疾患および損傷の処置のための一酸化窒素ドナー
【課題】細胞治療を一酸化窒素ドナーの使用と合わせることにより疾患または損傷を持つ患者を処置する方法を提供すること。
【解決手段】神経発生の促進が必要な患者へ治療量のホスホジエステラーゼインヒビター化合物を投与することにより神経発生を促進する方法を。神経発生を促進するために十分な有効量のホスホジエステラーゼインヒビターを含む、神経発生を提供するための化合物。神経発生を促進するホスホジエステラーゼインヒビター。脳細胞の生成を増加させる方法および増加の必要な部位に有効量のホスホジエステラーゼインヒビター化合物を投与することにより、細胞の構造およびレセプターの変化を促進する方法。有効量のホスホジエステラーゼインヒビター化合物を患者に投与することにより、神経機能および認識機能の両方を増加する方法。
【解決手段】神経発生の促進が必要な患者へ治療量のホスホジエステラーゼインヒビター化合物を投与することにより神経発生を促進する方法を。神経発生を促進するために十分な有効量のホスホジエステラーゼインヒビターを含む、神経発生を提供するための化合物。神経発生を促進するホスホジエステラーゼインヒビター。脳細胞の生成を増加させる方法および増加の必要な部位に有効量のホスホジエステラーゼインヒビター化合物を投与することにより、細胞の構造およびレセプターの変化を促進する方法。有効量のホスホジエステラーゼインヒビター化合物を患者に投与することにより、神経機能および認識機能の両方を増加する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本発明は、疾患および損傷の処置に関する。さらに、具体的には、本発明は、疾患および損傷の処置のための一酸化窒素ドナーおよび細胞治療を含む方法および化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
脳卒中は米国の成人集団における3番目に多い一般的死因であり、障害の主要な要因である。脳卒中は脳の一部が梗塞を起こす時に生じ、その結果、脳の血液供給が妨害されることにより、脳組織の死に到る。急性脳卒中と関連した脳梗塞は、突発性の劇的な神経障害を引き起こす。他の神経性の疾患もまた、組織の死および神経障害を生じる。
【0003】
生存し得る、脳卒中に感染した脳の領域への血流を最大にする薬理的な介入が試みられてきたが、臨床的な効果が証明されていない。Harrison’s Principles of Internal Medicine(第9版、1980、p.1926)に述べられているように、「亜酸化窒素法により測定した(脳血管拡張剤)が脳の血流を増加するという、実験の証拠に関わらず、脳血管拡張剤が、一過性の虚血性発作、進行性の血栓症、または確立された脳卒中の段階のヒトの脳卒中症例における綿密な研究で有益であることは証明されていない。このことは、ニコチン酸、プリスコリン、アルコール、パパベリン、および5%の二酸化炭素の吸入にもあてはまる。全身の血圧を下げることにより、血管拡張剤が頭蓋内吻合血流を減少するので、または、脳内の正常な領域内の血管を拡張することにより血管拡張剤が梗塞から血液を奪うので、血管拡張薬が有益というよりはむしろ有害であるという示唆は、これらの方法の使用とは反対である。
【0004】
さらに、心臓血管系の疾患は世界中の死亡率および罹患率の主要な原因である。例えば、心不全は有病率が増加している。心不全の特徴は、心臓が身体の様々な器官に十分な血液を送達できないことである。現在の見積りは、500万人より多い米国人が心不全の診断を受けていることを示している。そして、ほぼ500,000人の新しい患者が毎年診断され、1年に250,000人がこの疾患のために死亡していることを示している。過去20年の有効な治療的成果にもかかわらず、心不全は発生率が増加し続け、流行性伝染病のような勢いに達し、先進国において大きな経済負担を生じさせている。
【0005】
心不全は、心拍出量における障害、または静脈圧の上昇から生じる独特の症状および兆候という特徴を持つ臨床的な症候群である。さらに、心不全は進行性の疾患であり、それによって、有害事象が存在しないにも関わらず、心臓の機能は長期にわたり悪化し続ける。従って、心不全が原因で、心拍出量が不十分になる。
【0006】
一般に、心不全は2つのタイプがある。右心不全は、心臓の右側が静脈血を肺循環に送り出せない。身体の血液が逆流し、腫れおよび浮腫が生じる。左心不全は心臓の左側が血液を体循環に送り出せない。左心室への後ろへの血液の逆流はその後、肺への血流の蓄積を誘導する。
【0007】
心不全の結果として生じる主要な影響は、血流がうっ血することである。心臓がポンプとして効率が悪くなると、身体はホルモン、神経シグナル(例えば、血液量を増加させるシグナル)を用いることによりそれを補うよう試みる。
【0008】
心不全には多数の原因がある。例えば、心臓組織の疾患がもはや機能しない死んだ心筋細胞をもたらす。左心室の機能障害の進行は、一部これらの心筋細胞の進行中の損失に起因している。
【0009】
心不全を処置および防止する方法はたくさんある。例えば、動物モデルでの急性の心虚血および/または心臓梗塞または心臓損傷において心臓の細胞を再生するために、幹細胞が用いられてきた。1つの特定の例では、ドナーの足の骨から単離した成長し得る骨髄間質細胞を培養増殖し、標識し、次いで同系の成体ラット被提供者の心筋層に注入した。移植後、4日間から12週間で心臓を収集した後、移植した位置を調べると、移植した間質細胞は心筋の環境で、成長能を示すことがわかった(Wangら)。
【0010】
心筋細胞は、インビトロでD3系列の多能性胚幹(ES)細胞から胚様凝集体(胚様体)を経て分化することが示された。細胞は、全細胞パッチクランプ技術により、分化期間の間の形態および遺伝子発現の類似により特徴付けられた(Maltsevら、1994)。その上、多能性マウスES細胞は、哺乳動物の心臓の主要な特徴を発現する心筋細胞に分化する能力があった(Maltsevら、1993)。
【0011】
幹細胞はその起源(胚、骨髄、骨格筋など)に関わらず、全てではないが、身体の様々な細胞型に分化する能力を持っている。幹細胞は、機能性の心筋細胞に分化し得る。従って、心不全を処置するための幹細胞に基づいた治療の開発は、既存の従来の治療を超える多くの利点を有する。
【0012】
従って、細胞治療を一酸化窒素ドナーの使用と合わせることにより疾患または損傷を持つ患者を処置する方法に対する必要性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
(発明の要旨)
本発明に従って、神経発生の促進が必要な患者へ治療量のホスホジエステラーゼインヒビター化合物を投与することにより神経発生を促進する方法を提供する。神経発生を促進するために十分な有効量のホスホジエステラーゼインヒビターを含む、神経発生を提供するための化合物もまた、提供する。神経発生を促進するホスホジエステラーゼインヒビターもまた、提供する。さらに、脳細胞の生成を増加させる方法および増加の必要な部位に有効量のホスホジエステラーゼインヒビター化合物を投与することにより、細胞の構造およびレセプターの変化を促進する方法が提供される。有効量のホスホジエステラーゼインヒビター化合物を患者に投与することにより、神経機能および認識機能の両方を増加する方法を提供する。
・(項目1)
神経発生を促進する方法であって、
神経発生の促進が必要な患者に、治療量のホスホジエステラーゼインヒビター化合物を投与する工程を包含する、方法。
・(項目2)
上記患者に細胞治療を施す工程をさらに包含する、項目1に記載の方法。
・(項目3)
神経発生を促進するために十分な有効量のホスホジエステラーゼインヒビターを含む、神経発生を促進するための化合物。
・(項目4)
細胞治療をさらに含む、項目3に記載の化合物。
・(項目5)
薬学的に受容可能なキャリア中にホスホジエステラーゼインヒビターを含む、神経発生プロモーター。
・(項目6)
項目5に記載の神経発生プロモーターであって、上記ホスホジエステラーゼインヒビターが、組織における一酸化窒素を増加させる神経発生プロモーター。
・(項目7)
上記ホスホジエステラーゼインヒビターがシルデナフィルである、項目6に記載の神経発生プロモーター。
・(項目8)
有効量のホスホジエステラーゼインヒビターを増加の必要な部位に投与することにより、ニューロンの生成を増加する方法。
・(項目9)
上記部位に細胞治療を施すことをさらに包含する、項目8に記載の方法。
・(項目10)
有効量のホスホジエステラーゼインヒビターを患者に投与することにより、神経機能を増加させる方法。
・(項目11)
上記患者に細胞治療を施すことをさらに包含する、項目10に記載の方法。
・(項目12)
患者に有効量のホスホジエステラーゼインヒビター化合物を投与することにより、認識機能および神経機能を増加させる方法。
・(項目13)
上記患者へ細胞治療を施すことをさらに包含する、項目12に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0014】
添付した図と組み合わせて考えた時、以下の詳細な記述を参照することにより、本発明はより良好に理解されるので、本発明の他の利点は容易に理解される。
【図1】図1A〜Dは、脳の血管の周界を示す。
【図2】図2A〜Cは、増殖した脳内皮細胞を示す。
【図3】図3A〜Cは、3次元像で解析した、DETANONOateが新脈管形成を誘導することを示す。
【図4】図4A〜Eは、DETANONOateがインビトロで新脈管形成を誘導することを示す。
【図5】図5は、シルデナフィルに誘導された毛細管様管形成の定量データを示す棒グラフを示す。
【図6A】図6Aは、シルデナフィルを用いた、細胞処理の効果を示す写真である。
【図6B】図6Bは、シルデナフィルを用いた、細胞処理の効果を示す写真である。
【図6C】図6Cは、シルデナフィルを用いた、細胞処理の効果を示す写真である。
【図6D】図6Dは、シルデナフィルを用いた、細胞処理の効果を示す写真である。
【図6E】図6Eは、シルデナフィルを用いた、細胞処理の効果を示す写真である。
【図6F】図6Fは、シルデナフィルを用いた、細胞処理の効果を示す写真である。
【図6G】図6Gは、シルデナフィルを用いた、細胞処理の効果を示す写真である。
【図6H】図6Hは、シルデナフィルを用いた、細胞処理の効果を示す写真である。
【図6I】図6Iは、シルデナフィルを用いた、細胞処理の効果を示す写真である。
【図7】図7A〜Bは、非虚血性ラットにおけるコントロールと対比して、シルデナフィルによる処理後の小脳および皮質それぞれにおけるcGMPのレベルを示すグラフである。
【図8】図8は、コントロールと対比して、シルデナフィルで処理したラットにおいて局在化したCBFを示すグラフである。
【図9】図9A〜Bは、粘着−除去テスト(adhesive−removal test)およびmNSSテストそれぞれの結果を示すグラフである。
【図10】図10A〜Bは、本発明の治療を用いた、SVZにおけるBrdU陽性細胞の処理結果を示す、それぞれ写真およびグラフである。
【図11】図11A〜Bは、本発明の治療を用いた、血管におけるBrdU陽性細胞の処理結果を示す、それぞれ写真およびグラフである。
【図12】図12A〜Cは、本発明の処理が、コントロールと比較して、脳由来内皮細胞による内皮管形成を誘導することを示す写真である。
【図13】図13は、本発明の処理が、コントロールと比較して、VEGFの分泌を増加したことを示すグラフである。
【図14】図14A〜Gは、本発明の治療の結果を示す写真である。
【図15】図15A〜Cは、DETA/NONOateまたは生理食塩水で処理した14
【数6】
日後および42
【数7】
日後の非虚血性の若齢成体ラットの歯状回におけるBrdU免疫反応性細胞の数(図15A)、SVZにおけるBrdU免疫反応性細胞の数(図15B)およびOBにおけるBrdU免疫反応性細胞の数(図15C)を示す棒グラフである。
【図16】図16A〜Cは、DETA/NONOateまたは生理食塩水で処理した14
【数8】
日後および42
【数9】
日後の非虚血性の高齢のラットの歯状回におけるBrdU免疫反応性細胞の数(図16A)、SVZにおけるBrdU免疫反応性細胞の数(図16B)およびOBにおけるBrdU免疫反応性細胞の数(図16C)を示す棒グラフである。
【図17】図17A〜Dは、梗塞の体積に対するSNAP処理の効果(図17A)、回転棒(rotarod)テストに対するSNAP処理の効果(図17B)、接着除去テストに対するSNAP処理の効果(図17C)、および動物の体重に対するSNAP処理の効果(図17D)を示す。
【図18】図18A〜Bは、非虚血性ラットの皮質(図18Aおよび図18BにおけるN)および虚血後2時間から7日のラットの同側皮質におけるPDE5A1 mRNAのRT−PCR(図18A)およびPDE5A2 mRNAのRT−PCR(図18B)を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(発明の詳細な説明)
一般に、本発明は、複細胞治療および一酸化窒素ドナーまたはPDEインヒビターの組み合わせを用いて、多器官系における疾患および損傷を処置する方法および化合物を提供する。この組み合わせ治療は、患者に対するいかなる危険性も増加させることなく、両方の治療の効果を増加させる。その治療の利点は、神経発生、新脈管形成、実質細胞の構造および機能の変化を誘導することにより器官の可塑性を増加させることである。さらに、その相乗効果に起因して、それぞれの治療はより低量で与えられ得、制限しなければ示し得る薬剤のいかなる副作用も有害な効果もそれにより制限する。あるいは、PDEインヒビターのみが、処置のために投与され得る。
「PDEインヒビター」により、PDEを阻害する化合物を意味する。そのような化合物の例はシルデナフィル(Viagra(登録商標))である。PDEインヒビターはホスホジエステラーゼの活性を減少する(例えば、選択的に減少する)か、または除去する因子である(例えば、PDE1−10(例えば、5型ホスホジエステラーゼ、10型ホスホジエステラーゼ)および他のいずれかのホスホジエステラーゼ)。本発明の方法および化合物の文脈では、ホスホジエステラーゼインヒビターは、その活性因子の(例えば、PDE)塩、エステル、アミド、プロドラッグ、および他の誘導体を含む。ホスホジエステラーゼインヒビターは、生成されるいかなるNOの効果も増幅する。ホスホジエステラーゼインヒビターは、血管拡張および血管機能の改善を生じるために用い得る。
【0016】
これらのインヒビター化合物の例としては、ロリプラム(rolipram)、テオフィリン、ペントキシフィリン、cGMP、ザプリナスト(zaprinast)、IBMX、ミルリノン、5−(2−エトキシ−5−モルホリノアセチルフェニル)−1−メチル−3−n−プロピル−1,6−ジヒドロ−7H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−オン、5−(5−モルホリノアセチル−2−n−プロポキシフェニル)−1−メチル−3−n−プロピル−1,6−ジヒドロ−7−H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−オン、5−[2−エトキシ−5−(4−メチル−1−ピペラジニルスルホニル)−フェニル]1−メチル−3−n−プロピル−1,6−ジヒドロ−7−H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−オン、5−[2−アリルオキシ−5−(4−メチル−1−ピペラジニルスルホニル)−フェニル]−1−メチル−3−n−プロピル−1,6−ジヒドロ−7H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−オン、5−[2−エトキシ−5−[4−(2−プロピル)−1−ピペラジニルスルホニル)−フェニル]−1−メチル−3−n−プロピル−1,6−ジヒドロ−7−H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−オン、5−[2−エトキシ−5−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニルスルホニル)フェニル]−1−メチル−3−n−プロピル−1,6−ジヒドロ−7−H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−オン、5−[5−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニルスルホニル]−2−n−プロポキシフェニル]−1−メチル−3−n−プロピル−1,6−ジヒドロ−7−H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−オン、5−[2−エトキシ−5−(4−メチル−1−ピペラジニルカルボニル)フェニル]−1−メチル−3−n−プロピル−1,6−ジヒドロ−7−H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−オンおよび5−[2−エトキシ−5−(1−メチル−2−イミダゾリル)フェニル]−1−メチル−3−n−プロピル−1,6−ジヒドロ−7−H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−オンが挙げられるが、これらに限られない。
【0017】
ホスホジエステラーゼインヒビターとしては、グリセオール酸(griseolic acid)誘導体、2−フェニルプリノン誘導体、ピリドン誘導体、縮合ピリミジン、ピリミドピリミジン誘導体、プリン化合物、キナゾリン化合物、フェニルピリミジノン誘導体、イミダゾキノキサリノン誘導体、またはアザアナログ、フェニルピリドン誘導体などもまた挙げられ得る。ホスホジエステラーゼインヒビターの具体的な例としては、以下のものが挙げられ得る;1,3−ジメチル−5−ベンジルピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−オン、2−(2−プロポキシフェニル)−6−プリノン、6−(2−プロポキシフェニル)−1,2−ジヒドロ−2−オキシピリジン−3−カルボキサミド、2−(2−プロポキシフニル)−ピリド[2,3−d]ピリミド4(3H)−オン、7−メチルチオ−4−オキソ−2−(2−プロポキシフェニル)−3,4−ジヒドロ−ピリミド[4,5−d]ピリミジン、6−ヒドロキシ−2−(2−プロポキシフェニル)ピリミジン−4−カルボキシアミド、1−エチル−3−メチルイミダゾ[1,5a]キノキサリン−4(5H)−オン、4−フェニルメチルアミノ−6−クロロ−2−(1−イミダゾロイル)キナゾリン、5−エチル−8−[3−(N−シクロヘキシル−N−メチルカルバモイル)−プロピルオキシ]−4,5−ジヒドロ−4−オキソ−ピリド[3,2−e]−ピロロ[1,2−a]ピラジン、5’−メチル−3’−(フェニルメチル)−スピロ[シクロペンタン−1,7’(8’H)−(3’H)−イミダゾ[2,1b]プリン]4’(5’H)−オン、1−[6−クロロ−4−(3,4−メチレンジオキシベンジル)−アミノキナゾリン−2−イル)ピペリジン−4−カルボン酸、(6R,9S)−2−(4−トリフルオロメ
チル−フェニル)メチル−5−メチル−3,4,5,6a,7,8,9,9a−オクタヒドロシクロペント[4,5]−ミダゾ[2,1−b]−プリン−4−オン、1t−ブチル−3−フェニルメチル−6−(4−ピリジル)ピラゾロ[3,4−d]−ピリミド−4−オン、1−シクロペンチル−3−メチル−6−(4−ピリジル)−4,5−ジヒドロ−1H−ピラゾロ[3,4−d]−ピリミド−4−オン、2−ブチル−1−(2−クロロベンジル)6−エトキシ−カルボニルベンズイミダオールおよび2−(4−カルボキシピペリジノ)−4−(3,4−メチレンジオキシ−ベンジル)アミノ−6−ニトロキナゾリンおよび2−フェニル−8−エトキシシクロヘプトイミダゾール。
【0018】
本発明に組み合わせて有用なさらに他のV型ホスホジエステラーゼインヒビターとしては、以下が挙げられる:IC−351(ICOS);4−ブロモ−5−(ピリジルメチルアミノ)−6−[3−(4−クロロフェニル)プロポキシ]−3(2H)ピリダジノン;1−[4−[(1,3−ベンゾジオキソール−5−イルメチル)アミノ]−6−クロロ−2−キナゾリニル]−4−ピペリジン−カルボン酸モノナトリウム塩;(+)−シス−5,6a,7,9,9,9a−ヘキサヒドロ−2−[4−(トリフルオロメチル)−フェニルメチル−5−メチル−シクロペント−4,5]イミダゾ[2,1−b]プリン−4(3H)オン;フラズロキリン;シス−2−ヘキシル−5−メチル−3,4,5,6a,7,8,9,9a−オクタヒドロシクロペント[4,5]イミダゾ[2,1−b]プリン−4−オン;3−アセチル−1−(2−クロロベンジル)−2−プロピリンドール−6−カルボキシレート;4−ブロモ−5−(3−ピリジルメチルアミノ)−6−(3−(4−クロロフェニル)プロポキシ)−3−(2H)ピリダジノン;1−メチル−5−(5−モルホリノアセチル−2−n−プロポキシフェニル)−3−n−プロピル−1,6−ジヒドロ−7H−ピラゾロ(4,3−d)ピリミジン−7−オン;1−[4−[(1,3−ベンゾジオキソール−5−イルメチル)アミノ]−6−クロロ−2−キナゾリニル]−4−ピペリジンカルボン酸モノナトリウム塩;Pharmproject No.4516(Glaxo Wellcome);Pharmproject No.5051(Bayer);Pharmproject No.5064(Kyowa Hakko;参照WO96/26940号);Pharmproject No.5069(Schering Plough);GF−196960(Glaxo Wellcome)およびSch−51866。
【0019】
他のV型のホスホジエステラーゼインヒビターとしては、DMPPO(Eddahibi(1988)Br.J.Pharmacol.、125(4):681〜688)およびアリールナフタレンリグナンシリーズ(1−(3−ブロモ−4、5−ジメトキシフェニル)−5−クロロ−3−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニルカルボニル]−2−(メトキシカルボニル)ナフタレンヒドロクロライド(27q)(Ukita(1999)J.Med.Chem.42(7):1293〜1305)を含む)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
「複数器官系」については、多数器官に影響を及ぼす系を意味する。このような器官としては、心臓、肝臓および脳が挙げられるが、これらに限られない。
【0021】
「一酸化窒素ドナー」については、化合物が、一酸化窒素を提供し得るか、または一酸化窒素の増加を促進し得ることを意味する。一酸化窒素を提供する化合物のファミリーが存在する。これらの化合物としては、以下のものが挙げられる:DETANONOate(DETANONO、NONOateまたは1置換型ジアゼン−1−イウム−1、2−ジオレートは、[N(O)NO]−官能基を含む化合物である:DEA/NO;SPER/NO;DETA/NO;OXI/NO;SULFI/NO;PAPA/NO;MAHMA/NOおよびDPTA/NO)PAPANONOate、SNAP(S−ニトロソ−N−アセチルペニシルアミン)、ニトロプルシドナトリウムおよびニトログリセリンナトリウ
ム。一酸化窒素の増加を促進する化合物がある(例えば、ホスホジエステラーゼインヒビターおよびL−アルギニン)。
【0022】
本明細書中で使用される場合、「神経発生の促進」については、神経成長が促進されるかまたは増強されることを意味する。これは、新しい神経の成長または存在するニューロンの増強された成長、ならびに実質細胞および組織の柔軟性を促進する細胞の成長および増殖を含み得るがそれらに限られない。神経発生はまた、神経突起および樹状突起の伸張ならびにシナプス生成を含むが、それらに限られない。
【0023】
本明細書中で使用される場合、「増強」については、成長が特定の状況下で、必要に応じて増強されるかまたは抑制されるかのいずれかであることを意味する。従って、さらなるニューロンの成長が必要である場合、一酸化窒素ドナーの添加がこの成長を増進させる。一酸化窒素ドナーまたは一酸化窒素源は、大脳組織を刺激し、傷害、神経変性、またはレセプターの活性化を増強し、そして細胞の形態変化および細胞増殖を促進することによる老化により引き起こされたダメージを補う。
【0024】
本明細書中で使用される場合、「神経性の」機能または「認知性の」機能については、脳における神経成長が思考、機能またはそれ以上の患者の能力を増強することを意味する。一酸化窒素で処置したヒトは、認知性機能、記憶機能および運動機能の改善を促進する脳細胞の生成を増加した。さらに、神経の疾患または傷害を被る患者は、一酸化窒素で処置される場合、認知性機能、記憶機能および運動機能を改善した。
【0025】
本明細書中で使用される場合、用語「細胞治療」は、幹細胞(その子孫が種々の細胞型に特定化する一般化された母細胞)の投与することを包含するが、それらに限られない。幹細胞は、種々の起源を有し、これらとしては、胚、骨髄、肝臓、間質、脂肪組織および当業者に公知の他の起源の幹細胞起源が挙げられるが、これらに限られない。これらの幹細胞は、投与され得るか、またはそれらが天然に存在するような所望の領域に配置され得るか、あるいは、当業者に公知の任意の様式において操作され得る。従って、種々の遺伝的操作方法(トランスフェクション、欠失などが挙げられるが、これらに限定されない)を介して、生存の可能性を増加させるために、または任意の他の所望の目的のために幹細胞を操作し得る。
【0026】
本明細書中で使用される場合、用語「富化する」または「富化」とは、いくらかの所望の質のまたは量の物質を添加または増加することにより、豊富にすること、またはより豊かにすることを含むが、これらに限定されないことを意味する。本発明において、富化は、心筋層の内部にあるまたは周辺にある、より機能的な心臓細胞の添加または増加により生じる。
【0027】
本明細書中で使用される場合、「再投入する(repopulate)」または「再投入すること(repopulating)」は、心筋層の内部または周辺の心臓細胞への添加または補充を含むが、これらに限定されないことを意味する。これらはさらに、現在機能している細胞の活性を強化する。従って、既存の心臓細胞の置換および/または強化が生じる。
【0028】
本発明の目的は、処置の効果を増加すること(例えば、神経発生)、および機能改善を促進する細胞変化を増加すること)によって神経傷害、または他の傷害に対する改良された効果を促進することである。例えば、脳卒中、CNS損傷および神経変性疾患の後、患者は、神経欠損および機能的な欠損を被る。これらの知見は、CNS障害後または、CNS変性の、機能を改善するための脳の補償メカニズムを増強する手段を提供する。一酸化窒素の投与によって誘導されるニューロン変化および細胞変化の誘導は、脳卒中、傷害、
加齢および変性疾患の後、機能の改善を促進する。この適用はまた、他の神経疾患(例えば、限定されないが、ALS、MSおよびハンチントン病)を被る患者に対して利益を提供し得る。さらに、本発明の方法および組成物は、細胞治療の効果を増強し得る。
【0029】
CNS障害後の好都合なときに投与した一酸化窒素は、脳における神経発生を促進し、神経発生を容易にし得る。一酸化窒素はまた、細胞治療の効果も増強し得る。初期の実験では、長い半減期(約50時間)の化合物である、NOを生成するDETA/NOを使用した。この化合物を投与した場合、および脳卒中の発症後、24時間および24時間を過ぎてから新しいニューロンの数の増加が確認された。好ましくは、本発明の化合物は、損傷の部位に直接投与される。例えば、化合物は、経口的に、腹腔内に、静脈内にまたは所望の結果を提供するような当業者に公知の他の任意の様式で投与され得る。しかし、化合物は、処置が必要な場合、全身に投与され得る。
【0030】
本明細書に含まれる実験データは、NOの生成を誘導するように設計された薬理的な介入が、神経発生を促進し得ることを示す。3つの化合物(DETANONOateおよびシルデナフィル(ViagraTM)SNAP)が使用されてきた。これらの化合物は、首尾よく神経発生および脳卒中の後、機能改善された効果を首尾よく誘導した。使用された化合物は、血液脳関門を越えるようである。神経発生は、神経科学研究における主要な最終的な目的である。ニューロンの生成を促進するための方法の開発は、広い範囲の神経性疾患、CNS損傷および神経変性を処置する機会を広げる。障害を受けていない脳において、機能を増加させるためにニューロンの生成を増強することが可能である。
【0031】
ニューロンの生成を促進する薬物のクラスの市場は、巨大である。DETANONOは一例でしかないが、一酸化窒素のドナーは、神経発生を促進する。神経発生の増加は、加齢、および損傷後または疾患後の神経性機能、挙動機能、認知性機能を増加する、改善する方法と言い換える。
【0032】
近年、なんらかの病因の心臓不全における機能の悪化に対する一つの機構が、一部は、進行する心筋細胞の死に起因することが、非常に明らかになってきた(Sabbah、2000)。この問題の解決は、新しい心臓細胞で心筋層を富化するか、または再投入することであり、失った細胞を置き換え、または現在の機能性心臓細胞のさらなる強化を提供し、それにより、欠陥のある心臓のポンプ機能を改善する。本発明は、疾患を処置するための細胞治療の使用に基づいている。幹細胞は、異なる起源(胚、骨髄、肝臓、脂肪組織など)を有するが、それらの重要な共通の特徴は、体の、全てではなくとも様々なタイプの細胞に分化する潜在能力を持つことである。以前に報告されているように、幹細胞は、心筋細胞に分化し得ることが示されている(Maltsevら、1993および1994)。
【0033】
本発明は、現存する処置全体に対して利点がある。例えば、現在、心臓不全の処置は、主として神経液性系を妨げる薬物の使用に基づいている。さらに、心臓移植ならびに心室または両室の補助デバイスの使用を含む、外科的な処置が存在する。本発明により提供される利点は、疾患の主要な原因(すなわち収縮性の単位の損失)に直接的に取り組むことにより、心臓疾患を処置し得ることである。従って、収縮性の単位に分化する幹細胞を用いた心筋の再投入は、新規であり、問題の中心に進む。他の利点としては、心臓疾患の全体の機能に寄与するしばしば薬学的な治療の使用と関連した副作用の非存在および心臓移植または他の器官の移植を苦しめる免疫拒絶の非存在が挙げられる。
