説明

異方導電性接着剤及びこれを用いて形成された電子機器

【課題】導電性粒子が沈降しにくいにもかかわらず、導電性能がよい異方導電性接着剤、及び、この異方導電性接着剤を用いた電子機器を提供する。
【解決手段】本発明の異方導電性接着剤は、導電性粒子を含有した熱接着性ポリマーに、膨潤ゲルを形成できるポリマーを3wt%以上35wt%未満で添加したものである。また、前記膨潤ゲルを形成できるポリマーが結晶性ポリエステルであることが好ましい。また、前記導電性粒子がニッケル、銀、銅又はタングステンであることが好ましい。前記導電性粒子が水アトマイズ法により製造されたものであって、前記導電性粒子の平均粒子径が20〜50μmであることが好ましく、特に30〜40μmであることが好ましい。また、前記導電性粒子が金又は銀でメッキされていることが好ましい。本発明の電子機器は、上記異方導電性接着剤を用いて入力部と回路基板とが接着されて形成されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板や回路部品等を電気的に相互接続するために用いる異方導電性接着剤、及び、この異方導電性接着剤を用いて形成された電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子手帳や、携帯端末等の入力装置として、液晶等の表示手段の上に透明なタッチパネルを配置し、表示手段により表示される文字、記号、絵柄等の入力画面をタッチパネル上から指やペン等を用いて押圧することにより、押圧位置に応じた信号を前記表示手段の出力領域または入力対象である他の表示装置または電子機器に入力する入力装置が用いられている。
【0003】
このような入力装置で用いられる回路基板や回路部品等を電気的に相互接続するために、従来から、下記特許文献1、2に開示される異方導電性接着剤が用いられている。特許文献1のものは、導電性の粉体を含んだゴム弾性を有する導電性樹脂組成物の粉末を、熱硬化性樹脂及び/または熱可塑性樹脂からなる結合材100重量部に、0.5〜10重量部分散させたことを特徴とする異方導電性接着剤をその主旨としている。特許文献2のものは、熱接着性を有する高分子材料に、弾性体の表面に金属又は導電性金属酸化物の被膜を形成しかつ比重を1.7〜2.1としてなる導電性フィラーを分散させた異方導電性接着剤である。
【特許文献1】特開昭60−115678号公報
【特許文献2】特開昭62−243688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の異方導電性接着剤は、導電性粒子である金属粒子が重力によって沈降してしまい、接続信頼性を得ることができない場合があった。このため開発されたのが、特許文献2に開示されるような樹脂を核としたメッキされた導電性粒子(樹脂核粒子)である。しかし、この樹脂核粒子は軽いため沈降しにくいという利点を有するが、表面層のみが金属であるので、許容電流が金属粒子に比較して劣るだけでなく、耐静電特性も劣る。
【0005】
そこで、本発明の目的は、導電性粒子が沈降しにくいにもかかわらず、導電性能がよい異方導電性接着剤、及び、この異方導電性接着剤を用いて形成された電子機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の異方導電性接着剤は、導電性粒子を含有した熱接着性ポリマーに、膨潤ゲルを形成できるポリマーを3wt%以上35wt%未満、好ましくは3wt%以上15wt%以下で添加したものである。また、前記膨潤ゲルを形成できるポリマーが結晶性ポリエステルであることが好ましい。また、前記導電性粒子がニッケル、銀、銅又はタングステンであることが好ましい。前記導電性粒子が水アトマイズ法により製造されたものであって、前記導電性粒子の平均粒子径が20〜50μmであることが好ましく、特に30〜40μmであることが好ましい。なぜなら、例えば、タッチパネル等の電極取り出しに使用されている回路には、銀ペーストが使用されており、この銀ペースト部分の厚みが8〜15μmであるので、接続に使用する金属粒子径を20μm以下にすると銀ペーストラインに埋もれてしまい、接続信頼性を得られないことがある。また、平均粒子径が50μmを超えると、例えば、異方導電性接着剤をスクリーン印刷塗布する際に、メッシュを通過しないという不具合が発生してしまうことがあるためである。また、前記導電性粒子が金又は銀でメッキされていることが好ましい。
【0007】
本発明に係る電子機器は、上記の異方導電性接着剤を用いて、基材と前記基材に設けられた電極部とからなる入力部と、電極部を有する回路基板とを、前記電極部同士が電気的に接続されるように接着して形成されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、導電性粒子が沈降しにくいので、導電性能がよい異方導電性接着剤を提供することができる。また、スクリーン印刷にも適した異方導電性接着剤を提供することができる。
【0009】
また、この異方導電性接着剤を用いれば、以下の効果を有する電子機器を提供できる。
