説明

画像形成装置、その制御方法及びコンピュータプログラム

【課題】物理的な精度誤差による濃度ムラを低減するために、マルチパス印字による記録画像の形成を記録パスごとの補完関係を軽減した上で、記録濃度によるきめ細かい制御が可能にする。
【解決手段】本発明に係る画像形成装置は、多値画像データを複数のパスで印字する画像形成装置であって、2種類以上の非負の値を有する分配係数をパスのいずれかにそれぞれ分配する分配手段と、多値画像データの処理対象の画素に分配された分配係数を乗算したパスごとの値を、階調度を低減したN値データにそれぞれ変換するN値化手段と、N値データを印字する印字手段とを備える。分配手段は、処理対象の画素の処理において、該画素に先行して処理された画素のN値データに関するパスごとの累積値を比較して、該累積値が大きいパスほど値の小さい分配係数を分配することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成技術に関し、特にマルチパス印字による画像形成技術に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の記録素子を備えた記録ヘッドを用いる装置の一例として、従来より、複数のインクの吐出口を備えた記録ヘッドを用いるインクジェット記録装置が知られている。
【0003】
このような装置では、吐出口の吐出口径のばらつきや吐出方向のばらつきなどによってインクにより形成されるドットの大きさや形成位置がばらつき、印刷された画像に濃度ムラが生じることがある。特に、記録ヘッドをその複数の記録素子の配列方向とは異なる方向、例えば、直交する方向に走査させて記録を行うシリアル型の記録装置では顕著である。上述した吐出口径などのばらつきに起因した濃度ムラはスジムラとなって印刷された画像中に現れるため、さらに印刷された画像の品位を低下させる場合がある。
【0004】
インクジェット記録方式に従った記録ヘッドを用いて画像形成を行う場合にこのような濃度ムラを補正するための方法がいくつか提案されている。例えば、2値化処理などの低階調化処理を施した画像データを複数の異なる吐出口から吐出されるインクで1画素、または記録ヘッド1走査に相当するラインからなる画素の画像を形成する方式がある。これは、例えば、記録ヘッドの幅未満の紙送りを行うことにより、1画素を複数の走査の何れかで印字することにより実現できる。このような印字方式をマルチパス印字という。
【0005】
理想的な装置を用いて上記方法で記録を行えば、単位記録画素は均等に並ぶはずである。しかしながら、実際の記録装置では、上述のインク吐出口の吐出口径のばらつきや吐出方向のばらつきなどによってインクにより形成されるドットの大きさや形成位置がばらつくほか、複数の記録ヘッド間の機械的な取付精度の誤差が存在する。その結果、それぞれの主走査間でレジストレーションの変化が発生してしまう。このために、マルチスキャンで重ねられた単位記録画素間隔の差異が発生し、その結果モアレ効果や半走査間隔のムラが発生する。特に、往復の主走査記録では、記録ヘッドの取付角精度や、吐出口の形状について、往路と復路とで差異が発生し、これによる往復ムラが発生する。
【0006】
これは、上記の方法において、複数のパスで形成される印字画像間にある補完関係が完全であることに起因している。補完関係とは、それぞれのパスで印字するドットが空間的に補完する関係のことである。補完関係が完全であると、一つパスで印字されたドットが他のパスにおいては印字されないため、前述のようにムラが発生してしまう。特許文献1にこの補完関係を低減するための技術が提案されている。
【0007】
上記提案では、多値の画像データを分配回路によって所定領域を走査する複数回数分に分配し、それぞれ分配された多値データをデータ変換回路が異なる係数に基づいてデータ変換する。データ変換されたそれぞれのデータに対し低階調化回路が低階調化を行い、補完関係を低減した画像を形成することにより、レジストレーションの変化に対する画像濃度の変化の依存度を低下させる。
【0008】
図9は、提案の低階調化回路として誤差拡散法を適用し、かつ2パスに分割する場合の構成図の一例である。パス分割部900は入力された多値データを各パスのN値化データとして出力する。入力された多値データは乗算器901と乗算器911とにそれぞれ入力される。乗算器901は所定の分配係数k1を多値データに乗算して、N値化部902に出力する。加算器903は、N値化部902に入力されたデータを拡散フィルタ907が出力した誤差データと加算する。量子化回路904は所定の閾値TH1に基づいて多値データよりも低階調のN値データに量子化し、1パス目N値データとして出力する。逆量子化回路905は、N値データに相当する多値データへ戻す。減算器906は分配された多値データからN値データに相当する多値データを減算し、量子化によって発生した誤差を求める。同様に、乗算器911は所定の分配係数k2を多値データに乗算して、N値化部912に出力し、2パス目N値データを算出する。このように、入力された多値データを所定の分配係数を乗算して各N値化部に入力し、各N値化部で処理を独立に行うことで、補完関係を軽減する。
