説明

発光ダイオード、それに用いられる発光ダイオード用基板及びその製造方法

【課題】蛍光体の熱劣化が少なく、光混合性がよく、色むらが少なく、さらに発光強度が強い白色発光ダイオード、それに用いられる発光ダイオード用基板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】発光ダイオード素子が形成可能な単結晶層と、単一金属酸化物及び複合金属酸化物から選ばれる少なくとも2つ以上の酸化物相が連続的にかつ三次元的に相互に絡み合って形成されている凝固体からなり、酸化物相のうち少なくとも1つは蛍光を発する金属元素酸化物を含有する光変換用セラミックス複合体層とが直接接合され、前記単結晶層の厚みが0.100mm〜0.0005mmであることを特徴とする発光ダイオード用基板である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フリップチップ型の発光ダイオード、それに用いられる発光ダイオード用基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、窒化物系化合物半導体を用いた青色発光素子を発光源とする白色発光ダイオードの開発研究が盛んに行われている。白色発光ダイオードは、軽量で、水銀を使用せず、長寿命であることから、今後、需要が急速に拡大することが予測されている。青色発光素子の青色光を白色光に変換する方法として最も一般的に行なわれている方法は、例えば特許文献1に記載されているように、青色発光素子の前面に、青色光の一部を吸収して黄色光を発する蛍光体を含有するコーティング層と、光源の青色光とコーティング層からの黄色光を混色するためのモールド層とを設け、補色関係にある青色と黄色を混色することにより擬似的に白色を得るものである。従来、コーティング層としては、セリウムで付活されたイットリウムアルミニウムガーネット(YAG:Ce)粉末とエポキシ樹脂の混合物が採用されている。現在、白色発光ダイオードの用途が拡大することにより、発光強度の高い高輝度白色発光ダイオードが求められ、その開発が進められている。
【0003】
白色発光ダイオードの発光強度を向上させるためには、より高出力の電流を印加する必要がある。しかし、白色発光ダイオードに高出力の電流を印加することにより、発光源となる青色発光ダイオードに発熱が生じ、青色発光ダイオード自身の劣化やコーティング樹脂の劣化が起こり、発光強度が下がることがある。青色発光ダイオードに発生した熱を放熱するためには単結晶基板であるサファイア基板側からの放熱が必要であるが、サファイア基板の熱伝導率は低いため、従来の方式では放熱することは困難である。その問題を解決するために、フリップチップ型発光ダイオードが提案されている。フリップチップ型とは従来の方式と光取り出し方向を変え、サファイア基板側から光を取り出す方法である。この方法を用いることにより、青色発光ダイオードに発生する熱を電極側から放熱することが可能となり、より高出力の電流を印加することが可能となる。更にフリップチップ型を用いることにより、光取り出し方向に電極が無くなり、電極による光損失を抑えることが可能となるため、白色発光ダイオードの発光強度向上に繋がる。
【0004】
しかし、更に発光強度の向上のために、高出力の電流を印加した場合、発光ダイオードからの発熱は抑えられず、蛍光体樹脂の劣化が生じる。そのため、樹脂を使用しない蛍光体の研究開発が行われている。樹脂を使用しない蛍光体の一つとして単一金属酸化物および複合金属酸化物から選ばれる少なくとも2つ以上の酸化物相が連続的にかつ三次元的に相互に絡み合って形成されている凝固体からなる光変換用セラミックス複合体が提案されている(特許文献2参照)。セラミックス複合体は、樹脂と比較して非常に耐熱性が高いため、発熱による蛍光体の劣化が起こらず蛍光強度を保つことが可能である。更に、セラミックス複合体を用いることにより、樹脂や蛍光体粉末による光損失がなくなることより、蛍光強度の向上が予測される。
【0005】
以上のことから、高輝度白色発光ダイオードの作製にはフリップチップ型であり、セラミックス複合体の使用が必要であると考え、セラミックス複合体とサファイア層を接合した発光ダイオード用基板と接合基板を用いた白色発光ダイオードが提案されており、接合方法には高温、高圧による接合、ガラス接合、樹脂接合が開示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−208815号公報
