説明

生物学的物質及びその使用

本発明は、線維症の減少及び/または防止における使用のための化合物の同定及び/または作製の方法を提供し、TIEG及び/またはSmad-7を発現する能力を有する細胞タイプの提供;試験化合物の提供;多量のCTGFまたはその機能的な同等物の提供;前記細胞タイプの前記試験化合物に対する曝露;続いてまたは同時に、前記細胞タイプの前記CTGFまたはその機能的な同等物に対する曝露;Smad-7及びTIEGの発現の検出及び/または測定;試験化合物の存在下におけるSmad-7及び/またはTIEGの発現量と試験化合物の非存在下で検出及び/または測定されるSmad-7及び/またはTIEGの発現量の比較;Smad-7の発現の変化を引き起こさない、若しくは増大する、及び/またはTIEG発現の変化を引き起こさない、または増大する事に基づいて、線維症を減少及び/または防止する化合物かどうかの決定の工程を含む。線維症の減少及び/または防止のために提供される化合物、及びその様な化合物の使用も存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線維症の減少及び/または防止における使用のための化合物の同定及び/または作製の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生物組織が損傷する際に、損傷及びそれに関連する炎症反応の両者は、細胞死を引き起こしうる。細胞死が生じる際に、新しい組織が合成され、死んだ細胞または死にかけている細胞と置き換わる。新しい組織の合成は、分化した細胞の再生及び結合組織における増大という2つのカテゴリーに分類される。ある病態では、結合組織の増大が治癒の過程を決定し、線維症の形成を引き起こす。線維症では、前記新しい組織が、組織におけるいずれの構造的な欠陥も修復しているが、分化した細胞を結合組織及び結合組織細胞に置き換える事によって自身の機能を弱めている。
【0003】
線維症の発生または線維症の実際の範囲のどちらも、治癒される損傷の性質、重度、及び位置を含む各種の因子による影響を受ける。線維症は、大きな範囲にわたる傷を除いて、比較的困難では無い皮膚の表面上の傷として最も一般的に知られている。しかしながら、線維症は、肝臓、肺、及び腎臓等の体内の器官の組織においても発生しうる。殆どの場合において、当該器官の特別な活性が弱められるために、最も深刻であるのは、これらの領域における線維症である。最も極端な場合においては、当該弱められる事のために、器官の欠損または死滅が発生しうる。
【0004】
病態における線維症の重要性の例は、現在、世界中に大流行している糖尿病における腎臓の線維症(糖尿病性ネフロパシー)の発生によって示される。
【0005】
糖尿病の発生率は、近年において、世界的な増加を遂げている。特に、これは2型糖尿病(遅発性糖尿病)における劇的な増加による(Silink M (2002), Horm. Res. 57 (Suppl 1) pp. 1-5)。糖尿病は、多くの二次的な合併症、特に微小循環系に関する合併症に密接に関連する。線維症性ネフロパシー(fibrotic condition nephropathy)を含むこれらの合併症は、糖尿病の発症後、通常多くの年数で発達する。
【0006】
糖尿病性ネフロパシーは、糸球体の糸球体間質及び基底膜並びに腎臓の尿細管間質における細胞外マトリックスタンパク質の過剰な沈着によって特徴付けられる。
【0007】
糖尿病性ネフロパシー(DN)に対する感受性の決定において、遺伝的な背景が重要であると解されているが(Quinn M et al., (1996) Diabetologica 39 pp 940-945)、決定的な誘発因子は、組織の慢性的な高血糖に対する曝露であると解されている(UKPDS Group, (1998) Lancet 352 pp.837-853)。ネフロパシーの流行は、地域、糖尿病の型、及び診断からの時間の長さによって異なる。影響する因子に対抗しないと、糖尿病性ネフロパシーの流行が、数十年先において増大すると予測されている(Bagust A et al. (2002) Diabetes Med 19 (Suppl 4): pp1-5)。糖尿病性ネフロパシーは、末期の腎臓病の主な原因であり(11)、新しい治療方法が、その発達を制限するのに必要である。
【0008】
糖尿病性ネフロパシーの病理は、1型及び2型糖尿病において類似している。糖尿病の両者の型が、腎糸球体において発生する類似の超微細構造変化と関連する(Osterby R, (1992) Diabetologica 35 pp 803- 812)。前記腎糸球体の基底膜は、厚さが増し、糸球体間質の細胞外マトリックスが増大する。糸球体間質の増大は、糖尿病性ネフロパシーにおける腎臓の機能の減少の主な原因であると解されている(Steffes M et al., (1989) Diabetes 38 pp1077-1081)。糸球体間質のマトリックスが増大すると、糸球体の毛細管に作用し、ろ過及び管腔の狭窄または閉塞に利用可能な表面を減少させる。尿細管間質性線維症も、糸球体硬化症に加えて糖尿病性ネフロパシーにおいて発生する。腎機能の進行性の損失は、他の腎臓疾患における進行する間質性線維症発生と関連する(Risdon R et al. (1968) Lancet 2 7564 pp363-366)。
【0009】
線維症は、続いてタンパク質発現の生産に影響を与える増殖因子及びホルモンの不均衡と一般的に関連する。続く異常なタンパク質発現は、線維症の形成を引き起こす。例えば、線維症は、繊維病の組織に存在するトランスホーミング増殖因子βの増大によって一般的に影響を受ける。
【0010】
線維症は、部分的には、これらの疾患の基礎を成す機構が各種の因子による影響を受け、完全な細胞機構が明らかにされていないために、効果的な治療方法が存在しない疾患の最も大きな群の1つである。そのため、抗線維症の治療方法の基礎となる可能性がある周辺の標的を提供する可能性がある分子標的、またはその性質の理解の欠如が存在する。
【0011】
糖尿病性ネフロパシーの場合では、少なくとも部分的にはトランスホーミング増殖因子β(TGF-β)の働きによって、グルコースがマトリックス合成を誘導しうる事が、研究によって示されている(Ziyadeh F et al. (2000) Proc Natl Acad Sci USA 97 pp. 8015-8020)。
【0012】
しかしながら、TGF-βは、免疫及び上皮の増殖への関与を含む多くの生理的な役割を有する(McCartney-Francis N et al. (1998) Int. Rev. Immunol. 16 pp. 553-580)。これらの異なる生理学的効果は、TGF-βが臨床的に有利な標的とすべきで無い事を意味する。TGF-βの働きの妨害は、生物に多くの効果を有し、望まれない潜在的に深刻な副作用を引き起こす可能性がある。
【0013】
