説明

画像制御装置、画像表示システム、電子機器

【課題】使用者の状況(例えば背丈)に応じた視認性のよい表示画像を実現する。
【解決手段】出射光が偏光した画像表示装置1と組み合わせて用いられる画像制御装置100であって、画像表示装置1の前面側に配置される光学素子5と、画像表示装置100の使用者の高さを検出するセンサ7と、センサ7によって検出された使用者の高さに応じた電圧で光学素子5を駆動する光学素子駆動部6を備える。光学素子5は、第1基板及び第2基板と、第1基板上に設けられ、光学素子駆動部6と接続された第1電極と、第1基板上に設けられたプリズムアレイと、第1電極及びプリズムアレイの上側に設けられた第1配向膜と、第2基板上に設けられ、光学素子駆動部6と接続された第2電極と、第2電極の上側に設けられた第2配向膜と、第1基板と第2基板の間に設けられた液晶層を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種機器における表示画像の視角方向を自在に制御するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、ファクシミリ機などの電子機器には、通常、操作状況(例えば、複写枚数、送信先番号等)などの情報を表示するための表示パネルが備わっている。多くの場合、複写機等の表示パネルは、その設置角度を8°程度に設定されている場合が多い。このように表示パネルを傾斜させることで、使用者が一般の大人である場合には表示パネルによる表示画像が見やすくなる。
【0003】
ところで、昨今ではいわゆるユニバーサルデザインが求められており、使用者がどのような人であっても使いやすい電子機器が望まれている。ところが、電子機器に備わる表示パネルは多くの場合において固定式であり、設置角度を自由に変更することはできない。このため、上記のように一般の大人を想定して表示パネルの設置角度が設定されていると、背丈の低い子供あるいは車椅子に乗っている人などが使用者となった場合には、表示パネルの表示画像が視認しづらい状況となる。特に、表示パネルが液晶表示パネルである場合には上記したような大人以外の使用者にとってはその目線が低いことから表示画像が反転して見えてしまう等、不都合が顕著となる。
【0004】
これに対して、表示パネルの設置角度を自在に変えられる機構に関する先行例がいくつか提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。しかしながら、これらの特許文献に開示される各先行例はいずれも機械的な構成であるチルト機構を用いるものであるため、表示パネルの構成が複雑化、大型化するという不都合がある。また、機械的な構成を用いることでコスト増を招き、あるいはメンテナンスが煩雑になるという不都合もある。さらに、使用者自身が表示パネルを動かす必要があるから、全ての使用者にとって使いやすいとはいい難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭55−137169号公報
【特許文献2】特開平6−318289号公報
【特許文献3】特開2000−214788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明に係る具体的態様は、上記課題を解決し、使用者の状況(例えば背丈)に応じた視認性のよい表示画像を実現する技術を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る一態様の画像制御装置は、出射光が偏光した画像表示装置(例えば液晶表示装置)と組み合わせて用いられる画像制御装置であって、(a)前記画像表示装置の前面側に配置される光学素子と、(b)前記画像表示装置の使用者の高さを検出するセンサと、(c)前記センサによって検出された前記使用者の高さに応じた電圧で前記光学素子を駆動する光学素子駆動部を含んで構成される。前記光学素子は、(d)相互に対向配置される第1基板及び第2基板と、(e)前記第1基板上に設けられ、前記光学素子駆動部と接続された第1電極と、(f)前記第1基板上に設けられたプリズムアレイと、(g)前記第1電極及び前記プリズムアレイの上側に設けられた第1配向膜と、(h)前記第2基板上に設けられ、前記光学素子駆動部と接続された第2電極と、(i)前記第2電極の上側に設けられた第2配向膜と、(j)前記第1基板の前記第1配向膜と前記第2基板の前記第2配向膜の間に設けられた液晶層を有する。
