説明

病原体感染を処置するためのチロシンキナーゼインヒビターの組成物および使用

【課題】病原体感染の予防および処置のために有効な化合物および方法を開発することを課題とする。
【解決手段】上記課題は、病原体感染を処置するために、チロシンキナーゼインヒビター
を使用する組成物および方法を提供することによって解決された。特に、病原体感染を処
置するために、Ablファミリーチロシンキナーゼインヒビターを使用するための方法が
提供される。本発明にしたがって処置される感染としては、特に、細菌およびウイルスの
ような微生物病原体に起因する感染が挙げられる。本発明の組成物は、病原体感染に関連
するか、または病原体感染を引き起こす、病原体−宿主細胞の相互作用に関係するチロシ
ンキナーゼを阻害する化合物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、チロシンキナーゼに関する宿主細胞の相互作用に関連するか、またはそれに
よって引き起こされる病原体感染を処置するためにチロシンキナーゼインヒビターを使用
する組成物および方法に関する。特に、本発明は、微生物病原体(例えば、細菌およびウ
イルス)由来の感染を処置するための、Ablファミリーチロシンキナーゼインヒビター
の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
最近数十年で、世界中で致命的な病原体の襲来が目撃されてきた。広範なヒト病原体が
存在し、それらとしては、細菌、原生動物、ウイルス、藻類および真菌のような種々の微
生物が挙げられる。選択圧に対する先天性の能力が、微生物の進化を促進し、微生物が複
雑かつ可変的な環境に適応するのを可能にしてきた。それゆえ、感染性微生物が、合成抗
菌化合物または天然抗菌化合物により、感染性微生物を破壊する本発明者らの試みを回避
する機構を容易に発達させたことは、おそらく驚くべきことではない。
【0003】
微生物が、新しい治療法の開発をはるかに超える速度で耐性を発達させるという事実は
、今世紀に、途上国および先進国の両方において、単一の最も深刻な公衆衛生の脅威をお
そらく間違いなく引き起こす。抗菌戦略が、前世紀にわたって華々しい成功をおさめたこ
とは疑いようが無い。例えば、病原体内の標的に指向される抗菌薬および抗ウイルス薬は
、無数の生命を救うために使用されてきた。しかし、このような成功は持続可能ではない
という証拠が増えつつある。これらの薬物に対向するために、細菌およびウイルス性病原
体は、これらの化合物を不活化するための洗練された機構を発達させてきた。例としては
、細菌では、Staphylococcus aureus、Klebsiella p
neumonia、Pseudomonas aerginosaおよびMycobac
terium tuberculosis(TB)の全剤耐性(pan−drug re
sistant)株、ならびにウイルスでは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)が挙げら
れる。
【0004】
さらにより厄介なことに、一部の製薬会社(大規模または小規模)において新規抗菌薬
の開発を追及する努力が欠如している。増殖を阻害する化学ライブラリの大規模スクリー
ニングにより、製薬産業による新規抗生物質を開発する努力は、大部分は失敗し、そして
新規テトラサイクリンアナログおよび新規スルファニルアミドアナログは、おそらく耐性
を生じ、そしてすぐに無用になる。耐性の問題は、疾患の負荷を減らすためのコンプライ
アンス基準または公衆衛生政策を伴わない、抗生物質および抗ウイルス化合物の無差別か
つ不適切な使用によりさらにこじれる。臨床試験の驚愕的なコスト(例えば、1億ドルの
予想収入に対し、新規テトラサイクリンを市場に出すのに約4億ドル)、ジェネリック薬
品の販売の規制の失敗、および慢性疾患に対する薬物療法からの実質的な収入を生み出す
能力により、大規模な製薬会社にたとえ報奨金があったとしても新規抗生物質を開発して
もわずかであり、そして、小規模なバイオテクノロジーの会社は、全く資金を有さない。
【0005】
現在の努力のレベルと同程度の心配の原因がある。開発中の新規薬物のうち、大半(全
てではないにしても)の薬物は、販売に際して、おそらくすぐに耐性を生じる(例えば、
葉酸生合成インヒビターIcalprim)。新規抗ウイルス化合物の探索は、HIV流
行によって、幾分より成功しており、そして大きく動機付けられてきた。しかし、主とし
てウイルス標的に対する薬物が開発され、そしてウイルス間の変異速度は、いまだに新規
開発を凌いでいる。好ましい開発の一つは、数種の細菌性疾患およびウイルス性疾患に対
して有望なワクチンの開発である。しかし、ワクチンは、全ての事例(例えば、幼児にお
いて)において成功するとはいえず、適切な供給源が利用可能ではなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、病原体感染の予防および処置のために有効な化合物および方法を開発する
、緊急の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
病原体感染を処置するための組成物および方法が提供される。本発明の組成物は、病原
体感染に関連するか、または病原体感染を引き起こす、病原体−宿主細胞の相互作用に関
係するチロシンキナーゼを阻害する化合物を含む。いくつかの実施形態において、本発明
は、Ableson(Abl)ファミリーチロシンキナーゼインヒビターに属するインヒ
ビター(例えば、メシル酸イマチニブ、ピリド[2,3−d]ピリミジン、またはそれら
の薬学的に受容可能な塩、鏡像異性体、アナログ、エステル、アミド、プロドラッグ、代
謝産物もしくは誘導体)の使用に関連する。
【0008】
本発明の方法は、広範な病原体(細菌、原生動物、ウイルス、藻類および真菌のような
微生物病原体が挙げられる)による感染を処置するために、上記の組成物を薬学的有効量
で、この組成物を必要とする患者に投与する工程を包含する。特に、本発明は、細菌病原
体およびウイルス性病原体に関連する疾患を処置するための、これらの組成物の使用に関
連する。これらの細菌病原体およびウイルス性病原体としては、以下が挙げられる:病原
性Escherichia coli(腸病原性Escherichia coli(E
PEC)、腸出血性Escherichia coli(EHEC)、尿路病原性Esc
herichia coli(UPEC)および腸侵入性Escherichia co
li(EIEC))、Helicobacter pylori、Listeria m
onocytogenes、Salmonella typhimurium、Shig
ella flexneri、Mycobacterium tuberculosis
(mTB)、ポックスウイルス(ワクシニアウイルスおよび痘瘡ウイルスが挙げられる)
、ポリオーマウイルス(JCウイルスおよびBKウイルスが挙げられる)、ヘルペスウイ
ルス、サイトメガロウイルス(CMV)およびヒト免疫不全ウイルス(例えば、HIV−
1)。この組成物は、病原体感染の処置のための治療有効量が送達される限り、任意の投
与方法により投与され得る。
【0009】
本発明は、例えば以下を提供する。
(項目1)
細菌感染またはウイルス感染を予防または処置するための方法であって、該方法は、治療
有効量のチロシンキナーゼインヒビターを、該チロシンキナーゼインヒビターを必要とす
る被験体に投与する工程を包含する、方法。
(項目2)
項目1に記載の方法であって、前記チロシンキナーゼインヒビターは、アクチンの運動
性およびウイルスの放出を阻害し、該チロシンキナーゼインヒビターは、慢性骨髄性白血
病を含む癌の形態を処置または予防するために有用である、方法。
(項目3)
前記チロシンキナーゼインヒビターは、少なくとも1種のAblファミリーチロシンキナ
ーゼまたはSrcファミリーチロシンキナーゼを阻害する、項目1に記載の方法。
(項目4)
項目3に記載の方法であって、前記Ablファミリーチロシンキナーゼインヒビターは
、メシル酸イマチニブまたはメシル酸イマチニブの薬学的に受容可能な塩、鏡像異性体、
アナログ、エステル、アミド、プロドラッグ、代謝産物もしくは誘導体である、方法。
(項目5)
前記メシル酸イマチニブ誘導体は、STI−Xである、項目4に記載の方法。
(項目6)
前記Ablファミリーチロシンキナーゼインヒビターは、ピリド[2,3−d]ピリミジ
ンである、項目3に記載の方法。
(項目7)
前記ピリド[2,3−d]ピリミジンは、PD173955、PD173952、PD1
73958、PD173956、PD166326、SKI DV1−10、PD180
970;SKI DV2−43、SKI DV2−47、SKI DV1−28、SKI
DV2−45、SKI DV2−35、SKI DV2−33、SKI DV2−89
、SKI DV−M017、SKI DV−M016、SKI DV2−43、SKI
DV2−53、SKI DV2−71またはSKI DV2−87である、項目6に記
載の方法。
(項目8)
前記ピリド[2,3−d]ピリミジンは、PD173952またはPD166326であ
る、項目7に記載の方法。
(項目9)
前記チロシンキナーゼインヒビターは、ZD−6474、PTK−787/ZK−224
584、CP−547632、BMS354825、SU11248、SU011248
、ゲフィチニブまたはエルロチニブ(erlotinib)である、項目1に記載の方
法。
(項目10)
前記チロシンキナーゼインヒビターは、経口投与、経鼻投与、口腔投与、舌下投与、静脈
内投与、経粘膜投与、直腸投与、局所投与、経皮投与、皮下投与、吸入による投与、また
は髄腔内投与される、項目1に記載の方法。
(項目11)
前記ウイルス感染は、ワクシニアウイルス、痘瘡ウイルス、JCウイルス、BKウイルス
、ヘルペスウイルスまたはヒト免疫不全ウイルスに起因する、項目1に記載の方法。
(項目12)
前記細菌感染は、Escherichia coli、Helicobacter py
lori、Listeria monocytogenes、Salmonella t
yphimurium、Shigella FlexneriまたはMycobacte
rium tuberculosisに起因する、項目1に記載の方法。
(項目13)
ワクシニアウイルス、痘瘡ウイルス、ポリオーマウイルス、ヘルペスウイルス、サイトメ
ガロウイルス(CMV)またはヒト免疫不全ウイルスに起因するウイルス感染の予防また
は処置のために、チロシンキナーゼインヒビターを被験体に投与するための方法。
(項目14)
前記チロシンキナーゼインヒビターは、Ablファミリーチロシンキナーゼインヒビター
である、項目13に記載の方法。
(項目15)
前記Ablファミリーチロシンキナーゼインヒビターは、メシル酸イマチニブ、STI−
Xまたはピリド[2,3−d]ピリミジンである、項目14に記載の方法。
(項目16)
前記ピリド[2,3−d]ピリミジンは、PD173955、PD173952、PD1
73958、PD173956、PD166326、SKI DV1−10、PD180
970;SKI DV2−43、SKI DV2−47、SKI DV1−28、SKI
DV2−45、SKI DV2−35、SKI DV2−33、SKI DV2−89
、SKI DV−M017、SKI DV−M016、SKI DV2−43、SKI
DV2−53、SKI DV2−71またはSKI DV2−87である、項目15に
記載の方法。
(項目17)
前記チロシンキナーゼインヒビターは、ZD−6474、PTK−787/ZK−224
584、CP−547632、BMS354825、SU11248、SU011248
、ゲフィチニブまたはエルロチニブである、項目14に記載の方法。
(項目18)
Escherichia coli、Helicobacter pylori、Lis
teria monocytogenes、Salmonella typhimuri
um、Shigella FlexneriまたはMycobacterium tub
erculosisに起因する細菌感染の予防または処置のために、チロシンキナーゼイ
ンヒビターを被験体に投与するための方法。
(項目19)
前記チロシンキナーゼインヒビターは、Ablファミリーチロシンキナーゼを阻害する、
項目18に記載の方法。
(項目20)
前記Ablファミリーチロシンキナーゼインヒビターは、メシル酸イマチニブ、STI−
Xまたはピリド[2,3−d]ピリミジンである、項目19に記載の方法。
(項目21)
前記ピリド[2,3−d]ピリミジンは、PD173955、PD173952、PD1
73958、PD173956、PD166326、SKI DV1−10、PD180
970;SKI DV2−43、SKI DV2−47、SKI DV1−28、SKI
DV2−45、SKI DV2−35、SKI DV2−33、SKI DV2−89
、SKI DV−M017、SKI DV−M016、SKI DV2−43、SKI
DV2−53、SKI DV2−71またはSKI DV2−87である、項目20に
記載の方法。
(項目22)
前記チロシンキナーゼインヒビターは、ZD−6474、PTK−787/ZK−224
584、CP−547632、BMS354825、SU11248、SU011248
、ゲフィチニブまたはエルロチニブである、項目18に記載の方法。
(項目23)
細菌感染またはウイルス感染を予防または処置するための方法であって、該方法は、治療
有効量のチロシンキナーゼインヒビターを、該チロシンキナーゼインヒビターを必要とす
る被験体に投与する工程を包含し、該チロシンキナーゼインヒビターは、以下の式に記載
される化合物:
【化1】


または該化合物の薬学的に受容可能な塩、鏡像異性体、アナログ、エステル、アミド、プ
ロドラッグ、代謝産物もしくは誘導体を含み、
ここで:
は、4−ピラジニル;1−メチル−1H−ピロリル;アミノ置換フェニルもしくは
アミノ低級アルキル置換フェニルであって、各々の場合において該アミノ基は遊離である
か、アルキル化されているか、またはアシル化されている、置換フェニル;5員環の炭素
原子で結合した1H−インドリルまたは1H−イミダソリル;あるいは非置換ピリジルも
しくは低級アルキル置換ピリジルであって、環の炭素原子で結合し、その窒素原子は酸素
で置換されていないかもしくは酸素で置換されている、ピリジルであり;
およびRは、各々独立に、別の水素または低級アルキルであり、ラジカルR
、R、RおよびRのうちの1つまたは2つは、各々ニトロ、フルオロ置換低級
アルコキシまたは以下の式のラジカル
−N(R)−C(=X)−(Y)−R10
であり、ここで:
は、水素または低級アルキルであり;
Xは、オキソ、チオ、イミノ、N−低級アルキル−イミノ、ヒドロキシイミノまたは
O−低級アルキル−ヒドロキシイミノであり;
Yは、酸素またはNH基であり、
nは、0または1であり;そして
10は、少なくとも5個の炭素原子を有する脂肪族ラジカル、または芳香族ラジカ
ル、芳香族−脂肪族ラジカル、脂環式ラジカル、脂環式−脂肪族ラジカル、複素環式ラジ
カルまたは複素環式脂肪族ラジカルであり;
そして残りのラジカルR、R、R、RおよびRは、各々独立に、別の水素、
低級アルキルであり、該低級アルキルは、置換されていないか、あるいは遊離もしくはア
ルキル化されたアミノ、ピペラジニル、ピペリジニル、ピロリジニルで置換されているか
、またはモルホリニル、または低級アルカノイル、トリフルオロメチル、遊離ヒドロキシ
、エーテル化ヒドロキシもしくはエステル化ヒドロキシ、遊離アミノ、アルキル化アミノ
もしくはアシル化アミノまたは遊離カルボキシもしくはエステル化カルボキシで置換され
ている、方法。
(項目24)
項目23に記載の方法であって、前記チロシンキナーゼインヒビターは、項目23に
記載の式に従う化合物または該化合物の薬学的に受容可能な塩、鏡像異性体、アナログ、
エステル、アミド、プロドラッグ、代謝産物もしくは誘導体を含み、
ここで:
は、4−ピラジニル;1−メチル−1H−ピロリル;アミノ置換フェニルもしくは
アミノ低級アルキル置換フェニルであって、各々の場合において該アミノ基は遊離である
か、1もしくは2つの低級アルキルラジカルでアルキル化されているか、または低級アル
カノイルもしくはベンゾイルでアシル化されている、置換フェニル;5員環の炭素原子で
結合した1H−インドリルまたは1H−イミダゾリル;あるいは非置換ピリジルもしくは
低級アルキル置換ピリジルであって、環の炭素原子で結合し、その窒素原子は酸素で置換
されていないかもしくは酸素で置換されている、ピリジルであり;
およびRは、各々独立に、別の水素または低級アルキルであり、ラジカルR
、R、RおよびRのうちの1つまたは2つは、各々ニトロ、フルオロ置換低級
アルコキシまたは以下の式のラジカル
−N(R)−C(=X)−(Y)−R10
であり、ここで:
は、水素または低級アルキルであり;
Xは、オキソ、チオ、イミノ、N−低級アルキル−イミノ、ヒドロキシイミノまたは
O−低級アルキル−ヒドロキシイミノであり;
Yは、酸素またはNH基であり、
nは、0または1であり;そして
10は、5〜22個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素ラジカル;フェニルラジカ
ルまたはナフチルラジカルであって、その各々は、置換されていないか、あるいはシアノ
、低級アルキル、ヒドロキシル低級アルキル、アミノ低級アルキル、(4−メチル−ピペ
ラジニル)−低級アルキル、トリフルオロメチル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、低級ア
ルカノイルオキシ、ハロゲン、アミノ、低級アルキルアミノ、ジ−低級アルキルアミノ、
低級アルカノイルアミノ、ベンゾリルアミノ、カルボキシで置換されているか、または低
級アルコキシカルボニルまたはフェニル低級アルキルで置換されており、該フェニル低級
アルキルで置換されたフェニルラジカルは、置換されていないかまたは上記のように置換
されている、ラジカル;30個の炭素原子を有するシクロアルキルラジカルまたはシクロ
アルケニルラジカルであって、該シクロアルキル部分またはシクロアルケニル部分のシク
ロアルキル低級アルキルまたはシクロアルケニル低級アルキルは各々、30個までの炭素
原子を有する、ラジカル;単環式ラジカルであって、5〜6個の環構成原子、ならびに窒
素、酸素および硫黄から選択される1〜3個の環のヘテロ原子を有し、1もしくは2つの
ベンゼンラジカルが該単環式ラジカルに融合していてもよい、単環式ラジカル;あるいは
そのような単環式ラジカルで置換された低級アルキルであり;
そして残りのラジカルR、R、R、RおよびRは、各々独立に、別の水素、
低級アルキルであり、該低級アルキルは、置換されていないか、あるいはアミノ、低級ア
ルキルアミノ、ジ−低級アルキルアミノ、ピペラジニル、ピペリジニル、ピロリジニルで
置換されているか、またはモルホリニルまたは低級アルカノイル、トリフルオロメチル、
ヒドロキシ、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、ハロゲン、アミノ、低級アルキ
ルアミノ、ジ−低級アルキルアミノ、低級アルカノイルアミノ、ベンゾイルアミノ、カル
ボキシ、または低級アルコキシカルボニルで置換されている、方法。
(項目24)
細菌感染またはウイルス感染を予防または処置するための方法であって、該方法は、治療
有効量のチロシンキナーゼインヒビターを、該チロシンキナーゼインヒビターを必要とす
る被験体に投与する工程を包含し、該チロシンキナーゼインヒビターは、以下の式に記載
される化合物:
【化2】


