説明

生分解性複合系およびその使用

本発明は、少なくとも1種類の生分解性ブロックコポリエステルウレタン(PEU)および少なくとも1種類のポリヒドロキシアルカノエート(PHA)を含有する少なくとも1種類の生分解性ブレンド、もしくは多糖類および/またはその誘導体を含む充填剤、さらには生体適合性添加剤を含む複合系に関する。この種類の複合系は、成形品、成形部品または押出品を製造するために使用される。さらに、本発明は、複合系を使用するための可能性に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種類の生分解性ブロックコポリエステルウレタン(PEU)および少なくとも1種類のポリヒドロキシアルカノエート(PHA)を含有する、少なくとも1種類の生分解性ブレンド、もしくは多糖類および/またはその誘導体を含む充填剤、ならびに生体適合性添加剤を含む複合系に関する。かかる種類の複合系は、成形品、成形部品または押出品を製造するために用いられる。さらに、本発明は複合系の使用可能性に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばポリ−(R)−3−ヒドロキシブチレート(R−PHB)などのポリ−(R)−3−ヒドロキシアルカノエート(PHA)は、環境上の観点、さらに耐久性の観点から、ほぼ理想的なポリマー材料である。PHAは、製糖産業の廃棄物、すなわち再生可能原料から産業的規模での細菌発酵によって製造される。PHAは、プラスチック材料が一般に使用される条件下では安定性を有するが、ゴミ集積場または堆肥化処理では数週間から数カ月間以内に生分解させることができる。R−PHBは熱可塑性で加工することができ、熱可塑性プラスチックとして容易にリサイクルできる。R−PHBは、生体適合性、生分解性であり、インプラント材料の成分として、および細胞増殖のための優れた基質として使用できる。R−PHBの分解によって、立体規則性の有機合成構造単位を入手することができた。
【0003】
しかし、細菌から得られるR−PHBは、多くの用途にとって不都合な材料特性を有する。R−PHBは脆性かつ非弾性であり、透明フィルムの製造は不可能である。177℃という融点は極めて高いため、熱可塑性加工のための温度範囲はおよそ210℃での分解開始までの相当に狭い範囲にしかならない。これらの欠点の全ては、R−PHBの高結晶化度の結果として生じる。最終的に、加工処理中に分解する細胞断片が生物学的材料の再処理後に残留することも多く、これは不快臭を引き起こすという問題がある。
【0004】
熱可塑性加工処理の難点を排除するために、特に2つの方法が採用されてきた。このため、一方では物理的手段によって、特に結晶化を遅延させることによって、低い加工処理温度を設定することが試みられてきた。一方、コポリマー、特にポリ−3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシバレレートの生成を可能にする細菌培養法および基質が用いられている。前者の例ではエージングが再結晶化、すなわち脆化を引き起こす。後者の例では実際に融解温度の低下および弾性の上昇は達成されるが、細菌共重合によって特性を制御する可能性は、狭い限界内でしか得られない。
【0005】
ポリ−(R)−3−ヒドロキシブチレート−コバレレート(PHB−HV)は実際にはより低融点である;しかし、細菌はわずかに小さな比率(約12%まで)のヒドロキシバレレート(HV)しか組み入れられず、優れた材料特性はHVの比率が約20%を超える場合にしか予想し得ない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のことから、本発明の目的は上記の従来技術の欠点を回避することであり、さらに、その弾性が制御可能なポリマー材料であって、前記材料は完全に生分解性であることが意図されるポリマー材料を提供するポリマー系を提供することである。
【0007】
かかる目的は、請求項1に記載の特徴を有する包括的複合系により、および請求項23にしたがって製造された成形品、成形部品および押出品により達成される。請求項24では、本発明による複合系の使用について記載する。他の従属請求項では、有益な展開を明らかにする。
【0008】
