説明

痛覚刺激緩和剤

【課題】 医科手術又は脱毛処理において、瞬間的な痛覚刺激を緩和する方法を提供することを課題とするものである。
【解決手段】 0.1乃至50質量%のカテキン類を含有する痛覚刺激緩和剤及びそれを配合してなる脱毛剤を提供することにより、課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は痛覚刺激緩和剤に関するものであり、とりわけ、カテキン類を配合してなる痛覚刺激緩和剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
皮膚には、刺激を感知する感覚器として、痛点や毛が存在している。痛点や毛は、圧力、高熱、低温などの外界からの刺激を痛覚として認識する。痛覚刺激の認識は、生体の異常を知るために重要であるが、医科手術や脱毛処理においては、耐え難い不快感となり、なんらかの処理により痛覚刺激を緩和することが望まれている。
【0003】
皮膚における痛覚刺激の緩和方法としては、通常、リドカインなどの局部麻酔剤が使用される。しかしながら、麻酔剤は、重篤な副作用が発生する危険性が高く、慎重に取り扱われる必要があり、通常、医師による使用に制限されている。脱毛器具などが一般消費者に普及し、美容のための脱毛処理が日常的になった今、一般消費者でも使用可能でかつ安全な痛覚刺激を緩和する方法が求められている。
【0004】
一方、カテキン類は、特許文献1乃至3では、それを含有する松樹皮抽出物がエラスターゼ阻害剤、コラゲナーゼ阻害剤、又は、チロシナーゼ阻害剤として、特許文献4ではメイラード反応阻害剤として、特許文献5では光毒性抑制剤として、特許文献6では抗酸化剤として、特許文献7ではプロテアーゼ阻害剤として、皮膚外用剤の有効成分として利用されている。しかしながら、その使用目的は、皮膚における痛覚刺激を緩和するものではない。
【0005】
【特許文献1】特開2004−359589
【特許文献2】特開2004−238426
【特許文献3】特開2004−238425
【特許文献4】特開2002−293736
【特許文献5】特開2000−319154
【特許文献6】特開平6−65044
【特許文献7】特表2003−528904
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
斯かる状況に鑑み、この発明は、医科手術又は脱毛処理において、瞬間的な痛覚刺激を緩和する方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、痛覚刺激を緩和する物質を鋭意研究したところ、カテキン類を皮膚に塗布することにより、皮膚における瞬間的な痛覚刺激を緩和することができることを見い出し、本発明を完成するにいたった。
【0008】
すなわち、この発明は、カテキン類を含有してなる、痛覚刺激緩和剤を提供することによって前記課題を解決するものである。
【0009】
さらに、本発明は、上記痛覚刺激緩和剤が配合されてなる脱毛剤を提供することによって、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、皮膚における痛覚刺激、とりわけ、毛包部付近で発生する瞬間的な痛覚刺激を緩和する効果が発揮される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、カテキン類を含有する痛覚刺激緩和剤に関するものである。本発明の緩和剤に含有されるカテキン類は、茶などの植物に含まれる渋味を有するポリフェノール性物質の総称であり、具体的には、(−)−カテキン、(+)−カテキン、(−)−エピカテキン、(+)−エピカテキン、(−)−エピカテキン−3´−O−メチルエーテル、(−)−エピカテキン−4´−O−メチルエーテル、(−)−エピガロカテキン、(−)−エピガロカテキン−3´−O−メチルエーテル、(−)−エピガロカテキン−4´−O−メチルエーテル、(−)−ガロカテキン、(−)−カテキンガレート、(−)−エピカテキンガレート、(−)−エピカテキン3−(3´´−O−メチル)ガレート、(−)−エピカテキン3−(4´´−O−メチル)ガレート、(−)−エピガロカテキンガレート、(−)−エピガロカテキン3−(3´´−O−メチル)ガレート、(−)−エピガロカテキン3−(4´´−O−メチル)ガレート、(−)−エピガロカテキン−3´−O−メチルエーテル、(−)−エピガロカテキン−4´−O−メチルエーテル、(−)−ガロカテキンガレート、テアフラビン、3−O−テアフラビンガレート、3´−O−テアフラビンガレート、3,3´−ジ−O−テアフラビンガレートなどが挙げられ、このうち、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート又はエピガロカテキンガレートは比較的効果が高く、本発明に好ましく用いられる。