説明

異方性ノイズを除去するためのプログラムと異方性ノイズ除去方法

【課題】本発明は、細長い線状構造物を高精度に分析が可能な画像フィルターとして機能する異方性ノイズを除去するためのプログラムと、異方性ノイズ除去方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のプログラムは、コンピュータを、画像上の注目点の近傍に近傍領域を想定し、探索線を仮定してこれに対する線集中度を計算する線集中度計測手段82、線集中度が最大となる探索線をベクトル集中線として求めるベクトル集中線取得手段83、線集中度が所定値以上の部分を線分として画像上のすべての線分の情報を取得する線分情報取得手段84、線分の中の各画素に対して異方性の近傍領域を設定する近傍領域設定手段85、近傍領域内でノイズ処理を行うノイズ除去手段86、として機能させ、画像の線状領域の異方性ノイズを除去させることを主要な特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼底の毛細血管のような細長い線状構造物を高精度に分析可能な画像フィルターとして機能する異方性ノイズを除去するためのプログラムと、異方性ノイズ除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、糖尿病患者に代表される生活習慣病患者数は年々増加し続け、本邦で糖尿病の罹患人口は平成15年の厚労省の発表では740万人、その予備群の患者数を含めると2千万人に近づいていると予想されている。糖尿病患者やその他の生活習慣病患者を救うと共に、これを予防し、QOL(Quality of Life)を向上させることが大きな課題となっている。
【0003】
さて、生活習慣病には様々なものがあるが、例えば高血糖の結果発症する血管障害は毛細血管が多数存在する眼底などに顕著に現れる。その他の部位でも同様の箇所がある。最近この眼底異常の早期診断法として、特徴的な因子情報の1つである酸素飽和度の可視化が試みられている。これは、異なる波長の光源で眼底を照らしたとき、血中ヘモグロビンの分光特性が酸素との結合状態によって異なることを利用するものである。例えば、図12は眼底反射スペクトルの酸素飽和度依存性を示す。これによると545nm、570nm、584nmでは高低の酸素飽和度が一致するが、545nm近傍、例えば539nmや、548nm、577nmでは反射率が異なり、この近傍ではオキシヘモグロビン(酸素血)とデオキシヘモグロビン(脱酸素血)の吸収度の差が大きく、血液の酸素吸収の状態を選択的に検出できることが分かる。さらに、この特性により酸素飽和度の状態を可視化できることが分かる。
【0004】
なお、生活習慣病、例えば糖尿病には、上述した血管障害の目安となる血中酸素飽和度のほかに、血糖値、タンパク質量、脂質量等がある。これらが糖尿病の指標とされる理由を説明すると、糖尿病は慢性的な高血糖状態になり、グルコース(ブドウ糖)の血中濃度が異常に高い状態が継続するようになる。この状態が血管障害を招き合併症を起して視力を喪失させ、腎臓の機能を低下させる。このとき、体内では代謝異常が生じタンパク質、脂肪などが変動するなどの生化学的異常により機能的、組織学的異常を惹起する。例えば血液中には赤血球タンパク、アルブミン、血漿タンパクなどのタンパク質や、中性脂肪(トリグリセライド)、コレステロール、リン脂質、遊離脂肪酸などのいろいろな脂質成分脂質成分が存在している。従って、糖尿患者の血液を検査すると病気が進行前の状態と比較してタンパク質量、脂質量に変化がみられる。また、網膜症の原因因子として重要な増殖因子(VEGFなど)の増加や、後期糖化反応生成物(AGE)の産生亢進による急速な血液中への蓄積が、眼底検査の直接の対象である網膜症、その他の末梢神経障害、その他の循環障害を引き起こすし、細胞に含まれるAGE受容体(RAGE)もAGEとの作用で細胞を老化させる。
【0005】
従って、上述した血中酸素飽和度、血糖値、タンパク質量、脂質量、細胞の老化などの因子情報に変化があれば、いち早く糖尿病と早期に診断することができ、予防策を講じることが可能になる。高血圧や高脂血症などのその他の生活習慣病でも、それぞれ同様である。これらの因子情報は、血管に光を照射したとき、それぞれに個別の波長で特有の光吸収を示す。このため注目する生活習慣病ごとにそれぞれ個別の波長の光を照射し、照射した部位の光吸収度を検出すれば、この結果に基づいてこの生活習病の進行状況を早期診断することが可能になる。そして、これを臨床現場で利用できれば、従来のカメラのように単なる眼底血管の形状の観察だけではなく、得られた因子情報を使って質の高い診断を行うことができる。そして、これは今後予想される高齢化社会のQOL向上に大きな貢献をするものである。
【0006】
さて、従来のこうした眼底の可視画像を得る方法としては、光源として白色光源を用い、眼底からの反射、散乱光をフィルターで波長ごとに撮影して分光画像を取得していた。また、同様に白色光源を照射し、光学素子を機械的に掃引して更にこれを高速フーリエ変換し、各波長のスペクトルを得ることも研究されている。なお、光コヒーレンストモグラフィー(OCT)は眼底の深さ方向断面を2mm〜3mmにわたって撮像ができるが、現状では形状や構造のみの可視化に限られており、生活習慣病の因子情報を検出し、その血管を流れる血液の機能イメージを得ることはできない。
【0007】
