説明

画像形成方法

【課題】比較的液体の浸透が緩やかな記録媒体に画像形成する場合に、記録媒体への密着性及び耐傷性に優れた画像が形成される画像形成方法を提供する。
【解決手段】セルロースパルプを主成分とした支持体上の少なくとも一方の面に、一層もしくは多層の顔料層を有し、動的走査吸液計で測定した純水の転移量が、接触時間100msにおいて1ml/m以上15ml/m以下であってかつ接触時間400msにおいて2ml/m以上20ml/m以下である記録媒体上に、顔料、水、及び組成物総量に対する含有比率が15質量%以上40質量%未満である水溶性の重合性化合物を含み、水溶性有機溶剤の含有量が3質量%未満であるインク組成物を、インクジェット法により付与して画像を形成するインク付与工程と、前記記録媒体に形成された画像を乾燥させる乾燥工程と、乾燥工程後の前記画像に対して活性エネルギー線を照射して硬化する硬化工程とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット法を利用した画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット技術は、種々の被記録媒体に所望の画像形成が可能であることから、オフィスプリンタ、ホームプリンタ等の分野及び商業分野において広く期待されている画像記録方法である。
【0003】
インクジェット記録に用いるインクとしては、溶剤系のほか、地球環境や作業環境に配慮する点から水系のインクが注目されている。その中でも、水性顔料インクに重合性のモノマー成分を含ませて硬化させることにより耐傷性の高い画像形成する技術が検討されている。
【0004】
このような画像形成技術の1つとして、例えば、水性媒体中に色材、紫外線重合性物質、光重合開始剤を含有する紫外線硬化性インクを用い、基材にインクが着弾してから所定時間のうちに紫外線(UV)照射するインクジェット記録方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
一方、重合性のモノマー成分を含ませて硬化させる方法として、モノマー成分を熱重合させる技術がある。例えば、セルロースパルプが主成分の支持体上に顔料層が塗布された記録メディアにインクを用いて印字した後、加熱するインクジェット記録方法が開示されている(例えば、特許文献2〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−209976号公報
【特許文献2】特開2008−100511号公報
【特許文献3】特開2011−42150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の技術のうち、インク着弾から所定時間のうちに紫外線照射する方法では、インクが紙に吸収される前に露光することで膜質(耐傷性・耐水性)と用紙変形(カール)の抑制を高めるとされているが、所望の硬化感度を得ることは難しい。すなわち、UV硬化型の水性インクについては、適切に乾燥させることが良好な露光感度を得る上で重要であることが判明しており、上記のようにインク着弾後直ぐの露光では充分な感度を得ることができない。しかも、感度が充分得られないため、インク着弾後直ぐにUV照射するにはUV光源と吐出ヘッドとの設置位置が近くなり、UV光源からの漏光で吐出孔近傍のインクが硬化し、結果としてヘッドを損なう原因となる。そのため、システム上のリスクも非常に高い。
【0008】
また、加熱硬化させる方法では、印字後、顔料層(すなわちコート紙のコート層)中にインク由来の水や水溶性有機溶剤が多く残留するために、顔料層の強度が著しく低下し、層自体が弱くなるのみならず、画像の密着性や画像自体の強度が問題となる。これは、画像形成後の記録メディアを経時させ、水性媒体が揮発もしくはパルプ中へ拡散することで、コート層中の水や溶剤の残留量が減少して緩和される。そのため、1日以上の経時が必要とされる。従って、印字後直ぐに加工などを施すことは、実質上不可能である。
【0009】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、紫外線硬化型の水性インクを用い、比較的液体の浸透が緩やかな記録媒体に画像形成する場合に、記録媒体への密着性及び耐傷性に優れた画像が形成される画像形成方法を提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
<1> セルロースパルプを主成分とした支持体上の少なくとも一方の面に、一層もしくは多層の顔料層を有し、動的走査吸液計で測定した純水の転移量が、接触時間100msにおいて1ml/m以上15ml/m以下であって、かつ接触時間400msにおいて2ml/m以上20ml/m以下である記録媒体上に、顔料、水、及び組成物総量に対する含有比率が15質量%以上40質量%未満である水溶性の重合性化合物を含み、水溶性有機溶剤の含有量が3質量%未満であるインク組成物を、インクジェット法により付与して画像を形成するインク付与工程と、前記記録媒体に形成された画像を乾燥させる乾燥工程と、乾燥工程後の前記画像に対して活性エネルギー線を照射して前記画像を硬化する硬化工程と、を有する画像形成方法である。
<2> 前記重合性化合物の少なくとも1つは、分子内にアクリルアミド構造を有するモノマー化合物である前記<1>に記載の画像形成方法である。
<3> 前記重合性化合物の少なくとも1つは、分子内にアクリルアミド構造を有する単官能アクリルアミドである前記<1>又は前記<2>に記載の画像形成方法である。
【0011】
<4> 前記重合性化合物の少なくとも1つは、分子内にアクリルアミド構造を有する単官能アクリルアミドであり、該単官能アクリルアミドの含有量がインク組成物の総質量に対して、10質量%以上である前記<1>〜前記<3>のいずれか1つに記載の画像形成方法である。
<5> 前記インク付与工程の前に、更に、前記インク組成物と接触したときに凝集体を形成する凝集成分を含む処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程を有する前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載の画像形成方法である。
<6> 前記インク付与工程の前に、更に、前記インク組成物と接触したときに凝集体を形成する凝集成分を含む処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程を有し、前記凝集成分として、酸、多価金属塩、及びカチオン性ポリマーから選ばれる少なくとも1種を含む前記<1>〜前記<5>のいずれか1つに記載の画像形成方法である。
<7> 前記顔料は、その表面の少なくとも一部がポリマー分散剤で被覆された水分散性顔料である前記<1>〜前記<6>のいずれか1つに記載の画像形成方法である。
<8> 前記顔料は、その表面の少なくとも一部がカルボキシル基を有するポリマー分散剤で被覆された水分散性顔料である前記<1>〜前記<7>のいずれか1つに記載の画像形成方法である。
<9> 前記記録媒体は、コート紙、軽量コート紙、又は微塗工紙である前記<1>〜前記<8>のいずれか1つに記載の画像形成方法である。
【0012】
<10> 前記インク付与工程の前に、更に、前記インク組成物と接触したときに凝集体を形成する凝集成分を含む処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程を有し、前記インク組成物及び前記処理液の少なくとも一方が、更に重合開始剤を含む前記<1>〜前記<9>のいずれか1つに記載の画像形成方法である。
<11> 前記記録媒体にインク組成物の液滴が着弾した時点から5秒以内に乾燥を開始する前記<1>〜前記<10>のいずれか1つに記載の画像形成方法である。
<12> 前記インク付与工程におけるインク組成物の最大付与量が15ml/m以下である前記<1>〜前記<11>のいずれか1つに記載の画像形成方法である。
<13> 前記乾燥工程は、最大付与量を15ml/m以下として記録媒体上に付与されたインク組成物中の水分量の60〜80質量%が除去される乾燥条件にて、記録媒体上の画像を形成するインク組成物中の水の少なくとも一部を除去する前記<1>〜前記<12>のいずれか1つに記載の画像形成方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、紫外線硬化型の水性インクを用い、比較的液体の浸透が緩やかな記録媒体に画像形成する場合に、記録媒体への密着性及び耐傷性に優れた画像が形成される画像形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の画像形成方法の実施に用いるインクジェット記録装置の構成例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の画像形成方法について詳細に説明する。
本発明の画像形成方法は、顔料、水、及び組成物総量に対する含有比率が15質量%以上40質量%未満である水溶性の重合性化合物を含み、水溶性有機溶剤の含有量が3質量%未満であるインク組成物を、インクジェット法により記録媒体に付与して画像を形成するインク付与工程と、記録媒体に形成された画像を乾燥させる乾燥工程と、乾燥工程後の前記画像に対して活性エネルギー線を照射して硬化する硬化工程とを設けて構成されている。このとき、画像の被記録媒体として、セルロースパルプを主成分とした支持体上の少なくとも一方の面に、一層もしくは多層の顔料層を有し、動的走査吸液計で測定した純水の転移量が下記のa)及びb)を満たす記録媒体を用いる。
a)接触時間100msのときの転移量:1ml/m以上15ml/m以下
b)接触時間400msのときの転移量:2ml/m以上20ml/m以下
また、本発明の画像形成方法は、必要に応じて、更に、インク組成物と接触して凝集体を形成する処理液を付与する処理液付与工程などの他の工程を設けて構成されてもよい。
【0016】
本発明においては、顔料層を有して純水の転移量が上記のa)及びb)を満たす、水の浸透が比較的緩やかな記録媒体に画像形成するにあたり、インク組成物を水溶性有機溶剤を実質的に含まない組成とし、UV照射前に予め記録媒体上のインク組成物を乾燥する。すなわち、従来のようにインク着弾後直ぐにUV照射するのではなく、乾燥後の画像に対して紫外線(UV)照射することで、従来に比べ、画像における硬化反応がより良好に進行する。更に、インク組成物中の重合性化合物は顔料と共に層表面に残るが、重合性化合物の一部は水等とともに顔料層中に浸透するため、硬化反応させた際に画像と共に顔料層が硬化される。これにより、特に顔料層を有する記録媒体を用いた場合に、水や水溶性有機溶剤の浸透を抑えるのみならず、従来に比べ、記録媒体との密着性及び耐傷性により優れた画像が形成される。
例えばセルロースパルプを主成分とする支持体上に顔料層としてコート層を有するコート紙では、インク組成物が着弾するとコート層にインク中の水及び水溶性有機溶剤が浸透する一方で、コート層はセルロースパルプへの水等の浸透を抑える。このコート層による水等の浸透遅延効果により、記録媒体の変形(例えばカール)が防止される。コート層表面の画像及びコート層中には重合性化合物が存在し、上記のように乾燥を経た後にUV照射することで、画像がコート層と共に硬化し、形成された画像は密着性及び耐傷性に優れる。
【0017】
−記録媒体−
まず、本発明における記録媒体について詳述する。
本発明においては、画像が形成される被記録媒体として、セルロースパルプを主成分とした支持体上の少なくとも一方の面に、一層もしくは多層の顔料層を有し、動的走査吸液計で測定した純水の転移量が、接触時間100msにおいて1ml/m以上15ml/m以下であって、かつ接触時間400msにおいて2ml/m以上20ml/m以下である記録媒体を用いる。
【0018】
(支持体)
本発明におけるセルロースパルプを主成分とした支持体としては、化学パルプ、機械パルプ及び古紙回収パルプ等を任意の比率で混合して用いられ、必要に応じて内添サイズ剤、歩留まり向上剤、紙力増強剤等を添加した原料を長網フォーマやギャップタイプのツインワイヤーフォーマ、長網部の後半部をツインワイヤーで構成するハイブリッドフォーマ等で抄紙されたものが使用される。
ここで、前記「主成分」とは、支持体の質量に対して、50質量%以上含まれる成分をいう。
【0019】
前記支持体に使用するパルプは、バージンのケミカルパルプ(CP)、例えば、広葉樹晒クラフトパルプ、針葉樹晒クラフトパルプ、広葉樹未晒クラフトパルプ、針葉樹未晒クラフトパルプ、広葉樹晒亜硫酸パルプ、針葉樹晒亜硫酸パルプ、広葉樹未晒亜硫酸パルプ、針葉樹未晒亜硫酸パルプなどの木材及びその他の繊維原料を化学的に処理して作製されたバージンのケミカルパルプ、及び、バージンの機械パルプ(MP)、例えば、グランドパルプ、ケミグランドパルプ、ケミメカニカルパルプ、セミケミカルパルプなどの木材及びその他の繊維原料を主に機械的に処理して作製されたバージンの機械パルプを含有させてもよい。また古紙パルプを用いてもよく、古紙パルプの原料としては、財団法人古紙再生促進センターの古紙標準品質規格表に示されている、上白、罫白、クリーム白、カード、特白、中白、模造、色白、ケント、白アート、特上切、別上切、新聞、雑誌などが挙げられる。具体的には、情報関連用紙である非塗工コンピュータ用紙、感熱紙、感圧紙等のプリンタ用紙;PPC用紙等のOA古紙;アート紙、コート紙、微塗工紙、マット紙等の塗工紙;上質紙、色上質、ノート、便箋、包装紙、ファンシーペーパー、中質紙、新聞用紙、更紙、スーパー掛け紙、模造紙、純白ロール紙、ミルクカートン等の非塗工紙、などの紙や板紙の古紙で、化学パルプ紙、高歩留りパルプ含有紙などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
前記支持体には、填料や内添サイズ剤などを用いることができる。填料や内添サイズ剤等の詳細については、特開2011−42150号公報の段落番号[0025]〜[0027]の記載を参照することができる。
【0021】
(顔料層)
本発明における記録媒体は、前記支持体上の少なくとも一方の面に、一層もしくは多層の顔料層を有する。
【0022】
前記顔料層に用いられる顔料としては、その種類に特に制限はなく、従来公知の有機顔料及び無機顔料を用いることができ、これらを1種又は2種以上混合して用いることができる。
例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、珪藻土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、リトポン、ゼオライト、加水ハロイサイト、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等の白色無機顔料、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン、マイクロカプセル、尿素樹脂、メラミン樹脂等の有機顔料等が挙げられる。記録媒体の透明性を保持して印画濃度を向上させる観点からは、白色無機顔料が好ましい。
【0023】
前記顔料層は、更に水性バインダー、酸化防止剤、界面活性剤、消泡剤、抑泡剤、pH調節剤、硬化剤、着色剤、蛍光増白剤、防腐剤、耐水化剤などの添加剤を含有することができる。
前記水性バインダーとしては、例えば、スチレン/マレイン酸塩共重合体、スチレン/アクリル酸塩共重合体、ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、澱粉、カチオン化澱粉、カゼイン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子、スチレンブタジエンラテックス、アクリルエマルジョン等の水分散性高分子等が挙げられる。
【0024】
前記顔料層を支持体上に形成する方法は、特に制限なく目的に応じて適宜選定できる。例えば、顔料を水に分散した分散液を原紙に塗布し、乾燥させることで、顔料層を形成できる。
【0025】
本発明において、前記顔料層中の顔料の量は0.1g/m〜20g/mが好ましく、0.5g/m〜10g/mの範囲がより好ましい。顔料の量が0.1g/m以上であると、耐ブロッキング性が良好であり、また顔料の量が20g/m以下であると、脆性の点で有利である。顔料層に含まれる顔料は、当該層の全固形分に対して10質量%以上含有することが好ましく、より好ましくは14質量%以上であり、更に18質量%以上含有することが好ましい。
【0026】
〜記録媒体の物性〜
本発明における記録媒体は、動的走査吸液計で測定した純水の該記録媒体への転移量が、接触時間100msにおいて1ml/m以上15ml/m以下、かつ、接触時間400msにおいて2ml/m以上20ml/m以下であることを特徴とする。
本発明の画像形成方法では、前記転移量の範囲にある比較的インク吸収量の少ない記録媒体を用いて、解像度が高く、耐水性及び耐擦性に優れた記録画像を得ることができる。換言すれば、本発明の画像形成方法によれば、前記転移量の範囲を超えた転移量を示す、多量のインクを吸収し得る記録媒体(例えば、インクジェット専用紙など)を用いなくても、インクジェット法により、解像度が高く、耐水性及び耐擦性に優れた記録画像を得ることができる。
【0027】
なお、前記転移量に関し、接触時間100msにおいて1ml/m以上、及び接触時間400msにおいて2ml/m以上とは、記録媒体がインクを吸収し得る顔料層を有することを示す。また、接触時間100msにおいて15ml/m以下、及び接触時間400msにおいて20ml/m以下とは、インクの吸収量が比較的少ないことを示す。
すなわち、「動的走査吸液計で測定した純水の記録媒体への転移量」が上記の範囲内にあることは、記録媒体が顔料層を有してインクの浸透量が少ないことを意味する。
【0028】
ここで、動的走査吸収液計(dynamic scanning absorptometer;DSA,紙パ技協誌、第48巻、1994年5月、第88〜92頁、空閑重則)は、極めて短時間における吸液量を正確に測定できる装置である。動的走査吸液計は、吸液の速度をキャピラリー中のメニスカスの移動から直読する、試料を円盤状とし、この上で吸液ヘッドをらせん状に走査する、予め設定したパターンに従って走査速度を自動的に変化させ、1枚の試料で必要な点の数だけ測定を行う、という方法によって測定を自動化したものである。紙試料への液体供給ヘッドはテフロン(登録商標)管を介してキャピラリーに接続され、キャピラリー中のメニスカスの位置は光学センサで自動的に読み取られる。具体的には、動的走査吸液計(K350シリーズD型、協和精工株式会社製)を用いて、純水又はインクの転移量を測定する。接触時間100ms及び接触時間400msにおける転移量は、それぞれの接触時間の近隣の接触時間における転移量の測定値から補間により求めることができる。測定は23℃50%RHで行なわれる。
【0029】
本発明における記録媒体においては、動的走査吸液計で測定した接触時間100msにおける純水の該記録媒体への転移量は、1ml/m〜15ml/mであり、1ml/m〜10ml/mがより好ましく、1ml/m〜8ml/mがさらに好ましい。接触時間100msでの純水の転移量が少なすぎると、ビーディングが発生しやすくなることがある。また、該転移量が15ml/mを超えて多くなり過ぎると、記録後のインクドット径が所望の径よりも小さくなりすぎることがある。
なお、ビーディングとは、インクジェット記録時に、あるインク滴が、記録媒体上に打たれてから次のインク滴が打たれるまでの間に、記録媒体内部に吸収され切れずに記録媒体の表面に液体状態で残り、後から打たれたインク滴と混合することにより、インク中の着色剤が部分的に塊となって濃度ムラができる現象をいう。
【0030】
本発明における記録媒体においては、動的走査吸液計で測定した接触時間400msにおける純水の該記録媒体への転移量は、2ml/m〜20ml/mであり、2ml/m〜15ml/mがより好ましく、2ml/m〜10ml/mがさらに好ましい。接触時間400msでの転移量が少なすぎると、乾燥性が不十分であるため、拍車痕が発生しやすくなることがある。また、該転移量が20ml/mを超えて多くなり過ぎると、ブリードが発生しやすく、乾燥後の画像部の光沢が低くなりやすい。
【0031】