【0009】
算出された各パスのN値データは複数のパスに分けて記録される。図10は画像形成装置がN値データを記録する様子を説明する図である。記録ヘッド1001は記録媒体1002の副走査方向にNドット分のノズルを備える。1回のスキャンで記録ヘッド1001は記録領域1003に対する2パス目の記録と記録領域1004に対する1パス目の印字とを行う。記録ヘッド1001は主走査の記録が終了すると記録媒体1302の副走査に対して記録ヘッドのN/2ドット分だけ移動して次の主走査に対応する画像を記録する。この走査を繰り返し記録画像は完成する。つまり、一つの領域に注目すると1回目のパスによって印字された画像に、2回目のパスによって印字された画像が合成される。
【0010】
特許文献1に記載の提案では、N値化部の処理をパスごとに独立に行うことで、補完関係を軽減する。さらに、以下の手法により、各パスのN値データが完全に一致することを回避する。第1に、分配係数k1と分配係数k2とを異なる値にする。それにより、N値化部に入力される多値データが異なるものとなるため、各パスのN値データも異なる値となる。第2に、N値化部で用いる閾値を異なる値にする。それにより、各パスのN値データは異なる値となる。第3に、拡散フィルタを異なる設定にする。それにより、各パスのN値データは異なる値となる。第4に、上記のいずれかを組み合わせて用いる。
【0011】
しかしながら、いずれの場合にも、各パスのN値化データの記録濃度を調整できないという課題がある。例えば、第1のパスの濃度を第2のパスの濃度よりも薄くしてインクの定着特性を安定させる場合がある。特に、記録ヘッドの主走査が開始される時間が一定でなく第1のパスと第2のパスとの記録時間に差がある場合には、記録濃度を調整しなければ安定した画像が得られない。
【特許文献1】特開2000−103088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、マルチパスにおける画像形成において、モアレ効果やパス間の濃度ムラ、筋ムラ等の画像劣化を防止でき、良好な記録画像を形成することが可能な画像形成技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題に鑑みて、本発明に係る画像形成装置は、多値画像データを複数のパスで印字する画像形成装置であって、
2種類以上の非負の値を有する分配係数を前記パスのいずれかにそれぞれ分配する分配手段と、
前記多値画像データの処理対象の画素に前記分配された分配係数を乗算した前記パスごとの値を、階調度を低減したN値データにそれぞれ変換するN値化手段と、
前記N値データを印字する印字手段と
を備え、
前記分配手段は、前記処理対象の画素の処理において、該画素に先行して処理された画素の前記N値データに関する前記パスごとの累積値を比較して、該累積値が大きいパスほど値の小さい分配係数を分配する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明における画像形成装置によれば、マルチパス印字による画像形成において、モアレ効果やパス間の濃度ムラ、筋ムラ等の画像劣化を防止でき、良好な記録画像を形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施例について図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
<第1の実施形態>
図1を用いて本発明に係る画像形成装置100のハードウェア構成を説明する。図1は画像形成装置100のハードウェア構成の一例を表すブロック図である。
【0017】
画像形成装置100は、CPU101、ROM102、RAM103、色分解処理部112、N値化処理部106、印字処理部107、メカ制御部108、及びプリンタエンジン部109を備える。
【0018】
CPU101は画像形成装置100全体の制御を司る。ROM102はCPU101が実行するプログラムやテーブルデータなどを格納する。RAM103は変数やデータなどや、後述する入力画像データ、N値データなどを記憶する。
【0019】
色分解処理部112は画像形成装置100に入力された多値の入力画像データを画像形成装置100の印字可能な色となるように色分解を行う。例えば、イエロー、シアン、マジェンダ及びブラックの4色を用いた表現となるように色分解を行う。
【0020】
N値化処理部106は色分解後の多値画像データを印字可能な形式である階調度を低下したN値のN値データに変換する。なお、複数のN値化処理部106を備え、色ごとに変換を行っても良い。本実施形態では、処理対象の画素単位にN値化処理を行うものとする。つまり、一つの画素のN値化処理が終了してから次の画素のN値化処理を開始する。N値データは例えば二値データである。
【0021】