従来の分光測定装置の一例として、白色コヒーレントパルス電磁波を光源とする分光測定装置が提案されている(特許文献1)。特許文献1で開示されている分光測定装置は、白色コヒーレントパルス電磁波を試料透過(あるいは反射)光の光源として用いると共に、時系列信号をフーリエ変換して分光スペクトルを取得し、これを基盤として時間分解及び/又は空間分解を行い、分光イメージングするものである。誘電体物質を構成要素とする電子素子の製造プロセスで静的誘電率をリアルタイムに自動測定するためのものである。しかし、この分光測定装置の検査対象は、血管情報分析装置が対象とする患者の血管とは検出対象がまったく異なり、装置が大掛かりで医療には不向きなものである。
【0008】
これに対し、異なる波長の光で血液を照明することで網膜の血液の酸素化を判断する網膜機能カメラが提案されている(特許文献2)。特許文献2の網膜機能カメラは、第一波長帯の第一光源と、第二波長帯の第二光源とを有し、酸素化血による第一光源帯域の吸収度は第二波長帯の吸収度より大きくかつ脱酸素化血による第一光源帯域の吸収度は第二波長帯の吸収度より小さく、第一光源および第二光源からの光を眼の網膜の一部上に選択的に合焦させる手段と、それぞれの波長帯域で照明された網膜の一部のそれぞれのイメージを作るためのイメージング手段と、このイメージング手段により得られたイメージを精査するための処理手段とを備える。
【0009】
第一光源帯域と第二光源帯域は480nm〜1000nmの間から選択され、酸素血と脱酸素血の吸収度の差が大きい帯域が選択される。例えば、第一光源帯域が実質的に488nm、第二光源帯域が600nm、630nm、635nm、700nmの1つ、第一光源帯域が実質的に635nm、第二光源帯域が830nm、910nmの1つ、などである。450nm〜500nmの青色光と600nm〜805nmの近赤外光とを対比させ、機能イメージを得ることができる。
【0010】
しかし、特許文献2の網膜機能カメラはスキャンする必要があり、また、測定中眼球が光に反応して動いたり瞳孔が縮小したり、拍動が影響したりして、検査結果にノイズが混入する可能性が高く、このカメラで検出精度を向上させるのは本質的に難しい。そして、基本的に画像処理で情報を取得しようとする新たな発想のものではなく、酸素吸収度以外の生活習慣病の多くの因子を検出するためには対応しきないものであった。
【0011】
ところで、ノイズ除去に関し、本発明者らの1人は、既に画像の中から線情報だけを高速に取り出すことができる線集中度画像フィルターを提案している(特許文献3参照)。この線集中度画像フィルターは、画像上の複数の測定点に対して、各測定点を通る探索線の両翼に計測用の一定形状の近傍領域を用意するとともに、該近傍領域内に含まれる複数の近傍点で画像の輝度勾配ベクトルの向きを計測し、近傍点のそれぞれで輝度勾配ベクトルの向きと探索線の方向の差を評価する集中度を計算し、近傍領域内のすべての集中度から測定点に対する線集中度を計算し、該線集中度が極大になったとき探索線に沿って線情報がある旨の判定を行うもので、さらに、輝度勾配ベクトルの向きと探索線の方向をそれぞれ離散化するとともに、予め集中度を基に各測定点で共用できる基礎加算値を計算しておき、輝度勾配ベクトルの向きを計測したときに、探索線の方向ごとに基礎加算値の候補の中から1つを選んで近傍領域内で加算することにより各測定点の線集中度を計算し、該線集中度が極大となったとき探索線の方向に沿って線情報が存在すると推定するものである。
【0012】
【特許文献1】特開2003−279412号公報
【特許文献2】特開2005−500870号公報
【特許文献3】特開2005−284697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上説明したように、従来は生活習慣病の一因子である酸素飽和度の可視化が提案されているのにすぎず、しかも可視化にはかなりの時間を要するものであった。そして、分光測定によるため光源の分光輝度が弱くなり、測定結果にノイズが混入してしまう。また、カメラをスキャンする必要があり、装置も大掛かりなものとなっていた。さらに、酸素吸収度を効果的に検出する545nm付近の緑色光を使うことについて、その有効性が認知されていない。そして、酸素吸収度以外の生活習慣病の因子に転用できるものではない。
【0014】
すなわち、各生活習慣病の原因となる因子は1つに限られず、また、糖尿病、高血圧症、高脂血症、その他の生活習慣病を併発したような場合は、同時に検査すべき因子が多数存在する。そして、眼底の血管撮影法として、従来、血管中に注射することにより蛍光色素を投与する蛍光造影法による撮像が広く利用されているが、人によっては蛍光色素の投与でショック状態を誘引する可能性があり、この方法は患者にとって侵襲度が大きい。
【0015】
従って、生活習慣病の様々な因子情報、例えば血中酸素飽和度、血糖値、タンパク質、脂質、血管の老化などを検査することができ、注目する生活習慣病の因子を一因子に止まらず同時に複数因子まで検査することが可能で、検査結果にノイズが少なく、血液が流れる血管から上記因子の状態(血管情報)を高精度に検出できるコンパクトで実用性があり、安価な非侵襲型の血管情報分析装置が開発されることが望まれる。このためには、画像情報から毛細血管のような細長い線状構造物を高精度に分析が可能な画像フィルターと、異方性ノイズ除去方法が不可欠である。
【0016】