本発明における記録媒体の顔料層は、顔料と樹脂バインダーとを主成分とする構成である。樹脂配合量をリッチにすることで前記転移量が減少する方向に、顔料配合量をリッチにすることで前記転移量が増加する方向に、それぞれ調整可能である。また、顔料層を構成する顔料粒子の比表面積を大きくすること、例えば粒径を小さくしたり、比表面積の大きな種類の顔料を使用することでも、前記転移量を大きくすることが可能である。
【0032】
本発明における記録媒体としては、例えば、一般のオフセット印刷などに用いられる、いわゆる塗工紙を用いることができる。塗工紙は、セルロースを主体とした一般に表面処理されていない上質紙や中性紙等の表面にコート材を塗布してコート層を設けたものである。一般的に塗工紙を記録媒体として用いる通常の水性インクジェットによる画像形成においては、画像の滲みや耐擦性など品質上の問題を生じやすいが、本発明の画像形成方法では、画像滲みが抑制されて均質で濃度ムラの発生が防止され、画像解像度が高く、耐擦性の良好な画像を記録することができる。
【0033】
本発明の画像形成方法によれば、コート紙、軽量コート紙、又は微塗工紙を好適に用いることができ、これらの記録媒体上に高品位の画像を効果的に形成することができる。
前記塗工紙は、一般に上市されているものを入手して使用できる。例えば、一般印刷用塗工紙を用いることができ、具体的には、A2グロス紙では「OKトップコート+」(王子製紙製)、「オーロラコート」(日本製紙製)、「パールコート」(三菱製紙製)、「Sユトリロコート」(大王製紙)、「ミューコートネオス」(北越製紙)、「雷鳥コート」(中越パルプ製)、A2マット紙では「ニューエイジ」(王子製紙製)、「OKトップコートマット」(王子製紙製)、「ユーライト」(日本製紙製)、「ニューVマット」(三菱製紙製)、「雷鳥マットコートN」(中越パルプ製)、A1グロスアート紙では「OK金藤+」(王子製紙製)、「特菱アート」(三菱製紙製)、「雷鳥特アート」(中越パルプ製)、A1ダルアート紙では、「サテン金藤+」(王子製紙製)、「スーパーマットアート」(三菱製紙製)、「雷鳥ダルアート」(中越パルプ製)、A0アート紙では「SA金藤+」(王子製紙製)、「高級アート」(三菱製紙製)、「雷鳥スーパーアートN」(中越パルプ製)、「ウルトラサテン金藤+」(王子製紙製)、「ダイヤプレミアダルアート」(三菱製紙製)などを挙げることができる。
【0034】
−インク付与工程−
本発明におけるインク付与工程では、顔料、水、及び組成物総量に対する含有比率が15質量%以上40質量%未満である水溶性の重合性化合物を含み、水溶性有機溶剤の含有量が3質量%未満であるインク組成物を、インクジェット法により前記記録媒体に付与して画像を形成する。
【0035】
インクジェット法による画像記録は、エネルギーを供与することにより、前記記録媒体上に前記インク組成物を吐出し、着色画像を形成する。なお、本発明に好ましいインクジェット法として、特開2003−306623号公報の段落番号0093〜0105に記載の方法が適用できる。
【0036】
インクジェット法には、特に制限はなく、公知の方式、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット方式等のいずれであってもよい。インクジェット法としては、特に、特開昭54−59936号公報に記載の方法で、熱エネルギーの作用を受けたインクが急激な体積変化を生じ、この状態変化による作用力によって、インクをノズルから吐出させるインクジェット法を有効に利用することができる。
尚、前記インクジェット法には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0037】
また、インク付与工程は、例えば記録媒体の搬送速度を変えることにより画像形成することができる。搬送速度は、画像品質を損なわない範囲であれば特に制限はなく、好ましくは、100〜3000mm/sであり、より好ましくは150〜2700mm/sであり、さらに好ましくは250〜2500mm/sである。
【0038】
本発明においては、インク組成物の記録媒体への最大付与量は15ml/m以下であることが好ましい。最大付与量が15ml/m以下であることで、画像の密着性により優れる。更には、最大付与量としては、画像の密着性と濃度の観点から、8〜15ml/mがより好ましく、8〜12ml/mが更に好ましく、8〜11ml/mが特に好ましい。最大付与量は、吐出ノズルからの吐出方法を調節することにより制御することができる。
【0039】
[インク組成物]
本発明におけるインク組成物は、水を媒体として含む水性インク組成物であり、色材として少なくとも1種の顔料、水、及び組成物総量に対する含有比率が15質量%以上40質量%未満である少なくとも1種の水溶性の重合性化合物を含み、水溶性有機溶剤の含有量を3質量%未満として構成したものである。インク組成物は、必要に応じて、更に、少なくとも1種の樹脂粒子、少なくとも1種の水溶性有機溶剤、及び界面活性剤や湿潤剤などの他の成分を用いて構成されてもよい。
【0040】
前記インク組成物は、インクジェット記録用インクとして用いられるものであり、カラー画像の記録に用いることができる。例えばフルカラー画像を形成する場合は、マゼンタ色調インク、シアン色調インク、及びイエロー色調インクとして用いることが好ましく、また、色調を整えるために、更にブラック色調インクとして用いてもよい。また、イエロー、マゼンタ、シアン色調インク以外のレッド、グリーン、ブルー、白色インクやいわゆる印刷分野における特色インク等として用いることができる。
【0041】
−顔料−
本発明におけるインク組成物は、顔料の少なくとも1種を含有する。顔料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、有機顔料、無機顔料のいずれであってもよい。顔料は、水に殆ど不溶であるか又は難溶である顔料であることが、インク着色性の点で好ましい。
【0042】
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、多環式顔料、染料キレート、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、アゾ顔料、多環式顔料などがより好ましい。
また、無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエロー、カーボンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、カーボンブラックが特に好ましい。
【0043】
有機顔料を用いる場合、有機顔料の平均粒子径は、透明性・色再現性の観点から小さい方がよいが、耐光性の観点からは大きい方が好ましい。これらを両立する観点から、平均粒子径は10〜200nmが好ましく、10〜150nmがより好ましく、10〜120nmがさらに好ましい。また、有機顔料の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布を持つもの又は単分散の粒径分布を持つもののいずれでもよい。また、単分散の粒径分布を持つ有機顔料を2種以上混合して使用してもよい。
【0044】
(分散剤)
本発明のインク組成物は、分散剤の少なくとも1種を含有することができる。前記顔料の分散剤としては、ポリマー分散剤、又は低分子の界面活性剤型分散剤のいずれでもよい。また、ポリマー分散剤は、水溶性の分散剤、又は非水溶性の分散剤のいずれでもよい。
【0045】
前記低分子の界面活性剤型分散剤は、インクを低粘度に保ちつつ、顔料を水溶媒に安定に分散させることができる。低分子の界面活性剤型分散剤は、分子量2,000以下の低分子分散剤である。また、低分子の界面活性剤型分散剤の分子量は、100〜2,000が好ましく、200〜2,000がより好ましい。
【0046】
前記低分子の界面活性剤型分散剤は、親水性基と疎水性基とを含む構造を有している。また、親水性基と疎水性基とは、それぞれ独立に1分子に1以上含まれていればよく、また、複数種類の親水性基、疎水性基を有していてもよい。また、親水性基と疎水性基とを連結するための連結基も適宜有することができる。
【0047】
前記親水性基は、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、あるいはこれらを組み合わせたベタイン型等である。前記アニオン性基は、マイナスの電荷を有するものであればいずれでもよいが、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基又はカルボン酸基であることが好ましく、リン酸基、カルボン酸基であることがより好ましく、カルボン酸基であることがさらに好ましい。前記カチオン性基は、プラスの荷電を有するものであればいずれでもよいが、有機のカチオン性置換基であることが好ましく、窒素又はリンのカチオン性基であることがより好ましい。また、ピリジニウムカチオン又はアンモニウムカチオンであることがさらに好ましい。前記ノニオン性基は、ポリエチレンオキシドやポリグリセリン、糖ユニットの一部等が挙げられる。
【0048】
前記親水性基は、アニオン性基であることが好ましい。アニオン性基は、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基、又はカルボン酸基であることが好ましく、リン酸基、カルボン酸基であることがより好ましく、カルボン酸基であることがさらに好ましい。
【0049】
また、低分子の界面活性剤型分散剤がアニオン性の親水性基を有する場合、酸性の処理液と接触させて凝集反応を促進させる観点から、pKaが3以上であることが好ましい。低分子の界面活性剤型分散剤のpKaは、テトラヒドロフラン−水(3:2=V/V)溶液に低分子の界面活性剤型分散剤1mmol/Lを溶解した液を酸あるいはアルカリ水溶液で滴定し、滴定曲線より実験的に求めた値のことである。低分子の界面活性剤型分散剤のpKaが3以上であると、理論上pH3程度の液と接したときにアニオン性基の50%以上が非解離状態になる。したがって、低分子の界面活性剤型分散剤の水溶性が著しく低下し、凝集反応が起こる。すなわち、凝集反応性が向上する。かかる観点からも、低分子の界面活性剤型分散剤は、アニオン性基としてカルボン酸基を有する場合が好ましい。
【0050】
前記疎水性基は、炭化水素系、フッ化炭素系、シリコーン系等の構造を有しており、特に炭化水素系であることが好ましい。また、疎水性基は、直鎖状構造又は分岐状構造のいずれであってもよい。また、疎水性基は、1本鎖状構造又はこれ以上の鎖状構造でもよく、2本鎖状以上の構造である場合は、複数種類の疎水性基を有していてもよい。
また、疎水性基は、炭素数2〜24の炭化水素基が好ましく、炭素数4〜24の炭化水素基がより好ましく、炭素数6〜20の炭化水素基がさらに好ましい。
【0051】
前記ポリマー分散剤のうち、水溶性分散剤としては、親水性高分子化合物が挙げられる。例えば、天然の親水性高分子化合物では、アラビアガム、トラガンガム、グアーガム、カラヤガム、ローカストビーンガム、アラビノガラクトン、ペクチン、クインスシードデンプン等の植物性高分子、アルギン酸、カラギーナン、寒天等の海藻系高分子、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、コラーゲン等の動物系高分子、キサンテンガム、デキストラン等の微生物系高分子等が挙げられる。
【0052】
また、天然物を原料に修飾した親水性高分子化合物では、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の繊維素系高分子、デンプングリコール酸ナトリウム、デンプンリン酸エステルナトリウム等のデンプン系高分子、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等の海藻系高分子等が挙げられる。
更に、合成系の親水性高分子化合物としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル等のビニル系高分子、非架橋ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸又はそのアルカリ金属塩、水溶性スチレンアクリル樹脂等のアクリル系樹脂、水溶性スチレンマレイン酸樹脂、水溶性ビニルナフタレンアクリル樹脂、水溶性ビニルナフタレンマレイン酸樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、β−ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のアルカリ金属塩、四級アンモニウムやアミノ基等のカチオン性官能基の塩を側鎖に有する高分子化合物、セラック等の天然高分子化合物等が挙げられる。
【0053】
これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンアクリル酸のホモポリマーや、他の親水基を有するモノマーとの共重合体などのように、カルボキシル基が導入された水溶性分散剤が親水性高分子化合物として好ましい。
【0054】
ポリマー分散剤のうち、非水溶性分散剤としては、疎水性部と親水性部の両方を有するポリマーを用いることができる。例えば、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート−(メタ)アクリル酸共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体等が挙げられる。
【0055】
ポリマー分散剤の重量平均分子量は、3,000〜100,000が好ましく、より好ましくは5,000〜50,000であり、更に好ましくは5,000〜40,000であり、特に好ましくは10,000〜40,000である。
【0056】
ポリマー分散剤は、自己分散性、及び処理液が接触したときの凝集速度の観点から、カルボキシル基を有するポリマーを含むことが好ましく、カルボキシル基を有し、酸価が100mgKOH/g以下のポリマーであることが好ましく、酸価は25〜100mgKOH/gのポリマーがより好ましい。特に、本発明のインク組成物を、インク組成物中の成分を凝集させる処理液と共に用いる場合には、カルボキシル基を有し、かつ酸価が25〜100mgKOH/gのポリマー分散剤が有効である。処理液については、後述する。
【0057】
顔料(p)と分散剤(s)との混合質量比(p:s)としては、1:0.06〜1:3の範囲が好ましく、1:0.125〜1:2の範囲がより好ましく、更に好ましくは1:0.125〜1:1.5である。
【0058】
顔料に代えて染料を用いてもよい。染料を用いる場合には、染料を水不溶性の担体に保持したものを用いることができる。染料としては、公知の染料を制限なく用いることができ、例えば、特開2001−115066号公報、特開2001−335714号公報、特開2002−249677号公報等に記載の染料が好適に用いられる。担体としては、水に不溶又は難溶であれば、特に制限はなく、無機材料、有機材料、及びこれらの複合材料から選択して用いることができる。具体的には、特開2001−181549号公報、特開2007−169418号公報等に記載の担体が好適に用いられる。
染料を保持した担体(水不溶性着色粒子)は、分散剤を用いて水系分散物として用いることができる。分散剤としては上述した分散剤を好適に用いることができる。
【0059】
本発明においては、画像の耐光性や品質などの観点から、顔料と分散剤と含むことが好ましく、有機顔料とポリマー分散剤とを含み、顔料表面の少なくとも一部がポリマー分散剤で被覆された水分散性顔料として含有されることがより好ましい。更には、インク組成物は、有機顔料とカルボキシル基を含むポリマー分散剤とを含み、顔料表面の少なくとも一部がカルボキシル基を有するポリマー分散剤で被覆された水分散性顔料を含むことが特に好ましく、凝集性の観点から、顔料はカルボキシル基を含むポリマー分散剤に被覆されて水不溶性であることが好ましい。
【0060】
分散状態での顔料の平均粒子径としては、10〜200nmが好ましく、10〜150nmがより好ましく、10〜100nmがさらに好ましい。平均粒子径が200nm以下であると、色再現性が良好になり、インクジェット法で打滴する際の打滴特性が良好になる。平均粒子径が10nm以上であると、耐光性が良好になる。また、色材の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布又は単分散性の粒径分布のいずれであってもよい。また、単分散性の粒径分布を持つ色材を2種以上混合して使用してもよい。
ここで、分散状態での顔料の平均粒子径は、インク化した状態での平均粒子径を示すが、インク化する前段階のいわゆる濃縮インク分散物についても同様である。
【0061】
なお、分散状態での顔料の平均粒子径、及びポリマー粒子の平均粒子径及び粒径分布は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により体積平均粒径を測定することにより求められるものである。
【0062】
顔料は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
顔料のインク組成物中における含有量としては、画像濃度の観点から、インク組成物に対して、1〜25質量%が好ましく、2〜15質量%がより好ましい。
【0063】
−重合性化合物−
本発明におけるインク組成物は、重合性基を有する水溶性の重合性化合物の少なくとも1種を含有し、活性エネルギー線が照射されることにより重合する。この重合性化合物は、前記顔料及び樹脂粒子と共に併用し、処理液と接触して凝集するときには粒子間に取り込まれて、その後の重合硬化により画像を強化する。
【0064】
水溶性とは、水に一定濃度以上溶解できることをいい、水性のインク又は処理液中に(望ましくは均一に)溶解し得るものであればよい。また、後述する水溶性有機溶剤や他の重合性化合物を添加することにより溶解度が上がってインク中に(望ましくは均一に)溶解するものであってもよい。具体的には、水に対する溶解度が10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。
【0065】
重合性化合物としては、凝集成分と顔料、樹脂粒子との反応を妨げない点で、ノニオン性又はカチオン性の重合性化合物が好ましく、水に対する溶解度が10質量%以上(更には15質量%以上)の重合性化合物が好ましい。
【0066】
本発明においては、重合性化合物のインク組成物中における含有量は、インク組成物の総質量に対して、15質量%以上40質量%未満とする。重合性化合物の含有量が15質量%未満であると、記録媒体との密着性に劣ると共に、画像強度が低下して画像の耐傷性が悪化する。重合性化合物の含有量が40質量%以上であると、画像の段差(パイルハイト)が著しく、耐傷性に劣るとともに光沢が低下する。
中でも、重合性化合物の含有量は、20質量%以上35質量%以下の範囲が好ましい。
重合性化合物は、1種単独又は2種以上を組み合わせて含有することができる。
【0067】
ノニオン性の重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルモノマー類などの重合性化合物を挙げることができる。
【0068】
前記(メタ)アクリルモノマー類としては、例えば、多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル、多価アルコールのグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸エステル、ポリエチレングリコールの(メタ)アクリル酸エステル、多価アルコールのエチレンオキシド付加化合物の(メタ)アクリル酸エステル、多塩基酸無水物と水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとの反応物などの紫外線硬化型モノマー、オリゴマーが挙げられる。
前記多価アルコールは、エチレンオキシドの付加により内部にエチレンオキシド鎖で鎖延長されたものでもよい。
【0069】
以下、ノニオン性の重合性化合物の具体例(ノニオン性化合物1〜6)を示す。但し、本発明においては、これらに限定されるものではない。
【0070】
【化1】

