説明

画像処理装置、画像処理方法およびプログラム

【課題】 画像データを生成する際に用いた光学部材の駆動状態や画像データの像高に応じて、色滲みの生じやすさには差異がある。色滲み領域であると判定するための基準を厳しく設定すると、色滲み領域の残存が増加し、基準を緩く設定すると、誤補正による色抜けの原因となり、特に色滲みが生じやすい領域で目立ってしまう。
【解決手段】 画像データから求めた勾配値に基づいて抑圧係数を算出し、この抑圧係数に基づいて対象となる領域の色滲みを抑圧する画像処理を行う画像処理装置であって、勾配値が閾値を超えた場合に色滲みが抑圧されるように抑圧係数を算出する構成とし、この画像データを生成する際に用いた光学部材の光学情報から色滲み量の推定値を求め、この推定値が大きいほど、上記の閾値を小さな値に設定するものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像処理装置および画像処理方法に関し、特に色滲みを抑圧するための画像処理装置、画像処理方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のデジタルビデオカメラ、デジタルカメラは、高画素数のイメージセンサを採用することにより、高画質な映像を得られるようになってきている。
【0003】
反面、画素の微細化や小型レンズなどの要因により、光の波長毎に結像位置が異なることに起因する色収差の影響である色滲みが画像に現れやすくなっている。また、固体撮像素子の各画素に対応して設けられた複数色の色フィルタがモザイク状に配置されているために、補間時に偽の色信号を生成してしまうことで、色滲みが現れてしまっていた。
【0004】
従来、撮像された画像における色滲みを抑圧する技術として、様々な方法が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、画像を撮影するときに用いたレンズを識別し、収差情報を読み出して補正パラメータを生成し、この補正パラメータに従って補正対象となる色信号の座標を移動させる技術が提案されている。
【0006】
だが、色滲み特性は、光軸中心から着目画素までの像高位置、ズームレンズ位置、フォーカスレンズ位置、アイリスの開口径により複雑に変動する。そのため、特許文献1に記載されるようなレンズの収差情報を読み出す構成では、像高位置、ズームレンズ位置、アイリスの開口径、フォーカスレンズ位置、および、レンズの種類別に収差情報を記憶しておく必要がある。したがって、これらの収差情報を記憶しておくために必要なメモリの容量が大きくなってしまう。
【0007】
そこで、予め記憶されたレンズの収差情報を読み出すのではなく、画像から色滲みが生じていると思われる領域を抽出し、その領域に対して色滲みを抑圧する技術が提案されている。例えば、特許文献2には、画像から2つの色成分の変化度の差分を検出し、この差分が大きな領域を色滲みが生じている領域と判別し、色滲みを抑圧する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−076428号公報
【特許文献2】特開2003−102027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、予め記憶されたレンズの収差情報を読み出すのではなく、画像から色滲みが生じている領域を判別しようとすると、誤判定を完全になくすことは難しい。例えば、特許文献2に記載されるような2つの色成分の変化度の差分を検出する構成では、被写体そのものがそのような条件を満たす模様を有するものであると、色滲みが生じてなくとも、色滲み領域であると判別されてしまうことがある。そのため、色滲みが生じていない領域であるにも関わらず、その領域の色の濃度が低下させられたり、周辺の画素で置き換えられたりすることになる。
【0010】
これは、特許文献2に記載されるような構成に限らず、画像の輝度成分や色成分から色滲みの生じている領域やその程度を判別しようとする構成であれば、被写体によってその判別結果に影響が生じてしまうという課題は生じてしまう。
【0011】
