説明

画像処理装置、画像処理方法及び画像処理プログラム

【課題】背景から検出対象物を精度よく検出することが可能な画像処理装置、画像処理方法及び画像処理プログラムを提供すること
【解決手段】本発明の画像処理装置は、エッジ検出処理部12と、細分領域設定部13と、エッジ成分指標値算出部14と、検出対象物判定部15とを具備する。
エッジ検出処理部12は、検出対象物の像が部分的に含まれる検出対象画像に、エッジ検出処理を施してエッジ画像を生成する。細分領域設定部13は、エッジ画像を細分領域に区画する。エッジ成分指標値算出部14は、各細分領域に含まれるエッジ成分の量を示すエッジ成分指標値を、各細分領域毎に算出する。検出対象物判定部15は、エッジ成分指標値と閾値とを比較して、各細分領域毎に検出対象物の有無を判定する。
この画像処理装置は、検出対象画像にエッジ検出処理を施すことにより輝度を二値化し、背景との輝度差が小さい検出対象物であっても検出することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出対象物の像が部分的に含まれる画像から検出対象物を検出する画像処理装置、画像処理方法及び画像処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、背景と検出対象物が含まれる画像、例えば、プレパラート上のサンプルを撮像した画像等の中から、検出対象物が含まれる領域を検出する技術が研究されている。画像から検出対象物が含まれる領域を漏れなく検出することができれば、その検出された画像の領域に対してのみ画像処理を施すことが可能となり、演算量の低減、処理時間の短縮等のメリットがある。
【0003】
例えば、特許文献1には隣接画素間の画素値の変化量を領域検出に利用する「画像処理装置」が開示されている。特許文献1に記載の画像処理装置は、同一画像内において特定の画素とその周囲の画素の画素値変化量を算出し、さらに、周囲の画素に偏りが存在するかを算出する。そして、この画像処理装置は、周囲の画素の偏りを加味した周囲からの画素値変化量を基に周囲から画素値変化が見られた領域を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−93172号公報(段落[0066]、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されているような検出方法では、検出対象物と背景の輝度が近い、即ち検出対象物の像が淡い場合、装置が検出対象物と背景の輝度の差を抽出し検出対象物を検出することが困難となる場合が考えられる。このような場合、ユーザによる検出のためのパラメタの微細な調整が必要となる。また、画像全体の輝度が均等である場合、検出対象物を好適に検出することが可能なパラメタがわずかな範囲に集中してしまい、ユーザによるパラメタの調整が困難となるおそれがある。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、背景から検出対象物を精度よく検出することが可能な画像処理装置、画像処理方法及び画像処理プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る画像処理装置は、エッジ検出処理部と、細分領域設定部と、指標値算出部と、検出対象物判定部とを具備する。
上記エッジ検出処理部は、検出対象物を検出する元となる検出対象画像に、エッジ検出処理を施してエッジ画像を生成する。
上記細分領域設定部は、上記エッジ画像を複数の細分領域に区画する。
上記指標値算出部は、各上記細分領域に含まれるエッジ成分の量を示すエッジ成分指標値を、各上記細分領域毎に算出する。
上記検出対象物判定部は、上記エッジ成分指標値に基づいて、各上記細分領域毎に上記検出対象物の像の有無を判定する。
【0008】
エッジ検出処理部が検出対象画像にエッジ検出処理を施すことにより、検出対象画像に含まれる各画素間の輝度勾配が強調され、エッジ画素と非エッジ画素に2値化される。これにより、細分領域内にわずかでも輝度勾配が存在すれば、指標値算出部が算出するエッジ成分指標値に反映され、検出対象物判定部が当該細分領域を検出対象物が存在する細分領域として判定することが可能となる。したがって、検出対象物と背景の輝度の差が小さい画像であっても、精度よく検出対象物が含まれる細分領域を検出することが可能である。
【0009】
上記エッジ検出処理部は、上記検出対象画像の輝度勾配をエッジ検出処理に用いてもよい。
【0010】
