説明

画像形成装置

【課題】 従来の放電電流量制御では帯電ローラに印加する交流電圧のピーク間電圧値を複数回変更して帯電ローラに流れる電流値に基づき放電電流量を算出していた。そのため、放電電流量制御を行うために時間を要していた。
【解決手段】 感光体と帯電装置の間に流れる電流のうち、前記交流電圧に対応する交流電流成分を除去することによって放電電流成分を抽出する処理部と、前記処理部によって抽出された前記放電電流成分に基づき、前記交流電圧のピーク間電圧値を制御する制御手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
感光体を帯電する帯電装置を備える画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コロナ帯電器よりも低電圧かつオゾン発生量が少ない接触帯電方式を採用した画像形成装置が実用化されている。例えば、帯電ローラを用いて像担持体を帯電する画像形成装置はコロナ帯電器を用いた画像形成装置より装置本体をコンパクトにできる。ここで、帯電ローラを用いて像担持体としての感光体を帯電する際に、交流電圧と直流電圧とを重畳した電圧を帯電ローラに印加することによって感光体を均一に帯電する。交流電圧と直流電圧とを重畳した電圧で帯電する「AC帯電方式」は直流電圧のみで帯電する「DC帯電方式」と比べて像担持体の均一帯電性を向上させることができる。しかし、「AC帯電方式」は「DC帯電方式」よりも像担持体への放電量が大きくなる。放電量が大きくなると、像担持体の削れ量や画像流れの原因となる放電生成物の発生量が大きくなってしまう。そこで、「AC帯電方式」で帯電均一性を確保しつつ、放電量を必要最低限にするための交流電圧値(ピーク間電圧値)を設定する方法が特開2001−201920号公報に開示されている。
【0003】
しかしながら、電圧と放電量の関係は像担持体の感光体層や誘電体層の膜厚、帯電部材や空気の環境変動によって変化する。例えば、低温低湿環境(温度15℃、湿度10%、L/L環境)では材料が乾燥して抵抗値が上昇し放電しにくくなる。逆に、高温高湿環境(温度30℃、湿度80%、H/H環境)では材料が吸湿し抵抗値が低下して放電しやすくなる。そのため、H/H環境において、L/L環境において適切なピーク間電圧の交流電圧を帯電ローラに印加した場合、放電量が必要以上に大きくなる。放電量の増大は像担持体の削れ量の増大、放電生成物による画像流れ(静電像のボケ)、トナー融着などを引き起こす。
【0004】
そのため、従来、環境が変動しても、適切な帯電を行うために、放電電流量制御を所定枚数毎に行っていた。以下に特許文献1(特開2001−201920号公報)に開示されている放電電流制御について簡単に説明する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−201920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の放電電流制御では、帯電部材に印加する交流電圧のピーク間電圧値を変化させ、未放電領域の数点と放電領域の数点で帯電部材と像担持体の間に流れる総電流量を測定する。測定結果から放電開始点を算出した後、交流電圧のピーク間電圧値と放電電流量の関係から適切な放電電流量になるようにピーク間電圧値を制御する(図9参照)。
【0007】
従来の放電電流制御では、放電電流量制御を行った直後は適切な放電電流量であるが、次の放電電流制御を行う頃には適切な放電電流量からずれてしまう。そのため、放電電流量制御を頻繁に行うことにより適切な放電電流量とのズレを低減させることが考えられる。
【0008】
しかしながら、交流電圧のピーク間電圧値を変化させて、複数点で総電流量を測定する従来の放電電流量制御では、制御時間が長く生産性が落ちてしまうという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明の画像形成装置は回転可能な感光体と、前記感光体を帯電する帯電装置と、前記帯電装置に交流電圧を印加する印加手段と、前記感光体と前記帯電装置の間に流れる電流のうち、前記交流電圧に対応する交流電流成分を除去することによって放電電流成分を抽出する処理部と、前記処理部によって抽出された前記放電電流成分に基づき、前記交流電圧のピーク間電圧値を制御する制御手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
放電電流量制御に要する制御時間を短縮することにより、生産性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例に係る画像形成装置の概略図。