このような事態を回避するために、色滲み領域であると判別するための条件を厳しく設定することが考えられる。ところが、単純に色滲み領域であると判別するための条件を厳しく設定するだけでは、色滲みが生じている領域であるにも関わらず、そうとは判別されない領域が増えてしまい、画質の向上に十分には寄与しないことになってしまう。特に、色滲みが生じやすい像高の高い領域では、色滲みが生じにくい像高の低い領域に比較して、色滲み領域の残存が増えてしまう。あるいは、色滲みが生じやすい光学条件下で得た画像データでは、色滲みが生じにくい光学条件下で得た画像データに比較して、色滲み領域の残存が増えてしまう。
【0012】
また、上述したように、色滲み特性は、光軸中心から着目画素までの像高位置、ズームレンズ位置、アイリスの開口径、フォーカスレンズ位置などにより複雑に変動する。そのため、色滲みが生じている領域の幅も、これらの要因によって変化する。
【0013】
色滲み領域でないにも関わらず色の濃度が抑圧されてしまった領域は、色滲みが残存してしまった領域よりも、その不自然さにより目立ってしまうことが多い。特に、色滲み領域でないにも関わらず色の濃度が抑圧されてしまった領域は、色滲みと判定された領域の幅が広いほど、その不自然な領域が明瞭な状態で残り、目立ってしまうことが多い。
【0014】
本発明はこのような従来技術の課題に鑑みなされたものであり、着目した領域における色滲みの生じやすさを考慮することで、好適な色滲み抑圧処理を可能とする画像処理装置および画像処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的は、画像データから勾配値を求める勾配検出手段と、前記画像データを生成する際に用いた光学部材の光学情報から、色滲み量の推定値を求める推定手段と、前記勾配値および前記推定値に基づいて抑圧係数を算出する抑圧係数算出手段と、前記抑圧係数に基づいて、前記画像のうち対象となる領域の色滲みを抑圧するよう画像処理を行う抑圧手段を有し、前記抑圧係数算出手段は、前記勾配値が閾値を超えた場合に、前記対象となる領域の色滲みが抑圧されるように前記抑圧係数を算出するものであって、前記推定値が第1の値である場合の前記閾値よりも、前記推定値が前記第1の値よりも大きな第2の値である場合の前記閾値を小さな値に設定することを特徴とする画像処理装置によって達成される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、着目した領域における色滲みの生じやすさを考慮することで、好適な色滲み抑圧処理を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る画像処理装置の一例としての撮像装置のブロック図である。
【図2】勾配値と抑圧係数の関係を表す色滲み抑圧関数を示す図である。
【図3】抑圧処理回路の内部構成を示す図である。
【図4】色滲み量推定回路から受け取った色滲み量の推定値に応じて、閾値Th1および閾値Th2を変更する一例を説明するための、勾配値Sに対する抑圧係数Kの特性を示す図である。
【図5】色滲み量推定回路から受け取った色滲み量の推定値に応じて、閾値Th1、閾値Th2、および、抑圧係数Kの上限であるαを変更する一例を説明するための、勾配値Sに対する抑圧係数Kの特性を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る画像処理装置の一例としての撮像装置のブロック図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。
【0019】
(第1の実施形態)
図1に本発明の第1の実施形態に係る画像処理装置の一例としての撮像装置のブロック図を示す。この撮像装置の例としては、デジタルカメラやデジタルビデオカメラがあげられる。
【0020】
図1において、光学部材10はズームレンズやフォーカスレンズからなるレンズユニット、絞り機構、これらの駆動部材、および、各レンズの駆動位置や絞りの開口径をそれぞれ検出するセンサーを備えている。撮像素子11はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサやCCD(Charge Coupled Device)などの光電変換素子である。撮像素子11は光学部材10のレンズを透過して入射した被写体像を電気信換する。本実施形態では、撮像素子11は、R(赤)、G(緑)、B(青)のそれぞれの色に対応した信号に変号を出力する3板のベイヤー配列のCMOSセンサで構成されている。
【0021】