【0008】
上記の画像制御装置においては、第1電極および第2電極を介して液晶層に電圧を印加することにより液晶分子の配列を変化させたときに、液晶層の屈折率が変化する。このとき、微少な斜面を有するプリズムアレイと液晶層との界面を透過する光の屈折角を変化させることができる。この作用に基づき、液晶層へ印加する電圧の大きさを適宜設定することにより、光学素子を介して視認される画像表示装置の表示画像の視角方向を自在に制御することができる。そして、液晶層へ印加する電圧はセンサによって検出された使用者の高さに応じて設定されるので、使用者の状況(例えば背丈)に応じた視認性のよい表示画像を実現することができる。また、機械的な作動部を有しないので構造の複雑化、大型化およびコスト増を招くことなく、かつ煩雑なメンテナンスも不要となる。さらに、使用者自身が表示パネルを動かす必要がないので、全ての使用者にとって使いやすい。
【0009】
上記の画像制御装置において、前記光学素子は、前記第1配向膜に施された配向処理の方向を前記画像表示装置の前記出射光の偏光方向を略平行にして配置されていることが好ましい。
【0010】
画像表示装置からの出射光の偏光方向と、光学素子における第1配向膜への配向処理の方向とを揃えることにより、光の利用効率が高まるので、表示画像の透過率(すなわち光量)の低下を抑制することができる。
【0011】
上記の画像制御装置において、前記光学素子は、前記第1基板側を前記画像表示装置の前面側と密着して配置されていることも好ましい。
【0012】
それにより、画像表示装置による表示画像のぼけ(鮮明さの低下)を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】一実施形態の画像表示システムの構成を示すブロック図である。
【図2】画像表示システムの設置状態の一例を示す模式的な側面図である。
【図3】光学素子の構造を示す模式的な断面図である。
【図4】プリズムアレイの模式的な斜視図である。
【図5】画像表示パネルの出射光の偏光方向と光学素子における配向処理の方向との関係を説明するための図である。
【図6】光学素子による画像制御の様子を説明するための図である。
【図7】光学素子の他の構造を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0015】
図1は、一実施形態の画像表示システムの構成を示すブロック図である。図1に示す画像表示システム100は、液晶表示パネル1、液晶駆動部2、タッチパネル駆動部3、タッチパネル4、光学素子5、光学素子駆動部6およびセンサ7を含んで構成されている。なお、少なくとも光学素子5、光学素子駆動部6およびセンサ7を含んで「画像制御装置」が構成され、液晶表示パネル1と液晶駆動部2により「液晶表示装置」が構成されている。
【0016】
図2は、画像表示システム100の設置例を示す模式図である。画像表示システム100は、例えば複写機やファクシミリ機などの電子機器200に組み込まれ、電子機器200の作動状態を表す画像を表示するための表示部として用いられる。このとき、液晶表示パネル1と光学素子5は、使用者300に画像が視認されやすいように各々水平方向から傾けて配置され(例えば8°程度)、かつ液晶表示パネル1よりも光学素子5のほうが上側(光出射側)となるように配置される。なお、図2ではタッチパネル4の図示を省略している。センサ7は、電子機器200の使用者300の高さ(背丈)を検出し得るように、例えば電子機器200の前面側などに適宜設置される。
【0017】
液晶表示パネル1は、液晶駆動部2から与えられる画像信号に基づいて画像(動画又は静止画)を表示する。この液晶表示パネル1としては、例えばバックライトと偏光板を使った液晶表示パネルが用いられる。
【0018】
タッチパネル4は、液晶表示パネル1および光学素子5の前面に配置され、タッチパネル駆動部3に駆動されることにより、使用者による操作指示を入力するために用いられる。