または該化合物の薬学的に受容可能な塩、鏡像異性体、アナログ、エステル、アミド、プ
ロドラッグ、代謝産物もしくは誘導体
を含む、方法。
(項目25)
項目24に記載の方法であって、前記チロシンキナーゼインヒビターは、以下の式に記
載される誘導体:
【化3】


または該誘導体の薬学的に受容可能な塩、鏡像異性体、アナログ、エステル、アミド、プ
ロドラッグ、代謝産物もしくは誘導体
を含む、方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、AblファミリーチロシンキナーゼおよびSrcファミリーチロシンキナーゼが、VVアクチンテイル(tail)に局在化することを示す。(A)3T3細胞において、Ablを含むか、Argを含むか、AblおよびArgの両方を含むか、またはAblもArgも含まないテイルのパーセンテージの定量化。(B)VVアクチンテイルにおける、Srcファミリーキナーゼの分布の定量化。
【図2】図2は、(A)Src−/−/Fyn−/−/Yes−/−細胞;および(B)Abl−/−/Arg−/−細胞についての、VVアクチンテイルにおける、ABLファミリーキナーゼおよびSrcファミリーキナーゼの分布の定量化を示す。
【図3】図3は、VVへの8時間の曝露より前の、AblファミリーキナーゼとSrcファミリーキナーゼとのインヒビターPD166326による3T3細胞の処置の効果の定量化を示す。結果は、100個の感染細胞内のテイルを反映する。感染は、EVP染色により評価された。
【図4】図4は、STI−571が、マウスにおけるVV量を軽減することを示す。6週齢のC57/B6マウスを、感染させないまま(ウイルス無し)か、または10PFU/ml VVにより感染させた。感染の1日前に、PBS(キャリア)またはSTI−571(一日あたり100mg/kg)を含む連続放出性の浸透圧ポンプが、外科的に皮下移植された。各データセット内の線は、ウイルス負荷のメジアンを示す。このデータは、フィッシャーの直接確率検定により有意である(P<10−6)。
【図5】図5は、ウイルス複製に対するSTI−Xの効果の定量化を示す。感染細胞のパーセンテージが、EVP染色か、または核外DAPI染色により測定されるように、核外複製の中心を含むGFP標識ビリオンの存在のいずれかによって評価され、プロットされる。
【図6】図6は、EPECの台座様構造の形成および維持が、PD166326および関連するキナーゼインヒビターによりブロックされることを示す。グラフは、DMSO、10μM PD166326または10μM PP2による前処置レジメンまたはリバーサルレジメンにしたがって処置されたEPECについての最も強い強度の画素により占められた領域を示す。EPECは、0.1% DMSO(X)または25μM PD(Δ)のいずれかとともに培養され、そして示される時点に、そのOD600が測定された。
【図7】図7は、PDが、EPECのTirのチロシンリン酸化をブロックするが、Tirの局在化をブロックしないことを示す。細胞は、DMSOまたはPDにより処理され、そして感染させないまま(0時間)か、または示される時間の間、EPECにより感染させた。逆転条件については、細胞は、感染させないまま(レーン1)か、また6時間、EPECにより感染させ、示される時間の間、PDにより処理され、そして分析された。
【図8】図8(A)は、PDについての標準血漿曲線が、1000ng/ml〜30ng/mlにおいて直線状であることを示す。図8(B)は、マウス血漿のクロマトグラムを示す。質量分析の読み出しは、カラム内の保持時間の関数としてプロットされる。第一のピークは内部較正標準であり、第二のピークはPDである。
【図9】図9は、種々の時点における、STI−571へ曝露しなかった後のM.tuberculosisの細胞間の生存 対 STI−571への曝露後のM.tuberculosisの細胞間の生存を示す。WTは、いかなる薬物にも曝露されていない細胞を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(発明の詳細な説明)
本発明は、病原体感染に関連するか、または病原体感染を引き起こす、病原体−宿主細
胞の相互作用に関係するチロシンキナーゼを阻害する化合物の使用に関する。特に、本発
明は、微生物病原体由来の感染に関連する疾患を処置または予防するための、チロシンキ
ナーゼインヒビターの使用に関する。これらの微生物病原体としては、以下のような細菌
病原体とウイルス性病原体とが挙げられる:Escherichia coli、Hel
icobacter pylori、Listeria monocytogenes、
Salmonella typhimurium、Shigella flexneri
、Mycobacterium tuberculosis(TB)、ポックスウイルス
(ワクシニアウイルスおよび痘瘡ウイルスが挙げられる)、ポリオーマウイルス(JCウ
イルスおよびBKウイルスが挙げられる)、ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス(
CMV)およびヒト免疫不全ウイルス(例えば、HIV−1)。特に、本発明における使
用のためのチロシンキナーゼインヒビターとしては、Ablファミリーチロシンキナーゼ
インヒビター(例えば、メシル酸イマチニブ、ピリド[2,3−d]ピリミジン、または
それらの薬学的に受容可能な塩、鏡像異性体、アナログ、エステル、アミド、プロドラッ
グ、代謝産物もしくは誘導体)が挙げられる。
【0012】
本明細書に記載のチロシンキナーゼインヒビターは、チロシンキナーゼ媒介性の宿主−
病原体の相互作用に関連するか、またはそれによって引き起こされる任意の病原体感染(
特に、微生物感染、より特には、ウイルス感染および細菌感染)を処置または予防するた
めに、本発明の方法において使用され得る。理論に拘束されなければ、本明細書に記載の
チロシンキナーゼインヒビターは、宿主細胞を標的とし、これらの宿主細胞と病原体との
相互作用を可能にする細胞機構を妨害し、そしてその際に、病原体により引き起こされる
病原性の影響を防止することが考えられる。病原体−宿主の相互作用を調節する細胞機構
は顕著に保存されるため、本明細書に記載のチロシンキナーゼインヒビターは、広範な病
原体による感染に対向するために適用され得ることが考えられる。このような病原体とし
ては、細菌、原生動物、ウイルス、藻類および真菌のような種々の微生物が挙げられる。
本発明の好ましい実施形態において、これらの病原体は細菌およびウイルスである。有利
なことに、本明細書に記載の治療アプローチは、抗生物質に見られるように病原体ではな
く、宿主を標的とする。それゆえ、この治療アプローチは、病原体の薬剤耐性の発達の可
能性を減少させる。
【0013】
一実施形態において、本発明は、細菌感染を処置または予防するチロシンキナーゼイン
ヒビターの使用に関する。このような感染としては、以下の属および種のメンバーにより
引き起こされる感染が挙げられる:Agrobacterium tumefacien
s、Aquaspirillum、Bacillus、Bacteroides、Bor
detella pertussis、Borrelia burgdorferi、B
rucella、Burkholderia、Campylobacter、Chlam
ydia、Clostridium、Corynebacterium dipther
iae、Coxiella burnetii、Deinococcus radiod
urans、Enterococcus、Escherichia、Francisel
la tularemsis、Geobacillus、Haemophilus in
fluenzae、Helicobacter pylori、Lactobacill
us、Listeria monocytogenes、Mycobacterium、
Mycoplasma、Neisseria meningitidis、Pseudo
monas、Rickettsia、Salmonella、Shigella、Sta
phylococcus、Streptococcus、Streptomyces c
oelicolor、VibroおよびYersinia。好ましい実施形態において、
このような感染としては、以下により引き起こされる感染が挙げられる:Escheri
chia coli、Helicobacter pylori、Listeria m
onocytogenes、Salmonella typhimurium、Shig
ella flexneri、Mycobacterium tuberculosis
(TB)。他の実施形態において、このような感染は、病原性Escherichia
coli株および/または下痢原性Escherichia coli株により引き起こ
される感染が挙げられ、これらのEscherichia coli株としては、腸病原
性Escherichia coli(EPEC)、腸出血性Escherichia
coli(EHEC)、尿路病原性Escherichia coli(UPEC)およ
び腸侵入性Escherichia coli(EIEC)が挙げられる。
【0014】
別の実施形態において、本発明は、ウイルス感染を処置するためのチロシンキナーゼイ
ンヒビターの使用に関する。このような感染としては、以下のウイルスファミリーのメン
バーにより引き起こされる感染が挙げられる:Adenoviridae、Arenav
iridae、Astroviridae、Bacteriophages、Bacul
oviridae、Bunyaviridae、Calciviridae;Coron
aviridae、Deltavirus、Filoviridae、Flavivir
idae、Geminiviridae、Hepadnaviridae、Herpes
viridae、Nodaviridae、Orthomyxoviridae、Pap
ovaviridae、Paramyxoviridae、Parvoviridae、
Phycodnaviridae、Picornaviridae、Poxvirida
e、Reoviridae、Retroviridae、Rhabdoviridae、
TobamoviridaeおよびToqaviridae。好ましい実施形態において
、このような感染としては、以下により引き起こされる感染が挙げられる:ポックスウイ
ルス(ワクシニアウイルスおよび痘瘡ウイルスが挙げられる)、ポリオーマウイルス(J
CウイルスおよびBKウイルスが挙げられる)、ヘルペスウイルス、サイトメガロウイル
ス(CMV)およびヒト免疫不全ウイルス(例えば、HIV−1)。
【0015】
本発明の方法にしたがって、本明細書に記載のチロシンキナーゼインヒビターは、互い
に組み合わせて投与されても(例えば、STI−571とSTI−Xとを投与する)、他
の化合物(特に、抗病原体化合物)と組み合わせて投与されてもよい。このような抗病原
体化合物としては、従来の抗菌薬が挙げられる。他の実施形態において、1つ以上の本明
細書に記載のチロシンキナーゼインヒビターは、例えば、痘瘡に関連する症例において、
シドホビルのような他の化合物と組み合わせて使用され得る。ここで、これらの薬剤の併
用は、適用されるシドホビルの、より少ない投薬量を提供し、それにより、このヌクレオ
シドアナログ抗ウイルス化合物の毒性の影響を減少させる。本発明のチロシンキナーゼイ
ンヒビターが、病原体感染を処置または予防する併用治療の一部として投与される場合、
それらは、いずれかの順序で同時的または連続的にさらなる化合物とともに投与され得る

【0016】
一実施形態において、チロシンキナーゼインヒビターは、ワクチンをより有効にするよ
うに投与される。例えば、生ウイルスによる生後1か月以内の乳幼児の免疫処置は、母体
の抗体がそのワクチンを中和するため、獲得免疫に寄与しないことが周知である(Bot
およびBona(2002)Microbes Infect.4:511)。一実施形
態において、本発明のチロシンキナーゼインヒビターの適用は、抗体の応答を克服し、そ
して細胞免疫の獲得を可能にするためのより高用量のウイルスの安全な投与を可能にする
。別の実施形態において、本発明のチロシンキナーゼインヒビターは、病原体の免疫クリ
アランスを促進する。数種の慢性的なウイルス(例えば、HIVおよびポリオーマ)につ
いては、高いウイルス負荷は、T細胞機能を損なうことが見出されている(Welsh(
2001)J.Exp.Med.193:F19)。それゆえ、ウイルス負荷を低下させ
ることは、T細胞機能の回復を可能にし得、それによってクリアランスを促進し得る。別
の実施形態において、本発明のチロシンキナーゼインヒビターは、免疫無防備状態の個体
へのワクチン投与を可能にする。
【0017】
本発明のチロシンキナーゼインヒビターは、生存している被験体または患者(ヒト、ま
たは研究室のサルもしくはマウスのような動物が挙げられる)における適用のためである

【0018】
(本発明の方法における使用のためのチロシンキナーゼインヒビター化合物)
現在、多くのチロシンキナーゼファミリーが認識され、それらとしては、Abl、Fe
s/Fer、Syk/Zap70、Jak、Tec、Fak、Ack、SrcおよびCs
kが挙げられる。数種のチロシンキナーゼファミリーの活性を標的とする阻害性の化合物
が、本発明の方法の特定の目的であり、これらのチロシンキナーゼファミリーとしては、
チロシンキナーゼのAblファミリーおよびSrcファミリーのメンバーが挙げられるが
、これらに限定されない。したがって、本発明の一実施形態において、病原体感染を処置
するために使用されるチロシンキナーゼインヒビターは、少なくともチロシンキナーゼの
Ablファミリーのメンバー(c−Ablおよびc−Argが挙げられる)を阻害するが
、他のファミリーメンバーも阻害し得ることが認識される。
【0019】
チロシンキナーゼのATP結合部位は、高度に保存されているが、X線結晶学およびキ
ナーゼドメインの相同性に基づくコンピュータによるモデリングから得られる構造上の情
報の使用は、選択的インヒビターの開発を導いてきた。AblおよびBCR−Ablに対
して、STI−571(メシル酸イマチニブまたはGleevec(登録商標)とも呼ば
れる;Novartis Pharmaceuticals Corporation、
East Hanover、NJ;米国特許第5,521,184号(この全体が本明細
書中で参考として援用される)もまた参照のこと)は、適度に高い特異性を有する、この
ようなインヒビターの一つである。STI−571は、慢性骨髄性白血病(CML;Dr
ukerら(2002)Hematology 2000(Am.Soc.Hemato
l.Educ.Program):711−135;Goldmanら(2001)Bl
ood 98:2039)を処置することにおいて臨床上有用であることが証明されてい
る。STI−571は、c−Kit(Ablと構造的に類似のATP結合部位を有するキ
ナーゼ)の調節不全により引き起こされる間質性腫瘍を処置するために使用されている(
Heinrichら(2000)Blood 96:925)。Gleevec(登録商
標)は、現在、100mg〜400mgのイマチニブ遊離塩基に相当するメシル酸イマチ
ニブを含有するフィルムコーティング錠として市販されている。
【0020】
本発明の一実施形態において、細菌感染またはウイルス感染を予防または処置するため
の方法が提供され、この方法は、治療有効量のメシル酸イマチニブ(STI−571)を
、それを必要とする被験体に投与する工程を包含する。
【0021】
STI−571は、メタンスルホン酸4−[(4−メチル−1−ピペラジニル)メチル
]−N−[4−メチル−3−[[4−(3−ピリジニル)−2−ピリミジニル]アミノ]
−フェニル]ベンズアミドとして化学的に表記され、以下の構造式を有する:
【0022】
【化4】


本発明の別の実施形態において、細菌感染またはウイルス感染を予防または処置するた
めの方法が提供され、この方法は、治療有効量のメシル酸イマチニブのベンジル化(be
nzylated)誘導体(STI−Xと示される)を、それを必要とする被験体に投与
する工程を包含する。STI−Xは、以下の構造式を有する:
【0023】
【化5】


別の実施形態にしたがって、本発明は、以下の式に記載される化合物、または少なくと
も1つの塩形成基を含むこのような化合物の塩を包含する:
【0024】
【化6】


ここで:
は、4−ピラジニル;1−メチル−1H−ピロリル;アミノ置換フェニルもしくは
アミノ低級アルキル置換フェニル(各々の場合においてこのアミノ基は、遊離であるか、
アルキル化されているか、またはアシル化されている);5員環の炭素原子で結合した1
H−インドリルまたは1H−イミダゾリル;あるいは環の炭素原子で結合した非置換ピリ
ジルまたは低級アルキル置換ピリジル(この窒素原子は酸素により置換されていないか、
または酸素により置換されている)であり;
およびRは、各々独立に、別の水素または低級アルキルであり、ラジカルR
、R、RおよびRのうちの1つまたは2つは、各々ニトロ、フルオロ置換低級
アルコキシまたは以下の式のラジカル
−N(R)−C(=X)−(Y)−R10
であり、ここで:
は、水素または低級アルキルであり;
Xは、オキソ、チオ、イミノ、N−低級アルキル−イミノ、ヒドロキシイミノまたは
O−低級アルキル−ヒドロキシイミノであり;
Yは、酸素またはNH基であり、
nは、0または1であり;そして
10は、少なくとも5個の炭素原子を有する脂肪族ラジカル、または芳香族ラジカ
ル、芳香族−脂肪族ラジカル、脂環式ラジカル、脂環式−脂肪族ラジカル、複素環式ラジ
カルまたは複素環式脂肪族ラジカルであり;
そして残りのラジカルR、R、R、RおよびRは、各々独立に、別の水素、
低級アルキル(この低級アルキルは、置換されていないか、遊離もしくはアルキル化され
たアミノ、ピペラジニル、ピペリジニル、ピロリジニルで置換されているか、またはモル
ホリニル、または低級アルカノイル、トリフルオロメチル、遊離ヒドロキシ、エーテル化
ヒドロキシもしくはエステル化ヒドロキシ、遊離アミノ、アルキル化アミノもしくはアシ
ル化アミノ、または遊離カルボキシもしくはエステル化カルボキシで置換されている)で
ある。例えば、米国特許第5,521,184号(この全体が本明細書中で参考として援
用される)を参照のこと。
【0025】
別の実施形態にしたがって、本発明は、以下の式に記載される化合物、または少なくと
も1つの塩形成基を含むこのような化合物の塩を包含する:
【0026】
【化7】