【図2】本発明の実施例に係る帯電ローラの詳細図。
【図3】総電流波形と放電電流波形の説明図。
【図4】ハイパスフィルタの周波数伝達特性を示す図。
【図5】ハイパスフィルタを適用後の波形を示す図。
【図6】帯電交流電圧と放電電流量の関係を説明するための図。
【図7】本発明の実施例に係る放電電流量制御に関するフローチャート。
【図8】本発明の実施例に係る放電電流量制御に関するフローチャート。
【図9】従来の放電電流量制御の手順を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施例1)
以下、本発明の一実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は画像形成装置としてのフルカラープリンタの概略構成を示す断面図である。また、図2の(a)は感光体ドラムが帯電ローラによって帯電される部分を拡大した詳細図である。また、図2の(b)は画像形成装置の制御回路のブロック図である。
【0013】
§1.{画像形成装置の概略構成について}
図1に示す画像形成装置は、像担持体としてのドラム型の電子写真感光体(以下、感光体ドラムという)1を備えている。この感光体ドラム1は矢印R1方向に回転自在(回転可能)に支持されている。
【0014】
感光体ドラム1の周囲には、その回転方向に沿って上流側から、帯電ローラ(帯電手段)2、露光装置(露光手段)3、現像装置(現像手段)4、中間転写ベルト5、クリーニング装置(クリーニング手段)6が順番に配設されている。また、中間転写ベルト5の下方には、転写搬送ベルト7が配設されている。
【0015】
さらに、記録材(例えばシート状の紙、透明フィルム)Pの搬送方向(矢印K方向)に沿っての転写搬送ベルト7の下流側には、定着装置(定着手段)8が配設されている。以下、感光体ドラム1〜定着装置8の順に詳述する。
【0016】
■(感光体ドラムについて)
感光体ドラム1は、直径がφ60mm、長手方向の長さが350mmのものを用いている。感光体ドラム1は、図2の(a)に示すように、電流検知回路S5を介して接地されたアルミニウムなどの導電材製のドラム基体1aを備える。このドラム基体の外周面に、通常の有機光導電体層(OPC:Organic Photo Conductor)からなる感光層1bを形成塗布している。そして、感光層1b上に耐摩耗性に優れた保護層(OCL:Over Corte Layer)1cを塗布形成している。上述のOPCは負の帯電特性を有している。なお、この電流検知回路の位置は感光体側ではなく、帯電ローラ側でもよい。
【0017】
感光層1bは、下引き層(CPL)1b1、注入阻止層(UCL)1b2、電荷発生層(CGL)1b3、電荷輸送層(CTL)1b4の4層によって構成されている。感光層1bは、通常は絶縁体であり、特定の波長の光を照射することによって導電体となるという特徴を有している。これは、光照射により電荷発生層1b3内に正孔(電子対)が生成し、それらが電荷の流れの担い手となるからである。電荷発生層1b3は厚さ0.2μmのフタロシニアン化合物で構成され、また電荷輸送層1b4は厚さ25μm程度のヒドラゾン化合物を分散させたポリカーボネートで構成されている。感光体ドラム1は、駆動手段(不図示)によって矢印R1方向に回転駆動される。
【0018】
■(帯電ローラについて)
帯電ローラ2は、ローラ状に形成された接触帯電部材である。本実施例では直径がφ14mm、長手方向の長さ320mmのものを用いている。帯電ローラ2は感光体ドラム1表面(外周面)を所定の極性・電位に一様に帯電処理する部材である。帯電ローラ2は、金属製の芯金2aの外周面を、弾性層2b、抵抗層2c、表面層2dで覆って構成されている。芯金2aは、その長手方向の両端部がそれぞれ軸受部材(不図示)によって回転自在に保持されている。軸受部材は、付勢部材としての押圧ばね(圧縮ばね)2eによって感光体ドラム1に向けて付勢されている。これにより、帯電ローラ2は、感光体ドラム1表面に対して所定の押圧力をもって圧接させて感光体ドラム1表面との間に帯電部(帯電ニップ部)aを形成している。これにより、帯電ローラと感光体の間の微小空隙(帯電ギャップ部)が形成され、この帯電ギャップ部において放電が発生して感光体を帯電する。なお、帯電ローラ2は感光体ドラム1の矢印R1方向の回転に伴って、矢印R2方向に従動回転する。
【0019】
