説明

画像転送調整アダプタ

【課題】画像転送インターフェースにおける画像データとクロック信号との同期を実用状態と同じ条件で簡単に評価できると共に、表示装置側の位相調整にも利用可能な画像転送調整アダプタを提供することを目的とする。
【解決手段】ビデオコントローラと表示装置との間を接続するコネクタにクロック信号を遅延させる遅延器を設け、遅延器の遅延量を外部から可変可能にすることで、画像データとクロック信号との位相調整を行い、表示装置側で受信される画像データ信号のセットアップ時間及びホールド時間を確保出来るようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばDVI(ディジタル・ビジュアル・インターフェース)やHDMI(ハイ・デフィニション・マルチメディア・インターフェース)などの画像データを伝送するインターフェースにおいて、表示装置と例えばビデオコントローラとの間に接続されるアダプタに関し、特にこの発明は表示装置の画面を見ながらクロック信号の位相調整が行えるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
DVI(ディジタル・ビジュアル・インターフェース)規格での信号伝送路は、3原色(R,G,B)の情報を伝達する3チャネルの画像データ伝送路と、1チャネルのクロック伝送路とから構成される。この3チャネルの画像データと1チャネルのクロックを1まとまりにして1リンクと数え、1つのインターフェースにつき2リンクまで対応できる。
DVIでは、差動信号であるTMDS(トランディジョン・ミニマイズド・ディファレンシャル・シグナリング)を使って1画素(1ピクセル)データを1クロックの間に1ワードの8bitデータと2bitのコントロールビットからなる10bitの信号で伝送する。1チャネル8bitなのでR,G,Bで3ワード、24データビットとなり1600万色を取り扱えるようにしたものである。10bitの画像データは、このクロック信号を基準として表示装置内部の逓倍回路で10倍にされた表示装置側のピクセルクロックと呼ばれるサンプリング信号によって、画像データとして読み込まれる。
【0003】
1画素のデータ転送時のタイムチャートを図10に示す。表示装置の画面解像度とクロック周波数との関係を表1に示す。
【0004】
【表1】

【0005】
図10には最も高いクロック周波数となるUXGAの場合を示す。このシリアルの伝送ラインは10bit/画素で伝送するため、データ速度は1.65Gbps、データ周期は606.1ps(ピコ・セカンド)と、一昔前の民生機器では考えられなかった高速度になる。
そのため、表示装置で画像データを受信するフリップフロップ等の記憶回路の、セットアップ時間(ある基準信号に対してその基準信号が入力される前に静止していることが要求される信号時間)及びホールド時間(ある基準信号に対してその基準信号が入力された後に静止していることが要求される信号時間)の規定値を満足できない場合が生ずる。セットアップ時間及びホールド時間が確保できないと、表示装置において画像データの取込みに失敗する。この結果、ボケたキレの悪い画面やチラついた画面等の表示品質の劣化が発生し、期待した性能が得られなくなる。
【0006】
このような例えばビデオコントローラと表示装置間のコネクティビティの問題、すなわち繋がる/繋がらないと言う問題に対して、従来から例えば特許文献1に示すように、画像データを受信する表示装置の回路基板上に受信した画像データを遅延させる位相調整回路を設けクロック信号にタイミングを合わせる方法や、画像データ及びクロック信号を夫々遅延させてタイミングを合わせる方法(特許文献2参照)が提案されている。
画像データを遅延させる位相調整回路を設けた従来例を図11に示しその動作を簡単に説明する。データを受信する受信データコネクタ101に入力された画像データは、フレーム同期判定部106からの信号によって受信データ用コネクタ101で受信したデータの遅延量を切替えるセレクタ部107に入力される。セレクタ部107は、受信したデータを複数の遅延素子から構成される遅延素子部103の中から選択した1つの遅延素子に伝達する。遅延素子部103の出力はワイヤードOR接続になっておりその出力端子は、例えばフリップフロップからなる受信部104のデータ端子に接続される。受信部104は、データ端子に入力される画像データを受信クロック用コネクタ102に入力されるクロック信号によって取込む。