説明

生物学的利用能が増強されたS−アデノシルメチオニン製剤

本発明は、S−アデノシルメチオニン(SAMe)の吸収を増強するための組成物および方法ならびに吸収が増強され生物学的利用能が改善された非経口でないSAMc製剤を用いた種々の疾患または疾病の治療方法に関する。生物学的利用能が増強された製剤は、例えば全般性不安障害、強迫性障害、心的外傷後ストレス障害、パニック障害、抑うつ障害(例えば、主要臨床的鬱病)および気分変調を含む精神疾患、ならびに肝臓疾患、癌、自己免疫疾患、炎症性疾患、関節疾患、胃腸疾患および心血管疾患の治療などの様々な疾病または疾患を治療するために使用されうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照および優先権の主張
本出願は、2009年7月28日に出願され、参照により全体として本明細書に組み入れられる米国暫定特許出願第61/229,194号の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、生物学的利用能が改善されたS−アデノシル−L−メチオニン(「SAM−e」または「SAMe」)の組成物および方法に関する。より具体的には、本発明は、胃腸管における外因性SAMeの吸収を調節し、且つ経口投与もしくは同様の方法により、十分な生理的効果が期待できるSAMe血漿濃度を提供する製剤に関する。本発明は、SAMeの胃腸吸収を改善できる製剤を投与することにより、被験者の疾病もしくは疾患を治療する方法および/または被験者の栄養状態を改善する方法を対象にし、胃腸吸収の増加は1以上の吸収増強技術を用いて達成される。
【背景技術】
【0003】
S−アデノシル−L−メチオニン(「SAM−e」または「SAMe」)は、全身の組織に存在する天然化合物である。分子レベルでは、SAMeは、メチル基転移、トランススルフレーションおよびアミノプロピレーション(例えば、プトレシンからスペルミジンおよびスペルミンなどのポリアミンの産生)を含む種々の代謝経路に関与する。
【化1】

【0004】
体内において、SAMeはアミノ酸のメチオニンおよびヌクレオチド三リン酸のATPから合成される。SAMeは、関節炎、肝疾患および鬱病を含む様々な病気を治療するため、多数の臨床試験で試験されてきた。
【0005】
製造、輸送および保管中、SAMeイオンが不安定性なため、SAMeの補給は当初は実行不可能と考えられた。最終的に、安定なSAMe塩が開発された(SAMeトシラートジサルフェート、SAMeのブタンジスルホネート塩、SAMeのジ−パラ−トルエンスルホネートジサルフェート塩、SAMeのトリ−パラ−トルエンスルホン酸塩など)。これらの塩は、錠剤、カプセルおよびペレットを含むがこれらに限定されない非経口でない投与に使用する標準的な既知の技術を用いて製剤できる。これらのような製剤は、味覚および嚥下の容易性の改善ならびに胃痛の軽減など、多目的に役立てる被覆剤(コーティング)も含みうる。安定なSAMe塩は、例えば米国特許第3,954,726号および第4,057,686号に記載されており、両方とも参照により全体として本明細書に組み入れられる。従来型のSAMe APIは、幾つかの対イオンとともにイオンを含む分子的実体として供給される。例えば、SAMeイオンとトシラートおよび2スルホン酸の対イオンは、市販のアデノシルメチオニンジサルフェート−p−トルエンスルホナート(即ち、SAMeトシラート・ジサルフェート)を構成する。SAMe投薬に言及すると、現在、数的用量(通常ミリグラム)は投与されるSAMeイオンの量を指すことが当分野で容認されている。例えば、SAMeトシラート・ジサルフェートを用いた「400 mgのSAMe錠剤」についての言及は、400 mgのSAMeイオン、別の370 mgの対イオン、および200−300 mgの追加賦形剤を含み、1.0−1.1グラムの最終錠剤重量を構成する。従って、例えば、当分野で一般に報告されるSAMeの1600 mg経口用量は、通常、一度に服用する4錠の当該1.0−1.1グラム錠剤で1用量であろう。あるいは、同じ1600 mg用量のSAMeイオンは、所定の時間に服用される16錠の100 mgまたは8錠の200 mgのSAMeイオン錠剤など、複数錠の他の併用投与によっても達成されうる。SAMeの従来型経口剤形は、約400 mgのSAMeイオンで最も一般に生産され、それを上回って、より多量の剤形は、400 mgのSAMeイオンでさえ錠剤が1.0−1.1グラムと非常に大きいことを考慮すると、嚥下が困難になる。
【0006】
当分野における一般の社会通念は、胃の胃液がSAMeの構造および/または機能を変えることにより、その吸収を減少させ、ひいては胃でのSAMe放出を迂回するpH特異的被覆剤が経口投与に必要であると考えられるという見解である。これらの「腸溶」被覆は周知であり当業者により日常的に使用される。腸溶被覆は、胃の極めて低いpH環境からカプセル化剤を保護する障壁を提供する。「pH感受性」とはいえ、これらの被覆は、胃からカプセル化剤を保護するためだけに設計される。これらは一般に約5.5より上のpHで(胃直後の環境のpHに匹敵するように設計される)溶解し始め、下層の剤形を放出させる。腸溶被覆されるSAMeの安定性および送達を改善する様々な試みが報告されている。Rao et al.は、pH5.5で溶解し始める腸溶被覆の親油性軟ゼラチンカプセルの使用を記載している(米国特許第6,759,395号)。彼等は、カプセル化薬物を保護する手段としてSAMe塩を隔離するための親油性物質の使用を推奨している。さらに、彼等は胃でのSAMe放出を迂回するために標準的な腸溶被覆を利用している。SAMeはそもそも胃液で分解されるため、胃で吸収され得ないという先行技術の報告を鑑みると、腸溶被覆の使用は意外ではない。
【0007】
SAMeは胃内で不活性化されるという当分野で報告された主張に加えて、この化合物の吸収機構および代謝をめぐって広く容認される意見も存在する。過去の臨床実験に基づき、SAMeは、高溶解性および高透過性であるが低い生物学的利用能を示すものとして挙げられる。放射性標識SAMeを用いた研究は、SAMeがGI管で速やかに吸収されることを示したが、血漿分析は低い生物学的利用能を示した(Stramentinoli,G.,(1987)The American Journal of Medicine83(S 5A):35−42)。従って、当業者は、SAMeの低生物学的利用能は肝臓の「初回通過代謝」などの他因子によって惹起されると推測した。過去20年間にわたって、様々なSAMe製剤の薬物動態、薬物消失および腎排泄プロファイルを調査することにより、多数のグループがSAMeの生物学的利用能を理解しようと試みてきたが、吸収機構は調査されていなかった。経口投与される場合のSAMeの生物学的利用能は、血液中に入る前の「有意な肝臓代謝」のため、<5%に制限されることが当分野の最有識者により日常的に報告される(Bottiglieri et al., (1988)Alabama Journal of Medical Sciences 25(3):296−301; Bottiglieri et al., (1997)Exp. Opin. Invest. Drugs 6(4): 417−426; Kaye et al., (1990) Drugs 40: 124−128)。さらなる薬物消失および腎排泄の研究により、無傷SAMeの体内蓄積が低生物学的利用能の原因としてあり得そうにないことが報告され、その代わりに「活性な前全身代謝」が原因であるとも示唆される(Giulidori and Cortellaro(1984)European Journal of Clinical Pharmacology27:119−121;Stramentinoli,G.,(1986)Biological Methylation and Drug Design.R.T.Borchardt. New Jersey, Humana Press:315−326)。他の意見は、SAMeの代謝が非経口でない投与後にトランスメチレーション(より少ない程度で、トランススルフレーションおよびアミノプロピレーション)経路を経て急速に生じるということである。より具体的には、当業者は、SAMeのメチル基が除去され、タンパク質およびリン脂質など、低い代謝回転率の安定プールに取り込まれることを提唱し(Bottiglieri(1997)前出;Stramentinoli(1987)前出)、ひいてはSAMe自体の生物学的利用能は非常に限られる結果となる。
【0008】
多数の薬物で活性な肝臓代謝が生じ、SAMeで見られるように通常生物学的利用能の上限が低下する。また、SAMeの即時吸収を支持する大量の臨床データが当分野で報告されている。従って、SAMeの低い生物学的利用能は主として肝臓における多量の初回通過代謝によるものであるというのが当分野の一般定説であった。
【0009】
培養細胞へのSAMeの取り込みを調査する最近の報告によると、SAMeはCaco−2細胞の単層を通して輸送されにくく、培養ラット肝細胞により吸収されにくいことが見出されている(McMillan et al.,(2005)J. of Pharmacy and Pharmacology, 57:599)。外因性SAMeの生物学的利用能が低い理由および増加させる方法の両方を同定する必要性が依然としてある。
【発明の概要】
【0010】
本研究者達は、SAMeの低い透過性が1)SAMeの生体内生物学的利用能が制限されること、2)SAMeがGI管の異なる領域で異なる吸収パターンを示すこと、ならびに3)SAMe代謝産物のレベルが経口投与後に有意に上昇しないことの主な理由であることを発見した。肝臓代謝の克服と違って、薬物の胃腸吸収を改変し増強し得る幾つかの技術が利用できるため、この研究結果は特に重要である。
【0011】
本発明は、SAMeの透過性が低いこと、ならびにこの化合物の吸収率を高める因子の利用によるSAMeの生物学的利用能を増大させることが可能であることを認識している。
【0012】
本発明の例示実施形態は、S−アデノシル−L−メチオニン(「SAMe」)の生物学的利用能を増大させる手段として、SAMeまたはその安定な塩の吸収を増強する方法および組成物に関する。生体内で本発明方法を用いると、SAMeの従来の非経口でない剤形と比較して改善された生物学的利用能が提供される。
【0013】
本発明は、具体的には、少なくとも1つの吸収増強技術と組み合わせたSAMeの非経口でない組成物に関する。SAMeの生理的に許容できる用量の吸収を増加させるように作用する吸収増強技術は、例えば、GI管におけるSAMeの滞留時間の延長(従ってより多くの摂取の機会を可能にする)、薬物吸収の増大を示すGI管領域へのSAMeの送達;薬物の経細胞輸送または傍細胞輸送のいずれかを増大させる「吸収増強剤」の添加(密着結合の開口または浸透に直接影響を及ぼす剤を含む)、SAMeを直接細胞に送達するナノ担体へのSAMeの封入;または吸収を調節するこのような技術の任意の組み合わせを含む幾つかの方法で役立ちうる。「吸収増強技術」は、従って、SAMeの吸収または取り込みに直接的または間接的に影響を及ぼす任意の賦形剤、装置、機構、技法、方法、治療のパラメーター等である。これらの技術の多くは、特定のpHレベルでSAMeの固有の陽イオン特質を活用または最適化するよう設計され、例えば、より容易に吸収される陽イオン形態で(例えば、緩衝剤または緩衝系の存在下で)SAMeを維持するよう作用しうる技術もある。従って、SAMeの吸収を改変する適切な手段として、食事(食物の量および/または種類および/または飲料)、投薬計画、被覆剤の存在または不在(即ち、非被覆SAMeはより効率的に吸収されうる)など、今までにない因子と本発明の組成物が組み合わされることは、本発明の範囲内である。時には、SAMeの取り込みを最適化するために、SAMe投与前の吸収増強技術の投与が必要でありうる。
