説明

疼痛治療のための装置及び方法

【課題】疼痛を治療するためにフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナー(例えばスフェンタニル)を全身に送達する装置方法を提供する。
【解決手段】フェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーを含む薬剤が薬物送達装置内10に保存され、この薬剤には治療を行うのに充分な量の薬物が含まれ、治療期間中、体温で安定である。この薬物送達装置は安全に薬剤を保存し、製剤の許容できないような分解を抑制するように身体の作用から充分に保護し、疼痛の治療的効果のある速度に調節された様式でその薬剤を放出させる。使用する際には、その薬物送達装置は被験者の体内の埋め込み部位に埋め込まれ、薬剤を放出させる。一旦送達部位で放出されるとその薬剤は体循環に入り、体内の作用部位に運ばれることによって、疼痛の応答を調節できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、疼痛の治療のための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
疼痛の治療のために多くの医薬品が用いられており、それはアスピリン、アセトアミノフェン、イブプロフェン及び他の非ステロイド性の抗-炎症性化合物のような既知の処方箋不要の化合物から、シクロオキシゲナーゼII阻害化合物のような新しく開発された化学的実在物に至る範囲のものである。さまざまな形態の麻薬には、アヘンの採れるケシから誘導されるアヘン、ヘロイン及びモルヒネが含まれ、それらは非常に強い鎮痛作用を持っている。麻薬は、疼痛、とりわけ非常に激しい場合の疼痛を治療するために用いられるだけでなく、麻酔の際にも広く用いられてきた。これらの天然の麻薬に加えて、メサドン、フェンタニル及びフェンタニルのコンジナーである例えば、スフェンタニル、アルフェンタニル、ロフェンタニル、カルフェンタニル、レミフェンタニルなどの多くの合成のオピオイドが今までに合成されてきた。オピオイドのうちモルヒネは、低価格であること、さまざまな起源の疼痛から解放させるためのその薬物の能力があること、及び該薬物を用いた経験が非常に多いことによって、少なくとも部分的に疼痛を管理するために今でも選択される薬物である。その薬物が治療上の利点、及び経験の多さを備えているのにかかわらず、多くの疼痛治療の専門家は、モルヒネや他のオピオイドが長い期間疼痛の治療を必要としている患者に対しては処方が不十分であると考えている。
【0003】
処方が充分でない一つの理由は、一般にオピオイドの長期間投与に関連して、オピオイドの耐性、依存性、便秘、及び/または他の望ましくない副作用などの副作用が起こる危険性があるためである(例えば、非特許文献1参照)。オピオイドの耐性を生じている患者は、満足のゆく鎮痛作用を得るためには投与量を増加させる必要があり、すると生命を脅かす呼吸抑制のようなさらに望ましくない副作用を発生するリスクがある。身体的依存性は投与した用量や投与期間の長さといったファクターに関連しており、一般的にはオピオイドの投与を中断することによってのみ解決できるが、それによってまたしても結果的に激しい疼痛の薬物除去症状が開始することになる。オピオイドの投与が関連するらしい他の副作用には、鎮咳、気管支の発作、吐き気、嘔吐、末梢血管の拡張、起立性低血圧、心臓に対する迷走神経による影響、平滑筋(括約筋)の収縮、胃腸管の蠕動運動の減少(例えば、便秘)、尿閉、体温及び睡眠パターンの調節の変化、並びにヒスタミン、アドレナリン、及び抗-利尿ホルモンの放出が含まれる。呼吸機能に対するネガティブな作用は、特に呼吸機能が抑制されるおそれのある手術後の患者に対してはとりわけ影響が大きい。副作用に関する懸念よりも末期症状の患者におけるような疼痛の解放に対する激しい要求が勝る場合でさえ、多くの医者はそれでも、患者と接触している他人によって必要以上の薬物投与の乱用について懸念が生じるため、また薬物の頻繁な投与が犯罪的な研究に至る可能性があるという懸念のため、オピオイドを処方することを避ける。
【0004】
一般にオピオイドに関係する上記に列挙された欠点に加えてモルヒネ自体は、特に長期間の疼痛治療を行う患者や、解放が得られるために高用量の医薬品を必要としている患者にとって、そのような治療を耐えられないものにするほど時に激しくなる特定の副作用にも関連していた。モルヒネの使用が関連する、特に高用量のモルヒネの使用が関連するこれらの副作用のいくつかには、吐き気及び嘔吐(例えば、非特許文献2)、及び頑固な便秘が含まれる。さらに非特許文献3は、感覚過敏症(通常では痛まないある種の刺激に対する応答性の増加)、アロダイニア(allodynia)(刺激が通常では痛まない場合でさえも疼痛を感じる感覚)及びモルヒネの使用に関連するミオクローヌスの現象について報告した。モルヒネ及びその代謝産物がそのような異常な感受性を誘導すると仮定されている(例えば非特許文献3参照)。
【0005】
フェンタニル及びそのコンジナーは、麻酔剤として最初は開発され、一次麻酔として、均衡を保った全身麻酔で静脈内投与する限られた目的のため、またスフェンタニルの場合は、陣痛や分娩の際に硬膜外投与のために米国内で一般的に用いられている。しかしながらこれらの薬物も強力な鎮痛作用を持っていて、特定のコンジナーに応じてモルヒネよりも数百倍または数千倍もの効力を持っている(例えば、非特許文献3及び非特許文献2参照)。しかしながらフェンタニル及びそのコンジナーはそれらが経口で吸収されないためにモルヒネよりも投与することが困難であるが、極めて高い効力を持ち(非常に正確で厳密な少量の投与量を必要とする)、そして体内での半減期が非常に短く、したがって頻繁に投与することを必要とする。これらの理由のため、オピオイド鎮痛薬を送達するための従来の方法ではこれらの送達の必要条件に合わせることが不適当である。例えば、フェンタニルは一回で少しの静脈内投与を行ってきたが、この投与方法が長期間の治療のためには実施できないことに加え、結果的に作用期間が短くなり、また、脂肪貯蔵庫に再分配されて血漿濃度が急速に低下することによって急速に元に戻ってしまう。経皮貼着送達手段の開発によってフェンタニルを皮膚を通して連続的に送達できるようになった(例えば、市販されているドュラジェシック(登録商標)経皮貼着剤)。経皮送達方法によって定常的な薬物送達がもたらされたため、それは一回の注入に比較して目立って改良されたが、しかしながら経皮送達にも厳しい限界がある。例えば経皮送達は、送達できる用量が適用可能な皮膚表面領域によって制限され、このため経皮送達は低用量から中用量までのオピオイドの要求に適合するが、より高用量の要求に対しては不適当であることが多いという点で不利である。さらに薬物の経皮送達は、貼着剤をはがした後でも効果の続く期間が延長して続くことだけでなく、治療の開始時点の定常状態の血漿濃度が遅れて得られることにも不利がある。経皮送達と関与する他の問題点には、皮膚の炎症、高湿度(例えば、発汗、入浴)にさらされた後の接着性の喪失、不正な目的で薬物が送達される可能性、及び非常に目立つ貼着剤の見苦しさに対する患者の不快感が含まれる。
【0006】
フェンタニル及びスフェンタニルの皮下注入が制限された原理に基づいた実験の課題であったのに対して、従来技術で開示された方法は長期間の疼痛治療として非実用的である。非特許文献2は、例えばモルヒネの投与と関連する重要な副作用に苦しむ患者の少数の人に別の治療方法として、皮下投与でフェンタニル及びスフェンタニルを使用する点を開示している。非特許文献2において薬物は、外部のシリンジ駆動部によってかなり大きな容量速度(例えば、3 mL/日から40 mL/日までのオーダーで)で皮下の空間に注入された。非特許文献2によって開示された治療法はいくつもの大きな欠点を備えており、それが長期間の治療に対してその方法を非実用的なものにする。一つ目は外部の供給源から薬物を提供すると患者の動作に有害な影響を与え、そのため患者が歩くことが不便になるとともに、皮下の送達部位に感染のリスクを増加させ、かつ薬物が間違った使用法で送達される機会が発生する。二つ目は、大量の液体が注入されるため結果的に、注入部位で組織の損傷や浮腫を引き起こすことになる。そのうえ皮下領域には吸収能力があることで送達されうる液体の容量が制限され(例えばAndersonらの同上文献参照)、またこの容量測定限界があるためこれによっても投与することのできる薬物の量を制限する可能性がある(例えば、非特許文献2では、必要とされるモルヒネの容量が多すぎると皮下組織で効率的に吸収されないため、高用量を必要としている幾人かの患者にはより効力の強いオピオイドが投与された)。
【0007】
上記から証明されるように、疼痛、特に長期間の疼痛を、より効率良く、そして副作用を減少させて効果的かつ実用的に管理する装置及び方法に対する大きな要求が存在している。本発明はこの課題に向けられている。
【0008】
【非特許文献1】Moulinら (1992) Can Med. Assoc. J. 146: 891-7
【非特許文献2】Paixら (1995) Pain 63: 263-9
【非特許文献3】Sjogenら(1994) Pain 59: 313-316
【発明の開示】
【0009】
発明の概要
本発明は、疼痛を治療するためにフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナー(例えばスフェンタニル)を全身に送達する装置及び方法を特徴とする。本発明においてはフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーを含む薬剤が薬物送達装置内に保存されている(例えば、調節性の薬物送達装置にあるリザーバーに含有させたりまたマトリックス内に含浸させたりしている)。この薬剤には治療を行うのに充分な量の薬物が含まれ、それは予め選択された治療期間の間中、体温で安定である(即ち、許容できないような分解が起こらない)。この薬物送達装置は安全に薬剤を保存し(例えば、用量を放出することなく)、製剤の許容できないような分解を抑制するように身体の作用から充分に保護し、そして疼痛を治療するため治療的効果のある速度に調節された様式でその薬剤を放出させる。使用する際には、その薬物送達装置は被験者の体内の埋め込み部位に埋め込まれ、薬剤を薬物送達装置から送達部位に放出させる。その送達部位は埋め込み部位と同じであってもよいし、近くでも、遠く離れていてもよい。一旦送達部位で放出されるとその薬剤は体循環に入り、体内の作用部位に運ばれることによって、疼痛の応答を調節できる(例えば、脳または他の疼痛を感じる部位)。
【0010】
本発明の一局面では、埋め込み可能な薬物送達装置を経て被験者にフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーを含む製剤を、疼痛を緩和するのに充分な速度で全身送達して、疼痛に苦しんでいる被験者の疼痛を治療する装置及び方法に特徴がある。特定の態様ではこの製剤はスフェンタニルを含んでいて、それは1時間あたり約0.01μgから1時間あたり200μgまでの速度で投与されるとよい。
【0011】
別の局面での本発明は、予め決められた期間、低容量速度(例えば、約0.01μl/日から2ml/日まで)で埋め込み可能な薬物送達装置により被験者にフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーを含む製剤を全身送達することによって、疼痛を治療する装置及び方法に特徴がある。
【0012】
別の局面での本発明は、調節された薬物放出を可能にする薬物送達装置を被験者の身体の埋め込み部位に埋め込む段階、及び被験者の疼痛を緩和するのに有効な量で体循環に入るようにその装置から送達部位にフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーを含む製剤を送達する段階を含む被験者の疼痛を治療するための装置及び方法に特徴がある。
【0013】