【0071】
また、多水酸基化合物から誘導される1分子中に2以上のアクリロイル基を有するアクリル酸エステルも用いることができる。前記多水酸基化合物としては、例えば、グリコール類の縮合物、オリゴエーテル、オリゴエステル類等が挙げられる。
【0072】
更に、ノニオン性の重合性化合物は、単糖類、2糖類などの2以上の水酸基を有するポリオールの(メタ)アクリル酸エステル又は;トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリスヒドロキシアミノメタン、トリスヒドロキシアミノエタン等との(メタ)アクリル酸エステルも好適である。
【0073】
また、ノニオン性の重合性化合物としては、分子内にアクリルアミド構造を有する水溶性の重合性化合物(好ましくはモノマー化合物)も好適である。分子内にアクリルアミド構造有する重合性化合物は、下記一般式(1)で表される化合物がより好ましい。
【0074】
【化2】

【0075】
一般式(1)中、Qはn価の基を表し、Rは水素原子又はメチル基を表す。また、nは1以上の整数を表す。
【0076】
一般式(1)で表される化合物は、不飽和ビニル単量体がアミド結合により基Qに結合したものである。Rは、水素原子又はメチル基を表し、好ましくは水素原子である。基Qの価数nは、浸透性、重合効率、吐出安定性を向上させる観点から1以上であり、中でも1以上6以下が好ましく、1以上4以下がより好ましい。本発明においては、記録媒体のコート層への浸透性の点で有利である観点から、n=1である単官能のアクリルアミドを含有することが好ましく、更には、単官能のアクリルアミドを、インク組成物の総質量に対して10質量%以上含有することがより好ましい。また、浸透性に優れるn=1である単官能の(メタ)アクリルアミドと、重合効率に優れるnが2以上の多官能の(メタ)アクリルアミドとを併用して用いることが好ましい。
【0077】
また、前記基Qは、(メタ)アクリルアミド構造と連結可能な基であれば特に制限はないが、一般式(1)で表される化合物が前述の水溶性を満たすような基から選択されることが好ましい。具体的には以下の化合物群Xから選ばれる化合物から、1以上の水素原子又はヒドロキシル基が除去された残基をあげることができる。
【0078】
−化合物群X−
エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、グリセリン、1,2,4−ブタントリオール,1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、チオグリコール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ジトリメチロールエタン、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、及びこれらの縮合体、低分子ポリビニルアルコール、又は糖類などのポリオール類。
エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンジアミンなどのポリアミン類。
【0079】
さらに、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン基等の炭素数4以下の置換又は無置換のアルキレン鎖、更にはピリジン環、イミダゾール環、ピラジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、モルホリン環などの飽和もしくは不飽和のヘテロ環を有する官能基などを例示することができる。
【0080】
前記基Qとしては、これらの中でも、オキシアルキレン基(好ましくは、オキシエチレン基)を含むポリオール類の残基であることが好ましく、オキシアルキレン基(好ましくは、オキシエチレン基)を3以上含むポリオール類の残基であることが特に好ましい。
以下に、分子内にアクリルアミド構造を有する水溶性の重合性化合物の具体例を示す。但し、本発明は、これらに制限されるものではない。
【0081】
【化3】



【0082】
【化4】

【0083】
【化5】

【0084】
【化6】

【0085】
前記カチオン性の重合性化合物は、カチオン基と不飽和二重結合等の重合性基とを有する化合物であり、例えば、エポキシモノマー類、オキタセンモノマー類などを好適に用いることができる。カチオン性の重合性化合物を含有すると、カチオン基を有することでインク組成物のカチオン性が強くなり、アニオン性インクを用いたときの混色がより効果的に防止される。
前記カチオン性の重合性化合物としては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリレート、N,N−ジメチルアミノアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノメタアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルメタアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルメタアクリルアミド、及びこれらの4級化化合物などが挙げられる。
エポキシモノマー類としては、例えば、多価アルコールのグリシジルエーテル、グリシジルエステル、脂肪族環状のエポキシドなどが挙げられる。
さらに、カチオン性の重合性化合物の例として、下記構造を有するものを挙げることができる。
【0086】
【化7】

【0087】
前記構造において、Rは、ポリオールの残基を表す。また、Xは、H又はCHを表し、AはCl、HSO又はCHCOOを表す。このポリオールを導入するための化合物としては、例えば、グリセリン、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ビスフェノールA、脂環型ビスフェノールA及びこれらの縮合物等を挙げることができる。
以下、カチオン基を有する重合性化合物の具体例(カチオン性化合物1〜11)を例示する。
【0088】
【化8】