通常の画像加工におけるエッジ検出処理では、微小な輝度勾配はエッジとして検出しないような検出パラメタに調整される。しかし、本発明においては、エッジ検出処理部が微小な輝度勾配をエッジとして検出することにより、背景との輝度差が小さい検出対象物もエッジ成分指標値に影響を与え、検出対象物判定部が検出することを可能とする。
【0011】
上記エッジ検出処理部は、ユーザによって指示された、エッジとして検出する輝度勾配の程度を規定する検出パラメタに基づいて上記エッジ検出処理を行ってもよい。
【0012】
本発明によれば、ユーザが微小な輝度勾配もエッジとして検出する検出パラメタをエッジ検出処理部に指示することにより、検出対象物判定部が背景との輝度差が小さい検出対象物を検出することが可能となる。
【0013】
上記エッジ検出処理部は、上記エッジ検出処理のアルゴリズムとしてキャニーアルゴリズムを用いてもよい。
【0014】
キャニーアルゴリズムは、エッジ画素が非エッジ画素かの判定が微妙な画素について、隣接する画素の情報を基にエッジ画素か非エッジ画素かを決定するアルゴリズムであり、他のアルゴリズムよりも確実にエッジ画素の抽出を行うことが可能である。即ち、エッジ検出処理部がエッジ検出処理にキャニーアルゴリズムを用いることにより、精度よく検出対象物を検出することが可能となる。
【0015】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る画像処理方法は、エッジ検出処理部が検出対象物を検出する元となる検出対象画像にエッジ検出処理を施してエッジ画像を生成する。
上記エッジ画像は、細分領域設定部によって複数の細分領域に区画される。
各上記細分領域に含まれるエッジ成分の量を示すエッジ成分指標値は、指標値算出部によって各上記細分領域毎に算出される。
各上記細分領域毎の上記検出対象物の像の有無は、検出対象物判定部が上記エッジ成分指標値と閾値とを比較して判定される。
【0016】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るプログラムは、エッジ検出処理部と、細分領域設定部と、指標値算出部と、検出対象物判定部としてコンピュータを機能させる。
上記エッジ検出処理部は、検出対象物を検出する元となる検出対象画像に、エッジ検出処理を施してエッジ画像を生成する。
上記細分領域設定部は、上記エッジ画像を複数の細分領域に区画する。
上記指標値算出部は、各上記細分領域に含まれるエッジ成分の量を示すエッジ成分指標値を、各上記細分領域毎に算出する。
上記検出対象物判定部は、上記エッジ成分指標値に基づいて、各上記細分領域毎に上記検出対象物の像の有無を判定する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば背景から検出対象物を精度よく検出することが可能な画像処理装置、画像処理方法及び画像処理プログラムを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る画像処理装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る画像処理装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態に係る画像処理装置の元画像取得部が取得する元画像の一例である。
【図4】本発明の実施形態に係る画像処理装置の検出対象画像選択部が選択する検出対象画像の一例である。
【図5】本発明の実施形態に係る画像処理装置のエッジ検出処理部が生成するエッジ画像の一例である。
【図6】本発明の実施形態に係る画像処理装置の細分領域設定部が細分領域を設定したエッジ画像の一例である。
【図7】本発明の実施形態に係る画像処理装置の検出対象物判定部が判定した検出領域を表示したエッジ画像の一例である。
【図8】本発明の実施形態に係る画像処理装置の検出対象物判定部が判定した検出領域を表示した検出対象画像の一例である。
【図9】本発明の実施形態に係る画像処理装置の検出結果出力部が出力した検出領域の存在マップの一例である。
【図10】本発明の実施形態に係る画像処理装置のエッジ検出処理の詳細を示すフローチャートである。
【図11】本発明の実施形態に係る画像処理装置のエッジ検出処理の勾配計算を説明するための図である。
【図12】本発明の実施形態に係る画像処理装置のエッジ検出処理のエッジ細線化処理を説明するための図である。
【図13】エッジパラメタによるエッジ画像の影響について示す概念図である。
【図14】図13に示す各画像のエッジパラメタを示す表である。
