説明

画像形成がなされた多孔金属板

【課題】意匠選択自由度が高く視認性に優れる画像形成がなされた多孔金属板を提供すること。
【解決手段】多数の打抜孔21を有する開孔率0.5%以上60%以下の多孔金属板2であって、表面22及び孔内側面211に転写画像を形成してあり、前記転写画像が、1)表面22及び孔内側面211に樹脂塗膜23を形成し、2)さらに、画像を被転写物に昇華転写する転写シートであって基材11及びインク受理層12を有し前記基材11が単層又は複層のプラスチックフィルムであり前記基材11の酸素透過度が10ml/m2/day/atm以下である転写シート1に、画像を印刷したものを重畳して、3)真空状態で加熱して昇華転写を行うことにより、形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数の孔あけ加工された金属板上に画像がもうけられた多孔金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ロゴ等の表示物が描出された多孔金属板が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、エッチングなどを利用して、金属に直接孔あけ加工をし、その孔の大きさなどを調節することで、表示が出来るようにしたものが記載されている。
【特許文献1】特開2006−039187号公報(0006段落)
【0003】
多孔板にインキや塗料を使って着色画像が形成されている事例は、世の中にほとんど見当たらない。テレビやラジオのスピーカ部に使われている保護金属パネルなどに、一部、着色がなされている実例はあるものの、それらは、単色もしくは二色の全面ベタ刷りしかなく、しかも、画像としての表示(パターニング)をされたものではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載された多孔金属板は、写真的な着色画像を表示することができないという問題があった。
【0005】
世の中には、多孔金属板に写真的な着色画像を作れないかとの要求は多い。しかも、その場合、意匠的な観点から、金属板の孔の内側面(以下、「孔内側面」という。)にも画像が形成できたらとの要望が強い。あらかじめ、金属板上にオフセットやシルク印刷で、着色画像を作成しておき、その後に、パンチング等で孔をあければ、表面に画像が形成された多孔金属板を作成することは可能である。しかし、そのように形成した多孔金属板では、パンチングにより孔付近の表面の画像が欠けてしまうおそれがある。また画像形成後にパンチングしているため孔付近の画像の耐久性が悪くなるおそれがある。また、孔内側面の画像形成は出来ず、見る方向が正面から少しでもずれると孔内側面の金属面がむき出しになり、美しさに欠け、意匠的に優れない。
【0006】
本発明の第1の目的は、上記した課題を解決し、多孔金属板に写真的な着色画像を表示することを可能にする転写シートを提供することにある。
【0007】
本発明の第2の目的は、上記した課題を解決し、意匠選択自由度が高く視認性に優れる多孔金属板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、上記第1の目的を達成するため、画像を被転写物に昇華転写する転写シートであって、基材及びインク受理層を有し、前記基材が、単層又は複層のプラスチックフィルムであり、前記基材の酸素透過度が10ml/m2/day/atm以下であることを特徴とする転写シートを提供する。かかる酸素透過度の値は、20℃、65%RHでの値である。フィルムはコーティングフィルムでも非コーティングフィルムでもよい。酸素透過度が10ml/m2/day/atmより大きいと、被転写物が多孔金属板であるとき、ガス化したインキが転写シートの基材を通り抜け、その結果、基材裏面がインキで汚染される。したがって、転写画像濃度がそれだけ小さくなり実質的に転写効率を落とすことになる。なお、本願において酸素透過度の測定はJISK7126に準拠して行われたものである。
【0009】
また、本発明の第2の態様は、多数の打抜孔を有する開孔率0.5%以上60%以下の多孔金属板であって、表面及び孔内側面に転写画像を形成してあり、前記転写画像が、1)表面及び孔内側面に樹脂塗膜を形成し、2)さらに前記した本発明の第1の態様の転写シートに画像を印刷したものを重畳して、3)真空状態で加熱して昇華転写を行うことにより、形成されたことを特徴とする多孔金属板を提供する。
【0010】
