異常な細胞増殖に関連する疾患の治療におけるレチノイド及び小分子のNrf2アンタゴニストとしての使用
本発明は、癌化学療法剤および抗増殖剤と併用して、そのような薬剤の有効性の改良するためおよび/または比較的低い治療活性を有効な化合物を与えるために使用できる化合物の同定についてのアッセイの改良に関する。乾癬などの異常な宿主細胞増殖に関連する癌および他の疾患を治療するために、現行薬剤と新規薬剤との組合せ療法において使用できる、該アッセイによって同定される化合物のクラスもまた提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌化学療法剤および/または抗増殖剤と併用して、そのような薬剤の有効性を改良するためおよび/または比較的低い治療活性を有効な化合物に与えるために使用できる化合物を同定するための改良アッセイに関する。また、乾癬などの異常な宿主細胞増殖に関連する癌および他の疾患を治療するための、現行薬剤と新規薬剤との組合せ療法において使用できる、該アッセイによって同定される化合物のクラスを提供する。
【背景技術】
【0002】
序論
NAD(P)H:キノン酸化還元酵素1(NQO1)、アルド−ケト還元酵素(AKR)ミクロソームエポキシド加水分解酵素、UDP−グルクロノシル転移酵素、ならびに還元グルタチオン(GSH)と共に反応するグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)、およびGSHの生合成酵素(グルタミン酸システインリガーゼ(GCL;GCLCおよびGCLMサブユニットを含む)ならびにGSHシンターゼ)などの薬物代謝酵素は、活性酸素種(ROS)だけでなく発癌性親電子性物質からも細胞を保護する(Hayes & Wolf, 1990; Nioi & Hayes, 2004)。この防御は酸化還元ストレッサーに応答してアップレギュレートでき、その結果として細胞が適応し、酸化促進物質および親電子性物質の存在への耐性の獲得を可能にする。その防御は特定の腫瘍においてもまた過剰発現される。これらの遺伝子の誘導は、主としてNrf2(McMahon et al., 2001; Lee et al., 2003)(キャップ・アンド・カラー(cap ’n’ collar)(CNC)塩基性領域ロイシンジッパー(bZIP)タンパク質のファミリーに属する転写因子)によって制御される(Hayes & McMahon, 2001; Motohashi et al., 2002; Kobayashi et al., 2005)。Nrf2は、遺伝子のプロモーター中に抗酸化応答エレメント(ARE、5’−(A/G)TGACNNNGC(A/G)−3’)を含む解毒遺伝子および抗酸化遺伝子の誘導を仲介し(Rushmore et al., 1991; Friling et al., 1992; Nguyen et al., 1994; Wasserman & Fahl, 1997; Sasaki et al.,, 2002; Mulcahy et al., 1997; Erickson et al., 2002; Ikeda et al., 2002; Kepa et al., 2003; Nioi, et al., 2003; Jowsey et al., 2003);AREは文献中で時々親電子性物質応答エレメント(EpRE)とも呼ばれている。細胞が有害な環境要因に抵抗する能力の制御におけるNrf2についての重要な役割は、Nrf2ノックアウトマウス(Itoh et al., 1997)が、高酸素誘導性肺損傷(Cho et al., 2002)たばこ煙誘導性肺気腫に感受性を示すこと、および発癌物質を含む毒性生体異物に対して罹病性が増加することを示した研究によって実証された(Aoki et al., 2001; Chan et al., 1999; Enomoto et al., 2001; Iida et al., 2004; Ramos-Gomez et al., 2001)。
【0003】
Nrf2の活性は、抑制因子(細胞質におけるbZIPタンパク質を連結するケルヒ(Kelch)様ECH関連タンパク質1(Keap1))に結合することによって抑制される(Itoh et al., 1999; Kang et al., 2004)。あるいは、Keap1がカリン(cullin)−3基質アダプターとして作用するので、Keap1はNrf2の分解を促進し、それによってbZIPタンパク質のユビキチン化およびプロテアソーム分解を促進する。(McMahon et al., 2003; Kobayashi et al., 2004; Cullinan et al., 2004; Zhang et al., 2004; Furukawa et al, 2005)。親電子剤および酸化ストレッサーはKeap1を修飾し、Keap1が分解のためにNrf2を標的とすることを防止する(Zhang et al., 2005; Hong et al., 2005)。Keap1のそのような不活性化は、Nrf2が核中で他のbZIPタンパク質と共にヘテロ二量体を形成して蓄積することを可能にし、NQO1、AKR、GST、GCLCおよびGCLMを含む標的遺伝子をトランス活性化する(Hayes & McMahon, 2001; Motohashi et al., 2002; Kobayashi et al., 2005)。Keap1の遺伝学的ノックダウンもまた、ARE遺伝子一連の発現を増加させる(Wakabayashi et al., 2003; Devling et al., 2005)。
【0004】
Nrf2によって調節される多数の遺伝子は薬物耐性と関連づけられてきた。例えば、主としてGCL(GCLCおよびGCLMサブユニットを含む)によって調節される抗酸化GSHは、シスプラチンを含むいくつかの化学療法剤およびアルキル化剤メルファランに対する腫瘍細胞の耐性に関わる(Tew, 1994; McLellan & Wolf, 1999; Townsend et al., 2003; Townsend & Tew, 2003; Waxman, 1990)。時々、高レベルのGCLCは薬物耐性と関連づけられてきた(Mulcahy et al., 1995; Ogretmen et al., 1998; Yao et al., 1995)。同様に、様々な親電子性化合物とGSHのコンジュゲーションを触媒するGSTイソ酵素の過剰発現(Hayes & Pulford, 1995)が、多数の腫瘍タイプにおいて報告され(Hayes & Wolf, 1990; Tew, 1994)、これらの酵素は化学療法剤への耐性の発達に関係していた(Tew, 1994; Townsend et al., 2003)。NQO1活性の増加もまた特定のヒト肺腫瘍において示されている(Kepa et al., 2003; Schlager et al., 1990; Malkinson et al., 1992; Smitskamp-Wilms et al., 1995)。さらに、高レベルのマンガンスーパーオキシドジスムターゼ(MnSOD)(Wong et al., 1995; Kizaki et al., 1993)は、化学療法剤の毒性効果から癌細胞を保護することが示された。
【0005】
薬物代謝酵素は抗癌剤に対する腫瘍細胞の感受性の決定に主要な貢献をするので、かかる遺伝子がどのように調節されるのか、およびそれらの調節の変化が癌治療法の改良をもたらすことができるのかを理解することは重要である。
【0006】
WO2006/128041は、Nrf2の発現レベルを減少させて抗癌剤に対するNSCLC細胞の感受性を高めるために、Nrf2に対するRNAi分子の使用を教示する。しかしながら、RNAi技術を使用するタンパク質の発現の減少は効率的な送達の問題から影響を受けうる。
【0007】
WO01/57189は、Fas誘導性プログラム細胞死を増加させるために、Nrf2に対するアンチセンスRNAiおよびNrf2のドミナントネガティブ変異体の使用を教示する。ディルマロール(dirumarol)およびスルフィンピラゾンもまた、Fas誘導性死滅に対するNrf2によって付与された防御をアンタゴナイズすることが示される。しかしながら、これらの分子の実際の標的は同定されてない。
【0008】
本発明は、他の化学薬剤に対する細胞の感受性を高めることに使用するための、ARE駆動性遺伝子発現の誘導を減少できる薬剤の同定を可能にするアッセイを提供することを目的とする。
【0009】
本発明は、癌および乾癬などの異常な細胞増殖に関連する疾患の治療法を改良する手段としてARE駆動性遺伝子発現の誘導を減少させる薬剤を提供することをさらなる目的とする。
【0010】
本発明は、ラットGSTA2(Rushmore et al., 1991)およびマウスgsta1(Friling et al., 1992)の両方(後者の遺伝子ではエレメントはもともとEpREと呼ばれた)において見出された最小のシスエレメントの複数の連結したコピーを含む、感受性があり安定したAREレポーター細胞株の作製に部分的に基づく。以前にZhu & Fahl (2000)により、安定したARE緑色蛍光タンパク質(GFP)レポーターHepG2細胞株が作製された。彼らが用いたレポーターコンストラクトは、GFPを駆動するチミジンキナーゼプロモーターにライゲーションしたマウスgsta1からの41−bpのARE含有プロモーター配列の4つの連結したコピーを含んでいた。しかしながら、90μMのtertブチルヒドロキノン(tBHQ)による、安定したHepG2/GFP−Bレポーター細胞株の処理は、3倍だけの最大増加(特に高くない誘導レベル)をもたらした(Zhu & Fahl, 2000)。最も重要なことには、HepG2/GFP−B細胞株は、ARE駆動性遺伝子発現を阻害して治療法を改良できるアンタゴニストを同定するよりもむしろ、アゴニスト(すなわち化学予防的誘導剤)を同定するために使用された。さらに、tBHQに応答してHepG2/GFPB細胞株において観察される誘導が比較的低レベルであることは、細胞株がアンタゴニストの同定においてほとんど役に立たないことを示唆する。
【発明の概要】
【0011】
毒性薬物および抗増殖性薬物の効果に対して細胞の感受性を高めることができる化合物をスクリーニングする方法およびその産物が提供される。そのような化合物は、それら自体が細胞死/アポトーシスの誘導に影響するか、または例えば薬剤解毒、薬剤隔離、細胞からの薬剤除去もしくは単に薬剤作用に対する内在的耐性に起因して効果がなくなってしまうこともある他の薬剤による効果的な治療の提供をもたらすことができる。本方法は、ARE応答エレメントおよびプロモーターの転写調節下のレポーター遺伝子を備えたARE応答エレメントを含む遺伝子コンストラクトを安定的に導入したARE応答性細胞に対して、適切な培地中の化合物を加えることを含む。
【0012】
第1の態様では、治療法で使用される医薬品の製造のためのNrf2活性をダウンレギュレートできる薬剤が提供される。
【0013】
薬剤は、好ましくは、Nrf2による遺伝子発現のトランス活性化、および特にプロモーター中に抗酸化応答エレメント(ARE)を含む遺伝子のトランス活性化をダウンレギュレートする。
【0014】
薬剤は、癌および乾癬などの異常な細胞増殖に関連する疾患の治療において適用を見出すことができる。
【0015】
本発明者は、Nrf2のトランス活性化活性のダウンレギュレーションによって、細胞死をもたらすように細胞の感受性を高めることが可能であることを確認した。例えば、いくつかの細胞毒性剤の効果は、Nrf2がAREを有する遺伝子をトランス活性化する能力によって減少させられる。Nrf2活性のダウンレギュレートによって、治療の期間がより短いおよび/または必要とされる細胞毒性薬がより少ないという可能な利点で、そのような細胞毒性薬の有効性は増加できる。
【0016】
いくつかの先行技術の教示とは異なり、本発明はNrf2活性の低分子化学物質アンタゴニストに関する。アンタゴニストは、一般にNrf2の発現またはmRNAのレベルには効果がないが、むしろNrf2の活性自体に効果がある。これは、RNAiまたはアンチセンス技術の使用によるようなNrf2発現の減少をデザインした遺伝学的技術とはかなり異なる。したがって本発明は、Nrf2の核酸ベースの阻害剤の使用に関する。
【0017】
本発明の薬剤は、典型的には約1000〜2000Mnより少ない(750mWより少ないなどの)分子量を有する。
【0018】
本発明者は、低分子のスクリーニングを実行し、他の化学薬剤に加えてレチノイン酸およびその特定の誘導体もまたARE駆動性遺伝子発現の誘導を低下させることができる強力な薬剤であることを観察した。
【0019】
したがって、さらなる態様において、異常な細胞増殖に関連する疾患の治療に使用される医薬品の製造のためのレチノイドであり、ARE駆動性遺伝子発現のダウンレギュレートを経由して宿主において異常に増殖する細胞の感受性を高めるレチノイドの使用が提供される。
【0020】
典型的には、レチノイドは、Nrf2による遺伝子発現のトランス活性化をダウンレギュレートする。
【0021】
レチノイドとは、様々な立体異性体のレチノイン酸を意味し、これにはオールトランスレチノイン酸、9−シスレチノイン酸および13−シスレチノイン酸、並びにアシトレーション(acitration)レチナールおよびレチノール、更に酢酸塩などの塩を含む。本発明において適切である多数の可能性のあるレチノイドを表す一般的な構造は、以下に示される:
【化1】
【化2】
【0022】
市販で入手可能な化学的ライブラリー(メイブリッジ・ケミカル(Maybridge Chemical)社)のスクリーニングにおいて、ARE駆動性遺伝子発現のダウンレギュレートに対して有意な活性を有するものとして、さらなる化合物が同定された。したがって、本発明は、異常な細胞増殖に関連する疾患の治療で使用される医薬品の製造のための式(I)に記載の化合物の使用にも及び、式(I)の化合物はARE駆動性遺伝子の発現をダウンレギュレートすることにより、宿主において異常に増殖する細胞の感受性を高める。
【化3】
式中、XはC、O、NまたはSであり;R1は、C1−C4アルキル、C1−C4(OH)、COOH、C(=CH2)CH3、C(=O)CH3、CH(CH3)2、C(CH3)3であり;およびR2は、各々の存在可能な位置で、H、ハロ、C1−C4アルキル、OHまたはNH2から独立して選択される。
【0023】
好ましくは、XはOである。好ましくは、R1はC(=O)CH3である。好ましくは、R2はハロおよびh、より好ましくは位置3および4でハロ、特に塩素である。
【0024】
特に好ましい化合物は、XはOであり、R1はC(=))CH3であり、R2は位置2、5および6でH、および位置3および4でC1である。
【0025】
さらなる態様において、Nrf2活性をダウンレギュレートできる薬剤(レチノイドおよび化学療法剤)を活性成分として含むか、またはそれらから本質的にはなる医薬組成物が提供される。
【0026】
レチノイドは、ARE駆動性発現をダウンレギュレートする役目をし、その結果として、アポトーシス、またはアルキル化剤もしくは酸化還元サイクル化合物などの他の薬剤による治療に対する細胞の感受性を高め、それによって例えば癌を治療する場合の化学療法剤の有効性を改良することが理解される。したがって、治療は他の薬剤との組合せにおけるレチノイドの使用によってより有効になりえるか、および/または被験体に対して投与される他の薬剤のより少なくすることを可能にする。
【0027】
癌の治療のための適切な化学療法剤は、アルキル化剤シスプラチン、メルファラン、クロラムブチル、ミトロザントロン(mitrozantrone)およびBCNU;ならびにエトプシド(etopside)などの酸化還元サイクル剤を含んでいる。感受性を高める薬剤との組合せにおいて使用される他の薬剤は上文に記述されている。
【0028】
酸化還元反応制御剤は化学療法剤の有効性を改良することもできるので、医薬組成物は細胞の酸化還元状態を制御するBSOなどの酸化還元制御剤をさらに含むことができる。
【0029】
本発明に記載の使用のために、本明細書において記載される化合物または生理学的に許容される塩、エステルまたは他の生理学的に機能性のあるその誘導体は、したがって、1つまたは複数の薬学的に許容される担体、ならびに任意で他の治療的および/または予防的な成分と共に、化合物または生理学的に許容される塩、エステルまたは他の生理学的に機能性のあるその誘導体を含む医薬製剤として提供できる。1つまたは複数の担体は、製剤の他の成分と適合しそのレシピエントに対して有害でないという意味で許容できるものでなくてはならない。
【0030】
医薬製剤は、経口投与、局所投与(経皮投与、口腔投与および舌下投与を含む)、直腸投与または非経口投与(皮下投与、皮内投与、筋肉内投与および静脈内投与を含む)、鼻腔投与および経肺投与(例えば吸入による)のために適切なものを含む。製剤は、適切な場合、個別の投与量単位において都合よく提供され、製薬の当技術分野で周知の方法のいずれかによっても調製できる。すべての方法は、液体担体もしくは微粉固体担体または両方と活性化合物を組合わせ、次に必要なならば産物を所望される製剤へと形成する工程を含む。
【0031】
担体が固体である経口投与のために適切な医薬製剤は、最も好ましくは、各々が所定の量の活性化合物を含むボーラス、カプセルまたは錠剤などの単位用量製剤として提供される。錠剤は圧縮または成型によって任意で1つまたは複数の副成分と共に作製されてもよい。圧縮錠剤は、結合剤、潤滑剤、不活性希釈剤、平滑剤、界面活性剤または分散剤と任意で混合される粉末または顆粒などの流動性のある形態で適切な機械において活性化合物を圧縮することによって調製できる。成型錠剤は不活性液体希釈剤と活性化合物の成型によって作製できる。錠剤は任意で被覆され、被覆されないならば任意で刻み目を付けることができる。カプセルは、活性化合物をカプセル殻の中に満たすことによって、単独または1つまたは複数の副成分との混合において調製でき、次に通常の様式でそれらを密封できる。カシェ剤は、1つまたは複数の任意の副成分と共に活性化合物がライスペーパーエンベロープ中に密封されるカプセルに類似する。活性化合物も分散可能な顆粒として製剤化でき、それは例えば投与前に水中に懸濁できるか、または食品にふりかけることができる。顆粒は、例えば小袋中にパッケージ化できる。担体が液体である経口投与のために適切な製剤は、溶液または水性もしくは非水性の液体における懸濁物、または水中油滴型液体エマルジョンとして提供できる。
【0032】
経口投与のための製剤は、制御放出剤形(例えば活性化合物が適切な放出を制御するマトリックス中に製剤化されるか、または適切な放出を制御するフィルムにより被覆される錠剤)を含む。そのような製剤は予防的な使用のために特に好都合かもしれない。
【0033】
担体が固体である直腸投与のために適切な医薬製剤は、最も好ましくは、単位用量坐剤として提供される。適切な担体は、カカオバター、および当技術分野において一般に使用される他の材料を含む。坐剤は、軟化または融解された担体との活性化合物の混合、続いて冷却および鋳型中での形成によって都合よく形成できる。
【0034】
非経口投与のために適切な医薬製剤は、水性または油性の媒質中の活性化合物の滅菌済み溶液または懸濁物を含む。
【0035】
注射可能な調製物は、ボーラス注射または継続的な点滴に適合できる。そのような調製物は、使用のために必要とされるまで、製剤の導入後に密封される単位用量またはマルチ用量容器中で都合よく提供される。あるいは、活性化合物は、使用前に滅菌済みの発熱物質不含有水などの適切な媒質により構成される粉末形態でありうる。
【0036】
活性化合物は長時間作用性デポー調製物としても製剤化でき、それは筋肉注射によって、または移植によって、例えば皮下または筋肉内に投与できる。デポー調製物は、例えば適切なポリマー材料または疎水性材料、またはイオン交換樹脂を含むことができる。そのような長時間作用性製剤は、予防的な使用のために特に好都合である。
【0037】
口腔を介する肺内投与のために適切な製剤は、活性化合物を含み、望ましくは0.5〜7ミクロンの範囲内の直径を有する粒子が、レシピエントの気管支樹中に送達されるように提供される。
【0038】
1つの可能性として、そのような製剤は、微細に粉砕された粉末の形態であり、それは例えばゼラチンの適切な貫通可能なカプセル中に、吸入装置における使用のために、またはあるいは活性化合物、適切な液体またはガスの噴霧剤、ならびに任意で界面活性剤および/または固体希釈剤などの他の成分を含む自動推進製剤としてのいずれかで都合よく提供できる。適切な液体噴霧剤はプロパンおよびクロロフルオロカーボンを含み、適切なガス噴霧剤は二酸化炭素を含む。活性化合物が溶液または懸濁物の液滴の形態で分注される自動推進製剤もまた用いることができる。
【0039】
そのような自動推進の製剤は当技術分野で公知のものに類似しており、確立された手順によって調製できる。適切には、それらは、所望されるスプレー特性を有するマニュアル作動可能弁または自動機能弁のいずれかと共に提供される容器中で提供され;有利には、弁は、その各々の操作に際して、固定体積(例えば25〜100マイクロリットル)を送達する従量型である。
【0040】
さらなる可能性として、活性化合物は霧吹き器または噴霧器中で使用される溶液または懸濁物の形態でありえ、それによって加速された気流または超音波の撹拌は吸入のための微細な液滴霧を生ずるために用いられる。
【0041】
鼻腔投与のために適切な製剤は、肺内投与のために上述されたものに一般に類似する調製物を含む。分注されたとき、鼻腔における保持を可能にするために、そのような製剤は望ましくは10〜200ミクロン範囲内の粒子直径を有するべきであり;これは必要に応じて適切な粒子サイズの粉末の使用または適切な弁の選択によって達成されてもよい。他の適切な製剤は、鼻近くまで保持された容器からの鼻通路を通した迅速な吸入による投与のための、20〜500ミクロンの範囲内の粒子直径を有する粗粉、および水性もしくは油性の溶液、または懸濁物中に0.2〜5%w/vの活性化合物を含む点鼻液を含む。
【0042】
前述の担体成分に加えて、上述された医薬製剤は、希釈剤、緩衝剤、着香剤、結合剤、界面活性剤、増粘剤、潤滑剤、防腐剤(抗酸化剤を含む)および同種のもの、ならびに予定されたレシピエントの血液と製剤を等張にする目的のために含まれる物質などの適切な1つまたは複数の付加的な担体成分を含むことができることが理解されているべきである。
【0043】
薬学的に許容される担体は当業者に周知であり、0.1M、好ましくは0.05Mリン酸緩衝液または0.8%生理食塩水を含むがこれらに限定されない。加えて、そのような薬学的に許容される担体は、水性または非水性の溶液、懸濁物およびエマルジョンでありえる。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルなどの植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射可能な有機酸エステルである。水性担体は、水、アルコール性/水性の溶液、エマルジョンまたは生理食塩水および緩衝培地を含む懸濁物を含んでいる。非経口媒質は、塩化ナトリウム溶液、リンゲルのデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸リンゲルまたは固定油を含んでいる。防腐剤および他の添加剤には、例えば抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、不活性ガスおよび同種のものなどもまた存在できる。
【0044】
局所製剤のために適切な製剤は、例えばゲル、クリームまたは軟膏として提供できる。そのような調製物は、例えば創傷もしくは潰瘍の表面上に直接塗るか、または治療領域へおよびその上に適用できる包帯、ガーゼ、メッシュもしくは同種のものなどの適切な支持体上に保つかのいずれかで、創傷または潰瘍に適用できる。
【0045】
治療される部位(例えば創傷または潰瘍)上に直接スプレーできるか、またはふりかけることができる液体または粉末の製剤もまた提供できる。あるいは、包帯、ガーゼ、メッシュまたは同種のものなどのキャリアーは、製剤をスプレーできるか、またはふりかけることができ、次に治療部位へ適用できる。
【0046】
さらなる態様において、Nrf2による遺伝子発現のトランス活性化をダウンレギュレートできる薬剤の有効量を被験体へ投与する工程を含む、異常な細胞増殖に関連する疾患に罹患する患者を治療する方法が提供される。
【0047】
さらなる態様において、ARE駆動性遺伝子の発現を減少させることができる量のレチノイドまたは式Iに記載の化合物と薬剤を被験体へ投与する工程を含み、レチノイドまたは式Iに記載の化合物と薬剤が組合せで細胞死誘導などによって細胞増殖を改善する役目をする、異常な細胞増殖に関連する疾患に罹患する患者を治療する方法が提供される。
【0048】
レチノイドまたは式Iに記載の化合物と他の薬剤は、同時にまたは別々に投与されてもよいことが理解されている。もし別々に投与される場合には、レチノイドまたは式Iに記載の化合物は他の薬剤の前に投与されることが一般的である。
【0049】
さらなる態様において、細胞の感受性を高めることに使用される、ARE駆動性遺伝子発現の誘導をダウンレギュレートする薬剤についてスクリーニングする方法であって、
a)抗酸化応答を行なうことができる細胞であり、複数の連結したARE配列の下流に位置するレポーター遺伝子を含むAREレポーター遺伝子コンストラクトを含む細胞、をインビトロで提供する工程と;
b)該細胞とスクリーニングされる被検薬剤を接触させる工程と;
c)該薬剤が、被検薬剤が加えられていない細胞に比較して、レポーター遺伝子の誘導を低下できるか、または発現を低下できるかどうかを検出する工程と、を含むスクリーニング方法が提供される。
【0050】
本スクリーニングは、細胞の感受性を高めることができ、癌および乾癬などの異常な細胞増殖に関連する疾患の治療に役に立つ薬剤の同定における適用を見出す。
【0051】
細胞の感受性を高めることそれ自体は、細胞が酸化還元バランスの変化に起因するアポトーシスへの自発的感受性を増加できるので、治療効果を有することができるが、感受性を高めることは、しばしば他の薬剤が望ましくなく増殖する細胞を治療する能力をもたらすか、またはその能力を高めるだろう。そのような薬剤は、感受性を高めることがそれらの作用の効率を改良または促進することが意図される場合には、例えば癌を治療するために慣習的に使用される化学療法剤を含むことができる。
【0052】
しかしながら、Nrf2経路に対するそのような感受性を高める薬剤の効果を考慮すれば、一旦増殖細胞が感受性を高められたならば、他の薬剤も異常な細胞増殖に関連する疾患の治療において有用でありうる。例えば、Nrf2のアンタゴナイズ作用の後に治療上効果的になりうる薬剤は、通常はNrf2によって調節される酵素によって解毒される化合物を含み;酸化ストレスを誘導する化合物、MRP2(または関連する排出ポンプ)を介して細胞の中へ/から外へ輸送される、シスプラチン、クロラムブチル、シクロホスファミド、ドキソルビシン、メトトレキサートおよびビンクリスチンなどの化合物(Wawabe et al., 1999; Smitherman et al., 2004; Vlaming et al., 2006)がこのカテゴリーへと分類されることが意図される。本発明は、さらにNrf2依存性遺伝子を介して通常は解毒される新規抗腫瘍剤が開発されることを可能にする。この場合において新規薬剤はNrf2アンタゴニストと共に適用されるか、または抗癌特性に加えてNrf2阻害活性の両方を持つ二機能性の分子を合成することができるかもしれない。
【0053】
便利には、使用されるARE配列は、ラットGSTA2(5’−GTG ACA AAG CA−3’)および/またはマウスgsta1遺伝子中の配列からである。
【0054】
任意の哺乳類細胞が適切であるが、望ましくは細胞は腫瘍細胞であり、抗酸化応答を行なうことができる。適切な細胞は、MCF7、HepG2、CHOおよびHepa1およびHaCaTを含み、感受性の理由のためにMCF7が好まれる。
【0055】
細胞と被検薬剤の接触は、細胞を増殖させる培養液へ被検薬剤を加えることなどの任意の適切な手段によって行なうことができる。
【0056】
レポーター遺伝子の誘導は、ARE駆動性レポーター遺伝子の発現をダウンレギュレートするか、または低下させることができる薬剤をより容易に同定するために、または細胞株において寄与する活性が本質的に低い場合に、tBHQ、スルフォラファン、マレイン酸ジエチルまたはβ−ナフトフラボンなどの活性化剤の追加によって促進されてもよい。活性化剤は、一般に、被検薬剤の前に細胞へ加えられる。
【0057】
アンチセンスまたはRNAi;技術を使用して、Keap1の発現をダウンレギュレートすることによってNrf2を活性化することも可能かもしれない。次に活性化されたNrf2は、レポーター遺伝子発現の誘導を引き起こすARE配列に作用するだろう。Bach1、Bach2、cFosおよび小Mafなどの負に作用する競合する転写因子の発現のダウンレギュレートによって、Nrf2の活性を増加させることは同様に可能かもしれない。
【0058】
被検薬剤が有するARE駆動性レポーター遺伝子の誘導に対する効果の検出は、用いられているレポーター遺伝子に依存するが、適切な技術は当業者に周知である。典型的なレポーター遺伝子は、GFPおよび関連する蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼならびに同種のものを含む。レポーター遺伝子の産物を検出する任意のアッセイは、レポーター遺伝子によりコードされたタンパク質を直接検出することによって、またはレポーター遺伝子にコードされた酵素の酵素産物の検出によってのいずれかで、本発明における使用のために適切である。アッセイは比色アッセイ、蛍光アッセイもしくは発光アッセイ、またはさらにタンパク質タグの場合においては、放射免疫アッセイもしくは他の免疫学的アッセイを含んでいる。これらのアッセイの多くは市販で入手可能である。
【0059】
典型的には、比較または対照の実験はレポーター活性のレベルまたは程度を確認するために被検薬剤の不在下で使用され、そのため被検薬剤の効果は容易に検出できる。観察されるシグナルレベルに対する候補化合物の効果を基礎レベルと比較して測定することにより、癌の治療で使用される感受性を高める薬剤としての化合物の可能性を評価できる。
【0060】
