説明

産業廃棄物の溶融処理法

【課題】本発明は、反射炉型リサイクル炉において、重油バーナーによる燃焼を強化せずに、炉内に発生するベコをスラグ化するとともに有価金属をマットとして回収する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】産業廃棄物を反射炉型リサイクル炉の溶融部炉床に投入し、生成した溶融物を湯溜りに流出させてスラグ及びマットに分離する産業廃棄物の溶融処理法において、
銅製錬スラグと硫化鉄(Fe2S)の密封混合物を未溶融物(ベコと称す。)の溶剤として前記炉床に投入することを特徴とする産業廃棄物の溶融処理法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも金属鉄を含む焼却灰等、汚泥、鉱滓、プリント基板、パット屑、廃触媒、金属屑、廃ショット、研削屑、ダスト等の産業廃棄物を反射炉型リサイクル炉で溶融処理する方法に関するものである。
【0002】
近年、リサイクリングは一大産業となっている。その幾つかを挙げると、貴金属回収に特化した、硝酸溶解から始まる湿式プロセスや、鉄と銅を磁力選別分離する電子部品のリサイクルプロセスなどがある。また鉄スクラップは、古くから転炉などでリサイクルされているが、最近は鉄スクラップからの脱銅などの技術開発が行われている。
特許文献1:特開平10−17950号はアルミニウム系産業廃棄物の処理に関し、アルミニウムを溶解した際に発生するスラグ中に含有される金属アルミニウムを金属原料として回収し、またスラグをアルミナ原料としてリサイクルする場合は、スラグ中に含有される金属アルミニウムを酸化する処理が行われる。このリサイクル処理を行う反射炉又はロータリーキルンで発生するスラグはAl2O3含有量が非常に高い特長を有している。
これらのリサイクリングに対して本発明法は産業廃棄物を、低アルミナ・鉄含有スラグとして無害化し、また銅などの有価金属をマットとして回収する分野に属する。
【背景技術】
【0003】
非特許文献1:資源と素材、1997, Vol.113 No.12,リサイクリング大特集号、第1175頁に掲載されたリサイクル処理のフローを図1及び2として再掲する。図1はクリーンZ炉における処理フローを示し、また図2は反射炉型リサイクル炉における処理フローを示す。
【0004】
特許文献2:特開2003−181412号公報は、上記産業廃棄物をアスベストとともに反射炉型リサイクル炉でスラグ化し、溶融処理する方法に関するものである。
反射炉型リサイクル炉では、産業廃棄物を炉頂に設けられた数ヶ所の投入口から溶融部炉床に投入し、炉側壁に設けられたバーナーにより産業廃棄物を1300〜1400℃の温度で溶融する。産業廃棄物投入から溶融までの過程では、炉床では、産業廃棄物堆積物中の水分の蒸発と紙、木、プラスチックの燃焼などがほぼ同時に起こり、その後汚泥などが溶融する。
【0005】
溶融物は一旦溶融部炉床に溜り、ここで硫化物と酸化物が混合した状態で、下方に設けられた湯溜り部炉床に流れ落ち、スラグとマットに分離される。スラグとマットが十分に分離されたときにこれらを排出する。この過程で溶融がある程度進んだ時点で産業物廃棄物を追加投入し、以降この操作を繰り返す。即ち、装入物全体を溶け落ちさせ、全体をスラッグとマットに分離する回分操業ではなく、溶融をある程度進め、その状態で追加の原料投入を半連続操業にて行う。
【0006】
産業廃棄物に含まれる汚泥とは、脱水汚泥、めっき汚泥、研磨汚泥、下水汚泥などである。脱水汚泥はCa,Feを主成分とする。めっき汚泥はCu,Fe,S,Caを主成分とする。プリント基板はCuとプラスチックから構成される。鉱滓はAl2O3粉など、パットはブレーキパッド等である。廃ショットはショットブラスト用投射粒の廃材である。ダストは煤塵である。さらに、上記以外に、紙屑、木屑、建設廃材、金属屑などの各種廃棄物の処理が可能であり、貴金属系、アルミニウム系、鉄系などの独自のリサイクル処理が行われている以外の廃棄物を処理することができる。
【0007】
特許文献3:特開2001−201032号公報は反射炉型リサイクリング炉の操業例
として次のものが示されている。メッキスラッジ類−37.5 〜44.2% 中和汚泥20.0%、ダスト類−18.5〜25.1 %,焼却灰類―8.6%;スラグ温度:約1300℃〜1500℃弱。
【特許文献1】特開平10−17950号公報
【特許文献2】特開2003−181412号公報
【特許文献3】特開2001−201032具公報
【非特許文献1】資源と素材、1997, Vol.113 No.12,リサイクリング大特集号、第1175頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上説明したように、産業廃棄物を溶解炉で処理し、1300〜1400℃で溶融スラグを生成し、廃棄物を無害化することができる。特許文献3より最近の操業におけるスラグの組成例(質量%)を次表に示す。
廃自動車及び廃家電のリサイクルから発生するシュレッダーダストの焼却灰は金属鉄を10%程度含んでおり、この焼却灰は上記温度では未溶融物として残留するので、焼却灰は溶融処理が困難であった。特に、金属鉄は、ベコと称される未溶融物を発生すると、溶融物の流動を妨げるばかりでなく、炉床に焼付いて炉床を傷めることになる。表1には最近のスラグの分析結果を示す。この表に示すように最近のスラグのFeOは特許文献2よりも少なくなっている。また、表2にはベコの分析結果を示す。
【0009】
【表1】