受信部104の出力端子は、受信部104で取込まれた画像データと受信クロック用コネクタ102に入力されるクロック信号とからフレームパターンを抽出してフレーム同期検出を行うフレーム同期検出部105に接続される。フレ−ム同期検出部105の出力端子は、所定時間内にフレーム同期が検出されたか否かを判定し、フレーム同期が所定時間内に検出出来なかった場合、セレクタ部107に遅延素子の切換要求信号を出力するフレーム同期判定部106に接続される。所定時間内にフレーム同期が検出されなかった場合、フレーム同期検出部105はフレーム同期が検出出来なかったことをフレーム同期判定部106に通知する。この通知によってフレーム同期判定部106は、セレクタ部107は受信したデータを伝達する遅延素子部103の遅延素子を切り換える。
【0007】
このように受信データを遅延させる位相調整回路を構成することで、受信データ信号のセットアップ時間及びホールド時間を確保するようにしたものである。
【特許文献1】特開平5−219040(段落0016、図1)
【特許文献2】特開平11−177540(段落0042、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の画像転送インターフェースにおける画像データとクロック信号との同期をとる位相調整手段は、表示装置側に設けられるか若しくは、画像データの送り手側と表示装置側双方に分割して設けられていた。したがって、その間を粗悪な画像伝送ケーブルや規定以上の長さの画像伝送ケーブルで接続されてしまうと位相調整手段の調整範囲を超える遅延が発生してしまい表示品質が劣化することがあった。また、粗悪な表示装置においては、規格内の画像伝送ケーブルを用いても画質の劣化が生じることがあった。
この発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、実用状態と同じ条件で簡単に画像の評価ができると共に、表示装置側の位相調整にも利用可能な画像転送調整アダプタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明では画像伝送ケーブルと結合する第1コネクタと、表示装置と結合する第2コネクタとの間に接続され画像信号を伝達する伝送路の他に、遅延量が設けられ第1コネクタに入力される画像信号(1画素)に対応するクロック信号を遅延させて第2コネクタに伝達する遅延器と、クロック信号の遅延量を制御する制御器とを備えた。
【発明の効果】
【0010】
以上のようにこの発明の構成によれば、例えばビデオコントローラと表示装置とを繋ぐ間に挿入され、クロック信号の位相調整が可能になるので、実際の使用状態で表示品質の劣化を調整することができる。また、ビデオコントローラと表示装置との間の位相余裕を簡単に評価することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
[第1実施形態]
【実施例1】
【0012】
図12にこの発明の画像転送調整アダプタの使用例を示す。この発明の画像転送調整アダプタは、画像データを供給するビデオコントローラ120とその画像データを表示する表示装置125と、その間を接続する画像伝送ケーブル126とからなる画像データ転送インターフェースにおいて、ビデオコントローラ120と表示装置125との間に挿入されるアダプタによってクロック信号の位相調整を可能にしたものである。
画像信号出力コネクタ(図示せず)に接続するビデオコネクタ121と、ビデオコネクタ121に入力された画像信号を表示する表示装置125の画像入力コネクタ(図示せず)に接続する表示コネクタ123と、ビデオコネクタ121と表示コネクタ123とを接続するケーブル122とからなる画像伝送ケーブル126。例えば、この画像伝送ケーブル126を構成する表示コネクタ123と表示装置125との間に画像転送アダプタ124が挿入される。また、ビデオコネクタ121とビデオコントローラ120との間に画像転送アダプタ124を挿入しても良い。また、画像伝送ケーブル126を構成する各コネクタ部、表示コネクタ123又はビデオコネクタ121と一体に画像転送アダプタ124を構成しても良い。
【0013】
