説明

田植機

【課題】単一の無段変速装置で植付作業機、及び植付作業機とは別の作業機の駆動を圃場のスリップ率の大小に対応して一様に補正することができ、また、植付変速装置の変速が植付作業機とは別の作業機の駆動速度に影響を与えない田植機を得る。
【解決手段】走行動力と作業動力の動力分岐部の下流で且つ植付変速装置の上流に無段変速装置を設け、無段変速装置の下流において、前記植付変速装置によって変速される前の動力を分岐して植付作業機とは別の作業機用の動力を取り出す動力取出し部を設ける。
単一の動力取出し軸からなる動力取出し部から複数の作業機への動力を取出す。
植付変速装置を構成する伝動軸の内最上流に位置する伝動軸を動力取出し軸とする。
無段変速装置をリングコーン変速機で構成し、無段変速装置の入力軸、出力軸、及び動力取出し軸を同軸心上に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場のスリップ率の大小に応じて作業機への動力の変速を行う田植機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圃場のスリップ率の大小に応じて植付速度を無段変速装置によって無段回に調節可能とした田植機は知られている。(特許文献1)。
また、田植機に植付作業機とは別の作業機を同時に搭載し、その別作業機の駆動速度を走行速度の増減に連動させて単位走行距離(単位面積)当たりの作業量を設定した田植機も知られている。(特許文献2、特許文献3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−224417号公報
【特許文献2】特許第3519980号公報
【特許文献3】特開2005−124442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1の田植機は、植付動力をベルト変速の無段変速装置を介して植付け装置に伝達することで、植付速度を圃場のスリップ率に応じて補正可能としているが、近年は、前記特許文献2に記載された、走行伝動軸から施肥作業機の動力を取り出す田植機のように、施肥作業機の駆動速度の増減を走行速度の増減に連動させることで圃場の単位面積当たりの施肥量を設定する技術や、特許文献3に記載された、整地ロータの回転数の増減を走行速度の増減に連動させることで、整地ロータの整地部材の軌跡を圃場に対して一定にすることで整地時の圃場面の硬度を良好に保つ田植機に代表されるように、植付作業機とは別の作業機の仕事量を単位面積、又は単位走行距離当たりの仕事量で設定する場合が多く、この種の別作業機においても植付作業機と同様に、その駆動速度を圃場のスリップ率の大小によって補正可能とすることが望まれる。
また、複数の作業機の駆動速度を補正するにあたって、各作業機に対応する補正機構を各別に設けるのでは機体の大型化を招くため、より小型の補正機構が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、原動機から主変速装置を介して伝達された動力を走行動力と作業機動力に分配する動力分岐部を有し、前記走行動力を走行変速装置を介して車輪に伝達し、前記植付動力を植付変速装置を介して植付作業機に伝達する田植機において、前記動力分岐部の下流で且つ植付変速装置の上流に無段変速装置を設け、該無段変速装置の下流において、前記植付変速装置によって変速される前の動力を分岐して前記植付作業機とは別の作業機用の動力を取り出す動力取出し部を設けたことを特徴とする。
【0006】
また、前記動力取出し部は単一の動力取出し軸からなり、該単一の動力取出し軸から複数の作業機への動力を取出すように構成したことを特徴する。
【0007】
さらに、前記植付変速装置を構成する伝動軸の内最上流に位置する伝動軸を前記動力取出し軸としたことを特徴とする。
【0008】
そして、前記無段変速装置をリングコーン変速機で構成し、該無段変速装置の入力軸、出力軸、及び前記動力取出し軸を同軸心上に設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、原動機から主変速装置を介して伝達された動力を走行動力と作業機動力に分配する動力分岐部を有し、前記走行動力を走行変速装置を介して車輪に伝達し、前記植付動力を植付変速装置を介して植付作業機に伝達する田植機において、前記動力分岐部の下流で且つ植付変速装置の上流に無段変速装置を設け、該無段変速装置の下流において、前記植付変速装置によって変速される前の動力を分岐して前記植付作業機とは別の作業機用の動力を取り出す動力取出し部を設けたので、単一の無段変速装置で植付作業機、及び植付作業機とは別の作業機の駆動を圃場のスリップ率の大小に対応して一様に補正することができ、また、植付変速装置の変速が植付作業機とは別の作業機の駆動速度に影響を与えることもない。
