説明

産業プラントの運転制御システム

【課題】生産量の急変や製品種の変更に対して、その時点で精度の高い需要用役量予測を行い、その予測によって無駄なく必要な用役を供給し、省エネとCO2削減を行うことを目的とする。
【解決手段】生産設備に必要な用役を供給する用役設備を制御するための指令値を作成するプラント運転監視制御システムにおいて、生産設備で生産される被生産物に与えられるべき時間経過に対する物性値を定めた製造処方と、被生産物の生産開始時刻、生産終了時刻生産量および生産開始時刻から生産終了時刻の間に生産される被生産物の生産量を定めた生産計画に基づいて、時刻経過に対して被生産物を生産するにあたり必要十分な用役の需要量を示した用役需要量パターンを生成する。このように得られた用役需要量パターンを用いて、用役設備に対する指令値を算出し用役設備を制御することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業プラントの運転制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼・石油化学・食品・医薬品などの種々の産業プラントでは、省エネやコストの最小化を行うことが求められている。そこで、生産物を生成する生産設備が必要とする各種用役を供給する用役設備において、必要な用役量だけ用役設備から供給する方法や、必要用役量決定後に用役設備の負担を最適化する方法などが用いられている。
【0003】
例えば、特開平5−108117号公報には、過去の用役設備から供給される用役需要量を、実績用役需要量データとして取得し、これを用いて用役の需要予測パターンを作成し、1日ごとに最新のデータを用いて修正を加えることで、将来の需要予測パターンを予測する方法が開示されている。
【0004】
また、特開平11−217788号公報には、製紙工場において、つながりがない個別の制御ループを持つ、パルプ機械制御部,製紙機械制御部,用役設備制御部の少なくとも2つの制御部間でプラント操業情報を互いに連携して製紙工場全体の運転最適化を行う統合制御システムが記載されている。
【0005】
また、特開平9−179604号公報には、製品生産スケジュールを元に用役の需要量の生産スケジュールを設定し、売電価格などの情報を用いて用役の需要量の生産スケジュールを調整して、その調整スケジュールに基づいて用役量の生成を行うプラント運転制御システムが知られている。
【0006】
さらに、特開2000−265184号公報では、個別の用役設備群とその他の設備群の制御系を融合することによる運転の最適化について述べられている。
【0007】
以上のように、従来の各種産業プラントは、同一のプラントにおいて長期間にわたって同一の製品を生成することで、過去の実績データを元にして実績用役需要量データを得ることができ、そのデータに基づき用役設備の制御を行うものである。さらにこのようにして得られた実績用役需要量データは、プラントの機器特性等を考慮することで修正され、修正後の用役需要量データに基づいて用役設備の制御を行うことで制御精度を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−108117号公報
【特許文献2】特開平11−217788号公報
【特許文献3】特開平9−179604号公報
【特許文献4】特開2000−265184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら近年、各種産業プラントにおいて、景気動向や発注元の事情の影響を受け、受注の製品変更や、増加・減少といった生産量の変動、さらには、同一の製品を生産する期間も次第に短くなる傾向が生じており、不定期の時間幅で異なる製品を異なる量で生成することが多くなっている。このように、不定期の時間幅で、同一プラントであっても生成する製品種および生産量が変動する、いわゆる多品種少量生産が一般的になってきている。
【0010】
多品種少量生産は、生産設備に供給するために用役設備が供給する需要量予測パターンを算出する際に、従来とは異なる以下の様な課題が生じてくる。
【0011】
まず、多品種少量生産の性質上、各生産工程によって生産設備に供給される用役量が予想の困難な形で変動するため、従来のように過去の実績データを用いて需要量パターンの作成を行うことができないという課題がある。
【0012】
つまり、従来技術において示した、特開平5−108117号公報は、過去の実績データを元にして用役設備の需要予測を行うものであるため、過去に類似事例がない場合や、これまでと異なる製品を生産する場合には需要予測の精度が低くなってしまう。
【0013】
また、特開2000−265184号公報では個別の用役設備群とその他の設備群の制御系を融合することによる運転の最適化について述べられているが、必要用役量の変動に対して、適切な用役供給を行う方法は示されていない。
【0014】
さらに、特開平9−179604号公報では、必要用役量は生産計画から取得するとしているが、必要用役量の変動に対処するための具体的な方法は述べられていない。
【0015】
以上のような課題に加え、近年の各製造業分野における省エネルギー化に伴って、その生産設備の非稼動時のエネルギーを減らす活動「エネルギーのJust in Time(JIT)化」の思想の導入を導入することも求められている。つまり、「必要なときに、必要なところへ、必要な量のエネルギー供給と使用」ができるように、生産物を生産する生産開始時刻、生産終了時刻および生産開始から終了時刻までの所定の時間内の生産量を考慮し、時刻経過に対して用役の需要量パターンを算出することが求められている。
【0016】
しかしながら、従来、産業プラントにおいては、エネルギーのJIT化の適用は行われていない。つまり、生産設備に用役を供給する用役設備は、生産設備において生産される被生産物に与えられるべき用役量を上回る用役を生成し、生産設備に供給していた。そして実際に被生産物の生産に使用されなかった余剰の用役量は、廃棄,循環させたり、電気エネルギーに変換するなどしていた。
【0017】
例えば、特開平9−179604号公報では、プラントの生産活動の高効率化を達成するとともにプラントで必要なエネルギーの時間と共に変動することで生じる大量の余剰エネルギーを、電気エネルギーへ変換して電力会社等に売電する運転制御システムを提供することを目的としている。
【0018】
また、余剰用役量をストックしておき、後の生産工程においてストック分の余剰エネルギーを生産設備に投入するなどの方式も採用されている。
【0019】
