説明

生分解性樹脂成形物及び成形物の酵素分解性予測方法

【課題】生分解性樹脂、より具体的にはポリカプロラクトン(PCL)樹脂について、酵素(リパーゼ)分解性を制御する方法を提供する。また、示差走査熱量測定(DSC)およびパルスNMR(Nuclear Magnetic Resonance)測定結果から、生分解性樹脂の酵素分解性を予測、評価する方法を提供する。
【解決手段】生分解性樹脂を溶融状態から異なる熱履歴条件で制御することにより、酵素分解性の異なる試料を得ることが可能となる。また、これらの試料について、リパーゼによる酵素分解実験を行い、酵素分解性を評価するとともに、DSC、パルスNMRによる機器分析を行った。その結果、酵素分解性と各機器分析結果との間に関連性が認められた。このことから、より効率的な酵素分解性を有する材料制御方法が提供できるとともに、酵素分解性を事前に評価することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性ポリエステル樹脂の酵素分解性について、溶融後の熱履歴条件を制御することにより、酵素分解性の著しく異なる試料を得る方法を提供する。また、示差走査熱量測定(以下、DSC)、およびパルスNMR(Nuclear Magnetic Resonance)測定により試料の酵素分解性を評価する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
生分解性高分子材料は、プラスチック廃棄物の環境問題への解決策として注目されており、その製品が廃棄される土壌中で微生物による分解酵素や代謝により、最終的に二酸化炭素と水に無機化される。生分解性高分子材料には、使用時における物性と使用後の分解性の双方がともに要求されるため、材料寿命や分解特性を予測した材料設計が必要となる。
【0003】
生分解性樹脂の生分解機構は、主として、材料表面に対して酵素の基質結合部位が吸着し、酵素の活性部位によるエステル結合の分解が考えられている。また、その分解は非結晶領域において優先的に分解が進行することが知られている。しかしながら、材料中の結晶領域に対する分解機構についての報告はほとんどない。
【0004】
これまで、環境中における生分解性を促進するため、成形品表面に対する加工または分解促進材を使用した報告はあるが、生分解性樹脂の成形条件において、酵素分解性を制御できることを報告した例はない。また、材料の酵素分解性について、機器分析による相関を検討した報告も少ない。
【0005】
従来は、生分解の異なる材料の選択、添加技術により、分解性を制御していたが、本技術によれば、同一材料でも分解性制御が可能となるとともに、分解性予測も可能となる。添加技術では、微生物添加(特開2002-356623)、酵素添加(特開2004-75905)、浸食剤配合(特開2006-137917)があるが、結晶構造制御に関しては関係する特許文献は見当たらない。なお、生分解性と結晶高次構造について論じた論文として、
1. W. J. Cook, J. A. Cameron, J. P. Bell, S.J. Huang, J. Polym.
Sci. Polym. Lett. Ed. 19 (1981) 159.
2. P. Jar, S. J. Huang, J. P. Bell, J. A. Cameron, C. Benedict,
Org. Coat. Appl. Polym. Sci. Proc 47 (1982) 45.
3. C. V. Benedict, V. J. Cook, P. Jarret, J. A. Cameron, S. J.
Huang, J. P. Bell, J. Polym. Sci. 28 (1983) 327.
4. M. Mochizuki, M. Hirano, Y. Kanmuri, K. Kudo, Y. Tokiwa, J.
Appl. Polymer Sci. 55 (1995) 289.