本発明によれば、少なくとも1種類の生分解性ブロックコポリエステルウレタンを含む複合形が提供されるが、前記ブロックコポリエステルウレタンは、ポリヒドロキシアルカノエートジオールを含む硬質セグメントおよび共成分としてジオールおよびジカルボン酸もしくはヒドロキシカルボン酸およびそれらの誘導体から出発するポリエステルジオール−および/またはポリエステルエーテルジオール軟質セグメントから、二官能性イソシアネート、さらに少なくとも1種類のポリヒドロキシアルカノエート、任意で多糖類および/またはその誘導体を含む充填剤、および任意でさらに生体適合性添加剤と架橋結合させることによって形成される。本発明による複合系にとっては、ブロックコポリエステルウレタンがポリヒドロキシアルカノエートジオールを含む硬質セグメントおよび共成分としてジオールおよびジカルボン酸もしくはヒドロキシカルボン酸およびそれらの誘導体から出発するポリエステルジオール−および/またはポリエステルエーテルジオール軟質セグメントから、二官能性イソシアネートを用いて架橋結合させることによって形成されることが不可欠である。PEUおよびPHAを含む複合系は、好ましくはブレンド、ポリマー混合物および/またはポリマー合金として存在する。
【0009】
意外なことに、生合成PHAの特性は実質的に、詳細には相当に少量のPEUを混合またはブレンドすることによって改善されることが発見された。詳細には、以下の利点が生まれる:
− 融点が低下する。
− 脆性の材料特性が克服される。
− 高衝撃強度もしくは切り欠き衝撃強度を備える硬質/頑強な材料が製造される。
− 材料の硬度は、亜麻、麻または木質繊維を混合することによって、さらに増加させることができる。
【0010】
第2の興味深い側面は、生態学的側面である:本発明にとって適切な混合物は、再生可能な原料からは得られない物質成分をおよそ2〜5%しか含有しておらず、このため完全に再生可能な原料から得られる生体材料、すなわち循環経済の発想に大きく近づく。
【0011】
ポリエステルウレタン類を混合することによって製造される本発明による材料のまた別の利点は、PHBが出発成分であるか、または添加剤として添加できるが、有益にはわずかな量でしか使用されないそれらの単独使用とは対照的に、本発明によれば、現在では成分PEUが主要成分PHAへの少量の混入物でのみ用いられることにある。その結果として材料の製造における複雑性が低下するが、それは、PHAは生合成材料として直接的に使用できても、PEUはPHA類から転換させるために2段階のプロセスを必要とするためである。そのため、同一量の材料を製造するために必要とされる溶媒およびエネルギーに対する要件が実質的に減少する。
【0012】
このため、ブレンド内のブロックコポリエステルウレタンの重量比率が0.1〜50重量%、好ましくは5〜35重量%、特に好ましくは5〜25重量%であり、ブレンド内のポリヒドロキシアルカノエートの重量比率が99.9〜50重量%、好ましくは95〜65重量%、特に好ましくは95〜75重量%であれば有益である。
【0013】
ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)は、具体的には脂肪族、芳香脂肪族または芳香族側鎖を含有するポリ−2−ヒドロキシアルカノエート、ポリ−3−ヒドロキシアルカノエートおよび/またはポリ−4−ヒドロキシアルカノエートおよび/またはポリヒドロキシアルカノエートである。特に、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)は、ポリ−(R)−3−ヒドロキシブチレート(PHB)および/またはポリ−(R)−3−ヒドロキシブチレート−co−バレレート(PHB−co−HV)からなる群より選択される。
【0014】
好ましくは、本複合系の弾性、強靱性および引張伸びは、詳細にはブロックコポリエステルウレタンおよび充填剤の量比率によって調整される。
【0015】
硬質セグメントとして用いられるポリヒドロキシアルカノエートジオールは、ポリ−2−ヒドロキシアルカノエートジオール、ポリ−3−ヒドロキシアルカノエートジオールおよび/またはポリ−4−ヒドロキシアルカノエートジオールである、および/またはポリヒドロキシアルカノエートジオールは好ましくは脂肪族、芳香脂肪族または芳香族側鎖を含む。特に、ポリヒドロキシアルカノエートジオールは、ポリ−3−ヒドロキシブチレートジオール(PHBジオール)および/またはポリ−(R)−3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシバレレートジオール(PHB−co−HV−ジオール)を含む群より選択される。
【0016】
硬質セグメントの生成は、2〜10個のC原子を含有しており、好ましくは脂肪族、脂環式、芳香脂肪族および/または芳香族である、しかしさらにまたオリゴ、もしくはポリエチレンジオール、例えばポリエチレングリコール−200もしくは−300であってもよいジオールを用いた再エステル化によって実施される。特に好ましくは、ジオールとして1,4−ブタンジオールまたはジエチレングリコールが用いられる。