本発明のさまざまな例示的態様、及びそのさまざまな局面では、投与される薬剤の薬物は、問題にしている薬物の効力に応じて低用量速度で、例えば約0.01μg/時間、もしくは0.1μg/時間、0.25μg/時間、1μg/時間から、一般的には約200μg/時間までの速度で送達される。送達される薬物の量についての特定範囲は、例えば用いた薬物の効力及び他の性質や、被験者の治療上の必要条件に応じて変化するであろう。特定の一態様における製剤はスフェンタニルを含んでいて、特定の態様では約0.01μg/時間、もしくは0.1μg/時間、0.25μg/時間、1μg/時間から、一般的には約200μg/時間までの速度で送達される。
【0014】
別の例示的な態様での薬物の製剤は、例えば約0.01μ/日から約2ml/日までの範囲の容量速度といった低い容量速度で送達される。
【0015】
別の例示的な態様でのその製剤の送達は実質的に連続的であり、また数時間から数年間、好ましくは約4週間から12ヶ月までの予め選択された投与期間で行ってもよい。
【0016】
薬物送達装置は何らかの埋め込み可能な装置であればよく、その装置は例えば、拡散性、腐食性、または対流式のシステムに基づくことができ、例えば浸透圧式ポンプ、生物分解性の移植物、電気拡散システム、電気浸透圧式ポンプ、蒸気圧式ポンプ、電気分解式ポンプ、沸騰式ポンプ、圧電式ポンプ、腐植に基づくシステム、または電気機械システムである。
【0017】
軽減されやすい疼痛には、限定するわけではないが種々の急性または慢性の疼痛のタイプが含まれ、それには癌の疼痛、炎症性疾患の疼痛、神経障害の疼痛、有害受容器の傷み、手術後の疼痛、医原性の疼痛、複雑な領域の疼痛症候群、機能しなくなった背骨の疼痛、柔軟組織の疼痛、関節の疼痛、骨の疼痛、中枢の疼痛、外傷の疼痛、関節炎の疼痛、遺伝的疾患、感染性疾患、頭痛、カウザルギー、知覚過敏症、交感神経ジストロフィー、幻肢症候群、及び除神経などがある。本発明は、長期間の疼痛または慢性の疼痛の治療に対して特に役立つ。
【0018】
本発明の第1目的は、疼痛を簡単に、長期間管理するための方法を提供する。
【0019】
本発明の一つの利点は、本明細書に記載された装置及び方法により比較的少量のフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナー(例えばスフェンタニル)を投与することによって疼痛の効果的な管理が行えることであり、それにより適当に疼痛が解放されるとともに、モルヒネに比較して有害な副作用が改善される。オピオイド鎮痛薬の有害作用が生じるものの、この長所は疼痛の解放を必要としている人にとって、特にかなり長期間(例えば1-4ヶ月)痛んでいる状況にある人にとって相当な恩恵をもたらす。さらに本方法はコストの面での効果が大きく、したがって疼痛の治療をより多くの人々に適用できるであろう。
【0020】
本発明の別の利点は、本発明を用いることによってかなり少量のフェンタニル及びフェンタニルのコンジナーを正確かつ厳密に送達でき、それによって、モルヒネに比較してこれらの薬物が極めて高い効力であるにもかかわらず、そのような薬物を安全に送達できる。こうして本発明によれば、軽度から重症までの範囲の深刻度の疼痛を治療するために、これらの薬物が簡便に使用できるようになる。
【0021】
本発明にかかる一つの特に驚異に値する利点は、かなり長期間の治療を提供するのに充分な量のフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーを体内に安全かつ安定に、そして問題としている化合物の高い効力が与えられた作用を低下させることなく保存できることである。
【0022】
本発明の別の顕著な利点は、埋め込み可能な薬物送達装置を使用することによって、被験者において感染にかかりやすくなる部位を作る可能性のある外部の針及び/またはカテーテルを配置する必要性を回避できることである。さらに埋め込まれた装置を利用すると、前述した治療管理を用いる被験者の承諾が多く得られ、実質的に被験者によったり被験者の周りの人によったりする乱用の危険性を減少させたりあるいは完全に阻止したりでき、かつより大きな移動性を確保できて外来被験者の治療を容易にする。
【0023】
本発明の別の利点は、フェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーをそのような正確性と厳密性でもって、また疼痛を治療するためにそのような化合物を長期間使用できるようにこのような低量で体循環に送達できることである。
【0024】
更なる利点は、治療上有効量のフェンタニル及びフェンタニルのコンジナーが、そのようなかなり低い容量速度で、例えば組織の障害や外傷を最少にするために約0.01μl/日から2ml/日までの容量速度で送達できることである。
【0025】
別の利点は、本発明にかかるフェンタニル及びフェンタニルのコンジナー(例えばスフェンタニル)が、局所的な炎症を避けつつ望ましい治療効果が得られるように効果的な薬物送達に提供されることである。
【0026】
本発明の別の利点は、少量のフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナー(例えば、スフェンタニル)を実質的に連続的に送達することで、長期間の(例えば慢性の)投与(例えば、数週間または約1ヶ月から、12ヶ月またはそれ以上まで)の際に効果的であることである。
【0027】
本発明の別の利点は、モルヒネのような他のオピオイドに比較して選択されたオピオイド(フェンタニル、スフェンタニル、または他のフェンタニルのコンジナー)が顕著な有効性を持つため、少ない量と容量に含まれる効果的な投与量での投与が可能になって、そのことが本方法を簡便な治療法にするという点である。
【0028】
本発明の方法はまた、選択した薬物(例えば、スフェンタニル)が他のオピオイドに比較して親油性が高いため、血液-脳関門を通過してその薬物を送達することが容易になる。例えば、スフェンタニルについてのオクタノール/水分配係数は1, 727であり、モルヒネの分配係数1.4と比較される。ある種のフェンタニルの親油性コンジナー、例えばスフェンタニルを全身性投与(例えば、皮下送達による)すると、薬物を中枢神経系に直接送達したかのように、同程度の効果が得られるであろう。
【0029】
もっと別の利点は、本発明によれば、選択されたフェンタニル含有またはフェンタニルのコンジナー含有の製剤を正確に送達でき、それによって送達を少ない容量にできること、及び/または定常的な送達速度で正確に測定した投与量(例えば、1時間あたりマイクロリットルからミリリットルのオーダーで)を送達できることである。
【0030】
さらに別の利点は、本発明によれば、疼痛の治療でモルヒネを用いる場合に一般に関連している副作用の激しさまたは発生率を減少できることである。
【0031】
本発明にかかるこれらの、また他の目的、利点及び特徴は、下記により充分に列挙したような方法論及び組成物についての詳細を読むことで、当業者に明らかになるであろう。
【0032】
好ましい態様の説明
疼痛を治療するための本発明の装置及び方法を記載する前に、本発明が、そのように記載された、もちろん異なっているかもしれないが、特定の方法論、装置、治療用製剤、及び疼痛症候群に限定されないと理解すべきである。また、本明細書で用いられた用語が、特定の態様のみを記載する目的であって、本発明の範囲を限定することを意図しておらず、それが添付した請求の範囲によってのみ限定されることについても理解すべきである。
【0033】
本明細書及び添付した特許請求の範囲で用いられているように、単数形の「一つの(a)」、「及び(and)」、及び「その(the)」には、その内容が別記して明らかに指示されていない限り、複数の指示対象も含まれる。このように例えば、「薬物送達装置」に関しては複数のそのような装置が含まれ、また「送達方法」に関しては、当業者に既知の等価の段階及び方法などに対する対象が含まれる。
【0034】
別記で定義しない限り、本明細書で用いたすべての技術的及び科学的用語は、本発明に属する通常の知識を有するものに共通して理解されるのと同じ意味を持っている。本明細書に記載されたのと同様または等価の何らかの方法、装置、及び材料を本発明の実施またはテストのために利用できるが、好ましい方法、装置、及び材料は本明細書に記載されている。
【0035】
本明細書に記載されたすべての刊行物は、現在記載している発明に関連して用いられている刊行物に記載された組成物及び方法論を記載し、開示する目的で参照文献として本明細書に組み入れられる。本明細書に記載された刊行物は、本出願の出願日よりも前に開示されたために単に提供される。本発明が以前の発明の価値によるそのような開示よりも前に起こったという資格が与えられないと承認されたと解釈すべきものは本明細書にはなにもない。
【0036】
定義
本明細書で用いられたような「薬物」という用語は一般に、フェンタニルまたはフェンタニルのコンジナー(例えば、スフェンタニル、アルフェンタニル、ロフェンタニル、カルフェンタニル、レミフェンタニル、トレフェンタニル、及びミルフェンタニル)について呼ぶことを意味するとともに、これらの化合物の一つまたはそれ以上を含む製剤についても意味する。「薬物」または語句「フェンタニルまたはフェンタニルのコンジナー」を用いることが、これらの選択されたオピオイド化合物の一つのみの使用に限定することを意味せず、またそのような一つのみを含む製剤に限定することも意味しない。さらにフェンタニル単独、または選択されたフェンタニル単独に関しては、例えば「スフェンタニル」に関しては、本発明の方法によって送達するのにふさわしい薬物の例に過ぎないと理解し、また何らかの様式で限定されるべきでないことを意味する。
【0037】
「被験者」という用語はどれかの被験者を意味し、一般には疼痛の管理を必要としている哺乳動物(例えば、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ウシなど)である。
【0038】
「全身性送達」とい用語は、薬物が体循環、例えば、静脈内、動脈内、筋肉内、皮下、脂肪内組織、リンパ内等に入ることを可能にするすべての非経口ルートを包含することを意味する。
【0039】
「治療的有効量」という用語は、望ましい治療効果の得られる治療用薬剤の量、即ち治療用薬剤の送達速度を意味する。正確な望ましい治療効果(例えば、疼痛の解放程度、及び解放された疼痛の元など)は、治療されるべき状態、投与されるべき製剤、及び当業者に認識されている他のさまざまなファクターに応じて変化する。一般に本発明の方法には、さまざまな原因を確認しうる病因論、または原因のわからない病因論のうちのどれかに関連しているらしい疼痛に苦しむ被験者においての疼痛の抑制または放散が関与する。
【0040】
「疼痛の管理または治療」という用語は本明細書では一般に、自覚的な基準、他覚的な基準、またはその両方によって決定されるような、より苦痛がなくなった状態を被験者にもたらすための疼痛の緩解、抑制、もしくは放散について記述するために用いられる。概して疼痛は、被験者の年齢、教養的背景、環境、及び疼痛に対する被験者の反応を変えることが知られている他の心理学的な背景を考慮して健康に携わる専門家が会話するのに伴い被験者がする報告によって自覚的に評価される。
【0041】
本明細書で用いられているような「送達部位」とは、薬物が体循環に入るために送達される身体の領域について言及することを意味し、例えばその部位に送達された薬物が全身に到達するのが可能になる部位である。薬物の全身送達に適する送達部位の例には、限定する必要性はないが、皮下、静脈内、動脈内、筋肉内、脂肪組織内、及びリンパ部位内が含まれる。
【0042】
「埋め込み部位」という用語は、薬物送達装置が導入されて位置づけられる被験者の体内の部位について述べる際に用いられる。
【0043】
本明細書で用いられるような「薬物送達装置」とは、本発明にかかる疼痛治療に用いられる製剤を送達するのに適した何らかの埋め込み可能な装置を意味する。したがって「薬物送達装置」には、拡散性、腐食性、または対流式のシステムを含む何らかの作用機構である、例えば浸透圧式ポンプ、生物分解性の移植物、電気拡散システム、電気浸透圧式ポンプ、蒸気圧式ポンプ、電気分解式ポンプ、沸騰式ポンプ、圧電式ポンプ、腐植に基づくシステム、または電気機械システムを備えた埋め込み可能な装置が含まれる。
【0044】