便利には、本方法はマルチウェル形式で実行され、多くのそのような検定方法が、任意で自動手段または半自動手段を使用して、複数の化合物について同時に実行されることを可能にするために、例えば24、48、96ウェルプレートを使用できる。
【0061】
さらなる態様において、ARE駆動性遺伝子発現に対する効果についてのスクリーニング薬剤で使用される細胞が提供される。そこでは細胞は、ラットGSTA2遺伝子およびマウスgsta1遺伝子からのARE配列の複数の連結したコピーの下流にレポーター遺伝子を含むAREレポーターコンストラクトを含むヒト乳腺MCF7細胞である。
【0062】
好ましくは、レポーター遺伝子は、ホタルまたはウミシイタケ属(Renilla)のルシフェラーゼ遺伝子などのルシフェラーゼ遺伝子である。レポーター遺伝子はさらに、レポーター遺伝子のすぐ上流であるが、ARE配列の下流である最小プロモーターの制御下であってもよい。典型的な最小プロモーターはSV40プロモーターおよびチミジンキナーゼプロモーターを含んでおり、ARE配列は、プロモーター配列にじかに隣接できるか、またはそれから最大10kbの間隔で配置できる。
【0063】
複数の連結したARE配列は、レポーター遺伝子の上流に、連続して頭−尾で位置する。便利には、コピー数は4、5、6、7もしくは8、またはさらに多く、その各々は、5’−CCC−3’などの短いリンカー配列で分離される(リンカーのサイズは重要ではない)。好ましくは、コピー数は6〜8以上である。好ましい配列は、特に6つおよび8つのコピーについて表1において示される。
【0064】
コンストラクトは従来の方法(好都合な制限部位を用いることによってプラスミドの中へコンストラクトの構成要素の各々を導入すること、制限部位の提供を含む末端で特異的配列を導入するPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)、および同種のもの)に従って調製できる。
【0065】
レポーターコンストラクトは、調製された後に任意の適切な手段で細胞の中へ導入できる。細胞または細胞株の中へARE駆動性レポーターコンストラクトを導入する方法は、トランスフェクション、カチオン性化合物と共に複合体を形成すること、リポフェクション、エレクトロポレーションおよび同種のものを含む。細胞を増殖させ、次にレポーターコンストラクトの連続的な存在についてスクリーニングする。抗生物質耐性遺伝子がレポーターコンストラクトと共に導入された場合には、細胞を抗生物質耐性について選択し、次に抗生物質耐性細胞を適切な条件下の発光についてスクリーニングする。抗生物質耐性の非存在下では、細胞を発光について直接スクリーニングできる。便利には、発光のためのアッセイは従来の試薬を使用して溶解物で実行される。
【0066】
レポーター遺伝子がルシフェラーゼであるならば、従来の市販キットに従って発光を測定できる。細胞は、照度計に適合させることができるマルチウェルプレート中に播種できる。既知数の細胞を適切な培地(候補化合物を加えた)の各ウェルの1つの中へ導入し、培養は少なくとも12時間、より通常には少なくとも約24時間、および約60時間以下、特に約48時間維持される。候補化合物と併用して、誘導化合物(例えばtBHQ、スルフォラファン、マレイン酸ジエチルまたはβ−ナフトフラボン)もまた加えることができる。次に培養を、非イオン性界面活性剤(例えば1%トリトンX−100)を使用して、適切な緩衝液中で溶解する。次に細胞を速やかにアッセイする。誘導剤の濃度は薬剤の性質に依存して変化するだろうが、発現を誘導するのに十分である。tBHQの濃度は、一般に例えば約1〜100μMの範囲内、好ましくは約50μMであるだろう。
【0067】
発光レベルの検出のために他の技術を使用できる。発光を測定する特定の様式は、本発明に重要ではない。
【0068】
被検薬剤のタイプは低分子化学物質およびペプチド分子を含む。
【0069】
本発明は、本発明に関連するデータを示す、以下に提供される図1〜13に関してここでさらに記述される。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】ARE駆動性レポータープラスミド地図を示した図である。イラストはpGL−8×AREベクターを示す。ラットGSTA2遺伝子およびマウスgsta1遺伝子のプロモーターからの単一のAREは、下線で示された「コア」配列によりプラスミドの上方に提供される。レポータープラスミドが5’−GTGACAAAGCA−3’配列の8つのタンデム配置されたコピーを含み、各々が5’−CCC−3’リンカーにより連結される(表1において示されるように)ことに注目。リンカーのサイズは変更できる。
【図2】AREコピー数とMCF7細胞におけるtBHQによるレポーター遺伝子活性誘導との間の相関性を示した図である。(A)DMSOまたは10μMのtBHQを含む抗生物質添加DMEM中で、MCF7細胞を24時間培養した。その後細胞を採取した。全細胞の抽出物(Cru)の一部(60μgのタンパク質)および核抽出物(Nuclear)の一部(20μgのタンパク質)を7%SDS−PAGEにかけ、Nrf2タンパク質の発現をウェスタンブロッティングで測定した。スタンダード、1ngの組換えhis−mNrf2。示されたブロットは、少なくとも3つの独立した実験からの結果を表わす。(B)MCF7細胞を24ウェルプレート中に2×105細胞/ウェルで播種し、pGL3−n×AREコンストラクトをトランスフェクションし、50μMのtBHQにより処理した。ルシフェラーゼレポーター活性を18時間後に測定した。データは、3つの独立した実験の結果を表わす。各実験における各処理には少なくとも3つの重複測定がある。
【図3】AREc32細胞におけるルシフェラーゼレポーター活性はNrf2によって仲介されることを示した図である。(A)AREc32細胞におけるNrf2の過剰発現は、基底ルシフェラーゼレポーター活性および誘導性ルシフェラーゼレポーター活性の両方を増加させた。AREc32細胞は1.5×104細胞/ウェルで96ウェルプレート中に播種して、25、50または100ng/ウェルのいずれかのpHyg−EF−hNrf2でトランスフェクションした。同量のpEGFP−N1を陰性対照としてトランスフェクションした。トランスフェクション後に(24時間)、細胞をDMSO単独または10μMのtBHQ(DMSO中)のいずれかで処理した。ルシフェラーゼ活性をアッセイした。対照、DNAなしでトランスフェクション試薬のみ細胞に加え、24時間DMSOで処理した。(B)AREc32細胞株におけるRNAiベクターによるNrf2のノックダウン。AREc32細胞を、増殖培地において8×106細胞/ディッシュで100mmディッシュ中に播種した。24時間後に、細胞は1枚のプレートあたり24μgのpRS−hNrf2またはpRS−GFPでトランスフェクションした。さらに24時間が経過した後全RNAを細胞から抽出し、Nrf2およびGAPDHのmRNAのレベルをタックマン(TaqMan)RT−PCRによって測定した。18S rRNAレベルは内部スタンダードとして使用した。モックトランスフェクションした細胞(対照)からのmRNAのレベルを100%に設定した。(C)AREc32細胞におけるNrf2発現の抑制は、基底ルシフェラーゼレポーター活性および誘導性ルシフェラーゼレポーター活性を減少させる。パネル(B)において示される実験に並列の実験において、AREc32細胞を1.5×104細胞/ウェルで96ウェルプレート中に播種し、25、50および100ng/ウェルのpRS−hNrf2でトランスフェクションした。同量のpRS−GFPを陰性対照としてトランスフェクションした。トランスフェクションの24時間後に、細胞をDMSOまたは10μMのtBHQで処理した。ルシフェラーゼ活性をアッセイした。対照、DNAなしでトランスフェクション試薬のみ細胞に加え、24時間DMSOで処理した。ヒストグラフは三重サンプルからの平均±標準偏差としてルシフェラーゼ活性を示す。各実験における各処理には少なくとも3つの重複測定がある。pRS−hNrf2またはpEGF−Nrf2と対照によりトランスフェクションされた培養からのルシフェラーゼ活性の間の差の有意性は、対応のないスチューデントのt検定によって評価された。(*)p<0.05;(**)p<0.005。
【図4】MCF7細胞における、時間依存的および用量依存的様式でのARE駆動性レポーター遺伝子活性のtBHQによる誘導を示した図である。細胞を、増殖培地において1.2×104細胞/ウェルで96ウェルプレート中に播種した。24時間の回復後に、培養液を1〜20μMのtBHQを含む抗生物質添加済みの新しいDMEMで置換した。次に細胞を4〜24時間の間でインキュベートし、ルシフェラーゼ活性についてアッセイした。DMSO(0.1%v/v)で処理した細胞のルシフェラーゼ活性の値を1に設定した。パネル(A)はtBHQの様々な濃度によるAREc32細胞の24時間の処理後のルシフェラーゼ誘導の用量応答を示す。パネル(B)は10μMのtBHQによるAREc32細胞の処理後のルシフェラーゼ誘導の時間経過を示す。示されたデータは、3つの独立した実験の結果を表わす。各実験における各処理には少なくとも3つの重複測定がある。
【図5】抗癌剤によるAREc32細胞におけるレポーター遺伝子活性およびAKR1Cの誘導が酸化還元依存性であることを示した図である。(A)BSOは、AREc32細胞におけるルシフェラーゼ活性の抗癌剤による誘導を促進した。AREc32細胞を0.4×104細胞/ウェルで96ウェルプレート中に播種した。24時間の回復後に、培養液を50μMのBSOを含む増殖培地で置換し;BSOで前処理されない細胞に等容積のPBSを加えた。さらに24時間後に(その時間の間にBSOはGSHを枯渇できた)、培養液を、DMSO(対照)または10μMシスプラチン、または20μMメルファラン、または100μM BCNU、または100μMクロラムブチルのいずれかを含み、すべて5mMのNACありまたはなしの、抗生物質添加済みの新しいDMEMで置換し、24時間インキュベートした。細胞はルシフェラーゼ活性についてアッセイされた。DMSOで処理された対照細胞の値を1に設定した。レポーター遺伝子活性データは三重サンプルからの平均±標準偏差を示す。NACと共に抗癌剤へ暴露された培養と抗癌剤単独で処理された培養からのルシフェラーゼ活性の間の差の有意性は、対応のないスチューデントのt検定によって評価された。これは3つの独立した実験の結果を表わす。(*)p<0.05;(**)p<0.005。(B)AKR1C mRNAは酸化還元依存的様式で抗癌剤によって誘導された。AREc32細胞を、増殖培地において2×106細胞/ディッシュで100mmディッシュ中に播種した。24時間の回復後に、培養液を50μMのBSOを含む増殖培地で置換した。24時間後に、培養液を、DMSO、10μM tBHQ、20μMメルファラン、10μMシスプラチン、100μMのBCNU、または100μMクロラムブチルのいずれかを含む抗生物質添加済みの新しいDMEMで置換し、細胞を採取する前にさらに24時間インキュベートした。AKR1C mRNAの発現をタックマン分析によって測定した。DMSO(対照)で処理された細胞のAKR1CのmRNAのレベルを1に設定した。抗癌剤へ暴露された培養からのAKR1C mRNAのレベルとDMSOへ暴露された培養からのAKR1C mRNAのレベルの間の差の有意性は、対応のないスチューデントのt検定によって評価された。データは、2つの独立した実験の平均を表わし、各実験における各処理には3つの重複測定がある。(*)p<0.05;(**)p<0.005。(C)パネル(B)中に示された実験に並列の実験において、全細胞の溶解物からの30μgのタンパク質をSDS−PAGEを使用して分離した。AKR1Cの発現を、ウェスタンブロッティングによってAKR1Cに対して特異的抗体で測定した。示されたブロットは、3つの独立した実験からの結果を表わす。
【図6】オールトランスレチノイン酸がARE駆動性ルシフェラーゼ活性の誘導を抑制することを示した図である。AREc32細胞を、増殖培地において1.2×104細胞/ウェルで96ウェルプレート中に播種した。24時間の回復後に、培養液を、10μM tBHQ、10μM SUL、10μMアクロレインまたは10μMβ−ナフトフラボン(NF)を含む抗生物質添加済み新しいDMEMで置換し、1μMオールトランスレチノイン酸(ATRA)を誘導剤と共に培地へ併用して加えた。細胞を採取する24時間前に、細胞をATRAありおよびATRAなしで様々な誘導剤と共にインキュベートし、ルシフェラーゼ活性を測定した。DMSO(0.1%v/v)で処理された細胞のルシフェラーゼ活性の値を任意に1に設定し、提供されたデータは三重サンプルからの平均±標準偏差を示す。ATRAが存在して誘導因子へ暴露された培養とATRAの存在なしで誘導因子へ暴露された培養からのルシフェラーゼ活性の間の差の有意性は、対応のないスチューデントのt検定によって評価された。これは3つの独立した実験の結果を表わす。(*)p<0.05、(**)p<0.005;
【図7】AREc32細胞におけるtBHQによるAREレポーター活性の誘導に対するATRAによる濃度依存的および時間依存的阻害を示した図である。(A)誘導可能なARE駆動性遺伝子発現のレチノイン酸による阻害の用量応答を測定するために、AREc32細胞を増殖培地において1.2×104細胞/ウェルで96ウェルプレート中に播種した。24時間の回復後に、培養液を、ATRA、9−シスRAまたは13−シスRAのいずれかの様々な濃度(10-9M〜10-6M)と共に10μMのtBHQを含む抗生物質添加済みの新しいDMEMで置換した。その後細胞を採取する前にさらに24時間インキュベートし、ルシフェラーゼ活性を測定した。10μMのtBHQ単独、レチノイン酸なし(対照)により処理された細胞のルシフェラーゼ活性の値を100%に設定した。(B)誘導可能なARE駆動性遺伝子発現のオールトランスレチノイン酸(ATRA)による阻害の時間経過を立証するために、AREc32細胞を増殖培地において1.2×104細胞/ウェルで96ウェルプレート中に播種した。24時間の回復後に、培養液を、10μMのtBHQ、または1μMのATRA、または10μMのtBHQにプラスして1μMのATRAを含む抗生物質添加済みの新しいDMEMで置換し、さらに4〜24時間インキュベートした。各タイムポイントでDMSO(0.1%v/v)(対照)により処理された細胞のルシフェラーゼ活性の値を任意に1に設定した。示されたデータは3つの独立した実験の結果を表わす。各実験における各処理には少なくとも3つの重複測定がある。
【図8】tBHQによる内在性AKR1Cの誘導がAREc32細胞においてATRAにより阻害されることを示した図である。AREc32細胞を、増殖培地において2×106細胞/ディッシュで100mmディッシュ中に播種した。24時間の回復後に、培養液を、DMSO、10μM tBHQ、1μM ATRA、または10μM tBHQのいずれかにプラスして1μM ATRAを含む抗生物質添加済みの新しいDMEMで置換し、さらに24時間インキュベートした。(A)24時間の処理後に全RNAを抽出した。AKR1CのmRNAのレベルをタックマン分析により測定した。18S rRNAのレベルを内部スタンダードとして使用した。対照、細胞をDMSOのみで処理した。タックマンデータは三重サンプルからの平均±標準偏差を示し、3つの独立した実験の結果を表わす。異なる処理による培養と対照培養からのmRNAレベルの間の差の有意性は、対応のないスチューデントのt検定によって評価された。(*)p<0.05。(B)全細胞の抽出物を異なる薬剤で処理した細胞から調製した。AKR1Cおよびアクチンの発現をウェスタンブロッティングによって測定した。示されたブロットは3つの独立した実験からの結果を表わす。
【図9】オールトランスレチノイン酸がNrf2(+/+)マウスの小腸において、GST、GCLCおよびNQO1の発現を抑制することを示した図である。「材料および方法II」中で記載されているように、野生型(nrf2+/+)マウスおよびノックアウト(KO、nrf2-/-)マウス(8週令)を、対照飼料またはビタミンA欠損(VAD)飼料で6週間飼育した。野生型マウスおよびKOマウスの小腸からの粗抽出液の一部(5μgタンパク質)で、NQO1、GstM5、GstA1/2およびGCLCに対する特異的抗体によるウェスタンブロッティングを行なった。各レーンは個別のマウスからのサンプルを含む。一連の実験において、オールトランスレチノイン酸を、実験の最後の2週間VAD飼料の野生型動物へ投与した(10mg/kg体重で腹腔内)。これらの動物を屠殺し、前述のように、GST、GCLCおよびNQO1についてのイムノブロットを実行した。
【図10】ATRAがAREc32細胞において抗癌剤によるルシフェラーゼレポーター活性の誘導を抑制することを示した図である。(A)AREc32細胞を、1.2×104細胞/ウェルで96ウェルプレート中に播種した。24時間の回復後に、培養液を、DMSO(対照)、10μMシスプラチン、20μMメルファラン、100μM BCNU、または100μMクロラムブチルのいずれかを、1μM ATRAありまたはなしで含む抗生物質添加済みの新しいDMEMで置換し、24時間インキュベートした。細胞は、材料および方法中で詳しく述べられるようなルシフェラーゼ活性についてアッセイされた。DMSO処理のAREc32細胞から得られたルシフェラーゼ値を1に設定した。(B)AREc32細胞を、0.4×104細胞/ウェルで96ウェルプレート中に播種した。24時間の回復後に、培養液を50μMのBSOを含む増殖培地で置換し;等容積のPBSをBSO前処理なしで細胞へ加えた。50μMのBSOとの24時間のインキュベーションに続いて(細胞内GSHを枯渇させる)、培地を、DMSO(対照)、10μMシスプラチン、20μMメルファラン、100μMカルムシチン(carmusitine)または100μMクロラムブチルのいずれかを、1μMのATRAありまたはなしで含む抗生物質添加済みの新しいDMEMで置換し、24時間インキュベートした。細胞は、材料および方法中で詳しく述べられるようなルシフェラーゼ活性についてアッセイされた。DMSOで処理された対照細胞の値を1に設定した。データは三重サンプルからの平均±標準偏差を示す。ATRAと共に抗癌剤へ暴露された培養と抗癌剤単独で処理された培養からのルシフェラーゼ活性の間の差の有意性は、対応のないスチューデントのt検定によって評価された。これは3つの独立した実験の結果を表わす。(*)p<0.05;(**)p<0.005)。
【図11】ATRAがNrf2の核移行をブロックしないことを示した図である。核抽出物を、10μM tBHQ、1μM ATRA、または10μM tBHQのいずれかに1μM ATRAをプラスしたものより24時間処理したAREc32細胞から調製した。核抽出物からの一部(20μgのタンパク質)を7%SDS−PAGEにロードし、ニトロセルロース転写膜上にブロットし、マウスタンパク質に対する抗体を使用してNrf2の存在を検出した。パネルAにおいて、示されたブロットは少なくとも3つの独立した実験の典型的な結果を表わす。パネルBにおいて、Aにおいて示されたブロットをデンシトメトリーによってスキャンした。
【図12】ATRAがARE配列へのタンパク質複合体の結合を減少させることを示した図である。10μMのtBHQで24時間インキュベートしたAREc32細胞からの核抽出物(10μgのタンパク質)を、1μMのATRAの非存在下または存在下でAREを結合する能力についてEMSAによって分析した。200倍過剰の未標識AREを結合の特異性をモニタリングするために使用した。矢印は、DNAタンパク質複合体の特異的なバンドを示す。結果は3つの独立した実験を表わす。
【図13】ATRAがNrf2のARE配列への結合を妨害することを示した図である。核抽出物を、1μMのATRAの非存在下または存在下で10μMのtBHQと共に24時間インキュベートしたAREc32細胞から調製した。核抽出物の一部(100μgタンパク質)をビオチン化AREオリゴヌクレオチドと共にインキュベートし、材料および方法中で詳しく述べられるようにプルダウンアッセイを実行した。プルダウンしたビーズをSDS−PAGEへかけ、特異的な抗Nrf2抗体によりイムノブロットした。モックオリゴヌクレオチドを陰性対照として含んだ。
【図14】BTB09463およびレチノイン酸がAREレポーター細胞株AREc32中のルシフェラーゼのtBHQ誘導性発現をアンタゴナイズできることを示した図である。
【図15】tBHQの追加前に最大48時間のBTB09463によるAREc32細胞の前処理が、併用投与として、ルシフェラーゼ発現に対して同一の抑制効果を有することを示した図である。
【図16】いくつかのレチノイドが、AREレポーター細胞株AREc32におけるルシフェラーゼのtBHQ誘導性発現をアンタゴナイズすることを示した図である。
【図17】BTB09463およびレチノイン酸が、2つの独立した細胞株においてタンパク質レベルでARE駆動性遺伝子AKR1C(およびNQO1)のスルフォラファンに誘導される発現をアンタゴナイズできることを示した図である。
【図18】BTB09463が、mRNAのレベルでARE駆動性遺伝子AKR1C1のスルフォラファンに誘導される発現にアンタゴナイズできることを示した図である。
【図19】いくつかのレチノイドが、MCF7細胞においてタンパク質レベルでARE駆動性遺伝子AKR1Cのスルフォラファンに誘導される発現をアンタゴナイズできることを示した図である。
【図20a】一般に処方される抗癌薬物が、AREレポーター細胞株AREc23におけるルシフェラーゼ活性を誘導することができることを示した図である。
【図20b】BTB09463およびレチノイン酸が、AREレポーター細胞株AREc32におけるカルムスチン誘導のルシフェラーゼ活性をアンタゴナイズすることを示した図である。
【図20c】AREレポーター細胞株AREc32における化学療法剤に誘導されるルシフェラーゼ活性のレチノイン酸のアンタゴナイズ作用のさらなる特性解析を示した図である。
【図20d】カルムスチンはCaco−2細胞においてタンパク質レベルでARE遺伝子AKR1Cを誘導することができ、この誘導はBTB09463との併用処理によって抑制できることを示した図である。
【図20e】BTB09463が、MCF7細胞におけるARE駆動性遺伝子のカルムスチンで誘導される発現をタンパク質レベルでアンタゴナイズするという支持へのさらなる証拠を示した図である。
【図21】BTB09463が相乗的方式でMCF7細胞におけるカルムスチン毒性を増加させることを示した図である。
【図22】細胞毒性抗生物質ブレオマイシン(A〜C)またはカルムスチン(D)を投与したMCF7細胞が、レチノイン酸(A)、酢酸レチニル(BおよびD)またはアシトレチン(C)により共処理されたとき、細胞死滅が大きく相乗的に増加することを示した図である。
【図23】BTB09463およびレチノイドが、A549細胞における内在性AKR1C1 mRNAの構成的レベルを抑制することを示した図である。
【図24】BTB09463およびレチノイドが、A549細胞におけるARE遺伝子の一連メンバーであるタンパク質のレベルを抑制することを示した図である。
【図25】BTB09463が、A549細胞においてARE駆動性遺伝子についてのmRNAの構成的レベルを阻害することを示した図である。
【0071】
材料および方法I
化学物質および細胞培養
特別の指示の無い限り、化学物質はすべてシグマ・アルドリッチ(Sigma−Aldrich) 社、ドーセット、イギリスから購入した。D.L−スルフォラファンは、LKTラボラトリーズ(LKT laboratories)社(セント・ポール、ミネソタ、アメリカ)から入手した。OTO096463は、メイブリッジ・ケミカル社の化合物ライブラリーの化学的スクリーニングから同定され、ACDコードMFCD00173669下でそれらから利用可能である。HepG2(ヒト肝芽腫)、MCF7(ヒト乳癌)、Hepa1(マウス肝臓癌)およびCHO(チャイニーズハムスター卵巣癌)細胞株は、英国癌研究所(Cancer Research−UK)(ロンドン、イギリス)の細胞サービスから入手した。MCF7細胞のための増殖培地は、10%ウシ胎仔血清(FBS)および抗生物質を添加したグルタマックス(glutamax)含有ダルベッコMEMであった。HepG2細胞を、10%のFBSおよび抗生物質を添加したグルタマックス含有ダルベッコMEM中で維持した。Hepa1細胞を、10%FBS、抗生物質、1%非必須アミノ酸および2.5μg/mlウシインスリンを添加したグルタマックス含有ダルベッコMEM中で維持した。CHO細胞を、10%FBS、抗生物質、1%チミジンおよび1%ヒポキサンチンを添加したグルタマックス含有ダルベッコMEM中で維持した。すべての細胞を95%空気および5%CO2中37℃で培養し、3〜4日ごとに継代した。すべての細胞培養のための培地添加物はライフ・テクノロジーズ(Life Technologies)社、ペーズリー、イギリスから購入した。
【0072】
レポータープラスミドおよび発現コンストラクト
ARE−ルシフェラーゼレポータープラスミドを、ホタルルシフェラーゼ遺伝子の上流にSV40プロモーターを含むpGL3−プロモーターベクター(プロメガUK(Promega UK)、サザンプトン、イギリス)を使用して作製した。それらを表1中に要約する。これらのプラスミドは、プロモーター−luc+転写ユニットの上流のNhe1およびXho1の制限部位を介して頭−尾方向で挿入されたARE配列のコピー数が、異なる。ラットGSTA2およびマウスgsta1中に存在するARE(5’−GTGACAAAGCA−3’、下線部の最小の機能性配列を有する)の1、2、4、6または8個のいずれかのコピーを含む5つのプラスミドを作製し;これらはpGL−n×AREと呼ばれた。向かい合った鎖上に5’−CCC3−’および5’−GGG3−’の配列を有するリンカーを、個々のシスエレメントの間に置いた。さらに、ルシフェラーゼレポーター遺伝子を駆動するラットGSTA2遺伝子プロモーターのヌクレオチド−682〜−722の41bp(5’−GAGCTTGGAAATGGCATTGCTAATGGTGACAAAGCAACTTTG−3’、最小の機能性エンハンサーは下線で示される)を表わす、pGL−GSTA2AREと命名されたプラスミドを作製した。マウスgsta1において、この配列は5’−TAGCTTGGAAATGACATTGCTAATGGTGACAAAGCAACTG−3’である(Hayes & Pulford, 1995)。オリゴヌクレオチドは、MWG−バイオテック(BIOTECH)社(エバーセルク(Eberserg)、ドイツ)によって合成された。プラスミドを作製した後、インサートのDNA配列を検査した。
【0073】
pHyg−EF−hNrf2(緑色蛍光タンパク質(GFP)−タグ付加ヒトNrf2発現ベクター)は、Masayuki Yamamoto教授(筑波大学、基礎医学系、日本)からの寄贈であった。pEGFP−N1(陰性対照として用いられるGFP発現ベクター)は、BDクロンテック(Clontech)UK社(ハンプシャー、イギリス)から入手した。
【0074】
ルシフェラーゼレポーター遺伝子活性の一時的なトランスフェクションおよび分析
デュアルルシフェラーゼのレポーターアッセイ系(プロメガ社)を一過性にトランスフェクションした細胞におけるレポーター遺伝子活性を検査するために使用した。簡潔には、細胞を24ウェルプレートにおいて2×105細胞/ウェルの密度で播種し、適切な培地中で増殖させた。一晩のインキュベーション後に、細胞に、様々なARE−ルシフェラーゼレポータープラスミドを一過性にトランスフェクションした。プラスミドpRL−TK(ウミシイタケ属ルシフェラーゼをコードする)を、トランスフェクション効率に対する対照に使用した。トランスフェクションは、製造者の使用説明書に従って、リポフェクタミン(Lipofectamine)2000試薬(リファー・テクノロジーズ(Lifer Technologies)社、コベントリー、イギリス)を使用して実行した。トランスフェクションに続いて、培養液を、各実験の直前に調製された50μMのtBHQ(最終濃度0.1%v/vのジメチルスルホキシド(DMSO)を与える溶液において)を含む新しい増殖培地で24時間後に置換した。対照実験のために、媒質単独(0.1%v/v DMSO)を増殖培地へ加えた。細胞を採取前に生体異物へ応答するように24時間放置し、細胞溶解物中のホタルおよびウミシイタケ属のルシフェラーゼ活性を、ルシフェラーゼアッセイ試薬II(プロメガ社)の追加後に、照度計(ターナー・デザインズ(Turner Designs)、モデルTD−20/20、プロメガ社)を使用して測定した。反応のクエンチング後に、ストップアンドグロー(Stop & Glo)試薬(プロメガ)を加えることによってウミシイタケ属ルシフェラーゼ反応を開始した。ウミシイタケ属ルシフェラーゼ活性に対してホタルルシフェラーゼ活性を正規化することによって、相対的なルシフェラーゼ活性を計算した。
【0075】
安定したARE駆動性レポーター系の作製
pGL−8×AREを、ネオマイシンにより選択可能なマーカーを含むpCDNA3.1プラスミドと一緒に、リン酸カルシウム法を使用して、MCF7細胞の中へ安定的にトランスフェクションした(Moffat et al., 1997)。トランスフェクションされた細胞を、3〜4週間培地中の0.8mg/mlのG418を使用して選択した。G418耐性クローンは、基底ルシフェラーゼ活性、および誘導性ルシフェラーゼ活性(50μMのtBHQによって)の測定によって分離およびスクリーニングした。上述されるように、ホタルルシフェラーゼ活性を測定した。陽性のクローン(それらは低いバックグラウンドおよび高い誘導性ルシフェラーゼ活性を示す)を継代し、0.8mg/mlのG418を含む増殖培地中で維持した。
【0076】
安定したARE−ルシフェラーゼレポーター細胞の生体異物処理
BCNUおよびメルファランを1000×濃縮溶液として酸性化エタノール中に溶解した。ドキソルビシン、エピルビシン、シクロホスファミド、メトトレキサートおよびパクリタキソールを、リン酸緩衝生理食塩水中に溶解した。他の抗癌剤をDMSO中の1000×濃縮ストック溶液として調製し、使用まで−20℃で保存した。抗癌剤による処理のために、細胞を、増殖培地において1.2×104細胞/ウェルの密度で96ウェルマイクロタイタープレート中に播種した。一晩の回復後に、培養液を、対象となる抗癌剤と共に抗生物質添加済みの新しいダルベッコMEMで置換した。等容積の媒質を対照ウェルへ加えた。24時間の処理後に、上述されるように、ホタルルシフェラーゼ活性を測定した。