【0089】
【化9】

【0090】
【化10】

【0091】
【化11】

【0092】
本発明における重合性化合物としては、耐傷性を高め得る観点から、多官能のモノマーが好ましく、2官能〜6官能のモノマーが好ましく、溶解性と耐傷性の両立の観点から、2官能〜4官能のモノマーが好ましい。
【0093】
−ポリマー粒子−
本発明におけるインク組成物は、ポリマー粒子の少なくとも1種を含有することができる。ポリマー粒子は、後述する処理液又はこれを乾燥させた領域と接触した際に、インク組成物中において分散不安定化して凝集し、増粘することによりインク組成物を固定化する機能を有し、インク組成物の記録媒体への密着性及び画像の耐傷性をより向上させることができる。
【0094】
ポリマー粒子は、例えば、粒子状にしたポリマーを水性媒体に分散させたラテックスとして用いることができる。ポリマーとしては、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン系樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン系樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、パラフィン系樹脂、フッ素系樹脂等を用いることができる。中でも、アクリル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、スチレン系樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン系樹脂が好ましい例として挙げられる。
【0095】
ポリマー粒子の中では、自己分散ポリマー粒子が好ましい。以下、自己分散性ポリマー粒子を例に詳述する。
自己分散性ポリマーの粒子は、界面活性剤の不存在下、分散状態(特に転相乳化法による分散状態)としたとき、ポリマー自身が有する官能基(特に酸性基又はその塩)によって、水性媒体中で分散状態となり得る水不溶性ポリマーであって、遊離の乳化剤を含有しない水不溶性ポリマーの粒子を意味する。
自己分散性ポリマーの粒子は、吐出安定性及び前記顔料を含む系の液安定性(特に分散安定性)の観点で好ましい。
【0096】
ここで、分散状態とは、水性媒体中に水不溶性ポリマーが液体状態で分散された乳化状態(エマルション)、及び、水性媒体中に水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態(サスペンション)の両方の状態を含むものである。
本発明における水不溶性ポリマーにおいては、液体組成物としたときの凝集速度と定着性の観点から、水不溶性ポリマーが固体状態で分散された分散状態となりうる水不溶性ポリマーであることが好ましい。
【0097】
自己分散性ポリマーの乳化又は分散状態、すなわち自己分散性ポリマーの水性分散物の調製方法としては、転相乳化法が挙げられる。転相乳化法としては、例えば、自己分散性ポリマーを溶媒(例えば、親水性有機溶剤等)中に溶解又は分散させた後、界面活性剤を添加せずにそのまま水中に投入し、自己分散性ポリマーが有する塩生成基(例えば、酸性基)を中和した状態で、攪拌、混合し、前記溶媒を除去した後、乳化又は分散状態となった水性分散物を得る方法が挙げられる。
【0098】
自己分散性ポリマーの粒子の分散状態とは、水不溶性ポリマー30gを70gの有機溶媒(例えば、メチルエチルケトン)に溶解した溶液、該水不溶性ポリマーの塩生成基を100%中和できる中和剤(塩生成基がアニオン性であれば水酸化ナトリウム、カチオン性であれば酢酸)、及び水200gを混合、攪拌(装置:攪拌羽根付き攪拌装置、回転数200rpm、30分間、25℃)した後、該混合液から該有機溶媒を除去した後でも、分散状態が25℃で少なくとも1週間安定に存在することを目視で確認することができる状態をいう。
【0099】
また、水不溶性ポリマーとは、ポリマーを105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100g中に溶解させたときに、その溶解量が10g以下であるポリマーをいい、その溶解量が好ましくは5g以下、更に好ましくは1g以下である。前記溶解量は、水不溶性ポリマーの塩生成基の種類に応じて、水酸化ナトリウム又は酢酸で100%中和した時の溶解量である。
【0100】
前記水性媒体は、水を含んで構成され、必要に応じて親水性有機溶媒を含んでいてもよい。本発明においては、水と水に対して0.2質量%以下の親水性有機溶媒とから構成されることが好ましく、水から構成されることがより好ましい。
【0101】
前記水不溶性ポリマーの主鎖骨格としては、特に制限は無く、例えば、ビニルポリマー、縮合系ポリマー(エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、セルロース、ポリエーテル、ポリウレア、ポリイミド、ポリカーボネート等)を用いることができる。その中で、特にビニルポリマーが好ましい。
【0102】
ビニルポリマー及びビニルポリマーを構成するモノマーの好適な例としては、特開2001−181549号公報及び特開2002−88294号公報に記載されているものを挙げることができる。また、解離性基(あるいは解離性基に誘導できる置換基)を有する連鎖移動剤や重合開始剤、イニファーターを用いたビニルモノマーのラジカル重合や、開始剤或いは停止剤のどちらかに解離性基(あるいは解離性基に誘導できる置換基)を有する化合物を用いたイオン重合によって高分子鎖の末端に解離性基を導入したビニルポリマーも使用できる。
また、縮合系ポリマーと縮合系ポリマーを構成するモノマーの好適な例としては、特開2001−247787号公報に記載されているものを挙げることができる。
【0103】
自己分散性ポリマーの粒子は、自己分散性の観点から、親水性の構成単位と芳香族基含有モノマーに由来する構成単位とを含む水不溶性ポリマーを含むことが好ましい。
【0104】
前記親水性の構成単位は、親水性基含有モノマーに由来するものであれば、特に制限はなく、1種の親水性基含有モノマーに由来するものであっても、2種以上の親水性基含有モノマーに由来するものであってもよい。前記親水性基としては、特に制限はなく、解離性基であっても、ノニオン性親水性基であってもよい。
前記親水性基は、自己分散促進の観点、形成された乳化又は分散状態の安定性の観点から、解離性基であることが好ましく、アニオン性の解離基であることがより好ましい。前記解離性基としては、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基などが挙げられ、中でも、インク組成物を構成した場合の定着性の観点から、カルボキシル基が好ましい。
【0105】
親水性基含有モノマーは、自己分散性と凝集性の観点から、解離性基含有モノマーが好ましく、解離性基とエチレン性不飽和結合とを有する解離性基含有モノマーが好ましい。解離性基含有モノマーの例としては、不飽和カルボン酸モノマー、不飽和スルホン酸モノマー、不飽和リン酸モノマー等が挙げられる。
【0106】
前記不飽和カルボン酸モノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、2−メタクリロイルオキシメチルコハク酸等が挙げられる。
前記不飽和スルホン酸モノマーの具体例としては、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビス−(3−スルホプロピル)−イタコン酸エステル等が挙げられる。
前記不飽和リン酸モノマーの具体例としては、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス(メタクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−アクリロイロキシエチルホスフェート等が挙げられる。
前記解離性基含有モノマーの中では、分散安定性、吐出安定性の観点から、不飽和カルボン酸モノマーが好ましく、アクリル系モノマーがより好ましく、特にはアクリル酸及びメタクリル酸が好ましい。
【0107】
本発明における自己分散性ポリマーの酸価としては、処理液が接触したときの凝集性が良好である観点から、150mgKOH/g以下が好ましい。更には、該酸価は、25〜100mgKOH/gがより好ましく、30〜70mgKOH/gが更に好ましい。自己分散性ポリマーの酸価が25mgKOH/g以上であると、自己分散性の安定性が良好になる。
【0108】
自己分散性ポリマーの粒子は、自己分散性と処理液が接触したときの凝集速度の観点から、カルボキシル基を有するポリマーを含むことが好ましく、カルボキシル基を有し、酸価が25〜150mgKOH/gのポリマーを含むことがより好ましく、カルボキシル基を有し、酸価が30〜100mgKOH/gのポリマーを含むことがより好ましい。
【0109】
前記芳香族基含有モノマーは、芳香族基と重合性基とを含む化合物であれば、特に制限はない。前記芳香族基は、芳香族炭化水素に由来する基であっても、芳香族複素環に由来する基であってもよい。本発明においては、水性媒体中での粒子形状安定性の観点から、芳香族炭化水素に由来する芳香族基であることが好ましい。
また、前記重合性基は、縮重合性の重合性基であっても、付加重合性の重合性基であってもよい。重合性基は、水性媒体中での粒子形状安定性の観点から、付加重合性の重合性基が好ましく、エチレン性不飽和結合を含む基であることがより好ましい。
【0110】
芳香族基含有モノマーは、芳香族炭化水素に由来する芳香族基とエチレン性不飽和結合とを有するモノマーであることが好ましい。芳香族基含有モノマーは、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記芳香族基含有モノマーの例としては、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、スチレン系モノマー等が挙げられる。中でも、ポリマー鎖の親水性と疎水性のバランスとインク定着性の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、及びフェニル(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートが更に好ましい。
なお、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0111】
自己分散性ポリマーは、(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を含むアクリル系樹脂が好ましく、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を含むアクリル系樹脂が好ましく、更には、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を含み、その含有量が10〜95質量%であることが好ましい。芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーの含有量が10〜95質量%であることで、自己乳化又は分散状態の安定性が向上し、更にインク粘度の上昇を抑制することができる。芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーの含有量は、自己分散状態の安定性、芳香環同士の疎水性相互作用による水性媒体中での粒子形状の安定化、粒子の適度な疎水化による水溶性成分量の低下の観点から、15〜90質量%がより好ましく、15〜80質量%がさらに好ましく、25〜70質量%が特に好ましい。
【0112】
自己分散性ポリマーは、例えば、芳香族基含有モノマーに由来する構成単位と、解離性基含有モノマーに由来する構成単位とを用いて構成することができる。更に、必要に応じて、その他の構成単位を更に含んでもよい。
【0113】
前記その他の構成単位を形成するモノマーとしては、前記芳香族基含有モノマーと解離性基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば、特に制限はない。中でも、ポリマー骨格の柔軟性やガラス転移温度(Tg)制御の容易さの観点から、アルキル基含有モノマーであることが好ましい。
前記アルキル基含有モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、並びにヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等の水酸基を有するエチレン性不飽和モノマー、並びにジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、等の(メタ)アクリル酸のアルキルエステル(好ましくは、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜4のアルキルエステル);
N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、Nーヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド等のN−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド、並びにN−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−(n−,イソ)ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(n−,イソ)ブトキシエチル(メタ)アクリルアミド等のN−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド等、等の(メタ)アクリルアミド系モノマー、等が挙げられる。
【0114】
自己分散性ポリマーの粒子を構成する水不溶性ポリマーの分子量としては、重量平均分子量で3000〜20万であることが好ましく、5000〜15万であることがより好ましく、10000〜10万であることが更に好ましい。重量平均分子量を3000以上とすることで、水溶性成分量を効果的に抑制することができる。また、重量平均分子量を20万以下とすることで、自己分散安定性を高めることができる。
【0115】
なお、重量平均分子量は、ゲル透過クロマトグラフ(GPC)で測定される。GPCは、HLC−8220GPC(東ソー(株)製)を用い、カラムとして、TSKgeL Super HZM−H、TSKgeL Super HZ4000、TSKgeL Super HZ2000(東ソー(株)製、4.6mmID×15cm)を3本用い、溶離液としてTHF(テトラヒドロフラン)を用いる。また、条件としては、試料濃度を0.35質量%、流速を0.35ml/min、サンプル注入量を10μl、測定温度を40℃とし、IR検出器を用いて行なう。また、検量線は、東ソー(株)製「標準試料TSK standard,polystyrene」:「F−40」、「F−20」、「F−4」、「F−1」、「A−5000」、「A−2500」、「A−1000」、「n−プロピルベンゼン」の8サンプルから作製する。
【0116】
自己分散性ポリマーの粒子を構成する水不溶性ポリマーは、ポリマーの親疎水性制御の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーに由来する構造単位(好ましくは、フェノキシエチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位及び/又はベンジル(メタ)アクリレートに由来する構造単位)を共重合比率として自己分散性ポリマー粒子の全質量の15〜80質量%を含むことが好ましい。
また、水不溶性ポリマーは、ポリマーの親疎水性制御の観点から、芳香族基含有(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を共重合比率として15〜80質量%と、カルボキシル基含有モノマーに由来する構成単位と、アルキル基含有モノマーに由来する構成単位(好ましくは、(メタ)アクリル酸のアルキルエステルに由来する構造単位)とを含むことが好ましく、フェノキシエチル(メタ)アクリレートに由来する構造単位及び/又はベンジル(メタ)アクリレートに由来する構造単位を共重合比率として15〜80質量%と、カルボキシル基含有モノマーに由来する構成単位と、アルキル基含有モノマーに由来する構成単位(好ましくは、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜4のアルキルエステルに由来する構造単位)とを含むことがより好ましく、更には加えて、酸価が25〜100であって重量平均分子量が3000〜20万であることが好ましく、酸価が25〜95であって重量平均分子量が5000〜15万であることがより好ましい。
【0117】
以下、自己分散性ポリマー粒子を構成する水不溶性ポリマーの具体例(例示化合物B−01〜B−19)を挙げる。但し、本発明においては、これらに限定されるものではない。なお、括弧内は、共重合成分の質量比を表す。
【0118】
B−01:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(50/45/5)
B−02:フェノキシエチルアクリレート/ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(30/35/29/6)
B−03:フェノキシエチルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(50/44/6)
B−04:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/エチルアクリレート/アクリル酸共重合体(30/55/10/5)
B−05:ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/メタクリル酸 共重合体(35/59/6)
B−06:スチレン/フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(10/50/35/5)
B−07:ベンジルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(55/40/5)
B−08:フェノキシエチルメタクリレート/ベンジルアクリレート/メタクリル酸共重合体(45/47/8)
B−09:スチレン/フェノキシエチルアクリレート/ブチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(5/48/40/7)
B−10:ベンジルメタクリレート/イソブチルメタクリレート/シクロヘキシルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(35/30/30/5)
B−11:フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/ブチルアクリレート/メタクリル酸共重合体(12/50/30/8)
B−12:ベンジルアクリレート/イソブチルメタクリレート/アクリル酸共重合体(93/2/5)
B−13:スチレン/フェノキシエチルメタクリレート/ブチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(50/5/20/25)
B−14:スチレン/ブチルアクリレート/アクリル酸 共重合体(62/35/3)
B−15:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/51/4)
B−16:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/49/6)
B−17:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/48/7)
B−18:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/47/8)
B−19:メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/アクリル酸共重合体(45/45/10)
【0119】
自己分散性ポリマーの粒子を構成する水不溶性ポリマーの製造方法としては、特に制限はない。例えば、重合性界面活性剤の存在下に乳化重合を行ない、界面活性剤と水不溶性ポリマーとを共有結合させる方法、親水性基含有モノマーと芳香族基含有モノマーとを含むモノマー混合物を溶液重合法、塊状重合法等の公知の重合法で共重合させる方法が挙げられる。前記重合法の中でも、凝集速度とインク組成物としたときの打滴安定性の観点から、溶液重合法が好ましく、有機溶媒を用いた溶液重合法がより好ましい。
【0120】
自己分散性ポリマーは、凝集速度の観点から、有機溶媒中で合成されたポリマーを含み、該ポリマーはカルボキシル基を有し、(好ましくは酸価が25〜50であって)該ポリマーのカルボキシル基の一部又は全部は中和され、水を連続相とするポリマー分散物として調製されたものであることが好ましい。すなわち、本発明における自己分散性ポリマー粒子の製造は、有機溶媒中でポリマーを合成する工程と、前記ポリマーのカルボキシル基の少なくとも一部が中和された水性分散物とする分散工程とを設けて行なうことが好ましい。
【0121】
前記分散工程は、次の工程(1)及び工程(2)を含むことが好ましい。
工程(1):ポリマー(水不溶性ポリマー)、有機溶媒、中和剤、及び水性媒体を含有する混合物を攪拌する工程
工程(2):前記混合物から前記有機溶媒を除去する工程
【0122】
前記工程(1)は、まずポリマー(水不溶性ポリマー)を有機溶媒に溶解させ、次に中和剤と水性媒体を徐々に加えて混合、攪拌して分散体を得る処理であることが好ましい。このように、有機溶媒中に溶解した水不溶性ポリマー溶液中に中和剤と水性媒体を添加することで、強いせん断力を必要とせずに、より保存安定性の高い粒径の自己分散性ポリマー粒子を得ることができる。混合物の攪拌方法には特に制限はなく、一般に用いられる混合攪拌装置や、必要に応じて超音波分散機や高圧ホモジナイザー等の分散機を用いることができる。
【0123】
有機溶媒としては、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、及びエーテル系溶媒が好ましく挙げられる。これらの有機溶媒の詳細については、特開2011−42150号公報の段落番号[0109]の記載を適用することができる。中でも、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒とイソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒が好ましく、油系から水系への転相時の極性変化を穏和にする観点から、イソプロピルアルコールとメチルエチルケトンの併用が好ましい。該溶剤の併用により、凝集沈降や粒子同士の融着がなく、分散安定性の高い微粒径の自己分散性ポリマー粒子を得ることができる。
【0124】
中和剤は、解離性基の一部又は全部が中和され、自己分散性ポリマーが水中で安定した乳化又は分散状態を形成するために用いられる。自己分散性ポリマーが解離性基としてアニオン性の解離基(例えばカルボキシル基)を有する場合、用いられる中和剤としては、有機アミン化合物、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物等の塩基性化合物が挙げられる。これら中和剤の詳細については、特開2011−42150号公報の段落番号[0110]の記載を適用することができる。中でも、自己分散性ポリマー粒子の水中への分散安定化の観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアミン、トリエタノールアミンが好ましい。
これら塩基性化合物は、解離性基100モル%に対して、5〜120モル%使用することが好ましい。ここでの比率の詳細については、特開2011−42150号公報の段落番号[0111]に記載されている。
【0125】
前記工程(2)においては、前記工程(1)で得られた分散体から、減圧蒸留等の常法により有機溶剤を留去して水系へと転相することで自己分散性ポリマー粒子の水性分散物を得ることができる。得られた水性分散物中の有機溶媒は実質的に除去されており、有機溶媒の量は、好ましくは0.2質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下である。
【0126】
ポリマー粒子の平均粒子径は、体積平均粒子径で1nm〜70nmの範囲が好ましく、2〜60nmの範囲がより好ましく、2〜30nmの範囲が更に好ましい。体積平均粒子径は、2nm以上であると製造適性が向上し、70nm以下であると局所ブロッキング耐性が向上する。
また、自己分散性ポリマー粒子の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布を持つもの又は単分散の粒径分布を持つもののいずれでもよい。また、水不溶性粒子を2種以上混合して使用してもよい。
なお、自己分散性ポリマーの粒子の平均粒子径及び粒径分布は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により体積平均粒径を測定することにより求められるものである。
【0127】
また、自己分散性ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、70℃以上であることが好ましく、80℃以上がより好ましく、100℃以上がさらに好ましい。ガラス転移温度(Tg)は、70℃以上であると局所ブロッキング耐性が向上する。ガラス転移温度(Tg)の上限については特に制限はない。
【0128】
ポリマー粒子は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
ポリマー粒子のインク組成物中における含有量としては、凝集速度や画像の光沢性などの観点から、インク組成物に対して、固形分濃度で1〜30質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。
また、ポリマー粒子に対する顔料の比率(例えば水不溶性顔料粒子/自己分散性ポリマー粒子)としては、画像の耐擦過性などの観点から、1/0.5〜1/10が好ましく、1/1〜1/4がより好ましい。
【0129】
以上、好ましいポリマー粒子の例として自己分散性ポリマー粒子を例に説明したが、自己分散性のポリマー粒子に限定されず、他のポリマー粒子を用いることができる。例えば、一般的に知られている乳化重合ラテックスなどのポリマー粒子も、その構成モノマー、乳化剤、及び分散条件等を調整することにより好適に使用可能である。
【0130】
−重合開始剤−
本発明におけるインク組成物は、後述する処理液に含有すると共にあるいは含有せずに、活性エネルギー線により前記重合性化合物の重合を開始する重合開始剤の少なくとも1種を含有することができる。重合開始剤は、1種単独で又は2種以上を混合して、あるいは増感剤と併用して使用することができる。
【0131】
重合開始剤は、活性エネルギー線により重合性化合物の重合反応を開始し得る化合物を適宜選択して含有することができる。重合開始剤の例として、放射線もしくは光、又は電子線により活性種(ラジカル、酸、塩基など)を発生する重合開始剤(例えば光重合開始剤等)が挙げられる。
【0132】
光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェン、p−ジメチルアミノプロピオフェノン、ベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、p,p’−ジクロロベンゾフェン、p,p’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインn−プロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインn−ブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、テトラメチルチウラムモノサルファイド、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾインパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、メチルベンゾイルフォーメートが挙げられる。更に、例えばトリフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート等の、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ハロニウム塩、芳香族スルホニウム塩、メタロセン化合物等が挙げられる。
【0133】
インク組成物が重合開始剤を含有する場合、重合開始剤のインク組成物中における含有量としては、前記重合性化合物に対して、1〜40質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましい。重合開始剤の含有量は、1質量%以上であると画像の耐傷性がより向上し、高速記録に有利であり、40質量%以下であると吐出安定性の点で有利である。
【0134】
前記増感剤としては、アミン系(脂肪族アミン、芳香族基を含むアミン、ピペリジンなど)、尿素(アリル系、o−トリルチオ尿素など)、イオウ化合物(ナトリウムジエチルジチオホスフェート、芳香族スルフィン酸の可溶性塩など)、ニトリル系化合物(N,N,ジ置換p−アミノベンゾニトリルなど)、リン化合物(トリn−ブチルホスフィン、ネトリウムジエチルジチオホスフィードなど)、窒素化合物(ミヒラーケトン、N−ニトリソヒドロキシルアミン誘導体、オキサゾリジン化合物、テトラヒドロ1,3オキサジン化合物、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドとジアミンの縮合物など)、塩素化合物(四塩化炭素、ヘキサクロロエタンなど)、エポキシ樹脂とアミンの反応生成物の高分子化アミン、トリエタノールアミントリアクリレート、等が挙げられる。
増感剤は、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。
【0135】
−水−
本発明におけるインク組成物は、水を含有するものであるが、水の量には特に制限はない。中でも、水の好ましい含有量は、10〜99質量%であり、より好ましくは30〜80質量%であり、更に好ましくは50〜70質量%である。
【0136】
−水溶性有機溶剤−
本発明におけるインク組成物は、水溶性有機溶剤を含有してもよい。水溶性有機溶剤を含有する場合、その含有量は少ないことが好ましく、本発明では水溶性有機溶剤の含有量を、インク組成物の全質量に対して3質量%未満とする。
【0137】
本発明において、水溶性有機溶剤の含有量が3質量%未満であることは、インク組成物中に積極的に水溶性有機溶剤を含有していないことを意味し、好ましくは水溶性有機溶剤を含まないこと(含有量:0質量%)が好ましい。
【0138】
水溶性有機溶剤は、インク組成物の乾燥防止、湿潤あるいは紙への浸透促進の効果が得られる。インク組成物が含有してもよい水溶性有機溶剤としては、例えば、
グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール類や、2−ブテン−1,4−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオール等のアルカンジオールなどの多価アルコール類のほか、特開2011−42150号公報の段落番号[0116]に記載の、糖類や糖アルコール類、ヒアルロン酸類、炭素数1〜4のアルキルアルコール類、グリコールエーテル類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。これら溶剤は、1種又は2種以上を適宜選択して用いることができる。多価アルコール類は、乾燥防止剤や湿潤剤としても有用であり、例えば、特開2011−42150号公報の段落番号[0117]に記載の例も挙げられる。また、ポリオール化合物は、浸透剤として好ましく、脂肪族ジオールとしては、例えば、特開2011−42150号公報の段落番号[0117]に記載の例が挙げられる。
【0139】
上記のほか、水溶性有機溶剤として下記構造式(1)で表される化合物が挙げられる。
【化12】