AFE12はアナログフロントエンド回路であり、撮像素子11から出力されたRGBのアナログ信号を、RGBのデジタル信号へと変換する。さらに、R、G、Bの各色ごとのデジタル信号へ分離し、全ての画素が各色の信号を有するよう同時化処理を行う。以後、このAFE12にて出力されたデジタル信号を画像データという。
【0022】
勾配検出回路131は、色滲み抑圧処理の対象とする着目画素ごとに、AFE12から出力されたRのデジタル信号の出力値の傾斜を示す勾配値Srを求める。勾配検出回路132は、着目画素ごとに、AFE12から出力されたGのデジタル信号の出力値の傾斜を示す勾配値Sgを求める。勾配検出回路133は、着目画素ごとに、AFE12から出力されたBのデジタル信号の出力値の傾斜を示す勾配値Sbを求める。
【0023】
抑圧係数算出回路14は、勾配検出回路131〜133から出力される各色の勾配値(Sr、Sg、Sb)と、色滲み量推定回路23から出力される色滲み量の推定値から、着目画素ごとに、画像データのRGBの各色の抑圧係数(Kr、Kg、Kb)を求める。そして、この抑圧係数(Kr、Kg、Kb)を抑圧処理回路15に出力する。
【0024】
抑圧処理回路15は、AFE12から出力された画像データより、輝度信号Yと色差信号Cr、Cbを算出する。そして、抑圧係数算出回路14から出力されるRGBの抑圧係数(Kr、Kg、Kb)から、着目画素ごとに、色差信号Cr、Cbのそれぞれに対する抑圧係数を算出し、色差信号Cr、Cbに対して色滲み抑圧処理を実施する。そして、色滲み抑圧処理が施された色差信号Cr’、Cb’と輝度信号Yを色滲み抑圧後の画像データとして出力する。
【0025】
制御回路16は撮像装置全体の動作を制御するためのマイコンである。この制御回路16は、光学部材10より各レンズの駆動位置や絞りの開口径の検出結果を受け取り、色滲み量推定回路23に送信する。
【0026】
メモリ17は抑圧処理回路15から出力されたY、Cr’、Cb’で構成された画像データを一時的に記憶したり、記憶媒体21から読み出されて符号化/復号化回路20にて復号化された画像データを一時的に記憶するための一時メモリである。
【0027】
画像変換回路18はメモリ17に記憶された画像データを読み出して、表示装置19に適合した形態となるように画像データを変換する。表示装置は例えば液晶ディスプレイで構成され、画像変換回路18で変換された画像データを用いて、画像を表示する。
【0028】
符号化/復号化回路20は、メモリ17に記憶された画像データを符号化して記憶媒体21に書き込んだり、記憶媒体21に読み出した画像データを復号化してメモリ17に書き込んだりする。記憶媒体21はこの撮像装置で生成された画像データを記憶するだけでなく、外部装置にて書き込まれた画像データや、その画像データが撮影されたときの撮像素子の駆動情報を符号化された状態で記憶することができる。
【0029】
像高算出回路22は、AFE12から出力された画像データの各画素における像高を算出する。
【0030】
色滲み量推定回路23は、像高算出回路22で算出された像高、および、制御回路16から通知される各レンズの位置や絞りの開口径の光学情報をもとに、色滲み量の推定値をデータベース24から読み出す。
【0031】
データベース24は、光学部材10に含まれる各レンズの駆動位置や絞りの開口径などの光学情報、および、画像の像高に応じたおおよその色滲み量を離散的に保持している。
【0032】
次に、本実施形態の撮像装置における色滲み抑圧処理の中身について説明する。
【0033】
AFE12で同時化処理されたR、G、Bの各色の同時化処理された画像データは、勾配検出回路131〜133に入力される。この勾配検出回路131〜133では、画像データの勾配値を算出するため、画像データの一次微分値を算出する。本実施形態においては、ソーベル(Sobel)フィルタを用いることで画像データの画素間の変化を算出し、着目画素における信号レベルの勾配値を求める。
【0034】