薬物送達の状況で用いられる「パターン化された」または「経時的な」とは、パターン化して、一般的には予め選択された期間にわたって実質的に調節されたパターンで薬物を送達することを意味する(例を挙げると、例えば一回注入が関与する期間以外)。「パターン化された」または「経時的な」薬物送達とは、徐々に増やしたり、徐々に減らしたり、実質的に一定であったり、またはパルス的にしたりした速度または速度の範囲(例えば、単位時間あたりの薬物の量、または単位時間あたりの薬剤の容量)で行う薬物の送達が含まれ、またさらに、連続的もしくは実質的に連続的に、または慢性的に行われる送達も含まれることを意味する。
【0045】
「調節性薬物送達装置」という用語は、そこに入れた薬物または他の望ましい物質の放出(例えば、割合、放出のタイミングなど)が、使用する環境ではなく装置自体によって調節されたり、決定されたりできる装置が含まれることを意味する。
【0046】
例えば「実質的に連続的な皮下注入」や「実質的に連続的な送達」という文脈で用いられる「実質的に連続的な」によると、予め選択された薬物送達期間(例えば、一回注入が関連する期間以外)の間、実質的に中断されることのない方式で薬物(例えばスフェンタニル)を送達することに言及していることが意味される。さらにまた「実質的に連続的な」薬物送達には、予め選択された薬物送達期間が実質的に中断されない実質的に一定で、予め選択された速度、または速度の範囲(例えば、単位時間あたりの薬物の量、または単位時間あたりの薬剤の容量)にて行われる薬物送達も含まれる。
【0047】
本発明の装置及び方法を用いる治療に対する感度の高い疼痛
一般的に、本発明にかかるフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーの投与を利用することで、非常にさまざまな異常、症状、または疾患のうちどれかが関与する疼痛の管理が容易になる(例えば、全身的または中枢的に仲介される鎮痛薬による軽減治療)。本明細書で用いられたような「疼痛」とは、特定して別記しない限り、急性の疼痛、慢性の疼痛、間欠的な疼痛などを限定するわけではないが含むような、ある期間と頻度の疼痛が含まれることを意味する。痛いの原因は確認できてもよいし、確認できなくてもよい。確認できる場合の疼痛の起源は、例えば悪性、非悪性、感染性、非感染性、または自己免疫性の起源であろう。特に対象となるのは、長期間の治療を必要としている異常、疾患、または症状、例えば慢性及び/もしくは永続的な疾患または症状と関連する疼痛の管理であって、そのための治療法は、数日間(例えば、約3日から10日間まで)から数週間(例えば、約2週間または4週間から6週間まで)、数ヶ月、または数年の期間、即ち被験者の残りの寿命にわたって行われる治療が関与する。現在は疾患または症状に苦しんでいないが、そのような疾患または症状に苦しむおそれのある被験者も、例えば外傷を与える外科手術の前に本発明の装置及び方法を用いて予防的に疼痛の管理を行うことによる恩恵を受けることもできる。本発明による治療法の鋭意強を受けやすい疼痛には、疼痛のない間隔と交互に起こる長く続いて発現する疼痛や、重症度の異なる実質的に絶え間ない疼痛が含まれるであろう。
【0048】
一般に疼痛は、刺激性、体細胞原性、神経原性、または精神原性の可能性がある。体細胞原性の疼痛は、筋肉または骨(即ち、骨関節炎、腰仙部痛、外傷後、筋膜)、内臓性(即ち、膵臓炎、潰瘍、過敏性腸炎)、虚血性(即ち、閉塞性動脈硬化症、または癌の進行に関連するもの(例えば、悪性または非悪性)である可能性がある。神経原性の疼痛は、外傷後や手術後の神経痛によるもののこともあるし、神経障害(即ち、糖尿病性、毒性、など)に関連することもあるし、また神経のエントラップメント(entrapment)、顔面神経痛、ニール(neal)周辺の神経痛、切断後、視床、カウザルギー、及び反射性交感神経性ジストロフィーに関連することもある。
【0049】
本発明による管理に影響を受けやすい疼痛の症状、疾患、異常、及び起源の特定の例には、限定する必然性はないが、癌の疼痛(例えば、転移性または非転移性の癌)、炎症性の疾患の疼痛、神経障害性の疼痛、手術後の疼痛、医原性の疼痛(例えば、侵襲性の治療、または高用量の放射線治療を行った後で起こる疼痛、例えば、動作の自由性と実存する疼痛との妥協性を弱めてしまう結果になる傷跡が関与する)、複合領域性の疼痛症候群、力の弱った背中の疼痛(例えば、急性または慢性の背部痛、柔軟組織痛、関節及び骨の疼痛、中枢性の疼痛、障害(例を挙げると、非衰弱性の障害(例えば、背中、首、脊椎、関節、脚、腕、手、足などはもちろんのこと、衰弱性の障害、例えば対麻痺、四肢麻痺などの障害))、関節痛(例えば、慢性関節リガンド埋まり、骨関節炎、原因不明の関節炎症候群など)、遺伝的疾患(例えば、鎌状赤血球性の貧血)、感染症及び結果的に起こる症候群(例えば、ライム病、AIDSなど)、頭痛(例えば、偏頭痛)、カウザルギー、知覚過敏症、交感神経ジストロフィー、幻肢症候群、除神経などが挙げられる。疼痛は、身体のどこかの部分、例えば筋骨格系、内臓器官、皮膚、神経系などに起きている可能性がある。
【0050】
癌の疼痛は、本発明によって緩和できる疼痛のある広いカテゴリーのうちの一例である。癌の疼痛の根底にある原因の一つは、新生組織領域による組織の深刻な局所的な伸びである。例えば、制限ない態様で癌細胞が増殖する場合、癌細胞が増殖している局所的な領域のある組織には、組織を置き換えて、腫瘍の塊によって占められた大きくなった容積に順応させることを必要とする機械的なストレスがかけられる。腫瘍の範囲が小さな閉じた区画、たとえば骨の骨髄に限定されている場合、得られる圧力はひどい疼痛をを生じさせる可能性がある、癌の疼痛の別の原因は、被験者の癌を打ちのめすために用いられる攻撃的な治療法、例えば放射線治療や化学療法などから生じる可能性がある。このような癌治療は、局所的、または広く範囲が広がっていて、疼痛を引き起こす組織の損傷に関わるものである。
【0051】
あるタイプの悪性または非悪性の癌に関連する疼痛は、本発明による緩和作用の影響を受けやすい。疼痛(癌自体の性質による疼痛、または癌を治療する治療法による疼痛)を伴う可能性のある癌の特殊な例には、必然的に限定されるわけではないが、肺癌、膀胱癌、黒色腫、骨癌、多発性骨髄腫、脳腫瘍、大腸癌、直腸癌、膵臓癌、異形成性血管腫、内分泌器官の癌、前立腺癌、頭頸部癌、肉腫、ホジキン病、皮膚癌、腎臓癌、胃癌、白血病、精巣癌、肝臓癌、子宮頸部癌、及び再生不良性貧血が含まれる。あるタイプの神経障害性の疼痛も、本発明による治療により影響されやすいであろう。
【0052】
また本発明の方法で緩和できる背部痛は、本発明の方法の適用によって影響されやすい疼痛の別の広いカテゴリーである。背部痛は一般に、次の6つの原因の一つまたはそれ以上による。即ちその原因は、(i)ずれ、関節炎、楔形成、または側湾症によって引き起こされる脊椎骨内部の小関節面関節部のストレス、(ii)脊髄神経障害、椎間板の隆起、腫瘍による神経根の機械的圧迫、(iii)腱鞘炎、または腱の捻挫、(iv)筋肉の痙攣または筋肉の捻挫、(v)循環における虚血、局所的不全、及び(vi)神経障害、代謝性病因の神経組織への損傷、または脊髄損傷もしくは中枢神経系疾患から発生する損傷である。
【0053】
本発明の方法は、オピオイドの経験のない被験者やオピオイドの経験が長くない患で疼痛を管理するために用いることができ、投与される薬物の効力によるが、被験者がオピオイド未経験者でないことが好ましい。代表的なオピオイド未経験の被験者は、短期間または長期間のオピオイド治療を受けた被験者及び耐性、依存性、または他の望ましくない副作用を発生した被験者である。例えば、経口、静脈内、もしくは胞膜内のモルヒネ、経皮的なフェンタニル貼着剤、またはフェンタニル、モルヒネ、もしくは他のオピオイドについて従来法で投与された皮下注入により難治性の有害な副作用を伴っている被験者は、上記に記載された容量範囲及び/または低容量速度で投与された場合、フェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーの送達により良好な鎮痛作用を達成できるとともに、有利な副作用のプロフィールを維持できる。
【0054】
フェンタニル及びフェンタニルのコンジナー、並びに製剤
本明細書に記載された開示を読んだ上で本発明の範囲内に含まれる変形が当業者には容易に明らかになるであろうが、フェンタニル、フェンタニルのコンジナー、及びフェンタニルの特定の誘導体またはアナログ(例えば、他の誘導体、特定すると、モルヒネの4-アニリドピペリジン誘導体)が本発明によって送達するために企画されている。代表的なフェンタニルのコンジナーには、限定する必要はないが、スフェンタニル、アルフェンタニル、ロフェンタニル、カルフェンタニル、レミフェンタニル、トレフェンタニル、及びミルフェンタニルが含まれる。
【0055】
用いる特定のフェンタニルコンジナーは、ファクターの違い、即ち緩和すべき疼痛のタイプ、被験者のオピオイドに対する抵抗性及び/または以前の投与などによって変えるとよい。またフェンタニルまたはフェンタニルコンジナーの相対的な効力も、送達される薬物を選択する際に考慮するとよい。例えばモルヒネに比較してフェンタニル及び選択されたフェンタニルのコンジナーの効力はランク順で次のとおりである。モルヒネ<アルフェンタニル<フェンタニル<スフェンタニル、ロフェンタニル<カルフェンタニルである。フェンタニルはモルヒネの効力の292倍、スフェンタニルは4,521倍、ロフェンタニルは5,440倍、そしてカルフェンタニルは9,441倍であると見積もられている。スフェンタニル、フェンタニル、及び他のフェンタニルコンジナーの薬物動力学についての論評は、例えばMeert (1996) Pharm. World Sci. 18: 1-15、Scholzら1996 Clin, Pharmacokinet. 31: 275-92を参照のこと。
【0056】
好ましい態様では本薬物はフェンタニルのコンジナーであるスフェンタニルである。スフェンタニルは、適当な効力を示し、従来法により以前にも投与されていて、治療指数が広く(Meert (1996) Pharm. World Sci. 18: 1-15参照)、良好な安定性を持っていて、かつ本発明により投与された場合に副作用を減らせるという点から好ましい。さらに本発明者らは、スフェンタニルには親油性があるため皮下注入するのに特にふさわしいことを見いだした。
【0057】
フェンタニル、スフェンタニル、及び他のフェンタニルのコンジナーの製造方法は個の技術分野で周知である。例えば、スフェンタニル(例えば米国特許第3,998,834号、化学名:((N-[4-(メチルオキシメチル)-1-[2-(2-トリエニル)エチル]-4-ピペリジニル]-N-フェニルプロパンアミド 2-ヒドロキシ-1,2,3,-プロパントリカルボキシレート(1:1)、C22H30N2O2S)、フェンタニル(例えば、米国特許第3,141,823号、化学名:N-フェニル-N-[1-(2-フェニルエチル)-4-ピペリジニル]プロパンアミド)、アルフェンタニル(例えば、米国特許第4,167,574号、化学名:N-[1-[2-(4-エチル-4,5-ジヒドロ-5-オキソ-1H-テトラゾール-1-イル)エチル]-4-(メトキシメチル)-4-ピペリジニル]-N-フェニルプロパンアミド(C21H32N6O3))、ロフェンタニル(例えば、米国特許第3,998,834号、化学名:3-メチル-4-[(1-オキソプロピル)フェニルアミノ]-1-(2-フェニルエチル)-4-ピペリジンカルボン酸メチルエステル)、カルフェンタニル(化学名:メチル-4-[(1-オキソプロピル)フェニルアミノ]-1-(2-フェニルエチル)-4-ピペリジンカルボキシレート(C24H30N2O3))、レミフェンタニル(化学名:3-[4-メトキシカルボニル-4-[(1-オキソプロピル)フェニルアミノ]1-ピペリジン]プロピオン酸)、トレフェンタニル(化学名:N-(1-(2-(4-エニル-4,5-ジヒドロ-5-オキソ-1H-テトラゾール-1-イル)エチル)-4-フェニル-4-ピペリジニル)-N-(2-フルオロフェニル)-プロパンアミド、及びミルフェンタニル(化学名:[N-(2-ピラジニル)-N-(1-フェネチル-4-ピペリジニル)-2-フラミド)参照。