【0014】
吸収の増加を示すGI管の部分(「吸収窓」としても知られる)へのSAMeの部位特異的な送達は、GI管のpH特異的領域でのSAMe放出を標的にするpH依存性被覆剤の使用で達成されうる。
【0015】
従って、幾つかの例示実施形態はpH依存性被覆剤を含む組成物に関し、pH依存性被覆剤の組成物は、胃腸(GI)管の部分特異的領域において生理学的に許容できるSAMeの用量を放出するよう作用する。pH依存性被覆剤は、SAMeの取り込みおよび生物学的利用能の部位特異的効力に影響を及ぼすため、GI管全体に沿った幾つかの領域にSAMeを放出させる。SAMeの吸収は、胃を含むGI管の全長を通して起こりうる。SAMeの吸収が増加した領域を同定することにより、SAMeの吸収および生物学的利用能のより良い制御を確実にするために、これらの領域を標的にする製剤が投与できる。pH依存性被覆剤は、胃での分解を回避するために適用される簡易な腸溶被覆剤として本発明で使用されるのではない。pH依存性被覆剤はGI管の標的送達を可能にする。
【0016】
従って、本発明は、生理学的に許容できる用量のSAMeを放出するよう作用するSAMeのpH依存性被覆製剤をGI管の部位特異的またはpH特異的な領域に送達することにより、SAMeの生物学的利用能を増大させる方法にも関する。
【0017】
「吸収増強剤」とは、「浸透増強剤」、「透過増強剤」および「促進剤」として知られる剤を含むことも意味し、傍細胞輸送など、GI管の特定面に通常直接作用し、多数の薬物の吸収率に影響を及ぼす。
【0018】
本発明はさらに、SAMeの生物学的利用能を増大する機構として、生理学的に許容できる用量のSAMeの吸収を増加または促進する吸収増強剤を利用する組成物に関する。
【0019】
本発明のある例示実施形態は、密着密着結合の活性を直接調節する吸収増強剤に関する。これらは密着結合浸透剤または密着結合の調節剤もしくは開口剤として知られる。密着結合は細胞間の透過性を制御する細胞間の細胞間結合である。かくして、物質(例えばAPI)は細胞間を通過できないが、むしろ細胞に取り込まれなければならないため、通過できるものを細胞が調節できるようにする。密着結合は、口、小腸、大腸および結腸を含む全身の多数の領域で生じ、異なる領域内で密度/密着性が変化する。GI管内で、密着結合は隣接する内皮細胞間の区域を指し、消化物の取り込みを調節するよう作用する。密着結合は、高度に調節されており、口および/またはGI管および体の他の部位の内腔環境間の障壁を形成する重要な要素の1つである。
【0020】
本発明は、生理学的に許容できる用量のSAMeの吸収を増加または促進するために密着結合調節物質を組み込む組成物にも関する。
【0021】
生理学的に許容できる用量のSAMeを投与するために使用する調剤、医薬、獣医用または栄養の調製物は、従来の固体もしくは半固体の錠剤、ピル、顆粒およびカプセルならびにpH感受性薬物標的などの放出制御技術、持続放出技術、浸透圧ポンプ、層状錠剤、多粒子錠剤、ナノ担体またはこれらの組み合わせを含む。「医薬」の調製物、目的または治療に言及する場合、これらは「医療食」を含むことを意味する。医療食とは、医師の監督下で摂取または経腸投与されるよう製剤される食物、且つ認識される科学原理に基づいて、独特の栄養所要量が医学的評価により確立されている疾病または状態の特定の食事管理を意図する食物として、米国食品医薬品局により定義される。
【0022】
本発明のある例示実施形態はさらにSAMeの非経口でない投与用組成物に関し、SAMeは1以上の吸収増大技術を含む固体または半固体の組成物に製剤される。本発明はさらに治療方法を提供し、調剤、医薬、獣医用、または栄養のSAMe調製物が1以上の吸収増強技術と併せて投与される。好ましくは、該吸収増強技術は、調剤、医薬、獣医用、または栄養の該SAMe調製物と共投与され、さらにより好ましくは、該吸収増強技術は調剤、医薬、獣医用、または栄養の該SAMe調製物に含まれる。
【0023】
吸収増強技術は投与されるSAMe調製物の一部を形成する必要はなく、個別に投与されてもよい。具体的な作用機構に応じて選択される吸収増強技術は、SAMe製剤の直前、直後、または同時に利用されうる。従って、本発明は、疾病または疾患の治療を要する被験者の新規な治療方法にも関し、該方法は1以上の吸収増強技術と組み合わせて生理学的に有効な用量のSAMeを投与する工程を含む。
【0024】
ある例示実施形態は、SAMeおよび少なくとも1つの吸収増強技術を含む非経口でない投与用組成物を送達することにより、被験者のSAMeの生物学的利用能を増大させる方法に関し、該吸収増強技術は生理学的に許容できる用量のSAMeの吸収を直接的または間接的に増加させるように作用する。
【0025】
本発明のSAMe製剤で治療可能な疾病および/または疾患は、精神もしくは精神医学の疾患(例えば、それぞれ鬱病および物質関連疾患などの精神病/気分または非精神病の精神疾患)、神経系の疾病/疾患(例えば、アルツハイマー病などの中枢神経系疾病)、他の神経学的疾病/疾患(例えば頭痛および睡眠障害)、中枢神経系の損傷に関連する状態、肝臓疾病/疾患(例えば、アルコール性肝臓疾病)、癌(例えば、固形癌および血液感染性癌)、関節疾病/疾患(例えば、関節炎)、炎症性疾病/疾患(例えば、潰瘍性大腸炎)、自己免疫疾病/疾患(例えば、全身性エリテマトーデスおよびリウマチ性関節炎)、変性疾病/疾患(例えば、筋萎縮性側索硬化症)、軟組織疾病/疾患(例えば、線維筋痛疾患)、疼痛疾病/疾患、高−または低−メチル化に関する遺伝疾患、胃腸疾病/疾患、心血管疾病/疾患、および酸化的損傷またはフリーラジカルによる損傷により全身または部分的に誘導される疾患よりなる群から選択されるが、これらに限定されない。本発明のさらなる実施形態は、被験者の様々な疾病または疾患の治療および/または予防に一般に処方または使用される1以上の活性成分とSAMeの併用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1A】試験的研究におけるSAMeの平均血漿濃度対被験者の時間についての実規模グラフであり、該被験者は、近位GI管(十二指腸/空腸;正方形)、遠位GI管(回腸/上行結腸;三角形)および測定されたGI管全体(円形)においてSAMeを放出するよう設計された被覆剤を含む3部位に特異的なSAMe製剤の1つを800 mgを投与する。
【図1B】低い平均血漿濃度の曲線間での分離をより一層強調する図1Aのグラフの拡大図である。
【図2】プロプラノロールは高い透過性の対照として含まれる、Caco−2ヒト結腸腺癌細胞単独の単層およびEDTAの存在下またはカルシウムの不在下でのSAMeの透過性を示すグラフである。
【図3】Caco−2ヒト結腸腺癌細胞単独の単層および種々の密着結合調節物質の存在下でのSAMeの透過性を示すグラフである。
【図4】1600 mg用量の市販SAMeトシラート・ジサルフェートを投与された7被験者から得られる、SAMeおよびSAMe代謝産物のS−アデノシルホモシステイン(SAH)の平均血漿濃度対時間のグラフである。
【図5】400 mg用量のSAMeの非被覆経口製剤をそれぞれ投与された7被験者から得られたSAMe平均血漿濃度対時間のグラフである。
【0027】
(発明の詳細な説明)
本研究者達は、当分野の一般情勢に反して、SAMeの透過性が低いこと、SAMeがヒトのGI管の異なる領域内で別個の吸収パターンを明示することも発見した。さらに、本研究者達は、SAMe代謝産物の血中濃度が外因性SAMe投与で最小限しか影響を受けないことを見出し、これは、外因性SAMeの低い生物学的利用能が主として肝臓での多量の初回通過代謝によるものでないことも明瞭に示唆している。最終的に、既知の密着結合調節物質は細胞のモデル単層へのSAMeの透過性を有意に増大させる。これらの発見は、SAMeの胃腸吸収を改変および増大させ得る幾つかの技術が利用可能であるため、かなり重要である。
【0028】
本発明は、SAMeの透過性が低いため、この化合物の吸収率を高める因子を利用することにより、SAMeの生物学的利用能の増大が可能であることが認められる。
【0029】
本発明のいくつかの例示実施形態は、非経口でない投与されたSAMeの吸収および生物学的利用能を調節および改善する化合物に関する。関連する例示実施形態は、ある疾病および/もしくは疾患の治療用ならびに/または栄養補助食品および/もしくは医療食としての組成物を用いる方法を提供する。本発明のさらなる実施形態は、被験者の様々な疾病または疾患の治療および/または予防に一般に処方または使用される1以上の活性成分とSAMeの併用に関する。
【0030】
本明細書で用いられるように、「SAMe」という用語は、S−アデノシル−L−メチオニンおよびその変異体であるS−アデノシルメチオニンを指す。先に提示した構造式に示されるように、SAMeは荷電種として現れ、その電離状態はpHで変化する。前述したように、固形では、SAMeはSAMeイオンおよび1以上の対イオンから成る塩として存在する。安定な(例えば、陰性対イオンとしてのp−トルエンスルホン酸との)塩形態単独、または、例えば鉱酸または有機酸および/またはアミノ酸などの1以上の追加の塩形成物質と併用したSAMeを見出すことが一般的である(米国第3,893,999号参照、参照により全体として本明細書に組み入れられる。)。他の安定なSAMe塩は米国第5,128,249号に記載されており、これは特定の安定なSAMe塩を開示する。SAMeの様々な形態は本発明の使用に適する。従って、本明細書で用いられるように、「SAMe」は、SAMeの安定な塩および非晶形態および半結晶形態および結晶形態、ならびに生体内で存在する場合にはSAMeのイオン形態を指す。SAMeの不定形態は任意の粒径および粒径分布で使用できる。
【0031】
SAMeの非経口でない投与用製剤は、通常、錠剤、カプセルまたはペレットなどの固体または半固体の製品または剤形として提供され、一般に薬物を「封入する」核「基質物質」および1以上の保護被覆剤から成る。本明細書で用いられる「製品」または「剤形」とは、SAMeの非経口でない投与用に使用される任意の固体または半固体の製剤または調製物を指す。本明細書に記載する非経口でない製剤または調製物は、錠剤、ペースト、カプセル、顆粒、カプレット、トローチ等などの経口送達系、ならびにエアロゾル、洗浄薬、局所クリーム、ペースト、パッチ、トローチ等などの経皮、経粘膜または吸入の送達系を含み、これらの全ては当分野で周知であり十分に裏付けされている。これらの製剤は、臨床、調剤および獣医用の投与計画を用いて投与されうる。非経口用でないSAMe剤形は医療食または食事または栄養補助食品としても提供されうる。