抑圧係数算出回路14は、勾配検出回路131〜133で算出されたRの勾配値Sr、Gの勾配値Sg、および、Bの勾配値Sbから、着目画素における各色の抑圧係数を決定する。図2は、勾配値と抑圧係数の関係を表す色滲み抑圧関数を示す図である。この図2に示すように、抑圧係数は0.0〜α(α≦1.0)の間で多段階に設定されており、抑圧係数が0.0であれば色滲みの抑圧処理が行われず、抑圧係数が増加するほど色滲みの抑圧の程度が大きくなる。勾配値には第1の閾値Th1が設定されており、勾配値がこの閾値Th1以下であれば、抑圧係数として0.0が設定される。勾配値が閾値Th1を超えると、勾配値の増加に比例して抑圧係数が増加し、勾配値が第2の閾値Th2に到達すると、それ以上勾配値が増加しても抑圧係数はαに維持される。この抑圧係数は、着目画素ごとにRGB別に求められ、勾配値Srから求めた抑圧係数がKr、勾配値Sgから求めた抑圧係数がKg、勾配値Sbから求めた抑圧係数がKbとして、抑圧処理回路15に出力される。
【0035】
この、抑圧係数Kは下記の式(1)〜(3)によって求めることができる。ただし、勾配値Sr、Sg、SbをS、抑圧係数Kr、Kg、KbをKとする。
S<Th1の場合 K=0 ・・・(1)
【数1】

【0036】
Th2≦Sの場合 K=α ・・・(3)
詳細は後述するが、抑圧係数算出回路14は、色滲み量推定回路23の出力に応じて閾値Th1、Th2を変化させることで、色滲み抑圧の対象とする勾配値の範囲や、勾配値の変化に対する抑圧係数の変化の比率を変えることが可能である。また、抑圧係数αを変化させることで、色滲み抑圧の程度の上限を変化させることも可能である。
【0037】
図3は、抑圧処理回路15の内部構成を示す図である。
【0038】
輝度変換部41はAFE12から出力されたRGBのデジタル信号から輝度信号Yを生成する。Cr変換部42、Cb変換部43は、それぞれRGBのデジタル信号から色差信号Cr、Cbを生成する。RGBのデジタル信号から輝度信号Yおよび色差信号Cr、Cbを生成する方法は周知の技術であるため、詳細な説明は省略する。
【0039】
Cr変換部42は抑圧係数算出回路14にて求められた抑圧係数KrおよびKgから、下記の式(4)によって色差信号Crに対する抑圧係数Kcrを求める。
Kcr=1−(0.8×Kr+0.2×Kg) ・・・(4)
Cr変換部42はこの抑圧係数Kcrを色差信号Crに乗して得られた値を、色滲み抑圧処理後の色差信号Cr’として出力する。Rのデジタル信号の勾配値SrとGのデジタル信号の勾配値Sgの値が十分に大きければ、図2に示す抑圧関数より、KrもKgも1.0の値となるため、Kcrが0となり、色差信号Cr’の値は0となる。
【0040】
反対に、勾配値Srと勾配値Sgの値がいずれも十分に小さければ、図2に示す抑圧関数より、KrもKgも0.0の値となるため、Kcrが1となり、色差信号Cr’として色差信号Crの値がそのまま出力される。また、勾配値Srが小さい場合には、勾配値Sgの値に関わらず、色滲みが生じている可能性が低いため、Kcrが比較的1に近い値となり、色差信号Crの信号の値があまり低減されずに色差信号Cr’として出力される。このように、領域の勾配値によって、その領域が色滲みの抑圧対象となるか否かが判断されるだけでなく、色滲み抑圧処理の程度も判断される。
【0041】
同様に、Cb変換部43は抑圧係数算出回路14にて求められた抑圧係数KbおよびKgから、下記の式(5)によって色差信号Cbに対する抑圧係数Kcbを求める。
Kcb=1−(0.8×Kb+0.2×Kg) ・・・(5)
Cb変換部43はこの抑圧係数Kcbを色差信号Cbに乗して得られた値を、色滲み抑圧処理後の色差信号Cb’として出力する。
【0042】
ここで、本実施形態の撮像装置の特徴である、図2の閾値Th1、Th2や、抑圧係数の上限値αの値を設定する構成について以下に説明する。像高算出回路22は勾配検出回路131〜133と並列で動作するものであり、色滲み抑圧処理の対象画素の像高hgtを下記の式(6)によって算出する。
【数2】

【0043】
ここで、xaは着目画素の水平方向の座標、yaは着目画素の垂直方向の座標、Hcは光学部材10の光軸の画像上での水平方向の座標、および、Vcは光学部材10の光軸の画像上での垂直方向の座標を示す。
【0044】
像高算出回路22は、算出した着目画素の像高hgtを色滲み量推定回路23に出力する。また、制御回路16がこの画像を生成したときの光学部材10の各レンズの駆動位置、および、絞りの開口径を示す光学情報を色滲み量推定回路23に出力する。
【0045】