【0077】
安定したARE−ルシフェラーゼレポーター細胞におけるhNrf2の過剰発現
トランスフェクションのために、AREc32細胞を、100μl増殖培地において1.5×104細胞/ウェルで96ウェルプレート中に播種した。一晩の回復後に、リポフェクタミン2000試薬を使用して、25〜100ng/ウェルのpHyg−EF−hNrf2ベクターまたはpEGFP−N1ベクターを、細胞にトランスフェクションした。トランスフェクション後の4時間の回復期間に続いて、培養液を、グルタマックスおよび10μMのtBHQ(またはDMSO単独)を含む抗生物質添加済みの新しいダルベッコMEMで置換した。等容積のDMSOを対照ウェルへ加えた。最終的に、tBHQによる24時間の処理後にホタルルシフェラーゼ活性を測定した。
【0078】
Nrf2 siRNAベクターの調製およびトランスフェクション
pRS hNrf2(ヒトNrf2を標的とするpSUPER RNAiベクター)を、スーパー(SUPER)RNAi(商標)ライブラリー(オランダ癌研究所(Netherlands Cancer Institute)、アムステルダム、オランダ)のグリセロールストックから回収した。この研究において使用されるpRS−hNrf2中のオリゴインサートの配列は、hNrf2 cDNAの2083〜2101(ナンバリングはATG開始コドン中のAからである)の領域に対応する、5’−GCATTGGAGTGTCAGTATG−3’であった。GFPを標的とするpSUPER RNAiベクター(pRS−GFP)も、スーパーRNAi(商標)ライブラリーから得て、陰性対照として使用した。
【0079】
pSUPER RNAiによるトランスフェクションのために、AREc32細胞を100μl増殖培地において1.2×104細胞/ウェルで96ウェルプレート中に播種した。一晩のインキュベーション後に、25〜100ng/ウェルのpRS−hNrf2またはpRS−GFPのpSUPERベクターをリポフェクタミン2000試薬を使用して、細胞の中にトランスフェクションした。トランスフェクションからの回復に続いて(24時間)、培養液を、グルタマックスおよび10μMのtBHQ(またはDMSO単独)を含む抗生物質添加済みの新しいダルベッコMEMで置換した。24時間の処理後に、ホタルルシフェラーゼ活性を測定した。RNAiの特異性をタックマン分析によって確認した。
【0080】
統計分析
統計比較を対応のないスチューデントのt検定によって実行した。p<0.05の値が有意であると統計的に判断された。
【0081】
結果
機能的なARE駆動性レポータートランス遺伝子を発現する安定した細胞株の作製
この研究において、ラットGSTA2遺伝子およびマウスgsta1遺伝子のプロモーターに共通のシスエレメントの1、2、4、6または8個のいずれかのコピーを含む一連のARE−ルシフェラーゼレポータープラスミドを作製した。ARE配列を表1中にリストする。これらのレポーターコンストラクトを、MCF7細胞およびHepG2細胞における一過性トランスフェクションによって検査した。図2中に示されるように、pGL3のプロモーター中のAREのコピー数を増加させることは、通常の恒常的条件下で観察されるルシフェラーゼ活性の基底レベルに対して有意な効果はなかった。しかしながら、MCF7細胞におけるpGL3プロモーターベクター中のAREコピーの数とtBHQによるルシフェラーゼ活性の誘導のレベルとの間には十分な相関性があった。これらの結果から、ラットGSTA2−AREの複数のコピーのトランスフェクションが、tBHQ処理に対するレポーター遺伝子活性(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ)の感受性を増加させたことを実証したNguyen et al., 1994)の結果が確認される。
【0082】
安定したレポーター細胞株の作製のための適切な細胞系を選ぶために、pGL−GSTA2.41bp−AREをHepG2、MCF7、CHO、Hepa1細胞の中へトランスフェクションした。表2中に示されるように、このコンストラクトによる一過性トランスフェクション実験では、MCF7細胞におけるルシフェラーゼ活性は50μMのtBHQによる一晩の処理後に50倍まで誘導された。これとは対照的に、HepG2、CHOまたはHepa1細胞における同様のトランスフェクション実験後に、レポーター遺伝子は2〜4倍のみ誘導された。したがって、MCF7細胞がNrf2を発現し、ARE駆動性転写の測定のために感受性のある細胞系を提供できるということを我々の結果は示した。
【0083】
このコンストラクトが、tBHQによる処理後にかなり高レベルの誘導性ルシフェラーゼ産生を与えたので、レポーターが安定して存在する細胞株を産生するためのプラスミドとして、pGL−8×ARE(タンデム配置した8コピーの最小の機能性AREを含む)を用いることに決定した。この目的を達成するために、pGL−8×AREおよびpCDNA3.1(ネオマイシンにより選択可能なマーカーを含む)を、MCF7細胞の中へ安定的に共トランスフェクションし、G418の存在下で選択した。153個のG418耐性クローンが単離された。最初の継代後に、基底ルシフェラーゼ活性および誘導性ルシフェラーゼ活性に従って、32個のクローンをさらなるモニタリングのために維持した。中でも、AREc32として定義された1つのクローンは、低い基底ルシフェラーゼ活性および高い誘導性ルシフェラーゼ活性を示し、20代以上の継代後にも安定した表現型が実証された。残りのクローンは、10μMのtBHQによる低誘導レベル(2〜6倍)または多くの継代による不安定な表現型のいずれかを示したので廃棄した。したがってAREc32細胞をさらなる研究のために保存した。
【0084】
AREc32細胞におけるARE駆動性ルシフェラーゼ活性の誘導はNrf2によって仲介される。
AREc32細胞におけるルシフェラーゼ活性がNrf2に対して応答したものであることを確認するために、このCNC bZIPタンパク質を、発現コンストラクトpHyg−EF−hNrf2の一過性トランスフェクションによってAREc32細胞において過剰発現させた。図3中に示されるように、10μMのtBHQを処理したときにDNAがトランスフェクションミックス中に含まれない対照細胞では、ルシフェラーゼ活性は13倍誘導された。1ウェルあたり25ngのpHyg−EF−hNrf2プラスミドDNAを使用したときには、基底ルシフェラーゼ活性も誘導性ルシフェラーゼ活性も有意に影響されなかった。しかしながら1ウェルあたり50ngのpHyg−EF−hNrf2によるトランスフェクション後には、ルシフェラーゼ活性の基底レベルは2.6倍に増加し、誘導性レベルは19倍に増加した。100ngのpHyg−EF−hNrf2によるトランスフェクション後には、レポーター遺伝子基底活性は4倍に、および誘導性レベルは25倍に増加した。異なるウェルにおいて、同量のpEGFP−N1(EGFP発現ベクター)を、陰性対照としてAREc32細胞の中へトランスフェクションした。基底のルシフェラーゼ活性も誘導性ルシフェラーゼ活性も、EGFPの過剰発現によっては有意に影響されなかった。
【0085】
Nrf2がAREc32細胞においてtBHQによるルシフェラーゼ活性の誘導を仲介するかどうかを決定するために、発現をノックダウンするためにRNAiベクターを使用した。図3Bは、pRS−hNrf2ベクターまたはpRS−GFPベクターのいずれかによるAREc32細胞のトランスフェクションがGAPDH mRNAのレベルに影響しないことを示す。しかしながら、pRS−Nrf2によるトランスフェクションの24時間後に、Nrf2についての内在性mRNAのレベルは対照レベルの約40%まで減少したが、その存在量はpRS−GFPベクターによるトランスフェクションによって影響されなかった(図3B)。この結果は、pRS−hNrf2のトランスフェクションがbZIP因子の発現を特異的に抑制したことを示す。
【0086】
pRS−hNrf2によるAREc32細胞のトランスフェクションは、ルシフェラーゼ活性の基底レベルを対照レベルの60%まで減少させた(図3C)。1ウェルあたり25ngのpRS−hNrf2 DNAを使用したときには、ルシフェラーゼ活性の誘導は、DNAがトランスフェクションミックス中に含まれてない対照細胞(10倍の誘導)に比較して、有意に影響されなかった。50ngのpRS−hNrf2 DNAを使用したときには、10μMのtBHQによるルシフェラーゼ活性の誘導は8倍まで減少した。1ウェルあたり100ngのpRS−hNrf2 DNAを使用したときには、tBHQによって6倍の誘導のみが検出された。異なるウェルにおいて、AREc32細胞を同量のpRS−GFP DNA(GFP mRNAを標的とする)によりトランスフェクションしたときに、基底ルシフェラーゼ活性および誘導性ルシフェラーゼ活性は影響されなかった(図3C)。これらのデータは、AREc32細胞において基底ルシフェラーゼ活性および誘導性ルシフェラーゼ活性が、AREを介してNrf2によって仲介されることを示す。
【0087】
AREc32細胞におけるルシフェラーゼの時間依存的および用量依存的な誘導
AREc32細胞におけるルシフェラーゼ活性は時間依存的および用量依存的様式で誘導することができ;24時間間処理後に、ルシフェラーゼ活性は1μMのtBHQによって2倍および5μMのtBHQによって5倍増加した(図4Aおよび表3を参照)。最大ルシフェラーゼ活性(約10倍の増加)は、10μMのtBHQによる処理後に観察された。tBHQによるルシフェラーゼ活性の誘導は時間依存的でもあり;それは、10μMのtBHQによる8時間の処理後に4倍増加し、同一用量のtBHQによる処理の18時間後に10倍に達した。AREc32細胞におけるルシフェラーゼ活性の誘導の同様の大きさは、10μMスルフォラファン(SUL)(NQO1およびAKR1Cの強力な酵素誘導因子)に対する24時間の暴露後に観察された(Bonnesen et al., 2001)。
【0088】
AREレポーター遺伝子発現に対する抗癌剤の効果
癌化学療法剤がNrf2−ARE系を修飾するかどうかを知るために、多数の抗癌剤をAREc32細胞を使用してスクリーニングした。IC50の結果に基づいて(データ不掲載)、AREc32細胞を致死未満用量の複数の治療剤により24時間処理した。ルシフェラーゼ活性に対するそれらの効果に従って、これらの薬物を3つの群へと表4中で分類した:有意な効果はないもの、中等度の活性化剤、および強力な活性化剤である。したがって、ドキソルビシン、エピルビシン、パクリタキソール(タキソール)、メトトレキサートおよびチオテパの処理は、AREc32細胞におけるルシフェラーゼ活性レベルに対して効果がなかった。アルキル化剤シスプラチン、メファラン(mephalan)および酸化還元サイクル化合物エトプシドは、中等度にルシフェラーゼ活性を増加させた。アルキル化剤のクロラムブチル、ミトザントロンおよびBCNUによるAREc32細胞の処理は、2〜4倍のルシフェラーゼ活性のより強力な誘導を誘発した。
【0089】
AREc32細胞を使用して、シクロホスファミド処理がARE−ルシフェラーゼ活性に対していかなる効果もないことが明らかになった。これとは対照的に、その主要な代謝物質アクロレインは、強力なARE活性化剤であることが見出された;10μMアクロレインにより、ルシフェラーゼ活性が27倍増加した。
【0090】
抗癌剤によるARE駆動性遺伝子発現の活性化は酸化還元反応依存的である。
細胞のGSHレベルが、抗癌剤によるルシフェラーゼ活性の活性化能力に対する効果を有するかどうかを調べるために、我々は、化学療法剤を投与する前に、50μMのBSOでAREc32細胞を24時間前処理した。図5Aに示されるように、BSOによる前処理は、シスプラチンおよびメルファランによるルシフェラーゼ活性の誘導をそれぞれ3倍および5倍に増加させた。より顕著に、BSOは、クロラムブチルおよびBCNUによるルシフェラーゼ活性の誘導を>10倍に増加させた。そのような誘導は、約5mMのNACの追加によって完全に抑制された(図5A)。エトプシドおよびミトザントロンの処理については、BSO前処理がルシフェラーゼ活性を有意に変化させないことが明らかにされた(データ不掲載)。
【0091】
抗癌剤が内在性Nrf2調節遺伝子の発現を同様に活性化するかどうかを知るために、AREc32細胞におけるAKR1Cの発現を検討した。BSOによる前処理なしでは、AKR1CのmRNAレベルは、メルファラン、シスプラチン、クロラムブチルの処理によってわずかだけ増加した。しかしながら、細胞を50μMのBSOにより24時間前処理したときに、メルファランおよびシスプラチンはAKR1CのmRNAの発現をそれぞれ3倍および4倍まで増加させ、クロラムブチルはこのmRNAを31倍増加させた(図5B)。BCNUによる処理は、AKR1CのmRNAの発現を3倍に誘導し、BSO BCNUの前処理によりAKR1CのmRNAを42倍に誘導した(図5B)。イムノブロットは、AKR1Cタンパク質もまたこれらの抗癌剤によって増加することを明らかにした(図5C)。BSO前処理は、tBHQ処理によるAKR1Cタンパク質の発現をさらに促進しなかった。しかしながら、これは、恐らく10μMのtBHQ単独によるAKR1Cの誘導が既に最大レベルに達していたからであろう。
【0092】
考察
ルシフェラーゼトランス遺伝子の発現を指令するために最小のエンハンサー配列のみが存在する、安定したAREレポーターヒト乳腺細胞株(MCF7細胞に由来するAREc32)を作製した。この目的のために用いられるAREは、ラットGSTA2およびマウスgsta1の両方のプロモーターで見出されるものの付近にデザインされた。gsta1の場合、その基底発現および誘導性発現はインビボのNrf2によって調節されることが示された(Chanas et al., 2002)。さらに、ヒトNQO1中のプロモーターとは異なり、GSTA2およびgsta1のプロモーターは組み込まれているAP1部位を含んでおらず、ARE内にこの部位が存在しないことがレポーター遺伝子活性の誘導の実行を促進するので、GSTA2およびgsta1のプロモーターからのAREを使用した。AREc32細胞において、ルシフェラーゼ活性の発現はNrf2によって仲介され、酸化還元状態に対して感受性のあることが示された。この細胞株は、10μMのtBHQによってレポーター活性が10倍誘導され、したがってNrf2のアゴニストおよびアンタゴニストを同定するための化学的ライブラリーのスクリーニングに使用できる十分なモデル系を提供する。
【0093】
抗癌薬剤に対するAREc32細胞の応答
本研究において、ARE駆動性遺伝子発現を誘導する抗癌性アルキル化剤の能力を検討するために、AREc32細胞を使用した。シスプラチン、エトポシド(VP16)、ミトザントロン、メルファラン、クロラムブチルおよびBCNUが、ルシフェラーゼを誘導できることが明らかになった。これらの化学療法剤によるARE−ルシフェラーゼの誘導は、それがBSO前処理によって増大され、NACによって抑制される場合、酸化還元感受性であることが見出された(図5A)。興味深いことには、このことは、特定の抗癌剤による患者の準最適の治療は、Nrf2によって制御される腫瘍において、細胞保護防衛を誘導することを示唆する。更に、腫瘍における細胞の酸化還元状態は、そのような防衛を活性化するそれらの能力に影響を及ぼすだろう。
【0094】
材料および方法II
化学物質
AREc32細胞の処理において使用されるレチノイドはDMSO中に調製され、マウスに対して投与されるレチノイドはトウモロコシ油中に調製された。レチノイド溶液は小分けにして−70℃で保存し、各々を解凍した後は1回だけ使用した。レチノイドの投与に関係する実験手順は、薄明かりで実行した。
【0095】
動物
ホモ接合Nrf2 KOマウスおよびマウスの遺伝子型決定は、以前に記述した通りであった(Itoh et al., 1997)。2か月のC57BL/6 nrf2-/-およびnrf2+/+のオスマウスをこの研究で使用した。動物は餌および水を自由に摂取させて12時間の明暗サイクルで飼育した。マウスは実験期間の間毎日体重測定した。すべての動物手順は、イギリス内務省のライセンス下で、および地方倫理委員会の承認取得後に行なわれた。
【0096】
2つの摂食実験を実行した。実験1において、第一ステージ(4週間続いた)では、Nrf2(+/+)マウスをレチノイン酸欠損のVAD飼料で飼育した(スペシャル・ダイエット・サービス(Special Diet Services)社、ウィザム、エセックス、イギリス)。第二ステージ(2週間続いた)では、マウスを3つの実験群へ分類し、それらの飼料および処理は:(a)1群、VAD飼料;(b)2群、VAD飼料および10mg/kg体重の用量で毎日ATRAを投与した;(c)3群、VAD飼料およびトウモロコシ油を腹腔内で毎日投与した、である。実験2において、Nrf2(/−)マウスを対照飼料またはVAD飼料で6週間飼育した。
【0097】
6週間の終わりまでに、マウスを屠殺し、小腸を直ちに切除し、液体窒素中で凍結し、使用まで−70℃で保存した。摂食実験は3回繰り返され、各実験群は2匹または3匹の動物を含んでいた。
【0098】
細胞培養およびルシフェラーゼ活性の測定
上の材料および方法セクション中で記載されるようにAREc32細胞を調製し、95%空気および5%CO2において37℃で0.8mg/mlのG418を含む増殖培地(10%ウシ胎仔血清(FBS)および抗生物質添加済みのグルタマックス含有ダルベッコMEM)で維持し、3〜4日ごとに継代した。細胞培養のための培地添加物はライフ・テクノロジーズ社(ペーズリー、イギリス)から購入した。
【0099】
生体異物処理のために、AREc32細胞を増殖培地において1.2×104細胞/ウェルで96ウェルプレート中に播種した。24時間の回復後に、培養液を、生体異物(0.1%v/v)を含む抗生物質添加済みの新しいDMEMで置換した。細胞を採取前に生体異物へ応答するように24時間間放置し、細胞溶解物中のホタルルシフェラーゼ活性を、ルシフェラーゼアッセイ試薬(プロメガ社)の追加後に、照度計(ターナー・デザインズ、モデルTD−20/20、プロメガ社)を使用して測定した。対照実験のために、媒質単独(0.1%v/v DMSO)を培地へ加えた。
【0100】
リアルタイム定量的PCR(RT−PCR)
全RNAをトリゾール(TRIzol)により単離し、製造者の使用説明書に従ってRNイージー(RNeasy)ミニキット(キアゲン(Qiagen) 社)によりさらに精製した。使用される全RNAのA260/A280比は典型的には≧1.9であった。RNAの質はアジレント(Agilent)2100バイオアナライザーを使用して評価した。以前に記述したようにRT−PCRを実行した(Wang et al., 2005)。プライマーはMWG−バイオテック社によって合成された。プローブ(5’蛍光レポーター色素(6−カルボキシフルオレセイン)および3’クエンチング色素(6−カルボキシテトラメチルローダミン)で標識された)は、キアゲン社(ドイツ)によって合成された。各アッセイは三回行った。オリゴヌクレオチドプライマーの様々なセットからのPCR増幅の特異性を、アガロースゲル電気泳動によってルーチンに調べた。結果は7700システムソフトウェアの使用によって分析した。18S rRNAのレベルを内部スタンダードとして使用した。ヒトAKR1CのmRNAへ対応するcDNAの測定のためのプライマーおよびプローブに対する配列は以前に記述されている(Devling et al., 2005)。
【0101】
ウエスタンブロット分析
全細胞の抽出物は以前に記述したように培養細胞から調製した(Wang XJ 2006)。簡潔には、プロテアーゼ阻害剤混合物(ロッシュ・ダイアグノスティックス(Roche Diagnostics)社)を追加した0.1Mヘペス(pH 7.4)、0.5M KCl、5mM MgCl2、0.5mM EDTA、20%グリセロールを含む抽出緩衝液中で、細胞を溶解した。タンパク質サンプル(30μg)を、標準的なプロトコールを使用してSDS−PAGEゲルで分離した。以前に記述したように、AKR1Cに対して作製された抗血清を使用してイムノブロットを実行した(O'Connor et al., 1999)。以前に記述したように、小腸サイトゾルを調製した(McMahon et al., 2001)。小腸サンプルからの5μgのタンパク質をSDS−PAGEによってルーチンに分離した。NQO1およびGSTのタンパク質レベルを推定するために、ウェスタンイムモブロッティング(immumoblotting)を実行した。使用する一次抗体の供給源は以前に記述されている(Hayes et al., 2000; Kelly et al., 2000)。すべての場合において、等量のローディングを確認するために、アクチン(シグマ社)に対する抗体によるイムノブロットを実行した。
【0102】
電気泳動度シフトアッセイ(EMSA)
EMSAのために使用する核抽出物を別記された手順に従って調製した(Moffat et al., 1997)。[γ−32P]ATPおよびT4ポリヌクレオチドキナーゼで末端標識した二本鎖DNAプローブ(ARE、5’−GAGCTTGGAAATGGCATTGCTAATGGTGACAAAGCAACTTTG−3’[下線はコア配列])を、以前に記述したように、ゲルシフト解析のために使用した(Moffat et al., 1997)。いくつかの分析において、結合の特異性を、標識プローブを加える前に、反応混合物へ200倍モル過剰の未標識オリゴヌクレオチドを加えることによって実行される競合実験によって測定した。サンプルを4%ポリアクリルアミドゲルにおいて100Vで分離した。ゲルを乾燥し、オートラジオグラフィーを行なった。
【0103】
ビオチン化AREオリゴヌクレオチドのプルダウンアッセイ
以前に記述したように、プルダウンアッセイのために使用する核抽出物を調製した(Deng et al., 2003)。簡潔には、プロテアーゼ阻害剤混合物(ロッシュ・ダイアグノスティックス社)を追加した10mMヘペス(pH 8.0)、1.5 mM MgCl2、200mMショ糖、0.5%ノニデットP−40、10mM KCl、0.5mMジチオトレイトール、0.1mMオルトバナジウム酸ナトリウム、1mM EGTAを含む、パック細胞2容積分の緩衝液A中で5分間4℃にてAREc32細胞を溶解した。粗製の核をミクロ遠心によって回収し、パック細胞3容積分の緩衝液B(PBS(pH.7.4)、1.0mM EDTA、1.0mMジチオトレイトールに加えて緩衝液A中のプロテアーゼ阻害剤および脱リン酸化酵素阻害剤)中に再懸濁した。次に核を4℃で超音波処理によって破壊し、続いて残屑を除去するためにミクロ遠心を行なった。核抽出物タンパク質を含む上清を回収し、−70℃で保存した。
【0104】
5’でビオチン化した二本鎖AREプローブ(ラットGSTA2遺伝子プロモーター中のヌクレオチド−682〜−722の42bpを表わす)は、MWG−バイオテック社によって合成された。その配列は5’−GAGCTTGGAAATGGCATTGCTAATGGTGACAAAGCAACTTTG−3’である。さらに、関連のないビオチン化プローブ(モック)(5’−AGAGTGGTCACTACCCCCTCTG−3’)もまた陰性のプローブ対照として供するために合成した。
【0105】
以前に記述したように、AREプルダウンアッセイを実行した(Deng et al., 2003)。簡潔には、720nMの5’でビオチン化されたAREプローブを、異なる化合物で処理されたAREc32細胞からの500μgの核抽出物および100μlの4%ストレプトアビジンアガロースビーズ(シグマ社)と共に混合した。最終的な体積を、核抽出物緩衝液Bで500μlに調整した。混合物を1時間室温で揺り動かし、チューブを5000gで30秒間遠心した。沈殿を氷冷PBSで4回洗浄し、プルダウンした混合物をSDS−PAGE上で分析した。Nrf2タンパク質を、ウサギポリクローナルNrf2抗体を使用してイムノブロットによって同定した。
【0106】
統計分析
統計比較は対応のないスチューデントのt検定によって実行した。pの値<0.05は有意であると統計的に判断された。
【0107】
結果II
オールトランスレチノイン酸によって誘導可能なARE駆動性遺伝子発現のアンタゴナイズ作用
MCF7−AREレポーター細胞株は、tBHQ、アクロレイン、β−ナフトフラボン(NF)およびスルフォラファンを含む、AREを活性化することが公知である多数の化合物により処理された。期待されるように、これらすべての誘導剤はAREc32細胞におけるルシフェラーゼ活性を増加させた(図6)。しかしながら1μMのATRAの存在下でtBHQ、アクロレイン、NFおよびスルフォラファンによるAREc32細胞の処理は、誘導剤によって影響を受けるARE駆動性ルシフェラーゼ活性における増加を有意に弱めた。実際は、得られた値からDMSO対照を引いた後は、ルシフェラーゼ活性はほとんど完全になくなった。続いて行なわれる実験において(図7Aにおいて示される)、ARE駆動性応答の阻害のレチノイン酸濃度に対する依存性、およびさらに他のレチノイド誘導体がARE応答を阻害する能力を検討した。興味深いことには、すべての3つのレチノイドは、同様の用量依存的様式(IC50値はおよそ3×10-7Mである)でARE応答を阻害した。すべてのこれらの3つのレチノイド誘導体がほぼ等しい力価でレチノイン酸受容体に結合することが知られており、これが観察された応答を仲介することを示唆する。さらに、レチノイン酸によるルシフェラーゼ活性の阻害の時間依存性を測定した。図7Bにおいて示されるように、およそ3時間の遅滞期後に、tBHQ処理した細胞におけるルシフェラーゼ活性は、24時間の期間にわたりほとんど直線的に増加した。しかしながら、AREc32細胞をtBHQおよびATRAにより同時に処理したときに、遅滞期は3時間から16時間に増加し、その後ルシフェラーゼ活性は16〜24時間の間緩やかに増加したのみであった。
【0108】
オールトランスレチノイン酸はtBHQによる内在性遺伝子の誘導を阻害
レチノイン酸がAREを介して調節される内在性遺伝子の発現を阻害できるかどうかを立証するために、tBHQによるAKR1C1遺伝子の誘導に対するATRAの効果を研究した(図8A)。この実験において、tBHQはほぼ15倍までAKR1C1のmRNAの発現を誘導し、この誘導はレチノイン酸との共インキュベーションによって著しく抑制された(たった3倍の誘導まで)。DMSO対照を引いた後に、阻害はおよそ85%であると推測された。次にウエスタンブロット分析によってAKR1Cタンパク質の誘導に対するATRAの効果を研究した。図8B中に図に示すように、このタンパク質のレベルもまた著しく減少した。ウエスタンブロットのスキャニングからこの減少がおよそ50%であることが示され;タックマンとイムノブロットのデータとの間のこの見かけ上の相違は、AKR1C1に対して作製された抗体がAKR1C2および恐らくAKR1C3と交差反応するので、恐らくこの抗体は特異性を欠くものであるためである。
【0109】
MCF7細胞における観察から、インビボのARE調節遺伝子を発現まで推定することができるかどうかを調べるために、レチノイン酸欠損(すなわちビタミンA欠損、VAD)飼料をマウスに与える実験を実行した。興味深いことには、6週間のビタミンA欠損飼料で飼育された野生型マウスにおいて、ARE調節遺伝子のGstM5 GCLC、NQO1およびGstA1の充分な誘導が観察された(図9)。nrf2-/-マウスにおいてGstM5 GCLC、NQO1およびGstA1における増加が観察されなかったので、これらの遺伝子のVAD飼料による誘導はNrf2に依存的である。VAD飼料で飼育される最後の2週間の間に野生型マウスに対して毎日ATRAを投与することにより、ARE駆動性遺伝子の誘導は、小腸においてほとんど完全に無くなった。この結果は、レチノイン酸の抑制作用が胃腸管におけるインビボの状況に関連することを実証する。
【0110】
オールトランスレチノイン酸は抗癌薬物によるARE駆動性遺伝子発現の誘導を阻害
一連の抗癌剤によりレチノイン酸がNrf2調節遺伝子の誘導を阻害できるかどうかを決定するために、さらなる実験を実行した(図10)。抗癌剤のうちで、シスプラチン、メルファランおよびクロラムブチルは、ARE駆動性遺伝子発現の弱い誘導因子であった(表4)。それに比べれば、BCNUはより強力な誘導剤であった。これらの抗癌剤の各々によるARE駆動性ルシフェラーゼ活性の誘導は、化学療法剤と共にATRAが培地中に含有されることにより阻害された(図10A)。グルタチオン除去剤L−ブチオニン−S,R−スルホキシミン(BSO)でAREc32細胞を24時間前処理することによって、これらの薬剤によるルシフェラーゼ活性の誘導を著しく促進でき、実際これらの条件下で使用される抗癌剤のすべてはAREレポーターの効率的な誘導因子であり;BCNUおよびクロラムブチルは10〜15倍の間で誘導する。これらの実験のすべてにおいて、ATRAはAREの誘導の強力な阻害剤であった。これは特に、細胞が50μMのBSOにより前処理されたときに、DMSO対照値を引いた後のARE応答がほとんどバックグラウンドレベルまで減少した実験のケースであった。これらのデータは、現在使用される抗腫瘍薬剤により誘導されたARE応答を、レチノイン酸が減ずる能力を有することを実証する。
【0111】
オールトランスレチノイン酸は、Nrf2の安定性に影響を及ぼさない
レチノイン酸がその抑制効果を発揮するメカニズムを確立するために、Nrf2の核濃度がこの化合物の存在下で変化するかどうかを調べた。しかしながら、これはそうでないことが見出された(図11)。したがって、bZIP因子を不安定にすること、またはその核移行を阻害することのどちらによっても、ATRAが遺伝子発現のNrf2仲介性誘導をアンタゴナイズしないことが結論される。
【0112】
レチノイン酸がエンハンサーに対するNrf2の結合を阻害するかどうかを立証するために、コアARE結合配列を使用する電気泳動度シフトアッセイを実行した。3つの複合体がこのエンハンサーと相互作用することが観察され(図12)、それらの結合はtBHQおよびレチノイン酸の存在下で減少し、レチノイン酸はAREエンハンサーエレメントの活性化を妨害することを示す(トラック4対トラック2)。AREエンハンサー上にNrf2をローディングするためのさらなる方法を使用して、tBHQの存在下でレチノイン酸がAREに対するNrf2の結合を阻害することを確認できた(図13)。したがってATRAが遺伝子プロモーター中のARE上へのNrf2の動員を妨害することによって、Nrf2が遺伝子発現をトランス活性化する能力を阻害すると結論される。