また、本発明の第3の態様は、金属板に多数の打抜孔を形成するステップ、前記金属板の表面及び孔内側面に樹脂塗膜を形成するステップ、前記した本発明の第1の態様の転写シートに画像を印刷するステップ、前記金属板の表面及び孔内側面に前記転写シートを重畳して真空状態で加熱して昇華転写を行うステップを有することを特徴とする、金属板への画像形成方法を提供する。
【0011】
また、本発明の第4の態様は、多数の打抜孔を有する開孔率0.5%以上60%以下の多孔金属板であって、表面及び孔内側面に転写画像を形成してあり、前記転写画像が、1)表面及び孔内側面に樹脂塗膜を形成し、2)さらに転写シートに画像を印刷したものを重畳して、3)真空状態で加熱して昇華転写を行うことにより、形成されたことを特徴とする多孔金属板を提供する。
【0012】
また、本発明の第5の態様は、金属板に多数の打抜孔を形成するステップ、前記金属板の表面及び孔内側面に樹脂塗膜を形成するステップ、転写シートに画像を印刷するステップ、前記金属板の表面及び孔内側面に前記転写シートを重畳して真空状態で加熱して昇華転写を行うステップを有することを特徴とする、金属板への画像形成方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の転写シートによれば、多孔金属板に写真的な着色画像を表示することを可能にすることができる。また、本発明の多孔金属板によれば、意匠選択自由度が高く視認性に優れる。また、本発明の多孔金属板によれば、裏面の斜めから見たときに孔内側面に形成された画像が見える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明者らは、多孔金属板に、本発明者らが金属への画像形成法として開発した昇華転写法(特開2003−137239号公報)が適用できないかどうか検討し、試行錯誤を繰り返した。
【0015】
昇華転写法では、昇華性染料を含む着色組成物を塗布した転写紙を被転写物に重ね合わせ、これらをホットプレートとゴムシートとの間に挟んで真空状態で加熱して互いに密着させることにより、転写紙の昇華性染料を被転写物に転写を行う。
【0016】
本実施形態は、多孔金属板上に写真的な鮮明な着色画像を形成させると同時に、金属板の孔の内側面にも同様の着色画像が形成できるようにしたものである。すなわち、染料インキが加熱されることで容易にガス化して飛び、相性の良い樹脂中に浸透しやすいと言う特性を持った昇華転写法によって、スプレー塗装により樹脂塗膜を表面に形成した多孔板と、プラスチックフィルムを基材とする画像付の転写シートとを真空密着させた際、孔内側面に完全にフィットさせて転写を行い、画像を形成させたものである。したがって、孔内側面への鮮明な画像が得られる。
【0017】
<転写シート>
本実施形態の転写シートは、画像を被転写物に昇華転写するシートであって、基材及びインク受理層を有する。本発明の転写シートの基材は、酸素透過度10ml/m2/day/atm以下である。基材は、樹脂コーティングしたプラスチックフィルムからなる複層フィルムでも、ノンコーティングのプラスチックフィルムからなる単層フィルムでもよい。本発明の転写シートは、基材を表面処理してその表面にインク受理層を塗布して作製される。
【0018】
プラスチックフィルムは柔軟性があるため、あらかじめ孔あけした金属板が被転写物のとき、孔内側面にも転写シートが伸びて転写がされる。
【0019】
本実施形態の転写シートは、基材の酸素透過度が極めて低いので、昇華したインクが基材を透過しにくく、したがって転写時に真空状態としたときも、被転写物の孔部分であってもインキが基材を通り抜けてしまうのを防止でき、また、インキが基材に染み込んでしまうのを防止できるので転写装置への汚染を防止し、インキを効率よく使うことができる。
【0020】
また、本実施形態の転写シートは、基材の酸素透過度が10ml/m2/day/atm以下であるので、転写シートと貫通穴のある被転写物が加熱真空下で両者がぴったり密着フィットでき、したがって画像のボケがない。転写時に真空状態としたときも、被転写物の孔部分であってもインキが基材に染み込まないので、裏抜けを防止でき、画像濃度が高い。また、基材がフィルムであるため紙よりも柔軟性があり孔内側面部分も画像印刷が可能である。したがって、多孔金属板に写真的な着色画像を表示することを可能にすることができる。また、昇華したインクが基材を透過しにくく、したがって転写時に真空状態としたときも、被転写物の孔部分であってもインキが基材を通り抜けてしまうのを防止でき、ガス化したインキが裏回りして転写装置を汚染することがない。本実施形態の転写シートによれば、転写装置への汚染を防止し、インキを効率よく使うことができるようにするとともに孔内側面へのより鮮明なる転写画像が得られる。