【図15】本実施形態と比較例とのプロセスの違いを示す図である。
【図16】本実施形態と比較例による検出結果の一例を示す図である。
【図17】本実施形態と比較例による各細分領域毎の標準偏差の一例を示した図である。
【図18】比較例における判定パラメタの調整の結果について示す図である。
【図19】本実施形態における判定パラメタの調整の結果について示す図である。
【図20】本実施形態における判定パラメタの調整の結果について示す図である。
【図21】本実施形態における判定パラメタの調整の結果について示す図である。
【図22】本実施形態と比較例による判定パラメタによる検出領域の変化を比較する図である。
【図23】本実施形態に係る、蛍光染色法により染色したサンプルを撮像した元画像及び元画像を色変換した画像の一例である。
【図24】本実施形態に係る、蛍光染色法により染色したサンプルを撮像した元画像及び元画像を色変換した画像の一例である。
【図25】本実施形態に係る、蛍光染色法により染色したサンプルを撮像した元画像及び元画像を色変換した画像の一例である。
【図26】本実施形態に係る、蛍光染色法により染色したサンプルを撮像した元画像及び元画像を色変換した画像の一例である。
【図27】本実施形態に係る、蛍光染色法により染色したサンプルを撮像した元画像及び元画像を色変換した画像の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0020】
[画像処理装置の構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る画像処理装置1の構成を示すブロック図である。
同図に示すように画像処理装置1は、演算処理部2、ユーザインターフェイス(以下、ユーザIFと表記する)3、メモリ4、ネットワークインターフェイス(以下、ネットワークIFと表記する)6及びストレージ17を有する。これらは内部バス5によって相互に接続されている。
【0021】
ユーザIF3は、内部バス5と外部デバイスとを接続する。ユーザIF3には、キーボード、マウス等の入力操作部7及び画像を表示するため表示部8が接続されている。メモリ4は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等であり、処理対象の画像データやプログラム等を格納する。ネットワークIF6は、外部のネットワークと内部バス5を接続する。ネットワークIF6には、画像の撮像が可能な撮像システム9が接続されている。本実施形態では、撮像システム9によって画像が撮像され、撮像された画像はネットワークIF6及び8内部バス5を介してストレージ17に格納されるものとする。
【0022】
演算処理部2は、マイクロプロセッサ等であり後述する演算処理を行う。演算処理部2は機能的な構成として、元画像取得部10、検出対象画像選択部11、エッジ検出処理部12、細分領域設定部13、指標値算出部14、検出対象物判定部15及び検出結果出力部16の各モジュールを有する。これらのモジュールは、演算処理部2の内部あるいは外部に格納されたプログラムに従って実行される。
【0023】
[各モジュールについて]
元画像取得部10は、ストレージ17に格納されている「元画像」を取得し、メモリ4に格納する。検出対象画像選択部11は、元画像から、検出対象となる「検出対象画像」を選択する。エッジ検出処理部12は、検出対象画像に対して「エッジ検出処理」を施し、エッジ画像を生成する。細分領域設定部13はエッジ画像に「細分領域」を設定する。指標値算出部14は各細分領域に含まれるエッジ成分の量を示す「エッジ成分指標値」を算出する。検出対象物判定部15は、エッジ成分指標値に基づいて各細分領域毎に検出対象物の像が含まれるかを判定する。検出結果出力部16は、検出対象物判定部15の判定結果を、例えばテキストマップ等の形で出力する。
【0024】
[画像処理装置の動作]
画像処理装置1の動作について説明する。
本実施形態の画像処理装置1は、撮像システム9によって撮像されストレージ17に格納されている「元画像」に対して画像処理を施し、検出対象物の像が存在する領域を検出する。概略的には、元画像取得部10がストレージ17から元画像を取得し、検出対象画像選択部11がユーザによる指示入力を受けて「検出対象画像」を選択する。次に、エッジ検出処理部12が検出対象画像に対してエッジ検出処理を施し、「エッジ画像」を生成する。続いて、細分領域設定部13がエッジ画像に「細分領域」を設定し、指標値算出部14が細分領域毎にエッジ成分指標値(ここでは、輝度値の標準偏差である)を算出する。検出対象物判定部15がエッジ成分指標値によって各細分領域に検出対象物の像が含まれるかどうかを判定し、検出結果出力部16がその判定結果を出力する。