【0113】
考察II
上述されたデータは、レチノイン酸およびその各種誘導体がモデル誘導剤によるARE駆動性遺伝子発現の誘導をアンタゴナイズすることを示す。更に、ARE駆動性遺伝子発現のこのアンタゴナイズ作用は比較的低用量(すなわち10-7M)のATRAを必要とし、レチノイドはNrf2活性の強力な阻害剤であることが示唆される。抗癌剤によるARE駆動性遺伝子の誘導もまたATRAがブロックするという結果は、腫瘍が化学療法に応答して細胞保護遺伝子のスイッチを入れることを、レチノイドが阻害するということを示唆する。したがって、レチノイドは、それらが薬剤と共に共投与されるならば、抗癌剤が治療上より効果的であることを可能にする。
【0114】
さらなる実施例
さらなる実験を行ない、それらの結果を図14〜25中で示す。各実験のための方法および結果を以下に記述する。
【0115】
方法:AREc32細胞を96ウェルプレート中に播種し、DMSO(対照)、tBHQ(50μM)、tBHQ+BTB09463(5μM)またはtBHQ+レチノイン酸(1μM)により処理した。24時間のインキュベーション後に、細胞をルシフェラーゼ活性の測定前に洗浄し溶解した。BTB09463は、1−{4−[(3,4−ジクロロベンジル)オキシ]フェニル}エタノ−1−オンである。
【0116】
結果:ルシフェラーゼ活性は、AREc32レポーター細胞株においてtBHQにより高誘導が可能であり、この実験においてDMSO対照と比較して14倍の発現誘導を示す。BTB09463またはレチノイン酸との共処理はそれぞれおよそ65%および75%でこの誘導を著しく抑制した。図14を参照。
【0117】
方法:AREc32細胞を、96ウェルプレート中に播種し、tBHQ(50μM)による処理前に、BTB09463(2.5、5または10μM)を0、24または48時間与えた。tBHQの追加の24時間後に、細胞をルシフェラーゼ活性の測定前に洗浄し溶解した。
【0118】
結果:ルシフェラーゼ発現のtBHQ仲介性誘導の抑制は各投与計画下で同一だった。図15を参照。
【0119】
方法:AREc32細胞を96ウェルプレート中に播種し、DMSO(対照)、tBHQ(50μM)、tBHQ+レチノイド(0.25、0.5および1μM)により処理した。24時間のインキュベーション後に、細胞をルシフェラーゼ活性の測定前に洗浄し溶解した。
【0120】
結果:検査したレチノイドはすべて、AREレポーター細胞株AREc32におけるtBHQ誘導性ルシフェラーゼ発現をダウンレギュレートできた。図16を参照。
【0121】
方法:A.Caco−2細胞を、BTB09463(5μM)またはレチノイン酸(1μM)と共に公知のARE遺伝子の誘導因子スルフォラファン(5μM)により、単独でまたは併用して処理した。24時間後に細胞溶解物を調製し、AKR1Cタンパク質のレベルを測定するためにウェスタンブロッティングを実行した。B.MCF7細胞を、BTB09463(5μM)と共にスルフォラファン(5μM)により、単独でまたは併用して処理した。24時間後に、細胞溶解物を調製し、AKR1CおよびNQO1のレベルを検出するためにウエスタンブロットを実行し;MCF7細胞におけるローディング対照としてGAPDHを使用した。
【0122】
結果:A.BTB09463およびレチノイン酸は、結腸癌細胞株(Caco−2)においてスルフォラファンがAKR1Cを誘導する能力を劇的に低下させた。B.BTB09463は、乳癌細胞株MCF7における、ARE遺伝子NQO1およびAKR1Cのスルフォラファンで駆動される誘導を強力に阻害した。図17を参照。
【0123】
方法:Caco−2細胞を、DMSO(対照)、BTB09463(5μM)、スルフォラファン(5μM)またはスルフォラファンプラスBTB09463の組合せにより処理した。24時間の処理後に細胞を採取し、RNAを単離した。各サンプルについてのcDNAを逆転写によって産生し、続いてARE駆動性遺伝子のAKR1C1およびNQO1の遺伝子転写のリアルタイムPCR分析(タックマン分析)において使用した。データは、内部対照18S RNA、および比較CT方法を使用して計算されたAKR1C1およびNQO1の相対的なレベルに対して正規化された。
【0124】
結果:スルフォラファンはAKR1C1のmRNAの12倍の誘導を引き起こし、それはBTB09463との共処理によって強く阻害された(50%減少)。NQO1は、スルフォラファンによってそれほど著しく誘導されなかったが、この場合ではBTB09463により共処理されたときにmRNA発現は減少した。図18を参照。
【0125】
方法:MCF7細胞を、公知のARE遺伝子の誘導因子スルフォラファン(5μM)により単独でまたは様々なレチノイド(0.5μM)により処理した。24時間後に細胞溶解物を調製し、存在するAKR1Cタンパク質のレベルを検出するためにウエスタンブロットを実行した。
【0126】
結果:酢酸レチニル、アシトレチン、オールトランスレチナールおよびビタミンAプロピオネートはすべて、MCF7細胞におけるスルフォラファン誘導性AKR1Cの発現を減少させた。図19を参照。
【0127】
方法:AREレポーター細胞株AREc23を96ウェルプレート中に播種し、以前に決定されている非毒性濃度の細胞毒性薬により処理した。24時間のインキュベーション後に、細胞をルシフェラーゼ活性の測定前に洗浄し溶解した。
【0128】
結果:検査された大多数の薬物は、典型的には10〜60%誘導にわたる、ARE駆動性ルシフェラーゼ活性の中等度誘導を示した。化学療法薬の中で、アルキル化剤のブスルファン(3.1倍誘導)および最も強力なものであるカルムスチン(BiCNU)(4.5倍誘導)は、ルシフェラーゼ活性の最も強力な誘導因子であることが証明された。図20aを参照。
【0129】
方法:AREレポーター細胞株AREc23を96ウェルプレート中に播種し、DMSO(対照)、カルムスチン(100μM)、カルムスチン+BTB09463(5μM)またはカルムスチン+レチノイン酸(5μM)により処理した。24時間のインキュベーション後に、細胞をルシフェラーゼ活性の測定前に洗浄し溶解した。
【0130】
結果:BTB09463およびレチノイン酸の両方は、AREレポーター細胞株(AREc32)におけるルシフェラーゼ活性のカルムスチン仲介性誘導を完全に抑制できる。図20bを参照。
【0131】
方法:A.AREレポーター細胞株AREc23を96ウェルプレート中に播種し、DMSO(対照)、アルキル化剤単独、アルキル化剤+レチノイン酸(ATRA)により処理した。24時間のインキュベーション後に、細胞をルシフェラーゼ活性の測定前に洗浄し溶解した。B.L−ブチオニン−(SR)−スルホキシミン(BSO)(グルタチオン合成経路における酵素の阻害剤)により前処理した細胞を用いて、実験Aを修飾して繰り返す。24時間のインキュベーション後に、細胞をルシフェラーゼ活性の測定前に洗浄し溶解した。
【0132】
結果:A.レチノイン酸は、AREレポーター細胞株(AREc32)におけるルシフェラーゼ活性の化学療法剤仲介性誘導を完全になくす。B.BSOによるAREc32細胞の前処理は、化学療法剤仲介性ルシフェラーゼ活性のレベルにおいて著しい増加を引き起こした。レチノイン酸はこの増加反応をまだ有意にアンタゴナイズすることができた。図を20c参照。
【0133】
方法:Caco−2細胞を、DMSO(対照)、カルムスチン(100μM)、カルムスチン+BTB09463(5μM)により24時間処理した。24時間後に細胞溶解物を調製し、AKR1Cのレベルを検出するためにウエスタンブロットを行なう。
【0134】
結果:Caco−2細胞のカルムスチン処理は、AKR1Cタンパク質発現の大きな誘導を引き起こし、それはBTB09463の共投与によって減少した。この結果はLS174細胞においてもまた再現された(データ不掲載)。図20dを参照。
【0135】
方法:MCF7細胞を、DMSO(対照;レーン1)、スルフォラファン(5μM)(レーン2)、カルムスチン(100μM)(レーン3)、カルムスチン+BTB09463(5μM)(レーン5)により24時間処理した。(レーン4は適用に無関係の実験条件を表わす)。24時間後に細胞溶解物を調製し、Nrf2、NQO1およびAKR1Cタンパク質のレベルを検出するためにウエスタンブロットを行なった。
【0136】
結果:カルムスチン処理は、NQO1およびAKR1Cタンパク質の過剰発現を引き起こした。ACR1CおよびNQO1タンパク質の過剰発現はBTB09463の共投与によって減少した。図20eを参照。
【0137】
方法:アイソボログラム分析のために必要とされるデータを得るために、カルムスチン単独のLD50、BTB09463単独のLD50、および一定濃度の範囲のBTB09463の存在下のカルムスチンのLD50を決定する、MCF7細胞を使用する細胞毒性アッセイを実行した。アッセイは、72時間のインキュベーション時間で96ウェルプレートにおいて実行した。細胞毒性はATP化学発光アッセイを使用して決定した。
【0138】
結果:検査されている2つの個別の化合物のLD50の間にプロットした線の下に存在するデータポイントは、相乗的な細胞毒性挙動を示す組合せを単独で示し、線から離れるほど、その関係はより相乗的である。この定義によってカルムスチンとBTB09463の間には中等度の相乗作用がある。図21を参照。
【0139】
方法:本質的には図21の記述されるようにアッセイは実行された。
【0140】
結果:データから、MCF7細胞がブレオマイシンおよびレチノイン酸(酢酸レチニルまたはアシトレチン)により共処理される場合、細胞死滅において非常に強力な相乗的増加があることが示された。相乗作用はカルムスチンおよび酢酸レチニルの特定の組合せについてもまた観察され、より低いカルムスチン濃度の力価における著しい増加であった。図22を参照。
【0141】
方法:A549細胞を、DMSO(対照)、BTB09463(1、5、20、40μmol/l)またはレチノイド(0.050、0.20、0.50、2.0μmol/l)により処理した。24時間後に全RNAを調製し、タックマン分析をAKR1C1についてのmRNAレベルを検出するために実行した。
【0142】
結果:タックマンの結果は、BTB09463、オールトランスレチノイン酸、オールトランスレチナールおよび酢酸レチニルはすべて、濃度依存的様式でAKR1C1の構成的発現を阻害することを示した。図23を参照。
【0143】
方法:A549細胞を、DMSO(対照)、BTB09463(1、5μmol/l)またはレチノイン酸(0.050、0.20、0.50、2.0μmol/l)により処理した。24時間後に細胞溶解物を調製し、ARE駆動性遺伝子(AKR1C1、AKR1B10、NQO1、GCLC、GCLM)のタンパク質レベルを検出するためにウエスタンブロットを実行した。
【0144】
結果:ウエスタンブロット分析の結果から、BTB09463およびオールトランスレチノイン酸は、AKR1C1、AKR1B10、NQO1、GCLCおよびGCLMの構成的レベルを抑制することが示された。調べられたすべてのタンパク質において、BTB09463およびレチノイン酸による抑制は、対照において観察されたレベルと比較して少なくとも50%であった。図24を参照。
【0145】
方法:A549細胞を、DMSO(対照)、BTB09463(1、5、20、40μmol/l)またはレチノイン酸(0.050、0.20、0.50、2.0μmol/l)により処理した。24時間後に全RNAを調製し、内在性ARE駆動性遺伝子NQO1、GCLC、GCLMのmRNAのレベルを検出するために、タックマン分析を実行した。
【0146】
結果:タックマン分析の結果から、BTB09463およびオールトランスレチノイン酸は、濃度依存的様式でNQO1、GCLCおよびGCLMの構成的mRNAレベルを抑制することが示された。図25を参照。
【0147】
方法:MCF−7またはA549細胞を96ウェルプレート中に播種した。24時間後に、細胞を、カルムスチンもしくはブレオマイシンの単独で、またはBTB09463の存在下(MCF−7およびA549細胞についてそれぞれ5および20μmol/l)のいずれかで72時間処理した。細胞を洗浄し、次にそれらの生存度を決定するATPレベルを決定するために溶解した。
【0148】
結果:BTB09463またはレチノイン酸のいずれかとの細胞毒性制癌剤の組合せは、薬物療法単独よりも細胞毒性が高いことが見出された。このことは、カルムスチンおよびブレオマイシンについてのIC50値の低下を50%以上までもたらした。表5を参照。
【0149】
要約すると、Nrf2転写因子が抗炎症性タンパク質に加えて、抗酸化酵素、薬物代謝酵素、薬物排出ポンプ、熱ショックタンパク質およびシャペロンをコードする一連の遺伝子の発現を制御するので、Nrf2転写因子は、酸化ストレスを引き起こす薬剤、および親電子性物質である化学物質に対する防御を付与する。Nrf2が制御する遺伝子はすべてそれらのプロモーター中に抗酸化応答エレメント(ARE)を含んでいる。Nrf2活性、およびそれが調節するタンパク質のレベルは前新生物、および多くの腫瘍において増加し、おそらく前悪性細胞および悪性細胞の生存に寄与する。本発明において、Nrf2活性をアンタゴナイズし、癌化学療法剤の細胞毒性効果を増加させるレチノイドおよび他の低分子阻害剤(SMI、例えばBTB09463)について記述する。ヒト乳腺MCF7由来の安定したレポーター細胞株において、レチノイドおよび他のSMIは、tert−ブチルヒドロキノン(tBHQ)およびスルフォラファン(Sul)(Keap1に仲介される因子の分解を阻害することによってNrf2を活性化することが公知である化合物)によるARE駆動性ルシフェラーゼレポーター遺伝子の誘導をアンタゴナイズする。レチノイドおよび他のSMIは、ヒト乳腺MCF7およびMDA157細胞、およびヒト結腸LS174およびCaco2細胞を含む様々な株において、mRNAおよびタンパク質レベルの両方で、アルド−ケト還元酵素(AKR)1C1、NAD(P)H:キノンオキシドレダクターゼ1(NQO1)、ならびにグルタミン酸システインリガーゼの触媒(GCLC)サブユニットおよび修飾(GCLM)サブユニットなどの内在性のARE駆動性遺伝子の誘導もまたアンタゴナイズする。特定の癌化学療法剤(例えばクロラムブチル、カルムスチン、メルファラン、ブスルファン、シスプラチン)はARE駆動性遺伝子を誘導し、それらは薬物に対する耐性を誘導する適応反応を刺激することができ、tBHQおよびSulによる場合のように、この誘導は同様にレチノイドおよび他のSMIによってアンタゴナイズできることが示唆される。構成的に活性のあるNrf2(Keap1による負の調節の欠損のために)を有するA549非小細胞肺癌細胞株において、レチノイン酸およびSMIは、AKR1C1、NQO1およびGCLCが過剰発現される程度を減少させる。レチノイドがNrf2の活性を阻害する能力、およびしたがってそれが調節する遺伝子の発現は、レチノイン酸受容体α(RARα)によって仲介される。共免疫沈降実験により、レチノイン酸によるARE駆動性遺伝子発現の阻害がRARαとNrf2との間の物理的相互作用(レチノイン酸によって非常に促進され、Nrf2がAREに対して結合するのを阻害する組合わせ)を介して起こることが示された。レチノイドまたはBTB09463によるNrf2のアンタゴナイズ作用は、A549細胞[Keap1によって制御されないNrf2を備えた]に加えて、MCF7細胞[Keap1によって負に制御されるNrf2を備えた]のブレオマイシンおよびカルムスチンの細胞毒性効果に対する感受性を増加させる。
【0150】
本発明は、tBHQおよびSulに対して高応答性の合成連結ARE−ルシフェラーゼレポーター遺伝子を含むAREc32と呼ばれるMCF7由来のレポーター細胞株の作製および妥当性検証もまた含む。AREc32細胞の利用は、tBHQによるARE−ルシフェラーゼ誘導の阻害剤としてBTB09463が同定された、6000の化学的ライブラリーをスクリーニングするために使用された。これとは別に、AREc32細胞はレチノイドを阻害剤として同定するために、またはtBHQによるARE−ルシフェラーゼ誘導にもまた使用された。
【0151】
表1:pGL3プロモーターベクター中のインサートの配列
最小のエンハンサー配列の5’− A/GTGACnnnGCA/G−3’(様々なレポーターコンストラクトについてインサート内で単一または複数のコピーとして存在する)を、下線で示す。
【0152】
【表1】
【0153】
表2:AREレポーター系の最適な利用のためのMCF7細胞の同定
MCF7、HepG2、CHOおよびHepa1細胞を1×105細胞/ウェルで24ウェルプレート中に播種し、pGL−GSTA2.41bp−AREコンストラクトでトランスフェクションした。プラスミドpRL−TKを各トランスフェクションにおいて内部対照として使用した。使用される細胞を50μMのtBHQで処理し、材料および方法中で詳しく述べられるように、ルシフェラーゼレポーター活性を決定した。対照実験のために、同一体積のDMSOを培地へ加えた。DMSOで処理したHepG2細胞の相対的なルシフェラーゼ活性の値を1に設定した。これは3つの独立した実験の結果を表わす。各実験における各処理には少なくとも3つの重複測定がある。
【0154】
【表2】
【0155】
表3:AREc32細胞におけるルシフェラーゼ活性の誘導因子
細胞を増殖培地において1.2×104細胞/ウェルで96ウェルプレート中に播種した。24時間の回復後に、培養液を以下に様々な濃度のリストされた化合物を含む抗生物質添加済みの新しいDMEMで置換した。次に細胞を24時間インキュベートし、材料および方法中で詳しく述べられるようなルシフェラーゼ活性についてアッセイした。DMSO(0.1%v/v)で処理した細胞のルシフェラーゼ活性の値を1に設定した。提供された結果は3つの独立した実験からの結果を表わす。各実験における各処理には少なくとも3つの重複測定がある。
【0156】
【表3】
*CD(ルシフェラーゼレポーター活性を2倍にするインダクティング剤(inducting agent)の濃度)。
【0157】
表4:抗癌剤およびそれらの代謝物質によるAREc32細胞の処理の効果
材料および方法中で詳しく述べられるように、処理は24時間であった。対照細胞については、同一体積の0.1%(v/v)の媒質を培地へ加えた。抗癌剤へ暴露した培養とDMSOで処理した培養からのルシフェラーゼ活性との間の差の有意性は、対応のないスチューデントのt検定により評価した。これは3つの独立した実験の結果を表わす。(*)p<0.05。a対照値と比較した増加の平均(倍)±標準偏差として表現されたデータ。
【0158】
【表4】
【0159】
表5:BT09463またはレチノイドによって抗癌剤の細胞毒性効果に対する腫瘍細胞の感受性を高めること
【表5】
【0160】
参考文献
【0161】
【0162】
【0163】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌化学療法剤および/または抗増殖剤と併用して、そのような薬剤の有効性を改良するためおよび/または比較的低い治療活性を有効な化合物に与えるために使用できる化合物を同定するための改良アッセイに関する。また、乾癬などの異常な宿主細胞増殖に関連する癌および他の疾患を治療するための、現行薬剤と新規薬剤との組合せ療法において使用できる、該アッセイによって同定される化合物のクラスを提供する。
【背景技術】
【0002】
序論
NAD(P)H:キノン酸化還元酵素1(NQO1)、アルド−ケト還元酵素(AKR)ミクロソームエポキシド加水分解酵素、UDP−グルクロノシル転移酵素、ならびに還元グルタチオン(GSH)と共に反応するグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)、およびGSHの生合成酵素(グルタミン酸システインリガーゼ(GCL;GCLCおよびGCLMサブユニットを含む)ならびにGSHシンターゼ)などの薬物代謝酵素は、活性酸素種(ROS)だけでなく発癌性親電子性物質からも細胞を保護する(Hayes & Wolf, 1990; Nioi & Hayes, 2004)。この防御は酸化還元ストレッサーに応答してアップレギュレートでき、その結果として細胞が適応し、酸化促進物質および親電子性物質の存在への耐性の獲得を可能にする。その防御は特定の腫瘍においてもまた過剰発現される。これらの遺伝子の誘導は、主としてNrf2(McMahon et al., 2001; Lee et al., 2003)(キャップ・アンド・カラー(cap ’n’ collar)(CNC)塩基性領域ロイシンジッパー(bZIP)タンパク質のファミリーに属する転写因子)によって制御される(Hayes & McMahon, 2001; Motohashi et al., 2002; Kobayashi et al., 2005)。Nrf2は、遺伝子のプロモーター中に抗酸化応答エレメント(ARE、5’−(A/G)TGACNNNGC(A/G)−3’)を含む解毒遺伝子および抗酸化遺伝子の誘導を仲介し(Rushmore et al., 1991; Friling et al., 1992; Nguyen et al., 1994; Wasserman & Fahl, 1997; Sasaki et al.,, 2002; Mulcahy et al., 1997; Erickson et al., 2002; Ikeda et al., 2002; Kepa et al., 2003; Nioi, et al., 2003; Jowsey et al., 2003);AREは文献中で時々親電子性物質応答エレメント(EpRE)とも呼ばれている。細胞が有害な環境要因に抵抗する能力の制御におけるNrf2についての重要な役割は、Nrf2ノックアウトマウス(Itoh et al., 1997)が、高酸素誘導性肺損傷(Cho et al., 2002)たばこ煙誘導性肺気腫に感受性を示すこと、および発癌物質を含む毒性生体異物に対して罹病性が増加することを示した研究によって実証された(Aoki et al., 2001; Chan et al., 1999; Enomoto et al., 2001; Iida et al., 2004; Ramos-Gomez et al., 2001)。
【0003】
Nrf2の活性は、抑制因子(細胞質におけるbZIPタンパク質を連結するケルヒ(Kelch)様ECH関連タンパク質1(Keap1))に結合することによって抑制される(Itoh et al., 1999; Kang et al., 2004)。あるいは、Keap1がカリン(cullin)−3基質アダプターとして作用するので、Keap1はNrf2の分解を促進し、それによってbZIPタンパク質のユビキチン化およびプロテアソーム分解を促進する。(McMahon et al., 2003; Kobayashi et al., 2004; Cullinan et al., 2004; Zhang et al., 2004; Furukawa et al, 2005)。親電子剤および酸化ストレッサーはKeap1を修飾し、Keap1が分解のためにNrf2を標的とすることを防止する(Zhang et al., 2005; Hong et al., 2005)。Keap1のそのような不活性化は、Nrf2が核中で他のbZIPタンパク質と共にヘテロ二量体を形成して蓄積することを可能にし、NQO1、AKR、GST、GCLCおよびGCLMを含む標的遺伝子をトランス活性化する(Hayes & McMahon, 2001; Motohashi et al., 2002; Kobayashi et al., 2005)。Keap1の遺伝学的ノックダウンもまた、ARE遺伝子一連の発現を増加させる(Wakabayashi et al., 2003; Devling et al., 2005)。
【0004】
Nrf2によって調節される多数の遺伝子は薬物耐性と関連づけられてきた。例えば、主としてGCL(GCLCおよびGCLMサブユニットを含む)によって調節される抗酸化GSHは、シスプラチンを含むいくつかの化学療法剤およびアルキル化剤メルファランに対する腫瘍細胞の耐性に関わる(Tew, 1994; McLellan & Wolf, 1999; Townsend et al., 2003; Townsend & Tew, 2003; Waxman, 1990)。時々、高レベルのGCLCは薬物耐性と関連づけられてきた(Mulcahy et al., 1995; Ogretmen et al., 1998; Yao et al., 1995)。同様に、様々な親電子性化合物とGSHのコンジュゲーションを触媒するGSTイソ酵素の過剰発現(Hayes & Pulford, 1995)が、多数の腫瘍タイプにおいて報告され(Hayes & Wolf, 1990; Tew, 1994)、これらの酵素は化学療法剤への耐性の発達に関係していた(Tew, 1994; Townsend et al., 2003)。NQO1活性の増加もまた特定のヒト肺腫瘍において示されている(Kepa et al., 2003; Schlager et al., 1990; Malkinson et al., 1992; Smitskamp-Wilms et al., 1995)。さらに、高レベルのマンガンスーパーオキシドジスムターゼ(MnSOD)(Wong et al., 1995; Kizaki et al., 1993)は、化学療法剤の毒性効果から癌細胞を保護することが示された。
【0005】
薬物代謝酵素は抗癌剤に対する腫瘍細胞の感受性の決定に主要な貢献をするので、かかる遺伝子がどのように調節されるのか、およびそれらの調節の変化が癌治療法の改良をもたらすことができるのかを理解することは重要である。
【0006】
WO2006/128041は、Nrf2の発現レベルを減少させて抗癌剤に対するNSCLC細胞の感受性を高めるために、Nrf2に対するRNAi分子の使用を教示する。しかしながら、RNAi技術を使用するタンパク質の発現の減少は効率的な送達の問題から影響を受けうる。
【0007】
WO01/57189は、Fas誘導性プログラム細胞死を増加させるために、Nrf2に対するアンチセンスRNAiおよびNrf2のドミナントネガティブ変異体の使用を教示する。ディルマロール(dirumarol)およびスルフィンピラゾンもまた、Fas誘導性死滅に対するNrf2によって付与された防御をアンタゴナイズすることが示される。しかしながら、これらの分子の実際の標的は同定されてない。
【0008】
本発明は、他の化学薬剤に対する細胞の感受性を高めることに使用するための、ARE駆動性遺伝子発現の誘導を減少できる薬剤の同定を可能にするアッセイを提供することを目的とする。
【0009】
本発明は、癌および乾癬などの異常な細胞増殖に関連する疾患の治療法を改良する手段としてARE駆動性遺伝子発現の誘導を減少させる薬剤を提供することをさらなる目的とする。
【0010】
本発明は、ラットGSTA2(Rushmore et al., 1991)およびマウスgsta1(Friling et al., 1992)の両方(後者の遺伝子ではエレメントはもともとEpREと呼ばれた)において見出された最小のシスエレメントの複数の連結したコピーを含む、感受性があり安定したAREレポーター細胞株の作製に部分的に基づく。以前にZhu & Fahl (2000)により、安定したARE緑色蛍光タンパク質(GFP)レポーターHepG2細胞株が作製された。彼らが用いたレポーターコンストラクトは、GFPを駆動するチミジンキナーゼプロモーターにライゲーションしたマウスgsta1からの41−bpのARE含有プロモーター配列の4つの連結したコピーを含んでいた。しかしながら、90μMのtertブチルヒドロキノン(tBHQ)による、安定したHepG2/GFP−Bレポーター細胞株の処理は、3倍だけの最大増加(特に高くない誘導レベル)をもたらした(Zhu & Fahl, 2000)。最も重要なことには、HepG2/GFP−B細胞株は、ARE駆動性遺伝子発現を阻害して治療法を改良できるアンタゴニストを同定するよりもむしろ、アゴニスト(すなわち化学予防的誘導剤)を同定するために使用された。さらに、tBHQに応答してHepG2/GFPB細胞株において観察される誘導が比較的低レベルであることは、細胞株がアンタゴニストの同定においてほとんど役に立たないことを示唆する。
【発明の概要】
【0011】
毒性薬物および抗増殖性薬物の効果に対して細胞の感受性を高めることができる化合物をスクリーニングする方法およびその産物が提供される。そのような化合物は、それら自体が細胞死/アポトーシスの誘導に影響するか、または例えば薬剤解毒、薬剤隔離、細胞からの薬剤除去もしくは単に薬剤作用に対する内在的耐性に起因して効果がなくなってしまうこともある他の薬剤による効果的な治療の提供をもたらすことができる。本方法は、ARE応答エレメントおよびプロモーターの転写調節下のレポーター遺伝子を備えたARE応答エレメントを含む遺伝子コンストラクトを安定的に導入したARE応答性細胞に対して、適切な培地中の化合物を加えることを含む。
【0012】
第1の態様では、治療法で使用される医薬品の製造のためのNrf2活性をダウンレギュレートできる薬剤が提供される。
【0013】
薬剤は、好ましくは、Nrf2による遺伝子発現のトランス活性化、および特にプロモーター中に抗酸化応答エレメント(ARE)を含む遺伝子のトランス活性化をダウンレギュレートする。
【0014】
薬剤は、癌および乾癬などの異常な細胞増殖に関連する疾患の治療において適用を見出すことができる。
【0015】
本発明者は、Nrf2のトランス活性化活性のダウンレギュレーションによって、細胞死をもたらすように細胞の感受性を高めることが可能であることを確認した。例えば、いくつかの細胞毒性剤の効果は、Nrf2がAREを有する遺伝子をトランス活性化する能力によって減少させられる。Nrf2活性のダウンレギュレートによって、治療の期間がより短いおよび/または必要とされる細胞毒性薬がより少ないという可能な利点で、そのような細胞毒性薬の有効性は増加できる。
【0016】