【0058】
フェンタニル及びフェンタニルのコンジナーは、例えばGoodman及びGliman's The Pharmacological Basis of Therapeutics, Chapter 23, 「オピオイド鎮痛薬と拮抗剤(Opioid Analgesics and Antagonists)」, pp. 521-555 (9th Ed. 1996)、Balyらの1991 Med Res. Rev. 11: 403-36 (4-アニリドピペリジンオピオイド)、及びFeldmanらの1991 J. Med. Chem. 34: 2202-8(オピオイド鎮痛薬の設計、合成法、及び薬理学的な評価)。フェンタニル及びフェンタニルのコンジナーについての別の情報は、例えばSchozらの1996 Clin. Pharmacokinet. 31: 275-92 (アルフェンタニル、フェンタニル、及びスフェンタニルについての臨床上の薬物動態論)、Meet 1996 Pharmacy World Sci. 18: 1-15 (モルヒネ、フェンタニル、及びフェンタニルのコンジナーの薬物療法を記載している)、Lemmensらの1995 Anesth. Analg. 80: 1206-11 (ミルフェンタニルについての検討)、Mintoらの1997 Int. Anesth. Analg. 35: 49-65 (最近開発されたオピオイド鎮痛薬の論評)、James 1994 Expert Opin. Invest. Drugs 3: 331-40 (レミフェンタニルについての検討)、Rosow 1993 Anesthesiology 79: 875-6 ()、Glass 1995 Eur. J. Anaesthesiol. Suppl. 10: 73-4 (レミフェンタニルについての検討)、及びLemmensら 1994 Clin. Pharmacol. Ther. 56: 261-71 (レミフェンタニルの薬物動態論)参照。
【0059】
フェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーは、オピオイド塩基として、及び/またはオピオイドの薬学的に許容される塩として製剤中に配合することができる。薬学的に許容される塩は、無機塩と有機塩を含む。代表的な塩としては、臭酸塩、塩酸塩、ムチン酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、n-オキサイド、硫酸塩、マロン酸塩、二塩基性リン酸塩、一塩基性リン酸塩、アセテートトリハイドレート、ビ(ヘプタフルオロブチレート)、ビ(ピリジン-3-カルボキシレート)、ビ(ペンタフルオロプロピオネート)、メシナート、ビ(ピリジン-3-カルボキシレート)、ビ(トリフロロアセテート)、酒石酸塩、クロルハイドレート、フマル酸塩、及びサルフェートペンタハイドレートが挙げられる。
フェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーは、非経口投与に適した種々の製剤のどれかにすればよく、即ちそのような製剤が安定であるように(即ち体温で許容できないほどの崩壊が起こらないように)提供すればよい。本製剤に含まれるフェンタニルまたはフェンタニルコンジナーの濃度は、約0.1重量%から約50または75重量%までの間で変えることができる。この薬物は、調製性薬物送達装置によって運搬されて、全身性に分布させるために非経口で放出されるのに適した形態、例えば、固体状、半固体状、ゲル状、液状、懸濁状、乳濁状、浸透性投与剤、拡散性投与剤、腐食性製剤などの形態で採用することができる。特に関心の持たれるのは、埋め込まれたポンプ、例えば浸透圧式ポンプを用いて投与するのに適した形態でスフェンタニルを投与することである。
【0060】
一態様ではフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーは、従来よりある製剤、例えば現在商業的に入手可能な製剤よりも実質的に高い濃度で製剤中に存在している。「実質的に高い」とは、フェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーが、水性溶液中のフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーの溶解度よりも少なくとも約2倍、少なくとも約5倍、少なくとも約10倍、少なくとも約20倍、少なくとも約50倍、少なくとも約100倍、少なくとも約250倍、少なくとも約500倍、少なくとも約1000倍、少なくとも約1500倍、少なくとも約2000倍、少なくとも約2500倍、少なくとも約3000倍、少なくとも約3500倍、少なくとも約4000倍、少なくとも約5000倍、少なくとも約6000倍、少なくとも約7000倍、少なくとも約8000倍、少なくとも約9000倍、少なくとも約10,000倍、またはそれ以上の倍率の濃度で製剤中に存在している。
【0061】
本発明の製剤は、少なくとも約0.5 mg/mL、1 mg/mL、10 mg/mL、25 mg/mL、50 mg/mL、75 mg/mL、100 mg/mL、150 mg/mL、200 mg/mL、225 mg/mL、250 mg/mL、300 mg/mL、350 mg/mL、400 mg/mL、450 mg/mL、500 mg/mL、またはそれ以上の濃度でフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーを含んでいる。フェンタニルまたはフェンタニルコンジナーを含む本発明の製剤は溶液であって、例えば液体に溶解されている。
【0062】
全身性の送達に適した薬剤学的な等級を持つ有機もしくは無機のキャリア及び/または希釈剤を、本発明により送達するのに適した製剤中に含有させることができる。このような生理学的に許容されるキャリアは当技術分野で周知である。本発明により用いられる例示的な液状キャリアは、活性成分以外にはどの物質も含んでいない滅菌性の非水性、または水性の溶液であるとよい。一般にはフェンタニル及びフェンタニルコンジナーが親油性であるために疎水性の溶媒が一般に好ましい。製剤には任意でさらに生理的pH値のリン酸ナトリウムのような緩衝液、生理食塩水、またはその両方(即ち、リン酸緩衝塩)を含んでいてもよい。適当な水性キャリアは任意でさらに、他の塩(塩化ナトリウムや塩化カリウムのような)及び/または他の溶質と同様に、一種以上の緩衝塩を含んでいてもよい。
【0063】
ある例示的な態様では、製剤はフェンタニルまたはフェンタニルコンジナー(一般的には塩基として)及び低分子量(例えば、分子量が約300 g/mol以下)のアルコールを含む。これらの態様ではフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーは、約0.5 mg/mLから約500 mg/mLまで、約1 mg/mLから約450 mg/mLまで、約50 mg/mLから約400 mg/mLまで、約75 mg/mLから約300 mg/mLまで、または約100 mg/mLから約250 mg/mLまでの濃度で製剤に存在している。適当な低分子量のアルコールは、薬学的に許容できるアルコールが含み、また好ましくは芳香族部分を含むアルコールであって、また比較的水に混和されにくい(例えば、25mlのH2Oに溶解できるのは約5グラム以下、約4グラム以下、約3グラム以下、約2グラム以下、約1グラム以下である)アルコールであり、それは限定するわけではないが、ベンジルアルコール、及びそれらの誘導体である。少量の他の薬学的に許容される物質、即ち例えばエタノールといった他の薬学的に許容されるアルコールのような物質や水も存在していてもよく、そしてもし存在するのであれば、約10%以下、約5%以下、または約1%以下の量で存在している。特定の態様ではこの製剤は、100%のベンジルアルコール中にフェンタニルまたはフェンタニルコンジナー、即ち特に関心の持たれるスフェンタニルを含んでいる。
【0064】
別の例示的な態様ではこの製剤は、フェンタニルまたはフェンタニルのコンジナー(一般的には塩基として)、及び非イオン性の界面活性剤を、例えば上記に記載した低分子量のアルコールのエステルのようなアルコールエステル中に含んでいる。これらの態様では、フェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーは、約0.5 mg/mlまたは1 mg/mLから約500 mg/mLまで、約50 mg/mLから約300 mg/mLまで、約75 mg/mLから約275 mg/mLまで、または約100 mg/mLから約250 mg/mLまでの濃度で製剤中に存在している。適当なアルコールエステルには、薬学的に許容できるアルコールエステルで、好ましくは芳香族部分を含み、そして水に不溶性のアルコールエステルが含まれ、それは限定するわけではないが、ベンジルベンゾエート、及びそれらの誘導体が含まれる。少量の他の薬学的に許容される物質、即ち例えば他の薬学的に許容されるアルコール、または他の薬学的に許容されるアルコールエステルのような物質や、水も存在していてもよく、そしてもし存在するのであれば、約10%以下、約5%以下、または約1%以下の量で存在している。特定の態様ではこの製剤では、アルコールエステルは特に関心のもたれているフェンタニルコンジナーであるスフェンタニルを含む100%のベンジルベンゾエートである。
【0065】
好ましい非イオン性界面活性剤には、薬学的に許容される、限定するわけではないが、例えばポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60のようなポリソルベート、ソルビタントリオレエート、例えばポリオキシエチレン(160)グリコールのようなポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、及びポリオキシプロピレン(30)グリコールが含まれる。この製剤で用いるに適する他の非イオン性表面活性剤には、ソルビタンのモノラウレート、モノオレエート、モノステアレート、モノパルミテート、トリステアレートもしくはトリオレエートのような脂肪酸ポリヒドロキシアルコールエステルタイプの非イオン性界面活性剤、例えばポリオキシエチレンソルビタンのモノラウレート、モノオレエート、モノステアレート、モノパルミテート、トリステアレートもしくはトリオレエートのようなポリオキシエチレンと脂肪酸ポリヒドロキシアルコールエステルの付加体の非イオン性界面活性剤、例えばポリオキシエチルステアレート、ポリエチレングリコール400ステアレート、ポリエチレングリコール2000ステアレート、特定するとPluronics(Wyandotte)またはSynpernic(ICI)のエチレンオキサイド-プロピレンオキサイドブロック共重合体のようなポリエチレングリコール脂肪酸エステルの非イオン性界面活性剤が含まれる。特定の態様ではこの非イオン性界面活性剤は、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、もしくはソルビタントリオレエート、または前述したものの一種またはそれ以上の混合物である。
【0066】
一般には非イオン性界面活性剤は、約50 mg/mLから約200 mg/mLまで、約75 mg/mLから約175 mg/mLまで、または約100 mg/mLから約150 mg/mLまでの濃度で製剤中に存在している。特定の態様での非イオン性界面活性剤は、100 mg/mLで存在している。
【0067】