印字処理部107はN値データをプリンタエンジン部109に出力し、N値データの印字を行う。メカ制御部108は印字を行うためにプリンタエンジン部109を制御する。プリンタエンジン部109は、インクを吐出する複数のノズルを含むヘッド110や、紙送り機構111、キャリッジ送り機構などを備える。ヘッド110は、印字処理部107から入力されたN値データに基づいてインクを吐出し、入力画像データを印刷する。
【0022】
画像形成装置100は、USBデバイスインターフェース104及びUSBホストインターフェース105をさらに備える。USBデバイスインターフェース104はパソコン120から画像データを受け付ける。USBホストインターフェース105はデジタルカメラ130などから画像データを受け付ける。
【0023】
デジタルカメラ130によって撮影された画像を画像形成装置100に直接送信し、印刷する例を説明する。デジタルカメラ130により撮影された画像は、圧縮されたJPEGデータとしてデジタルカメラ130内のメモリ(図示せず)に格納される。デジタルカメラ130は接続ケーブル131により画像形成装置100のUSBホストインターフェース105に接続される。デジタルカメラ130のメモリに格納されたJPEGデータは、USBホストインターフェース105を介して画像形成装置100内のRAM103に一時的に記憶される。CPU101はデジタルカメラ130から取得したJPEGデータを解凍して得られる入力画像データを再びRAM103に記憶する。
【0024】
RAM103に記憶された入力画像データは、色分解処理部112で色分解された後、N値化処理部106によりマルチパス印字を行うための複数のN値データが作成される。N値データは、印字処理部107により、ヘッドの駆動順に合わせて、ヘッド110に送られる。メカ制御部108とこれにより制御されるプリンタエンジン部109とが同期して、インク滴が吐出することにより印刷メディア上に画像が形成される。
【0025】
図2はN値化処理部106の詳細な構成の一例を説明する図である。本実施形態では、3パスで印字する場合について説明するが、もちろん任意のパス数によるマルチパス印字について本発明を適用可能である。
【0026】
CPU101は、色分解後の多値の入力画像データをRAM103から読み出してN値化処理部106に入力する。入力画像データは、乗算器211〜213にそれぞれ同じデータとして分配される。分配係数生成部201は、分配係数k1〜k3をそれぞれ各乗算器211〜213に出力する。乗算器211〜213はそれぞれ、分配係数生成部201から出力された分配係数k1〜k3を乗算して、N値化部221〜223に出力する。これにより、入力画像データは所定の比率でN値化部221〜223に分配される。N値化部221〜223は、入力画像データを各パスにおける印字に使用するN値データに変換する。この変換には誤差拡散法などが用いられるが、本発明の本質には影響しないため、説明を省略する。N値化部221〜223からの出力である各パスのN値データはRAM103に書き込まれるとともに、分配係数生成部201に対しても出力される。分配係数生成部は201はN値化部221〜223からの入力に基づいて、分配係数K1〜K3を算出し、次の画素の処理に使用するために乗算器211〜213に出力する。本実施形態では3パスの例を扱うため、3個のN値化部を使用するが、一般にnパスの例の場合にはn個のN値化部を使用すればよい。また、それぞれのパスのN値データを算出するために、N値化部を共有して使用してもよい。その場合にはパス数に関わらず1個のN値化部があれば足りる。
【0027】
図3は分配係数生成部201の詳細な構成の一例を説明する図である。画素カウンタ301は、N値化処理部106が処理した画素の個数をカウントして、そのカウント値を分配係数記録濃度制約部302に出力する。一つの画素を処理するたびにカウント値を増分しても良いし、複数の画素を処理するたびにカウント値を増分しても良い。また、主走査方向の画素数と副走査方向の画素数とをそれぞれカウントして、これらのカウント値の組み合わせを分配係数記録濃度制約部302に出力しても良い。
【0028】
分配係数記録濃度制約部302は、入力されたカウント値に応じた分配係数kmax、kmid、kminを分配係数テーブル303から取得する。そして、入力された各パスにおけるN値データとに基づいて、取得したkmax、kmid、kminをそれぞれ、k1〜k3の何れか一つとして、乗算器211〜213に出力する。
【0029】
分配係数テーブル303はパスごとに生成されるN値データの相関性をすくなくするために画素カウンタの周期で回転する分配係数を保持する。分配係数テーブル303は、例えばROM102に配置される。分配係数kmax、kmid、kmin及び画素カウンタの周期は、相関性を軽減する効果と回路規模とによって決定すればよい。ただし、分配係数kmax、kmid、kminは以下の式(1)、(2)を満たすものとする。
【0030】
kmax≧kmid≧kmin≧0 …(1)
kmax+kmid+kmin=1 …(2)
図6を用いて分配係数テーブル303について説明する。図6は分配係数テーブル303の一例である。画素カウント600は、入力されたカウント値を分配係数テーブル303の周期で割った余りである。図6に示す分配係数テーブル303では周期が4であるため、4で割ったときの余りが画素カウント600となる。画素カウント600の値に応じて、kmax601、kmid602、kmin603の値を選択する。