が確認されたが、本発明と同様の議論あるいはデータを提示しているものはなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、生分解性樹脂、とりわけ化学合成系のポリカプロラクトン(以下、PCL)樹脂について、樹脂材料を効率的に酵素分解させるための分解制御方法、および機器分析を用いた酵素分解性の評価方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、生分解性ポリエステル樹脂、とりわけ化学合成系のPCL樹脂について、溶融後に熱履歴条件の異なる試料を作製した。これらの試料について、酵素(リパーゼ)分解実験により酵素分解性を評価した後、熱融解特性を評価のためDSC測定、分子運動性および高次構造評価のためパルスNMR測定を実施した。
【0008】
具体的解決手段として本発明は、次の(1)〜(15)に示される。
(1)生分解性樹脂からなる成形物において、補外融解開始温度Ti(単位:℃)が、示差走査熱量測定の融解ピーク温度Tp(単位:℃)に対して、(Tp−Ti)/Tp ≧0.05
であることを特徴とする生分解性樹脂からなる成形物を提供する。これにより、成形物の生分解性を予測できる。
(2)上記(1)記載の生分解性樹脂からなる成形物において、前記生分解性樹脂がPCL樹脂であり、平均分子量が1万〜10万の範囲であり、Tpが55℃以下であることを特徴とする生分解性樹脂からなる成形物を提供する。これにより、顕著な生分解性を有するPCL樹脂成形物が提供可能となる。
(3)生分解性樹脂からなる成形物の溶融成形法を用いた製造方法において、成形後の冷却条件を制御することを特徴とする、生分解性樹脂からなる成形物の溶融成形法を用いた製造方法を提供する。これにより、生分解性が制御された生分解性樹脂の製造が可能となる。
(4)上記(3)記載の製造方法において、該冷却条件が室温以下の温度に急冷する工程と、室温に自然冷却する工程とを特徴とする生分解性樹脂からなる成形物の溶融成形法を用いた製造方法を提供する。これにより、生分解性が制御された生分解性樹脂の製造が可能となる。
(5)上記(4)記載の製造方法において、前記室温以下の温度が−80〜10℃であり、前記保持時間が0.1分以上であることを特徴とする生分解性樹脂からなる成形物の溶融成形法を用いた製造方法を提供する。これにより、顕著な生分解性を有する生分解性樹脂が製造可能となる。
(6)生分解性樹脂の酵素分解性を予測する方法において、示差走査熱量測定を用いることを特徴とする生分解性樹脂の酵素分解性を予測する方法を提供する。これにより、生分解性樹脂の酵素分解性予測が可能となる。
(7)上記(6)記載の生分解性樹脂の酵素分解性を予測する方法において、前記生分解性樹脂が成形物作成時の熱履歴のみが異なるものであり、示差走査熱量測定における融解開始温度の高・低により酵素分解性が各々悪、良であると判断することを特徴とする生分解性樹脂の酵素分解性を予測する方法を提供する。これにより、生分解性樹脂の酵素分解性予測が可能となる。
(8)生分解性樹脂の酵素分解性評価装置において、少なくとも示差走査熱量測定機構を備えることを特徴とする生分解性樹脂の酵素分解性評価装置を提供する。これにより、生分解性樹脂の酵素分解性予測が可能となる装置開発を行うことができる。
(9)上記(8)記載の生分解性樹脂の酵素分解性評価装置において、示差走査熱量測定における融解開始温度の高・低により酵素分解性が各々悪、良であると判断する機構を備えることを特徴とする生分解性樹脂の酵素分解性評価装置を提供する。これにより、生分解性樹脂の酵素分解性を装置上で予測することが可能となる。
(10)生分解性樹脂の酵素分解性を予測する方法において、パルスNMR測定を用いることを特徴とする生分解性樹脂の酵素分解性を予測する方法を提供する。これにより、生分解性樹脂の酵素分解性予測が可能となる。
(11)上記(10)記載の生分解性樹脂の酵素分解性を予測する方法において、前記生分解性樹脂が成形物作成時の熱履歴のみが異なるものであり、パルスNMR測定によって得られた自由誘導減衰曲線を緩和時間の異なる3つの成分により解析し、各々の成分割合により酵素分解性を判断することを特徴とする生分解性樹脂の酵素分解性を予測する方法を提供する。これにより、生分解性樹脂の酵素分解性予測が可能となる。
(12)上記(11)記載の生分解性樹脂の酵素分解性を予測する方法において、前記3つの成分のうち、中間の緩和時間を持つ成分割合が、最も長い緩和時間を持つ成分割合よりも高い場合に、酵素分解性が良好であると判断することを特徴とする、生分解性樹脂の酵素分解性を予測する方法を提供する。これにより、生分解性樹脂の酵素分解性予測が可能となる。
