説明

異方導電性シート

【課題】 ワイピング機能を有する導電性のシートを提供する。
【解決手段】 押圧する際に導電性のシートの相手部材の表面で摺動する構造を有する。例えば、押圧力が必ずしも相手表面に対して垂直にのみ作用するわけではなく、該シート及び対象電極界の互いの表面間でせん断応力が働くような構造を有する。このとき、摺動され得る摺動部近傍には、アブレッシブ材がリッチに含まれる。このようなアブレッシブ材としては、例えばニッケル、炭素繊維等を用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性のシートに関し、特に厚み方向にのみ導電性を有する異方導電性シートに関する。また、このような異方導電性シートを用いた導電接触構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この異方導電性シートは、プリント回路基板、半導体集積回路装置、液晶表示装置などの回路装置の電気的検査装置におけるコネクターとして好ましく用いられ、このような異方導電性シートを備えた回路装置の電気的検査装置にも適用される。
【0003】
異方導電性のエラストマシートは、厚み方向にのみ導電性を示すもの、または厚み方向に加圧されたときに厚み方向にのみ導電性を示すものを含むことができる。このような異方導電性のエラストマシートを用いると、ハンダ付けあるいは機械的嵌合などの手段を用いずにコンパクトな電気的接続を達成することが可能であるだけでなく、機械的な衝撃やひずみを吸収してソフトな接続が可能である。そのため、例えば電子計算機、電子式デジタル時計、電子カメラ、コンピューターキーボード等の分野において、回路装置、例えばプリント回路基板とリードレスチップキャリアー、液晶パネルなどとの相互間の電気的な接続を達成するためのコネクタとして広く用いられている。
【0004】
また、プリント回路基板、半導体集積回路装置、液晶表示装置などの回路装置の電気的検査においては、検査対象である回路装置の一面に形成された被検査電極と、検査用回路基板の表面に形成された検査用電極との間にこの異方導電性エラストマシートを介在させて、電気的な接続が行われている。
【0005】
近年、半導体集積回路装置の電気的検査のみならず、キャリア等に搭載される前の半導体チップ自体の電気的検査を行うことが極めて重要であることが認識されているところ、半導体チップの電気的検査を行う方法として、半導体チップの電気的検査をウエハの状態で行うWLBI(Wafer Level Burn−in)テストにおいて、プローブカードとして異方導電性シートを用いることが提案されている。
【0006】
このような異方導電性エラストマーシートとしては、金属粒子をエラストマー中に均一に分散して得られる異方導電性エラストマーシート(例えば、特許文献1)、導電性磁性体粒子をエラストマー中に不均一に分布させることにより厚み方向に伸びる多数の導電路形成部とこれらを相互に絶縁する絶縁部とが形成されてなる異方導電性エラストマーシート(例えば、特許文献2)、導電路形成部の表面と絶縁部との間に段差が形成された異方導電性エラストマーシート(例えば、特許文献3)が開示されている。
【0007】
このような異方導電性シートにおいて、シートが接触する相手電極との接触電気抵抗は、電気回路等の高速性が益々要求されるようになると重要となる。このような接触電気抵抗は、電極の表面の酸化膜等が原因と考えられ、このような酸化膜等を除去する工夫がなされている(例えば、特許文献4)。
【特許文献1】特開昭51−93393号公報
【特許文献2】特開昭53−147772号公報
【特許文献3】特開昭61−250906号公報
【特許文献4】特願平11−270576号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このような接触電気抵抗は、電極表面の金属酸化物のみならず、いわゆるコンタミとして取り扱われることの多い、表面に付着する脂肪酸等の有機物が原因となることもあり、これらを除去することも重要である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、例えば回路装置の電気的検査に用いた場合に、微小な被検査電極に対しても、実用的な電気的検査装置の位置合わせ精度内で所要の電気的接続を確実に達成することができ、接続される電極の表面に付着するコンタミの少ない異方導電性シートを提供するものである。
【0010】