色滲み量推定回路23は、データベース24から、入力された像高hgtおよび光学情報に対応する色滲み量の推定値を、R、G、Bの色別に読み出して、抑圧係数算出回路14へ出力する。データベース24には、離散的な像高hgtおよび光学情報に応じた色滲み量の推定値として、予め実験により求めた値が格納されている。この色滲み量の推定値は、着目画素において、広い幅の色滲みが生じやすいのか、狭い幅の色滲みが生じやすいのかが判別できれば良いため、大まかな情報でよく、その情報の量も大幅に間引くことが可能である。そのため、特許文献1のように、データベースに記憶させた光学特性の補正情報をそのまま用いて色滲みを補正するような構成に比較して、データベース24に記憶させる情報の量を大幅に低減させることができる。
【0046】
抑圧係数算出回路14は、色滲み量推定回路23から受け取った色滲み量の推定値に応じて、図2における閾値Th1、閾値Th2、および、抑圧係数Kの上限であるαの少なくともいずれかの値を変更する。図4は、色滲み量推定回路23から受け取った色滲み量の推定値に応じて、閾値Th1および閾値Th2を変更する一例を説明するための、勾配値Sに対する抑圧係数Kの特性を示す図である。
【0047】
図4(a)は、色滲み量の推定値が小さい第1の値である場合の、勾配値Sに対する抑圧係数Kの特性を示す。着目画素の色滲み量の推定値が小さい場合には、その着目画素では色滲みが生じにくいと判断できるため、閾値Th1を大きく設定することで、勾配値Sが十分に大きくならない限りは、色滲み抑圧処理が行われないようにする。ただし、勾配値Sが閾値Th1を超えた場合には、色滲みが生じている可能性が高いと考えられるため、色滲み抑圧のレベルがすぐに高くなるよう、閾値Th2が閾値Th1に近い値に設定されている。つまり、色滲み量の推定値が小さい場合は、勾配値Sが閾値Th1以上かつ閾値Th2未満の範囲において、勾配値Sの変化に対する抑圧係数Kの変化の比率が大きく設定される。
【0048】
反対に、図4(c)は、色滲み量の推定値が大きい第2の値である場合の、勾配値Sに対する抑圧係数Kの特性を示す。着目画素の色滲み量の推定値が大きい場合には、その着目画素では色滲みが生じやすいと判断できるため、閾値Th1を小さく設定することで、勾配値Sが小さくとも、色滲み抑圧処理が行われるようにする。ただし、閾値Th1を小さくすることで、色滲みが生じていない画素に対して色滲み抑圧処理を行う可能性が高くなる。特に広い範囲にわたって誤って色滲み抑圧処理が行われてしまうと、不自然な色抜けが生じてしまうため、勾配値Sがあまり高くない場合には、色滲み抑圧のレベルが低くなるように、閾値Th2が閾値Th1から離れた値に設定されている。つまり、色滲み量の推定値が大きい場合は、勾配値Sが閾値Th1以上かつ閾値Th2未満の範囲において、勾配値Sの変化に対する抑圧係数Kの変化の比率が小さく設定される。
【0049】
図4(b)は、色滲み量の推定値が図4(a)と図4(c)に対応する推定値の間の場合の、勾配値Sに対する抑圧係数Kの特性を示す。
【0050】
このように、図4に示す例では、色滲み量の推定値が大きくなるほど、色滲みの抑圧処理の対象とする勾配値の範囲を広く設定するとともに、勾配値Sの変化に対する抑圧係数Kの変化の比率が小さくなるように設定している。
【0051】
図5は、色滲み量推定回路23から受け取った色滲み量の推定値に応じて、閾値Th1、閾値Th2、および、抑圧係数Kの上限であるαを変更する一例を説明するための、勾配値Sに対する抑圧係数Kの特性を示す図である。
【0052】
図5(a)は色滲み量の推定値が小さい第1の値である場合の、図5(c)は色滲み量の推定値が大きい第2の値である場合の、図5(b)はその間の、勾配値Sに対する抑圧係数Kの特性を示す。図5に示す特性も、図4に示す特性と同様に、色滲み量の推定値が小さいほど、閾値Th1の値が大きくなり、かつ、閾値Th1と閾値Th2の差が小さくなる。さらに、図5に示す例では、色滲み量の推定値が小さいほど、抑圧係数Kの上限値αを大きくし、色滲み量の推定値が大きくなるほど、抑圧係数Kの上限値αを小さく設定するようにしている。
【0053】
図5でも、図4と同様、着目画素の色滲み量の推定値が大きい場合には、閾値Th1を小さく設定している。そのため、勾配値Sが小さくとも色滲み抑圧処理が行われることになり、色滲みが生じていない画素に対して色滲み抑圧処理を行ってしまう可能性が高くなる。特に広い範囲にわたって誤って色滲み抑圧処理が行われてしまうと、不自然な色抜けが生じてしまうため、色滲み抑圧のレベルを低く抑えることで、誤って色滲み抑圧処理が行われても、色抜けが目立ちにくくなるようにしている。
