説明

環状オレフィン系重合体の製造方法

【課題】金属化合物触媒に由来する金属残渣の含有量が非常に低減した環状オレフィン系重合体を製造する方法を提供すること。
【解決手段】下記工程(I)〜(V)の全てを有することを特徴とする環状オレフィン系重合体の製造方法。
工程(I):環状オレフィン重合用金属化合物触媒の存在下、環状オレフィンを含む単量体を、炭化水素溶媒中で均一重合する工程
工程(II):重合反応溶液中での環状オレフィン重合用金属化合物触媒の可溶化状態を維持しながら、重合反応溶液にアルコールを添加する工程
工程(III):重合反応溶液に水を添加して、環状オレフィン重合用金属化合物触媒の金属元素に由来する析出物(D)を生成させる工程
工程(IV):析出物(D)が生成した重合反応溶液から、析出物(D)を除去する工程
工程(V):析出物(D)が除去された重合反応溶液から環状オレフィン系重合体を得る工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状オレフィン系重合体の製造方法に関するものである。さらに詳しくは、金属化合物触媒に由来する金属残渣の含有量が非常に低減した環状オレフィン系重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ノルボルネン、テトラシクロドデセンなどの環状オレフィンに基づく単量体単位を有する環状オレフィン系重合体は、光学的性質、熱的性質などのバランスに優れた重合体であり、光ディスク基板などの光学材料の分野、ブリスターバック用シートなどの包装材料の分野に用いられることが知られている。
【0003】
これらの環状オレフィン系重合体は、メタロセン触媒などの金属化合物触媒の存在下、環状オレフィンを単独重合、あるいは、環状オレフィンとコモノマーとを共重合することにより製造される。環状オレフィン系重合体の特性は、金属化合物触媒に由来する金属残渣によって低下することがあるため、環状オレフィン系重合体の製造では、環状オレフィン系重合体から金属残渣を除去する工程を設けることがあり、例えば、(1)塩酸・アセトン混合溶液、塩酸・メタノール混合溶液などにより触媒残渣を可溶化処理する方法(特許文献1,2参照。)、(2)重合反応溶液に水あるいはメタノールを加えて触媒残渣を析出させ、必要に応じ珪藻土を加え、濾過する方法(特許文献3参照。)、(3)重合反応溶液をアセトンに注ぎ、重合体と触媒残渣とを析出させ、次に、得られた析出物から重合体をトルエンで抽出する方法(特許文献4参照。)が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−230024号公報
【特許文献2】特開2002−206005号公報
【特許文献3】特開平11−116614号公報
【特許文献4】特開平11−158225号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の方法では、環状オレフィン系重合体からの金属化合物触媒に由来する金属残渣の除去について、十分満足いくものではなかった。
かかる状況のもの、本発明が解決しようとする課題は、金属化合物触媒に由来する金属残渣の含有量が非常に低減した環状オレフィン系重合体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、下記工程(I)〜(V)の全てを有することを特徴とする環状オレフィン系重合体の製造方法にかかるものである。
工程(I):環状オレフィン重合用金属化合物触媒の存在下、環状オレフィンを含む単量体を、炭化水素溶媒中で均一重合する工程
工程(II):重合反応溶液中での環状オレフィン重合用金属化合物触媒の可溶化状態を維持しながら、重合反応溶液にアルコールを添加する工程
工程(III):重合反応溶液に水を添加して、環状オレフィン重合用金属化合物触媒の金属元素に由来する析出物(D)を生成させる工程
工程(IV):析出物(D)が生成した重合反応溶液から、析出物(D)を除去する工程
工程(V):析出物(D)が除去された重合反応溶液から環状オレフィン系重合体を得る工程
【発明の効果】
【0007】
本発明により、金属化合物触媒に由来する金属残渣の含有量が非常に低減した環状オレフィン系重合体を製造する方法を提供することができる。また、本発明では、金属残渣除去工程で発生する廃液量がより低減し、金属残渣除去工程がより簡便な工程となりうるため、本発明は、経済性にも優れうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の工程(I)は、環状オレフィン重合用金属化合物触媒の存在下、環状オレフィンを含む単量体を、炭化水素溶媒中で均一重合する工程である。該環状オレフィンは、4個以上の炭素原子からなる環を有し、該環内に炭素−炭素二重結合を含む化合物である。環状オレフィンとしては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン等の単環状オレフィン;3−メチルシクロペンテン、4−メチルシクロペンテン、3−メチルシクロヘキセン等の置換単環状オレフィン;ノルボルネン、1,2−ジヒドロジシクロペンタジエン、テトラシクロドデセン等の多環状オレフィン;5−メチルノルボルネン等の置換多環状オレフィンがあげられる。