帯電ローラ2は、直流および交流電源からなる帯電バイアス印加電源S1によって帯電バイアスが印加される。帯電バイアス印加電源S1から帯電ローラ2の芯金2aに対して、帯電バイアスとして、直流電圧と交流電圧とを重畳させた振動電圧が印加される。これにより、回転中の感光体ドラム1表面は、所定の極性・電位に均一に(一様に)帯電処理される。帯電ローラ2の周波数はレーザとの干渉によるモアレが発生しない領域として、検討の結果1300Hzとした。また、帯電バイアス印加電源S1および電流検知回路S5は、図2の(b)に示すように、CPU30に接続され、CPU30には制御データを格納したROM40が接続されている。そして、電流検知回路S5の検知データに基づいて、帯電バイアス印加電源S1による帯電バイアスが制御されるようになっている。本実施例において、帯電ローラに印加する帯電DCは−600V、帯電ACのピーク間電圧値(Vpp)は1500Vを初期値としている。なお、帯電ACのピーク間電圧値は電流検知回路S5の検知結果に基づき制御される。
【0020】
■(電流検知回路について)
図3は放電が発生する交流電圧が帯電ローラに印加された際に、ハイパスフィルタを適応しない電流検知回路が検知する電流波形(交流電圧に対応する交流電流成分と放電電流成分)を示す図である。図3のAは放電によって生じる電流の増加部分である。本実施例において、処理部としての電源検知回路S5はハイパスフィルタを備える。このハイパスフィルタは図3に示す電流波形の内、帯電ローラに印加される交流電圧の周波数域よりも高い周波数成分(放電成分)を透過させ、交流電圧の周波数域よりも低い周波数成分(交流成分)を減衰させる。そのため、電流検知回路S5は帯電電圧が帯電ローラに印加されたときに生じる図3のAの成分(放電電流成分)を抽出することができる。
【0021】
放電電流成分Aを抽出するために用いるハイパスフィルタは、アナログ信号回路であっても、デジタル信号回路であってもよい。本実施例では図3に示す波形をサンプリング周波数44100HzでA/D変換した後、デジタル信号処理によって放電電流成分を抽出する(ハイパスフィルタリングする)。
【0022】
具体的には、サンプリング周波数が44100Hz、カットオフ周波数が2000Hz、窓関数がハミング窓関数のハイパスフィルタを用いた。このハイパスフィルタ処理を実行するデジタル信号回路は遅延要素を含む101段(段数orフィルタ設計時の次数orタップ数)の回路から成る。なお、段数は高いほど周波数分解能が高くなるが、フィルタ処理に要する時間が長くなる。本件では、電成分以外の電流成分の除去するためのデジタル信号処理回路はASIC(Application Specific Integrated Circuit)で構成した。なお、FPGA(Field Programmable Gate Array)を用いても良いし、汎用性の高いDSP(Digital Signal Possessor)をプログラムに従うように動作させてもよい。
【0023】
無論、高周波数成分を透過させ、低周波数成分を減衰させる周波数伝達特性を持つアナログ信号回路を用いてもよい。
【0024】
ここで、カットオフ周波数(Cutoff Frequency)とは、カットオフ周波数を下回る周波数の出力がカットオフ周波数を上回る(透過周波数)の出力よりも1/√2となる周波数である。
【0025】
■(その他の装置について)
露光装置3は、画像情報に応じてレーザ光をON/OFF制御するレーザスキャナ3aが使用されている。レーザスキャナ3aから発生されたレーザ光は、反射ミラー3bを介して、帯電後の感光体ドラム1表面に照射される。これにより、レーザ光照射部分の電荷が除去されて静電潜像が形成されるようになっている。
【0026】
現像装置4としては、回転現像方式が採用されている。軸4aを中心にモータ(不図示)によって矢印R4方向に回転駆動される回転体4Aと、これに搭載された4個の現像器、すなわちイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの現像器4Y、4M、4C、4Kとを有している。
【0027】
例えば、感光体ドラム1上にブラックの現像剤像(トナー像)を形成するときは、回転体4Aの矢印R4方向に回転によって、ブラックの現像器4Kが感光体ドラム1表面に対向する現像部(現像位置)Dに搬送される。そして、その現像スリーブ4bに、現像バイアス印加電源S2によって現像バイアスが印加される。これにより、感光体ドラム1上の静電潜像がブラックのトナーで現像されるようになっている。同様にイエローのトナー像を形成するときは、回転体4Aを矢印R1方向に90°回転させて、現像位置Dにイエロー用の現像器4Yを配置させ、現像を行う。マゼンタ、シアンのトナー像の形成も同様にして行うようになっている。なお、本実施の形態においては、感光体ドラム1の帯電特性と同じ極性(負)の電荷を有するトナーによって現像を行う、いわゆる反転現像を採用している。また、現像バイアスとしては、直流電圧に交流電圧を重畳させた振動電圧を使用している。なお、以下の説明において、特に色を区別する必要がないときは、単に、現像器という。