【0032】
非経口でなく投与されるSAMe製剤はカプセル化SAMeの持続放出を可能にするよう設定されうる。共有の米国特許出願第2009/0088404号は、参照により本明細書に組み入れられ、持続放出性SAMe製剤の新規な製剤を提供する。米国第2009/0088404号に開示されるように、様々な種類の薬物の持続放出性組成物を調製するために使用できる種々の方法が存在し、これらの方法の少なくとも1つは生物学的利用能特性が増強された持続放出性SAMe組成物を調製するために使用できることが意図される。本発明の範囲内に意図される持続放出性SAMe組成物の種類は、1以上の腸溶被覆剤で被覆された浸透性剤形、持続放出性基質、パルス放出製剤および持続放出性製剤を含み、これらの全ては米国第2009/0088404号に詳細に記載されている。
【0033】
本明細書で用いられる「生理学的に有効な用量」のSAMeとは、臨床、調剤、医薬、獣医、食事または栄養上のいずれかの目的で、規定の投与計画の下投与されるSAMe量を含むことを意味する。従って、「生理学的に有効な用量」のSAMeは、治療上有効な用量、薬学的に許容できる用量、獣医学的に許容できる用量、機能性食品上許容できる用量、食事上許容できる用量、および栄養上許容できる用量のSAMe、ならびに医療食としての用途に許容できる用量を含み、これらは全て本発明の用途に含まれる。
【0034】
SAMe製剤の相対生物学的利用能は、濃度曲線下面積(AUC;投薬後の血漿SAMeに対する被験者の全身暴露の測定である)、Cmax(即ち、投薬後に測定されるSAMeの最高血漿濃度)およびTmax(SAMeの最大血漿濃度に到達する薬物投与後の時間)などの周知の技法を用いてSAMeの薬物動態プロファイルを評価することにより、決定する。これらの測定は全て当分野で詳しく記載されている。
【0035】
幾つかの実施形態において、本発明は、被験者の疾患を治療および/または予防する方法に関し、該疾患は、精神もしくは精神医学の疾患(例えば、それぞれ鬱病および物質関連疾患などの精神病/気分または非精神病の精神疾患)、神経系の疾病/疾患(例えば、アルツハイマー病などの中枢神経系疾病)、他の神経学的疾病/疾患(例えば頭痛および睡眠障害)、中枢神経系の損傷に関連する状態、肝臓疾病/疾患(例えば、アルコール性肝臓疾病)、癌(例えば、固形癌および血液感染性癌)、関節疾病/疾患(例えば、関節炎)、炎症性疾病/疾患(例えば、潰瘍性大腸炎)、自己免疫疾病/疾患(例えば、全身性エリテマトーデスおよびリウマチ性関節炎)、変性疾病/疾患(例えば、筋萎縮性側索硬化症)、軟組織疾病/疾患(例えば、線維筋痛疾患)、疼痛疾病/疾患、高−または低−メチル化に関する遺伝疾患、胃腸疾病/疾患、心血管疾病/疾患、および酸化的損傷またはフリーラジカルによる損傷により全身または部分的に誘導される疾患よりなる群から選択されるが、これらに限定されない。該方法は、生理学的に有効な用量のSAMeの吸収を増強させる本発明の例示組成物を被験者に投与する工程を含み、これによる吸収増強はSAMe生物学的利用能の増強をもたらす。
【0036】
本発明のいくつかの例示実施形態は、被験者に食事または栄養補助食品として利用される生理学的に有効な用量のSAMeの有効性を高めるために使用する組成物および方法に関する。食事または栄養の補助食品としての有効性は、集中、記憶、気分、栄養状態または肝臓の状態などの1以上の栄養性能変数を用いて測定されうる。
SAMeの吸収および生物学的利用能を改善する手段としての吸収増強技術
【0037】
SAMe吸収がSAMeの全身生物学的利用能における制限因子であることが一度認識されると、その吸収を増大または調節する手段を調べることが適切である。全身のSAMe吸収を直接的または間接的に増強する任意の方法が本発明の範囲内であることが意図され、例えば、GI管におけるSAMeの滞留時間を増やすことにより取り込みの機会を多くする方法、増大した薬物吸収特性を示すGI管の標的領域にSAMeを送達する方法、薬物(密着結合に直接影響を及ぼす剤を含む)の経細胞および/または傍細胞輸送を増加させる「吸収増強剤」(「浸透増強剤」および「促進剤」を含む)を組み込む方法、細胞にSAMeを直接送達するナノ担体にSAMeを封入する方法、SAMeを陽イオン形態に維持する方法、食事および/または投薬計画を調節する方法、非被覆SAMeを送達する方法、または吸収を調節する当該「技術」の任意の組み合わせを含む。「胃腸管」、即ち「GI管」に言及する場合、口/頬で始まり、食道、胃、小腸、大腸および結腸直腸の領域までの全領域が含まれることを意図する。
【0038】
胃の滞留時間を延長する機構
SAMeの胃滞留時間の延長は、例えば、胃の蠕動および機械的収縮に耐えるよう設計された、浮遊、幾何、生体接着、および膨潤剤形を含む薬物の胃保持性剤形(GRDF)を用いて達成されうる。
【0039】
GI部位に特異的な標的製剤
GI管に沿った複数の部位へのSAMeの部位特異的送達は、腸管全体の様々な部位の固有環境が種々の薬物吸収に影響を及ぼし得るため、SAMe吸収の理解および調節に役立つ。特に、GI管で低い透過性を示す薬物は、該管に沿った特定区域で吸収される傾向がある。従って、吸収を制御するために、送達部位は制御されなければならない。
【0040】
GI管の標的送達部位は、1以上の口、胃、十二指腸、空腸、回腸、結腸および直腸を含む。GI管に沿ってpHは、胃での1から腸のある部分では8に変化する。GI管は、食事を含む幾つかの因子に応じて位置が変化する個別のpH域を備える極めて複雑な環境である。通常、pHは、胃の最低値から小腸および大腸でより高いpH域まで変動する。
【0041】
大腸は、GI管を含む最終器官であり、結腸および直腸を含む。大腸は水吸収および糞便形成の部位である。口腔部分と同様に、直腸に排出する血液はそもそも肝臓に輸送されない。そのため、直腸で起こる(例えば、直腸座剤および浣腸からの)吸収は、肝臓で別途生じうる生体内変化もなく、体循環系に入る。
【0042】
pHに加えて、表面積、酵素および輸送体の活性、密着結合の間隙率および結腸微生物叢などの他の生理的因子は薬物吸収に影響し、SAMeの生物学的利用能に作用する手段として任意のGI管領域における1以上のこれらの因子を調節することは本発明の範囲内である。
【0043】
密着結合に媒介される傍細胞輸送は、十二指腸、空腸および回腸などのGI管の近位部においてより多いことが当業者に知られている。傍細胞輸送は結腸などの遠位部で非常に少ない。
【0044】
本発明のいくつかの例示実施形態は、pH依存性被覆SAMeを含む新規な組成物に関し、pH依存性被覆の組成物は、胃腸(GI)管の部位特異的区域で生理学的に許容できる用量のSAMeを放出するよう作用する。pH依存性被覆剤は、SAMeの部位特異的吸収および生物学的利用能に作用するため、GI管全体に沿った幾つかの領域でSAMeを放出できるよう設定されうる。
【0045】
本発明のいくつかの例示実施形態は、非腸溶被覆(または「非被覆」)製剤にSAMeを含む組成物に関する。当分野の一般的現状と対照的に、本研究者達は、SAMeが効果的に胃内に放出され、SAMe血漿濃度の上昇を生じ得るため、腸溶被覆が吸収の達成に重要でないことを見出した。
【0046】
吸収増強剤
人体の上皮および内皮の障壁は、体循環系およびまた中枢神経系などの独自の環境をもつ器官への薬物送達に大きな支障を来す。幾つかの輸送経路はこれらの障壁に存在し、該障壁は薬物の透過性および吸収を高めるために活用できる。経細胞経路(輸送体を介した吸着性および受容体媒介性のトランスサイトーシス)と比較して、細胞および分子の傍細胞流動は非常に限定される。過去40年にわたって、多数のグループが吸収または透過性の増強剤を開発してきた。これらの「促進剤」は、細胞間結合および傍細胞透過性を改変する手段として生成される。
【0047】
従って、本発明の幾つかの例示実施形態は、1以上の「吸収増強剤」と併用した生理学的に許容できる用量のSAMeを含む組成物に関する。傍細胞透過性増強剤(PPE)または「促進剤」などの「吸収増強剤」は通常、洗剤または界面活性剤、非界面活性剤(不飽和環状尿素など)、脂肪酸、胆汁酸およびキレート剤の広範な化学カテゴリーに分類される。各剤は、とりわけ、覆う粘液の流動性を改変し、細胞膜脂質二重層を流体化し、密着結合複合体に作用し、酵素または輸送体の活性を阻害し、何らかの方法で薬物自体に影響を及ぼすことなどの1以上の機構により、経口送達された活性成分の吸収を改善しうる。本明細書で用いる吸収増強剤は、(1)SAMeの溶解度の調節;(2)SAMe粘液拡散性の改善;(3)pH、内腔および/または刷子縁酵素からのSAMeの保護;(4)非特異的結合部位からのSAMeの保護;ならびに(5)口および/または胃腸上皮へのSAMeの透過性の改善を含む幾つかの化学的または物理的な相互作用を通じて、機能しうる。
【0048】
本発明での使用に適する吸収増強剤の例は、一般にCPEsと呼ばれる小分子増強剤(化学浸透増強剤;下記の表1に列挙する)、胆汁塩、界面活性剤、リン脂質、グリセリドおよび脂肪酸、ならびにペプチドホルモン、細胞骨格攪乱剤、酸化剤、カルシウムイオン(Ca++)キレート剤およびイオノフォアを含むがこれらに限定されない。
表1.CPEsの一覧表
【表1−1】

【表1−2】

AS:陰イオン界面活性剤、CS:陽イオン界面活性剤、ZS:両性イオン界面活性剤、NS:非イオン界面活性剤、BS:胆汁酸、FA:脂肪酸、FE:脂肪酸エステル、FM:脂肪酸アミン、SS:脂肪酸ナトリウム塩、NR:窒素含有環、OT:その他。
【0049】
最近の薬物吸収の進歩により、密着結合および接着結合において、ますます多くの内在性膜タンパク質、アダプタータンパク質、調節タンパク質、およびシグナル伝達タンパク質の発見に至った。密着結合は、細胞間の障壁を形成する細胞間の細胞内結合である。かくして、物質(例えば、小分子、タンパク質および薬物)は細胞間を通過できないが、むしろ細胞に取り込まれなければならないため、通過できるものを細胞が調節できるようにする。密着結合は、口、小腸、大腸および結腸を含む全身の多数の領域で生じ、異なる領域内で密度/密着性が変化する。GI管内で、密着結合は隣接する内皮細胞間の区域を指し、消化物の取り込みを調節するよう作用する。密着結合は、高度に調節されており、口および/またはGI管および体の他の部位の内腔環境間の障壁を形成する重要な要素の1つである。
【0050】
密着結合は3つの主要な機能を有する:(1)細胞を結び付けること、(2)細胞の頂端面と側底面間で内在性膜タンパク質の移動を遮断し、各面の特殊機能(例えば、頂端面での受容体媒介性エンドサイトーシスおよび側底面でのエキソサイトーシス)を保存させること(これは経細胞輸送の保存が狙いである)、ならびに(3)分子およびイオンが細胞間の空間を通過するのを妨げ、ひいては物質が組織を通過するために実際に(拡散または能動輸送により)細胞に入らざるを得ないこと。この経路は、どんな物質が通過できるかの制御をもたらす。