【0009】
環状オレフィンとして、好ましくは、ノルボルネン、5−メチルノルボルネン、5−エチルノルボルネン、5−ブチルノルボルネン、5−シクロヘキシルノルボルネン、5−フェニルノルボルネン、5−ベンジルノルボルネン、テトラシクロドデセン、トリシクロデセン、トリシクロウンデセン、ペンタシクロペンタデセン、ペンタシクロヘキサデセン、8−メチルテトラシクロドデセン、8−エチルテトラシクロドデセン、5−アセチルノルボルネン、5−アセチルオキシノルボルネン、5−メトキシカルボニルノルボルネン、5−エトキシカルボニルノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニルノルボルネン、5−シアノノルボルネン、8−メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8−メチル−8−テトラシクロドデセン、8−シアノテトラシクロドデセンであり、より好ましくは、ノルボルネン、テトラシクロドデセンである。
【0010】
工程(I)で用いられる環状オレフィン以外の単量体としては、環状オレフィンと共重合できるものであればよく、例えば、α−オレフィン、アルケニル芳香族炭化水素、ビニル置換脂環式炭化水素などをあげることができる。
【0011】
上記のα−オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ヘキセン、3−メチル−1−ヘプテン、3−メチル−1−オクテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、3,3−ジメチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘプテン、3,3−ジメチル−1−オクテン、3,4−ジメチル−1−ペンテン、3,4−ジメチル−1−ヘキセン、3,4−ジメチル−1−ヘプテン、3,4−ジメチル−1−オクテン、3,5−ジメチル−1−ヘキセン、3,5−ジメチル−1−ヘプテン、3,5−ジメチル−1−オクテン、3,6−ジメチル−1−ヘプテン、3,6−ジメチル−1−オクテン、3,7−ジメチル−1−オクテン、3,3,4−トリメチル−1−ペンテン、3,3,4−トリメチル−1−ヘキセン、3,3,4−トリメチル−1−ヘプテン、3,3,4−トリメチル−1−オクテン、3,4,4−トリメチル−1−ペンテン、3,4,4−トリメチル−1−ヘキセン、3,4,4−トリメチル−1−ヘプテン、3,4,4−トリメチル−1−オクテンなどをあげることができる。
【0012】
α−オレフィンとして、好ましくは炭素原子数2〜20のα−オレフィンであり、より好ましくは、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンであり、特に好ましくは、エチレン、プロピレンである。
【0013】
上記のアルケニル芳香族炭化水素としては、炭素原子数8〜27のアルケニル芳香族炭化水素が好ましく、スチレン、2−フェニルプロピレン、2−フェニルブテン、3−フェニルプロピレン等のアルケニルベンゼン;p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−エチルスチレン、m−エチルスチレン、o−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、3,4−ジメチルスチレン、3,5−ジメチルスチレン、3−メチル−5−エチルスチレン、p−第3級ブチルスチレン、p−第2級ブチルスチレン等のアルキルスチレン;1−ビニルナフタレン等のアルケニルナフタレン等をあげることができる。より好ましくは、スチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−第3級ブチルスチレン、2−フェニルプロピレン、1−ビニルナフタレンであり、特に好ましくはスチレンである。
【0014】
上記のビニル置換脂環式炭化水素とは、脂環式炭化水素化合物の一部がビニル基で置換された化合物を指し、例えば、ビニルシクロプロパン、ビニルシクロブタン、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘプタン、ビニルシクロオクタン、5−ビニル−2−ノルボルネン、1−ビニルアダマンタン、4−ビニル−1−シクロヘキセンなどがあげられ、好ましくはビニルシクロヘキサンである。
【0015】
重合に用いられる環状オレフィン重合用金属化合物触媒としては、有機金属錯体と活性化助触媒成分とを接触処理してなる錯体系触媒やラジカル重合用金属触媒などがあげられ、好ましくは、錯体系触媒であり、より好ましくは、シクロペンタジエニル骨格を有する配位子を含む有機金属錯体と活性化助触媒成分とを接触処理してなるメタロセン系触媒である。