【0025】
図2は、画像処理装置1の動作を示すフローチャートである。図2は画像処理装置1の動作を各ステップ(以下、Stと表記する)毎に示すものである。
【0026】
ユーザによって、処理開始の指示が入力されると、元画像取得部10がユーザIF3を介して元画像を取得する(St101)。図3に元画像の一例を示す。ここでは、プレパラート上の病理組織(これを検出対象物とする。)を撮像した画像を元画像の例とする。なお、図3に示す写真はモノクロ画像であるが、実際はカラー画像であってもよい。例えば、ヘマトキシリン・エオシン染色(HE染色)を施したサンプルを撮像した画像を元画像とすることができる。また、元画像取得部10は、後述する「色変換処理」を施した画像を元画像として取得してもよい。
【0027】
次に、検出対象画像選択部11が元画像から「検出対象画像」(以下、クロップ画像とする)を選択する(St102)。図3に示したように、元画像に明らかに検出対象物が存在しない領域(図3では、プレパラート外の領域)が存在する場合、画像処理装置1はそのような領域を除外した検出対象画像に対して検出処理を行う。図4に元画像から選択されたクロップ画像を示す。
【0028】
具体的な選択操作としては、ユーザが点p(座標lx、ly)、幅w及び高さhを指定すると、検出対象画像選択部11が(lx、ly)、(lx+w、ly)、(lx、ly+h)及び(lx+w、ly+h)の4座標で囲まれる領域をクロップ画像として選択する。また、元画像に除外できる領域が存在しない場合には、画像処理装置1は元画像全体をクロップ画像とする。なお、画像処理装置1は、クロップ画像を元画像とは別の画像として生成してもよく、元画像中の仮想的に指定された領域としてクロップ画像を扱ってもよい。
【0029】
図2に戻り、次にエッジ検出処理部12がクロップ画像にエッジ検出処理を施し、エッジ画像を生成する(St103)。図5は、図4に示したクロップ画像から生成されたエッジ画像の一例である。図5に示すように、エッジ画像は、クロップ画像のエッジ(ここでエッジとは輝度値の境界を意味し、必ずしもオブジェクトの輪郭を意味しない)に相当する画素(白色で示す)とそれ以外の画素(図中黒色で示す)に二値化された画像である。エッジ検出処理の詳細については後述する。
【0030】
続いて、細分領域設定部13がエッジ画像に「細分領域」を設定する(St104)。図6は細分領域を設定したエッジ画像の一例である。図中白線で区画された領域が細分領域である。同図に示すように、細分領域は、エッジ画像を縦横に複数の領域に区分する領域である。細分領域の大きさは全て同一であり、ユーザが解像度により指定することができる。
【0031】
図2に戻り、続いて指標値算出部14が細分領域毎の「エッジ成分指標値」を算出する(St105)。エッジ成分指標値は、各細分領域にエッジに相当する画素がどの程度含まれているかを表す指標値である。この指標値には、例えば、画素値(輝度)の標準偏差、細分領域中のエッジに相当する画素の含有率、その他を用いることが可能である。なお、本実施形態では、指標値として画素値(輝度)の標準偏差を用いた場合について説明を行うこととする。
【0032】
次に、検出対象物判定部15が検出対象物の有無を判定する(St106)。検出対象物判定部15は、各細分領域のエッジ成分指標値と、ユーザによって指示された判定のためのパラメタ(以下、判定パラメタとする)とを比較する。そして、エッジ成分指標値が判定パラメタ以上である細分領域を検出対象物が存在する細分領域(以下、検出領域とする)として判定し、エッジ成分指標値が判定パラメタ未満である細分領域を検出対象物が存在しない細分領域(以下、未検出領域とする)として判定する。詳細は後述するが、この際、ユーザが判定パラメタを調節することにより、検出対象物が存在するとして判定される領域が変動する。図7は、検出領域を表示したエッジ画像である。同図では、検出領域のみを白線で区画された領域として示す。図8は、検出領域を表示したクロップ画像である。同図に示すように、クロップ画像において検出対象物が存在する領域がほぼ検出領域として判定され、検出対象物が存在しない領域が未検出領域として判定される。
【0033】
図2に戻り、検出結果出力部16が、ステップ106における検出結果を出力する(St107)。検出結果出力部16は、例えば図9に示すように、検出領域を1として未検出領域を0とする存在マップを作成し、出力する。以上のようにして、クロップ画像において検出対象物が存在する領域と存在しない領域が検出される。この検出結果を用いることにより、検出対象物が存在する領域に絞り込んでさらに詳細な画像分析を行うこと等が可能となる。