そこで本発明は、眼底の毛細血管のような細長い線状構造物を高精度に分析が可能な画像フィルターとして機能する異方性ノイズを除去するためのプログラムと、異方性ノイズ除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のプログラムは、コンピュータを、画像上の注目点の近傍に近傍領域を想定し、探索線を仮定してこれに対する線集中度を計算する線集中度計測手段、線集中度が最大となる探索線をベクトル集中線として求めるベクトル集中線取得手段、線集中度が所定値以上の部分を線分として画像上のすべての線分の情報を取得する線分情報取得手段、線分の中の各画素に対して異方性の近傍領域を設定する近傍領域設定手段、近傍領域内でノイズ処理を行うノイズ除去手段、として機能させ、画像の線状領域の異方性ノイズを除去することを主要な特徴とする。
【0018】
本発明の異方性ノイズ除去方法は、画像の輝度ベクトルの線集中度を求め、線の方向と幅を検出し、検出した線状領域に対して異方性ノイズ除去処理を行うことを主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のプログラムと異方性ノイズ除去方法によれば、細長く立体的に入り組んだ線状構造物に対して、画像のコントラスト等のノイズに影響されず、高精度に線状構造物の抽出が行え、さらに、その長手方向の一様性を活かして、線状構造物内で当該線状構造物特有のノイズ除去が行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の第1の形態は、コンピュータを、画像上の注目点の近傍に近傍領域を想定し、探索線を仮定してこれに対する線集中度を計算する線集中度計測手段、線集中度が最大となる探索線をベクトル集中線として求めるベクトル集中線取得手段、線集中度が所定値以上の部分を線分として画像上のすべての線分の情報を取得する線分情報取得手段、線分の中の各画素に対して異方性の近傍領域を設定する近傍領域設定手段、近傍領域内でノイズ処理を行うノイズ除去手段、として機能させ、画像の線状領域の異方性ノイズを除去するためのプログラムである。この構成によって、細長く立体的に入り組んだ線状構造物に対して、高精度に線状構造物の抽出が行え、さらに線状構造物内で当該線状構造物特有のノイズ除去が行える。
【0021】
本発明の第2の形態は、第1の形態において、近傍領域が注目点の近傍に設けられた狭幅固定の領域であることを特徴とするプログラムである。この構成によって、画像のコントラスト等のノイズに影響されず、高精度に線状構造物の抽出が行える。
【0022】
本発明の第3の形態は、第1または第2の形態において、画像が血管情報であることを特徴とするプログラムである。この構成によって、毛細血管などが入り組んだ画像を画像処理することで生活習慣病の因子を多数容易に検出すると共に、安価でコンパクトな血液分析が可能になる。
【0023】
本発明の第4の形態は、第1〜第3のいずれかの形態において、異方性の近傍領域が、線状領域の長手方向に長い矩形または楕円であることを特徴とするプログラムである。この構成によって、長手方向の一様性を活かして、線状構造物内で当該線状構造物特有のノイズ除去が行える。
【0024】
本発明の第5の形態は、画像の輝度ベクトルの線集中度を求め、線の方向と幅を検出し、検出した線状領域に対して異方性ノイズ除去処理を行うことを特徴とする異方性ノイズ除去方法である。この構成によって、細長く立体的に入り組んだ線状構造物に対して、画像のコントラスト等のノイズに影響されず、高精度に線状構造物の抽出が行え、さらに、その長手方向の一様性を活かして、線状構造物内で当該線状構造物特有のノイズ除去が行える。
【0025】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1における画像フィルターとして機能する異方性ノイズを除去するためのプログラムと異方性ノイズ除去方法の説明をする。実施の形態1のプログラムは、とくに血管情報分析装置に搭載されたとき有効であるため、この血管情報分析装置に搭載された画像フィルターとしてのプログラムと異方性ノイズ除去方法について説明をする。従って、本発明の異方性ノイズを除去するためのプログラムと異方性ノイズ除去方法は、血管情報分析装置に用途が限られるものではなく、細長い線状構造物を高精度に分析する装置であれば、如何なる装置にも利用できるものである。なお、実施の形態1の血管情報分析装置は、眼底の毛細血管の血液情報を検査するものを対象としているが、唇やその他の検査部位であっても、血管に光を照射することにより血液のもつ生活習慣病の因子情報を測定可能な部位であれば検査することができる。
【0026】
図1は本発明の実施の形態1における画像フィルターを搭載した血管情報分析装置のブロック構成図、図2は照射する単波長の光の発振スペクトルの一例を示す図、図3は眼底酸素分布を測定した血管情報分析像の写真、図4は545nmの緑色レーザー光を唇に照射したときに得られる画像の写真であり、図5は図4の写真の画像情報から血管部分だけの画像情報を抽出した画像の写真、図6(a)は毛細血管が存在する部位に仮定する狭幅固定の近傍領域の概念図、図6(a)(b)は狭幅固定の近傍領域における輝度勾配ベクトルの分布の実際を説明する図、図7は輝度勾配ベクトルの狭幅固定の近傍領域における理想的な分布を説明する図、図8は本発明の実施の形態1におけるノイズ除去のためのプログラムのブロック構成図、図9(a)は空間軸での等方的な小さな観測領域の説明図、図9(b)は空間軸での等方的な大きな観測領域の説明図、図9(c)は空間軸での異方性の観測領域の説明図、図10は本発明の実施の形態1における異方性ノイズ除去方法の第1のフローチャート、図11は本発明の実施の形態1における異方性ノイズ除去方法の第2のフローチャートである。