【0054】
以上説明したように、本実施形態によれば、色滲み量の推定値に応じて、色滲みの抑圧処理の対象とする勾配値の範囲を変化させている。さらに、色滲みの抑圧処理の対象とする勾配値の範囲を広くした場合には、色滲み抑圧のレベルを抑えることで、仮に誤補正が生じてしまった場合でもそれを目立たせることなく、効果的に色滲みを補正することが可能になる。
【0055】
なお、像高算出回路22の機能を抑圧係数算出回路14に持たせて像高算出回路22を省略し、色滲み量推定回路23は、光学部材10の光学情報のみに対応する色滲み量の推定値をデータベース24から読み出すようにしてもよい。一般的に、像高が高い画素のほうが色滲みが生じやすいため、抑圧係数算出回路14は、この色滲み量の推定値に対して像高に応じた係数を掛け、その結果得られた値から、抑圧係数Kを求めるようにしてもよい。
【0056】
(第2の実施形態)
図6に本発明の第2の実施形態に係る画像処理装置の一例としての撮像装置のブロック図を示す。図1に示す撮像装置のブロック図と異なる点は、AFE12と勾配検出回路131〜133の間に帯域制限のためのバンドパスフィルタ(BPF)251〜253が設けられていることである。また、色滲み量推定回路23で求められた色滲み量の推定値は、抑圧係数算出回路14だけでなく、このBPF251〜253にも入力されている。
【0057】
BPF251〜253は、それぞれR、G、Bの同時化処理された画像データの周波成分を制限するための回路であって、その通過帯域を色滲み量推定回路23で求められた色滲み量の推定値によって変更することが可能である。
【0058】
色滲み量の推定値が小さい場合には、色滲みが生じにくいため、勾配値Sが大きな値となる領域における色滲みは目立つが、勾配値Sが小さな値となる領域における色滲みは目立たない。反対に、色滲み量の推定値が大きい場合には、色滲みが生じやすいため、勾配値Sが小さな値となる領域であっても、その色滲みの幅が広いために色滲みが目立ってしまう。
【0059】
そこで、本実施形態では、色滲み量の推定値が小さければ、勾配値Sの値が大きな値の領域のみを色滲み抑圧処理の対象とするため、勾配値Sの値が小さい場合に比較して、BPF251〜253の通過帯域を高周波側に設定する。反対に、色滲み量の推定値が大きければ、勾配値Sの値が小さな値の領域も色滲み抑圧処理の対象とするため、勾配値Sの値が大きい場合よりも低い周波数帯域の信号が通過するように、BPF251〜253の通過帯域を設定する。
【0060】
以上説明したように、本実施形態によれば、色滲み量の推定値に応じて、勾配値を検出するための画像データの周波数帯域を変化させている。このようにすることで、第1の実施形態の効果に加え、色滲み量の推定値から、色滲みが生じる領域の幅に応じた抑圧処理を行うことが可能になる。
【0061】
なお、上述した実施形態は、デジタルカメラやデジタルビデオカメラといった撮像装置を例にあげて説明を行ったが、これに限られるものではなく、撮像装置を独立したパーソナルコンピュータのような画像処理装置であってもよい。読み込んだ画像データに、その画像データを生成したときの撮像装置の各レンズの駆動位置や絞りの開口径といった光学情報が付与されていれば、予めこれらに応じた色滲み量の推定値をメモリに記憶させておくことで、同様の処理を行うことが可能である。
【0062】
(他の実施形態)
上述の実施形態は、上述した撮像装置や画像再生装置に限らず、システム或は装置のコンピュータ(或いはCPU、MPU等)によりソフトウェア的に実現することも可能である。記憶媒体又は有線/無線通信により画像データを受け取り、この画像データに対して、色滲み抑圧処理を行う構成であっても構わない。
【0063】
従って、上述の実施形態をコンピュータで実現するために、該コンピュータに供給されるコンピュータプログラム自体も本発明を実現するものである。つまり、上述の実施形態の機能を実現するためのコンピュータプログラム自体も本発明の一つである。
【0064】