【0034】
本発明は、多くの現在の外科的治療に取って代る可能性および、おそらく薬理的な治療を有する。現存する手段は、カテーテルベースの適用を使用して、従って開胸手術の必要性を除き、幹細胞の心臓不全への送達を可能にする。さらに、本発明は、ヒト医学的環境
にも獣医学的背景の両方に適用可能である。
【0035】
本発明は、損傷および疾患を処置し、かつ通常の機能を改善し、そして/または回復する。さらに詳細には、本発明は、細胞治療の増強に用いられ、それにより、機能をより効果的にし、効率的にする細胞治療を可能にする。機能は、損傷した細胞に分化する幹細胞を移植することにより損傷した細胞を富化し、そして/または再投入することにより強められ、それにより、機能を強める。従って、収縮性単位の増加は、心臓の機能を強める。さらに、幹細胞はまた、様々な物質(例えば、栄養性因子のような)の放出を引き起こし得る。従って、例えば、栄養性因子の放出は、心臓の機能を強めるため、および/または心臓不全の処置のために、脈管形成(血管の数の増加)を誘導する。従って、幹細胞は、ただ機能的な心筋細胞に分化する以外の様々な機構を介して、心臓機能を強化しそして/または心臓不全を処置するように作用する。
【0036】
幹細胞の心筋への移植の一般的な方法は、以下の手順により起こる。幹細胞および一酸化窒素ドナーまたはPDEインヒビターを患者に投与する。投与は、静脈皮下投与、非経口投与(動脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与および鼻腔内投与を含む)、ならびに髄腔内技術および注入技術で投与され得る。
【0037】
用語「幹細胞」とは、インビボでヒト被験体に提供した時、自己再生し得る造血細胞を含むがそれに限られない細胞治療の任意の様式を意味し、そして、特定の系統に分化し、展開し得る、起源を制限した前駆体になり得る。本明細書中に使用される場合、「幹細胞」は造血細胞をいい、他の細胞型の幹細胞はいわない。さらに、他に示されない限り、「幹細胞」はヒト造血幹細胞をいう。
【0038】
用語「幹細胞」または「多能性の」幹細胞は、(1)全ての規定された系統に子孫を生じさせる能力を有する幹細胞および(2)全ての血液細胞型およびそれらの子孫で、著しい免疫無防備状態の宿主を完全に再形成し得る幹細胞(自己再生による多能性の造血幹細胞を含む)の意味で相互変換可能に用いられる。
【0039】
骨髄は、長骨の髄腔、いくつかのハヴァーズ管および海綿状または鼻甲介骨の柵状織間の空間を占有する軟組織である。骨髄には、2つのタイプがある:赤色、これは幼少期に全ての骨で見られ、成人期に制限された位置(すなわち、鼻甲介の骨)に見られ、血液細胞の生成(造血)およびヘモグロビン(従って、赤色である)に関係する;および黄色、多くは脂肪細胞(従って、黄色である)および結合組織からなる。
【0040】
概して、骨髄は造血幹細胞、赤血球細胞ならびに白血球細胞およびそれらの前駆体、間葉幹細胞、間質細胞およびそれらの前駆体、ならびに線維芽細胞、網状赤血球、脂肪細胞および「間質(stroma)」と呼ばれる結合組織ネットワークを形成する内皮細胞を含む細胞群からなる複合組織である。間質由来の細胞は、細胞表面のタンパク質および増殖因子の分泌による直接の相互作用を通して造血細胞の分化を形態学的に調節し、そして、骨構造の基礎および支持体に関与する。動物モデルを用いた研究により、骨髄は、軟骨、骨および他の結合組織細胞に分化する能力を持つ「前間質(pre−stomal)」細胞を含むことを示唆する(Beresford,J.N.:Osteogenic Stem Cells and the Stromal System of Bone
and Marrow、Clin.Orthop.240:270、1989)。最近の証拠は、多能性間質幹細胞または間葉幹細胞と呼ばれるこれらの細胞が、活性化の際に、いくつかの異なる細胞株の型(例えば、骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞など)において、生成する能力を有することを示す。しかし、間葉幹細胞は、組織中に、非常に微量の広範な他の細胞(すなわち、赤血球、血小板、好中球、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球、脂肪細胞など)を有するとともに存在し、そして年齢と反比例の関係で、間葉幹細胞は、
多くの生物活性化因子の影響に依存して結合組織の分類に分けられ得る。
【0041】
結果として、発明者らは、分化前の組織からヒト間葉識幹細胞を単離し、そして精製するためのプロセス、次いで筋骨格の治療のための利用可能なツールを作り出すために、間葉細胞を拡大する培養を開発してきた。そのような操作の目的は、間葉幹細胞の数を著しく増加させることおよびこれらの細胞を、身体の正常の修復能力を変え、そして/または、強化するのに使用することである。間葉幹細胞を多量で回収し、組織傷害の領域に適用し、再生および/または修復のための増殖をインビボで増強するか、または刺激し、引き続く活性化および分化、造血細胞生成の増進などを通して、移植片の種々の人工器官デバイスへの移植片の接着を改善する。
【0042】
これらの株について、発明者らによって、培養増殖し、精製した間葉幹細胞を修復、移植などのための部位で移植、固定化および活性化の種々の手順が検討され、これらの手順としては、骨格欠乏の部位への細胞の注入、人工器官を伴う細胞の培養および人工器官の移植などを包含する。従って、分化の前に単離し、精製し、細胞の数を著しく増加し、次いでそれらを組織傷害の部位に置くことの長所により、または培養増殖した未分化の間葉幹細胞の移植前にインビトロで前処理することによる分化過程を活動的に制御することは、広範な代謝骨疾患、骨格異形成、軟骨欠損、靭帯および腱損傷ならびに他の筋骨格および結合組織傷害における細胞障害、分子障害、および遺伝的障害を明らかにするための種々の治療目的のために用いられ得る。
【0043】
これらの株について、発明者らによって様々な多孔性セラミックビヒクルまたはキャリアの使用を通して(細胞を損傷の部位へ注入することを含む)間葉幹細胞または間葉前駆体細胞を修復、移植などのための部位で移植し、固定化し、そして活性化するための種々の手順が検討されている。
【0044】
ヒト間葉幹細胞は、股関節または膝の置換手術の間に間接変性疾患を有する患者から得た大腿骨先端癌化骨片のプラグを含む多様な異なる供給源からおよび正常なドナーおよび将来の骨髄移植のために骨髄を回収した腫瘍患者から得た吸引骨髄から入手し得る。回収した骨髄を、回収した骨髄の供給源(すなわち、骨片、末梢血などの存在)に依存して、多数の異なった機械的分離プロセスにより細胞培養物分離のために調整したが、単離プロセスに関与する重要な段階は、分化を伴わない間葉幹細胞の成長を可能とするだけではなく、間葉幹細胞が培養ディッシュのプラスチック表面またはガラス表面への直接的な接着についても可能とする薬剤を含む特別に調整した培地の使用である。骨髄サンプルに非常に微量に存在する所望の間葉幹細胞を選択的に接触することを可能にする培地を産生することにより、間葉幹細胞を骨髄に存在する他の細胞(すなわち、赤血球細胞および白血球細胞、他の分化した間葉細胞など)から分離することが可能となる。
【0045】
上で示したように、細胞培養物分離のための摘出した骨髄を調製をするために用いた最初の摘出プロセスでの特定の型に依存する多くの異なる単離プロセスに、完全培地を使用し得る。この点では、癌化骨髄のプラグを使用した場合、骨髄を完全培地に添加し、分散物を形成させるためにボルテックスした。その後、遠心し、骨髄細胞を骨片などから分離した。骨髄細胞(主に、赤血球細胞、白血球細胞および非常に微量の間充織幹細胞などを含む)はその後、16、18および20ゲージの一連の針を取り付けたシリンジを用いて、骨髄細胞を含む完全培地に蒔くことにより、単独の細胞に分離した。機械的な分離プロセスの使用により形成する利点は、いずれの酵素による分離プロセスとも反対に、機械的なプロセスが小さな細胞の変化しか形成しないことであると考えられている。それに対して、酵素によるプロセスは、特に、培養接着および選択的な分離に必要なタンパク質結合部位および/または、前記間充織幹細胞に特異的なモノクローナル抗体の生成に必要なタンパク質部位に細胞損傷を形成し得る。単一の細胞の懸濁液(およそ50〜100倍の上
清:有核細胞=10:6により作成した)を、次いで、懸濁液中に見られる残りの細胞からの間充織幹細胞の選択的な分離および/または単離のために、100mmのディッシュにプレートした。
【0046】
吸引した骨髄をヒト間充織幹細胞の源として用いた場合、骨髄幹細胞(ほとんどまたは全く骨片を含まないが、多量の血液を含む)を完全培地に添加し、その後Percoll勾配(Sigma、St Louis、Mo)により分画した(より詳しくは以下の実施例1に記載)。Percoll勾配は、大部分の赤血球細胞および単核造血細胞を、骨髄由来の間充織幹細胞を含む低密度の血小板フラクションから分離した。この関連で、およそ30〜50倍の上清:細胞=10:6を含む血小板フラクションを、未確定の量の血小板細胞、30〜50倍の上清:有核細胞=10:6および、骨髄ドナーの年齢に依存するおよそ50〜500の間充織幹細胞から作った。低密度の血小板フラクションを次いで、細胞付着に基づいた選択的分離のために、ペトリ皿にプレートした。
【0047】
この関連で、癌化した骨または腸骨吸引液(すなわち、初期培養物)のいずれかから得た骨髄細胞を、完全培地で培養し、以下の実施例1に示した条件に従って、1日〜7日でペトリ皿の表面に接着させた。3日後では、細胞接着における増加は見られなかったので、最初の完全培地を新しい完全培地で置き換えることにより、非接着細胞を培地から取り除く標準の長さの時間として、3日を選択した。後の培地の交換を、培養ディッシュがコンフルエントになるまで(通常は14〜21日必要である)、4日毎に行った。この結果、未分化ヒト間充織幹細胞において、10上清3倍〜10上清4倍の増加を示した。
【0048】
次いで、細胞を、放出剤(例えば、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)を含むトリプシン(0.25%トリプシン、1mM EDTA(1倍)、(Gibco、Grand Island、N.Y.))または、EGTA(エチレングリコール−ビス−(2−アミノエチルエーテル)N,N’−四酢酸(Sigma Chemical Co.、St.Louis、Mo.)のようなキレート剤を含むトリプシン)を用いて培養ディッシュから分離した。トリプシンに対するキレート剤の使用によって生じた長所は、トリプシンがおそらく間充織幹細胞の多くの結合タンパク質を切断し得ることであった。これらの結合タンパク質が認識部位を含むので、モノクローナル抗体を生成した時、EGTAのようなトリプシンに対抗するキレート剤を、放出剤として用いた。放出剤を、次いで不活性化し、分離した培養非分化間充織幹細胞を、後の使用のために完全培地で洗浄した。
【0049】
これらの結果は、ある条件下では、多孔性のリン酸カルシウムセラミックス中で移植片をインキュベートした場合、培養増殖した間充織幹細胞が骨に分化する能力を持つことを示した。軟骨細胞と対照的に、間充織幹細胞の、骨への分化に影響する内部因子はよく知られていないが、拡散チャンバと対照的に、多孔性のリン酸カルシウムセラミックス中の、血管系により提供された成長因子および栄養性因子への間充織幹細胞の直接の接触性が、間充織幹細胞の骨への分化に影響しているように見える。
【0050】
結果として、単離し、培養増加した間充織幹細胞は、ある特定の条件下および/またはある因子の影響下で、組織修復に必要な所望の細胞表現型を分化し、生成するために用いられ得る。
【0051】
間充織幹細胞の単回用量の投与は、T細胞とは異質遺伝子型組織に対するT細胞の反応、または「非自己(non−self)」組織に対する反応を低減し、除去するために効果的であり得る。特に、間充織幹細胞から分離した後の異質遺伝子に対する、それらの非反応性の性質(すなわち、寛容または無反応)をTリンパ球が保持する場合には特にあてはまる。
【0052】
間充織幹細胞の用量は広い限界内で様々であり、それぞれの特定の場合の個体の要求に適合する。一般に、非経口の投与の場合、通例、被提供者の体重1kg当たり、およそ10,000細胞〜5,000,000細胞投与する。使用する細胞の数は、被提供者の体重および状態、投与回数または投与頻度および当業者に公知の他の変数に依存する。間充織幹細胞は、組織、器官または移植する細胞にあった投与経路により投与し得る。間充織幹細胞は、静脈内注射により全身に、すなわち非経口的に投与し得る。または、特定の組織または特定の器官(例えば、骨髄)を標的とし得る。ヒト間充織幹細胞は、細胞の皮下移植により、または幹細胞の結合組織(例えば、筋肉)への注射により、投与し得る。
【0053】
細胞は適切な希釈剤に、約0.01細胞/ml〜約5×106細胞/mlの濃度で懸濁し得る。注射溶液に適した賦形剤は、細胞および被提供者に、生物学的および生理学的に適合性の賦形剤(例えば、緩衝塩溶液または他の適した賦形剤)である。投与のための組成物は、適切な無菌性および適切な安定性を満たした標準的な方法に従って処方し、作製し、貯蔵しなければならない。
【0054】
本発明は、それらに限定されないが、間充織幹細胞を、本明細書に記載した方法で用いるための十分な数の細胞を得るために、好ましくは骨髄から単離し、精製し、インビトロでの培養により増加し得る。骨で検出される間充織幹細胞、形成した多能性芽細胞は通常、骨髄では低い頻度(1:100,000)で、および他の間充織組織では低い頻度で存在する。CaplanおよびHaynesworth、米国特許第5,486,359号を参照のこと。間充織幹細胞の遺伝子形質導入は、Gersonらの米国特許第5,591,625号に開示されている。
【0055】
もし、別に述べなければ、遺伝的な操作は、SambrookおよびManiatis、MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL第2版;Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.(1989)に記載された通りに行う。
【0056】
本発明の方法および組成物の詳細な記述は、これに添えて含まれる付属書Aに示し、参考としてその全体が援用される。本明細書には、特定の実施形態が開示されるが、それらは完全ではなく、設計および方法論の異なる、当業者に公知の他の適した設計を含み得る。基本的に、当業者に公知の、異なる任意の設計、方法、構造、および材料が、本発明の精神から逸脱することなく、用い得る。
【0057】
(方法)
分子生物学における一般的な方法:当該分野で公知の標準的な分子生物学技術は、詳細に記載されず、一般に、Sambrookら、Molecular Cloning:A
Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、New York(1989)およびAusubelら、Current Protocols in Molecular Biology、John WileyおよびSons、Baltimore、Maryland(1989)およびPerbal、A Practical Guide to Molecular Cloning、John Wiley & Sons、New York(1988)および、Watsonら、Recombinant DNA、Scientific American Books、New YorkおよびBirrenら(編)Genome Analysis:A Laboratory Manual Series、1〜4巻Cold Spring Harbor Laboratory Press、New York(1988)ならびに米国特許第4,666,828号;4,683,202号;4,801,531号;5,192,659号および5,272,057号に示す方法論に従い、これらは、参考として本明細書に援用される。ポリメラーゼ連鎖反
応(PCR)は一般にPCR Protocols:A Guide To Methods And Applications、Academic Press、San Diego、CA(1990)に従って行った。フローサイトメトリー法と組み合わせたインサイチュ(インセル(In−cell))PCRは、特定のDNA配列およびmRNA配列を含む細胞の検出に用い得る(Testoniら、1996、Blood 87巻:3822)。
【0058】
免疫学における一般的な方法:技術的に知られ、詳細に記載しない免疫学における当該分野で公知の標準的な方法は、一般に、Stitesら(編)、Basic and Clinical Immunology(第8版)、Appleton&Lange、Norwalk、CT(1994)ならびにMishellおよびShiigi(編)Selected Methods in Cellular Immunology、W.H.Freeman and Co.、New York(1980)に従う。
【0059】
(治療剤の送達)
本発明の化合物は、望ましい医学的習慣に従って、患者個体の病態、投与の部位および方法、投与のスケジュール、患者の年齢、性別、体重および医師の知る他の因子を考慮に入れて投与し、服用する。本発明の目的に対して薬学的に「有効量」は、従って、当該分野で公知のような考察事項により決定する。量は、生存率の改善、またはより急速な回復、または、症状の改善もしくは除去および当業者が選定した適切な目安としての他の指標を含むが、それらに限られないものの改善を達成するために、効果的でなければいけない。
【0060】
本発明の方法においては、本発明の化合物は、様々な方法で投与し得る。それを、化合物として、または薬学的に受容可能な塩として投与し得、単独で投与し得る、または、薬学的に受容できるキャリア、希釈剤、アジュバントおよびビヒクルと組み合わせた活性原料として投与し得ることに注意すべきである。化合物は、経口により、皮下に、または、静脈内に、動脈内に、筋肉内に、腹腔内に、および鼻腔内への投与もまた含む、非経口によりならびに鞘内への投与および注射技術により投与し得る。化合物の注射もまた有用である。処置する患者は、温血動物および、特にヒトを含む哺乳動物である。薬学的に受容可能なキャリア、希釈剤、アジュバントおよびビヒクルならびに移植キャリアとは、一般的に、本発明の活性成分とは反応しない、不活性の、無毒の、固体または液体の、増量剤、希釈剤またはカプセル化材料をいう。
【0061】
ヒトは一般に、マウスまたは本発明で例示した、その処置が、疾患過程の長さおよび薬剤の効果に比例した長さを持つ、他の実験動物より長く処置されることに注意する。その服用は、7日間の期間の間で1回の服用または複数回の服用でもあり得るが、1回の服用が好ましい。
【0062】
服用は、7日間の期間で、1回の服用または複数回の服用でもあり得る。一般的に処置は、疾患過程の長さおよび薬剤の効果および処置する患者の種類に比例した長さを持つ。
【0063】
本発明の化合物を非経口で投与する時、一般には、それは単位投与量を持つ注射できる形態(溶液、懸濁液、エマルション)に処方する。注射に適した薬学的処方物は、無菌の水性溶液または分散液および無菌の注射し得る溶液または分散液に再構成するための無菌の粉体を含む。キャリアは、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、適切なそれらの混合物および植物性油を含む溶媒または、分散媒体であり得る。
【0064】
例えば、被覆剤(例えば、レシチン)の使用により、分散液の場合は必要な粒子サイズ
を維持することにより、および界面活性剤の使用により、適切な流動性は維持し得る。非水性ビヒクル(例えば、綿実油、ゴマ油、オリーブ油、大豆油、コーン油、ヒマワリ油、または、ピーナッツ油およびエステル(例えば、ミリスチン酸イソプロピル))も化合物組成の溶媒系として使用し得る。さらに、抗菌防腐剤、抗酸化剤、キレート剤および緩衝剤を含む、組成の安定性、無菌性および等張性を増強する様々な添加物を添加し得る。微生物の活動の予防は、様々な抗菌剤、抗真菌剤(例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸など)により保証し得る。多くの場合、等張性剤(例えば、糖、塩化ナトリウムなど)を含むことが望ましい。注射し得る薬学的形態の吸収の延長は、吸収遅延剤(例えば、アルミニウムモノステアレートおよびゼラチン)の使用により引き起こし得る。しかしながら、本発明に従って、用いる任意のビヒクル、希釈剤または添加剤は、化合物に適合性でなければならない。
【0065】
無菌の注射用溶液は、本発明の実施に活用された化合物を様々な他の所望の成分を含む必要な量の適切な溶媒に組み入れることにより、調製し得る。
【0066】
本発明の薬学的処方物は患者に、任意の適合性キャリア(例えば、様々なビヒクル、アジュバント、添加剤および希釈剤)を含む注射し得る処方物で投与し得る。または、本発明で活用した化合物は、徐放性皮下インプラントの形態で、または標的送達系(例えば、モノクローナル抗体、ベクター送達、イオン注入、ポリマーマトリックス、リポソームおよびミクロスフェア)の形態で非経口で患者に投与し得る。本発明において有用な送達系の例は、5,225,182;5,169,383;5,167,616;4,959,217;4,925,678;4,487,603;4,486,194;4,447,233;4,447,224;4,439,196および4,475,196を含む。多くの他のそのようなインプラント、送達系およびモジュールは当業者に周知である。
【0067】
本発明で活用される化合物の薬学的処方物は患者に経口で投与し得る。従来の方法(例えば、錠剤、懸濁液、溶液、エマルション、カプセル剤、散剤、シロップなどで投与する)は有用である。それを経口でまたは静脈内に送達する、および生物学的な活性を保持する公知の技術は好ましい。
【0068】
一つの実施形態では、本発明の化合物は静脈内への注射で、血中濃度を適した濃度に至らせることにより、最初に投与し得る。次に、患者の濃度を経口投薬形態により維持する。たとえ他の投与形態でも、患者の状態および上に示したものに基づいて活用し得る。投与する量は、処置する患者により異なる。および1日あたり、体重の約100ng/kgから体重の100mg/kgまで変化し、好ましくは、1日あたり10mg/kgから10mg/kgである。
【実施例】
【0069】
(実施例1)
NOの血管形成に対する効果および血管内皮成長因子(VEGF)の合成に対する効果を、ラットの巣状塞栓症脳虚血のモデルにおいて調べた。コントロールのラットと比較して、脳卒中後24時間のラットの全身へのNOドナー、DETANONOateの投与により、血管の周囲が顕著に拡大した。ならびに、三次元レーザースキャニング共焦点顕微鏡により評価した場合、拡散した大脳内皮細胞の数および脳虚血境界領域で新しく生成した血管の数が増加した。DETANONOateによる処置は、ELISAにより測定した場合、脳虚血境界領域のVEGFのレベルを顕著に増加した。DETANONOateが脳虚血で、可溶性グアニル酸シクラーゼの活性化による血管形成を増加するか調べるために、毛細血管様の管形成アッセイを活用した。毛細管様の管形成を誘導したDETANONOateは、可溶性グアニル酸シクラーゼインヒビター、1H−[1,2,4]オキサジアゾロ[4,3−a]キノキサリン−1−オン(ODQ)により完全に阻害された。
VEGFレセプター2に対する中和抗体によるVEGF活性のブロックは、DETANONOate誘導性毛細管様の管形成を著しく弱めた。さらに、ホスホジエステラーゼタイプ5インヒビター(シルデナフィル)の、脳卒中後24時間のラットへの全身投与により、脳虚血境界領域の血管形成が著しく増加した。シルデナフィルおよび環状グアノシン一リン酸(cGMP)のアナログも毛細管様の管形成を誘導した。これらの発見は、外因性のNOは、脳虚血脳において血管形成を増進し、それはNO/cGMP経路により仲介されることを示唆する。さらに、データはNOが、一部はVEGFにより、虚血脳において血管形成を増進し得ることを示唆している。
【0070】
一酸化窒素(NO)ドナーを用いた脳卒中の処置は、機能的な神経性欠損を減少する。NOは多くの生理学的機能および病態生理学的機能に影響する多面的な分子である。NOドナーを用いて処置した動物は、脳の神経性の領域(例えば、心室下部区域および歯状回)で、細胞増幅を誘起する。しかし、処置後の神経機能の回復の根底にあるメカニズムは解明が必要である。
【0071】
脳卒中のNO処置についての潜在的な治療標的は、血管形成である。前血管形成薬剤(例えば、基礎型線維芽細胞増殖因子(bFGF)および血管内皮増殖因子(VEGF)の脳卒中を有する動物への投与は、神経の機能障害を有意に減少する。ヒト血管平滑筋細胞をNOドナーとともに培養すると、VEGF合成が増加し、NOシンターゼ(NOS)のアンタゴニストであるNW−ニトロ−l−アルギニンメチルエステル(L−NAME)がVEGF生成を減少する。内皮NOシンターゼ(eNOS)欠損マウスは、虚血性肢において血管形成の顕著な欠陥を示す。このことは、NOが虚血性組織において、血管形成を調節していることを示している。従って、NO、VEGFと血管形成との間の連関があるように見える。しかし、NOドナーの、脳卒中後のVEGFおよび血管形成に対する効果の研究はなかった。従って、NOがVEGFを増加し、環状グアノシン一リン酸経路(cGMP)による血管形成を増強するという事実を、ラットの局所性塞栓症脳虚血モデルで調べた。
【0072】
(材料および方法)
(動物モデル)
320gm〜380gmの重さのオスWistarラットを用いた。中大脳動脈(MCA)を、塞栓子をMCAの起始部に置くことにより塞いだ。
【0073】
(実験プロトコル)
1)外因性NOが、虚血性動物の新血管形成に影響するか否かを調べるために、(Z)−1−[N−(2−アミノエチル)−N−(2−アンモニオエチル)アミノ]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート(DETANONOate)(生理学的条件下で57時間の半減期を持つNOドナー)を虚血性ラットに投与した。DETANONOate(0.4mg/kg)は脳卒中後24時間のラット(n=8)に、静脈内に投与し、さらに連続6日間、毎日腹腔内に投与した。同量の分解したDETANONOateで処置した虚血性ラット(n=8)をコントロール群として用いた。ラットは全て脳卒中後14日で屠殺した。2)VEGFの脳のレベルに対する外因性NOの効果を調べるために、DETANONOate(0.4mg/kg)または生理食塩水を、プロトコル1に記述した同一の実例により、虚血性ラット(各群についてn=3)に投与した。これらのラットを脳卒中後、7日で屠殺した。3)cGMPの増加が虚血性脳において血管形成を促進するか否かを調べるために、cGMPを増加するホスホジエステラーゼ5型(PDE5)インヒビター、3mlの水道水に溶解したシルデナフィル(2mg/kg)を脳卒中後24時間およびさらに6日間毎日、虚血性ラット(n=8)に与えた。ラットを脳卒中後、14日間で屠殺した。
【0074】
(ブロモデオキシウリジン標識)
S期の分裂細胞DNAに取り込まれるチミジンアナログである、ブロモデオキシウリジン(BrdU、Sigma Chemical)を有糸分裂の標識として使用した。BrdU(50mg/kg)をMCA閉塞の後1日から始めて、13日間毎日虚血性ラットの腹腔内に注射した。
【0075】
(3次元画像獲得および分析)
虚血性脳における新血管形成を調べるために、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)デキストラン(2×106分子量、Sigma、St.Louis、MO;50mg/mlを0.1ml)をMCAoを14日間受けた虚血性ラットの静脈内に投与した。脳は重症の頭部からすぐに取り除き、4%パラホルムアルデヒド中に4℃で48時間置いた。冠状断片(100μm)をビブラトームにより切断した。ビブラトーム切片を、以前記載したように、Zeiss顕微鏡(Bio−Rad;Cambridge、MA)上に設置したBio−Rad MRC 1024(アルゴンおよびクリプトン)レーザースキャニング共焦点画像システムを用いて分析した。FITC−デキストランを注射したそれぞれの動物から、5.2mmブレグマから−8.8mmブレグマまで、2mmの間隔で、7個の100μm厚さのビブラトーム冠状切片を選択した。同側半球および対側半球の8つの脳領域を基準の冠状切片(両耳間8.8mm、ブレグマ0.8mm)内で選択した。これらの領域は、512×512ピクセル(276×276μm2)のフォーマットで4×フレームスキャン平均を用いて、x−y方向に走査し、40×対物レンズの下で、Z軸に沿って1μmの段階で25の光学切片を得た。血管の分枝点、断片長、および直径は、研究室で開発したソフトウェアを用いて3次元像で測定した。像の獲得および分析は無分別に行った。
【0076】
(免疫組織化学および定量化)
BrdU免疫染色のために、脳切片(6μm)を50%のホルムアミド、2×SSC中で65℃で2時間インキュベートし、その後2N HCl中で37℃で30分間インキュベートすることにより、DNAを最初に変性した。切片を次いで、トリス緩衝液でリンスし、1%のH2O2で処置して、内因性のペルオキシダーゼをブロックした。切片を、BrdU(1:1000、Boehringer Mannheim、Indianapolis、IN)に対するマウスモノクローナル抗体(mAb)で一晩インキュベートし、ビオチン標識した2次抗体で1時間インキュベートした(1:200、Vector、Burlingame、CA)。
【0077】