【0017】
硬質セグメントの生成は、さらにまたトリオールを用いて実施することもできる。この際はグリセリンが特に好ましい。
【0018】
軟質セグメントは、ジオールを用いたジカルボン酸の再エステル化によって生成される。ジカルボン酸は、この際は好ましくは脂肪族、脂環式、芳香脂肪族および/または芳香族である。再エステル化のためには、脂肪族、脂環式、芳香脂肪族および/または芳香族ジオール類が好ましい。
【0019】
この場合、1,4−ブタンジオールまたはジエチレングリコールが特に好ましい。
【0020】
好ましくは、軟質セグメントとして、ポリブチレングリコールアジペートジオール(PBAジオール)が用いられる。
【0021】
さらに、本発明によるブロックコポリエステルウレタンは、架橋メンバーとしての、好ましくは脂肪族、脂環式、芳香脂肪族および/または芳香族である二官能性イソシアネートから構築される。二官能性イソシアネートは、特に好ましくは、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートおよびイソホロンジイソシアネートの群より選択される。
【0022】
生分解性充填剤としては、好ましくはデンプンおよびその誘導体、シクロデキストリン類およびセルロース、紙粉およびセルロース誘導体、例えば酢酸セルロース類もしくはセルロースエーテル類の群由来である多糖類をベースとする充填剤が用いられる。セルロース誘導体として特に好ましいのは、メチルセルロース、エチルセルロース、ジヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシブチルセルロース、メチルヒドロキシブチルセルロース、エチルヒドロキシブチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシアルキルセルロース、スルホアルキルセルロースおよびシアノエチルセルロースの群からの化合物がある。
【0023】
充填剤は、好ましくは天然生成物であり、好ましくは、例えば亜麻繊維、麻、または木粉としての繊維形で用いられる。
【0024】
上述した主要成分に加えて、本複合系は、また別の添加剤を含むことができる。この場合には、好ましくは生体適合性接着剤、着色顔料または例えばタルクなどの離型剤が含まれる。さらにまた別の添加剤として、カーボンブラックを含めることができる。添加剤として特に好ましいのは、生体適合性添加剤としてのポリエチレングリコールおよび/またはポリビニルアルコールである。
【0025】
個別成分の量比率に関して、本複合系は制限されない。本複合系は、好ましくは1〜90重量%、特に好ましくは1〜70重量%の充填剤を含有している。これらの量の詳細は、全複合系に適用される。
【0026】
好ましい実施形態では、本複合系は、1つの充填剤層が少なくとも片側および/または両側の領域において本ブレンドでコーティングされている多糖類をベースとする層状で構築される。
【0027】
また別の好ましい実施形態では、少なくとも1種類のまた別のポリマーが、本複合系とブレンドされる、または合金化される。
【0028】
本発明によれば、同様に請求項1〜22の一項に記載の複合系から製造されている成形品、成形部品および押出品が提供される。
【0029】
本発明による複合系は、コーティング材料、ホイル、フィルム、積層品、成形品、成形部品、押出品、容器、包装材料、コーティング材料および薬剤ディスペンサーを製造するために用いられる。この種類の材料にとっての応用分野は極めて広く、例えば、自動車分野における内部空間のドアのサイドカバーおよび付属品、家具用のシートシェルおよびシートバック、スネイルトラップ、ガーデニング用の埋込み型ライト、ゴルフのティー、玩具分野のバッテリーホルダー、包装分野における保護部材、建築業におけるディスポーザブル部品、さらには例えばクリスマス用装飾品が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】ポリエステルウレタンを調製するための合成を示す図である。
【図2】PHBジオールのH核共鳴スペクトル(400MHz)を示す図である。
【図3】ポリエステルウレタン(50:50)のH核共鳴スペクトル(400MHz)を示す図である。
【図4】亜麻粉または木粉充填剤を含むバイオポリエステルウレタン複合体の切り欠き衝撃強度の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下において、下記の図面および実施例を参照しつつ、前記主題を本明細書に示した特定実施形態に制限することなく、該主題についてより詳細に説明する。
【実施例1】
【0032】
