説明

生物処理水の高度処理方法

【課題】生物処理水を凝集処理した後固液分離し、分離水を膜分離処理する生物処理水の高度処理において、無機凝集剤使用量を添加した上で、膜フラックスの低下を効果的に抑制する。
【解決手段】生物処理水に無機凝集剤を添加して凝集処理した後固液分離し、分離水を膜分離処理する生物処理水の高度処理方法において、該生物処理水に、無機凝集剤とフェノール系樹脂とを添加して凝集処理する。膜自体と結合し、膜濾過性を悪化させるような物質(例えば活性汚泥生物の代謝物質)がフェノール系樹脂と結合して不溶化し、この状態で無機凝集剤による凝集作用で効果的な凝集処理がなされ、膜汚染物質が低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種産業排水や生活排水等の排水を生物処理して得られる生物処理水を無機凝集剤で凝集処理した後、固液分離処理し、得られた分離水を膜分離処理する生物処理水の高度処理方法に係り、特に、このような生物処理水の高度処理において、膜供給水として許容される水質を満たすために必要な無機凝集剤添加量を低減した上で、凝集処理後の水質を向上させる生物処理水の高度処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種産業排水や生活排水等の排水を生物処理して得られる生物処理水を更に高度処理として膜分離する場合、膜分離処理に先立ち、種々の有機凝集剤や無機凝集剤を生物処理水に添加して生物処理水中に含まれる濁質、生物代謝物等の不純物質を凝集、固液分離処理することが行われている。即ち、生物処理水中の濁質、生物代謝物等の不純物質は、膜の目詰まりの原因となるため、膜分離に先立ち、これを予め凝集、固液分離して除去する必要がある。
【0003】
しかし、この場合、分離膜の目詰まりを引き起こすことなく、長期間安定して膜分離処理を継続し得るに十分な膜供給水を得るためには、濁質、生物代謝物等の不純物が高度に除去された分離水を得る必要があり、そのためには、無機凝集剤のみによる凝集処理では、多量の無機凝集剤が必要となるという問題があった。無機凝集剤を大量に添加することは、薬剤コストの高騰のみならず、汚泥発生量の増大につながり、工業的に不利である。しかも、無機凝集剤のみを用いた凝集処理では、凝集処理水の水質も十分に満足し得るものではなかった。
【0004】
この問題を解決するものとして、特許文献1には、無機凝集剤の添加に先立ち、フェノール性水酸基を有する水溶性高分子を添加する方法が提案されている。
【0005】
なお、フェノール系樹脂は、ノニオン界面活性剤を含む洗浄排水等の廃水処理剤として特許文献2に提案されているが、特許文献2には、無機凝集剤との併用は好ましくないと記載があり、無機凝集剤との併用を示唆する記載はなく、まして生物処理水を凝集処理した後固液分離し、分離水を膜分離処理する高度処理において、無機凝集剤との併用で無機凝集剤使用量を低減した上で膜フラックス(透過流束)の低下を抑制し得ることを示唆する記載はない。
【特許文献1】特開2007−7563号公報
【特許文献2】特許第2786981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
生物処理水を凝集処理した後固液分離し、分離水を膜分離処理する生物処理水の高度処理において、無機凝集剤とフェノール性水酸基を有する水溶性高分子とを併用することにより、無機凝集剤添加量を削減した上で、凝集処理水の水質を向上させることができるが、フェノール性水酸基を有する水溶性高分子は高価であるという不具合がある。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、生物処理水を凝集処理した後固液分離し、分離水を膜分離処理する生物処理水の高度処理において、無機凝集剤使用量を添加した上で、膜の目詰まりに起因する膜フラックスの低下を効果的に抑制することができる生物処理水の高度処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明(請求項1)の生物処理水の高度処理方法は、生物処理水に無機凝集剤を添加して凝集処理した後固液分離し、分離水を膜分離処理する生物処理水の高度処理方法において、該生物処理水に、無機凝集剤とフェノール系樹脂とを添加して凝集処理することを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の生物処理水の高度処理方法は、請求項1において、フェノール系樹脂の添加量が生物処理水に対して1〜500mg/Lであることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3の生物処理水の高度処理方法は、請求項1又は2において、フェノール系樹脂の分子量が2,000以上100,000未満であることを特徴とするものである。