いくつかの先行技術の教示とは異なり、本発明はNrf2活性の低分子化学物質アンタゴニストに関する。アンタゴニストは、一般にNrf2の発現またはmRNAのレベルには効果がないが、むしろNrf2の活性自体に効果がある。これは、RNAiまたはアンチセンス技術の使用によるようなNrf2発現の減少をデザインした遺伝学的技術とはかなり異なる。したがって本発明は、Nrf2の核酸ベースの阻害剤の使用に関する。
【0017】
本発明の薬剤は、典型的には約1000〜2000Mnより少ない(750mWより少ないなどの)分子量を有する。
【0018】
本発明者は、低分子のスクリーニングを実行し、他の化学薬剤に加えてレチノイン酸およびその特定の誘導体もまたARE駆動性遺伝子発現の誘導を低下させることができる強力な薬剤であることを観察した。
【0019】
したがって、さらなる態様において、異常な細胞増殖に関連する疾患の治療に使用される医薬品の製造のためのレチノイドであり、ARE駆動性遺伝子発現のダウンレギュレートを経由して宿主において異常に増殖する細胞の感受性を高めるレチノイドの使用が提供される。
【0020】
典型的には、レチノイドは、Nrf2による遺伝子発現のトランス活性化をダウンレギュレートする。
【0021】
レチノイドとは、様々な立体異性体のレチノイン酸を意味し、これにはオールトランスレチノイン酸、9−シスレチノイン酸および13−シスレチノイン酸、並びにアシトレーション(acitration)レチナールおよびレチノール、更に酢酸塩などの塩を含む。本発明において適切である多数の可能性のあるレチノイドを表す一般的な構造は、以下に示される:
【化1】
【化2】
【0022】
市販で入手可能な化学的ライブラリー(メイブリッジ・ケミカル(Maybridge Chemical)社)のスクリーニングにおいて、ARE駆動性遺伝子発現のダウンレギュレートに対して有意な活性を有するものとして、さらなる化合物が同定された。したがって、本発明は、異常な細胞増殖に関連する疾患の治療で使用される医薬品の製造のための式(I)に記載の化合物の使用にも及び、式(I)の化合物はARE駆動性遺伝子の発現をダウンレギュレートすることにより、宿主において異常に増殖する細胞の感受性を高める。
【化3】
式中、XはC、O、NまたはSであり;R1は、C1−C4アルキル、C1−C4(OH)、COOH、C(=CH2)CH3、C(=O)CH3、CH(CH3)2、C(CH3)3であり;およびR2は、各々の存在可能な位置で、H、ハロ、C1−C4アルキル、OHまたはNH2から独立して選択される。
【0023】
好ましくは、XはOである。好ましくは、R1はC(=O)CH3である。好ましくは、R2はハロおよびh、より好ましくは位置3および4でハロ、特に塩素である。
【0024】
特に好ましい化合物は、XはOであり、R1はC(=))CH3であり、R2は位置2、5および6でH、および位置3および4でC1である。
【0025】
さらなる態様において、Nrf2活性をダウンレギュレートできる薬剤(レチノイドおよび化学療法剤)を活性成分として含むか、またはそれらから本質的にはなる医薬組成物が提供される。
【0026】
レチノイドは、ARE駆動性発現をダウンレギュレートする役目をし、その結果として、アポトーシス、またはアルキル化剤もしくは酸化還元サイクル化合物などの他の薬剤による治療に対する細胞の感受性を高め、それによって例えば癌を治療する場合の化学療法剤の有効性を改良することが理解される。したがって、治療は他の薬剤との組合せにおけるレチノイドの使用によってより有効になりえるか、および/または被験体に対して投与される他の薬剤のより少なくすることを可能にする。
【0027】
癌の治療のための適切な化学療法剤は、アルキル化剤シスプラチン、メルファラン、クロラムブチル、ミトロザントロン(mitrozantrone)およびBCNU;ならびにエトプシド(etopside)などの酸化還元サイクル剤を含んでいる。感受性を高める薬剤との組合せにおいて使用される他の薬剤は上文に記述されている。
【0028】
酸化還元反応制御剤は化学療法剤の有効性を改良することもできるので、医薬組成物は細胞の酸化還元状態を制御するBSOなどの酸化還元制御剤をさらに含むことができる。
【0029】
本発明に記載の使用のために、本明細書において記載される化合物または生理学的に許容される塩、エステルまたは他の生理学的に機能性のあるその誘導体は、したがって、1つまたは複数の薬学的に許容される担体、ならびに任意で他の治療的および/または予防的な成分と共に、化合物または生理学的に許容される塩、エステルまたは他の生理学的に機能性のあるその誘導体を含む医薬製剤として提供できる。1つまたは複数の担体は、製剤の他の成分と適合しそのレシピエントに対して有害でないという意味で許容できるものでなくてはならない。
【0030】
医薬製剤は、経口投与、局所投与(経皮投与、口腔投与および舌下投与を含む)、直腸投与または非経口投与(皮下投与、皮内投与、筋肉内投与および静脈内投与を含む)、鼻腔投与および経肺投与(例えば吸入による)のために適切なものを含む。製剤は、適切な場合、個別の投与量単位において都合よく提供され、製薬の当技術分野で周知の方法のいずれかによっても調製できる。すべての方法は、液体担体もしくは微粉固体担体または両方と活性化合物を組合わせ、次に必要なならば産物を所望される製剤へと形成する工程を含む。
【0031】
担体が固体である経口投与のために適切な医薬製剤は、最も好ましくは、各々が所定の量の活性化合物を含むボーラス、カプセルまたは錠剤などの単位用量製剤として提供される。錠剤は圧縮または成型によって任意で1つまたは複数の副成分と共に作製されてもよい。圧縮錠剤は、結合剤、潤滑剤、不活性希釈剤、平滑剤、界面活性剤または分散剤と任意で混合される粉末または顆粒などの流動性のある形態で適切な機械において活性化合物を圧縮することによって調製できる。成型錠剤は不活性液体希釈剤と活性化合物の成型によって作製できる。錠剤は任意で被覆され、被覆されないならば任意で刻み目を付けることができる。カプセルは、活性化合物をカプセル殻の中に満たすことによって、単独または1つまたは複数の副成分との混合において調製でき、次に通常の様式でそれらを密封できる。カシェ剤は、1つまたは複数の任意の副成分と共に活性化合物がライスペーパーエンベロープ中に密封されるカプセルに類似する。活性化合物も分散可能な顆粒として製剤化でき、それは例えば投与前に水中に懸濁できるか、または食品にふりかけることができる。顆粒は、例えば小袋中にパッケージ化できる。担体が液体である経口投与のために適切な製剤は、溶液または水性もしくは非水性の液体における懸濁物、または水中油滴型液体エマルジョンとして提供できる。
【0032】
経口投与のための製剤は、制御放出剤形(例えば活性化合物が適切な放出を制御するマトリックス中に製剤化されるか、または適切な放出を制御するフィルムにより被覆される錠剤)を含む。そのような製剤は予防的な使用のために特に好都合かもしれない。
【0033】
担体が固体である直腸投与のために適切な医薬製剤は、最も好ましくは、単位用量坐剤として提供される。適切な担体は、カカオバター、および当技術分野において一般に使用される他の材料を含む。坐剤は、軟化または融解された担体との活性化合物の混合、続いて冷却および鋳型中での形成によって都合よく形成できる。
【0034】
非経口投与のために適切な医薬製剤は、水性または油性の媒質中の活性化合物の滅菌済み溶液または懸濁物を含む。
【0035】
注射可能な調製物は、ボーラス注射または継続的な点滴に適合できる。そのような調製物は、使用のために必要とされるまで、製剤の導入後に密封される単位用量またはマルチ用量容器中で都合よく提供される。あるいは、活性化合物は、使用前に滅菌済みの発熱物質不含有水などの適切な媒質により構成される粉末形態でありうる。
【0036】
活性化合物は長時間作用性デポー調製物としても製剤化でき、それは筋肉注射によって、または移植によって、例えば皮下または筋肉内に投与できる。デポー調製物は、例えば適切なポリマー材料または疎水性材料、またはイオン交換樹脂を含むことができる。そのような長時間作用性製剤は、予防的な使用のために特に好都合である。
【0037】
口腔を介する肺内投与のために適切な製剤は、活性化合物を含み、望ましくは0.5〜7ミクロンの範囲内の直径を有する粒子が、レシピエントの気管支樹中に送達されるように提供される。
【0038】
1つの可能性として、そのような製剤は、微細に粉砕された粉末の形態であり、それは例えばゼラチンの適切な貫通可能なカプセル中に、吸入装置における使用のために、またはあるいは活性化合物、適切な液体またはガスの噴霧剤、ならびに任意で界面活性剤および/または固体希釈剤などの他の成分を含む自動推進製剤としてのいずれかで都合よく提供できる。適切な液体噴霧剤はプロパンおよびクロロフルオロカーボンを含み、適切なガス噴霧剤は二酸化炭素を含む。活性化合物が溶液または懸濁物の液滴の形態で分注される自動推進製剤もまた用いることができる。
【0039】
そのような自動推進の製剤は当技術分野で公知のものに類似しており、確立された手順によって調製できる。適切には、それらは、所望されるスプレー特性を有するマニュアル作動可能弁または自動機能弁のいずれかと共に提供される容器中で提供され;有利には、弁は、その各々の操作に際して、固定体積(例えば25〜100マイクロリットル)を送達する従量型である。
【0040】
さらなる可能性として、活性化合物は霧吹き器または噴霧器中で使用される溶液または懸濁物の形態でありえ、それによって加速された気流または超音波の撹拌は吸入のための微細な液滴霧を生ずるために用いられる。
【0041】
鼻腔投与のために適切な製剤は、肺内投与のために上述されたものに一般に類似する調製物を含む。分注されたとき、鼻腔における保持を可能にするために、そのような製剤は望ましくは10〜200ミクロン範囲内の粒子直径を有するべきであり;これは必要に応じて適切な粒子サイズの粉末の使用または適切な弁の選択によって達成されてもよい。他の適切な製剤は、鼻近くまで保持された容器からの鼻通路を通した迅速な吸入による投与のための、20〜500ミクロンの範囲内の粒子直径を有する粗粉、および水性もしくは油性の溶液、または懸濁物中に0.2〜5%w/vの活性化合物を含む点鼻液を含む。
【0042】
前述の担体成分に加えて、上述された医薬製剤は、希釈剤、緩衝剤、着香剤、結合剤、界面活性剤、増粘剤、潤滑剤、防腐剤(抗酸化剤を含む)および同種のもの、ならびに予定されたレシピエントの血液と製剤を等張にする目的のために含まれる物質などの適切な1つまたは複数の付加的な担体成分を含むことができることが理解されているべきである。
【0043】
薬学的に許容される担体は当業者に周知であり、0.1M、好ましくは0.05Mリン酸緩衝液または0.8%生理食塩水を含むがこれらに限定されない。加えて、そのような薬学的に許容される担体は、水性または非水性の溶液、懸濁物およびエマルジョンでありえる。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルなどの植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射可能な有機酸エステルである。水性担体は、水、アルコール性/水性の溶液、エマルジョンまたは生理食塩水および緩衝培地を含む懸濁物を含んでいる。非経口媒質は、塩化ナトリウム溶液、リンゲルのデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸リンゲルまたは固定油を含んでいる。防腐剤および他の添加剤には、例えば抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、不活性ガスおよび同種のものなどもまた存在できる。
【0044】
局所製剤のために適切な製剤は、例えばゲル、クリームまたは軟膏として提供できる。そのような調製物は、例えば創傷もしくは潰瘍の表面上に直接塗るか、または治療領域へおよびその上に適用できる包帯、ガーゼ、メッシュもしくは同種のものなどの適切な支持体上に保つかのいずれかで、創傷または潰瘍に適用できる。
【0045】
治療される部位(例えば創傷または潰瘍)上に直接スプレーできるか、またはふりかけることができる液体または粉末の製剤もまた提供できる。あるいは、包帯、ガーゼ、メッシュまたは同種のものなどのキャリアーは、製剤をスプレーできるか、またはふりかけることができ、次に治療部位へ適用できる。
【0046】
さらなる態様において、Nrf2による遺伝子発現のトランス活性化をダウンレギュレートできる薬剤の有効量を被験体へ投与する工程を含む、異常な細胞増殖に関連する疾患に罹患する患者を治療する方法が提供される。
【0047】
さらなる態様において、ARE駆動性遺伝子の発現を減少させることができる量のレチノイドまたは式Iに記載の化合物と薬剤を被験体へ投与する工程を含み、レチノイドまたは式Iに記載の化合物と薬剤が組合せで細胞死誘導などによって細胞増殖を改善する役目をする、異常な細胞増殖に関連する疾患に罹患する患者を治療する方法が提供される。
【0048】
レチノイドまたは式Iに記載の化合物と他の薬剤は、同時にまたは別々に投与されてもよいことが理解されている。もし別々に投与される場合には、レチノイドまたは式Iに記載の化合物は他の薬剤の前に投与されることが一般的である。
【0049】
さらなる態様において、細胞の感受性を高めることに使用される、ARE駆動性遺伝子発現の誘導をダウンレギュレートする薬剤についてスクリーニングする方法であって、
a)抗酸化応答を行なうことができる細胞であり、複数の連結したARE配列の下流に位置するレポーター遺伝子を含むAREレポーター遺伝子コンストラクトを含む細胞、をインビトロで提供する工程と;
b)該細胞とスクリーニングされる被検薬剤を接触させる工程と;
c)該薬剤が、被検薬剤が加えられていない細胞に比較して、レポーター遺伝子の誘導を低下できるか、または発現を低下できるかどうかを検出する工程と、を含むスクリーニング方法が提供される。
【0050】
本スクリーニングは、細胞の感受性を高めることができ、癌および乾癬などの異常な細胞増殖に関連する疾患の治療に役に立つ薬剤の同定における適用を見出す。
【0051】
細胞の感受性を高めることそれ自体は、細胞が酸化還元バランスの変化に起因するアポトーシスへの自発的感受性を増加できるので、治療効果を有することができるが、感受性を高めることは、しばしば他の薬剤が望ましくなく増殖する細胞を治療する能力をもたらすか、またはその能力を高めるだろう。そのような薬剤は、感受性を高めることがそれらの作用の効率を改良または促進することが意図される場合には、例えば癌を治療するために慣習的に使用される化学療法剤を含むことができる。
【0052】
しかしながら、Nrf2経路に対するそのような感受性を高める薬剤の効果を考慮すれば、一旦増殖細胞が感受性を高められたならば、他の薬剤も異常な細胞増殖に関連する疾患の治療において有用でありうる。例えば、Nrf2のアンタゴナイズ作用の後に治療上効果的になりうる薬剤は、通常はNrf2によって調節される酵素によって解毒される化合物を含み;酸化ストレスを誘導する化合物、MRP2(または関連する排出ポンプ)を介して細胞の中へ/から外へ輸送される、シスプラチン、クロラムブチル、シクロホスファミド、ドキソルビシン、メトトレキサートおよびビンクリスチンなどの化合物(Wawabe et al., 1999; Smitherman et al., 2004; Vlaming et al., 2006)がこのカテゴリーへと分類されることが意図される。本発明は、さらにNrf2依存性遺伝子を介して通常は解毒される新規抗腫瘍剤が開発されることを可能にする。この場合において新規薬剤はNrf2アンタゴニストと共に適用されるか、または抗癌特性に加えてNrf2阻害活性の両方を持つ二機能性の分子を合成することができるかもしれない。
【0053】
便利には、使用されるARE配列は、ラットGSTA2(5’−GTG ACA AAG CA−3’)および/またはマウスgsta1遺伝子中の配列からである。
【0054】
任意の哺乳類細胞が適切であるが、望ましくは細胞は腫瘍細胞であり、抗酸化応答を行なうことができる。適切な細胞は、MCF7、HepG2、CHOおよびHepa1およびHaCaTを含み、感受性の理由のためにMCF7が好まれる。
【0055】
細胞と被検薬剤の接触は、細胞を増殖させる培養液へ被検薬剤を加えることなどの任意の適切な手段によって行なうことができる。
【0056】
レポーター遺伝子の誘導は、ARE駆動性レポーター遺伝子の発現をダウンレギュレートするか、または低下させることができる薬剤をより容易に同定するために、または細胞株において寄与する活性が本質的に低い場合に、tBHQ、スルフォラファン、マレイン酸ジエチルまたはβ−ナフトフラボンなどの活性化剤の追加によって促進されてもよい。活性化剤は、一般に、被検薬剤の前に細胞へ加えられる。
【0057】
アンチセンスまたはRNAi;技術を使用して、Keap1の発現をダウンレギュレートすることによってNrf2を活性化することも可能かもしれない。次に活性化されたNrf2は、レポーター遺伝子発現の誘導を引き起こすARE配列に作用するだろう。Bach1、Bach2、cFosおよび小Mafなどの負に作用する競合する転写因子の発現のダウンレギュレートによって、Nrf2の活性を増加させることは同様に可能かもしれない。
【0058】
被検薬剤が有するARE駆動性レポーター遺伝子の誘導に対する効果の検出は、用いられているレポーター遺伝子に依存するが、適切な技術は当業者に周知である。典型的なレポーター遺伝子は、GFPおよび関連する蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼならびに同種のものを含む。レポーター遺伝子の産物を検出する任意のアッセイは、レポーター遺伝子によりコードされたタンパク質を直接検出することによって、またはレポーター遺伝子にコードされた酵素の酵素産物の検出によってのいずれかで、本発明における使用のために適切である。アッセイは比色アッセイ、蛍光アッセイもしくは発光アッセイ、またはさらにタンパク質タグの場合においては、放射免疫アッセイもしくは他の免疫学的アッセイを含んでいる。これらのアッセイの多くは市販で入手可能である。
【0059】
典型的には、比較または対照の実験はレポーター活性のレベルまたは程度を確認するために被検薬剤の不在下で使用され、そのため被検薬剤の効果は容易に検出できる。観察されるシグナルレベルに対する候補化合物の効果を基礎レベルと比較して測定することにより、癌の治療で使用される感受性を高める薬剤としての化合物の可能性を評価できる。
【0060】
便利には、本方法はマルチウェル形式で実行され、多くのそのような検定方法が、任意で自動手段または半自動手段を使用して、複数の化合物について同時に実行されることを可能にするために、例えば24、48、96ウェルプレートを使用できる。
【0061】
さらなる態様において、ARE駆動性遺伝子発現に対する効果についてのスクリーニング薬剤で使用される細胞が提供される。そこでは細胞は、ラットGSTA2遺伝子およびマウスgsta1遺伝子からのARE配列の複数の連結したコピーの下流にレポーター遺伝子を含むAREレポーターコンストラクトを含むヒト乳腺MCF7細胞である。
【0062】
好ましくは、レポーター遺伝子は、ホタルまたはウミシイタケ属(Renilla)のルシフェラーゼ遺伝子などのルシフェラーゼ遺伝子である。レポーター遺伝子はさらに、レポーター遺伝子のすぐ上流であるが、ARE配列の下流である最小プロモーターの制御下であってもよい。典型的な最小プロモーターはSV40プロモーターおよびチミジンキナーゼプロモーターを含んでおり、ARE配列は、プロモーター配列にじかに隣接できるか、またはそれから最大10kbの間隔で配置できる。
【0063】
複数の連結したARE配列は、レポーター遺伝子の上流に、連続して頭−尾で位置する。便利には、コピー数は4、5、6、7もしくは8、またはさらに多く、その各々は、5’−CCC−3’などの短いリンカー配列で分離される(リンカーのサイズは重要ではない)。好ましくは、コピー数は6〜8以上である。好ましい配列は、特に6つおよび8つのコピーについて表1において示される。
【0064】
コンストラクトは従来の方法(好都合な制限部位を用いることによってプラスミドの中へコンストラクトの構成要素の各々を導入すること、制限部位の提供を含む末端で特異的配列を導入するPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)、および同種のもの)に従って調製できる。
【0065】
レポーターコンストラクトは、調製された後に任意の適切な手段で細胞の中へ導入できる。細胞または細胞株の中へARE駆動性レポーターコンストラクトを導入する方法は、トランスフェクション、カチオン性化合物と共に複合体を形成すること、リポフェクション、エレクトロポレーションおよび同種のものを含む。細胞を増殖させ、次にレポーターコンストラクトの連続的な存在についてスクリーニングする。抗生物質耐性遺伝子がレポーターコンストラクトと共に導入された場合には、細胞を抗生物質耐性について選択し、次に抗生物質耐性細胞を適切な条件下の発光についてスクリーニングする。抗生物質耐性の非存在下では、細胞を発光について直接スクリーニングできる。便利には、発光のためのアッセイは従来の試薬を使用して溶解物で実行される。
【0066】
レポーター遺伝子がルシフェラーゼであるならば、従来の市販キットに従って発光を測定できる。細胞は、照度計に適合させることができるマルチウェルプレート中に播種できる。既知数の細胞を適切な培地(候補化合物を加えた)の各ウェルの1つの中へ導入し、培養は少なくとも12時間、より通常には少なくとも約24時間、および約60時間以下、特に約48時間維持される。候補化合物と併用して、誘導化合物(例えばtBHQ、スルフォラファン、マレイン酸ジエチルまたはβ−ナフトフラボン)もまた加えることができる。次に培養を、非イオン性界面活性剤(例えば1%トリトンX−100)を使用して、適切な緩衝液中で溶解する。次に細胞を速やかにアッセイする。誘導剤の濃度は薬剤の性質に依存して変化するだろうが、発現を誘導するのに十分である。tBHQの濃度は、一般に例えば約1〜100μMの範囲内、好ましくは約50μMであるだろう。
【0067】
発光レベルの検出のために他の技術を使用できる。発光を測定する特定の様式は、本発明に重要ではない。
【0068】
被検薬剤のタイプは低分子化学物質およびペプチド分子を含む。
【0069】
本発明は、本発明に関連するデータを示す、以下に提供される図1〜13に関してここでさらに記述される。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】ARE駆動性レポータープラスミド地図を示した図である。イラストはpGL−8×AREベクターを示す。ラットGSTA2遺伝子およびマウスgsta1遺伝子のプロモーターからの単一のAREは、下線で示された「コア」配列によりプラスミドの上方に提供される。レポータープラスミドが5’−GTGACAAAGCA−3’配列の8つのタンデム配置されたコピーを含み、各々が5’−CCC−3’リンカーにより連結される(表1において示されるように)ことに注目。リンカーのサイズは変更できる。
【図2】AREコピー数とMCF7細胞におけるtBHQによるレポーター遺伝子活性誘導との間の相関性を示した図である。(A)DMSOまたは10μMのtBHQを含む抗生物質添加DMEM中で、MCF7細胞を24時間培養した。その後細胞を採取した。全細胞の抽出物(Cru)の一部(60μgのタンパク質)および核抽出物(Nuclear)の一部(20μgのタンパク質)を7%SDS−PAGEにかけ、Nrf2タンパク質の発現をウェスタンブロッティングで測定した。スタンダード、1ngの組換えhis−mNrf2。示されたブロットは、少なくとも3つの独立した実験からの結果を表わす。(B)MCF7細胞を24ウェルプレート中に2×105細胞/ウェルで播種し、pGL3−n×AREコンストラクトをトランスフェクションし、50μMのtBHQにより処理した。ルシフェラーゼレポーター活性を18時間後に測定した。データは、3つの独立した実験の結果を表わす。各実験における各処理には少なくとも3つの重複測定がある。
【図3】AREc32細胞におけるルシフェラーゼレポーター活性はNrf2によって仲介されることを示した図である。(A)AREc32細胞におけるNrf2の過剰発現は、基底ルシフェラーゼレポーター活性および誘導性ルシフェラーゼレポーター活性の両方を増加させた。AREc32細胞は1.5×104細胞/ウェルで96ウェルプレート中に播種して、25、50または100ng/ウェルのいずれかのpHyg−EF−hNrf2でトランスフェクションした。同量のpEGFP−N1を陰性対照としてトランスフェクションした。トランスフェクション後に(24時間)、細胞をDMSO単独または10μMのtBHQ(DMSO中)のいずれかで処理した。ルシフェラーゼ活性をアッセイした。対照、DNAなしでトランスフェクション試薬のみ細胞に加え、24時間DMSOで処理した。(B)AREc32細胞株におけるRNAiベクターによるNrf2のノックダウン。AREc32細胞を、増殖培地において8×106細胞/ディッシュで100mmディッシュ中に播種した。24時間後に、細胞は1枚のプレートあたり24μgのpRS−hNrf2またはpRS−GFPでトランスフェクションした。さらに24時間が経過した後全RNAを細胞から抽出し、Nrf2およびGAPDHのmRNAのレベルをタックマン(TaqMan)RT−PCRによって測定した。18S rRNAレベルは内部スタンダードとして使用した。モックトランスフェクションした細胞(対照)からのmRNAのレベルを100%に設定した。(C)AREc32細胞におけるNrf2発現の抑制は、基底ルシフェラーゼレポーター活性および誘導性ルシフェラーゼレポーター活性を減少させる。パネル(B)において示される実験に並列の実験において、AREc32細胞を1.5×104細胞/ウェルで96ウェルプレート中に播種し、25、50および100ng/ウェルのpRS−hNrf2でトランスフェクションした。同量のpRS−GFPを陰性対照としてトランスフェクションした。トランスフェクションの24時間後に、細胞をDMSOまたは10μMのtBHQで処理した。ルシフェラーゼ活性をアッセイした。対照、DNAなしでトランスフェクション試薬のみ細胞に加え、24時間DMSOで処理した。ヒストグラフは三重サンプルからの平均±標準偏差としてルシフェラーゼ活性を示す。各実験における各処理には少なくとも3つの重複測定がある。pRS−hNrf2またはpEGF−Nrf2と対照によりトランスフェクションされた培養からのルシフェラーゼ活性の間の差の有意性は、対応のないスチューデントのt検定によって評価された。(*)p<0.05;(**)p<0.005。
【図4】MCF7細胞における、時間依存的および用量依存的様式でのARE駆動性レポーター遺伝子活性のtBHQによる誘導を示した図である。細胞を、増殖培地において1.2×104細胞/ウェルで96ウェルプレート中に播種した。24時間の回復後に、培養液を1〜20μMのtBHQを含む抗生物質添加済みの新しいDMEMで置換した。次に細胞を4〜24時間の間でインキュベートし、ルシフェラーゼ活性についてアッセイした。DMSO(0.1%v/v)で処理した細胞のルシフェラーゼ活性の値を1に設定した。パネル(A)はtBHQの様々な濃度によるAREc32細胞の24時間の処理後のルシフェラーゼ誘導の用量応答を示す。パネル(B)は10μMのtBHQによるAREc32細胞の処理後のルシフェラーゼ誘導の時間経過を示す。示されたデータは、3つの独立した実験の結果を表わす。各実験における各処理には少なくとも3つの重複測定がある。
【図5】抗癌剤によるAREc32細胞におけるレポーター遺伝子活性およびAKR1Cの誘導が酸化還元依存性であることを示した図である。(A)BSOは、AREc32細胞におけるルシフェラーゼ活性の抗癌剤による誘導を促進した。AREc32細胞を0.4×104細胞/ウェルで96ウェルプレート中に播種した。24時間の回復後に、培養液を50μMのBSOを含む増殖培地で置換し;BSOで前処理されない細胞に等容積のPBSを加えた。さらに24時間後に(その時間の間にBSOはGSHを枯渇できた)、培養液を、DMSO(対照)または10μMシスプラチン、または20μMメルファラン、または100μM BCNU、または100μMクロラムブチルのいずれかを含み、すべて5mMのNACありまたはなしの、抗生物質添加済みの新しいDMEMで置換し、24時間インキュベートした。細胞はルシフェラーゼ活性についてアッセイされた。DMSOで処理された対照細胞の値を1に設定した。レポーター遺伝子活性データは三重サンプルからの平均±標準偏差を示す。NACと共に抗癌剤へ暴露された培養と抗癌剤単独で処理された培養からのルシフェラーゼ活性の間の差の有意性は、対応のないスチューデントのt検定によって評価された。これは3つの独立した実験の結果を表わす。(*)p<0.05;(**)p<0.005。(B)AKR1C mRNAは酸化還元依存的様式で抗癌剤によって誘導された。AREc32細胞を、増殖培地において2×106細胞/ディッシュで100mmディッシュ中に播種した。24時間の回復後に、培養液を50μMのBSOを含む増殖培地で置換した。24時間後に、培養液を、DMSO、10μM tBHQ、20μMメルファラン、10μMシスプラチン、100μMのBCNU、または100μMクロラムブチルのいずれかを含む抗生物質添加済みの新しいDMEMで置換し、細胞を採取する前にさらに24時間インキュベートした。AKR1C mRNAの発現をタックマン分析によって測定した。DMSO(対照)で処理された細胞のAKR1CのmRNAのレベルを1に設定した。抗癌剤へ暴露された培養からのAKR1C mRNAのレベルとDMSOへ暴露された培養からのAKR1C mRNAのレベルの間の差の有意性は、対応のないスチューデントのt検定によって評価された。データは、2つの独立した実験の平均を表わし、各実験における各処理には3つの重複測定がある。(*)p<0.05;(**)p<0.005。(C)パネル(B)中に示された実験に並列の実験において、全細胞の溶解物からの30μgのタンパク質をSDS−PAGEを使用して分離した。AKR1Cの発現を、ウェスタンブロッティングによってAKR1Cに対して特異的抗体で測定した。示されたブロットは、3つの独立した実験からの結果を表わす。