【0034】
[エッジ検出処理の詳細]
エッジ検出処理(上述のステップ103)の詳細について説明する。図10は、エッジ検出処理の詳細を示すフローチャートである。本実施形態に係るエッジ検出処理ではキャニー(Canny)アルゴリズムを用いる。なお、これ以外のアルゴリズムによってエッジ検出処理を行うことも可能である。
【0035】
まず、エッジ検出処理部12はクロップ画像をグレースケース化する(St201)。図4に示すクロップ画像はグレースケール化されているが本来はカラー画像であり、グレースケール化する必要がある。グレースケール化は例えば、以下の(式1)により行うことができる。
【0036】
Y=−0.299R+0.587G+0.114B (式1)
Y:画素値、R:赤成分、G:緑成分、B:青成分
【0037】
次に、エッジ検出処理部12は、グレースケール化されたクロップ画像に対して画像平滑化処理を行う(St202)。エッジ検出処理部12は、平平滑化のためのフィルタ、具体的にはガウシアンフィルタ等をグレースケール化されたクロップ画像に適用し、ノイズを抑えた画像を生成する。これにより、後述する勾配計算の際の「暴れ」を抑制することができる。
【0038】
続いて、エッジ検出処理部12は、「勾配計算」を行う(St203)。勾配計算は、ある画素とその隣接する画素間で輝度値にどの程度差があるかを算出するものである。以下、勾配計算の具体的な計算方法を説明する。ステップ202で平滑化されたクロップ画像の特定の画素(座標(a、b))における輝度値をf(a、b)と表すとき、以下の[数1]に示す式を用いて全画素に対して勾配ベクトルを計算する。エッジ検出処理部12は、勾配ベクトルを画素の座標に関連付けて勾配マップとして保持する。
【0039】
【数1】

【0040】
勾配ベクトルはある画素とその隣接する画素間で輝度値にどの程度差があるかを示す物理量である。[数2]に示すこの勾配ベクトルのx成分及び[数3]に示すy成分の値から、勾配ベクトルの方向θを[数4]に示す式のように計算することができる。
【0041】
【数2】

【0042】
【数3】

【0043】
【数4】

【0044】
また、勾配ベクトルの大きさは、[数5]に示す式によりノルムとして計算することができる。エッジ検出処理部12は、このノルム情報も勾配マップに保持する。
【0045】
【数5】

【0046】
通常の画像処理における勾配計算は、画像データの離散化により、例えば隣接画素間の勾配については、以下の[数6]及び[数7]に示す式のように差分を用いて計算を行うことが可能である。
【0047】
【数6】

【0048】
【数7】

【0049】
本実施形態では、これを3×3の領域に拡張したSobelフィルタを用いて∇f、∇fの値を計算する。なお、フィルタはSobelフィルタに限られず、Prewittフィルタ、ラプラシアンフィルタ等であってもよい。図11は、本実施形態に係る勾配計算を説明するための図である。本実施形態では、高速化のため、実際のtanの逆関数演算をして正確なθを求めることをせず、図11に示すようにtanθの値によりA〜D軸の4方向に分類を行う。これにより、着目している画素は、勾配を有する(ノルムが0でない)限り、いずれかの隣接画素に対して勾配の向きを有していると考えることができることになる。エッジ検出処理部12は、この勾配の向きも勾配マップに保持する。
【0050】
続いて、エッジ検出処理部12は、エッジ細線化処理を行う(St204)。図12はエッジ細線化処理を説明するための図である。ステップ203において着目画素に対して勾配の向きが確定されたので、エッジ検出処理部12は、着目画素と、勾配の向きに沿って着目画素を挟む2つの画素の合計3つの画素の勾配ベクトルの大きさについて比較を行う。エッジ検出処理部12は、着目画素がピークを形成しているときのみ、着目画素の勾配ベクトルの大きさを保つ処理を行う。
【0051】
具体的には、エッジ検出処理部12は、この3画素の勾配ベクトルの大きさを‖∇fbefore(x−1)‖、‖∇fbefore(x)‖、‖∇fbefore(x+1)‖としたとき、‖∇fbefore(x−1)‖<‖∇fbefore(x)‖かつ、‖∇fbefore(x)‖<‖∇fbefore(x+1)‖が成立している場合、処理後の勾配ベクトルの大きさ‖∇fafter(x)‖=‖∇fbefore(x)‖とする。また、成立していない場合、‖∇fafter(x)‖=0とする。エッジ検出処理部12は、このようにして決定した‖∇fafter(x)‖も勾配マップに保持する。