【0011】
本発明(請求項4)の有機物含有水の生物処理方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、無機凝集剤が鉄塩であり、鉄塩のFe換算の添加量が1〜100mg/Lであることを特徴とするものである。
【0012】
請求項5の有機物含有水の生物処理方法は、請求項1ないし4のいずれか1項において、フェノール系樹脂をアルカリ剤に溶解して添加することを特徴とするものである。
【0013】
請求項6の有機物含有水の生物処理方法は、請求項5において、フェノール系樹脂を、アルカリ剤濃度1〜25重量%、フェノール系樹脂濃度1〜50重量%のアルカリ性水溶液として添加することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の生物処理水の高度処理方法にあっては、生物処理水の凝集処理水を固液分離して得られる分離水が膜によって固液分離されて処理水となる。本発明では、この生物処理水の凝集処理に当たり、生物処理水に鉄塩とフェノール系樹脂とを添加することにより膜フラックスの低下を防止する。
【0015】
生物処理水に鉄塩とフェノール系樹脂とを添加して凝集処理することにより、膜のフラックスの低下が抑制される理由については、必ずしも明らかではないが、膜自体と結合し、膜濾過性を悪化させるような物質(例えば活性汚泥生物の代謝物質)がフェノール系樹脂と結合して不溶化し、この状態で無機凝集剤による凝集作用で効果的な凝集処理がなされ、膜汚染物質が低減されるためであると推察される。
【0016】
このように、本発明では、無機凝集剤とフェノール系樹脂とを併用するため、無機凝集剤のみを添加する場合に比べて無機凝集剤添加量を少なくしても、膜フラックスの低下を十分に抑制することができる。また、無機凝集剤の添加量を少なくすることにより、凝集汚泥の生成量が減少する。しかも、無機凝集剤のみを添加した場合に比べて処理水の水質は格段に優れたものとなる。
【0017】
本発明では、無機凝集剤と共にフェノール系樹脂を添加することにより、無機凝集剤の必要添加量を減らすことができ、また、膜の濾過性もより一層効果的に向上させることができるので、汚泥発生量を抑えた上で、効率的な処理を行って、良好な水質の処理水を長期に亘り安定に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の生物処理水の高度処理方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0019】
まず、本発明で用いるフェノール系樹脂について説明する。
【0020】
本発明で用いるフェノール系樹脂としては、フェノール、クレゾール、キシレノール等の一価フェノール等のフェノール類とホルムアルデヒド等のアルデヒドとの縮合物或いはその変性物であって、架橋硬化する前のフェノール系樹脂が挙げられる。具体的には次のようなものが挙げられる。
【0021】
(1) フェノールとホルムアルデヒドとの縮合物
(2) クレゾールとホルムアルデヒドとの縮合物
(3) キシレノールとホルムアルデヒドとの縮合物
(4) 上記(1)〜(3)のフェノール系樹脂をアルキル化して得られるアルキル変性フェノール系樹脂
【0022】
これらのフェノール系樹脂はノボラック型であってもレゾール型であっても良く、両者の混合物であっても良い。いずれかのフェノール系樹脂を用いるかは、原水の種類によって、より効果的なものが選択使用される。
【0023】
なお、ノボラック型フェノール系樹脂、レゾール型フェノール系樹脂としては、下記一般式(I),(II)で示されるものが好適であり、その分子量は2,000以上100,000未満、特に5,000以上50,000未満であることが好ましい。即ち、下記一般式一般式(I)で表されるノボラック型フェノール樹脂であればnが1〜400でmが1〜400のもの、下記一般式(II)で表されるレゾール型フェノール樹脂であればrが40〜400のものが好ましい。フェノール系樹脂の分子量が大き過ぎると膜を詰まらせるおそれがあり、小さすぎると膜からリークするおそれがある。
【0024】
【化1】

【0025】
このようなフェノール系樹脂は水に難溶であるので、水に溶解可能な溶媒に溶解ないし分散させるなどして溶液状又はエマルジョンとして用いるのが好ましい。使用される溶媒としてはアセトン等のケトン、酢酸メチル等のエステル、メタノール等のアルコール等の水溶性有機溶媒、アルカリ水溶液、アミン等が挙げられるが、好ましくは、苛性ソーダ(NaOH)、苛性カリ(KOH)等のアルカリ剤に溶解して用いる。
【0026】