【0031】
本実施形態のように、3パス印字の場合には、一つの画素カウントあたり3個の分配係数を使用する。nパス印字の場合には、一つの画素カウントあたりn個の分配係数を使用する。分配係数のうちのいくつかは同じ値であってもかまわない。いくつかの分配係数を同じ値にして係数の数を減らすことも可能である。例えば、kmax601とkmid602とを常に等しい値とすれば、3パス印字の場合でも画素カウント600ごとに二つの分配係数を持てばよいことになる。いずれかの分配係数の組は2種類以上の値を有するように規定する。また、分配係数は非負の値であれば、0でもかまわない。
【0032】
また、画素カウンタ301が、主走査方向の画素数と副走査方向の画素数とをそれぞれカウントする場合には、分配係数テーブル303はそれらの組み合わせに対応する分配係数を保持するようにする。
【0033】
図4は分配係数記録濃度制約部302の詳細な構成の一例を説明する図である。濃度カウンタ411〜413はそれぞれ、先行する画素の処理において、N値化部221〜223から出力された各パスのN値データの累積値を保持する。N値化部221〜223からN値データが入力されるたびに、保持する累積値にそのN値データを加算して、加算後の累積値を乗算器421〜423に出力する。
【0034】
乗算器421〜423はそれぞれ、入力された累積値と規定の係数kt1〜kt3を乗算した結果の値d1〜d3を大小関係検出部430に出力する。係数kt1〜kt3はパスごとの所定領域の記録濃度に重み付けするための定数である。パスごとの記録濃度を一定にする場合は、事前にkt1=kt2=kt3=1と設定すればよい。1パス目の記録濃度を他のパスの記録濃度よりも高くしたい場合には、kt1<kt2=kt3と設定する。たとえば、1パス目の記録濃度を他のパスの記録濃度の2倍としたい場合には、kt1×1/2=kt2=kt3とすればよい。
【0035】
大小関係検出部430は、乗算器421〜423からの入力に基づいて、分配係数切替部431を切り替える。大小関係検出部430は、入力されたd1〜d3のうち最小の値であるパスに対応するk1〜k3に対して、kminを出力する。例えば、乗算器421からの出力値d1が最大であった場合には、分配係数kminがk1として出力されるように、分配係数切替部431を切り替える。次に、入力されたd1〜d3のうち2番目に小さい値であるパスに対応するk1〜k3に対して、kmidを出力する。例えば、乗算器422からの出力値d2が2番目に小さい値であった場合には、分配係数kmidがk2として出力されるように、分配係数切替部431を切り替える。最後に、入力されたd1〜d3のうち最大値であるパスに対応するk1〜k3に対して、kmaxを出力する。例えば、乗算器423からの出力値d3が最大値であった場合には、分配係数kmaxがk3として出力されるように、分配係数切替部431を切り替える。
【0036】
これにより、処理済のN値データの濃度が最低のパスに対して高い分配係数を割り当てることになり、次回に処理される画素のN値データの濃度が上がる方向に作用する。一方、処理済のN値データの濃度が最高のパスに対して低い分配係数を割り当てることになり、次回に処理される画素のN値データの濃度が下がる方向に作用する。これにより濃度が所定の割合になるような濃度制御が可能となる。
【0037】
図7を用いて出力されるN値データの推移について説明する。図7はN値データと分配係数との関係の一例を説明する図である。説明の簡単のために、入力される入力画像データの濃度はどの画素においても10であるとし、各パスのN値データの濃度の合計値も10であるとする。また、図4に示す分配係数記録濃度制約部302において、各パスのN値データの濃度を均等とするため、kt1=kt2=kt3=1とする。
【0038】
カウント値701は画素カウンタ301がカウントするカウント値である。前述の通り、処理が終了した画素数がカウントされる。N値データ702はN値化部221〜223がそれぞれ出力する各パスにおけるN値データである。累積濃度703は濃度カウンタ411〜413が保持するN値データの累積値である。kt1=kt2=kt3=1としているため、これらの値はそれぞれ、図4に示す大小関係検出部430への入力値d1〜d3に等しい。分配係数704は図2に示す分配係数生成部201が乗算器211〜213にそれぞれ出力するk1〜k3の値である。
【0039】
まず、カウント値701が0の場合には、まだN値データ702は何も出力されていないため、分配係数生成部201はkmax、kmid、kminの値をそのままk1〜k3としてそれぞれ出力する。
【0040】