即ち、対象電極の表面に対して、コンタミを排除する摺動が生じる表面構造を有する異方導電性シートを提供する。例えば、対象電極を該シートに押圧する際に、この押圧力により、該対象電極の表面を摺動する構造を有する。より具体的には、押圧力が必ずしも対象電極表面に対して垂直に作用せず、該シート及び対象電極界面間でせん断応力が働くような構造を有する。このとき、摺動され得る摺動部近傍には、アブレッシブ材がリッチに含まれる。このようなアブレッシブ材としては、例えばフレーク状ニッケル、粉状ニッケル、比較的短い炭素繊維等を用いることができる。
【0011】
より具体的には、以下のようなものを提供する。
【0012】
(1)厚み方向に導電性を有することができる導電性シートにおいて、1又はそれ以上の突起部をその先端に向って幅狭若しくは薄厚みとなるように該導電性シートのシート面に備え、前記突起部は該導電性シートのシート面からその面に対して所定の角度で突出し、基底部からの突出高さは前記突起部の基底部での幅若しくは厚み寸法のうち実質的により小さい寸法に対して20%以上であることを特徴とする異方導電性シート。
【0013】
ここで、導電性シートは、いわゆる異方導電性シートを含んでよく、圧縮に応じて導電性が変化するものを含んでよい。突起部は、周囲の基準面から突出している凸形状部又は部材を含んでよく、上から見た形状が、円形であると、矩形であると、その他の形状であるとを問わない。その先端に向って幅狭若しくは薄厚みとなるとは、例えば、先端部に向って細くなるような突起形状であることを含んでよい。突出の角度は、突起部の基底部であるシート面に沿った基底面のいわゆる中心から、突起部の実質的な先端に向って仮想線を引いたときに、その仮想線とシート面とでなす角度のことをいう。例えば、半球状の突起部の場合は、基底面の中心(例えば基底円の中心)と先端部とを結ぶ仮想線は、シート面に対してほぼ直角である。また、突起の高さはこの仮想線に沿って測定することができ、まさしく半球であるならば、基底面の基準幅である球の直径の50%(球の半径)がその高さに相当する。半球ではなく、1/3球、1/4球の場合は、それぞれ、基底面の基準幅であるほぼ直径(約95%)に対して高さは約35%、基底面の基準幅であるほぼ直径に近い長さ(約85%)に対して高さは約30%になり、2/3球、3/4球の場合は、それぞれ、約70%、約90%となる。
【0014】
(2)前記突起部の高さが、3μmから10μmである、上記(1)記載の異方導電性シート。
【0015】
突起部の高さは、0.1μm以上が望ましく、より望ましくは1μm以上、更に望ましくは、3μm以上である。また、突起部の高さは、100μm以下が望ましく、より望ましくは、20μm以下、更に望ましくは、10μm以下である。
【0016】
(3)前記突起部が、反対側のシート面にも配置されている、上記(1)又は(2)記載の異方導電性シート。
【0017】
(4)前記所定の角度は、約30度以上である、上記(1)から(3)いずれか記載の異方導電性シート。
【0018】
材料により、また、その形状により最適な角度は変わりえるが、一般には、所定の角度は、押付け力がせん断力に変わりやすい角度が望ましい。具体的には、突起部に用いられる材料が通常のゴムであるならば、10度以上が望ましく、より望ましくは20度以上、更に望ましくは30度以上である。横滑りせん断を期待する場合は、この所定角度は、80度以下が好ましく、より好ましくは、70度以下、更に好ましくは、60度以下である。力の分配によるせん断成分が大きく取れる可能性があるからである。所定角度の最大値は、理論上90度である。また、接触せん断力を期待する場合は、所定角度は約80度以上が好ましく、ほぼ90度の所定角度がより好ましい場合もある。
【0019】
(5)前記所定の角度は、約80度以上である、上記(1)から(3)いずれか記載の異方導電性シート。
【0020】
(6)前記突起部は、アブレッシブ材リッチな部分をその表面若しくは表面近傍に有する、上記(1)から(5)いずれか記載の異方導電性シート。
【0021】
アブレッシブ材とは、表面のコンタミを削る材料若しくは部材又は部分であって、実質的にシート表面に出ているものが好ましい。その大きさは、数μmから数十μmがより好ましい。
【0022】
(7)前記アブレッシブ材は、ニッケルを含む、上記(6)記載の異方導電性シート。
【0023】
(8)前記アブレッシブ材は、炭素繊維を含む、上記(6)記載の異方導電性シート。
【0024】
ニッケルは、フレーク状、粉体状、その他の形状であってよく、削りやすい角部を有すると更に好ましい。酸化ニッケル等を含んでよい。炭素繊維は、PAN系、ピッチ系、その他の炭素繊維を含んでよい。
【0025】