BrdU免疫反応性内皮細胞を定量するため、虚血性病変に隣接した10個の拡大した血管における内皮細胞の数およびBrdU免疫反応性内皮細胞の数をそれぞれのラットから数えた。対側の相同な領域の10個の血管における内皮細胞の数およびBrdU免疫反応性内皮細胞の数を数えた。データはそれぞれのラットからの10個の拡大した血管における、BrdU免疫反応性内皮細胞の全内皮細胞に対するパーセンテージとして示す。
【0078】
血管の周囲は、前述の抗von Willebrand因子抗体で免疫染色した冠状切片で測定した。
【0079】
(VEGFに対するELISA)
対側半球の虚血性境界領域および相同な組織を解剖した。組織をホモジナイズし、10,000gで4℃で20分間遠心し、上清を回収した。上清のVEGFに対するELISA法をラットのVEGFに特異的な市販のキット(R&D、systems)を活用して、製品の指示書に従って行った。
【0080】
(毛細管様の管形成分析)
インビトロの血管形成アッセイを行った。簡単に記載すると、成長因子を減少したマトリゲル(Matrigel)(Becton Dickinson)0.8mlを、前冷却した35mmの培養皿に添加し、37℃で2〜5時間重合した。マウスの脳由来の内皮細胞(2×104細胞)を3時間、DETANONOate、シルデナフィル、1H−[1,2,4]オキサジアゾロ[4,3−a]キノキサリン−1−オン(ODQ)、8−Br−cGMPまたはVEGFレセプター2に対するラットの抗マウス中和抗体(VEGFR2、DC101、Imclone System)を含むDulBecco改変Eagle培地(DMEM)中で培養した。毛細管形成の定量測定には、マトリゲル皿の3つの任意の範囲を画像化し、3つ以上の細胞の途切れない線の長さを測定した。
【0081】
(統計解析)
一元配置分散分析を行い、その後、Student−Newman−Keuls試験を行った。データは平均±SEとして示した。p<0.05の値を有意であるとみなした。
【0082】
(結果)
(インビボにおけるDETANONOateおよびシルデナフィルの血管形成に対する効果)
外因性のNOが虚血性脳における血管形成を増強するか否かを調べるために、DETANONOateを7日間の脳卒中の後、24時間のラットに投与した。DETANONOateによる処理は、虚血性病変の周辺の血管周囲を顕著に(p<0.01)拡大した(図1Aおよび図1D)が、コントロールのラットの同側の血管(図1Cおよび図1D)と比較して、対側半球の血管は拡大しなかった(図1Bおよび図1D)。拡大した薄い壁の血管にある内皮細胞はBrdU免疫反応性を示した(図2Aおよび図2B)。そして、定量的な分析により、DETANONOateで処理したラットにおいて、増殖した内皮細胞の数が有意に増加したことが明らかになった(p<0.05)(図2C)。血管形成をさらに調べるために、研究室で開発したソフトウェアを用いて三次元解析を行った。これを用いて、断片の数、断片の長さおよび血管の直径を測定する。DETANONOateによる処理は、同量の分解したDETANONOateで処理した虚血ラットにおける毛細管断片の数(図3Bおよび表1)と比較して、虚血の境界領域における毛細管断片の数を有意に(p<0.05)増加した(図3Aおよび表1)。DETANONOateで処理した群における毛細管の断片は、直径が有意に小さく(図3Aおよび表1)、そして長さが有意に短かった(図3Aおよび表1)。このことは、これらが新しくできた血管であることを示唆している。血管形成の顕著な増加もシルデナフィルで処理したラットで検出した(表1)。
【0083】
(脳のVEGFのレベルに対するDETANONOateおよびシルデナフィルの効果)
DETANONOateの投与が脳のVEGFのレベルを増加するか否かを調べるために、ラットの内因生のVEGFに対するELISAを行った。ELISA測定により、DETANONOateによる処理が、虚血性境界領域におけるVEGF量を、コントロール群(n=3)の13.4±1.5pg/mlからDETANONOateで処理した群(n=3)の28.9±1.0pg/mlに、有意に増加したこと(p<0.05)が明らかになった。NOはcGMPを増加するので、DETANONOateによるVEGFの誘導が、cGMP経路を介して生じ得る。PDE5はcGMPの加水分解に対する特異性が高い。PDE5インヒビター、シルデナフィルで処理したラットにおける脳のVEGFのレベルを測定した。シルデナフィルによる処理は、虚血性境界領域のVEGFのレベルを有意に増加した(p<0.05)(34.4±2.9pg/ml対13.4±1.5pg/ml(コントロール)群あたりn=3)。
【0084】
(DETANONOateに誘導される毛細管形成に対する可溶性グアニル酸シクラー
ゼインヒビターおよびVEGFR2の中和の効果)
DETANONOateが、虚血性脳において可溶性グアニル酸シクラーゼの活性化により、血管形成を増進するという仮説を支持するために、毛細管形成分析を用いて、DETANONOateの血管形成に対する効果をさらに分析した。マウスの脳由来の内皮細胞をDETANONOateとインキュベートした場合(0.2μM、図4Bおよび図4E)には、内皮細胞をDMEMのみでインキュベートした時(図4Aおよび図4E)と比較して、毛細管形成における有意な増加を検出した。しかし、DETANONOateに誘導された毛細管様血管形成は、内皮細胞をODQ(ODQは可溶性グアニル酸シクラーゼの強力なインヒビターである)の存在下でDETANONOateと培養した場合、完全に阻害された(図4Cおよび図4E)。このことは、NO/cGMPシグナル伝達経路がDETANONOateの血管形成に対する効果の仲介に関与していることを示している。DETANONOateがまた、VEGFの増加により、血管形成を増強するか否かを調べるために、内皮細胞をDETANONOate(0.2μM)およびVEGFR2に対するラット抗マウス中和抗体(DC101、10μg/ml)の存在下で3時間インキュベートした。マウスにおけるVEGFR2に対するこの抗体の生物学的活性を実証した。内皮細胞をVEGFR2に対する抗体で処理することにより、DETANONOate誘導性の毛細管様血管形成は、有意に(p<0.05)減少した(図4Dおよび図4E)。このことは、VEGFがDETANONOate誘導性の血管形成に関与していることを示唆している。
【0085】
(シルデナフィルの毛細管様血管形成に対する効果)
内皮細胞をシルデナフィルとともに(100〜500nM)インキュベートすると、濃度依存的な毛細管様血管形成が生じる(図5)。安定なcGMPのアナログである8−BrcGMP(1mM)も毛細管様血管形成を有意に(p<0.05)増加した(図5)。ODQ(10μM)はシルデナフィル誘導性毛細管様血管形成を有意に阻害した(図5)。このことは、シルデナフィルによる血管形成が、内皮細胞におけるsGCの基礎活性に依存することを示している。ODQは8−BrcGMP誘導性毛細管様血管形成を有意に阻害しなかった(図5)。このことから、この効果は、可溶性グアニル酸シクラーゼの活性化とは独立していることを確認した。
【0086】
(考察)
本研究の主要な発見は、以下である:1)脳卒中後24時間でのDETANONOateまたはシルデナフィルの投与はVEGFの合成を増加し、虚血性脳における血管形成を高める;2)可溶性グアニル酸シクラーゼのインヒビターであるODQは、DETANONOate誘導性毛細管様血管形成を完全に阻害する;3)PDE5のインヒビターであるシルデナフィルは毛細管様血管形成を誘導する。4)VEGFR2に対する中和された抗体によるVEGF活性のブロッキングは、DETANONOate誘導性毛細管様血管形成を弱める。まとめると、これらのデータは、外因性のNOが、NO/cGMP依存的経路を介して、虚血性脳における血管形成を増強することおよびPDE5のインヒビター(シルデナフィル)が血管形成を増大することを示している。データはまた、NO、VEGFおよび血管形成の連関を示唆している。
【0087】
NOは、血管形成において重要な役割を果たす。しかし、虚血性脳における血管形成に対するNOの効果についての研究はない。eNOSを欠くマウスは、肢の虚血に反応して自発的な血管形成の重度の障害を示す。そしてL−アルギニンの投与は血管形成を加速する。本研究では、DETANONOateの投与は拡大した血管の数を有意に増加し、虚血境界領域の内皮細胞を増加した。このことは、NOが血管拡張および内皮細胞増殖を誘導するというデータと一致する。
【0088】
NOは、可溶性グアニル酸シクラーゼを活性化し、それにより標的細胞でcGMPを増
加させる。PDE5酵素は、cGMPの加水分解に高い特異性があり、クエン酸シルデナフィルは、cGMPの細胞内蓄積を引き起こすPDE5の強いインヒビターである22。DETANONOate誘導性毛細管様血管形成は、可溶性グアニル酸シクラーゼの選択的なインヒビターであるODQにより完全に阻害された。このことは、DETANONOateが、可溶性グアニル酸シクラーゼの活性化を介して、脳の血管形成を増強することを示唆している。これらの結果は、NOが血管形成において可溶性グアニル酸シクラーゼを活性化するというこれまでの報告と一致している。虚血性脳のNOにより増強された血管形成にcGMPの増加が寄与するというさらなる証拠を得るために、脳卒中後24時間のラットにPDE5インヒビター(シルデナフィル)を投与した。データは、シルデナフィルによる処理が虚血境界領域において血管形成を高めることを示している。さらに、シルデナフィルおよび8−BrcGMP(cGMPのアナログ)は、脳由来の内皮細胞の培養で、毛細管様血管形成を誘導する。ODQは、8−BrcGMP誘導性毛細管様血管形成ではなく、シルデナフィル誘導性毛細管様血管形成を顕著に阻害する。このことは、この反応がsGCの基礎活性に依存していることを示している。従って、データはNO/cGMP経路が、虚血性脳におけるDETANONOate誘導性血管形成を媒介しているという結論を支持する。
【0089】
VEGFは血管形成を媒介し、NOおよびVEGFは血管形成を促進するように相互作用し得る。高濃度のNOドナーは内皮細胞でのVEGFの発現をダウンレギュレートする。対照的に、最近の研究は、内因性のNOがVEGFの合成を高めることを示している。eNOSを欠くマウスは、虚血性後肢における血管形成の顕著な障害を示す。そして、これらのマウスへのVEGFの投与は、障害のある血管形成を増加しない。このことは、NOがVEGFに誘導される血管形成についての下流のメディエーターであることを示している。VEGFに反応した血管形成は、組織微小環境に依存している。データは、外因性のNOが虚血性脳のVEGFレベルを増加し、VEGF活性のブロッキングがDETANONOate誘導性毛細管様血管形成を弱めることを示している。このことは、NOが脳においてVEGF合成を誘導し、少なくとも一部は、VEGFがDETANONOate誘導性血管形成を媒介することを示唆している。これらの発見は、NOドナーに由来するNOが、VEGFの合成を増加し得るという、これまでの研究と一致している。さらに、PDE5インヒビターであるシルデナフィルが、虚血性脳における脳のVEGFレベルを増加する。このことは、cGMPがNO誘導性のVEGF合成に寄与する可能性があることを示唆している。この発見は、cGMPが、培養されたヒト人工軟骨細胞において、NO誘導性のVEGFのアップレギュレートに関与しないというこれまでの研究とは一致しない。この不一致の理由は、細胞型の違いによるものと考えられ得るが、不可解である。
【0090】
血管形成は、増殖因子の2つのファミリー(VEGFファミリーおよびアンジオポエチンファミリー)ならびに、内皮細胞の細胞外マトリックスとの相互作用によって密接に調節されている。VEGF遺伝子およびアンジオポエチン遺伝子のアップレギュレートは、脳卒中後の脳の血管形成と関係している。さらに、脳卒中は、脳の血管の内皮細胞におけるVEGFレセプター1およびVEGFレセプター2の発現を誘導する12。NOドナーの投与は、星状細胞および内皮細胞において内因性VEGFを増幅し得る。そして、その結果、増加したVEGFは、内皮細胞においてアップレギュレートされたVEGFレセプターと相互作用することにより、虚血性脳において血管形成を増強する。このことは、実験的な脳卒中において、VEGF処理が血管形成を増加すると、示された通りである。新しく作られた血管は、虚血性脳において機能し、長期の灌流の改善による機能回復に寄与し得る。従って、NOとVEGFとの正の相互作用は、NOドナーとVEGFの処理の組み合わせが、血管形成に相乗的な効果を持ち得ることを示唆している。
【0091】
図1は、大脳血管の周辺を示す。DETANONOateによる処理は、虚血の境界における大脳の血管を拡大した(図1A)。しかし、代表的なラット由来の対側半球の相同
な範囲における血管では、拡大しない(図1B)。図1Cは、分解したDETANONOateで処理した代表的なラット由来の虚血の境界において血管が拡大したことを示す。定量データ(図1D)は、コントロールのラット中の同側の血管の周囲と比較して、DETANONOateによる発作の処置が血管の周囲を顕著に増加したことを示す。同側半球に対して*p<0.01。Cにおけるバー=50μm。
【0092】
図2は、大脳内皮細胞が増加したことを示す。図2Aは、DETANONOateで処理した代表的なラットの拡大した薄い壁の血管中のいくつかのBrdU免疫反応性内皮細胞(矢印)を示す。図2Bは、コントロール群からの代表的なラットの拡大した血管におけるBrdU免疫反応性内皮細胞(矢印)を示す。虚血は、内皮細胞の増殖を誘導する(図2C、コントロール)が、DETANONOateによる処理は、増殖した内皮細胞の数を顕著に増加した(図2C、DETANONO)。対側半球に対して*p<0.01およびコントロール群の同側半球に対して#p<0.05。Bにおけるバー=10μm。
【0093】
図3は、3次元画像で分析されるように、DETANONOateが新脈管形成を誘導することを示す。コンピューター作成画像は、元は3次元レーザースキャニング共焦点顕微鏡で得た画像から導かれた。DETANONOateによる処理は、コントロール群のラットの新しい血管の数(図3B)と比較して、新しく形成される血管の数を増加した(図3A)。しかし、DETANONOateは、対側半球の血管の形態を変更しなかった(図3C)。画像中の緑色および赤色は、それぞれ血管の直径が7.5μmより大きいことおよび小さいことを示す。画像サイズは、276×276×25μm3であり、画像中の単位はμmである。
【0094】
図4は、DETANONOateがインビトロで新脈管形成を誘導することを示す。マウス脳由来内皮細胞をDETANONOate非存在下で、DMEMとともに3時間インキュベートし(図4A)、DETANONOate存在下でインキュベートし、(0.2μM、図4B)、およびODQを有するDETANONOate存在下でインキュベートし(図4C)、または、VEGFR2に対する抗体を有するDETANONOate存在下でインキュベートした(図4D)。DETANONOateによって、毛細管様管形成を誘導し(図4B)、この効果はODQにより阻害された(図4C)か、または、VEGFR2に対する抗体により阻害された(図4D)。少なくとも4回の実験で、同様の結果を得た。棒グラフ(図4E)は、毛細管様管形成の定量的データを示す。コントロールに対して、*p<0.05およびDETANONOate(0.2μM)に対して#p<0.05。NO0.1およびNO0.2は、DETANONOate 0.1μMおよび0.2μMを示す。DC101はVEGFR2に対する抗体を示す。
【0095】
図5はシルデナフィルに誘導された毛細管様管形成の定量的データを示す棒グラフを示す。シルデナフィル(100〜500nM)および8−BrcGMPは毛細管様管形成を誘導し、ODQはシルデナフィル(300nM)に誘導された毛細管様管形成を顕著に阻害した。しかし、8−BrcGMP誘導性の毛細管様血管形成は弱めなかった。コントロールに対して、*p<0.05およびシルデナフィル300nMに対して#p<0.05。Sil=シルデナフィル。
【0096】
(実施例2)
(方法)
オスのウィスターラットは、塞栓症の中大脳動脈閉塞に供された。シルデナフィル(バイアグラ(Viagra))を発作の発症後、最初の2時間、または24時間で、連続7日間、1日あたり、2〜5mg/kgの用量で、経口で投与した。同じ体積の水道水を投与した虚血性ラットをコントロール群として用いた。機能転帰試験(フット−フォールト、接着除去)を行った。ラットは、梗塞分体積の分析のため、ならびに下部心室領域およ
び歯状回の中に、新しく生成した細胞の分析のために、発作後28日で屠殺した。脳のcGMPのレベル、PDE5の発現および局在した大脳血流を別のラットで測定した。
【0097】
(結果)
シルデナフィルによる処理は、行った試験全てにおいて、顕著に(p=0.05)神経学的回復を増強した。実験群間の梗塞体積の顕著な違いはなかった。シルデナフィルによる処理は、同側の下部心室領域および線条におけるIII−チューブリン(TuJ1)免疫反応性により示されるように、下部心室領域および歯状回のブロモデオキシウリジン免疫反応性細胞の数を顕著に(p=0.05)増加し、未成熟のニューロンの数を顕著に増加した。cGMPの皮質レベルは、シルデナフィルの投与後、顕著に増加し、およびPDE5 mRNAは非虚血性脳および虚血性脳の両方に存在した。
【0098】
(結論)
シルデナフィルは、発作後2〜24時間のラットに投与される場合、脳のcGMPのレベルを増加し、神経発生を誘起し、そして神経学的欠損を減少する。これらのデータは、性的機能障害に対して病院で現在使用されているこの薬剤が、発作からの回復の促進に役割を有していることを示す。
【0099】
一酸化窒素(NO)は、溶解性グアニル酸シクラーゼの強力なアクチベーターであり、標的細胞中でcGMPの形成を引き起こす。ホスホジエステラーゼ5型(PDE5)酵素は、cGMPの加水分解に対して高度に特異的であり、cGMPシグナル伝達の調節に関与する。シルデナフィルは新規のPDE5のインヒビターであり、細胞内のcGMPの蓄積を引き起こす。NOドナーの、発作を有するラットへの投与は、脳のcGMPのレベルを顕著に増加し、細胞生成を誘導し、そして、機能回復を改善する。機能回復は、一部、NOドナーの投与から生じるcGMPのレベルの増加に起因する。従って、シルデナフィル(PDE5インヒビター)を発作に供されたラットに投与することにより、発作の回復の間、神経学的転帰の改善を高める。
【0100】
(材料および方法)
シルデナフィルは弱い塩基性の化合物であり、それゆえに、これは、生理的なphでは一部しかイオン化しない。およびラットでは0.4時間の半減期を有する。バイアグラのフィルム錠剤(内容物は100mgのシルデナフィルであり、商業的に購入した)を、重量測定し、粉末化した。
【0101】
(動物モデル)
重さが320g〜380gのオスのウィスターラットを本研究に用いた。中大脳動脈(MCA)は、MCAの源に塞栓を置くことにより、閉塞した。
【0102】
(実験プロトコル)
シルデナフィルの投与が細胞増殖および神経学的挙動に影響するかどうかを試験するために実験を行った。2mg/kg(n=10)または5mg/kg(n=9)のシルデナフィルを3mlの水道水中に溶解し、MCA閉塞後2時間のラットに経口投与し、さらに、6日間毎日投与した。別の虚血性ラットの群(n=10)は、MCA閉塞後24時間でシルデナフィル(2mg/kg)を経口処置し、さらに6日間毎日投与した。虚血性ラット(n=9)をコントロール群として同体積の水道水で処置した。虚血前およびMCA閉塞開始の4日後、7日後、14日後、21日後および28日後に機能試験を行い、および体重を測定した。全てのラットをMCA閉塞28日後に屠殺した。シルデナフィルの投与が脳のcGMPのレベルに影響するか試験するための実験も行った。非虚血性ラットを7日間、2mg/kgのシルデナフィル(n=6)、または水道水(n=10)で処置した。これらのラットを脳のcGMPのレベルを測定するために、最後の処置の1時間後に屠
殺した。シルデナフィルの大脳血流(CBF)および血圧に対する効果を試験するための実験もまた行った。非虚血性ラット(n=6)をシルデナフィルで経口処置し、局所CBFおよび平均動脈血圧を開始30分で測定し、シルデナフィルの投与後180分間継続した。脳のPDE5を試験する実験もまた行った。非虚血性ラットおよび虚血性ラットを虚血開始の、2時間後、4時間後、24時間後、48時間後および168時間後、屠殺した(各時間点、n=3)。脳組織中のPDE5を検出するために、逆転写(RT)−ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行った。
【0103】
(脳組織におけるcGMP測定)
商業的に利用できる低pHイムノアッセイキット(R&D Systems Inc)を使用して、cGMPのレベルを測定した。このアッセイの感度は、非アセチル化手順について、約0.6pmol/mlであった。脳を迅速に取り除き、皮質および小脳を分離した。脳組織を、重量測定し、1mmol/Lの3−イソブチル−1−メチルキサンチンを含む、10倍の体積の0.1NのHCl中でホモジナイズした。
【0104】
(RT−PCR分析)
ラットの脳組織中のPDE5の存在を試験するために、PDE5A1およびPDE5A2に対するプライマーを、公表された配列に従って合成した。5’プライマー 5’−AAAACTCGAGCAGAAACCCGCGGCA−AACACC−3’および3’プライマー 5’GCATGAGGACTTTGAG−GCAGAGAGC−3’はラットのPDE5A1のN末端領域をコードするcDNA断片を増幅した。5’プライマー 5’−ACCTCTGCTATGTTGCCCTTTGC−3’および3’プライマー 5’−GCATGAGGACTTTGAGGCAGAGAGC−3’はラットのPDE5A2をコードするcDNA断片を増幅した。cDNA合成のために、脳組織から抽出した全RNAを逆転写した。サンプルを95℃で2分間変性し、次いで、40サイクル増幅した。各サイクルは、95℃30秒間の変性、62℃1分間のアニーリング、および72℃2分間の伸張反応からなる。サンプル(ウェルあたり30μl)を、エチジウムブロマイドを含む1.5%アガロースで電気泳動した。
【0105】
(体重減少)
動物を、塞栓症虚血前ならびに4日後、7日後、14日後、21日後および28日後に体重測定した。体重減少を、虚血前の体重の百分率として表す。
【0106】
(フット−フォールト試験(Foot−Fault Test))
ラットを、虚血前および塞栓症虚血後、4日後、7日後、14日後、21日後、および28日後に、改変したフット−フォールト試験を用いて、前肢の配置機能不全について試験した。ラットを異なるサイズの増大した六角形のグリッド上に設置し、グリッドに沿って動くワイヤーの上に肢を配置した。体重を支える各段によって肢はワイヤーの間に落ち得、また滑り得る。ラットがグリッドを横切るために使用した段の全ての数(各前肢の動き)を数え、各前肢のフットフォールトの全数を記録した。
【0107】
(接着除去試験)
体性感覚の欠損を測定するために、接着除去試験を用い、MCA閉塞前およびMCA閉塞の、4日後、7日後、14日後、21日後および28日後に行った。
【0108】
(ブロモデオキシウリジン標識)
細胞増殖を測定するために、ブロモデオキシウリジン(BrdU)を使用した。動物は、BrdU(50mg/kg;Sigma)の腹腔内注射を発作の日に、そしてその後14日間連続で毎日受容した。下部心室領域および歯状回中の細胞増殖を虚血後28日で屠殺した(実験プロトコル1、全4群)、ラットにおいて測定した。
【0109】
(免疫組織化学)
BrdU免疫染色のために、脳切片(6m)を50%ホルムアミド2’SSC中で65℃で2時間インキュベートし、次いで、2N HCl中で37℃で30分間インキュベートすることにより、DNAをまず変性した。切片は次いで、Tris緩衝液でリンスし、1%のH2O2で処理し、内因性のペルオキシダーゼをブロックした。切片はBrdU(1:100)に対する一次抗体と室温で1時間インキュベートし、次いで、ビオチン標識した二次抗体(1:200、Vector)と1時間インキュベートした。反応産物は、3’3’−ジアミノベンジジン−テトラヒドロクロライド(DAB;Sigma)を使用して検出した。未成熟のニューロンを同定する、III−チューブリン(TuJ1)免疫染色のために、12の冠状切片をTuJ1(1:1000)に対する抗体と4℃で一晩インキュベートした。次いで、ビオチン標識したウマの抗マウス免疫グロブリン抗体と室温で30分間インキュベートした。BrdU免疫反応性細胞が冠状切片でニューロンの表現型を示すかどうかを決定するために、BrdUおよびTuJに対する2重免疫蛍光染色を行った。
【0110】
(画像解析および定量化)
BrdU免疫反応性細胞の測定を6μmの厚さのパラフィン包埋切片で行った。11BrdU免疫染色切片を40倍の対物レンズ(Olympus B×40)を使用して、MCIDコンピューター画像解析システム(Imaging Reasearch)によりデジタル化した。視覚化を改善するために、コンピューターモニター上で、そして重複サンプリングを避けるために、1焦点面においてBrdU免疫反応性核を数えた。全てのBrdU免疫反応性陽性核を、下部心室領域の側脳室の同側壁および対側壁の両方ならびに歯状回で数えた。下部心室領域では、各ラットから40枚目毎に、脳梁膝の前後10.6mmおよび前方交連交叉(commissure crossing)の前後8.74mmの間で、全部で7切片の冠状切片を選択した。歯状回について、各ラットから50枚目毎に、顆粒細胞層の前後5.86mmおよび前後2.96mmの間で、全部で8切片の冠状切片を選択した。下部心室領域および歯状回のBrdU免疫反応性核を平方mmあたりの細胞の数(平均SE)として示した。7切片の密度値(下部心室領域)および8切片の密度値(歯状回)を平均化し、各動物の平均密度値を得た。下部心室領域および線条中のTuJ免疫反応性細胞の数を数え、データを切片あたりのTuJ1免疫反応性細胞の数(平均SE)として表した。
【0111】
(相対的赤血球流速のモニタリング)
レーザードップラー流量計測プローブ下で、組織中の相対的赤血球流速を、レーザードップラー流速計測法(PeriFlux PF4 flowmeter;Perimed
AB)により測定した。頭蓋骨のブレグマから後方2mmおよび正中13から外側6mmに、1.5mmの直径の13A穿頭孔を施した。硬膜はインタクトのままにした。穿頭孔への鉱油の適用後、硬膜表面の上0.5mmにプローブを置いた。シルデナフィルの投与30分後、相対流速を測定した。この測定は、相対的に局在化されたCBFを反映する。14の流速の値を対側半球の値のパーセンテージとして示した。
【0112】
(梗塞体積の測定)
グローバルラボラトリー(Global Laboratory)画像分析プログラム(データ翻訳)を使用して、7ヘマトキシリンおよびエオシン染色した冠状切片上の梗塞体積を測定した。簡単には、コンピュータースクリーンの領域をトレースすることにより、両半球の領域および梗塞領域(mm2)を計算した。梗塞体積(mm3)は適切な面積に断片間の厚さを掛けることにより決定した。梗塞体積は対側半球の梗塞体積のパーセンテージとして示す(間接的な体積の計算)。
【0113】
(統計解析)
神経学的機能回復および体重の分析のため、ANOVAの代わりに、一般化推定方程式(GEE)分析アプローチを使用した。なぜなら、データはANOVAの正規性および等分散の仮定と合わないからであった。下部心室領域、歯状回および線条の同側領域および対側領域との間の細胞増殖の差を試験するために、対応のあるt検定または符号順位検定を使用した。GEE分析アプローチを使用し、同側および対側の下部心室領域、歯状回および線条の細胞増殖に対する処置の効果を研究した。全ての値は平均SEとして表した。統計的有意性はP0.05に設定した。
【0114】
(結果)
(細胞増殖に対するシルデナフィルの効果)
発作後、2時間または24時間で開始したシルデナフィル(2mg/kgまたは5mg/kg)で処置された虚血性ラットは、コントロールラットと比較して両半球の歯状回におけるBrdU免疫反応性細胞の数を有意に(P 0.05)増加した(表1)。2mg/kgの用量でのシルデナフィルでの処理(2時間または24時間で)により、同側下部心室領域中のBrdU免疫反応性細胞の数が有意に(P 0.05)増加し(表1)、5mg/kgの用量(2時間で)により、コントロールラットにおけるBrdU免疫反応性細胞の数と比較して、両半球の下部心室領域中のBrdU免疫反応性細胞の数を有意に(P 0.05)増加した(表1)。
【0115】
図6は、シルデナフィルを用いた処置の効果が虚血後28日で、TuJ1免疫反応性細胞を増加させたことを示している。図6Aは、代表的なラットからのサンプルであり、図6Bは、対側の脳室下領域と比較して、同側の脳室下領域におけるTuJ1免疫反応性細胞の数の大きな増加を示している。上衣細胞(図6Aおよび図6B内の矢印)は、TuJ1免疫反応性ではなかった。TuJ1免疫反応性細胞は、対側半球の相同組織(図6D)と比較して、同側の線条でクラスターを示した(図6C)。TuJ1およびBrdUに対する抗体を用いた2重免疫染色は、BrdU免疫反応性細胞(図6Eおよび図6G、緑色、矢印)がTuJ1免疫反応性であった(図6Eおよび図6F、赤色、矢印)ことを示している。図6Eは、図6Fおよび図6Gから併せた画像である。図6Hおよび図6Iはそれぞれ、脳室下領域(各群n6)および線条(各群n6)におけるTuJ1免疫反応性細胞の数の定量的データを示す(コントロール群に対して、*P=0.05、**P=0.01、#P=0.05。LVは側方脳室を示す。バーは図1Bおよび図1Gでは10mであり、図1Cでは20mである)。
【0116】
【表1】
(未成熟ニューロンに対するシルデナフィルの効果)
シルデナフィルの投与は、同側脳室下領域(図6A)および線条(図6C)のTuJ1免疫反応性細胞の数を大きく増加させた。TuJ1免疫反応性細胞は、同側の線条でクラスターを示した(図6C)。TuJ1免疫反応性細胞のいくつかは、BrdU免疫反応性であった(図6E〜図6G)。定量的測定は、2mg/kgまたは5mg/kgの用量でのシルデナフィルの投与が、同側の脳室下領域および対側の脳室下領域におけるTuJ1免疫反応性細胞の数を、コントロールラットにおける数と比較して、有意に(P=0.05)増加させたことを明らかにした(図6H)。シルデナフィルを用いた処置は、対側半