【特許文献2】WO2004/065324
【特許文献3】WO2007/018222
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、白色発光ダイオードの用途が広がると、発光強度が強い白色発光ダイオードが望まれているが、特許文献3などに記載のものでは必ずしも十分な発光強度を得ることができない。
【0008】
そこで、本発明は、蛍光体の熱劣化が少なく、光混合性がよく、色むらが少なく、さらに発光強度が強い白色発光ダイオード、それに用いられる発光ダイオード用基板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の目的を達成するため、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、単結晶層の厚みを0.100mm〜0.0005mmにすることによって、蛍光体の熱劣化を少なくし、光混合性を良くし、色むらを少なくし、さらに発光強度を強くすることができることを見出した。すなわち、本発明は、発光ダイオード素子が形成可能な単結晶層と、単一金属酸化物及び複合金属酸化物から選ばれる少なくとも2つ以上の酸化物相が連続的にかつ三次元的に相互に絡み合って形成されている凝固体からなり、酸化物相のうち少なくとも1つは蛍光を発する金属元素酸化物を含有する光変換用セラミックス複合体層とが直接接合され、前記単結晶層の厚みが0.100mm〜0.0005mmであることを特徴とする発光ダイオード用基板である。
【0010】
本発明に係る発光ダイオード用基板において、前記単結晶層の厚みが0.060mm〜0.0005mmであることが好ましい。また、前記単結晶層が、Al、SiC、ZnO、Si、またはGaNからなる材料であることが好ましく、前記凝固体がAlと、セリウムで付活されたYAl12とから構成されていることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、上記発光ダイオード用基板の単結晶層の表面に発光ダイオード素子を形成した発光ダイオード、又は上記発光ダイオード用基板の単結晶層の表面に青色を発する発光ダイオード素子を形成した、前記基板側から疑似白色を発する発光ダイオードである。
【0012】
また、本発明は、発光ダイオード素子が形成可能な単結晶層と、単一金属酸化物及び複合金属酸化物から選ばれる少なくとも2つ以上の酸化物相が連続的にかつ三次元的に相互に絡み合って形成されている凝固体からなり、酸化物相のうち少なくとも1つは蛍光を発する金属元素酸化物を含有する光変換用セラミックス複合体層とが接合された発光ダイオード用基板の製造方法において、発光ダイオード素子が形成可能な単結晶基板の表面から所定深さ位置に、水素イオンまたは希ガスイオンあるいはこれらの両方を注入してイオン注入領域を形成する工程Aと、前記単結晶基板のイオン注入した面が該光変換用セラミックス複合体基板側になるように、前記単結晶基板と前記光変換用セラミックス複合体基板とを直接接合する工程Bと、前記イオン注入領域を境界として、前記単結晶基板の一部を剥離することにより前記単結晶基板をその厚みが0.100mm〜0.0005mmになるまで薄層化する工程Cとを備えたことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る発光ダイオード用基板の製造方法において、前記工程Cは、前記単結晶基板と前記光変換用セラミックス複合体基板を積層して得られた、前記単結晶層およびセラミックス複合体層からなる前記発光ダイオード用基板に、熱的負荷または機械的負荷あるいはそれらの両方を加えることによって、前記単結晶層の表面から所定深さ位置で該単結晶層の一部を剥離する工程であることが好ましく、また、前記工程Cは、前記単結晶基板と前記光変換用セラミックス複合体基板を積層して得られた、前記単結晶層およびセラミックス複合体層からなる前記発光ダイオード用基板に熱的負荷を加えて、前記単結晶層の前記イオン注入領域に水素ガスまたは希ガスあるいはこれらの両方のガスのキャビティを形成した後、前記イオン注入領域に熱的負荷または機械的負荷あるいはそれらの両方を加えることによって、前記単結晶層の表面から所定深さ位置で前記単結晶層の一部を剥離する工程であることが好ましい。
【0014】