(13)生分解性樹脂の酵素分解性評価装置において、少なくともパルスNMR測定機構を備えることを特徴とする生分解性樹脂の酵素分解性評価装置を提供する。れにより、生分解性樹脂の酵素分解性予測が可能となる装置開発を行うことができる。
(14)上記(13)記載の生分解性樹脂の酵素分解性評価装置において、パルスNMR測定により得られた自由誘導減衰曲線を緩和時間の異なる3つの成分により解析し、各々の成分割合により酵素分解性を判断する機構を備えることを特徴とする生分解性樹脂の酵素分解性評価装置を提供する。これにより、生分解性樹脂の酵素分解性を装置上で予測することが可能となる。
(15)上記(14)記載の生分解性樹脂の酵素分解性評価装置において、前記3つの成分のうち、中間の緩和時間を持つ成分割合が、最も長い緩和時間を持つ成分割合よりも高い場合に、酵素分解性が良好であると判断する機構を備えることを特徴とする生分解性樹脂の酵素分解性評価装置を提供する。これにより、生分解性樹脂の酵素分解性を装置上で予測することが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
生分解性樹脂材料を溶融後、熱履歴条件の制御により、酵素分解性を制御した材料の作製が可能となる。このことは、成形品に対して分解が促進される処理を施す従来の方法とは異なり、成形加工の段階で酵素分解性の制御が可能であることを意味している。また、パルスNMR三成分解析やDSC測定結果と酵素分解実験結果に相関が認められたことから、パルスNMR測定およびDSC測定の結果から、事前に酵素分解性を予測することや、分解前における材料評価が可能となる。したがって、本発明による酵素分解性制御により、分解寿命を予測した材料設計が可能となり、使用目的に応じた生分解性高分子材料の利用の拡大につながることが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、生分解性ポリエステル樹脂、とりわけ化学合成系のPCL樹脂について、結晶化特性の制御により、樹脂材料を効率的に酵素分解させるための分解制御方法、および酵素分解性を予測するための新たな評価法を提供する。また、この方法により優れた酵素分解性を付与した生分解性ポリエステル樹脂の作製に関する知見を与える。
【実施例】
【0011】
(フィルム試料作製方法)
生分解性樹脂にはPCL樹脂(平均分子量約40,000)を使用し、熱プレスにより、厚さ約100mmのフィルム試料を多数作製した。熱プレスの条件は、100℃、10MPa、10秒間であった。結晶化特性の異なる試料を作製するため、プレス後、以下のA〜Cの熱履歴の異なる3種の条件で実施した。
A:0℃に急冷し、1min間保持 B:室温自然冷却(26±1℃) C:Bに対して40℃、24時間保持(以下、A~Cを試料名として使用する。)
ここで、試料Aの冷却温度は、後に実施する酵素(リパーゼ)分解実験において、顕著な分解が進行する温度であればよい。また、試料Aの冷却時間は、フィルムが設定温度まで冷却されるのに要する時間であればよい。
【0012】
(酵素分解実験)
試料A〜Cについて、酵素(リパーゼ)分解実験を実施した。リパーゼには和光純薬工業(株)製 Lipase F-AP15 (Rhizopus
oryzae由来)を使用し、0.025Mリン酸緩衝液(pH7.0)で1.0mg/mLのリパーゼ溶液を調製した。試料は10mm×10mmにカットし、重量測定を行った。酵素分解処理実験は、試料1切片とリパーゼ溶液2mlを試験管内に入れ、40℃の水浴中で振とうして行った。所定の時間後に試験管から試料を取り出し、純水で洗浄した。その後、40℃で48時間乾燥し、重量測定を行い、分解前重量に対する重量減少率(Weight Loss(%))を求め、酵素分解性を評価した。
【0013】
その結果得られた、試料重量減少率と酵素分解処理時間との関係を図1に示す。試料B、Cでは、酵素分解処理時間18分までは、試料重量減少がほとんど認められなかったのに対して、試料Aでは顕著な重量減少が認められた。このことから、試料Aは、試料B、Cと比較して、明確な酵素分解性を有することが認められた。PCL樹脂フィルム作製において、冷却条件等の熱履歴条件を制御することにより、酵素分解性の大きく異なる試料を得ることができた。
【0014】
(DSC測定による熱融解特性評価)