【0028】
トナー濃度センサ9は現像装置4と中間転写ベルト5の間に位置し、感光体ドラム1上に形成されたトナー像の濃度を光学的に非接触測定する。発光部の光源には、中心波長800nmの赤外光LEDを用いている。
【0029】
中間転写ベルト5は、駆動ローラ10、一次転写ローラ(一次転写帯電器)11、従動ローラ12、二次転写対向ローラ13に掛け渡されており、駆動ローラ10の矢印R10方向の回転に伴って矢印R5方向に回転する。中間転写ベルト5は、感光体ドラム1表面に当接されて感光体ドラム1との間に一次転写部(一次転写ニップ部)T1を形成している。
【0030】
一次転写ローラ11には、これに一次転写バイアスを印加する一次転写バイアス印加電源S3がアースされた状態で接続されている。また、中間転写ベルト5には、従動ローラ12に掛け渡されている部分の表面に、ベルトクリーナ14が当接されている。
【0031】
クリーニング装置6は、感光体ドラム1の回転方向に沿っての一次点転写ニップ部T1の下流側(転写ローラ2の上流側)に配置されている。クリーニング装置6は、感光体ドラム1表面に当接されたクリーニングブレード(クリーニング部材)6aと、このクリーニングブレード6aによって掻き落とされたトナーを回収するクリーニング容器6bとを有している。
【0032】
転写搬送ベルト7は、駆動ローラ15、二次転写ローラ16、従動ローラ17に掛け渡されており、駆動ローラ15の矢印R15方向の回転に伴って矢印R7方向に回転する。転写搬送ベルト7は、中間転写ベルト5に当接されて中間転写ベルト5との間に二次転写部(二次転写ニップ部)T2を構成している。二次転写ローラ16には、これに二次転写バイアスを印加する二次転写印加電源S4がアースされた状態で接続されている。
【0033】
定着装置8は、ヒータ(不図示)を内蔵した定着ローラ18と、これに押圧されて定着部Nを構成する加圧ローラ20とを有している。
【0034】
■(画像形成動作について)
次に、画像形成装置の画像形成動作を説明する。なお、以下では、ブラック、イエロー、マゼンタ、シアンの順に4色フルカラーを形成する場合を例に説明する。また以下にあげる数値は、一例を示すものであって、本発明はこれらの数値に限定されるものではない。
【0035】
感光体ドラム1は、駆動手段(不図示)によって矢印R1方向に140mm/secで回転駆動される。回転状態の感光体ドラム1は、表面に当接されている帯電ローラ2に帯電バイアス印加電源S1から帯電バイアスが印加されることにより、所定の極性・電位に(例えば、−600V)に均一に帯電される。
【0036】
露光装置3は帯電された感光体ドラム1の表面に、入力される画像情報に基づき露光する。これにより、露光された部分(明部)の電荷は除去(例えば、−150V)され、感光体ドラム上に静電潜像が形成される。この静電潜像は、回転体4Aの矢印R4方向の回転により、感光体ドラム1表面に対向する現像位置Dに配置されたブラックの現像器4Kによって現像される。このとき、ブラックの現像器4Kの現像スリーブ4bには、現像バイアス印加電源S2によって、直流電圧(例えば、−450V)に交流電圧(例えば、ピーク間電圧1.5kV、周波数8kHzの交流電圧)が重畳された振動電圧が印加される。これにより、感光体ドラム1表面の明部に負の電荷をもったブラックのトナーが付着され、トナー像として現像される。
【0037】
感光体ドラム1上のトナー濃度を測定する際には、あらかじめトナー像が無い状態で感光体ドラム1上の測定をしておき、トナー像が現像された状態との比較を行う。常にトナー濃度センサ9を作動させる必要は無く、現像装置5内のトナーの帯電状態が大きく変化していることが予想される、電源投入後1回目の画像形成時や、大量にトナーが消費された時に作動させる構成とすることが望ましい。
【0038】
感光体ドラム1表面に形成されたトナー像は、中間転写ベルト5に一次転写される。感光体ドラム1上のトナー像は、感光体ドラム1の矢印R1方向の回転に伴って一次転写部T1に搬送される。そして、一次転写ローラ11に一次転写バイアス印加電源S3から一次転写バイアス(例えば、+400V)が印加されることにより、中間転写ベルト5上に一次転写される。感光体ドラム1は、この一次転写時に中間転写ベルト5に転写されないで表面に残ったトナー(残留トナー)がクリーニング装置6のクリーニングブレード6aによって除去されて、次のイエローの画像形成に供される。