なお、上述の実施形態を実現するためのコンピュータプログラムは、コンピュータで読み取り可能であれば、どのような形態であってもよい。上述の実施形態を実現するためのコンピュータプログラムは、記憶媒体又は有線/無線通信によりコンピュータに供給される。有線/無線通信を用いたコンピュータプログラムの供給方法としては、コンピュータネットワーク上のサーバを利用する方法がある。この場合、本発明を形成するコンピュータプログラムとなりうるデータファイル(プログラムファイル)をサーバに記憶しておく。そして、このサーバにアクセスしたクライアントコンピュータに、プログラムファイルをダウンロードすることによって供給する。
【0065】
つまり、上述の実施形態を実現するためのプログラムファイルをクライアントコンピュータに提供するサーバ装置も本発明の一つである。
【0066】
また、上述の実施形態を実現するためのコンピュータプログラムを暗号化して格納した記憶媒体を配布し、コンピュータへのインストールを許可してもよい。
【0067】
また、上述の実施形態を実現するためのコンピュータプログラムは、すでにコンピュータ上で稼働するOSの機能を利用するものであってもよい。さらに、上述の実施形態を実現するためのコンピュータプログラムは、その一部をコンピュータに装着される拡張ボード等のファームウェアで構成してもよいし、拡張ボード等が備えるCPUで実行するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0068】
10 光学部材
11 撮像素子
14 抑圧係数算出回路
15 抑圧処理回路
16 制御回路
22 像高算出回路
23 色滲み量推定回路
24 データベース
131、132、133 勾配検出回路
251、252、253 バンドパスフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像データから勾配値を求める勾配検出手段と、
前記画像データを生成する際に用いた光学部材の光学情報から、色滲み量の推定値を求める推定手段と、
前記勾配値および前記推定値に基づいて抑圧係数を算出する抑圧係数算出手段と、
前記抑圧係数に基づいて、前記画像のうち対象となる領域の色滲みを抑圧するよう画像処理を行う抑圧手段を有し、
前記抑圧係数算出手段は、前記勾配値が閾値を超えた場合に、前記対象となる領域の色滲みが抑圧されるように前記抑圧係数を算出するものであって、前記推定値が第1の値である場合の前記閾値よりも、前記推定値が前記第1の値よりも大きな第2の値である場合の前記閾値を小さな値に設定することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記抑圧係数算出手段は、前記推定値が第1の値である場合よりも、前記推定値が前記第2の値である場合のほうが、前記勾配値の変化に対する前記抑圧係数の変化の比率を大きく設定することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記勾配検出手段が勾配値を求めるために用いる画像データに対して帯域制限をかけるフィルタ手段を有し、
前記フィルタ手段は、前記推定値が第1の値である場合よりも、前記推定値が前記第2の値である場合のほうが、周波数の低い帯域を通過させるように通過帯域を設定することを特徴とする請求項1または2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
画像データから勾配値を求める勾配検出工程と、
前記画像データを生成する際に用いた光学部材の光学情報から、色滲み量の推定値を求める推定工程と、
前記勾配値および前記推定値に基づいて抑圧係数を算出する抑圧係数算出工程と、
前記抑圧係数に基づいて、前記画像のうち対象となる領域の色滲みを抑圧するよう画像処理を行う抑圧工程を有し、
前記抑圧係数算出工程は、前記勾配値が閾値を超えた場合に、前記対象となる領域の色滲みが抑圧されるように前記抑圧係数を算出するものであって、前記推定値が第1の値である場合の前記閾値よりも、前記推定値が前記第1の値よりも大きな第2の値である場合の前記閾値を小さな値に設定することを特徴とする画像処理方法。
【請求項5】
請求項4に記載の画像処理方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−160204(P2011−160204A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20362(P2010−20362)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】