【0016】
錯体系触媒に用いられる有機金属錯体としては、例えば下記一般式[1]で表される遷移金属化合物があげられる。
aMXb [1]
(式中、Mは遷移金属化合物を表す。aは0<a≦nを満足する数を、bは0<b≦nを満足する数を表し、nは遷移金属Mの原子価を満足する数を表す。Lは遷移金属に配位する配位子を表す。Xはハロゲン原子、炭化水素基、炭化水素オキシ基を表す(但し、Lの配位子を含まない。)。Xが複数ある場合は、2個以上が連結されていてもよく、LとXが連結されていてもよい。)
【0017】
一般式[1]の配位子Lにおいて、シクロペンタジエニル骨格を有する配位子としては、(置換)シクロペンタジエニル基、(置換)インデニル基、(置換)フルオレニル基などであり、具体的には、シクロペンタジエニル基、メチルシクロペンタジエニル基、tert−ブチルシクロペンタジエニル基、ジメチルシクロペンタジエニル基、tert−ブチル−メチルシクロペンタジエニル基、メチル−イソプロピルシクロペンタジエニル基、トリメチルシクロペンタジエニル基、テトラメチルシクロペンタジエニル基、ペンタメチルシクロペンタジエニル基、インデニル基、4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、2−メチルインデニル基、3−メチルインデニル基、4−メチルインデニル基、5−メチルインデニル基、6−メチルインデニル基、7−メチルインデニル基、2−tert−ブチルインデニル基、3−tert−ブチルインデニル基、4−tert−ブチルインデニル基、5−tert−ブチルインデニル基、6−tert−ブチルインデニル基、7−tert−ブチルインデニル基、2,3−ジメチルインデニル基、4,7−ジメチルインデニル基、2,4,7−トリメチルインデニル基、2−メチル−4−イソプロピルインデニル基、4,5−ベンズインデニル基、2−メチル−4,5−ベンズインデニル基、4−フェニルインデニル基、2−メチル−5−フェニルインデニル基、2−メチル−4−フェニルインデニル基、2−メチル−4−ナフチルインデニル基、フルオレニル基、2,7−ジメチルフルオレニル基、2,7−ジ−tert−ブチルフルオレニル基、これらの置換体、および、これらが直接連結あるいは、炭素原子、ケイ素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子から選ばれる少なくとも1種の原子を含有する残基を介して連結されている基等があげられる。
【0018】
一般式[1]の遷移金属化合物Mとしては、元素の周期律表(IUPAC1989年)第3〜10族の原子があげられ、その具体例としては、スカンジウム原子、イットリウム原子、チタン原子、ジルコニウム原子、ハフニウム原子、バナジウム原子、ニオビウム原子、タンタル原子、クロム原子、鉄原子、ルテニウム原子、コバルト原子、ロジウム原子、ニッケル原子、パラジウム原子、サマリウム原子、イッテルビウム原子等があげられる。好ましくは、第3〜6族の原子が好ましく、チタン、ジルコニウム、ハフニウムがより好ましい。
【0019】
一般式[1]におけるaは0<a≦nを満足する数を、bは0<b≦nを満足する数を表し、nは遷移金属Mの原子価を満足する数を表す。Lがシクロペンタジエニル骨格を有する配位子である場合、a+b≦nを充足することが好ましい。また、Mが周期律表第4族の原子である場合、bは1または2であることが好ましい。
【0020】
一般式[1]のXのハロゲン原子の具体例としてフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子があげられる。炭化水素基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、イソブチル基、tert−ペンチル基等のアルキル基;ベンジル基等のアラルキル基;フェニル基等のアリール基;アリル基等のアルケニル基等があげられる。また、炭化水素オキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基、イソブトキシ基、ネオペンチルオキシ基、tert−ペンチルオキシ基等のアルコキシ基;ベンジルオキシ基等のアラルキルオキシ基;フェノキシ基等のアリールオキシ基等があげられる。
【0021】
LとXとは、直接連結されていてもよく、炭素原子、ケイ素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子から選ばれる少なくとも1種の原子を含有する残基を介して連結されていてもよい。かかる残基の例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等のアルキレン基;ジメチルメチレン基(イソプロピリデン基)、ジフェニルメチレン基などの置換アルキレン基;シリレン基;ジメチルシリレン基、ジエチルシリレン基、ジフェニルシリレン基、テトラメチルジシリレン基、ジメトキシシリレン基などの置換シリレン基;窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子などのヘテロ原子などがあげられ、特に好ましくはメチレン基、エチレン基、ジメチルメチレン基(イソプロピリデン基)、ジフェニルメチレン基、ジメチルシリレン基、ジエチルシリレン基、ジフェニルシリレン基またはジメトキシシリレン基などがあげられる。