トランスホーミング増殖因子βは、コラーゲン及びマトリックスの合成の直接的な誘導によって線維症を引き起こす。更に、TGF-βは、線維症を引き起こす経路に関与する及び/または影響を与える他の分子の発現も誘導しうる。1つのその様なタンパク質は、間葉細胞における増殖、コラーゲンの合成、及び走化性を誘導する結合組織増殖因子(CTGF)である(Moussad E et al. (2000) Molec Genet Metab. 71 pp. 276-292)。CTGF(CCN2)は、前初期遺伝子にコードされ、CCNタンパク質ファミリーの一員である多くのドメインを有する38kDaの分泌タンパク質である(Bork et al. (1993) Febs Lett. 327 pp 125-130; Perbal et al. (2001) Mol. Pathol. 54 pp 57-79)。しかしながら、それが機能する分子機構は、完全には明らかにされていない。CTGFにおける多くのドメインの存在は、それが多数の他の因子と相互作用する事を示す。CTGFは、ヴォン・ヴィレブランドタイプCドメインを介して、BMP4及びTGF-βに直接結合し、BMPの阻害及びTGF-βシグナリングの促進を引き起こす事が示されている(Abreu et al. (2002) Nat. Cell. Biol. 4 pp. 599-604)。
【0014】
CTGFは、インテグリンに結合する事も示されており(Babic et al. (1999) Mol. Cell Biol. 19 pp.3811-3815)、この相互作用はCTGFが誘導する細胞の現象の幾つかの仲介において重要である可能性がある。
【0015】
CTGFは、糖尿病性ネフロパシーを含む各種の線維症において過剰発現されている(Wahab N et al. (2001) Biochem J. 359 pp. 77-87)。実際に、CTGFの発現レベルの増加が、糖尿病性ネフロパシーの重度及び進行の速度の増大と関連する事が示されている(Ito Y et al. (1998) Kidney Int. 53 pp.853-886)。
【0016】
そのため、CTGFは、繊維病の反応の潜在的に有用な分子インジケーターである可能性がある。CTGFは、in vivoで腎臓の線維症を直接的に誘導する事はまだ示されていないが、TGF-βと共に皮下に注射されると、ラットにおいて持続性の皮膚の線維症を誘導する(Mori T et al. (1999) J. Cell. Physiol. 181 pp 153-159)。
【0017】
正常な繊維芽細胞において、少なくとも部分的にはCTGFプロモーターにおける要素を介して、TGF-βは直接的にCTGFの発現を誘導する(Holmes A. et al. (2001) J. Biol. Chem. 276 pp.10594-10601)。実際に、CTGF遺伝子発現の調節は、転写のレベルに主に存在すると解されている(8において検討されている)。
【0018】
一般的には、腎臓におけるTGF-βシグナリングまたはTGF-βに誘導されるCTGF遺伝子発現の調節については、殆どわかっていない。しかしながら、他の細胞タイプを使用する複数の研究により、TGF-βに誘導される標的遺伝子の発現におけるSMADの中心的、一般的な役割が同定された。最近の考えでは、SMADは、転写因子をリクルートして活性転写複合体を形成する転写の共調節因子として働く事によって遺伝子の発現を促進するとされている(Roberts A (1999) Microbes Infect 1 pp.1265-1273 and Wrana J (2000) Sci STKE 23 RE1)。リクルートされる転写因子は、関連する遺伝子及び細胞タイプに依存して異なる。換言すると、TGF-βの生物学的な効果の多様性及び特異性は、一般的なTGF-βシグナリング経路と他の経路の相互作用、関連する細胞タイプまたは標的遺伝子に依存する性質に部分的に依存する(Mulder K (2000) Growth Factor Rev. 11 pp23-35)。
【0019】
TGF-βは、Smadシグナリング経路を介して、その細胞の効果を奏する。Smad経路は、TGF-βレセプターの下流の主なシグナル伝達経路を提供する(Massague et al. (2000) Cell 103 pp. 295-309)。TGF-βとの結合で、TGF-βレセプターは、二量体化し、自己リン酸化する。これが、次いで、Smad2及びSmad3をリン酸化する(Itoh et al. (2000) Eur J. Biochem 267 pp.6954-6967)。次いで、Smad2及びSmad3は、Smad4と複合体を形成し、核に移行して、そこで、他の転写因子と共同に働いて、Smad結合要素(SBE)を含む多くのTGF-βに反応する遺伝子の転写をそれらのプロモーターにおいて調節する。
【0020】
Smad7タンパク質は、核において1つ以上のE3ユビキチンリガーゼであるSmurf1及びSmurf2と相互作用する。Smad7-Smurf複合体は細胞膜に移行し、そこで、Smurfは、TGF-βレセプターのユビキチン化及び分解を誘導する(Kavsak et al. (2000) Mol Cell 6 pp.1365-1375)。TGF-βレセプターの分解は、Smad2及びSmad3の更なるリン酸化を妨害する。そのため、Smad7は、ネガティブフェードバック反応を提供し、TGF-βの効果を制限する。
【0021】
Smad7の発現は、近位プロモーター領域におけるGCボックスに結合する転写因子TIEGによって抑制される事が報告されている(Johnsen et al. (2002) Oncogene 21 pp. 5783-5790)。
【0022】
TIEG1及び2は、転写因子のSp1ファミリーに関連する強力な転写抑制因子である。それらの遺伝子は、ジンクフィンガーKruppel様タンパク質をコードする。ジンクフィンガーKruppel様タンパク質の過剰発現は、異なる細胞タイプにおいてTGF-βの効果と良く似ている(Cook et al. (1998) J. Biol. Chem.)。
【非特許文献1】Silink M (2002), Horm. Res. 57 (Suppl 1) pp. 1-5
【非特許文献2】Quinn M et al., (1996) Diabetologica 39 pp 940-945
【非特許文献3】UKPDS Group, (1998) Lancet 352 pp.837-853
【非特許文献4】Bagust A et al. (2002) Diabetes Med 19 (Suppl 4): pp1-5
【非特許文献5】Osterby R, (1992) Diabetologica 35 pp 803- 812
【非特許文献6】Steffes M et al., (1989) Diabetes 38 pp1077-1081
【非特許文献7】Risdon R et al. (1968) Lancet 2 7564 pp363-366
【非特許文献8】Ziyadeh F et al. (2000) Proc Natl Acad Sci USA 97 pp. 8015-8020
【非特許文献9】McCartney-Francis N et al. (1998) Int. Rev. Immunol. 16 pp. 553-580
【非特許文献10】Moussad E et al. (2000) Molec Genet Metab. 71 pp. 276-292
【非特許文献11】Bork et al. (1993) Febs Lett. 327 pp 125-130
【非特許文献12】Perbal et al. (2001) Mol. Pathol. 54 pp 57-79
【非特許文献13】Abreu et al. (2002) Nat. Cell. Biol. 4 pp. 599-604