図1にこの発明の画像転送調整アダプタの基本的な構成を示す。画像データの送信元となる例えばビデオコントローラと接続された画像伝送ケーブルと結合する第1コネクタ1と、画像データをインピーダンスマッチングさせ低損失で表示装置に接続される第2コネクタ3に伝達する言わば画像データをスルーさせる伝送路2と、画像データと一緒に第1コネクタ1に入力されるクロック信号を遅延器6に伝達する第1クロック線4と、第1クロック線4で入力されたクロック信号を遅延させる遅延器6と、遅延器6に接続されクロック信号の遅延量を制御する制御器5と、遅延器6で遅延されたクロック信号を第2コネクタ3に伝達する第2クロック線7とから構成される。
【0014】
遅延器6は、いろいろな構成が考えられる。例えば、遅延量の異なる遅延素子を複数配置して制御器5からの制御信号によってクロック信号を通す例えば受動素子(コンデンサや抵抗)で構成される遅延素子を選択する方法、または、単純に第1クロック線4と第2クロック線7との間の配線長を複数用意しておき、使用する配線長、すなわちクロック信号を通す配線を制御器5からの制御信号によって切り換える方法、または、汎用ICのディレーチップを使用してその遅延量を制御器5で制御する方法等がある。
制御器5は、例えば単純には複数のスイッチ、すなわちディジタル的な重み(量)が設定出来る複数bitが設定可能なスイッチで構成される。制御器5においてある制御量が設定されると、その制御量に応じて、遅延器6が制御量に応じた分、第1クロック線4から入力されたクロック信号を遅延させて第2クロック線7に伝達する。こうすることで、第1コネクタ1に入力される1画素データ当たり1クロックの関係で入力されるクロック信号の位相を予め決められた複数の遅延量のいずれかだけ遅らせることができる。こうして第2コネクタ3を介して画像データとクロック信号が入力された表示装置では、クロック信号に同期させて画像データ受信信号を生成させるので、制御器5によってクロック信号の遅延量を可変すれば表示装置における画像データの画素構成ビットデータとそのサンプリング信号との相対的な位相を調整することが出来る。
【0015】
この実施例1による画像転送調整アダプタを用いて、例えばビデオコントローラと表示装置とを接続すれば、表示装置の表示状態を確認しながらクロック信号の位相調整が可能になる。良好な表示状態に位相調整をした後は、画像転送調整アダプタを恒久的にその表示装置の画像伝送ケーブルの一部として使用しても良い。また、制御器5によるクロック信号の遅延量を明確に把握することが可能になるので、ビデオコントローラと表示装置との間のクロック信号と画像データとの間の位相余裕を評価する評価器として使用することも可能である。
【0016】
この発明による画像転送調整アダプタを評価器として使用すると、例えば表示装置の開発期間を短縮することも可能になる。これは、背景技術で述べたように表示装置によっては、その内部に位相調整手段を持つものもある。その位相調整手段は、UXGAの場合、データ周期が606.1psと非常に高速な信号、すなわち広帯域な信号に対応した回路を実装する必要がある。たとえば表示装置の評価の度にその回路を設計試作する期間が必要であり、これが装置全体の開発期間を長くする要因になっていた。この発明の画像転送調整アダプタを用いて位相余裕を評価すれば、試作することなく設計仕様を決定することが可能となる。この結果、開発製品の開発期間を短縮することも出来る。
【0017】
例えばビデオコントローラと表示装置を接続する画像伝送ケーブルは規格によりその伝送路の長さが決められ、ビデオコントローラと表示装置との間の長さが前記規格内であれば一般に問題はない。しかし、使用状態によっては、前記規格よりも長い画像伝送ケーブルが必要な場合がある。この場合には、前記画像データとクロック信号との相対位相ずれが問題になる場合がある。この実施例1によるアダプタを挿入接続すれば制御器の調整により良好な画像表示を可能とすることができる。
粗悪な表示装置においては、R,G,Bの各データに対するセットアップ時間及びホールド時間に差があるものがあり、このためビデオコントローラと表示装置との間の長さが規格の画像伝送ケーブルの長さ以内であっても良好な表示画像が得られない場合がある。しかし、この実施例1のアダプタを挿入してクロック信号の遅延量を制御することにより良好な表示画像が得られる場合もある。
【実施例2】
【0018】