カテキン類は、本発明の効果を示すかぎり、その種類、純度、由来、製法を問わず、茶などの植物から抽出して得ることも、市販品を用いることもできる。市販品としては、三井農林株式会社販売の商品名『ポリフェノン70A』は、カテキン類を80%以上の高濃度で含有しており、(−)−エピカテキン、(−)−エピガロカテキン、(−)−エピカテキンガレート又は(−)−エピガロカテキンガレートの含量が高く、本発明に有利に利用できる。また、カテキン類は、皮膚に塗布されることにより、皮膚上皮や毛穴から皮膚の深部に浸透して、将来的に起こり得る瞬間的な痛覚刺激を緩和する。とりわけ、皮膚の深部まで容易に浸透可能な毛穴のある皮膚部分や、毛穴における毛包部付近において、有利に痛覚刺激を緩和する。よって、本発明の緩和剤は、脱毛処理に起因する瞬間的な痛覚刺激を緩和することに有利に用いられる。
【0012】
上記カテキン類は、適宜の置換基により修飾されたものであっても用いることができる。例えば、カテキン類の水溶性や安定性を高めるべく、糖類を人為的に結合させて作製したカテキン配糖体を用いることができる。また、皮膚への浸透性、徐放性などを高めたカテキン誘導体も有利に利用できる。また、茶などの植物から抽出したカテキン類は、酸化重合体を形成している場合があり、皮膚への浸透性を考慮すると好ましくない。この場合、超音波処理や、酸などにより分解処理することができる。本発明の緩和剤に配合されるカテキン類の含有量としては、使用形態に応じて適宜調整すればよいが、通常、0.1乃至50質量%、好ましくは、1乃至40質量%、さらに好ましくは、5乃至30質量%である。
【0013】
本発明の痛覚刺激緩和剤に配合されるアルコール類としては、人体に害を与えないものならいずれも用いることができ、通常、エタノールが用いられる。アルコール類は、カテキン類を溶解して、カテキン類が皮膚に浸透しやすくするとともに、皮膚の軟化、冷却、消毒の効果を有しており、本発明の緩和剤の効果を増強する。本発明の緩和剤に配合されるアルコール類は、通常、濃度5乃至99v/v%の水溶液として用いられるが、全く水分を含まない純品であってもよい。本発明の緩和剤に配合されるアルコール類の含有量は、剤に含有させるカテキン類の濃度により適宜調節すればよいが、通常、1乃至90質量%、好ましくは5乃至50質量%、さらに好ましくは10乃至含30質量%である。
【0014】
本発明の痛覚刺激緩和剤は、本発明の効果を損ねない範囲で、皮膚外用剤に適用可能な成分を適宜配合することができる。それらの成分としては、保湿剤、美白剤、抗炎症剤、抗酸化剤、細胞賦活化剤、経皮吸収促進剤、皮膚軟化剤などの1種または2種以上を併用することができる。
【0015】
保湿剤としては、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、へパリンなどのムコ多糖及びその誘導体やそれらの塩類、コラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン、ケラチン、ゼラチン、カゼインなどから選ばれるタンパク質及びそれらの部分ペプチド、グリシン、アラニン、バリン、セリン、スレオニン、メチオニン、フェニルアラニン、ロイシン、チロシン、プロリン、イソロイシン、トリプトファン、ヒドロキシプロリン、テアニン、オルニンチン、シトルリン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、アルギニン、ヒスチジン、リジン、ヒドロキシリジン、システイン、シスチン、アシルグルタミン酸、γ−ポリグルタミン酸などから選ばれるアミノ酸及びそれらの誘導体、キシロース、グルコース、フラクトース、マルトース、蔗糖、ラクトース、パラチノース、トレハロース、α−グリコシルトレハロース、環状四糖、異性化糖、マルトオリゴ糖、デキストリン、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、ガラクトシルグルコシド、ラクトスクロース、澱粉などの糖質、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、イソマルチトール、ラクチトール、パニトールなどの糖アルコール、プルラン、アルギン酸ナトリウム、寒天、アラビアガム、グアガム、トラガカントガム、キサンタンガム、カラギーナン、ローカストビーンガムなどのガム、ペクチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニールアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリデキストロース、ポリアクリル酸などの水溶性高分子、ショ糖エステル、デキストリン誘導体、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、アミレングリコールなどの多価アルコール、N−(ω−アシルオキシ)アシルスフィンゴシン、N−アシルスフィンゴシン、N−アシルフィトスフィンゴシンなどのセラミド、ホスファチジド酸、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジル−N−メチルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジル−O−アミノアシルグリセロール、3´−O−リシルホスファチジルグリセロール、ホスファチジルグリセロリン酸、ジホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルイノシトール一リン酸、ホスファチジルイノシトール二リン酸、モノアルキルモノアシルグリセロリン脂質、ジアルキルグリセロリン脂質、モノアルケニルモノアシルグリセロリン脂質、ジアルケニルグリセロリン脂質、セラミドリン酸、スフィンゴミエリン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロール、セラミドシリアチン、セラミド−N−メチルシリアチンなどのリン脂質、モノグリコシルジグリセリド、ポリグリコシルジグリセリド、モノガラクトシルジグリセリド、ポリガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルグルコシルジグリセリド、セレブロシド、セラミドラクトシド、セラミドヘキソシド、グロボシド、ヘマトシド、ガングリオシド、ステロール配糖体、カルデノリド配糖体、サポニン、ステロイドアルカロイド配糖体、ラムノリピド、ソホロリピド、ミコシド、トリアシルグルコース、ジアシルトレハロース、リピドAなどの糖脂質、ホスファチジルグルコサミニルグリセロール、ホスファチジルイノシトールポリマンノシド、グリセロホスホリルジグルコシルジグリセリド、CDP−ジグリセリド、フィトグリコリピドなどのリン糖脂質、コンブ、サンゴモ、ワカメなどの海藻、アロエ、ローズマリーなどの保湿効果のある植物又は植物由来の成分などを挙げることができる。このうち、トレハロースは、保湿効果を発揮するだけでなく、カテキン類による痛覚刺激緩和作用を高めることができるので、本発明の痛覚刺激緩和剤に有利に配合される。トレハロースの配合量としては、通常0.01乃至20質量%、好ましくは0.1乃至10質量%、特に好ましくは、0.5乃至5質量%である。
【0016】
美白剤としては、乳酸、エラグ酸、トラネキサム酸、フィチン酸、グルタチオン、ハイドロキノン、アルブチン、カモミラET、ルシノール、アスコルビン酸またはそれらの誘導体、カミツレエキスまたはモラシズエキスなどの美白効果を持つ植物又は植物由来成分、イオウなどの無機物などが挙げられる。このうち、アスコルビン酸又はその誘導体は、美白効果を発揮するだけでなく、カテキン類による皮膚における痛覚刺激を緩和する作用を高めることができるので、本発明の痛覚刺激緩和剤に有利に配合される。アスコルビン酸又はその誘導体の配合量としては、通常、0.001乃至10質量%、好ましくは0.01乃至5質量%、さらに好ましくは0.01乃至1質量%である。
【0017】
抗炎症剤としては、例えば、アラントインアセチル−dl−メチオニン、アラントインクロルヒドロキシアルミニウム、アラントインジヒドロキシアルミニウム、アラントインポリガラクツロン酸などのアラントイン又はその誘導体、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸アラントイン、グリチルレチン酸グリセリン、グリチルレチン酸ステアリル、ステアリン酸グリチルレチニル、3−サクシニルオキシグリチルレチン酸二ナトリウム、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウムなどのグリチルレチン又はその誘導体、パントテニルアルコール、パントテニルエチルエーテル、アセチルパントテニルエチルエーテル、ベンゾイルパントテニルエチルエーテル、パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウム、アセチルパントテニルエチルエーテル、安息香酸パントテニルエチルエーテルエステル、パンテチンなどのパントテン酸又はその誘導体、ビタミンE又はその誘導体、塩酸ピリドキシン、メントール、ビオチン、カンフル、テレピン油、酸化亜鉛、アズレン、グアイアズレン及びその誘導体、メフェナム酸及びその誘導体、フェニルブタゾン及びその誘導体、インドメタシン及びその誘導体、イブプロフェン及びその誘導体、ケトプロフェン及びその誘導体、ε−アミノカプロン酸、ジクロフェナクナトリウム、ジフェンヒドラミン、トラネキサム酸及びその誘導体、デキサメタゾン、コルチゾン及びそのエステル、ヒドロコルチゾン及びそのエステル、プレドニゾン、プレドニゾロンなどの副腎皮質ホルモン、抗ヒスタミン剤、カンゾウエキス、カミツレエキス、藍などの植物抽出物が挙げられる。
【0018】
抗酸化剤としては、ビタミンA及びそれらの誘導体、ビタミンB及びそれらの誘導体、ビタミンD及びそれらの誘導体、ビタミンE及びそれらの誘導体、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、スーパーオキシドディスムターゼ、カロチノイド、アスタキサンチン及びその誘導体、ルチン、ヘスペリジン、ケルセチン及びそれらの配糖体をはじめとする各種誘導体、没食子酸及びその誘導体、カフェ酸及びその誘導体、グルタチオン及びその誘導体、β−カロチン及びその誘導体、ユビキノール、フラボノイド、ポリフェノール、ビリルビン、コレステロール、トリプトファン、ヒスチジン、チオタウリン、ヒポタウリンなどが挙げられる。
【0019】
細胞賦活剤としては、γ−アミノ酪酸、ε−アミノプロン酸などのアミノ酸類、レチノール、チアミン、リボフラビン、塩酸ピリドキシン、パントテン酸類などのビタミン類、グリコール酸、乳酸などのα−ヒドロキシ酸類、フラボノイド、サポニン、アラントイン、感光素101号、感光素301号などが挙げられる。
【0020】
経皮吸収促進剤としては、例えば、尿素、乳酸、フルーツ酸、グリコール酸などのα−ヒドロキシ酸、サリチル酸などのβ−ヒドロキシ酸、オレイン酸、ウンデカノイン酸、メントール、チモール、リモネン、ジメチルスルホキシド、ドデシルメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ラウリル硫酸ナトリウム、N,N−ビス(2ヒドロキシエチル)オレイルアミン、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレート、ドデシルジメチルアンモニオプロパンスルホン酸、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、n,n−ジメチル−m−トルアミド、ジエチル−m−トルアミド、ラウロカプラム、1−ドデシルアザシクロヘプタン−2−オン、イソプロピルミリステート、イソプロピルパルミテート、N−モノ又はジ置換−p−メンタン−3−カルボキシアミド、2−(2−メトキシ−1−メチルエチル)−5−メチルシクロヘキサノ−ル、アザシクロアルカン誘導体、シクロデキストリンなどが挙げられる。
【0021】
皮膚軟化剤としては、グリセリン、酢酸、氷酢酸、イオウ、dl−カンフル、カリ石ケン、レゾルシン、マレイン酸トリメブチン、塩酸チザニジン、スファジアジン、ワセリンなどが挙げられる。
【0022】
本発明の痛覚刺激緩和剤は、局所麻酔剤又は全身麻酔剤と併用することができる。本剤と麻酔剤との併用の場合、麻酔剤の投与量を少なくすることができるので、麻酔剤による、振戦、不安、痙攣、呼吸麻痺、アレルギー反応などの副作用を軽減する効果が期待できる。局所麻酔剤としては、コカイン又はその誘導体などの天然アルカロイド、プロカイン、テトラカイン、ベンゾカインなどのp−アミノ安息香酸誘導体、リドカインなどのアミノ酸アニリド、シブカインなどのキノリン誘導体、ベンジルアルコール、クロロノールが挙げられる。全身麻酔剤としては、エーテル、クロロホルム、亜酸化窒素、ハロタン、シクロプロパン、バルビツール酸誘導体(チオペンタール、アモバルビタールなど)、ヒドロキシジオン(ステロイド型麻酔剤)、プロパニジト、トリブロモエタノールなどが挙げられる。
【0023】