【非特許文献14】Babic et al. (1999) Mol. Cell Biol. 19 pp.3811-3815
【非特許文献15】Wahab N et al. (2001) Biochem J. 359 pp. 77-87
【非特許文献16】Ito Y et al. (1998) Kidney Int. 53 pp.853-886
【非特許文献17】Mori T et al. (1999) J. Cell. Physiol. 181 pp 153-159
【非特許文献18】Holmes A. et al. (2001) J. Biol. Chem. 276 pp.10594-10601
【非特許文献19】Roberts A (1999) Microbes Infect 1 pp.1265-1273
【非特許文献20】Wrana J (2000) Sci STKE 23 RE1
【非特許文献21】Mulder K (2000) Growth Factor Rev. 11 pp23-35
【非特許文献22】Massague et al. (2000) Cell 103 pp. 295-309
【非特許文献23】Itoh et al. (2000) Eur J. Biochem 267 pp.6954-6967
【非特許文献24】Kavsak et al. (2000) Mol Cell 6 pp.1365-1375
【非特許文献25】Johnsen et al. (2002) Oncogene 21 pp. 5783-5790
【非特許文献26】Cook et al. (1998) J. Biol. Chem.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明の開発の過程において、発明者は、CTGFに対する反応において増大するTIEG生産に依存して、CTGFがSmad7の利用可能なものを減少する事によってTGF-βシグナリング経路を促進する事を示している。
【課題を解決するための手段】
【0024】
そのため、本発明の第1の態様では、線維症の減少及び/または防止における使用のための化合物の同定及び/または作製の方法を提供し、
(a)TIEG及び/またはSmad-7を発現する能力を有する細胞タイプの提供
(b)試験化合物の提供
(c)多量のCTGFまたはその機能的な同等物の提供
(d)前記細胞タイプの前記試験化合物に対する曝露
(e)続いてまたは同時に前記細胞タイプの前記CTGFまたはその機能的な同等物に対する曝露
(f)Smad-7及び/またはTIEGの発現の検出及び/または測定
(g)試験化合物の存在下におけるSmad7及び/またはTIEGの発現量と、試験化合物の非存在下において検出及び/または測定されるSmad-7及び/またはTIEGの発現量の比較。
(h)Smad-7の発現の変化を引き起こさない若しくは増大する、及び/またはTIEG発現の変化を引き起こさない若しくは減少する事に基づいて、線維症を減少及び/または防止する化合物かどうかの決定
の工程を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
「機能的な同等物」に関して、TIEGの発現誘導及び/またはSmad-7の発現抑制のうち1つ以上の活性について、CTGFと実質的に同じ効果を有する化合物を意味して使用する。実施例1によって提供されるTIEG及びSmad-7の発現の検出方法を使用して、この事は容易に示されうる。
【0026】
任意に、前記方法は、本発明の第1の態様に従う方法においてSmad-7の発現を変化しない若しくは増大する、及び/またはTIEGの発現を変化しない若しくは減少する能力を有する試験化合物の単離の工程を更に含む。次いで、単離される化合物は、製薬的に許容される担体、賦形剤、及び/または希釈剤を更に含む組成物に任意に製剤化されて良い。
【0027】
好ましくは、前記化合物は、CTGFとTIEGの間の相互作用に直接的に作用する。換言すると、TIEG及び/またはSmad-7の発現へのCTGFの効果を減少及び/または防止するために、前記化合物はCTGF及び/またはTIEGと相互作用する。
【0028】
あるいは、前記化合物は、CTGFとTIEGの間の相互作用に間接的に作用する。換言すると、TIEG及び/またはSmad-7の発現へのCTGFの効果を減少及び/または防止するために、前記化合物は少なくとも1つの更なる化合物と相互作用し、次いでCTGFまたはTIEGと相互作用する。
【0029】
本発明の第2の態様では、CTGFによるSmad7の発現抑制及び/またはTIEGの発現誘導を減少及び/または防止する事を特徴とする、線維症の減少及び/または防止のための医薬の製造における使用のための化合物を提供する。
【0030】
好ましくは、前記化合物は、本発明の第1の態様の方法によって同定及び/または作製される。
【0031】
都合の良い事には、前記化合物は、ポリペプチド、抗体分子、及びアンチセンスヌクレオチドより選択される少なくとも1つのものである。好ましくは、前記化合物は、抗体分子である。
【0032】
「抗体分子」という言葉は、抗体、抗体フラグメント、または抗体誘導体のいずれか1つを参照して解釈されるべきである。これらに限らないが、イムノグロブリン軽鎖及び/または重鎖の可変及び/または定常領域のファージディスプレイによって生産される一本鎖の修飾抗体分子、または当業者に既知である免疫測定形式において抗原に結合する能力を有する他の免疫相互作用性の分子の様な野生型抗体、合成抗体、組換え抗体、またはハイブリッド抗体を包含する事が意図される。
【0033】
「抗体誘導体」という言葉は、抗体のフラグメント(例えばFabまたはFvフラグメント)、または抗体の他のペプチドやポリペプチド、大きな担体タンパク質、若しくは固体の支持体に対する会合を促進するための1つ以上のアミノ酸又は他の分子(例えばチロシン、リジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、システイン、及びその誘導体といったアミノ酸、とりわけ、NH2アセチル基またはCOOH末端アミド基)の付加によって修飾された抗体分子の様な、当業者に既知である免疫試験形式において抗原に結合する能力を有する任意の修飾された抗体分子を参照する。
【0034】
「アンチセンスオリゴヌクレオチド」に関して、相補的な核酸配列に特異的に結合する事ができる一本鎖の核酸を意味して使用する。適当な標的配列への結合によって、RNA-RNA、DNA-DNA、またはRNA-DNA二重鎖が形成される。これらの核酸は、遺伝子のセンス鎖またはコードする鎖に対して相補的であるために、通常「アンチセンス」と称される。最近では、オリゴヌクレオチドがDNA二重鎖に結合すると、三重らせんが形成する可能性が証明されている。オリゴヌクレオチドは、DNA二重鎖の主な溝における配列を認識するであろう事が示された。三重らせんが、それによって形成された。この事は、主な溝型の水素結合部位の認識を介して二重らせんのDNAに特異的に結合する配列特異的な分子の合成が可能である事を示す。
【0035】
標的の核酸に対する結合によって、上記のオリゴヌクレオチドは、標的の核酸の機能を阻害する事ができる。この事は、例えば、転写、プロセッシング、ポリ(A)付加、複製、翻訳の妨害、またはRNA分解の促進の様な細胞の阻害機構の促進の結果である。
【0036】
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、研究室において調製され、次いで、例えばマイクロインジェクション若しくは細胞培養培地から細胞内への取り込みによって細胞に導入される。または、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、アンチセンス遺伝子を有するプラスミド、レトロウイルス、または他のベクターを使用するトランスフェクション後、細胞において発現される。
【0037】
本発明の第3の態様では、線維症の治療及び/または防止及び/または診断における使用のための本発明の第2の態様の化合物を提供する。
【0038】
好ましくは、前記化合物は、線維症の治療及び/または防止及び/または診断のための医薬の製造において使用される化合物である。
【0039】
都合の良い事には、前記線維症は、糖尿病性ネフロパシー、非糖尿病性の腎臓の線維症、肺の線維症、肝臓の線維症(肝硬変)、骨格筋の線維症、心筋の線維症、アテローム性動脈硬化症、全身性硬化症、強皮症、網膜の線維症、放射線に誘導される線維症、ケロイド瘢痕形成、及び腫瘍に関連する線維症より選択される1つである。
【0040】
好ましくは、前記線維症は糖尿病性ネフロパシーである。
【0041】
本発明の第4の態様では、本発明の第1の態様の方法に従って同定及び/または作製される化合物の、治療上または予防上効果的な一回の量または複数回の量の投与を含む、線維症の治療及び/または防止の方法を提供する。
【0042】
都合の良い事には、前記線維症は、糖尿病性ネフロパシー、非糖尿病性の腎臓の線維症、肺の線維症、肝臓の線維症(肝硬変)、骨格筋の線維症、心筋の線維症、アテローム性動脈硬化症、全身性硬化症、強皮症、網膜の線維症、放射線に誘導される線維症、ケロイド瘢痕形成、及び腫瘍に関連する線維症より選択される1つである。
【0043】
好ましくは、前記線維症は糖尿病性ネフロパシーである。
【実施例】
【0044】
(実施例1)
CTGFの同定 TIEG-Smad7相互作用
材料と方法
細胞培養、抗体、及び試薬
初代の正常な成人のヒト糸球体間質細胞(HMC)(CC-2259,lot3F1510)(Biowhittaker, Wokingham, Berkshire, UK)を、過去に記載された様に培養下で維持した(Wahab et al. (1996) Biochem J. 316pp.985-992)。
【0045】
Smad2、Smad3、及びSmad7に対する抗体は、Santa Cruz Biotechnology, Inc.より得られた(Autogen Bioclear, Calne, Wilts., UK)。TGF-β誘導性初期遺伝子(TIEG)抗体は、Dr. Steven Johnsonから寄贈された(Mayo Foundation, Minnesota, USA)。過去に報告されている様に、トランスフォームしたHMCにおいて、組換えCTGFを発現し、Talon金属アフィニティー樹脂を使用して培地より精製した(Wahab et al. (2001) Biochem J. 359 pp.77-87)。TGF-βはR&D Systemsより購入した(Abingdon, Oxfordshire, U.K.)。CTGFを対象とするホスホチオエートアンチセンス(TGG GCA GAC GAA CG)及びコントロールオリゴヌクレオチド(ACC GAC CGA CGT GT)、並びにTIEGを対象とするアンチセンス(TGT GTC TGG ACA GTT CAT)及びコントロールオリゴヌクレオチド(ACT ACT ACA CTA GAC TAC)を設計し、Biognostik GmbHによって製造された(Gottingen, Germany)。SBE4-Lucレポーターは、Dr. B. Vogelsteinより寄贈された(Zawel et al. (1998) Mol Cell 1 pp.611-617)。
【0046】
【表1】

【0047】
ウエスタンブロッティング
細胞を還元SDS-PAGEローディングバッファー中で溶解し、プレートを直ちにかき取った。細胞溶解物を10秒間超音波処理し、DNAを切断した。次いで、サンプルを5分間煮沸し、SDS-PAGEによって4-12%濃度勾配ゲルで分析した。BioRadの転写装置を使用して、タンパク質をポリビニリデンジフルオライド膜フィルター(Immobilin-P、 Millipore, Bedford, U.K.)上に転写した。1×TBS、0.1%Tween-20、及び5%(w/v)の脱脂粉乳を含むブロッキングバッファー中で、ブロットした膜を1時間インキュベートした。
【0048】
抗体希釈バッファー(1×TBS、0.1%Tween-20、及び5%BSA)中に適当に希釈した一次抗体中でブロットした膜を4℃で一晩インキュベートする事によって免疫検出を実施した。次いで、ブロットした膜を洗浄バッファー(1×TBS、0.1%Tween-20)を使用して3回洗浄し、2次セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合抗体を使用して、1時間、室温でインキュベートした。化学発光促進試薬ルミノール(Autogen Bioclear UK Ltd, Wiltshire, UK)を使用して、結合させた抗体を可視化した。タンパク質の移動を測定するために、事前に染色された分子量の基準(Amersham International PLC, Amersham, UK)を使用した。
【0049】
核画分の調製
細胞を氷冷PBS中でかき取り、10分間、500×gで遠心分離して回収し、500μlのバッファーA[10mM Hepes、pH 7.4、1.5 mM MgCl2、10 mM NaCl、1×プロテアーゼインヒビターカクテル(1 mM EDTA、1 mM EGTA、0.2 mM TLCK、1 mM N-エチルマレイミド、0.1 mM TPCK、2 mM PMSF、Sigma)、1 mM NaF、1mM Na3VO4]に再び懸濁した。
【0050】
20分間、氷上でインキュベートした後、ノニデットP40を終濃度0.6%(v/v)になるように添加し、10秒間激しくボルテックスした。12000×gで5分間の遠心分離によって、4℃で核をペレットとして得た。バッファーAを使用して核のペレットを一度洗浄し、遠心分離によって回収した。
【0051】
次いで前記ペレットを500μlのバッファーB(10 mM Hepes、pH 7.4、1.5 mM MgCl2、450 mM NaCl、1×プロテアーゼインヒビターカクテル、1 mM NaF、1mM Na3VO4、20% (v/v) グリセロール)に再び懸濁し、4℃で15分間ボルテックスした。溶解物を4℃で5分間、12000×gで遠心分離し、核タンパク質を含む上清を新しいバイアルに移した。ブラッドフォード法によってタンパク質の濃度を測定した。更なる使用まで、抽出物を−70℃で保存した。
【0052】
アンチセンスオリゴヌクレオチドの使用
いずれの他の処理の30分前にも、TIEG及びCTGFのアンチセンスヌクレオチド(2 μM)、またはCGを一致させたランダム配列オリゴヌクレオチド(ネガティブコントロール)を直接的に培養物に添加した(Wahab et al. (2002) J Am Soc Nephrol. 13 pp.2437-2445)。
【0053】