【0039】
感光体ドラム1は、ブラックの場合と同様に、帯電、露光が行われて静電潜像が形成される。この静電潜像は、回転体4Aを矢印R4方向に90°回転させて、イエローの現像器4Yを現像位置Dに配置し、その現像スリーブ4bに現像バイアス印加電源S2から現像バイアスを印加することで、イエローのトナー像として現像される。このイエローのトナー像は、一次転写部T1において、一次転写ローラ11に一次転写バイアス印加電源S3から印加される一次転写バイアスによって、中間転写ベルト5上に、先のブラックのトナー像に重ねあわされるようにして一次転写される。トナー像転写後の感光体ドラム1は、表面に残った残留トナーがクリーニング装置6によって除去され、次のマゼンタの画像形成に供される。
【0040】
以下同様にして、感光体ドラム1上に順次にマゼンタ,シアンのトナー像が形成され、さらに中間転写ベルト5上に順次に一次転写される。これにより、中間転写ベルト5上で、4色のトナー像が重ね合わされる。
【0041】
中間転写ベルト5上の4色のトナー像は、記録材Pに二次転写される。二次転写に先立ち、転写搬送ベルト7が中間転写ベルト5に接触されて二次転写部T2が形成される。中間転写ベルト5上の4色のトナー像は、中間転写ベルト5の矢印R5方向の回転に伴って二次転写部T2に搬送される。
【0042】
一方、給送カセット(不図示)に収納されていた記録材Pは、給搬送装置(不図示)によって給搬送されて、転写搬送ベルト7表面に担持され、転写搬送ベルト7の矢印R7方向に回転によって二次転写部T2に搬送される。このとき、二次転写バイアス印加電源S4によって二次転写ローラ16に二次転写バイアスが印加され、中間転写ベルト5上の4色のトナー像が一括で記録材P上に二次転写される。
【0043】
トナー像の二次転写後の記録材Pは、中間転写ベルト5から剥離されて、矢印K方向に搬送され、定着装置8において、定着ローラ18と加圧ローラ20とによって挟持搬送されながら、加熱・加圧されて表面にトナー像が定着される。これにより、1枚の記録材Pに対する4色フルカラーの画像形成が終了する。一方、トナー像の二次転写後の中間転写ベルト5は、表面に残ったトナー(残留トナー)がベルトクリーナ14によって除去される。なお、単色の画像形成を行う場合は、感光体ドラム1上に形成された静電潜像を、所望の色のトナーを収容する現像器によって現像する。このトナー像は、中間転写ベルト5上に一次転写された後、すぐに記録材P上に二次転写される。トナー像が転写された記録材Pは、転写搬送ベルト7から剥離されて、定着装置8によって加熱・加圧されて表面にトナー像が定着される。
【0044】
§2.{放電電流量制御について}
図3はフィルタを適用しない場合の感光体ドラムと帯電ローラの間に流れる電流の波形を示すグラフである。従来は図3に示すような、放電電流成分を含む総電流量を用いて放電電流量制御を行っていた。本件では図3に示すような放電電流成分を含む総電流波形からハイパスフィルタを用いて抽出した放電電流成分を用いて放電電流量制御を行う。ここで、従来の放電電流量制御では交流電圧のみを帯電ローラに印加して総電流量を検知していた。
【0045】
なお、図3に示す波形は感光体ドラムと帯電ローラの間に流れる総帯電電流(以下、総電流と呼ぶ)の波形の一例を示す。この電流波形はDC電圧:−500V、AC電圧:1200Vpp、帯電周波数:1300Hz、プロセススピード:140mm/secという条件において得られた波形である。図3は印加したDC電圧成分を除去した交流電流の波形を示すものである。なお、放電開始電圧値は負極の放電開始電圧の絶対値と正極の放電開始電圧の絶対値とを比べると負極側の方が低いため、上述の帯電条件では片側だけ放電が発生していることがわかる。これは、正極と負極で放電のメカニズムが異なるためである。
【0046】
■(従来の放電電流制御に関する説明)
従来の放電電流量制御について、図9を用いて簡単に説明する。従来の放電電流量制御では、帯電交流電圧のピーク間電圧を800V、900V、1000V(未放電領域の3点)に変更したときのそれぞれの総電流量530μA、600μA、660μAをグラフにプロットする。続いて、交流電圧のピーク間電圧を1500V、1600V、1700V(放電領域の3点)変更したときのそれぞれの総電流量1050μA、1150μA、1220μAをグラフにプロットする。
【0047】