【図6】オールトランスレチノイン酸がARE駆動性ルシフェラーゼ活性の誘導を抑制することを示した図である。AREc32細胞を、増殖培地において1.2×104細胞/ウェルで96ウェルプレート中に播種した。24時間の回復後に、培養液を、10μM tBHQ、10μM SUL、10μMアクロレインまたは10μMβ−ナフトフラボン(NF)を含む抗生物質添加済み新しいDMEMで置換し、1μMオールトランスレチノイン酸(ATRA)を誘導剤と共に培地へ併用して加えた。細胞を採取する24時間前に、細胞をATRAありおよびATRAなしで様々な誘導剤と共にインキュベートし、ルシフェラーゼ活性を測定した。DMSO(0.1%v/v)で処理された細胞のルシフェラーゼ活性の値を任意に1に設定し、提供されたデータは三重サンプルからの平均±標準偏差を示す。ATRAが存在して誘導因子へ暴露された培養とATRAの存在なしで誘導因子へ暴露された培養からのルシフェラーゼ活性の間の差の有意性は、対応のないスチューデントのt検定によって評価された。これは3つの独立した実験の結果を表わす。(*)p<0.05、(**)p<0.005;
【図7】AREc32細胞におけるtBHQによるAREレポーター活性の誘導に対するATRAによる濃度依存的および時間依存的阻害を示した図である。(A)誘導可能なARE駆動性遺伝子発現のレチノイン酸による阻害の用量応答を測定するために、AREc32細胞を増殖培地において1.2×104細胞/ウェルで96ウェルプレート中に播種した。24時間の回復後に、培養液を、ATRA、9−シスRAまたは13−シスRAのいずれかの様々な濃度(10-9M〜10-6M)と共に10μMのtBHQを含む抗生物質添加済みの新しいDMEMで置換した。その後細胞を採取する前にさらに24時間インキュベートし、ルシフェラーゼ活性を測定した。10μMのtBHQ単独、レチノイン酸なし(対照)により処理された細胞のルシフェラーゼ活性の値を100%に設定した。(B)誘導可能なARE駆動性遺伝子発現のオールトランスレチノイン酸(ATRA)による阻害の時間経過を立証するために、AREc32細胞を増殖培地において1.2×104細胞/ウェルで96ウェルプレート中に播種した。24時間の回復後に、培養液を、10μMのtBHQ、または1μMのATRA、または10μMのtBHQにプラスして1μMのATRAを含む抗生物質添加済みの新しいDMEMで置換し、さらに4〜24時間インキュベートした。各タイムポイントでDMSO(0.1%v/v)(対照)により処理された細胞のルシフェラーゼ活性の値を任意に1に設定した。示されたデータは3つの独立した実験の結果を表わす。各実験における各処理には少なくとも3つの重複測定がある。
【図8】tBHQによる内在性AKR1Cの誘導がAREc32細胞においてATRAにより阻害されることを示した図である。AREc32細胞を、増殖培地において2×106細胞/ディッシュで100mmディッシュ中に播種した。24時間の回復後に、培養液を、DMSO、10μM tBHQ、1μM ATRA、または10μM tBHQのいずれかにプラスして1μM ATRAを含む抗生物質添加済みの新しいDMEMで置換し、さらに24時間インキュベートした。(A)24時間の処理後に全RNAを抽出した。AKR1CのmRNAのレベルをタックマン分析により測定した。18S rRNAのレベルを内部スタンダードとして使用した。対照、細胞をDMSOのみで処理した。タックマンデータは三重サンプルからの平均±標準偏差を示し、3つの独立した実験の結果を表わす。異なる処理による培養と対照培養からのmRNAレベルの間の差の有意性は、対応のないスチューデントのt検定によって評価された。(*)p<0.05。(B)全細胞の抽出物を異なる薬剤で処理した細胞から調製した。AKR1Cおよびアクチンの発現をウェスタンブロッティングによって測定した。示されたブロットは3つの独立した実験からの結果を表わす。
【図9】オールトランスレチノイン酸がNrf2(+/+)マウスの小腸において、GST、GCLCおよびNQO1の発現を抑制することを示した図である。「材料および方法II」中で記載されているように、野生型(nrf2+/+)マウスおよびノックアウト(KO、nrf2-/-)マウス(8週令)を、対照飼料またはビタミンA欠損(VAD)飼料で6週間飼育した。野生型マウスおよびKOマウスの小腸からの粗抽出液の一部(5μgタンパク質)で、NQO1、GstM5、GstA1/2およびGCLCに対する特異的抗体によるウェスタンブロッティングを行なった。各レーンは個別のマウスからのサンプルを含む。一連の実験において、オールトランスレチノイン酸を、実験の最後の2週間VAD飼料の野生型動物へ投与した(10mg/kg体重で腹腔内)。これらの動物を屠殺し、前述のように、GST、GCLCおよびNQO1についてのイムノブロットを実行した。
【図10】ATRAがAREc32細胞において抗癌剤によるルシフェラーゼレポーター活性の誘導を抑制することを示した図である。(A)AREc32細胞を、1.2×104細胞/ウェルで96ウェルプレート中に播種した。24時間の回復後に、培養液を、DMSO(対照)、10μMシスプラチン、20μMメルファラン、100μM BCNU、または100μMクロラムブチルのいずれかを、1μM ATRAありまたはなしで含む抗生物質添加済みの新しいDMEMで置換し、24時間インキュベートした。細胞は、材料および方法中で詳しく述べられるようなルシフェラーゼ活性についてアッセイされた。DMSO処理のAREc32細胞から得られたルシフェラーゼ値を1に設定した。(B)AREc32細胞を、0.4×104細胞/ウェルで96ウェルプレート中に播種した。24時間の回復後に、培養液を50μMのBSOを含む増殖培地で置換し;等容積のPBSをBSO前処理なしで細胞へ加えた。50μMのBSOとの24時間のインキュベーションに続いて(細胞内GSHを枯渇させる)、培地を、DMSO(対照)、10μMシスプラチン、20μMメルファラン、100μMカルムシチン(carmusitine)または100μMクロラムブチルのいずれかを、1μMのATRAありまたはなしで含む抗生物質添加済みの新しいDMEMで置換し、24時間インキュベートした。細胞は、材料および方法中で詳しく述べられるようなルシフェラーゼ活性についてアッセイされた。DMSOで処理された対照細胞の値を1に設定した。データは三重サンプルからの平均±標準偏差を示す。ATRAと共に抗癌剤へ暴露された培養と抗癌剤単独で処理された培養からのルシフェラーゼ活性の間の差の有意性は、対応のないスチューデントのt検定によって評価された。これは3つの独立した実験の結果を表わす。(*)p<0.05;(**)p<0.005)。
【図11】ATRAがNrf2の核移行をブロックしないことを示した図である。核抽出物を、10μM tBHQ、1μM ATRA、または10μM tBHQのいずれかに1μM ATRAをプラスしたものより24時間処理したAREc32細胞から調製した。核抽出物からの一部(20μgのタンパク質)を7%SDS−PAGEにロードし、ニトロセルロース転写膜上にブロットし、マウスタンパク質に対する抗体を使用してNrf2の存在を検出した。パネルAにおいて、示されたブロットは少なくとも3つの独立した実験の典型的な結果を表わす。パネルBにおいて、Aにおいて示されたブロットをデンシトメトリーによってスキャンした。
【図12】ATRAがARE配列へのタンパク質複合体の結合を減少させることを示した図である。10μMのtBHQで24時間インキュベートしたAREc32細胞からの核抽出物(10μgのタンパク質)を、1μMのATRAの非存在下または存在下でAREを結合する能力についてEMSAによって分析した。200倍過剰の未標識AREを結合の特異性をモニタリングするために使用した。矢印は、DNAタンパク質複合体の特異的なバンドを示す。結果は3つの独立した実験を表わす。
【図13】ATRAがNrf2のARE配列への結合を妨害することを示した図である。核抽出物を、1μMのATRAの非存在下または存在下で10μMのtBHQと共に24時間インキュベートしたAREc32細胞から調製した。核抽出物の一部(100μgタンパク質)をビオチン化AREオリゴヌクレオチドと共にインキュベートし、材料および方法中で詳しく述べられるようにプルダウンアッセイを実行した。プルダウンしたビーズをSDS−PAGEへかけ、特異的な抗Nrf2抗体によりイムノブロットした。モックオリゴヌクレオチドを陰性対照として含んだ。
【図14】BTB09463およびレチノイン酸がAREレポーター細胞株AREc32中のルシフェラーゼのtBHQ誘導性発現をアンタゴナイズできることを示した図である。
【図15】tBHQの追加前に最大48時間のBTB09463によるAREc32細胞の前処理が、併用投与として、ルシフェラーゼ発現に対して同一の抑制効果を有することを示した図である。
【図16】いくつかのレチノイドが、AREレポーター細胞株AREc32におけるルシフェラーゼのtBHQ誘導性発現をアンタゴナイズすることを示した図である。
【図17】BTB09463およびレチノイン酸が、2つの独立した細胞株においてタンパク質レベルでARE駆動性遺伝子AKR1C(およびNQO1)のスルフォラファンに誘導される発現をアンタゴナイズできることを示した図である。
【図18】BTB09463が、mRNAのレベルでARE駆動性遺伝子AKR1C1のスルフォラファンに誘導される発現にアンタゴナイズできることを示した図である。
【図19】いくつかのレチノイドが、MCF7細胞においてタンパク質レベルでARE駆動性遺伝子AKR1Cのスルフォラファンに誘導される発現をアンタゴナイズできることを示した図である。
【図20a】一般に処方される抗癌薬物が、AREレポーター細胞株AREc23におけるルシフェラーゼ活性を誘導することができることを示した図である。
【図20b】BTB09463およびレチノイン酸が、AREレポーター細胞株AREc32におけるカルムスチン誘導のルシフェラーゼ活性をアンタゴナイズすることを示した図である。
【図20c】AREレポーター細胞株AREc32における化学療法剤に誘導されるルシフェラーゼ活性のレチノイン酸のアンタゴナイズ作用のさらなる特性解析を示した図である。
【図20d】カルムスチンはCaco−2細胞においてタンパク質レベルでARE遺伝子AKR1Cを誘導することができ、この誘導はBTB09463との併用処理によって抑制できることを示した図である。
【図20e】BTB09463が、MCF7細胞におけるARE駆動性遺伝子のカルムスチンで誘導される発現をタンパク質レベルでアンタゴナイズするという支持へのさらなる証拠を示した図である。
【図21】BTB09463が相乗的方式でMCF7細胞におけるカルムスチン毒性を増加させることを示した図である。
【図22】細胞毒性抗生物質ブレオマイシン(A〜C)またはカルムスチン(D)を投与したMCF7細胞が、レチノイン酸(A)、酢酸レチニル(BおよびD)またはアシトレチン(C)により共処理されたとき、細胞死滅が大きく相乗的に増加することを示した図である。
【図23】BTB09463およびレチノイドが、A549細胞における内在性AKR1C1 mRNAの構成的レベルを抑制することを示した図である。
【図24】BTB09463およびレチノイドが、A549細胞におけるARE遺伝子の一連メンバーであるタンパク質のレベルを抑制することを示した図である。
【図25】BTB09463が、A549細胞においてARE駆動性遺伝子についてのmRNAの構成的レベルを阻害することを示した図である。
【0071】
材料および方法I
化学物質および細胞培養
特別の指示の無い限り、化学物質はすべてシグマ・アルドリッチ(Sigma−Aldrich) 社、ドーセット、イギリスから購入した。D.L−スルフォラファンは、LKTラボラトリーズ(LKT laboratories)社(セント・ポール、ミネソタ、アメリカ)から入手した。OTO096463は、メイブリッジ・ケミカル社の化合物ライブラリーの化学的スクリーニングから同定され、ACDコードMFCD00173669下でそれらから利用可能である。HepG2(ヒト肝芽腫)、MCF7(ヒト乳癌)、Hepa1(マウス肝臓癌)およびCHO(チャイニーズハムスター卵巣癌)細胞株は、英国癌研究所(Cancer Research−UK)(ロンドン、イギリス)の細胞サービスから入手した。MCF7細胞のための増殖培地は、10%ウシ胎仔血清(FBS)および抗生物質を添加したグルタマックス(glutamax)含有ダルベッコMEMであった。HepG2細胞を、10%のFBSおよび抗生物質を添加したグルタマックス含有ダルベッコMEM中で維持した。Hepa1細胞を、10%FBS、抗生物質、1%非必須アミノ酸および2.5μg/mlウシインスリンを添加したグルタマックス含有ダルベッコMEM中で維持した。CHO細胞を、10%FBS、抗生物質、1%チミジンおよび1%ヒポキサンチンを添加したグルタマックス含有ダルベッコMEM中で維持した。すべての細胞を95%空気および5%CO2中37℃で培養し、3〜4日ごとに継代した。すべての細胞培養のための培地添加物はライフ・テクノロジーズ(Life Technologies)社、ペーズリー、イギリスから購入した。
【0072】
レポータープラスミドおよび発現コンストラクト
ARE−ルシフェラーゼレポータープラスミドを、ホタルルシフェラーゼ遺伝子の上流にSV40プロモーターを含むpGL3−プロモーターベクター(プロメガUK(Promega UK)、サザンプトン、イギリス)を使用して作製した。それらを表1中に要約する。これらのプラスミドは、プロモーター−luc+転写ユニットの上流のNhe1およびXho1の制限部位を介して頭−尾方向で挿入されたARE配列のコピー数が、異なる。ラットGSTA2およびマウスgsta1中に存在するARE(5’−GTGACAAAGCA−3’、下線部の最小の機能性配列を有する)の1、2、4、6または8個のいずれかのコピーを含む5つのプラスミドを作製し;これらはpGL−n×AREと呼ばれた。向かい合った鎖上に5’−CCC3−’および5’−GGG3−’の配列を有するリンカーを、個々のシスエレメントの間に置いた。さらに、ルシフェラーゼレポーター遺伝子を駆動するラットGSTA2遺伝子プロモーターのヌクレオチド−682〜−722の41bp(5’−GAGCTTGGAAATGGCATTGCTAATGGTGACAAAGCAACTTTG−3’、最小の機能性エンハンサーは下線で示される)を表わす、pGL−GSTA2AREと命名されたプラスミドを作製した。マウスgsta1において、この配列は5’−TAGCTTGGAAATGACATTGCTAATGGTGACAAAGCAACTG−3’である(Hayes & Pulford, 1995)。オリゴヌクレオチドは、MWG−バイオテック(BIOTECH)社(エバーセルク(Eberserg)、ドイツ)によって合成された。プラスミドを作製した後、インサートのDNA配列を検査した。
【0073】
pHyg−EF−hNrf2(緑色蛍光タンパク質(GFP)−タグ付加ヒトNrf2発現ベクター)は、Masayuki Yamamoto教授(筑波大学、基礎医学系、日本)からの寄贈であった。pEGFP−N1(陰性対照として用いられるGFP発現ベクター)は、BDクロンテック(Clontech)UK社(ハンプシャー、イギリス)から入手した。
【0074】
ルシフェラーゼレポーター遺伝子活性の一時的なトランスフェクションおよび分析
デュアルルシフェラーゼのレポーターアッセイ系(プロメガ社)を一過性にトランスフェクションした細胞におけるレポーター遺伝子活性を検査するために使用した。簡潔には、細胞を24ウェルプレートにおいて2×105細胞/ウェルの密度で播種し、適切な培地中で増殖させた。一晩のインキュベーション後に、細胞に、様々なARE−ルシフェラーゼレポータープラスミドを一過性にトランスフェクションした。プラスミドpRL−TK(ウミシイタケ属ルシフェラーゼをコードする)を、トランスフェクション効率に対する対照に使用した。トランスフェクションは、製造者の使用説明書に従って、リポフェクタミン(Lipofectamine)2000試薬(リファー・テクノロジーズ(Lifer Technologies)社、コベントリー、イギリス)を使用して実行した。トランスフェクションに続いて、培養液を、各実験の直前に調製された50μMのtBHQ(最終濃度0.1%v/vのジメチルスルホキシド(DMSO)を与える溶液において)を含む新しい増殖培地で24時間後に置換した。対照実験のために、媒質単独(0.1%v/v DMSO)を増殖培地へ加えた。細胞を採取前に生体異物へ応答するように24時間放置し、細胞溶解物中のホタルおよびウミシイタケ属のルシフェラーゼ活性を、ルシフェラーゼアッセイ試薬II(プロメガ社)の追加後に、照度計(ターナー・デザインズ(Turner Designs)、モデルTD−20/20、プロメガ社)を使用して測定した。反応のクエンチング後に、ストップアンドグロー(Stop & Glo)試薬(プロメガ)を加えることによってウミシイタケ属ルシフェラーゼ反応を開始した。ウミシイタケ属ルシフェラーゼ活性に対してホタルルシフェラーゼ活性を正規化することによって、相対的なルシフェラーゼ活性を計算した。
【0075】
安定したARE駆動性レポーター系の作製
pGL−8×AREを、ネオマイシンにより選択可能なマーカーを含むpCDNA3.1プラスミドと一緒に、リン酸カルシウム法を使用して、MCF7細胞の中へ安定的にトランスフェクションした(Moffat et al., 1997)。トランスフェクションされた細胞を、3〜4週間培地中の0.8mg/mlのG418を使用して選択した。G418耐性クローンは、基底ルシフェラーゼ活性、および誘導性ルシフェラーゼ活性(50μMのtBHQによって)の測定によって分離およびスクリーニングした。上述されるように、ホタルルシフェラーゼ活性を測定した。陽性のクローン(それらは低いバックグラウンドおよび高い誘導性ルシフェラーゼ活性を示す)を継代し、0.8mg/mlのG418を含む増殖培地中で維持した。
【0076】
安定したARE−ルシフェラーゼレポーター細胞の生体異物処理
BCNUおよびメルファランを1000×濃縮溶液として酸性化エタノール中に溶解した。ドキソルビシン、エピルビシン、シクロホスファミド、メトトレキサートおよびパクリタキソールを、リン酸緩衝生理食塩水中に溶解した。他の抗癌剤をDMSO中の1000×濃縮ストック溶液として調製し、使用まで−20℃で保存した。抗癌剤による処理のために、細胞を、増殖培地において1.2×104細胞/ウェルの密度で96ウェルマイクロタイタープレート中に播種した。一晩の回復後に、培養液を、対象となる抗癌剤と共に抗生物質添加済みの新しいダルベッコMEMで置換した。等容積の媒質を対照ウェルへ加えた。24時間の処理後に、上述されるように、ホタルルシフェラーゼ活性を測定した。
【0077】
安定したARE−ルシフェラーゼレポーター細胞におけるhNrf2の過剰発現
トランスフェクションのために、AREc32細胞を、100μl増殖培地において1.5×104細胞/ウェルで96ウェルプレート中に播種した。一晩の回復後に、リポフェクタミン2000試薬を使用して、25〜100ng/ウェルのpHyg−EF−hNrf2ベクターまたはpEGFP−N1ベクターを、細胞にトランスフェクションした。トランスフェクション後の4時間の回復期間に続いて、培養液を、グルタマックスおよび10μMのtBHQ(またはDMSO単独)を含む抗生物質添加済みの新しいダルベッコMEMで置換した。等容積のDMSOを対照ウェルへ加えた。最終的に、tBHQによる24時間の処理後にホタルルシフェラーゼ活性を測定した。
【0078】
Nrf2 siRNAベクターの調製およびトランスフェクション
pRS hNrf2(ヒトNrf2を標的とするpSUPER RNAiベクター)を、スーパー(SUPER)RNAi(商標)ライブラリー(オランダ癌研究所(Netherlands Cancer Institute)、アムステルダム、オランダ)のグリセロールストックから回収した。この研究において使用されるpRS−hNrf2中のオリゴインサートの配列は、hNrf2 cDNAの2083〜2101(ナンバリングはATG開始コドン中のAからである)の領域に対応する、5’−GCATTGGAGTGTCAGTATG−3’であった。GFPを標的とするpSUPER RNAiベクター(pRS−GFP)も、スーパーRNAi(商標)ライブラリーから得て、陰性対照として使用した。
【0079】
pSUPER RNAiによるトランスフェクションのために、AREc32細胞を100μl増殖培地において1.2×104細胞/ウェルで96ウェルプレート中に播種した。一晩のインキュベーション後に、25〜100ng/ウェルのpRS−hNrf2またはpRS−GFPのpSUPERベクターをリポフェクタミン2000試薬を使用して、細胞の中にトランスフェクションした。トランスフェクションからの回復に続いて(24時間)、培養液を、グルタマックスおよび10μMのtBHQ(またはDMSO単独)を含む抗生物質添加済みの新しいダルベッコMEMで置換した。24時間の処理後に、ホタルルシフェラーゼ活性を測定した。RNAiの特異性をタックマン分析によって確認した。
【0080】
統計分析
統計比較を対応のないスチューデントのt検定によって実行した。p<0.05の値が有意であると統計的に判断された。
【0081】
結果
機能的なARE駆動性レポータートランス遺伝子を発現する安定した細胞株の作製
この研究において、ラットGSTA2遺伝子およびマウスgsta1遺伝子のプロモーターに共通のシスエレメントの1、2、4、6または8個のいずれかのコピーを含む一連のARE−ルシフェラーゼレポータープラスミドを作製した。ARE配列を表1中にリストする。これらのレポーターコンストラクトを、MCF7細胞およびHepG2細胞における一過性トランスフェクションによって検査した。図2中に示されるように、pGL3のプロモーター中のAREのコピー数を増加させることは、通常の恒常的条件下で観察されるルシフェラーゼ活性の基底レベルに対して有意な効果はなかった。しかしながら、MCF7細胞におけるpGL3プロモーターベクター中のAREコピーの数とtBHQによるルシフェラーゼ活性の誘導のレベルとの間には十分な相関性があった。これらの結果から、ラットGSTA2−AREの複数のコピーのトランスフェクションが、tBHQ処理に対するレポーター遺伝子活性(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ)の感受性を増加させたことを実証したNguyen et al., 1994)の結果が確認される。
【0082】
安定したレポーター細胞株の作製のための適切な細胞系を選ぶために、pGL−GSTA2.41bp−AREをHepG2、MCF7、CHO、Hepa1細胞の中へトランスフェクションした。表2中に示されるように、このコンストラクトによる一過性トランスフェクション実験では、MCF7細胞におけるルシフェラーゼ活性は50μMのtBHQによる一晩の処理後に50倍まで誘導された。これとは対照的に、HepG2、CHOまたはHepa1細胞における同様のトランスフェクション実験後に、レポーター遺伝子は2〜4倍のみ誘導された。したがって、MCF7細胞がNrf2を発現し、ARE駆動性転写の測定のために感受性のある細胞系を提供できるということを我々の結果は示した。
【0083】
このコンストラクトが、tBHQによる処理後にかなり高レベルの誘導性ルシフェラーゼ産生を与えたので、レポーターが安定して存在する細胞株を産生するためのプラスミドとして、pGL−8×ARE(タンデム配置した8コピーの最小の機能性AREを含む)を用いることに決定した。この目的を達成するために、pGL−8×AREおよびpCDNA3.1(ネオマイシンにより選択可能なマーカーを含む)を、MCF7細胞の中へ安定的に共トランスフェクションし、G418の存在下で選択した。153個のG418耐性クローンが単離された。最初の継代後に、基底ルシフェラーゼ活性および誘導性ルシフェラーゼ活性に従って、32個のクローンをさらなるモニタリングのために維持した。中でも、AREc32として定義された1つのクローンは、低い基底ルシフェラーゼ活性および高い誘導性ルシフェラーゼ活性を示し、20代以上の継代後にも安定した表現型が実証された。残りのクローンは、10μMのtBHQによる低誘導レベル(2〜6倍)または多くの継代による不安定な表現型のいずれかを示したので廃棄した。したがってAREc32細胞をさらなる研究のために保存した。
【0084】
AREc32細胞におけるARE駆動性ルシフェラーゼ活性の誘導はNrf2によって仲介される。
AREc32細胞におけるルシフェラーゼ活性がNrf2に対して応答したものであることを確認するために、このCNC bZIPタンパク質を、発現コンストラクトpHyg−EF−hNrf2の一過性トランスフェクションによってAREc32細胞において過剰発現させた。図3中に示されるように、10μMのtBHQを処理したときにDNAがトランスフェクションミックス中に含まれない対照細胞では、ルシフェラーゼ活性は13倍誘導された。1ウェルあたり25ngのpHyg−EF−hNrf2プラスミドDNAを使用したときには、基底ルシフェラーゼ活性も誘導性ルシフェラーゼ活性も有意に影響されなかった。しかしながら1ウェルあたり50ngのpHyg−EF−hNrf2によるトランスフェクション後には、ルシフェラーゼ活性の基底レベルは2.6倍に増加し、誘導性レベルは19倍に増加した。100ngのpHyg−EF−hNrf2によるトランスフェクション後には、レポーター遺伝子基底活性は4倍に、および誘導性レベルは25倍に増加した。異なるウェルにおいて、同量のpEGFP−N1(EGFP発現ベクター)を、陰性対照としてAREc32細胞の中へトランスフェクションした。基底のルシフェラーゼ活性も誘導性ルシフェラーゼ活性も、EGFPの過剰発現によっては有意に影響されなかった。
【0085】
Nrf2がAREc32細胞においてtBHQによるルシフェラーゼ活性の誘導を仲介するかどうかを決定するために、発現をノックダウンするためにRNAiベクターを使用した。図3Bは、pRS−hNrf2ベクターまたはpRS−GFPベクターのいずれかによるAREc32細胞のトランスフェクションがGAPDH mRNAのレベルに影響しないことを示す。しかしながら、pRS−Nrf2によるトランスフェクションの24時間後に、Nrf2についての内在性mRNAのレベルは対照レベルの約40%まで減少したが、その存在量はpRS−GFPベクターによるトランスフェクションによって影響されなかった(図3B)。この結果は、pRS−hNrf2のトランスフェクションがbZIP因子の発現を特異的に抑制したことを示す。
【0086】
pRS−hNrf2によるAREc32細胞のトランスフェクションは、ルシフェラーゼ活性の基底レベルを対照レベルの60%まで減少させた(図3C)。1ウェルあたり25ngのpRS−hNrf2 DNAを使用したときには、ルシフェラーゼ活性の誘導は、DNAがトランスフェクションミックス中に含まれてない対照細胞(10倍の誘導)に比較して、有意に影響されなかった。50ngのpRS−hNrf2 DNAを使用したときには、10μMのtBHQによるルシフェラーゼ活性の誘導は8倍まで減少した。1ウェルあたり100ngのpRS−hNrf2 DNAを使用したときには、tBHQによって6倍の誘導のみが検出された。異なるウェルにおいて、AREc32細胞を同量のpRS−GFP DNA(GFP mRNAを標的とする)によりトランスフェクションしたときに、基底ルシフェラーゼ活性および誘導性ルシフェラーゼ活性は影響されなかった(図3C)。これらのデータは、AREc32細胞において基底ルシフェラーゼ活性および誘導性ルシフェラーゼ活性が、AREを介してNrf2によって仲介されることを示す。
【0087】
AREc32細胞におけるルシフェラーゼの時間依存的および用量依存的な誘導
AREc32細胞におけるルシフェラーゼ活性は時間依存的および用量依存的様式で誘導することができ;24時間間処理後に、ルシフェラーゼ活性は1μMのtBHQによって2倍および5μMのtBHQによって5倍増加した(図4Aおよび表3を参照)。最大ルシフェラーゼ活性(約10倍の増加)は、10μMのtBHQによる処理後に観察された。tBHQによるルシフェラーゼ活性の誘導は時間依存的でもあり;それは、10μMのtBHQによる8時間の処理後に4倍増加し、同一用量のtBHQによる処理の18時間後に10倍に達した。AREc32細胞におけるルシフェラーゼ活性の誘導の同様の大きさは、10μMスルフォラファン(SUL)(NQO1およびAKR1Cの強力な酵素誘導因子)に対する24時間の暴露後に観察された(Bonnesen et al., 2001)。
【0088】
AREレポーター遺伝子発現に対する抗癌剤の効果
癌化学療法剤がNrf2−ARE系を修飾するかどうかを知るために、多数の抗癌剤をAREc32細胞を使用してスクリーニングした。IC50の結果に基づいて(データ不掲載)、AREc32細胞を致死未満用量の複数の治療剤により24時間処理した。ルシフェラーゼ活性に対するそれらの効果に従って、これらの薬物を3つの群へと表4中で分類した:有意な効果はないもの、中等度の活性化剤、および強力な活性化剤である。したがって、ドキソルビシン、エピルビシン、パクリタキソール(タキソール)、メトトレキサートおよびチオテパの処理は、AREc32細胞におけるルシフェラーゼ活性レベルに対して効果がなかった。アルキル化剤シスプラチン、メファラン(mephalan)および酸化還元サイクル化合物エトプシドは、中等度にルシフェラーゼ活性を増加させた。アルキル化剤のクロラムブチル、ミトザントロンおよびBCNUによるAREc32細胞の処理は、2〜4倍のルシフェラーゼ活性のより強力な誘導を誘発した。
【0089】
AREc32細胞を使用して、シクロホスファミド処理がARE−ルシフェラーゼ活性に対していかなる効果もないことが明らかになった。これとは対照的に、その主要な代謝物質アクロレインは、強力なARE活性化剤であることが見出された;10μMアクロレインにより、ルシフェラーゼ活性が27倍増加した。
【0090】
抗癌剤によるARE駆動性遺伝子発現の活性化は酸化還元反応依存的である。
細胞のGSHレベルが、抗癌剤によるルシフェラーゼ活性の活性化能力に対する効果を有するかどうかを調べるために、我々は、化学療法剤を投与する前に、50μMのBSOでAREc32細胞を24時間前処理した。図5Aに示されるように、BSOによる前処理は、シスプラチンおよびメルファランによるルシフェラーゼ活性の誘導をそれぞれ3倍および5倍に増加させた。より顕著に、BSOは、クロラムブチルおよびBCNUによるルシフェラーゼ活性の誘導を>10倍に増加させた。そのような誘導は、約5mMのNACの追加によって完全に抑制された(図5A)。エトプシドおよびミトザントロンの処理については、BSO前処理がルシフェラーゼ活性を有意に変化させないことが明らかにされた(データ不掲載)。