球の相同組織およびコントロールラットの同側線条の相同組織と比較して、同側の線条のTuJ1細胞の数も有意に増加させた(図6I)。
【0117】
(シルデナフィルの、神経学的転帰に対する効果)
2mg/kgまたは5mg/kgの用量のシルデナフィルで処置した虚血性ラットは、虚血の開始後2時間で処置を開始した場合、4〜21日間の間のフットフォールトテスト(foot−faule test)(表2)および接着除去テスト(表3)の成績を、コントロールラットと比較して有意に改善した。さらに、2mg/kgおよび5mg/kgの用量のシルデナフィルで処置すると、動物の体重減少量が有意に減少した(表4)。それに対して、虚血後28日で測定した梗塞体積は、これらの群で顕著には異ならなかった(表5)。このことは、梗塞体積が機能的回復の改善に寄与していないことを示唆している。2mg/kgの用量のシルデナフィルも、虚血開始後24時間で開始して、虚血性ラットに投与した。シルデナフィルを受けた虚血性ラットは、脳卒中後7〜28日後の間、フットフォールトテスト(表2)および接着除去テスト(表3)において有意な改善を示した(P=0.05)。シルデナフィルで処置したラットは、また、虚血の4日後、7日後、14日後、21日後および28日後に体重減少量の有意な減少を示した(P=0.05)(表4)。しかし、シルデナフィルで処置した虚血性動物とコントロール群の動物との間で、梗塞体積の有意な違いはなかった(表5)。
【0118】
(シルデナフィルの、cGMPに対する効果)
非虚血性コントロールラットの、小脳のcGMPレベル(図7A、コントロール)は、皮質レベル(図7B、コントロール)より高かった。この結果はこれまでの研究と一致している。4つの、2mg/kgまたは〜5mg/kgの用量でのシルデナフィルによる7日間の処置により、皮質のcGMPレベル(図7B)が、コントロール群のレベルと比較して有意に増加させた(P=0.05)。
【0119】
(局在性CBFに対するシルデナフィルの効果)
非虚血性ラットに、2mg/kgの用量でシルデナフィルを投与すると、局在性CBFのレベルが、コントロールラットと比較して有意に増加した(図8)。有意に増加した局在性CBFは、シルデナフィルの投与後、70分間持続した(図8)。
【0120】
(ラットの脳におけるPDE5)
RT−PCR分析により、非虚血性ラットの脳組織におけるPDE5A1(257bp)およびPDE5A2(149bp)の両方の転写産物が明らかになった。このことは、PDE5の存在を示している(データ示さず)。バンドの濃さにより測定した(各計測時、n=3)、PDE5A1 mRNAおよびPDE5A2 mRNAのレベルは、MCA閉塞後、非虚血性ラットと比較して、統計的に有意な差を示さなかった。
【0121】
(考察)
本発明の研究は、シルデナフィルを用いた、ラットの病巣大脳虚血の処置により、神経学的転帰の回復が有意に改善したこと、ならびに虚血性脳におけるBrdU免疫反応性細胞およびTuJ1免疫反応性細胞の数が有意に増加したことを示している。さらに、シルデナフィルの投与により、皮質のcGMPのレベルが著しく増加した。従って、データは、シルデナフィルの投与から生じるcGMPレベルの増加が、増強された神経学的転帰を媒介することを示している。
【0122】
【表2】
【0123】
【表3】
PDE5は、cGMPの加水分解のための重要な酵素である。非虚血性ラットの皮質におけるPDE5 mRNAの観察は、PDE5のmRNAおよびタンパク質をラットで検出したという、これまでの研究と一致している。クエン酸シルデナフィルは、PDE5の強力なインヒビターであり、細胞内のcGMPの蓄積を引き起こす。データは、シルデナフィルの蓄積により、シルデナフィルの投与が、脳のcGMPレベルが有意に増加したことを示している。その知見と平行して、ザプリナスト(zaprinast)(PDEの比較的選択的なインヒビター)のラット脳スライスへの局所的投与は、cGMP放出の増加につながる。従って、データは、シルデナフィルが脳PDE5に影響することを示している。cGMPは、血管筋肉において血管弛緩性効果を調節する。シルデナフィルの投与は、非虚血性ラットにおいてCBFを一時的に増加させた。このことは、これまでのインビトロおよびインビボの研究と一致する。ザプリナストの投与は、ラットの脳底動脈の拡張を誘発し、イヌの大脳動脈の拡張を生じる。5mg/kgの用量でのシルデナフィルの投与により、収縮期の動脈の血圧が減少し、その効果は、少なくとも6時間持続する。しかし、シルデナフィルのCBFに対する効果は、神経保護を提供しない。なぜなら、この処置が梗塞体積を減少せず、そして処置が、シルデナフィルを虚血開始の24時間後に最初に投与した時でさえ有効であったからである(これは神経防護のための治療ウインドウをはるかに超えるものである)。
【0124】
本発明の研究のさらに新しい知見は、シルデナフィルでの処置により、脳室下領域および歯状回の前駆細胞の増殖を有意に増加させることおよび、未成熟ニューロンの数(TuJ1免疫染色によりアッセイされる)を有意に増加させることである。NOドナーであるDETA/NONOateの投与は、神経発生を有意に増強する。NOは、溶解性グアニル酸シクラーゼを活性化し、cGMPの形成につながる。それに対して、シルデナフィルは、PDE5活性を阻害し、cGMP分解の阻害を生じる。まとめて考えると、これらのデータは、cGMPが神経発生を調節していることを示している。これらの知見は、これまでの、cGMP依存性プロテインキナーゼI型が、感覚ニューロン前駆体の増殖を増強するという研究と一致する。脳室下領域のニューロン前駆細胞が嗅球へ移動するということ、および嗅球に着いた後、それらが成熟ニューロンに分化するということに留意することは興味深い。これらのデータは、cGMPの濃度が嗅覚記憶の形成を仲介しているという観察と一致する。ニューロンのcGMPレベルは、樹状突起ガイダンスおよび軸索ガイダンスの調節にも関与している。セマ(sema)による細胞内cGMPの増加は、樹状突起ガイダンスおよび軸索ガイダンスを反発力から誘引力へ変換し得る。さらに、cGMPは、培養物およびPC12細胞中の海馬のニューロンの神経突起の成長を増強する。さらに、老齢のラットは、成体の脳と比較して、老齢の脳にあるホスホジエステラーゼによ
るcGMPのさらに活性な分解の結果として、cGMPの基底レベルの減少を示す。老齢の脳のNOおよびcGMP合成の減少は、学習および記憶の過程において重要な機能的な影響を持ち得る。神経発生は、機能的改善と解釈され得る。例えば、歯状回での神経発生速度が高いマウスは、海馬依存的な仕事において高い能力を示す。それに対して、神経発生速度の減少は、そのような仕事における障害と関係している。従って、神経発生の増強は、シルデナフィルで処置した後の機能性回復に寄与し得る。要約すると、本研究の結果は、脳卒中後のシルデナフィルの投与が機能性回復を増強し、ラットにおける神経発生を増強することを示している。
【0125】
図7は、非虚血性ラット(n=6)における、シルデナフィルで処置した後の小脳(図7A)および皮質(図7B)におけるcGMPのレベルを示す;コントロール群はn=10。
【0126】
【表4】
【0127】
【表5】
(実施例3)
オスWistarラット(n=32)を、中大脳動脈閉塞(MCAo)に供し、4つの処置群へと8匹のラットを無作為化し、脳卒中後1日で処置を開始した。群は以下のものを含んだ:1)リン酸緩衝液生理食塩水(PBS);2)治療量未満(subtherapeutic)の、0.4mg/kgの用量のDETA−NONOate(NN)(IP);3)治療量未満(subtherapeutic)のhMSC(1×106細胞−iv);ならびに4)治療量未満(subtherapeutic)のNNおよびhMSCの組み合わせ。神経学的重症度スケール(18点スケール)(NSS)および接着除去テストからなる機能性転帰の測定を、脳卒中前、処置前ただちに、そして処置後7日目および14日目に行った。データは、処置前に群間でよくバランスをとった(p値>0.30)。NONOによるhMSCの相互作用は、14日で観察された(p値=0.86)。しかし、全体のhMSCのNSSに対する効果は14日目に存在した。hMSC+NONOで処置したラットは、コントロール群のラットと比較して、14日でNSSに対して有意な改善を有した(p値=0.01)。それに対して、低用量hMSCのラットは、コントロールのラットと比較して、14日でNSSに対する境界線の改善を有した(p値=0.05)。コントロールとNONO処置群との間で、14日でNSSの有意な差は検出されなかった(p=0.64)。そしてhMSC処置群とhMSC+NONO処置群との間でも14日でNSSの有意な差は検出されなかった(p=0.48)。同じ処置効果は、14日の接着除去テストのスコアでも観察された;hMSC+NONOで処置したラットは、コントロール群のラットと比較して、14日目で有意な改善を示した(p値=0.01)。低用量(すなわち、治療量未満(subtherapeutic))のhMSCのみで処置したラットにおいて、境界線の改善は14日にあった。そして、治療量未満(subtherapeutic)のNONOのみで処置したラットでは、コントロールのラットと比較して有意な改善はなかった。それぞれp値は0.06および0.64であった。7日では、神経学的機能的改善は、コントロール群のラットと比較して、hMSCおよびNONOの組み合わせで処置したラットについて、NSSでのみ観察された(p値=0.03)。これらのデータは、治療量未満(subtherapeutic)のhMSCおよびNOドナーの治療様式の組み合わせ(DETA−NONOate)が、コントロールのPBS処置した動物と比較して、機能的転帰を顕著に改善することを示唆している。
【0128】
(虚血性脳における大脳梗塞の体積およびMSCの存在)
PBSを用いるMCAoを受けたコントロールラット(34.9±7.4%)と比較して、hMSCで処置したラット(30.7±6.2%)またはNONOateで処置したラット(32.2±6.2%)およびhMSCとNONOateとの組み合わせで処置したラット(28.7±6.7%)では、虚血性損傷による有意な体積の減少は検出されなかった。ヒト染色体(MAB1281)に特異的な抗体を使用して、hMSCを免疫組織化学的に同定した。脳組織内では、hMSCに由来する細胞を、MAB1281染色により、特徴付けた。MAB1281陽性細胞は、hMSC処置していないラットでは、見出されなかった。MAB1281により同定したMSCは、生き残り、レシピエントラットの損傷脳全体に分布した。MAB1281陽性細胞は、同側半球の皮質および線条を含む、多数の領域で観察された。MAB1281陽性hMSCの大多数は、虚血境界領域に位置していた。対側半球では、細胞はほとんど観察されなかった。hMSC群と組み合わせ治療群との間で、MAB1281細胞の数における有意な増加はなかった。これらのデータは、大脳梗塞の体積が、治療の組み合わせにより影響されないこと、および脳に入るMSCの数が、NOドナーの同時投与により変わらないことを示している。
【0129】
(神経発生)
処置後14日間、全ての群にBrdU(腹腔内に、50mg/kg)を毎日注入した。BrdUは、新しく形成されたDNAを標識するチミジンアナログであり、それにより、新しく形成された細胞を同定する。図9は、同側半球脳室下領域において、hMSC(2b、40.6±10.7)または/およびNONOate処置群(図9c、43.6±10.0/切片;図9d、67.4±22.8/切片)のBrdU陽性細胞が、コントロールPBS処置群(図9a、29.8±8.8/切片)と比較して、有意に増加したことを示している(p<0.05)。マクロファージ様細胞の細胞質で見出されたBrdUは計数しなかった。二重染色は、BrdU陽性細胞が、ニューロンマーカーNeuN、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)および星状細胞マーカーGFAPを発現することを示す。NeuNタンパク質およびGFAPタンパク質を発現するBrdU反応性細胞の割合は、それぞれおよそ3%、3%および6%であった。これらのデータは、個々の治療量に満たないNOドナーおよびMSC治療は、PSCコントロール処置した動物と比較して神経発生を有意に増加できなかったが、組み合わせ治療は、虚血性脳において神経発生を有意に促進することを示唆している。
【0130】
(血管形成)
拡大した薄い壁の血管は、「母(mother)」血管と呼ばれ、脳虚血性血管形成の条件下で発見されている。図10は、拡大した血管が、同側半球のコントロールMCAo群と比較して、hMSC処理群およびNONOate処理群におけるBrdU免疫反応性内皮細胞の、顕著な増加(p<0.05)を示したこと(図10a)を示している。BrdU反応性内皮細胞は、hMSCまたはNONOate単独処理群の同側半球と比較して、治療量に満たないhMSC/NONOate組み合わせ処理群の同側半球において顕著に増加した(図10b、p<0.05)。これらのデータは、NOドナーおよびMSC組み合わせ治療が、個々の治療と比較して血管形成を顕著に増加することを示している。
【0131】
組み合わせ治療後、増強した血管形成も図11に示し、その図は、次の処理1)PBS
;2)NONOate;3)hMSC;4)hMSC+NONOateに続くMCAo後の虚血性半影における脳血管の立体像を示している。図11Aは、FITC−デキストラン灌流脳微小血管の元の合成像を示す。図11Bおよび図11Cは、元の像由来のコンピューター作成立体像である。図11Bにおける異なる色は、互いに接続していない個々の血管を示す。図11Cにおける緑色および赤色は、それぞれ7.5μm未満(赤色)および7.5μmより大きい(緑色)血管の直径をコードする。立体定量データは、NONOateを含むかまたは含まないhMSC処理により、半影における分岐点の数が、コントロールMCAoを受けたラットの同側半球で検出した数と比較して、顕著に増加した(p<0.05)ことを明らかにした。hMSCまたは/およびNONOate処理群およびPBSコントロール群の同側半球において、毛細血管の断片は、対側半球の相同組織においてよりも顕著に短くなった(p<0.05)。このことは、これらが脳卒中後、同側半球に新しく形成した血管であることを示唆している。hMSC処理後の同側半影における血管の直径は、対側半球の相同性領域およびコントロールMCAo動物と比較して、顕著に増加した(p<0.05)。拡大した血管は、虚血後の毛細血管へ発達し得る。血管表面積は、同側半球におけるコントロールMCAo動物と比較して、NONOateを含むhMSC処理した動物またはNONOateを含まないhMSC処理した動物において顕著に増加した(p<0.05)。まとめて考えると、これらのデータはNONOateを含むかまたは含まないhMSC処理により、虚血性脳における血管形成が増強されることを示している。これらのデータは、BrdU血管形成データを補完する。そして、組み合わせ治療が血管形成を促進することを示唆している。
【0132】
血管形成の増強誘導は、内皮細胞に由来する脳における小管形成のインビトロ研究からも明らかである。図12は、hMSC上清(図12b)およびNONOate(図12c)が、コントロール培地(DMEM、図12a)と比較して、脳由来の内皮細胞により、内皮血管形成を強力に誘導することを示す。内皮細胞は、多数の細胞内接点を含む毛細血管類似構造のネットワークを形成した。全体のチューブ長は、コントロール培地(DMEM、1.4
【0133】
【数1】
0.1mm/mm2)と比較して、培養hMSCからの上清(6.9±0.72mm/mm2)およびNONOate処理からの上清(4.6±0.6mm/mm2)において顕著に増加した(p<0.01)。全体の管長は、NONOateと比較して培養hMSCからの上清において、顕著に増加した。これらのデータは、hMSCおよびNONOateの両方が毛細血管形成を促進することを示す。
【0134】
(VEGF)
血管形成および神経発生の誘導と関連したメカニズムへの洞察を得るために、組み合わせ治療が脳における神経向性因子および成長因子の発現を誘導するという事実をテストした。データは、MSC、DETA−NONOate、組み合わせ(MSC+NONO)治療処理後、およびMCAoを受けたPBS処理動物であるコントロールの脳における血管内皮成長因子(VEGF)の量として示す。図13はMCAoコントロール群と比較して、NONOate処理群のhMSCにおいて、内生細胞(ラットVEGF)からのVEGF分泌が顕著に増加したことをサンドイッチELISA法(Sandwich ELISA method)を用いて示している。ラットVEGF分泌は、hMSCのみで処理した群における増加した境界線であった。NONOateのみの単回投与処理は、MCAoコントロール群と比較して、VEGFの顕著な増加を示さなかった。これらのデータは、治療量未満(subtherapeutic)のMSC+NONOの組み合わせ治療が、個々の治療と比較して、VEGF分泌を顕著に増強することを示唆している。
【0135】
(実施例4)
(正常な非虚血性動物における細胞増殖の誘導)
正常な若い成体ラットへ投与されるNOドナーによる、歯状回、嗅球(OB)および下位脳室領域(SVZ)の脳の3つの領域における細胞増殖の誘導に対する効果を試験した。NOドナー、(Z)−1−[N−(2−アミノエチル)−N−(2−アンモニオエチル)アミニオ]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート(DETA/NONO−ate)を選択した。なぜなら、この化合物は、生理学的条件下で57時間の半減期を持つ効果の高いNOドナーであるからである(Beckman、1995;Estevezら、1998)。若い雄性ウィスターラット(3〜4ヶ月齢)は、4回の連続した、DETA/NONOateのI.Vポーラス用量(各々0.1mg/kg、15分毎、および全投与量は0.4mg/kg)を第1の実験日に受け、DETA/NONOate(0.4mg/kg)をさらに続く6日間、毎日投与した(腹腔内に)。生理食塩水を受けたラットをコントロール群として使用した。細胞増殖を測定するために、ブロモデオキシウリジン(BrdU)を有糸分裂のラベルとして使用した。最初の実験の日および後の連続した14日間、動物は、毎日腹腔内にBrdU(50mg/kg、Sigma)の注射を受けた。ラットは、処理の14日後および42日後で屠殺した。視覚化を改善するために、コンピューターモニター上で、そして重複抽出を避けるために、1焦点面上でBrdU免疫反応性核を数えた。構造物は、それぞれの切片(OB)の所定の領域を選択することによるか、または、それぞれの切片(SVZおよび歯状回)の完全な構造を分析することによるかのどちらかによって抽出した(Zhangら、2001)。これらの領域における全てのBrdU免疫反応陽性核をBrdU免疫反応性細胞の数/mm2として示した。選択したいくつかの切片の密度を平均化し、それぞれの動物の平均密度値を得た(Zhangら、2001)。
【0136】
図15は、DETA/NONO−ateを投与した若い成体ラットの脳における細胞増殖を示している。BrdU反応性細胞の数が、歯状回(図15A)、SVZ(図15B)およびOB(図15C)において統計的に有意に増加したことが示された。歯状回において、新しく生成した細胞の95%より多くが、NeuNおよびMAP2の神経マーカーを示した。このことは、これらの細胞が、組織に一体化する潜在能力を持っていることを示している。SVZおよびOB内の細胞は、二重標識免疫組織化学では、特徴付けられていなかった。しかしながら、形態的には、それらは、増殖する細胞に似ていた。側脳室のSVZにおける前駆細胞は、OBに移動する(Alvarez−Buyllaら、2000)。従って、これらのデータは、発達中の脳の細胞増殖と細胞移動に関与しているNOが、成体の脳における細胞増殖と細胞移動を誘導することを明らかに示唆している。これらの研究では、細胞増殖のみが両方の群の動物で測定され、細胞増殖の行動的効果および機能的効果は測定されなかった。しかしながら、歯状回内の細胞増殖が、マウスにおける学習の改善に翻訳されることを実質的に支持するデータがある(GouldおよびGross、2002)。
【0137】
若い成体ラット(3〜4ヶ月齢)へのNOドナーの使用によるこの神経発生の誘導が、より老齢のラットにおいて存在するかという問題もテストした。この仮説をテストするために、若いラットのために記載した実験プロトコルと同一の実験プロトコルを用いて、18ヶ月齢の雄性ウィスターラットをDETA/NONOateを処理した。図16は、3つの領域、歯状回(図16A)、SVZ(図16B)、OB(図16C)の3つの領域の細胞増殖を示す。および若いラットについては、上に記載した。若いラットにおけるように、DETA/NONOateによる処理は、増殖細胞の数を顕著に増加した。生理食塩水処理した動物では、SVZおよび歯状回においておよそ2分の1、ベースラインの細胞増殖は減少した。SVZおよび歯状回では、DETA/NONOateによる処理は、老齢の動物においても若いラットと類似の割合で細胞増殖を増加した。OB内の増殖細胞の数の相対的な増加は、老齢の動物では、若い動物におけるようには強くなかった。このこ
とは、若い動物と比較して、老齢の動物における細胞移動能力が喪失していることに寄与しているかもしれない。
【0138】
これらのデータは、新しいおよび重要な知見を提供する。一つは、細胞増殖が若い動物でのように、老齢の動物においても誘導し得るということである。増殖の増加割合は、老齢の動物および若い動物で類似している。しかしながら、若いラットと比較して老齢ラットにおける増殖細胞の絶対数の減少はまさに明らかである。老齢の動物における細胞増殖の機能的関連は測定しなかった。そして、結果的に、発明者らは歯状回内の細胞の増加が改善した機能に翻訳できるかどうかについてのデータを持っていない。
【0139】
(NOドナーは脳卒中後の機能回復を増強する)
DETA/NONOateの処理が、塞栓性脳卒中を受けた若いラットにおけると同じように、非虚血性の若いラットにおいて細胞増殖および神経発生を誘導することが示されている(Zhangら、2001)。脳卒中後、1日で開始したラットの処理は、顕著な機能性恩恵に形を変えた。従って、データは、中大脳動脈(MCA)の領域を取り囲む主要な虚血性脳卒中の誘導の1日後に動物に投与したとき、NOを放出する薬理学的薬剤が、機能性結果を改善することを示す(Zhangら、2001)。
【0140】
このNO薬剤の、神経発生および機能性恩恵の誘導に対する特異性についての疑問が生じる。DETA/NONOateに特異的な効果または、同様にNOを提供する他の薬剤は、機能性恩恵を提供するのか。この疑問をテストするために、ラットをDETA/NONOateとは構造的に異なる他のNOドナー、S−ニトロソ−N−アセチルペニシラミン(SNAP、Sigma)で処理した。若い雄性の成体ウィスターラットは、塞栓性MCA閉塞を受けた(Zhangら、1997)。30μg/kgの用量でのSNAPは、ボーラスとしてラットに静脈内に投与した。その後、塞栓性MCA閉塞24時間後に、60分間300μg/kg/時間で注入した。機能性結果の測定として、運動機能(例えば、調和およびバランス)を評価するロータロッドテスト(Zhangら、2000)、前肢の体性感覚運動の非対称を測定する接着除去テスト(Schallertら、2000)および動物の体重を処理前および処理2日後、4日後、7日後および14日後に測定した。動物は脳卒中、14日後に屠殺し、梗塞体積を測定した(Zhangら、1997)。図17は、生理食塩水処理群およびSNAP処理群の梗塞体積および機能性結果測定を示す。処理群と非コントロール処理群との間で、脳の梗塞体積には有意な差はなかった(図17A)。しかし、ロータロッド(図17B)および接着除去テスト(図17C)により測定した機能には、脳卒中の開始4日後までに、顕著な改善が注目された。これらの恩恵は、脳卒中14日後に屠殺のときまで持続した。一般的な生理学的な健康状態の指標としての、動物の体重(図17D)は、脳卒中7日後でビヒクル−生理食塩水処理した動物と比較して顕著に増加した。これらのデータは、NOドナー(例えば、SNAP)による処理が、脳梗塞の体積に影響することなく(図17A)、顕著な機能性恩恵を動物に提供することを明らかに示している。従って、処理の効果は神経保護治療ではなく、回復性治療の一つである。これらのデータは、薬理学的薬剤(例えば、NOドナー)が、脳卒中後の機能を増強し得ることを示している。これらの動物における機能性改善は、脳の変化および脳の再構築と関連している。神経発生および細胞増殖ならびに血管形成およびシナプスタンパク質の量の増加が、NOドナー分子により誘導される。
【0141】
NOは、溶解性グアニル酸シクラーゼのアクチベーターであり、標的細胞においてcGMPの増加を誘導する(Ignarro、1989;GarthwaiteおよびBoulton、1995)。cGMPはアクソン伸張における変化および神経接続部の改変における変化に関連している(Williamsら、1994)。cGMPそれ自身が、脳の可塑性の促進に重要な役割を演じていることはあり得る。NOドナーで処理したラットのcGMPの脳の量の増加は、NOドナーが脳に入っていることを示している(Zhan
gら、2001)。脳内のcGMPの増加を誘導する他の方法は、cGMPを分解する酵素の活性を阻害することである。ホスホジエステラーゼ5型(PDE5)酵素は、cGMPの加水分解に高い特異性を持つ(CorbinおよびFrancis、1999;Koteraら、2000)。従って、cGMPの分解を減少する一つの方法、それ故に、脳内のcGMPの量を増加する方法は、PDE5を減少するかまたは、阻害することである。PDE5を阻害する化合物を投与することの効果をテストするために、成体雄性ラットにシルデナフィル(2mg/kg)を、毎日7日間、脳卒中の発症から24時間後に、与えた。図18は、脳内のPDE5の存在を示す。動物にシルデナフィルを与えることにより、一連の機能性結果の測定により測定したとき、機能性結果が顕著に改善した(Zhangら、2002)。他のNOドナーにおいて観察された類似の条件である、脳梗塞の減少なしに、この治療的な恩恵は明らかである。従って、これらのデータは、cGMPが脳卒中後の脳可塑性の重要なメディエーターであり得ることを示している。この可塑性は、機能性反応も改善し得る。
【0142】
一般に、これらのデータは、NOおよびcGMPに影響する薬剤が、正常な年をとった傷害を受けた脳を変え得ることを示唆している。細胞増殖および血管形成が増加するだけではなく、顕著な機能性恩恵も得られる。脳卒中および神経性傷害後の、脳再構築および機能性改善を誘導する細胞に基づいた他の方法もある。一つの方法は、それは、臨床的な意味を持つが、細胞(例えば骨髄間質細胞)の集団を用いることである。これらの細胞は、げっ歯類に投与した場合、脳に入り、そして、脳を再構築し、顕著な機能性恩恵を提供する、様々な神経向性因子およびサイトカインの生成を誘起する(Review、ChoppおよびLi、2002)。
【0143】
図15は、DETA/NONOateまたは生理食塩水処理後14
【0144】
【数2】
日および42
【0145】
【数3】
日の非虚血性の若い成体ラットの歯状回における(図15A)、SVZにおける(図15B)およびOBにおける(図15C)、BrdU免疫反応性細胞の数を示す棒グラフを含む。生理食塩水処理群に対して*p<0.05および**p<0.01。
【0146】
図16は、DETA/NONOateまたは生理食塩水処理後14
【0147】
【数4】
日および42
【0148】
【数5】
日の非虚血性の老齢のラットの歯状回における(図16A)、SVZにおける(図16B)およびOBにおける(図16C)、BrdU免疫反応性細胞の数を示す棒グラフを含む。生理食塩水処理群に対して*p<0.05および**p<0.01。
【0149】
図17は、梗塞体積に対する(図17A)、ロータロッドに対する(図17B)および接着除去に対する(図17C)ならびに動物の体重に対するSNAP処理の効果(図17
D)を示す。生理食塩水処理群に対して*p<0.05および**p<0.01。各群n=8。
【0150】
図18は、非虚血性ラットの皮質における(図18Aおよび図18BにおけるN)ならびに虚血2時間後から7日後までのラットの同側皮質におけるPDE5A1 mRNAのRT−PCR(図18A)およびPDE5A2 mRNAのRT−PCR(図18B)を示す。M=マーカー、N=非虚血性マウス、2時間、4時間、1日間、2日間および7日間=虚血後の時間。
【0151】
(結論)
NOおよびcGMPに基づく薬理学的治療が、脳卒中後の機能の回復を増強する、脳における変化を誘導することおよび正常な若いおよび老齢の動物における細胞増殖および神経発生を誘導することを示している。これらのデータは、細胞に基づいた治療を用いた脳の可塑性の促進に関する他の研究とともに、神経変性疾患およびニューロンの傷害を処置するための新しい機会を開く。
【0152】
本出願全体に渡って、米国特許を含む様々な刊行物が、著者および年により参照され、特許は番号により参照されている。刊行物に対する全ての引用は、以下に記載する。これらの出版物および特許の公開は、本発明の属する技術の状態をさらに十分に記載するために、それら全体が、本明細書中で参考として本出願に援用される。
【0153】
本発明は、例示的様式によって記載された。そして、使用された用語は、限定された性質というよりはむしろ記載した単語の性質に意図されることを理解すべきである。
【0154】
明らかに、上記の教示の観点から、本発明の多くの改変および変化が可能である。従って、本発明は、記載した発明の範囲内で、本発明は特に記載した以外の他の方法で実施し得ることを理解すべきである。
【0155】
(参考文献)
【0156】
【表6−1】
【0157】
【表6−2】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本発明は、疾患および損傷の処置に関する。さらに、具体的には、本発明は、疾患および損傷の処置のための一酸化窒素ドナーおよび細胞治療を含む方法および化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
脳卒中は米国の成人集団における3番目に多い一般的死因であり、障害の主要な要因である。脳卒中は脳の一部が梗塞を起こす時に生じ、その結果、脳の血液供給が妨害されることにより、脳組織の死に到る。急性脳卒中と関連した脳梗塞は、突発性の劇的な神経障害を引き起こす。他の神経性の疾患もまた、組織の死および神経障害を生じる。
【0003】
生存し得る、脳卒中に感染した脳の領域への血流を最大にする薬理的な介入が試みられてきたが、臨床的な効果が証明されていない。Harrison’s Principles of Internal Medicine(第9版、1980、p.1926)に述べられているように、「亜酸化窒素法により測定した(脳血管拡張剤)が脳の血流を増加するという、実験の証拠に関わらず、脳血管拡張剤が、一過性の虚血性発作、進行性の血栓症、または確立された脳卒中の段階のヒトの脳卒中症例における綿密な研究で有益であることは証明されていない。このことは、ニコチン酸、プリスコリン、アルコール、パパベリン、および5%の二酸化炭素の吸入にもあてはまる。全身の血圧を下げることにより、血管拡張剤が頭蓋内吻合血流を減少するので、または、脳内の正常な領域内の血管を拡張することにより血管拡張剤が梗塞から血液を奪うので、血管拡張薬が有益というよりはむしろ有害であるという示唆は、これらの方法の使用とは反対である。
【0004】
さらに、心臓血管系の疾患は世界中の死亡率および罹患率の主要な原因である。例えば、心不全は有病率が増加している。心不全の特徴は、心臓が身体の様々な器官に十分な血液を送達できないことである。現在の見積りは、500万人より多い米国人が心不全の診断を受けていることを示している。そして、ほぼ500,000人の新しい患者が毎年診断され、1年に250,000人がこの疾患のために死亡していることを示している。過去20年の有効な治療的成果にもかかわらず、心不全は発生率が増加し続け、流行性伝染病のような勢いに達し、先進国において大きな経済負担を生じさせている。
【0005】
心不全は、心拍出量における障害、または静脈圧の上昇から生じる独特の症状および兆候という特徴を持つ臨床的な症候群である。さらに、心不全は進行性の疾患であり、それによって、有害事象が存在しないにも関わらず、心臓の機能は長期にわたり悪化し続ける。従って、心不全が原因で、心拍出量が不十分になる。
【0006】
一般に、心不全は2つのタイプがある。右心不全は、心臓の右側が静脈血を肺循環に送り出せない。身体の血液が逆流し、腫れおよび浮腫が生じる。左心不全は心臓の左側が血液を体循環に送り出せない。左心室への後ろへの血液の逆流はその後、肺への血流の蓄積を誘導する。
【0007】
心不全の結果として生じる主要な影響は、血流がうっ血することである。心臓がポンプとして効率が悪くなると、身体はホルモン、神経シグナル(例えば、血液量を増加させるシグナル)を用いることによりそれを補うよう試みる。
【0008】
心不全には多数の原因がある。例えば、心臓組織の疾患がもはや機能しない死んだ心筋細胞をもたらす。左心室の機能障害の進行は、一部これらの心筋細胞の進行中の損失に起因している。
【0009】
心不全を処置および防止する方法はたくさんある。例えば、動物モデルでの急性の心虚血および/または心臓梗塞または心臓損傷において心臓の細胞を再生するために、幹細胞が用いられてきた。1つの特定の例では、ドナーの足の骨から単離した成長し得る骨髄間質細胞を培養増殖し、標識し、次いで同系の成体ラット被提供者の心筋層に注入した。移植後、4日間から12週間で心臓を収集した後、移植した位置を調べると、移植した間質細胞は心筋の環境で、成長能を示すことがわかった(Wangら)。
【0010】
心筋細胞は、インビトロでD3系列の多能性胚幹(ES)細胞から胚様凝集体(胚様体)を経て分化することが示された。細胞は、全細胞パッチクランプ技術により、分化期間の間の形態および遺伝子発現の類似により特徴付けられた(Maltsevら、1994)。その上、多能性マウスES細胞は、哺乳動物の心臓の主要な特徴を発現する心筋細胞に分化する能力があった(Maltsevら、1993)。
【0011】
幹細胞はその起源(胚、骨髄、骨格筋など)に関わらず、全てではないが、身体の様々な細胞型に分化する能力を持っている。幹細胞は、機能性の心筋細胞に分化し得る。従って、心不全を処置するための幹細胞に基づいた治療の開発は、既存の従来の治療を超える多くの利点を有する。
【0012】
従って、細胞治療を一酸化窒素ドナーの使用と合わせることにより疾患または損傷を持つ患者を処置する方法に対する必要性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
(発明の要旨)
本発明に従って、神経発生の促進が必要な患者へ治療量のホスホジエステラーゼインヒビター化合物を投与することにより神経発生を促進する方法を提供する。神経発生を促進するために十分な有効量のホスホジエステラーゼインヒビターを含む、神経発生を提供するための化合物もまた、提供する。神経発生を促進するホスホジエステラーゼインヒビターもまた、提供する。さらに、脳細胞の生成を増加させる方法および増加の必要な部位に有効量のホスホジエステラーゼインヒビター化合物を投与することにより、細胞の構造およびレセプターの変化を促進する方法が提供される。有効量のホスホジエステラーゼインヒビター化合物を患者に投与することにより、神経機能および認識機能の両方を増加する方法を提供する。
・(項目1)
神経発生を促進する方法であって、
神経発生の促進が必要な患者に、治療量のホスホジエステラーゼインヒビター化合物を投与する工程を包含する、方法。
・(項目2)
上記患者に細胞治療を施す工程をさらに包含する、項目1に記載の方法。
・(項目3)
神経発生を促進するために十分な有効量のホスホジエステラーゼインヒビターを含む、神経発生を促進するための化合物。
・(項目4)
細胞治療をさらに含む、項目3に記載の化合物。
・(項目5)
薬学的に受容可能なキャリア中にホスホジエステラーゼインヒビターを含む、神経発生プロモーター。
・(項目6)
項目5に記載の神経発生プロモーターであって、上記ホスホジエステラーゼインヒビターが、組織における一酸化窒素を増加させる神経発生プロモーター。
・(項目7)
上記ホスホジエステラーゼインヒビターがシルデナフィルである、項目6に記載の神経発生プロモーター。
・(項目8)
有効量のホスホジエステラーゼインヒビターを増加の必要な部位に投与することにより、ニューロンの生成を増加する方法。
・(項目9)
上記部位に細胞治療を施すことをさらに包含する、項目8に記載の方法。
・(項目10)
有効量のホスホジエステラーゼインヒビターを患者に投与することにより、神経機能を増加させる方法。
・(項目11)
上記患者に細胞治療を施すことをさらに包含する、項目10に記載の方法。
・(項目12)
患者に有効量のホスホジエステラーゼインヒビター化合物を投与することにより、認識機能および神経機能を増加させる方法。
・(項目13)
上記患者へ細胞治療を施すことをさらに包含する、項目12に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0014】
添付した図と組み合わせて考えた時、以下の詳細な記述を参照することにより、本発明はより良好に理解されるので、本発明の他の利点は容易に理解される。
【図1】図1A〜Dは、脳の血管の周界を示す。
【図2】図2A〜Cは、増殖した脳内皮細胞を示す。
【図3】図3A〜Cは、3次元像で解析した、DETANONOateが新脈管形成を誘導することを示す。
【図4】図4A〜Eは、DETANONOateがインビトロで新脈管形成を誘導することを示す。
【図5】図5は、シルデナフィルに誘導された毛細管様管形成の定量データを示す棒グラフを示す。
【図6A】図6Aは、シルデナフィルを用いた、細胞処理の効果を示す写真である。
【図6B】図6Bは、シルデナフィルを用いた、細胞処理の効果を示す写真である。
【図6C】図6Cは、シルデナフィルを用いた、細胞処理の効果を示す写真である。
【図6D】図6Dは、シルデナフィルを用いた、細胞処理の効果を示す写真である。
【図6E】図6Eは、シルデナフィルを用いた、細胞処理の効果を示す写真である。
【図6F】図6Fは、シルデナフィルを用いた、細胞処理の効果を示す写真である。
【図6G】図6Gは、シルデナフィルを用いた、細胞処理の効果を示す写真である。
【図6H】図6Hは、シルデナフィルを用いた、細胞処理の効果を示す写真である。
【図6I】図6Iは、シルデナフィルを用いた、細胞処理の効果を示す写真である。
【図7】図7A〜Bは、非虚血性ラットにおけるコントロールと対比して、シルデナフィルによる処理後の小脳および皮質それぞれにおけるcGMPのレベルを示すグラフである。
【図8】図8は、コントロールと対比して、シルデナフィルで処理したラットにおいて局在化したCBFを示すグラフである。
【図9】図9A〜Bは、粘着−除去テスト(adhesive−removal test)およびmNSSテストそれぞれの結果を示すグラフである。
【図10】図10A〜Bは、本発明の治療を用いた、SVZにおけるBrdU陽性細胞の処理結果を示す、それぞれ写真およびグラフである。
【図11】図11A〜Bは、本発明の治療を用いた、血管におけるBrdU陽性細胞の処理結果を示す、それぞれ写真およびグラフである。
【図12】図12A〜Cは、本発明の処理が、コントロールと比較して、脳由来内皮細胞による内皮管形成を誘導することを示す写真である。
【図13】図13は、本発明の処理が、コントロールと比較して、VEGFの分泌を増加したことを示すグラフである。
【図14】図14A〜Gは、本発明の治療の結果を示す写真である。
【図15】図15A〜Cは、DETA/NONOateまたは生理食塩水で処理した14
【数6】
日後および42
【数7】
日後の非虚血性の若齢成体ラットの歯状回におけるBrdU免疫反応性細胞の数(図15A)、SVZにおけるBrdU免疫反応性細胞の数(図15B)およびOBにおけるBrdU免疫反応性細胞の数(図15C)を示す棒グラフである。
【図16】図16A〜Cは、DETA/NONOateまたは生理食塩水で処理した14
【数8】
日後および42
【数9】
日後の非虚血性の高齢のラットの歯状回におけるBrdU免疫反応性細胞の数(図16A)、SVZにおけるBrdU免疫反応性細胞の数(図16B)およびOBにおけるBrdU免疫反応性細胞の数(図16C)を示す棒グラフである。
【図17】図17A〜Dは、梗塞の体積に対するSNAP処理の効果(図17A)、回転棒(rotarod)テストに対するSNAP処理の効果(図17B)、接着除去テストに対するSNAP処理の効果(図17C)、および動物の体重に対するSNAP処理の効果(図17D)を示す。
【図18】図18A〜Bは、非虚血性ラットの皮質(図18Aおよび図18BにおけるN)および虚血後2時間から7日のラットの同側皮質におけるPDE5A1 mRNAのRT−PCR(図18A)およびPDE5A2 mRNAのRT−PCR(図18B)を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(発明の詳細な説明)
一般に、本発明は、複細胞治療および一酸化窒素ドナーまたはPDEインヒビターの組み合わせを用いて、多器官系における疾患および損傷を処置する方法および化合物を提供する。この組み合わせ治療は、患者に対するいかなる危険性も増加させることなく、両方の治療の効果を増加させる。その治療の利点は、神経発生、新脈管形成、実質細胞の構造および機能の変化を誘導することにより器官の可塑性を増加させることである。さらに、その相乗効果に起因して、それぞれの治療はより低量で与えられ得、制限しなければ示し得る薬剤のいかなる副作用も有害な効果もそれにより制限する。あるいは、PDEインヒビターのみが、処置のために投与され得る。
「PDEインヒビター」により、PDEを阻害する化合物を意味する。そのような化合物の例はシルデナフィル(Viagra(登録商標))である。PDEインヒビターはホスホジエステラーゼの活性を減少する(例えば、選択的に減少する)か、または除去する因子である(例えば、PDE1−10(例えば、5型ホスホジエステラーゼ、10型ホスホジエステラーゼ)および他のいずれかのホスホジエステラーゼ)。本発明の方法および化合物の文脈では、ホスホジエステラーゼインヒビターは、その活性因子の(例えば、PDE)塩、エステル、アミド、プロドラッグ、および他の誘導体を含む。ホスホジエステラーゼインヒビターは、生成されるいかなるNOの効果も増幅する。ホスホジエステラーゼインヒビターは、血管拡張および血管機能の改善を生じるために用い得る。
【0016】
これらのインヒビター化合物の例としては、ロリプラム(rolipram)、テオフィリン、ペントキシフィリン、cGMP、ザプリナスト(zaprinast)、IBMX、ミルリノン、5−(2−エトキシ−5−モルホリノアセチルフェニル)−1−メチル−3−n−プロピル−1,6−ジヒドロ−7H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−オン、5−(5−モルホリノアセチル−2−n−プロポキシフェニル)−1−メチル−3−n−プロピル−1,6−ジヒドロ−7−H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−オン、5−[2−エトキシ−5−(4−メチル−1−ピペラジニルスルホニル)−フェニル]1−メチル−3−n−プロピル−1,6−ジヒドロ−7−H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−オン、5−[2−アリルオキシ−5−(4−メチル−1−ピペラジニルスルホニル)−フェニル]−1−メチル−3−n−プロピル−1,6−ジヒドロ−7H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−オン、5−[2−エトキシ−5−[4−(2−プロピル)−1−ピペラジニルスルホニル)−フェニル]−1−メチル−3−n−プロピル−1,6−ジヒドロ−7−H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−オン、5−[2−エトキシ−5−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニルスルホニル)フェニル]−1−メチル−3−n−プロピル−1,6−ジヒドロ−7−H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−オン、5−[5−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニルスルホニル]−2−n−プロポキシフェニル]−1−メチル−3−n−プロピル−1,6−ジヒドロ−7−H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−オン、5−[2−エトキシ−5−(4−メチル−1−ピペラジニルカルボニル)フェニル]−1−メチル−3−n−プロピル−1,6−ジヒドロ−7−H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−オンおよび5−[2−エトキシ−5−(1−メチル−2−イミダゾリル)フェニル]−1−メチル−3−n−プロピル−1,6−ジヒドロ−7−H−ピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−オンが挙げられるが、これらに限られない。
【0017】
ホスホジエステラーゼインヒビターとしては、グリセオール酸(griseolic acid)誘導体、2−フェニルプリノン誘導体、ピリドン誘導体、縮合ピリミジン、ピリミドピリミジン誘導体、プリン化合物、キナゾリン化合物、フェニルピリミジノン誘導体、イミダゾキノキサリノン誘導体、またはアザアナログ、フェニルピリドン誘導体などもまた挙げられ得る。ホスホジエステラーゼインヒビターの具体的な例としては、以下のものが挙げられ得る;1,3−ジメチル−5−ベンジルピラゾロ[4,3−d]ピリミジン−7−オン、2−(2−プロポキシフェニル)−6−プリノン、6−(2−プロポキシフェニル)−1,2−ジヒドロ−2−オキシピリジン−3−カルボキサミド、2−(2−プロポキシフニル)−ピリド[2,3−d]ピリミド4(3H)−オン、7−メチルチオ−4−オキソ−2−(2−プロポキシフェニル)−3,4−ジヒドロ−ピリミド[4,5−d]ピリミジン、6−ヒドロキシ−2−(2−プロポキシフェニル)ピリミジン−4−カルボキシアミド、1−エチル−3−メチルイミダゾ[1,5a]キノキサリン−4(5H)−オン、4−フェニルメチルアミノ−6−クロロ−2−(1−イミダゾロイル)キナゾリン、5−エチル−8−[3−(N−シクロヘキシル−N−メチルカルバモイル)−プロピルオキシ]−4,5−ジヒドロ−4−オキソ−ピリド[3,2−e]−ピロロ[1,2−a]ピラジン、5’−メチル−3’−(フェニルメチル)−スピロ[シクロペンタン−1,7’(8’H)−(3’H)−イミダゾ[2,1b]プリン]4’(5’H)−オン、1−[6−クロロ−4−(3,4−メチレンジオキシベンジル)−アミノキナゾリン−2−イル)ピペリジン−4−カルボン酸、(6R,9S)−2−(4−トリフルオロメ
チル−フェニル)メチル−5−メチル−3,4,5,6a,7,8,9,9a−オクタヒドロシクロペント[4,5]−ミダゾ[2,1−b]−プリン−4−オン、1t−ブチル−3−フェニルメチル−6−(4−ピリジル)ピラゾロ[3,4−d]−ピリミド−4−オン、1−シクロペンチル−3−メチル−6−(4−ピリジル)−4,5−ジヒドロ−1H−ピラゾロ[3,4−d]−ピリミド−4−オン、2−ブチル−1−(2−クロロベンジル)6−エトキシ−カルボニルベンズイミダオールおよび2−(4−カルボキシピペリジノ)−4−(3,4−メチレンジオキシ−ベンジル)アミノ−6−ニトロキナゾリンおよび2−フェニル−8−エトキシシクロヘプトイミダゾール。
【0018】
本発明に組み合わせて有用なさらに他のV型ホスホジエステラーゼインヒビターとしては、以下が挙げられる:IC−351(ICOS);4−ブロモ−5−(ピリジルメチルアミノ)−6−[3−(4−クロロフェニル)プロポキシ]−3(2H)ピリダジノン;1−[4−[(1,3−ベンゾジオキソール−5−イルメチル)アミノ]−6−クロロ−2−キナゾリニル]−4−ピペリジン−カルボン酸モノナトリウム塩;(+)−シス−5,6a,7,9,9,9a−ヘキサヒドロ−2−[4−(トリフルオロメチル)−フェニルメチル−5−メチル−シクロペント−4,5]イミダゾ[2,1−b]プリン−4(3H)オン;フラズロキリン;シス−2−ヘキシル−5−メチル−3,4,5,6a,7,8,9,9a−オクタヒドロシクロペント[4,5]イミダゾ[2,1−b]プリン−4−オン;3−アセチル−1−(2−クロロベンジル)−2−プロピリンドール−6−カルボキシレート;4−ブロモ−5−(3−ピリジルメチルアミノ)−6−(3−(4−クロロフェニル)プロポキシ)−3−(2H)ピリダジノン;1−メチル−5−(5−モルホリノアセチル−2−n−プロポキシフェニル)−3−n−プロピル−1,6−ジヒドロ−7H−ピラゾロ(4,3−d)ピリミジン−7−オン;1−[4−[(1,3−ベンゾジオキソール−5−イルメチル)アミノ]−6−クロロ−2−キナゾリニル]−4−ピペリジンカルボン酸モノナトリウム塩;Pharmproject No.4516(Glaxo Wellcome);Pharmproject No.5051(Bayer);Pharmproject No.5064(Kyowa Hakko;参照WO96/26940号);Pharmproject No.5069(Schering Plough);GF−196960(Glaxo Wellcome)およびSch−51866。
【0019】
他のV型のホスホジエステラーゼインヒビターとしては、DMPPO(Eddahibi(1988)Br.J.Pharmacol.、125(4):681〜688)およびアリールナフタレンリグナンシリーズ(1−(3−ブロモ−4、5−ジメトキシフェニル)−5−クロロ−3−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニルカルボニル]−2−(メトキシカルボニル)ナフタレンヒドロクロライド(27q)(Ukita(1999)J.Med.Chem.42(7):1293〜1305)を含む)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
「複数器官系」については、多数器官に影響を及ぼす系を意味する。このような器官としては、心臓、肝臓および脳が挙げられるが、これらに限られない。
【0021】
「一酸化窒素ドナー」については、化合物が、一酸化窒素を提供し得るか、または一酸化窒素の増加を促進し得ることを意味する。一酸化窒素を提供する化合物のファミリーが存在する。これらの化合物としては、以下のものが挙げられる:DETANONOate(DETANONO、NONOateまたは1置換型ジアゼン−1−イウム−1、2−ジオレートは、[N(O)NO]−官能基を含む化合物である:DEA/NO;SPER/NO;DETA/NO;OXI/NO;SULFI/NO;PAPA/NO;MAHMA/NOおよびDPTA/NO)PAPANONOate、SNAP(S−ニトロソ−N−アセチルペニシルアミン)、ニトロプルシドナトリウムおよびニトログリセリンナトリウ
ム。一酸化窒素の増加を促進する化合物がある(例えば、ホスホジエステラーゼインヒビターおよびL−アルギニン)。
【0022】
本明細書中で使用される場合、「神経発生の促進」については、神経成長が促進されるかまたは増強されることを意味する。これは、新しい神経の成長または存在するニューロンの増強された成長、ならびに実質細胞および組織の柔軟性を促進する細胞の成長および増殖を含み得るがそれらに限られない。神経発生はまた、神経突起および樹状突起の伸張ならびにシナプス生成を含むが、それらに限られない。
【0023】
本明細書中で使用される場合、「増強」については、成長が特定の状況下で、必要に応じて増強されるかまたは抑制されるかのいずれかであることを意味する。従って、さらなるニューロンの成長が必要である場合、一酸化窒素ドナーの添加がこの成長を増進させる。一酸化窒素ドナーまたは一酸化窒素源は、大脳組織を刺激し、傷害、神経変性、またはレセプターの活性化を増強し、そして細胞の形態変化および細胞増殖を促進することによる老化により引き起こされたダメージを補う。
【0024】
本明細書中で使用される場合、「神経性の」機能または「認知性の」機能については、脳における神経成長が思考、機能またはそれ以上の患者の能力を増強することを意味する。一酸化窒素で処置したヒトは、認知性機能、記憶機能および運動機能の改善を促進する脳細胞の生成を増加した。さらに、神経の疾患または傷害を被る患者は、一酸化窒素で処置される場合、認知性機能、記憶機能および運動機能を改善した。
【0025】
本明細書中で使用される場合、用語「細胞治療」は、幹細胞(その子孫が種々の細胞型に特定化する一般化された母細胞)の投与することを包含するが、それらに限られない。幹細胞は、種々の起源を有し、これらとしては、胚、骨髄、肝臓、間質、脂肪組織および当業者に公知の他の起源の幹細胞起源が挙げられるが、これらに限られない。これらの幹細胞は、投与され得るか、またはそれらが天然に存在するような所望の領域に配置され得るか、あるいは、当業者に公知の任意の様式において操作され得る。従って、種々の遺伝的操作方法(トランスフェクション、欠失などが挙げられるが、これらに限定されない)を介して、生存の可能性を増加させるために、または任意の他の所望の目的のために幹細胞を操作し得る。
【0026】
本明細書中で使用される場合、用語「富化する」または「富化」とは、いくらかの所望の質のまたは量の物質を添加または増加することにより、豊富にすること、またはより豊かにすることを含むが、これらに限定されないことを意味する。本発明において、富化は、心筋層の内部にあるまたは周辺にある、より機能的な心臓細胞の添加または増加により生じる。
【0027】
本明細書中で使用される場合、「再投入する(repopulate)」または「再投入すること(repopulating)」は、心筋層の内部または周辺の心臓細胞への添加または補充を含むが、これらに限定されないことを意味する。これらはさらに、現在機能している細胞の活性を強化する。従って、既存の心臓細胞の置換および/または強化が生じる。
【0028】
本発明の目的は、処置の効果を増加すること(例えば、神経発生)、および機能改善を促進する細胞変化を増加すること)によって神経傷害、または他の傷害に対する改良された効果を促進することである。例えば、脳卒中、CNS損傷および神経変性疾患の後、患者は、神経欠損および機能的な欠損を被る。これらの知見は、CNS障害後または、CNS変性の、機能を改善するための脳の補償メカニズムを増強する手段を提供する。一酸化窒素の投与によって誘導されるニューロン変化および細胞変化の誘導は、脳卒中、傷害、
加齢および変性疾患の後、機能の改善を促進する。この適用はまた、他の神経疾患(例えば、限定されないが、ALS、MSおよびハンチントン病)を被る患者に対して利益を提供し得る。さらに、本発明の方法および組成物は、細胞治療の効果を増強し得る。
【0029】
CNS障害後の好都合なときに投与した一酸化窒素は、脳における神経発生を促進し、神経発生を容易にし得る。一酸化窒素はまた、細胞治療の効果も増強し得る。初期の実験では、長い半減期(約50時間)の化合物である、NOを生成するDETA/NOを使用した。この化合物を投与した場合、および脳卒中の発症後、24時間および24時間を過ぎてから新しいニューロンの数の増加が確認された。好ましくは、本発明の化合物は、損傷の部位に直接投与される。例えば、化合物は、経口的に、腹腔内に、静脈内にまたは所望の結果を提供するような当業者に公知の他の任意の様式で投与され得る。しかし、化合物は、処置が必要な場合、全身に投与され得る。
【0030】
本明細書に含まれる実験データは、NOの生成を誘導するように設計された薬理的な介入が、神経発生を促進し得ることを示す。3つの化合物(DETANONOateおよびシルデナフィル(ViagraTM)SNAP)が使用されてきた。これらの化合物は、首尾よく神経発生および脳卒中の後、機能改善された効果を首尾よく誘導した。使用された化合物は、血液脳関門を越えるようである。神経発生は、神経科学研究における主要な最終的な目的である。ニューロンの生成を促進するための方法の開発は、広い範囲の神経性疾患、CNS損傷および神経変性を処置する機会を広げる。障害を受けていない脳において、機能を増加させるためにニューロンの生成を増強することが可能である。
【0031】
ニューロンの生成を促進する薬物のクラスの市場は、巨大である。DETANONOは一例でしかないが、一酸化窒素のドナーは、神経発生を促進する。神経発生の増加は、加齢、および損傷後または疾患後の神経性機能、挙動機能、認知性機能を増加する、改善する方法と言い換える。
【0032】
近年、なんらかの病因の心臓不全における機能の悪化に対する一つの機構が、一部は、進行する心筋細胞の死に起因することが、非常に明らかになってきた(Sabbah、2000)。この問題の解決は、新しい心臓細胞で心筋層を富化するか、または再投入することであり、失った細胞を置き換え、または現在の機能性心臓細胞のさらなる強化を提供し、それにより、欠陥のある心臓のポンプ機能を改善する。本発明は、疾患を処置するための細胞治療の使用に基づいている。幹細胞は、異なる起源(胚、骨髄、肝臓、脂肪組織など)を有するが、それらの重要な共通の特徴は、体の、全てではなくとも様々なタイプの細胞に分化する潜在能力を持つことである。以前に報告されているように、幹細胞は、心筋細胞に分化し得ることが示されている(Maltsevら、1993および1994)。
【0033】
本発明は、現存する処置全体に対して利点がある。例えば、現在、心臓不全の処置は、主として神経液性系を妨げる薬物の使用に基づいている。さらに、心臓移植ならびに心室または両室の補助デバイスの使用を含む、外科的な処置が存在する。本発明により提供される利点は、疾患の主要な原因(すなわち収縮性の単位の損失)に直接的に取り組むことにより、心臓疾患を処置し得ることである。従って、収縮性の単位に分化する幹細胞を用いた心筋の再投入は、新規であり、問題の中心に進む。他の利点としては、心臓疾患の全体の機能に寄与するしばしば薬学的な治療の使用と関連した副作用の非存在および心臓移植または他の器官の移植を苦しめる免疫拒絶の非存在が挙げられる。
【0034】
本発明は、多くの現在の外科的治療に取って代る可能性および、おそらく薬理的な治療を有する。現存する手段は、カテーテルベースの適用を使用して、従って開胸手術の必要性を除き、幹細胞の心臓不全への送達を可能にする。さらに、本発明は、ヒト医学的環境
にも獣医学的背景の両方に適用可能である。
【0035】
本発明は、損傷および疾患を処置し、かつ通常の機能を改善し、そして/または回復する。さらに詳細には、本発明は、細胞治療の増強に用いられ、それにより、機能をより効果的にし、効率的にする細胞治療を可能にする。機能は、損傷した細胞に分化する幹細胞を移植することにより損傷した細胞を富化し、そして/または再投入することにより強められ、それにより、機能を強める。従って、収縮性単位の増加は、心臓の機能を強める。さらに、幹細胞はまた、様々な物質(例えば、栄養性因子のような)の放出を引き起こし得る。従って、例えば、栄養性因子の放出は、心臓の機能を強めるため、および/または心臓不全の処置のために、脈管形成(血管の数の増加)を誘導する。従って、幹細胞は、ただ機能的な心筋細胞に分化する以外の様々な機構を介して、心臓機能を強化しそして/または心臓不全を処置するように作用する。
【0036】