【0019】
光学素子5は、外観上ほぼ透明な薄板状の素子であり、液晶表示パネル1の前面側に配置される。この光学素子5は、光学素子駆動部6から供給される駆動信号に応じて、液晶表示パネル1から出射される光の状態を自在に制御する。それにより、使用者300において視認される表示画像の視角方向を自在に制御できる。この光学素子5は、図1等に示すように液晶表示パネル1の前面側と密着させて配置されることが好ましい。なお、本実施形態の光学素子5は一般的な液晶素子とは異なり偏光板が不要であるため原理的に高透過率である。具体的には、光学素子自体の透過率として90%以上が見込まれ、光学素子5の表面に反射防止コート(ARコート)を施した場合には95%以上の透過率が見込まれる。
【0020】
センサ7は、電子機器200を用いる使用者300の高さを検出する。このセンサ7は、例えば指向性を持った複数の赤外線センサを用いて構成することができる。例えば、複数の赤外線センサを一方向に配列し、いずれの赤外線センサによって赤外線が検出されたかにより使用者300の高さを検出できる。ここでいう「高さ」とは、本質的には使用者300の視線の高さであり、実用上は、例えば背丈である。この「高さ」は、センサ7の位置、液晶表示パネル1の位置あるいは電子機器200の位置などを基準とした相対的な高さとして捉えてもよいし、使用者300が居る基準面(床面)からの絶対的な高さと捉えてもよい。
【0021】
次に、図3に沿って光学素子5の構造を詳細に説明する。なお、図3においては便宜上、一部構成を除いてハッチング記載を省略する(後述する図面においても同様)。図3に示す本実施形態の光学素子5は、第1基板51、第1電極52、プリズムアレイ53、第1配向膜54、第2基板55、第2電極56、第2配向膜57、液晶層58を含んで構成される。
【0022】
第1基板51および第2基板55は、相互に対向配置されており、それぞれ例えばガラス基板、プラスチック基板等の透明基板である。第1基板51と第2基板55との相互間には、例えば多数のスペーサー(粒状体)が分散して配置されており(図示せず)、それらのスペーサーによって第1基板51と第2基板55との相互間隔が保たれる。
【0023】
第1電極52は、第1基板51の一面側に設けられている。同様に、第2電極56は、第2基板55の一面側に設けられている。第1電極52および第2電極56、それぞれ、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を用いて構成される。例えば本実施形態では、第1電極52、第2電極56ともに、基板一面に形成されている。なお、第1電極52、第2電極56は、適宜パターニングされていてもよい。
【0024】
プリズムアレイ53は、複数の微少な傾斜状の突起形状(プリズム)を一方向に配列して構成されている。プリズムアレイ53の模式的な斜視図を図4に示す。図示のように各プリズムの断面形状は直角三角形(例えば頂角45°、底角が45°と90°)である。また、各プリズムの配置ピッチPは例えば20μm程度、高さtは例えば20μm程度である。図4に示すように、プリズムアレイ53は、上面から見るとスリット形状に形成されている。このプリズムアレイ53は、例えば耐熱性および密着性に優れた樹脂材料を成形することにより得られる。プリズムアレイ53の成形方法の詳細については後述する。
【0025】
第1配向膜54は、第1基板51の一面側に、第1電極52およびプリズムアレイ53を覆うようにして設けられている。また、第2配向膜57は、第2基板55の一面側に、第2電極56を覆うようにして設けられている。本実施形態においては、第1配向膜54および第2配向膜57として、液晶層58の液晶分子の初期状態(電圧無印加時)における配向状態を水平配向状態に規制するもの(水平配向膜)が用いられている。これらの第1配向膜54、第2配向膜57に対しては、所定の表面処理(ラビング処理、光配向処理等)が施されている。
【0026】
液晶層58は、第1基板51の一面と第2基板55の一面の相互間に設けられている。本実施形態においては、誘電率異方性Δεが正(Δε>0)のネマティック液晶材料を用いて液晶層58が構成されている。液晶層58に図示された太線は、液晶層58内の液晶分子を模式的に示したものである。電圧無印加時における液晶分子は、第1基板51および第2基板55の各基板面に対して所定のプレティルト角を有してほぼ水平に配向する。