【0051】
密着結合もしくは接着結合のタンパク質、結合機能を調節するシグナル伝達経路、または密着結合に関連する脂質ラフト・マイクロドメインを直接標的にし得る新規な密着結合調節物質または開口剤は、現在開発中である。密着結合に直接作用する調節物質は、閉鎖帯毒素、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)腸毒素に由来するペプチド、ファージ・ディスプレイ法により選択される内在性膜密着結合タンパク質に結合するペプチド、および脂質調節物質を含む。これらは、傍細胞輸送および薬物送達を可逆的に増大でき、上皮バリアおよび血液脳関門を通る薬物送達を改善するための医薬賦形剤として使用される潜在力を有する。本発明での使用に適する例示「密着結合調節物質」は、キトサン、ポリ(アクリル酸)、サイトカラシンD、カプリン酸塩、スペルミン、タウロコール酸塩(ナトリウムおよび他の塩形態を含む)および他の胆汁酸、および/またはこれらの塩(コール酸、コール酸ナトリウムもしくはコール酸カリウム)、ならびに閉鎖帯毒素またはウェルシュ菌腸毒素に由来するペプチドを含む最近同定された剤を含むが、これらに限定されない。本明細書に含まれる密着結合調節物質の類は、従って、飽和および/もしくは不飽和脂肪酸またはそれらの対応するカルボン酸塩(例えば、C6−C24脂肪酸もしくはそれらのカルボン酸塩、とりわけC8−C22脂肪酸もしくはそれらのカルボン酸塩、C10−C20脂肪酸もしくはそれらのカルボン酸塩、C6−、C7−、C8−、C9−、C10−、C11−、C12−、C13−、C14−、C15−、C16−、C17−、C18−、C19−、C20−、C21−、C22−脂肪酸もしくはそれらのカルボン酸塩)、飽和および不飽和スルホン酸およびそれらのスルホン酸塩(例えば、C6−C24スルホン酸もしくはスルホン酸塩、とりわけC8−C22スルホン酸もしくはスルホン酸塩、C10−C20スルホン酸もしくはスルホン酸塩、C8−、C9−、C10−、C11−、C12−、C13−、C14−、C15−、C16−、C17−、C18−、C19−、C20−、C21−、C22−スルホン酸もしくはスルホン酸塩)、両性イオン界面活性剤(例えば、3−(N,N−ジメチルパルミチルアンモニオ)プロパンスルホネート、デシルジメチルアンモニオプロパンスルホネート、ミリスチルジメチルアンモニオプロパンスルホネート、コカミドプロピルヒドロキシスルタイン(ChemBetaine(登録商標)CAS)、オレイルベタイン(ChemBetaine(登録商標)オレイル)、もしくはパルミトイルカルニチンクロリド)、脂肪アミン(例えば、C6−C24脂肪アミン、とりわけC8−C22脂肪アミン、C10−C20脂肪アミン、C6−、C7−、C8−、C9−、C10−、C11−、C12−、C13−、C14−、C15−、C16−、C17−、C18−、C19−、C20−、C21−、C22−脂肪アミン)、ならびに他の有機酸(例えば、酒石酸)およびシクロデキストリン(例えば、アルファ−シクロデキストリン、ベータ−シクロデキストリン、もしくはガンマ−シクロデキストリン)を含む。使用されうる例示脂肪酸は、ヘキサン酸、ヘプタン酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、リノレイン酸、α−リノレイン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、エルシン酸、ドコサヘキサエン酸を含む。使用されうる例示カルボン酸塩は、カプリン酸、カプリル酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、リノレイン酸、α−リノレイン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、エルシン酸、ドコサヘキサエン酸のナトリウムまたはカリウム塩を含む。特定のカルボン酸塩は、カプリン酸ナトリウム、カプリル酸ナトリウム、およびラウリル酸ナトリウムを含む。使用されうる特定の脂肪アミンは、ラウリルアミン(N−ドデシルアミン)、デシルアミン、ノニルアミン、オクチルアミン、ヘプチルアミンまたはヘキシルアミンを含む。使用されうる例示スルホン酸は、オクタンスルホン酸、デカンスルホン酸(例えば1−デカンスルホン酸ナトリウム)、ドデカンスルホン酸、テトラデカンスルホン酸、ヘキサデカンスルホン酸、オクタデカンスルホン酸、エイコサンスルホン酸、ドコサンスルホン酸またはテトラコサンスルホン酸を含む。言及されうる特定のスルホン酸は、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムを含む。
【0052】
従って、本発明は、具体的には、生理学的に許容できる用量のSAMeおよび少なくとも1つの密着結合調節物質を含む組成物にも関する。好ましい実施形態において、該密着結合調節物質は生理学的に許容できる用量のSAMeと共製剤される。
【0053】
密着結合調節物質は、GI管のより遠位な部分を標的にする改変放出剤形の改良に特に有効でありうる。密着結合の孔は、例えば十二指腸と比べて、回腸および結腸などの遠位部でより緊密である(即ち、十二指腸の密着結合は、GI下部の密着結合より多孔性である)。その上、GI管上部の通過時間はGI管下部よりも速い。下部における遅い通過時間に加えて多孔性でない密着結合の組み合わせは、GI管下部での密着結合調節物質の使用が相対的基礎に基づいて影響力の強いことを示唆する。この結果は、結腸、および座剤製剤の場合は直腸へのSAMe送達を延ばすことが予期される。
【0054】
改善されたSAMeの口腔送達も、口内の密着結合の存在を考慮すると、1以上の密着結合調節物質を含む本発明の製剤を用いて実用になると考えられる。従って、本発明の非経口でない製剤とは、口腔、結腸および直腸を含む上部および下部の腸領域を標的にする製剤を含むことを意味する。
【0055】
長時間にわたって吸収を増加させる改変放出剤形を創出するために、GI上部を標的にする従来成分または調節物質増強成分と併用して、GI下部を標的にする調節物質増強成分を使用することも可能であろう。
【0056】
従って、本発明は、具体的には、生理学的に許容できる用量のSAMeおよび少なくとも1つの密着結合調節物質を含む口腔送達用組成物に関する。
【0057】
幾つかの実施形態において、該組成物は口腔剤形として投与される。他の実施形態において、該組成物は座剤として投与される。
【0058】
好ましくは、「密着結合調節物質」を含む特定の「吸収増強剤」の適合性は、SAMeの細胞透過性研究を用いてインビトロで同定される。最も関連する細胞株は、インビトロ実験に十分であり、Caco−2細胞(実施例3に記載)を含むがこれらに限定されない。さらに、当分野の参照文献の利用によっても、本発明で使用する潜在的に適切な「吸収増強剤」または「密着結合調節物質」に対する洞察がもたらされうる。
【0059】
SAMe送達を増加させるナノ担体
非経口でないSAMe投与での使用に適したナノサイズの担体にSAMeを封入することにより(例えば、ナノ粒子およびコロイド系)、細胞への送達が増加する結果となりうる。上皮を傷つけることなく経細胞腸管吸収を増加させるように思われる幾つかのアプローチが記載されている。これらのアプローチは、薬物を安定化し、薬物溶解度を増し、または経細胞透過性を改善するためにその特性を改変する方法に分類できる。SAMe吸収の増強に適しうる種々のコロイド系は、サブミクロン乳濁液、ポリマーナノ粒子、微粒子などが例示される。サイズ、サイズ分布、濃度、疎水性、およびSAMeの細胞取り込みを増強するために調節されうる表面特性を含む該系の胃腸取り込みを支配する種々の物理化学的要因が存在する。
【0060】
SAMeの吸収増強および生物学的利用能を阻害する製剤の投与
幾つかの実施形態において、本発明の吸収増強SAMe製剤は、気分の改善、関節の健康および肝臓機能を含むがこれらに限定されない、栄養補給の増強または栄養補助食品の健康改善に関する。幾つかの例示実施形態において、疾患は、食事を通して達し得ないSAMeの追加補給(例えば「医療食」)による疾病の食事管理に関する。
【0061】
本発明の幾つかの例示実施形態は、被験者の疾病または疾患を治療および/または予防する方法に関し、該疾病または疾患は、精神疾患もしくは精神医学的疾患(例えば、それぞれ鬱病および物質関連疾患などの精神病/気分または非精神病の精神疾患)、神経系の疾病/疾患(例えば、アルツハイマー病などの中枢神経系疾病)、他の神経学的疾病/疾患(例えば頭痛および睡眠障害)、中枢神経系の損傷に関連する状態、肝臓疾病/疾患(例えば、アルコール性肝臓疾病)、癌(例えば、固形癌および血液感染性癌)、関節疾病/疾患(例えば、関節炎)、炎症性疾病/疾患(例えば、潰瘍性大腸炎)、自己免疫疾病/疾患(例えば、全身性エリテマトーデスおよびリウマチ性関節炎)、変性疾病/疾患(例えば、筋萎縮性側索硬化症)、軟組織疾病/疾患(例えば、線維筋痛疾患)、疼痛疾病/疾患、高−または低−メチル化に関する遺伝疾患、胃腸疾病/疾患、心血管疾病/疾患、および酸化的損傷またはフリーラジカルによる損傷により全身または部分的に誘導される疾患よりなる群から選択されるが、これらに限定されない。該方法は、生理学的に有効な量の外因性SAMeの吸収および生物学的利用能を増強する本発明の例示組成物を該被験者に投与する工程を含む。
【0062】
本発明の幾つかの実施形態は、不安障害、抑鬱障害、摂食障害、双極性障害、乱用障害、依存性障害、II軸障害、および精神病よりなる群から選択される精神疾患または精神医学的疾患を治療するため、本明細書で開示する例示組成物の治療的使用に関する。幾つかの例示実施形態において、精神疾患または精神医学的疾患は、全般性不安障害、心的外傷後ストレス障害、社会不安障害、パニック障害、統合失調症、および強迫障害よりなる群から選択される不安障害である。幾つかの例示実施形態において、精神疾患または精神医学的疾患は、大鬱病性障害、多発梗塞性認知症、小鬱、産後鬱または高齢期鬱(など)、パーキンソン鬱、HIV関連鬱、短時間再発性(brief recurrent)鬱病、気分変調またはNOS(特定不能の)鬱病よりなる群から選択される抑鬱障害である。幾つかの例示実施形態において、精神疾患または精神医学的疾患は、多食症、神経性無食欲症、気晴らし食い(binge eating)障害、肥満、またはNOS摂食障害よりなる群から選択される摂食障害である。幾つかの例示実施形態において、精神疾患または精神医学的疾患は、アルコール、ニコチン、コカイン、コデイン、オキシコドン、ヒドロコドンまたは他のアヘン剤の乱用または依存を含む、双極性障害、乱用障害または依存性障害である。幾つかの例示実施形態において、精神疾患または精神医学的疾患は、境界性人格障害から選択されるII軸障害である。
【0063】
幾つかの例示実施形態において、該疾患は、パーキンソン病、アルツハイマー病、アンジェルマン症候群(遺伝疾患)、多発性硬化症(MS)ならびに認知症前および/または認知機能障害などの中枢神経系(CNS)疾患を含む神経系疾患である。
【0064】