【0027】
さて、この血管情報分析装置は、眼球に互いに異なる複数の単波長からなる1組、またはこれが複数組となった光をビデオレート、すなわち人間が1コマとして認識できない映像の1フレーム(1/30秒)程度、例えば数mm秒〜数十mm秒のパルス幅で順次照射する。生活習慣病の一因子ごとに異なる数波長で測定する。これを複数組繰り返し、複数因子を検査する。複数の因子間で共通する情報は因子間で共有することができる。眼底で反射された反射波はCCDなどによって撮像され、波長ごとに画像情報を取得する。この画像情報を基に、血液機能イメージ(血管情報像)を生成するものである。従って、従来のように白色光を照射して、反射波を分光して複数の画像情報を得るものではなく、単波長の光で各光ごとに画像情報を得るものである。なお、照射する光の発振スペクトルの一例を図2に示す。本明細書において単波長の光とは、図2に示すような狭帯域の波長の光のことである。
【0028】
図1は実施の形態1における画像フィルターを搭載した血管情報分析装置のブロック図を示す。図1において、1は眼球である。2ijは異なる単波長の光を照射する光源であり、検査する生活習慣病の因子が1つの場合は1組設けられ、検査する因子が複数の場合は複数組設けられる。添字の「i」は複数の因子を検査するときの因子(i=1,・・,m)を示し、「j」は検査する各因子で使う光の波長(j=2,・・,n)を示す。従って、光源2ijは全体でm×(n−1)個設けられ、m×(n−1)個の波長の光が照射される。光源2ijからの光は眼球1に向けて照射される。
【0029】
ここで、一因子に対して2個以上の波長の光源を設けている理由は、酸素飽和度で言えば、図10に示すように545nm、570nm、584nmで高低の酸素飽和度が一致し、例えば539nmや、548nm、577nmにおいてはオキシヘモグロビンとデオキシヘモグロビンの光吸収の差が大きく、これらの箇所で反射率が異なり、比較すると酸素飽和度を測定できるからである。すなわち、酸素飽和度に依存しない高低酸素飽和度が一致した1点を比較のための基準点とし、反射率の異なる酸素飽和度に依存した他の測定点の、少なくとも2点が必要であり、さらに検出精度を上げるためにはより多くの測定点を設けるのが好適であるためである。この場合、各測定点間で重み付けして酸素飽和度が算出されることになる。なお、タンパク質や脂質などについても同様であるが、その検査物質、例えば血漿タンパクなのか、中性脂肪なのか、等が特定されたとき、それぞれ照射する光の波長が定まる。
【0030】
光源2ijの波長の範囲はどのような範囲でも生活習慣病の因子を測定可能な光を照射できるものであればよい。ただ、紫外線領域はできるだけ避けた方がよい。半導体レーザー、固体レーザー、光ファイバーレーザーなどのレーザーや、LEDなどの光源が、制御し易く好適である。上述したように酸素飽和度を検査するための波長は緑色であるが、緑色2波長、緑色3波長、それ以上の数の緑色光を照射すればよい。なお、レーザー光を照射するに当っては、米国規格ANZIや日本工業規格JIS、その他の規格に照らして、少なくとも2mW/mm以下のレベルを守る必要があり、紫外線域の波長はとくに注意すべきである。
【0031】
図1に示す3は複数の光源2ijから照射されるパルスをパルス列として順次照射する光結合部である。各光源2ijから照射されたパルスは、ここで集光されて光結合部3に結合された出射端からパルス列として照射される。この各パルス光の出射位置と眼底等の検査部位を一定とし、固定的な配置とすることが実施の形態1における血管情報分析装置の画像のずれをなくす点で重要である。
【0032】
光結合部3としては、例えば複数の光ファイバーを1本の光ファイバーに光を集合させる光結合器を利用すればよい。なお、光ファイバーが細く、ケーブル状に束ねたとき各パルス光の出射位置が一定位置と看做せるようであれば、単純に各光源の光を個別の光ファイバーで導き、端を束ねて出射端とするのでもよい。また、光結合部3を各光源2ijから照射された光を所定のタイミングで能動的に切り換えてパルス列として出力する光スイッチでもよい。この場合後述の制御部5によって制御される。
【0033】
なお、異なる単波長の光を照射する光源を複数設けて、複数の単波長の光を照射するのではなく、光源から照射された光を電気的光変調器等の光変調部で変調して複数の単波長の光として出射端から照射するのでもよい。また、一部の単波長の光をそれぞれの光源から、残りの単波長の光は変調器によって変調することにより、1光源から出射することもできる。この構成によって、光源の数を減らしてコンパクトな構成にすることができる。
【0034】
図1において、4は眼底等からの反射光を受光するCCDやCMOS等の撮像部、4aは撮像制御部、4bは反射光の受光で撮像部4に蓄積された電荷が出力される画像信号処理部、5は制御部、6は記憶部である。
【0035】
光源2ijの照射で撮像部4の各画素が反射光の光を受光すると、撮像部4から蓄積された電荷が画像信号として画像信号処理部4bに出力され、ここで撮像ノイズを除去され、増幅されて、A/D変換されてから画像情報として制御部4に転送される。
【0036】