本発明の痛覚刺激緩和剤は、それに含まれる有効成分としてのカテキン類を、求められる痛覚刺激の緩和効果、投与方法に応じて、投与量を適宜調整しつつ、通常、皮膚1cm当たりに0.01乃至100μg、好ましくは、0.1乃至50μg、更に好ましくは、0.2乃至10μg投与すればよい。また、投与方法としては、皮膚外用剤として許容可能な成分ともに、液状、ゲル状、ゾル状、クリーム状に成形して皮膚に塗布したり、紙、布又は脱脂綿などに付着又は吸収させて皮膚に接触させるなどして、皮膚内に吸収させればよい。
【0024】
本発明の痛覚刺激緩和剤は、痛覚刺激の発生が将来的に見込まれる皮膚の部分に、刺激が発生する数分乃至数時間前に予め塗布することにより用いられる。痛覚刺激としては、焼鏝、電熱、電流、レーザー、高周波、マイクロ波、温灸、温鍼、又は焼印などで発生する温熱痛、鍼治療、注射や刺青などによる刺激痛、又は、毛抜、ピンセット、剃刀、脱毛剤などを用いた脱毛処理による脱毛痛がある。本発明は、とりわけ、毛根部に発生する痛覚刺激を緩和することに効果的であることから、例えば、レーザー脱毛器、高周波脱毛器などを用いる脱毛処理による温熱痛、あるいは、毛抜、ピンセット、脱毛ワックスや脱毛シートなどの脱毛剤を用いる脱毛処理による脱毛痛を緩和するための前処理剤として有利に用いられる。また、本発明の緩和剤は、毛が引っ張られる際に発生する痛覚刺激をも緩和することから、シェービング剤にも有利に配合することができ、皮膚に塗布又は貼付してから数分乃至数時間放置した後、剃刀などを用いて剃毛処理を行えば、痛覚刺激の緩和効果が発揮される。
【0025】
本発明の痛覚刺激緩和剤は、上記したように、シェービング剤や脱毛剤などの形態とすることができる。この場合、本発明の緩和剤を、皮膚面積あたりのカテキン類が上記範囲内で塗布されるように、シェービング剤や脱毛剤に配合すればよく、通常、シェービング剤や脱毛剤(支持体部を除いた部分)中に、カテキン類を0.001乃至10質量%、好ましくは、0.01乃至5質量%、さらに好ましくは0.05乃至3質量%配合する。
【0026】
シェービング剤の形態の場合、ひげを膨潤、軟化させる作用を有する成分や、剃刀の刃を滑らせる作用を有する成分、消炎作用や殺菌作用を有する成分などを配合することができる。例えば、ステアリン酸、パルミチン酸、ヤシ油、パーム油、イソプロピルミリスチン酸エステル、イソプロピルパルミチン酸エステル、グリセリルトリ−2−エチルヘキサン酸エステルなどの油分、グリセリン、1,3ブチレングリコール、ジプロピレングリコールなどの保湿剤、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、トリエタノールアミンなどのアルカリ、グリセリンモノステアリン酸エステル、POE・POPブロックポリマー、POE硬化ヒマシ油エステルなどの界面活性剤が挙げられる。
【0027】
脱毛ワックスの形態の場合、毛を捕捉するために従来使用されている粘着成分を配合することができる。例えば、スチレン/イソプレン/スチレンブロック共重合体、スチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体などのA/B/A型ブロック共重合体、イソプレンゴム、ポリブタジエン、ポリイソブチレン、エチレン/プロピレン共重合体、スチレン、ブタジエンなどのゴム成分と、ロジン系などの粘着付与剤、石油系樹脂、軟化剤、ミツロウ、パラフィン、ワセリンなどを適宜相溶する範囲で組み合わせて用いることができる。
【0028】
脱毛シートの形態の場合、上記したような脱毛ワックス組成物に加えて、脱毛ワックス組成物による脱毛剤層をその片方に保持でき、皮膚面に粘着、剥離した時に皮膚面に脱毛剤が残留しないような投錨力を有する支持体部分が必要となる。支持体の素材としては、例えば、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、塩化ビリニデン、ポリカーボネート、アクリルニトリル、ポリビニールアルコール、ビニロン、エチル/ビニルアルコール共重合体、ナイロンなどの各種プラスチックシート、また、これらプラスチックシートの片面に金属箔や紙、布帛などを積層したり、金属蒸着を施した複合プラスチックシート、その他に、紙や布帛などを用いることができる。
【0029】
以下、この発明の詳細を、実験に基づいて説明する。
【0030】
<実験1:カテキン類による温熱痛緩和効果>
茶カテキンエキス(商品名『ポリフェノン70A』、三井農林株式会社販売、カテキン含量80質量%以上)を25v/v%エタノール水溶液に溶解して、1、5、10又は20質量%の濃度の茶カテキンエキス水溶液を調製して、試験試料とした。また、対照試料は茶カテキンエキスを含まない25v/v%エタノール水溶液とした。