送達するに際して特に関心のある製剤は、フェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーが上記に記載したように高濃度で存在していることに特徴がある。フェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーはその製剤中において可溶性であって、即ちフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーの沈殿物はほとんど、もしくは全く存在しておらず、またさらに、その製剤が体液のような水性の環境と接触することになった場合にもフェンタニルまたはフェンタニルコンジナーの沈殿物はほとんど、もしくは全く形成しない。フェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーの沈殿物がいやしくも存在するとすれば、その製剤に存在する全フェンタニルまたはフェンタニルコンジナーの重量の約10%以下、約7.5%以下、約5%以下、約2.5%以下、約1%以下、または約0.1%以下が製剤に存在している。沈殿剤が形成されたかどうかは、この技術分野で既知の方法を用いて決定すればよく、それには限定するわけではないが、肉眼での可視的な視察や、低倍率(例えば、10×、または25×)での視察が含まれる。
【0068】
本発明によって投与するのに適したフェンタニルまたはフェンタニルコンジナーを含む製剤は、薬学的に許容され、活性成分と影響を及ぼし合わない付加的な活性成分または不活性成分を含んでいてもよい。適当な賦形剤には、デキストロース、グリセロール、アルコール(例えばエタノール)などが含まれていてもよいし、また、それらの一つまたはそれ以上を植物油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ベンジルアルコール、ベンジルベンゾエート、ジメチルスルホキサイド(DMSO)、有機物、及び適当な組成物を提供する同様のものとともに組み合わせたものが含まれていてもよい。さらに望ましいのであればその組成物に、疎水性または水性の界面活性剤、分散剤、湿潤剤または乳化剤、等張剤、pH緩衝剤、溶解促進剤、安定化剤、防腐剤、及び薬学的に調製した製剤で用いられる他の典型的な補助的添加剤が含まれていてもよい。
【0069】
本発明で有用な製剤に含有させることのできる代表的な付加的活性成分として、オピオイド拮抗剤(例えば、中毒または依存性の可能性をより減少させるために)を挙げることができる。例えばオピオイド作動薬とオピオイド拮抗剤を含む例示的な浸透性投与製剤が、米国特許第5,866,164号に記載されている。
【0070】
移植及び送達部位
この薬物送達装置は、当技術分野で周知の方法及び装置を用いてどこかの適当な移植部位に移植することができる。前述したように移植部位とは、薬物送達装置が導入されて位置づけられる被験者の身体内の部位である。埋め込み部位には限定する必要性はないが、真皮下、皮下、筋肉内、または被験者の体内の別の適当な部位が含まれる。その薬物送達装置の埋め込み及び取り外しが簡単な点で、皮下の埋め込み部位が好ましい。ある態様ではその埋め込み部位は送達部位か、または送達部位の近くであり(例えば送達部位が埋め込み部位から離れていない)、このように薬物を全身送達するのに適合する部位(例えば、皮下部位)でなくてはならない。埋め込み部位と送達部位が離れている場合には、その埋め込み部位が薬物の全身送達に適合する部位である必要性はない。例えば、薬物送達装置を皮下部位に埋め込んで、その送達部位を静脈内、または薬物を全身性に送達するのに適した他の部位にしてもよい。送達部位から離れている埋め込み部位にある薬物送達装置から薬物を送達させるのは、下記により詳細に説明したようにカテーテルを備えた薬物送達装置を用いることによって達成できる。
【0071】
その送達部位は、薬物が体循環に入るように供給される身体の領域、即ち薬物の全身への到達を可能にする部位である。送達部位には限定する必要性はないが、皮下、静脈内、動脈内、筋肉内、脂肪組織内、リンパ内、及び舌下部位が含まれる。皮下への送達が本出願において特に関心がもたれている。例示的な皮下送達部位には、表面的な皮下部位(例えば、腕、肩、首、背中、または脚の皮膚の下部)と、身体の腔内(例えば口腔内)の内部的な皮下部位が含まれる。皮下部位に送達すると薬物を容易に吸収させることのできる組織と最大に接触させることができるため、皮下部位に送達することによって本発明のこれらの利点がさらに大きくなる。そのうえ本発明は、親油性の薬物であるフェンタニルまたはそのコンジナー(例えばスフェンタニル)を送達することで疼痛を治療する。これらの薬物が親油性であるため、送達部位、特に皮下の送達部位での吸収性がさらに高くなる。
【0072】
フェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーの送達
一般にはフェンタニルまたはフェンタニルコンジナーの製剤は、オピオイド薬物の投与に関連して起こる可能性のある副作用の存在またはリスクを減少させつつ送達部位に適合する容量速度で、かつ疼痛を小さくするのに治療上有効な投与量(例えば、疼痛の実質的な管理を達成するのに充分な)で送達される。
【0073】
疼痛に苦しんでいる被験者または疼痛を生じるおそれのある被験者は、本発明の方法による疼痛の緩和法を、ある望ましい期間受け入れることができる。一般に本発明にかかるフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーの投与は、数時間(例えば、2時間、12時間、または24時間から48時間かそれ以上)から数日間(例えば、2日間から5日間またはそれ以上)、数ヶ月間または数年間の期間、維持することができる。一般に送達は、約1ヶ月から約12ヶ月またはそれ以上の範囲の期間中続けられるであろう。フェンタニルまたはフェンタニルコンジナーは、例えば約2時間から約72時間、約4時間から約36時間、約12時間から約24時間、約2日間から約30日間、約5日間から約20日間、約7日間またはそれ以上、約10日間またはそれ以上、約100日間からそれ以上、約1週間から約4週間、約1ヶ月から約24ヶ月、約2ヶ月から約12ヶ月、約3ヶ月から約9ヶ月、約1ヶ月またはそれ以上、約2ヶ月またはそれ以上、約6ヶ月またはそれ以上、あるいはそれ以外の期間であって、必要とされるならこれらの期間内で漸増させる期間である。オピオイド送達を行う期間をこのように延長させることは、オピオイドの副作用(吐き気、嘔吐、鎮静、錯乱、呼吸抑制など)の深刻度を小さくしつつ疼痛を適切に解放するという両者を提供できる本発明の能力によって可能になる。特定の態様では、フェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーは、装置を再設置する必要性をなくして及び/または装置を再充填する必要性をなくして被験者に送達できる。これらの態様では、フェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーの高濃度の製剤が特に対象となる。
【0074】
好ましくは、フェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーは、パターン化された様式で、より好ましくは実質的に連続的な様式で、即ち例えば予め選択した薬物送達期間に実質的に中断することなく行う様式で、またより好ましくは、実質的に一定の予め選択した速度、または速度の範囲(例えば、単位時間あたりの薬物量、または単位時間あたりの薬剤の容量)で行われる。薬物は好ましくは、約0.01μl/日から約2 ml/日まで、好ましくは約0.04μl/日から約1 ml/日まで、一般的には約0.2μl/日から約0.5 ml/日まで、典型的には約2.0μl/日から約0.25 ml/日までの小さな容量速度で送達される。
【0075】
本発明による埋め込み式のポンプを用いて送達することによる薬物の全身投与は、他のルートによる送達が望ましくない場合、例えば被験者が経口、静脈内、もしくは胞膜内のモルヒネ、経皮的なフェンタニル貼着剤、または従来法で投与された皮下注入(例えば、シリンジ作動系や比較的高容量を送達することを必要とする他の送達系)により難治性の有害な副作用を経験したことのある被験者の場合に特に好まれる。埋め込み式ポンプを用いた送達は、埋め込み及び取り外し手段が簡単で、被験者の健康状態を外出可能にする外来-被験者の基本に導くことができるため、被験者にとっては便利である。また皮下に埋め込まれた薬物送達装置によれば被験者の強い承諾が得られ、薬物の漏れや乱用を抑制するとともに、投与のために皮膚を繰り返し破壊する必要があり及び/または投与のために入り口を維持する必要のある外部のポンプまたは他の方法が関連する感染症のリスクを小さくできる。
【0076】
低容量速度で行われる皮下部位への薬物送達は、本発明の特に好ましい態様である。一般に小さな容量速度で薬物を送達すると、送達部位からの薬物の除去速度よりも少ないか、同じか、またはその除去速度よりもほんのわずかに大きいだけの速度の投与速度で提供することによって、送達部位で薬物が蓄積すること(例えば、貯蔵即ちプール作用)が避けられる(例えば、その部位の速度で薬物を吸収させることによって、即ち血液または他の体液の流れによってその部位から薬物が離れて移動する)。このようにフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナー(例えば、スフェンタニル)のような効力の高い薬物を送達するために埋め込み可能なシステムを提供することに加えて、本発明はまた、送達部位での薬物の蓄積を避けつつ治療上有効量の薬物を投与できるように、薬物の吸収速度と薬物の送達速度を明快にバランスをとることで疼痛を治療する方法を提供する。
【0077】
一態様では薬物送達装置は実質的に連続的に、予め選択された速度で薬物を皮下送達させる。例えばスフェンタニルの皮下送達では、薬物は約0.01μg/時間から約200μg/時間まで、通常は約0.01μg/時間、0.25μg/時間、または3μg/時間から約85μg/時間まで、そして典型的には約5μg/時間から約100μg/時間までの間の速度で送達するとよい。フェンタニルまたはフェンタニルコンジナーの適当な量は、例えばこれらの薬物の相対的な効力に基づいて当業者によって容易に決定できる。送達された実際の投与量は、用いた選択した薬物の効力やその他の性質(例えば、親油性など)などのさまざまなファクターによって変化するであろう。
【0078】
本発明で使用される薬物送達装置
種々の調節性薬物送達装置のどれかを本発明で用いることによって、フェンタニルまたはフェンタニルコンジナーを含む薬剤の送達を達成できる。一般に薬物送達装置は調節性の薬物送達装置を極小で持っており、一態様ではさらに薬物送達カテーテルを備えていて、例えばそこでは埋め込み部位が送達部位から離れている。
【0079】
本発明で用いるに適した薬物送達装置は、種々の調節性薬物放出装置のうちのどれかの利点を採用するとよい。一般に本発明で使用するに適した薬物放出装置は、薬剤を保持するための薬物リザーバーを備え、また別法では薬物を保持できるある基質またはマトリックス(例えば、ポリマー、結合性固体等)を備えている。薬物放出装置は、当技術分野で既知の種々の埋め込み可能な調節性薬物送達システムのいずれかから選択してもよい。本発明で用いるに適した調節性薬物放出装置は一般に、被験者の選択された部位に、選択されているか他の方法でパターン化された量及び/または速度で装置から薬物を送達させることができる。
【0080】
いくつかの態様におけるこの送達装置は、長い期間にわたって行われるフェンタニルまたはフェンタニルコンジナーの送達に適した装置である。このような送達装置は、数時間(約2時間、12時間、または24時間から48時間もしくはそれ以上まで)から、数日間(約2日間から5日間またはそれ以上まで、約100日またはそれ以上から)まで、数ヶ月または数年間までフェンタニルまたはフェンタニルコンジナーの投与に適しているであろう。これらの態様のいくつかにおいては、この装置は約1ヶ月から約12ヶ月またはそれ以上までの範囲の期間送達するのに適している。この薬物送達装置は、フェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーを個人にある期間、例えば約2時間から約72時間まで、約4時間から約36時間まで、約12時間から約24時間まで、約2日間から約30日間まで、約5日間から約20日間まで、約7日間もしくはそれ以上から、約10日間もしくはそれ以上から、約100日間もしくはそれ以上から、約1週間から約4週間まで、約1ヶ月から約24ヶ月まで、約2ヶ月から約12ヶ月まで、約3ヶ月から約9ヶ月まで、約1ヶ月もしくはそれ以上から、約2ヶ月もしくはそれ以上から、または約6ヶ月もしくはそれ以上から、あるいは必要とされるならばこれらの範囲内の徐々に大きくした範囲を含む他の範囲の期間で投与するのに適した装置であろう。これらの態様では本明細書に記載したフェンタニルまたはフェンタニルコンジナーの高-濃度の製剤が本発明で使用するに際して特に関心がもたれる。