制御部5はハードウェア的には血管情報分析装置全体のシステムを制御する1個または複数個のプロセッサーであり、記憶部6に格納されているプログラムを読み出して所定の制御機能を実行する機能実行手段として構成される。
【0037】
記憶部6はハードウェア的にはROMとRAM、さらに画像情報を格納する不揮発メモリ等から構成され、撮像部4が得た画像情報は一旦記憶部6の検査情報メモリ部6aに保存される。各生活環境病の各因子ごとに、所定の波長の発光で検出された基準となる画像情報と、測定用の波長で検出された測定画像情報が1組として格納される。
【0038】
次に、図1に示す制御部5には次の機能実現手段が搭載されている。7は検査情報メモリ部6aに保存された画像情報を基に血管の血液状態情報を算出するデータ演算手段、8は画像情報から血管部分を抽出すると共に取得した血管機能イメージ(血管情報像)に色付けをしたりその他の画像処理を行う画像処理手段である。そして、8aは、画像情報のノイズを取り除く画像フィルターである。なお、本発明ではビデオレートで画像情報を取得しており、光の照射を受けて瞳孔が収縮する時間の数十分の1の短時間に撮像を終えるため、眼の動きが原因のノイズが混入する可能性は低い。
【0039】
さて、データ演算手段7は波長ごとの血管の血液状態情報、すなわち生活習慣病の因子情報を算出する。酸化飽和度で言えば、酸素飽和度に依存しない545nmの基準となる血管の画像情報と、酸素飽和度に依存した近傍の539nmで検出された血管の測定画像情報の、少なくとも2つの画像情報の強度(輝度)を求め、両者の輝度の強度比を計算することにより、血液の酸素飽和度を求めることができる。図3は眼底酸素分布を測定した血管情報分析像の一例である。なお、この図3の血管情報分析像は人間のものではなく、猿に対して行ったものである。
【0040】
画像処理手段8はデータ演算手段7が演算を行う前に、血管の画像情報から画像フィルター8aによって血管の抽出とノイズ除去を行う。画像フィルター8aは複数の機能実現手段から構成された異方性ノイズ除去処理が行える手段であって、読み出された異方性ノイズを除去するためのプログラムがコンピュータで実行されて機能するものである。その詳細については後述する。各波長で取得した画像情報から血管部分だけを抽出し、この血管部分の画像のノイズを背景の情報が影響しないように補正する。図4は545nmの緑色レーザー光を唇に照射したときに得られる画像であり、図5はこの画像から血管部分だけの画像情報を抽出して補正を行った画像である。図5のような画像を基準となる画像情報と測定画像情報とでそれぞれ作り、血管部分の対応位置で画像の強度比を求め、強度比の2次元分布を取得し、これを段階別で色分けなどしたものが図3のような血管情報分析像となる。
【0041】
図5に示す画像の中央の丸く明るいグレーの領域が、眼底の毛細血管が多数存在するところであり、この領域の中で白くみえているところが酸素の分布が比較的多いところである。中央の白い部分の中で黒っぽく表示されているところが最も酸素濃度が高いところである。これに対し、グレーの丸い領域の外部の暗い部分は各光源2ijからの光量が足らず、照度が低い部分である。しかし、実施の形態1における血管情報分析装置においては、この中央の情報で十分な情報量が得られる。
【0042】
次にデータ演算手段7は、このようにして得られた画像情報を基に、画像強度から血管部分の強度比を計算し、強度比分布の情報を生成する。画像処理手段8はこれに基づいて血管情報分析像を生成する。この血管情報分析像、さらに原画像等は制御部5によって後述する表示装置10に表示させることができる。また、このとき取得された血管情報分析像のデータや画像情報は、1因子ごとに検査情報メモリ部6aに格納される。
【0043】
なお、基準となる画像情報と測定画像情報をそれぞれ1つずつ測定するほかに、第2の波長、例えば548nmで撮影した測定画像情報などがあるときは、この第2の波長548nmで撮影した測定画像情報と基準となる画像情報とから得られた第2の強度比を計算するのがよい。さらに第3、第4の波長があれば第3、第4の強度比を計算し、これらを第1の強度比との間で重みづけした強度比を算出して、強度比分布とする。画像処理手段8はこれに基づいて血管情報分析像を生成する。従って、第2、第3の波長で測定して全体として強度比を算出すれば、第1の波長だけで測定した場合よりさらに精度の高い血管情報分析像となる。
【0044】
続いて、図1に戻って血管情報分析装置の表示機能について説明する。9は表示制御手段、10は表示制御手段9からの出力で血管情報分析像、原画、あるいは演算によって得られた酸素飽和度等の数値データを表示する表示装置である。制御部5は表示制御手段9によって検査情報メモリ部6aの血管情報分析像、画像情報等のRGB信号などを表示装置10に出力させる。表示装置10では、このRGB信号に従って血管情報分析像、原画像等を表示する。
【0045】
また、血管情報分析装置の光源制御機能は制御部5が行う。図1において、11は制御部5に設けられたタイマ等の計時手段である。少なくともmm秒をカウントできる。制御部5は、画像信号処理部4bに撮像部4から画像信号を出力するのに同期して次の光源2ijの駆動部(図示しない)を順に動作させるが、計時手段11によってカウントされた所定の時間遅延させたタイミングで次の光源2ijを動作させることもできる。これにより、各光源2ijのパルスは光結合部3によってパルス列とされ、眼底からの反射光は撮像部4で受光される。
【0046】
このように実施の形態1における画像フィルターを搭載した血管情報分析装置は、眼球に異なる波長の1組または複数組の光をビデオレートで順次照射し、この光を極短時間のパルスとすることによって眼球の動き等のノイズを除き、この反射波の画像情報を基に血管の血液状態情報を測定する。従って、従来のように白色光を照射し、反射波を分光して複数の画像情報を取得して分析するものではなく、異なった単波長の光ごとにそのまま画像情報を得て、画像処理によって血液状態の情報を測定するものである。このため、安価でコンパクト、きわめて簡素な構成で、実用的な非侵襲型の血管情報分析装置にすることができる。また、実施の形態1における血管情報分析装置は、検査対象が血管であることを利用して、この特性を活かして画像処理によって精度の高い情報を得るものである。
【0047】
そこで、実施の形態1における画像フィルター8aについてさらに詳細に説明する。実施の形態1における画像フィルター8aを搭載した血管情報分析装置では、瞬間的に光を照射して眼底等のスポットライト的な画像を取得し、これによって血管情報を抽出する。このときスポットライト的な画像であるため、画像に大きなコントラストの差が生じることが避けられない。通常の画像処理では、コントラストの影響を取り除くために前処理が必要で、演算が複雑で時間がかかり、処理結果はノイズが多く、血管情報を抽出することは難しい。
【0048】
このため実施の形態1の画像フィルター8aでは、得られた画像情報(入力画像情報)を線集中ベクトル場(Line-convergence vector field)として捉え、線状領域のモデルを使ってコントラスト、線の幅等の影響を受けずに血管情報(細長い線状構造物)を検出する。このとき輝度の1次微分ベクトル(以下、輝度勾配ベクトル)の強度を無視し、ベクトルの方向分布のみに着目する。ベクトルの方向だけに注目すると、血管が理想的な線状凸領域の場合、尾根線は輝度の最大値をもつ。この状態で輝度勾配ベクトルはこの尾根線と直交する向きを持ち、この尾根線の両側で対向して分布し、尾根線に向って揃って線集中する。このような性質を利用して血管情報(向きと幅)を抽出し、不要なノイズを除去するものである。なお、このような輝度勾配ベクトルが集中する尾根線をベクトル集中線という。図6(a)は毛細血管が存在する部位に仮定する狭幅固定の近傍領域の概念図、図6(b)は狭幅固定の近傍領域における輝度勾配ベクトルの分布の実際を説明する図である。図7は輝度勾配ベクトルの狭幅固定の近傍領域における理想的な分布を説明する図である。図6(b)、図7においてVはベクトル集中線、r、rは狭幅固定の矩形の近傍領域を示し、φはベクトル集中線V(尾根線)の方向、Wは後述する線集中度の計算で線分(血管)と判断された幅である。
【0049】
そこで、本発明の特徴である実施の形態1における画像フィルター8aの構成を図8に基づいて説明する。この画像フィルター8aは、以下説明する各機能を実行するプログラムが記憶部6(記憶媒体)に格納されており、これを搭載した装置(実施の形態1では血管情報分析装置)のプロセッサー(本発明のコンピュータ)に読み出されて各手段が連携して異方性ノイズ除去処理を実行する。図8において、81は注目点設定手段であり、画像上に注目点Pを仮定する手段である。82は注目点設定手段81によって設定された注目点Pの近傍の線集中度を求める線集中度計測手段である。線集中度計測手段82は、注目点Pの近傍に狭幅固定の近傍領域r、rを想定して、探索線(仮定のベクトル集中線)を仮定し、線集中度Cを計算する。
【0050】
次に、83は線集中度計測手段82が計算した線集中度Cの中で最大となる探索線(ベクトル集中線)を求めるベクトル集中線取得手段である。このベクトル集中線取得手段83の作用によって線の尾根が求まる。そして、84は線分情報取得手段である。線分情報取得手段84は線集中度Cがノイズ耐性値以上の部分を線分として判断する。これにより、全ベクトル集中線Vが取得されている場合は、画像上のすべての線分(細長い線状構造物、例えば血管)の存在と、方向、幅が分かる。
【0051】
続いて、85はノイズ除去のための異方性ノイズ除去処理を行うための、後述する図9(d)(e)のような長手方向に長い異方性の近傍領域(観測領域)を設定する近傍領域設定手段である。近傍領域設定手段85は、方向と幅とが分かった線分の中に注目点Pを仮定し、この注目点Pに対する異方性フィルターとしてのノイズ除去のための観測領域を決定する。そして、86はノイズ除去手段、87は処理判定手段であり、メディアンフィルターやモフォロジカルフィルターなどのノイズ評価値が最小となるようなノイズ除去処理を行う。処理判定手段87は、すべての注目点Pで次々とノイズ除去処理を繰り返し、ノイズ除去が終了したか否かをチェックし、終了していればノイズ除去処理を終了する。
【0052】
以上説明した各手段から構成される画像フィルター8aは、画像から細長い線状構造物を抽出するとき、ベクトル集中線取得手段83によって画像中に出現した線状凸領域であるベクトル集中線V(尾根線)を検出する。具体的には、処理対象の血管画像に対して仮定の注目点Pを次々と移動し、それぞれの注目点Pで狭幅固定の近傍領域r、rを想定して、線集中度Cが最大となる探索線を求める。なお、線集中度Cはベクトルの集中を評価できる所定の範囲で単減少する余弦関数等の関数を利用して評価する評価値である。余弦関数の場合線集中度Cは−1〜+1の値をもつ。尾根線が抽出できれば、線分情報取得手段84によって、線集中度Cがノイズ耐性値、例えば0.5以上の部分が線分であるという定義の場合、この0.5以上の部分が細長い線状構造物と判断され、線分の存在と、幅、方向が取得できる。