試料A〜Cについて、DSC測定を実施した。分析には、Perkin Elmer製DSC7を用い、昇温速度5℃/min、N2雰囲気下で、40〜70℃の温度範囲で測定を行い、DSCサーモグラムを求めた。その結果を図2に示す。補外融解開始温度Ti(℃)は、DSCサーモグラムにおいて、融解前の低温側ベースラインを高温側に延長した直線と、融解ピークの低温側の曲線にこう配が最大となる点で引いた接線の交点の温度として求めた。融解ピーク温度Tp(℃)は、融解ピークの頂点の温度とした。また、得られたDSCサーモグラムの融解曲線から融解熱量(Area(mJ))を求め、これより単位試料重量あたりの融解熱量(ΔHm(J/g))および結晶化度(Crystallinity(%))を算出した結果を図3に示す。ここで、結晶化度は、本測定から求めた単位重量あたりの融解熱量(ΔHm)を、文献(Tsuji H, Ono T, Saeki T, Daimon
H, Fujie K. Polymer Degradation and
Stability 89 (2005) 336.)において報告されている100%結晶における単位重量あたりの融解熱量(142J/g)で割った値として求めた。
【0015】
各試料の融解ピーク温度は、試料A、B、Cの順に低く、試料Aは試料B、Cに比べ、補外融解開始温度が顕著に低く、各試料は異なる融解曲線を示した。しかしながら、各試料において、融解熱量および結晶化度には顕著な差異は認められなかった。
【0016】
今回、試料AのDSCサーモグラムから、熱融解特性と酵素分解性との関連性が示唆された。また、酵素分解性が高かった試料Aの結晶化度が、試料B、Cと顕著には異なっていないことから、結晶化度のみでは酵素分解性を評価できないと考えられる。そこで、分子運動性の観点から高分子鎖の高次構造を評価することのできるパルスNMR測定による評価を実施した。
【0017】
(パルスNMR測定による分子運動性評価)
本発明において実施した、フィルム試料をパルスNMRにより測定する方法を説明する。まず、フィルム試料高分子鎖中の水素原子核(1H)に特定の共鳴周波数のパルス電磁波を照射し、試料の磁気モーメント強度の時間変化を測定し、自由誘導減衰(FID:Free Induction Decay)曲線を得る。試料において磁気モーメント強度の緩和時間の異なる複数の成分が存在する場合、FID曲線はそれらの成分の和として表される。FID曲線を複数の成分の和として解析する場合、最小二乗法によりローレンツ関数やガウス関数等にフィッティングさせ、それぞれのスピン−スピン緩和時間(T2)を求める。
【0018】
スピン−スピン緩和について、以下の通り説明する。ラジオ波パルスを照射した直後には核スピンは同じ方向であり位相がそろっている状態であるが、核スピン同士が乱雑な分子運動の影響を受け、次第にランダムな状態になる過程で、最終的にシグナルが得られなくなる緩和機構をさす。スピン−スピン緩和時間(T2)は、分子運動の情報を得るための重要なパラメーターとなる。
【0019】
本明細書においては、JEOL製パルスNMR装置(JNM-MU25A)を用いて、各試料における水素原子核(1H)のスピン−スピン緩和時間(T2)を、Solid-Eco法により、観測周波数25MHz、パルス幅2.0mS、パルス間隔13.0mS、温度40℃の条件で3回測定を行い、その平均値を求めた。
【0020】
核磁気の緩和時間測定により得られた自由誘導減衰(FID)曲線は、三成分Weibull関数分割により精度良くトレースできた。緩和時間の長い順に各成分をlong(CL)、medium(CM)、short(CS)とし、それぞれの緩和時間T2L、T2M、T2Sおよび各成分の割合FL、FM、FSを求めた。
【0021】
本法により観測される磁化は次式で与えられ、各成分の緩和時間については、上記より以下の近似式により求められる。
【0022】
(数1)
M(t)=Σ M0i
exp{(−t/T2i)mi} (i=L, M, S)(miはワイブル係数)
≒M0L exp (−t/T2L)+M0M exp (−t/T2M)+M0S
exp (−t/T2S) 2
ここで、tは時間、M0iは各i成分のt=0における信号強度、また、T2iは各i成分のT2を表し、Σはiについての合計を表す。また、CL、CMをmi=1(ローレンツ型)、CSをmi=2(ガウス型)として解析した。
各成分iの成分割合Fiは、
【0023】
(数2)
Fi=M0i/ΣM0i (i=L、M、S)
で表される。
緩和時間の長い順に各成分をlong(CL)、medium(CM)、short(CS)とし、それぞれの緩和時間T2L、T2M、T2Sを図4、成分の割合FL、FM、FSを図5に示す。