実施例2として汎用ICのディレーチップを用いた場合の、制御器5のより具体的な一実施例を図2に示す。第1コネクタ1からクロック信号を遅延器6に伝送する第1クロック線4の途中にクロック信号を遅延器6と位相比較器22の2つに分岐させる2分岐バッファー20が挿入されている。遅延器6の出力側には、遅延器6で遅延させたクロック信号を第2コネクタ3と位相比較器22の2つに分岐させる2分岐バッファー21が挿入されている。位相比較器22は、R端子に入力される遅延する前のクロック信号と、F端子に入力される遅延器6で遅らされたクロック信号との位相差をディジタル的に比較する。位相比較器22は、比較した結果のパルス状の出力信号をループフィルタ23へ出力する。ループフィルタ23は、オペアンプで構成される例えばラグ型ローパスフィルターである。ループフィルタ23は、位相比較器22のパルス状の出力信号を位相比較結果に対応した直流電圧に変換する。ループフィルタ23で直流電圧に変換された位相比較結果は、AD変換器(以下ADCと略す)24に伝達される。ADC24は、図示しない発信器を内蔵しその発信周波数(少なくともクロック周波数の10倍程度以上の高い周波数)の周期で位相比較結果をディジタル信号に変換してラッチ回路25に出力する。ラッチ回路25はラッチ状態では直前に入力されたデータを保持出力し、非ラッチ状態では入力データをそのまま出力するものである。ラッチ回路25のC端子には、R-Sラッチ28のQ出力端が接続され、R-Sラッチ28のQ出力端が高レベル(以下Highという)の時、ラッチ回路26はADC24の出力信号を加算器27へスルーさせる。加算器27は、クロック信号の遅延量を外部から設定する外部スイッチ26の設定値とラッチ回路25の出力信号を加算して遅延器6の遅延量設定端子へ出力する。R-Sラッチ28のS端子には、S端子の電位を接地電位(GND)に固定する抵抗29aと他端が正電源VCCに接続されたスイッチ片29bとで構成される初期化スイッチ29が接続されている。R-Sラッチ28のR端子には位相比較器22の比較した位相が逆転したときにHighになるD端子が接続されている。初期化スイッチ29がONされるとR-Sラッチ28のQ出力端はHighに保持されるので、その間、ADC24の出力信号はラッチ回路25をそのまま通過し加算器27に伝達される。位相比較器22で位相の逆転が検出されるとR-Sラッチ28のR端子に接続されたD信号がHighになりR-Sラッチ28がリセットされる。R-Sラッチ28のQ出力端が低レベル(以下Lowという)になると、そのときのADC24の出力信号をラッチ回路25は保持し、それ以後のADC24の出力信号を遮断する。すなわち、初期化スイッチ29をONさせた後、位相の逆転が検出されるまでの間、ADC24の出力信号が遅延器6の遅延量設定端子へ伝達されるように動作する。
【0019】
遅延器6はこの実施例の場合、汎用のプログラマブルディレーチップであり、遅延量設定端子に入力されるディジタル値に基づいて例えば100psの分解能で調整範囲は100ps×255ステップ(8bit)である。この遅延量の分解能は、UXGAの場合、図10に示すように画像データの1bitが606.1ps周期であるので、最低でもこの半分以上(300ps)である必要がある。
汎用のプログラマブルディレーチップは、一般的にデバイス遅延を持つ、例えばその量は2000ps程度の値になる。したがって、遅延器6にクロック信号を通すだけでデバイス遅延分の時間、クロック信号は遅れて出力される。この様子を図3に示す。図3(a)の信号Aは遅延器6に入力される前のクロック信号であり、信号Bは遅延器6の出力端のクロック信号である。図2に示す位相比較器22から加算器27に至るこの実施例の制御器5が働く前の初期状態における遅延器6の入出力間のクロック信号の位相関係を表している。すなわち、遅延器6が持つデバイス遅延の時間、クロック信号が遅れている。この状態のクロック信号が位相比較器22に入力されると、位相比較器22はデバイス遅延の時間に相当したパルス状の電圧波形の位相差情報をループフィルタ23に伝達する。ループフィルタ23は、その位相情報に比例した直流信号をADC24に伝達する。ADC24は、位相情報に比例した直流信号をディジタル信号に変換し、加算器27に出力する。外部スイッチ26の状態が遅延量ゼロの状態に設定されていれば、加算器27はADC24の出力信号をそのまま遅延器6の遅延量設定端子へ出力する。
【0020】