【0140】
構造式(1)において、l、m、及びnは、それぞれ独立に、1以上の整数を表しかつl+m+n=3〜15を満たす。中でも、l+m+nは、3以上であるとカール抑制効果が得られ、15以下であると吐出性を良好に保てる。中でも、3〜12が好ましく、3〜10がより好ましい。AOは、エチレンオキシ(EOと略記することがある)及び/又はプロピレンオキシ(POと略記することがある)を表し、中でもプロピレンオキシ基が好ましい。構造式中の(AO)、(AO)、及び(AO)の各AOは、それぞれ同一でも異なってもよい。
前記構造式(1)で表される化合物の詳細については、特開2011−42150号公報の段落番号[0121]〜[0125]に記載されている。グリセリンのアルキレンオキシド付加物は、上市されている市販品を用いてもよく、例えば、ポリオキシプロピル化グリセリン(ポリプロピレングリコールとグリセリンとのエーテル)として、サンニックスGP−250(平均分子量250)、同GP−400(平均分子量400)、同GP−600(平均分子量600)〔以上、三洋化成工業(株)製〕、及び同公報の段落番号[0126]に記載の例が挙げられる。
【0141】
−他の成分−
本発明におけるインク組成物は、上記成分以外にその他の添加剤を用いて構成することができる。その他の添加剤としては、例えば、重合禁止剤、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。これらの各種添加剤は、インク組成物の場合はインクに直接添加し、また、油性染料を分散物として用いる場合は染料分散物の調製後に分散物に添加するのが一般的であるが、調製時に油相又は水相に添加してもよい。
【0142】
−乾燥工程−
本発明における乾燥工程では、前記インク付与工程でのインク組成物の付与により記録媒体に形成された画像(インク組成物)中の水の少なくとも一部及び水溶性有機溶剤の少なくとも一部を乾燥除去する。乾燥工程を後述の硬化工程の前に設け、インク組成物中の水や水溶性有機溶剤の含有量を減らすことで、硬化工程での重合性化合物の硬化反応がより良好に進行する。特に、主走査方向にインクを吐出して1回の走査で1ラインを形成するシングルパス方式により画像形成する方法など、高速で画像形成する場合に、画像形成性が成り立つ感度を確保することができる。
【0143】
例えば記録媒体の搬送速度を100〜3000mm/sとして画像形成する場合に本発明の効果がより奏され、更には搬送速度が、150〜2700mm/s、より好ましくは250〜2500mm/sとした場合に、乾燥を設けたことによる密着性及び耐傷性の向上効果に優れる。
【0144】
本発明における乾燥工程においては、必ずしも水や水溶性有機溶剤を完全に乾燥させる必要はなく、水や水溶性有機溶剤が画像中及び顔料層中に残存してもよい。乾燥工程では、むしろUV硬化反応を損なわない範囲で残存する程度に乾燥させることが好ましい。
【0145】
乾燥工程では、最大付与量で付与されたインク組成物(画像)に含まれる水のうち、60〜80質量%が除去される乾燥条件(以下、「乾燥量」ということがある。)で、前記インク付与工程で記録媒体上に付与されたインク組成物中に含まれる水の少なくとも一部が除去されることが好ましい。除去される水の量が60質量%以上であると、カックリングが抑制され、画像の密着性を良好に維持できる。また、除去される水の量が80質量%以下であると、画像の密着性が良好である。
【0146】
乾燥条件は、必要に応じて適宜設定されるインク付与工程におけるインク組成物の最大付与量に基づいて設定されてもよい。かかる乾燥条件下で顔料を含むインク組成物中の水を除去することで、カックリングの発生が抑制され、密着性に優れた画像が得られる。
【0147】
乾燥工程における乾燥量は、以下のようにして算出することができる。すなわち、
乾燥工程を設けずにインクの最大付与量で形成した画像に含まれる水分量Wと、所定の乾燥条件による乾燥工程を設けてインクの最大付与量で形成した画像に含まれる水分量Wとをそれぞれ測定する。次いで、WとWとの差の、Wに対する比率((W−W)/W×100[質量%])を求めることで、乾燥工程によって除去される水分量としての乾燥量(質量%)が算出される。
なお、画像に含まれる水分量は、カールフィッシャー法により測定される。本発明における水分量としては、カールフィッシャー水分計MKA−520(京都電子工業(株)製)を用い、通常の測定条件で測定した水分量を適用する。
【0148】
乾燥工程で除去されるインク組成物中の水量(乾燥量)は、乾燥後の硬化効率が良好に保たれる点から、最大付与量を15ml/m以下として付与されたインク組成物の全水分量に対して、60〜80質量%が好ましく、65〜80質量%がより好ましく、70〜80質量%が更に好ましい。
【0149】
また、乾燥は、インク組成物の液滴が記録媒体に着弾した時点から5秒以内に開始されることが好ましい。ここで、「着弾した時点から5秒以内」とは、インク滴の着弾時から5秒以内に、画像に送風されるか又は熱が与えられることを意味する。例えば、インク滴の着弾から5秒以内に乾燥領域内に記録媒体を搬送することで、着弾から5秒以内に乾燥が開始される。
インク滴の着弾から乾燥開始までの時間は、3秒以内がより好ましい。
【0150】
乾燥は、ニクロム線ヒータ等の発熱体で加熱する加熱手段、ドライヤ等の送風を利用した送風手段、あるいはこれらを組み合わせた手段により行なえる。加熱方法としては、例えば、記録媒体の画像形成面と反対側からヒータ等で熱を与える方法や、記録媒体の画像形成面に温風又は熱風をあてる方法、赤外線ヒータを用いた加熱法などが挙げられる。加熱は、これらを複数組み合わせて行なってもよい。
【0151】
−硬化工程−
本発明における硬化工程では、前記乾燥工程の後、形成された画像に対して活性エネルギー線を照射して硬化する。活性エネルギー線を照射することで、インク組成物中の重合性化合物が重合して、顔料を含む硬化膜を形成する。これにより、形成される画像の耐擦性がより向上する。
【0152】
活性エネルギー線としては、前記重合性化合物を重合可能なものであれば、特に制限はない。例えば、紫外線、電子線等挙げることができ、中でも、汎用性の観点から、紫外線であることが好ましい。また、活性エネルギー線の発生源として、例えば、紫外線照射ランプ(ハロゲンランプ、高圧水銀灯など)、レーザー、LED、電子線照射装置などが挙げられる。
【0153】
紫外線を照射する手段としては、通常用いられる手段を用いてもよく、特に紫外線照射ランプが好適である。紫外線照射ランプは、水銀の蒸気圧が点灯中で1〜10Paであるような、いわゆる低圧水銀灯、高圧水銀灯、蛍光体が塗布された水銀灯、UV-LED光源等が好適である。水銀灯、UV−LEDの紫外線領域の発光スペクトルは、450nm以下、特には184nm〜450nmの範囲であり、黒色或いは、着色されたインク組成物中の重合性化合物を効率的に反応させるのに適している。また、電源をプリンタに搭載する上でも、小型の電源を使用できる点で適している。水銀灯には、例えば、メタルハライドランプ、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノンフラッシュランプ、ディープUVランプ、マイクロ波を用い外部から無電極で水銀灯を励起するランプ、UVレーザー等が実用されている。発光波長領域として上記範囲を含むので、電源サイズ、入力強度、ランプ形状等が許されれば、基本的には適用可能である。光源は、用いる重合開始剤の感度にも合わせて選択される。
【0154】
紫外線強度は、硬化に有効な波長領域において、500〜5000mW/cmであることが好ましい。照射強度が弱いと高い品位、堅牢性を有する画像の形成が達成されない。また、照射強度が強すぎると、被記録媒体がダメージを受けたり、色材の退色を生じたりすることがある。
【0155】
−処理液付与工程−
本発明の画像形成方法は、上記に加え、前記インク付与工程の前に、更に、インク組成物と接触したときに凝集体を形成する凝集成分を含む処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程を有していることが好ましい。インク組成物中の成分を凝集させる処理液を付与しておくことで、上記の乾燥効果をより良好に発揮させることができる。
【0156】
記録媒体に付与された処理液は、インク組成物と接触して画像を形成する。この場合、インク組成物中の顔料及びポリマー粒子などの分散粒子が凝集し、記録媒体上に画像が固定化される。なお、処理液は、インク組成物中の成分を凝集させる凝集成分を少なくとも含有する。
【0157】
処理液の付与は、塗布法、インクジェット法、浸漬法などの公知の方法を適用して行なうことができる。塗布法としては、ダイレクトグラビアコーター、オフセットグラビアコーター、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、バーコーター等を用いた公知の塗布方法によって行なうことができる。インクジェット法の詳細については、既述の通りである。
【0158】
処理液付与工程は、インク組成物を用いたインク付与工程の前又は後のいずれに設けてもよい。本発明においては、処理液付与工程で処理液を付与した後にインク付与工程を設けた態様が好ましい。具体的には、記録媒体上に予めインク組成物中の顔料及び/又はポリマー粒子を凝集させるための処理液を付与しておき、記録媒体上に付与された処理液に接触するようにインク組成物を付与して画像化する態様が好ましい。これにより、乾燥効果がより向上し、画像形成が高速化し、高速に画像形成しても濃度、解像度の高い画像が得られる。
【0159】
処理液の付与量としては、インク組成物を凝集可能であれば特に制限はないが、好ましくは、凝集成分の付与量が0.1g/m以上となる量とすることができる。中でも、凝集成分の付与量が0.2〜0.7g/mとなる量が好ましい。凝集成分は、付与量が0.1g/m以上であるとインク組成物の種々の使用形態に応じ良好な高速凝集性が保てる。また、凝集成分の付与量が0.7g/m以下であることは、付与した記録媒体の表面性に悪影響(光沢の変化等)を与えない点で好ましい。
【0160】
また、本発明においては、処理液付与工程後にインク付与工程を設け、処理液を記録媒体上に付与した後、インク組成物が付与されるまでの間に、記録媒体上の処理液を加熱乾燥する加熱乾燥工程を更に設けることが好ましい。インク付与工程前に予め処理液を加熱乾燥させることにより、滲み防止などのインク着色性が良好になり、色濃度及び色相の良好な可視画像を記録できる。
【0161】
加熱乾燥は、ヒータ等の公知の加熱手段やドライヤ等の送風を利用した送風手段、あるいはこれらを組み合わせた手段により行なえる。加熱方法としては、例えば、記録媒体の処理液の付与面と反対側からヒータ等で熱を与える方法や、記録媒体の処理液の付与面に温風又は熱風をあてる方法、赤外線ヒータを用いた加熱法などが挙げられ、これらの複数を組み合わせて加熱してもよい。
【0162】
(処理液)
本発明のインク組成物は、該インク組成物と接触したときにインク組成物中の成分を凝集させて凝集体を形成する凝集成分を含む処理液と合わせてインクセットとして好適に用いられる。
【0163】
本発明における処理液は、既述のインク組成物中の成分を凝集させる凝集成分を少なくとも含み、好ましくは、更に重合開始剤を含む。また、処理液は、必要に応じて、更に、他の成分を用いて構成することができる。インク組成物の付与と共に処理液を用いて画像を形成することで、インクジェット記録を高速化することができ、また高速記録しても、濃度、解像度の高い描画性(例えば細線や微細部分の再現性)に優れた画像が得られる。
【0164】
凝集成分としては、インク組成物のpHを変化させることができる化合物であっても、多価金属塩であっても、カチオン性ポリマーであってもよい。本発明においては、インク組成物の凝集性の観点から、インク組成物のpHを変化させることができる化合物が好ましく、インク組成物のpHを低下させ得る化合物がより好ましい。
【0165】
インク組成物のpHを低下させ得る化合物としては、酸性物質を挙げることができる。
酸性物質としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩等が好適に挙げられる。
酸性物質は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0166】
処理液が酸性物質を含む場合、処理液のpH(25℃)は、6以下が好ましく、より好ましくはpHは4以下であり、更に好ましくは1〜4の範囲であり、特に好ましいpHは1〜3である。このとき、前記インク組成物のpH(25℃)は、7.5以上(より好ましくは8.0以上)であることが好ましい。
中でも、画像濃度、解像度、及びインクジェット記録の高速化の観点から、インク組成物のpH(25℃)が8.0以上であって、処理液のpH(25℃)が0.5〜4である場合が好ましい。
【0167】
中でも、本発明における凝集成分としては、水溶性の高い酸性物質が好ましく、凝集性を高め、インク全体を固定化させる点で、有機酸が好ましく、2価以上の有機酸がより好ましく、2価以上3価以下の酸性物質が特に好ましい。前記2価以上の有機酸としては、その第1pKaが3.5以下の有機酸が好ましく、より好ましくは3.0以下の有機酸である。具体的には、例えば、リン酸、シュウ酸、マロン酸、クエン酸などが好適に挙げられる。
【0168】
前記多価金属塩としては、周期表の第2属のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、周期表の第3属の遷移金属(例えば、ランタン)、周期表の第13属からのカチオン(例えば、アルミニウム)、ランタニド類(例えば、ネオジム)の塩を挙げることができる。これら金属の塩としては、カルボン酸塩(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)、硝酸塩、塩化物、及びチオシアン酸塩が好適である。中でも、好ましくは、カルボン酸(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硝酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及びチオシアン酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩である。
前記カチオン性ポリマーとしては、ポリ(ビニルピリジン)塩、ポリアルキルアミノエチルアクリレート、ポリアルキルアミノエチルメタクリレート、ポリ(ビニルイミダゾール)、ポリエチレンイミン、ポリビグアニド、及びポリグアニドから選ばれるポリマーが好ましい。カチオン性ポリマーは、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。カチオン性ポリマーの中でも、凝集速度の観点で有利なポリグアニド(好ましくは、ポリ(ヘキサメチレングアニジン)アセテート、ポリモノグアニド、ポリメリックビグアニド)、ポリエチレンイミン、ポリ(ビニルピリジン)が好ましい。
また、前記カチオン性ポリマーの重量平均分子量としては、処理液の粘度の観点では小さい方が好ましい。処理液をインクジェット方式で記録媒体に付与する場合、重量平均分子量は500〜500,000が好ましく、700〜200,000がより好ましく、更に好ましくは1,000〜100,000である。重量平均分子量は、500以上であると凝集速度の観点で有利であり、500,000以下であると吐出信頼性の点で有利である。但し、処理液をインクジェット以外の方法で記録媒体に付与する場合には、この限りではない。