【0022】
Lがシクロペンタジエニル骨格を有する配位子である有機金属錯体としては、メチレン(シクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、メチレン(メチルシクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、メチレン(tert−ブチルシクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、メチレン(テトラメチルシクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、メチレン(トリメチルシリルシクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、メチレン(フルオレニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、イソプロピリデン(シクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、イソプロピリデン(メチルシクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、イソプロピリデン(tert−ブチルシクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、イソプロピリデン(テトラメチルシクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、イソプロピリデン(トリメチルシリルシクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、イソプロピリデン(フルオレニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、ジフェニルメチレン(メチルシクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、ジフェニルメチレン(tert−ブチルシクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライドジフェニルメチレン(テトラメチルシクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、ジフェニルメチレン(トリメチルシリルシクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、ジフェニルメチレン(フルオレニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、ジメチルシリル(シクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、ジメチルシリル(メチルシクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、ジメチルシリル(n−ブチルシクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、ジメチルシリル(tert−ブチルシクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、ジメチルシリル(テトラメチルシクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、ジエチルシリル(テトラメチルシクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、ジメチルシリル(トリメチルシリルシクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、ジメチルシリル(インデニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド、ジメチルシリル(フルオレニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド等があげられる。
【0023】
活性化助触媒成分としては、有機アルミニウムオキシ化合物、有機金属錯体と反応してイオン性の錯体を形成しうるイオン性化合物および有機アルミニウム化合物からなる化合物群から選ばれる少なくとも1種の化合物をあげることができる。