【0010】
また、前記動力取出し部は単一の動力取出し軸からなり、該単一の動力取出し軸から複数の作業機への動力を取出すように構成したので、動力取出し部を内装するケースを大型化することなく構成でき、機体のコンパクト化に寄与する。
【0011】
さらに、前記植付変速装置を構成する伝動軸の内最上流に位置する伝動軸を前記動力取出し軸としたので、動力取出し部を植付変速装置と同一ケースに内装し、植付変速装置を構成する軸と動力取出し軸を兼用化することで動力伝達機構、及びケースの更なるコンパクト化が可能となる。
【0012】
そして、前記無段変速装置をリングコーン変速機で構成し、該無段変速装置の入力軸、出力軸、及び前記動力取出し軸を同軸心上に設けたので前記植付変速装置及び動力取出し部を内装するケース内の伝動軸の並列数を減らすことができ、動力伝達機構及びケースの一層のコンパクト化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の田植機の全体側面図である。
【図2】同上全体平面図である。
【図3】同上伝動図である。
【図4】同上要部拡大伝動図である。
【図5】整地ロータを示す(a)側面図、(b)正面図である。
【図6】整地ロータの整地部材の軌跡を示す側面図である。
【図7】施肥作業機を示す側面図である。
【図8】施肥変速装置の伝動図である。
【図9】施肥変速装置及び施肥ポンプユニットを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1、図2は本発明の乗用型田植機を示す全体側面図、及び全体平面図であって、この乗用型田植機1は、左右一対の前輪2,2及び後輪3,3に支持された走行機体4を有し、走行機体4の後方に、昇降リンク機構5を介して植付作業機6が連結された構造となっている。
【0015】
走行機体4の中央部には、座席7を備えており、該座席7の前方にはフロント操作パネル8が設けられている。該フロント操作パネル8にはステアリングハンドル9が突設されている。
【0016】
また、フロント操作パネル8の一側には、主変速レバー10が左右及び前後揺動自在に設けられており、該主変速レバー10を揺動操作することにより、主変速装置としての油圧式無段変速装置11(図3)を操作して走行速度の設定及び前後進の切り替えを行うことができる。
【0017】
一方、フロント操作パネル8の他側には、副変速レバー12が前後揺動自在に設けられており、後述のギヤ式の走行変速装置13を操作して路上速、作業速の切り替えを行うことができる。
【0018】
走行機体4のフロアからは、クラッチブレーキペダル14が踏み込み操作自在に突出し、また、第1株間設定レバー15a、及び第2株間設定レバー15bが揺動操作自在に突出しており、クラッチブレーキペダル14の操作によって、走行機体4の走行開始、及び走行停止を操作し、2本の株間設定レバー15a,15bの操作で後述する植付変速装置16を操作して植付株間の設定を行う。
【0019】
前記フロント操作パネル8の前方には原動機であるエンジン17を内装するボンネット18が設けられており、図3に示すように、エンジン17から取り出された動力は、油圧式無段変速装置11を介してトランスミッションケース19内の動力伝達機構に入力される。
【0020】
トランスミッションケース19内の動力伝達機構に入力された動力は動力分岐部37によって植付動力と走行動力に分配され、走行動力は前輪2,2、及び後輪3,3を駆動し、植付動力は植付作業機6の植付装置21を駆動する。
【0021】
前記植付作業機6について詳述すると、昇降リンク機構5の後端部には作業機フレーム22が横設されており、該作業機フレーム22から上方に苗載せ台支持フレーム23を延設し、苗載せ台24の上部を左右摺動自在に支持している。
【0022】
また、作業機フレーム22の後下部には植付伝動ケース25が後方へ向けて複数取り付けられており、該植付伝動ケース25の後側には植付装置21が設けられている。
【0023】
また、植付伝動ケース25の上面にはエプロン26を介して苗載せ台24の下端部が左右摺動自在に支持されており、下面には複数のフロート27が左右方向に並設されている。