【0091】
抗癌剤が内在性Nrf2調節遺伝子の発現を同様に活性化するかどうかを知るために、AREc32細胞におけるAKR1Cの発現を検討した。BSOによる前処理なしでは、AKR1CのmRNAレベルは、メルファラン、シスプラチン、クロラムブチルの処理によってわずかだけ増加した。しかしながら、細胞を50μMのBSOにより24時間前処理したときに、メルファランおよびシスプラチンはAKR1CのmRNAの発現をそれぞれ3倍および4倍まで増加させ、クロラムブチルはこのmRNAを31倍増加させた(図5B)。BCNUによる処理は、AKR1CのmRNAの発現を3倍に誘導し、BSO BCNUの前処理によりAKR1CのmRNAを42倍に誘導した(図5B)。イムノブロットは、AKR1Cタンパク質もまたこれらの抗癌剤によって増加することを明らかにした(図5C)。BSO前処理は、tBHQ処理によるAKR1Cタンパク質の発現をさらに促進しなかった。しかしながら、これは、恐らく10μMのtBHQ単独によるAKR1Cの誘導が既に最大レベルに達していたからであろう。
【0092】
考察
ルシフェラーゼトランス遺伝子の発現を指令するために最小のエンハンサー配列のみが存在する、安定したAREレポーターヒト乳腺細胞株(MCF7細胞に由来するAREc32)を作製した。この目的のために用いられるAREは、ラットGSTA2およびマウスgsta1の両方のプロモーターで見出されるものの付近にデザインされた。gsta1の場合、その基底発現および誘導性発現はインビボのNrf2によって調節されることが示された(Chanas et al., 2002)。さらに、ヒトNQO1中のプロモーターとは異なり、GSTA2およびgsta1のプロモーターは組み込まれているAP1部位を含んでおらず、ARE内にこの部位が存在しないことがレポーター遺伝子活性の誘導の実行を促進するので、GSTA2およびgsta1のプロモーターからのAREを使用した。AREc32細胞において、ルシフェラーゼ活性の発現はNrf2によって仲介され、酸化還元状態に対して感受性のあることが示された。この細胞株は、10μMのtBHQによってレポーター活性が10倍誘導され、したがってNrf2のアゴニストおよびアンタゴニストを同定するための化学的ライブラリーのスクリーニングに使用できる十分なモデル系を提供する。
【0093】
抗癌薬剤に対するAREc32細胞の応答
本研究において、ARE駆動性遺伝子発現を誘導する抗癌性アルキル化剤の能力を検討するために、AREc32細胞を使用した。シスプラチン、エトポシド(VP16)、ミトザントロン、メルファラン、クロラムブチルおよびBCNUが、ルシフェラーゼを誘導できることが明らかになった。これらの化学療法剤によるARE−ルシフェラーゼの誘導は、それがBSO前処理によって増大され、NACによって抑制される場合、酸化還元感受性であることが見出された(図5A)。興味深いことには、このことは、特定の抗癌剤による患者の準最適の治療は、Nrf2によって制御される腫瘍において、細胞保護防衛を誘導することを示唆する。更に、腫瘍における細胞の酸化還元状態は、そのような防衛を活性化するそれらの能力に影響を及ぼすだろう。
【0094】
材料および方法II
化学物質
AREc32細胞の処理において使用されるレチノイドはDMSO中に調製され、マウスに対して投与されるレチノイドはトウモロコシ油中に調製された。レチノイド溶液は小分けにして−70℃で保存し、各々を解凍した後は1回だけ使用した。レチノイドの投与に関係する実験手順は、薄明かりで実行した。
【0095】
動物
ホモ接合Nrf2 KOマウスおよびマウスの遺伝子型決定は、以前に記述した通りであった(Itoh et al., 1997)。2か月のC57BL/6 nrf2-/-およびnrf2+/+のオスマウスをこの研究で使用した。動物は餌および水を自由に摂取させて12時間の明暗サイクルで飼育した。マウスは実験期間の間毎日体重測定した。すべての動物手順は、イギリス内務省のライセンス下で、および地方倫理委員会の承認取得後に行なわれた。
【0096】
2つの摂食実験を実行した。実験1において、第一ステージ(4週間続いた)では、Nrf2(+/+)マウスをレチノイン酸欠損のVAD飼料で飼育した(スペシャル・ダイエット・サービス(Special Diet Services)社、ウィザム、エセックス、イギリス)。第二ステージ(2週間続いた)では、マウスを3つの実験群へ分類し、それらの飼料および処理は:(a)1群、VAD飼料;(b)2群、VAD飼料および10mg/kg体重の用量で毎日ATRAを投与した;(c)3群、VAD飼料およびトウモロコシ油を腹腔内で毎日投与した、である。実験2において、Nrf2(/−)マウスを対照飼料またはVAD飼料で6週間飼育した。
【0097】
6週間の終わりまでに、マウスを屠殺し、小腸を直ちに切除し、液体窒素中で凍結し、使用まで−70℃で保存した。摂食実験は3回繰り返され、各実験群は2匹または3匹の動物を含んでいた。
【0098】
細胞培養およびルシフェラーゼ活性の測定
上の材料および方法セクション中で記載されるようにAREc32細胞を調製し、95%空気および5%CO2において37℃で0.8mg/mlのG418を含む増殖培地(10%ウシ胎仔血清(FBS)および抗生物質添加済みのグルタマックス含有ダルベッコMEM)で維持し、3〜4日ごとに継代した。細胞培養のための培地添加物はライフ・テクノロジーズ社(ペーズリー、イギリス)から購入した。
【0099】
生体異物処理のために、AREc32細胞を増殖培地において1.2×104細胞/ウェルで96ウェルプレート中に播種した。24時間の回復後に、培養液を、生体異物(0.1%v/v)を含む抗生物質添加済みの新しいDMEMで置換した。細胞を採取前に生体異物へ応答するように24時間間放置し、細胞溶解物中のホタルルシフェラーゼ活性を、ルシフェラーゼアッセイ試薬(プロメガ社)の追加後に、照度計(ターナー・デザインズ、モデルTD−20/20、プロメガ社)を使用して測定した。対照実験のために、媒質単独(0.1%v/v DMSO)を培地へ加えた。
【0100】
リアルタイム定量的PCR(RT−PCR)
全RNAをトリゾール(TRIzol)により単離し、製造者の使用説明書に従ってRNイージー(RNeasy)ミニキット(キアゲン(Qiagen) 社)によりさらに精製した。使用される全RNAのA260/A280比は典型的には≧1.9であった。RNAの質はアジレント(Agilent)2100バイオアナライザーを使用して評価した。以前に記述したようにRT−PCRを実行した(Wang et al., 2005)。プライマーはMWG−バイオテック社によって合成された。プローブ(5’蛍光レポーター色素(6−カルボキシフルオレセイン)および3’クエンチング色素(6−カルボキシテトラメチルローダミン)で標識された)は、キアゲン社(ドイツ)によって合成された。各アッセイは三回行った。オリゴヌクレオチドプライマーの様々なセットからのPCR増幅の特異性を、アガロースゲル電気泳動によってルーチンに調べた。結果は7700システムソフトウェアの使用によって分析した。18S rRNAのレベルを内部スタンダードとして使用した。ヒトAKR1CのmRNAへ対応するcDNAの測定のためのプライマーおよびプローブに対する配列は以前に記述されている(Devling et al., 2005)。
【0101】
ウエスタンブロット分析
全細胞の抽出物は以前に記述したように培養細胞から調製した(Wang XJ 2006)。簡潔には、プロテアーゼ阻害剤混合物(ロッシュ・ダイアグノスティックス(Roche Diagnostics)社)を追加した0.1Mヘペス(pH 7.4)、0.5M KCl、5mM MgCl2、0.5mM EDTA、20%グリセロールを含む抽出緩衝液中で、細胞を溶解した。タンパク質サンプル(30μg)を、標準的なプロトコールを使用してSDS−PAGEゲルで分離した。以前に記述したように、AKR1Cに対して作製された抗血清を使用してイムノブロットを実行した(O'Connor et al., 1999)。以前に記述したように、小腸サイトゾルを調製した(McMahon et al., 2001)。小腸サンプルからの5μgのタンパク質をSDS−PAGEによってルーチンに分離した。NQO1およびGSTのタンパク質レベルを推定するために、ウェスタンイムモブロッティング(immumoblotting)を実行した。使用する一次抗体の供給源は以前に記述されている(Hayes et al., 2000; Kelly et al., 2000)。すべての場合において、等量のローディングを確認するために、アクチン(シグマ社)に対する抗体によるイムノブロットを実行した。
【0102】
電気泳動度シフトアッセイ(EMSA)
EMSAのために使用する核抽出物を別記された手順に従って調製した(Moffat et al., 1997)。[γ−32P]ATPおよびT4ポリヌクレオチドキナーゼで末端標識した二本鎖DNAプローブ(ARE、5’−GAGCTTGGAAATGGCATTGCTAATGGTGACAAAGCAACTTTG−3’[下線はコア配列])を、以前に記述したように、ゲルシフト解析のために使用した(Moffat et al., 1997)。いくつかの分析において、結合の特異性を、標識プローブを加える前に、反応混合物へ200倍モル過剰の未標識オリゴヌクレオチドを加えることによって実行される競合実験によって測定した。サンプルを4%ポリアクリルアミドゲルにおいて100Vで分離した。ゲルを乾燥し、オートラジオグラフィーを行なった。
【0103】
ビオチン化AREオリゴヌクレオチドのプルダウンアッセイ
以前に記述したように、プルダウンアッセイのために使用する核抽出物を調製した(Deng et al., 2003)。簡潔には、プロテアーゼ阻害剤混合物(ロッシュ・ダイアグノスティックス社)を追加した10mMヘペス(pH 8.0)、1.5 mM MgCl2、200mMショ糖、0.5%ノニデットP−40、10mM KCl、0.5mMジチオトレイトール、0.1mMオルトバナジウム酸ナトリウム、1mM EGTAを含む、パック細胞2容積分の緩衝液A中で5分間4℃にてAREc32細胞を溶解した。粗製の核をミクロ遠心によって回収し、パック細胞3容積分の緩衝液B(PBS(pH.7.4)、1.0mM EDTA、1.0mMジチオトレイトールに加えて緩衝液A中のプロテアーゼ阻害剤および脱リン酸化酵素阻害剤)中に再懸濁した。次に核を4℃で超音波処理によって破壊し、続いて残屑を除去するためにミクロ遠心を行なった。核抽出物タンパク質を含む上清を回収し、−70℃で保存した。
【0104】
5’でビオチン化した二本鎖AREプローブ(ラットGSTA2遺伝子プロモーター中のヌクレオチド−682〜−722の42bpを表わす)は、MWG−バイオテック社によって合成された。その配列は5’−GAGCTTGGAAATGGCATTGCTAATGGTGACAAAGCAACTTTG−3’である。さらに、関連のないビオチン化プローブ(モック)(5’−AGAGTGGTCACTACCCCCTCTG−3’)もまた陰性のプローブ対照として供するために合成した。
【0105】
以前に記述したように、AREプルダウンアッセイを実行した(Deng et al., 2003)。簡潔には、720nMの5’でビオチン化されたAREプローブを、異なる化合物で処理されたAREc32細胞からの500μgの核抽出物および100μlの4%ストレプトアビジンアガロースビーズ(シグマ社)と共に混合した。最終的な体積を、核抽出物緩衝液Bで500μlに調整した。混合物を1時間室温で揺り動かし、チューブを5000gで30秒間遠心した。沈殿を氷冷PBSで4回洗浄し、プルダウンした混合物をSDS−PAGE上で分析した。Nrf2タンパク質を、ウサギポリクローナルNrf2抗体を使用してイムノブロットによって同定した。
【0106】
統計分析
統計比較は対応のないスチューデントのt検定によって実行した。pの値<0.05は有意であると統計的に判断された。
【0107】
結果II
オールトランスレチノイン酸によって誘導可能なARE駆動性遺伝子発現のアンタゴナイズ作用
MCF7−AREレポーター細胞株は、tBHQ、アクロレイン、β−ナフトフラボン(NF)およびスルフォラファンを含む、AREを活性化することが公知である多数の化合物により処理された。期待されるように、これらすべての誘導剤はAREc32細胞におけるルシフェラーゼ活性を増加させた(図6)。しかしながら1μMのATRAの存在下でtBHQ、アクロレイン、NFおよびスルフォラファンによるAREc32細胞の処理は、誘導剤によって影響を受けるARE駆動性ルシフェラーゼ活性における増加を有意に弱めた。実際は、得られた値からDMSO対照を引いた後は、ルシフェラーゼ活性はほとんど完全になくなった。続いて行なわれる実験において(図7Aにおいて示される)、ARE駆動性応答の阻害のレチノイン酸濃度に対する依存性、およびさらに他のレチノイド誘導体がARE応答を阻害する能力を検討した。興味深いことには、すべての3つのレチノイドは、同様の用量依存的様式(IC50値はおよそ3×10-7Mである)でARE応答を阻害した。すべてのこれらの3つのレチノイド誘導体がほぼ等しい力価でレチノイン酸受容体に結合することが知られており、これが観察された応答を仲介することを示唆する。さらに、レチノイン酸によるルシフェラーゼ活性の阻害の時間依存性を測定した。図7Bにおいて示されるように、およそ3時間の遅滞期後に、tBHQ処理した細胞におけるルシフェラーゼ活性は、24時間の期間にわたりほとんど直線的に増加した。しかしながら、AREc32細胞をtBHQおよびATRAにより同時に処理したときに、遅滞期は3時間から16時間に増加し、その後ルシフェラーゼ活性は16〜24時間の間緩やかに増加したのみであった。
【0108】
オールトランスレチノイン酸はtBHQによる内在性遺伝子の誘導を阻害
レチノイン酸がAREを介して調節される内在性遺伝子の発現を阻害できるかどうかを立証するために、tBHQによるAKR1C1遺伝子の誘導に対するATRAの効果を研究した(図8A)。この実験において、tBHQはほぼ15倍までAKR1C1のmRNAの発現を誘導し、この誘導はレチノイン酸との共インキュベーションによって著しく抑制された(たった3倍の誘導まで)。DMSO対照を引いた後に、阻害はおよそ85%であると推測された。次にウエスタンブロット分析によってAKR1Cタンパク質の誘導に対するATRAの効果を研究した。図8B中に図に示すように、このタンパク質のレベルもまた著しく減少した。ウエスタンブロットのスキャニングからこの減少がおよそ50%であることが示され;タックマンとイムノブロットのデータとの間のこの見かけ上の相違は、AKR1C1に対して作製された抗体がAKR1C2および恐らくAKR1C3と交差反応するので、恐らくこの抗体は特異性を欠くものであるためである。
【0109】
MCF7細胞における観察から、インビボのARE調節遺伝子を発現まで推定することができるかどうかを調べるために、レチノイン酸欠損(すなわちビタミンA欠損、VAD)飼料をマウスに与える実験を実行した。興味深いことには、6週間のビタミンA欠損飼料で飼育された野生型マウスにおいて、ARE調節遺伝子のGstM5 GCLC、NQO1およびGstA1の充分な誘導が観察された(図9)。nrf2-/-マウスにおいてGstM5 GCLC、NQO1およびGstA1における増加が観察されなかったので、これらの遺伝子のVAD飼料による誘導はNrf2に依存的である。VAD飼料で飼育される最後の2週間の間に野生型マウスに対して毎日ATRAを投与することにより、ARE駆動性遺伝子の誘導は、小腸においてほとんど完全に無くなった。この結果は、レチノイン酸の抑制作用が胃腸管におけるインビボの状況に関連することを実証する。
【0110】
オールトランスレチノイン酸は抗癌薬物によるARE駆動性遺伝子発現の誘導を阻害
一連の抗癌剤によりレチノイン酸がNrf2調節遺伝子の誘導を阻害できるかどうかを決定するために、さらなる実験を実行した(図10)。抗癌剤のうちで、シスプラチン、メルファランおよびクロラムブチルは、ARE駆動性遺伝子発現の弱い誘導因子であった(表4)。それに比べれば、BCNUはより強力な誘導剤であった。これらの抗癌剤の各々によるARE駆動性ルシフェラーゼ活性の誘導は、化学療法剤と共にATRAが培地中に含有されることにより阻害された(図10A)。グルタチオン除去剤L−ブチオニン−S,R−スルホキシミン(BSO)でAREc32細胞を24時間前処理することによって、これらの薬剤によるルシフェラーゼ活性の誘導を著しく促進でき、実際これらの条件下で使用される抗癌剤のすべてはAREレポーターの効率的な誘導因子であり;BCNUおよびクロラムブチルは10〜15倍の間で誘導する。これらの実験のすべてにおいて、ATRAはAREの誘導の強力な阻害剤であった。これは特に、細胞が50μMのBSOにより前処理されたときに、DMSO対照値を引いた後のARE応答がほとんどバックグラウンドレベルまで減少した実験のケースであった。これらのデータは、現在使用される抗腫瘍薬剤により誘導されたARE応答を、レチノイン酸が減ずる能力を有することを実証する。
【0111】
オールトランスレチノイン酸は、Nrf2の安定性に影響を及ぼさない
レチノイン酸がその抑制効果を発揮するメカニズムを確立するために、Nrf2の核濃度がこの化合物の存在下で変化するかどうかを調べた。しかしながら、これはそうでないことが見出された(図11)。したがって、bZIP因子を不安定にすること、またはその核移行を阻害することのどちらによっても、ATRAが遺伝子発現のNrf2仲介性誘導をアンタゴナイズしないことが結論される。
【0112】
レチノイン酸がエンハンサーに対するNrf2の結合を阻害するかどうかを立証するために、コアARE結合配列を使用する電気泳動度シフトアッセイを実行した。3つの複合体がこのエンハンサーと相互作用することが観察され(図12)、それらの結合はtBHQおよびレチノイン酸の存在下で減少し、レチノイン酸はAREエンハンサーエレメントの活性化を妨害することを示す(トラック4対トラック2)。AREエンハンサー上にNrf2をローディングするためのさらなる方法を使用して、tBHQの存在下でレチノイン酸がAREに対するNrf2の結合を阻害することを確認できた(図13)。したがってATRAが遺伝子プロモーター中のARE上へのNrf2の動員を妨害することによって、Nrf2が遺伝子発現をトランス活性化する能力を阻害すると結論される。
【0113】
考察II
上述されたデータは、レチノイン酸およびその各種誘導体がモデル誘導剤によるARE駆動性遺伝子発現の誘導をアンタゴナイズすることを示す。更に、ARE駆動性遺伝子発現のこのアンタゴナイズ作用は比較的低用量(すなわち10-7M)のATRAを必要とし、レチノイドはNrf2活性の強力な阻害剤であることが示唆される。抗癌剤によるARE駆動性遺伝子の誘導もまたATRAがブロックするという結果は、腫瘍が化学療法に応答して細胞保護遺伝子のスイッチを入れることを、レチノイドが阻害するということを示唆する。したがって、レチノイドは、それらが薬剤と共に共投与されるならば、抗癌剤が治療上より効果的であることを可能にする。
【0114】
さらなる実施例
さらなる実験を行ない、それらの結果を図14〜25中で示す。各実験のための方法および結果を以下に記述する。
【0115】
方法:AREc32細胞を96ウェルプレート中に播種し、DMSO(対照)、tBHQ(50μM)、tBHQ+BTB09463(5μM)またはtBHQ+レチノイン酸(1μM)により処理した。24時間のインキュベーション後に、細胞をルシフェラーゼ活性の測定前に洗浄し溶解した。BTB09463は、1−{4−[(3,4−ジクロロベンジル)オキシ]フェニル}エタノ−1−オンである。
【0116】
結果:ルシフェラーゼ活性は、AREc32レポーター細胞株においてtBHQにより高誘導が可能であり、この実験においてDMSO対照と比較して14倍の発現誘導を示す。BTB09463またはレチノイン酸との共処理はそれぞれおよそ65%および75%でこの誘導を著しく抑制した。図14を参照。
【0117】
方法:AREc32細胞を、96ウェルプレート中に播種し、tBHQ(50μM)による処理前に、BTB09463(2.5、5または10μM)を0、24または48時間与えた。tBHQの追加の24時間後に、細胞をルシフェラーゼ活性の測定前に洗浄し溶解した。
【0118】
結果:ルシフェラーゼ発現のtBHQ仲介性誘導の抑制は各投与計画下で同一だった。図15を参照。
【0119】
方法:AREc32細胞を96ウェルプレート中に播種し、DMSO(対照)、tBHQ(50μM)、tBHQ+レチノイド(0.25、0.5および1μM)により処理した。24時間のインキュベーション後に、細胞をルシフェラーゼ活性の測定前に洗浄し溶解した。
【0120】
結果:検査したレチノイドはすべて、AREレポーター細胞株AREc32におけるtBHQ誘導性ルシフェラーゼ発現をダウンレギュレートできた。図16を参照。
【0121】
方法:A.Caco−2細胞を、BTB09463(5μM)またはレチノイン酸(1μM)と共に公知のARE遺伝子の誘導因子スルフォラファン(5μM)により、単独でまたは併用して処理した。24時間後に細胞溶解物を調製し、AKR1Cタンパク質のレベルを測定するためにウェスタンブロッティングを実行した。B.MCF7細胞を、BTB09463(5μM)と共にスルフォラファン(5μM)により、単独でまたは併用して処理した。24時間後に、細胞溶解物を調製し、AKR1CおよびNQO1のレベルを検出するためにウエスタンブロットを実行し;MCF7細胞におけるローディング対照としてGAPDHを使用した。
【0122】
結果:A.BTB09463およびレチノイン酸は、結腸癌細胞株(Caco−2)においてスルフォラファンがAKR1Cを誘導する能力を劇的に低下させた。B.BTB09463は、乳癌細胞株MCF7における、ARE遺伝子NQO1およびAKR1Cのスルフォラファンで駆動される誘導を強力に阻害した。図17を参照。
【0123】
方法:Caco−2細胞を、DMSO(対照)、BTB09463(5μM)、スルフォラファン(5μM)またはスルフォラファンプラスBTB09463の組合せにより処理した。24時間の処理後に細胞を採取し、RNAを単離した。各サンプルについてのcDNAを逆転写によって産生し、続いてARE駆動性遺伝子のAKR1C1およびNQO1の遺伝子転写のリアルタイムPCR分析(タックマン分析)において使用した。データは、内部対照18S RNA、および比較CT方法を使用して計算されたAKR1C1およびNQO1の相対的なレベルに対して正規化された。
【0124】
結果:スルフォラファンはAKR1C1のmRNAの12倍の誘導を引き起こし、それはBTB09463との共処理によって強く阻害された(50%減少)。NQO1は、スルフォラファンによってそれほど著しく誘導されなかったが、この場合ではBTB09463により共処理されたときにmRNA発現は減少した。図18を参照。
【0125】
方法:MCF7細胞を、公知のARE遺伝子の誘導因子スルフォラファン(5μM)により単独でまたは様々なレチノイド(0.5μM)により処理した。24時間後に細胞溶解物を調製し、存在するAKR1Cタンパク質のレベルを検出するためにウエスタンブロットを実行した。
【0126】
結果:酢酸レチニル、アシトレチン、オールトランスレチナールおよびビタミンAプロピオネートはすべて、MCF7細胞におけるスルフォラファン誘導性AKR1Cの発現を減少させた。図19を参照。
【0127】
方法:AREレポーター細胞株AREc23を96ウェルプレート中に播種し、以前に決定されている非毒性濃度の細胞毒性薬により処理した。24時間のインキュベーション後に、細胞をルシフェラーゼ活性の測定前に洗浄し溶解した。
【0128】
結果:検査された大多数の薬物は、典型的には10〜60%誘導にわたる、ARE駆動性ルシフェラーゼ活性の中等度誘導を示した。化学療法薬の中で、アルキル化剤のブスルファン(3.1倍誘導)および最も強力なものであるカルムスチン(BiCNU)(4.5倍誘導)は、ルシフェラーゼ活性の最も強力な誘導因子であることが証明された。図20aを参照。
【0129】
方法:AREレポーター細胞株AREc23を96ウェルプレート中に播種し、DMSO(対照)、カルムスチン(100μM)、カルムスチン+BTB09463(5μM)またはカルムスチン+レチノイン酸(5μM)により処理した。24時間のインキュベーション後に、細胞をルシフェラーゼ活性の測定前に洗浄し溶解した。
【0130】
結果:BTB09463およびレチノイン酸の両方は、AREレポーター細胞株(AREc32)におけるルシフェラーゼ活性のカルムスチン仲介性誘導を完全に抑制できる。図20bを参照。
【0131】
方法:A.AREレポーター細胞株AREc23を96ウェルプレート中に播種し、DMSO(対照)、アルキル化剤単独、アルキル化剤+レチノイン酸(ATRA)により処理した。24時間のインキュベーション後に、細胞をルシフェラーゼ活性の測定前に洗浄し溶解した。B.L−ブチオニン−(SR)−スルホキシミン(BSO)(グルタチオン合成経路における酵素の阻害剤)により前処理した細胞を用いて、実験Aを修飾して繰り返す。24時間のインキュベーション後に、細胞をルシフェラーゼ活性の測定前に洗浄し溶解した。
【0132】
結果:A.レチノイン酸は、AREレポーター細胞株(AREc32)におけるルシフェラーゼ活性の化学療法剤仲介性誘導を完全になくす。B.BSOによるAREc32細胞の前処理は、化学療法剤仲介性ルシフェラーゼ活性のレベルにおいて著しい増加を引き起こした。レチノイン酸はこの増加反応をまだ有意にアンタゴナイズすることができた。図を20c参照。
【0133】
方法:Caco−2細胞を、DMSO(対照)、カルムスチン(100μM)、カルムスチン+BTB09463(5μM)により24時間処理した。24時間後に細胞溶解物を調製し、AKR1Cのレベルを検出するためにウエスタンブロットを行なう。
【0134】
結果:Caco−2細胞のカルムスチン処理は、AKR1Cタンパク質発現の大きな誘導を引き起こし、それはBTB09463の共投与によって減少した。この結果はLS174細胞においてもまた再現された(データ不掲載)。図20dを参照。
【0135】
方法:MCF7細胞を、DMSO(対照;レーン1)、スルフォラファン(5μM)(レーン2)、カルムスチン(100μM)(レーン3)、カルムスチン+BTB09463(5μM)(レーン5)により24時間処理した。(レーン4は適用に無関係の実験条件を表わす)。24時間後に細胞溶解物を調製し、Nrf2、NQO1およびAKR1Cタンパク質のレベルを検出するためにウエスタンブロットを行なった。
【0136】
結果:カルムスチン処理は、NQO1およびAKR1Cタンパク質の過剰発現を引き起こした。ACR1CおよびNQO1タンパク質の過剰発現はBTB09463の共投与によって減少した。図20eを参照。
【0137】
方法:アイソボログラム分析のために必要とされるデータを得るために、カルムスチン単独のLD50、BTB09463単独のLD50、および一定濃度の範囲のBTB09463の存在下のカルムスチンのLD50を決定する、MCF7細胞を使用する細胞毒性アッセイを実行した。アッセイは、72時間のインキュベーション時間で96ウェルプレートにおいて実行した。細胞毒性はATP化学発光アッセイを使用して決定した。
【0138】
結果:検査されている2つの個別の化合物のLD50の間にプロットした線の下に存在するデータポイントは、相乗的な細胞毒性挙動を示す組合せを単独で示し、線から離れるほど、その関係はより相乗的である。この定義によってカルムスチンとBTB09463の間には中等度の相乗作用がある。図21を参照。
【0139】
方法:本質的には図21の記述されるようにアッセイは実行された。
【0140】
結果:データから、MCF7細胞がブレオマイシンおよびレチノイン酸(酢酸レチニルまたはアシトレチン)により共処理される場合、細胞死滅において非常に強力な相乗的増加があることが示された。相乗作用はカルムスチンおよび酢酸レチニルの特定の組合せについてもまた観察され、より低いカルムスチン濃度の力価における著しい増加であった。図22を参照。
【0141】
方法:A549細胞を、DMSO(対照)、BTB09463(1、5、20、40μmol/l)またはレチノイド(0.050、0.20、0.50、2.0μmol/l)により処理した。24時間後に全RNAを調製し、タックマン分析をAKR1C1についてのmRNAレベルを検出するために実行した。
【0142】
結果:タックマンの結果は、BTB09463、オールトランスレチノイン酸、オールトランスレチナールおよび酢酸レチニルはすべて、濃度依存的様式でAKR1C1の構成的発現を阻害することを示した。図23を参照。
【0143】
方法:A549細胞を、DMSO(対照)、BTB09463(1、5μmol/l)またはレチノイン酸(0.050、0.20、0.50、2.0μmol/l)により処理した。24時間後に細胞溶解物を調製し、ARE駆動性遺伝子(AKR1C1、AKR1B10、NQO1、GCLC、GCLM)のタンパク質レベルを検出するためにウエスタンブロットを実行した。
【0144】
結果:ウエスタンブロット分析の結果から、BTB09463およびオールトランスレチノイン酸は、AKR1C1、AKR1B10、NQO1、GCLCおよびGCLMの構成的レベルを抑制することが示された。調べられたすべてのタンパク質において、BTB09463およびレチノイン酸による抑制は、対照において観察されたレベルと比較して少なくとも50%であった。図24を参照。
【0145】
方法:A549細胞を、DMSO(対照)、BTB09463(1、5、20、40μmol/l)またはレチノイン酸(0.050、0.20、0.50、2.0μmol/l)により処理した。24時間後に全RNAを調製し、内在性ARE駆動性遺伝子NQO1、GCLC、GCLMのmRNAのレベルを検出するために、タックマン分析を実行した。
【0146】
結果:タックマン分析の結果から、BTB09463およびオールトランスレチノイン酸は、濃度依存的様式でNQO1、GCLCおよびGCLMの構成的mRNAレベルを抑制することが示された。図25を参照。