【0021】
また、基材は、カルボニル(C=O)結合の無い組成成分を含むことが好ましい。基材は、フィルム組成成分中にカルボニル結合の無いフィルムであることがより好ましい。基材は、プラスチックフィルムに、主成分の組成成分としてカルボニル結合のない樹脂の溶液をコーティングしたコーティングフィルムであってもよい。本発明者らが鋭意検討して実験した結果、カルボニル結合の無いフィルムでは、基材自身が染色されにくいことが判明した。転写効率を損なわない観点からも、転写時に転写シート自体にはインキが直接染色されないほうがよい。シート基材がカルボニル結合をもたない組成からなるフィルムであることによって、基材自身の染色をより抑制でき、転写効率も向上する。
【0022】
基材は、例えば、ポリビニルアルコールフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、エチレン‐ビニルアルコールフィルムからなることが好ましい。また基材は、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのフィルムに、ポリビニルアルコールやポリ塩化ビニリデンなど、カルボニル結合のない樹脂溶液を塗布したコーティングフィルムであってもよい。
【0023】
また、基材は、加熱されることで伸びる性質を持ちあわせたプラスチックスフィルムであることが好ましい。加熱によって伸びるので、昇華転写時において柔軟性に富み、被転写物が多孔でもフィット性に優れ、上述した基材自身が染色されにくい性質との相乗効果で転写シートに印刷したインクが被転写物の孔内側面までも鮮明に転写でき、より美しく多孔金属板に写真的な着色画像を表示することを可能にする。熱可塑性樹脂のフィルムが基材そのものであることが好ましいが、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの酸素透過度が高い熱可塑性樹脂のフィルムでも、酸素透過度の低いポリビニリデンやポリビニルアルコールなどの樹脂溶液を塗布したコーティングフィルムを基材とすることも可能である。
【0024】
また、基材は、柔軟性があることが好ましく、それゆえ、熱可塑性をもったフィルムが好適である。真空状態で加熱した際に、転写シートが多孔金属板の孔内側面にぴったりと貼り付けられるので、孔の内側まで転写される。
【0025】
基材のフィルムは、膜厚が、5μm以上100μm以下であることが好ましく、10μm以上30μm以下であることがより好ましい。100μmより厚いと孔内側面への密着性がやや低くなる。5μmより薄いとしわ等が入りやすく、ハンドリングの点で難点がある。10μm以上30μm以下であると、孔内側面への密着性が優れかつしわ等が入らず、より美しく多孔金属板に写真的な着色画像を表示することを可能にすることができる。
【0026】
インク受理層は、基材の表面に塗布して設けてある。あえてインク受理層を設けないで直接基材上にインクパターンを形成することも不可能では無いが、インキの乾燥性を付与させたり、鮮明な転写画像を得るためには、あらかじめ、基材上にインク受理層を形成させておくほうが望ましい。そこで、まず、基材フィルム上にインク受理層がうまく密着できるように基材の表面処理することが望ましい。かかる表面処理には、例えば、コロナ処理、フレーム処理、プラズマ処理、紫外線照射処理などの表面活性化処理が挙げられる。受理層の形成に使われる塗工用樹脂としては、ビニルアルコール、ビニルブチラール、ニトロセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ビニルエチルエーテル、塩素化ポリプロピレン、環化ゴム、SBR(スチレン-ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)などの各樹脂が単独もしくは混合して使用される。通常、これらの樹脂液に、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化アルミなどの充填材を分散させて塗工液を作成することが出来る。かかる塗工液を使用し、スプレー、ロールコーターなどの塗布機で、フィルム上に塗装することで、インク受理層の形成が完了することになる。インク受理層はカルボニル結合を含まない材料で構成されることが好ましい。インクジェット印刷したときに、インキがインク受理層の内部に入り込まずにインク受理層の表面に付着した状態になるので、転写時に被転写物にインキが効率よく転写できる。インク受理層の乾燥後の膜厚は0.1μm以上20μm以下が好ましい。