ここで
は、4−ピラジニル;1−メチル−1H−ピロリル;アミノ置換フェニルもしくは
アミノ低級アルキル置換フェニル(各々の場合においてこのアミノ基は、遊離であるか、
1つもしくは2つの低級アルキルラジカルでアルキル化されているか、または低級アルカ
ノイルもしくはベンゾイルでアシル化されている);5員環の炭素原子で結合した1H−
インドリルまたは1H−イミダゾリル;あるいは環の炭素原子で結合した非置換ピリジル
または低級アルキル置換ピリジル(この窒素原子は酸素により置換されていないか、また
は酸素により置換されている)であり;
およびRは、各々独立に、別の水素または低級アルキルであり、ラジカルR
、R、RおよびRのうちの1つまたは2つは、各々ニトロ、フルオロ置換低級
アルコキシまたは以下の式のラジカル
−N(R)−C(=X)−(Y)−R10
であり、ここで:
は、水素または低級アルキルであり;
Xは、オキソ、チオ、イミノ、N−低級アルキル−イミノ、ヒドロキシイミノまたは
O−低級アルキル−ヒドロキシイミノであり;
Yは、酸素またはNH基であり、
nは、0または1であり;そして
10は、5個〜22個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素ラジカル;フェニルラジ
カルまたはナフチルラジカル(これらの各々は、置換されていないか、またはシアノ、低
級アルキル、ヒドロキシル−低級アルキル、アミノ−低級アルキル、(4−メチル−ピペ
ラジニル)−低級アルキル、トリフルオロメチル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、低級ア
ルカノイルオキシ、ハロゲン、アミノ、低級アルキルアミノ、ジ低級アルキルアミノ、低
級アルカノイルアミノ、ベンゾイルアミノ、カルボキシで置換されているか、または低級
アルコキシカルボニルまたはフェニル低級アルキルで置換されている)(このフェニル低
級アルキルで置換されたフェニルラジカルは、置換されていないか上記のように置換され
ている);30個までの炭素原子を有するシクロアルキルラジカルまたはシクロアルケニ
ルラジカル(このシクロアルキル部分またはシクロアルケニル部分のシクロアルキル低級
アルキルまたはシクロアルケニル低級アルキルは各々、30個までの炭素原子を有する)
;単環式ラジカル(5〜6個の環構成原子、ならびに窒素、酸素および硫黄から選択され
る1〜3個の環のヘテロ原子を有し、1つまたは2つのベンゼンラジカルがこの単環式ラ
ジカルに融合していてもよい);あるいはそのような単環式ラジカルで置換された低級ア
ルキルであり;
そして残りのラジカルR、R、R、RおよびRは、各々独立に、別の水素、
低級アルキル(この低級アルキルは、置換されていないか、あるいはアミノ、低級アルキ
ルアミノ、ジ−低級アルキルアミノ、ピペラジニル、ピペリジニル、ピロリジニルで置換
されているか、またはモルホリニルまたは低級アルカノイル、トリフルオロメチル、ヒド
ロキシ、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、ハロゲン、アミノ、低級アルキルア
ミノ、ジ−低級アルキルアミノ、低級アルカノイルアミノ、ベンゾイルアミノ、カルボキ
シ、または低級アルコキシカルボニルで置換されている)である。例えば、米国特許第5
,521,184号(この全体が本明細書中で参考として援用される)を参照のこと。
【0027】
細胞増殖の阻害は強力な選択であるため、癌患者は、STI−571への耐性を発達さ
せる。このSTI−571への耐性を発達させる傾向は、より強力なチロシンキナーゼイ
ンヒビター(例えば、ピリド[2,3−d]ピリミジン(PD)化合物)への探索を導い
た。PDはより強い効力を示すが、基質特異性についてはSTI−571と多少異なる。
そしてPDはまた、Ablファミリーチロシンキナーゼを阻害することに加えて、Src
ファミリーキナーゼ、PDGFRキナーゼおよびFGFRキナーゼも阻害し得る(Sch
indlerら(2000)Science 289(5486):1938〜1942
;Wisniewskiら(2002)Cancer Res.62(15):4244
〜4255;Dorseyら(2000)Cancer Res.60:3127;Kr
akerら(2000)Biochem.Pharmacol.60:885)。PDは
単に、これらのキナーゼが活性状態であるときに、ATPの結合を競合的に阻害する。
【0028】
本発明の一実施形態において、細菌感染またはウイルス感染を予防または処置するため
の方法が提供され、この方法は、治療有効量のピリド[2,3−d]ピリミジンを、それ
を必要とする被験体に投与する工程を包含する。本発明にしたがって使用され得るピリド
[2,3−d]ピリミジンとしては、Krakerら(2000)Biochem.Ph
armacol.60(7):885〜898に記載される化合物ならびにKlutch
koら(1998)J.Med.Chem.41:3276〜3292およびBosch
elliら(1998)J.Med.Chem.41:4365〜4377から導入され
る方法を使用して合成される化合物が挙げられる。このような化合物としては、以下の構
造式により示される化合物が挙げられる:
【0029】
【化8】


ここでRは以下に相当する:
【0030】
【化9】

【0031】
【化10】


別の実施形態において、本発明にしたがった使用のために選択されるピリド[2,3−
d]ピリミジンは、以下からなる群から選択される:
a.PD166326(6−(2,6−ジクロロフェニル)−2−(3−ヒドロキシメ
チルフェニルアミノ)−8−メチル−8H−ピリド[2,3−d]ピリミジン−7−オン
);
b.PD173952(6−(2,6−ジクロロフェニル)−8−メチル−2−(4−
モルホリノフェニルアミノ)−8H−ピリド[2,3−d]ピリミジン−7−オン);
c.PD173955(6−(2,6−ジクロロフェニル)−8−メチル−2−(3−
メチルスルファニル−フェニルアミノ)−8H−ピリド[2,3−d]ピリミジン−7−
オン);
d.PD173956(6−(2,6−ジクロロフェニル)−2−(4−フルオロフェ
ニルアミノ)−8−メチル−8H−ピリド[2,3−d]ピリミジン−7−オン);
e.PM73958(6−(2,6−ジクロロフェニル)−2−(4−エトキシフェニ
ルアミノ)−8−メチル−8H−ピリド[2,3−d]ピリミジン−7−オン);および
f.PD180970(6−(2,6−ジクロロフェニル)−2−(4−フルオロ−3
−メチルフェニルアミノ)−8−メチル−8H−ピリド[2,3−d]ピリミジン−7−
オン)。
【0032】
BMS−354825は、STI−571耐性の症例において有用であることが示され
ている別のチロシンキナーゼインヒビターである。BMS−354825は、より緩い立
体配座要求性でAblに結合し、STI−571と比較して2対数高い効力でAblチロ
シンファミリーキナーゼを阻害することが示されているSRCファミリーキナーゼの合成
低分子インヒビターである(Shahら(2004)Science 305:399〜
401)。
【0033】
したがって、本発明の一実施形態において、細菌感染またはウイルス感染を予防または
処置するための方法が提供され、この方法は、治療有効量のBMS−354825([N
−(2−クロロ−6−メチルフェニル)−2−(6−(4−(2−ヒドロキシエチル)ピ
ペラジン−1−イル)−2−メチルピリミジン(methylpryimidin)−4
−イルアミノ)チアゾール−5−カルボキサミドとも呼ばれる)を投与する工程を包含す
る。BMS−354825は以下の構造を有する。
【0034】
【化11】