以上より従来は、用役設備において、被生産物を生成するのに与えられるべき用役量を上回る用役量が作られ、生産設備に供給していた。そして、過去に実際に生産設備で使用される用役量を実績用役需要量データとして得、その実績データに基づいて需要予測パターンを予測し、その用役予測パターンに基づいて用役設備の制御を行っていた。
【0020】
よって、本発明では、過去の実績用役需要量データがない多品種少量生産において、生産設備において被生産物を生産するに際して、必要な時刻に、余剰用役量を生じることなく必要十分なだけの用役量を用役設備において生成することを目的としている。つまり、生産量の急変や製品種の変更に対して、複数日の実績データを必要とせずに、時刻経過に対して被生産物を生成するための必要十分な用役の需要量を生成し生産設備に供給することができるので、いわゆるエネルギーのJIT化を実現したプラント運転制御システムの実現が可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
産業プラントにおける被生産物が、多品種少量生産の場合、過去の実績用役需要量データがない状況で用役需要量を算出すること、およびエネルギーJIT化の思想に基づいて被生産物を生産する際に、必要な時刻に必要な用役量のみ用役設備で生成し生産設備に供給するための方策として、プラントの運転監視制御システムは、以下のような構成をとることが考えられる。
【0022】
生産設備に必要な用役を供給する用役設備を制御するための指令値を作成するプラント運転監視制御システムにおいて、生産設備で特定の被生産物を生産するにあたり、時間経過に対して被生産物に与えられるべき物性値を定めた製造処方に関する製造処方データと、生産設備で生成される被生産物の生産開始時刻、生産終了時刻および生産開始時刻および生産終了時刻からなる所定の時間内に生産される被生産物の生産量を定めた生産計画に関する生産計画データとを入力し、前記入力した製造処方データと生産計画データとに基づいて、被生産物を生成するために必要十分な用役の需要量を時刻経過に対して示した用役需要パターンを生成し、用役需要パターンを用いて指令値を算出し、指令値に基づいて用役設備を制御することを特徴としている。
【0023】
本構成は、特に、同一プラントであっても不定期の時間幅で、異なる製品を作る状況いわゆる多品種少量生産の場合であって、過去の実績需要量データがない状況でとられることが好ましい。
【0024】
本発明においては、用役需要パターンを生成するにあたり、製造処方データおよび生産計画データを用いることが特徴である。
【0025】
製造処方とは、特定の被生産物を生成する際に、時間経過に対して被生産物に与えられるべき物性値からなるものである。つまり、生産開始時間から生産終了時間までの各時間において、被生産物がとるべき物性値が示されている。つまり、時間経過に対する物性値の変化率も示されていることになる。物性値としては、被生産物に与えられる温度,湿度,圧力などが挙げられる。また、製造処方は、被生産物の粘度,濃度,密度、また原料や添加物などの物質の情報や生産方法などの時間経過に対するデータであっても良い。
【0026】
一方、生産計画とは、被生産物が生産開始・終了される時刻と、この開始・終了時間内に生産されるべき被生産物の生産量を有しており、時間経過に対する生産量のデータを示したものである。
【0027】
なお、生産設備が複数台あり、時間経過に対して各生産設備を順番に稼動させる場合や、各生産設備を複数台同時に稼動させる場合においても、各生産設備における生産計画を用いることで、用役設備で生成すべき用役の需要量の合計を時間経過に対して算出することができる。
【0028】
このような時間経過に対する製造処方および時刻経過に対する生産計画を用いることによって、被生産物を生産する際に、余剰用役量を生じることがないように、時刻経過に対して必要十分な用役の需要量、つまり用役需要パターンを算出することができる。
【0029】
そして、この用役需要パターンを用いて、用役設備を制御するための指令値を算出し、この指令値に基づいて用役設備を制御する。
【0030】
このことによって、被生産物を生産する際に必要十分なだけの用役を用役設備で生成し、生産設備に供給することができる。
【0031】
また、運転監視制御システムは、製造処方データを保持する第1の記憶装置から特定の被生産物の製造処方を取得する第1のインタフェースと、生産計画データを保持する第2の記憶装置から特定の被生産物の製造処方を取得する第2のインタフェースと、用役需要パターンを生成する用役需要量演算モジュールと、用役需要量演算モジュールから得られた用役需要パターンを、生産設備と、用役設備と、外気温などの環境条件の状態量とを用いて補正する用役需要量補正モジュールと、用役設備が必要とされる用役量を出力するまでにかかる時間をデータとして保持する第3の記憶装置からデータを取得する第3のインタフェースと、用役需要量補正モジュールによって補正された用役需要パターンに基づいて、複数の用役設備に対して負荷を分散する最適計算を行い、最適計算から得られた最適運転計画を用いて、各種用役設備が、必要とされる用役量を出力するまでにかかる時間だけ遅れて用役設備に運転指令を行う運転計画を作成する最適運転制御モジュールとを有することを特徴とする。
【0032】
第1の記憶装置には、被生産物の製造処方データが保持されており、また第2の記憶装置には被生産物の生産計画データが保持されている。
【0033】
そして、用役需要量演算モジュールは、特定の被生産物を生産するにあたり、製造処方データを第1のインタフェースを介して、また生産計画データを第2のインタフェースを介して取得する。用役演算モジュールにおいて、これら製造処方データおよび生産計画データに基づいて用役需要パターンを生成する。
【0034】
次に、用役需要量補正モジュールでは、この用役需要量パターンに基づいて、生産設備,用役設備、および外気温などの環境条件の状態量の少なくとも一つを用いて用役需要パターンを補正する。
【0035】
さらに、用役需要量補正モジュールにおいて補正された用役需要パターンは、最適運転制御モジュールにおいて、複数の用役設備に対して負荷を分散する最適計算を行い、最適計算から得られた最適運転計画および第3のインタフェースを介して得られた用役設備が必要とされる用役量を出力するまでにかかる起動時間に関するデータに基づいて、用役設備に運転指令を行う運転計画を作成する。
【0036】
また、用役需要量演算モジュールは、生産設備で特定の被生産物を生産するにあたり、被生産物に関する製造処方データおよび被生産物に関する生産計画データが入力され、時間経過に対して生産設備において被生産物を生成するために必要十分な用役の需要量を示した用役需要パターンを算出することを特徴としている。
【0037】