続いて、最初の画素の処理において、入力された入力画像データである10に対して、分配係数k1〜k3がそれぞれ乗算され、その結果、各パスのNデータは(4,3,3)となる。累積濃度703も(4,3,3)となる。大小関係検出部430はこれらの値を比較する。d1が最大であるため、次回の画素の処理では、kt1=kmin=0.2とする。このような処理を繰り返すことにより、各画素の各パスにおけるN値データ702が求まる。図7に示すように、各パスにおけるN値データ702は異なる値となっているにもかかわらず、各パスにおける累積濃度703は均等となっている。
【0041】
最後に、図8を用いてマルチパスによる印字処理について説明する。図8はマルチパス印字を行った場合における画像形成の遷移の一例を説明する図である。マルチパス印字では、紙などの印刷メディア802を複数の印字領域に分割し、それぞれの印字領域を複数回のヘッド110のスキャンに分けて印字を行う方法である。ヘッド110のスキャンとは、ヘッド110がインクを吐出しつつ、印刷メディア802上を走査することである。本実施形態では一つの印字領域を3回のスキャンに分けて印字する3パス印字を例として説明するが、パス数は3回に限定されるものではない。
【0042】
複数のノズルを備えるヘッド110は主走査方向801にスキャンを行い、各ノズルが印刷対象の印字データに基づいて印刷メディア802にインクを吐出する。スキャン終了後に紙送り機構111は副走査方向803の方向に印刷メディア802を所定の幅だけ紙送りする。
【0043】
n回のパスに分割するnパス印字では、一般的にヘッド110に含まれるノズルをn個のグループに分割し、1回のスキャンごとに、ヘッド110の幅の1/nずつ紙送りする。これにより、印刷メディア802の各印字領域に対して、計n回のスキャンが行われる。
【0044】
本実施形態では3パス印字を扱うため、ヘッド110に含まれるノズルをノズル・グループA804からノズル・グループC806の三つに分割する。各ノズル・グループには同数のノズルが含まれるとする。例えば、ヘッド110に192個のノズルが含まれるとすると、各ノズル・グループには64個のノズルが含まれる。そして、図8(a)に示すように、1回目のスキャンでノズル・グループA804による印刷メディア802の第1の印字領域807に対する1パス目の印字を行い、紙送りする。
【0045】
図8(b)に示すように、2回目のスキャンで、第1の印字領域807に対してノズル・グループB805による2パス目の印字が行われ、第2の印字領域808に対してノズル・グループA804による1パス目の印字が行われる。
【0046】
続いて、図8(c)に示すように、3回目のスキャンで第1の印字領域807に対してノズル・グループC806による3パス目の印字が行われ、第2の印字領域808に対してノズル・グループB805による2パス目の印字が行われる。なお、簡略化のため、印刷メディア802の第3の印字領域以降については説明を省略するが、同様の処理が行われる。
【0047】
以上の処理により、3回目のスキャンによって、印刷メディア802の第1の印字領域807に対する印字が完了する。これを繰り返すことで、印刷メディア802に対する印字が完了する。
【0048】
以上により、マルチパス印字による画像形成において、モアレ効果やパス間の濃度ムラ、筋ムラ等の画像劣化を防止でき、良好な記録画像を形成することが可能となる。
【0049】
なお、分配係数生成部201は図5に示す構成であっても良い。図5は分配係数生成部201の詳細な構成の別の例を説明する図である。乱数発生部501はN値化処理部106が画素を処理するたびに乱数を発生して、分配係数記録濃度制約部302に出力する。この構成により、一組の分配係数がランダムに決定されるため、分配係数を周期的に決定するよりも、周期的な相関性を軽減する効果が期待できる。
【0050】
<その他の実施形態>
なお、本発明は、複数の機器(例えばホストコンピュータ、インタフェイス機器、リーダ、プリンタなど)から構成されるシステムに適用しても、一つの機器からなる装置(例えば、複写機、ファクシミリ装置など)に適用してもよい。
【0051】
また、本発明の目的は、前述した機能を実現するコンピュータプログラムのコードを記録した記憶媒体を、システムに供給し、そのシステムがコンピュータプログラムのコードを読み出し実行することによっても達成される。この場合、記憶媒体から読み出されたコンピュータプログラムのコード自体が前述した実施形態の機能を実現し、そのコンピュータプログラムのコードを記憶した記憶媒体は本発明を構成する。また、そのプログラムのコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼働しているオペレーティングシステム(OS)などが実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって前述した機能が実現される場合も含まれる。
【0052】
さらに、以下の形態で実現しても構わない。すなわち、記憶媒体から読み出されたコンピュータプログラムコードを、コンピュータに挿入された機能拡張カードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書込む。そして、そのコンピュータプログラムのコードの指示に基づき、その機能拡張カードや機能拡張ユニットに備わるCPUなどが実際の処理の一部または全部を行って、前述した機能が実現される場合も含まれる。