一過性のトランスフェクション及びレポーター遺伝子試験
過去に記載された条件を使用して、エレクトロポレーションによって、5μgのpSV-β-ガラクトシダーゼコントロールベクター(Promega. Southampton. UK)と共に、15μgの濃度でSBE4-lucレポーター遺伝子コンストラクトを25×106のトランスフォームされたヒト糸球体間質細胞(THMC)にトランスフェクトした(Wahab et al. (2001) Biochem J. 359 pp. 77-87)。
【0054】
トランスフェクションの6時間後、前記細胞をPBSを使用して三回洗浄し、次いで異なる処理を含む無血清培地において、更に48時間インキュベートした。次いで、レポーターリシスバッファー(RLB)において細胞を溶解し、この事がPromegaキットを使用するルシフェラーゼ及びβ-ガラクトシダーゼ試験の両者を可能にする。トランスフェクションの効率におけるいずれの違いも正すために、ルシフェラーゼ活性をβガラクトシダーゼ活性に対して正規化した。
【0055】
RNA抽出及びRT-PCR分析
全RNAを、RNAzol B方法(AMS Biotechnology (UK) Ltd., Oxfordshire, UK)を使用して6×106糸球体間質細胞より抽出した。RNAをDEPC-dH20に溶解し、定量して-70℃で保存した。各サンプルより得られた全RNA の 等量(2μg)を、SuperScriptII RNase H+ 逆転写酵素(Gibco BRL, Paisley, Scotland, UK)及びランダムプライマーを使用してcDNAに逆転写した。
【0056】
逆転写反応物(20μl)の等量(0.5μl)を使用して、10μlの10×PCRバッファー、16μlのdNTP(各1.25mM)、2mM MgCl2、0.5μMの各々に特異的なプライマー、及び1.25U Amplitaq DNAポリメラーゼ(Gibco BRL)を含む100μlのボリュームにおけるPCRによる増幅の対象とした。
【0057】
増幅は、94℃で変性の5分に始まり、24回のPCRサイクルが使用されたハウスキーピング遺伝子であるグリセルアルデヒド-3-ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH)を除いて、全て遺伝子について27回のPCRサイクルが続いた。各サイクルは、94℃で60秒、55℃で60秒、及び72℃で60秒から構成された。最終的な伸長は72℃で10分間であった。GAPDHは共増幅され、PCR生産物の部分的に定量的な比較を可能にし、等量の全RNAの使用を確認した。
【0058】
増幅のために使用した逆転写反応物の量(0.5μl)は、規定のPCRサイクル数の後、研究中に全ての遺伝子のPCR生産物が飽和しない様に選択された。プライマーの配列は、ヒト遺伝子の公開された配列より設計し、表1に記載した。
【0059】
増幅後、臭化エチジウム(0.5μg/ml)を含有する1.2%(w/v)アガロースゲルを使用して、10μlの各PCR反応生産物を電気泳動した。Epson GT-8000スキャナー及びAdobe PhotoShopソフトウェアを使用して、ゲルをスキャンした。GAPDHのバンドの強度に対して、結果を正規化した。
【0060】
統計学的な分析
スチューデントの独立したt-検定を使用して、結果を比較した。0.05またはそれより小さいp値を、有意な違いを示していると見なした。
【0061】
結果
HMCにおけるSmadの発現へのCTGFの効果
TGF-βとCTGFの間の関係の分子的な基礎を同定するために、Smadシグナリング経路上のCTGFの効果を研究した。血清飢餓状態のHMCを、20-40ng/mlの組換えCTGF/V5融合タンパク質に24時間まで曝露した。図1は、CTGFの添加後30-60分以内に阻害性のSmad7の発現が、殆ど検出不可能なレベルまで減少することを示す。
【0062】
レセプターに調節されるSmad(Smad2及びSmad3)の活性化へのCTGFの効果は、CTGF、TGF-βの存在下若しくは非存在下、またはCTGFとTGF-βの両者の存在下において、血清飢餓状態のHMCを2時間インキュベートする事によって研究した。
【0063】
次いで細胞を溶解し、核画分のタンパク質を調製した。抗リン酸化セリンアフィニティービーズ(Sigma)を使用して、等量の核タンパク質画分を免疫沈降した。抗Smad2及び抗Smad3抗体を使用して、免疫沈降されたタンパク質をウエスタンブロットした。図2では、TGF-βが両Smadのリン酸化及び核移行を増大することを示す(レーン2)。CTGFもSmad2及びSmad3のリン酸化及び核移行を増大する(レーン3)。CTGFとTGF-βの両者は、共に相乗的な様式で両Smadのリン酸化及び核移行を増大する(レーン4)。したがって、図2は、Smad7の発現のCTGF依存性の減少がSmad2及び3の活性化の促進を引き起こす事を示す。
【0064】
TIEGのCTGFによる調節
次いで、TIEGの発現レベルへのCTGFの効果を研究した。図3は、CTGFに対する曝露がTIEGの発現レベルにおける急速な増大を引き起こす事を示す。
【0065】
TIEGアンチセンス及びコントロールオリゴヌクレオチドを使用して細胞を処理する事によって、Smad7レベルのCTGF依存性の下方調節を直接的に仲介するTIEGの働きを研究した。図4は、HMCにおけるTIEGとSmad7タンパク質の両者の構成的なレベルが低い事を示す(レーン1)。
【0066】
24時間CTGFを使用して前記細胞をインキュベートする事は、TIEGのレベルを有意に増大し、Smad7殆ど検出不可能なレベルに減少する(レーン2)。この効果は、TIEGアンチセンスオリゴヌクレオチドの存在下で完全に消失したが(レーン5)、コントロールオリゴヌクレオチドでは消失されなかった(レーン6)。
【0067】
同じ時間TGF-βのみを使用して前記細胞をインキュベートする事は、TIEGとSmad7の両者の穏やかな増大を引き起こした(レーン3)。しかしながら、CTGFアンチセンスオリゴヌクレオチドの存在下でTGF-βを使用して細胞をインキュベートする事は、TIEGの穏やかな誘導を完全に消失し、増大されたSmad7の誘導を引き起こした(レーン7)。この事は、コントロールアンチセンスオリゴヌクレオチドの存在下では認められず(レーン8)、TGF-βに誘導されるCTGFがTIEG発現レベルにおいて認められた穏やかな増大に関与する事と一致する。
【0068】
TIEGアンチセンス及びコントロールアンチセンスオリゴヌクレオチドを使用して前記細胞を処理することによっても、同様の結果が得られた(レーン9及び10)。TGF-βとCTGFの両者を使用して細胞をインキュベートする事は(レーン4)、TIEGの発現レベルを有意に増大し、Smad7の発現レベルを減少する。これらの結果は、TIEGがSmad7の発現のCTGF依存性の下方調節を仲介する事を明らかに示す。
【0069】
TGF-βの転写活性のCTGFによる促進
回文構造を有するSmad結合要素を含むTGF-βに調節されるSBE-4レポーターコンストラクトを使用して、TGF-βの転写活性へのCTGFの効果を研究した。48時間異なる条件でインキュベートされたHMCにおいて、ルシフェラーゼの転写を動かすSBEプロモーターの比活性を研究した。図5は、3つの独立した実験の結果をまとめたものである。
【0070】