【0081】
この装置からの薬物の放出、特定すると調節された薬物の放出は、当技術分野で周知の方法にかかる種々の方式のうちのどれかで、例えばポリマー内の薬物から薬物を実質的に調節して拡散させるポリマーに薬物を導入することによってや、生物分解可能なポリマーに薬物を導入することによってや、浸透圧作動性の装置から薬物を送達させることによってなどの方式で達成できる。薬物送達装置が薬物送達用カテーテルを備えている場合、装置及び/またはカテーテルを介する拡散によってや電気的拡散によってや電気的浸透圧によって、薬物はキャピラリー作用の結果、また薬物放出装置から発生した圧力の結果として、薬物送達部位に薬物送達カテーテルによって送達できる。
【0082】
この薬物送達装置は、治療上必要とされる量と濃度で薬剤を運搬する能力がなくてはならならないとともに、埋め込みと送達が行われている際に、身体の作用による攻撃から製剤をうまく保護させなくてはならない。従って使用する際にかかると思われるストレスがあるところで、例え薬物送達が関連した容器内に発生した圧力に関与する被験者または肉体的な力によって結果的に動きが起きた場合、その薬物放出装置に影響を与えた肉体的な力によって調節されない方式で内容物が噴出するのを阻止できるように、外装はもれ、ひび割れ、破壊、またはゆがみのリスクをなくす性質のある材料からなることが好ましい。薬物を保持し、収容する薬物容器または他の手段も、活性な薬剤と意図しない反応を行わないようにそのような材料から構成されている必要があり、生物適合性であると好ましい(例えば装置が埋め込まれるところではそれは被験者の肉体または体液に関して実質的に非反応性である)。
【0083】
本発明の送達装置で使用するための容器、即ち薬物保持手段にふさわしい材料は当技術分野で周知である。例えば容器材料は非反応性のポリマーまたは生物適合性の金属または合金を含んでいてもよい。適当なポリマーには、限定する必要性はないがアクリロニトリル-ブタジエン-スチレンポリマーなどのようなアクリロニトリルポリマー、ポリテトラフロロエチレン、ポリウレタン、ポリクロロトリフロロエチレン、テトラフロロエチレン及びヘキサフロロプロピレンの共重合体のようなハロゲン化ポリマー、ポチエチレンビニルアセテート(EVA)、ポリイミド、ポリスルホン、ポリカルボネート-アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン、ポリスチレン、セルロース性ポリマーなどが含まれる。さらに例示的なポリマーは、The Handbook of Common Polymers, Scott andRoff, CRC Press, Cleveland Rubber Co., Cleveland, Ohioに記載されている。
【0084】
薬物放出装置の容器で用いるに適した金属材料は、ステンレス鋼、チタン、白金、タンタル、金及びそれらの合金や、金メッキの鉄合金や、白金メッキのチタン、ステンレス鋼、タンタル、金及びそれらの合金、同様に他の鉄合金や、コバルト-クロム合金や、窒化チタンメッキされたステンレス鋼、チタン、白金、タンタル、金、及びそれらの合金を含む。
【0085】
ポリマーマトリックスで使用される例示的な材料としては、限定する必要はないが、生物安定性のポリマーや生物分解性のポリマーを含む生物適合性のポリマーが挙げられる。例示的な生物安定性のポリマーには、限定する必要はないが、シリコン、ポリウレタン、ポリエーテルウレタン、ポリエーテルウレタンウレア、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエステル、ポリエチレン-クロロトリフロロエチレン、ポリテトラフロロエチレン(PTFEまたは「テフロン(登録商標)」)、スチレンブタジエンゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンオキサイド-ポリスチレン、ポリ-a-クロロ-p-キシレン、ポリメチルペンテン、ポリスルホン、及び他の関連する生物安定性のポリマーが含まれる。例示的な生物分解可能なポリマーには、限定する必要はないが、ポリアンハイドライド類、クロロデストラン類、ポリラクティック-グリコール酸、ポリおるとエステル類、n-ビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド/ポリエチレンテレフタレート、ポリグリコール酸、ポリアクチン酸、及び他の関連する生物吸収可能なポリマーが含まれる。
【0086】
薬剤が金属製または金属合金製、特定するとチタンまたは60%以上のチタン合金からなる容器に保存されている場合、サイズが最重要な適用のため、高い収容能力のため、長期間の適用のため、製剤が埋め込み部位で身体に化学的に過敏である場合、また身体が製剤に対して過敏である場合にそれらを適用するためには85%以上のチタンが好まれることが多い。最も好ましくはこの薬物送達装置は室温またはそれ以上の高温で薬物を保存するように設計されている。
【0087】
本発明で用いるのに適した薬物放出装置は、種々の形態の観察法のどれかに基づくことができる。例えば、この薬物放出装置は拡散システム、対流式システム、または腐食システム(例えば、腐植性-ベースのシステム)に基づいていてもよい。例えば、この薬物放出装置は浸透圧式ポンプ、電気式浸透圧式ポンプ、蒸気圧式ポンプ、または浸透圧式炸裂マトリックス、即ち例えば薬物がポリマーに導入されるとそのポリマーは、薬物を含浸したポリマー材料(例えば、生物分解可能な薬物含浸性ポリマー材料)の分解と同時に薬剤の放出を起こさせるようなマトリックスであってもよい。他の態様におけるこの薬物放出装置は、電気拡散システム、電気分解式ポンプ、気泡式ポンプ、圧電式ポンプ、水素分解システムなどに基づいている。
【0088】
また、機械的または電気機械的な注入ポンプに基づく薬物放出装置も本発明で使用するに適している。このような装置の例としては、例えば米国特許第4,692,147号、第4,360,019号、第4,487,603号、第4,360,019号、第4,725,852号などに記載されているものが含まれる。一般には、薬物を送達する本発明の方法は、種々の再充填可能で、非交換性のポンプ系のどれかを用いて達成できる。ポンプ及び他の対流式システムは一般に、時間の経過につれてより一定して調節された放出がなされるために好まれる。浸透圧式ポンプはより定常的に調節した放出が行え、比較的大きさが小さいという組合わさった利点があるため特に好ましい。浸透圧式ポンプのなかでも、デュロス(DUROS)(登録商標)浸透圧式ポンプが特に好ましい(例えば、国際公開公報第97/27840号及び米国特許第5,985,305号及び5,728,396号参照)
【0089】
一態様における薬物放出装置は、浸透圧作動性装置の形態にされた調節性薬物放出装置である。好ましい浸透圧作動性薬物放出システムは、約0.01μg/時間から約200μg/時間までの速度範囲で薬物を放出させることのできるシステムであって、それは、約0.01μl/日から100μl/日(即ち、約0.0004μl/時間から約4μl/時間)、好ましくは約0.04μl/日から約10μl/日、一般的には約0.2μl/日から約5μl/日まで、典型的には約0.5μl/日から約1μl/日までの容量速度で送達されるとよい。一態様における容量/時間送達速度は実質的に一定である(例えば送達は一般に、示した期間内に対する示した容量である、速度±約5%-10%でなされ、例えば容量速度は約 である。)
【0090】
一般的に言うと本発明で使用するのに適した薬物送達装置は、低投与量で、例えばスフェンタニルについては約0.01μg/時間から約200μg/時間で、また好ましくは低容量速度で、例えば1日あたりナノリットルからミクロリットルといったオーダーで送達できる装置である。一態様においては約0.01μl/日から約2ml/日までの容量速度が24時間かけて約80μl/時間の送達によって達成されるが、それは、その期間の間に約±5%から10%まで増減する24時間の送達速度を伴っている。本発明で用いるに適した例示的な浸透圧作動性装置は、限定する必要性はないが、米国特許第3,760,984号、第3,845,770号、第3,916,899号、第3,923,426号、第3,987,790号、第3,995,631号、第3,916,899号、第4,016,880号、第4,036,228号、第4,111,202号、第4,111,203号、第4,203,440号、第4,203,442号、第4,210,139号、第4,327,725号、第4,627,850号、第4,865,845号、第5,057,318号、第5,059,423号、第5,112,614号、第5,137,727号、第5,234,692号、第5,234,693号、第5,728,396号などに記載されたものを含む。
【0091】
薬物送達装置を備える薬物送達用カテーテルを用いたフェンタニルまたはフェンタニルコンジナーの送達
ある態様では、例えば埋め込み部位と望ましい送達部位が同じでなかったり、隣接していたりする場合には薬物送達装置を備えた薬物送達用カテーテルを提供することが望ましいであろう。この薬物送達カテーテルは一般に、薬物送達装置の薬物放出装置と結合する第1端部(即ち「近位」端部)と、望ましい送達部位に薬物含有製剤を送達するための第2端部(即ち「遠位」端部)を持つ実質的に穴の開いた細長い部材である。薬物送達カテーテルが用いられる場合、薬物送達カテーテルの管が薬物送達装置の薬物容器とつながるように、即ち薬物容器内に収容された製剤がその薬物送達カテーテルに移動して、望ましい送達部位に位置づけられたカテーテルの送達出口から出るように、その薬物送達カテーテルの第1端部が薬物送達装置と連結、即ち結合している。
【0092】
このカテーテルの本体は管であり、その管は薬物送達装置から薬剤を漏れを保証して送達するのに適合する直径を持っている。薬物送達装置が対流により薬物を分配する(例えば浸透圧式薬物送達システムにおけるのと同様に)場合、薬物放出システムの容器から導出するカテーテル管の大きさはTheeuwes(1975) J. Pharm. Sci. 64: 1987-91によって記載されているように設計するとよい。
【0093】
カテーテルの本体は、種々の大きさ及び形状のうちのいずれか(例えば、湾曲状、実質的に直線状、テーパー状など)の可能性があり、それは薬物が送達される予定の部位に対する適合性によって選択すればよい。この薬物送達カテーテルの遠位末端は、薬物の送達のための別個の開口が形成されていてもよいし、また一連の開口として形成されていてもよい。
【0094】
この薬物送達カテーテルは、種々の適当な材料のうちのどれかより製造することができるし、また薬物放出装置の容器と同じかまたは異なる材料から製造することもできる。上記に記載したような調節性薬物放出装置を製造する際に使用するに適した不透過性の材料は一般に、薬物送達カテーテルの製造で使用するのにも適している。薬物送達カテーテルを製造できる代表的な材料には、限定する必要はないが、ポリマー類、金属類、ガラス類、ポリオレフィン類(高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、線形の低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリプロピレン(PP)など)、ナイロン類、ポリエチレンテレフタレート、シリコン類、ウレタン類、液体結晶ポリマー類、ペバックス(PEBAX)(登録商標)、ハイトレル(HYTREL)(登録商標)、テフロン(TEFLON)(登録商標)、パーフロロエチレン(PFE)パーフロロアルコキシ樹脂(PFA)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリマー、金属、及び/またはガラスのマルチアミネート類、ニチノールなどが挙げられる。
【0095】