さらに、運転監視制御システムは、生産設備で特定の被生産物を生産するにあたり、製造処方データおよび生産計画データに基づいて、用役需要パターンデータを生成し、生産設備,用役設備、および外気温などの環境条件の状態量の少なくとも1つを用いて用役需要パターンデータを補正し、補正された用役需要パターンデータに基づいて、複数の用役設備に対して負荷を分散する最適計算を行い、最適計算から得られた最適運転計画を用いて、各種用役設備が、必要とされる用役量を出力するまでにかかる時間だけ遅れて用役設備に運転指令を行う運転計画を作成することを特徴とする運転監視制御システムである。
【0038】
本発明で用いる用役設備は、例えば蒸気を生成するボイラや冷水を生成する冷凍機であって、これらの機器がそれぞれ仕様の異なるものであっても、複数の用役設備に対して運転指令を行う運転計画を作成することができる。
【0039】
さらに、第3の記憶装置は、前記用役設備が必要な用役量を出力するまでにかかる時間を予め記憶していることを特徴としている。
【0040】
この時間は設備の種類,製品ごとに異なっており、その値はあらかじめ第3の記憶装置に保持されている。この時間を考慮することで、予め稼動させておくことによる無駄なエネルギーの生成を防ぐことが可能となる。
【発明の効果】
【0041】
本発明により、生産量の急変や製品種の変更に対して、複数日の実績データを必要とせずに精度の高い用役の需要予測を行い、無駄なく必要な用役を供給することで、省エネとCO2削減を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態における全体構成を示すブロック図。
【図2】本発明を適用するバッチ式攪拌反応槽。
【図3】第2の記憶装置102が保持する生産計画。
【図4】第1の記憶装置104が保持する製造処方。
【図5】用役需要量演算モジュール106によって製造処方条件から得られる用役需要パターン506。
【図6】製造処方条件から得られる用役需要パターン506に生産計画の時刻情報を加えた用役需要パターン601。
【図7】用役需要量補正モジュール111において、用役需要パターン601を補正した用役需要パターン701。
【図8】用役設備および生産設備の構成を含めた本実施形態の全体構成図。
【図9】電気及び燃料におけるCO2排出量と負荷率の特性曲線。
【図10】最適運転制御モジュール112によって得られる最適運転計画1001。
【図11】最適運転制御モジュール112によって得られる運転計画1107。
【図12】最適運転制御モジュール112によって得られた運転計画に基づく蒸気の供給熱量1201。
【図13】最適運転制御モジュール112によって得られた運転計画に基づく冷水の供給冷凍能力1301。
【図14】実施例3において、生産設備が複数台ある場合の全体構成図。
【図15】実施例3において、第2の記憶装置102が保持する生産計画1501。
【図16】実施例3において、用役需要量補正モジュール111によって補正された補正済み用役需要パターン1601。
【図17】実施例3において、独立に算出した複数の生産設備に対する用役需要パターンを足し合わせた全体の用役需要パターン1701。
【図18】実施例4において、攪拌翼203の動力を発電機および購入電力双方によって得られる場合の全体構成図。
【図19】実施例4において、攪拌翼203が必要とする電力需要パターン。
【発明を実施するための形態】
【0043】
〔発明を実施するための形態1〕
以下、本発明を実施するための形態を、図を参照しながら説明する。
【0044】
図1に、被生産物を生産する生産設備107、生産設備107に生産設備が被生成物を生成するのに必要な各種必要用役量を供給する用役設備108、用役設備を制御するための指令値を作成するプラント運転監視制御システム101、被生産物の製造処方データを保持する第1の記憶装置104、被生産物の生産計画データを保持する第2の記憶装置102、および用役設備が必要用役量を出力するまでにかかる時間を記憶する第3の記憶装置114を示す。
【0045】
本発明では、生産設備107はバッチ式攪拌反応槽を適用する。
【0046】
用役設備108は、生産設備107において被生産物を生産するために必要な用役を生産設備107に供給するものであり、用役には例えば温水・冷水・エア・電気・蒸気などが挙げられる。本発明の実施例においては、以下用役として蒸気および冷水を用いるものとして説明する。
【0047】
プラント運転監視制御システム101は、製造処方データを保持する第1の記憶装置104から特定の被生産物の製造処方を取得する第1のインタフェース105と、生産計画データを保持する第2の記憶装置102から特定の被生産物の製造処方を取得する第2のインタフェース103とを有し、第1のインタフェース105と第2のインタフェース103を介して取得した特定の被生産物の製造処方と生産計画に基づいて用役需要パターンを生成する用役需要量演算モジュール106とを有する。
【0048】
さらに、生産設備および用役設備の状態量を取得する第4のインタフェース109と、外気温などの環境条件の状態量を取得する第5のインタフェース110とを有し、第4のインタフェース109,第5のインタフェース110、および第1のインタフェースから得られた状態量のうち、少なくとも1つを用いて、用役需要量演算モジュール106から得られた用役需要パターンを補正する用役需要量補正モジュール111とを有する。
【0049】
さらに、プラント運転監視制御システム101は、第3の記憶装置114に保持されているデータを取得する第3のインタフェース115を有している。
【0050】
最適運転制御モジュール112は、用役需要量補正モジュール111によって補正された用役需要パターンに基づいて、複数の用役設備に対して負荷を分散する最適計算を行い、最適計算から得られた最適運転計画を用いて、第3のインタフェース115を介して取得された用役設備が必要な用役量を出力するまでにかかる時間に関するデータを用いて、用役設備108に運転指令を行う運転計画を作成することを特徴としている。
【0051】
このように作成された用役設備に対する運転指令は、プラント運転監視制御システム101に設けられた第6のインタフェース113を介して、用役設備108に指令値が出力される。
【0052】
このように入力された指令値に基づいて、用役設備108は起動・停止を行う。
【0053】
図2に、本発明を適用するバッチ式攪拌反応槽201を示す。
【0054】
バッチ式攪拌反応槽201は、配管202により原料を投入し、攪拌翼203によって攪拌を行う。処方を適用し終えた生成物は、配管204を通じて取得する。
【0055】