幾つかの例示実施形態において、該疾患は、癌、パーキンソンおよびHIVなどだが、これらに限定されない1以上の疾病または疾患の治療を受けている被験者に生じる併存鬱病などの合併疾患である。ある実施形態において、合併疾患は、1以上の疾病または疾患を治療するために利用される1以上の治療により惹起される。
【0065】
幾つかの例示実施形態において、該疾患は、CNS損傷の結果であり、脊髄損傷または脳傷害、記憶喪失、認知障害および/または学習障害などである。
【0066】
幾つかの例示実施形態において、該疾患は、アルコール性肝臓疾患、脂肪肝疾病(非アルコール性)肝炎(ウイルス性および非ウイルス性の両方)、肝臓癌、酸化的肝疾患、HISS依存性インスリン耐性、胆汁鬱滞および肝硬変よりなる群から選択される肝臓疾患である。
【0067】
幾つかの例示実施形態において、該疾患は、肝臓、結腸、直腸、卵巣、尿道、睾丸、膀胱、乳房、胃、食道、膵臓、頭頸部、肺、血液、皮膚(光線角化症、基底細胞癌、表在性基底細胞癌、扁平上皮細胞癌および黒色腫など)の1以上で生じる癌および腺癌よりなる群から選択される癌である。
【0068】
幾つかの例示実施形態において、該疾患は、例えば関節炎および変形性関節炎などの関節疾患である。
【0069】
幾つかの例示実施形態において、該疾患は、全身性エリテマトーデス、ライ症候群、リウマチ熱、アレルギー性鼻炎、重症筋無力症、側頭動脈炎、血管炎、乾癬、アトピー性皮膚炎、酒さ、湿疹、全身性脱毛症、強皮症、天疱瘡、接触皮膚炎、強直性脊椎炎、皮膚筋炎、多発筋炎、セリアック病、ギラン−バレー症候群、多発梗塞性認知症、後脳血管障害再かん流損傷(post−cerebral vascular accident reperfusion damage)、アジソン病、橋本甲状腺炎、喘息、上気道炎症候群、慢性気管支炎、アテローム性動脈硬化、悪性貧血、自己免疫性肝炎、前立腺炎、骨盤炎症性疾患、グッドパスチャー症候群、ウェグナー肉芽腫、慢性腎炎、シェーグレン症候群、またはアレルギー性結膜炎よりなる群から選択される炎症性疾患である。
【0070】
幾つかの例示実施形態において、該疾患は、炎症性腸疾患(IBD)、クローン病または潰瘍性大腸炎(UC)などの胃腸疾患である。
【0071】
幾つかの例示実施形態において、該疾患は、線維筋痛などの軟組織疾患である。
【0072】
幾つかの例示実施形態において、該疾患は、線維筋痛、慢性頭痛、帯状疱疹、反射性交感神経性ジストロフィーおよび多発性ニューロパシーなどの疼痛疾患である。
【0073】
幾つかの例示実施形態において、該疾患は、冠動脈性心疾患、脳卒中、末梢血管疾患およびアテローム性動脈硬化疾患などの高−または低−メチル化に関する心血管疾患である。
【0074】
幾つかの例示実施形態において、該疾患は、メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素欠損症などのメチル化経路の欠損に関する遺伝状況または病状に関する。
【0075】
幾つかの例示実施形態において、疾患の病因は、酸化的損傷またはフリーラジカルによる損傷を含み、慢性疲労症候群、側頭動脈炎、血管炎、多発梗塞性認知症、慢性肺気腫、または慢性腎炎よりなる群から選択される。
【0076】
本発明の吸収増強SAMe製剤により供される利点の中に、連日投与の減少、副作用プロファイルの改善(胃炎が減少し、躁鬱病患者または躁病エピソードの危険性のある患者に躁病を誘発する傾向が潜在的に減少するなど)、および所望の効果を達成するために必要な比較的高用量(典型的には約400から約3200 mgのSAMeイオン/日、より典型的には約800から約1600 mgのSAMeイオン/日)のSAMeに関連するまたは惹起される他の副作用の改善により、利便性および随伴する患者コンプライアンスの改善が含まれる。
【0077】
本明細書で用いられるように、「所望の効果」という用語は、「治療効果」、「医薬効果」、「食事効果」(例えば、医療食としての使用)、「栄養補給効果」および「栄養効果」を含む。従って、「所望の効果」とは、被験者の生理的疾患または病態の少なくとも1つの症状を改善すること、または被験者に栄養補助食品として使用される場合に少なくとも1つの性能変数(集中、記憶、気分、栄養状態または肝臓状態の改善など)を改善することを含む。「所望の効果」は、本発明のSAMe製剤を用いた栄養補助食品により、または本発明のSAMe製剤の臨床、調剤または獣医用の投薬計画を用いた投与により、達成されうる。
【0078】
本発明の方法および組成物に従った投与に適する被験体は、ヒト、家畜または外来動物または家畜類などの温血哺乳動物;鶏およびアヒルなどの家畜鳥類の被験体;ならびに研究用途に適した実験動物を含む。被験体の疾病または疾患の治療に用いる場合、特定の生理的疾患および病態の様々な症状が本発明の文脈内で治療可能であると意図され、その詳細は下記に記載する。しかしながら、当業者による種々の病態の理解は停滞していないと認識されるべきであり、これは栄養補充に関する性能変数と同じである。従って、上記の記載は、本発明の吸収増強SAMe製剤を用いて治療されうる種々の疾患、病態、症状または性能変数の説明であることが意図されるが、当業者はこのような知識を応用することが見込まれる。
【0079】
複数回投与単位を用いた投薬
本発明の幾つかの例示実施形態は、被験者の1以上の疾病の治療および/または予防に関し、1以上の疾病および/または疾患の治療および/または予防は、生理的に許容できる用量のS−アデノシルメチオニン(SAMe)またはその専売塩を含む吸収増強製剤を被験者に投与する工程を含む。
【0080】
本発明の幾つかの他の例示実施形態は、被験者の1以上の栄養性能変数を改善するためのSAMe栄養補助食品および/または食事補助食品に関し、栄養性能変数は、1以上の集中、記憶、気分、栄養状態および肝臓状態であり、生理的に許容できる用量のS−アデノシルメチオニン(SAMe)またはその他の専売SAMe塩を含む吸収増強製剤が被験者に投与される。
【0081】
幾つかの例示実施形態において、吸収増強SAMeは複数の日用量に分割されうる。複数回日用量は同一である必要はなく、1以上の剤形を組み合わせて含みうる。幾つかの例示実施形態において、吸収増強SAMeは2以上の日用量に分割されうる。各用量は、単一の錠剤、カプセル、カプレットなどの単回投与単位として投与してもよく、或いは複数回投与単位に分割してもよい。幾つかの実施形態において、1用量当たり約100から約1600 mgのSAMeイオンの1日2回用量は、1単位当たり約100から約800 mgのSAMeイオンの1から4回の投与単位に分割されうる。いずれの場合にも、投薬単位の形態は、カプセル、錠剤、カプレット(単回または複数回の区分)、または持続放出投薬単位などでありうる。幾つかの実施形態において、吸収増強剤およびSAMeは経口剤形で提供され、経口剤形の個別区分は吸収増強剤またはSAMeのいずれかを含む。他の実施形態において、吸収増強技術はSAMe剤形から個別に投与される。好ましくは、経口剤形は、錠剤、カプセル、またはゲルカプセルである。
【0082】
従来のSAMe投薬は一般に、薬物の最大活性を達成するために、1日2回(BID)1日当たり1600 mgまでのSAMeイオンを投与する。錠剤は、被験者が1日当たり4−8錠剤を摂取することが必要な200 mgおよび400 mg用量のSAMeイオンで市販されることが多い。これは、一貫投薬の所要時間および潜在的誤り(例えば、用量を飲み忘れる場合)に関して不都合である。本発明は、SAMeの有効用量を減らし(即ち、従来の投薬計画と比べて、同一以上の効能に達するための1日に必要な錠剤数を減らし)、ならびに/または1日2回の服用を不要にする新規な組成物および方法を同定した。SAMe吸収の改善によって、1以上の吸収増強技術を含む組成物を提供することにより、有効な応答を引き出すのに必要なSAMe用量を減らす新規なSAMe治療方法が利用できる。これらの例示「低用量」製剤は、毎日の錠剤数をより少なくし、これは、時間、経費および自己投与の大量服用の不都合を減らすため、SAMeの服用者に有益である。
【0083】
幾つかの例示実施形態は、1日1回単位での生理的に許容できる選択用量の投与に関する。幾つかの実施形態において、1日1回用量は、単一の錠剤、カプセル、またはカプレットなどの単回投薬単位で投与されうる。他の例示実施形態において、単回用量は、1度に服用される複数の錠剤、カプセルまたはカプレットとして投与されうる。幾つかの実施形態において、例えば、1日当たり約400から3200 mgのSAMe用量は、1単位当たり約50から2000、好ましくは約100から1600 mgのSAMeの2、3、4以上の錠剤、カプセルまたはカプレットに分割されうる。幾つかの好ましい実施形態において、日用量は1単位当たり約100から800 mgのSAMeイオンの2、3または4単位(例えば、錠剤、カプセルまたはカプレット)を含みうる。包含される適切な投薬計画は、1単位当たり約50−400 mgのSAMeイオンを4単位、例えば1単位当たり50、100、150、200、250、300、350または400 mgのSAMeイオン;1単位当たり約50−1000 mgのSAMeイオンを3単位、例えば1単位当たり50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950または1,000 mgのSAMeイオン;1単位当たり約50−1600 mgのSAMeイオンを2単位、例えば1単位当たり50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1050、1100、1150、1200、1250、1300、1350、1400、1450、1500、1550または1600 mgのSAMeイオンである。
【0084】
本発明の幾つかの例示実施形態は、「低用量」SAMe組成物に関する。外因性SAMeの生物学的利用能を増大することにより、連日投与されるSAMeの用量は、SAMe吸収が改善した組成物の投与により実質的に減少しうる。これらの例示「低用量」治療は、毎日の錠剤数を減少しうる。
【0085】
満腹時対空腹時の投与
本発明の幾つかの実施形態において、被験者が確実に満腹または空腹(例えば、少なくとも約6、とりわけ約8時間の一晩)のいずれかであると好都合である。本発明の吸収増強SAMe製剤が被験者に投与されると同時、直前(即ち、約30分未満、とりわけ約15分未満)または直後(例えば、約10分未満)に投与される食物は、胃内容物排出速度を増減しうるため、製剤からのSAMeの取り込み速度に影響を及ぼす。従って、幾つかの実施形態において、本発明は、食物とともに本発明の吸収増強SAMe製剤を投与することを意図し、食物はSAMe治療前または治療中のいずれかに摂取される。
【0086】
他の活性成分とSAMeの併用