この薬物送達カテーテルは付加的な材料または薬剤(例えば、外部または内部のカテーテル本体表面への皮膜剤)を含むことによって、この薬物送達カテーテルの配設を容易にでき、及び/またはカテーテルに他の望ましい特徴を付与できる。例えば、この薬物送達カテーテルの内壁及び/または外壁が銀で被覆されていてもよいし、また別の場合では抗菌剤で被覆されたり処理されていたりしてもよく、それにより埋め込み部位と薬物送達部位での感染のリスクをさらに減少できる。
【0096】
一態様においては、この薬物送達カテーテルは薬物含有製剤を用いて準備されており、例えば埋め込む前に実質的に予め装填されている。薬物送達カテーテルを準備しておくと、送達開始時間が、即ち薬物送達装置の遠位端部に薬物送達装置から薬物が移動するのに関連する時間が短かくなる。この特徴は、この薬物送達装置の薬物放出装置がかなり低流速でスフェンタニルを放出する場合における本発明の特定の利点である。
【0097】
図1は本発明の一態様を図示しており、本明細書でフェンタニルまたはフェンタニルコンジナーは、薬物容器から皮下部位にフェンタニルまたはフェンタニルコンジナーを維持的に、調節して放出させる埋め込まれた薬物送達装置から送達される。この実施例では薬物送達装置10は、被験者の腕5の皮下部位に埋め込まれている。この装置の薬物容器から皮下部位に入る薬物の流れは矢印200によって図示されている。図2は、図1で埋め込まれた例示的な薬物送達装置10の透視図である。この薬物送達装置10は近位端部と遠位端部11及び12を持っていて、その遠位端部には薬物が皮下部位に送達されるように薬物容器30を出る開口部15が形成されている。例示的な装置10においては、容器30から薬物が調節されて放出するが、それはピストン41を備えた浸透圧式駆動部42とその浸透圧式駆動部42を設けたチャンバーによってなされる。
【0098】
図3は、薬物送達システム100が薬物送達装置10と薬物送達カテーテル20を備えた別の態様を図示している。図3におけるこの実施例では、薬物放出装置の部分が皮下の埋め込み部位に維持されていて、また薬物送達カテーテル20の遠位端部が静脈内の送達部位に埋め込まれている。図4において薬物送達装置が切断除去して示されているように、この薬物送達システム100は薬物送達装置10と薬物送達カテーテル20を備えている。薬物送達カテーテルの壁は管を形成しており、そしてその薬物送達カテーテルは、薬物送達経路が薬物送達装置の薬物容器30から開口15を通って遠位端部12を出て送達されるように薬物送達装置10と連結している。このカテーテル20は、薬物を全身送達できるように、例えば静脈7に配列するとよい。
【0099】
薬物を皮下に送達するための薬物送達装置を埋め込んだり、またその他の態様に位置づけたりする方法は当技術分野では周知である。一般に薬物送達装置の配設は当技術分野で周知の方法及びツールを用いて達成でき、被験者に投与された少なくとも幾分かの局所麻酔薬か全身麻酔薬を利用して感染を予防する条件下で行われる。一態様においてはこの薬物送達装置は、例えば米国意匠特許第D402,757号、またはニュージーランド意匠登録証第29353号に記載されている装置のような埋め込み器を用いて埋め込まれる。薬物送達装置の取り外し及び/または再設置も、容易に入手可能なツール及び方法を用いて達成できる。
【0100】
実施例
以下の実施例は、本発明をどのように作成し、使用するかについての完全な開示及び説明を当業者に提供できるように提示されており、それは発明者らが彼らの発明と考えている発明の範囲を制限するように意図されておらず、また下記の研究が全てであるかまたは行なわれた研究にすぎないことを示す意図もない。用いた数字(例えば量、温度など)に関する正確性を確かなものにする努力がなされたが、幾分かの実験的な間違いや偏差が考慮されなくてはならない。
【0101】
実施例1:デュロス(登録商標)ポンプによってフェンタニルまたはフェンタニルコンジナーを皮下送達するための治療管理法
1.被験者の評価
医者はまず、オピオイドによる治療に感受性があって、そのような治療に安全に耐えうるかどうかを決定するために、可能性のある被験者を検査してその被験者の病歴を評価した。
【0102】
2.適切な投与量の選択
本発明による治療を進めようと医者が決定すると、医者は被験者に投与すべき薬物(例えば、スフェンタニル)の適当な投与量を決める。この決定はさまざまな方式で行うことができる。被験者が疼痛を調節するためにある医薬品を既に用いている(例えば経口投与のモルヒネ、または経皮貼着剤のフェンタニル)ならば、医者は被験者が以前に用いた医薬品の投与量を、皮下に注入する場合に選択される薬物の適切な容量に補正しようと試みることができる。この補正は、以前に用いた医薬品と選択した薬物との間に投与量変換情報(例えば、投与量変換チャート)が存在するならば、そのような投与量変換情報に照らして行うことができる。投与量変換情報が以前の医薬品と選択された薬物に対して存在しない場合、医者はまず、以前の医薬品を、選択された薬物(例えばフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーである例えばスフェンタニル)との投与量変換情報が存在する別の医薬品に被験者を切り替えるとよい。
【0103】
投与量変換情報に頼るのに代えて、即ちそのような情報が存在しない場合、医者は、副作用が最少で疼痛を調節できる最適用量が確認できるまで外部ポンプを用いて選択された薬物(例えば、フェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーである例えばスフェンタニル)を皮下に注入し、そのような注入速度を調節することによって、そのような被験者に対する適切な薬物用量を決定するとよい。
【0104】
3.デュロス(登録商標)ポンプの埋め込み
医者が一旦フェンタニルまたはフェンタニルのコンジナー(例えばスフェンタニル)の適切用量を決定すると、その医者は、3ヶ月まで必要とされる投与量を送達できる選択された薬物(例えば、スフェンタニル)を含む製剤を収容したデュロス(登録商標)ポンプを選択する。続いて医者は、そのデュロス(登録商標)ポンプを被験者の上腕内側の皮下組織に埋め込むことができる。
【0105】
4.疼痛の治療
デュロス(登録商標)ポンプが埋め込まれて機能するようになると、3ヶ月に至るまで疼痛を調節できるように、フェンタニルまたはフェンタニルコンジナー(例えば、スフェンタニル)が全身に送達される。治療は、デュロス(登録商標)ポンプが取り外すことにより、3ヶ月が経過する以前に停止するとよい。3ヶ月を越えて治療されることが望まれる場合には、消費されたデュロス(登録商標)ポンプは取り外し、置き換えたデュロス(登録商標)ポンプを同じ皮下領域に移植するとよい。
【0106】
実施例2:スフェンタニル送達用のデュロス(登録商標)ポンプ
以下に、スフェンタニルの送達に用いられるデュロス(登録商標)浸透圧式ポンプの例示的な薬物負荷パラメータが説明されている。このパラメータは、公称日数が110日間で公称容量測定送達速度が1.4μl/日である場合の、公称充填容量が155μlであるようなポンプ(90日間というねらった送達期間を達成するのを確実にする)に基づいている。このプロトコールで用いられる例示的なデュロス(登録商標)ポンプが図2に示されており、それは直径が約3.76 mmで、長さが44.21 mmである。
【0107】
負荷パラメータ
【表1】

【0108】
このようにこれらのパラメータは、約110日の期間(例えば約3ヶ月間)選択された用量速度で送達させることのできるポンプの製剤に含まれるべき薬物の量を示している。
【0109】
実施例3:ベンジルアルコールにスフェンタニルを含む製剤
397 mg/mLの製剤
3.97 gのスフェンタニル基剤を秤量し、少しばかりのベンジルアルコールに添加した。この薬物を磁気攪拌器を用いて攪拌しつつベンジルアルコールに溶解した。得られた調製物が透明になったときに、追加のベンジルアルコールを添加して、10 mLの製剤を得た。得られた製剤の濃度は397 mg/mLであった。
【0110】
310 mg/mLの製剤
3.1 gのスフェンタニル基剤を秤量し、少しばかりのベンジルアルコールに添加した。この薬物を磁気攪拌器を用いて攪拌しつつベンジルアルコールに溶解した。得られた調製物が透明になったときに、追加のベンジルアルコールを添加して、10 mLの製剤を得た。得られた製剤の濃度は310 mg/mLであった。
【0111】
実施例4:ベンジルベンゾエートにスフェンタニルを含む製剤
248 mg/mLの製剤
充分な量のベンジルベンゾエートに3 mLのポリソルベート20を添加して30 mLの溶液を作成することによって、ビヒクル溶液を調製した。そのポリソルベート20がベンジルベンゾエートに分散するまでこの混合液を磁気攪拌器を用いて攪拌した。7.44 gのスフェンタニル基剤を秤量し、少しばかりのそのビヒクル溶液に添加した。この薬物を超音波バス中でそのフラスコを超音波処理することによって溶解した。得られた調製物が透明になったときに、追加量のビヒクルを添加して、30 mLの製剤を得た。得られた製剤の濃度は248 mg/mLであった。
【0112】
77 mg/mLの製剤
充分な量のベンジルベンゾエートに3 mLのポリソルベート20を添加して30 mLの溶液を作成することによって、ビヒクル溶液を調製した。そのポリソルベート20がベンジルベンゾエートに分散するまでこの混合液を磁気攪拌器を用いて攪拌した。2.322 gのスフェンタニル基剤を秤量し、少しばかりのそのビヒクル溶液に添加した。この薬物を超音波バス中でそのフラスコを超音波処理することによって溶解した。得られた調製物が透明になったときに、追加量のビヒクルを添加して、30 mLの製剤を得た。得られた製剤の濃度は77.4 mg/mLであった。
【0113】
実施例5:デュロス(登録商標)浸透圧式ポンプからのスフェンタニルの放出
37℃におけるデュロス(登録商標)浸透圧式ポンプからの薬物の放出を、20μg/時間または5μg/時間のいずれかの薬物用量速度でインビトロでテストした。5個の異なる系(5個の異なるポンプ)を、48日間の間、それぞれの薬物送達速度(20μg/時間及び5μg/時間)についてテストした。
【0114】
放出媒体(RM)を、粉末状の製品として商業的に入手できるリン酸緩衝塩(PBS)から、製造者の指示にしたがって調製した。5%のポリソルベート20を、最終容量に調整する前にその媒体に添加した。この溶液が放出媒体(RM)である。6 mLのRMを、テストすべきそれぞれの系に対して準備されたチューブである、15 mLの円錐状のポリプロピレン製チューブに分配した。このチューブを37℃の水浴に設置し、その温度に到達させた。
【0115】
スフェンタニルを含む系を、開口末端下位が設けられたそれぞれのチューブに取り付け、完全にRMに浸漬する。望ましい時間間隔でその系を移動ロッドを用いてその管から取り外す。その系を水浴で平衡にした新しいRMチューブに取り付ける(開口末端下位)。時間間隔は例えば、0.5時間、1、2、3、4、5、6、7、14、28、35日であり、送達が終わるまで毎週続く。
【0116】
放出されるスフェンタニルの量を決定するために、4 mLのアセトニトリルをそれぞれのサンプルテストチューブに添加し、すっかりと混合した。続いてそのサンプルを評価してその時間間隔の間に放出されたスフェンタニルの量を測定する。サンプルに含まれるスフェンタニルを、HPLCで、または製剤やRMに存在するスフェンタニルを測量できる他の方法で定量した。単位時間あたりに放出される量をそれぞれの間隔で算出し、放出速度プロフィールをx-軸の平均時間間隔に対して単位時間あたりに放出される量をy-軸にプロットすることによって作成した。
【0117】
20μg/時間の系についての結果が図5に提示されており、同時に図6には蓄積放出量が提示されている。5μg/時間の系についての結果は図7に提示されている。それぞれのグループ(20μg/時間のポンプグループ、及び5μg/時間のポンプグループ)についての平均ポンプ速度が図8に提示されている。この結果は、効力の強いオピオイドのスフェンタニルを調節して、連続的に、そして正確に低容量で放出させることが、デュロス(登録商標)浸透圧式埋め込みポンプを用いて達成できることを証明している。このポンプによるインビトロでの放出はインビボでの放出に補正されるが、それは、そのポンプから分配される容量がそのポンプの機能そのものであって、そのポンプが置かれる環境の影響を受けないためである。したがってこれらの同じポンプはインビトロと同様にインビボでも実行できると予測される。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】埋め込み式の薬物送達装置を用いての薬物の全身送達を図示している。