【0027】
<多孔金属板>
本実施形態の多孔金属板は、多数の打抜孔を有する金属製の板状のものである。本実施形態の多孔金属板は、金属製の板に貫通孔を多数形成して表面の汚れを除去する前処理を行った後、樹脂の塗膜を形成し、表面及び孔内側面に画像を昇華転写して形成して作成する。
【0028】
金属板としては、例えば、ステンレス板、鋼板、アルミニュウム板、銅板、黄銅板、亜鉛板、その他の合金板等が挙げられる。金属板の厚みは、0.5mm以上10mm以下であることが好ましい。より好ましくは、0.5mm以上5mm以下であることが望ましい。画像を転写する際、転写シートと多孔金属板とが真空密着され、転写シートが多孔金属板の孔の内側面部にまでフィットして鮮明な画像を得られるが、金属板の厚みが小さいほうが転写シートと金属孔部との密着がスムーズであり、10mm以下の厚みとすることにより、より鮮明な画像を得られる。5mm以下の厚みとすることにより、フィルムがやや柔軟性に富んでいなかったり、金属孔の形状が複雑であったり、転写時の真空度がやや低かった場合にも、より鮮明な画像が得られる。
【0029】
(孔形成)
本実施形態では、孔は画像を金属板に転写するより前に形成する。例えば、打ち抜きポンチ及びこれに対向するダイスを使った打ち抜き法によって貫通孔を形成する等によって、金属板に多数の孔を形成する。打ち抜き法による加工では、金属板に一列または複数列に並んだ多数の孔を一挙に形成することが可能で、多数の孔を一定のピッチで孔あけができる。孔の形状としては、丸孔をはじめ、スロット孔、角孔、亀甲孔等、様々な形状が挙げられる。
【0030】
孔のサイズには特に制限が無いが、実際に板にあけられた孔の開孔率は、0.5%以上60%以下であることが好ましい。開孔率が大きくなりすぎると金属表面に占める画像の面積が少なくなり、その結果画像が見ずらくなる。そのため、画像としての特長を生かすために、より好ましくは、開孔率が1%以上30%以下であることが望ましい。
【0031】
本実施形態では、孔形成後、表面や孔内側面に付着した油や汚れなどを除去する前処理を行う。
【0032】
(樹脂塗膜形成)
本実施形態の多孔金属板には、孔形成、前処理後、表面及び孔内側面に樹脂塗膜を形成してある。かかる樹脂塗膜は、昇華性染料が加熱して染色できるようにするための受像層としての役割を果たす。
【0033】
塗膜を形成するにあたり、まず、多孔金属板の脱脂表面処理を行う。かかる処理により、打ち抜かれた金属板の表面に付着した油やその他の汚染物を除去する。脱脂表面処理は、KOHやNaOHの加熱水溶液を使い、浸漬もしくは液吹き付け法による脱脂洗浄をすることが望ましい。
【0034】
ついで、脱脂表面処理した多孔金属板の表面及び孔内側面に樹脂を塗装して塗膜を形成させる。塗膜を形成する塗料としては、例えば、好適には、ポリエステル‐メラミン、ポリエステル‐イソシアネート、アクリル‐メラミン、アクリル‐イソシアネート等の成分から成る熱硬化性で透明な物性を持った樹脂が挙げられる。塗膜形成方法としては、スプレー塗装が好ましい。かかる方法では、金属孔の内側面にまで、均一な塗膜が形成しやすい。裏面には、樹脂液が回りこまないように、テープなどで仮止めしておくと良い。また、スプレー塗装のなかでも静電スプレー塗装がより好ましい。かかる方法によれば、凸凹のある細かい部分にまで塗膜が形成できる。
【0035】
次に、オーブンや加熱炉にて樹脂皮膜を硬化させる。例えば、150〜230℃、30秒〜20分の条件で硬化を行う。塗装後に硬化させることで、鮮明で耐候性のある転写画像用受像層である塗膜が得られることになる。
【0036】
あらかじめ孔あけした金属板に樹脂塗工液をスプレーすることによって染料受像塗膜を形成したものであるるから、孔内側面にも樹脂がスプレーされて受像できる。
【0037】
(転写シート上への転写前画像の形成)
上記した多孔金属板に転写画像を作製するに際し、あらかじめ、上記した本実施形態の転写シート上に転写前の画像が形成される。例えば、オフセット、グラビア、シルクスクリ−ン、静電、インクジェットなどの印刷方式が適用できる。そのうち、鮮明な画像と工程の少ない観点から、インクジェット方式で行うことが望ましい。
【0038】