年齢25乃至50歳の健康な男性20名の被験者の下腕部に、2.5×3cmの長方形の枠を黒インクで5箇所に印をつけ、4つの枠内の各々に各濃度の試験試料を、残りの1つの枠内に対照試料を20μlずつ均一に塗布し、塗布面の乾燥を防ぐためにポリエチレン製のラップで覆った。10分後、ラップを剥がし、70v/v%エタノール水溶液で皮膚から試験試料又は対照試料を拭い取った。そして、60℃に熱した直径約23mm、厚さ約1.5mmの銅板を5秒間、試料を塗布した皮膚に軽く押しつけ、痛みを惹起した。痛みの測定は、ビジュアルアナログスケール法(VAS法)で測定した。すなわち、痛みの評価を、左端を「無痛」及び右端を「耐え難い痛み」とした長さ80mmの直線上(左端を0mm)に示して求めた。それぞれの試料につきΔVASを下記の数式1にしたがって算出した。ΔVASの平均値が15mm以上のパネラーを「痛みが緩和された」グループ、5mm以上15mm未満のパネラーを「やや痛みが緩和された」グループ、−5mm以上5mm未満のパネラーを「痛みが緩和されなかった」グループ、又は、−5mm未満のパネラーを「痛みが悪化した」グループに分類して評価した。結果を表1に示す。
【0031】
<数式1>
ΔVAS値(mm)=
(各試験試料でのVAS値(mm))−(対照試料でのVAS値(mm))
【0032】
【表1】

【0033】
表1に示す結果から、茶カテキンエキスは温熱痛を緩和する効果があり、5乃至20質量%で顕著な温熱痛を緩和する効果が認められた。したがって、カテキン類は、温熱痛が発生する医科手術や脱毛処理の前処理剤として有効であることが判明した。
【0034】
<実験2:温熱痛に対する他の成分との併用効果>
20質量%茶カテキンエキスを含む25v/v%エタノール水溶液に、無水物換算で2質量%のトレハロース(登録商標『トレハ』、株式会社林原商事販売)及び/又は0.1質量%のアスコルビン酸を含む試験試料を調製した。また、対照試料として25v/v%エタノール水溶液を調製した。これらを実験1と同様にして、20名のパネラーにつき、温熱痛におけるΔVAS値を測定し、効果を評価した。結果を表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
表2に示す結果から、トレハロース及び/又はアスコルビン酸は、カテキン類と併用するとさらに温熱痛を緩和する効果があることが認められた。また、アスコルビン酸の代わりにグリコシルL−アスコルビン酸(商品名『AA2G』、株式会社林原商事販売)を用いて、同様の実験を行ったところ、同じような結果を得た。したがって、これらの組成物は、温熱痛が発生する医科手術や脱毛処理の前処理剤として有効であることが判明した。
【0037】
<実験3:カテキンによる脱毛痛の緩和効果>
実験1と同様にして、試験試料を調製し、茶カテキンエキス(『ポリフェノン70A』、三井農林株式会社販売)を25v/v%エタノール水溶液に溶解して、1、5、10又は20質量%の濃度に調製して、試験試料とした。また、対照試料として、25v/v%エタノール水溶液を用意した。
年齢25歳乃至50歳の毛深い健康な男性20名の被験者の脚部における有毛皮膚に、2.5×3cmの長方形の枠を黒インクで5箇所に印をつけ、その4つの枠内の各々に各濃度の試験試料を、残りの1つの枠内に対照試料を20μl均一に塗布し、塗布面の乾燥を防ぐためにポリエチレン製のラップで覆った。10分後、ラップを剥がし、70v/v%エタノール水溶液で皮膚から試験試料又は対照試料を拭い取った。ピンセットで剛毛を一本づつゆっくり引き抜き、痛みを惹起した。痛みの惹起は試験試料と対照試料を交互に行ない、各試料につき、5本づつ剛毛を抜きとり、実験1と同様にして、20名のパネラーにつき、脱毛痛におけるΔVASの平均値を測定し、効果を評価した。結果を表3に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
表3に示す結果から、茶カテキンエキスは脱毛痛を緩和する効果があり、1乃至20質量%で顕著に脱毛痛を緩和する効果が認められた。したがって、カテキン類は、脱毛痛が発生する脱毛処理の前処理剤として有効であることが判明した。
【0040】
<実験4:脱毛痛に対する他の成分との併用効果>