幹細胞の心筋への移植の一般的な方法は、以下の手順により起こる。幹細胞および一酸化窒素ドナーまたはPDEインヒビターを患者に投与する。投与は、静脈皮下投与、非経口投与(動脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与および鼻腔内投与を含む)、ならびに髄腔内技術および注入技術で投与され得る。
【0037】
用語「幹細胞」とは、インビボでヒト被験体に提供した時、自己再生し得る造血細胞を含むがそれに限られない細胞治療の任意の様式を意味し、そして、特定の系統に分化し、展開し得る、起源を制限した前駆体になり得る。本明細書中に使用される場合、「幹細胞」は造血細胞をいい、他の細胞型の幹細胞はいわない。さらに、他に示されない限り、「幹細胞」はヒト造血幹細胞をいう。
【0038】
用語「幹細胞」または「多能性の」幹細胞は、(1)全ての規定された系統に子孫を生じさせる能力を有する幹細胞および(2)全ての血液細胞型およびそれらの子孫で、著しい免疫無防備状態の宿主を完全に再形成し得る幹細胞(自己再生による多能性の造血幹細胞を含む)の意味で相互変換可能に用いられる。
【0039】
骨髄は、長骨の髄腔、いくつかのハヴァーズ管および海綿状または鼻甲介骨の柵状織間の空間を占有する軟組織である。骨髄には、2つのタイプがある:赤色、これは幼少期に全ての骨で見られ、成人期に制限された位置(すなわち、鼻甲介の骨)に見られ、血液細胞の生成(造血)およびヘモグロビン(従って、赤色である)に関係する;および黄色、多くは脂肪細胞(従って、黄色である)および結合組織からなる。
【0040】
概して、骨髄は造血幹細胞、赤血球細胞ならびに白血球細胞およびそれらの前駆体、間葉幹細胞、間質細胞およびそれらの前駆体、ならびに線維芽細胞、網状赤血球、脂肪細胞および「間質(stroma)」と呼ばれる結合組織ネットワークを形成する内皮細胞を含む細胞群からなる複合組織である。間質由来の細胞は、細胞表面のタンパク質および増殖因子の分泌による直接の相互作用を通して造血細胞の分化を形態学的に調節し、そして、骨構造の基礎および支持体に関与する。動物モデルを用いた研究により、骨髄は、軟骨、骨および他の結合組織細胞に分化する能力を持つ「前間質(pre−stomal)」細胞を含むことを示唆する(Beresford,J.N.:Osteogenic Stem Cells and the Stromal System of Bone
and Marrow、Clin.Orthop.240:270、1989)。最近の証拠は、多能性間質幹細胞または間葉幹細胞と呼ばれるこれらの細胞が、活性化の際に、いくつかの異なる細胞株の型(例えば、骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞など)において、生成する能力を有することを示す。しかし、間葉幹細胞は、組織中に、非常に微量の広範な他の細胞(すなわち、赤血球、血小板、好中球、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球、脂肪細胞など)を有するとともに存在し、そして年齢と反比例の関係で、間葉幹細胞は、
多くの生物活性化因子の影響に依存して結合組織の分類に分けられ得る。
【0041】
結果として、発明者らは、分化前の組織からヒト間葉識幹細胞を単離し、そして精製するためのプロセス、次いで筋骨格の治療のための利用可能なツールを作り出すために、間葉細胞を拡大する培養を開発してきた。そのような操作の目的は、間葉幹細胞の数を著しく増加させることおよびこれらの細胞を、身体の正常の修復能力を変え、そして/または、強化するのに使用することである。間葉幹細胞を多量で回収し、組織傷害の領域に適用し、再生および/または修復のための増殖をインビボで増強するか、または刺激し、引き続く活性化および分化、造血細胞生成の増進などを通して、移植片の種々の人工器官デバイスへの移植片の接着を改善する。
【0042】
これらの株について、発明者らによって、培養増殖し、精製した間葉幹細胞を修復、移植などのための部位で移植、固定化および活性化の種々の手順が検討され、これらの手順としては、骨格欠乏の部位への細胞の注入、人工器官を伴う細胞の培養および人工器官の移植などを包含する。従って、分化の前に単離し、精製し、細胞の数を著しく増加し、次いでそれらを組織傷害の部位に置くことの長所により、または培養増殖した未分化の間葉幹細胞の移植前にインビトロで前処理することによる分化過程を活動的に制御することは、広範な代謝骨疾患、骨格異形成、軟骨欠損、靭帯および腱損傷ならびに他の筋骨格および結合組織傷害における細胞障害、分子障害、および遺伝的障害を明らかにするための種々の治療目的のために用いられ得る。
【0043】
これらの株について、発明者らによって様々な多孔性セラミックビヒクルまたはキャリアの使用を通して(細胞を損傷の部位へ注入することを含む)間葉幹細胞または間葉前駆体細胞を修復、移植などのための部位で移植し、固定化し、そして活性化するための種々の手順が検討されている。
【0044】
ヒト間葉幹細胞は、股関節または膝の置換手術の間に間接変性疾患を有する患者から得た大腿骨先端癌化骨片のプラグを含む多様な異なる供給源からおよび正常なドナーおよび将来の骨髄移植のために骨髄を回収した腫瘍患者から得た吸引骨髄から入手し得る。回収した骨髄を、回収した骨髄の供給源(すなわち、骨片、末梢血などの存在)に依存して、多数の異なった機械的分離プロセスにより細胞培養物分離のために調整したが、単離プロセスに関与する重要な段階は、分化を伴わない間葉幹細胞の成長を可能とするだけではなく、間葉幹細胞が培養ディッシュのプラスチック表面またはガラス表面への直接的な接着についても可能とする薬剤を含む特別に調整した培地の使用である。骨髄サンプルに非常に微量に存在する所望の間葉幹細胞を選択的に接触することを可能にする培地を産生することにより、間葉幹細胞を骨髄に存在する他の細胞(すなわち、赤血球細胞および白血球細胞、他の分化した間葉細胞など)から分離することが可能となる。
【0045】
上で示したように、細胞培養物分離のための摘出した骨髄を調製をするために用いた最初の摘出プロセスでの特定の型に依存する多くの異なる単離プロセスに、完全培地を使用し得る。この点では、癌化骨髄のプラグを使用した場合、骨髄を完全培地に添加し、分散物を形成させるためにボルテックスした。その後、遠心し、骨髄細胞を骨片などから分離した。骨髄細胞(主に、赤血球細胞、白血球細胞および非常に微量の間充織幹細胞などを含む)はその後、16、18および20ゲージの一連の針を取り付けたシリンジを用いて、骨髄細胞を含む完全培地に蒔くことにより、単独の細胞に分離した。機械的な分離プロセスの使用により形成する利点は、いずれの酵素による分離プロセスとも反対に、機械的なプロセスが小さな細胞の変化しか形成しないことであると考えられている。それに対して、酵素によるプロセスは、特に、培養接着および選択的な分離に必要なタンパク質結合部位および/または、前記間充織幹細胞に特異的なモノクローナル抗体の生成に必要なタンパク質部位に細胞損傷を形成し得る。単一の細胞の懸濁液(およそ50〜100倍の上
清:有核細胞=10:6により作成した)を、次いで、懸濁液中に見られる残りの細胞からの間充織幹細胞の選択的な分離および/または単離のために、100mmのディッシュにプレートした。
【0046】
吸引した骨髄をヒト間充織幹細胞の源として用いた場合、骨髄幹細胞(ほとんどまたは全く骨片を含まないが、多量の血液を含む)を完全培地に添加し、その後Percoll勾配(Sigma、St Louis、Mo)により分画した(より詳しくは以下の実施例1に記載)。Percoll勾配は、大部分の赤血球細胞および単核造血細胞を、骨髄由来の間充織幹細胞を含む低密度の血小板フラクションから分離した。この関連で、およそ30〜50倍の上清:細胞=10:6を含む血小板フラクションを、未確定の量の血小板細胞、30〜50倍の上清:有核細胞=10:6および、骨髄ドナーの年齢に依存するおよそ50〜500の間充織幹細胞から作った。低密度の血小板フラクションを次いで、細胞付着に基づいた選択的分離のために、ペトリ皿にプレートした。
【0047】
この関連で、癌化した骨または腸骨吸引液(すなわち、初期培養物)のいずれかから得た骨髄細胞を、完全培地で培養し、以下の実施例1に示した条件に従って、1日〜7日でペトリ皿の表面に接着させた。3日後では、細胞接着における増加は見られなかったので、最初の完全培地を新しい完全培地で置き換えることにより、非接着細胞を培地から取り除く標準の長さの時間として、3日を選択した。後の培地の交換を、培養ディッシュがコンフルエントになるまで(通常は14〜21日必要である)、4日毎に行った。この結果、未分化ヒト間充織幹細胞において、10上清3倍〜10上清4倍の増加を示した。
【0048】
次いで、細胞を、放出剤(例えば、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)を含むトリプシン(0.25%トリプシン、1mM EDTA(1倍)、(Gibco、Grand Island、N.Y.))または、EGTA(エチレングリコール−ビス−(2−アミノエチルエーテル)N,N’−四酢酸(Sigma Chemical Co.、St.Louis、Mo.)のようなキレート剤を含むトリプシン)を用いて培養ディッシュから分離した。トリプシンに対するキレート剤の使用によって生じた長所は、トリプシンがおそらく間充織幹細胞の多くの結合タンパク質を切断し得ることであった。これらの結合タンパク質が認識部位を含むので、モノクローナル抗体を生成した時、EGTAのようなトリプシンに対抗するキレート剤を、放出剤として用いた。放出剤を、次いで不活性化し、分離した培養非分化間充織幹細胞を、後の使用のために完全培地で洗浄した。
【0049】
これらの結果は、ある条件下では、多孔性のリン酸カルシウムセラミックス中で移植片をインキュベートした場合、培養増殖した間充織幹細胞が骨に分化する能力を持つことを示した。軟骨細胞と対照的に、間充織幹細胞の、骨への分化に影響する内部因子はよく知られていないが、拡散チャンバと対照的に、多孔性のリン酸カルシウムセラミックス中の、血管系により提供された成長因子および栄養性因子への間充織幹細胞の直接の接触性が、間充織幹細胞の骨への分化に影響しているように見える。
【0050】
結果として、単離し、培養増加した間充織幹細胞は、ある特定の条件下および/またはある因子の影響下で、組織修復に必要な所望の細胞表現型を分化し、生成するために用いられ得る。
【0051】
間充織幹細胞の単回用量の投与は、T細胞とは異質遺伝子型組織に対するT細胞の反応、または「非自己(non−self)」組織に対する反応を低減し、除去するために効果的であり得る。特に、間充織幹細胞から分離した後の異質遺伝子に対する、それらの非反応性の性質(すなわち、寛容または無反応)をTリンパ球が保持する場合には特にあてはまる。
【0052】
間充織幹細胞の用量は広い限界内で様々であり、それぞれの特定の場合の個体の要求に適合する。一般に、非経口の投与の場合、通例、被提供者の体重1kg当たり、およそ10,000細胞〜5,000,000細胞投与する。使用する細胞の数は、被提供者の体重および状態、投与回数または投与頻度および当業者に公知の他の変数に依存する。間充織幹細胞は、組織、器官または移植する細胞にあった投与経路により投与し得る。間充織幹細胞は、静脈内注射により全身に、すなわち非経口的に投与し得る。または、特定の組織または特定の器官(例えば、骨髄)を標的とし得る。ヒト間充織幹細胞は、細胞の皮下移植により、または幹細胞の結合組織(例えば、筋肉)への注射により、投与し得る。
【0053】
細胞は適切な希釈剤に、約0.01細胞/ml〜約5×106細胞/mlの濃度で懸濁し得る。注射溶液に適した賦形剤は、細胞および被提供者に、生物学的および生理学的に適合性の賦形剤(例えば、緩衝塩溶液または他の適した賦形剤)である。投与のための組成物は、適切な無菌性および適切な安定性を満たした標準的な方法に従って処方し、作製し、貯蔵しなければならない。
【0054】
本発明は、それらに限定されないが、間充織幹細胞を、本明細書に記載した方法で用いるための十分な数の細胞を得るために、好ましくは骨髄から単離し、精製し、インビトロでの培養により増加し得る。骨で検出される間充織幹細胞、形成した多能性芽細胞は通常、骨髄では低い頻度(1:100,000)で、および他の間充織組織では低い頻度で存在する。CaplanおよびHaynesworth、米国特許第5,486,359号を参照のこと。間充織幹細胞の遺伝子形質導入は、Gersonらの米国特許第5,591,625号に開示されている。
【0055】
もし、別に述べなければ、遺伝的な操作は、SambrookおよびManiatis、MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL第2版;Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.(1989)に記載された通りに行う。
【0056】
本発明の方法および組成物の詳細な記述は、これに添えて含まれる付属書Aに示し、参考としてその全体が援用される。本明細書には、特定の実施形態が開示されるが、それらは完全ではなく、設計および方法論の異なる、当業者に公知の他の適した設計を含み得る。基本的に、当業者に公知の、異なる任意の設計、方法、構造、および材料が、本発明の精神から逸脱することなく、用い得る。
【0057】
(方法)
分子生物学における一般的な方法:当該分野で公知の標準的な分子生物学技術は、詳細に記載されず、一般に、Sambrookら、Molecular Cloning:A
Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、New York(1989)およびAusubelら、Current Protocols in Molecular Biology、John WileyおよびSons、Baltimore、Maryland(1989)およびPerbal、A Practical Guide to Molecular Cloning、John Wiley & Sons、New York(1988)および、Watsonら、Recombinant DNA、Scientific American Books、New YorkおよびBirrenら(編)Genome Analysis:A Laboratory Manual Series、1〜4巻Cold Spring Harbor Laboratory Press、New York(1988)ならびに米国特許第4,666,828号;4,683,202号;4,801,531号;5,192,659号および5,272,057号に示す方法論に従い、これらは、参考として本明細書に援用される。ポリメラーゼ連鎖反
応(PCR)は一般にPCR Protocols:A Guide To Methods And Applications、Academic Press、San Diego、CA(1990)に従って行った。フローサイトメトリー法と組み合わせたインサイチュ(インセル(In−cell))PCRは、特定のDNA配列およびmRNA配列を含む細胞の検出に用い得る(Testoniら、1996、Blood 87巻:3822)。
【0058】
免疫学における一般的な方法:技術的に知られ、詳細に記載しない免疫学における当該分野で公知の標準的な方法は、一般に、Stitesら(編)、Basic and Clinical Immunology(第8版)、Appleton&Lange、Norwalk、CT(1994)ならびにMishellおよびShiigi(編)Selected Methods in Cellular Immunology、W.H.Freeman and Co.、New York(1980)に従う。
【0059】
(治療剤の送達)
本発明の化合物は、望ましい医学的習慣に従って、患者個体の病態、投与の部位および方法、投与のスケジュール、患者の年齢、性別、体重および医師の知る他の因子を考慮に入れて投与し、服用する。本発明の目的に対して薬学的に「有効量」は、従って、当該分野で公知のような考察事項により決定する。量は、生存率の改善、またはより急速な回復、または、症状の改善もしくは除去および当業者が選定した適切な目安としての他の指標を含むが、それらに限られないものの改善を達成するために、効果的でなければいけない。
【0060】
本発明の方法においては、本発明の化合物は、様々な方法で投与し得る。それを、化合物として、または薬学的に受容可能な塩として投与し得、単独で投与し得る、または、薬学的に受容できるキャリア、希釈剤、アジュバントおよびビヒクルと組み合わせた活性原料として投与し得ることに注意すべきである。化合物は、経口により、皮下に、または、静脈内に、動脈内に、筋肉内に、腹腔内に、および鼻腔内への投与もまた含む、非経口によりならびに鞘内への投与および注射技術により投与し得る。化合物の注射もまた有用である。処置する患者は、温血動物および、特にヒトを含む哺乳動物である。薬学的に受容可能なキャリア、希釈剤、アジュバントおよびビヒクルならびに移植キャリアとは、一般的に、本発明の活性成分とは反応しない、不活性の、無毒の、固体または液体の、増量剤、希釈剤またはカプセル化材料をいう。
【0061】
ヒトは一般に、マウスまたは本発明で例示した、その処置が、疾患過程の長さおよび薬剤の効果に比例した長さを持つ、他の実験動物より長く処置されることに注意する。その服用は、7日間の期間の間で1回の服用または複数回の服用でもあり得るが、1回の服用が好ましい。
【0062】
服用は、7日間の期間で、1回の服用または複数回の服用でもあり得る。一般的に処置は、疾患過程の長さおよび薬剤の効果および処置する患者の種類に比例した長さを持つ。
【0063】
本発明の化合物を非経口で投与する時、一般には、それは単位投与量を持つ注射できる形態(溶液、懸濁液、エマルション)に処方する。注射に適した薬学的処方物は、無菌の水性溶液または分散液および無菌の注射し得る溶液または分散液に再構成するための無菌の粉体を含む。キャリアは、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、適切なそれらの混合物および植物性油を含む溶媒または、分散媒体であり得る。
【0064】
例えば、被覆剤(例えば、レシチン)の使用により、分散液の場合は必要な粒子サイズ
を維持することにより、および界面活性剤の使用により、適切な流動性は維持し得る。非水性ビヒクル(例えば、綿実油、ゴマ油、オリーブ油、大豆油、コーン油、ヒマワリ油、または、ピーナッツ油およびエステル(例えば、ミリスチン酸イソプロピル))も化合物組成の溶媒系として使用し得る。さらに、抗菌防腐剤、抗酸化剤、キレート剤および緩衝剤を含む、組成の安定性、無菌性および等張性を増強する様々な添加物を添加し得る。微生物の活動の予防は、様々な抗菌剤、抗真菌剤(例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸など)により保証し得る。多くの場合、等張性剤(例えば、糖、塩化ナトリウムなど)を含むことが望ましい。注射し得る薬学的形態の吸収の延長は、吸収遅延剤(例えば、アルミニウムモノステアレートおよびゼラチン)の使用により引き起こし得る。しかしながら、本発明に従って、用いる任意のビヒクル、希釈剤または添加剤は、化合物に適合性でなければならない。
【0065】
無菌の注射用溶液は、本発明の実施に活用された化合物を様々な他の所望の成分を含む必要な量の適切な溶媒に組み入れることにより、調製し得る。
【0066】
本発明の薬学的処方物は患者に、任意の適合性キャリア(例えば、様々なビヒクル、アジュバント、添加剤および希釈剤)を含む注射し得る処方物で投与し得る。または、本発明で活用した化合物は、徐放性皮下インプラントの形態で、または標的送達系(例えば、モノクローナル抗体、ベクター送達、イオン注入、ポリマーマトリックス、リポソームおよびミクロスフェア)の形態で非経口で患者に投与し得る。本発明において有用な送達系の例は、5,225,182;5,169,383;5,167,616;4,959,217;4,925,678;4,487,603;4,486,194;4,447,233;4,447,224;4,439,196および4,475,196を含む。多くの他のそのようなインプラント、送達系およびモジュールは当業者に周知である。
【0067】
本発明で活用される化合物の薬学的処方物は患者に経口で投与し得る。従来の方法(例えば、錠剤、懸濁液、溶液、エマルション、カプセル剤、散剤、シロップなどで投与する)は有用である。それを経口でまたは静脈内に送達する、および生物学的な活性を保持する公知の技術は好ましい。
【0068】
一つの実施形態では、本発明の化合物は静脈内への注射で、血中濃度を適した濃度に至らせることにより、最初に投与し得る。次に、患者の濃度を経口投薬形態により維持する。たとえ他の投与形態でも、患者の状態および上に示したものに基づいて活用し得る。投与する量は、処置する患者により異なる。および1日あたり、体重の約100ng/kgから体重の100mg/kgまで変化し、好ましくは、1日あたり10mg/kgから10mg/kgである。
【実施例】
【0069】
(実施例1)
NOの血管形成に対する効果および血管内皮成長因子(VEGF)の合成に対する効果を、ラットの巣状塞栓症脳虚血のモデルにおいて調べた。コントロールのラットと比較して、脳卒中後24時間のラットの全身へのNOドナー、DETANONOateの投与により、血管の周囲が顕著に拡大した。ならびに、三次元レーザースキャニング共焦点顕微鏡により評価した場合、拡散した大脳内皮細胞の数および脳虚血境界領域で新しく生成した血管の数が増加した。DETANONOateによる処置は、ELISAにより測定した場合、脳虚血境界領域のVEGFのレベルを顕著に増加した。DETANONOateが脳虚血で、可溶性グアニル酸シクラーゼの活性化による血管形成を増加するか調べるために、毛細血管様の管形成アッセイを活用した。毛細管様の管形成を誘導したDETANONOateは、可溶性グアニル酸シクラーゼインヒビター、1H−[1,2,4]オキサジアゾロ[4,3−a]キノキサリン−1−オン(ODQ)により完全に阻害された。
VEGFレセプター2に対する中和抗体によるVEGF活性のブロックは、DETANONOate誘導性毛細管様の管形成を著しく弱めた。さらに、ホスホジエステラーゼタイプ5インヒビター(シルデナフィル)の、脳卒中後24時間のラットへの全身投与により、脳虚血境界領域の血管形成が著しく増加した。シルデナフィルおよび環状グアノシン一リン酸(cGMP)のアナログも毛細管様の管形成を誘導した。これらの発見は、外因性のNOは、脳虚血脳において血管形成を増進し、それはNO/cGMP経路により仲介されることを示唆する。さらに、データはNOが、一部はVEGFにより、虚血脳において血管形成を増進し得ることを示唆している。
【0070】
一酸化窒素(NO)ドナーを用いた脳卒中の処置は、機能的な神経性欠損を減少する。NOは多くの生理学的機能および病態生理学的機能に影響する多面的な分子である。NOドナーを用いて処置した動物は、脳の神経性の領域(例えば、心室下部区域および歯状回)で、細胞増幅を誘起する。しかし、処置後の神経機能の回復の根底にあるメカニズムは解明が必要である。
【0071】
脳卒中のNO処置についての潜在的な治療標的は、血管形成である。前血管形成薬剤(例えば、基礎型線維芽細胞増殖因子(bFGF)および血管内皮増殖因子(VEGF)の脳卒中を有する動物への投与は、神経の機能障害を有意に減少する。ヒト血管平滑筋細胞をNOドナーとともに培養すると、VEGF合成が増加し、NOシンターゼ(NOS)のアンタゴニストであるNW−ニトロ−l−アルギニンメチルエステル(L−NAME)がVEGF生成を減少する。内皮NOシンターゼ(eNOS)欠損マウスは、虚血性肢において血管形成の顕著な欠陥を示す。このことは、NOが虚血性組織において、血管形成を調節していることを示している。従って、NO、VEGFと血管形成との間の連関があるように見える。しかし、NOドナーの、脳卒中後のVEGFおよび血管形成に対する効果の研究はなかった。従って、NOがVEGFを増加し、環状グアノシン一リン酸経路(cGMP)による血管形成を増強するという事実を、ラットの局所性塞栓症脳虚血モデルで調べた。
【0072】
(材料および方法)
(動物モデル)
320gm〜380gmの重さのオスWistarラットを用いた。中大脳動脈(MCA)を、塞栓子をMCAの起始部に置くことにより塞いだ。
【0073】
(実験プロトコル)
1)外因性NOが、虚血性動物の新血管形成に影響するか否かを調べるために、(Z)−1−[N−(2−アミノエチル)−N−(2−アンモニオエチル)アミノ]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート(DETANONOate)(生理学的条件下で57時間の半減期を持つNOドナー)を虚血性ラットに投与した。DETANONOate(0.4mg/kg)は脳卒中後24時間のラット(n=8)に、静脈内に投与し、さらに連続6日間、毎日腹腔内に投与した。同量の分解したDETANONOateで処置した虚血性ラット(n=8)をコントロール群として用いた。ラットは全て脳卒中後14日で屠殺した。2)VEGFの脳のレベルに対する外因性NOの効果を調べるために、DETANONOate(0.4mg/kg)または生理食塩水を、プロトコル1に記述した同一の実例により、虚血性ラット(各群についてn=3)に投与した。これらのラットを脳卒中後、7日で屠殺した。3)cGMPの増加が虚血性脳において血管形成を促進するか否かを調べるために、cGMPを増加するホスホジエステラーゼ5型(PDE5)インヒビター、3mlの水道水に溶解したシルデナフィル(2mg/kg)を脳卒中後24時間およびさらに6日間毎日、虚血性ラット(n=8)に与えた。ラットを脳卒中後、14日間で屠殺した。
【0074】
(ブロモデオキシウリジン標識)
S期の分裂細胞DNAに取り込まれるチミジンアナログである、ブロモデオキシウリジン(BrdU、Sigma Chemical)を有糸分裂の標識として使用した。BrdU(50mg/kg)をMCA閉塞の後1日から始めて、13日間毎日虚血性ラットの腹腔内に注射した。
【0075】
(3次元画像獲得および分析)
虚血性脳における新血管形成を調べるために、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)デキストラン(2×106分子量、Sigma、St.Louis、MO;50mg/mlを0.1ml)をMCAoを14日間受けた虚血性ラットの静脈内に投与した。脳は重症の頭部からすぐに取り除き、4%パラホルムアルデヒド中に4℃で48時間置いた。冠状断片(100μm)をビブラトームにより切断した。ビブラトーム切片を、以前記載したように、Zeiss顕微鏡(Bio−Rad;Cambridge、MA)上に設置したBio−Rad MRC 1024(アルゴンおよびクリプトン)レーザースキャニング共焦点画像システムを用いて分析した。FITC−デキストランを注射したそれぞれの動物から、5.2mmブレグマから−8.8mmブレグマまで、2mmの間隔で、7個の100μm厚さのビブラトーム冠状切片を選択した。同側半球および対側半球の8つの脳領域を基準の冠状切片(両耳間8.8mm、ブレグマ0.8mm)内で選択した。これらの領域は、512×512ピクセル(276×276μm2)のフォーマットで4×フレームスキャン平均を用いて、x−y方向に走査し、40×対物レンズの下で、Z軸に沿って1μmの段階で25の光学切片を得た。血管の分枝点、断片長、および直径は、研究室で開発したソフトウェアを用いて3次元像で測定した。像の獲得および分析は無分別に行った。
【0076】
(免疫組織化学および定量化)
BrdU免疫染色のために、脳切片(6μm)を50%のホルムアミド、2×SSC中で65℃で2時間インキュベートし、その後2N HCl中で37℃で30分間インキュベートすることにより、DNAを最初に変性した。切片を次いで、トリス緩衝液でリンスし、1%のH2O2で処置して、内因性のペルオキシダーゼをブロックした。切片を、BrdU(1:1000、Boehringer Mannheim、Indianapolis、IN)に対するマウスモノクローナル抗体(mAb)で一晩インキュベートし、ビオチン標識した2次抗体で1時間インキュベートした(1:200、Vector、Burlingame、CA)。
【0077】
BrdU免疫反応性内皮細胞を定量するため、虚血性病変に隣接した10個の拡大した血管における内皮細胞の数およびBrdU免疫反応性内皮細胞の数をそれぞれのラットから数えた。対側の相同な領域の10個の血管における内皮細胞の数およびBrdU免疫反応性内皮細胞の数を数えた。データはそれぞれのラットからの10個の拡大した血管における、BrdU免疫反応性内皮細胞の全内皮細胞に対するパーセンテージとして示す。
【0078】
血管の周囲は、前述の抗von Willebrand因子抗体で免疫染色した冠状切片で測定した。
【0079】
(VEGFに対するELISA)
対側半球の虚血性境界領域および相同な組織を解剖した。組織をホモジナイズし、10,000gで4℃で20分間遠心し、上清を回収した。上清のVEGFに対するELISA法をラットのVEGFに特異的な市販のキット(R&D、systems)を活用して、製品の指示書に従って行った。
【0080】
(毛細管様の管形成分析)
インビトロの血管形成アッセイを行った。簡単に記載すると、成長因子を減少したマトリゲル(Matrigel)(Becton Dickinson)0.8mlを、前冷却した35mmの培養皿に添加し、37℃で2〜5時間重合した。マウスの脳由来の内皮細胞(2×104細胞)を3時間、DETANONOate、シルデナフィル、1H−[1,2,4]オキサジアゾロ[4,3−a]キノキサリン−1−オン(ODQ)、8−Br−cGMPまたはVEGFレセプター2に対するラットの抗マウス中和抗体(VEGFR2、DC101、Imclone System)を含むDulBecco改変Eagle培地(DMEM)中で培養した。毛細管形成の定量測定には、マトリゲル皿の3つの任意の範囲を画像化し、3つ以上の細胞の途切れない線の長さを測定した。
【0081】
(統計解析)