【0053】
このように、線集中度がノイズ耐性値より大きい値だけを線情報と判断し、それより低い場合を線とは看做さず除去するので、線分を残し画像を鮮明にすることができる。ベクトルの向く方向で線集中度Cを計算するのでコントラストの影響は受けにくく、狭幅固定の近傍領域r、rによる線集中度Cは非常に狭い小さな領域だけであるため、ノイズの影響を受けず、尾根線だけをシャープに抽出することができる。実施の形態1のように、単波長の光をごく短時間照射するような線集中度Cでは、10倍以上のコントラスト差を持つ場合でも、異なる方向で交叉する線をそれぞれ個別に検出することが可能で、実画像が入り組んだ複雑な構造であっても安定した線の方向と広がりの検出が可能になる。
【0054】
続いて、近傍領域設定手段85は、方向と幅とが分かった線分の中に注目点Pを仮定し、細長い線状構造物特有の(ここでは血管特有の)異方性ノイズ除去をノイズ除去手段86によって行う。
【0055】
この線状構造物特有の異方性ノイズ除去について説明する。微細な線状構造物を高速に測定するとき、機器から混入するノイズ(外乱)の時間的、空間的発生確率は一般的に正規分布に従う。従って、時間軸、空間軸における平滑化処理によりこの除去が可能である。
【0056】
しかし、ごく短時間で時間的変化するような場合には、時間軸によるノイズの推定と除去に必要な十分な測定時間を確保できない。加えて、測定対象が毛細血管などのように非常に細長い形状をしている場合、図9(a)、図9(b)に示すとおり、一般的な空間軸での等方的な観測では適当な観測領域を確保できない。すなわち、このような場合の測定においては、図9(a)に示すような観測領域Aを使うのでは領域が小さすぎてノイズ除去能力が低下してしまうし、図9(b)に示すような観測領域を使うのでも、観測領域Aが大きすぎて背景の画像の影響で画像の劣化が大きくなってしまう。
【0057】
そこで、図9(c)のように、対象領域の形状に応じて対象領域を決定する異方性ノイズ除去処理が有効となる。しかし、実画像においてはコントラストに多様性がある上、線の交叉などの影響により構造が複雑になり、従来の画像フィルターでは正確に対象領域の形状を検出することは難しい。
【0058】
しかし、実施の形態1における画像フィルター手段8aは、上述したように線分情報取得手段84によって、線分の方向と幅の情報を有している。そこで、線集中度の算出によって得られた線状構造物の方向と幅情報を基に、近傍領域設定手段85によって異方性ノイズ除去処理に必要な十分な大きさの観測領域Aを設定し、背景の影響による劣化を避けつつ、十分なノイズ除去能力をもつ異方性フィルターを構築している。
【0059】
とくに、血管情報分析装置などの場合の画像は、血管に沿って血液の流れは一様性を保っているので、この異方性フィルターは血管の特徴を最も反映した画像フィルターとなりえるものである。この観測領域Aは線分(血管)の幅W内に収まる図6(d)のような血管に沿って長い矩形領域か、図9(e)のような楕円形領域が好適であり、この観測領域内では処理をガウラシアンフィルター、あるいはメディアンフィルターとしてノイズ除去するのがよい。なお、観測領域の幅wは血管の幅Wとの間にW=(4〜6)×w程度の関係があれば十分である。この異方性フィルターを用いることにより、血管のノイズは十分に除去できる。
【0060】
以上説明した実施の形態1における異方性ノイズ除去方法(ノイズ処理の手順)について図10、図11のフローチャートに基づいて説明する。なお、図10と図11の違いは、異方性ノイズ除去フィルターの実装方法が異なるだけであり、両者は実質的には変わらない。まず、図10の説明をすると、入力画像の中に注目点Pを仮定し(step1)、注目点Pで狭幅固定の近傍領域r、rを想定して、探索線を仮定し、線集中度Cが最大となる探索線(ベクトル集中線)を求める(step2)。注目点Pを次々と移動し、すべてのベクトル集中線Vが取得されたか否かを判断し(step3)、すべてのベクトル集中線Vが取得されていない場合はstep1へ戻り、全ベクトル集中線Vが取得されている場合は、画像上のすべての線分(血管)の方向と幅が取得されたことになる(step4)。
【0061】
次いで、方向と幅とが分かった血管の中に注目点Pを仮定し、この注目点Pに対するノイズ除去のための観測領域Aを仮定する(step5)。この観測領域内A内の値によるノイズ除去処理を行って(step6)、出力画像の注目点Pの位置にデータを保存する。この後、すべての画素(注目点P)で次々と観測領域Aを仮定してノイズ除去処理を繰り返し、ノイズ除去が終了したか否かがチェックされ、終了していなければstep5に戻って繰り返し、終了していればノイズ除去処理は終了する。なお、さらに血管以外の領域についても一般のノイズ処理を行うのがよい。また、血管の幅の両サイドでは観測領域Aの設定が難しく、ノイズ除去できない狭い領域が残る可能性があるが、観測領域の幅wを小さくするなどこれは更なるノイズ除去の今後の課題である。なお、step6のノイズ除去処理に関して、メディアンフィルターやモフォロジカルフィルターなど、ノイズ評価値が最小となるような探索を行う再帰的な処理もある。
【0062】