【0010】
【表2】

【0011】
焼却灰のスラグ化が困難である理由は、次表に示すように、金属鉄含有率(質量%)が多く、かつAl2O3含有率が高いことに起因している。スラグ化されない未溶解物を分析した結果も次表に示す。
【0012】
【表3】

【0013】
反射炉型リサイクル炉での産業廃棄物の溶融処理においては、ベコが発生しないように、焼却灰の処理量を抑えているが、一旦ベコが発生した際は、重油バーナの燃焼量を増し、1500℃以上の高温に加熱し、ベコを溶解していたが、炉内を高温にすると、反射炉の天井、側壁の耐火物が損傷するという問題があった。
したがって、本発明は、反射炉型リサイクル炉において、重油バーナーによる燃焼を強化せずに、炉内に発生するベコをスラグ化するとともに有価金属をマットとして回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、産業廃棄物を反射炉型リサイクル炉の溶融部炉床に投入し、生成した溶融物を湯溜りに流出させてスラグ及びマットに分離する産業廃棄物の溶融処理法において、銅製錬スラグと硫化鉄(Fe2S)の密封混合物を、未溶融物の溶剤として前記炉床に投入することを特徴とする産業廃棄物の溶融処理法を提供する。
上述のように反射炉型リサイクル炉において1300〜1400℃の操業温度において発生する未溶融物(ベコと称す。)を溶剤により溶融することに本発明の特徴がある。
以下、本発明法を詳しく説明する。
【0015】
日本で産出する銅製錬スラグには自溶炉スラグ、転炉スラグなどがある。これらのうち自溶炉スラグはセメント原料、サンドブラスト、土地造成などに再利用されており、転炉スラグは選鉱して自溶炉に繰り返され、自溶炉に繰り返されない転炉スラグ、即ち鉄精鉱は自溶炉スラグなどと同様にリサイクルされる。しかしながら、上記用途における銅製錬スラグの需要は減っているために、リサイクルされずに貯蔵に回される割合が多くなっている。
銅自溶炉スラグ及び転炉スラグの代表的分析値を次に示す。
【0016】
【表4】