一元配置分散分析を行い、その後、Student−Newman−Keuls試験を行った。データは平均±SEとして示した。p<0.05の値を有意であるとみなした。
【0082】
(結果)
(インビボにおけるDETANONOateおよびシルデナフィルの血管形成に対する効果)
外因性のNOが虚血性脳における血管形成を増強するか否かを調べるために、DETANONOateを7日間の脳卒中の後、24時間のラットに投与した。DETANONOateによる処理は、虚血性病変の周辺の血管周囲を顕著に(p<0.01)拡大した(図1Aおよび図1D)が、コントロールのラットの同側の血管(図1Cおよび図1D)と比較して、対側半球の血管は拡大しなかった(図1Bおよび図1D)。拡大した薄い壁の血管にある内皮細胞はBrdU免疫反応性を示した(図2Aおよび図2B)。そして、定量的な分析により、DETANONOateで処理したラットにおいて、増殖した内皮細胞の数が有意に増加したことが明らかになった(p<0.05)(図2C)。血管形成をさらに調べるために、研究室で開発したソフトウェアを用いて三次元解析を行った。これを用いて、断片の数、断片の長さおよび血管の直径を測定する。DETANONOateによる処理は、同量の分解したDETANONOateで処理した虚血ラットにおける毛細管断片の数(図3Bおよび表1)と比較して、虚血の境界領域における毛細管断片の数を有意に(p<0.05)増加した(図3Aおよび表1)。DETANONOateで処理した群における毛細管の断片は、直径が有意に小さく(図3Aおよび表1)、そして長さが有意に短かった(図3Aおよび表1)。このことは、これらが新しくできた血管であることを示唆している。血管形成の顕著な増加もシルデナフィルで処理したラットで検出した(表1)。
【0083】
(脳のVEGFのレベルに対するDETANONOateおよびシルデナフィルの効果)
DETANONOateの投与が脳のVEGFのレベルを増加するか否かを調べるために、ラットの内因生のVEGFに対するELISAを行った。ELISA測定により、DETANONOateによる処理が、虚血性境界領域におけるVEGF量を、コントロール群(n=3)の13.4±1.5pg/mlからDETANONOateで処理した群(n=3)の28.9±1.0pg/mlに、有意に増加したこと(p<0.05)が明らかになった。NOはcGMPを増加するので、DETANONOateによるVEGFの誘導が、cGMP経路を介して生じ得る。PDE5はcGMPの加水分解に対する特異性が高い。PDE5インヒビター、シルデナフィルで処理したラットにおける脳のVEGFのレベルを測定した。シルデナフィルによる処理は、虚血性境界領域のVEGFのレベルを有意に増加した(p<0.05)(34.4±2.9pg/ml対13.4±1.5pg/ml(コントロール)群あたりn=3)。
【0084】
(DETANONOateに誘導される毛細管形成に対する可溶性グアニル酸シクラー
ゼインヒビターおよびVEGFR2の中和の効果)
DETANONOateが、虚血性脳において可溶性グアニル酸シクラーゼの活性化により、血管形成を増進するという仮説を支持するために、毛細管形成分析を用いて、DETANONOateの血管形成に対する効果をさらに分析した。マウスの脳由来の内皮細胞をDETANONOateとインキュベートした場合(0.2μM、図4Bおよび図4E)には、内皮細胞をDMEMのみでインキュベートした時(図4Aおよび図4E)と比較して、毛細管形成における有意な増加を検出した。しかし、DETANONOateに誘導された毛細管様血管形成は、内皮細胞をODQ(ODQは可溶性グアニル酸シクラーゼの強力なインヒビターである)の存在下でDETANONOateと培養した場合、完全に阻害された(図4Cおよび図4E)。このことは、NO/cGMPシグナル伝達経路がDETANONOateの血管形成に対する効果の仲介に関与していることを示している。DETANONOateがまた、VEGFの増加により、血管形成を増強するか否かを調べるために、内皮細胞をDETANONOate(0.2μM)およびVEGFR2に対するラット抗マウス中和抗体(DC101、10μg/ml)の存在下で3時間インキュベートした。マウスにおけるVEGFR2に対するこの抗体の生物学的活性を実証した。内皮細胞をVEGFR2に対する抗体で処理することにより、DETANONOate誘導性の毛細管様血管形成は、有意に(p<0.05)減少した(図4Dおよび図4E)。このことは、VEGFがDETANONOate誘導性の血管形成に関与していることを示唆している。
【0085】
(シルデナフィルの毛細管様血管形成に対する効果)
内皮細胞をシルデナフィルとともに(100〜500nM)インキュベートすると、濃度依存的な毛細管様血管形成が生じる(図5)。安定なcGMPのアナログである8−BrcGMP(1mM)も毛細管様血管形成を有意に(p<0.05)増加した(図5)。ODQ(10μM)はシルデナフィル誘導性毛細管様血管形成を有意に阻害した(図5)。このことは、シルデナフィルによる血管形成が、内皮細胞におけるsGCの基礎活性に依存することを示している。ODQは8−BrcGMP誘導性毛細管様血管形成を有意に阻害しなかった(図5)。このことから、この効果は、可溶性グアニル酸シクラーゼの活性化とは独立していることを確認した。
【0086】
(考察)
本研究の主要な発見は、以下である:1)脳卒中後24時間でのDETANONOateまたはシルデナフィルの投与はVEGFの合成を増加し、虚血性脳における血管形成を高める;2)可溶性グアニル酸シクラーゼのインヒビターであるODQは、DETANONOate誘導性毛細管様血管形成を完全に阻害する;3)PDE5のインヒビターであるシルデナフィルは毛細管様血管形成を誘導する。4)VEGFR2に対する中和された抗体によるVEGF活性のブロッキングは、DETANONOate誘導性毛細管様血管形成を弱める。まとめると、これらのデータは、外因性のNOが、NO/cGMP依存的経路を介して、虚血性脳における血管形成を増強することおよびPDE5のインヒビター(シルデナフィル)が血管形成を増大することを示している。データはまた、NO、VEGFおよび血管形成の連関を示唆している。
【0087】
NOは、血管形成において重要な役割を果たす。しかし、虚血性脳における血管形成に対するNOの効果についての研究はない。eNOSを欠くマウスは、肢の虚血に反応して自発的な血管形成の重度の障害を示す。そしてL−アルギニンの投与は血管形成を加速する。本研究では、DETANONOateの投与は拡大した血管の数を有意に増加し、虚血境界領域の内皮細胞を増加した。このことは、NOが血管拡張および内皮細胞増殖を誘導するというデータと一致する。
【0088】
NOは、可溶性グアニル酸シクラーゼを活性化し、それにより標的細胞でcGMPを増
加させる。PDE5酵素は、cGMPの加水分解に高い特異性があり、クエン酸シルデナフィルは、cGMPの細胞内蓄積を引き起こすPDE5の強いインヒビターである22。DETANONOate誘導性毛細管様血管形成は、可溶性グアニル酸シクラーゼの選択的なインヒビターであるODQにより完全に阻害された。このことは、DETANONOateが、可溶性グアニル酸シクラーゼの活性化を介して、脳の血管形成を増強することを示唆している。これらの結果は、NOが血管形成において可溶性グアニル酸シクラーゼを活性化するというこれまでの報告と一致している。虚血性脳のNOにより増強された血管形成にcGMPの増加が寄与するというさらなる証拠を得るために、脳卒中後24時間のラットにPDE5インヒビター(シルデナフィル)を投与した。データは、シルデナフィルによる処理が虚血境界領域において血管形成を高めることを示している。さらに、シルデナフィルおよび8−BrcGMP(cGMPのアナログ)は、脳由来の内皮細胞の培養で、毛細管様血管形成を誘導する。ODQは、8−BrcGMP誘導性毛細管様血管形成ではなく、シルデナフィル誘導性毛細管様血管形成を顕著に阻害する。このことは、この反応がsGCの基礎活性に依存していることを示している。従って、データはNO/cGMP経路が、虚血性脳におけるDETANONOate誘導性血管形成を媒介しているという結論を支持する。
【0089】
VEGFは血管形成を媒介し、NOおよびVEGFは血管形成を促進するように相互作用し得る。高濃度のNOドナーは内皮細胞でのVEGFの発現をダウンレギュレートする。対照的に、最近の研究は、内因性のNOがVEGFの合成を高めることを示している。eNOSを欠くマウスは、虚血性後肢における血管形成の顕著な障害を示す。そして、これらのマウスへのVEGFの投与は、障害のある血管形成を増加しない。このことは、NOがVEGFに誘導される血管形成についての下流のメディエーターであることを示している。VEGFに反応した血管形成は、組織微小環境に依存している。データは、外因性のNOが虚血性脳のVEGFレベルを増加し、VEGF活性のブロッキングがDETANONOate誘導性毛細管様血管形成を弱めることを示している。このことは、NOが脳においてVEGF合成を誘導し、少なくとも一部は、VEGFがDETANONOate誘導性血管形成を媒介することを示唆している。これらの発見は、NOドナーに由来するNOが、VEGFの合成を増加し得るという、これまでの研究と一致している。さらに、PDE5インヒビターであるシルデナフィルが、虚血性脳における脳のVEGFレベルを増加する。このことは、cGMPがNO誘導性のVEGF合成に寄与する可能性があることを示唆している。この発見は、cGMPが、培養されたヒト人工軟骨細胞において、NO誘導性のVEGFのアップレギュレートに関与しないというこれまでの研究とは一致しない。この不一致の理由は、細胞型の違いによるものと考えられ得るが、不可解である。
【0090】
血管形成は、増殖因子の2つのファミリー(VEGFファミリーおよびアンジオポエチンファミリー)ならびに、内皮細胞の細胞外マトリックスとの相互作用によって密接に調節されている。VEGF遺伝子およびアンジオポエチン遺伝子のアップレギュレートは、脳卒中後の脳の血管形成と関係している。さらに、脳卒中は、脳の血管の内皮細胞におけるVEGFレセプター1およびVEGFレセプター2の発現を誘導する12。NOドナーの投与は、星状細胞および内皮細胞において内因性VEGFを増幅し得る。そして、その結果、増加したVEGFは、内皮細胞においてアップレギュレートされたVEGFレセプターと相互作用することにより、虚血性脳において血管形成を増強する。このことは、実験的な脳卒中において、VEGF処理が血管形成を増加すると、示された通りである。新しく作られた血管は、虚血性脳において機能し、長期の灌流の改善による機能回復に寄与し得る。従って、NOとVEGFとの正の相互作用は、NOドナーとVEGFの処理の組み合わせが、血管形成に相乗的な効果を持ち得ることを示唆している。
【0091】
図1は、大脳血管の周辺を示す。DETANONOateによる処理は、虚血の境界における大脳の血管を拡大した(図1A)。しかし、代表的なラット由来の対側半球の相同
な範囲における血管では、拡大しない(図1B)。図1Cは、分解したDETANONOateで処理した代表的なラット由来の虚血の境界において血管が拡大したことを示す。定量データ(図1D)は、コントロールのラット中の同側の血管の周囲と比較して、DETANONOateによる発作の処置が血管の周囲を顕著に増加したことを示す。同側半球に対して*p<0.01。Cにおけるバー=50μm。
【0092】
図2は、大脳内皮細胞が増加したことを示す。図2Aは、DETANONOateで処理した代表的なラットの拡大した薄い壁の血管中のいくつかのBrdU免疫反応性内皮細胞(矢印)を示す。図2Bは、コントロール群からの代表的なラットの拡大した血管におけるBrdU免疫反応性内皮細胞(矢印)を示す。虚血は、内皮細胞の増殖を誘導する(図2C、コントロール)が、DETANONOateによる処理は、増殖した内皮細胞の数を顕著に増加した(図2C、DETANONO)。対側半球に対して*p<0.01およびコントロール群の同側半球に対して#p<0.05。Bにおけるバー=10μm。
【0093】
図3は、3次元画像で分析されるように、DETANONOateが新脈管形成を誘導することを示す。コンピューター作成画像は、元は3次元レーザースキャニング共焦点顕微鏡で得た画像から導かれた。DETANONOateによる処理は、コントロール群のラットの新しい血管の数(図3B)と比較して、新しく形成される血管の数を増加した(図3A)。しかし、DETANONOateは、対側半球の血管の形態を変更しなかった(図3C)。画像中の緑色および赤色は、それぞれ血管の直径が7.5μmより大きいことおよび小さいことを示す。画像サイズは、276×276×25μm3であり、画像中の単位はμmである。
【0094】
図4は、DETANONOateがインビトロで新脈管形成を誘導することを示す。マウス脳由来内皮細胞をDETANONOate非存在下で、DMEMとともに3時間インキュベートし(図4A)、DETANONOate存在下でインキュベートし、(0.2μM、図4B)、およびODQを有するDETANONOate存在下でインキュベートし(図4C)、または、VEGFR2に対する抗体を有するDETANONOate存在下でインキュベートした(図4D)。DETANONOateによって、毛細管様管形成を誘導し(図4B)、この効果はODQにより阻害された(図4C)か、または、VEGFR2に対する抗体により阻害された(図4D)。少なくとも4回の実験で、同様の結果を得た。棒グラフ(図4E)は、毛細管様管形成の定量的データを示す。コントロールに対して、*p<0.05およびDETANONOate(0.2μM)に対して#p<0.05。NO0.1およびNO0.2は、DETANONOate 0.1μMおよび0.2μMを示す。DC101はVEGFR2に対する抗体を示す。
【0095】
図5はシルデナフィルに誘導された毛細管様管形成の定量的データを示す棒グラフを示す。シルデナフィル(100〜500nM)および8−BrcGMPは毛細管様管形成を誘導し、ODQはシルデナフィル(300nM)に誘導された毛細管様管形成を顕著に阻害した。しかし、8−BrcGMP誘導性の毛細管様血管形成は弱めなかった。コントロールに対して、*p<0.05およびシルデナフィル300nMに対して#p<0.05。Sil=シルデナフィル。
【0096】
(実施例2)
(方法)
オスのウィスターラットは、塞栓症の中大脳動脈閉塞に供された。シルデナフィル(バイアグラ(Viagra))を発作の発症後、最初の2時間、または24時間で、連続7日間、1日あたり、2〜5mg/kgの用量で、経口で投与した。同じ体積の水道水を投与した虚血性ラットをコントロール群として用いた。機能転帰試験(フット−フォールト、接着除去)を行った。ラットは、梗塞分体積の分析のため、ならびに下部心室領域およ
び歯状回の中に、新しく生成した細胞の分析のために、発作後28日で屠殺した。脳のcGMPのレベル、PDE5の発現および局在した大脳血流を別のラットで測定した。
【0097】
(結果)
シルデナフィルによる処理は、行った試験全てにおいて、顕著に(p=0.05)神経学的回復を増強した。実験群間の梗塞体積の顕著な違いはなかった。シルデナフィルによる処理は、同側の下部心室領域および線条におけるIII−チューブリン(TuJ1)免疫反応性により示されるように、下部心室領域および歯状回のブロモデオキシウリジン免疫反応性細胞の数を顕著に(p=0.05)増加し、未成熟のニューロンの数を顕著に増加した。cGMPの皮質レベルは、シルデナフィルの投与後、顕著に増加し、およびPDE5 mRNAは非虚血性脳および虚血性脳の両方に存在した。
【0098】
(結論)
シルデナフィルは、発作後2〜24時間のラットに投与される場合、脳のcGMPのレベルを増加し、神経発生を誘起し、そして神経学的欠損を減少する。これらのデータは、性的機能障害に対して病院で現在使用されているこの薬剤が、発作からの回復の促進に役割を有していることを示す。
【0099】
一酸化窒素(NO)は、溶解性グアニル酸シクラーゼの強力なアクチベーターであり、標的細胞中でcGMPの形成を引き起こす。ホスホジエステラーゼ5型(PDE5)酵素は、cGMPの加水分解に対して高度に特異的であり、cGMPシグナル伝達の調節に関与する。シルデナフィルは新規のPDE5のインヒビターであり、細胞内のcGMPの蓄積を引き起こす。NOドナーの、発作を有するラットへの投与は、脳のcGMPのレベルを顕著に増加し、細胞生成を誘導し、そして、機能回復を改善する。機能回復は、一部、NOドナーの投与から生じるcGMPのレベルの増加に起因する。従って、シルデナフィル(PDE5インヒビター)を発作に供されたラットに投与することにより、発作の回復の間、神経学的転帰の改善を高める。
【0100】
(材料および方法)
シルデナフィルは弱い塩基性の化合物であり、それゆえに、これは、生理的なphでは一部しかイオン化しない。およびラットでは0.4時間の半減期を有する。バイアグラのフィルム錠剤(内容物は100mgのシルデナフィルであり、商業的に購入した)を、重量測定し、粉末化した。
【0101】
(動物モデル)
重さが320g〜380gのオスのウィスターラットを本研究に用いた。中大脳動脈(MCA)は、MCAの源に塞栓を置くことにより、閉塞した。
【0102】
(実験プロトコル)
シルデナフィルの投与が細胞増殖および神経学的挙動に影響するかどうかを試験するために実験を行った。2mg/kg(n=10)または5mg/kg(n=9)のシルデナフィルを3mlの水道水中に溶解し、MCA閉塞後2時間のラットに経口投与し、さらに、6日間毎日投与した。別の虚血性ラットの群(n=10)は、MCA閉塞後24時間でシルデナフィル(2mg/kg)を経口処置し、さらに6日間毎日投与した。虚血性ラット(n=9)をコントロール群として同体積の水道水で処置した。虚血前およびMCA閉塞開始の4日後、7日後、14日後、21日後および28日後に機能試験を行い、および体重を測定した。全てのラットをMCA閉塞28日後に屠殺した。シルデナフィルの投与が脳のcGMPのレベルに影響するか試験するための実験も行った。非虚血性ラットを7日間、2mg/kgのシルデナフィル(n=6)、または水道水(n=10)で処置した。これらのラットを脳のcGMPのレベルを測定するために、最後の処置の1時間後に屠
殺した。シルデナフィルの大脳血流(CBF)および血圧に対する効果を試験するための実験もまた行った。非虚血性ラット(n=6)をシルデナフィルで経口処置し、局所CBFおよび平均動脈血圧を開始30分で測定し、シルデナフィルの投与後180分間継続した。脳のPDE5を試験する実験もまた行った。非虚血性ラットおよび虚血性ラットを虚血開始の、2時間後、4時間後、24時間後、48時間後および168時間後、屠殺した(各時間点、n=3)。脳組織中のPDE5を検出するために、逆転写(RT)−ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行った。
【0103】
(脳組織におけるcGMP測定)
商業的に利用できる低pHイムノアッセイキット(R&D Systems Inc)を使用して、cGMPのレベルを測定した。このアッセイの感度は、非アセチル化手順について、約0.6pmol/mlであった。脳を迅速に取り除き、皮質および小脳を分離した。脳組織を、重量測定し、1mmol/Lの3−イソブチル−1−メチルキサンチンを含む、10倍の体積の0.1NのHCl中でホモジナイズした。
【0104】
(RT−PCR分析)
ラットの脳組織中のPDE5の存在を試験するために、PDE5A1およびPDE5A2に対するプライマーを、公表された配列に従って合成した。5’プライマー 5’−AAAACTCGAGCAGAAACCCGCGGCA−AACACC−3’および3’プライマー 5’GCATGAGGACTTTGAG−GCAGAGAGC−3’はラットのPDE5A1のN末端領域をコードするcDNA断片を増幅した。5’プライマー 5’−ACCTCTGCTATGTTGCCCTTTGC−3’および3’プライマー 5’−GCATGAGGACTTTGAGGCAGAGAGC−3’はラットのPDE5A2をコードするcDNA断片を増幅した。cDNA合成のために、脳組織から抽出した全RNAを逆転写した。サンプルを95℃で2分間変性し、次いで、40サイクル増幅した。各サイクルは、95℃30秒間の変性、62℃1分間のアニーリング、および72℃2分間の伸張反応からなる。サンプル(ウェルあたり30μl)を、エチジウムブロマイドを含む1.5%アガロースで電気泳動した。
【0105】
(体重減少)
動物を、塞栓症虚血前ならびに4日後、7日後、14日後、21日後および28日後に体重測定した。体重減少を、虚血前の体重の百分率として表す。
【0106】
(フット−フォールト試験(Foot−Fault Test))
ラットを、虚血前および塞栓症虚血後、4日後、7日後、14日後、21日後、および28日後に、改変したフット−フォールト試験を用いて、前肢の配置機能不全について試験した。ラットを異なるサイズの増大した六角形のグリッド上に設置し、グリッドに沿って動くワイヤーの上に肢を配置した。体重を支える各段によって肢はワイヤーの間に落ち得、また滑り得る。ラットがグリッドを横切るために使用した段の全ての数(各前肢の動き)を数え、各前肢のフットフォールトの全数を記録した。
【0107】
(接着除去試験)
体性感覚の欠損を測定するために、接着除去試験を用い、MCA閉塞前およびMCA閉塞の、4日後、7日後、14日後、21日後および28日後に行った。
【0108】
(ブロモデオキシウリジン標識)
細胞増殖を測定するために、ブロモデオキシウリジン(BrdU)を使用した。動物は、BrdU(50mg/kg;Sigma)の腹腔内注射を発作の日に、そしてその後14日間連続で毎日受容した。下部心室領域および歯状回中の細胞増殖を虚血後28日で屠殺した(実験プロトコル1、全4群)、ラットにおいて測定した。
【0109】
(免疫組織化学)
BrdU免疫染色のために、脳切片(6m)を50%ホルムアミド2’SSC中で65℃で2時間インキュベートし、次いで、2N HCl中で37℃で30分間インキュベートすることにより、DNAをまず変性した。切片は次いで、Tris緩衝液でリンスし、1%のH2O2で処理し、内因性のペルオキシダーゼをブロックした。切片はBrdU(1:100)に対する一次抗体と室温で1時間インキュベートし、次いで、ビオチン標識した二次抗体(1:200、Vector)と1時間インキュベートした。反応産物は、3’3’−ジアミノベンジジン−テトラヒドロクロライド(DAB;Sigma)を使用して検出した。未成熟のニューロンを同定する、III−チューブリン(TuJ1)免疫染色のために、12の冠状切片をTuJ1(1:1000)に対する抗体と4℃で一晩インキュベートした。次いで、ビオチン標識したウマの抗マウス免疫グロブリン抗体と室温で30分間インキュベートした。BrdU免疫反応性細胞が冠状切片でニューロンの表現型を示すかどうかを決定するために、BrdUおよびTuJに対する2重免疫蛍光染色を行った。
【0110】
(画像解析および定量化)
BrdU免疫反応性細胞の測定を6μmの厚さのパラフィン包埋切片で行った。11BrdU免疫染色切片を40倍の対物レンズ(Olympus B×40)を使用して、MCIDコンピューター画像解析システム(Imaging Reasearch)によりデジタル化した。視覚化を改善するために、コンピューターモニター上で、そして重複サンプリングを避けるために、1焦点面においてBrdU免疫反応性核を数えた。全てのBrdU免疫反応性陽性核を、下部心室領域の側脳室の同側壁および対側壁の両方ならびに歯状回で数えた。下部心室領域では、各ラットから40枚目毎に、脳梁膝の前後10.6mmおよび前方交連交叉(commissure crossing)の前後8.74mmの間で、全部で7切片の冠状切片を選択した。歯状回について、各ラットから50枚目毎に、顆粒細胞層の前後5.86mmおよび前後2.96mmの間で、全部で8切片の冠状切片を選択した。下部心室領域および歯状回のBrdU免疫反応性核を平方mmあたりの細胞の数(平均SE)として示した。7切片の密度値(下部心室領域)および8切片の密度値(歯状回)を平均化し、各動物の平均密度値を得た。下部心室領域および線条中のTuJ免疫反応性細胞の数を数え、データを切片あたりのTuJ1免疫反応性細胞の数(平均SE)として表した。
【0111】
(相対的赤血球流速のモニタリング)
レーザードップラー流量計測プローブ下で、組織中の相対的赤血球流速を、レーザードップラー流速計測法(PeriFlux PF4 flowmeter;Perimed
AB)により測定した。頭蓋骨のブレグマから後方2mmおよび正中13から外側6mmに、1.5mmの直径の13A穿頭孔を施した。硬膜はインタクトのままにした。穿頭孔への鉱油の適用後、硬膜表面の上0.5mmにプローブを置いた。シルデナフィルの投与30分後、相対流速を測定した。この測定は、相対的に局在化されたCBFを反映する。14の流速の値を対側半球の値のパーセンテージとして示した。
【0112】
(梗塞体積の測定)
グローバルラボラトリー(Global Laboratory)画像分析プログラム(データ翻訳)を使用して、7ヘマトキシリンおよびエオシン染色した冠状切片上の梗塞体積を測定した。簡単には、コンピュータースクリーンの領域をトレースすることにより、両半球の領域および梗塞領域(mm2)を計算した。梗塞体積(mm3)は適切な面積に断片間の厚さを掛けることにより決定した。梗塞体積は対側半球の梗塞体積のパーセンテージとして示す(間接的な体積の計算)。
【0113】
(統計解析)
神経学的機能回復および体重の分析のため、ANOVAの代わりに、一般化推定方程式(GEE)分析アプローチを使用した。なぜなら、データはANOVAの正規性および等分散の仮定と合わないからであった。下部心室領域、歯状回および線条の同側領域および対側領域との間の細胞増殖の差を試験するために、対応のあるt検定または符号順位検定を使用した。GEE分析アプローチを使用し、同側および対側の下部心室領域、歯状回および線条の細胞増殖に対する処置の効果を研究した。全ての値は平均SEとして表した。統計的有意性はP0.05に設定した。
【0114】
(結果)
(細胞増殖に対するシルデナフィルの効果)
発作後、2時間または24時間で開始したシルデナフィル(2mg/kgまたは5mg/kg)で処置された虚血性ラットは、コントロールラットと比較して両半球の歯状回におけるBrdU免疫反応性細胞の数を有意に(P 0.05)増加した(表1)。2mg/kgの用量でのシルデナフィルでの処理(2時間または24時間で)により、同側下部心室領域中のBrdU免疫反応性細胞の数が有意に(P 0.05)増加し(表1)、5mg/kgの用量(2時間で)により、コントロールラットにおけるBrdU免疫反応性細胞の数と比較して、両半球の下部心室領域中のBrdU免疫反応性細胞の数を有意に(P 0.05)増加した(表1)。
【0115】
図6は、シルデナフィルを用いた処置の効果が虚血後28日で、TuJ1免疫反応性細胞を増加させたことを示している。図6Aは、代表的なラットからのサンプルであり、図6Bは、対側の脳室下領域と比較して、同側の脳室下領域におけるTuJ1免疫反応性細胞の数の大きな増加を示している。上衣細胞(図6Aおよび図6B内の矢印)は、TuJ1免疫反応性ではなかった。TuJ1免疫反応性細胞は、対側半球の相同組織(図6D)と比較して、同側の線条でクラスターを示した(図6C)。TuJ1およびBrdUに対する抗体を用いた2重免疫染色は、BrdU免疫反応性細胞(図6Eおよび図6G、緑色、矢印)がTuJ1免疫反応性であった(図6Eおよび図6F、赤色、矢印)ことを示している。図6Eは、図6Fおよび図6Gから併せた画像である。図6Hおよび図6Iはそれぞれ、脳室下領域(各群n6)および線条(各群n6)におけるTuJ1免疫反応性細胞の数の定量的データを示す(コントロール群に対して、*P=0.05、**P=0.01、#P=0.05。LVは側方脳室を示す。バーは図1Bおよび図1Gでは10mであり、図1Cでは20mである)。
【0116】
【表1】
(未成熟ニューロンに対するシルデナフィルの効果)
シルデナフィルの投与は、同側脳室下領域(図6A)および線条(図6C)のTuJ1免疫反応性細胞の数を大きく増加させた。TuJ1免疫反応性細胞は、同側の線条でクラスターを示した(図6C)。TuJ1免疫反応性細胞のいくつかは、BrdU免疫反応性であった(図6E〜図6G)。定量的測定は、2mg/kgまたは5mg/kgの用量でのシルデナフィルの投与が、同側の脳室下領域および対側の脳室下領域におけるTuJ1免疫反応性細胞の数を、コントロールラットにおける数と比較して、有意に(P=0.05)増加させたことを明らかにした(図6H)。シルデナフィルを用いた処置は、対側半
球の相同組織およびコントロールラットの同側線条の相同組織と比較して、同側の線条のTuJ1細胞の数も有意に増加させた(図6I)。
【0117】
(シルデナフィルの、神経学的転帰に対する効果)
2mg/kgまたは5mg/kgの用量のシルデナフィルで処置した虚血性ラットは、虚血の開始後2時間で処置を開始した場合、4〜21日間の間のフットフォールトテスト(foot−faule test)(表2)および接着除去テスト(表3)の成績を、コントロールラットと比較して有意に改善した。さらに、2mg/kgおよび5mg/kgの用量のシルデナフィルで処置すると、動物の体重減少量が有意に減少した(表4)。それに対して、虚血後28日で測定した梗塞体積は、これらの群で顕著には異ならなかった(表5)。このことは、梗塞体積が機能的回復の改善に寄与していないことを示唆している。2mg/kgの用量のシルデナフィルも、虚血開始後24時間で開始して、虚血性ラットに投与した。シルデナフィルを受けた虚血性ラットは、脳卒中後7〜28日後の間、フットフォールトテスト(表2)および接着除去テスト(表3)において有意な改善を示した(P=0.05)。シルデナフィルで処置したラットは、また、虚血の4日後、7日後、14日後、21日後および28日後に体重減少量の有意な減少を示した(P=0.05)(表4)。しかし、シルデナフィルで処置した虚血性動物とコントロール群の動物との間で、梗塞体積の有意な違いはなかった(表5)。
【0118】