続いて、図11に示すラスタースキャンに準じた第2の実装方法によるノイズ処理を説明する。図11において、まず注目点Pの位置を初期化する(step11)。次に、入力画像の注目点P上の線集中度を計測し、ベクトル集中線と集中ベクトル場の情報を取得する(step12)。
【0063】
次に、線分(血管)の存在と方向と幅を取得し(step13)、注目点Pの近傍領域である観測領域Aを決定する(step14)。そして、入力画像の観測領域Aの情報を使って注目点Pのノイズを除去し、出力画像の注目点Pの位置に保存する(step15)。さらに次の画素に注目点Pを移動する(step16)。ここで、すべての画素について計算したか否かを判定し(step17)、すべての画素について計算が終了していなければstep12へ戻り、終了していれば終了する。
【0064】
なお、既述した画像フィルター8aは、細長い線状構造物であれば、込み入った複雑な構造でも、画像情報の輝度ベクトルの線集中度によって線の方向と幅を検出し、検出した線状領域に対して異方性ノイズ除去処理を行うことができるものである。それ故、血管情報分析装置だけでなく、細長い線状構造物なら一般的に高精度の分析が可能となる。血管を分析したときはきわめて効果的に血管固有のノイズを除去することができる。
【0065】
このように、実施の形態1におけるプログラムと異方性ノイズ除去方法によれば、眼底血管のような細長く立体的に入り組んだ線状構造物に対して、画像のコントラスト等のノイズに影響されず、高精度に線状構造物の抽出が行え、さらに、その長手方向の一様性を活かして、線状構造物内で当該線状構造物特有のノイズ除去が行える。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、細長い線状構造物を高精度に分析可能な画像フィルターや、眼底などの血管情報分析装置等に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施の形態1における画像フィルターを搭載した血管情報分析装置のブロック構成図
【図2】照射する単波長の光の発振スペクトルの一例を示す図
【図3】眼底酸素分布を測定した血管情報分析像の写真
【図4】545nmの緑色レーザー光を唇に照射したときに得られる画像の写真
【図5】図4の写真の画像情報から血管部分だけの画像情報を抽出した画像の写真
【図6】(a)は毛細血管が存在する部位に仮定する狭幅固定の近傍領域の概念図、(b)狭幅固定の近傍領域における輝度勾配ベクトルの分布の実際を説明する図
【図7】輝度勾配ベクトルの狭幅固定の近傍領域における理想的な分布を説明する図
【図8】本発明の実施の形態1におけるノイズ除去のためのプログラムのブロック構成図
【図9】(a)空間軸での等方的な小さな観測領域の説明図、(b)空間軸での等方的な大きな観測領域の説明図、(c)空間軸での異方性の観測領域の説明図
【図10】本発明の実施の形態1における異方性ノイズ除去方法の第1のフローチャート
【図11】本発明の実施の形態1における異方性ノイズ除去方法の第2のフローチャート
【図12】眼底反射スペクトルの酸素飽和度依存性を示す説明図
【符号の説明】
【0068】
1 眼球
ij(i=1,・・,m;j=2,・・,n) 光源
3 光結合部
4 撮像部
4a 撮像制御部
4b 画像信号処理部
5 制御部
6 記憶部
6a 検査情報メモリ部
7 データ演算手段
8 画像処理手段
8a 画像フィルター手段
9 表示制御手段
10 表示装置
11 計時手段
81 注目点設定手段
82 線集中度計測手段
83 ベクトル集中線取得手段
84 線分情報取得手段
85 近傍領域設定手段
86 ノイズ除去手段
87 処理判定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを、
画像上の注目点の近傍に近傍領域を想定し、探索線を仮定してこれに対する線集中度を計算する線集中度計測手段、
前記線集中度が最大となる探索線をベクトル集中線として求めるベクトル集中線取得手段、
前記線集中度が所定値以上の部分を線分として画像上のすべての線分の情報を取得する線分情報取得手段、
前記線分の中の各画素に対して異方性の近傍領域を設定する近傍領域設定手段、
前記近傍領域内でノイズ処理を行うノイズ除去手段、
として機能させ、画像の線状領域の異方性ノイズを除去するためのプログラム。
【請求項2】
前記近傍領域が注目点の近傍に設けられた狭幅固定の領域であることを特徴とする請求項1記載のプログラム。
【請求項3】
前記画像が血管情報であることを特徴とする請求項1または2記載のプログラム。
【請求項4】
前記異方性の近傍領域が、前記線状領域の長手方向に長い矩形または楕円であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のプログラム。
【請求項5】
画像の輝度ベクトルの線集中度を求め、線の方向と幅を検出し、検出した線状領域に対して異方性ノイズ除去処理を行うことを特徴とする異方性ノイズ除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−142297(P2008−142297A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−332706(P2006−332706)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】