ブロックコポリエステルウレタン類の生成
ポリエステルウレタンは、W.Hirtら(7,8)による明細書に基づくG.R.Saad(G.R.Saad,Y.J.Lee,H.Seliger,J.Appl.Poly.Sci.83(2002)703−718)による変法にしたがって調製する。この合成は2段階で実施する。細菌性ポリ−3−ヒドロキシブチレート(PHB Industrial社製)は、最初に1,4−ブタンジオールを用いて触媒としての硫酸の存在下で変換させる。洗浄した後、得られた短鎖ブチレングリコール−ビス−(ポリ−(R)−3−ヒドロキシブチレート)−ジオール(PHBジオール)は、共成分としてのポリ(ブチレンアジペート)−ジオール(PBAジオール)およびヘキサメチレンジイソシアネートを用いて同様に触媒的に重付加させると、ポリエステルウレタンが形成される。図1は、ポリエステルウレタンを調製するための合成を示す図である。
【0033】
1.1.ポリ(ブチレン−(R)−3−ヒドロキシブチレート)−ジオールの調製
ポリ(ブチレン−(R)−3−ヒドロキシブチレート)−ジオールは、様々なバッチで生成した。細菌性PHBをクロロホルム中に溶解させ、61℃で1,4−ブタンジオールによりエステル交換した。p−トルエンスルホン酸は、触媒として使用した。その後の沈殿および再洗浄によって、生成物は固体形で得られた。
【0034】
個別の試験において、例えばPHBの形態、溶媒の量、触媒の量、攪拌時間、処理法などの様々なパラメータを変動させた。
【0035】
粉砕した繊維状のPHBを使用した。選択した条件下では、PHBを完全に溶解させることができなかった。このため1,4−ブタンジオールおよびp−トルエンスルホン酸の添加前のフラスコ内容物はペースト状であったが、それでも熱を加えると適切に攪拌することができた。反応時間が増加するに伴って、反応材料はますます液体状になったが、混濁したままであった。さらに、触媒量への反応時間のほぼ線形の依存性を確認することができた。
【0036】
メタノール、ジエチルエーテル、トルエンおよびシクロヘキサン中のクロロホルム溶液の沈殿性には大きな差があった。メタノール、トルエンおよびシクロヘキサンを用いると、吸引して取り除き、洗浄するのが困難である極めて微細な結晶状沈殿物が生成されたが、ジエチルエーテルは極めて清浄な粗い結晶状材料を製造した。対照的に、分子量はほとんど相違しない。シクロヘキサンについてより正確に調べた。これにより溶媒/沈殿剤濃度とは無関係に微細な結晶状生成物のみが生成された。反応溶液をその場に置いてシクロヘキサンを滴下すると、沈殿は完全に相違する挙動を示す。最初に混濁した後、生成物は極めて粗い粉末状で生成され、まさにジエチルエーテルからの固体と同様に良好に濾過することができた。全ての固体は、ほぼ白色の粉末として生成された。
【0037】
収率は理論値の60〜94%であった。Mは1,500〜5,500g/M(モル)であった。生成物はH核共鳴分光法によって調べた(図2参照)。
【0038】
1.2.マクロ−ジオールI(PHBジオール、PHB−co−HV−ジオール)成分を合成するための一般的方法の仕様
ジオキサンおよびジオール成分を85℃〜90℃へ加熱する。98%硫酸を注意深く加える。次に、PHAを加える。PHAを加熱して攪拌しながら還流させる。完全な均質化の後、溶液を還流させながら反応させると、通常はほぼ透明な溶液が生成する。反応後、85℃まで冷却する。中和反応のために、KOHの45%水溶液を加える。次に反応材料を沈殿剤(25%ジオキサン+75%シクロヘキサン)へ緩徐に加える。次に材料を室温まで冷却し、マクロ−ジオールIを濾過して取り除く。
収率:理論値の90〜96%。
マクロジオールI成分の特性解析および特性:
化学的特性解析:
【0039】
マクロジオールI成分を特性解析するための必須の方法は、現在もH−NMR分光法である。図2は1バッチのブタンジオール−ビス−PHBNMRスペクトルを示す図である。NMRスペクトル、構造体代入、および積分の両方から、分子量の計算が可能になる。
【0040】
1.3.少量のマクロ−ジオールII(軟質セグメントであるマクロ−ジオール類)を合成するための仕様
上記の全てのバッチでは、市販のマクロ−ジオール成分IIから開始され、最初のポリ−ε−カプロラクトン、その後に全般的にはほとんどがポリブチレングリコールアジペートジオール、時にはポリジエチレングリコールアジペートジオールであった。マクロ−ジオール成分IIの合成は、一般的な仕様にしたがって実施した。
【0041】