(9)該異方導電性シートは、シリコーン樹脂からなる上記(1)から(8)いずれか記載の異方導電性シート。
【0026】
(10)該異方導電性シートは、フッ素樹脂からなる、上記(1)から(8)いずれか記載の異方導電性シート。
【0027】
(11)上記(1)から(10)いずれか記載の異方導電性シートを2つの基板で狭持し、該異方導電性シートを介して、その2つのシート面で接触することにより接続される前記基板及び前記異方導電性シートからなる導電接触構造において、少なくとも一方のシート面の接触部に対応する前記基板の表面に、バンプを設ける、導電接触構造。
【発明の効果】
【0028】
接触電気抵抗の原因となる有機物の除去に効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
【0030】
図1は、本発明の実施の形態に係る異方導電性シート10及び相手側電極(別の実施例では基板であってもよい)18の2つの接触状態を示す模式図である。この異方導電性シート10は、図中縦方向(厚み方向)に導電性を有することができるシートであり、下向きの表面(シート面)に突起部12が、垂直線14に対して所定の角度で傾いて延びている(この図において、左斜め下向き)。この突起部12は、図においてほぼ半分の楕円形の輪郭を有しているが、立体形状であって、突き出た棒状の形状を有するものである。しかしながら、別の実施形態において、図の手前側から奥側へと長く延びる帯形状であってもよい。
【0031】
突起部12のほぼ先端に、電極18(保持する基板は図示しない)の接触部16(第1の接触部)において押圧される、対向する接触部16’(第1の接触部)があり、電極18との機械的接触及び電気的な導通が可能となるようになっている。このときの異方導電性シート10及び電極18のそれぞれの基準面との間の距離は、d1である(図1(a))。電極18の表面において、突起部12の基底部(異方導電性シート10の表面との接続部)のほぼ中心を通る垂直線14からこの第1の接触部16までの距離は、D1である。
【0032】
この突起部12の第1の接触部16’近傍には、ニッケルが基本的に金属の状態で含まれており、導電性に寄与するばかりでなく、相手側の電極18の対向する第1の接触部16の表面の有機物等の被膜の少なくとも一部を削ることが可能となる。このような有機被膜の除去のメカニズムは、一般にアブレッシブ磨耗によるものと考えられており、ニッケル以外にアブレッシブ性を有する金属、セラミックス、炭素繊維、その他の材料を適宜選択することができる。導電性を向上させる機能を重視すれば、金属等の導電性のあるアブレッシブ材を適用することが好ましい。
【0033】
異方導電性シート10及び電極18の距離を更にd2まで近接させた場合を図1(b)に示す。近接させる押圧力により突起部12は、更に左に傾き、電極18の接触部20(第2の接触部)において押圧される、対向する接触部20’(第2の接触部)で、電極18との機械的接触及び電気的な導通が可能となるようになっている。図から分かるように、垂直線14からこの第2の接触部20までの距離は、D2であり、D2>D1となっている。従って、電極18に注目すれば、接触部が第1の接触部16から第2の接触部20へとわずかながら、左にシフトしており、異方導電性シート10及び電極18の距離をd2まで近接させる過程において、突起部12の表面との摺動が生じていることが分かる。このとき、突起部12の第1の接触部16’は、第2の接触部20’よりも突起部12のより先端側に位置する。しかしながら、突起部の形状や構造を変更することにより、接触部の位置が変化しないようにすることも可能であり、逆に第2の接触部をより先端側に配置するようにさせることもできる。
【0034】
図2には、本発明の別の実施の形態に係る異方導電性シート10及び相手側電極(別の実施例では基板であってもよい)18の2つの接触状態を模式的に示す。この異方導電性シート10は、図中縦方向(厚み方向)に導電性を有することができるシートであり、下向きの表面に図1に示したものと同様な斜めの突起部12、及びほぼ垂直な突起部22が、それぞれ垂直線14に対して所定の角度で傾いて、及び垂直線24にほぼ平行に延びている。これら突起部12、22は、図においてほぼ半分の楕円形の輪郭を有しているが、立体形状であって、突き出た棒状の形状を有するものである。しかしながら、別の実施形態において、図の手前側から奥側へと長く延びる帯形状であってもよい。
【0035】
