いで、実施例8で得た(i−Pr)2GeCl2(2.0g)のTHF(4mL)溶液をさらに滴下した。滴下後、反応物を室温に戻して静置した。14時間後に0℃にて飽和塩化アンモニウム水溶液を少量加えてクエンチした後、この反応物を室温に戻した。この反応物に水を加えた後にジエチルエーテルを用いて抽出し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過によって硫酸ナトリウムを除いた後、ゲル浸透クロマトグラフィーによる精製後、引き続く再結晶によって、ゲルマ[6]ペリサイクリンを得た(1.0g、収率33%)。
【0138】
〔実施例11:i−Prを有するゲルマ[5]ペリサイクリンの多段階合成〕
i−Prを有するゲルマ[5]ペリサイクリンの多段階合成を、以下の反応式に従って行なった。
【0139】
【化26】

【0140】
(ここで、Rはi−Prである)。
【0141】
実施例9で得た(i−Pr)2Ge(C≡CH)2(1.46g)をTHF(20mL)に溶解した後、−78℃に冷却した。この溶液にEtMgBrのTHF溶液(1.0M、7.0mL)を5分間かけて滴下した後、2時間撹拌し、次いで実施例8で得た(i−Pr)2GeCl2(0.80g)をさらに滴下した。滴下後、反応物を室温に戻して静置した。12時間後に0℃にて1N HClを少量加えてクエンチした後、この反応物を室温に戻した。この反応物に水を加えた後にジエチルエーテルを用いて抽出し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過によって硫酸ナトリウムを除いた後、ゲル浸透クロマトグラフィーによる精製後、引き続く再結晶によって、(HC≡C)[(i−Pr)2Ge(C≡C)]2(i−Pr)2Ge(C≡CH)を得た(1.41g、収率70%)。
【0142】
得られた(HC≡C)[(i−Pr)2Ge(C≡C)]2(i−Pr)2Ge(C≡CH)(1.7g)をTHF(15mL)に溶解した後、−78℃に冷却した。この溶液にEtMgBrのTHF溶液(1.0M、3.0mL)を5分間かけて滴下した後、1時間撹拌し、次いで実施例8で得た(i−Pr)2GeCl2(689mg)をさらに滴下した。滴下後、反応物を室温に戻して静置した。12時間後0℃にて(C≡CH)2MgBrのTHF溶液(0.5M、6.5mL)を滴下した。滴下後、反応物を室温に戻して静置した。10時間後に0℃にて1N HClを少量加えてクエンチした後、この反応物を室温に戻した。この反応物に水を加えた後にジエチルエーテルを用いて抽出し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過によって硫酸ナトリウムを除いた後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製し、(HC≡C)[(i−Pr)2Ge(C≡C)]3(i−Pr)2Ge(C≡CH)を得た(954.2mg、収率42%)。
【0143】
この(HC≡C)[(i−Pr)2Ge(C≡C)]3(i−Pr)2Ge(C≡CH)(909mg)をTHF(50mL)に溶解した後、−78℃に冷却した。この溶液にBuLiのへキサン溶液(1.6M、1.5mL)を5分間かけて滴下した後、1時間撹拌し、次いで実施例8で得た(i−Pr)2GeCl2(115mg)を滴下した後、この反応物を室温に戻した。12時間後に0℃にて飽和塩化アンモニウム水溶液を少量加えてクエンチした後、この反応物を室温に戻した。この反応物に水を加えた後にジエチルエーテルを用いて抽出し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。ろ過によって硫酸ナトリウムを除いた後、ゲル浸透クロマトグラフィーによる精製後、引き続く再結晶によって、ゲルマ[5]ペリサイクリンを得た(187mg、収率17%)。
【0144】
〔実施例12:ゲルマニウム含有環状アセチレン化合物の構造解析〕
ゲルマペリサイクリンのX線構造解析、およびNMR核磁気共鳴装置による分析を行なった。具体的には、上述の実施例に従って、目的のゲルマ[6]ペリサイクリンおよびゲルマ[4]ペリサイクリン、ならびにゲルマ[5]ペリサイクリンを合成した。これらの化合物を、NMR、TOF−MSおよび単結晶X線構造解析によって同定した。
【0145】
ゲルマ[6]ペリサイクリンを、THF/MeOH中で再結晶させた単結晶のX線構造解析によって、ゲルマ[6]ペリサイクリンの環の中央にTHF分子が包接された構造を確認した(図5)。ゲルマ[6]ペリサイクリンは、椅子型構造をとるものの、半経験的分子軌道計算(PM3)より算出した最適構造と比較して、かなり平面性を帯びていた。