(シルデナフィルの、cGMPに対する効果)
非虚血性コントロールラットの、小脳のcGMPレベル(図7A、コントロール)は、皮質レベル(図7B、コントロール)より高かった。この結果はこれまでの研究と一致している。4つの、2mg/kgまたは〜5mg/kgの用量でのシルデナフィルによる7日間の処置により、皮質のcGMPレベル(図7B)が、コントロール群のレベルと比較して有意に増加させた(P=0.05)。
【0119】
(局在性CBFに対するシルデナフィルの効果)
非虚血性ラットに、2mg/kgの用量でシルデナフィルを投与すると、局在性CBFのレベルが、コントロールラットと比較して有意に増加した(図8)。有意に増加した局在性CBFは、シルデナフィルの投与後、70分間持続した(図8)。
【0120】
(ラットの脳におけるPDE5)
RT−PCR分析により、非虚血性ラットの脳組織におけるPDE5A1(257bp)およびPDE5A2(149bp)の両方の転写産物が明らかになった。このことは、PDE5の存在を示している(データ示さず)。バンドの濃さにより測定した(各計測時、n=3)、PDE5A1 mRNAおよびPDE5A2 mRNAのレベルは、MCA閉塞後、非虚血性ラットと比較して、統計的に有意な差を示さなかった。
【0121】
(考察)
本発明の研究は、シルデナフィルを用いた、ラットの病巣大脳虚血の処置により、神経学的転帰の回復が有意に改善したこと、ならびに虚血性脳におけるBrdU免疫反応性細胞およびTuJ1免疫反応性細胞の数が有意に増加したことを示している。さらに、シルデナフィルの投与により、皮質のcGMPのレベルが著しく増加した。従って、データは、シルデナフィルの投与から生じるcGMPレベルの増加が、増強された神経学的転帰を媒介することを示している。
【0122】
【表2】
【0123】
【表3】
PDE5は、cGMPの加水分解のための重要な酵素である。非虚血性ラットの皮質におけるPDE5 mRNAの観察は、PDE5のmRNAおよびタンパク質をラットで検出したという、これまでの研究と一致している。クエン酸シルデナフィルは、PDE5の強力なインヒビターであり、細胞内のcGMPの蓄積を引き起こす。データは、シルデナフィルの蓄積により、シルデナフィルの投与が、脳のcGMPレベルが有意に増加したことを示している。その知見と平行して、ザプリナスト(zaprinast)(PDEの比較的選択的なインヒビター)のラット脳スライスへの局所的投与は、cGMP放出の増加につながる。従って、データは、シルデナフィルが脳PDE5に影響することを示している。cGMPは、血管筋肉において血管弛緩性効果を調節する。シルデナフィルの投与は、非虚血性ラットにおいてCBFを一時的に増加させた。このことは、これまでのインビトロおよびインビボの研究と一致する。ザプリナストの投与は、ラットの脳底動脈の拡張を誘発し、イヌの大脳動脈の拡張を生じる。5mg/kgの用量でのシルデナフィルの投与により、収縮期の動脈の血圧が減少し、その効果は、少なくとも6時間持続する。しかし、シルデナフィルのCBFに対する効果は、神経保護を提供しない。なぜなら、この処置が梗塞体積を減少せず、そして処置が、シルデナフィルを虚血開始の24時間後に最初に投与した時でさえ有効であったからである(これは神経防護のための治療ウインドウをはるかに超えるものである)。
【0124】
本発明の研究のさらに新しい知見は、シルデナフィルでの処置により、脳室下領域および歯状回の前駆細胞の増殖を有意に増加させることおよび、未成熟ニューロンの数(TuJ1免疫染色によりアッセイされる)を有意に増加させることである。NOドナーであるDETA/NONOateの投与は、神経発生を有意に増強する。NOは、溶解性グアニル酸シクラーゼを活性化し、cGMPの形成につながる。それに対して、シルデナフィルは、PDE5活性を阻害し、cGMP分解の阻害を生じる。まとめて考えると、これらのデータは、cGMPが神経発生を調節していることを示している。これらの知見は、これまでの、cGMP依存性プロテインキナーゼI型が、感覚ニューロン前駆体の増殖を増強するという研究と一致する。脳室下領域のニューロン前駆細胞が嗅球へ移動するということ、および嗅球に着いた後、それらが成熟ニューロンに分化するということに留意することは興味深い。これらのデータは、cGMPの濃度が嗅覚記憶の形成を仲介しているという観察と一致する。ニューロンのcGMPレベルは、樹状突起ガイダンスおよび軸索ガイダンスの調節にも関与している。セマ(sema)による細胞内cGMPの増加は、樹状突起ガイダンスおよび軸索ガイダンスを反発力から誘引力へ変換し得る。さらに、cGMPは、培養物およびPC12細胞中の海馬のニューロンの神経突起の成長を増強する。さらに、老齢のラットは、成体の脳と比較して、老齢の脳にあるホスホジエステラーゼによ
るcGMPのさらに活性な分解の結果として、cGMPの基底レベルの減少を示す。老齢の脳のNOおよびcGMP合成の減少は、学習および記憶の過程において重要な機能的な影響を持ち得る。神経発生は、機能的改善と解釈され得る。例えば、歯状回での神経発生速度が高いマウスは、海馬依存的な仕事において高い能力を示す。それに対して、神経発生速度の減少は、そのような仕事における障害と関係している。従って、神経発生の増強は、シルデナフィルで処置した後の機能性回復に寄与し得る。要約すると、本研究の結果は、脳卒中後のシルデナフィルの投与が機能性回復を増強し、ラットにおける神経発生を増強することを示している。
【0125】
図7は、非虚血性ラット(n=6)における、シルデナフィルで処置した後の小脳(図7A)および皮質(図7B)におけるcGMPのレベルを示す;コントロール群はn=10。
【0126】
【表4】
【0127】
【表5】
(実施例3)
オスWistarラット(n=32)を、中大脳動脈閉塞(MCAo)に供し、4つの処置群へと8匹のラットを無作為化し、脳卒中後1日で処置を開始した。群は以下のものを含んだ:1)リン酸緩衝液生理食塩水(PBS);2)治療量未満(subtherapeutic)の、0.4mg/kgの用量のDETA−NONOate(NN)(IP);3)治療量未満(subtherapeutic)のhMSC(1×106細胞−iv);ならびに4)治療量未満(subtherapeutic)のNNおよびhMSCの組み合わせ。神経学的重症度スケール(18点スケール)(NSS)および接着除去テストからなる機能性転帰の測定を、脳卒中前、処置前ただちに、そして処置後7日目および14日目に行った。データは、処置前に群間でよくバランスをとった(p値>0.30)。NONOによるhMSCの相互作用は、14日で観察された(p値=0.86)。しかし、全体のhMSCのNSSに対する効果は14日目に存在した。hMSC+NONOで処置したラットは、コントロール群のラットと比較して、14日でNSSに対して有意な改善を有した(p値=0.01)。それに対して、低用量hMSCのラットは、コントロールのラットと比較して、14日でNSSに対する境界線の改善を有した(p値=0.05)。コントロールとNONO処置群との間で、14日でNSSの有意な差は検出されなかった(p=0.64)。そしてhMSC処置群とhMSC+NONO処置群との間でも14日でNSSの有意な差は検出されなかった(p=0.48)。同じ処置効果は、14日の接着除去テストのスコアでも観察された;hMSC+NONOで処置したラットは、コントロール群のラットと比較して、14日目で有意な改善を示した(p値=0.01)。低用量(すなわち、治療量未満(subtherapeutic))のhMSCのみで処置したラットにおいて、境界線の改善は14日にあった。そして、治療量未満(subtherapeutic)のNONOのみで処置したラットでは、コントロールのラットと比較して有意な改善はなかった。それぞれp値は0.06および0.64であった。7日では、神経学的機能的改善は、コントロール群のラットと比較して、hMSCおよびNONOの組み合わせで処置したラットについて、NSSでのみ観察された(p値=0.03)。これらのデータは、治療量未満(subtherapeutic)のhMSCおよびNOドナーの治療様式の組み合わせ(DETA−NONOate)が、コントロールのPBS処置した動物と比較して、機能的転帰を顕著に改善することを示唆している。
【0128】
(虚血性脳における大脳梗塞の体積およびMSCの存在)
PBSを用いるMCAoを受けたコントロールラット(34.9±7.4%)と比較して、hMSCで処置したラット(30.7±6.2%)またはNONOateで処置したラット(32.2±6.2%)およびhMSCとNONOateとの組み合わせで処置したラット(28.7±6.7%)では、虚血性損傷による有意な体積の減少は検出されなかった。ヒト染色体(MAB1281)に特異的な抗体を使用して、hMSCを免疫組織化学的に同定した。脳組織内では、hMSCに由来する細胞を、MAB1281染色により、特徴付けた。MAB1281陽性細胞は、hMSC処置していないラットでは、見出されなかった。MAB1281により同定したMSCは、生き残り、レシピエントラットの損傷脳全体に分布した。MAB1281陽性細胞は、同側半球の皮質および線条を含む、多数の領域で観察された。MAB1281陽性hMSCの大多数は、虚血境界領域に位置していた。対側半球では、細胞はほとんど観察されなかった。hMSC群と組み合わせ治療群との間で、MAB1281細胞の数における有意な増加はなかった。これらのデータは、大脳梗塞の体積が、治療の組み合わせにより影響されないこと、および脳に入るMSCの数が、NOドナーの同時投与により変わらないことを示している。
【0129】
(神経発生)
処置後14日間、全ての群にBrdU(腹腔内に、50mg/kg)を毎日注入した。BrdUは、新しく形成されたDNAを標識するチミジンアナログであり、それにより、新しく形成された細胞を同定する。図9は、同側半球脳室下領域において、hMSC(2b、40.6±10.7)または/およびNONOate処置群(図9c、43.6±10.0/切片;図9d、67.4±22.8/切片)のBrdU陽性細胞が、コントロールPBS処置群(図9a、29.8±8.8/切片)と比較して、有意に増加したことを示している(p<0.05)。マクロファージ様細胞の細胞質で見出されたBrdUは計数しなかった。二重染色は、BrdU陽性細胞が、ニューロンマーカーNeuN、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)および星状細胞マーカーGFAPを発現することを示す。NeuNタンパク質およびGFAPタンパク質を発現するBrdU反応性細胞の割合は、それぞれおよそ3%、3%および6%であった。これらのデータは、個々の治療量に満たないNOドナーおよびMSC治療は、PSCコントロール処置した動物と比較して神経発生を有意に増加できなかったが、組み合わせ治療は、虚血性脳において神経発生を有意に促進することを示唆している。
【0130】
(血管形成)
拡大した薄い壁の血管は、「母(mother)」血管と呼ばれ、脳虚血性血管形成の条件下で発見されている。図10は、拡大した血管が、同側半球のコントロールMCAo群と比較して、hMSC処理群およびNONOate処理群におけるBrdU免疫反応性内皮細胞の、顕著な増加(p<0.05)を示したこと(図10a)を示している。BrdU反応性内皮細胞は、hMSCまたはNONOate単独処理群の同側半球と比較して、治療量に満たないhMSC/NONOate組み合わせ処理群の同側半球において顕著に増加した(図10b、p<0.05)。これらのデータは、NOドナーおよびMSC組み合わせ治療が、個々の治療と比較して血管形成を顕著に増加することを示している。
【0131】
組み合わせ治療後、増強した血管形成も図11に示し、その図は、次の処理1)PBS
;2)NONOate;3)hMSC;4)hMSC+NONOateに続くMCAo後の虚血性半影における脳血管の立体像を示している。図11Aは、FITC−デキストラン灌流脳微小血管の元の合成像を示す。図11Bおよび図11Cは、元の像由来のコンピューター作成立体像である。図11Bにおける異なる色は、互いに接続していない個々の血管を示す。図11Cにおける緑色および赤色は、それぞれ7.5μm未満(赤色)および7.5μmより大きい(緑色)血管の直径をコードする。立体定量データは、NONOateを含むかまたは含まないhMSC処理により、半影における分岐点の数が、コントロールMCAoを受けたラットの同側半球で検出した数と比較して、顕著に増加した(p<0.05)ことを明らかにした。hMSCまたは/およびNONOate処理群およびPBSコントロール群の同側半球において、毛細血管の断片は、対側半球の相同組織においてよりも顕著に短くなった(p<0.05)。このことは、これらが脳卒中後、同側半球に新しく形成した血管であることを示唆している。hMSC処理後の同側半影における血管の直径は、対側半球の相同性領域およびコントロールMCAo動物と比較して、顕著に増加した(p<0.05)。拡大した血管は、虚血後の毛細血管へ発達し得る。血管表面積は、同側半球におけるコントロールMCAo動物と比較して、NONOateを含むhMSC処理した動物またはNONOateを含まないhMSC処理した動物において顕著に増加した(p<0.05)。まとめて考えると、これらのデータはNONOateを含むかまたは含まないhMSC処理により、虚血性脳における血管形成が増強されることを示している。これらのデータは、BrdU血管形成データを補完する。そして、組み合わせ治療が血管形成を促進することを示唆している。
【0132】
血管形成の増強誘導は、内皮細胞に由来する脳における小管形成のインビトロ研究からも明らかである。図12は、hMSC上清(図12b)およびNONOate(図12c)が、コントロール培地(DMEM、図12a)と比較して、脳由来の内皮細胞により、内皮血管形成を強力に誘導することを示す。内皮細胞は、多数の細胞内接点を含む毛細血管類似構造のネットワークを形成した。全体のチューブ長は、コントロール培地(DMEM、1.4
【0133】
【数1】
0.1mm/mm2)と比較して、培養hMSCからの上清(6.9±0.72mm/mm2)およびNONOate処理からの上清(4.6±0.6mm/mm2)において顕著に増加した(p<0.01)。全体の管長は、NONOateと比較して培養hMSCからの上清において、顕著に増加した。これらのデータは、hMSCおよびNONOateの両方が毛細血管形成を促進することを示す。
【0134】
(VEGF)
血管形成および神経発生の誘導と関連したメカニズムへの洞察を得るために、組み合わせ治療が脳における神経向性因子および成長因子の発現を誘導するという事実をテストした。データは、MSC、DETA−NONOate、組み合わせ(MSC+NONO)治療処理後、およびMCAoを受けたPBS処理動物であるコントロールの脳における血管内皮成長因子(VEGF)の量として示す。図13はMCAoコントロール群と比較して、NONOate処理群のhMSCにおいて、内生細胞(ラットVEGF)からのVEGF分泌が顕著に増加したことをサンドイッチELISA法(Sandwich ELISA method)を用いて示している。ラットVEGF分泌は、hMSCのみで処理した群における増加した境界線であった。NONOateのみの単回投与処理は、MCAoコントロール群と比較して、VEGFの顕著な増加を示さなかった。これらのデータは、治療量未満(subtherapeutic)のMSC+NONOの組み合わせ治療が、個々の治療と比較して、VEGF分泌を顕著に増強することを示唆している。
【0135】
(実施例4)
(正常な非虚血性動物における細胞増殖の誘導)
正常な若い成体ラットへ投与されるNOドナーによる、歯状回、嗅球(OB)および下位脳室領域(SVZ)の脳の3つの領域における細胞増殖の誘導に対する効果を試験した。NOドナー、(Z)−1−[N−(2−アミノエチル)−N−(2−アンモニオエチル)アミニオ]ジアゼン−1−イウム−1,2−ジオレート(DETA/NONO−ate)を選択した。なぜなら、この化合物は、生理学的条件下で57時間の半減期を持つ効果の高いNOドナーであるからである(Beckman、1995;Estevezら、1998)。若い雄性ウィスターラット(3〜4ヶ月齢)は、4回の連続した、DETA/NONOateのI.Vポーラス用量(各々0.1mg/kg、15分毎、および全投与量は0.4mg/kg)を第1の実験日に受け、DETA/NONOate(0.4mg/kg)をさらに続く6日間、毎日投与した(腹腔内に)。生理食塩水を受けたラットをコントロール群として使用した。細胞増殖を測定するために、ブロモデオキシウリジン(BrdU)を有糸分裂のラベルとして使用した。最初の実験の日および後の連続した14日間、動物は、毎日腹腔内にBrdU(50mg/kg、Sigma)の注射を受けた。ラットは、処理の14日後および42日後で屠殺した。視覚化を改善するために、コンピューターモニター上で、そして重複抽出を避けるために、1焦点面上でBrdU免疫反応性核を数えた。構造物は、それぞれの切片(OB)の所定の領域を選択することによるか、または、それぞれの切片(SVZおよび歯状回)の完全な構造を分析することによるかのどちらかによって抽出した(Zhangら、2001)。これらの領域における全てのBrdU免疫反応陽性核をBrdU免疫反応性細胞の数/mm2として示した。選択したいくつかの切片の密度を平均化し、それぞれの動物の平均密度値を得た(Zhangら、2001)。
【0136】
図15は、DETA/NONO−ateを投与した若い成体ラットの脳における細胞増殖を示している。BrdU反応性細胞の数が、歯状回(図15A)、SVZ(図15B)およびOB(図15C)において統計的に有意に増加したことが示された。歯状回において、新しく生成した細胞の95%より多くが、NeuNおよびMAP2の神経マーカーを示した。このことは、これらの細胞が、組織に一体化する潜在能力を持っていることを示している。SVZおよびOB内の細胞は、二重標識免疫組織化学では、特徴付けられていなかった。しかしながら、形態的には、それらは、増殖する細胞に似ていた。側脳室のSVZにおける前駆細胞は、OBに移動する(Alvarez−Buyllaら、2000)。従って、これらのデータは、発達中の脳の細胞増殖と細胞移動に関与しているNOが、成体の脳における細胞増殖と細胞移動を誘導することを明らかに示唆している。これらの研究では、細胞増殖のみが両方の群の動物で測定され、細胞増殖の行動的効果および機能的効果は測定されなかった。しかしながら、歯状回内の細胞増殖が、マウスにおける学習の改善に翻訳されることを実質的に支持するデータがある(GouldおよびGross、2002)。
【0137】
若い成体ラット(3〜4ヶ月齢)へのNOドナーの使用によるこの神経発生の誘導が、より老齢のラットにおいて存在するかという問題もテストした。この仮説をテストするために、若いラットのために記載した実験プロトコルと同一の実験プロトコルを用いて、18ヶ月齢の雄性ウィスターラットをDETA/NONOateを処理した。図16は、3つの領域、歯状回(図16A)、SVZ(図16B)、OB(図16C)の3つの領域の細胞増殖を示す。および若いラットについては、上に記載した。若いラットにおけるように、DETA/NONOateによる処理は、増殖細胞の数を顕著に増加した。生理食塩水処理した動物では、SVZおよび歯状回においておよそ2分の1、ベースラインの細胞増殖は減少した。SVZおよび歯状回では、DETA/NONOateによる処理は、老齢の動物においても若いラットと類似の割合で細胞増殖を増加した。OB内の増殖細胞の数の相対的な増加は、老齢の動物では、若い動物におけるようには強くなかった。このこ
とは、若い動物と比較して、老齢の動物における細胞移動能力が喪失していることに寄与しているかもしれない。
【0138】
これらのデータは、新しいおよび重要な知見を提供する。一つは、細胞増殖が若い動物でのように、老齢の動物においても誘導し得るということである。増殖の増加割合は、老齢の動物および若い動物で類似している。しかしながら、若いラットと比較して老齢ラットにおける増殖細胞の絶対数の減少はまさに明らかである。老齢の動物における細胞増殖の機能的関連は測定しなかった。そして、結果的に、発明者らは歯状回内の細胞の増加が改善した機能に翻訳できるかどうかについてのデータを持っていない。
【0139】
(NOドナーは脳卒中後の機能回復を増強する)
DETA/NONOateの処理が、塞栓性脳卒中を受けた若いラットにおけると同じように、非虚血性の若いラットにおいて細胞増殖および神経発生を誘導することが示されている(Zhangら、2001)。脳卒中後、1日で開始したラットの処理は、顕著な機能性恩恵に形を変えた。従って、データは、中大脳動脈(MCA)の領域を取り囲む主要な虚血性脳卒中の誘導の1日後に動物に投与したとき、NOを放出する薬理学的薬剤が、機能性結果を改善することを示す(Zhangら、2001)。
【0140】
このNO薬剤の、神経発生および機能性恩恵の誘導に対する特異性についての疑問が生じる。DETA/NONOateに特異的な効果または、同様にNOを提供する他の薬剤は、機能性恩恵を提供するのか。この疑問をテストするために、ラットをDETA/NONOateとは構造的に異なる他のNOドナー、S−ニトロソ−N−アセチルペニシラミン(SNAP、Sigma)で処理した。若い雄性の成体ウィスターラットは、塞栓性MCA閉塞を受けた(Zhangら、1997)。30μg/kgの用量でのSNAPは、ボーラスとしてラットに静脈内に投与した。その後、塞栓性MCA閉塞24時間後に、60分間300μg/kg/時間で注入した。機能性結果の測定として、運動機能(例えば、調和およびバランス)を評価するロータロッドテスト(Zhangら、2000)、前肢の体性感覚運動の非対称を測定する接着除去テスト(Schallertら、2000)および動物の体重を処理前および処理2日後、4日後、7日後および14日後に測定した。動物は脳卒中、14日後に屠殺し、梗塞体積を測定した(Zhangら、1997)。図17は、生理食塩水処理群およびSNAP処理群の梗塞体積および機能性結果測定を示す。処理群と非コントロール処理群との間で、脳の梗塞体積には有意な差はなかった(図17A)。しかし、ロータロッド(図17B)および接着除去テスト(図17C)により測定した機能には、脳卒中の開始4日後までに、顕著な改善が注目された。これらの恩恵は、脳卒中14日後に屠殺のときまで持続した。一般的な生理学的な健康状態の指標としての、動物の体重(図17D)は、脳卒中7日後でビヒクル−生理食塩水処理した動物と比較して顕著に増加した。これらのデータは、NOドナー(例えば、SNAP)による処理が、脳梗塞の体積に影響することなく(図17A)、顕著な機能性恩恵を動物に提供することを明らかに示している。従って、処理の効果は神経保護治療ではなく、回復性治療の一つである。これらのデータは、薬理学的薬剤(例えば、NOドナー)が、脳卒中後の機能を増強し得ることを示している。これらの動物における機能性改善は、脳の変化および脳の再構築と関連している。神経発生および細胞増殖ならびに血管形成およびシナプスタンパク質の量の増加が、NOドナー分子により誘導される。
【0141】
NOは、溶解性グアニル酸シクラーゼのアクチベーターであり、標的細胞においてcGMPの増加を誘導する(Ignarro、1989;GarthwaiteおよびBoulton、1995)。cGMPはアクソン伸張における変化および神経接続部の改変における変化に関連している(Williamsら、1994)。cGMPそれ自身が、脳の可塑性の促進に重要な役割を演じていることはあり得る。NOドナーで処理したラットのcGMPの脳の量の増加は、NOドナーが脳に入っていることを示している(Zhan
gら、2001)。脳内のcGMPの増加を誘導する他の方法は、cGMPを分解する酵素の活性を阻害することである。ホスホジエステラーゼ5型(PDE5)酵素は、cGMPの加水分解に高い特異性を持つ(CorbinおよびFrancis、1999;Koteraら、2000)。従って、cGMPの分解を減少する一つの方法、それ故に、脳内のcGMPの量を増加する方法は、PDE5を減少するかまたは、阻害することである。PDE5を阻害する化合物を投与することの効果をテストするために、成体雄性ラットにシルデナフィル(2mg/kg)を、毎日7日間、脳卒中の発症から24時間後に、与えた。図18は、脳内のPDE5の存在を示す。動物にシルデナフィルを与えることにより、一連の機能性結果の測定により測定したとき、機能性結果が顕著に改善した(Zhangら、2002)。他のNOドナーにおいて観察された類似の条件である、脳梗塞の減少なしに、この治療的な恩恵は明らかである。従って、これらのデータは、cGMPが脳卒中後の脳可塑性の重要なメディエーターであり得ることを示している。この可塑性は、機能性反応も改善し得る。
【0142】
一般に、これらのデータは、NOおよびcGMPに影響する薬剤が、正常な年をとった傷害を受けた脳を変え得ることを示唆している。細胞増殖および血管形成が増加するだけではなく、顕著な機能性恩恵も得られる。脳卒中および神経性傷害後の、脳再構築および機能性改善を誘導する細胞に基づいた他の方法もある。一つの方法は、それは、臨床的な意味を持つが、細胞(例えば骨髄間質細胞)の集団を用いることである。これらの細胞は、げっ歯類に投与した場合、脳に入り、そして、脳を再構築し、顕著な機能性恩恵を提供する、様々な神経向性因子およびサイトカインの生成を誘起する(Review、ChoppおよびLi、2002)。
【0143】
図15は、DETA/NONOateまたは生理食塩水処理後14
【0144】
【数2】
日および42
【0145】
【数3】
日の非虚血性の若い成体ラットの歯状回における(図15A)、SVZにおける(図15B)およびOBにおける(図15C)、BrdU免疫反応性細胞の数を示す棒グラフを含む。生理食塩水処理群に対して*p<0.05および**p<0.01。
【0146】
図16は、DETA/NONOateまたは生理食塩水処理後14
【0147】
【数4】
日および42
【0148】
【数5】
日の非虚血性の老齢のラットの歯状回における(図16A)、SVZにおける(図16B)およびOBにおける(図16C)、BrdU免疫反応性細胞の数を示す棒グラフを含む。生理食塩水処理群に対して*p<0.05および**p<0.01。
【0149】
図17は、梗塞体積に対する(図17A)、ロータロッドに対する(図17B)および接着除去に対する(図17C)ならびに動物の体重に対するSNAP処理の効果(図17
D)を示す。生理食塩水処理群に対して*p<0.05および**p<0.01。各群n=8。
【0150】
図18は、非虚血性ラットの皮質における(図18Aおよび図18BにおけるN)ならびに虚血2時間後から7日後までのラットの同側皮質におけるPDE5A1 mRNAのRT−PCR(図18A)およびPDE5A2 mRNAのRT−PCR(図18B)を示す。M=マーカー、N=非虚血性マウス、2時間、4時間、1日間、2日間および7日間=虚血後の時間。
【0151】
(結論)
NOおよびcGMPに基づく薬理学的治療が、脳卒中後の機能の回復を増強する、脳における変化を誘導することおよび正常な若いおよび老齢の動物における細胞増殖および神経発生を誘導することを示している。これらのデータは、細胞に基づいた治療を用いた脳の可塑性の促進に関する他の研究とともに、神経変性疾患およびニューロンの傷害を処置するための新しい機会を開く。
【0152】
本出願全体に渡って、米国特許を含む様々な刊行物が、著者および年により参照され、特許は番号により参照されている。刊行物に対する全ての引用は、以下に記載する。これらの出版物および特許の公開は、本発明の属する技術の状態をさらに十分に記載するために、それら全体が、本明細書中で参考として本出願に援用される。
【0153】
本発明は、例示的様式によって記載された。そして、使用された用語は、限定された性質というよりはむしろ記載した単語の性質に意図されることを理解すべきである。
【0154】
明らかに、上記の教示の観点から、本発明の多くの改変および変化が可能である。従って、本発明は、記載した発明の範囲内で、本発明は特に記載した以外の他の方法で実施し得ることを理解すべきである。
【0155】
(参考文献)
【0156】
【表6−1】
【0157】
【表6−2】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載されるような方法。
【請求項1】
本明細書に記載されるような方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6H】
【図6I】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図6E】
【図6F】
【図6G】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6H】
【図6I】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図6E】
【図6F】
【図6G】
【図14】
【公開番号】特開2009−256374(P2009−256374A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181759(P2009−181759)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【分割の表示】特願2003−557275(P2003−557275)の分割
【原出願日】平成15年1月6日(2003.1.6)
【出願人】(501092667)ヘンリー フォード ヘルス システム (8)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【分割の表示】特願2003−557275(P2003−557275)の分割
【原出願日】平成15年1月6日(2003.1.6)
【出願人】(501092667)ヘンリー フォード ヘルス システム (8)
【Fターム(参考)】
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