ここでループフィルタ23の出力を、遅延器6へ入力される前の信号A(以下信号Aと略す)と遅延器6の出力信号である信号B(以下信号Bと略す)の位相差ゼロで電源電圧の中点電位((VCC−GND)/2)、信号Aに対して信号Bが進んでいるとき中点電位よりプラスの電圧、その逆の場合中点電位よりマイナスの電圧を発生するように設計しておく。また、位相比較器22も一度、位相差ゼロの状態を遷移しないとその出力の極性が変化せず、位相差分のパルス幅のパルス信号をループフィルタ23に出力するようにしておく。そうすると、図3(a)の場合、信号Aがデバイス遅延時間分遅れて信号Bとなっているが、信号Bの立ち上がりBが信号Aの立ち上がりAに一致するまでループフィルタ23は、中点電位よりプラス側の電圧を徐々に上げながら出力し続ける。ループフィルタ23の出力信号が大きいと言うことは、それをディジタル値に変換するADC24の出力信号も大きく、その結果、遅延器6の遅延量も大きい状態が続く。この様にして信号Bをどんどん遅らせ、図3(a)では図示されていない(図の左側に隠れている)次の信号Bの立ち上がりBが信号Aの立ち上がりAより遅れると(図3においてAよりBが右になる)と、今度は位相比較器22の出力端の極性が反転し位相比較器22のD端子がHighになる。その瞬間にR-Sラッチ28のQ出力端はリセットさせる。その結果、ラッチ回路25はその直前のADC24の出力信号を保持し、以後、ADC24の出力信号はラッチ回路25で遮断され加算器27に伝達されなくなる。すなわち、信号Bの立ち上がりBが信号Aの立ち上がりAより遅れる瞬間の遅延量で固定される。
【0021】
このように位相比較器22とループフィルタ23によっていわゆるPLL的な構成とすることで、遅延器6の入力側のクロック信号と出力側のクロック信号の位相を合わせることが出来る。この実施例では、位相比較器22の動作は初期化スイッチ29をONさせた
後、位相の逆転が1回検出されるまで行われる。その後は、逆転した時のADC24の出力信号が持つディジタル値に対して、外部スイッチ26で設定したディジタル設定値を加算して遅延器6の遅延量を可変することが出来る。
図2に示した実施例の理解を深める目的でより具体的な構成を示すブロック図を図4に示す。図2で示した構成と同じものは参照番号を同じとして説明は省略し、差異のある部分について説明を追加する。この実施例のインターフェース規格は、前述したようにDVI規格に基づいている。DVI規格では差動信号であるTMDSを使っている。したがって、クロック信号もC+と、C+と位相が180°異なるC+,C-の2系統必要になる。第1コネクタ1に入力されたこのクロック信号C+,C-を、2分岐バッファー20によって遅延器6と位相比較器22に分岐させている。遅延器6によって遅延される前のクロック信号C+,C-は、位相比較器22のR端子とR’端子に接続される。遅延器6で遅延されたクロック信号C+,C-は、2分岐バッファー21によって第2コネクタ3と位相比較器22のF,F’端子とに分岐される。位相比較器22はR端子に入力される信号Aに対してF端子に入力される信号Bが遅れている時は、より遅延量を増やす方向のU端子にその位相差分の時間幅のパルス信号を出力する。この様子を図5(a)に示す。
位相比較器22のU端子は、ループフィルタ23を構成する図示しないオペアンプの非反転入力端子に接続される。位相比較器22はR端子に入力される信号Aに対してF端子に入力される信号Bが進んでいるときにその位相差分の時間幅のパルス信号が出力されるD端子は、オペアンプの反転入力端子に接続される。
【0022】
今、信号Aに対して信号Bが遅れている図5(a)に示す状態だとすると、ループフィルタ23は、電源電圧の中点電圧よりもプラス側にU端子に出力されるパルス幅に比例した直流電圧をこの実施例の場合8bitのADC24に出力する。ADC24はその直流電圧をディジタル値に変換してラッチ回路25へ出力する。ラッチ回路25のC端子は、R-Sラッチ28が初期化スイッチ29によってセット(Q出力がHigh)されているとすると、ADC24の出力をそのまま通過させ、ADC24の8bit出力信号の下位4bitを加算器27aへ、上位4bitを加算器27bへ出力する。加算器27aは、外部スイッチ26の下位4bitとADC24の下位4bitを加算して遅延器6の遅延量設定端子の下位4bitに設定する。加算器27bは、外部スイッチ26の上位4bitとADC24の上位4bitを加算して遅延器6の遅延量設定端子の上位4bitに設定する。加算器27aと加算器27bとを接続する線27cは、加算器27aからの桁上がり若しくは加算器27bからの桁下がりを伝達する桁上下信号である。
【0023】