【0024】
有機アルミニウムオキシ化合物としては、テトラメチルジアルミノキサン、テトラエチルジアミノキサン、テトラブチルジアルミノキサン、テトラヘキシルジアルミノキサン、メチルアルミノキサン、エチルアルミノキサン、ブチルアルミノキサン、イソブチルアルミノキサン、ヘキシルアルミノキサンなどがあげられ、それらの混合物を用いてもよい。
【0025】
有機金属錯体と反応してイオン性の錯体を形成しうるイオン性化合物、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリ(n−ブチル)アンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等のホウ素化合物をあげることができる。
【0026】
有機アルミニウム化合物としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリノルマルブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリノルマルヘキシルアルミニウム、ジイソブチルヘキシルアルミニウム、ジイソブチルオクチルアルミニウム、イソブチルジヘキシルアルミニウム、イソブチルジオクチルアルミニウム等があげられる。
【0027】
有機金属錯体と活性化助触媒成分とを接触処理する錯体系触媒の調製において、活性化助触媒成分の使用量は、有機金属錯体の金属原子1molあたり、通常、有機アルミニウムオキシ化合物のアルミニウム原子、ホウ素化合物のホウ素原子または有機アルミニウム化合物のアルミニウム原子換算として、通常、3〜3000molである。
【0028】
重合に用いられる炭化水素溶媒としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサンなどの脂環族炭化水素等があげられ、これらの2種以上を混合しても構わない。また、単量体が炭化水素化合物である場合は、該単量体を溶媒として用いてもよい。
【0029】
工程(I)において、通常、重合温度は50〜90℃であり、重合時間は5秒〜600分である。また、環状オレフィン重合用金属化合物触媒の非水溶性炭化水素系溶媒中での濃度は、非水溶性炭化水素系溶媒1Lあたり、環状オレフィン重合用金属化合物触媒の金属原子換算として、通常、0.0001〜0.01molである。
【0030】
工程(I)での重合反応溶液の重合体濃度は、重合反応溶液を100重量%として、通常、5〜15重量%である。また、重合反応溶液の粘度は、通常、10〜600cp(20℃)である。
【0031】
本発明の工程(II)は、重合反応溶液中での環状オレフィン重合用金属化合物触媒の可溶化状態を維持しながら、重合反応溶液にアルコールを添加する工程である。
【0032】
上記アルコールとしては、メタノ−ル、エタノ−ル、1−プロパノ−ル、2−プロパノ−ル、1−ブタノ−ル、2−ブタノ−ル、iso−ブタノ−ル、tert−ブタノ−ル、1−ペンタノ−ル、2−ペンタノ−ル、3−ペンタノ−ル、tert−アミルアルコ−ル、2−メチル−1−ブタノ−ル、3−メチル−1−ブタノ−ル、3−メチル−2−ブタノ−ル、1−ヘキサノ−ル、2−ヘキサノ−ル、3−ヘキサノ−ル、2−メチル−1−ペンタノ−ル、3−メチル−1−ペンタノ−ル、2−メチル−2−ペンタノ−ル、3−メチル−2−ペンタノ−ル、3−メチル−3−ペンタノ−ル、4−メチル−1−ペンタノ−ル、1、2−エタンジオ−ル、1、2−ブタンジオ−ル、1、4−ブタンジオ−ル、グリセリン、2−メトキシエタノ−ル、2−エトキシエタノ−ル等があげられ、これらの2種以上を混合して用いてもよい。好ましくは、エタノール、2−プロパノール、2−ブタノール、iso−ブタノールである。
【0033】
アルコールの添加量は、重合反応溶液中の環状オレフィン重合用金属化合物触媒の金属に由来する析出物が生成しない量である。該添加量は、金属残渣をより低減する観点から、重合反応溶液中の環状オレフィン重合用金属化合物触媒の金属原子1モルあたり、好ましくは、0.1〜50モルであり、より好ましくは、0.2〜10モルである。なお、析出物の有無は目視により判断される。
【0034】
また、工程(II)では、本発明の効果を損なわない範囲において、アルコールに加えて他の化合物が添加されてもよいが、実質的にアルコールのみを添加することが好ましい。
【0035】
アルコールを添加する温度は、通常、50〜90℃である。また、アルコールは、攪拌下で添加することが好ましい。
【0036】
本発明の工程(III)は、工程(II)の処理後の重合反応溶液に水を添加して、環状オレフィン重合用金属化合物触媒の金属元素に由来する析出物(D)を生成させる工程である。
【0037】
水の添加量は、重合反応溶液中の環状オレフィン重合用金属化合物触媒の金属に由来する析出物が生成する量である。該添加量は、金属残渣をより低減する観点から、重合反応溶液中の環状オレフィン重合用金属化合物触媒の金属原子1モルあたり、好ましくは、10〜100000モルであり、より好ましくは、30〜10000モルである。なお、析出物の有無は目視により判断される。