【0052】
これにより、勾配方向においてピークを形成する部分のみを抽出することで、ある程度の太さを持つ線分を細い線分とすることが可能となる。具体的には、この値が0以外である画素がエッジ候補の画素である。実際には、着目画素に対する勾配方向(図11の(1)〜(4)の方向)のいずれかに沿ってこの処理が行われる。
【0053】
続いて、エッジ検出処理部12は、ヒステリシス閾値処理を行う(St205)。上述のように、勾配マップにおいて、∇fafter(x)が0ではない画素がエッジ候補の画素である。エッジ検出処理部12は、最終的にこれをエッジ画素と判定するか否かを2つのパラメタをもって行う。以下、これらのパラメタをエッジパラメタとする。具体的には、エッジ検出処理部12は、2つのエッジパラメタをcanny_min及びcanny_maxとすると、∇fafter(x)>canny_maxであればxはエッジ画素とし、∇fafter(x)<canny_minであればxは非エッジ画素とする。いずれにも該当しなければ、エッジ検出処理部12はxを保留画素とする。なお、canny_min及びcanny_maxの値の詳細については後述する。ここでエッジ画素は間違いなくエッジを旺盛する画素として確定したものを意味し、非エッジ画素は間違いなくエッジを構成しない画素として確定したものを意味する。エッジ検出処理部12は、保留画素について、いずれかのエッジ画素と直接又は保留画素を介して接続されていればエッジ画素とし、それ以外は非エッジ画素とする。これによりエッジ検出処理部12は、全ての画素についてエッジ画素が非エッジ画素かを決定する。このように、エッジ検出処理部12は、ひとつのパラメタを用いて決定を行うよりもより確実にエッジ部分を抽出することが可能となる。
【0054】
このようにキャニーアルゴリズムは、エッジ画素が非エッジ画素かの判定が微妙な画素について、隣接する画素の情報を基にエッジ画素か非エッジ画素かを決定するアルゴリズムであり、他のアルゴリズムよりも確実にエッジ画素の抽出を行うことが可能である。即ち、エッジ検出処理部12がエッジ検出処理にキャニーアルゴリズムを用いることにより、精度よく検出対象物を検出することが可能となる。
【0055】
続いて、エッジ検出処理部12は、エッジ画像を生成する(St206)。ステップ205において全ての画素についてエッジ画素か非エッジ画素かの決定がなされているので、エッジ検出処理部12はエッジ画素を1、非エッジ画素を0とする二値の画像を生成する。以上のようにしてエッジ検出処理が完了する。
【0056】
[エッジパラメタの調整]
上述のように、エッジパラメタ(canny_max 及びcanny_min)の値によりある画素がエッジ画素、非エッジ画素及び保留画素のいずれに該当するかが決定される。換言すれば、ユーザがcanny_max 及びcanny_minの値を調整することにより、画素をエッジとして検出する程度を変更することが可能となる。図13は、エッジパラメタによるエッジ画像の影響について示す概念図であり、図14は図13に示す各画像のエッジパラメタを示す表である。
【0057】
図13(a)は、サンプル画像であり、図13(b)、(c)及び(d)は、図13(a)に示すサンプル画像に対して、図14の表に示す各エッジパラメタを用いてエッジ検出処理を施し、エッジ画像を生成したものである。これらの図に示すように、エッジパラメタが異なると、エッジとして検出される輝度差が異なり、エッジ画像が異なるものとなる。具体的には、canny_max 及びcanny_minが大きいと図13(b)に示すように、輝度差が大きい箇所のみがエッジとして検出される。一方、canny_max 及びcanny_minが小さいと図13(d)に示すように、輝度差が小さい箇所もエッジとして検出される。
【0058】
画像処理等の分野においては、オブジェクトの輪郭や模様が抽出されている図13(b)の画像が適格であり、微小な輝度差まで抽出されている図13(d)の画像は不適格である。しかし、本実施形態においては、色が薄い検出対象物の微小な輝度差を漏れなく抽出するために、図13(d)に示すように微小な輝度差が抽出されるようなエッジパラメタを好適とする。
【0059】
[本実施形態による効果]