バッチ式攪拌反応槽201のジャケット205には、配管206を通して蒸気または冷水を流入させ、その供給量の変動によって、バッチ式攪拌反応槽201の温度を制御する。本実施形態では、蒸気・冷水ヘッダ207は十分小さく、また配管206の長さは十分短いものとして、プラント運転制御システムで用いるロジックでは考慮しない。しかし、蒸気・冷水ヘッダ207と配管206が無視できない場合でもプラント運転監視制御システム101内のロジックを変更することで対応可能である。
【0056】
図3に、第2の記憶装置102に保持されている被生産物の生産計画301を示す。生産計画301には、被生産物を生産するための生産開始時刻302,生産終了時刻303および生産開始・終了時刻までの時間内に生産すべき生産量が与えられている。図3の生産計画301では、生産開始時刻が9:50、生産終了時刻が11:20、およびこの90分間において10[m3]生産することが示されているデータである。
【0057】
図4に、第1の記憶装置104に保持されている製造処方401を示す。製造処方401は、図4に示すように、時間経過に対して被生産物に与えられるべき物性値を示したものである。各時間における物性値が与えられているため、時間経過に対する物性値の変化率も示されていることになる。
【0058】
ここで、バッチ式攪拌反応槽201で生成物を得るための製造処方401について、図2,図4を用いて説明する。
(1)バッチ式攪拌反応槽201に原料を投入する(時刻0)。原料は20℃の温度で投入されるものとし、10分間その温度を維持する。また、原料の投入と同時に一定回転速度の攪拌を開始する。
(2)バッチ式攪拌反応槽201に原料投入後10分たってから同時にバッチ式攪拌反応槽201内部の温度を上昇させ、10分間で60℃に上昇させる。攪拌翼203は(1)と同じ一定回転速度で攪拌し続ける。
(3)バッチ式攪拌反応槽201内部の温度が60℃まで上昇したら、50分間その温度を保ち、反応を進める。攪拌翼203は(1)と同じ一定回転速度で攪拌し続ける。
(4)バッチ式攪拌反応槽201の温度が60℃になってから50分間経過したら、バッチ式攪拌反応槽201の温度を、10分で20℃に低下させる。攪拌翼203は(1)と同じ一定回転速度で攪拌し続ける。
(5)バッチ式攪拌反応槽201の温度が20℃に低下したら、生産終了時刻まで同温に保ち続ける。攪拌翼203は(1)と同じ一定回転速度で攪拌し続ける。
(6)生産終了時刻に攪拌翼203を止め、バッチ式攪拌反応槽201内部の生成物を抜き取る。
【0059】
ここでは、時間経過に対する被生産物に与えられるべき物性値として、反応槽温度を示したが、他にも、湿度・圧力といった生産設備で設定すべき生産条件、粘度・濃度・密度などの生産設備で生産される被生産物の物性値、原料や添加物など生産設備に添加する物質の情報や具体的な手順などについての時系列データであるものであっても良い。
【0060】
以下、生産設備にバッチ式攪拌反応槽201を適応した場合、プラント運転監視制御システム101において用役設備108を制御するための指令値の算出方法について説明する。
【0061】
プラント運転監視制御システム101は、用役需要量演算モジュール106,用役需要量補正モジュール111および最適運転制御モジュール112を有し、各部における算出方法を図1を用いて説明する。
【0062】
まず、第2のインタフェース103を介して取得した被生産物の生産計画301および第1のインタフェース105を介して取得した製造処方401が、用役需要量演算モジュール106に入力される。
【0063】
そして、生産計画301から、9時50分に生産を開始して11時20分に生産を終了するという生産時刻情報と、生産量の10[m3]を取得する。また、製造処方401から、時間経過に対する被生産物に与えられるべき物性値を取得する。
【0064】
これらの情報は、以下に示すような、用役需要量演算モジュール106に保持されている用役の需要量推定のためのロジックに入力される。
【0065】
以下、用役需要量演算モジュール106に保持されているロジックを示す。
【0066】
【数1】

【0067】
【数2】

【0068】
【数3】

【0069】
(数1)に記載されているPは、バッチ式攪拌反応槽201が必要とする用役需要パターンである。PはHとFの和からなり、Hは放熱を考えない場合の用役需要パターン、Fはバッチ式攪拌反応槽201からの放熱量を与える関数である。また、(数2)に示されている、ρは反応液密度、Cpは反応液比熱、Tr0はある時点での反応液温度、Tr1はTr0から経過した任意の時間において設定される所望の反応液温度、Δtは反応液の温度をTr0からTr1まで変化させるためにかける時間である。(数3)に示されているTrは反応液温度、Taは環境温度を表す。
【0070】
なお、各変数は以下のように取得される。温度変化を行う時の温度Tr0,Tr1と温度変化にかける時間Δtは、製造処方401から、また、生産量Vは生産計画301から取得される。さらに、環境温度Taは、反応開始直前でなければ正確な値は不明なため、予測環境温度としてTa_hを設定し、本実施形態ではTa_h=20[℃]とする。
【0071】
なお、この用役の需要量推定のためのロジックは、被生産物の生産量から用役量を導き出せるものであればよく、この式に限定されるわけではない。また、用役需要量をパワーとして求めているが、用役需要推定パターンの正側では生産設備を温める必要があるため、対応した用役量を供給できる蒸気を供給すればよい。また、用役需要推定パターンの負側はバッチ式攪拌反応槽201を冷却することを意味するため、このパターンの絶対値と同量の冷却効果を与えられる冷水を供給すればよい。ここでは、パワーを求めているが、必要となる蒸気・冷水量に換算できるものであれば、他の値を用いても良い。必要となる蒸気・冷水量を直接求めても良い。
【0072】
図5に、以上のようなロジックを利用した用役需要パターン導出の過程を示す。ここでは用役需要量をパワーとして求めており、このパワーを満たすように蒸気および冷水量を決定し生産設備107に供給する。
【0073】
はじめに、原料を投入してから10分後までは、製造処方401から反応液温度の変化をさせないことが分かり、仮の外気温と反応液温度との差がなく放熱・吸熱もないことから需要用役パターンはP=0[W]であることが分かる。得られた用役需要パターンを図5の区間1(501)に示す。
【0074】
続いて原料を投入してから10分後から20分後までは、製造処方401から、Δt=10[分]で反応液温度をTr0=20[℃]からTr1=60[℃]まで上げなければならないことが分かる。これらの値と、製造処方401から取得したρ,Cpと、生産計画301から取得したV=10[m3]を用いることにより、Hが求められる。バッチ式攪拌反応槽201からの放熱量を与える関数Fについては仮の外気温と反応液温度との差が大きいほど、放熱される熱量が増えるため、時間とともに上昇する形で与えられる。得られたHとFを足し合わせることにより、用役需要パターンPを求めることができる。求めた用役需要パターンを図5の区間2(502)に示した。