本発明は、上記の特定の化合物の使用だけではなく、任意のその薬学的に受容可能な塩
、鏡像異性体、アナログ、エステル、アミド、プロドラッグ、代謝産物または誘導体の使
用もまた包含することが理解される。
【0035】
(薬学的組成物)
チロシンキナーゼインヒビターは、既に薬物開発の対象であるか、または特定の癌を処
置するために使用されているので、データは、これらがヒトにおいて長期間(月)の間で
さえもよく許容され、かつ毒性を示さないことを確証している。これらの薬物は、経口摂
取され得、室温において安定であり、そして製造するのに簡単かつ安価である。
【0036】
本発明の一実施形態において、病原体感染(特に、微生物感染)を処置または予防する
方法は、このような処置を必要とする生存している被験体に、この生存している被験体へ
の投与に適切な薬学的組成物の有効量を投与する工程を包含する。この薬学的組成物は、
以下を含む:(a)少なくとも1種の病原体(特に、微生物)に応答性の、この生存して
いる被験体の宿主細胞由来の阻害可能な応答を増強するために有効な量での、少なくとも
1種のチロシンキナーゼインヒビター;および(b)この生存している被験体への投与に
適切な薬学的に受容可能なキャリア。
【0037】
別の実施形態において、本発明はまた、生存している被験体への投与に適切な薬学的組
成物に関し、この薬学的組成物は以下を含む:(a)少なくとも1種の細菌に応答性の、
この生存している被験体の宿主細胞由来の阻害可能な応答を増強するために有効な量での
、少なくとも1種のチロシンキナーゼインヒビター;および(b)この生存している被験
体への投与に適切な薬学的に受容可能なキャリア。
【0038】
別の実施形態において、本発明はまた、生存している被験体への投与に適切な薬学的組
成物に関し、この薬学的組成物は以下を含む:(a)少なくとも1種のウイルスに応答性
の、この生存している被験体の宿主細胞由来の阻害可能な応答を増強するために有効な量
での、少なくとも1種のチロシンキナーゼインヒビター;および(b)この生存している
被験体への投与に適切な薬学的に受容可能なキャリア。
【0039】
薬学的に受容可能なキャリアは、生存している被験体への経口投与に適切であり得、そ
して薬学的組成物は、生存している被験体へ経口投与される。薬学的に受容可能なキャリ
アはまた、生存している被験体への経鼻投与に適切であり得、そして薬学的組成物は、生
存している被験体へ経鼻投与される。または、薬学的に受容可能なキャリアは、生存して
いる被験体への直腸投与に適切であり得、そして薬学的組成物は、生存している被験体へ
直腸投与される。さらに、薬学的に受容可能なキャリアは、生存している被験体への静脈
内投与に適切であり得、そして薬学的組成物は、生存している被験体へ静脈内投与される
。その上、薬学的に受容可能なキャリアはまた、生存している被験体への接種による投与
に適切であり得、そして薬学的組成物は、生存している被験体へ接種によって投与される
。加えて、薬学的に受容可能なキャリアはまた、生存している被験体への皮下投与に適切
であり得、そして薬学的組成物は、生存している被験体へ皮下投与される。したがって、
処置または予防される病原体感染に依存して、本明細書に記載のチロシンキナーゼインヒ
ビターを含む薬学的組成物は、任意の適切な経路により投与され得る。この適切な経路と
しては以下が挙げられるが、これらに限定されない:経口経路、経鼻経路、口腔経路、舌
下経路、静脈内経路、経粘膜経路、直腸経路、局所経路、経皮経路、皮下経路、吸入によ
る経路、または髄腔内経路。
【0040】
特に、別の実施形態において、これらの薬学的組成物は、経口投与可能な懸濁物、飲用
の溶液もしくは錠剤;経鼻スプレーもしくは経鼻ドロップ;または油性(olegeno
us)の懸濁物もしくは油性の坐剤の形態であり得る。
【0041】
懸濁物として経口投与される場合、本発明の組成物は、薬学的処方物の分野において周
知の技術により調製され、そして、容積を与えるための微結晶性セルロース、懸濁剤とし
てのアルギン酸またはアルギン酸ナトリウム、増粘剤としてのメチルセルロース、および
当該分野において公知の甘味剤/矯味矯臭剤を含み得る。即時放出性の錠剤の場合、これ
らの組成物は、微結晶性セルロース、リン酸二カルシウム、デンプン、ステアリン酸マグ
ネシウムおよびラクトース、ならびに/または当該分野において公知である他の賦形剤、
結合剤、増量剤、崩壊剤、希釈剤および滑沢剤を含み得る。口内洗浄またはリンスの処方
物中の成分としては、抗菌剤、界面活性剤、共界面活性剤(cosurfactant)
、油、水および当該分野において公知の甘味剤/矯味矯臭剤のような他の添加剤が挙げら
れる。
【0042】
飲用の溶液により投与される場合、この組成物は、適切なpHに調整され、キャリアと
ともに飲用液体(例えば、水)に溶解された本明細書に記載の1種以上のチロシンキナー
ゼインヒビター化合物を含む。この飲用液体に溶解される化合物は、1nM以上のオーダ
ーで、血流中の濃度を与えるのに十分な量であり、好ましくは、インビボで有効である有
効量である。
【0043】
経鼻投与される場合、これらの組成物は、薬学的処方物の分野において周知の技術によ
り調製され、そして、ベンジルアルコールもしくは他の適切な保存剤、バイオアベイラビ
リティを増進させる吸収促進物質、および/または当該分野において公知の可溶化剤もし
くは分散剤を利用して、生理食塩水の溶液として調製され得る(例えば、Anselら(
1999)Pharmaceutical Dosage Forms and Dru
g Delivery Systems(第7版)を参照のこと)。
【0044】
好ましくは、これらの組成物および処方物は、適切な非毒性の薬学的に受容可能な成分
とともに調製される。これらの成分は、経鼻投薬形態の調製における当業者にとって公知
であり、そしてこれらの成分のうちの数種は、Remington’s Pharmac
eutical Sciences(第18版、Mack Publishing Co
mpany、Eaton、PA;1990)(本分野における標準的な参考文献)に見出
され得る。適切なキャリアの選択は、所望の経鼻投薬形態(例えば、溶液、懸濁物、軟膏
またはゲル)の正確な性質に強く依存する。経鼻投薬形態は、一般的に、活性成分に加え
て大量の水を含む。微量の他の成分(例えば、pH調整剤、乳化剤もしくは分散剤、保存
剤、界面活性剤、ゼリー化剤または緩衝化剤ならびに他の安定化剤および可溶化剤)もま
た、存在し得る。
【0045】
本発明の処方物は、以下を多様に含み得る:(1)pHを調整するための他の酸および
塩基;(2)他の張度付与剤(例えば、ソルビトール、グリセリンおよびブドウ糖);(
3)他の抗菌保存剤(例えば、他のパラヒドロキシ安息香酸エステル、ソルビン酸塩、安
息香酸塩、プロピオン酸塩、クロルブタノール、フェニルエチルアルコール、塩化ベンザ
ルコニウムおよび水銀剤);(4)他の粘度付与剤(例えば、カルボキシメチルセルロー
スナトリウム、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールおよ
び他のゴム);(5)適切な吸収増進剤;(6)安定化剤(例えば、重硫酸塩およびアス
コルビン酸塩のような抗酸化剤)、金属キレート化剤(例えば、エデト酸(edenta
te)ナトリウム)および薬物溶解性増進剤(例えば、ポリエチレングリコール)。
【0046】
上記の経鼻処方物は、ドロップ、スプレーとしてか、または任意の他の鼻内投薬形態に
より投与され得る。必要に応じて、送達系は、単位用量の送達系であり得る。用量あたり
に送達される溶液または懸濁物の容量は、5μL〜500μLのどれかであり得、そして
好ましくは5μL〜200μLであり得る。これらの種々の投薬形態のための送達系は、
点滴瓶、プラスティック製搾り出し装置、噴霧器、および単位用量包装または複数用量包
装のいずれかでの同様な物であり得る。ロゼンジは、米国特許第3,439,089号(
これらの目的のために本明細書で参考として援用される)にしたがって調製され得る。
【0047】
坐剤の形態で直腸投与される場合、これらの組成物は、この薬物と適切な無刺激性賦形
剤(ココアバター、合成グリセリドエステルまたはポリエチレングリコール)とを混合す
ることにより調製され得る。この賦形剤は、通常の温度では固体であるが、直腸腔内にお
いて液化および/または溶解し、薬物を放出する。
【0048】
1日あたり1mg以上のオーダーでの投薬レベルが、本明細書の上記の宿主の生体中の
病原体感染および関連する疾患の処置または予防において有用であり得る。本発明の一実
施形態において、病原体感染の処置または予防を必要とする患者は、体重約70kgの患
者に対し、本明細書に記載のチロシンキナーゼインヒビターを1日あたり以下の量で投与
される:約1mg以上、約5mg以上、約10mg以上、約20mg以上、約30mg以
上、約40mg以上、約50mg以上、約60mg以上、約70mg以上、約80mg以
上、約90mg以上、約100mg以上、約110mg以上、約120mg以上、約13
0mg以上、約140mg以上、約150mg以上、約160mg以上、約170mg以
上、約180mg以上、約190mg以上、約200mg以上、約210mg以上、約2
20mg以上、約230mg以上、約240mg以上、約250mg以上、約260mg
以上、約270mg以上、約280mg以上、約290mg以上、約300mg以上、約
310mg以上、約320mg以上、約330mg以上、約340mg以上、約350m
g以上、約360mg以上、約370mg以上、約380mg以上、約390mg以上、
約400mg以上、約410mg以上、約420mg以上、約430mg以上、約440
mg以上、約450mg以上、約460mg以上、約470mg以上、約480mg以上
、約490mg以上、約500mg以上、約510mg以上、約520mg以上、約53
0mg以上、約540mg以上、約550mg以上、約560mg以上、約570mg以
上、約580mg以上、約590mg以上、あるいは約600mg以上。いくつかの実施
形態において、投与される用量は、体重約70kgの患者に対し、1日あたり約1mg〜
約1000mg(約10mg、約20mg、約30mg、約40mg、約50mg、約6
0mg、約70mg、約80mg、約90mg、約100mg、約125mg、約150
mg、約175mg、約200mg、約225mg、約250mg、約275mg、約3
00mg、約350mg、約400mg、約450mg、約500mg、約550mg、
約600mg、約650mg、約700mg、約750mg、約800mg、約850m
g、約900mg、約950mg、約1000mg、および約1mg〜約1000mgの
間の他のこのような値が挙げられる)の範囲である。しかしながら、任意の特定の患者の
ための特定の用量レベルおよび投薬頻度は、変更し得、かつ種々の因子(使用される特定
の塩または他の形態の活性、この化合物の代謝安定性および作用の長さ、年齢、体重、身
体全体の健康状態、性別、食事、投与様式および投与時間、排出速度、薬物の組み合わせ
、特定の状態の重症度ならびに宿主が受けている治療が挙げられる)に依存することが理
解される。
【0049】
好ましい一レジメンにおいて、このような投薬量は、経鼻スプレーまたは経口ロゼンジ
のいずれかにより、それを必要とする被験体に投与され得る。
【0050】
特定の病原体感染(特に、微生物感染)を処置または予防するための本発明の薬学的組
成物を使用することの有効度は、例えば、患者の感染因子、感染の段階、感染の重症度、
年齢、体重および性別などに依存して変化し得る。
【0051】
「処置」は、本明細書において、本明細書の他の部分に記載される病原体感染、病原体
感染に関連する症状または病原体感染の発達への素因を有する被験体への本明細書に記載
のチロシンキナーゼインヒビターの適用または投与として定義される。この「処置」の目
的は、病原体感染、病原体感染に関連する任意の症状または病原体感染の発達への素因を
治療するか、治癒させるか、緩和するか、軽減するか、変更させるか、治療(remed
y)するか、回復させるか、改善するかまたは、それらに影響することである。「処置」
により、本明細書に記載のチロシンキナーゼインヒビターを含む薬学的組成物の、本明細
書の他の部分に記載される病原体感染、病原体感染に関連する症状または病原体感染の発
達への素因を有する被験体への適用または投与もまた意図される。この「処置」の目的は
、病原体感染、病原体感染に関連する任意の症状または病原体感染の発達への素因を治療
するか、治癒させるか、緩和するか、軽減するか、変更させるか、治療するか、回復させ
るか、改善するかまたは、それらに影響することである。
【0052】
本明細書に記載のチロシンキナーゼインヒビターは、本明細書の上記の病原体感染を処
置または予防するのに有用である。本明細書に記載の様式による病原体感染の処置または
予防は、病原体の発生(特に、ポリオーマウイルス(例えば、JCおよびBK))と病原
体感染とが移植された臓器の機能を減退させる臓器移植患者(例えば、腎移植患者)に対
し、特に有用である。同様な様式で、HIV感染は、脳内の希突起神経膠細胞を破壊し得
、AIDS関連性痴呆を導く。したがって、本明細書の他の部分に記載される病原体感染
を処置または予防することに加えて、本明細書に記載のチロシンキナーゼインヒビターは
、HIV陽性患者およびAIDS患者ならびに臓器移植(腎移植)を受ける患者における
二次感染を制御するために使用され得、そしてAIDS関連性痴呆を制御するために使用
され得る。さらに、これらのチロシンキナーゼインヒビターは、免疫無防備状態の個体(
HIV陽性患者およびAIDS患者が挙げられる)および臓器移植を受ける患者における
、感染性ビリオンの拡散(例えば、ワクシニア感染に伴う)を防止するために予防的に使
用され得る。
【0053】
(実験)
以下の実験では、病原体(特に、細菌性およびウイルス性の病原体)による宿主細胞の
感染に対するチロシンキナーゼインヒビターの効果を試験した。これらの実験をさらに詳
細に記載する前に、研究された病原体および宿主−病原体相互作用の基本的な説明を提供
することが有用である。
【0054】
腸病原性E.coli(EPEC)および腸出血性E.coli(EHEC)を含む病
原性のE.coliは、水および食品備蓄を汚染し、乳児の下痢を引き起こす。EPEC
およびEHECは、NIAIDによってカテゴリB病原体として分類される。途上諸国に
おいて、EPECは、毎年およそ2千万人に疾病をもたらし、500,000人を死亡さ
せる(Goosneyら(2000)Annu.Rev.Cell Dev.Biol.
,16:173)。「ロウハンバーガー病(raw hamburger diseas
e)」の原因因子であるEHECは、食品を汚染し、下痢およびしばしば致死性の結果で
ある溶血性尿毒症症候群と関連する。EHECは、溶血性尿毒症症候群と関連する症状を
引き起こす2種類の志賀毒素を有する(Permaら(2001)Nature,409
(6819):529−33)。
【0055】
EPEC、EHEC、およびCitrobacter(C.)rodentium(マ
ウスEPEC)は、アクチンで充填された膜の突出(または「台座様構造(pedest
al)」)を、自己の下の上皮細胞の表面上に形成する(Knuttonら(1989)
Lancet 2:218;McDanielら(1997)Mol.Microbio
l.,23:399)。台座様構造は、食菌作用を妨害し、宿主でのコロニー形成を可能
にし、その後の疾患の発症のために必要とされる(Goosneyら(1999)Inf
ect.Immun.,67:490;Jerseら(1990)Proc.Natl.
Acad.Sci.USA,87:7839)。台座様構造が形成される機構は、広範囲
にわたって調査されている(Kalmanら(1999)Nat.Cell Biol.
,1:389)。台座様構造の発達および下痢の発症の両方は、Tirと称される宿主細
胞中へ分泌される細菌のタンパク質をリン酸化する、宿主のチロシンキナーゼの細菌の下
での活性化に決定的に依存している(Kennyら(1997)Cell,91:511
;Kenny(1999)Mol.Microbiol.,31:1229)。細菌のリ
ガンドであるインチミン(intimin)の結合によって、台座様構造形成をもたらす
宿主のシグナル伝達カスケードが開始される。
【0056】
EPECの病原における分水界での事象は、EPECのTirのリン酸化である(Ke
nny(1999)Mol.Microbiol.,31:1229)。リン酸化される
と、EPECのTirは、宿主細胞タンパク質の動員(recruitment)および
活性化を促進し、この宿主細胞タンパク質は、アクチン重合を開始し、台座様構造と接触
し、台座様構造を支持する。この宿主細胞タンパク質として、Nck、N−WASP、お
よびArp2/3複合体が挙げられる(Kalmanら(1999)Nat.Cell
Biol.,1:389;Lommelら(2001)EMBO Rep.,2:850
;Gruenheidら(2001)Nat.Cell Biol.,3:85619;
Rohatgiら(1999)Cell,97:221)。
【0057】
ワクシニアウイルス(VV)および痘瘡ウイルスは、Poxviridae科のメンバ
ーであり、これらのウイルスは、配列が95%同一である(Espositoら(199
0)Poxviruses,Fields Virology,D.M.Knipe編、
Raven Press:New York.p.2336;Moss(1990)Pr
oxviridae:The Viruses and Their Replicat
ion,Fields Virology,D.M.Knipe編、Raven Pre
ss:New York.p.2336)。VVウェスタン・リザーブ(WR)株は、痘
瘡の原因である大痘瘡ウイルスに対する接種物質として役立つ。VVおよび痘瘡ウイルス
は、哺乳動物細胞に侵入し、核外複製「工場」を確立し、エンベロープビリオン(env
eloped virion)を産生する(Moss(1990)Poxviridae
:The Viruses and Their Replication,Field
s Virology,D.M.Knipe編、Raven Press:New Yo
rk.p.2336)。これらのビリオンは、微小管モーターを用いて細胞表面へ移動し
、アクチンを重合することによって、向かい合っている細胞に移動する(Ploubid
ouら(2000)EMBO J.,19(15):p.3932−44;Rietdo
rfら(2001)Nat.Cell Biol.3(11):p.992−1000;
WardおよびMoss(2001)J.Virol.,75(23):p.11651
−63;WardおよびMoss(2001)J.Virol.,75(10):p.4
802−13;Cudmoreら(1996)J.Cell Sci.,109(Pt7
):p.1739−47;Cudmoreら(1997)Trends Microbi
ol.,5(4):p.142−8)。そこで、これらのビリオンはアクチンを重合し、
宿主細胞の細胞質を通って細胞膜へと自己を推進し、そこで細胞から出て向かい合ってい
る細胞へ侵入する。アクチンの「コメット(comet)」の形成は、ワクシニアが細胞
から細胞へと拡散するために不可欠であると考えられる。アクチンに基づく運動性に関し
て、ワクシニアは、粒子表面へのチロシンキナーゼを含む宿主細胞の分子の動員に依存す
る。最終的に、この宿主細胞は、細胞溶解反応を起こし、それによってさらなる感染性粒
子を放出する。
【0058】
チロシンキナーゼおよびセリン/スレオニンキナーゼは、ウイルス感染のいくつかの局
面に関して重要である。アクチンに基づく移動性は、宿主細胞のc−SrcおよびAbl
に関連するチロシンキナーゼの活性に依存し、複製は、少なくとも部分的に、ウイルスの
キナーゼに依存するが、その正確な機構はあまりよく理解されていない(Frischk
nechtら(1999)Nature 401(6756):926−929;Rem
pelら(1992)J.Virol.66(7):4413−4426;Traktm
anら(1995)J.Virol.69(10):6581−6587;Traktm
anら(1989)J.Biol.Chem.264(36):21458−21461
)。
【0059】
ポックスウイルスの宿主細胞への侵入の後、このビリオンは、核近傍(juxtanu
clear)の位置へ移動し、そこで、このビリオンは、10個まで鎖状体(conc
atameric)のゲノムを複製する(Moss(1990)Poxviridae:
The Viruses and Their Replication,Fields
Virology,D.M.Knipe編、Raven Press:New Yor
k,p.2336)。この鎖状体は、エンベロープで被膜された個々の粒子(細胞内成熟
ビリオン(IMV)と称される)を最終的に形成し、その一部はさらなる膜内に包まれ細
胞内エンベロープビリオン(enveloped virion)(IEV:Smith
ら(2003)Annu.Rev.Microbiol.,pp.323−342)を形
成する。細胞溶解反応は、この細胞からIMVを放出する。しかし、細胞溶解反応に先立
ち、IEVは、キネシン/微小管輸送系を介して宿主細胞の抹消へ向かって移動する(C
arterら(2003)J.Gen.Virol.,pp.2443−2458;Ho
llinsheadら(2001)J.Cell Biol.,pp.389−402;
Rietdorfら(2001)Nat.Cell Biol.,pp.992−100
0;WardおよびMoss(2001)J.Virol.,pp.,11651−11
663)。
【0060】
細胞から出るために、IEV粒子は、宿主細胞の細胞膜と融合し、細胞関連エンベロー
プウイルス(CEV)を形成し、その2つの外膜のうちの一方を後に残す(Smithら
(2003)Ann.Rev.Microbiol.,pp.,323−342;Smi
thら(2002)J.Gen.Virol.,pp.2915−2931)。CEVは
、直接的に分離するか、または、アクチン重合を開始し、アクチンで充填された膜隆起の
上で向かい合っている細胞へ向かってこの粒子を推進し、そして分離する(Smithら
(2003)Ann.Rev.Microbiol.,pp.,323−342)。アク
チンの運動性は、AblおよびSrcファミリーのキナーゼに依存するが、細胞外エンベ
ロープウイルス(EEV)を形成するCEvの分離は、Ablファミリーのキナーゼに依
存する(Smithら(2003)Ann.Rev.Microbiol.,pp.,3
23−342)。
【0061】
CEVを取り囲む膜の中に位置される、VV A36R遺伝子によってコードされるタ
ンパク質(A36Rと称される)が、アクチン重合およびビルレンスのために必要とされ
ることは公知である(Wolffeら(1998)Virology pp.20−26
;ParkinsonおよびSmith(1994)Virology pp.376−
390)。アクチン重合および細胞から細胞への拡散における分水界での事象は、宿主細
胞のチロシンキナーゼによるA36Rのチロシン残基のリン酸化である(Newsome
ら(2004)Science 306:124−128;Frischknechtら
(1999)Nature 401(6756):926−929)。上記のEPEC
Tirタンパク質とVVタンパク質A36Rとの間には顕著な相同性が存在し、従って、
EPECと同様であるが同一ではない宿主シグナル因子を用いて、アクチンを重合し宿主
細胞から出る(FrischknechtおよびWay(2001)Trends Ce
ll Biol.11(1):30−38)。
【0062】
以前の報告は、哺乳動物のチロシンキナーゼであるc−Srcがビリオンに局在するこ
とを示唆する(Frischknechtら(1999)Nature 401(675
6):926−929)。さらに、微小管からのビリオンの放出およびアクチンテイル(
actin tail)の形成のためのアクチンの核形成は、Srcキナーゼおよび他の
キナーゼによるA36Rのリン酸化に依存する(Newsomeら(2004)Scie
nce 306:124−128;Frischknechtら(1999)Natur
e 401(6756)926−929;Kalmanら(1999)Nat.Cell
.Bio.1:389−391)。リン酸化されると、A36Rは、キネシンの分離、な
らびに宿主細胞のタンパク質の動員および活性化を促進し、この宿主細胞のタンパク質は
、この粒子の下でアクチン重合を開始する。この宿主細胞のタンパク質として、Nck、
Grb2、N−WASPおよびArp2/3複合体が挙げられる(Frischknec
htおよびWay(2001)Trends Cell Biol.11(1):30−
38;Moreauら(2000)Nat.Cell Biol.,pp.441−44
8;Scaplehornら(2002)Curr.Biol.,pp.740−745
)。実際、ワクシニアは、宿主の細胞質を通って自己を推進するために、Shigell
a flexneriによって用いられる機構と同様の機構を用いる。例えば、Shig
ellaおよびVacciniaのどちらも、アクチンを重合する手段として、N−WA
SPおよびArp2/3複合体を動員し活性化する(FrischknechtおよびW
ay(2001)Trends Cell Biol.11(1):30−38)。
【0063】
(実験1−SrcファミリーチロシンキナーゼおよびAblファミリーチロシンキナー
ゼは、VVのアクチンの運動性および感染性ビリオンの放出に関係する)
本実験の目的は、Srcファミリー(c−Src、c−Fyn、およびc−Yes)な
らびにAblファミリー(c−Ablおよびc−Arg)のメンバーを含む数種のチロシ
ンキナーゼが、アクチンの運動性および感染性EEVの放出のために必要とされるか否か
を試験することであった。これらのキナーゼの一つ以上を欠失する線維芽細胞をこれらの
酵素の潜在的インヒビターと共に用いた(Garcia−Echeverriaら(20
00)Med.Res.Rev.,pp.28−57)。
【0064】
(方法)
3T3細胞、Abl−/−/Arg−/−マウス由来の3T3細胞、またはSrc−/
/Fyn−/−/Yes−/−マウス由来の3T3細胞を、カバーガラス上で血清を含
むDMEM中で培養し、16時間37℃で、適切な量の感染多重度(m.o.i)でのV
V(WR株)またはVV GFP−B5Rと共にインキュベートした。いくつかの実験に
ついて、細胞を、Fugene−6(Roche)を用いたプラスミドベクターによる感
染の1〜2日前にトランスフェクトした。Abl−T315I、Arg1−T314I、
およびSrc−T338Mを、Quik−Change部位指向性変異誘発技術を用いて
構築した。PD化合物であるPD166326、SKI−DRV−1−10を、本明細書
の他の場所に記載されるように合成した。これらの化合物の効果は、全てのアッセイにお
いて識別不能であった。STI−571を、本明細書の他の場所に記載されるように合成
した。STI−571、PD化合物、およびPP2(Calbiochem)を、100
%DMSO中に溶解した。PD、PP2、またはDMSOを、いずれか感染の一時間前に
細胞に加えた。「リバーサル(reversal)」実験のために、化合物またはDMS
Oを、VVの添加の14時間後に細胞に加え、そしてこれらの細胞をその後15分間〜2
時間固定した。
【0065】
免疫蛍光解析のために、細胞を2%ホルムアルデヒド中で固定し、Triton−X−
100中で浸透(permeablize)させた。VVを4,6−ジアミジノ−2−フ
ェニルインドール(DAPI:1μg/ml;Sigma)を用いて染色することによっ
て認識し、アクチンテイルを、FITC−ファロイジン(1μg/ml;Molecul
ar Probes)を用いて染色することによって認識した。本研究において用いた一
次抗体および濃度は以下のようである:α−WASP pAb(アフィニティ精製済、1
:200希釈)、α−HA mAb(3F10;0.01μg/ml、Roche)、α
−Nck mAb(1μg/ml;Oncogene Research)、α−Abl
mAb(AB3;過剰発現Ablタンパク質に対して0.5μg/ml;内因性Abl
タンパク質に対して50μg/ml;8E9;0.05μg/ml;Pharminge
n)、u−Src pAb(0.1μg/ml;Santa Cruz)、α−Arg、
α−pY412、およびα−TW2.3 mAb(腹水、1:2000、顕微鏡法用)。
外因性c−Abl−WTを発現する細胞を、より低いα−Abl mAb濃度を用いて比
較的高い蛍光強度によって識別した。従って、内因性c−Abl様タンパク質を検出する
ために用いた曝露よりも著しく短時間の曝露によって、画像を得た。二次抗体を、Jac
kson Immunochemicalsから入手した。
【0066】
免疫沈降実験のために、未感染細胞またはVVで感染させた細胞を、冷リン酸緩衝化生
理食塩水を用いて3回リンスし、20mMのTris,pH7.2、150mMのNaC
l、5mMのEDTA、1%のTriton−X 100、10%のグリセロール、1m
Mのオルトバナジン酸ナトリウム、およびプロテアーゼインヒビター(Complete
protease inhibitor mix;Roche)中で30分間4℃で溶
解した。サンプルを、20分間、10,000×gで遠心した。サンプルを、一次抗体(
α−YFP、α−Src、またはα−Abl)と共に2時間4℃でインキュベートし、さ
らに1時間プロテインGビーズと共にインキュベートした。このビーズを、溶解緩衝液で
洗浄し、免疫ブロット法によって解析するか、またはインビトロキナーゼアッセイにおい
て使用した。インビトロキナーゼアッセイのために、GST−Crk(AblおよびAr
gについての)を基質として用い、20μlのKinase Assay Buffer
(25mMのTris、10mMのMgCl、1mMのDTT)中の10μMのATP
、および、前もって細胞内へトランスフェクトし、α−Abl抗体またはα−YFP抗体
を用いた免疫沈降法によりアガロースビーズで単離したc−Abl、c−Abl−T31
5I、YFP−Arg、またはYFP−Arg−T314Iと共に、30分間23℃でイ
ンキュベートした。サンプルをそれからSDS−PAGEに供し、PVDFメンブレンに
トランスファーし、α−リン酸化チロシン抗体である4G10、またはα−Abl mA
b AB3、あるいはα−YFPを用いて免疫ブロットした。
【0067】
63×N.A.1.4レンズ(Zeiss)を用いるZeiss 200M倒立顕微鏡
に基づく多重波長の広視野三次元顕微鏡システム(Intelligent Imagi
ng Innovations)に備え付けた科学等級の冷却型電荷結合素子(Cool
−Snap HQ)を用いて、画像を得た。免疫蛍光サンプルを、室温で標準的なSed
atフィルターセット(Chroma)を用いて、サンプルを通して連続する0.20μ
mの焦点面で画像化し、焦点外の光を、強制的双方向逆重畳(constrained
interactive deconvolution)アルゴリズムによって除去した