【0027】
図5は、液晶表示パネル1からの出射光の偏光方向と、光学素子5における配向処理の方向との関係を説明するための図である。図示のように、本実施形態の液晶表示パネル1は、出射側偏光板を通過した出射光が方向a1に偏光している。図示の例では、液晶表示パネル1の左右方向を基準として45°の方向に出射光が偏光している。これに対して、第1基板51は、第1配向膜54へ施された配向処理の方向a2が上記した出射光の偏光方向a1と略平行になるように配置されている。図示の例では、配向処理の方向a2は、プリズムアレイ53の各プリズムの長手方向(延在方向)a3との間で略45°に設定されている。また、第2基板55は、第2配向膜57へ施された配向処理の方向a4が上記した第1基板51の配向処理の方向a2との間でアンチパラレルの関係になるように配置されている。
【0028】
ここで、第1基板51の配向処理の方向a2を液晶表示パネル1の出射光の偏光方向a1と略平行とすることによる利点について説明する。通常、液晶層58の液晶分子は、細長い形状を有しており、ある方向の偏光(液晶分子の長軸方向)は曲げることができるが、ある方向の偏光はそのまま透過する。したがって、液晶表示パネル1からの出射光の偏光方向a1と、光学素子5において液晶表装置側1に配置される第1基板51に施される配向処理の方向a2とが平行になるように配置することにより、原理的には、出射光の全成分を曲げることができる。すなわち、光の利用効率が高くなる。これに対して、例えば液晶表示パネル1からの出射光の偏光方向a1と光学素子5における配向処理の方向a2が45°になるように配置した場合には、原理的に、出射光のうち約1/2の成分は曲げられるが残りの成分は制御することができなくなる。さらに、偏光方向a1と配向処理の方向a2とが直交するように配置した場合には、原理的に、光学素子5によって液晶表示パネル1の出射光を制御することができなくなる。したがって、液晶表示パネル1からの出射光の偏光方向a1と、光学素子5における配向処理の方向a2とが略平行になるように配置することがより望ましいといえる。なお、プリズムアレイ53の各プリズムの長手方向a3については、表示画像全体をどちらの方向に移動させるかという点では考慮する必要があるが、表示画像を移動可能かという点ではどの方向に設定しても影響がない。
【0029】
次に、図6に沿って本実施形態の画像表示システム100の動作を説明する。光学素子5の第1電極52および第2電極56を用いて液晶層58に電圧を印加すると、印加した電圧の大きさに応じて光学素子5を介して観察される液晶表示パネル1の表示画像の視角方向を自在に制御できる。例えば、電圧無印加時において画像表示システム100によって形成される表示画像の視角方向が図6(A)に白抜き矢印で示すように液晶表示パネル1の出射面に対する垂線方向であるとする。これに対して、光学素子5に電圧を印加することにより液晶表示パネル1からの出射光の進行方向を制御することで、図6(B)に白抜き矢印で示すように表示画像の視角方向を変えることができる。
【0030】
これは、第1電極52および第2電極56を介して液晶層58に電圧を印加することにより液晶分子の配列が変化し、それにより液晶層58の屈折率値が変化するため、複数の微少な傾斜状の突起形状であるプリズムアレイ53と液晶層58との界面を透過する光の屈折角が変化するためである(スネルの法則)。屈折角の大きさは、プリズムアレイ53の形状や液晶層58の屈折率異方性の値等により一概にいえないが、諸条件を調整することにより現状で18°程度までの屈折角を実現し得ることが確認できている。この屈折角は、光学素子5へ印加される電圧に応じて連続的に変化させることができる。したがって、センサ7によって検出される使用者の高さに応じて光学素子駆動部6から光学素子5へ供給される電圧を変化させることで、種々の使用者に対してその使用者の状況に応じた見やすい表示画像を実現することができる。
【0031】