【0024】
以上の構成により、乗用型田植機1は、フロート27が圃場面を滑走するよう植付作業機6を走行機体4に対して油圧昇降制御した状態で、走行機体4を走行させながら植付装置21を駆動させ苗載せ台24上の苗を掻き取って圃場に植付ける。
【0025】
図3、及び図4に基いて本実施形態の乗用型田植機1の伝動構成について説明すると、エンジン17の出力軸28には第1プーリ29と第2プーリ30が設けられており、第1出力プーリ29から取出された動力は第1従動プーリ31を介して油圧式無段変速装置11に入力され、第2プーリ30から取出された動力は第2従動プーリ32を介して植付作業機6の油圧昇降や、パワーステアリング等の油圧機器作動用の圧油を発生させる油圧ポンプ33を駆動する。
【0026】
前記無段変速装置11に入力された動力はトランスミッションケース19の入力軸34から主クラッチ35を介して前記入力軸34に対して回動自在に被嵌した筒軸36に伝達される。該筒軸36には走行動力分岐ギヤ37aと作業動力分岐ギヤ37bが設けられており、走行動力と作業動力の動力分岐部37を構成している。
【0027】
走行動力は、減速ギヤ38を介して走行第1軸39に伝達され、該走行第1軸39と隣接する走行第2軸40との間に設けた2対のギヤ対からなる走行変速装置13によって路上速と作業速の高低2段に変速され、走行第2軸40に設けたギヤ41を介して前輪動力としてディファレンシャル42に伝達される動力と、ベベルギヤ対43、及び伝動軸44を介して後輪動力としてリヤアクスルケース45に入力される動力に分配され、前輪動力はフロントアクスルケース46,46内の伝動機構を介して前輪2,2を駆動し、後輪動力はリヤアクスルケース45内に設けた左右のサイドクラッチ47,47、及びサイドブレーキ48,48を介して後輪3,3を駆動する。
【0028】
図4に基いて前記走行変速装置13について詳述すると、前記走行第1軸39には小径ギヤ13aと大径ギヤ13bが固定されている。また、前記走行第2軸40には前記走行第1軸のギヤ13a,13bと選択的に噛合う大径ギヤ131及び小径ギヤ132を有するスライドギヤ13cが軸方向に摺動可能に取り付けられている。そして、前記操作パネル8に設けた副変速レバー12によってスライドギヤ13cを摺動操作して前記走行第1軸39の小径ギヤ13aと走行第2軸40の大径ギヤ131との噛合いを選択することで低速の作業速に変速し、前記走行第1軸39の大径ギヤ13bと走行第2軸40の小径ギヤ132との噛合いを選択することで高速の路上速に変速可能としている。尚、何れのギヤも噛合わないニュートラルの状態では以後の伝動機構への動力は伝達されず、前輪2,2、及び後輪3,3は駆動しない。
【0029】
一方、前記作業機動力分岐ギヤ37bによって分配された作業機動力は、減速軸49に設けた減速ギヤ49aを介して後述する作業機用無段変速装置50の入力軸50aに伝達され、該作業機用無段変速装置50を経た動力は、植付変速装置16により複数段に変速され、トルクリミッタ51及び植付クラッチ52を介して植付PTO軸53より植付作業機6へ出力される。
【0030】
前記作業機用無段変速装置50はリングコーン式の無段変速機であり、その入力軸50aと出力軸50bとが同軸心上に配置され、ダイヤル式の変速操作具50c(図1、図2)で変速操作される。また出力軸50bには植付変速装置の小径ギヤ16aと大径ギヤ16bが固定された植付第1軸54を同軸心上に接続しており、該植付第1軸54を動力取出し軸として植付作業機6とは別の作業機への動力取出しを可能としている。
【0031】
前記植付変速装置16について詳述すると、前記植付第1軸54と隣接する植付第2軸55には、前記植付第1軸のギヤ16a,16bと選択的に噛合う大径ギヤ161、及び小径ギヤ162を有するスライドギヤ16cが軸方向に摺動可能に取り付けられており、前記第1株間設定レバー15aによってスライドギヤ16cを摺動操作して、前記植付第1軸54の大径ギヤ16bと植付第2軸55の小径ギヤ162との噛合いと、前記植付第1軸54の小径ギヤと植付第2軸55の大径ギヤ161との噛合いとを選択することで大小2段の変速を可能した第1植付変速機構16Aを構成している。
【0032】
また、前記植付第2軸55には、前記スライドギヤ16cとは別に大径ギヤ16d、及び小径ギヤ16eが固定されており、該植付第2軸55と隣接する植付第3軸56に摺動可能に設けた大中小三つのギヤ163,164,165を有するスライドギヤ16fとの噛合いを前記第2株間設定レバー15bで選択することにより3段の変速を可能とした第2植付変速機構16Bを構成している。