【0075】
続いて原料を投入してから20分後から70分後までは、製造処方401から、反応液温度を60[℃]に保つことが分かる。そのため、H=0[W]となる。放熱分については仮の外気温との温度差が常に一定であるため、一定値となる。HとFを足し合わせて求めた需要パターンPを図5の区間3(503)に示した。
【0076】
続いて原料投入の70分後から80分後までは、製造処方401から、Δt=10[分]で反応液温度をTr0=60[℃]からTr1=20[℃]まで下げなければならないことが分かるため、各種値を用いることで、温度上昇時と同様にHを求めることができる。Fについては、反応液温度を下げることにより仮の外気温との温度差が減少していくため、時間とともに減少する形で与えられる。HとFを足し合わせて用役需要パターンPを図5の区間4(504)に示した。
【0077】
続いて原料を投入してから80分後から生産終了時間までは、製造処方401から、反応液温度は変化させないことが分かり、仮の外気温と反応液温度の差がなく放熱・吸熱もないため需要用役パターンはP=0[W]であることが分かる。求めた用役需要パターンを図5の区間5(505)に示した。
【0078】
このようにして得られた製造処方条件から得られる用役需要パターン506は時間経過に対する用役の需要量を表したものであり、既に取得済みの生産計画301が有している生産開始時刻302と生産終了時刻303の情報を合わせることで、用役需要パターン506に生産計画の時刻情報を加えた用役需要パターン601が得られる。
【0079】
図6に、用役需要パターン506に生産計画の時刻情報を加えた用役需要パターン601を示す。
【0080】
図6の用役需要パターン506に生産計画の時刻情報を加えた用役需要パターン601の正側ではバッチ式攪拌反応槽201を温める必要があるため、このパターンに対応したエネルギーを供給できる蒸気を供給すればよい。また用役需要パターン506に生産計画の時刻情報を加えた用役需要パターン601の負側はバッチ式攪拌反応槽201を冷却することを意味するため、このパターンの絶対値と同量の冷却効果を与えられる冷水を供給すればよい。以上により、生産計画301と製造処方401を用いて用役の供給量を前もって予測できる。
【0081】
次に、以上のように算出された用役需要パターン506に生産計画の時刻情報を加えた用役需要パターン601を補正する用役需要量補正モジュール111について説明する。
【0082】
用役需要量補正モジュール111には、用役需要パターンの導出時に用いる値の中で、生産を行う時点でないと正確に分からない値に対して補正を行うためのロジックを持っている。本実施形態では、用役需要パターン506に生産計画の時刻情報を加えた用役需要パターン601を求めるにあたり、環境温度Taを予測値Ta_h=20[℃]として計算した。そのため、放熱量の予測に誤差が生じる可能性があるため、用役需要量補正のためのロジックとして用役需要量補正関数ΔP=G(Ta,Ta_h)を与える。
【0083】
続いて、用役需要量補正モジュール111の処理の流れについて説明する。まず、用役需要量補正モジュール111は第5のインタフェース110を通じて、環境条件である環境温度Taを取得する。本実施形態では、生産開始時の環境温度がTa=30[℃]とする。なお本実施形態では用いていないが、生産設備107と用役設備108の状態量の中で、用役需要パターン生成に用いられ、かつ生産の直前まで分からない値がある場合には、第4のインタフェース109を通して取得し、用役需要量補正に用いることも可能である。
【0084】
次に第3のインタフェース115より、用役需要量演算モジュール106が用役需要パターン506に生産計画の時刻情報を加えた用役需要パターン601を求める時に用いた予測環境温度Ta_hを取得する。
【0085】
これらの値を用いて用役需要量補正関数ΔPの値を求める。本実施形態では、生産開始時の環境温度Taは30[℃]とする。この値は、予測環境温度Ta_hの20[℃]よりも高い。この温度差によって、バッチ式攪拌反応槽201からの放熱量は予測していたものと比べて常にこの温度差に応じて一定量減少した値をとる。そのため、用役需要量の補正であるΔPは負の一定値を取ることになる。そのため、用役需要パターン506に生産計画の時刻情報を加えた用役需要パターン601とΔPを足し合わせて得られる補正済み用役需要パターンP+ΔPは、用役需要パターン506に生産計画の時刻情報を加えた用役需要パターン601をそのまま一定値分下方へずらしたものとなる。
【0086】
図7に、得られた用役需要パターン601を補正した用役需要パターン701を破線で示す。また、比較の対象として用役需要パターン506に生産計画の時刻情報を加えた用役需要パターン601は実線で示している。補正により、蒸気の需要量が減少し、冷水の需要量が増加していることが分かる。
【0087】
最後に、最適運転制御モジュール112の処理について説明する。
【0088】
ここで、図8に、用役設備108,生産設備107の一形態であるバッチ式攪拌反応槽201、およびプラント運転監視制御システム101を示す。本実施形態では、用役設備108は、蒸気を生成するボイラ3台(ボイラA801,ボイラB802,ボイラC803)と冷水を生成する冷凍機3台(冷凍機A804,冷凍機B805,冷凍機C806)から構成されているものとする。これらの機器は1台ずつ仕様の異なるものを用いるとする。ただしこれは一例であって、熱源機器の台数は任意に増やすことができ、かつ、その種類は同種異種混合であっても以下に述べる処理で対応可能である。
【0089】
ボイラA801,B802,C803、冷凍機A804,B805,C806とバッチ式攪拌反応槽201までの距離は十分に短く配管系統の容量もわずかとする。これは配管206による損失や時間遅れなどを考慮せずに説明を簡単にするためであり、もし無視できないほど長く配管206について考える必要がある場合には、配管206も含めて用役設備として考え、その特性を考慮に入れればよい。
【0090】
最適運転制御モジュール112は、まず用役需要量補正モジュール111によって作製された、用役需要パターン601を補正した用役需要パターン701を取得する。
【0091】
次に、用役設備108の運転計画を最適化するためのロジックを利用して最適運転計算を行う。そのロジックについて以下に説明する。