【0068】
プラークアッセイのために、細胞を24−ウェルのディッシュ中に蒔き、コンフルエン
シーまで培養し、種々の一連の希釈率でのVV−WRと共にインキュベートした。一時間
後、これらの細胞を、過剰のウイルスを除去するために洗浄し、そしてこれらの細胞をさ
らに3〜4日間インキュベートした。細胞はそれから固定され、20%のエタノールおよ
び4%のクマシーブルーを用いて染色し、プラークを可視化した。分泌されたEEVの測
定のために、感染の24時間後に培地を除去し、未感染の3T3細胞の単層に加え、そし
てその4日後にプラークの数を評価した。異なる細胞株が感染されたか否かを決定する(
プラーク減少アッセイ)ために、細胞の単層を超音波処理して細胞内のウイルス粒子を放
出させ、遠心して細胞残屑を除去した。この上清を、それから連続的に希釈し、未感染の
3T3細胞の単層に加え、そして3〜4日後にプラークの数を評価した。
【0069】
6週齢のC57/B16マウス(Jackson laboratories)を、全
てのマウスが7日以内に死亡する力価である10pfu/ml VVで、鼻腔内接種法
によって感染させた。マウスの実験のために、PD−166326を、30%のDMSO
、30%のPEG−400、および37%の生理食塩水中に溶解し、そしてSTI−57
1(メチラート塩(methcylate salt))を生理食塩水中に溶解した。P
D−166326(30mg/kg/日)を、腹腔内注射によって、感染の2〜6時間前
に始めて毎日2回投与し、STI−571(100mg/kg/日)を、皮下移植された
浸透ポンプから投与した。以前に記載されるようなHPLC/MSによるコントロール動
物の血中の薬物レベルの定量は、PD 166326が存在することを示した。血中のS
TI−571のレベルは決定されなかった。これらの薬物濃度では、非感染動物における
体重の減少または他の有害な影響は観察されなかった。従って、この薬物は非毒性である
と考えられた。
【0070】
(結果)
(Src、Fyn、Yes、Abl、およびArgは、VVのアクチンテイルに局在す
る)SrcおよびAbl−ファミリーチロシンキナーゼがVVのアクチンの運動性に関係
するという仮説を試験するために、SrcまたはAblに似ている内因性タンパク質がア
クチンテイルの先端でビリオンに局在するか否かを最初に決定した。3T3細胞を、VV
に15分間曝露させ、それからSrc、Fyn、Yes、Abl、およびArgに対する
抗体を用いて染色した。感染させた細胞を、核外複製中心(「RC」)を認識するDAP
Iを用いる染色によって、または感染の初期において発現されるワクシニアのタンパク質
を認識する抗体であるa−TW2.3を用いる染色によって、認識した。
【0071】
これらのビリオン自体を、DAPI染色、またはビリオンの内側の膜中に局在するGF
P−B5R融合タンパク質の蛍光によって認識した。アクチンテイルは、直接的にビリオ
ンと向かい合う強いファロイジン染色として示され得る。Abl関連キナーゼであるAr
gに対する抗体によって認識される内因性タンパク質は、細胞質に比べてアクチンテイル
の先端で濃縮された。同様に、α−Abl mAb 8E9、α−Src pAb、α−
Fyn mAb、およびα−Yes mAbによって認識される内因性タンパク質もまた
、細胞質に比べてアクチンテイルの先端で濃縮された。
同一の結果が、他の抗体(例えば、AB3、Abl)を用いても得られた。
【0072】
抗体は特異的であって、これらのキナーゼを欠失する細胞においては、エピトープを認
識せず、Src−ファミリーキナーゼまたはAbl−ファミリーキナーゼを欠失する細胞
におけるトランスフェクション実験によって判定されるように、他のファミリーメンバー
と交差反応性を示さない。特に、各々のキナーゼは、アクチンテイルの小部分のみにおい
て検出可能であった。例えば、c−Ablは一部のテイルにおいて検出可能であったが、
同じ細胞内の他のテイルにおいては検出不可能であった。さらに、抗体の組合せ(例えば
、α−Abl mAbとα−Arg pAbとの)を用いる染色は、Ablキナーゼおよ
びArgキナーゼの両方が約5%のテイルにおいて明らかであるにも関わらず、1種類の
キナーゼを含むテイルは、一般的には、検出可能なレベルの別のキナーゼ型を含まないこ
とを示した。
【0073】
抗キナーゼ抗体の多くが同様のアイソタイプであるので全ての組合せを試験することは
実行可能でないが、同様の結果を他の抗キナーゼ抗体の組合せを用いて得た。図1Aは、
Abl、Arg、AblおよびArgの両方を含む、またはAblおよびArgのどちら
も含まない3T3細胞のテイルの割合を示す。大部分のテイルが一方または他の一方のキ
ナーゼを含むが、両方を含むテイルはほとんどないことに注意されたい。加えて、図1B
は、VVのアクチンテイルにおけるSrc−ファミリーキナーゼの分布を示す。5種類の
Src−ファミリーキナーゼおよびAbl−ファミリーキナーゼのうち、c−Fynと似
ているタンパク質が、アクチンテイルにおいて最も頻繁に観察されたものである。最後に
、PDGFR、FGFR、Lck、FAK、Ntk、Lyn、Jak1、Csk、Tyk
2、およびPyk2を含む、他のチロシンキナーゼの局在について、証拠は見出されず、
このことは、局在がSrc−ファミリーキナーゼおよびAbl−ファミリーキナーゼにつ
いて特異的であることを示唆する。
【0074】
抗キナーゼ抗体が実際に特異的であることを確実にするために、次に、外因性に発現さ
れるキナーゼの局在および分布が、内因性タンパク質に関して観察される局在および分布
と同じであるか否かを決定した。これを実行するために、イエロー蛍光タンパク質標識c
−Arg(YFP−c−Arg)、非標識または赤血球凝集素(haemaggluti
nin)A(HA)標識c−Abl(HA−c−Abl)がアクチンテイルにおいて局在
するか否かを評価した。YFP−c−Argは、トランスフェクトされた細胞のアクチン
テイルの小部分においてのみ存在し、内因性タンパク質に対する染色を用いて得られた結
果と概して一致した。高レベルのYFP−c−Argを発現する細胞においてすら、YF
P−c−Argを含まないテイルがあり、このことは過剰発現されたキナーゼの局在が特
異的であることを示唆する。加えて、他の過剰発現されたタンパク質について、共発現は
観察されなかった:他の過剰発現されたタンパク質として、グリーン蛍光タンパク質もし
くはイエロー蛍光タンパク質、α−Hck pAbを用いて検出されるキナーゼであるH
ck(データは示さず)が挙げられる。これらの結果は共に、過剰発現されたチロシンキ
ナーゼがアクチンテイルにおいて特異的に局在し得ること、および、内因性タンパク質の
ように、トランスフェクトされたキナーゼが全てのテイルには局在しないことを示唆する