【0169】
凝集成分は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
インク組成物を凝集させる凝集成分の処理液中における含有量としては、1〜50質量%が好ましく、より好ましくは3〜45質量%であり、更に好ましくは5〜40質量%の範囲である。
【0170】
処理液には、前記インク組成物に含有すると共にあるいは含有せずに、活性エネルギー線によりインク組成物中の重合性化合物の重合を開始する重合開始剤の少なくとも1種を含有することができる。重合開始剤は、1種単独で又は2種以上を混合して、あるいは増感剤と共に使用することができる。
【0171】
処理液に用いられる重合開始剤は、インク組成物と同様に、活性エネルギー線により重合性化合物の重合反応を開始し得る化合物から適宜選択することができる。重合開始剤の例としては、放射線もしくは光、又は電子線により活性種(ラジカル、酸、塩基など)を発生する重合開始剤(例えば光重合開始剤等)が挙げられる。光重合開始剤等の詳細については、前記インク組成物の項で説明した通りである。
本発明においては、重合開始剤はインク組成物及び処理液のいずれに又は両方に含有されてもよいが、重合反応性や硬化性の点、ひいては画像の密着性及び耐傷性の向上効果の観点からは、重合開始剤が少なくともインク組成物に含有された態様が好ましい。
【0172】
また、処理液には、本発明の効果を損なわない範囲内で、更にその他の成分として他の添加剤が含有されてもよい。他の添加剤の例として、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。
【0173】
〜インクジェット記録装置〜
次に、本発明の画像形成方法の実施に好適なインクジェット記録装置の一例を図1を参照して具体的に説明する。図1は、インクジェット記録装置全体の構成例を示す概略構成図である。
【0174】
図1に示すように、インクジェット記録装置は、記録媒体の搬送方向(図中の矢印方向)に向かって順次、処理液を吐出する処理液吐出用ヘッド12Sを備えた処理液付与部12と、付与された処理液を乾燥させる加熱手段(不図示)を備えた処理液乾燥ゾーン13と、各種インク組成物を吐出するインク吐出部14と、吐出されたインク組成物を乾燥させるインク乾燥ゾーン15とが配設されている。また、記録媒体の搬送方向におけるインク乾燥ゾーン15の下流側には、紫外線照射ランプ16Sを備えた紫外線照射部16が配設されている。
【0175】
このインクジェット記録装置に供給された記録媒体は、記録媒体が装填されたケースから記録媒体を給紙する給紙部から、搬送ローラによって、処理液付与部12、処理液乾燥ゾーン13、インク吐出部14、インク乾燥ゾーン15、紫外線照射部16と順に送られて集積部に集積される。搬送は、搬送ローラによる方法のほか、ドラム状部材を用いたドラム搬送方式やベルト搬送方式、ステージを用いたステージ搬送方式などを採用してもよい。
【0176】
複数配置された搬送ローラのうち、少なくとも1つのローラはモータ(不図示)の動力が伝達された駆動ローラとすることができる。モータで回転する駆動ローラを定速回転することにより、記録媒体は所定の方向に所定の搬送量で搬送されるようになっている。
【0177】
処理液付与部12には、処理液を貯留する貯留タンクに繋がる処理液吐出用ヘッド12Sが設けられている。処理液吐出用ヘッド12Sは、記録媒体の記録面と対向配置された吐出ノズルから処理液を吐出し、記録媒体の上に処理液を液滴付与できるようになっている。なお、処理液付与部12は、ノズル状のヘッドから吐出する方式に限らず、塗布ローラを用いた塗布方式を採用することもできる。この塗布方式は、下流側に配置されたインク吐出部14で記録媒体上にインク滴が着弾する画像領域を含むほぼ全面に処理液を容易に付与することができる。記録媒体上の処理液の厚みを一定にするために、例えば、エアナイフを用いたり、あるいは尖鋭な角を有する部材を、処理液の規定量に対応するギャップを記録媒体との間に設けて設置する等の方法を設けてもよい。
【0178】
処理液付与部12の記録媒体搬送方向の下流側には、処理液乾燥ゾーン13が配置されている。処理液乾燥ゾーン13は、ヒータ等の公知の加熱手段やドライヤ等の送風を利用した送風手段、あるいはこれらを組み合わせた手段を用いて構成することができる。加熱手段は、記録媒体の遮断層形成面と反対側(例えば、記録媒体を自動搬送する場合は記録媒体を載せて搬送する搬送機構の下方)にヒータ等の発熱体を設置する方法や、記録媒体の遮断層形成面に温風又は熱風をあてる方法、赤外線ヒータを用いた加熱法などが挙げられ、これらの複数を組み合わせて加熱してもよい。
【0179】
また、記録媒体の種類(材質、厚み等)や環境温度等によって、記録媒体の表面温度は変化するため、記録媒体の表面温度を計測する計測部と該計測部で計測された記録媒体の表面温度の値を加熱制御部にフィードバックする制御機構を設けて温度制御しながら遮断層を形成することが好ましい。記録媒体の表面温度を計測する計測部としては、接触又は非接触の温度計が好ましい。
また、溶媒除去ローラー等を用いて溶媒除去を行なってもよい。他の態様として、エアナイフで余剰な溶媒を記録媒体から取り除く方式も用いられる。
【0180】
インク吐出部14は、処理液乾燥ゾーン13の記録媒体搬送方向下流側に配置されている。インク吐出部14には、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)の各色インクを貯留するインク貯留部の各々と繋がる記録用ヘッド(インク吐出用ヘッド)30K、30C、30M、30Yが配置されている。不図示の各インク貯留部には、各色相に対応する顔料と樹脂粒子と水溶性有機溶剤と水とを含有するインク組成物が貯留されており、画像の記録に際して必要に応じて各インク吐出用ヘッド30K、30C、30M、30Yに供給されるようになっている。また、インク吐出用ヘッド30K、30C、30M、及び30Yの搬送方向下流側には、図1に示すように、必要に応じて特色インクを吐出可能なように、特色インク吐出用の記録ヘッド30A、30Bを更に配設することもできる。
【0181】
インク吐出用ヘッド30K、30C、30M、30Yは、記録媒体の記録面と対向配置された吐出ノズルから、それぞれ画像に対応するインクを吐出する。これにより、記録媒体の記録面上に各色インクが付与され、カラー画像が記録される。
【0182】
処理液吐出用ヘッド12S、並びにインク吐出用ヘッド30K、30C、30M、30Y、30A、及び30Bはいずれも、記録媒体上に記録される画像の最大記録幅(最大記録幅)にわたって多数の吐出口(ノズル)が配列されたフルラインヘッドとなっている。記録媒体の幅方向(記録媒体搬送面において搬送方向と直交する方向)に短尺のシャトルヘッドを往復走査しながら記録を行なうシリアル型のものに比べて、記録媒体に高速に画像記録を行なうことができる。本発明においては、シリアル型での記録、又は比較的高速記録が可能な方式、例えば1回の走査で1ラインを形成するシングルパスで主走査方向に吐出して記録できる方式での記録のいずれを採用してもよいが、本発明の画像記録方法によればシングルパスによる方式でも再現性の高い高品位の画像が得られる。
【0183】
ここでは、処理液吐出用ヘッド12S、並びにインク吐出用ヘッド30K、30C、30M、30Y、30A、及び30Bは、全て同一構造になっている。
【0184】
処理液の付与量とインク組成物の付与量とは、必要に応じて調節することが好ましい。例えば、記録媒体に応じて、処理液とインク組成物とが混合してできる凝集物の粘弾性等の物性を調節する等のために、処理液の付与量を変えてもよい。
【0185】
インク乾燥ゾーン15は、インク吐出部14の記録媒体搬送方向下流側に配置されている。インク乾燥ゾーン15は、処理液乾燥ゾーン13と同様に構成することができる。
【0186】
紫外線照射部16は、インク乾燥ゾーン15の記録媒体搬送方向のさらに下流側に配置されており、紫外線照射部16に設けられた紫外線照射ランプ16Sにより紫外線を照射し、画像乾燥後の画像中のモノマー成分を重合硬化させるようになっている。紫外線照射ランプ16Sは、記録媒体の記録面と対向配置されたランプにより記録面の全体を照射し、画像全体の硬化が行なえるようになっている。なお、紫外線照射部16は、紫外線照射ランプ16Sに限らず、ハロゲンランプ、高圧水銀灯、レーザー、LED、電子線照射装置などを採用することもできる。
紫外線照射部16は、インク乾燥ゾーン15の前後のいずれに設置されていてもよく、インク乾燥ゾーン15の前後両方に設置してもよい。
【0187】
また、インクジェット記録装置には、給紙部から集積部までの搬送路に、記録媒体に加熱処理を施す加熱手段を配置することもできる。例えば、処理液乾燥ゾーン13の上流側や、インク吐出部14とインク乾燥ゾーン15との間、などの所望の位置に加熱手段を配置することで、記録媒体を所望の温度に昇温させることにより、乾燥、定着を効果的に行なうようにすることが可能である。
【実施例】
【0188】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0189】
[水性インクの調製]
《1.シアンインクC1の調製》
−シアン分散液の調製−
反応容器に、スチレン6部、ステアリルメタクリレート11部、スチレンマクロマーAS−6(東亜合成(株)製)4部、プレンマーPP−500(日本油脂(株)製)5部、メタクリル酸5部、2−メルカプトエタノール0.05部、及びメチルエチルケトン24部を加え、混合溶液を調液した。
【0190】
一方、滴下ロートに、スチレン14部、ステアリルメタクリレート24部、スチレンマクロマーAS−6(東亜合成(株)製)9部、プレンマーPP−500(日本油脂(株)製)9部、メタクリル酸10部、2−メルカプトエタノール0.13部、メチルエチルケトン56部、及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.2部を加え、混合溶液を調液した。
【0191】
そして、窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら75℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を1時間かけて徐々に滴下した。滴下終了から2時間経過後これに、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.2部をメチルエチルケトン12部に溶解した溶液を3時間かけて滴下し、更に75℃で2時間、80℃で2時間熟成させ、ポリマー分散剤溶液を得た。
【0192】
得られたポリマー分散剤溶液の一部について、溶媒を除去することによって単離し、得られた固形分をテトラヒドロフランにて0.1質量%に希釈し、高速GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)HLC−8220GPCにて、TSKgeL SuperHZM−H、TSKgeL SuperHZ4000、TSKgeL SuperHZ2000(東ソー(株)製)を3本直列につなぎ、重量平均分子量を測定した。その結果、重量平均分子量は、ポリスチレン換算で25,000であった。また、酸価は80mgKOH/gであった。
【0193】
次に、上記のポリマー分散剤溶液を固形分換算で5.0g、シアン顔料としてPigment Blue 15:3(大日精化(株)製)10.0g、メチルエチルケトン40.0g、1mol/L(リットル;以下同様)の水酸化ナトリウム8.0g 及びイオン交換水82.0gを、0.1mmジルコニアビーズ300gと共にベッセルに供給し、レディーミル分散機(アイメックス社製)で1000rpmで6時間分散した。得られた分散液をエバポレーターでメチルエチルケトンが充分に留去できるまで減圧濃縮し、さらに水分散性顔料の濃度が10質量%になるまで濃縮して、水分散性顔料が分散したシアン分散液C1を調製した。
得られたシアン分散液C1の体積平均粒子径(二次粒子)を、Micorotrac粒度分布測定装置(Version 10.1.2−211BH(商品名)、日機装(株)製)で動的光散乱法により測定したところ、77nmであった。
【0194】
−自己分散性ポリマー微粒子の合成−
攪拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた2リットル三口フラスコに、メチルエチルケトン360.0gを仕込んで、75℃まで昇温した。その後、フラスコ内温度を75℃に保ちながら、フェノキシエチルアクリレート180.0g、メチルメタクリレート162.0g、アクリル酸18.0g、メチルエチルケトン72g、及び「V−601」(和光純薬工業(株)製)1.44gからなる混合溶液を、2時間で滴下が完了するように等速で滴下した。滴下完了後、これに「V−601」0.72g及びメチルエチルケトン36.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌後、さらに「V−601」0.72g及びイソプロパノール36.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌した。その後、85℃に昇温して、さらに2時間攪拌を続け、フェノキシエチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリル酸(=50/45/5[質量比])共重合体の樹脂溶液を得た。
得られた共重合体の、上記同様に測定した重量平均分子量(Mw)は、64,000(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で算出)であり、酸価は38.9mgKOH/gであった。
【0195】
次に、得られた樹脂溶液668.3gを秤量し、これにイソプロパノール388.3g及び1mol/L NaOH水溶液145.7mlを加え、反応容器内温度を80℃に昇温した。次に、蒸留水720.1gを20ml/minの速度で滴下し、水分散化した後、大気圧下にて反応容器内温度80℃で2時間、85℃で2時間、90℃で2時間保った。その後、反応容器内を減圧にし、イソプロパノール、メチルエチルケトン、蒸留水を合計で913.7g留去し、固形分濃度28.0質量%の自己分散性ポリマー微粒子P−1の水分散物を得た。
【0196】
上記のようにシアン分散液C1を調製した後、これに上記の自己分散性ポリマー微粒子P−1の水分散物、有機溶剤、界面活性剤、及びイオン交換水を用いて、下記組成のインクを調製した。調製後、得られたインクを5μmフィルタを通して粗大粒子を除去し、シアン色のインク(シアンインクC1)とした。
【0197】
<シアンインクC1の組成>
・シアン分散物C1(水分散性顔料の濃度:10質量%) ・・・20質量%
・ヒドロキシエチルアクリルアミド ・・・5質量%
(下記の単官能重合性化合物A−1)
・ノニオン性の重合性化合物(下記の2官能重合性化合物B−1)・・・5質量%
・サンニックス GP250 ・・・2質量%
(三洋化成工業(株)製;親水性有機溶剤)
・オルフィンE1010(日信化学工業(株)製) ・・・1質量%
・イルガキュア 2959(チバ・ジャパン社製;光重合開始剤) ・・・3質量%
・自己分散性ポリマー微粒子P−1の水分散物 ・・・18質量%
(固形分濃度:28.0質量%)
・イオン交換水 ・・・46質量%
【0198】
【化13】