【0024】
図4より、T2Lでは、試料C、B、Aの順に緩和時間が長かった。T2Mでは、各試料間に明確な違いは認められなかった。T2Sでは、各試料間の差異はわずかであるが、試料A、B、Cの順に緩和時間が長かった。
【0025】
図5より、試料Aは試料B、Cに対してFMが顕著に高く、FLが顕著に低かった。以上より、パルスNMR測定による三成分解析により、各試料間の高次構造の違いが認められた。
【0026】
一般に、緩和時間が長いほど分子運動性が高いとみなすことができる。本法による三成分解析において、成分CSの緩和時間T2Sは結晶性領域における分子運動性を反映していると考えられる。一方、CM、CLはいずれも非晶性領域における成分と考えられ、その中でCMは、比較的分子運動性が束縛された非晶領域、CLはフリーな非晶領域と考えられる。本結果から、酵素分解性が顕著であった試料Aでは、結晶部の分子運動性、および分子運動性の異なる非晶部成分の割合に差異が認められたと考えられる。
【0027】
酵素分解性が高かった試料Aにおいて、CLとの関連が予想されたが、試料C、BよりもT2Lは低かった。しかしながら、結晶性領域と考えられる成分の緩和時間T2Sにおいて、試料Aは試料B、Cに対してわずかながら高かった。このことは、結晶性領域における分子運動性と酵素分解性との相関を示唆するものと考えられる。
【0028】
また、試料Aでは、試料B、Cに対してFMが顕著に高く、FLが顕著に低かったことから、酵素反応が効率良く進行するためには、中間の緩和時間(T2M)を与える程度の分子運動性を有する成分が十分にあることが重要であると考えられる。
【0029】
生分解性樹脂には、化学合成系のポリカプロラクトン(PCL)の他、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンアジペート/サクシネート(PBSA)、ポリエチレンサクシネート(PES)、ポリエステルカーボネート(PEC)、微生物産生系のポリヒドロキシブチレート(PHB)をはじめとするポリヒドロキシアルカン酸(PHA)が挙げられる。また、これらの共重合品やブレンド品も含まれる。これら、生分解性ポリエステル樹脂においても、同様な熱処理を施すことによって、高分子高次構造を制御し、生分解性を制御することが可能となる。また、これら高次構造の特徴は、DSC測定、パルスNMR測定により評価できるものである。
【0030】
なお、生分解評価に有効な酵素には、リパーゼ、エステラーゼ、プロテアーゼ、クチナーゼが挙げられる。本発明においては、Rhizopus
oryzae由来リパーゼ(Lipase F-AP15)が望ましい。生分解性樹脂の分解能を有する微生物として、例えばRizopus属、Aspergillus属、Amycolatopsis属、Burkholderia属、Candida属、Penicillium属、Pseudomonas属、Mucor属、Bacillus属、Saccharothrix属、Lentzea属、Kibdelosporangium属、Streptmyces属等が挙げられ、これら微生物によっても同様に生分解性を評価することができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
生分解性ポリエステル樹脂を成形加工する際に、酵素分解性を予測したうえでの材料設計が可能となる。今回実施した条件において、DSC測定結果およびパルスNMR測定による三成分解析結果は、酵素分解性に対する関連性を示唆しており、酵素分解性の事前評価法として有効である。本発明により得られた知見により、生分解性プラスチックの適正使用と分解予測技術の確立へ寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】酵素(リパーゼ)分解実験によるPCL樹脂フィルム(A、B、C)の試料重量減少率(Weight Loss(%))と酵素分解処理時間(Time(h))との関係を示す図である。
【図2】PCL樹脂フィルム(A、B、C)の融解挙動を示すDSCサーモグラム(Heat FlowとTemperature(℃)との関係図)である。
【図3】PCL樹脂フィルム(A、B、C)について、DSC測定結果から求めた融解エンタルピーおよび結晶化度を示す図表である。
【図4】PCL樹脂フィルム(A、B、C)について、パルスNMR測定による三成分解析結果から求めた各成分の緩和時間(T2)を示す図である。