入力部と回路基板との圧着時にレジンフローが起こりにくく、初期剥離強度及び長期信頼性が従来のものより向上する。また、接着剤の使用量が的確な場合、入力部における電極部と回路基板における電極部とに導電性粒子がめり込み、初期接続抵抗及び長期信頼性が従来のものより向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、図を参照しながら、本発明の実施形態に係る異方導電性接着剤について説明する。図1は本発明の実施形態に係る異方導電性接着剤を用いて、回路基板や回路部品等を電気的に相互接続した状態を示す断面図である。1は上部基板、2は上部端子、3は膨潤ゲルを形成できるポリマーを含有した熱接着性ポリマーであるバインダー、4は下部基板、5は導電性粒子、6は下部端子である。上部基板1及び下部基板4はポリイミド又はPET(ポリエチレンテレフタレート)等、上部端子2及び下部端子6は銅、銅表面に金メッキを施したもの又は銀ペースト等からなる。
【0011】
本実施形態の異方導電性接着剤は、バインダー3と導電性粒子5とからなり、バインダー3は、膨潤ゲルを形成できるポリマーを熱接着性ポリマーに加えたもので、120〜180℃で加熱圧着可能な接着剤である。
【0012】
膨潤ゲルを形成できるポリマーとしては、結晶性ポリエステル等があり、熱接着性ポリマーに3wt%以上35wt%未満、好ましくは3wt%以上15wt%以下で添加したものである。
【0013】
熱接着性ポリマーとしては、ポリウレタン、飽和ポリエステル(非晶性)、SBS(スチレン−ブタジエン−スチレン)、SIS(スチレン−イソプレン−スチレン)、SEBS(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン)、SEPS(スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン)、EVA、共重合ナイロン、ダイマー酸ベースポリアミド、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム等があり、少なくとも1種類、または、2種類以上をブレンドして使用できる。
【0014】
導電性粒子5は、ニッケル、銀、銅又はタングステン等であり、上部端子2と下部端子6との距離に合わせて、水アトマイズ法により平均粒子径が20〜50μm、比表面積が0.1m2/g以下、タップ密度が6g/ml以下に調整されたものである。ここで、水アトマイズ法とは、高圧水を用いて熔融金属の粉砕と急冷凝固を瞬時に行い、金属粉を製造する方法である。また、導電性粒子5がニッケルである場合、導電性を良くするために金メッキが1〜10wt%施されているものでもよい。なお、1wt%未満だとニッケル粉表面全体を均一にメッキできず、導電性が不安定になる。また、10wt%を超える場合は、粉体のコストが著しく高くなるので、経済的でない。また、導電性粒子5がニッケルである場合、本実施形態の異方導電性接着剤に0.5〜20wt%配合されるものであることが好ましい。0.5wt%未満だと異方導電性接着剤の電気抵抗が高くなりすぎ、20wt%を超えると異方導電性接着剤の電気的異方性を保持できなくなるためである。
【0015】
なお、図1に示す状態は、本実施形態の異方導電性接着剤を、上部端子2が設けられた上部基板1と下部端子6が設けられた下部基板4との間にはさみ、外部から加熱圧着することにより形成される。このとき、導電性粒子5は、上部端子2と下部端子6との間に挟まれるように存在できるので、上部端子2と下部端子6とを容易に電気的に接続できる。
【0016】
上記のように構成された本実施形態によれば、導電性粒子が沈降しにくいにもかかわらず、導電性能がよい異方導電性接着剤を提供することができる。
【実施例】
【0017】
(実施例1〜4及び比較例1、2)
次に、本発明に係る異方導電性接着剤の実施例について説明する。表1に実施例1〜4及び比較例1、2の異方導電性接着剤の配合と、導電性粒子の沈降性及びスクリーン印刷塗布時の印刷性の試験結果を示す。
【0018】
【表1】

【0019】
表1より、実施例1〜4の配合を有する異方導電性接着剤においては、導電性粒子の沈降が見られず、スクリーン印刷も良好な状態で行うことができた。しかし、比較例1では、スクリーン印刷を良好な状態で行うことができたものの、結晶性ポリエステルが少ないため導電性粒子の沈降が見られた。比較例2では、沈降は見られなかったが、印刷適正がなく、スクリーン印刷ができなかった。これらの結果から、本発明に係る実施例1〜4の配合を有する異方導電性接着剤は、導電性粒子が沈降しにくく、かつ、スクリーン印刷にも適しているという相乗効果を奏するものであることがわかる。
【0020】
(実施例5)
次に、本発明に係る異方導電性接着剤を用いて形成したタッチパネル(実施例5)について説明する。図2は、本発明に係る異方導電性接着剤を用いて形成したタッチパネルの模式図である。
【0021】
図2に示すように、実施例5のタッチパネル7は、入力パネル部8と、フレキシブルプリント基板(以下、FPCと略す)9とを備えてなる。入力パネル部8は、その表面に電極10が設けられており、この電極10とFPC9に設けられた電極(図示せず)とは、本発明に係る異方導電性接着剤を介して電気的に接続されている。このタッチパネル7と同構成のタッチパネルの実施例5のFPC付近の断面写真を図3に示す。
【0022】
図3において、aはポリイミド層、bは接着剤層、cは銅箔、dはNiAuめっき層、eは本発明に係る異方導電接着剤層、fは銀ペーストからなる電極層、gは基材であって、eに存在する11は異方導電接着剤中の導電性粒子(Ni粉にAuめっきしたもの)である。a、b、c、dはFPCを形成する層であり、f、gは入力パネル部を形成する層である。なお、基材gには、フィルム(例えば、ポリエチレンテレフタレートからなるもの)、ガラス、プラスチック(例えば、ポリカーボネート、アートンからなるもの)が挙げられる。
【0023】
図3より、導電性粒子11が、NiAuめっき層dと電極層fとの両方にめり込んで、電気的な接続を達成していることが視覚的に分かる。
【0024】
(比較例3)
次に、実施例5と同様の構成のタッチパネル(比較例3)を作製した。但し、この比較例3のタッチパネルは、本発明に係る異方導電性接着剤の代わりに、プラスチック粉にAuめっきした導電性粒子を有する異方導電性接着剤を用いている。この異方導電性接着剤の層をE、導電性粒子を12として、比較例3のFPC付近の断面写真を図4に示す。
【0025】
図4より、導電性粒子12が、押しつぶされた状態となっていることが視覚的に分かる。
【0026】
次に、実施例5及び比較例3のタッチパネルの初期剥離強度及びその長期信頼性と、初期接続抵抗及びその長期信頼性との評価を行った。結果を表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
表2より、比較例3に比べ、実施例5のタッチパネルの方が、初期剥離強度及びその長期信頼性、初期接続抵抗及びその長期信頼性のどの評価結果もよいことが分かる。比較例3のタッチパネルでは、図3の断面写真に示されるように導電性粒子が押しつぶされているため、プラスチック粉表面の金めっき部分が剥離し、導電性が低減したものと考えられる。
【0029】
なお、ポリイミド層a表面に凹凸が複数ある場合、導電性粒子11がNiAuめっき層dと電極層fとにめり込んでいる部分が複数以上あるとほぼ断定できる。このとき、この表面の目視検査及び手触り検査により、凹凸の程度が適当であるかどうか(異方導電性接着剤中の導電性粒子11がNiAuめっき層dと電極層fとに適度にめり込んでいる状態であるかどうか)を検証すれば、異方導電性接着剤が適量であるかどうかを検知することができる。その結果、導電性粒子11がNiAuめっき層dと電極層fとに適度にめり込むのに適切な異方導電性接着剤の使用量を、量産する前の段階で調整できる。つまり、過不足のない異方導電性接着剤の使用量を容易に予め検知できる。この検証は実施例5及び比較例3のタッチパネルで以下のように行った。実施例5のタッチパネルにおける異方導電性接着剤の使用量を変えて複数作製し、目視検査及び手触り検査を用いてこれらのタッチパネルのポリイミド層表面を検査し、比較した。その結果、どれが適度な凹凸を有するかどうか判断でき、表2に示すように、適切な異方導電性接着剤の量が使用されているかどうかをその場で判断することができた。これに対し、比較例3のタッチパネルにおける異方導電性接着剤の使用量を変えて複数作製してみたが、どれにも凹凸がほとんどなく比較できない状態で、その場で異方導電性接着剤の使用量が適切であるかどうか判断できなかった。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係る異方導電性接着剤を用いて、回路基板や回路部品等を電気的に相互接続した状態を示す断面図である。
【図2】本発明に係る異方導電性接着剤を用いて形成したタッチパネルの模式図である。
【図3】本発明に係る実施例5のタッチパネルのFPC付近の断面写真である。
【図4】比較例3のタッチパネルのFPC付近の断面写真である。
【符号の説明】
【0031】
1 上部基板
2 上部端子
3 バインダー
4 下部基板
5 導電性粒子
6 下部端子
7 タッチパネル
8 入力パネル部
9 フレキシブルプリント基板
10 電極
11、12 導電性粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粒子を含有した熱接着性ポリマーに、膨潤ゲルを形成できるポリマーを3wt%以上35wt%未満添加した異方導電性接着剤。
【請求項2】
前記膨潤ゲルを形成できるポリマーが結晶性ポリエステルである請求項1記載の異方導電性接着剤。
【請求項3】
前記導電性粒子がニッケル、銀、銅又はタングステンである請求項1又は2に記載の異方導電性接着剤。
【請求項4】
前記導電性粒子が水アトマイズ法により製造されたものであって、前記導電性粒子の平均粒子径が20〜50μmである請求項1〜3のいずれか1項に記載の異方導電性接着剤。
【請求項5】
前記導電性粒子が金又は銀でメッキされている請求項1〜4のいずれか1項に記載の異方導電性接着剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の異方導電性接着剤を用いて、基材と前記基材に設けられた電極部とからなる入力部と、電極部を有する回路基板とを、前記電極部同士が電気的に接続されるように接着して形成された電子機器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−152233(P2006−152233A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−111608(P2005−111608)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(503346913)タツタ システム・エレクトロニクス株式会社 (31)
【Fターム(参考)】