これらの場合、前記単結晶層の前記イオン注入領域に加えられる熱的負荷が、急速な昇温加熱であることが好ましく、また前記単結晶層の前記イオン注入領域に加えられる熱的負荷が、前記単結晶層の表面の一端から加熱し、徐々に加熱領域を表面全体に拡げる、または加熱領域を、加熱を開始した表面の一端の反対側に向かって移動させる方法よりもたらされるものであることが好ましい。
【0015】
また、前記工程Cは、前記単結晶基板と前記光変換用セラミックス複合体基板を積層して得られた、前記単結晶層およびセラミックス複合体層からなる前記発光ダイオード用基板の前記単結晶層に250nm以下の光を照射して、前記単結晶層の表面から所定深さ位置で該単結晶層の一部を剥離する工程であることが好ましく、この場合、前記発光ダイオード用基板の前記単結晶層に照射される光が、レーザー光であることが好ましく、レーザー光の照射方法が、前記発光ダイオード用基板の前記単結晶層の表面に対して、その表面の一端からライン状にレーザー光を照射し、そのレーザー光の照射を開始した表面の一端の反対側に向かって移動させる方法であることが好ましい。
【0016】
さらに、本発明に係る発光ダイオード用基板の製造方法において、前記工程Bは、光変換用セラミックス複合体板及び単結晶板の接合面を高速原子ビームにより活性化し、この活性化した状態で両接合面を貼り合わせた後、加熱及び加圧処理を行うことによって、前記単結晶板と前記光変換用セラミックス複合体板を接合することが好ましく、加熱処理は、250〜1200℃で行ない、加圧処理は、0.5〜10MPaで行なうことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明によれば、蛍光体の熱劣化が少なく、光混合性がよく、色むらが少なく、さらに発光強度が強い白色発光ダイオード、それに用いられる発光ダイオード用基板及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る発光ダイオード用基板の概念断面図である。
【図2】本発明に係る単結晶層薄膜化方法のイオン注入効果を利用した単結晶層の薄膜化の工程説明である。
【図3】本発明に係る単結晶層薄膜化方法のレーザー加工を利用した単結晶層の剥離に用いる欠陥ドットの平面写真である。
【図4】本発明に係る発光ダイオード用基板を使用した発光ダイオードの一実施形態を示す概念図である。
【図5】実施例1において得られた光変換セラミックス複合体の組織断面図である。
【図6】実施例1において得られた発光ダイオード用基板の組織断面図である。
【図7】実施例1で得られた発光ダイオードの発光スペクトル図である。
【図8】実施例と比較例において作製した白色発光ダイオードの蛍光強度を評価した結果から作成した単結晶層の厚みと蛍光強度の関係を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る発光ダイオード用基板1は、図1に示すように単結晶層2と光変換用セラミックス複合体層3からなる。本発明に係る発光ダイオード用基板が用いられた白色発光ダイオードは、発光ダイオードの単結晶層の半導体成膜面から入射した光を一部波長変換した光と共に放射面から放射することにより、発光ダイオードの発光時に発生する熱を放熱でき発光ダイオードの熱劣化を抑えられる。本発明に蛍光体に光変換用セラミックス複合材料を用いることにより、蛍光体の熱劣化が少なく、光混合性がよく、色むらが少ない発光ダイオードを作製できる。本発明に係る発光ダイオード用基板は、それに用いられる単結晶層の厚みを薄くすることにより、単結晶層の側面からの光抜けと単結晶層の光吸収を抑えることにより蛍光強度が向上される。単結晶層の厚みは、0.100mm〜0.0005mmであり、0.060mm〜0.0005mmであることが好ましい。この範囲においては、蛍光強度の測定において10%以上の差は生じない。更に単結晶層の厚みが0.0005mm以上においては、発光ダイオード用基板の研磨加工時に接合界面の剥がれが生じないため、安定的に接合基板を作製できる。
【0020】
本発明に係る発光ダイオード用基板の単結晶層の薄膜化方法としては、(a)研削加工及び研磨加工による薄膜化方法、(b)イオン注入効果を利用した単結晶層の薄膜化方法、(c)レーザー加工を利用した単結晶層の剥離による薄膜化方法などがあり、(b)が特に好ましい。薄膜化した後の面は鏡面研磨を施す。
【0021】
(b)イオン注入効果を利用した単結晶層の薄膜化方法は、以下の工程A乃至工程Cならなる。
【0022】
(工程Aについて)