例えば、複写機などの電子機器の表示部は、コスト面の要請等によりSTN(超ねじれネマティック)型の液晶表示パネルを用いて構成されている場合が多い。STN型の液晶表示パネルは安価で高精細なドットマトリクス表示を実現できる優れた表示方式であるが、比較的に視角が狭いという問題がある。例えば、上記した図2に示したように、使用者300として一般の大人を想定して電子機器200の表示部が水平方向から8°程度傾けて設置されているとする。この場合に、使用者300が一般の大人であれば光学素子5を作動させなくとも液晶表示パネル1による表示画像を良好に視認することができる。しかし、使用者300が子供等であり、その視点が相対的に低い場合には、液晶表示パネル1による表示画像の白黒が反転して見え、あるいは表示コントラストが低くなるなど、表示画像を良好に視認することができない。このときに、使用者300の高さに応じた電圧を光学素子5へ印加することによって表示画像の視角方向を変えることで、使用者300が子供等であっても液晶表示パネル1の表示画像を正面から見たときと同様の良好な視認状態を得られる。
【0032】
次に、光学素子5の製造方法の一例について詳述する。
【0033】
まず、第1基板51および第2基板55として用いるためのガラス基板を用意する。これらのガラス基板としては、予めITO(インジウム錫酸化物)などの透明導電材料からなる導電膜を有するものがより好ましい。例えば、厚さが1500ÅのITO膜を有し、板厚が0.7mm、ガラス材質が無アルカリガラスである一対のガラス基板を用意する。第1基板51、第2基板55のそれぞれについて、ITO膜を適宜パターニングすることにより、第1電極52、第2電極56を形成する。
【0034】
次に、第1基板51の第1電極52上にプリズムアレイ53を形成する。ここでは、断面が三角形状であり、そのピッチPが20ミクロン、高さtが約20μm、頂角45°、底角が45°と90°であり、上面から見るとスリット形状を有する金型(全体の大きさが例えば横60mm×縦60mm)を用いてプリズムアレイ53を形成する。
【0035】
具体的には、第1基板51上に光硬化性樹脂を滴下し、その上に金型を置き、かつ第1基板51の裏面側を厚手の石英基板等で補強した状態でプレスを行う。プレス後にある程度の時間(例えば1分間以上)だけ放置し、光硬化性樹脂材料を十分に広げた後、第1基板51側から光を照射することで光硬化性樹脂材料を硬化させる。光の照射量は光硬化性樹脂材料が硬化するのに十分な値を適宜に設定する。ここで、一般にプリズム用材料は耐熱性が低く、プリズムアレイ53上に第1配向膜54を形成する際の熱処理(例えば180℃以上)により特性が劣化してしまう場合が多い。これに対して、本実施形態では、熱処理前後での透過率特性の低下がほとんど生じない光硬化性(例えば紫外線硬化性)のアクリル系樹脂材料を用いる。光硬化性樹脂材料の屈折率は例えば1.51程度である。
【0036】
以上により第1基板51上に透明樹脂膜からなるプリズムアレイ53が形成される。その後、このプリズムアレイ53が形成された第1基板51を洗浄機により洗浄する。洗浄は、例えば、アルカリ洗剤を用いたブラシ洗浄、純水洗浄、エアーブロー、紫外線(UV)照射、赤外線(IR)乾燥の順に行うことができるがこれに限定されない。高圧スプレー洗浄やプラズマ洗浄などを行ってもよい。
【0037】
次いで、プリズムアレイ53が形成された第1基板51に第1配向膜54を形成する。同様に、第2基板55に第2配向膜57を形成する。ここでは例えばポリイミドを配向膜として用いる。フレキソ印刷法、インクジェット法、スピンコート法、スリットコート法、スリット法とスピンコート法の組みあわせ等の適宜の方法で配向膜材料を第1基板51上、第2基板55上にそれぞれ適当な膜厚(例えば800Å程度)で塗布し、熱処理(例えば180℃で1.5時間の焼成)を行う。そして、熱処理によって得られた第1配向膜54、第2配向膜57のそれぞれに対して配向処理を行う。この配向処理は、第1基板51と第2基板55とを重ね合わせたときに各基板上の液晶分子の配向方向がアンチパラレル配向になるように行う。また、配向処理は、第1配向膜54への配向処理の方向がプリズムアレイ53の各プリズムの延在方向に対して45°となるようにする。
【0038】