使用するジカルボン酸ジメチルエステルおよびジオールを18:19の比率で混合する。これらの成分を触媒量のエステル交換触媒(酸化ジブチルスズ)の存在下で融解させる。放出されたメタノールは標準圧下で蒸溜により除去する。油浴温度は次に140℃から70℃へ低下させ、さらに5時間にわたり水流真空を適用して残留メタノールを除去する。結果として生じる生成物は、溶解物として生成される。溶解物は、溶解物またはジオキサン溶液のいずれかとして液体形で、ポリエステルウレタンを形成するために反応に導入する。マクロ−ジオールIIの合成のためにも、ジカルボン酸ジメチルエステル+ジオールの代わりにヒドロキシカルボン酸またはその誘導体を用いて同一の仕様を適用できる。
【0042】
2.ポリエステルウレタン類を生成するための合成仕様
2.1.ポリエステルウレタン類の調製(変法1)
1,2−ジクロロエタンの部分共沸蒸留後、ポリエステルウレタン類は、ポリ(−(R)−3−ヒドロキシブチレート)−ジオールおよびポリ(ブチレンアジペート)−ジオールの1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートを用いた重付加によって(G.R.Saadにしたがって)合成した。ジブチルスズジラウレートを触媒として使用した。ポリマー類を沈殿させ、洗浄し、乾燥させた。分析はGPCおよびH−NMR分光法によって順に実施した。本生成物の組成は抽出物の混合比、共沸混合物の蒸留量、触媒量、反応時間、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネートの量および溶媒濃度の関数として調べた。
【0043】
図3は、例としてポリエステルウレタン(50:50)のH核共鳴スペクトル(400MHz)を示す図である。
【0044】
その後の試験では、G.R.Saadの仕様との比較において、さらなる改善を達成できることが証明された。
【0045】
一方では、1,2−ジクロロエタンは、不都合なく1,4−ジオキサンと置換することができる。他方では、有機スズ触媒を様々な金属アセチルアセトネート類と置換した。特に、ジルコニウム−(IV)−アセチルアセトネート触媒が、高活性(反応時間の短縮)および高選択性(アロファネート生成が少ない)のために明らかに好ましかった。
【0046】
触媒として金属アセチルアセトネート類を使用した場合、一部には発癌可能性を伴うことが懸念される有機スズ触媒とは対照的に、生体適合性触媒であることを強調しておきたい。意外なことに、この方法では生体適合性成分のみ、つまり抽出物、溶媒および触媒のみをベースとする反応系を提供することができた。
【0047】
75℃でのPHBジオールおよびPBAジオール(1:1の重量比)と等モル量の1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(PEU50:50)との交換について、以下の結果が達成された(表1)。
【0048】
【表1】

【0049】
2つの成分PHAおよびPEUは、典型的には80/20〜90/10の比率で一緒に混合する。PEUの比率は、このため概して1%〜50%の範囲内で移動する可能性がある。PEU成分の組成は、典型的には、PHBジオール:PBAジオール−(=ポリブチレングリコールアジペートジオール)−セグメントがおよそ40:60〜80:20、好ましくは60:40の比率で含有されるような組成である。混合物は、好ましくは、成分が押出機内で一緒に溶解物に混合するように生成される。または、成分は溶液中で混合することができ、例えば1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソランもしくはクロロホルムを溶媒として使用できる。
【0050】
2.2.ポリエステルウレタン類の調製(変法2)
規定投入比率にあるマクロ−ジオールIおよびマクロ−ジオールIIの混合物を4:1の比率でジオキサンおよび沈殿剤(25%ジオキサン+75%シクロヘキサン)中に溶解させる。全溶媒量は、蒸留によって用量の3/5へ減少させる(最適には、60%のPHBジオールおよび40%のPBAジオールのバッチに対して;40%のPHBジオールおよび60%のバッチでは、プロセスはジオキサン;沈殿剤=6:1から始まり、容量の5/6へ蒸留させる)。同時に残留水を排水させる。次に温度を101℃から92℃へ減少させる。ジルコニウムアセチルアセトネートを加える。引き続いて等モル量のヘキサメチレンジイソシアネートを2.5時間かけて滴下;計4時間にわたって反応させる。次に沈殿剤(25%ジオキサン+75%シクロヘキサン)を投入する。高温反応溶液を攪拌しながら緩徐に導入する。ポリエステルウレタンを沈殿させ、室温まで冷却した後に蒸留する。材料は濾過後に空気中で乾燥させる。典型的には、>98%の収率が達成される。
【0051】