【0146】
〔実施例13:ゲルマニウム含有環状アセチレン化合物による包接〕
ゲルマペリサイクリンが包接能(すなわち、有機低分子や金属をその環の中に取り込む能力)を有することを示した。
【0147】
上記実施例に従って合成したゲルマ[6]ペリサイクリンのCDCl3溶液に2当量のAgBF4を加えたところ、13C−NMRにおけるアセチレン炭素のケミカルシフト(107.0ppmから104.1ppm)が生じた。また、THF溶媒中で、ゲルマ[6]ペリサイクリンおよびAgBF4を同様に調製したところ、反応溶液は無色から黄緑色に変化し、その後白色固体が析出した。固体が析出する前の溶液のUV/Visスペクトルではにおいて、400nmに吸収を確認した。以上の結果は、ゲルマ[6]ペリサイクリンがAgイオンを包接する能力を有することを示す。
【0148】
〔実施例14:ゲルマペリサイクリンの熱的挙動〕
合成したゲルマ[6]ペリサイクリンについて、物質の熱的挙動(分解および/または縮重合等)を調べた。すなわち、ゲルマ[6]ペリサイクリンの温度変化に伴う質量変化を測定した。その結果、加熱によって、白色固体状のゲルマ[6]ペリサイクリンからセラミクス状の固体が得られた(図6)。
【0149】
このような性質は、他のペリサイクリンでは報告されておらず、ゲルマペリサイクリンに特有の性質と考えられる。例えば、本発明に係るゲルマ[6]ペリサイクリンに対応するシラ[6]ペリサイクリン(R=C65)は、加熱によって融解するのでセラミクス状の固体は得られない。ゲルマ[6]ペリサイクリンの熱分解過程における重量変化を初めの重量を100%としてグラフ化したものを図7に示す。
【0150】
置換基(R)がC6Hの場合5とi−Prの場合との間で、異なる重量変化を示した。各温度における重量減少の割合と、最終的に得られるセラミクス状の固体の元素分析測定値を理論計算値と比較した。その結果、C65の場合、まず406.8℃で1つのC65基がホモリティック解裂し、さらに生成したラジカルの連鎖的反応により、518.9℃では、6つC65基が解裂し、Ge原子がC64でつながれた生成物が得られたと考えられる。つまりゲルマニウムとアセチレン部位と、6つのC64基は残存している(図8)。
【0151】
一方、i−Prの場合、まずβ−水素脱離により283.4℃でi−Pr基が1つ、352.3℃で3つ解裂する。さらにi−Pr基の解裂、水素の脱離を経て生成したビラジカルがGe原子を攻撃し、Ge−Ge結合が形成され、最終的に537.4℃で全てのi−Pr基が解裂し、ゲルマニウムとアセチレン部位が残存した生成物が得られたと考えられる。(図9)
以上のように、本発明に係るゲルマペリサイクリンは、他のペリサイクリンとは異なり、セラミクス材料の前駆体となり得る。また、置換基に応じて、生成するセラミクスの構成単位および構造が異なる。
【0152】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0153】
任意の形状およびサイズを有する環状アセチレン化合物を合成し得ることによって、広範な種々の新規機能性材料(例えば、ナノ制御された固体表面修飾および/または包接化合物)を調製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0154】
【図1】図1は、本発明の一実施形態を示すものであり、ゲルマニウムを偶数個含有する環状アセチレン化合物の合成方法を示す図である。
【図2】図2は、本発明の他の実施形態を示すものであり、ゲルマニウムを奇数個含有する環状アセチレン化合物の合成方法を示す図である。
【図3】図3は、本発明の別の実施形態を示すものであり、ゲルマニウムとアセチレンとの結合を段階的に伸長させた後に閉環反応を行なうゲルマニウム含有環状アセチレン化合物の合成方法を示す図である。
【図4】図4は、本発明の別の実施形態を示すものであり、ゲルマニウムとアセチレンとの結合を段階的に伸長させた後に閉環反応を行なうゲルマニウム含有環状アセチレン化合物の合成方法を示す図である。
【図5】図5は、本発明の実施形態に従って合成したゲルマ[6]ペリサイクリンを、THF/MeOH中で再結晶させた単結晶のX線構造解析を示す図である。
【図6】図6は、本発明に係るゲルマペリサイクリンを加熱した際に生じる熱分解生成物を示す図である。
【図7】図7は、本発明に係るゲルマペリサイクリンの熱分解過程における温度と重量変化の関係を示すグラフである。
【図8】図8は、本発明に係るゲルマペリサイクリンの熱分解過程を示す図である。