フェノール系樹脂をアルカリ性水溶液として用いる場合、このアルカリ性水溶液はアルカリ剤濃度1〜25重量%、フェノール系樹脂濃度1〜50重量%の範囲とすることが好ましい。なお、フェノール系樹脂濃度が高い場合、70〜80℃程度に加温してフェノール系樹脂を溶解させるようにしても良い。
【0027】
フェノール系樹脂の添加量は、少な過ぎるとフェノール系樹脂を添加したことによる本発明の効果を十分に得ることができず、多過ぎても効果は変わらないが経済的でないことから、処理対象の生物処理水の水質や必要な無機凝集剤の低減効果によっても異なるが、通常生物処理水に対して有効成分量で1〜500mg/L、特に5〜100mg/Lとすることが好ましい。
【0028】
一方、無機凝集剤としては、特に制限はなく、塩化アルミニウム(AlCl)、硫酸バンド(Al(SO)、その他、水酸化アルミニウム(Al(OH))又は酸化アルミニウム(Al)を塩酸(HCl)又は硫酸(HSO)で溶解したものなどのアルミニウム塩などのアルミニウム系凝集剤や、塩化第二鉄(FeCl)、硫酸第二鉄(Fe(SO)、硫酸第一鉄(FeSO)等の鉄塩などの鉄系凝集剤、その他、シリカ系凝集剤などの1種又は2種以上を用いることができる。好ましくは膜濾過性向上に効果的であることから鉄塩が用いられる。
【0029】
本発明においては、フェノール系樹脂を用いたことにより、このような無機凝集剤の添加量を大幅に低減することができる。無機凝集剤の添加量は、生物処理水の水質、用いる無機凝集剤の種類、フェノール系樹脂の添加量等によっても異なるが、通常1〜100mg/L程度で良好な凝集処理水を得ることができる。
【0030】
例えば、無機凝集剤として鉄塩を用いる場合、Fe換算の添加量で1〜100mg/L程度とすることが好ましい。また、鉄塩とフェノール系樹脂とを併用する場合において、フェノール系樹脂の添加量が鉄塩のFe換算の添加量に対して0.1〜10重量倍、特に0.1〜5重量倍となるように添加することが好ましい。
【0031】
無機凝集剤及びフェノール系樹脂の添加量は少な過ぎると本発明による膜の目詰まり防止効果を十分に得ることができず、多過ぎると、発生汚泥量の増加、処理コストの増大を招き、好ましくない。また、鉄塩とフェノール系樹脂との併用による優れた相乗効果を得る上で、鉄塩とフェノール系樹脂との添加量比は上記範囲とすることが好ましい。
【0032】
本発明において、無機凝集剤とフェノール系樹脂とは、いずれか一方を先に添加して他方を後に添加しても、両者を同時に添加しても良い。
【0033】
生物処理水にフェノール系樹脂及び無機凝集剤を添加して凝集処理する際のpHは、当該無機凝集剤による処理に最適なpHであれば良く、例えば塩化第二鉄であればpH4〜7、ポリ塩化アルミニウムであればpH5〜7となるように必要に応じて酸、アルカリ等を添加してpH調整を行う。
【0034】
なお、生物処理水にフェノール系樹脂及び無機凝集剤を添加した後は、1〜10分程度撹拌して、生物処理水中の濁質、生物代謝物等の不純物質とフェノール系樹脂とを十分に接触させて反応させると共に十分に凝集処理することが好ましい。フェノール系樹脂と無機凝集剤とを別々に添加した場合においても、それぞれの添加後、1〜10分程度撹拌して十分に不溶化ないし凝集処理を行うことが好ましい。
【0035】
本発明において処理対象とする生物処理水の生物処理方式には特に制限はなく、本発明は、生物担体法、散水濾過法、接触酸化法、回転円盤法、長時間曝気法、標準活性汚泥法等あらゆる生物処理方式の処理水に適用することができる。
【0036】
このような生物処理水にフェノール系樹脂と無機凝集剤を添加して凝集処理して得られる凝集処理水の固液分離は、沈殿槽、浮上槽(加圧浮上)、濾過(膜濾過、砂濾過)等により行うことができる。これらの固液分離手段を組み合わせ、例えば、沈殿槽で固液分離した後濾過を行っても良い。
【0037】
凝集処理水を固液分離して得られた分離水を膜分離処理する膜分離装置としては、逆浸透(RO)膜分離装置、限外濾過(UF)膜分離装置、精密濾過(MF)膜分離装置等を用いることができる。これらの膜分離装置を2種以上に配置して更に高度な処理を行ってもよい。
【0038】
膜の形状は、平膜、管状膜、スパイラル膜、中空糸膜などのいずれであってもよい。膜の材質としては、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリスルフォン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、芳香族ポリアミド等が例示されるが、これに限定されない。
【0039】
本発明によれば、生物処理水を凝集処理した後固液分離し、分離水を膜分離処理する高度処理において、無機凝集剤とフェノール系樹脂との併用で、無機凝集剤添加量の低減と膜フラックスの低下抑制効果を得ることができるが、このような無機凝集剤とフェノール系樹脂との併用による効果は、生物処理水の代りに、河川水、湖沼水、ダム湖水、地下水、工水等を凝集処理して固液分離し、分離水を膜分離処理する場合にも有効に発揮される。