インクジェット方式の場合、そこで使われるインキは、溶剤型、水性型のいずれも使えるが、環境面から勘案して水性型のインキを使うことがより好ましい。インキは、各種分散染料に、分散剤や界面活性剤などを添加し、微分散化したものが使われる。昇華性染料は、加熱された際に昇華、揮発等の現象により転移しうる染料をいい、たとえばキノフタロン誘導体、アントラキノン誘導体、アゾ系色素等の分散染料が好適に用いられる。また、従来より昇華熱転写、昇華転写捺染等で使用されているものが特に制限なく使用でき、次に示す染料が例示される。
【0039】
イエロー系昇華性染料:Kayacet Yellow AG、Kayaset Yellow TDN(以上、日本化薬製)、RTY 52、Dianix Yellow 5R-E、Dianix Yellow F3G-E、Dianix Brillant Yellow 5G-E(以上、三菱化学製)、ブラスト Yellow 8040、DY108(以上、有本化学製)、SumikaronYellow EFG、Sumikaron Yellow E-4GL(以上、住友化学製)、FORON BrilliantYellow SGGLPI(Sand社製)、PS イエローGG(以上、三井東圧染料製)。
【0040】
マゼンタ系昇華性染料:Kayaset Red 026、Kayaset Red 130、Kayaset Red B(以上、日本化薬製)、OilRed DR-99、Oil Red DK-99(以上、有本化学製)、Diacelliton Pink B(以上、三菱化学製)、Sumikaron Red E-FBL(以上、住友化学製)、Latyl Red B(以上,DuPont社製)、Sudan Red 7B(以上、BASF社製)、Resolin Red FB、CeresRed 7B(以上,Bayer社製)。
【0041】
シアン系昇華性染料:Kayalon Fast Blue FG、Kayalon Blue FR、Kayacet Blue 136、Kayacet Blue 906(以上、日本化薬製)、Oil Blue 63(以上、有本化学製)、HSB9,RTB 31(以上、三菱化学製)、Disperse Blue #1(以上、住友化学製)、MS Blue 50(以上、三井東圧染料製)、Ceres Blue GN(以上、Bayer社製)、Duranol Brilliant Blue 2G(以上、ICI社製)。
【0042】
各色用の昇華性染料はこれらを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。黒色はイエロー、マゼンタ、シアン色用の昇華性染料を適宜混合することにより得られる。イエロー、マゼンタ、シアン以外の色の昇華性染料としては、昇華温度(液状物からの揮発温度を含む)が60℃以上のものが適当である。昇華性染料を選択する際には昇華温度の高い染料の方が比較的分子量が高く、耐光性及び耐熱性に優れる性質をもっているのでより好ましい。
【0043】
(画像転写)
本発明の多孔金属板には、孔形成、前処理、樹脂塗膜形成の後、昇華転写で、表面及び孔内側面に画像を転写してある。画像の昇華転写は、上記したような手順で転写する画像を転写シートに形成したものと、上記したような手順で孔形成を行い樹脂塗膜を形成した多孔金属板とを、転写シートの転写する画像側の面が多孔金属板の画像を転写される側の表面と向かい合うようにして重ねあわせ、その両者をホットプレートとゴムシートとの間に挟んで真空状態で加熱して互いに密着させることにより、転写シートの昇華性染料を被転写物に転写する。昇華転写装置やその他の転写条件については、公知の、例えば特開2003−137239に記載されたものに準拠する。
【0044】
転写シートを、多孔金属板と密着させて、加熱しつつ真空状態下に置くことで、転写シートの基材のフィルムが伸びて孔内側面にも十分密着し、画像が多孔金属板の表面及び孔内側面に転写される。
【0045】
本発明の多孔金属板は、このように、孔形成、樹脂塗膜形成を経て画像転写を行って製作される。本発明の多孔金属板は表面だけでなく孔内側面にも昇華転写の画像が形成してあり、ロゴや単色・2色の全面ベタ刷りだけでなく画像としての表示や写真的な着色画像を表示でき、意匠選択自由度が高く視認性に優れる。孔を形成してから画像を昇華転写するため、製作中に表面の画像が欠けてしまうおそれがなく、また耐久性が良い。また、孔の側面部にも連続した画像形成がされているため、見る方向が正面からずれても孔内側面の金属面が見えず美しく意匠性に優れる。
【0046】
以下、本発明の転写シート及び多孔金属板について、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