【0199】
《2.シアンインクC2〜C10の調製》
前記シアンインクC1の調製において、インク組成を下記の表1に示すように変更したこと以外は、前記シアンインクC1の調製と同様にして、C2〜C10を調製した。
【0200】
【表1】

【0201】
前記表1中のFS−300は下記の通りである。
・FS−300(DuPont社製(有効成分40質量%);フッ素系界面活性剤)
【0202】
[処理液の調製]
(処理液1)
下記組成の成分を混合して、処理液1を調製した。
<処理液1の組成>
・マロン酸(和光純薬工業(株)製) ・・・ 25質量%
・ジエチレングリコールモノメチルエーテル ・・・ 20質量%
(和光純薬工業(株)製)
・エマルゲンP109 ・・・ 1質量%
(花王(株)製、ノニオン性界面活性剤)
・イオン交換水 ・・・ 54質量%
【0203】
(処理液2)
下記組成の成分を混合して、処理液2を調製した。
<処理液2の組成>
・マロン酸(和光純薬工業(株)製) ・・・ 25質量%
・ジエチレングリコールモノメチルエーテル ・・・ 20質量%
(和光純薬工業(株)製)
・エマルゲンP109 ・・・ 1質量%
(花王(株)製、ノニオン性界面活性剤)
・イルガキュア2959 ・・・ 1質量%
(チバ・ジャパン社製;光重合開始剤)
・イオン交換水 ・・・ 53質量%
【0204】
(処理液3)
下記組成の成分を混合して、処理液3を調製した。
<処理液3の組成>
・硝酸マグネシウム・六水和物(多価金属塩) ・・・25質量%
・イソブチルベンゾインエーテル ・・・10質量%
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル ・・・10質量%
・グリセリン ・・・10質量%
・イオン交換水 ・・・全体が100質量%となる残量
【0205】
(処理液4)
<カチオン性ポリマー水溶液の調製>
酢酸グアニジン(65g)と1,6−ヘキサメチレンジアミン(66.7g)を250mlの丸底フラスコ中に仕込み混合後、窒素ガスの雰囲気下で攪拌しながら混合物を120℃に加熱し、攪拌を4時間続けた。次いで、温度を150℃に上げ、反応混合物をこの温度で更に20時間攪拌した。反応混合物を室温に自然冷却し、次いで同じ体積の蒸留水と混合し、80℃に加熱し、均一溶液になるまでこの温度で保持した。溶液を冷却し、酢酸を使用してpHを7に調節し、イオン交換水を混合して固形分量が25質量%になるよう希釈し、カチオン性ポリマー水溶液を得た。
得られたカチオン性ポリマー水溶液は、ゲル透過クロマトグラフィーにより測定したところ、平均分子量(Mw)が1120であった。
【0206】
上記のカチオン性ポリマー水溶液を用い、下記組成中の成分を混合して処理液4を調製した。
<処理液4の組成>
・前記カチオン性ポリマー水溶液(固形分量:25質量%)・・・20質量%
・2−ピロリドン ・・・9質量%
・チオジエチレングリコール ・・・9質量%
・シクロヘキサノール ・・・2質量%
・イオン交換水 ・・・全体が100質量%となる残量
【0207】
[記録媒体の準備]
画像形成にあたり、下記の記録媒体を準備した。
【表2】