本発明の幾つかの例示実施形態は、被験者の疾病または疾患の治療および/または予防に一般に処方または使用される1以上の活性成分とSAMeの併用に関し、該疾病または疾患は、精神もしくは精神医学の疾患(例えば、それぞれ鬱病および物質関連疾患などの精神病または非精神病の精神疾患)、神経系の疾病/疾患(例えば、アルツハイマー病などの中枢神経系疾病)、他の神経学的疾病/疾患(例えば頭痛および睡眠障害)、中枢神経系の損傷に関連する状態、肝臓疾病/疾患(例えば、アルコール性肝臓疾病)、癌(例えば、固形癌および血液感染性癌)、関節疾病/疾患(例えば、関節炎)、炎症性疾病/疾患(例えば、潰瘍性大腸炎)、自己免疫疾病/疾患(例えば、全身性エリテマトーデスおよびリウマチ性関節炎)、変性疾病/疾患(例えば、筋萎縮性側索硬化症)、軟組織疾病/疾患(例えば、線維筋痛疾患)、疼痛疾病/疾患、高−または低−メチル化に関する遺伝疾患、胃腸疾病/疾患、心血管疾病/疾患、および酸化的損傷またはフリーラジカルによる損傷により全身または部分的に誘導される疾患よりなる群から選択されるが、これらに限定されない。該方法は、生理学的に有効な量の外因性SAMeの吸収および生物学的利用能を増大させる本発明の例示組成物を被験者に投与する工程を含む。
【0087】
本発明の幾つかの例示実施形態は、被験者の精神疾患または精神医学疾患の治療および/または予防に一般に処方または使用される1以上の活性成分とSAMeの併用に関し、3環系抗鬱薬(TCA)、4環系抗鬱薬、アミノケトン、フェニルピペラジン、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)、モノアミン・オキシダーゼ阻害剤(MAOI)、セロトニン−ノルエピネフリン再取り込み阻害剤(SNRI)、ノルエピネフリン−セロトニン再取り込み阻害剤(NSRI)、ドパーミン再取り込み阻害剤、ノルエピネフリン−ドパーミン再取り込み阻害剤、ノルエピネフリン再取り込み阻害剤、選択的セロトニン再取り込み増強剤、ノルアドレナリン作動性セロトニン特異的抗鬱剤、P物質受容体アンタゴニスト、サレデュタント(saredutant)などのニューロキニン受容体アンタゴニスト、ミフェプリストンなどのコルチコトロピン放出因子アンタゴニスト、アリピパラゾールなどの非定型抗精神病薬、リチウムもしくはトリプル再取り込み阻害剤などの通常使用される抗鬱剤増強剤を含むがこれらに限定されない。
【0088】
本発明の幾つかの例示実施形態は、被験者の精神疾患または精神医学疾患の治療および/または予防に一般に処方または使用される1以上の装置治療とSAMeの組み合わせに関し、ECT(電気痙攣治療)および電気ショック治療を含むがこれらに限定されない。
【0089】
本発明の幾つかの例示実施形態は、被験者の神経系疾病/疾患の治療および/または予防に一般に処方または使用される1以上の活性成分とSAMeの併用に関し、プレガバリンなどの抗痙攣薬、α−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−4−イソキサゾールプロピオン酸(AMPA)受容体アンタゴニスト、メチルホスホネート(NMPA)受容体アンタゴニスト、ヒスタミン受容体アンタゴニスト、一酸化窒素(NO)調節物質、グルタメート受容体アンタゴニスト、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、ドパーミンアゴニスト、メマンチンなどのN−メチル−d−アスパルテート(NMDA)受容体アンタゴニスト、ドネペジルなどのコリンエステラーゼ阻害剤、神経保護物質、向知性剤、CNS調節物質、抗アミロイド生成剤を含むがこれらに限定されない。
【0090】
本発明の幾つかの例示実施形態は、被験者の肝臓疾患の治療および/または予防に一般に処方または使用される1以上の活性成分とSAMeの併用に関し、インターフェロン、リバビリン、ステロイド、抗生物質、および酢酸亜鉛などの抗ウイルス薬を含むがこれらに限定されない。
【0091】
本発明の幾つかの例示実施形態は、被験者の癌の治療および/または予防に一般に処方または使用される1以上の活性成分とSAMeの併用に関し、化学療法剤、薬物耐性調節物質、モノクローナル抗体、サイトカイン(例えば、インターフェロンおよびインターロイキン)、免疫サイトカイン、増殖因子、癌防御物質、ワクチンおよび他の生体応答改変物質を含むがこれらに限定されない。
【0092】
本発明の幾つかの例示実施形態は、被験者の関節性または炎症性疾病/疾患の治療および/または予防に一般に処方または使用される1以上の活性成分とSAMeの併用に関し、鎮痛薬、非ステロイド抗炎症薬化合物(NSAID)、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)、コルチコステロイド、アナキンラ(インターロイキン−1受容体アンタゴニスト)、COX−2阻害、バクロフェンなどのガンマ−アミノ酪酸−B(GABAB)受容体アゴニスト、ベンゾジアゼピンなどのGABAA増強薬、腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬、および免疫応答を改変する他の薬物(免疫抑制薬)を含むがこれらに限定されない。
【0093】
本発明の幾つかの例示実施形態は、被験者の自己免疫疾病/疾患の治療および/または予防に一般に処方または使用される1以上の活性成分とSAMeの併用に関し、DMARD、コルチコステロイド、アナキンラ(インターロイキン−1受容体アンタゴニスト)、TNF阻害薬、および免疫応答を改変する他の薬物(免疫抑制薬)を含むがこれらに限定されない。
【0094】
本発明の幾つかの例示実施形態は、被験者の変性疾病/疾患の治療および/または予防に一般に処方または使用される1以上の活性成分とSAMeの併用に関し、NSAID、COX−2阻害、バクロフェンなどのGABAB受容体アゴニスト、およびベンゾジアゼピンなどのGABAA増強薬を含むがこれらに限定されない。
【0095】
本発明の幾つかの例示実施形態は、被験者の軟組織の疾病/疾患の治療および/または予防に一般に処方または使用される1以上の活性成分とSAMeの併用に関し、ミルナシプラン、プレガバリン、SNRI、NSRI、筋弛緩剤、鎮静剤、鎮痛剤、およびNSAIDを含むがこれらに限定されない。
【0096】
本発明の幾つかの例示実施形態は、被験者の高および低メチル化に関連する遺伝疾病/疾患の治療および/または予防に一般に処方または使用される1以上の活性成分とSAMeの併用に関し、メチオニン、MTA(5’−デオキシ−5’−(メチルチオ)アデノシン)および他のSAMe代謝産物を含むがこれらに限定されない。
【0097】
本発明の幾つかの例示実施形態は、被験者の胃腸疾病/疾患の治療および/または予防に一般に処方または使用される1以上の活性成分とSAMeの併用に関し、5−アミノサリチル酸(5−ASA)薬、コルチコステロイド(プレドニゾン)、アザチオプリン(イムラン)、6−メルカプトプリン(6−MP)、メトトレキサートおよびシクロスポリン(サンディミュン)などの免疫調節薬、メトロニダゾール(フラジール)およびシプロフロキサシン(シプロ)などの一般に使用される抗生物質、ならびにインフリキシマブ(レミケード)などの生物剤を含むがこれらに限定されない。
【0098】
本発明の幾つかの例示実施形態は、被験者の心血管疾病/疾患の治療および/または予防に一般に処方または使用される1以上の活性成分とSAMeの併用に関し、スタチン、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、ASA、メチオニンなどのSAMe分解産物、MATおよび葉酸塩、心臓保護剤、血管保護剤、凝固阻害剤を含むがこれらに限定されない。
【0099】
本発明の幾つかの例示実施形態は、酸化的損傷またはフリーラジカルによる損傷により全身または部分的に誘導される疾患の治療および/または予防に一般に処方または使用される1以上の活性成分とSAMeの併用に関し、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノール、フラボノイド、セレン、カロテノイドなどの抗酸化剤を含むがこれらに限定されない。
【0100】
本発明の幾つかの例示実施形態は、脳損傷または脊髄損傷などの中枢神経系への傷害により全身または部分的に誘導される疾患の治療および/または予防に一般に処方または使用される1以上の活性成分とSAMeの併用に関し、神経保護剤、向地性剤、CNS調節物質、鎮痛薬、筋弛緩剤、アポトーシス阻害剤、骨調節物質、抗酸化剤を含むがこれらに限定されない。
【0101】
メチオニン、MTA、葉酸塩、ビタミンB6および/またはB12はそれぞれホモシステイン産生の減少に相関するため、本発明の幾つかの例示実施形態は、これらとSAMeとの併用に関する。従って、メチオニン、MTA、葉酸塩、ビタミンB6および/またはB12とSAMeの併用は、身体本来のSAMe産生能を強化することにより、SAMe補給の増大をもたらしうると同時に、SAMeを外因性SAMeで補給することにより、吸収の増大および生物学的利用能の改善を示すと考えられる。本明細書で用いられるように、「葉酸塩」という用語は、天然および合成の全形態のビタミンB9を指し、葉酸、テトラヒドロ葉酸塩およびL−メチル葉酸塩を含むがこれらに限定されない。
【0102】
幾つかの実施形態において、本発明の例示的な吸収増強SAMe剤形は、被験者の疾病または疾患の治療に適切なまたは治療および/または予防に一般に処方または使用される1以上の化合物などの少なくとも1つの他の活性成分を含む個別剤形とともにキットに含まれうる。該疾病または疾患は、精神もしくは精神医学の疾患(例えば、それぞれ鬱病および物質関連疾患などの精神病/気分または非精神病の精神疾患)、神経系の疾病/疾患(例えば、アルツハイマー病などの中枢神経系疾病)、他の神経学的疾病/疾患(例えば頭痛および睡眠障害)、中枢神経系の損傷に関連する状態、肝臓疾病/疾患(例えば、アルコール性肝臓疾病)、癌(例えば、固形癌および血液感染性癌)、関節疾病/疾患(例えば、関節炎)、炎症性疾病/疾患(例えば、潰瘍性大腸炎)、自己免疫疾病/疾患(例えば、全身性エリテマトーデスおよびリウマチ性関節炎)、変性疾病/疾患(例えば、筋萎縮性側索硬化症)、軟組織疾病/疾患(例えば、線維筋痛疾患)、疼痛疾病/疾患、高−または低−メチル化に関する遺伝疾患、胃腸疾病/疾患、心血管疾病/疾患、および酸化的損傷またはフリーラジカルによる損傷により全身または部分的に誘導される疾患よりなる群から選択されるが、これらに限定されない。該方法は、生理学的に有効な量の外因性SAMeの吸収を改善する本発明の例示組成物を被験者に投与する工程を含む。
【0103】
上記に例示する1以上の追加成分またはメチオニン、MTA、葉酸塩、ビタミンB6および/またはB12とSAMeの併用に加えて、本発明の例示的な吸収増強SAMe製剤の投与により、被験者により摂取される他の薬物または栄養補助食品の効果も増大しうる。従って、本発明の幾つかの例示実施形態は、薬物または栄養化合物の活性を増大させるために、他の疾病治療用に既に使用される薬物または栄養化合物とSAMeとの併用に関する。
【実施例】
【0104】
本発明は下記の実施例によりさらに説明する。これらの実施例は、本発明のある特定の側面を説明するが、開示発明の範囲を限定または制限するものとみなすべきでない。
実施例1
改変されたSAMe被覆組成物はGI部分に特異的なSAMe吸収をもたらす
【0105】
生体内のSAMeの吸収特性をより理解するために、まずSAMeを含む標準非被覆錠剤を生成した後、GI管の異なる3領域の1つを標的にする部分特異的被覆剤で被覆した。