図1と同様に、突起部12のほぼ先端に電極18の接触部16(第1の接触部)において押圧される、対向する接触部16’(第1の接触部)があり、また、突起部22の先端に電極18の接触部26(第1の接触部)において押圧される、対向する接触部26’(第1の接触部)があり、電極18との機械的接触及び電気的な導通が可能となるようになっている。このときの異方導電性シート10及び電極18のそれぞれの基準面との間の距離は、d3である(図2(a))。電極18の表面において、突起部12の基底部(異方導電性シート10の表面との接続部)のほぼ中心を通る垂直線14からこの第1の接触部16までの距離は、D3であり、垂直線14及び24の間の距離は、L3である。
【0036】
図1における実施例と同様、この突起部12の第1の接触部16’、26’近傍には、ニッケルが基本的に金属の状態で含まれており、導電性に寄与するばかりでなく、相手側の電極18の対向する第1の接触部16の表面の有機物等の被膜の少なくとも一部を削ることが可能となり、ニッケル以外の材料等も検討対象となる。
【0037】
異方導電性シート10及び電極18の距離を更にd4まで近接させた場合を図2(b)に示す。近接させる押圧力により突起部12は、更に左に傾き、電極18の接触部20(第2の接触部)において押圧される、対向する接触部20’(第2の接触部)で、更に、同じではあるがそれぞれの接触部26、26’で、電極18との機械的接触及び電気的な導通が可能となるようになっている。図から分かるように、垂直線14からこの第2の接触部20’までの距離は、D4であり、D4>D3となっている。従って、電極18に注目すれば、接触部が第1の接触部16から第2の接触部20へとわずかながら、左にシフトしており、異方導電性シート10及び電極18の距離をd4まで近接させる過程において、突起部12の表面との摺動が生じていることが分かる。このとき、突起部12の第1の接触部16’は、第2の接触部20’よりも突起部12のより先端側に位置すること等は、図1の実施例の場合と同様である。
【0038】
異方導電性シート10の突起部22の先端の接触部26’は、横滑りはしないものの、押付け力をそのまま受け、かつ、接触面積がそれほど大きくならないことから、接触圧力はかなり高くなる。従って、摺動に起因するせん断力による被膜の破壊ではなく、アブレッシブ材の突き刺し効果が期待できる。また、突起部12の摺動による異方導電性シート10及び電極18に働く相対横ずれ力は、この接触部26、26’での摩擦力により対向されるため、横ずれが生じ難い。
【0039】
図3には、本発明の更に別の実施の形態に係る異方導電性シート10及び相手側電極(別の実施例では基板であってもよい)18の2つの接触状態を模式的に示す。この異方導電性シート10は、図中縦方向(厚み方向)に導電性を有することができるシートであり、下向きの表面に図1に示したものと同様な斜めの突起部12、及び、逆方向に傾斜した突起部42が、それぞれ垂直線14、44に対して所定の角度で傾いて延びている。これら突起部12、42は、図においてほぼ半分の楕円形の輪郭を有しているが、立体形状であって、突き出た棒状の形状を有するものである。しかしながら、別の実施形態において、図の手前側から奥側へと長く延びる帯形状であってもよい。
【0040】
図1と同様に、突起部12のほぼ先端に、電極18の接触部16(第1の接触部)において押圧される、対向する接触部16’(第1の接触部)があり、また、突起部42のほぼ先端に、電極18の接触部46(第1の接触部)において押圧される、対向する接触部46’(第1の接触部)があり、電極18との機械的接触及び電気的な導通が可能となるようになっている。このときの異方導電性シート10及び電極18のそれぞれの基準面との間の距離は、d5である(図3(a))。電極18の表面において、突起部12、42のそれぞれの基底部(異方導電性シート10の表面との接続部)のほぼ中心を通る垂直線14、44から、それぞれの第1の接触部16、46までの距離は、D5、D5’であり、垂直線14及び44の間の距離は、L5である。
【0041】
図1における実施例と同様、この突起部12及び42の第1の接触部16’、20’近傍及び接触部46’、48’近傍には、ニッケルが基本的に金属の状態で含まれており、導電性に寄与するばかりでなく、相手側の電極18の対向する第1の接触部16、46の表面の有機物等の被膜の少なくとも一部を削ることが可能となり、ニッケル以外の材料等も検討対象となる。
【0042】