[実施例1:転写シート]
実施例1の転写シートは、画像を被転写物に昇華転写するシートであって、基材及びインク受理層を有する。実施例1の転写シートは、A4サイズで15μm厚みのエチレン‐ビニルアルコールフィルム(エバールEF‐F、株式会社クラレ製)にコロナ表面処理を行ったものを基材とし、その上に、酸化ケイ素入りエチルセルロース塗工液をミヤバーを用いて塗布するミヤバーコーテイングを行って2μm厚のインキ受容層を形成し、作製した。本実施例の基材のフィルムは、酸素透過度が、20℃65%RHで、0.5ml/m2/day/atmである。
【0048】
実施例1の転写シートは、基材の酸素透過度が極めて低いので、昇華したインクが基材を透過しにくく、また、プラスチックフィルムであるため紙よりも柔軟性がある。実施例1の転写シートによれば、転写装置への汚染も防止でき、インキを効率よく使うことができた。また、膜厚が薄いので、被転写物が多孔でも、孔内側面への真空密着性が優れていた。また、実施例1の転写シートによれば、基材のフィルムがカルボニル(C=O)結合の無い組成成分を有するフィルムであるので、基材自身が染色されず、かつ被転写物が多孔でもフィット性に優れ、これらの相乗効果で転写シートに印刷したインクが被転写物の孔内側面までも鮮明に転写でき、美しく多孔金属板に写真的な着色画像を表示することを可能にすることができた。
【0049】
[実施例2:転写シート]
実施例2の転写シートも、画像を被転写物に昇華転写するシートであって、基材及びインク受理層を有する。本実施例において、基材は、コーティングしたフィルムを有する。実施例2の転写シートは、ポリプロピレンフィルムに塩化ビニリデン樹脂を塗布して作られた20μm厚のフィルム(KOP1000、ダイセル化学製)にコロナ表面処理を行ったものを基材とし、その上に、酸化ケイ素入りの塩素化ポリプロピレン樹脂塗料をミヤバー塗布し、1μmの膜厚のインキ受容層を形成し、作製した。本実施例の基材の、コーティングしたフィルムは、酸素透過度が、20℃80%RHで、8.2ml/m2/day/atmである。なお、20℃65%RHでは、かかる値より小さくなる。
【0050】
実施例2の転写シートによれば、昇華したインクが基材を透過しにくく、柔軟性が高く、孔内側面への密着性が優れかつしわ等がより入りにくく、かつ、基材のフィルムがカルボニル(C=O)結合の無い塩化ビニリデン樹脂でコーティングされたフィルムであるので、基材自身が染色されず、かつ被転写物が多孔でもフィット性に優れ、これらの相乗効果で転写シートに印刷したインクが被転写物の孔内側面までも鮮明に転写でき、美しく多孔金属板に写真的な着色画像を表示することを可能にすることができた。また、転写装置への汚染もなく、インキを効率よく使うことができた。
【0051】
[比較例1:転写シート]
比較例1の転写シートは、従来から昇華転写用に用いられてきた紙製の転写紙(Sコート2:三菱製紙株式会社製)で、厚みは、165μmである。
【0052】
比較例1の転写シートでは、柔軟性が無く、曲がりにくく、被転写物が多孔金属板である昇華転写では、孔内側面にうまくフィットせず、そのため、孔内側面部分では、画像はぼやけたものになった。また、転写時に、転写紙自身への染色、すなわち裏抜けが認められた。
【0053】
[比較例2:転写シート]
比較例2の転写シートは、12μm厚みのPET(ポリエチレンテレフタラート)フィルムに、コロナ表面処理を行ったものを基材とし、その上に、酸化ケイ素入り水性ウレタン樹脂塗料をミヤバーコーテイングしてインク受理層を形成し、作成した。比較例2の転写シートの基材のフィルムは、酸素透過度が、20℃20%RHで、50ml/day/atmである。なお、20℃65%RHでは、かかる値よりやや大きくなる。
【0054】
比較例2の転写シートでは、昇華したインクが基材に直接染まると同時に基材を通り抜け、裏抜けとともに転写装置の汚染を生じやすかった。
【0055】
[実施例3:多孔金属板]
実施例3の多孔金属板は、多数の打抜孔を有する多孔金属板であって、表面及び孔内側面に転写画像を形成してあり、上記転写画像が、1)表面及び孔内側面に樹脂塗膜を形成し、2)さらに実施例1の転写シートに画像を印刷したものを重畳して、3)真空状態で加熱して昇華転写を行うことにより、形成した。より詳細には、以下の手順で形成した。
【0056】