【0053】
本発明を上記記憶媒体に適用する場合、その記憶媒体には、先に説明したフローチャートに対応するコンピュータプログラムのコードが格納されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施形態における画像形成装置100のハードウェア構成の一例を表すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態におけるN値化処理部106の詳細な構成の一例を説明する図である。
【図3】本発明の実施形態における分配係数生成部201の詳細な構成の一例を説明する図である。
【図4】本発明の実施形態における分配係数記録濃度制約部302の詳細な構成の一例を説明する図である。
【図5】本発明の実施形態における分配係数生成部201の詳細な構成の別の例を説明する図である。
【図6】本発明の実施形態における分配係数テーブル303の一例である。
【図7】本発明の実施形態におけるN値データと分配係数との関係の一例を説明する図である。
【図8】本発明の実施形態におけるマルチパス印字を行った場合における画像形成の遷移の一例を説明する図である。
【図9】低階調化回路として誤差拡散法を適用し、かつ2パスに分割する場合の構成図の一例である。
【図10】画像形成装置がN値データを記録する様子を説明する図である。
【符号の説明】
【0055】
100 画像形成装置
101 CPU
102 ROM
103 RAM
104 USBデバイスインターフェース
105 USBホストインターフェース
106 N値化処理部
107 印字処理部
108 メカ制御部
109 プリンタエンジン部
110 ヘッド
111 紙送り機構
112 色分解処理部
120 パソコン
130 デジタルカメラ
131 接続ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多値画像データを複数のパスで印字する画像形成装置であって、
2種類以上の非負の値を有する分配係数を前記パスのいずれかにそれぞれ分配する分配手段と、
前記多値画像データの処理対象の画素に前記分配された分配係数を乗算した前記パスごとの値を、階調度を低減したN値データにそれぞれ変換するN値化手段と、
前記N値データを印字する印字手段と
を備え、
前記分配手段は、前記処理対象の画素の処理において、該画素に先行して処理された画素の前記N値データに関する前記パスごとの累積値を比較して、該累積値が大きいパスほど値の小さい分配係数を分配する
ことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記分配手段は、前記パスごとに事前に規定された定数を前記累積値に乗算してから前記比較を行うことを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記分配手段は、複数の組の前記分配係数を記憶したテーブルから、処理した画素数に応じて周期的に一組の該分配係数を取得して、前記分配を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記分配手段は、複数の組の前記分配係数を記憶したテーブルから、一組の該分配係数をランダムに取得して、前記分配を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記分配係数の合計値が1であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記N値データは二値データであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項7】
多値画像データを複数のパスで印字する画像形成装置の制御方法であって、
分配手段が、2種類以上の非負の値を有する分配係数を前記パスのいずれかにそれぞれ分配する分配工程と、
N値化手段が、前記多値画像データの処理対象の画素に前記分配された分配係数を乗算した前記パスごとの値を、階調度を低減したN値データにそれぞれ変換するN値化工程と、
印字手段が、前記N値データを印字する印字工程と
を備え、
前記分配工程において、前記処理対象の画素の処理の際に、該画素に先行して処理された画素の前記N値データに関する前記パスごとの累積値を比較して、該累積値が大きいパスほど値の小さい分配係数を分配する
ことを特徴とする画像形成装置の制御方法。
【請求項8】
コンピュータを請求項1乃至6のいずれか1項に記載の画像形成装置として機能させるためのコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−274228(P2009−274228A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−124967(P2008−124967)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】