20質量%茶カテキンエキスを含む25v/v%エタノール水溶液に、無水物換算で2質量%のトレハロース及び/又は0.1質量%のアスコルビン酸を含む試験試料を調製した。また、対照試料として25v/v%エタノール水溶液を調製した。これを実験3と同様にして、20名のパネラーにつき、脱毛痛におけるΔVAS値の平均値を測定し、効果を評価した。結果を表4に示す。
【0041】
【表4】

【0042】
表4に示す結果から、トレハロース及び/又はアスコルビン酸は、カテキン類と併用すると脱毛痛を緩和する効果があることが認められた。したがって、これらによる組成物は、脱毛痛が発生する脱毛処理の前処理剤として有効であることが判明した。
【0043】
<実験5:各種カテキン類による温熱痛緩和効果>
各種カテキン類、すなわち、(−)−カテキン、(−)−エピカテキン、(−)−エピガロカテキン、(−)−カテキンガレート、(−)−エピカテキンガレート、(−)−エピガロカテキンガレート(以上、ナカライテクス株式会社販売)、特開平7−179489号明細書実施例1の方法で製造した(−)−エピガロカテキン−4´−O−α−D−グルコピラノシド、特開平7−179489号明細書実施例2の方法で製造した(−)−エピカテキンガレート−4´−O−α−D−グルコピラノシド、特開平7−179489号明細書実施例3の方法で製造した(−)−エピガロカテキンガレート−4´−O−α−D−グルコピラノシドをそれぞれ、25v/v%エタノール水溶液に溶解して、10質量%の濃度の水溶液を調製して試験試料とした以外は、実験1と同様にして、20名のパネラーにつき、温熱痛におけるΔVAS値の平均値を測定し、効果を評価した。結果を表5に示す。
【0044】
【表5】

【0045】
表5に示す結果から、各種カテキン類は温熱痛を緩和する効果があり、とりわけ、(−)−エピカテキン、(−)−エピガロカテキン、(−)−エピカテキンガレート及び(−)−エピガロカテキンガレートの緩和効果が高いことが判明した。また、これらの配糖体についても、対応するカテキン類と比べてやや低いながらも、温熱痛を緩和する効果が認められた。
また、本実験で使用した試験試料を用いて、実験3の方法にしたがって脱毛痛の緩和効果を調べたところ、本実験と同様の結果が得られた。
【0046】
以下、実施例で本発明の形態を具体的に示す。
【実施例1】
【0047】
<痛覚刺激緩和剤>
緑茶1質量部を、85℃の熱水10質量部に2分間浸漬した後、水分を切り、50℃の50v/v%エタノール水溶液5質量部を加えて10分間抽出した。抽出液と酢酸エチル5質量部とを混合し、静置して水相と酢酸エチル相に分離させた後、酢酸エチル相を採取した。得られた酢酸エチル溶液は、エバポレータにより濃縮し茶抽出物を得た。得られた茶抽出物1質量部を4質量部の25v/v%エタノール水溶液に溶解し、本発明の痛覚刺激緩和剤を得た。
本品は、皮膚における瞬間的な痛覚刺激を緩和する作用を有している。したがって、電流、レーザー、高周波などを用いた医科手術や脱毛処理に、また、毛抜、ピンセット又は脱毛剤を用いた脱毛処理に有利に利用できる。
【実施例2】
【0048】
<痛覚刺激緩和剤>
25v/v%エタノール水溶液に、20質量%の濃度の茶カテキンエキス(商品名『ポリフェノン70A』、三井農林株式会社販売)を溶解して、痛覚刺激緩和剤を得た。
本品は、皮膚における瞬間的な痛覚刺激を緩和する作用を有している。したがって、電流、レーザー、高周波などを用いた医科手術や脱毛処理に、また、毛抜、ピンセット又は脱毛剤を用いた脱毛処理に有利に利用できる。
【実施例3】
【0049】
<痛覚刺激緩和剤>
実施例1で得た痛覚刺激緩和剤に、無水物換算で2質量%のトレハロース(登録商標『トレハ』、株式会社林原商事販売)を含有させ、痛覚刺激緩和剤を製造した。
本品は、皮膚における瞬間的な痛覚刺激を緩和する作用を有している。したがって、電流、レーザー、高周波などを用いた医科手術や脱毛処理に、また、毛抜、ピンセット又は脱毛剤を用いた脱毛処理に有利に利用できる。
【実施例4】
【0050】
<痛覚刺激緩和剤>
実施例2で得た痛覚刺激緩和剤に、0.1質量%のグリコシルL−アスコルビン酸(商品名『AA2G』、株式会社林原商事販売)を含有させ、痛覚刺激緩和剤を製造した。
本品は、皮膚における瞬間的な痛覚刺激を緩和する作用を有している。したがって、電流、レーザー、高周波などを用いた医科手術や脱毛処理に、また、毛抜、ピンセット又は脱毛剤を用いた脱毛処理に有利に利用できる。
【実施例5】
【0051】
<痛覚刺激緩和剤>
実施例2で得た痛覚刺激緩和剤に、無水物換算で2質量%のトレハロース(登録商標『トレハ』、株式会社林原商事販売)及び0.1質量%のグリコシルL−アスコルビン酸(商品名『AA2G』、株式会社林原商事販売)を含有させ、痛覚刺激緩和剤を製造した。