【図9】図9は、本発明に係るゲルマペリサイクリンの熱分解過程を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(−R2XC≡C−)n(ここで、Rは、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基(ここで、当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されてもよいアルキル基)、またはアリール基であり、Xは、Si、P、またはGeであり、nは3以上の整数である)で表されることを特徴とする環状アセチレン化合物:但し、XがSiでありかつRが−CH3の場合、nは3〜12ではなく、XがSiでありかつRがPhの場合、nは4〜6ではない。
【請求項2】
上記XがGeであることを特徴とする請求項1に記載の環状アセチレン化合物。
【請求項3】
以下の構造式:
【化1】

(ここで、Rは、n−Bu、Phまたはi−Prである)
からなる群より選択されることを特徴とする請求項1または2に記載の環状アセチレン化合物。
【請求項4】
A)R2X(C≡CH)2を、有機マグネシウム化合物およびR2XCl2と反応させて非環状アセチレン化合物を生成する工程、ならびに
B)上記非環状アセチレン化合物を、有機リチウム化合物およびR2XCl2と反応させて閉環する工程、
を包含することを特徴とする環状アセチレン化合物の合成方法(ここで、Rは、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基(ここで、当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されてもよいアルキル基)、またはアリール基であり、Xは、Si、P、またはGeである)。
【請求項5】
A)R2X(C≡CH)2を、有機マグネシウム化合物およびR2XCl2と反応させて非環状アセチレン化合物を生成する工程、
B)上記非環状アセチレン化合物を、有機マグネシウム化合物、R2XCl2およびHC≡CMgBrと反応させてさらなる非環状アセチレン化合物を生成する工程、ならびに
C)上記さらなる非環状アセチレン化合物を、有機リチウム化合物およびR2XCl2と反応させて閉環する工程、
を包含することを特徴とする環状アセチレン化合物の合成方法(ここで、Rは、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基(ここで、当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されてもよいアルキル基)、またはアリール基であり、Xは、Si、P、またはGeである)。
【請求項6】
A)R2XCl2を、NaOEtおよびHC≡CMgBrと反応させてR2X(OEt)(C≡CMgBr)を生成する工程、
B)R2X(C≡CH)2を、有機マグネシウム化合物および上記R2X(OEt)(C≡CMgBr)と反応させて非環状アセチレン化合物を生成する工程、ならびに
C)上記非環状アセチレン化合物を、有機マグネシウム化合物およびR2XCl2と反応させて閉環する工程、
を包含することを特徴とする環状アセチレン化合物の合成方法(ここで、Rは、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基(ここで、当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されてもよいアルキル基)、またはアリール基であり、Xは、Si、P、またはGeである)。
【請求項7】
A)R2XCl2を、NaOEtおよびHC≡CMgBrと反応させてR2X(OEt)(C≡CMgBr)を生成する工程、
B)R2X(C≡CH)2を、有機マグネシウム化合物および上記R2X(OEt)(C≡CMgBr)と反応させて非環状アセチレン化合物を生成する工程、
C)上記非環状アセチレン化合物を、さらに有機マグネシウム化合物および上記R2X(OEt)(C≡CMgBr)と反応させてさらなる非環状アセチレン化合物を生成する工程、ならびに
D)上記さらなる非環状アセチレン化合物を、有機マグネシウム化合物およびR2XCl2と反応させて閉環する工程、
を包含することを特徴とする環状アセチレン化合物の合成方法(ここで、Rは、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基(ここで、当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されてもよいアルキル基)、またはアリール基であり、Xは、Si、P、またはGeである)。