ここでは配向処理として、例えばラビング処理を行うが、光配向処理等の配向処理であってもよいし、複数種の配向処理を組み合わせてもよい。例えば、第1基板51に対しては光配向処理を行い、第2基板55にはラビング処理を行うなどの組み合わせが考えられる。第1基板51に対して光配向処理を施す場合には、例えば紫外線を偏光した光を第1基板51に対して法線方向から照射する方法を用いることができる。このときの紫外線は、第1基板51に対しては垂直方向から照射しているが、プリズムアレイ53の各プリズムの斜面部分に対しては相対的に45°傾いた方向から照射しているに等しいことになる。露光に用いる偏光フィルタの波長は例えば310nmである。
【0039】
次いで、一方の基板(例えば第1基板51)上に、ギャップコントロール剤を適量(例えば2〜5wt%)含んだメインシール剤を形成する。メインシール剤の形成は、例えばスクリーン印刷やディスペンサーによる。また、ギャップコントロール剤の径は、プリズムアレイ53のベース層とプリズムの高さを含め、液晶層58の厚さが5〜35μm程度となるように材料を選ぶことができる。本実施形態では、ギャップコントロール剤としてその径が45μmのプラスチックボールを用いる。また、他方の基板(例えば第2基板55)上にはギャップコントロール剤を散布する。例えば本実施形態では、21μmのプラスチックボールを乾式のギャップ散布機によって散布する。
【0040】
次いで、第1基板51と第2基板55とを重ね合わせ、プレス機などで圧力を一定に加えた状態で熱処理することにより、メインシール剤を硬化させる。ここでは、例えば150℃で3時間の熱処理を行う。その後、第1基板51と第2基板55の間隙に液晶材料を充填することにより液晶層58を形成する。液晶材料の充填は、例えば真空注入法によって行う。本実施形態では、誘電率異方性△εが正、屈折率異方性Δnが0.212(ne=1.716、no=1.504)の液晶材料を用いる。液晶材料の注入後、その注入口にエンドシール剤を塗布し封止する。そして、封止後に適宜熱処理(例えば120℃で1時間)を行うことにより、液晶層58の液晶分子の配向状態を整える。以上のようにして本実施形態の光学素子5が得られる。
【0041】
次に、光学素子5の他の構成例について図7に沿って説明する。図7に示す光学素子5aは、第1基板51、第1電極52a、プリズムアレイ53a、第1配向膜54a、第2基板55、第2電極56、第2配向膜57、液晶層58を含んで構成される。上述した図3に示した光学素子5では第1電極52の上側にプリズムアレイ53が配置されていたが、図7に示す例の光学素子5aはプリズムアレイ53a上に第1電極52aが配置されている点が構造上の相違である。上記したような高い耐熱性を有する樹脂材料を用いて形成されたプリズムアレイ53a上であれば、本例のようにプリズムアレイ53aの上側にITO等の透明導電材料からなる第1電極52aを設けることもできる。なお、図示を省略するがプリズムアレイ53aと第1電極52aとの間に両者の密着性をより向上させるための酸化珪素(SiO)膜が設けられていることも好ましい。
【0042】
図7に例示する光学素子5aにおいては、第1基板51上の第1電極52aと液晶層58との間にプリズムアレイ53aが存在することなく、第1電極52aから直接的に液晶層58へ電圧を印加できることから、光学素子5aを駆動するための電圧をより低下させることが可能になる。また、図3に示した光学素子5、図7に示した光学素子5aのいずれについても、第1電極、第2電極の一方または双方がストライプ状(短冊状)などの形状にパターニングされていてもよい。それにより、表示画像の視角方向を変化させる領域と変化させない領域を設定することが可能となる。例えば、表示画像の一部は視角方向を変化させ、他の一部は視角方向を変化させないことにより表示画像の反転状態を部分的に制御できるので、それを利用して電子機器200の異常等を強調表示することもできる。
【0043】
なお、本発明は上述した各実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。
【0044】