今、信号Aと信号Bとの関係を図5(a)の状態で、外部スイッチ26を例えば全てゼロ(Low)とすると、遅延器6の遅延量設定端子には、ADC24の持つディジタル値の中間値よりも大きな値が設定される。遅延器6は、遅延量設定端子に大きな値が設定されると遅延量を大きくし信号Bを更に遅らせる。この結果、図3で示した信号Aと信号Bの関係は、デバイス遅延量を初期値として信号Aの立ち上がりタイミングAに対する信号Bの立ち上がりタイミングBとの時間差を増やす方向に遅延器6が働く。この信号Bを遅らせ続ける動作は、図3(a)の図示されていない次の信号Bの立ち上がり(左側に隠れている次のB)Bが信号Aの立ち上がりAに一致するまで続く。
【0024】
その結果、信号Aと信号Bとの関係が図3(b)の状態になる。しかし、位相比較器22は、信号Aと信号Bが共にHigh,Highの状態から信号AがHighで信号BがLowの状態になるまでU端子からのパルス出力を止めない。したがって、図3(a)の状態から直接図3(b)の状態に落ち着く事はなく、必ず信号Aに対して信号Bを遅らせる動作は行き過ぎ、図3(b)の信号BのBのタイミングは、Aより遅れる。すなわち、図3(b)のAよりも右側にBが位置する状態になる。
そうすると、位相比較器22はその位相差分の時間幅のパルス信号を今度はD端子に出力する。この様子を図5(b)に示す。位相比較器22のD端子はR-Sラッチ28のリセット端子であるR端子に接続されているので、D端子がHighになった瞬間にR-Sラッチ28のQ出力端はLowに立ち下がる。この立ち下がりの瞬間のADC24の出力信号をラッチ回路25は保持する。すなわち、信号Aの立ち上がりと信号Bの立ち上がりがほぼ一致したときの遅延量を設定するディジタル値に固定される。
【0025】
このようにして信号Aと信号Bの立ち上がりのタイミングを揃えたあと、外部スイッチ26を操作して所望の遅延量を設定する。
この実施例では、理解し易いようによく知られているPLL的な回路構成としたが、この発明はこの実施例の構成に限定されない。特に信号Aと信号Bの初期状態が必ず信号Bが遅れた状態からスタートすることと、初期化スイッチ29をONした後、一度しか動作しないことからすると、PLL的な回路構成にするまでもなく他の構成でも全く構わない。例えば、ループフィルタ23とADC24は、純粋にディジタル動作が可能であるので、たとえばこの部分をバイナリーのアップカウタで構成することも可能である。
【0026】
また、図4で示した実施例の構成は全て汎用のICの組み合わせで実現が可能である。また、遅延器6を汎用のプログラマブルディレーチップを用いた例で説明したが、遅延量はディレーチップを複数個カスケードに接続すれば理論上いくらでも大きくすることが可能である。
〔位相余裕の評価方法〕
次に図4に示した実施例の画像転送調整アダプタを用いて、画像伝送路の位相余裕を評価する方法について説明する。図6に位相余裕の評価フローを示す。外部スイッチ26を全てゼロの状態で、初期化スイッチ29をONさせると、前述したような回路の動作により図6に示すステップ61(以下ステップをSと略す)とS62が行われ、信号Aと信号Bとの同期が取られる。その次に外部スイッチ26で設定できるディジタル値をゼロから徐々に増加させながら表示装置の画面状況を確認する。S63及びS64の操作。遅延量を増加して行って表示装置の画面が異常になったときの外部スイッチ26の設定値が、遅れ側の余裕値に相当する(S65)。この時の外部スイッチ26の状態を確認/記録する。
【0027】
次に外部スイッチ26の全てのスイッチをON、すなわちHigh状態にして初期化スイッチ29をONする。すると外部スイッチ26が全てHighの状態でS66とS67が行われ、信号Aと信号Bとの同期が取られる。この状態から外部スイッチ26を全てHighの状態からディジタル値として減らして行く。そうすると遅延器6の遅延量は減って行く。すなわち、外部スイッチ26で設定できるディジタル値の最大値で信号Aと信号Bの同期を取った後に、外部スイッチ26で設定するディジタル値を減らして行くことになるので、結果的に信号Bの位相を進めることになる。こうして、表示装置の画面が異常になったときの外部スイッチ26の補数が進み側の余裕値になる(S70)。この時の外部スイッチ26の状態を確認/記録する。
【0028】
以上のようにこの実施例による画像転送調整アダプタを操作することで、画像伝送路のマイナス側とプラス側の位相余裕を求めることが出来る。このようにこの発明による画像転送調整アダプタによれば、実使用状態で画像伝送路の位相余裕を把握することができる。
【実施例3】
【0029】
今までの説明では、遅延量の設定を外部スイッチ26を操作して行う実施例で説明して来た。遅延量は外部スイッチ26の状態から読み取ることになる。この遅延量を数字表示出来るようにした実施例を図7に示す。