【請求項8】
A)R2XCl2を、NaOEtおよびHC≡CMgBrと反応させてR2X(OEt)(C≡CH)を生成する工程、
B)上記R2X(OEt)(C≡CH)を、BrMgC≡CMgBrと反応させて非環状アセチレン化合物を生成する工程、ならびに
C)上記非環状アセチレン化合物を、有機マグネシウム化合物およびR2XCl2と反応させて閉環する工程、
を包含することを特徴とする環状アセチレン化合物の合成方法(ここで、Rは、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基(ここで、当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されてもよいアルキル基)、またはアリール基であり、Xは、Si、P、またはGeである)。
【請求項9】
A)R2XCl2を、NaOEtおよびHC≡CMgBrと反応させてR2X(OEt)(C≡CH)を生成する工程、
B)R2X(OEt)(C≡CMgBr)を、BrMgC≡CMgBrと反応させて非環状アセチレン化合物を生成する工程、
C)上記非環状アセチレン化合物を、有機マグネシウム化合物およびR2X(OEt)(C≡CH)と反応させてさらなる非環状アセチレン化合物を生成する工程、ならびに
D)上記さらなる非環状アセチレン化合物を、有機マグネシウム化合物およびR2XCl2と反応させて閉環する工程、
を包含することを特徴とする環状アセチレン化合物の合成方法(ここで、Rは、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基(ここで、当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されてもよいアルキル基)、またはアリール基であり、Xは、Si、P、またはGeである)。
【請求項10】
上記有機マグネシウム化合物がEtMgBrであることを特徴とする請求項4〜9のいずれか1項に記載の環状アセチレン化合物の合成方法。
【請求項11】
上記有機リチウム化合物がBuLiであることを特徴とする請求項4〜10のいずれか1項に記載の環状アセチレン化合物の合成方法。
【請求項12】
上記XがGeであることを特徴とする請求項4〜11のいずれか1項に記載の環状アセチレン化合物の合成方法。
【請求項13】
2X(C≡CH)2を有機リチウム化合物およびR2XCl2と反応させる工程を包含することを特徴とする環状アセチレン化合物の合成方法(ここで、Rは、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基(ここで、当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されてもよいアルキル基)、またはアリール基であり、Xは、Si、P、またはGeである)。
【請求項14】
アセチレンを有機リチウム化合物およびR2XCl2と反応させる工程を包含することを特徴とする環状アセチレン化合物の合成方法(ここで、Rは、水素原子、炭素数1〜15のアルキル基(ここで、当該アルキル基中の1個又はそれ以上の炭素原子が酸素原子、窒素原子、及び/又は硫黄原子で置換されてもよいアルキル基)、またはアリール基であり、Xは、Si、P、またはGeである)。
【請求項15】
上記有機リチウム化合物がBuLiであることを特徴とする請求項13または14に記載の環状アセチレン化合物の合成方法。
【請求項16】
上記XがGeであることを特徴とする請求項13〜15のいずれか1項に記載の環状アセチレン化合物の合成方法。
【請求項17】
請求項4〜16のいずれか1項に記載の合成方法によって合成されることを特徴とする環状アセチレン化合物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−76959(P2006−76959A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−264399(P2004−264399)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年3月11日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第84春季年会 講演予稿集1」に発表
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】