【0033】
詳述するとスライドギヤ16fの三つのギヤ163,164,165の内、第4図の図中左のギヤ163を転位ギヤで構成し、植付第2軸55のギヤ16dをスライドギヤ16fのギヤ164及び当該転位ギヤ163と噛合することを可能して、前記植付第2軸55の大径ギヤ16dに対する植付第3軸56の中央ギヤ164と転移ギヤ163の噛合いを選択することで中速・高速の選択ができ、植付第2軸の小径ギヤ16eと植付第3軸56の大径ギヤ165の噛合いを選択することで低速の選択が可能になる。
【0034】
上記のように本実施形態の植付変速装置16は転位ギヤを用いることでギヤ数を減らし変速装置自体のコンパクト化を図りながら、前記第1植付変速機構16Aによる2段の変速と、第2植付変速機構6Bによる3段の変速とで計6段階の株間設定を可能としている。
【0035】
前記植付PTO軸53から取出された動力は、植付伝動軸57を介して植付作業機6へ入力され、植付分配軸58によって各条の植付装置21に伝達され、乗用型田植機1の走行に伴い、前記植付変速装置16で設定した株間で圃場に苗を植え付けることができる。
【0036】
また、本実施形態の乗用型田植機1は、植付作業機6とは別の作業機として整地作業機59、及び施肥作業機60を搭載している。
【0037】
前記整地作業機59は、代掻き後の圃場において田植機で植付作業を行う際に、荒れた圃場面を整地しながら植付けるためのものであり、植付作業機6の前部に高さ調節可能に横設したロータ駆動軸61を設け、図5に示す様に、ロータ駆動軸61の回転に伴って圃場面を押さえつけるように作用する整地部材63を所定の等間隔で配置した整地ロータ62を有している。
【0038】
そして、本実施形態の整地作業機59は、既に代掻きを行って表層を泥土化した後の圃場を整地するものであるから、泥土の掻き過ぎを防止ながら適正な整地効果を得るために、図6に示すように、所定の整地部材63aのランニング軌跡αと隣接する整地部材63bのランニング軌跡βとが側面視で圃場の表層Yで交差するように、ロータ径、整地部材63の配置間隔、及び整地ロータ62と車輪2,2,3,3との伝動比率の関係を設定している。
【0039】
当該整地作業機59の動力取出し構造について説明すると、図3、及び図4の符号64は整地動力分岐ケースであり、前記トランスミッションケース19に対して着脱可能に構成され、その入力軸65は前記植付第1軸54の軸端部にスプライン嵌合される。
【0040】
該入力軸65に固定したギヤ66と減速軸67に固定された減速ギヤ68が噛合しており、整地動力は前記減速ギヤ68によって減速され、べベル伝動機構69、及び整地クラッチ70を介して整地PTO軸71に伝達され、整地伝動軸72、及びベベル伝動機構73を介して前記ロータ駆動軸61に伝達される。
【0041】
尚、当該整地動力分岐ケース64をトランスミッションケース19に取り付けず、前記植付第1軸54をカバーで覆うことにより整地作業機を備えない田植機を構成することができ、田植機における整地作業機の装備の有無を容易に選択可能としている。
【0042】
また、図7〜図9に基いて前記施肥作業機60について説明すると、施肥作業機60は走行機体4の左右に設けた肥料タンク74,74(図1、図2)から施肥ポンプユニット75に供給されたペースト状の肥料を、植付条と同数設けたねじ式ポンプ75a,75a,・・・によって送り出し、各条の施肥管76を介して植付装置21,21,・・・に隣接して設けた各条の施肥ノズル77,77,・・・から植付苗の側方に施用するように構成されている。
【0043】
尚、図中78,78,・・・は各条毎に設けた施肥条止めレバーであり、レバー基部の管路切換えバルブ79,79,・・・を、施肥ノズル77,77,・・・への管路を開いて施肥を行う状態と、施肥ノズル77,77,・・・への管路を閉じて施肥ポンプユニット75に返送する管路を開いた状態とに切り替え可能に構成している。
【0044】
前記施肥ポンプユニット75の駆動力は前記整地作業機59の駆動力と同様、機体に施肥動力分岐ケース80を取り付けること、及び施肥動力分岐ケース80に設けた入力軸81を前記植付第1軸54に連繋させることによって取出される。
【0045】