【0147】
方法:MCF−7またはA549細胞を96ウェルプレート中に播種した。24時間後に、細胞を、カルムスチンもしくはブレオマイシンの単独で、またはBTB09463の存在下(MCF−7およびA549細胞についてそれぞれ5および20μmol/l)のいずれかで72時間処理した。細胞を洗浄し、次にそれらの生存度を決定するATPレベルを決定するために溶解した。
【0148】
結果:BTB09463またはレチノイン酸のいずれかとの細胞毒性制癌剤の組合せは、薬物療法単独よりも細胞毒性が高いことが見出された。このことは、カルムスチンおよびブレオマイシンについてのIC50値の低下を50%以上までもたらした。表5を参照。
【0149】
要約すると、Nrf2転写因子が抗炎症性タンパク質に加えて、抗酸化酵素、薬物代謝酵素、薬物排出ポンプ、熱ショックタンパク質およびシャペロンをコードする一連の遺伝子の発現を制御するので、Nrf2転写因子は、酸化ストレスを引き起こす薬剤、および親電子性物質である化学物質に対する防御を付与する。Nrf2が制御する遺伝子はすべてそれらのプロモーター中に抗酸化応答エレメント(ARE)を含んでいる。Nrf2活性、およびそれが調節するタンパク質のレベルは前新生物、および多くの腫瘍において増加し、おそらく前悪性細胞および悪性細胞の生存に寄与する。本発明において、Nrf2活性をアンタゴナイズし、癌化学療法剤の細胞毒性効果を増加させるレチノイドおよび他の低分子阻害剤(SMI、例えばBTB09463)について記述する。ヒト乳腺MCF7由来の安定したレポーター細胞株において、レチノイドおよび他のSMIは、tert−ブチルヒドロキノン(tBHQ)およびスルフォラファン(Sul)(Keap1に仲介される因子の分解を阻害することによってNrf2を活性化することが公知である化合物)によるARE駆動性ルシフェラーゼレポーター遺伝子の誘導をアンタゴナイズする。レチノイドおよび他のSMIは、ヒト乳腺MCF7およびMDA157細胞、およびヒト結腸LS174およびCaco2細胞を含む様々な株において、mRNAおよびタンパク質レベルの両方で、アルド−ケト還元酵素(AKR)1C1、NAD(P)H:キノンオキシドレダクターゼ1(NQO1)、ならびにグルタミン酸システインリガーゼの触媒(GCLC)サブユニットおよび修飾(GCLM)サブユニットなどの内在性のARE駆動性遺伝子の誘導もまたアンタゴナイズする。特定の癌化学療法剤(例えばクロラムブチル、カルムスチン、メルファラン、ブスルファン、シスプラチン)はARE駆動性遺伝子を誘導し、それらは薬物に対する耐性を誘導する適応反応を刺激することができ、tBHQおよびSulによる場合のように、この誘導は同様にレチノイドおよび他のSMIによってアンタゴナイズできることが示唆される。構成的に活性のあるNrf2(Keap1による負の調節の欠損のために)を有するA549非小細胞肺癌細胞株において、レチノイン酸およびSMIは、AKR1C1、NQO1およびGCLCが過剰発現される程度を減少させる。レチノイドがNrf2の活性を阻害する能力、およびしたがってそれが調節する遺伝子の発現は、レチノイン酸受容体α(RARα)によって仲介される。共免疫沈降実験により、レチノイン酸によるARE駆動性遺伝子発現の阻害がRARαとNrf2との間の物理的相互作用(レチノイン酸によって非常に促進され、Nrf2がAREに対して結合するのを阻害する組合わせ)を介して起こることが示された。レチノイドまたはBTB09463によるNrf2のアンタゴナイズ作用は、A549細胞[Keap1によって制御されないNrf2を備えた]に加えて、MCF7細胞[Keap1によって負に制御されるNrf2を備えた]のブレオマイシンおよびカルムスチンの細胞毒性効果に対する感受性を増加させる。
【0150】
本発明は、tBHQおよびSulに対して高応答性の合成連結ARE−ルシフェラーゼレポーター遺伝子を含むAREc32と呼ばれるMCF7由来のレポーター細胞株の作製および妥当性検証もまた含む。AREc32細胞の利用は、tBHQによるARE−ルシフェラーゼ誘導の阻害剤としてBTB09463が同定された、6000の化学的ライブラリーをスクリーニングするために使用された。これとは別に、AREc32細胞はレチノイドを阻害剤として同定するために、またはtBHQによるARE−ルシフェラーゼ誘導にもまた使用された。
【0151】
表1:pGL3プロモーターベクター中のインサートの配列
最小のエンハンサー配列の5’− A/GTGACnnnGCA/G−3’(様々なレポーターコンストラクトについてインサート内で単一または複数のコピーとして存在する)を、下線で示す。
【0152】
【表1】
【0153】
表2:AREレポーター系の最適な利用のためのMCF7細胞の同定
MCF7、HepG2、CHOおよびHepa1細胞を1×105細胞/ウェルで24ウェルプレート中に播種し、pGL−GSTA2.41bp−AREコンストラクトでトランスフェクションした。プラスミドpRL−TKを各トランスフェクションにおいて内部対照として使用した。使用される細胞を50μMのtBHQで処理し、材料および方法中で詳しく述べられるように、ルシフェラーゼレポーター活性を決定した。対照実験のために、同一体積のDMSOを培地へ加えた。DMSOで処理したHepG2細胞の相対的なルシフェラーゼ活性の値を1に設定した。これは3つの独立した実験の結果を表わす。各実験における各処理には少なくとも3つの重複測定がある。
【0154】
【表2】
【0155】
表3:AREc32細胞におけるルシフェラーゼ活性の誘導因子
細胞を増殖培地において1.2×104細胞/ウェルで96ウェルプレート中に播種した。24時間の回復後に、培養液を以下に様々な濃度のリストされた化合物を含む抗生物質添加済みの新しいDMEMで置換した。次に細胞を24時間インキュベートし、材料および方法中で詳しく述べられるようなルシフェラーゼ活性についてアッセイした。DMSO(0.1%v/v)で処理した細胞のルシフェラーゼ活性の値を1に設定した。提供された結果は3つの独立した実験からの結果を表わす。各実験における各処理には少なくとも3つの重複測定がある。
【0156】
【表3】
*CD(ルシフェラーゼレポーター活性を2倍にするインダクティング剤(inducting agent)の濃度)。
【0157】
表4:抗癌剤およびそれらの代謝物質によるAREc32細胞の処理の効果
材料および方法中で詳しく述べられるように、処理は24時間であった。対照細胞については、同一体積の0.1%(v/v)の媒質を培地へ加えた。抗癌剤へ暴露した培養とDMSOで処理した培養からのルシフェラーゼ活性との間の差の有意性は、対応のないスチューデントのt検定により評価した。これは3つの独立した実験の結果を表わす。(*)p<0.05。a対照値と比較した増加の平均(倍)±標準偏差として表現されたデータ。
【0158】
【表4】
【0159】
表5:BT09463またはレチノイドによって抗癌剤の細胞毒性効果に対する腫瘍細胞の感受性を高めること
【表5】
【0160】
参考文献
【0161】
【0162】
【0163】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療法で使用される医薬品の製造のための、Nrf2遺伝子活性をダウンレギュレートできる薬剤の使用。
【請求項2】
前記薬剤が、Nrf2による遺伝子発現のトランス活性化をダウンレギュレートする、請求項1に記載の薬剤の使用。
【請求項3】
1つまたは複数の前記遺伝子がARE遺伝子経路に関連する遺伝子であり、その発現がNrf2によるトランス活性化の減少によってダウンレギュレートされる、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記医薬品が異常な細胞増殖に関連する疾患を治療するためのものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記薬剤が単独で投与されることが意図される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記医薬品が、細胞毒性剤、アルキル化剤、酸化還元サイクル剤、チオール活性化薬、GSH合成の阻害剤、またはアポトーシス誘導剤からなる群から選択される他の薬剤をさらに含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
治療される被験体が、UV電離放射線または光力学療法によって治療される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
治療される前記疾患が癌または乾癬である、請求項3〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
レチノイドが、ARE駆動性遺伝子発現のダウンレギュレートを経由して宿主において異常に増殖する細胞の感受性を高める、異常な細胞増殖に関連する疾患の治療で使用される医薬品の製造のためのレチノイドまたは式(I)に記載の化合物:
【化1】
(式中、Xは、C、OまたはNまたはSであり;R1は、C1−C4アルキル、C1−C4(OH)、COOH、C(=CH2)CH3、C(=O)CH3、CH(CH3)2、C(CH3)3であり;およびR2は、各々の利用可能な位置で、H、ハロ、C1−C4アルキル、OHまたはNH2から独立して選択される)の使用。
【請求項10】
レチノイドがNrf2遺伝子活性をダウンレギュレートし、それによってNrf2が防御程度を高める抗増殖剤の感受性を増加させる、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記医薬品が、レチノイドによって感受性を高められた細胞の細胞死を誘導できるさらなる薬剤をさらに含む、請求項9または10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
前記さらなる薬剤が、アルキル化剤または酸化還元サイクル剤などの化学療法剤である、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
レチノイドが、Nrf2による遺伝子発現のトランス活性化をダウンレギュレートする、請求項9〜12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
レチノイドが、オールトランスレチノイン酸、9−シスレチノイン酸、13−シスレチノイン酸、レチナールまたはレチノールである、請求項9〜13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
レチノイドが、
【化2】
【化3】
である、請求項9〜14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
レチノイドおよび化学療法剤などのNrf2活性をダウンレギュレートできる薬剤を活性成分として含むか、またはそれらから本質的にはなる、医薬組成物。
【請求項17】
前記化学療法剤がアルキル化剤または酸化還元サイクル化合物である、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記化学療法剤が、シスプラチン、メルファラン、クロラムブチル、ミトロザントロン(mitrozantrone)、BCNU、チステパ(thistepa)、ドキソルビシンまたはブレオマイシンである、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
GSH産生またはチオレドキシン産生を阻害する、BSOなどの酸化還元制御剤をさらに含む、請求項16〜18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
細胞毒性またはアポトーシスに対して細胞の感受性を高めることに使用される、ARE駆動性遺伝子発現の誘導を直接的または間接的にダウンレギュレートする薬剤についてスクリーニングする方法であって、
a)抗酸化応答を行なうことができる細胞であり、下流に位置するレポーター遺伝子を含み複数の連結されたARE配列によって制御されるAREレポーター遺伝子コンストラクトを含む細胞、をインビトロで提供する工程と;
b)該細胞とスクリーニングされる被検薬剤を接触させる工程と;
c)該薬剤が、被検薬剤が加えられていない細胞に比較して、レポーター遺伝子の誘導を低下できるか、または発現を低下できるかどうかを検出する工程と、
を含むスクリーニング方法。
【請求項21】
異常な細胞増殖に関連する疾患の治療で使用する薬剤の同定のための請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記疾患が癌または乾癬である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記被検薬剤がNrf2活性を阻害する能力についてもまた検査される、請求項20〜22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
使用される前記ARE配列がラットGSTA2遺伝子および/またはマウスgstal遺伝子からである、請求項20〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記細胞が腫瘍細胞である、請求項20〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記細胞が抗酸化応答を行なうことができる哺乳類の細胞である、請求項20〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記細胞がMCF7細胞である、請求項20〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記レポーター遺伝子の誘導が活性化剤の追加によって促進される、請求項20〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記活性化剤が、tBHQなどのキノン、およびスルフォラファンなどのイソチオシアメート(isothiocyamate)、マレイン酸ジエチルなどのα,β−不飽和カルボニル、またはβ−ナフトフラボンなどのフラボノイド、または1−シアノ−2,3−エピチオプロパンなどのエピチオアルカン、またはリポ酸などのジ−メルカプタンである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
Nrf2が、アンチセンスまたはRNAiの技術を使用してKeaplの発現をダウンレギュレートすることによって、または変異Keapl遺伝子を含む細胞内で、活性化される、請求項23〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
Nrf2が、Bach1、Bach2、cFosおよび小Mafなどの負に作用する競合転写因子の発現をダウンレギュレートすることによって活性化される、請求項23〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
レポーター遺伝子が、GFPおよび関連した蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼまたはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、アルカリホソファターゼ(phosophatase)または任意のアッセイ可能なホルモンもしくは酵素である、請求項20〜31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記レポーター遺伝子の産物の検出が、比色アッセイ、蛍光アッセイ、発光アッセイ、放射免疫アッセイまたは免疫学的アッセイによって実行される、請求項20〜32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
レポーター活性のレベルまたは程度を確認するために、被検薬剤の不在下で比較実験または対照実験が実行される、請求項20〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
細胞が、ラットGSTA2および/またはマウスgstal遺伝子からのARE配列の複数の連結したコピーの下流にレポーター遺伝子を含むAREレポーターコンストラクトを含むヒト乳腺MCF7細胞である、ARE駆動性遺伝子発現に対する効果についてのスクリーニング薬剤で使用される細胞。
【請求項36】
前記レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子である、請求項20〜35のいずれか一項に記載の方法または細胞。
【請求項37】
複数の連結した前記ARE配列が、レポーター遺伝子の上流に頭−尾で連続して位置する、請求項20〜36のいずれか一項に記載の方法または細胞。
【請求項38】
コピー数が6〜8である、請求項36に記載の方法または細胞。
【請求項39】
被験体へNrf2による遺伝子発現のトランス活性化をダウンレギュレートできる薬剤の有効量を投与する工程を含む、異常な細胞増殖に関連する疾患に罹患する患者を治療する方法。
【請求項40】
細胞死を引き起こすかもたらすことができるさらなる薬剤を投与することをさらに含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
異常な細胞増殖に関連する疾患に罹患する患者を治療する方法であって、ARE駆動性遺伝子発現を減少させることができる量のレチノイド、および異常な細胞増殖を減少させることができる量のさらなる薬剤を被験体へ投与する工程を含み、レチノイドが異常な増殖細胞のさらなる薬剤に対する感受性を増加させる役目をする方法。
【請求項1】
治療法で使用される医薬品の製造のための、Nrf2遺伝子活性をダウンレギュレートできる薬剤の使用。
【請求項2】
前記薬剤が、Nrf2による遺伝子発現のトランス活性化をダウンレギュレートする、請求項1に記載の薬剤の使用。
【請求項3】
1つまたは複数の前記遺伝子がARE遺伝子経路に関連する遺伝子であり、その発現がNrf2によるトランス活性化の減少によってダウンレギュレートされる、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記医薬品が異常な細胞増殖に関連する疾患を治療するためのものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記薬剤が単独で投与されることが意図される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記医薬品が、細胞毒性剤、アルキル化剤、酸化還元サイクル剤、チオール活性化薬、GSH合成の阻害剤、またはアポトーシス誘導剤からなる群から選択される他の薬剤をさらに含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
治療される被験体が、UV電離放射線または光力学療法によって治療される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
治療される前記疾患が癌または乾癬である、請求項3〜7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
レチノイドが、ARE駆動性遺伝子発現のダウンレギュレートを経由して宿主において異常に増殖する細胞の感受性を高める、異常な細胞増殖に関連する疾患の治療で使用される医薬品の製造のためのレチノイドまたは式(I)に記載の化合物:
【化1】
(式中、Xは、C、OまたはNまたはSであり;R1は、C1−C4アルキル、C1−C4(OH)、COOH、C(=CH2)CH3、C(=O)CH3、CH(CH3)2、C(CH3)3であり;およびR2は、各々の利用可能な位置で、H、ハロ、C1−C4アルキル、OHまたはNH2から独立して選択される)の使用。
【請求項10】
レチノイドがNrf2遺伝子活性をダウンレギュレートし、それによってNrf2が防御程度を高める抗増殖剤の感受性を増加させる、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記医薬品が、レチノイドによって感受性を高められた細胞の細胞死を誘導できるさらなる薬剤をさらに含む、請求項9または10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
前記さらなる薬剤が、アルキル化剤または酸化還元サイクル剤などの化学療法剤である、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
レチノイドが、Nrf2による遺伝子発現のトランス活性化をダウンレギュレートする、請求項9〜12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
レチノイドが、オールトランスレチノイン酸、9−シスレチノイン酸、13−シスレチノイン酸、レチナールまたはレチノールである、請求項9〜13のいずれか一項に記載の使用。
【請求項15】
レチノイドが、
【化2】
【化3】
である、請求項9〜14のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
レチノイドおよび化学療法剤などのNrf2活性をダウンレギュレートできる薬剤を活性成分として含むか、またはそれらから本質的にはなる、医薬組成物。
【請求項17】
前記化学療法剤がアルキル化剤または酸化還元サイクル化合物である、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記化学療法剤が、シスプラチン、メルファラン、クロラムブチル、ミトロザントロン(mitrozantrone)、BCNU、チステパ(thistepa)、ドキソルビシンまたはブレオマイシンである、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
GSH産生またはチオレドキシン産生を阻害する、BSOなどの酸化還元制御剤をさらに含む、請求項16〜18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
細胞毒性またはアポトーシスに対して細胞の感受性を高めることに使用される、ARE駆動性遺伝子発現の誘導を直接的または間接的にダウンレギュレートする薬剤についてスクリーニングする方法であって、
a)抗酸化応答を行なうことができる細胞であり、下流に位置するレポーター遺伝子を含み複数の連結されたARE配列によって制御されるAREレポーター遺伝子コンストラクトを含む細胞、をインビトロで提供する工程と;
b)該細胞とスクリーニングされる被検薬剤を接触させる工程と;
c)該薬剤が、被検薬剤が加えられていない細胞に比較して、レポーター遺伝子の誘導を低下できるか、または発現を低下できるかどうかを検出する工程と、
を含むスクリーニング方法。
【請求項21】
異常な細胞増殖に関連する疾患の治療で使用する薬剤の同定のための請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記疾患が癌または乾癬である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記被検薬剤がNrf2活性を阻害する能力についてもまた検査される、請求項20〜22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
使用される前記ARE配列がラットGSTA2遺伝子および/またはマウスgstal遺伝子からである、請求項20〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記細胞が腫瘍細胞である、請求項20〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記細胞が抗酸化応答を行なうことができる哺乳類の細胞である、請求項20〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記細胞がMCF7細胞である、請求項20〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記レポーター遺伝子の誘導が活性化剤の追加によって促進される、請求項20〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記活性化剤が、tBHQなどのキノン、およびスルフォラファンなどのイソチオシアメート(isothiocyamate)、マレイン酸ジエチルなどのα,β−不飽和カルボニル、またはβ−ナフトフラボンなどのフラボノイド、または1−シアノ−2,3−エピチオプロパンなどのエピチオアルカン、またはリポ酸などのジ−メルカプタンである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
Nrf2が、アンチセンスまたはRNAiの技術を使用してKeaplの発現をダウンレギュレートすることによって、または変異Keapl遺伝子を含む細胞内で、活性化される、請求項23〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
Nrf2が、Bach1、Bach2、cFosおよび小Mafなどの負に作用する競合転写因子の発現をダウンレギュレートすることによって活性化される、請求項23〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
レポーター遺伝子が、GFPおよび関連した蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼまたはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、アルカリホソファターゼ(phosophatase)または任意のアッセイ可能なホルモンもしくは酵素である、請求項20〜31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記レポーター遺伝子の産物の検出が、比色アッセイ、蛍光アッセイ、発光アッセイ、放射免疫アッセイまたは免疫学的アッセイによって実行される、請求項20〜32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
レポーター活性のレベルまたは程度を確認するために、被検薬剤の不在下で比較実験または対照実験が実行される、請求項20〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項35】
細胞が、ラットGSTA2および/またはマウスgstal遺伝子からのARE配列の複数の連結したコピーの下流にレポーター遺伝子を含むAREレポーターコンストラクトを含むヒト乳腺MCF7細胞である、ARE駆動性遺伝子発現に対する効果についてのスクリーニング薬剤で使用される細胞。
【請求項36】
前記レポーター遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子である、請求項20〜35のいずれか一項に記載の方法または細胞。
【請求項37】
複数の連結した前記ARE配列が、レポーター遺伝子の上流に頭−尾で連続して位置する、請求項20〜36のいずれか一項に記載の方法または細胞。
【請求項38】
コピー数が6〜8である、請求項36に記載の方法または細胞。
【請求項39】
被験体へNrf2による遺伝子発現のトランス活性化をダウンレギュレートできる薬剤の有効量を投与する工程を含む、異常な細胞増殖に関連する疾患に罹患する患者を治療する方法。
【請求項40】
細胞死を引き起こすかもたらすことができるさらなる薬剤を投与することをさらに含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
異常な細胞増殖に関連する疾患に罹患する患者を治療する方法であって、ARE駆動性遺伝子発現を減少させることができる量のレチノイド、および異常な細胞増殖を減少させることができる量のさらなる薬剤を被験体へ投与する工程を含み、レチノイドが異常な増殖細胞のさらなる薬剤に対する感受性を増加させる役目をする方法。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5A】
【図5B.C】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20a】
【図20b】
【図20c】
【図20d】
【図20e】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5A】
【図5B.C】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20a】
【図20b】
【図20c】
【図20d】
【図20e】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公表番号】特表2009−544679(P2009−544679A)
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−521340(P2009−521340)
【出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【国際出願番号】PCT/GB2007/002833
【国際公開番号】WO2008/012534
【国際公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(507419839)ザ ユニヴァーシティー コート オブ ザ ユニヴァーシティー オブ ダンディー (8)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【国際出願番号】PCT/GB2007/002833
【国際公開番号】WO2008/012534
【国際公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(507419839)ザ ユニヴァーシティー コート オブ ザ ユニヴァーシティー オブ ダンディー (8)
【Fターム(参考)】
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