異方導電性シート10及び電極18の距離を更にd6まで近接させた場合を図3(b)に示す。近接させる押圧力により突起部12は、更に左に傾き、電極18の接触部20(第2の接触部)において押圧される、対向する接触部20’(第2の接触部)で、また、突起部42は、更に右に傾き、電極18の接触部48(第2の接触部)において押圧される、対向する接触部48’(第2の接触部)で、電極18との機械的接触及び電気的な導通が可能となるようになっている。図から分かるように、それぞれの垂直線14、44からこの第2の接触部20’、48’までの距離は、D6、D6’であり、D6>D5、D6’>D5’となっている。従って、電極18に注目すれば、接触部が第1の接触部16から第2の接触部20へとわずかながら、左にシフトしており、また、接触部が第1の接触部46から第2の接触部48へとわずかながら、右にシフトしており、異方導電性シート10及び電極18の距離をd6まで近接させる過程において、突起部12、42の表面との摺動が生じていることが分かる。このとき、突起部12、42の第1の接触部16’、46’は、第2の接触部20’、48’よりも突起部12、42のより先端側に位置すること等は、図1の実施例の場合と同様である。
【0043】
突起部12の摺動による異方導電性シート10及び電極18に働く相対横ずれ力は、突起部42の摺動による異方導電性シート10及び電極18に働く相対横ずれ力と対向しているため、お互いにキャンセルし合い横ずれが生じ難い。
【0044】
図4は、本発明の別の実施の形態に係る異方導電性シート50及び相手側電極(別の実施例では基板であってもよい)58の2つの接触状態を示す模式図である。この異方導電性シート10は、図中縦方向(厚み方向)に導電性を有することができるシートであり、下向きの表面に2つの突起部52、62が、垂直線54、64に対してほぼ平行に延びている(この図において下向き)。この突起部52、62は、図においてほぼ半分の楕円形の輪郭を有しているが、立体形状であって、突き出た棒状の形状を有するものである。しかしながら、別の実施形態において、図の手前側から奥側へと長く延びる帯形状であってもよい。
【0045】
電極58の異方導電性シート50に対向する面上には、バンプ59がほぼ半球状に形成されている。上述の突起部52、62は、そのほぼ先端に、バンプ59の接触部56、66(第1の接触部)において押圧される、対向する接触部56’、66’(第1の接触部)があり、電極58との機械的接触及び電気的な導通が可能となるようになっている。このときの異方導電性シート50及び電極58のそれぞれの基準面との間の距離は、d7である(図4(a))。バンプ59の表面において、突起部52、62の基底部(異方導電性シート10の表面との接続部)のほぼ中心を通る垂直線54、64からこの第1の接触部56、66までの距離は大変短く、それぞれほとんど0である。これは、突起部52、62の先端形状やバンプ59の表面形状によって、適宜変えることが可能である。
【0046】
この突起部52、62の第1の接触部56’、66’近傍には、ニッケルが基本的に金属の状態で含まれており、導電性に寄与するばかりでなく、相手側のバンプ59の対向する第1の接触部56、66の表面の有機物等の被膜の少なくとも一部を削ることが可能となる。このような有機被膜の除去のメカニズムは、一般にアブレッシブ磨耗によるものと考えられており、ニッケル以外にアブレッシブ性を有する金属、セラミックス、その他の材料を適宜選択することができ、導電性を考慮した選択も可能である。
【0047】
異方導電性シート50及び電極58の距離を更にd8まで近接させた場合を図4(b)に示す。近接させる押圧力により突起部52及び62は、それぞれ更に左及び右に傾き、バンプ59の接触部60及び70(第2の接触部)において押圧される、対向する接触部60’及び70’(第2の接触部)で、バンプ59ひいては電極58との機械的接触及び電気的な導通が可能となるようになっている。図から分かるように、垂直線54及び64からこの第2の接触部60及び70までの距離は、それぞれD8及びD8’である。従って、バンプ59に注目すれば、接触部が第1の接触部56及び66から第2の接触部60及び70へとわずかながら、左に及び右にシフトしており、異方導電性シート50及び電極58の距離をd8まで近接させる過程において、突起部52、62の表面との摺動が生じていることが分かる。このとき、突起部52、62の第1の接触部56’、66’は、第2の接触部60’、70’よりも突起部52、62のより先端側に位置する。しかしながら、突起部の形状や構造を変更することにより、接触部の位置が変化しないようにすることも可能であり、逆に第2の接触部をより先端側に配置するようにさせることもできる。
【0048】