3.バイオポリエステルウレタンおよびPHBまたはPHB−co−HVのブレンド
PEU成分:
ジエチレングリコール−ビス−PHB(60または65重量%)およびPBAジオール(40%または35重量%)からのPEU
PHB−co−HV:
15%のHV比率(NMRスペクトル(PHB industrial S.A.社製)の評価から決定)を伴うPHB−co−HV
繊維材料:
蒸気圧分解亜麻繊維(亜麻DDA)、木粉、木材パルプ、木材チップの形態である木質繊維。
【0052】
3.1.PEUおよびPHB−co−HVのブレンドの機械的特性
以下のブレンドを生成した(詳細は、各々重量%で表示した):
− 90%PHB−co−HV+ジエチレングリコール−ビス−PHB+PBA(60:40)由来の10%PEU
− 80%PHB−co−HV+ジエチレングリコール−ビス−PHB+PBA(60:40)由来の20%PEU
− 70%PHB−co−HV+ジエチレングリコール−ビス−PHB+PBA(60:40)由来の30%PEU
【0053】
決定した機械的特性は、表2にまとめた。
【0054】
およそ420〜500N/mmでのこれらのサンプルの引張弾性係数は、以前に観察された非繊維強化PEUサンプルの引張弾性係数より有意に高い(例えば、表2の番号1〜6のサンプル参照)。同じことは曲げ弾性係数にも当てはまる。
【0055】
3.2.実施例:天然繊維を用いた強化
繊維材料:
繊維材料の選択は、本質的にそれらが低価格および任意の量で入手し易いこと、および適切な仕様を備えることに基づいて実施した。標準として、
− 蒸気圧分解亜麻繊維(亜麻DDA)
− 一部には前処理した木質繊維として、木材パルプ、木材チップの形態である木質繊維を使用した。
繊維のブレンド内への取込み:
繊維成分の取込みは、
− ニーダー内で、または
− 圧延装置内で実施した。
【0056】
表3には、ニーダー内での加工処理中に収集した実験結果をまとめた。繊維の取込みは、融点を下回る、または上回る極めて様々な温度条件下で、そして相当に短い(約50分間)または長い(およそ1.5時間)の時間間隔にわたって実施した。木材チップは、概して亜麻繊維より良好に組み込むことができた。ポリマー−木材材料は、茶色に着色し、排除できないより高温では分解が始まる。繊維の取込みは、より高温で処理時間がより長時間になると、茶色がかった灰色の材料をもたらす。
【0057】
3.3.繊維充填を行ったブレンドの機械的特性
およそ30%の亜麻もしくは木質繊維をジエチレングリコール−ビス−PHB:PBA=60:40からの80%PHB−co−HV+20%PEUを含むブレンド材料に混合すると、特性は新規な大きさへ劇的に上昇する。表2は、これらのサンプルについて、4,500〜5,000N/mmの範囲内にある引張および曲げ弾性係数を示している。比較のために、例えば亜麻および綿が充填されたポリプロピレンの引張および曲げ強度などの、天然繊維を伴う鉱油をベースとする複合材料の特異的機械的特性を表3に表示した。
【0058】
比較から明らかなように、ポリプロピレンをベースとする繊維複合材料について存在する機械的特性値は、少なくとも引張および曲げ弾性係数が関係する限り、バイオ−ベースで生成されたこれらの新規な材料を用いた場合には、たとえ実際に超えないとしても達成される。切り欠き衝撃強度は図4に示した大きさの範囲内にある。引張および曲げ伸長によって表される弾性のみがわずかに減少する。
【0059】
4.考察:PEU−PHB−co−HVブレンドおよび複合体
PEUおよびPHB−co−HVを含む本発明によるブレンドを用いると、新規な材料の本質的な利点を記載する以下の考察から明らかになるように、あらゆる面において新規でより優れた、そして有益な材料ラインへの道が開かれる。
【0060】
材料特性の考察:
上記の説明から明らかなように、PHBをベースとする複合体は、亜麻または木粉を用いて強化した後に初めて製造されたが、例えばポリエチレンまたはポリプロピレンなどの鉱油をベースとする繊維充填材料ポリマー類は、それらの特性に関して同等である。
【0061】
環境上の側面についての考察:
さらに化学物質をベースとする成分であるポリブチレングリコールアジペートおよびヘキサメチレンジイソシアネートは別として、複合体の他の全ての成分は生体材料から構築される。製造は環境的に適合するプロセスで実施される。生物学的分解についての試験は今後実施されなければならないが、この試験は、これらの成分について試験した、または公知の生体内分解と全く同様に、ゴミ集積場内で容易に実施されると推測される。
【0062】
経済的側面の考察:
以前に考察したバイオポリエステルウレタン類およびそれから生成された組成物と比較して、新規な経済的アプローチは、次の結果を生じさせる:本発明によって新規に記載されたブレンド内のより高価な成分であるPEUは、10〜30%しか占めない、すなわちほぼ添加剤の役割を担う。考察した大多数の場合において、80%のブレンド比率は、生物起源の「基本的材料」のPHB−co−HVに配分された。乳清またはグリセリン由来のより新規な発酵法は興味深いことにPHB−co−HVの生成の方向に移動するため、両方の開発ラインの組み合わせは、PEU+PHB−co−HVをベースとするブレンドおよび複合体の、重要でより経済的な製造の将来の予測を可能とする。
【0063】
例えば亜麻または木粉などの経済的な充填材料がそのような大きな強化作用を発揮するという事実は、新規な材料ラインがそのような成分をベースに製造でき、その材料ラインは特性および製造コストの観点から様々な用途のための競合品を供給するという予測も許容する。
【0064】
【表2】

【0065】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1種類の生分解性ブロックコポリエステルウレタンであって、前記ブロックコポリエステルウレタンはポリヒドロキシアルカノエートジオールを含む硬質セグメントおよび共成分としてジオールおよび/またはトリオールおよびジカルボン酸もしくはヒドロキシカルボン酸およびそれらの誘導体から出発するポリエステルジオール軟質セグメントおよび/またはポリエステルエーテルジオール軟質セグメントから、二官能性イソシアネートと架橋結合させることによって形成される生分解性ブロックコポリエステルウレタンと、
b)少なくとも1種類のポリヒドロキシアルカノエート(PHA)と、
c)任意で多糖類および/またはその誘導体を含む充填剤と、
d)任意でさらに生体適合性添加剤と、を含むこと、
を特徴とする複合系。
【請求項2】
前記ブロックコポリエステルウレタンおよび前記ポリヒドロキシアルカノエートは、ブレンド、ポリマー混合物および/またはポリマー合金として存在すること、を特徴とする請求項1に記載の複合系。
【請求項3】
前記ブロックコポリエステルウレタンの重量比率は、0.1〜50重量%、好ましくは5〜35重量%、特に好ましくは5〜25重量%であること、を特徴とする先行する請求項の一項に記載の複合系。
【請求項4】
前記ポリヒドロキシアルカノエートの重量比率は、99.9〜50重量%、好ましくは95〜65重量%、特に好ましくは95〜75重量%であること、を特徴とする先行する請求項の一項に記載の複合系。
【請求項5】
前記複合系の弾性、強靱性および引張伸びは、詳細にはブロックコポリエステルウレタンおよび充填剤の重量比率によって調整できること、を特徴とする先行する請求項の一項に記載の複合系。
【請求項6】
前記ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)は、ポリ−2−ヒドロキシアルカノエート、ポリ−3−ヒドロキシアルカノエートおよび/またはポリ−4−ヒドロキシアルカノエートである、および/または前記ポリヒドロキシアルカノエートは、脂肪族、芳香脂肪族または芳香族側鎖を含有する、ならびに好ましくはポリ−(R)−3−ヒドロキシブチレート(PHB)および/またはポリ−(R)−3−ヒドロキシブチレート−co−バレレート(PHB−co−HV)を含む群から選択されること、
を特徴とする先行する請求項の一項に記載の複合系。
【請求項7】
前記ポリヒドロキシアルカノエートジオールは、ポリ−2−ヒドロキシアルカノエートジオール、ポリ−3−ヒドロキシアルカノエートおよび/またはポリ−4−ヒドロキシアルカノエートジオールである、および/または前記ポリヒドロキシアルカノエートジオールは、脂肪族、芳香脂肪族または芳香族側鎖を含有する、ならびに好ましくはポリ−3−ヒドロキシブチレートジオール(PHBジオール)および/またはポリ−3−ヒドロキシブチレート−co−3−ヒドロキシバレレートジオール(PHB−co−HVジオール)を含む群から選択されること、
を特徴とする先行する請求項のうちの一項に記載の複合系。
【請求項8】
前記ジオールは、脂肪族、芳香脂肪族または芳香族であること、を特徴とする先行する請求項の一項に記載の複合系。
【請求項9】
前記ジオールは、2〜10個のC原子を備える低分子量ジオールおよび/またはオリゴエーテルジオールおよび/またはポリエチレンジオール、例えばポリエチレングリコール200または300である、および/または前記トリオールはグリセリンであること、
を特徴とする先行する請求項の一項に記載の複合系。
【請求項10】
前記ジオールは、1,4−ブタンジオールおよび/またはジエチレングリコールであること、を特徴とする先行する請求項の一項に記載の複合系。