まず、板厚2mmのアルミ板にパンチング打ち抜きによりえられた開孔率15%の丸孔型アルミ金属板のA4サイズのものに、水酸化ナトリウムの加熱水溶液に浸漬させて、脱脂洗浄することにより表面の油や汚れを除去する塗装表面処理を施し、その上に、ポリエステル系クリア樹脂塗料(AT−1005:関西ペイント株式会社製)を乾燥塗膜で20ミクロンになるようスプレー塗装することで多孔塗装金属板を得た。次に、実施例1の転写シートに対して、ミマキ製のインクジェットプリンター(JV4−130)を使い水性インキにより模様印刷した。その後、多孔金属塗装板と模様の形成された転写シートを重ねあわせ、真空状態で、155℃、5分間加熱して転写を終了した。
【0057】
実施例3の多孔金属板の表面及び孔内側面には、鮮明なる模様画像が得られた。図1は、本発明の実施例3の画像形成がなされた多孔金属板の外観を示す図である。図1において、多孔金属板2は壁に立てかけた状態である。実施例1の転写シートを用いるので、基材自身が染色されることがなく、被転写物の孔部分であってもインキが基材を貫通するのを防止でき、よって転写装置を汚染したりインキの転写効率を損なったりすることなく、また、転写画像濃度が高く、したがって写真的な着色画像が表示された。その際、基材へのインキの染み込んで生じる裏抜けがなく、したがって転写シート自体の着色は皆無であった。また、基材にインキが通り抜けて生じる転写シート裏面へのインキの回り込みがなく、したがって転写装置の汚れや転写シートの裏汚れは皆無であった。
【0058】
実施例3の多孔金属板によれば、表面だけでなく孔内側面にも昇華転写の画像が形成してあるので、ロゴや単色・2色の全面ベタ刷りだけでなく画像としての表示や写真的な着色画像を表示でき、意匠選択自由度が高く視認性に優れるものであった。また、孔を形成してから画像を昇華転写してあるため、製作中に表面の画像が欠けてしまうおそれがなく、また転写したインキは塗膜内に染み込んでいるため転写後にコーティング等を行わなくても耐久性が良かった。また、孔の側面部にも連続した画像形成がされているため、見る方向が正面からずれても孔内の金属面が見えず美しく意匠性に優れていた。た、孔の側面部にも転写画像を形成してあるので、表面側から見たときのみならず、裏面の斜めから見たときにも孔内側面の画像が見え、意匠性に優れていた。なお、表面側に上述したように画像を転写した後、裏面側も同様にして画像を転写してもよい。
【0059】
[実施例4:多孔金属板]
実施例4の多孔金属板は、実施例1の転写シートの代わりに実施例2の転写シートを用いること以外、実施例3の多孔金属板と同様に作製した。
【0060】
図2は、本発明の実施例4の画像形成がなされた多孔金属板の製造手順を示すフロー図である。金属板に孔21を形成して多孔金属板2を作成した。次に、前処理によって表面の汚れや油を除去して、多孔金属板2の表面22及び孔内側面211にスプレー塗装で塗膜23を形成した。そして、ポリプロピレンのフィルム111に塩化ビニリデンのコート層112を設けた基材11のコート層112側にインク受理層12を設けた転写シート1に写真画質の画像のインキ3を印刷して、インク受理層12側を多孔金属板2の表面22と向かい合うように重ね合わせた。これをホットプレートとゴムシートの間に挟んで真空状態にして密着させ、孔内側面211にもインク受理層12を密着させた。昇華転写によって画像を転写シート1から多孔金属板2に転写したら、転写シート1を取り外した。孔内側面211の塗膜23にもインキ3が転写された。
【0061】
実施例4の多孔金属板の表面及び孔内側面には、上記した実施例3の多孔金属板と同様に、鮮明なる模様画像が得られた。実施例2の転写シートを用いるので、実施例1の転写シートを用いる実施例3の多孔金属板と同様に、写真的な着色画像が表示された。その際、転写シート自体の着色及び転写シート裏面へのインキの回り込みは全くなかった。
【0062】
実施例4の多孔金属板によれば、上記した実施例3の多孔金属板と同様に、意匠選択自由度が高く視認性に優れるものであった。また、耐久性等についても、上記した実施例3の多孔金属板と同様な効果が得られた。
【0063】
[比較例3:多孔金属板]
比較例3の多孔金属板は、実施例1の転写シートの代わりに比較例1の転写シートを用いたこと以外、実施例3の多孔金属板と同様に作製した。
【0064】
比較例3の多孔金属板では、基材が紙から出来ているため、柔軟性が無く、そのために、孔内側面にはうまくフィットしなかった。比較例3の多孔金属板の表面側には写真的な画像が得られるが画像濃度が極めて小さく、金属板の孔内側面には、ぼやけた画像しか得られなかった。それは、画像が形成された転写紙とインキが受像される塗膜とが完全に密着されないからである。また、転写時に、裏抜けが認められ、そのため、多孔金属板の表面においても画像濃度が小さくなっていた。