【0106】
微結晶性セルロース、クロスカルメロース、コロイド状二酸化ケイ素、およびステアリン酸マグネシウムを含む非被覆SAMe錠剤は、当業者に知られる標準的手法を用いて作製した。組成物の圧縮性を改善するために、SAMe粉末は乾式圧縮法を用いて造粒した。各賦形剤は顆粒内および顆粒外の相間で分裂した。最終の錠剤化混合物は、一局に細長い長円形の工具を装着した回転式錠剤プレスを用いて圧縮し、残りの局は塞いだ。相対的周囲湿度は約30%未満に維持し、周囲温度は工程を通して20℃から30℃に制御した。この製剤で使用する顆粒は、良好な流動性を有し、圧縮中粘着または摘出を明示しなかった。
【0107】
近位GI管(十二指腸および空腸)でのSAMe放出を標的にするため、一般に使用され、約5.5より上のpHで溶解することが知られるEudragit(登録商標)をSAMe錠剤に適用した(EUDRAGITはRohm GmbH社の登録商標である;ドイツ・ダルムシュタット)。pH依存性被覆剤を適用する前にこれらの錠剤の表面特性を改善するため、まず市販の密封被覆剤を適用した。
【0108】
第二の市販Eudragit(登録商標)被覆剤を含む第二製剤は約7.0より上のpHで溶解するため、遠位GI管(回腸/上行結腸)にSAMeを送達するために使用した。上記の通り、この製剤はまず市販の密封被覆剤を用いて調製した。
【0109】
最後に、委託研究機関により、GI管全体にSAMeを定量放出するために使用する律速被覆剤を非被覆SAMe核錠剤に適用した。
【0110】
図1Aに見られるように、SAMeの送達はGI管の3領域全てに到達し、各部位でCmax値およびTmax値の異なる独自のSAMe薬物動態プロファイルが得られる(図1B)。pH5.5およびpH7.0の被覆錠剤の場合、非被覆の予測時間は、標的部の予測通過時間または到着時間とともに、被覆剤のpH感受性の関数である。観察されたTmaxは該予想時間に実験的に対応した。非溶解被覆である律速被覆の場合、密封被覆はなく、Tmaxは結腸の最大薬物送達に対応する。
【0111】
従って、3つの製剤は、それらのTmaxにより判定されるように、近位、遠位および伸展GI部に対応するGI管内の異なる3部位での標的送達を示すことが確認された。3製品の核および投与量は同一であるが、Cmaxにより示される送達量およびAUCは有意に相違した。相対生物学的利用能は標的部の密着結合の孔隙率と相関する。
【0112】
実施例2
吸収増強剤の生体内分析
SAMeの新規調製物の吸収ひいては生物学的利用能を増大する手段としての吸収増強剤の使用は、1以上の吸収増強剤とSAMeの共製剤または1以上の吸収増強剤とSAMeの共投与のいずれかにより、達成できる。SAMeの専売調製物を投与する前または後の妥当な時間内で吸収増強剤を投与する方が有効でありうるため、共投与は必ずしも同時でなくてもよい。
【0113】
適切な吸収増強剤の同定は当分野で見出され、または生体内で達成されうる。SAMeおよび1以上の吸収増強剤を含む組成物の生体内活性は、動物モデルへの投与後に測定されうる。好ましくは、動物モデルは薬物動態(PK)モデルを含み、候補製剤は生理学的に有効な用量を用いて非齧歯動物(例えば、犬、豚、ミニブタ、または霊長類)および血液、尿、脳脊髄液(CSF)に投与され、または他の適切な生体液が定期的な間隔で採取される。生体液は濃度対時間プロファイルを構築するために活性化合物について試験される。これらのデータは分析し、薬物動態パラメータは生体内の薬物動態活性を評価するために算出される。このようなモデルで分析される最も一般的な薬物動態パラメータはCmax、Tmaxおよび濃度曲線下面積(AUC)である。
【0114】
代わりに、またはPKモデルに加えて、一例として肝臓疾病または変形性関節症の非齧歯類モデルの使用により、測定効力を用いて適切な吸収増強剤を同定できる。
【0115】
血漿および尿のマーカーは各疾病/疾患に適切な測定マーカーを含む。
【0116】
遺伝子発現の変化は、遺伝子発現の連続分析(ゲノミクス)およびタンパク質発現の変化(プロテオミクス)または代謝産物濃度の変化(メタボロミクス)を含む。
【0117】
実施例3
吸収増強剤のインビトロ・スクリーニング
上記に加えて、適切な吸収増強剤の同定は、簡易で標準的なインビトロ・スクリーニング検定を用いても達成しうる。本発明において、吸収増強剤で処理したCaco−2細胞単層へのSAMeの透過性は、未処理Caco−2細胞単層と比べて処理Caco−2細胞により吸収されるSAMe量を増大させる剤を同定するために使用される。Caco−2細胞株は、ヒト結腸直腸癌に由来し、胃腸薬物吸収研究用のインビトロ細胞培養モデルに広く使用される(Stewart,B.,(1995)Pharm. Res. 12:693)。これらのモデルにおいて、純細胞株は半透膜上で増殖する。薬物製剤は細胞単層の頂端側または側底側に留置され、膜の反対側の薬物濃度の測定により輸送が決定される。
【0118】
本発明で利用するCaco−2細胞株は、アメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC)から得た。Caco−2細胞は、20%FBS(ウシ胎仔血清、Gibco)、100 μM非必須アミノ酸(NEAA、Gibco)および2 mM L−グルタミン(Gibco)を補足したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Gibco)で増殖する。Beckton Dickinson BIOCOAT(登録商標)HTS Caco−2検定システムキットを使用し、6.6×10細胞/cmの播種密度にした(BIOCOATはCollaborative Biomedical Products社の登録商標である、アメリカ合衆国マサチューセッツ州ベッドフォード)。輸送研究で使用する細胞は、実験前の3日間増殖させる。培養条件は37℃で5%CO2および100%湿度の大気中である。
【0119】
Caco−2細胞単層への透過性について、使用する輸送媒体は、D−グルコース、およびpH7.4に調整したHEPESを含むハンク緩衝塩溶液(HBSS;Gibco社から購入)であった。SAMeトシラート・ジサルフェートまたはSAMe1,4ブタンジスルホネートのいずれかの2 mM水溶液をCaco−2キットの製造業者の手順に従って頂端側または側底側上に添加した。試料は、液体クロマトグラフィー−質量分析(LC/MS)により120分のインキュベーション後に測定した。単層の完全性は、ルシファー・イエロー検定を用いて観察した。一例として、吸収増強剤(具体的には密着結合開口剤)、EDTA(ウェルに2 mM)、および無カルシウム媒体がSAMeのCaco−2透過性に及ぼす影響を、SAMeの自然吸収と比較する。プロプラノロールは高透過性マーカーであり、容易に吸収される分子の陽性対照として使用した。
【0120】
下記の表2の結果および図2に示される結果は、低い見かけ透過係数(SAMeジサルフェート・トシラートでは頂端から側底側の方向および側底側から頂端の方向でそれぞれPapp=0.41×10−6および0.50×10−6cms−1;ならびにSAMe1,4ブタンジスルホネートでは頂端から側底側の方向および側底側から頂端の方向でそれぞれPapp=0.50×10−6および0.60×10−6cms−1)により証明されるように、SAMeの自然吸収が両塩で低いことを示している。興味深いことに、2つの安定なSAMe塩である、ジサルフェート−トシラートおよび1,4ブタンジスルホネートは、実験誤差内で同一の透過性プロファイルを有し、生物学的同等性の証拠をもたらす。残りの透過性研究はSAMeジサルフェート・トシラートを用いて実施した。
【0121】
SAMe塩の透過性の測定値は、高透過性マーカーであるプロプラノロールの測定値よりはるかに低かった(それぞれ22.4×10−6および18.4×10−6cms−1)。濃度依存性であり、ならびに/または頂端から側底側の方向でも側底側から頂端の方向でも同様な透過係数は、傍細胞輸送に特徴的と考えられる。ここで、SAMeの傍細胞輸送機構は、無カルシウム緩衝剤中のSAMe透過性の13−24倍の増加、および既知の密着結合開口剤であるEDTAの存在下で1.3−5.0倍の増加により支持された(表2および図2に示す)。
表2:Caco−2細胞の単層へのSAMeの透過性
【表2】

密着結合
【0122】
実施例3a
SAMe透過性は密着結合調節物質の存在下で増加する
委託研究機関でいくつかの密着結合開口剤について追加のCaco−2試験を実施した。上記の記載と同様に、Caco−2細胞株は、ATCCから得られ、20%FBS(Sigma−Aldrich社)、100 μM非必須アミノ酸(Sigma−Aldrich社)および2 mM L−グルタミン(Sigma−Aldrich社)を補足したDMEM(Sigma−Aldrich社)で増殖させた。組織培養フラスコで増殖したCaco−2細胞は、トリプシン処理し、培地に懸濁し、該懸濁液は、1ウェル当たり24,500細胞の24ウェル形式で、コラーゲン被覆バイオコート細胞環境のウェルに加えた。細胞は2日間隔の給餌で3週間増殖および分化させた。
【0123】
頂端から側底側への透過性では、2 mMのSAMeトシラート・ジサルフェート水溶液を頂端側に添加し、側底側の透過量を測定した。頂端側および側底側の緩衝剤は、pH7.4の改変輸送緩衝剤(25 mM HEPES、1×ハンク平衡塩溶液(Sigma−Aldrich社))を含んだ。Caco−2細胞はこれらの緩衝剤と2時間インキュベーションし、受容側緩衝剤はLC/MS/MSによる分析用に除去した。受容、供与、および投与の溶液は、SAMe安定性を増すために、検定直後に同量の0.2 N HClで希釈した。受容および供与の溶液は、濃度が検定の線形範囲内に収まることを確実にするために100倍に希釈した。
【0124】
Caco−2細胞単層の完全性を確認するため、実験の終わりに各ウェルでTEER(経上皮電気抵抗)測定を実施した。
SAMeの透過性(PaPP)は下記の式を用いて計算される:
【数1】

式中、dQ/dtは透過率であり、Cは試験剤の初期濃度であり、ならびにAは単層の面積である。
【0125】
下記の表3に示されるように、C10脂肪酸またはスルホン酸のいずれかの2つの異なる脂肪酸の存在は、SAMeの透過性を劇的に増加させる結果となった。
【0126】
両性イオン界面活性剤である3−(N,N−ジメチルパルミチルアンモニオ)プロパンスルホネートおよびパルミトイルカルニチンクロリドも、SAMe取り込みに及ぼす影響についてそれぞれ試験し、両剤とも表3に見られるようにSAMe透過性の著しい増加を示した。その上、アルファ−シクロデキストリンおよびジカルボン酸はそれぞれSAMe透過性が5−6倍増加する結果となった。Caco−2単層へのSAMeの透過性に及ぼす該剤の効果を測定するため、それぞれ低および高透過性の対照であるラニチジンおよびワルファリンにより、インビトロ・スクリーニング法としての該吸収増強剤の使用を検証する。さらに、SAMe単独、対してカルシウム不在下または密着結合調節物質であるパルミトイルカルニチンクロリドまたはカプリン酸塩の存在下のSAMeの透過性は、図3のグラフに示す。