そして、未放電領域における3点の近似曲線直線L1と放電領域における3点の近似曲線直線L2の差分を放電電流量として扱う。従来の放電電流量制御では、2直線の差分から求まる放電電流量が所望の値になるように交流電流のピーク間電圧値を制御している。
【0048】
このような従来の制御では、ピーク間電圧値を6回変更し、その時に感光体ドラムと帯電ローラの間に流れる電流値を測定している。ピーク間電圧値を1回変更するためには約50ms必要である。また、感光体ドラムと帯電ローラの間に流れる電流値を1回測定するためには約50ms必要である。そのため、従来の放電電流量制御では、ピーク間電圧値の変更と測定を6回行うため、約(50+50)×6=600msと比較的長い時間を要する。そのため、多数回交流電流のピーク間電圧値を変更する従来の放電電流量制御では、画像形成領域と画像形成領域の間の非画像形成部(いわゆる紙間)において生産性を低下させることなく実行することが出来なかった。
【0049】
■(フィルタの周波数伝達特性について)
本件において、放電電流成分を抽出するために電流検知回路S5に用いたハイパスフィルタについて詳しく説明する。本件の放電電流制御は、放電電流成分Aの周波数が帯電交流電圧の周波数よりも高周波数であることに着目している。つまり、放電電流成分Aが高周波数(約7000Hz)であるためにハイパスフィルタを用いて放電電流成分を抽出するためにハイパスフィルタで用いて処理している。以下にハイパスフィルタとして2種類の例(フィルタ1、フィルタ2)を挙げて説明する。なお、ハイパスフィルタは共に、サンプリング周波数は44100Hz、窓関数としてはハミング窓関数を用いており、段数は101段とする。
【0050】
フィルタ1は帯電周波数がカットオフ周波数となるフィルタである。また、図4の(a)は本実施例の比較例としてのフィルタ1の周波数伝達特性を示す図である。図からも判るように、帯電交流電圧の周波数(1300Hz)においてフィルタ1の倍率は0.4倍である。
【0051】
フィルタ2は帯電周波数の1.5倍がカットオフ周波数(1950Hz)となるフィルタである。また、図4の(b)は本実施例において電流波形から放電電流成分を抽出するために用いたハイパスフィルタとしてのフィルタ2の周波数伝達特性を示す図である。図からも判るように、帯電交流電圧の周波数(1300Hz)においてフィルタ2の倍率は略0倍である。
【0052】
■(フィルタ適応後の信号波形について)
フィルタ適用前の波形w1は図3では実線で図5では破線で表している。図5の(a)は上述の図4の(a)に示す周波数特性を有するフィルタ1を用いて総電流波形w1を処理した波形w2である。図5の(a)から判るように、ハイパスフィルタのカットオフ周波数を帯電周波数と同じ周波数に設定すると、帯電交流周波数の交流電流波形も残る。そのため、フィルタ1では放電電流成分だけ抽出することができないことが判る。これはフィルタ1の周波数伝達特性が、カットオフ周波数(1300Hz)におけるゲインがある程度(約0.5倍)残っているからだと考えられる。
【0053】
図5の(b)は上述の図4の(b)に示す周波数特性を有するフィルタ2で総電流波形w1を処理した波形w3である。図5の(b)から判るように、ハイパスフィルタのカットオフ周波数を帯電周波数の1.5倍(1950Hz)に設定すると、帯電周波数(1300Hz)の波形は十分減衰し、放電電流周波数(約7000Hz)の波形を透過することが出来る。図5の(b)からも判るように、帯電周波数(1300Hz)におけるゲインは小さいほど良い。つまり、フィルタ2は帯電交流電圧の周波数(1300Hz)における周波数特性を略0倍にすることが出来ているため、帯電交流電圧の周波数成分を除去できる。ここで、2000Vppの場合に放電電流量が220μA程度であるのに対し、総電流量が1560μA程度であり、帯電周波数でのゲインが放電電流量÷総電流量=0.14の値以下ならば、検出できると考えられる。
【0054】
以上の結果から、放電電流成分の波形は、帯電周波数(1300Hz)の1.5倍をカットオフ周波数としたハイパスフィルタで処理することによって得ることができる。
【0055】
■(フィルタ起因のズレと放電電流量制御について)
図6の(b)からも判るように、従来の放電電流量制御と本件の放電電流量制御において検出される放電電流量についてはズレ(差)がある。このズレ(差)は本件で用いたハイパスフィルタの特性によって処理後の波形が歪んでしまうためであると考えられる。しかしながら、従来の方式で求めることができる放電電流量と差があっても問題とならない。
【0056】