CTGFのみを使用する処理は、プロモーターの定常活性の2.4倍の促進を引き起こし、TGF-βは7倍の促進を引き起こした。
【0071】
TGF-βに促進される活性は、CTGFまたはTIEGアンチセンスのどちらかの存在下で有意に減少したが(3-2倍)、コントロールオリゴヌクレオチドでは減少しなかった。コントロールオリゴヌクレオチドではなく前記アンチセンスは、TGF-βとCTGFの両者が共に存在した際にも前記リポーター活性を有意に減少した。
【0072】
TGF-β反応性の遺伝子、p15INK4、PAI-1、及びコラーゲンIIIの上方調節に関連して、Smad7のCTGF依存性の下方調節も研究した。CTGF、TGF-β、CTGF+TGF-β、CTGF+TIEGアンチセンス及びコントロールオリゴヌクレオチドの異なる組み合わせ、並びにTGF-β+TIEGアンチセンス及びコントロールオリゴヌクレオチド若しくはTIEGアンチセンス及びコントロールオリゴヌクレオチドのいずれかにおいて、血清飢餓状態の細胞を48時間インキュベートした。RNAを抽出し、部分的に定量的なRT-PCR分析のために使用した。
【0073】
図6A及びBは、CTGFがSmad7の発現レベルの60%の減少を生じた事を示す。しかしながら、CTGFは、PAI-1またはコラーゲンIII遺伝子転写のいずれにおいても有意な効果を有さない。対照的に、同じ条件下でp15発現レベルは促進される様である(5倍)。
【0074】
TGF-βの存在は、プロモーターに1つ以上のSBEを含有する4つの遺伝子全ての転写の誘導を生じさせた。TGF-βと共にCTGFが存在する事は、Smad7の減少(55%)並びにp15 、PAI-1、及びコラーゲンIIIの転写の最大限の誘導を生じさせた。これらの遺伝子のTGF-β依存的に増大される転写は、CTGFまたはTIEGのアンチセンスのいずれかの存在下において30-50%の間で阻害されるが、コントロールオリゴヌクレオチドでは阻害されない。これらの結果は、TGF-βによる内生のCTGFの誘導と一致する。
【0075】
生理的な状態では、Smad7によって提供される、シグナリング経路のネガティブフィードバックループによって、TGF-βの活性が制限される。対照的に、CTGFの発現レベルが上昇される病的な状態では、CTGFがTIEGを介するSmad7の発現の阻害によって、このネガティブフィードバックループを妨害し、TGF-βシグナリング経路の持続的な活性化を可能にする。
【0076】
(実施例2)
CTGFに誘導される線維症を阻害する化合物の同定のためのスクリーニング方法
線維症阻害特性を有する化合物のためのスクリーニングは、例えばCTGFを使用して処理されたHMCにおけるTIEGの誘導を阻害する各化合物の働きを試験する事によって実施される。
【0077】
前記スクリーニング方法は、潜在的なインヒビターを使用または使用せずに、30分間事前にインキュベートされたヒト糸球体間質細胞(HMC)を使用して実施される。次いで、これらの細胞は、前記潜在的なインヒビターの存在下または非存在下においてCTGF-V5融合タンパク質(40ng/ml)を使用して2時間刺激される。冷PBSを使用して細胞層を洗浄後、前記細胞をRIPAバッファー中で溶解し、溶解物をELIZAによってTIEGのために試験した。
【0078】
前記ELIZA試験のために(Voller A et al., (1976) in Manual of Clinical Immunology (Rose, N and Fishman H, eds.) pp 506-512, American Society of Microbiology, Washington, DC.)、溶解物または基準曲線を提供するr-TIEGの基準希釈物のいずれかを使用して、NUNCマイクロタイタープレートを4℃で一晩コーティングした。
【0079】
コーティング溶液を除去し、PBSでウェルを簡単に洗浄した後、37度で1%(w/v)ウシ血清アルブミンを含むPBSを使用して1時間、ウェルをインキュベートする事によって、非特異的なタンパク質を妨害する。次いで、最適な希釈度で抗TIEG抗体を使用して、ウェルを60分間インキュベートし、続いてペルオキシダーゼ結合2次抗体により60分間37度でインキュベートする。PBSを使用して3回ウェルを洗浄した後、基質である2,2'-アジノビス-3-エチルベンズチアゾリン6スルホン酸、及び405nmの吸収の読み取りを使用して結合した抗体を検出する。
【0080】
PcDNA3.1/V5-His Topoベクター(InVitrogen)へのクローニングによって、全長のTIEGのcCNAから組換えTIEGタンパク質を作製する。このベクターを哺乳動物細胞株にトランスフェクトし、TIEG融合タンパク質を発現する事ができる。
【0081】
前記TIEG融合タンパク質を、プロボンドニッケルキレート樹脂を使用して細胞溶解物より精製する。抗TIEG抗体は、Dr. Steven Johnson(Mayo Foundation, Minnesota, USA)より得られるか、またはウサギにおいて従来の方法の使用によりTIEG融合タンパク質に対して生成されうる。
【0082】
(実施例4)
製薬及び投与
本発明の化合物は、製薬的に許容される投与の形態において、有効成分を含む製薬的な製剤の形態、任意に無毒な有機または無機の、酸、または塩基、付加塩の形態において、通常、経口または任意の非経口経路によって投与されるであろう。疾患及び治療される患者に依存して、投与の経路と同様に、組成物も異なる投与量において投与されて良い。
【0083】
ヒトの治療において、本発明の化合物は、単独で投与されうるが、一般的には、意図される投与の経路及び標準的な製薬の慣例に関連して選択される適切な製薬の賦形剤、希釈剤、または担体との混合物として投与されるであろう。
【0084】
例えば、本発明の化合物は、経口、経頬、または舌下に、錠剤、カプセル剤、小卵、エリキシル剤、液剤、または懸濁剤の形態において投与されうる。また、矯味剤または着色剤を含んで良く、短時間放出、遅延放出、または放出制御された応用のために投与される。本発明の化合物は、静脈内注射を介して投与されても良い。
【0085】
錠剤は、微結晶性セルロース、ラクトース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、第2リン酸カルシウム、及びグリシンの様な賦形剤、デンプン(好ましくは、トウモロコシ、ジャガイモ、またはタピオカデンプン)、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスカルメローセナトリウム、及び特定のケイ酸複合体の様な崩壊剤、並びにポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、スクロース、ゼラチン、及びアカシアの様な造粒用結合剤を含んで良い。更に、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ベヘン酸グリセリル、及びタルクの様な平滑剤が含まれて良い。
【0086】
類似のタイプの固体組成物が、ゼラチンカプセルにおける充填剤として使用されても良い。これに関連する好ましい賦形剤は、ラクトース、デンプン、セルロース、乳糖、または高分子量のポリエチレングリコールを含む。水性の懸濁剤及び/またはエリキシル剤のために、本発明の化合物は、各種の甘味剤または矯味剤、着色剤または染色剤、乳化剤及び/または懸濁する薬剤、水、エタノール、プロピレングリコール、及びグリセリンの様な希釈剤、並びにそれらの組み合わせと組み合わせて良い。