【請求項11】
前記軟質セグメントを製造するために用いられる前記ジカルボン酸は、脂肪族、芳香脂肪族または芳香族であること、を特徴とする先行する請求項の一項に記載の複合系。
【請求項12】
前記軟質セグメントは、ポリブチレングリコールアジペートジオール(PBAジオール)、ポリ−ε−カプロラクタン、ポリジエチレングリコールアジペートジオールおよび/またはそれらの混合物の群から選択されること、
を特徴とする先行する請求項に記載の複合系。
【請求項13】
前記二官能性イソシアネートは、脂肪族、芳香脂肪族または芳香族であること、を特徴とする先行する請求項の一項に記載の複合系。
【請求項14】
前記二官能性イソシアネートは、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、および/またはイソホロンジイソシアネートの群から選択されること、を特徴とする先行する請求項に記載の複合系。
【請求項15】
前記充填剤は、セルロース、例えば酢酸セルロースなどのその誘導体、デンプン、その誘導体、セルロースおよび紙粉、セルロース、紙粉および例えば酢酸セルロースもしくはセルロースエーテル類などのセルロース誘導体、および/または亜麻繊維、麻または木粉の群から選択されること、
を特徴とする先行する請求項の一項に記載の複合系。
【請求項16】
セルロース誘導体は、メチルセルロース、エチルセルロース、ジヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセロース、ヒドロキシブチルセルロース、メチルヒドロキシブチルセルロース、エチルヒドロキシブチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシアルキルセルロース、スルホアルキルセルロースおよびシアノエチルセルロースからなる群から選択されること、
を特徴とする先行する請求項に記載の複合系。
【請求項17】
前記充填剤は繊維形で存在すること、を特徴とする先行する請求項の一項に記載の複合系。
【請求項18】
添加剤として、生体適合性添加剤、着色顔料、および例えばタルクおよび/またはカーボンブラックなどの離型剤が含まれること、を特徴とする先行する請求項の一項に記載の複合系。
【請求項19】
添加剤として、ポリエチレングリコールおよび/またはポリビニルアルコールが含まれること、を特徴とする先行する請求項に記載の複合系。
【請求項20】
前記複合系は、全複合系と比較して1〜90重量%、特に1〜70重量%の充填剤を含むこと、を特徴とする先行する請求項の一項に記載の複合系。
【請求項21】
前記複合系は、前記ブロックコポリエステルウレタンおよび前記ポリヒドロキシアルカノエートでコーティングされる充填剤層からなる層状で構築されること、を特徴とする先行する請求項の一項に記載の複合系。
【請求項22】
少なくとも1種類のまた別のポリマーは、前記複合系とブレンドされる、または合金化されること、を特徴とする請求項1〜19の一項に記載の複合系。
【請求項23】
請求項1〜22の一項に記載の複合系から製造されること、を特徴とする成形品、成形部品および押出品。
【請求項24】
コーティング材料、ホイル、フィルム、積層品、成形品、容器、包装材料、成形部品、押出品、コーティング材料および薬剤ディスペンサーを製造するための、請求項1〜22の一項に記載の複合系の使用。
【請求項25】
紙およびデンプンのためのコーティング材料および強化接着剤層のための材料としての、請求項24に記載の複合系の使用。
【請求項26】
食料品のための包装材料としての、請求項24に記載の複合系の使用。
【請求項27】
袋、プラスチック袋およびラッピングの形態である、請求項24に記載の複合系の使用。
【請求項28】
医療インプラントのため、もしくは錠剤、カプセル剤または坐剤の形態である生薬における、請求項24に記載の複合系の使用。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−505447(P2011−505447A)
【公表日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−535296(P2010−535296)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【国際出願番号】PCT/EP2008/010132
【国際公開番号】WO2009/068309
【国際公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(506407062)
【Fターム(参考)】