詳述すると、図3、図4に示すように、前記施肥動力分岐ケース80は前記整地動力分岐ケース64に着脱可能に構成され、その入力軸81は、前記整地動力分岐ケース64の入力軸65の軸端部にスプライン嵌合され、前記植付第1軸54より取出された動力は整地動力分岐ケース64の入力軸65を介して、施肥動力分岐ケース80の入力軸81に入力される。
【0046】
該入力軸81に固定したギヤ82と減速軸83に固定された減速ギヤ84が噛合しており、施肥動力は前記減速ギヤ84によって減速され、べベル伝動機構85を介して施肥PTO軸86に伝達され、該施肥PTO軸86より取出された動力は伝動軸87を介して施肥変速ケース88内の変速装置88aに入力される。
【0047】
施肥変速ケース88内の変速装置88aは、図8に示すように、施肥クラッチ90を備えた入力軸89から施肥変速第1軸91に施肥動力を伝達し、該施肥変速第1軸91のスライドギヤ92に設けた3つのギヤと、隣接する施肥変速第2軸93に固定した3つのギヤ94a,94b,94cとの噛合いの選択で3段の副変速を行い、施肥変速第2軸93に設けた4つのギヤ95a,95b,95cと隣接する施肥変速第3軸96のスライドギヤ97に設けた2つのギヤ97a,97bとの噛合いの選択で4段の主変速を行い、計12段階の施肥量の設定を可能としている。
【0048】
尚、施肥変速第2軸93に設けたギヤの内、ギヤ95b,95cは転位ギヤで構成されており、スライドギヤ97に設けた単一のギヤと施肥変速第2軸の二つのギヤとの噛合いを可能としてスライドギヤ97のギヤ数を減らし、変速機構のコンパクト化を図っている。
【0049】
そして、前記施肥変速ケース88内の変速装置88aで変速された動力は、施肥変速ケース88の出力軸98から取出され、図9に示すチェーン伝動機構99を介して各条用のねじ式ポンプ75a,75a,・・・を駆動し、施肥作業機60は、乗用型田植機1の走行に伴い前記施肥変速ケース88内の変速装置88aで設定した圃場面積当たりの施肥量で施肥を行う。
【0050】
前記施肥クラッチ90は前記植付クラッチ52と連動しており、植付クラッチ52を入り操作して植付を開始すると自動的に施肥クラッチ90も入りとなり植付と同時施肥が行われる。尚、植付と同時に施肥を行わない場合は上記した施肥変速装置88aの副変速機構をニュートラルにすることで施肥作業機60の駆動を停止することができる。
【0051】
以上のように構成した乗用型田植機1は、その走行変速装置13を作業速に設定し、各作業機装置6,59,60のクラッチ53,70,90を入りにした状態で前記主変速レバー10で油圧式無段変速装置11を操作して所望の走行速度で乗用型田植機1を走行させると、各変速装置16,88a等で予め設定した走行速度に対する速度比で各作業機6,59,60を駆動させるので、油圧式無段変速装置11による走行速度の増減に関わらず各作業機6,59,60の圃場に対する作業量を一定にした状態で駆動させることができる。
【0052】
そして、圃場のスリップ率が著しく大きくなると車輪2,2,3,3の回転、及び各作業機6,59,60の駆動速度に比較して実際の走行距離が短くなり、植付作業機6においては実際に植付けられる株間は前記植付変速装置16の設定よりも短くなり、施肥作業機60においては単位面積当たりの施肥量が設定よりも多くなり、整地作業機59においては圃場面を必要以上に掻き均すため圃場面が軟弱に成り過ぎる傾向となるが、本発明は、植付作業機6とは別の各作業機59,60への動力は、作業機用無段変速装置50の下流において、植付変速装置16で変速される前の動力から分岐されるので、前記ダイヤル式の変速操作具50cで作業機用無段変速装置50を操作して植付第1軸54を増速させると、単一の無段変速装置50で植付作業機6、及び植付作業機6とは別の作業機59,60の駆動を同時且つ一様に増速することができ、植付株間に合わせて作業機用無段変速装置50を操作すると自動的に施肥装置60の単位面積当たりの施肥量や、整地作業機59の整地部材63のランニング軌跡等、他の作業機の圃場に対する仕事量が植付株間に合わせて補正される。尚、スリップ率が小さい場合には各作業機6,59,60の圃場に対する仕事量は設定値よりも小さくなるがこの場合は作業機用無段変速装置50を減速操作することで補正される。
【0053】
また、単一の植付第1軸54から施肥作業機60、及び整地作業機59等の複数の作業機への動力を取り出すように構成したので、動力取出し部を内装するケース(トランスミッションケース19)を大型化することなく構成でき、機体のコンパクト化に寄与する。
【0054】