【0087】
本発明の化合物は、非経口的、例えば静脈内、動脈内、腹膜内、包膜内、心室内、胸骨内、頭骨内、筋肉内、または皮下に投与される可能性もあり、または移植技術によって投与されて良い。それらは、他の物質、例えば血液と等張の溶液を作製するのに十分な塩またはグルコースを含む可能性がある滅菌水溶液の形態において最も良く使用される。必要であれば、前記水溶液は、適切に中和されるべきである(好ましくはpH3から9)。滅菌状態における適切な非経口的な製剤の調製は、当業者に既知である標準の製薬技術によって容易に達成される。
【0088】
非経口的な投与に適切な製剤は、抗酸化剤、バッファー、静菌薬、及び意図される受容者の血液と等張の製剤にするための溶質を含有して良い水性及び非水性の滅菌注射溶液、並びに懸濁する薬剤及び増粘剤を含有して良い水性及び非水性の滅菌懸濁液を含む。前記製剤は、単回投与または複数回投与の容器(例えば密封されたアンプル及びバイアル)に存在して良く、使用の直前に滅菌した液体担体(例えば注射のための水)の添加のみを必要とするフリーズドライ(凍結乾燥)状態において保存されて良い。必要に応じて調合される注射溶液及び懸濁液は、過去に記載されている種類の滅菌した粉、顆粒、及び錠剤より調製されて良い。
【0089】
ヒトの患者への経口及び非経口の投与のための、本発明の化合物の1日の投与量のレベルは、通常1mg/kgから30mg/kgであろう。したがって、例えば、本発明の化合物の錠剤またはカプセル剤は、適当に単回以上の投与のための活性を有する化合物の投与量を含んで良い。いずれにしても、医師が、任意の個別の患者に最も適切である実際の投与量を決定するであろう。それらは、特定の患者の年齢、体重、及び反応に関連して異なるであろう。上記の投与量は、平均的な場合の典型例である。もちろん、より高いまたは低い投与量の範囲が適する個別の場合が存在する可能性があり、その様な事は本発明の範囲内である。
【0090】
本発明の化合物は、鼻内または吸入によっても投与される可能性があり、適切な高圧ガス(例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFA134A3)若しくは1,1,1,2,3,3,3-ヘパタフルオロプロパン(HFA227EA3)の様なヒドロフルオロアルカン、二酸化炭素、または他の適切なガス)の使用と共に加圧容器、ポンプ、スプレー、または噴霧器の様な乾燥粉末吸入器またはエアロゾルスプレーの形態において簡便に投与される。加圧エアロゾルの場合では、単回投与量は、定量投与するためのバルブを提供する事によって決定されて良い。加圧容器、ポンプ、スプレー、または噴霧器は、活性を有する化合物の溶液または懸濁液を含有して良く(例えば、溶剤としてエタノールと高圧ガスの混合物の使用)、更に潤滑剤(例えば、ソルビタントリオレエート)を含有して良い。吸入器または吸入する器具における使用のためのカプセル剤及び薬包(例えば、ゼラチンより作製される)は、本発明の化合物とラクトースまたはデンプンの様な適切な粉末の基剤との粉末混合物を含んで製剤化されて良い。
【0091】
エアロゾルまたは乾燥粉末の製剤は、各々の定量投与または「1回の呼吸」が、患者に対する投与のための本発明の化合物の適当な量を投与する様に好ましく用意される。エアロゾルを使用する全体の一日の投与量が患者ごとに異なるであろう事、及び単回投与、更に一般的には一日を通じて分割して投与されて良い事が理解されるであろう。
【0092】
あるいは、本発明の化合物は、坐薬またはペッサリーの形態において投与される可能性があり、またはローション、液剤、クリーム、軟膏、または散布剤の形態において局所的に適用されて良い。本発明の化合物は、経皮的に投与されても良い(例えば、皮膚パッチの使用によって)。本発明の化合物は、特に目の疾患の治療のために、目の経路によって投与されても良い。
【0093】
目の使用のために、本発明の化合物は、等張性でpHが調節されている滅菌生理食塩水における微粉化懸濁剤、または、好ましくは等張性でpHが調節されている滅菌生理食塩水における液剤として、任意に塩化ベンジルアルコニウムの様な保存料と組み合わされて製剤化されうる。あるいは、本発明の化合物は、ワセリンの様な軟膏において製剤化されて良い。
【0094】
皮膚への局所的な適用のために、本発明の化合物は、例えば、鉱物油、液体ワセリン、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン化合物、乳化ワックス、及び水のうちの1つ以上との混合物に懸濁または溶解されて、活性を有する化合物を含有する適切な軟膏として製剤化されうる。あるいは、本発明の化合物は、例えば、鉱物油、モノステアリン酸ソルビタン、ポリエチレングリコール、液体パラフィン、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリルアルコール、2-オクチルドデカノール、ベンジルアルコール、及び水のうちの1つ以上との混合物に懸濁または溶解されて、適切なローションまたはクリームとして製剤化されうる。
【0095】
口における局所的な投与に適する製剤は、味をつけた基剤、通常スクロース及びアカシアまたはトラガカントにおいて活性を有する成分を含有するトローチ剤、ゼラチン及びグリセリン、またはスクロース及びアカシアの様な不活性な基剤において活性を有する成分を含有する香錠、並びに適切な液体担体において活性成分を含有するうがい薬を含む。
【0096】
一般的にヒトにおいて、本発明の化合物の経口または局所的な投与は、好ましい経路であり最も簡便である。受容者が嚥下障害または経口投与後の薬剤吸収の障害を患っている状況では、薬剤は非経口的(例えば、舌下または経頬)に投与されて良い。
【0097】
獣医学的な使用のために、本発明の化合物は、通常の獣医学の慣例に従って適切に許容される製剤として投与され、動物の外科医は、特定の動物に最も適当である用法及び投与の経路を決定するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】HMCにおけるSmad7の発現のCTGFによる阻害血清飢餓状態のヒト糸球体間質細胞(HMC)を、rCTGF/V5融合タンパク質に異なる時間曝露した。その後、細胞溶解物を調製し、Smad7及びβ-アクチンのレベルをウエスタンブロットによって分析した。実施した3つの独立した実験(実験毎、条件毎に3つの同型培養)の代表的なウエスタンブロットの図を示す。
【図2】HMCにおけるSmad2及びSmad3のリン酸化及び核移行のCTGFによる促進血清飢餓状態のHMCをTGF-β、rCTGF/V5融合タンパク質、または両増殖因子に2時間曝露した。その後、リン酸化セリンアフィニティービーズを使用して核抽出物(30μg)を免疫沈降(IP)した。次いで、結合タンパク質をSDS-PAGE、並びにSmad2及びSmad3の抗体を使用するウエスタンブロット(WB)の対象とした。実施した3つの独立した実験(実験毎、条件毎に3つの同型培養)の代表的なウエスタンブロットの図を示す。