【0092】
最適運転制御モジュール112は、用役需要パターンが定まった後、用役供給量が用役需要パターンを下回らないように考慮し、かつCO2排出量及びエネルギーコストが最小となるように、起動停止,負荷率を決定する。CO2排出量は、用役設備の負荷率に依存して変化するため、CO2排出量最小化を目的とした評価関数Jは以下の式で表される。
【0093】
【数4】


ここでjは各用役設備、zjは負荷率、ajは負荷率zjの時のCO2排出量、xjは起動停止(1:起動,0:停止)を表す。
【0094】
図9に、電気におけるCO2排出量901、燃料におけるCO2排出量902と負荷率の特性曲線の一例を示す。用役設備108の各設備は、その負荷率に応じて電気及び燃料消費量が変化するので、それに伴いCO2排出量も変化する。このため、数4において、係数ajで示したCO2排出量も分けて計算する。電気によるCO2排出量をαj(zj)、燃料によるCO2排出量をβj(zj)として評価関数Jは以下のように書き換えられる。
【0095】
【数5】


この評価関数Jを最小化するように、用役設備の起動停止変数と負荷率を決定する。制約条件として、各時点で用役需要パターンを下回らないようにするために、以下の制約条件を満たす必要がある。
【0096】
【数6】


ここでEはある時刻での用役需要量、fjは負荷率zjの時の用役設備jの出力する用役量。本実施形態においては、蒸気発生源であるボイラは燃料のみ消費するため電気によるCO2排出量αj(zj)=0、ターボ冷凍機は電力のみ消費するため燃料によるCO2排出量βj(zj)=0である。本実施形態では用いていないが、電気と蒸気を共に用いる吸収式冷凍機などでは共に、0ではない。評価関数Jの最小値を求めるためには、最適化問題の解法として知られているもの(例として混合整数計画法)を用いる。
【0097】
図10に、このようにして得られる用役設備の運転計画の例を示す。
【0098】
この最適運転制御モジュールによって得られる時定数未考慮の運転計画1001で得られた設備運転時間に対して、従来はこの運転時間に必要な用役量を供給できるよう、余裕を持たせて用役設備に運転指令を出していたが、本発明では各用役設備が必要とされる用役量を出力するまでにかかる時間を考慮して各用役設備を起動させる。この時間は設備の種類,製品ごとに異なっており、その値はあらかじめ第3の記憶装置114に保持されている。
【0099】
最適運転制御モジュール112は最適計算を行った後に、第3の記憶装置114から各用役設備が必要とされる用役量を出力するまでにかかる時間を、第3のインタフェース115を介して取得する。続いて、前記最適運転制御モジュールによって得られる時定数未考慮の最適運転計画1001と前記、各用役設備が必要とされる用役量を出力するまでにかかる時間から、各用役設備の運転計画を決定する。
【0100】
図11に、このようにして得られた運転計画を示す。各設備が必要とされる用役量を出力するまでにかかる時間と同時間だけ稼動開始時間が早くなっている(1101〜1107)。
【0101】
以上のようにして、最適運転制御モジュールによって得られる運転計画1107に従って、第6のインタフェース113を通じて各用役設備に運転指令を与える。
【0102】
図12,図13に、この最適運転制御モジュールによって得られる運転計画1107によって与えられる用役量を、蒸気の供給熱量(1201)と冷水の供給冷凍能力(1301)として示す。この様に必要とされる用役量を無駄なく供給できることが分かる。
【0103】
以上により、本発明では生産量や製品種の変更に対してその時点で精度の高い需要用役量予測を行い、その予測によって無駄なく必要な用役を供給できることが分かる。
【0104】
〔発明を実施するための形態2〕
発明を実施するための形態1では、反応開始時点で環境温度T_aを取得し、生産開始から生産終了までの用役需要量補正を行っていた。しかし、補正のために用いる用役設備108,生産設備107、環境条件の各種状態量が、時間変動によって大幅に変動する場合には、時間が経過するにつれ、補正済みの用役需要パターンと実際の用役需要パターンとの間に大きな誤差が生じる可能性がある。そのため、発明を実施するための形態1の環境温度T_aが短時間で大きく変動するとして、以下にその時の計算方法を述べる。
【0105】
用役需要量補正モジュール111で、補正を行う時間間隔ΔTを前もって決めておき、その値を第3の記憶装置114に保持しておく。生産を開始する前に用役需要量補正モジュール111でΔTを読み込んでおく。
【0106】
その後、発明を実施するための形態1と同様に、用役需要量演算モジュール106で用役需要量を求め、用役需要量補正モジュール111で用役需要パターンの補正を行い、補正した用役需要パターンに基づいて、最適運転制御モジュール112で運転計画を作成し、用役設備108の運転を開始する。ただし、この時に立てる運転計画はΔTまでとする。
【0107】
続いて、運転開始後ΔTの時間が経過したら、用役需要量補正のために、用役設備108,生産設備107、環境条件の各種状態量を再び、用役需要量補正モジュール111で読み込む。その後は、発明を実施するための形態1と同様の手順で用役需要量の補正分ΔPを計算して、補正済み用役需要パターン1601と足し合わせ、補正した用役需要パターンに基づいて、最適運転制御モジュール112でΔTまでの運転計画を作成する。運転計画が作成された時点で、その運転計画に基づき用役設備108を運転する。
【0108】
これ以降は、ΔT経過するごとに同様に用役需要パターンの補正を行いながら用役設備108を運転する。
【0109】
ΔTの大きさについては、用役設備108の全機器が運転計画に追従できるように、各種生産設備の時定数の中で最大のものよりも数倍以上の十分長い時間を設定する。運転計画計算中のわずかな時間は、前の運転状態を保つなどする。
【0110】
以上により、環境温度T_aが短時間で大きく変動する場合でも、実際の用役需要パターンと推定した用役需要パターンとの間の誤差が大きくならないようにしながら用役設備108を運転することが可能となる。同様の方法を用いることで、環境条件の状態量、用役設備108,生産設備107の状態量の変動に対しても対応できる。
〔発明を実施するための形態3〕
続いて生産設備107が複数ある実施形態について述べる。例として、発明を実施するための形態1において、反応槽が2基あるとする。
【0111】
このような実施例において、用役設備108を制御するための指令値の算出について説明する。
【0112】
図14に、バッチ式攪拌反応槽201と同じバッチ式攪拌反応槽1401が2基目として接続されている一形態を示す。
【0113】