【図2】本発明で用いられる例示的な薬物送達装置の透視図である。
【図3】薬物を静脈内送達するために配設されたカテーテルを経て皮下に埋め込まれた薬物装置を用いての静脈内送達を図示している。
【図4】カテーテルを含む例示的な薬物送達装置の切断除去図である。
【図5】20μg/時間の速度で、例示的な浸透圧式ポンプからスフェンタニルが放出されることを示すグラフである。
【図6】20μg/時間の速度で、例示的な浸透圧式ポンプからスフェンタニルが対流式に放出されることを示すグラフである。
【図7】5μg/時間の速度で、例示的な浸透圧式ポンプからスフェンタニルが放出されることを示すグラフである。
【図8】図5及び図7の平均ポンプ速度を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の疼痛を治療する方法において、
被験者の身体の埋め込み部位に調節性の放出薬物送達装置を埋め込む段階、及び
被験者の疼痛を緩和するのに有効な量のフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーを含む製剤を該薬物送達装置から全身に送達する段階
を含む方法。
【請求項2】
薬物送達装置が皮下部位に埋め込まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
製剤が、約0.01μl/日から2 ml/日までの容量速度で送達される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
製剤のフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーが、1時間あたり約0.01μgの速度から1時間あたり200μgの速度までで送達される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
製剤の送達が実質的に連続的である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
薬物送達装置が、埋め込み部位から離れた送達部位に製剤を送達するためのカテーテルの隣接末端に結合される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
薬物送達装置が対流式薬物送達装置である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
対流式装置が、電気機械式ポンプ、電気浸透圧式ポンプ、加水分解システム、圧電式ポンプ、弾力計システム、蒸気圧ポンプ、電気分解式ポンプ、及び浸透圧式バーストマトリックスからなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
対流式装置が浸透圧式ポンプである、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
薬物送達装置が拡散システムである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
薬物送達装置が腐食性の薬物含有マトリックスである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
送達段階が、約4週間から12ヶ月間の期間である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
薬物送達装置が、3日以上の期間、被験者の疼痛を緩和するのに充分な量のフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
薬物送達装置が、30日以上の期間、被験者の疼痛を緩和するために送達できる充分な量のフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
薬物送達装置が、100日以上の期間、被験者の疼痛を緩和するために送達できる充分な量のフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
製剤が、スフェンタニル(sufentanil)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
スフェンタニルが、約0.01μg/時間から約200μg/時間までの速度で送達される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
薬物送達装置が、2日以上の期間、被験者の疼痛を緩和するのに充分な量のスフェンタニルを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
薬物送達装置が、20日以上の期間、被験者の疼痛を緩和するのに充分な量のスフェンタニルを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
疼痛に苦しむ被験者の疼痛を治療する方法において、
被験者にフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーを含む製剤を投与する段階であって、該投与段階が約2ml/日未満の容量速度での全身的な送達によりなされ、被験者の疼痛が緩和される段階
を含む方法。
【請求項21】
投与段階が、被験者の埋め込み部位に薬物送達装置を埋め込むことによってなされる、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
埋め込み部位が皮下部位である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
薬物送達装置が対流式装置である、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
対流式装置が、電気機械式ポンプ、電気浸透圧式ポンプ、加水分解システム、圧電式ポンプ、弾力計システム、蒸気圧ポンプ、電気分解式ポンプ、及び浸透圧式バーストマトリックスからなる群より選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
対流式装置が浸透圧式ポンプである、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
薬物送達装置が拡散システムである、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
薬物送達装置が腐食性の薬物含有マトリックスである、請求項20に記載の方法。
【請求項28】
全身性送達が実質的に連続性である、請求項20に記載の方法。
【請求項29】
製剤が予め選択された投与期間投与される、請求項20に記載の方法。
【請求項30】
予め選択された投与期間が、約4週間から12ヶ月の間である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
製剤がスフェンタニルを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項32】
スフェンタニルが、約0.01μg/時間から約200μg/時間までの速度で送達される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
製剤が、被験者に埋め込まれた薬物送達装置にある、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
薬物送達装置が、2日以上の期間、被験者の疼痛を緩和するのに充分な量のスフェンタニルを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
薬物送達装置が、20日以上の期間、被験者の疼痛を緩和するのに充分な量のスフェンタニルを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
薬物送達装置が実質的に完全に埋め込まれている、請求項20に記載の方法。
【請求項37】
疼痛の治療を必要としている被験者の埋め込み可能な部位に埋め込むための埋め込み可能な調節性薬物送達装置であって、その装置が、フェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーを含有する製剤を含んでおり、該埋め込み可能な装置が、被験者の疼痛を治療するのに有効な量のフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーを体循環に送達するのに適した装置を含む、疼痛を治療するための装置。
【請求項38】
装置が、少なくとも約3日間から約10日間、被験者の疼痛を治療するのに有効な量のフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーを送達するのに充分な量の製剤を含む、請求項37に記載の装置。
【請求項39】
装置が、少なくとも約4週間の期間、被験者の疼痛を治療するのに有効な量のフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーを送達するのに充分な量の製剤を含む、請求項37に記載の装置。
【請求項40】
装置が、少なくとも約100日間、被験者の疼痛を治療するのに有効な量のフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーを送達するのに充分な量の製剤を含む、請求項37に記載の装置。
【請求項41】
装置が、約0.01μg/時間から200μg/時間までの速度で製剤を送達する、請求項37に記載の装置。
【請求項42】
製剤が、スフェンタニルを含む、請求項37に記載の装置。
【請求項43】
装置が、約0.01μg/時間から約200μg/時間までの速度でフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーを送達するのに適する、請求項37に記載の装置。
【請求項44】
装置が、約0.01μl/日から2 ml/日までの容量速度でフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーを送達するのに適する、請求項37に記載の装置。
【請求項45】
薬物送達装置が、2日以上の期間、被験者の疼痛を緩和するために送達するのに充分な量のフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーを含む、請求項37に記載の装置。
【請求項46】
薬物送達装置が、20日以上の期間、被験者の疼痛を緩和するために送達するのに充分な量のフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーを含む、請求項37に記載の装置。
【請求項47】
薬物送達装置が、100日以上の期間、被験者の疼痛を緩和するために送達するのに充分な量のフェンタニルまたはフェンタニルのコンジナーを含む、請求項37に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−231070(P2006−231070A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−104033(P2006−104033)
【出願日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【分割の表示】特願2000−604823(P2000−604823)の分割
【原出願日】平成12年3月16日(2000.3.16)
【出願人】(501365516)ダレクト コーポレーション (1)
【Fターム(参考)】