尚、本実施形態の乗用型田植機1では施肥作業機60、及び整地作業機59へ動力を取り出すにあたり、トランスミッションケース19に整地動力分配ケース64を取り付け、さらに整地動力分岐ケース64に施肥動力分岐ケース80を取り付けて、前記植付第1軸54と各分配ケース64,80の入力軸65,81とを直列的に接続しているが、整地動力分配ケース64と施肥動力分配ケース80の配列は逆になっても良い。
【0055】
植付第1軸54から取出した動力を、如何に複数の作業機に分配するかについては上記の実施形態に限るものではないが、上記のように構成すると、一の作業機の分岐ケースの外方に他の作業機の分岐ケースを取り付け、伝動機構を接続するだけで複数の別作業機を容易に選択追加することが可能となる。
【0056】
さらに、植付第1軸54はギヤ式の植付変速装置16の最上流側(入力側)の変速ギヤ16a,16bを設けた伝動軸であるから、動力取出し軸を設けるにあたり、植付変速装置を構成する軸と動力取出し軸を兼用化することでして専用の軸を設けることなく植付変速が行われる前の動力を分岐することができるので動力伝達機構、及びケースの更なるコンパクト化が可能となる。
【0057】
そして、前記作業機用無段変速装置50をリングコーン変速機で構成し、作業機用無段変速装置50の入力軸50a、出力軸50b、及び前記動力取出し軸(植付第1軸54)とが同軸心上に位置するので、トランスミッションケース19内の伝動軸の並列数を極力減らしながら作業機用無段変速装置50、及び動力取出し軸を設けることができ、動力伝達機構及びケースの一層のコンパクト化が可能となる。
【0058】
尚、本実施形態では圃場のスリップ率の大小を、実際に植付られた苗の間隔や操縦時の感覚等から作業者が判断して、操作具50cの操作で作業機用無段変速装置50を操作するように構成したが、斯かる形態に限ることなく、別途、画像情報、GPSによる位置検出、接地センサ等によって田植機の実際の移動速度、又は移動距離を検出する検出手段、及び、設定走行速度、又は車輪の伝動機構中の回転数を検出する検出手段を設け、両検出手段の検出値を比較することでスリップ率を算出し、当該算出されたスリップ率に基いて前記作業機用無段変速装置をアクチュエータで作動させる制御手段を設けて作業機の駆動速度を補正するものであっても良い。
【符号の説明】
【0059】
1 乗用型田植機
2,2 前輪
3,3 後輪
6 植付作業機
13 走行変速装置
16 植付変速装置
37 動力分岐部
50 無段変速装置
50a 入力軸
50b 出力軸
54 植付第1軸(動力取出し部)
59 整地作業機
60 施肥作業機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機(17)から主変速装置(11)を介して伝達された動力を走行動力と作業機動力に分配する動力分岐部(37)を有し、前記走行動力を走行変速装置(13)を介して車輪(2,2,3,3)に伝達し、前記植付動力を植付変速装置(16)を介して植付作業機(6)に伝達する田植機において、前記動力分岐部(37)の下流で且つ植付変速装置(16)の上流に無段変速装置(50)を設け、該無段変速装置(50)の下流において、前記植付変速装置(16)によって変速される前の動力を分岐して前記植付作業機(6)とは別の作業機用の動力を取り出す動力取出し部(54)を設けたことを特徴とする田植機。
【請求項2】
前記動力取出し部(54)は単一の動力取出し軸からなり、該単一の動力取出し軸(54)から複数の作業機への動力を取出すように構成したことを特徴とする請求項1に記載の田植機。
【請求項3】
前記植付変速装置(16)構成する伝動軸の内最上流に位置する伝動軸を前記動力取出し軸(54)としたことを特徴とする請求項2に記載の田植機。
【請求項4】
前記無段変速装置(50)をリングコーン変速機で構成し、該無段変速装置(50)の入力軸(50a)、出力軸(50b)、及び前記動力取出し軸(54)を同軸心上に設けたことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の田植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−206032(P2011−206032A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79960(P2010−79960)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】