【図3】HMCにおけるCTGFによるTIEGのレベルの刺激血清飢餓状態のHMCを、rCTGF/V5融合タンパク質に異なる時間曝露した。その後、細胞溶解物を調製し、TIEG及びβ-アクチンのレベルをウエスタンブロットによって分析した。実施した3つの独立した実験(実験毎、条件毎に3つの同型培養)の代表的なウエスタンブロットの図を示す。
【図4】TIEGは、Smad7発現レベルのCTGF依存性の下方調節を仲介する血清飢餓状態のHMCを図に示した条件に曝露した。24時間後、細胞溶解物を調製し、TIEG、Smad7、及びβ-アクチンのレベルをウエスタンブロットによって分析した。実施した3つの独立した実験(実験毎、条件毎に3つの同型培養)の代表的なウエスタンブロットの図を示す。
【図5】CTGFは、HMCにおけるSBE-lucレポーター遺伝子のTGF-βに誘導される転写活性を促進する細胞をSBE-lucを使用してトランスフェクトした。トランスフェクションの6時間後、前記細胞を図に示した処理を含む無血清培地において更に48時間インキュベートした。ルシフェラーゼ活性を測定し、β-ガラクトシダーゼ活性に対して正規化した。結果(±SEMを意味する)は、3つの独立した実験(実験毎、条件毎に4つの同型培養)を表す。
【図6A】Smad7のCTGF依存的な抑制は、TGF-β反応性の遺伝子の上方調節に直接的に関与する。血清飢餓状態の細胞を48時間、図に示した条件下でインキュベートした。RNAを抽出し、Smad7、P15INK4、PAI-1、ColIII、及びGAPDHの部分的に定量的なRT-PCR分析のために使用した。(A)実験条件及びPCR生産物の代表的なアガロースゲル分析
【図6B】(B)デンシトメトリーによるPCR生産物の定量。各遺伝子の発現をGAPDHの発現に対する比として示す。3つの独立した実験(実験毎、条件毎に4つの同型培養)を実施した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線維症の減少及び/または防止における使用のための化合物の同定及び/または作製の方法であって、
(a)TIEG及び/またはSmad-7を発現する能力を有する細胞タイプの提供
(b)試験化合物の提供
(c)多量のCTGFまたはその機能的な同等物の提供
(d)前記細胞タイプの前記試験化合物に対する曝露
(e)続いてまたは同時に前記細胞タイプの前記CTGFまたはその機能的な同等物に対する曝露
(f)Smad-7及び/またはTIEGの生産の検出及び/または測定
(g)試験化合物の存在下におけるSmad7及び/またはTIEGの発現量と、試験化合物の非存在下において検出及び/または測定されるSmad-7及び/またはTIEGの発現量の比較;及び
(h)Smad-7の発現の変化を引き起こさない若しくは増大する、及び/またはTIEG発現の変化を引き起こさない若しくは減少する事に基づいて、線維症を減少及び/または防止する化合物であるかの決定
の工程を含む方法。
【請求項2】
(i) Smad-7の発現を変化しない若しくは増大する、及び/またはTIEGの発現を変化しない若しくは減少する試験化合物の単離
の工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(j)製薬的に許容される担体、賦形剤、及び/または希釈剤を更に含む組成物への単離した化合物の製剤化
の工程を更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記化合物がCTGFとTIEGの間の相互作用と直接的に相互作用する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記化合物がCTGFとTIEGの間の相互作用と間接的に相互作用する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
TIEGの発現の誘導及び/またはSmad-7発現の抑制におけるCTGFの活性を減少及び/または防止する能力を有する化合物。
【請求項7】
TIEGの発現の誘導及び/またはSmad-7発現の抑制におけるCTGFの活性の減少及び/または防止における使用のための、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法によって同定及び/または作製される化合物。
【請求項8】
ポリペプチド、抗体分子、及びアンチセンスヌクレオチドより選択される少なくとも1つである、請求項6または7に記載の化合物。
【請求項9】
抗体分子である、請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
アンチセンスヌクレオチドである、請求項8に記載の化合物。
【請求項11】
線維症の治療及び/または防止及び/または診断における、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法によって同定及び/または作成される化合物の使用。
【請求項12】
線維症の治療及び/または防止及び/または診断のための医薬の製造における、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法によって同定及び/または作製される化合物の使用。
【請求項13】
前記線維症が、糖尿病性ネフロパシー、非糖尿病性の腎臓の線維症、肺の線維症、肝臓の線維症(肝硬変)、骨格筋の線維症、心筋の線維症、アテローム性動脈硬化症、全身性硬化症、強皮症、網膜の線維症、放射線に誘導される線維症、ケロイド瘢痕形成、及び腫瘍に関連する線維症より選択される1つである、請求項11または12に記載の使用。
【請求項14】
前記線維症が、糖尿病性ネフロパシーである請求項13に記載の使用。
【請求項15】
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法によって同定及び/または作製される化合物の、治療上または予防上効果的な一回の量または複数回の量の投与を含む、線維症の治療及び/または防止の方法。
【請求項16】
請求項6から10のいずれか一項に記載の化合物の、治療上または予防上効果的な一回の量または複数回の量の投与を含む、線維症の治療及び/または防止の方法。
【請求項17】
前記線維症が、糖尿病性ネフロパシー、非糖尿病性の腎臓の線維症、肺の線維症、肝臓の線維症(肝硬変)、骨格筋の線維症、心筋の線維症、アテローム性動脈硬化症、全身性硬化症、強皮症、網膜の線維症、放射線に誘導される線維症、ケロイド瘢痕形成、及び腫瘍に関連する線維症より選択される1つである、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
前記線維症が糖尿病性ネフロパシーである、請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【公表番号】特表2007−515161(P2007−515161A)
【公表日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−540575(P2006−540575)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【国際出願番号】PCT/GB2004/004781
【国際公開番号】WO2005/050202
【国際公開日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(500165809)インペリアル・イノベイションズ・リミテッド (32)
【Fターム(参考)】