図7に示すブロック図は、図4で説明したこの発明の実施例に表示の為に追加する構成である。図4で示した構成の一部を同じ参照符号で示し、他は省略している。
8bitの遅延量の下位4bitのデータである加算器27aと上位4bitのデータである加算器27bの出力は、遅延器6の遅延量設定端子に接続されると共にデコーダ70に接続されている。デコーダ70は、例えばBCD3桁のコードにデコードし、デコードした結果を表示素子72を駆動するドライバ71に出力する。ドライバ71は、表示素子72が例えば1ディジット7セグメントのLED表示素子である場合、それに合わせた駆動信号を表示素子72に供給する。表示素子72はLED素子に限らない。例えば液晶でも構わない。要するに表示素子72のデバイスに合わせたドライバ71となっていれば、表示素子は何でも構わない。
【0030】
このように構成することで、遅延量を数字表示することが出来、この発明の画像転送調整アダプタの使い勝手が向上する。図7の実施例では、加算器27a,27bの出力を表示素子72に表示する例を示したが、デコーダ70へ入力する信号を外部スイッチ26に切り換えると外部スイッチ26の状態を数字表示することも出来る。
今まで説明して来たこの発明の画像転送調整アダプタの外観の一実施例を図8に示す。
説明で述べた各構成の参照符号は同一にしてある。例えば低い方形箱型ケース300の一方側面にビデオコントローラが接続される第1コネクタ1が取り付けられ、前記側面と反対の側面に表示装置に接続する第2コネクタ3が取り付けられ、遅延量を表示する表示素子72と、例えばBCD3桁からなる遅延量をそれぞれ設定するスイッチ26a,26b,26cからなる外部スイッチ26がケース300の広い表面に設けられている。ケース300内に画像伝送路2、第1クロック線4、第2クロック線7、遅延器6、制御器5が内蔵されている。遅延量を外部から電気的に制御する場合は、そのための各構成要素も内蔵されている。
【0031】
今までの説明では、画像転送調整アダプタの電源について特に述べてこなかった。図8に示す実施例では、交流電源100VからACプラグ80で電源を取る方式を示し、ケース300の他の側面からACプラグ80が接続された電源コード81が導出されている。今まで説明した画像転送調整アダプタは、通常5V以下の直流電源で動作するので、電源をAC100Vとした場合、電圧を降圧するトランスとその交流電圧を直流に整流する整流回路が必要になる。この降圧から整流に至る機能をACアダプタと称し、一般的にモジュール化されている。そのモジュール化されたACアダプタを電源として例えば図4で示した実施例の回路を駆動すれば容易にこの発明が実現できる。したがって、ここではACアダプタの具体的な構成は示さない。
【0032】
このようにこの発明の画像転送調整アダプタの電源を例えばAC100Vから供給を受けるようにすれば、画像転送調整アダプタを恒久的に使用し続けることが可能になる。
【実施例4】
【0033】
遅延量を設定した外部スイッチ26の代わりに例えばパーソナルコンピュータ(以下PCと略す)等の外部制御機器によって遅延量を設定可能にするために、この画像転送調整アダプタに設けた通信手段200の実施例を図9に示す。図9(a)はPCのシリアル通信ポートであるRS232Cによって、PCから遅延量データを得るように構成した実施例である。図9(a)は、図4で説明した実施例を外部制御可能にするために追加が必要な構成を示したもので、他の画像転送調整アダプタとして必要な構成は省略している。PCのRS232Cポートと接続するRS232Cコネクタ90にPCから制御信号(遅延量)が入力される。RS232Cの信号はHighが+12V、Lowが-12Vで表現されるので、例えばHighを+5V、Lowを0Vに変換するレベル変換回路91で電圧レベルが変換される。その電圧レベルが変換された遅延値は、まだここでは、通信レートが例えば9600bit/秒の調歩同期式と呼ばれるパルス信号である。このパルス信号をHigh,Lowのレベル信号に変換する為にμコン92に入力する。μコン92は、通信レートと同期を取る必要から10の倍数の周波数を持つ基準発信器と、μコン92の全体の動作を制御する2のべき乗の周波数の発信器の2つの基準源を持つタイプのμコンであればなんでも良く、4bitマイコンでも8biマイコンでも簡単なプログラムで調歩同期式の信号をレベル信号に変換することが可能である。
【0034】