図5は、本発明の別の実施の形態に係る異方導電性シート110及び相手側電極(別の実施例では基板であってもよい)118の2つの接触状態((a)及び(b))を示す模式図である。この異方導電性シート110は、図中縦方向(厚み方向)に導電性を有することができるシートであり、下向きの表面(シート面)に突起部112が、垂直線114に対してほぼ垂直に延びている(この図において、下向き)。この突起部112は、図において半分よりやや小さい円形の輪郭を有しているが、立体形状であって、半球状の形状を有するものである。しかしながら、別の実施形態において、図の手前側から奥側へと長く延びる帯形状であってもよい。
【0049】
突起部112のほぼ先端に、電極118(保持する基板は図示しない)の接触部116(第1の接触部)において押圧される、対向する接触部116’(第1の接触部)が突起部112側にあり、電極118との機械的接触及び電気的な導通が可能となるようになっている。このときの異方導電性シート110及び電極118のそれぞれの基準面との間の距離は、d9である(図5(a))。電極118の表面において、突起部112の基底部(異方導電性シート110の表面との接続部)のほぼ中心を通る垂直線114は、ほぼこの第1の接触部116を通過している。
【0050】
この突起部112の第1の接触部116’近傍には、フレーク状のニッケル113が基本的に金属の状態で含まれており、導電性に寄与するばかりでなく、相手側の電極118の対向する第1の接触部116の表面の有機物等の被膜の少なくとも一部を削ることが可能となる。このような有機被膜の除去のメカニズムは、一般にアブレッシブ磨耗によるものと考えられており、ニッケル以外にアブレッシブ性を有する金属、セラミックス、炭素繊維、その他の材料を適宜選択することができる。導電性を向上させる機能を重視すれば、金属、一部の炭素繊維等の導電性のあるアブレッシブ材を適用することが好ましい。
【0051】
異方導電性シート110及び電極118の距離を更にd10まで近接させた場合を図5(b)に示す。近接させる押圧力により突起部112は、平たくつぶれ、電極118の接触部120(第2の接触部)にまで、接触が広がって押圧される、対向する突起部112の接触部120’(第2の接触部)も接触するようになり、電極118との機械的接触及び電気的な導通が可能となるようになっている。ここで、同様なことが中心線114の右側でも生じていることに留意されたい。図から分かるように、垂直線114からこの第2の接触部120までの距離は、D10である。従って、電極118に注目すれば、接触部が第1の接触部116から第2の接触部120へ連続的に増えていることになる。即ち、異方導電性シート110及び電極118の距離をd10まで近接させる過程において、突起部112の表面と電極118との接触面積が広がっていることが分かる。
【0052】
このときのメカニズムについて、図6を参照しつつ、考察する。異方導電性シート110のシート面に半球状の突起部112が配置されている。この半球は、図中、仮想中心Cを中心に半径Rの円から得られる円弧により描かれている。その下には、X軸130が、シート面と平行に延びている。突起部112の第1の接触部116’である所に対応するのが、X軸130条の点Oである。点Pは、図5(b)において120’に相当する位置であり、そのX軸130への正射影の位置が点Aである。即ち、距離OA=R×sinθである。しかるに、116’から点Pまでの距離は、半球112の外面に沿って測ると、X軸130上での距離OB(理論上、OB=R×θ)に相当する。距離OBは、明らかに距離OAより長いため、図5(b)において、第1の接触部116’から第2の接触部120’までのほぼ直線上の距離(距離OAに相当)に、距離OBだけの円弧となる線(図中のみ、実際には2次元的な表面)が対応するように収められていることになる。これは、突起部112がゴム成分よりなる弾性体であるため、より弾性率の高い材料からなる電極118の表面になぞるように、距離OBの円弧となる線が押し縮められているからできることである。逆にいえば、異方導電性シート110及び電極118の距離をd10からd9にしたときには、押し縮められた円弧となる線が本来の距離OBに戻るため、相手側の距離OAに相当する線(実際には面)に対して、せん断力を与える。つまり、異方導電性シート110及び電極118の互いの表面にあるコンタミ層がそれぞれ、圧縮及び引っ張りの力を与えられることになる。このとき、突起部112の表面にあるニッケル片の角が、電極118の表面にあるコンタミを削ることになる。
【0053】