【0017】
銅転炉スラグとともに硫化鉄(FeS2)を均一に混合した混合物を袋詰め、缶詰、木箱詰めなどの適宜の密封物を未溶融物が存在している位置に投入することにより、未溶融物と接触させ、未溶融物を迅速に溶解する。溶剤を密封状態とすることにより、投入中に銅転炉スラグ及び硫化鉄を分散させずに、ベコに高濃度で接触させることができる。
溶剤中の銅製錬スラグは酸化鉄(Fe3+)含有率が高いために次の反応により金属鉄をスラグ化でき、またAl2O3含有率が低いために、スラグの温度を低く保つことができる。
Fe + Fe2O3 → 3FeO・・・・・・・・・・・・・(1)
2FeO + SiO2 → 2FeO・SiO2 ・・・・・・・・・・(2)
【0018】
反応式(1)においては、ベコ中の金属鉄を酸化第二鉄で酸化し、酸化第一鉄とする。この反応のためには、酸化第二鉄を多く含有する銅転炉スラグ(鉄精鉱)が有効である。次に、反応式(2)においては、高融点溶融物を低融点の銅製錬スラグに溶融し、低融点のスラグとする。この際、アルミナ含有率が高いと、スラグの融点が高くなるために、アルミナ含有率が低い自溶炉スラグなどの銅製錬スラグを使用する。
これら銅製錬スラグ中のSiO2, CaO,Al2O3自体は反射炉でスラグ中に移行する。
【0019】
また、硫化鉄(Fe2S)はベコ中の鉄(Fe)と次のように反応して、生成物をマット中に溶解させる。
Fe2S + Fe → 2FeS ・・・・・・・・・・・・・・ (3)
【0020】
本発明においては、溶剤中の銅製錬スラグと硫化鉄の質量比率は1:1〜0.5であることが好ましい。また、溶剤は未溶解物に対して0.1〜0.3倍添加することが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
続いて、本出願人のリサイクル炉1における処理例を説明する。
図3は、反射炉の概念的断面図を、図4は平面図を示す。図中、10は1300〜 1400℃の温度に保たれる溶融部、11は汚泥、焼却灰などの混合物の投入口、13はマット浴、14はスラグ浴、15はバーナータイル、16は燃焼炎、18は湯溜り部である。
産業廃棄物30は、天井部の両側に2列、合計4個投入口11より適宜投入され、重油等を燃料とするバーナーにより加熱、燃焼せしめられる。
図3においては、溶融がある程度進み、堆積物中で酸化物と硫化物が混合した溶融物42が生成している。同時に、次のような特長をもつ未溶融物43が生成している。未溶融物43の温度は溶融部10と同じ1300〜1400℃であるが、固体状態を保っている;産業廃棄物の原形は失っているが、流動していない;未溶融物は次第に成長して塊となる。この未溶融物43が存在する箇所に溶剤45を投入することにより、未溶融物43を溶融する。
さらに、図3,4において、20はアスベスト50の投入口、25はアスベストの投入用ホッパーである。バーナーの近傍に特許文献3で提案された酸素ランスを付設することができる。
【0022】
比較例
銅製錬スラグを添加しない従来の方法で産業廃棄物の処理を行った。原料の処理量は130〜140トン/日であり、このうち焼却灰の処理量は10 〜15トン/日である。重油の使用量は750〜 1000リットル/日であり、酸素の使用量は700〜 800Nm3/hである。
【0023】
実施例
原料の処理量は130〜145トン/日であり、このうち焼却灰の処理量は15 〜25トン/日である。銅転炉スラグと硫化鉄(Fe2S)の1:1混合物を袋詰めした溶剤を1回6kg,1日12回投入した。ベコが、溶解除去され、その分炉の容量が狭くならないため、処理量が十分大きくなった。
重油の使用量は750〜 900リットル/日であり、酸素の使用量は700〜 800Nm3./hである。この操業においては、比較例よりも、従来処理が困難であった焼却灰の処理量も多くなった。
【産業上の利用可能性】
【0024】
以上説明したように、本発明法によると、未溶融物(ベコ)を溶解することにより、操業を安定化させ、また焼却灰の処理量を増やすことができる。
また、銅製錬スラグをリサイクルする新たな方法が創出されたので、銅製錬スラグのリサイクル率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】産業廃棄物処理によりベコを処理するプロセスのフローチャートである。
【図2】炉内に発生するベコを処理してスラグ化するプロセスのフローチャートである。
【図3】炉内に発生するベコを溶融してスラグ化するリサイクル炉の断面図である。
【図4】図4のリサイクル炉の平面図である。
【符号の説明】
【0026】
10 溶融部
11 産業廃棄物の投入口
13 マット浴
14 スラグ浴
15 バーナータイル
16 燃焼炎
18 湯溜り部
30 産業廃棄物
40 堆積物
43 未溶融物
45 溶剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業廃棄物を反射炉型リサイクル炉の溶融部炉床に投入し、生成した溶融物を湯溜りに流出させてスラグ及びマットに分離する産業廃棄物の溶融処理法において、
銅製錬スラグと硫化鉄(Fe2S)の密封混合物を未溶融物(ベコと称す。)の溶剤として前記炉床に投入することを特徴とする産業廃棄物の溶融処理法。
【請求項2】
前記銅製錬スラグと硫化鉄の質量比率が1:0.5〜1.1である請求項1記載の産業廃棄物の溶融処理法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−204826(P2007−204826A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−27051(P2006−27051)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】