【0208】
[画像記録]
まず、図1に示すように、記録媒体の搬送方向(図中の矢印方向)に向かって順次、処理液を吐出する処理液吐出用ヘッド12Sを備えた処理液付与部12と、付与された処理液を乾燥させる処理液乾燥ゾーン13と、各種インク組成物を吐出するインク吐出部14と、吐出されたインク組成物を乾燥させるインク乾燥ゾーン15と、紫外線(UV)を照射可能なUV照射ランプ16Sを備えたUV照射部16とが配設されたインクジェット装置を準備した。
処理液乾燥ゾーン13は、図示しないが、記録媒体の記録面側には乾燥風を送って乾燥を行なう送風器を備え、記録媒体の非記録面側には赤外線ヒータを備えており、処理液付与部で処理液の付与を開始した後900msecが経過するまでに、温度・風量を調節して処理液中の水の70質量%以上を蒸発(乾燥)できるように構成されている。また、インク吐出部14は、搬送方向(矢印方向)にブラックインク吐出用ヘッド30K、シアンインク吐出用ヘッド30C、マゼンタインク吐出用ヘッド30M、及びイエローインク吐出用ヘッド30Yが順次配置されており、各ヘッドは1200dpi/10inch幅フルラインヘッド(駆動周波数:25kHz、記録媒体の搬送速度:500mm/s)であり、各色をシングルパスで主走査方向に吐出して記録できるようになっている。
【0209】
図1に示すように構成されたインクジェット装置の処理液吐出用ヘッド12S、シアンインク吐出用ヘッド30Cにそれぞれ繋がる貯留タンク(不図示)に、上記で得た処理液1〜4、シアンインクC1〜C10を順次、それぞれ装填して、記録媒体にベタ画像及び1200dpiのライン画像を記録した。
処理液の記録媒体への付与量は、1.5ml/mとした。なお、記録媒体には、前記表2に記載の8種を順次変更して用いた。
画像の記録に際し、シアンインクは、ふたつの記録ヘッドに充填し、それぞれのヘット゛から解像度1200dpi×1200dpi、インク滴量2.5〜3.6plで調整し、インクの最大付与量11ml/m又は16ml/mにて吐出した。ベタ画像は、記録媒体をA5サイズにカットしたサンプルの全面にインクを吐出してベタ画像とした。
【0210】
具体的には、画像の形成は、下記表3に示す条件で行なった。
まず、記録媒体上に処理液吐出用ヘッド12Sから処理液をシングルパスで吐出した後、処理液の乾燥は処理液乾燥ゾーン13で行ない、処理液乾燥ゾーンを処理液の吐出開始から900msec迄に通過するようにした。処理液乾燥ゾーン13では、着滴した処理液を着滴面の裏側(背面)から赤外線ヒータで膜面温度が40〜45℃となるように加熱しながら、送風器により記録面に120℃、5m/secの温風を5秒間あてて乾燥した。続いて、シアンインクを充填した吐出用ヘッド30Cと30Mにより、シアンインクをシングルパスで吐出して画像を記録した後、インク乾燥ゾーン15で前記同様にインク着滴面の裏側(背面)から赤外線ヒータで加熱しながら、送風器により120℃の温風を、風量を変えて下記表3に示す所定の乾燥量となるように乾燥させた。このとき、シアンインクの液滴が記録媒体に着弾した時点からインク乾燥ゾーン15に搬送され乾燥が開始されるまでの時間が所望の時間になるように搬送速度を調整した。なお、乾燥量の測定方法については、後述する。画像乾燥後、UV照射部16において、UV光(アイグラフィックス(株)製 メタルハライドランプ 最大照射波長 365nm)を積算照射量2J/cmになるように照射して、画像を硬化した。
【0211】
《乾燥量の測定》
上記の画像形成において、記録媒体上に、処理液(付与量5ml/m)を付与した後、下記表3に示すようにインクの最大付与量11ml/m又は16ml/mでベタ画像をそれぞれ出力した。尚、インク乾燥ゾーン15での加熱・送風、及びUV照射部16におけるUV光の照射を行なわずに出力した。得られた画像についてカールフィッシャー水分計MKA−520(京都電子工業株式会社製)を用い、カールフィッシャー法により、画像内に含まれる水分量Wを測定した。
さらに、インク乾燥ゾーン15における加熱・送風を所定の乾燥条件としたこと以外は上記と同様にして、UV光の照射を行なわずに得られた画像について、同様にカールフィッシャー法にて画像内に含まれる水分量Wを測定し、乾燥量(%)を下記式1にて算出した。
(W−W)/W×100 ・・・(式1)
【0212】
【表3】



【0213】
[評価]
前記画像形成により得られた画像について、下記の評価を行なった。評価結果は、下記の表4に示す。
【0214】
−1.密着性−
全面にベタ画像が形成されたA5サイズサンプルを用いて、25℃50%RHの環境下で10分放置した後に、セロハンテープ(ニチバン社製)を画像に貼り付けてから剥がし、画像の破壊状況を下記評価基準に従って評価した。
【0215】
〜評価基準〜
A:画像がテープに転写しなかった。
B:画像表面の一部がテープに転写したが、殆どの画像は転写せず残った。
C:画像の一部がテープに転写して、画像のない記録媒体表面が一部露出した。
D:全面的に画像が転写し、記録媒体表面が露出した。
【0216】
−2.耐擦過性−
全面に100%網点ベタ画像と20%網点ベタ画像が形成されたA5サイズのサンプルを、それぞれ25℃、50%RHの環境下に1時間放置し、放置後のサンプルのベタ画像の表面を、記録していない記録媒体を重ねて荷重200kg/mをかけて10往復擦った。その後、画像を目視で観察し、下記の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
A:いずれのサンプルも、擦られたベタ画像の劣化も認められなかった。
B:いずれか一方のサンプルにおいて、擦られたベタ画像の劣化が認められた。
C:両方のサンプルにおいて、擦られたベタ画像の劣化が認められた。
D:いずれか一方もしくは両方のサンプルにおいて、ベタ画像が脱落し紙面が露出した。
【0217】
−3.耐傷性−
全面に100%網点ベタ画像が形成されたA5サイズのサンプルを25℃、50%RHの環境下で1時間放置し、放置後のサンプルのベタ画像の表面を、HEIDON表面性試験機(新東科学株式会社製)で0.1mmのステンレス製引っ掻き針を使用して、0〜200gfまで荷重を変化させながら引っ掻いた。画像表面に傷が発生した荷重を下記基準に従って評価した。
<評価基準>
A:200gfでも傷は認められない。
B:100gf以上200gf未満で傷が発生した。
C:30gf以上100gf未満で傷が発生した。
D:30gf未満で傷が発生した。
【0218】
−4.カール性−
100%ベタ画像を形成した後の記録媒体を、カール方向が50mm長の方向となるようにサイズ5×50mmに裁断し、サンプル片を作成した。このサンプル片を温度35℃、相対湿度80%の条件下に放置し、下記方法でサンプルの曲率Cを測定し、下記の評価基準にしたがってカール性を評価した。
〜曲率の測定方法〜
インク塗設後のサンプル片の曲率Cを、温度25℃、相対湿度50%の環境下で測定した。曲率Cは、生じたカールを半径Rの円弧とみなして下記式2で表され、この曲率Cを、カール性を評価する指標とした。
C=1/R(m) ・・・(式2)
<評価基準>
A:曲率Cが10未満であった。
B:曲率Cが10以上15未満であった。
C:曲率Cが15以上20未満であった。
D:曲率Cが20以上であった。
【0219】
−5.光沢度−
網点を10〜100%まで10%間隔で変化させた画像が形成された記録媒体を温度25℃、相対湿度50%の環境下に1時間放置した後、各網点の画像について画像表面の60°光沢度をグロスチェッカIG−331(HORIBA社製)にて測定した。光沢度の最大値(Gmax)と最小値(Gmin)の差(光沢度差)を計算し、下記の評価基準にしたがって評価した。
光沢度差 = Gmax−Gmin
<評価基準>
A:光沢度差が10未満であった。
B:光沢度差が10以上20未満であった。
C:光沢度差が20以上30未満であった。
D:光沢度差が30以上であった。
【0220】
【表4】

【0221】
前記表4に示すように、本発明では、画像のカール(変形)及び光沢度を損なうことなく、記録媒体との密着性及び耐傷性に優れた画像形成することができた。
これに対し、本発明との対比のために行なった比較例において、純水の転移量が少ないミラーコートプラチナを記録媒体に用いた例(No.21)では、画像の光沢性及びカール性は損なわれないものの、コート層への重合性モノマーの浸透量が少なく、重合硬化による改良効果が少ないため、形成された画像は記録媒体との密着性及び耐傷性に劣っていた。また、重合性化合物を含まないシアンインクを用いて処理液を付与せずに画像形成した例(No.22〜28)では、水や水溶性有機溶剤のコート層への浸透量が多く、コート層がその性状を維持できず、これに伴なって画像も良好な密着及び耐傷性を保持できなかった。また、コート層を抜けて原紙層まで水や水溶性有機溶剤が浸透することでカールも悪化が顕著であった。また、インクとして水溶性有機溶剤の含有量が3質量%を超えるシアンインクC10を用いた例(No.29)では、コート層中に浸透した水溶性有機溶剤が多いために、シアンインクC1〜C8を用いた場合に比べ、形成された画像の密着性及び耐傷性が低下した。一方、乾燥工程を設けずに、インク吐出後直ぐにUV照射を行なった例(No.30)では、やはりコート層中に残存する水分量が多くなり、コート層の劣化が進むとともに、乾燥が不十分であるために重合硬化が進まず、シアンインクC1〜C8を用いた場合に比べ、形成された画像の密着性及び耐傷性が低下した。
【符号の説明】
【0222】
12・・・処理液付与部
12S・・・処理液吐出用ヘッド
13・・・処理液乾燥ゾーン
14・・・インク吐出部
15・・・インク乾燥ゾーン
16・・・紫外線照射部
16S・・・紫外線照射ランプ
30K、30C、30M、30Y・・・インク吐出用ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースパルプを主成分とした支持体上の少なくとも一方の面に、一層もしくは多層の顔料層を有し、動的走査吸液計で測定した純水の転移量が、接触時間100msにおいて1ml/m以上15ml/m以下であって、かつ接触時間400msにおいて2ml/m以上20ml/m以下である記録媒体上に、顔料、水、及び組成物総量に対する含有比率が15質量%以上40質量%未満である水溶性の重合性化合物を含み、水溶性有機溶剤の含有量が3質量%未満であるインク組成物を、インクジェット法により付与して画像を形成するインク付与工程と、
前記記録媒体に形成された画像を乾燥させる乾燥工程と、
乾燥工程後の前記画像に対して活性エネルギー線を照射して前記画像を硬化する硬化工程と、
を有する画像形成方法。
【請求項2】
前記重合性化合物の少なくとも1つは、分子内にアクリルアミド構造を有するモノマー化合物である請求項1に記載の画像形成方法。
【請求項3】
前記重合性化合物の少なくとも1つは、分子内にアクリルアミド構造を有する単官能アクリルアミドである請求項1又は請求項2に記載の画像形成方法。
【請求項4】
前記重合性化合物の少なくとも1つは、分子内にアクリルアミド構造を有する単官能アクリルアミドであり、該単官能アクリルアミドの含有量が、インク組成物の総質量に対して、10質量%以上である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の画像形成方法。
【請求項5】
前記インク付与工程の前に、更に、前記インク組成物と接触したときに凝集体を形成する凝集成分を含む処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程を有する請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の画像形成方法。
【請求項6】
前記インク付与工程の前に、更に、前記インク組成物と接触したときに凝集体を形成する凝集成分を含む処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程を有し、前記凝集成分として、酸、多価金属塩、及びカチオン性ポリマーから選ばれる少なくとも1種を含む請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の画像形成方法。
【請求項7】
前記顔料は、その表面の少なくとも一部がポリマー分散剤で被覆された水分散性顔料である請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の画像形成方法。
【請求項8】
前記顔料は、その表面の少なくとも一部がカルボキシル基を有するポリマー分散剤で被覆された水分散性顔料である請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の画像形成方法。
【請求項9】
前記記録媒体は、コート紙、軽量コート紙、又は微塗工紙である請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の画像形成方法。
【請求項10】
前記インク付与工程の前に、更に、前記インク組成物と接触したときに凝集体を形成する凝集成分を含む処理液を記録媒体に付与する処理液付与工程を有し、前記インク組成物及び前記処理液の少なくとも一方が、更に重合開始剤を含む請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の画像形成方法。
【請求項11】
前記記録媒体にインク組成物の液滴が着弾した時点から5秒以内に乾燥を開始する請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の画像形成方法。
【請求項12】
前記インク付与工程におけるインク組成物の最大付与量が15ml/m以下である請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載の画像形成方法。
【請求項13】
前記乾燥工程は、最大付与量を15ml/m以下として記録媒体上に付与されたインク組成物中の水分量の60〜80質量%が除去される乾燥条件にて、記録媒体上の画像を形成するインク組成物中の水の少なくとも一部を除去する請求項1〜請求項12のいずれか1項に記載の画像形成方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−43385(P2013−43385A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183167(P2011−183167)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】