【0065】
[比較例4:多孔金属板]
比較例4の多孔金属板は、実施例1の転写シートの代わりに比較例2の転写シートを用いること以外、実施例3の多孔金属板と同様に作製した。比較例2の多孔金属板の表面及び孔内側面には、鮮明なる画像が得られるものの、実施例3及び実施例4で得られた画像より、画像濃度が、はるかに小さかった。また、転写時に、転写シートの基材にも直接着色されてしまった。
【0066】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、その発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々と変形実施が可能である。また、上記各実施の形態の構成要素を発明の趣旨を逸脱しない範囲で任意に組み合わせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、これまで出来なかった金属孔の内側面部にも写真的な絵柄が入ることを可能ならしめたことで、絵柄入り金属板としての意匠性が大幅に向上したものであり、それによって、電子機器や建材などの各種パネルへの適用が、より拡大するものと期待される。
【0068】
本発明は、高速道路、鉄道の防音壁、立ち入り禁止の防御柵などの外装パネル、住宅の非常階段やバルコニーの目隠しパネル、書籍ラック、家具、什器などの内装パネル、さらには、テレビやラジオ機器のスピーカ部などの電気、電子機器パネルなど多方面に適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施例3の画像形成がなされた多孔金属板の外観を示す図である。
【図2】本発明の実施例4の画像形成がなされた多孔金属板の製造手順を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0070】
1 転写シート
11 基材
111 フィルム
112 コート層
12 インク受理層
2 多孔金属板
21 孔
211 孔内側面
22 表面
23 塗膜
3 インキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像を被転写物に昇華転写する転写シートであって、基材及びインク受理層を有し、前記基材が、単層又は複層のプラスチックフィルムであり、前記基材の酸素透過度が10ml/m2/day/atm以下であることを特徴とする転写シート。
【請求項2】
多数の打抜孔を有する開孔率0.5%以上60%以下の多孔金属板であって、表面及び孔内側面に転写画像を形成してあり、前記転写画像が、1)表面及び孔内側面に樹脂塗膜を形成し、2)さらに請求項1に記載の転写シートに画像を印刷したものを重畳して、3)真空状態で加熱して昇華転写を行うことにより、形成されたことを特徴とする多孔金属板。
【請求項3】
金属板に多数の打抜孔を形成するステップ、前記金属板の表面及び孔内側面に樹脂塗膜を形成するステップ、請求項1に記載の転写シートに画像を印刷するステップ、前記金属板の表面及び孔内側面に前記転写シートを重畳して真空状態で加熱して昇華転写を行うステップを有することを特徴とする、金属板への画像形成方法。
【請求項4】
多数の打抜孔を有する開孔率0.5%以上60%以下の多孔金属板であって、表面及び孔内側面に転写画像を形成してあり、前記転写画像が、1)表面及び孔内側面に樹脂塗膜を形成し、2)さらに転写シートに画像を印刷したものを重畳して、3)真空状態で加熱して昇華転写を行うことにより、形成されたことを特徴とする多孔金属板。
【請求項5】
金属板に多数の打抜孔を形成するステップ、前記金属板の表面及び孔内側面に樹脂塗膜を形成するステップ、転写シートに画像を印刷するステップ、前記金属板の表面及び孔内側面に前記転写シートを重畳して真空状態で加熱して昇華転写を行うステップを有することを特徴とする、金属板への画像形成方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−233990(P2009−233990A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−82256(P2008−82256)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(501032755)株式会社マーキングマジック (7)
【出願人】(593062979)株式会社ウチヌキ (2)
【Fターム(参考)】