レベル信号に変換された後は、ラッチ回路25からのディジタル値に、RS232Cコネクタ90を介して入力された遅延量を、加算器27が加算して遅延器6の遅延量設定端子に設定する。このようにPCと通信手段200を介して遅延量を制御することも可能になる。
図9(b)により高速なシリアルインターフェースであるUSBコネクタでPCと通信するようにした実施例を示す。PCのUSBポートと接続するUSBコネクタ93は、RS232Cと異なり電圧レベルは5Vなので、レベル変換は必要が無い。その代わりにPCから入力されたUSBフォーマットの信号をシリアルに変換するUSBシリアル変換94が必要になる。シリアルに変換された後の動作は前述した説明と同じである。
【0035】
USBインターフェースによって通信する際の特筆すべき点は、USBパワーが利用できる点である。USB規格では、5V,500mAまでの電力供給が可能でありこれをUSBパワーと呼んでいる。このUSBパワーでこの発明の画像転送調整アダプタの電源を賄うことも可能である。電圧レギュレータ95は、USBコネクタ93からの電力を例えば4.5V程度の電圧にレギュレーションする電圧レギュレータであり、画像転送調整アダプタ内のVCC及びGNDを供給するものである。USBコネクタ93から供給される5Vがクリーンであれば、特に電圧レギュレータ95は無くても良い。このようにUSBインターフェースから電源供給を受ければ画像転送調整アダプタ側に電源を設ける必要がなくなりより簡単な構成でこの発明が実現できる。
【0036】
以上のようにこの発明の画像転送調整アダプタとPCとを上記したような通信手段を介して接続すれば、手動のイメージで説明した図6に示した位相余裕を求めるフローを、PCによって制御することも可能となる。
また、今までの説明では、遅延量をディジタル的に制御する実施例を示しこの発明を説明して来た。しかし、遅延器6及び制御器5をアナログ的な制御にしても良い。例えば、遅延器6を可変抵素子又は可変容量素子で構成し、その可変素子を直接連続的に可変して位相調整するようにしてもこの発明は実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】この発明の画像転送調整アダプタの基本的な構成を示す。
【図2】遅延器として汎用のディレーチップを用いた場合のこの発明のより具体的な一実施例を示す。
【図3】遅延器前後のクロック信号のタイミングを示す。
【図4】図2で示した実施例のより具体的な構成を示す。
【図5】位相比較器の入出力波形を示す。
【図6】画像伝送路の位相余裕を評価するフローを示す。
【図7】表示素子を追加した実施例を示す。
【図8】この発明の画像転送調整アダプタの外観の一例を示す。
【図9】通信手段を備えた実施例を示す。
【図10】DVI規格に基づく1画素データ転送時のタイムチャートを示す。
【図11】従来の位相調整回路の例を示す。
【図12】この発明の画像転送調整アダプタの使用例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像伝送ケーブルと結合する第1コネクタと、
表示装置と結合する第2コネクタと、
第1コネクタに入力される画像信号を第2コネクタに伝達する伝送路と、
上記第1コネクタに入力される画像信号に対応するクロック信号を遅延させて上記第2コネクタに伝達する遅延器と、
上記クロック信号の上記遅延量を制御する制御器とを備えたことを特徴とする画像伝送調整アダプタ。
【請求項2】
上記遅延器が遅延させる遅延量を表示する表示器を備えたことを特徴とする請求項1に記載の画像伝送調整アダプタ。
【請求項3】
外部から受信した遅延量を上記制御器に設定する通信手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の画像伝送調整アダプタ。
【請求項4】
ACアダプタを備えたことを特徴とする請求項1及び請求項3の何れかに記載の画像伝送調整アダプタ。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2006−157591(P2006−157591A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−346357(P2004−346357)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000231073)日本航空電子工業株式会社 (1,081)
【Fターム(参考)】