図15に、バッチ式攪拌反応槽1401で製品を作る生産計画を示す。生産計画1501からわかるように、生産開始時刻1502は10時50分、生産終了時刻1503は12時20分、生産量1504は10[m3]である。製品の製造処方は実施形態1と同じく、製造処方401を用いるものとする。
【0114】
バッチ式攪拌反応槽1401が必要とする用役需要量は、実施形態1と同様にして用役需要量演算モジュール106で求め、用役需要量補正モジュール111で補正する。実施形態1と同様に環境温度が30[℃]であるとして考えると、補正済みの用役需要パターンは、用役需要パターン601を補正した用役需要パターン701と形が同じで、時間軸のプラス方向に1時間ずらしたものとなる。
【0115】
図16に、このようにして得られたバッチ式攪拌反応槽1401の補正済み用役需要パターン1601を示す。
【0116】
このように、生産設備が複数台あり、時間経過に対して各生産設備を順番に稼動させる場合や、各生産設備を複数台同時に稼動させる場合においても、各生産設備における生産計画を用いることで、別々に用役需要パターン601を補正した用役需要パターン用役需要パターン701と補正済み用役需要パターン1601を算出し、用役需要量補正モジュール111は、独立に求めたこれらの2つの用役需要パターンを適切に足し合わせて系全体での用役需要パターンを演算することができる。
【0117】
計算方法として、単純に足し合わせるだけでは10時50分〜11時20分の間で、別々に供給されるべき熱量,冷熱量を相殺してしまう。そのため、温熱分と冷熱分とのそれぞれに対して別々に和をとる。この様に、複数の生産設備がある時は、用役需要量演算モジュール106は各生産設備の用役需要パターンを独立に計算し、それぞれを適切な形で足し合わせることで必要な用役量を求める。
【0118】
図17に、こうして求めた全体の用役需要パターン1701(破線部分)を示す。
【0119】
温熱を与える機器に関してはそれらのみで、実施形態1と同様の最適計算を最適運転制御モジュール112により行い、運転計画を決定する。
【0120】
生成した用役は配管上で一体となっているため、図14に示した弁1402,1403の様な機構を配置して、各生産設備の用役需要パターンと同量の用役を、各生産設備に分配する。
【0121】
これにより、生産設備が複数台ある場合に対しても、本発明により精度の高い需要予測を行い無駄なく必要な用役を供給することが可能である。
〔発明を実施するための形態4〕
実施形態1の攪拌翼203の動力が、コージェネレーションシステムを採用していて、燃料の消費による発電機からの電力供給と、発電所から購入する電力の双方によって与えられる場合の実施形態について述べる。
【0122】
図18に、一形態として、ボイラA801,B802,C803の供給する蒸気によって発電機1801で発電を行い、攪拌翼203を駆動する場合の全体構成を示す。蒸気によって発電機1801が電力を生成し、その電力を攪拌翼203に供給する。この時の生産計画,製造処方は実施形態1と同じものとする。実施形態1に示した製造処方より、攪拌翼203は、原料を投入してから生産時間終了まで一定の回転速度で回転させる必要があることが分かる。
【0123】
この構成の時のプラント運転監視制御システム101の処理の流れを示す。まず、用役需要量演算モジュール106が反応槽で必要とされる用役需要パターンを求める過程は実施形態1と同様である。次に攪拌翼203を回すために必要となる電力を求める。ここで、反応液の粘度は反応開始から終了まで常に一定であるとする。この時、攪拌翼203を回すために必要となる電力は一定とみなすことができ、この値をP_eとおく。
【0124】
図19に、攪拌翼203が必要とする電力需要パターン1901を示す。
【0125】
ただし、電力需要パターンは必ず一定である必要はなく、変動するとしてもよい。その場合、電力需要パターンが既知のものであれば第3の記憶装置114に保持しておいて第3のインタフェース115を通して取得すればよく、反応液の粘度などによって変動する場合は、用役需要量演算モジュール106に、その粘度変化の予測と、粘度が変化した時に攪拌翼203が一定速度で回転するために必要とする電力を導出するロジックを組み込むことで電力需要パターンを求めることが可能である。
【0126】
続いて、用役需要補正モジュール111の処理について説明する。反応槽が必要とする用役需要パターンの補正については、実施形態1と同様に行われる。電力需要パターン1901は補正する必要がないため、行わない。ただし、攪拌翼203が必要とする電力が予測困難な形で変動する場合には、その変動に寄与する状態量を用役設備108,生産設備107,環境条件から取得し、用役需要量補正モジュール111に予め用意する補正ロジックを用いて需要量補正を行うとしてもよい。
【0127】
続いて最適運転制御モジュール112の処理について記述する。以下、発電機の蒸気エネルギーから電気エネルギーへの変換効率をηとおき、発電所より購入する電力の使用量がx[W]の時のCO2排出量をγ_e(x)とする。次に、攪拌翼203が用いる発電所からの購入電力をf_eとおく。この時、蒸気によるCO2排出量と購入電力によるCO2排出量との間に関係があるため、温熱を与える機器の最適運転を求める評価関数に、購入電力f_eによるCO2排出量γ_e(f_e)を足し合わせなければならない。よって以下に示す式となる。
【0128】
【数7】


この評価関数Jを最小化するように、用役設備の起動停止変数,負荷率,発電所からの購入電力を決定する。制約条件としては、各時点で用役需要パターンを下回らないことが要求される。攪拌翼203が用いる購入電力がf_eの時、発電機を通して用いられる蒸気エネルギーは、(P_e−f_e)/ηで与えられることから、E(t)を反応槽の用役需要パターン601を補正した用役需要パターン用役需要パターン701として、制約条件は下記の式で得られる。
【0129】
【数8】


これにより、各時点で制約条件(数8)を満たし、かつ(数7)を最小化するようなz_j,x_j,f_eの組合せを選ぶことで、ボイラA,B,Cと発電所からの購入電力とを合わせた全体での最適運転が可能となる。冷熱供給については、実施例3と同様にして冷熱機器のみで最適運転を求める。
【0130】
用役設備で得られる蒸気はまとめて作られるため、各時点で上記最適計算の結果どおりの蒸気をバッチ式攪拌反応槽201と発電機1801に分配するため、弁1802のような機構を用いて分配する。
【0131】
これにより、コージェネレーションシステムを採用しているシステムに対しても、本発明により精度の高い需要予測を行い無駄なく必要な用役を供給することが可能である。
【符号の説明】
【0132】