一方、異方導電性シート110及び電極118の距離をd9からd10へと縮める過程においては、円弧となる線が押し縮められるため、せん断力が発生する。つまり、異方導電性シート110及び電極118の互いの表面にあるコンタミ層がそれぞれ、引張及び圧縮の力が働くことになる。このとき、突起部112の表面にあるニッケル片の角が、電極118の表面にあるコンタミを削ることになる。
【0054】
尚、このような考察は、理論に基づくものであり、実際に生じていることとは異なる場合があるが、上記実施例では、結果的にワイピング機能を有しており、上述のような構成が、メカニズムの詳細は別としても、本発明の課題を解決するのに有効であることに間違いはない。
【0055】
以上のように、本発明によれば、接触電気抵抗の原因となる有機物の除去に効果がある。なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲において、種々の設計変更及び修正を加えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施の形態に係る異方導電性シート及び相手側電極の模式図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る異方導電性シート及び相手側電極の模式図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る異方導電性シート及び相手側電極の模式図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る異方導電性シート及び相手側電極の模式図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る異方導電性シート及び相手側電極の模式図である。
【図6】突起部形状を説明する図である。
【符号の説明】
【0057】
10、50、110 異方導電性シート
12、22、42、52、62、112 突起物
14、24、44、54、64、114 垂直線
16、46、56、66、116 第1の接触部
18、58、118 電極
20、48、60、70、120 第2の接触部
26 接触部
59 バンプ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向に導電性を有することができる導電性シートにおいて、
1又はそれ以上の突起部をその先端に向って幅狭若しくは薄厚みとなるように該導電性シートのシート面に備え、
前記突起部は該導電性シートのシート面からその面に対して所定の角度で突出し、
基底部からの突出高さは前記突起部の基底部での幅若しくは厚み寸法のうち実質的により小さい寸法に対して20%以上であることを特徴とする異方導電性シート。
【請求項2】
前記突起部の高さが、3μmから10μmである、請求項1記載の異方導電性シート。
【請求項3】
前記突起部が、反対側のシート面にも配置されている、請求項1又は2記載の異方導電性シート。
【請求項4】
前記所定の角度は、約30度以上である、請求項1から3いずれか記載の異方導電性シート。
【請求項5】
前記所定の角度は、約80度以上である、請求項1から3いずれか記載の異方導電性シート。
【請求項6】
前記突起部は、アブレッシブ材リッチな部分をその表面若しくは表面近傍に有する、請求項1から5いずれか記載の異方導電性シート。
【請求項7】
前記アブレッシブ材は、ニッケルを含む、請求項6記載の異方導電性シート。
【請求項8】
前記アブレッシブ材は、炭素繊維を含む、請求項6記載の異方導電性シート。
【請求項9】
該異方導電性シートは、シリコーン樹脂からなる、請求項1から8いずれか記載の異方導電性シート。
【請求項10】
該異方導電性シートは、フッ素樹脂からなる、請求項1から8いずれか記載の異方導電性シート。
【請求項11】
請求項1から10いずれか記載の異方導電性シートを2つの基板で狭持し、該異方導電性シートを介して、その2つのシート面で接触することにより接続される前記基板及び前記異方導電性シートからなる導電接触構造において、少なくとも一方のシート面の接触部に対応する前記基板の表面に、バンプを設ける、導電接触構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−48939(P2006−48939A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−223826(P2004−223826)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(390033318)日本圧着端子製造株式会社 (457)
【Fターム(参考)】