本品は、皮膚における瞬間的な痛覚刺激を緩和する作用を有している。したがって、電流、レーザー、高周波などを用いた医科手術や脱毛処理に、また、毛抜、ピンセット又は脱毛剤を用いた脱毛処理に有利に利用できる。
【実施例6】
【0052】
<痛覚刺激緩和剤>
25v/v%エタノール水溶液に、10質量%の濃度の(−)−エピカテキン、(−)−エピガロカテキン(−)−エピカテキンガレート、又は(−)−エピガロカテキンガレート(以上、ナカライテスク株式会社販売)のいずれかを溶解して、痛覚刺激緩和剤を得た。
本品は、皮膚における瞬間的な痛覚刺激を緩和する作用を有している。したがって、電流、レーザー、高周波などを用いた医科手術や脱毛処理に、また、毛抜、ピンセット又は脱毛剤を用いた脱毛処理に有利に利用できる。
【実施例7】
【0053】
<痛覚刺激緩和剤>
25v/v%エタノール水溶液に、10質量%の濃度の(−)−エピガロカテキン−4´−O−α−D−グルコピラノシド、(−)−エピカテキンガレート−4´−O−α−D−グルコピラノシド又は(−)−エピガロカテキンガレート−4´−O−α−D−グルコピラノシド(特開平7−179489号明細書実施例1乃至3に記載)のいずれかを溶解して、痛覚刺激緩和剤を得た。
本品は、皮膚における瞬間的な痛覚刺激を緩和する作用を有している。したがって、電流、レーザー、高周波などを用いた医科手術や脱毛処理に、また、毛抜、ピンセット又は脱毛剤を用いた脱毛処理に有利に利用できる。
【実施例8】
【0054】
<シェービングフォーム>
4.5質量部のステアリン酸、1.5質量部のヤシ油脂肪酸、5質量部のグリセリンモノステアリン酸エステル、10質量部のグリセリン、4質量部のトリエタノールアミン、精製水74質量部、及び実施例3で得た痛覚刺激緩和剤1質量部を常法にしたがい混合して、シェービングフォームを得た。
本品は、毛が引っ張られることによって発生する瞬間的な痛覚刺激を緩和する作用を有している。したがって、剃刀を用いた脱毛処理に有利に利用できる。
【実施例9】
【0055】
<脱毛ワックス>
49質量部のロジンエステル、ロジンアルコール45質量部、ヒマシ硬化油5質量部及び1質量部の実施例4により作製した痛覚刺激緩和剤1質量部を混合して、脱毛ワックスを製造した。
本品は、使用時の痛覚刺激が抑制された脱毛ワックスである。
【実施例10】
【0056】
<脱毛シート>
実施例6の脱毛ワックスを、厚さ100μmのポリエチレンシートに、200μmの厚さになるように加圧調整を行い、脱毛シートを作製した。
本品は、使用時の痛覚刺激が抑制された脱毛シートである。
【産業上の利用可能性】
【0057】
叙述のとおり、本発明の痛覚刺激緩和剤は、皮膚に塗布するだけで、痛覚刺激緩和効果を発揮し、かつ、麻酔剤を含んでいないことから、副作用の心配がなく、手軽に安心して皮膚における痛覚刺激を緩和することができる。特に、脱毛時の瞬間的な痛覚刺激を緩和するのに極めて有効であり、電気脱毛器、レーザー脱毛器、高周波脱毛器などの装置を使用した脱毛処理、剃刀、毛抜、ピンセットなどの器具を使用した脱毛処理の前処理剤として、脱毛ワックスや脱毛シートなどの脱毛剤やジェービング剤の配合成分として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1乃至50質量%のカテキン類を含有してなる痛覚刺激緩和剤。
【請求項2】
さらに、1乃至90質量%のアルコール類を含有してなる請求項1に記載の痛覚刺激緩和剤。
【請求項3】
さらに、0.01乃至20質量%のトレハロース及び/又0.001乃至10質量%のアスコルビン酸又はその誘導体を含有してなる請求項1又は2に記載の痛覚刺激緩和剤。
【請求項4】
カテキン類が、(−)−エピカテキン、(−)−エピガロカテキン、(−)−エピカテキンガレート、(−)−エピガロカテキンガレート、又はそれらの配糖体である請求項1乃至3のいずれかに記載の痛覚刺激緩和剤。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の痛覚刺激緩和剤が配合された脱毛剤。

【公開番号】特開2006−298808(P2006−298808A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−121677(P2005−121677)
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】