本実施形態の方法による検出対象物の検出について、比較例との相違点とともに説明する。図15は、本実施形態と比較例とのプロセスの違いを示す図である。図15に示すように、比較例として、検出対象画像をグレースケール化した後、細分領域を設定し、各細分領域について輝度値の標準偏差を算出し、それを用いて各細分領域について検出対象物の有無を判定する方法を考える。
【0060】
図16は、本実施形態と比較例による検出結果の一例を示す図である。図16(a)は比較例による検出結果、図16(b)は本実施形態による検出結果である。図16(a)及び図16(b)では、検出対象物が存在すると判定された細分領域を示す。これらの図に示すように、図16(a)に示す比較例による検出結果では、検出対象物の色が薄い、即ち輝度差が小さい細分領域は検出対象物が存在すると判定されていない。一方、図16(b)に示す本実施形態による検出結果では、比較例において検出対象物が存在すると判定されなかった細分領域も、検出対象物が存在するとして判定されている。即ち、本実施形態により、検出対象物を漏れなく検出することが可能であるといえる。
【0061】
さらに、本実施形態では、判定パラメタの調整による検出感度の調整が容易である。図17は、比較例と本実施形態による各細分領域毎の標準偏差の例を示した図である。図17(a)は、比較例によるものであり、図17(b)は本実施形態によるものである。これらの図に示す標準偏差の値は四捨五入されたものである。これらの図に示すように、本実施形態では、比較例に比べて細分領域の標準偏差に大きな差が生じている。これは、比較例では各画素の輝度値から直接標準偏差を求めているのに対し、本実施形態ではエッジ検出処理により二値化してから標準偏差を求めていることにより輝度値の差が強調されているためである。
【0062】
図18は、比較例におけるユーザによる判定パラメタの調整の結果について示す図である。図18(a)は判定パラメタを「1」、図18(b)は「2」、図18(c)は「3」とした場合の、判定パラメタ以上の標準偏差を有する細分領域、即ち、検出領域を示す。これらの図に示すように、判定パラメタが1異なると、検出領域の範囲は大きく異なる。
【0063】
図19、図20及び図21は、本実施形態に係るユーザによる判定パラメタの調整の結果について示す図である。図19(a)は判定パラメタを「1」、図19(b)は「2」、図19(c)は「3」とした場合の検出領域を示す。図20(a)は判定パラメタを「10」、図20(b)は「20」、図20(c)は「30」とした場合の検出領域を示す。図21(a)は判定パラメタを「40」、図21(b)は「50」、図21(c)は「60」とした場合の検出領域を示す。これらの図に示すように、判定パラメタが多少異なっても、検出領域の範囲はあまり変動しない。
【0064】
図22は、比較例と本実施形態の判定パラメタによる検出領域の変化を比較する図である。同図に示すように、比較例の場合は、判定パラメタは3段階にしか調整することができず、その一段階当たりの検出領域の変化も大きい。これに対し、本実施形態ではより多段階に渡って判定パラメタを調整することが可能であり、一段階当たりの検出領域の変化も小さい。即ち、本実施形態によれば、ユーザはより柔軟に検出感度を調整することが可能であるといえる。
【0065】
[元画像の色変換について]
上述のように画像処理装置1は、元画像取得部10が取得した元画像から選択した検出対象画像に対して検出処理を施す。ここで、元画像取得部10は、取得した元画像に対して色変換を施してもよい。例えば蛍光染色法により染色したサンプルを撮像した画像に対して色変換することにより、上述の方法によって検出処理を施すことが可能となる。
【0066】
図23(a)は、蛍光染色法により染色したサンプルを撮像した元画像の一例である。なお、同図に示す画像は、波長365nmの紫外線照射下において撮像されたものであり、本来は青色系統の色である。元画像取得部10は、この画像に対して色変換を実施し、図23(b)に示す色変換された元画像(以下、色変換画像とする)を生成する。
【0067】
具体的には、元画像取得部10は、元画像の各画素について、以下の(式2)、(式3)及び(式4)を用いて色を変換する。
【0068】
out=300−1.5×Bin (式2)
out=300−2×Bin (式3)
out=300−1.3×Bin (式4)
【0069】
これらの式において、Binは、元画像の画素の「青」の輝度である。Routは色変換画像の画素の「赤」、Goutは色変換画像の画素の「緑」、Boutは色変換画像の「青」のそれぞれの輝度である。即ち、(式2)、(式3)及び(式4)により、元画像の各画素の「青」の輝度から色変換画像のRGBの輝度を算出する。また、この際、所定の値(上記、300)から元画像の画素の「青」の輝度に所定の係数を掛けた値を減じることにより、色が反転される。なお、上記所定の値や係数は適宜変更することが可能である。