【0038】
また、工程(III)では、本発明の効果を損なわない範囲において、水に加えて他の化合物が添加されてもよいが、実質的に水のみを添加することが好ましい。
【0039】
水を添加する際の温度は、金属残渣をより低減する観点から、好ましくは10〜90℃であり、より好ましくは10〜30℃である。水の添加は、攪拌下で実施することが好ましい。また、水とともにラヂオライトなどの濾過助剤を同時に添加してもよい。ろ過助剤を使用することで工程(IV)の操作が容易になる場合がある。
【0040】
本発明の工程(IV)は、工程(III)の処理により析出物(D)が生成した重合反応溶液から、析出物(D)を除去する工程である。
【0041】
重合反応溶液から析出物(D)を除去する方法としては、公知の方法、例えば、(1)濾過、(2)遠心分離、(3)吸着剤処理などがあげられる。
【0042】
上記の吸着剤処理としては、(a)重合反応溶液に吸着剤を添加して混合撹袢し、濾過又は遠心分離によって重合反応溶液から析出物(D)を吸着した吸着剤を除く方法、(b)重合反応溶液を吸着剤が充填されたカラムに流通させる方法などがあげられる。
【0043】
上記(a)の重合反応溶液に吸着剤を添加する場合、吸着剤の添加量としては、通常、重合反応溶液中の環状オレフィン重合用金属化合物触媒の金属原子1モルあたり、好ましくは、0.1〜50モルであり、より好ましくは、0.2〜10モルである。
【0044】
吸着剤としては、酸性白土、活性白土、活性炭、珪藻土、シリカゲル、アルミナ、シリカアルミナゲル、ゼオライト、ラヂオライト等があげられる。
【0045】
本製造方法においては、工程(IV)の前ないし後に、炭化水素溶媒相と水相の二相状態となっている重合反応溶液から水相を除去する工程を設けてもよい。該重合反応溶液からの水相の除去は、通常、液液分離により行われる。
【0046】
本発明の工程(V)は、析出物(D)が除去された重合反応溶液から環状オレフィン系重合体を得る工程である。
【0047】
重合反応溶液から環状オレフィン系重合体を得る方法としては、重合体と溶媒とを分離する公知の方法、例えば、加熱減圧濃縮器等の直脱装置によって溶媒を除去する方法、重合反応溶液を環状オレフィン系重合体の貧溶媒中に投入し、環状オレフィン系重合体を析出、分離する方法等があげられる。
【0048】
本発明により得られた環状オレフィン系重合体は、金属化合物触媒に由来する金属残渣の含有量が低減した重合体である。
【0049】
本発明により得られた環状オレフィン系重合体は、光ディスク基板、カメラ用レンズなどの光学材料の分野、ブリスターバック用シートなどの包装材料の分野に好適に用いられる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例および比較例によって本発明をさらに詳細に説明する。
重合体の性質は、下記の方法によって測定した。
【0051】
(1)極限粘度[η]
ウベローデ型粘度計を用い、テトラリンを溶媒として、温度135℃で測定した。
【0052】
(2)ガラス転移点
示差走査熱量計(セイコー電子工業社製 SSC−5200)を用いて、次の条件で吸熱曲線を測定し、該曲線の変曲点よりガラス転移点を求めた。
[測定条件]
状態調整:20℃から200℃まで10℃/分で昇温し、200℃で10分間保持し、次に、200℃から−50℃まで10℃/分で降温し、−50℃で10分間保持した。
測定:状態調整後、直ちに−50℃から300℃まで10℃/分で昇温した。
【0053】
(3)数平均分子量および分子量分布
ゲル・パーミュエーション・クロマトグラフ(日本分光社製)を用いて、次の条件で分子量分布曲線を測定し、該曲線から数平均分子量および分子量分布を求めた。なお、分子量分布は重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で評価した。
[測定条件]
カラム :東ソ(株)社製 TSKgelG6000+G5000+G4000+G3000HXL
測定温度:40℃
移動相 :テトラヒドロフラン
試料濃度:1mg/ml
分子量標準物質:標準ポリスチレン
【0054】
(4)重合体中の単量体単位含有量
エチレン単位とスチレン単位とテトラシクロドデセン単位とは、次の条件で測定したプロトン核磁気共鳴スペクトル(1H−NMR)とカーボン核磁気共鳴スペクトル(13C−NMR)から求めた。
1H−NMR]
装置 日本電子社製 JNM−EX270
測定溶媒 ジクロロメタン−d2
測定温度 室温
13C−NMR]
装置 BRUKER社製 AC250
測定溶媒 オルトジクロロベンゼンと重ベンゼンの85:15(容積比)混合液
測定温度 135℃
【0055】
(5)重合体中の金属原子の含有量
乾式灰化−高周波誘導結合プラズマ発光分析法により測定した。
【0056】