【0075】
(c−Ablまたはc−Argは、VVのアクチンテイルにおいて活性化される)c−
Ablまたはc−ArgがVVのアクチンテイルにおいて活性であるか否かを決定するた
めに、両方のタンパク質の活性化ループ状ドメイン(Plukら(2002)Cell,
247−259)中のリン酸化されたY412を認識する抗体の株(α−PY412)を
用いた。しかし、α−PY412 pAbによって認識される活性化ループのエピトープ
は、c−Ablおよびc−Argにおいて同一であるので、この抗体は、蛍光実験におい
てこの二つのタンパク質を区別し得ない。α−PY412を用いる染色は、テイルにおい
て明らかである。さらに、α−PY412 pAbを用いる染色は、c−Ablまたはc
−Argに対して特異的であって、c−Ablおよびc−Argを欠失する細胞において
形成されたテイルにおいては明らかでなかった。
【0076】
(Src−ファミリーチロシンキナーゼまたはAbl−ファミリーチロシンキナーゼを
欠損する細胞株でアクチンテイルが形成する)
Srcおよび/またはAlb−ファミリーチロシンキナーゼがアクチンテイルの形成の
ために必要であるか否かを決定するために、c−Srcを欠失するマウス(Src−/−
)、c−SrcおよびYesを欠失するマウス(Src−/−/Yes−/−)、c−F
ynおよびc−Yesを欠失するマウス(Fyn−/−/Yes−/−)、もしくは、c
−Src、c−Fyn、およびc−Yesを欠失するマウス(Src−/−/Fyn−/
/Yes−/−)由来の3T3細胞、または、c−Ablのみを欠失するマウス(Ab
−/−)、c−Argのみを欠失するマウス(Arg−/−)、もしくはc−Ablお
よびc−Argの両方を欠失するマウス(Abl−/−/Arg−/−)由来の3T3細
胞を感染させた。これらの細胞を、VVまたはGFP−VVに曝露させ、Cy3ファロイ
ジンを用いて染色した。
【0077】
特に、結果は、VVがこれらの細胞株の全てにおいてアクチンテイルを形成する能力を
保持することを示した。野生型マウス由来の3T3細胞と比較して、これらの細胞株にお
いてアクチンテイルを形成する能力には相違は見られなかった。Src−/−/Fyn
/−/Yes−/−細胞において、ArgまたはAblによって占有されるテイルの割合
は、野生型細胞においてこれらのキナーゼによって占有されるテイルの割合より多少高か
った。図2は、Src−/−/Fyn−/−/Yes−/−細胞またはAbl−/−/A
rg−/−細胞におけるVVのアクチンテイルの中のAbl−ファミリーキナーゼおよび
Src−ファミリーキナーゼの分布の定量を提供する。Abl−/−/Arg−/−細胞
において、c−Srcによって占有されるテイルの割合は、野生型細胞において観察され
た割合と同様であったが、c−Fynによって占有されるテイルの割合は野生型細胞と比
較してより低く、c−Yesによって占有されるテイルの割合は野生型細胞と比較してよ
り高かった。このテイルでのキナーゼの分布の相違にも関わらず、これらの結果は、c−
Abl、c−Arg、c−Src、c−Fyn、またはc−Yesのいずれも、単独では
VVのアクチンテイルの形成のために必要ではないらしいことを示唆する。さらに、これ
らの結果は、他のチロシンキナーゼもまたアクチンテイルに局在し得る可能性、および/
または、アクチンテイルへのキナーゼの局在が一時的なプロセスまたは連続的なプロセス
であり得る可能性を提起する。
【0078】
Abl−ファミリーキナーゼおよびSrc−ファミリーキナーゼがアクチンテイルにお
いて局在し、Abl−ファミリーキナーゼが活性化され、しかしいずれかのファミリーの
メンバーを欠失するマウス由来の細胞株でテイルが形成したという観察は、二つの選択肢
を示唆する。第一に、いずれかのファミリーのメンバーはアクチンテイルの形成を触媒し
得るが、これらのキナーゼのいずれか一つの非存在下においては、別のSrc−ファミリ
ーまたはAbl−ファミリーのメンバーが充足し得る(「機能的重複性(functio
nal redundancy)」)。あるいは、Src−ファミリーキナーゼまたはA
bl−ファミリーキナーゼの局在および活性化は、アクチンテイルの形成と無関係であり
得る(「局在的活性化(localized activation)」。重複するAb
l−ファミリーキナーゼおよびSrc−ファミリーキナーゼがアクチンテイルの形成に関
与するか否かを決定するために、(i)野生型細胞または特定のチロシンキナーゼを欠失
する細胞におけるアクチンテイルの形成を遮断するチロシンキナーゼのインヒビターの同
定;および(ii)そのようなインヒビターの存在する場合にそのインヒビターに対して
耐性のキナーゼ変異体がアクチンテイルの形成を支持する能力に基づいて、充足性(su
fficiency)の試験法を開発した。
【0079】
(SrcおよびAbl−ファミリーチロシンキナーゼのインヒビターは、アクチンテイ
ルの形成を遮断する)機能的重複性を局在的活性化から区別するために、野生型細胞にお
けるチロシンキナーゼインヒビターの効果を第一に評価した。ピリド[2,3−d]−ピ
リミジン(PD)化合物は、ATPの、Abl−ファミリーキナーゼ(c−Ablおよび
c−Argを含む)ならびに相同なATP結合ドメインを有するキナーゼ(c−Src、
c−Fyn、およびc−Yesを含む)への結合を競合的に阻害する(Dorseyら(
2000)Cancer Res.,pp3127−3131;Krakerら(200
0)Biochem.Pharmacol.,pp.885−898;Wisniews
kiら(2002)Cancer Res.,pp.4244−4255)。
【0080】
3T3細胞を、Abl−ファミリーチロシンキナーゼおよびSrc−ファミリーチロシ
ンキナーゼのインヒビターである、PD166326(5μM)を用いて処理し、次いで
VVに8時間曝露させた。感染された細胞を認識するために、細胞をDAPIおよびα−
リン酸化チロシン pAbを用いて染色し、アクチンを認識するために、FITCファロ
イジンを用いて染色した。この条件では、アクチンテイルは存在しなかった。同様に、1
0μMのPDを用いて処理され、次いでVVによって感染された細胞において、アクチン
テイルは見られなかった。1μMより低い濃度のPDは、効果を有さなかった。感染の初
期において発現されるVVタンパク質を認識するα−TW2.3(Yuwenら(199
3)Virology,pp.732−744)を用いる染色は、10μMのPDを用い
て処理された細胞において明らかであった。このことは、この薬物がウイルスの侵入を遮
断しなかったことを示唆する。さらに、DAPI染色またはα−リン酸化チロシンpAb
を用いる染色は、10μMのPDの存在下において核外複製中心の存在を明らかにした。
このことは、この薬物がウイルスの複製に対して検出可能な効果を有さなかったことを示
す。アクチンテイルを有する感染された細胞の数の定量は、10μMのPDを用いる処置
が、各々の時点で、VVのテイルの形成をキャリアコントロール(0.1%DMSO;図
3)に比較して少なくとも50倍低下させたことを示した。PDが、残存したアクチンテ
イルの分解を付加的に引き起こした可能性はあるが、感染後8時間のほんの20分間の5
μMのPDの添加もまた、アクチンテイルの形成の遮断をもたらした。PDに構造的に関
連する化合物(例えば、SKI−DV−1−10、10μM)は、アクチンテイルの遮断
についてPDと同じくらい効果的であった。これらのPDの効果は、アクチン重合の非特
異的な阻害に起因しない。なぜならば、PDは、Listeria monocytog
enesまたはShigella flexneriがアクチンのコメットテイルを形成
する能力に対して効果を有さないからである。
【0081】
PP2および構造的に類似の化合物PP1は、Src−ファミリーキナーゼの活性を阻
害し(Liuら(1999)Chem.Biol.,pp.671−678)、最近では
、さらにAbl−ファミリーキナーゼを阻害することが認識されている(Tattonら
(2003)J.Biol.Chem.,pp.4847−4853)。以前に報告され
たように、PDのように、PP2は25μM以上の濃度でアクチンテイルを遮断する(F
rischknechtら(1999)Nature,pp.926−929)。PDま
たはPP2と対照的に、Abl−ファミリーキナーゼを阻害するがSrc−ファミリーキ
ナーゼを阻害しないSTI−571(Schindlerら(2000)Science
,pp.1938−1942)は、25μMの高さの濃度であっても野生型3T3細胞に
おけるアクチンテイルの形成を遮断しなかった。
【0082】
(PDはチロシンのリン酸化およびアクチンテイルの形成のために必要なタンパク質の
局在を遮断する)次に、PDが、アクチンテイルの先端での、リン酸化チロシン染色の局
在、および、Nck、N−WASP、またはArp2/3複合体の局在に影響するか否か
を試験した。4G10 mAbを用いて検出されるようなリン酸化チロシン染色は、ビリ
オンと共局在した。同様に、α−Nck mAb、α−N−WASP pAb、α−Gr
b2 pAb、およびα−Arp p41 pAbを用いる染色は、前に報告されるよう
に(示さず)、粒子の周囲においてアクチンテイルの先端で明らかであった。15時間前
にGFP−VVを用いて感染させた細胞に10μMのPDを加えた場合、リン酸化チロシ
ンのビリオンとの共局在は、4G10 mAbによっては検出されなかった。同様に、ビ
リオンと共局在するNck、N−WASP、またはArp2/3の局在についての証拠は
見出されなかった。リン酸化チロシンに対するPDの効果は、運動型ビリオンと関連する
リン酸化チロシンに対して選択的であった。なぜならば、α−リン酸化チロシンpAbに
よって認識される複製中心における標的のリン酸化は、10μMのPDの添加によって影
響を受けなかったからである。総合して、これらの結果は、PDが、アクチンテイルの形
成と関連する必須のチロシンキナーゼ活性を遮断するが、ウイルスの複製を遮断しないこ
とを明らかにする。
【0083】
(数種類のAbl−ファミリーチロシンキナーゼおよびSrc−ファミリーチロシンキ
ナーゼは、VVのアクチンの運動性のために十分である)次に、PD感受性のキナーゼの
うちでどのAbl−ファミリーキナーゼおよびSrc−ファミリーキナーゼがVVのアク
チンの運動性のために十分であるかを決定した。
【0084】
上で言及されるように、STI−571は、野生型3T3細胞におけるVVのアクチン
の運動性に対する識別可能(discernable)な効果を有さない。しかし、10
μMのSTI−571の添加は、c−Src、c−Yes、およびc−Fynを欠失する
細胞におけるVVのアクチンの運動性を著しく限定し、細胞1個あたりのアクチンテイル
の平均数を16倍減少させた(細胞1個あたり平均約3個であり、30%の細胞は0個を
有した)。STI−571は、核外DAPI染色によって明示されたように、ウイルスの
複製に対して効果を有さなかったか、または、細胞末梢へのGFP標識ビリオンの移動に
対して効果を有さなかった。さらに、STI571のためのキャリアであるDMSOは、
効果を有さなかった。総合して、これらのデータは:1)c−Ablおよびc−Argを
含む、STI−571に対して感受性のキナーゼは、VVのアクチンの運動性を支持する
のに十分であること;および、2)STI−571に対して非感受性のキナーゼのうち、
c−Src、c−Fyn、またはc−Yesは、3T3細胞におけるVVのアクチンの運
動性を支持し得る唯一のものであり得ることを示唆する。
【0085】
Abl−ファミリーキナーゼまたはSrc−ファミリーキナーゼのうちのいずれがVV
のアクチンの運動性のために十分であるかを決定するために、次に、c−Abl、c−A
rg、またはc−Yesが、他のSrc−ファミリーキナーゼまたはAbl−ファミリー
キナーゼからの活性の非存在下においてVVのアクチンの運動性を支持し得るか否かを評
価した。特に、c−Abl、c−Arg、またはc−YesのPD耐性対立遺伝子の発現
が、PDの存在下においてアクチンの運動性を維持させ得るかを試験した。以前の研究は
、ATP結合ポケット中の変異(c−Abl−T315I、c−Arg−T314I、お
よびc−Yes−T348I)が、PDとキナーゼとの間のファン・デル・ワールス相互
作用を分断し、インビトロキナーゼアッセイによって測定されるように、PDのKを1
0nMから1μMへと増加させることを示している。
【0086】
次に、c−Argまたはc−AblのこれらのPD耐性対立遺伝子が、10μMのPD
中で培養された細胞において発現される場合にVVのアクチンテイルを支持し得るか否か
を試験した。アクチンテイルは、YFP−c−Arg−T314Iを発現するPD処理細
胞において明らかであったが、内因性c−Argを発現する細胞においては明らかではな
かった。さらに、PDは、c−Arg−WTを過剰発現する細胞においてアクチンテイル
の形成を阻害した。従って、PDの緩衝は、YFP−c−Arg−T314Iとの低い親
和力の相互作用によってですら、本実験におけるVVのアクチンテイルの運動性の説明に
なり得ない。全てのPD耐性のチロシンキナーゼ対立遺伝子が10μMのPDの存在下に
おいてアクチンテイルを支持し得るわけではなかった。
【0087】
c−Abl−T315Iを発現する細胞において、10μMのPDの存在下でアクチン
テイルは観察されなかった。これらの結果は、過剰発現されたチロシンキナーゼが、ビリ
オンに局在するものですら、アクチンの運動性を支持する標的の非特異的または異常なリ
ン酸化を引き起こさないことを示唆する。PD耐性対立遺伝子であるc−Yes−T34
8Iの発現もまた、10μMのPDの存在下でアクチンテイルを支持したが、野生型対立
遺伝子は、10μMのPDの存在下でアクチンテイルを支持しなかった。総合して、これ
らのデータは、c−Argおよびc−Yesが、チロシンキナーゼのうちで、VVのアク
チンの運動性のために十分であることを示すが、他のチロシンキナーゼもまた充足し得る
ことを除外しない。アクチンテイルの形成におけるc−Ablの充足性についての証拠は
見出されなかった。
【0088】
他のSrc−ファミリーキナーゼがVVのアクチンの運動性のために十分であるか否か
を決定するために、Src−ファミリーキナーゼのサブセットを欠失する細胞株に対する
10μMのSTI−571の効果を試験した。c−Srcおよびc−Yesを欠失する細
胞、またはc−Fynおよびc−Yesを欠失する細胞は、STI−571の存在下にお
いてなおVVのアクチンの運動性を支持した。STI571を用いる処置はまた、細胞1
個あたりのアクチンテイルの数に対する検出可能な効果を有さなかった。これらの結果は
、c−Argおよびc−Yesに加えて、Src−ファミリーキナーゼであるc−Src
およびc−Fynもまた、アクチンの運動性のために十分であることを示唆する。
【0089】
(重複するSrc−ファミリーキナーゼおよびAbl−ファミリーキナーゼはインビト
ロで細胞から細胞への拡散を仲介する)どのチロシンキナーゼが細胞から細胞への拡散に
関与するかを決定するために、野生型3T3細胞または種々のSrc−ファミリーチロシ
ンキナーゼおよびAbl−ファミリーチロシンキナーゼを欠失する細胞でプラークアッセ
イを行った。プラークの形態および大きさは一般に使用される細胞型であるBSC−40
細胞の感染の後で見られるプラークよりいくらか多様であり鮮明でないようだが、VVを
用いる3T3細胞の単層の感染は4日以内にプラークを誘導する。しかし、本実験におい
て形成されたプラークは、3T3細胞、Abl−/−細胞、Arg−/−細胞、およびA
bl−/−/Arg−/−細胞、Src−/−/Yes−/−細胞、ならびにSrc−/
/Fyn−/−/Yes−/−細胞で、同等の効力を有した。
【0090】
重複するチロシンキナーゼがプラーク形成を仲介するか否かを決定するために、BSC
−40細胞を、10μMの、Abl−ファミリーキナーゼおよびSrc−ファミリーキナ
ーゼの両方を遮断するPDを用いて処理した。細胞から細胞への拡散のためのアクチンテ
イルの必要性と一致して、PDはプラークの大きさを、容易にはプラークを形成しないV
V A36R変異体(ParkinsonおよびSmith(1994)Virolog
y,pp.376−390)において見られるプラークと同様の「針先」へと縮小する。
3T3細胞における10μMのPDを用いて、同一の結果を得た。しかし、Abl−ファ
ミリーキナーゼのみを遮断するSTI−571は、Src−/−/Fyn−/−/Yes
−/−細胞におけるプラーク形成を阻害したにも関わらず、この化合物は、3T3細胞も
しくはBSC−40細胞におけるプラークの大きさまたはプラークの数に有意な変化をも
たらさなかった。プラーク減少アッセイは、10μMのSTI−571を用いて処理され
た細胞または処理されなかった細胞が、24時間後にほとんど同等の量のウイルスを産生
したことを示し、このことは、この薬物がウイルスの複製に対する検出可能な効果を、た
とえあったとしてもほとんど有さなかったことを示す。総合して、これらの結果は、イン
ビトロでプラーク形成によって測定されるように、アクチンテイルの形成を仲介するAb
l−ファミリーキナーゼおよびSrc−ファミリーキナーゼと同じ重複するキナーゼが、
細胞から細胞への拡散も仲介するという証拠を提供する。
【0091】
(Abl−ファミリーキナーゼはインビトロでEEVの放出を仲介するが、Src−フ
ァミリーキナーゼはインビトロでEEVの放出を仲介しない)インビトロでのEEV形成
がチロシンキナーゼに依存的であるか否かを決定するために、野生型3T3細胞または種
々のチロシンキナーゼを欠失する3T3細胞をVVを用いて感染させた。非感染細胞、V
V感染野生型3T3細胞、または、c−Src/c−Fyn/c−Yes、c−Abl、
c−Arg、もしくはc−Abl/c−Argを欠失する動物由来の3T3細胞から得ら
れた上清を用いて感染させたBSC−40細胞のプラークアッセイを行った。結果は、c
−Ablおよびc−Argの両方が存在しない場合を除いて、または、c−Ablおよび
c−Argの両方の活性が薬物によって遮断される場合を除いて、プラークが存在するこ
とを示した。
【0092】
上清を、感染の24時間後に細胞から回収した。この時点において、この上清は、培地
中に放出されている有意な量のEEV(40〜50%)からなるプラーク形成ユニット(
PFU)、および、溶解された感染細胞からの汚染IMV放出を含む(LawおよびSm
ith(2001)Virology,pp.132−142)。この上清を、次いで、
BSC−40細胞を感染させるために使用し、3日後にプラーク形成を評価した。
【0093】
BSC−40細胞でのプラークの分析は、野生型3T3細胞、Src−/−/Fyn
/−/Yes−/−細胞、Abl−/−細胞、およびArg−/−細胞由来の上清の全て
は、ほぼ同じPFUを含むが、Abl−/−/Arg−/−細胞由来の上清は、5〜10
倍少ないPFUを含むことを示した。そのような減少は、野生型細胞に比較してより低い
Abl−/−/Arg−/−細胞の感染性によっては説明され得ない。なぜならば、野生
型細胞で形成されたプラークの数と同じ数の形成されたプラーク、ならびに、感染の24
時間後に細胞を溶解することおよびBSC−40細胞でのプラーク形成ユニットを測定す
ることによって得られたウイルスの増殖は、野生型細胞とAbl−/−/Arg−/−
胞との間で相違を示さなかったからである。総合して、これらの結果は、効率的なEEV
放出のために、c−Ablまたはc−Argは各々が十分であり、c−Ablまたはc−
Argは共に必要であることを示唆する。
【0094】
次に、EEV形成に対するAbl−ファミリーチロシンキナーゼのインヒビターの効果
を評価した。BSC−40細胞をVVを用いて感染させ、10μMのSTI571を用い
て24時間処理した。この上清を、次いで回収し、BSC−40細胞を感染させるために
使用し、3日後にプラーク形成を評価した。BSC−40細胞についての結果は、この薬
物で処理されなかったまたは処理された感染3T3細胞由来の上清を用いて得られた結果
と同一であった。10μMのSTI−571の適用は、BSC−40細胞で、PFUの約
2倍の減少を引き起こした。STI−571を用いる3T3細胞またはBSC−40細胞
の処理は、それ自体では、プラーク形成およびプラーク減少アッセイによって測定される
ウイルスの複製に影響を及ぼさなかった。従って、STI−571によって引き起こされ
るEEV数の明らかな減少は、ウイルスの侵入の遮断、細胞溶解の阻害に起因し得ず、ま
た、複製の阻害に起因し得ない。感染性EEVの形成に対するSTI−571の効果と一
致して、10μMのSTI−571を用いるBSC−40細胞の処置はまた、EEVと関
連する現象である、プラークと向かい合う「コメット」の形成も遮断した。最後に、ST
I−571を用いて処理された3T3細胞において、アクチンテイルの形成またはアクチ
ンテイルの数に明らかな差異はなかった。従って、STI−571によるEEVの数の減
少は、細胞表面に到達するビリオンの数の減少に起因しなかった。10μMのPDを用い
る3T3細胞の処理は、同様に、EEVの数を減少させた。
【0095】
この細胞上清のIMV汚染の可能性を考え、次に、Abl−/−/Arg−/−細胞に
おけるAblおよびArgの活性の喪失、またはSTI−571処理によるAblおよび
Argの活性の喪失が、感染性EEVの減少のみをもたらし、IMVに対するさらなる効
果をもたらさないことを確認した。このことを行うために、上清を、mAb 2d5と称
されるIMVを中和する抗体と共にインキュベートした。mAb 2d5の上清への添加
は、3T3細胞およびBSC−40細胞の両方において、プラーク数を約40%減少させ
た。このことは、以前の報告と一致した(LawおよびSmith(2001)Viro
logy,pp.132−142)。二番目に、10μMのSTI−571の添加は、m
Ab 2D5の存在下または非存在下において、プラーク数の等倍の減少を引き起こし、
STI−571処理を用いる場合のプラーク数またはAbl−/−/Arg−/−細胞に
おけるプラーク数の減少の割合は、mAb 2d5の添加に関わらず同様であった。総合
して、これらのデータは、AblおよびArgはIMVに対してほとんど効果を有さない
こと、ならびに、c−Ablおよびc−Argはインビトロで感染細胞からのEEVの放
出を仲介するが、Src−ファミリーキナーゼはインビトロで感染細胞からのEEVの放
出を仲介しないことを示唆する。
【0096】
(STI−571はマウスにおいてVV負荷を低下させる)インビボでのEEV形成お
よびビルレンスにおけるチロシンキナーゼの役割を決定するために、VVを用いて感染さ
せたマウスにおけるウイルス負荷に対するSTI−571の効果を試験した。STI−5
71(100mg/kg/日で、0.9%の滅菌生理食塩水中に溶解した)または生理食
塩水キャリアを、皮下に配置したAzlet浸透ポンプを介してマウスに送達した。この
ポンプの挿入の24時間後に、一部のマウスを10pfuのVVを用いて腹腔内で接種
した。残りのマウスを未処置のままにした。感染の4日後にマウスを屠殺し、卵巣を摘出
し、リアルタイムPCRに供してウイルス負荷を評価した。卵巣は、子宮頚部組織と共に
、腹腔内感染の後で最も高いレベルのウイルスを含むことが見出されているので(Ram
irezら(2003)Arch.Virol.,pp.827−839)、この器官を
分析のために選択した。
【0097】
ウイルス負荷を、卵巣から単離されたDNA250ngあたりのVV UDG遺伝子の
コピーの数として測定した。未処理の動物または生理食塩水キャリアを含むポンプを有す
る動物において、有意なレベルのウイルス(約10コピー/DNA250ng)が卵巣
において検出可能であった。このことは、腹腔に隣接する器官へのウイルスの拡散を示し
た。連続希釈によって決定されたこのアッセイの検出限界は、ウイルスゲノム10個であ
った。マウスの白血病モデル(WolffおよびIlaria,2001年)において使
用される濃度である100mg/kg/日のSTI−571を用いる処理は、ウイルス負
荷を4〜5対数低下させた(図4)。この差は、フィッシャーの双方直接確立検定(Fi
sher’s two−sided exact test)によって統計学的に有意と
判定された(P<10−6;(方法)を参照)。
【0098】
(結論)
上記の結果は、チロシンキナーゼが、Vacciniaウイルスの、運動性、放出、お
よび病原性感染に関与することを明らかにする。特に、効率的なアクチンの運動性のため
にAbl−ファミリーキナーゼは必要とされるが、Src−ファミリーキナーゼは必要と
されず、PD化合物を含む、Abl−ファミリーキナーゼを阻害するチロシンキナーゼイ
ンヒビターは、アクチンの運動性を遮断する。PD化合物およびSTI−571は、感染
性ビリオンの放出を遮断し、STI−571は、VV感染マウスにおけるウイルス負荷を
低下させる。このことに関して、これらの結果は、PDおよびSTI−571のような薬
物がVV感染の予防または処置のために有用であることを示す。Vacciniaおよび
痘瘡ウイルスは類似であるので、これらの薬物はまた、痘瘡を引き起こすヒトにおける痘
瘡ウイルス感染に対して増大した効力を有することもあり得る。
【0099】
(実験2−STI−XはVacciniaの複製を阻害する)
本実験は、VVの複製に影響を及ぼす化合物を同定するための、STI−571に関係
する化合物の小さいライブラリをスクリーニングする工程を包含する。STI−Xと称さ
れるSTI−571の誘導体を同定し、VVの感染、複製、および運動性に対するその効
果について試験した。
【0100】
(方法)
細胞培養および蛍光顕微鏡法に基づくプラークアッセイについての方法は、実験1にお
いて記載される方法と同様であった。
【0101】
VVの複製に影響を及ぼす化合物を同定するために、特定の機能基に対する変更をこの
分子上で行うことによって、STI−571誘導体のライブラリを構築した。3T3細胞
の感染を阻害するこれらの化合物の能力に基づいて、これらの化合物をスクリーニングし
、EVP染色、または、核外DAPI染色によって測定されるような核外複製中心を含む
GFP標識ビリオンの存在のいずれかによって評価した。
【0102】
3T3細胞を、未処理のままにするか、または1μMのSTI−XもしくはDMSO(
キャリア)と共にインキュベートした。細胞を、次いで、感染多重度10でGFP−VV
を用いて8時間感染させた。STI−Xを、感染の時点でまたは6時間後に加えた。感染
の8時間後、細胞を固定し、複製中心を識別するためにDAPI α−Ptyr−Cy5
pAbを用いて染色し、アクチンのコメットテイルを識別するためにCy3−ファロイ
ジンを用いて染色した。
【0103】
(結果)
GFP−ビリオンの存在は感染細胞において注目され、核外複製中心は存在しなかった
。Ptyr染色もまた存在せず、アクチンテイルは明らかではなかった。始めに細胞に感
染したGFP−WRビリオンに対応する球状(punctate)の核外DAPI染色は
明らかであった。複製中心が形成した後でSTI−Xを加えた場合、複製中心およびアク
チンテイルはまだ明らかであった。
【0104】
EVP染色、およびDAPI染色された核外「複製工場」は、全ての未処理細胞および
DMSO処理細胞において明らかであり、これらの細胞の90%はアクチンテイルを含有
した。このことは、この感染が強かったことを示す。GFP標識ビリオンおよびEVP染
色もまた、全てのSTI−X処理細胞において明らかであった。このことは、STI−X
がウイルスの侵入に対して検出可能な効果をほとんど有さなかったことを示す。しかし、
STI−X処理は、DMSO処理細胞または未処理の細胞と比較して、DAPI染色核外
ウイルス複製工場を含む細胞の割合の著しい低下を引き起こした(STI−Xについての
4%と比較して、未処理の細胞について100%;図2)。GFP−WR感染細胞におい
て、球状核外DAPI染色はかろうじて可視され得た(例えば、図8A)。この染色はG
FP−WRビリオンと共局在したので、このDNAは、始めにこの細胞に感染したビリオ
ンに対応し得る。
【0105】
STI−X処理細胞はまた、おそらく複製が阻害されたために、アクチンテイルを形成
し得なかった。このことを直接的に試験するために、複製中心が形成した後にSTI−X
を加えた。これらの条件下で、STI−Xは複製中心に対して効果を有さず(DAPI染
色またはα−Ptyr pAbによって測定されるように)、アクチンの運動性に対して
も効果を有さなかった。
【0106】
プラークアッセイおよびプラーク減少アッセイは、これらの顕微鏡観察を確認した。S
TI−Xは感染多重度が増加された場合により効果的でない(抗ウイルス薬の一般的な特
性)と判明したにも関わらず、プラーク形成はこの薬物の存在下において減少した。3日
間にわたって行ったこのプラークアッセイは、この薬物がその期間にわたって(評価した
最長時間である8日間までも)高い耐性を有したことを示す。プラーク減少アッセイにお
いては、この細胞をSTI−Xの存在下または非存在下において24時間感染させた。次
いで液体窒素溶解によってVVを回収し、薬物の非存在下におけるプラークアッセイによ
ってその力価を評価した。
【0107】
(結論)
要約すると、STI−XはVVの複製を遮断し、VV感染の予防または処置のために有
用である。
【0108】
(実験3−VVおよびVariola感染の局面に対する、STI−X、PD、および
併用処置の効果)
VVもしくはVariola感染マウスにおける病原性の軽減または最小化における、
PD、STI−X、またはこの二つの併用の効能を決定するために、この実験を設計する
。C57 BL/6マウスをこれらの研究のために用いる。他のマウスの感染を防ぐため
に、BSL2施設においてマウスを感染させる。
【0109】
(VVおよび痘瘡ウイルス感染に対するSTI−XおよびPD)VVを用いるマウスの
皮内接種が、ヒトにおけるVVワクチン接種をモデル化するために提案されている(Ts
charkeら(1999)J.Gen.Virol.,80:2751−5;Tsch
arkeら(2002)J.Gen.Virol.,83:1977−86)。このモデ
ルを使用して、VVの株WRを用いる6週齢のC57BL/6マウスの耳での皮内接種が
8日以内に3mmの病変を生成することが、示されている。この病変は約3週間後に消失
し、このことは、この動物が免疫応答を発達させて感染を取り除いたことを示す。このモ
デルは、10pfuを用いて皮内で耳から感染させた、メスの、6週齢と同等のC57
BL/6マウス5個体の実験群、ならびに、3週間の時間的経過にわたって毎日測定され
る病変の直径に基づいて開発された。本実験は、この範例に従う。
【0110】
VVを用いるマウスの鼻腔内接種が、ヒトにおける痘瘡接種の正常な経路をモデル化す
るために提案されている。8週齢のメスのBALB/cマウスの10〜10の感染多
重度での鼻腔内VV感染は、劇的な体重減少、活動の低下、および、最終的には10日以
内の死をもたらす(Readingら(2003)J.Immunol.,170:14
35−1442)。
【0111】
単独で投与されるPDあるいはSTI−Xの、VV WR感染マウスにおける、病変の
大きさに対する効果(皮内接種に関して)または死亡率に対する効果(鼻腔内接種に関し
て)を評価した。マウスの半数をPDまたはSTI−Xで処置し(ポンプを介して投与さ
れた)、コントロールマウスを、PBSまたは薬物処方物を用いて同等に処置した。初め
に、毒性作用なしに達成し得る最も高い用量のPDまたはSTI−Xを用いた。皮内で接
種されたマウスについて、病変の大きさを毎日測定した。鼻腔内で感染されたマウスにつ
いて、体重を毎日測定した。
【0112】
10日目に、マウスを屠殺し、脳および肺を採取した。体重の30%より多くを失って
いるマウスは、直ちに屠殺した。組織を3回凍結および解凍し、超音波処理し、3T3細
胞でのプラークアッセイによってウイルス力価を決定した(Readingら(2003
)J.Immunol.,170:1435−1442)。データを、ノンパラメトリッ
クMann−Whitney t−検定によって統計学的に分析し、PDまたはSTIで
処置されたマウスが、コントロールマウスと比較して有意に異なる(p<0.01)プラ
ーク形成ユニットを保有する場合、感染されたマウスにおけるウイルス負荷に薬物が影響
することを結論付ける。ウイルスの侵入および増殖が薬物処方物またはなんらかの非特異
的な手段によって遮断される可能性を除外するために、この処方物単独の効果を測定する