従来の放電電流量制御において、放電電流量の目標値は、帯電均一性と過剰電流によるドラム削れ量の抑制を両立できる値になるように調整していた。つまり、本件においても、放電電流量の目標値においても、帯電均一性と過剰電流によるドラム削れ量の抑制を両立することができる値を放電電流量の目標値とすればよい。
【0057】
例えば、従来は放電電流量が50μAを目標制御値することによって帯電均一性とドラム削れ量の抑制を両立していたとする(図6の(b)破線参照)。その場合、ハイパスフィルタを用いて得られる放電電流量(図6の(b)実線参照)が100μA(所定値)を目標制御値することによって帯電均一性とドラム削れ量の抑制を両立することができる。つまり、何れの場合においても、交流電圧のピーク間電圧値を1500Vppに制御することとなる。
【0058】
§3.{放電電流量制御に関するフローチャート}
直流電圧と交流電圧を重畳した帯電電圧を帯電ローラに印加した時に、帯電ローラと感光体ドラムの間に流れる電流波形w1は図3に示す通りである。なお、帯電ローラと感光体ドラムの間に流れる電流波形は現像装置に印加される現像バイアスによって乱される可能性がある。そのため、放電電流量制御を行う際には、現像バイアスの出力を小さくすることが好ましい(より好ましくはOFF)。
【0059】
以下にハイパスフィルタを備える電流検知回路S5が検知した結果に基づき、制御手段としてのCPU30が帯電装置としての帯電ローラに印加する交流電圧のピーク間電圧値を制御する手順についてフローチャートを用いて説明する。
【0060】
■(所定量制御フローチャートについて)
以下に、本実施例における画像形成装置の放電電流量制御について、フローチャートを用いて説明する。図7は制御手段としてのCPU30が感光体ドラムと帯電ローラの間に流れる放電電流量を制御する手順を説明するためのフローチャートである。CPU30はROM40に保存されたプログラムに従い以下のように帯電ローラに印加する交流電流のピーク間電圧値を制御する。本実施例の放電電流制御は非画像形成中に実行するものとする。なお、S102からS106の制御は画像形成中に実行することも可能である。
【0061】
最初に、現像バイアスをOFFして電流検知回路S5が取得する電流波形が乱れないようにする。制御装置(コントローラ)としてのCPU30は、現像装置に印加される現像交流電圧を0Vにする(約50ms)(ステップS101)。次に、感光体ドラム1のアース側に取り付けられた電流検知回路S5によって、感光体ドラムと帯電ローラの間に流れる電流量を検知すると共に、電流検知回路S5が備えるハイパスフィルタで処理して放電電流量を算出される(ステップS102、S103)。
【0062】
制御手段としてのCPUはS103において算出された放電電流値が所定値(100μA)以上の場合に、S105の処理を、所定値未満の場合にS106の処理を実行する(S104)。
【0063】
放電電流量が所定値(100μA)以上の場合、制御手段としてのCPU30はS102において印加したピーク間電圧値よりピーク間電圧値を所定の調整量(ここでは、10Vpp)下げる(S105)。これにより放電電流量を所定値(100μA)に近づけることができる。
【0064】
放電電流量が所定値(100μA)以上の場合、制御手段としてのCPU30はS102において印加したピーク間電圧値よりピーク間電圧値を所定の調整量(ここでは、10Vpp)上げる(S106)。これにより放電電流量を所定値(100μA)に近づけることができる。前述の通り、ピーク間電圧値の調整には1回に付き約50msを要する。なお、ピーク間電圧値の調整量についてはシステムの安定性を考慮し、一度に変化させる最大量を決めておくことが望ましい。
【0065】
最後に、次の画像形成を行うために、現像装置が備える現像剤担持体としての現像スリーブに印加する現像バイアスをON(現像交流電圧を1500Vpp)する(S107)。なお、現像バイアスをONするためにはOFFする時と同様に約50msを要する。
【0066】
このように、本実施の形態では、電流波形に対して帯電周波数より大きな周波数以上の帯電電流を通すハイパスフィルタを通すことで、総電流量に含まれる放電電流成分が直接見積もられる。これにより、毎紙間で制御を行うことが可能になり、制御のためのダウンタイムを最小限(約150ms:現像OFFを除けば約50ms)に抑えることができる。そのため、紙間(感光体ドラム上での画像と画像の間隔)を最小限まで縮めることができ、生産性が向上する。また、電流検知毎に放電電流量を把握できるため、放電電流量制御の精度を高めることが出来る。また、環境や製造時による帯電ローラ2の抵抗値のばらつき等にかかわらず、過剰放電を起こさせず常に一定量の放電を生じさせ、感光体ドラム1の劣化、トナー融着、画像流れ等の問題なく均一な帯電を行うことができる。また、連続画像形成時においても帯電ローラ2の汚れにかかわらず均一な帯電を行うことができる。そのため、高画質、高品質な印刷物を安定して長期間出力することができる。なお、本件において放電電流量制御を行う際は、帯電ローラに交流電圧と直流電圧を重畳させた帯電バイアスを印加してもよいし、帯電ローラに交流電圧のみを印加してもよい。