101 プラント運転監視制御システム
102 第2の記憶装置
103 第2のインタフェース
104 第1の記憶装置
105 第1のインタフェース
106 用役需要量演算モジュール
107 生産設備
108 用役設備
109 第4のインタフェース
110 第5のインタフェース
111 用役需要量補正モジュール
112 最適運転制御モジュール
113 第6のインタフェース
114 第3の記憶装置
115 第3のインタフェース
201,1401 バッチ式攪拌反応槽
202,204,206 配管
203 攪拌翼
205 反応槽のジャケット
207 蒸気・冷水ヘッダ
301,1501 生産計画
302,1502 生産開始時刻
303,1503 生産終了時刻
401 製造処方
501 区間1(0分〜10分)
502 区間2(10分〜20分)
503 区間3(20分〜70分)
504 区間4(70分〜80分)
505 区間5(80分〜生産終了)
506 製造処方条件から得られる用役需要パターン
601 用役需要パターン506に生産計画の時刻情報を加えた用役需要パターン
701 用役需要パターン601を補正した用役需要パターン
801 ボイラA
802 ボイラB
803 ボイラC
804 冷凍機A
805 冷凍機B
806 冷凍機C
901 電気によるCO2排出量
902 燃料によるCO2排出量
1001 最適運転制御モジュールによって得られる時定数未考慮の運転計画
1101 ボイラ1の立上げ時間
1102 ボイラ2の立上げ時間
1103 ボイラ3の立上げ時間
1104 冷凍機1の立上げ時間
1105 冷凍機2の立上げ時間
1106 冷凍機3の立上げ時間
1107 最適運転制御モジュールによって得られる運転計画
1201 蒸気の供給熱量
1301 冷水の供給冷凍能力
1402,1403 弁
1504 生産量
1601 補正済み用役需要パターン
1701 全体の用役需要パターン
1801 発電機
1901 電力需要パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生産設備に必要な用役を供給する用役設備を制御するための指令値を作成するプラント運転監視制御システムにおいて、
前記生産設備で特定の被生産物を生産するにあたり、
時間経過に対して前記被生産物に与えられるべき物性値を定めた製造処方に関する製造処方データと、
前記生産設備で生成される前記被生産物の生産開始時刻、生産終了時刻および前記生産開始時刻および生産終了時刻からなる所定の時間内に生産される被生産物の生産量を定めた生産計画に関する生産計画データとを入力し、
前記入力した製造処方データと生産計画データとに基づいて、前記被生産物を生産するために必要十分な用役の需要量を時刻経過に対して示した用役需要パターンを生成し、
前記用役需要パターンを用いて前記指令値を算出し、
前記指令値に基づいて前記用役設備を制御することを特徴とするプラント運転監視制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載のプラント運転監視制御システムにおいて、
前記プラント運転監視制御システムは、
前記製造処方データを保持する第1の記憶装置から特定の被生産物の製造処方を取得する第1のインタフェースと、
前記生産計画データを保持する第2の記憶装置から特定の被生産物の製造処方を取得する第2のインタフェースと、
前記第1のインタフェースおよび前記第2のインタフェースとから取得された前記製造処方および前記生産計画に基づいて、前記用役需要パターンを生成する用役需要量演算モジュールと、
前記用役需要量演算モジュールから得られた前記用役需要パターンを、前記生産設備と、前記用役設備と、外気温などの環境条件の状態量の少なくとも一つ用いて補正する用役需要量補正モジュールと、
前記用役設備が必要とされる用役量を出力するまでにかかる起動時間をデータとして保持する第3の記憶装置からデータを取得する第3のインタフェースと、
前記用役需要量補正モジュールによって補正された用役需要パターンに基づいて、複数の用役設備に対して負荷を分散する最適計算を行い、前記最適計算から得られた最適運転計画および前記第3のインタフェースから取得した前記用役設備の起動時間に関するデータとに基づいて、用役設備に運転指令を行う運転計画を作成する最適運転制御モジュールと、
を有することを特徴とするプラント運転監視制御システム。
【請求項3】
請求項2に記載のプラント運転監視制御システムにおいて、
前記用役需要量演算モジュールは、前記生産設備で特定の被生産物を生産するにあたり、前記被生産物に関する前記製造処方データおよび前記被生産物に関する前記生産計画データが入力され、時間経過に対して前記生産設備において被生産物を生成するために必要十分な用役の需要量を示した用役需要パターンを算出することを特徴とするプラント運転監視制御システム。
【請求項4】
請求項1に記載のプラント運転監視制御システムにおいて、
前記プラント運転監視制御システムは、前記生産設備で特定の被生産物を生産するにあたり、
前記製造処方データおよび前記生産計画データとに基づいて前記用役需要パターンデータを生成し、前記生産設備、前記用役設備、および外気温などの環境条件の状態量の少なくとも1つを用いて前記用役需要パターンデータを補正し、補正された用役需要パターンデータに基づいて、複数の用役設備に対して負荷を分散する最適計算を行い、前記最適計算から得られた最適運転計画を用いて、各種用役設備が、必要とされる用役量を出力するまでにかかる時間だけ遅れて用役設備に運転指令を行う運転計画を作成することを特徴とするプラント運転監視制御システム。
【請求項5】
請求項2に記載のプラント運転監視制御システムにおいて、
前記第3の記憶装置は、前記用役設備が必要な用役量を出力するまでにかかる時間は予め記憶していることを特徴とするプラント運転監視制御システム。
【請求項6】
請求項1に記載のプラント運転監視制御システムにおいて、
前記生産設備が複数台ある場合、各生産設備に与えられている前記生産計画を用いて前記用役設備の時刻経過に対する用役需要パターンを生成し、前記用役需要パターンに基づいて前記用役設備に対する指令値を算出し、前記指令値に基づいて前記用役設備を制御することを特徴とするプラント運転監視制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−198169(P2011−198169A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65416(P2010−65416)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】