【0070】
図24、図25、図26及び図27に色変換のさらなる例を示す。これらの図においても図23と同様に、各図(a)は蛍光染色法により染色したサンプルを撮像した元画像であり、各図(b)はそれぞれの色変換画像である。このような色変換処理により、蛍光染色法により染色されたサンプルの画像がHE染色に近い色合いとなり、画像処理装置1が検出処理を施すことが可能となる。
【0071】
以上のように、本実施形態では、エッジ検出処理部12が検出対象画像にエッジ検出処理を施すことにより、検出対象画像に含まれる各画素間の輝度勾配が強調され、エッジ画素と非エッジ画素に2値化される。これにより、細分領域内にわずかでも輝度勾配が存在すれば、指標値算出部が算出するエッジ成分指標値に反映され、検出対象物判定部が当該細分領域を検出対象物が存在する細分領域として判定することが可能となる。したがって、検出対象物と背景の輝度の差が小さい画像であっても、精度よく検出対象物が含まれる細分領域を検出することが可能である。
【0072】
本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において変更され得る。
【符号の説明】
【0073】
12 エッジ検出処理部
13 細分領域設定部
14 指標値算出部
15 検出対象物判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象物を検出する元となる検出対象画像に、エッジ検出処理を施してエッジ画像を生成するエッジ検出処理部と、
前記エッジ画像を複数の細分領域に区画する細分領域設定部と、
各前記細分領域に含まれるエッジ成分の量を示すエッジ成分指標値を、各前記細分領域毎に算出する指標値算出部と、
前記エッジ成分指標値に基づいて、各前記細分領域毎に前記検出対象物の像の有無を判定する検出対象物判定部と
を具備する画像処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像処理装置であって、
前記エッジ検出処理部は、前記検出対象画像の輝度勾配をエッジ検出処理に用いる
画像処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の画像処理装置であって、
前記エッジ検出処理部は、ユーザによって指示された、エッジとして検出する輝度勾配の程度を規定する検出パラメタに基づいて前記エッジ検出処理を行う
画像処理装置。
【請求項4】
請求項3に記載の画像処理装置であって、
前記エッジ成分指標値は、各前記細分領域に含まれる画素の輝度の標準偏差である
画像処理装置。
【請求項5】
請求項4に記載の画像処理装置であって、
前記エッジ検出処理部は、前記エッジ検出処理のアルゴリズムとしてキャニーアルゴリズムを用いる
画像処理装置。
【請求項6】
エッジ検出処理部が検出対象物を検出する元となる検出対象画像にエッジ検出処理を施してエッジ画像を生成し、
細分領域設定部が前記エッジ画像を複数の細分領域に区画し、
指標値算出部が各前記細分領域に含まれるエッジ成分の量を示すエッジ成分指標値を、各前記細分領域毎に算出し、
検出対象物判定部が前記エッジ成分指標値に基づいて、各前記細分領域毎に前記検出対象物の像の有無を判定する
画像処理方法。
【請求項7】
検出対象物を検出する元となる検出対象画像に、エッジ検出処理を施してエッジ画像を生成するエッジ検出処理部と、
前記エッジ画像を複数の細分領域に区画する細分領域設定部と、
各前記細分領域に含まれるエッジ成分の量を示すエッジ成分指標値を、各前記細分領域毎に算出する指標値算出部と、
前記エッジ成分指標値に基づいて、各前記細分領域毎に前記検出対象物の像の有無を判定する検出対象物判定部と
としてコンピュータを機能させる画像処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図17】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2012−8100(P2012−8100A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−146664(P2010−146664)
【出願日】平成22年6月28日(2010.6.28)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】