【0067】
■(他の制御フローチャートについて)
以下に放電電流量が所定の範囲(100±3μA)になるまでピーク間電圧値を調整する制御について、フローチャートを用いて説明する。
【0068】
S201からS203までは、S101からS103までの処理と、S208はS107の処理と略同一であるため説明を省略する。
【0069】
制御手段としてのCPU30はS203において電流検知回路が検知した放電電流成分が所定の範囲内か否かによって処理を変更する(S204)。CPU30は放電電流量が所定の範囲内である場合にS208の処理を、所定の範囲外である場合にS205を実行する。
【0070】
S204において、放電電流量が所定の範囲外であると判断された場合、CPU30はS203において取得された放電電流量が所定値以上か否かによって処理を変更する(S205)。CPU30は放電電流量が所定の範囲の上限値(100+3μA)以上の場合にS206を、所定範囲の下限値(100−3μA)未満の場合にはS207を実行する。
【0071】
S205において、放電電流量が所定の範囲の上限値以上と判断された場合、CPU30は帯電ローラに印加する交流電圧のピーク間電圧値を5Vpp下げる(S206)。また、S205において、放電電流量が所定の範囲の下限値未満と判断された場合、CPU30は帯電ローラに印加する交流電圧のピーク間電圧値を5Vpp下げる(S207)。S206又はS207においてピーク間電圧値を変更した後、S202の処理を繰り返し行い、放電電流値が所定の範囲内になるまでこの処理を繰り返す。これにより、前述の所定量制御フローチャートを用いた制御よりも放電電流量制御の精度が向上する。
【0072】
§4.{その他の実施形態について}
本発明は、前記実施の形態記載に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲に記載されている発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の変更ができるものである。例えば、帯電ローラと感光体ドラムは接触している必要はなく、感光体ドラムと帯電ローラの間にギャップ間電圧と補正パッシェンカーブで決まる放電可能領域が確実に保証されればよい。例えば、帯電ローラが感光体ドラムと数10μmの空隙を有して非接触に近接配置してある構成に適応することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 感光体ドラム(感光体)
2 帯電ローラ(帯電部材)
S1 電源(印加手段)
3a レーザスキャナ(露光手段)
S5 電流計(検知手段)
30 CPU(制御手段、制御回路)
40 ROM(プログラム格納部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能な感光体と、
前記感光体を帯電する帯電装置と、
前記帯電装置に交流電圧を印加する印加手段と、
前記感光体と前記帯電装置の間に流れる電流のうち、前記交流電圧に対応する交流電流成分を除去することによって放電電流成分を抽出する処理部と、
前記処理部によって抽出された前記放電電流成分に基づき、前記交流電圧のピーク間電圧値を制御する制御手段と、を有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記制御手段は前記放電電流成分が一定となるように、前記交流電圧のピーク間電圧値を制御することを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記帯電装置は前記感光体と接触することを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−231188(P2010−231188A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3629(P2010−3629)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】