【0113】
鼻腔内で接種されるマウスの健康を評価するために、マウスの外見をマスク(blin
d)された観察者によって等級付けした:各々の状態に対して1点が割り当てられる:無
関心、毛羽立った表毛(最高点=2;最低点(頑健な健康)=0)。加えて、体重の結果
を、平均値+/−1標準誤差として表す。処置群は、少なくとも5個体のマウスを含む。
統計学的分析を、Mann−Whitney t−検定によって計算し、p<0.01を
有意と考える。薬物処置群が低下した病理学的評点を生ずる場合、PD治療がVV疾患の
結果に積極的に影響を及ぼすことを結論付ける。
【0114】
(併用投与)本研究は、共に投与されるPDおよびSTI−Xが、鼻腔内または皮内の
VV感染に対して、どちらかの薬物単独よりも良い保護を提供する可能性を有するか否か
を評価した。両方の薬物と匹敵する処方物を決定し、この薬物の組合せを、鼻腔内または
皮内で動物を感染させるためのAlzetポンプを介して送達した。単独で投与されるど
ちらかの薬物または薬物なしと比較した病変の大きさまたは生存率の差異を決定し、そし
て上記のように分析した。組合せが毒性であると判明する場合、これらの薬物の濃度の変
化が必要とされる。
【0115】
(VVに対する免疫の獲得の評価)本研究は、STI−XまたはPDの処置が効果的な
ワクチン接種を可能にするか否かを評価する。この薬物またはキャリアを、上記のように
接種を介して投与した。動物が回復し、薬物送達を中断している場合、この動物を再接種
する。皮内で接種を行い、続いて生じる痂皮の大きさを決定するか、またはこのウイルス
に以前に曝露されていない動物にとって致死量である用量で鼻腔内で接種を行う。瘢痕の
大きさまたは死亡率を評価し、PDまたはSTIが免疫の獲得に干渉する場合、痂皮の大
きさまたは死亡率は以前に曝露されていない動物と同様である。あるいは、公知のVVタ
ンパク質に対する血清の力価の測定、および、合併症を避けるための注意深い薬物の用量
決定が用いられ得る。
【0116】
(免疫不全患者における感染性の低下)本研究は、STI−XおよびPDが、免疫不全
個体におけるVV疾患の制限において有用であるか否かを評価する。Rag1−/−/R
ag2−/−マウスは、養子免疫応答を高める能力を有さず、重篤な感染を発症する。V
Vを用いる皮内接種が、これらの動物において、匹敵する野生型動物に比較して、さらに
重篤な疾患をもたらすか否かを評価する。そうであれば、単独または併用でのSTI−X
もしくはPDの投与が、この動物をさらに重篤な感染から保護するために役立つか否かを
分析する。
【0117】
(実験4−腸病原性E.coliおよび腸出血性E.coliはAbl−ファミリーチ
ロシンキナーゼを通してアクチンの台座様構造を形成するために作用する)
(方法)
3T3細胞を、カバーガラス上で、10%のウシ胎児血清で補充されたDulbecc
o Modified Eagles培地(DMEM)中で培養し、WT EPEC(株
2389/69)を感染多重度10で用いて、または、EHEC EDL933もしくは
EHEC−LiSTXを感染多重度40で用いて、6〜8時間37℃でインキュベートし
た。いくつかの実験のために、細胞を、感染の3日間前にプラスミドベクターを用いてF
ugene−6(Berhringer)を使用してトランスフェクトした。
【0118】
細胞を免疫蛍光解析またはWestern解析のために処理した。EPECを4’6−
ジアミノ−2−フェニルインドール(DAPI;1μg/ml;Sigma)を用いる染
色によって認識し、台座様構造をFITC−ファロイジン(1μg/ml;Molecu
lar Probes)を用いる染色によって認識した。染色の前に、数種類のpAbを
前もってホルムアルデヒド中で固定されたEPECまたはEPEC−Δ−Tirと共に2
0分間インキュベートし、次いで遠心した。この手順は、非特異的にEPECに結合する
上清夾雑物を除去した。
【0119】
本研究において使用された一次抗体および濃度は以下のようである:α−WASP p
Ab(アフィニティ精製済、1:200希釈)、α−血球凝集素A(HA)mAb(3F
10;0.01μg/ml;Roche Diagnostics)、α−Nck mA
b(1μg/ml;Oncogene Science,Cambridge,MA)、
α−Abl mAb(AB3;過剰発現Ablタンパク質に対して0.5μg/ml;内
因性Ablタンパク質に対して50μg/ml;8E9;0.05μg/ml;BD P
harMingen,San Diago,CA)、α−Tir pAb(1:2000
、顕微鏡法用;1:50,000、Western解析用;Jim Kaper,Uni
versity of Maryland,College Park,MDより)、お
よびα−Src pAb(0.1μg/ml;Santa Cruz Biotechn
ology,Santa Cruz,CA)、ならびにα−Abl−pY412 pAb
およびα−Abl−pY245 pAb(0.1μg/ml;Cell Signali
ng Technology,Beverly,MA)。外因性c−Abl−WTを発現
する細胞を、より低いα−Abl mAb濃度での比較的高い蛍光強度によって区別した
。従って、内因性c−Abl様タンパク質を検出するために使用される曝露よりも著しく
短時間の曝露によって画像を得た。二次抗体を、Jackson ImmunoRese
arch Laboratories(West Grove,PA)より得た。
【0120】
PD化合物であるPD166326およびSKI−DRV−1−10を、本明細書中の
別の場所で記載されるように合成し、これらの化合物の効果は全てのアッセイにおいて識
別不能であった。PD化合物およびPP2を、100%のDMSO中に溶解した。前処理
実験のために、PD、PP2、またはDMSOを、細菌による感染の一時間前に細胞に加
えた。「リバーサル」実験のために、化合物またはDMSOを、細菌の添加の5時間後に
細胞に加え、これらの細胞をその2時間後に固定した。
【0121】
画像を、多重波長の広視野三次元顕微鏡システム(Intelligent Imag
ing Innovations)に備え付けた科学等級の冷却型電荷結合素子を用いて
得た。免疫蛍光サンプルを、サンプルを通して連続的な0.25μmの焦点面で画像化し
、焦点外の光を、強制的双方向逆重畳アルゴリズムによって除去した。PDおよびPP2
の効果を定量化するために、台座様構造がFITC−ファロイジンによってアクチンフィ
ラメントより強く染色されたことに注意した。強度に基づいて画像をセグメント化した。
台座様構造に対する最高強度のピクセルの対応を、可視的に確認した。高ピクセル強度と
台座様構造とが一致し得なかった場合は、適宜調整した。最高強度のピクセルによって占
められる面積を、次いで計算した。各々の条件について、同じ日に平板培養され感染され
た細胞からデータを得た。各々の実験を5回繰り返した。平板培養の密度および感染効率
の変動に起因する、最大の台座様構造面積の多少の分散は、実験の間で明らかであった。
【0122】
(結果)
(トランスフェクトされたc−AblおよびAblに類似する内因性タンパク質は、ア
クチンの台座様構造において局在する)EPEC Tirのリン酸化が宿主において病原
性プログラムの引き金を引くので、本実験は、このプロセスに関与するチロシンキナーゼ
を同定することを目指す。Ablに類似する内因性タンパク質が台座様構造において局在
するか否かを決定するために、3T3細胞をEPECまたはEHECに曝露し、次いで、
C−末端中の未決定(undefined)のエピトープを認識するα−Ablモノクロ
ーナル抗体(mAb)AB3を用いて染色した。台座様構造は、細菌に直接向かい合う強
いアクチン染色として見られた。α−AbI−AB3 mAbによって認識される内因性
タンパク質は、細胞質に比べて台座様構造において濃縮された。EPECおよびEHEC
の両方の台座様構造中のキナーゼドメインのエピトープを認識するα−Abl−8E9
mAbを用いて、同一の結果を得た。外因性に発現される血球凝集素A(HA)標識Ab
l(HA−Abl)(α−HA−3F10 mAbによって認識される)もまた、EPE
CおよびEHECの台座様構造において局在した。Abl様タンパク質の台座様構造にお
ける局在は特異的であった:α−Src pAbによって検出される内因性および外因性
のSrc様タンパク質のいずれも、またグリーン蛍光タンパク質の蛍光も、EPECまた
はEHECの台座様構造において細胞質に比べて濃縮されなかった。
【0123】
Ablと共通のエピトープを共有する内因性タンパク質が、台座様構造において局在す
るか否かを決定するために、AblおよびAbl関連キナーゼArgの両方を欠失するマ
ウス由来の3T3細胞を感染させた。EPECおよびEHECの両方は、依然Abl−/
/Arg−/−細胞において台座様構造を形成し得、α−Abl−AB3によって認識
されるがα−Abl−8E9によっては認識されないタンパク質は、細菌の下で明らかで
あった。総合して、これらの結果は、Ablは台座様構造において局在するが、抗原性が
関連する他のタンパク質もまた存在することを示唆した。
【0124】
(AblおよびAbl関連キナーゼを遮断するPD化合物は、台座様構造形成を遮断し
、逆転する)次に、AblまたはAbl様タンパク質が、EPECまたはEHECによっ
て開始される台座様構造形成のために必要とされるか否かを決定した。なぜならば、Ab
−/−/Arg−/−細胞は台座様構造を形成し得るからである。Ablおよび構造的に
関連するタンパク質の両方を標的とするアプローチを選択した。ピリド[2,3−d]ピ
リミジン(PD)化合物は、Ablおよび相同なATP結合ドメインを有するキナーゼへ
のATPの結合を競合的に阻害し、異常調節されたAblによって引き起こされる癌(例
えば、CML)を処置するために開発されている。PD処理を用いた場合、結合したEP
ECまたはEHECはほとんど明らかでなく、インキュベーションを延長した場合(8時
間まで)ですら、結合した菌体の下でアクチンはほとんど明らかでないか、全く明らかで
なかった。5μMより低い濃度のPDは、効果を有さなかった。
【0125】
台座様構造の定量は、PD処理がEPECおよびEHECの台座様構造形成を50倍減
少させることを示した(図6)。図6は、前処理レジメンまたはリバーサルレジメンに従
って、DMSO、10μMのPD166326、または10μMのPP2を用いて処理さ
れたEPECについての、最も強い強度のピクセルによって占有された領域を示す。PD
のアナログ(SKI−DV−1−10[DRV−1]:10μM)は、EPECの台座様
構造形成を遮断したが、STI−571(25μM)はEPECの台座様構造形成を遮断
しなかった。EPECの増殖は、PD166326を用いる処理によって影響を及ぼされ
なかった。EPECを、0.1%のDMSO(X)または25μMのPD(Δ)のいずれ
かを用いて培養し、示した時点でOD 600を測定した。
【0126】
PD化合物はまた、一部のSrcファミリーキナーゼを阻害するので、Srcファミリ
ーキナーゼを阻害するがAbl関連キナーゼを阻害しないPP2の効果を試験した。10
0μMまでの濃度でのPP2(試験した最高濃度)、またはキャリアであるDMSO(0
.1%)は効果を有さなかった。AblとSrcまたは他のキナーゼとの間の機能的重複
について試験するために、Abl−/−/Arg−/−細胞におけるこれらのインヒビタ
ーの効果を評価した。野生型細胞においてのように、PDは台座様構造を阻害するがPP
2は台座様構造を阻害しなかったことを試験した。台座様構造が存在しないことは、PD
の殺菌性効果に起因しない。なぜならば、EPECもしくはEHECの増殖または変異性
に対する効果は明らかでなかったからである。PDの効果はまた、アクチン重合の非特異
的な阻害にも起因しない:PDは、Listeria monocytogenesが、
結合、侵入、またはアクチンのコメットテイルを形成する能力に対して効果を有さなかっ
た。総合して、これらのデータは、Abl、またはPDに感受性である機能的に重複する
キナーゼが、台座様構造形成を仲介することを示す。
【0127】
次に、結合したEPECおよびEHECの下での、Tir、Nck、N−WASP、ま
たはArp2/3複合体の局在に、PDが影響を及ぼすか否かを試験した。Tirは、結
合した菌体の下の台座様構造において局在し、感染の3時間以上後のWestern解析
によって検出可能であった。PD処理を用いた場合、台座様構造が存在しないにも関わら
ず、Tirタンパク質は結合したEPECまたはEHECの下で検出可能なままであった
。Nck、N−WASP、およびArp2/3複合体はEPECの台座様構造形成のため
に必要であり、Tirのように台座様構造において局在するが、EPECの下でのNck
、N−WASP、およびArp2/3複合体の動員は、PDによって遮断された。
【0128】
(Tirのリン酸化はPD化合物によって遮断され逆転される)台座様構造、ならびに
、Nck、N−WASP、およびArp2/3複合体の動員は、Y474でリン酸化され
たTirに依存するので、次に、PDがTirのリン酸化に影響を及ぼすか否かを決定し
た。図7に示すように、細胞をDMSOまたはPDを用いて処理し、非感染のままでおく
(0h)か、またはEPECを用いて、示した時間にわたって感染させた。細胞を溶解し
、α−リン酸化チロシンmAb 4G10と共にWestern解析に供し、抗体除去(
strip)し、次いでα−Tir pAbを用いて再試験(reprobe)した。T
irタンパク質が3時間後に明らかであり、DMSO処理細胞においてリン酸化されてい
ること、およびPDがTirのリン酸化を遮断することを注意されたい。逆転条件のため
に、細胞を非感染のままでおく(レーン1)か、またはEPECを用いて6時間感染させ
、示した時間にわたってPDを用いて処理し、そして解析した。Tirに対応するバンド
が、PDの添加の5分以内に脱リン酸化されていることに注意されたい。
【0129】
これらの結果は、PDが、Tirのリン酸化を遮断することによって、ならびにその結
果として、アクチンの重合のために必要とされる遠位のシグナル分子(例えば、Nck、
N−WASP、およびArp2/3複合体)の動員を遮断することによって、EPECの
台座様構造形成を遮断することを示唆する。PDはまた、これらの分子が局在する能力に
影響を及ぼす。
【0130】
(Ablは、他のAbl関連キナーゼの非存在下において、Tirのリン酸化および台
座様構造形成のために十分である)台座様構造内でのAblの局在は、Tirのリン酸化
およびアクチンの重合における役割を示唆したが、Abl−/−/Arg−/−細胞が台
座様構造形成を可能にするという観察、およびPDの広範囲な基質特異性は、他のキナー
ゼもまた関与し得ることを示唆する。次に、チロシンのリン酸化または台座様構造形成の
ために、PD感受性キナーゼのうちでAblキナーゼが十分であるか否かを決定した。こ
の研究は、CML患者によって後天的に得られる、このタンパク質をSTI−571また
はPDによる阻害に対して耐性にする、BCR−Abl(T3151)中の変異を利用す
る。このT3151変異を、c−Abl(cAbl−3151)中へ操作した。PD中で
培養された細胞におけるcAbl−T3151の発現は、EPECおよびEHECの台座
様構造形成、ならびに、結合した菌体の下のリン酸化チロシンの局在を回復した。c−A
bl−T3151の発現もまた、台座様構造が形成された後にPDを加えた場合の、台座
様構造におけるチロシンのリン酸化の喪失を妨げた。c−Ablの過剰発現は、高レベル
においてですら、PD中で台座様構造形成を回復させるために十分ではなく、PDによっ
て誘導されるリン酸化の喪失の遮断するためにも十分ではなかった。このことは、c−A
bl−T3151の効果は、PDの低親和力結合および滴定ではなく、c−Abl−T3
151のキナーゼ活性に起因したことを示唆する。
【0131】
(AblまたはAbl関連キナーゼの公知の基質は、EPECおよびEHECの台座様
構造において局在する)EPECのTirがAblの基質であるか否かを試験するために
、単離中にTirが脱リン酸化されるようになる条件下で前もってEPECを用いて感染
させた細胞から、Tirを免疫沈降した。Tirの存在を、α−Tir pAbを用いる
ウェスタンブロットによって評価し、リン酸化チロシンを4G10 mAbを用いて検出
した。ATPならびに精製されたAblキナーゼの、免疫沈降されたTirへの添加は、
Tirのチロシンのリン酸化をもたらし、PDの添加は、Tirのリン酸化を遮断した。
Tirのチロシンリン酸化部位がAblの標的において見られるチロシンリン酸化部位と
類似しているか否かもまた、評価した。CrkIIはAblによってY221でリン酸化
され、CrkIIのリン酸化されたY221を認識するpAbはまた、リン酸化されたT
irも認識する。従って、AblはEPECのTirをインビトロで直接的にリン酸化し
得、Tirのリン酸化部位は、公知のAblの基質において見られるリン酸化部位と類似
している。
【0132】
(結論)
総合して、これらの結果は、c−Ablの活性は、チロシンキナーゼのうちで、EPE
CまたはEHECによって、およびEPECのTirのリン酸化によって開始される台座
様構造形成のために十分であることを示唆する。Abl−/−/Arg−/−細胞を用い
る場合の結果は、PDに対して感受性であり、台座様構造において局在する能力およびT
irまたは他の台座様構造タンパク質をリン酸化する能力をc−Ablと共有する、他の
チロシンキナーゼもまた、充足し得ることを示唆する。実際に、チロシンキナーゼの間の
機能的重複は、Ablファミリーメンバーの間ですら、よく認識される。これらの研究は
、EHECの台座様構造形成におけるチロシンのリン酸化に関する役割を同定する最初の
結果、および、EPECまたはEHECのいずれかのシグナル伝達のために十分であるチ
ロシンキナーゼの最初の記載を提供した。これらの結果は、PDまたは関連化合物が、E
PECおよびEHECの感染を処置するまたは予防するために有用であり得ることを示す