(6)重合体中の塩素原子の含有量
燃焼管式酸素法‐イオンクロマト法により測定した。
【0057】
実施例1
[重合反応溶液の調整]
アルコンで置換した5lのオートクレーブ中に、予めスチレン200ml、テトラシクロドデセン380ml、脱水トルエン1190mlを投入し、次いでエチレンを0.5MPa仕込んだ。イソプロピリデン(シクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロリド23.2mgを脱水トルエン5.8mlに溶解したものと、トリイソブチルアルミニウムのトルエン溶液13.8ml(トリイソブチルアルミニウムとして12mmol)と、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート144mgを脱水トルエン15mlに溶解したものとを加え、重合反応液を70℃で5時間撹拌した。
【0058】
[重合反応溶液の処理]
重合反応溶液に、イソブチルアルコール12gを添加した。次に、該重合反応溶液100重量部に対してトルエン40重量部を添加した。重合反応溶液を10〜30℃に調節して水60重量部とともに珪藻土(昭和化学工業(株)社製ラヂオライト#900)5.3重量部、を添加し、15分間程度撹袢した。重合反応溶液は、灰白色に懸濁し、析出物が生成していた。次に、珪藻土がプレコートされたフィルター(珪藻土のプレコート割合2kg/m2)により、重合反応溶液を濾過した。得られた濾液から水層液を分離除去して有機層の液をアセトン200重量部中に注ぎ、白色固体の重合体を得た。得られた重合体中のアルミニウム原子、チタン原子、及び塩素原子の含有量は、それぞれ1ppm未満であった。
また、得られた重合体の[η]は1.0dl/g、数平均分子量は330,000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は2.0、ガラス転移点は140℃、エチレン単位の含有量は48mol%、テトラシクロドデセン単位の含有量は31mol%、スチレン単位の含有量は20mol%であった。
【0059】
比較例1
重合反応溶液の処理において、「重合反応溶液を10〜30℃に調節して水60重量部を添加し、15分間程度撹袢した。」を行わなかった以外は、実施例1と同様に行い、重合体を得た。得られた重合体中のアルミニウム原子の含有量は2600ppm、チタン原子の含有量は16ppm、塩素原子の含有量は67ppmであった。
【0060】
比較例2
重合反応溶液の処理において、「イソブチルアルコール12gを添加した。」を行わずに、水60重量部を添加し、15分間程度撹袢した以外は、実施例1と同様に行い、重合体を得た。得られた重合体中のアルミニウム原子の含有量は130ppm、チタン原子の含有量は15ppm、塩素原子の含有量は20ppmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(I)〜(V)の全てを有することを特徴とする環状オレフィン系重合体の製造方法。
工程(I):環状オレフィン重合用金属化合物触媒の存在下、環状オレフィンを含む単量体を、炭化水素溶媒中で均一重合する工程
工程(II):重合反応溶液中での環状オレフィン重合用金属化合物触媒の可溶化状態を維持しながら、重合反応溶液にアルコールを添加する工程
工程(III):重合反応溶液に水を添加して、環状オレフィン重合用金属化合物触媒の金属元素に由来する析出物(D)を生成させる工程
工程(IV):析出物(D)が生成した重合反応溶液から、析出物(D)を除去する工程
工程(V):析出物(D)が除去された重合反応溶液から環状オレフィン系重合体を得る工程
【請求項2】
工程(II)でのアルコールの添加量が、環状オレフィン重合用金属化合物触媒の金属原子1モルあたり、0.1〜50モルであり、工程(III)での水の添加量が環状オレフィン重合用金属化合物触媒の金属原子1モルあたり、10〜100000モルであることを特徴とする請求項1に記載の環状オレフィン系重合体の製造方法。
【請求項3】
工程(II)でのアルコールの添加を50〜90℃で行い、工程(III)での水の添加を10〜30℃で行うことを特徴とする請求項1または2に記載の環状オレフィン系重合体の製造方法。
【請求項4】
単量体に炭素原子数2〜20のα−オレフィンを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の環状オレフィン系重合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法より得られる環状オレフィン系重合体。

【公開番号】特開2008−24736(P2008−24736A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−195230(P2006−195230)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】