【実施例】
【0040】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0041】
[実施例1]
生物担体法(流入BOD:500mg/L,BOD負荷:1.5kg−BOD/m/day)による生物処理水に、無機凝集剤として塩化第二鉄を添加すると共に、フェノール系樹脂を添加してpH5.5で10分攪拌して凝集処理した後、沈殿槽で固液分離して得られる分離水について、以下の方法で水質評価することにより、この分離水を膜分離処理した場合の膜フラックスの抑制効果を調べた。
【0042】
<水質評価>
孔径0.45μmのメンブレンフィルターを用いて、分離水1Lを66kPaの真空圧で吸引濾過するに要する吸引時間(KMF値)を測定した。このKMF値が小さいほど、分離水の水質が良好であり膜フラックスの低下の問題が少ない。
【0043】
なお、塩化第二鉄のFe換算添加量は50mg−Fe/Lとした。また、フェノール系樹脂としては、ノボラック型フェノール系樹脂(群学化学工業社製、分子量600を用い、フェノール系樹脂濃度33重量%、NaOH濃度25重量%のアルカリ性水溶液として、フェノール系樹脂添加量25mg/Lとなるように添加した。
結果を表1に示す。
【0044】
[実施例2]
実施例1において、フェノール系樹脂添加量を75mg/Lとしたこと以外は同様に処理を行い、同様に分離水の水質評価を行い、結果を表1に示した。
[実施例3,4]
実施例1,2において、フェノール系樹脂としてノボラック型フェノール系樹脂の代りにレゾール型フェノール樹脂(群栄化学工業製、分子量8000、前記一般式(II)においてr=80)を用いたこと以外はそれぞれ同様に処理を行い、同様に分離水の水質評価を行い、結果を表1に示した。
【0045】
[比較例1,2]
フェノール系樹脂を用いず、塩化第二鉄を表1に示す量添加したこと以外は実施例1と同様に処理を行い、同様に分離水の水質評価を行い、結果を表1に示した。
【0046】
[比較例3,4]
フェノール系樹脂の代りに、ポリビニルフェノールを用い、その添加量を表1に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様に処理を行い、同様に分離水の水質評価を行い、結果を表1に示した。
【0047】
【表1】

【0048】
表1より次のことが明らかである。
塩化第二鉄のみの添加では、KMF値の低減には多量の添加量が必要である。
ポリビニルフェノールを併用することにより、所定のKMF値を得るための塩化第二鉄添加量の低減を図ることができるが、ポリビニルフェノールは高価であるため好ましくない。
これに対して、フェノール系樹脂はポリビニルフェノールよりも低コストであるが、フェノール系樹脂であれば、ポリビニルフェノールと同等の塩化第二鉄添加量低減効果を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物処理水に無機凝集剤を添加して凝集処理した後固液分離し、分離水を膜分離処理する生物処理水の高度処理方法において、
該生物処理水に、無機凝集剤とフェノール系樹脂とを添加して凝集処理することを特徴とする生物処理水の高度処理方法。
【請求項2】
請求項1において、フェノール系樹脂の添加量が生物処理水に対して1〜500mg/Lであることを特徴とする生物処理水の高度処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、フェノール系樹脂の分子量が2,000以上100,000未満であることを特徴とする生物処理水の高度処理方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、無機凝集剤が鉄塩であり、鉄塩のFe換算の添加量が1〜100mg/Lであることを特徴とする有機物含有水の生物処理方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、フェノール系樹脂をアルカリ剤に溶解して添加することを特徴とする有機物含有水の生物処理方法。
【請求項6】
請求項5において、フェノール系樹脂を、アルカリ剤濃度1〜25重量%、フェノール系樹脂濃度1〜50重量%のアルカリ性水溶液として添加することを特徴とする有機物含有水の生物処理方法。

【公開番号】特開2010−17688(P2010−17688A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−182769(P2008−182769)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】