【0133】
(実験5−C.rodentiumはEPECの有用なモデルである)
マウスにおけるC.rodentium感染が、人におけるEPEC感染の有用なモデ
ルであるか否かを決定するために、C.rodentiumがEPECと同じ機構によっ
て台座様構造形成を引き起こすか否かが問題である。Tir、リン酸化チロシン、Nck
、N−WASP、Abl、およびArp2/3複合体は全てがC.rodentiumの
台座様構造中に局在することを見出した。さらに、C.rodentiumは、N−WA
SP欠損マウス由来の線維芽細胞で台座様構造を形成し得なかった。次に、C.rode
ntiumの台座様構造がPDに対して感受性であるか否かを決定した。PDは、実際に
、C.rodentiumの台座様構造を遮断し、「逆転」した。総合して、これらの結
果は、EPECおよびC.rodentiumによって同じ機構で誘導される台座様構造
は、PDによって遮断され、逆転されることを示唆する。
【0134】
(実験6−マウスにおける薬物の投与および検出)
本発明の化合物のマウスにおける効力を試験するために、PDおよびSTIをマウスに
導入する手段、および血清中のこの化合物を検出する手段を開発した。加えて、インビボ
でのVVについてのLD90を決定した。
【0135】
20μlの10pfu/mlのVV株WRを用いる鼻腔内接種は、ほぼ100%のマ
ウスを6日以内に殺すが、20μlの10pfu/mlは、約50%のマウスを殺し、
公開された報告と概して一致している(Readingら(2003)J.Immuno
l.,170:1435)。100mg/kg/日までのSTI−571を用いる腹腔内
注射(生理食塩水中)または30mg/kg/日までのPD−166326(31%のP
EG400/31%のDMSO/38%の生理食塩水中)は、マウスにおいて、試験した
最長期間である10日間まで、高い耐性を有した。STI−571について、用量は、ヒ
トにおいてCMLを処置するために使用される用量より10倍高かったが、この動物がこ
の化合物に対して耐性を有する能力に基づいて選択された。この動物は実際に耐性であっ
た(Drukerら(2001)Chronic myelogenous leuke
mia.Hematology(Am Soc.Hematol.Educ.Progr
am):87;WolffおよびIlaria(2001)Blood,98:2808
)。薬物のレベルは、必要とされる最少量を決定するために容易に滴定され得る。薬物単
独を用いた場合、マウスは10日の期間にわたって体重減少の徴候を示さず、剖検で顕性
の病原性を有さなかった。HPLC/質量分光分析を用いて、注射された動物の血清中の
PDを、30ng/mlもの低い濃度で検出することが可能となっている。PDについて
の標準曲線は1000ng/mlから30ng/mlまでの直線である(図8A)。必要
とされるサンプル容積は30μlである。PDを、分子量(イオン電流)に基づいて検出
した。
【0136】
血漿サンプルを、PDを濃縮し血漿タンパク質を除去するために固相抽出に供し、Zo
rbax Stable Bond C8カラムで溶離し、MS(427でのAPCI陽
性SIM)においてモニタリングした。MSの読み取り値(readout)をカラムで
の保持時間の関数としてプロットする。第一のピークは内部キャリブレーション基準であ
り、第二のピークはPDである(図8B)。
【0137】
感染マウスにおけるウイルス負荷を定量するため、リアルタイムPCRアッセイを利用
し、組織サンプル中の7コピーまで少ないVVを検出した。卵巣または脳および他の器官
を、プロテアーゼKを用いて分解し、DNAを抽出し、精製した(Quiagen)。こ
のDNAの内容物を正規化し、等量のDNAをVV WR特異的プライマーおよびTag
man/FAM色素/消光剤系と共にリアルタイムPCR(I−cycler)に供した
。サンプル中のDNAの量を、公知のVVのDNA基準を用いてキャリブレーションした
。この方法を用いて、STI−571で処置されたマウスにおけるウイルス負荷は、未処
置のマウスにおいて見られたウイルス負荷より6桁の規模で低かった。
【0138】
(実験7−C.elegansのスクリーニングは宿主における新規の薬物標的を定義
する)
EPECおよびEHECの病因の研究は、E.coliのK12と比較して1387個
の獲得および528個の欠損を含む、非常に複雑なゲノムによって、および、提案される
ビルレンス要因の多くについて機能的アッセイがないことによって、制限される(Per
naら(1998)Infect.Immun.66:3810)。ここで、EPECお
よびEHECの病因が線虫C.elegansにおいて研究され得る手段が同定された:
特定の発育条件下で、この細菌は線虫を殺した。この殺虫は、ヒトの疾患に関連がある。
なぜならば、ヒトにおいて非病原性である細菌変異体もまた、線虫を殺さないからである

【0139】
他の微生物による殺虫に対して耐性を与えることが公知である変異体の線虫のスクリー
ニングにおいて、C.elegansの寿命を延長するdaf−2遺伝子が、EPECお
よびEHECによる殺虫に対する耐性を与えることが見出された(Dormanら(19
95)Genetics,141:1399;Murphyら(2003)Nature
,424:277)。これは、EPECまたはEHECの病因を研究するために利用可能
な、最初に明らかにされた遺伝子系である。両方の生物が遺伝子的に操作され得るので、
この系は、宿主および病原体の両方における変異体を同定して特徴付ける能力を提供する
。この系は、EPECおよびEHECの病因のC.elegansにおける研究を可能に
し、この研究は、線虫および哺乳動物の宿主において、新規の細菌のビルレンス要因およ
びそのような要因の標的の同一性を生じ得る。
【0140】
(実験8−PDは、インビトロでポリオーマウイルスの複製をブロックする)
ポリオーマウイルスタンパク質Middle T(MT)は、このウイルスが高レベル
の増殖性の感染を生じ、インビトロで細胞を形質転換し、そしてマウスの感受性系統にお
いて腫瘍を生成するために必須である。MTは、宿主細胞のキナーゼc−Src、c−F
ynおよびc−Yesを補充し、それらに結合し、そしてそれらを活性化するII型内在
性膜タンパク質である。多くのインビトロ研究およびインビボ研究は、これらのチロシン
キナーゼに結合し、そして活性化させるMTの能力が、ウイルスの増殖促進機能および発
癌機能のために必要であることを確証した。実質的に、全てのヒトは、2つの公知のヒト
ポリオーマウイルス(JCVおよびBKV)の各々に永続的に感染している。
【0141】
ヒトポリオーマウイルスは、MTタンパク質をコードしないが、相同的なタンパク質s
mall T(ST)が存在する。他のウイルス(例えば、EBV)もまた、Srcキナ
ーゼを標的とする(Longneckerら(1991)J.Virol.65:368
1)。
【0142】
本実験において、3T3細胞へのポリオーマウイルスの細胞変性効果に対するPDおよ
びSTI−571の効果を評価した。PDおよびSTI−571の両方は、細胞変性効果
を阻害した。3T3細胞の単層を、感染させないままにしたか、または5日間ポリオーマ
ウイルスにより感染させた。感染させた群の細胞を、以下の条件に分けた:DMSO(P
Dのためのキャリア);10μM STI−571;および1μM PD166326。
ポリオーマ感染は、DMSOの群において細胞死を引き起こしたが、STI−571およ
びPDの添加は、死滅の程度を減少させた。したがって、これらの結果は、これらの化合
物が、ポリオーマウイルス感染のインヒビターとして有用であることを示す。
【0143】
(実験9−STI−571は、インビトロでHIVの複製をブロックする)
本実験では、HIVの複製に対するSTI−571の効果を調べた。培養マクロファー
ジを、培地、HIV−Bal、種々の用量のSTI−571、またはHIV−1 Bal
との組み合わせた種々の用量のSTI−571のいずれかにより感染させた。ウイルス複
製(p24レベルにより測定される)は、STI−571の添加により、用量依存的な様
式で1/4にまで減少した(表1)。これらの結果は、STI−571が、HIV感染の
インヒビターとして有用であることを示す。
【0144】
【表1】


(実験10−チロシンキナーゼインヒビターの開発)
本実験では、多数の生物学的に関連するチロシンキナーゼ(Abl、PDGFRおよび
Src)に対する新規の強力なインヒビターを開発することを目論んだ。STI−571
とピリド[2,3−d]ピリミジンとを誘導体化(derivitize)した(Goo
sneyら(2000)Ann.Rev.Cell Dev.Biol.,16:173
;Knuttonら(1989)Lancet 2:218)。これらの誘導体を、異な
る所望の特徴(可溶性の最適化、単なる薬物動態特性および薬理学特性、ならびに微生物
の病因に影響するキナーゼをブロックするが、免疫クリアランスに影響するキナーゼをブ
ロックしないことにおける特異性が挙げられる)に基づいてスクリーニングした。このよ
うなスクリーニングに基づいて、STI−571を同定した(上記実験2を参照のこと)
。これらの結果は、STI−571とピリド[2,3−d]ピリミジンとを誘導体化する
ことが、新規の特異性または望ましいインビボ特性を有する分子をもたらし得ることを示
す。
【0145】
(実験11−インビトロでのTBの病因に対するチロシンキナーゼインヒビターの効果

本実験は、選択されたチロシンキナーゼインヒビターが、Mycobacterium
tuberculosis(TB)(結核の病原体)の病因に影響し得るか否かに焦点
を当てた。培養されたヒトマクロファージ(株THP−1)へのTBの侵入を、基本的に
MillerおよびShinnick(2001)、BMC Microbiol.、1
:26に記載されるように実行した。簡潔に言うと、TB培養物を、30分間〜2時間の
間、この細胞に添加した。次に、アクチノマイシンDを、この培養物に添加し、細胞外に
残るあらゆる細菌を殺した。それから、このアクチノマイシンDを洗い流し、この細胞を
溶解させ、陥入した細菌を遊離させた。次に、この溶解物を、細菌用プレートにプレート
し、そして回収されたコロニーの数を数えた。実験を、100nM〜10μMの範囲の濃
度(他のEPECアッセイおよびVVアッセイにおいて有効であることが示されている濃
度)のPD、STI−571の添加を伴うか、または伴わないで実行した。
【0146】
コロニー数は、侵入が阻害されたか否かについての指標であった。細胞増殖アッセイお
よびトリパンブルー排除を使用し、マクロファージが、これらの薬物により悪影響を及ぼ
されていないことを確かめた。結果は、STI−571がM.tuberculosis
の細胞内の生存を増大させることを示唆した(図9)。これらの結果は、チロシンキナー
ゼインヒビターが、TB感染を阻害することにおいて有用であることを示す。
【0147】
本明細書に記載される本発明の多くの変更および他の実施形態は、本発明が属する技術
分野における当業者に想到し、上記の説明および付随する図面に示される教示の利益を有
する。したがって、本発明は開示される特定の実施形態に限定されず、かつ変更および他
の実施形態は、添付の特許請求の範囲に含まれることが意図されることが理解されるべき
である。本明細書において、特定の用語が使用されるが、それらは、一般的かつ記述的な
意味においてのみ使用され、かつ限定の目的のためではない。さらに、本明細書および添
付の実施形態において使用されるように、単数形の「a」、「an」および「the」は
、文脈が明確にそうでないことを指示しない限り、複数の対象を含むことが注意されるべ
きである。
【0148】
本明細書で言及される全ての刊行物および特許出願は、本発明が属する技術分野におけ
る当業者のレベルを表す。全ての刊行物および特許出願は、それぞれ個々の刊行物または
特許出願が、参考として援用されるために、詳細かつ個別に示されるような同一の範囲に
ついて、本明細書において参考として援用される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−202674(P2010−202674A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144115(P2010−144115)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【分割の表示】特願2006−551238(P2006−551238)の分割
【原出願日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(598038968)エモリー・ユニバーシティ (19)
【出願人】(399026731)スローン − ケタリング・インスティテュート・フォー・キャンサー・リサーチ (15)
【Fターム(参考)】