表3:様々な密着結合調節物質の存在下におけるSAMeの透過性
【表3−1】

【表3−2】

【0127】
実施例4
SAMe代謝産物の血漿濃度はSAMeの血漿濃度と比べて上昇しない
投与するとSAMeが肝臓によって活発に代謝される場合、1以上のSAMe代謝産物の血漿濃度が投与後に有意に上昇すると考えるのが妥当であろう。この理論を試験するために、本研究者達は、1600 mg用量の市販SAMe製剤を投与した後の種々の時点で、SAMeの一次代謝産物であるS−アデノシルホモシステイン(SAH)濃度を測定した。
【0128】
図4に見られるように、全ての測定時点で、SAHの血漿濃度(SAMe濃度より10倍小さい目盛りで表示する)は、SAMe自体の濃度より有意に低い。さらなるSAMe代謝産物も測定し、SAHと同様に、基線レベルで差異はなかった(結果は示していない)。
【0129】
これらの結果は、SAMe代謝産物が、投与SAMeの低い生物学的利用能に関与しないことを実証する。
【0130】
実施例5
胃に送達されたSAMeは効果的に血漿中に吸収され得る
当業者は、分解を引き起こすと教えられる過酷な低pH環境を回避するため、SAMe送達が胃を迂回しなければならないと考える。SAMeの吸収機構をよりよく理解するために、ならびにその生物学的利用能をよりよく制御するために、胃環境へのSAMeの放出および該環境での吸収を評価した。
【0131】
非被覆SAMeは、実施例1に記載したように、微結晶性セルロース、クロスカルメロース、コロイド状二酸化ケイ素、およびステアリン酸マグネシウムを含む錠剤に製剤した。
【0132】
この製剤の腸溶被覆剤の欠如は、胃内でSAMeの放出を惹起するよう意図した。得られる薬物動態プロファイルは、投与後の様々な時点で血漿中の薬物の存在を測定することにより研究した。400 mgのSAMeを7人の健常な空腹男性ボランティアに単回投与した。
【0133】
図5に見られるように、非被覆SAMe製剤を投与された7被験者の平均Cmaxは、400 mg用量では約145 ng/mLであった。これらの結果は、当分野での再三の報告に反して、SAMeが腸溶被覆製剤を用いずに胃に送達でき、且つ本明細書で報告する血漿SAMe濃度に見られるように有意な吸収を依然生じ得ることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの吸収増強技術と組み合わせて少なくとも1つの生理学的に有効な用量のS−アデノシルメチオニンを含む非経口でない組成物。
【請求項2】
吸収増強技術が胃保持性用量アジュバント、胃腸部に特異的な送達系、化学的に誘導される吸収増強剤、密着結合浸透剤、密着結合開口剤、ナノ担体、食事療法、および投薬計画の1つである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
非経口でない組成物が経口投薬組成物である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
非経口でない組成物が栄養補助食品または医療食に組み込まれる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
少なくとも1つの密着結合浸透剤および密着結合開口剤と組み合わせて少なくとも1つの生理学的に有効な用量のS−アデノシルメチオニンを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の非経口でない投薬組成物。
【請求項6】
密着結合浸透剤および密着結合開口剤の少なくとも1つが、洗剤、界面活性剤、両性イオン界面活性剤、不飽和環状尿素、脂肪酸、脂肪アミン、アルカンスルホネート、胆汁酸、有機酸、シクロデキストリン、キレート剤、その塩、およびそれらの組み合わせよりなる群から選択される、請求項4に記載の非経口でない投薬組成物。
【請求項7】
密着結合浸透剤および密着結合開口剤の少なくとも1つが両性イオン界面活性剤を含む、請求項6に記載の非経口でない投薬組成物。
【請求項8】
密着結合浸透剤および密着結合開口剤の少なくとも1つが脂肪酸またはその塩を含む、請求項6に記載の非経口でない投薬組成物。
【請求項9】
密着結合浸透剤および密着結合開口剤の少なくとも1つが脂肪アミンまたはその塩を含む、請求項6に記載の非経口でない投薬組成物。
【請求項10】
密着結合浸透剤および密着結合開口剤の少なくとも1つが胆汁酸またはその塩を含む、請求項6に記載の非経口でない投薬組成物。
【請求項11】
密着結合浸透剤および密着結合開口剤の少なくとも1つが、洗剤、界面活性剤、不飽和環状尿素、および有機酸、シクロデキストリン、キレート剤、これらのいずれかの塩、またはこれらの2以上の組み合わせを含む、請求項6に記載の非経口でない投薬組成物。
【請求項12】
少なくとも一部の組成物が、胃、十二指腸、空腸および回腸の少なくとも1つで溶解するように設定される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の非経口でない投薬組成物。
【請求項13】
少なくとも一部の組成物が、大腸または結腸で溶解するように設定される、請求項1から11のいずれか一項に記載の非経口でない投薬組成物。
【請求項14】
組成物がpH感受性被覆剤を組み込む、請求項12または13に記載の非経口でない投薬組成物。
【請求項15】
被験者に投与される外因性SAMeの生物学的利用能を増強する方法であって、少なくとも1つの吸収増強技術と組み合わせて少なくとも1つの生理学的に有効な用量のS−アデノシルメチオニンを含む非経口でない組成物を前記被験者に投与する工程を含む方法。
【請求項16】
吸収増大技術が、胃保持性用量アジュバント、胃腸部に特異的な送達系、化学的に誘導された吸収増強剤、密着結合浸透剤、密着結合開口剤、ナノ担体、食事療法、および投薬計画の1つである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
組成物が経口投薬組成物である、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
組成物が食事栄養補助食品または医療食に組み込まれる、請求項15〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
組成物が密着結合浸透剤および密着結合開口剤の少なくとも1つと組み合わせて生理学的に有効な用量のS−アデノシルメチオニンを含む、請求項15〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
組成物が少なくとも1つの密着結合浸透剤を含み、密着結合開口剤が、洗剤、界面活性剤、両性イオン界面活性剤、不飽和環状尿素、脂肪酸、脂肪アミン、アルカンスルホネート、胆汁酸、有機酸、シクロデキストリン、キレート剤、上記のいずれかの塩、およびこれらの組み合わせよりなる群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
組成物が少なくとも1つの密着結合浸透剤を含み、密着結合開口剤が両性イオン界面活性剤を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
組成物が少なくとも1つの密着結合浸透剤を含み、密着結合開口剤が脂肪酸またはその塩を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
密着結合浸透剤および密着結合開口剤の少なくとも1つが脂肪アミンまたはその塩を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
密着結合浸透剤および密着結合開口剤の少なくとも1つが胆汁酸またはその塩を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
密着結合浸透剤および密着結合開口剤の少なくとも1つが、洗剤、界面活性剤、不飽和環状尿素、および有機酸、シクロデキストリン、キレート剤、これらのいずれかの塩、またはこれらの2以上の組み合わせを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
組成物の少なくとも一部が、胃、十二指腸、空腸および回腸の少なくとも1つで溶解するように設定される、請求項15〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
組成物の少なくとも一部が大腸または結腸で溶解するように設定される、請求項15から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
組成物がpH感受性被覆剤を組み込む、請求項26または27に記載の方法。
【請求項29】
吸収増強技術が少なくとも1つの生理学的に有効な用量のS−アデノシルメチオニンを含む組成物の投与前または投与後のいずれかに投与される、請求項15〜28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
精神もしくは精神医学の疾患(例えば、それぞれ鬱病および物質関連疾患などの精神病/気分または非精神病の精神疾患)、神経系の疾病/疾患(例えば、アルツハイマー病などの中枢神経系疾病)、他の神経学的疾病/疾患(例えば頭痛および睡眠障害)、中枢神経系の損傷に関連する状態、肝臓疾病/疾患(例えば、アルコール性肝臓疾病)、癌(例えば、固形癌および血液感染性癌)、関節疾病/疾患(例えば、関節炎)、炎症性疾病/疾患(例えば、潰瘍性大腸炎)、自己免疫疾病/疾患(例えば、全身性エリテマトーデスおよびリウマチ性関節炎)、変性疾病/疾患(例えば、筋萎縮性側索硬化症)、軟組織疾病/疾患(例えば、線維筋痛疾患)、疼痛疾病/疾患、高−または低−メチル化に関する遺伝疾患、胃腸疾病/疾患、心血管疾病/疾患、および酸化的損傷またはフリーラジカルによる損傷により全身または部分的に誘導される疾患よりなる群から選択される疾患の患者を治療する方法であって、治療の必要性がある該患者に請求項1〜14のいずれか一項に記載の組成物を投与する工程を含む方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−505896(P2013−505896A)
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522272(P2012−522272)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際出願番号】PCT/IB2010/001877
【国際公開番号】WO2011/012989
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(512023203)エムエスアイ・メチレーション・サイエンシーズ・インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】MSI METHYLATION SCIENCES INC.
【Fターム(参考)】