例えば、上記した実施形態では画像表示装置の一例として液晶表示装置を示していたが、これに限定されない。本発明における画像表示装置は、出射される光が偏光しているものであればよく、例えば、単色タイプで外観が鏡面になっていない有機EL(エレクトロルミネッセンス)表示装置等を用いることもできる。
【0045】
また、上記した実施形態における液晶層は水平配向に規制されていたが、90°捩れ配向等の配向モードとしてもよい。また、液晶層にカイラル剤を添加することなどにより液晶分子の配列方向を変えてもよい。また、液晶層を形成する際の手法は真空注入にのみ限定されず、ODF法を用いてもよい。
【0046】
また、プリズムアレイの断面形状は、上記した三角形状にのみ限定されない。断面形状は、例えば正弦波(サインカーブ)状でもよい。また、プリズムアレイの上面形状は、上記したストライプ状にのみ限定されない。上面形状は、例えば格子状、同心円状、楕円状、フレネルレンズ状、ドット状などでもよい。さらに、プリズムアレイの各プリズムの長手方向と配向処理の方向とを45°にしていたが、角度はこれに限定されず適宜設定できる。
【0047】
また、上記した実施形態においては電子機器の一例として複写機、ファクシミリ機を挙げていたが、これらは例示に過ぎない。本発明は、表示部を備える電子機器一般に対して適用することが可能である。例えば、車載用の画像表示装置に適用し、搭乗者の身長(座高)に応じて表示画像の視角方向を制御するのも好ましい態様の1つである。
【0048】
また、上記した実施形態では光学素子を画像表示装置の前面側に配置していたが、光学素子を画像表示装置の後面側に配置してもよい。ただし、視角特性の制御性という観点では光学素子を前面側に配置するほうがより好ましいといえる。
【符号の説明】
【0049】
1:液晶表示パネル(LCD)
2:液晶駆動部
3:タッチパネル駆動部
4:タッチパネル
5、5a:光学素子
6:光学素子駆動部
7:センサ
51:第1基板
52、52a:第1電極
53、53a:プリズムアレイ
54、54a:第1配向膜
55:第2基板
56:第2電極
57:第2配向膜
58:液晶層
100:画像表示システム
200:電子機器
300:使用者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出射光が偏光した画像表示装置と組み合わせて用いられる画像制御装置であって、
前記画像表示装置の前面側に配置される光学素子と、
前記画像表示装置の使用者の高さを検出するセンサと、
前記センサによって検出された前記使用者の高さに応じた電圧で前記光学素子を駆動する光学素子駆動部を含み、
前記光学素子は、
相互に対向配置される第1基板及び第2基板と、
前記第1基板上に設けられ、前記光学素子駆動部と接続された第1電極と、
前記第1基板上に設けられたプリズムアレイと、
前記第1電極及び前記プリズムアレイの上側に設けられた第1配向膜と、
前記第2基板上に設けられ、前記光学素子駆動部と接続された第2電極と、
前記第2電極の上側に設けられた第2配向膜と、
前記第1基板の前記第1配向膜と前記第2基板の前記第2配向膜の間に設けられた液晶層を有する、
画像制御装置。
【請求項2】
前記光学素子は、前記第1配向膜に施された配向処理の方向を前記画像表示装置の前記出射光の偏光方向を略平行にして配置されている、請求項1に記載の画像制御装置。
【請求項3】
前記光学素子は、前記第1基板側を前記画像表示装置の前面側と密着して配置されている、請求項1又は2に記載の画像制御装置。
【請求項4】
前記画像表示装置が液晶表示装置である、請求項1〜3の何れか1項に記載の画像制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の画像制御装置と画像表示装置を備える画像表示システム。
【請求項6】
請求項5に記載の画像表示システムを表示部として備える電子機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−185444(P2012−185444A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50141(P2011−50141)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】