【図5】PCL樹脂フィルム(A、B、C)について、パルスNMR測定による三成分解析結果から求めた各成分の成分割合を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性樹脂からなる成形物において、補外融解開始温度Ti(単位:℃)が、示差走査熱量測定の融解ピーク温度Tp(単位:℃)に対して、(Tp−Ti)/Tp ≧0.05
であることを特徴とする生分解性樹脂からなる成形物。
【請求項2】
請求項1に記載の生分解性樹脂からなる成形物において、前記生分解性樹脂がポリカプロラクトンであり、平均分子量が1万〜10万の範囲であり、Tpが55℃以下であることを特徴とする生分解性樹脂からなる成形物。
【請求項3】
生分解性樹脂からなる成形物の溶融成形法を用いた製造方法において、成形後の冷却条件を制御することを特徴とする、生分解性樹脂からなる成形物の溶融成形法を用いた製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の製造方法において、該冷却条件が室温以下の温度に急冷する工程と、室温に自然冷却する工程とを特徴とする生分解性樹脂からなる成形物の溶融成形法を用いた製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の製造方法において、前記室温以下の温度が−80〜10℃であり、前記保持時間が0.1分以上であることを特徴とする生分解性樹脂からなる成形物の溶融成形法を用いた製造方法。
【請求項6】
生分解性樹脂の酵素分解性を予測する方法において、示差走査熱量測定を用いることを特徴とする生分解性樹脂の酵素分解性を予測する方法。
【請求項7】
請求項6に記載の生分解性樹脂の酵素分解性を予測する方法において、前記生分解性樹脂が成形物作成時の熱履歴のみが異なるものであり、示差走査熱量測定における融解開始温度の高・低により酵素分解性が各々悪、良であると判断することを特徴とする生分解性樹脂の酵素分解性を予測する方法。
【請求項8】
生分解性樹脂の酵素分解性評価装置において、少なくとも示差走査熱量測定機構を備えること
を特徴とする生分解性樹脂の酵素分解性評価装置。
【請求項9】
請求項8に記載の生分解性樹脂の酵素分解性評価装置において、示差走査熱量測定における融解開始温度の高・低により酵素分解性が各々悪、良であると判断する機構を備えることを特徴とする生分解性樹脂の酵素分解性評価装置。
【請求項10】
生分解性樹脂の酵素分解性を予測する方法において、パルスNMR(Nuclear Magnetic
Resonance)測定を用いることを特徴とする生分解性樹脂の酵素分解性を予測する方法。
【請求項11】
請求項10に記載の生分解性樹脂の酵素分解性を予測する方法において、前記生分解性樹脂が成形物作成時の熱履歴のみが異なるものであり、パルスNMR測定によって得られた自由誘導減衰曲線を緩和時間の異なる3つの成分により解析し、各々の成分割合により酵素分解性を判断することを特徴とする生分解性樹脂の酵素分解性を予測する方法。
【請求項12】
請求項11に記載の生分解性樹脂の酵素分解性を予測する方法において、前記3つの成分のうち、中間の緩和時間を持つ成分割合が、最も長い緩和時間を持つ成分割合よりも高い場合に、酵素分解性が良好であると判断することを特徴とする、生分解性樹脂の酵素分解性を予測する方法。
【請求項13】
生分解性樹脂の酵素分解性評価装置において、少なくともパルスNMR測定機構を備えること
を特徴とする生分解性樹脂の酵素分解性評価装置。
【請求項14】
請求項13に記載の生分解性樹脂の酵素分解性評価装置において、パルスNMR測定により得られた自由誘導減衰曲線を緩和時間の異なる3つの成分により解析し、各々の成分割合により酵素分解性を判断する機構を備えることを特徴とする生分解性樹脂の酵素分解性評価装置。
【請求項15】
請求項14に記載の生分解性樹脂の酵素分解性評価装置において、前記3つの成分のうち、中間の緩和時間を持つ成分割合が、最も長い緩和時間を持つ成分割合よりも高い場合に、酵素分解性が良好であると判断する機構を備えることを特徴とする生分解性樹脂の酵素分解性評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−222758(P2008−222758A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−59521(P2007−59521)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(591032703)群馬県 (144)
【Fターム(参考)】