図2(a)に示すように、発光ダイオード素子が形成可能な単結晶基板2の表面から所定深さ位置に、水素イオンまたは希ガスイオンあるいはこれらの両方を注入して、前記単結晶基板2にイオン注入領域を形成する。水素イオンの場合、分子イオンを注入して、時間当たりの照射量を多くすることができる。イオン注入のための加速エネルギー、照射量、温度等その他のイオン注入条件は、前記発光ダイオード用基板の前記単結晶層の所望厚さによって適宜選択される。所定厚さ、すなわち、所定深さとは、設計上の値であり、特に限定されないが、発光ダイオード素子の光を効率的に透過させることができ、かつ高精度な薄層化が可能な厚さ(深さ)で、通常0.1μmから50μm程度である。例えば、(0001)面のAl層に、原材料単結晶基板を意図的に加熱することも冷却することも行わず水素分子イオンを注入する場合、300keVの加速エネルギー、1×1017ions/cmの照射量で、前記Al基板の表面から0.8μmの深さに剥離させるに適当なイオン注入領域が形成される。しかし、これらの条件に限定されるものではなく、例えば、原材料単結晶基板が設置されたステージを、その内部から液体窒素などで冷却しながらイオン注入を行うことで、原材料単結晶基板のイオン注入領域に水素ガスキャビティが形成されることなく、イオン注入領域により大きな構造的変化を与えることができ、前記単結晶基板の剥離が容易に行えるようにすることもできる。
【0023】
(工程Bについて)
次に、図2(b)に示すように単結晶基板のイオン注入した面が該光変換用セラミックス複合体基板側になるように、前記単結晶基板2と前記光変換用セラミックス複合体基板3とを直接接合する。図2(b)中、符合8は、イオン注入領域の境界線を示す。
【0024】
(工程Cについて)
単結晶基板2と前記光変換用セラミックス複合体基板3を積層して得られた、単結晶層2およびセラミックス複合体層3からなる発光ダイオード用基板に、熱的負荷または機械的負荷あるいはそれらの両方を加えることによって、図2(c)に示すように、単結晶層2の表面から所定深さ位置で単結晶層2の一部2Aを剥離することができる。
【0025】
前記発光ダイオード用基板を300℃以上で加熱する、前記単結晶層のイオン注入領域の端面に楔状の部材を接触させ、端面に向かってその先端を押すことで端面を剪断する負荷を与える、または、前記発光ダイオード用基板を、前記単結晶層と前記光変換用セラミックス複合体層側に引っ張る、あるいは、それらの二つ以上の方法を組み合わせるなどして、前記単結晶層をイオン注入領域で分断することで、前記単結晶層の一部を剥離することができる。
【0026】
前記単結晶基板へのイオン注入量が多く、前記工程Bが高温かつ長時間の工程である場合、前記工程Bにおいて、前記単結晶基板のイオン注入領域に、注入されたイオンがガス化してキャビティが形成される。この場合、前記発光ダイオード用基板に、熱的負荷または機械的負荷あるいはそれらの両方を加えることによって、前記工程Bにおいて前記単結晶層の前記イオン注入領域に形成された、水素ガスまたは希ガスあるいはこれらの両方のガスのキャビティを、成長、または亀裂により連結させることができる。
【0027】
前記工程Bにおいて、前記単結晶基板のイオン注入領域に、注入されたイオンがガス化したキャビティが形成されない場合においても、前記発光ダイオード用基板に、熱的負荷または機械的負荷あるいはそれらの両方を加えることによって、前記単結晶層の前記イオン注入領域に水素ガスまたは希ガスあるいはこれらの両方のガスのキャビティを形成し、これを成長、または亀裂により連結させることで、前記単結晶層の表面から所定深さ位置で該単結晶層の一部を剥離することができる。
【0028】
前記熱的負荷は、機械的負荷を併用しない場合は特に、急速な昇温加熱によるものであることが好ましい。イオン注入により損傷を受けている、前記単結晶基板のイオン注入領域の構造回復を急激に生じさせることで前記単結晶層の一部が剥離しやすくなるからであり、また、キャビティが形成されている場合であっても、キャビティ間のクラックの伝播が起こりやすくなるからである。赤外線またはそのレーザー光、電子ビーム等を用いて前記単結晶層を急速に加熱することができる。
【0029】
また、前記熱的負荷は、前記単結晶層の表面の一端から加熱し、徐々に加熱領域を表面全体に拡げる、または加熱領域を、加熱を開始した表面の一端の反対側に向かって移動させる方法よりもたらされるものであることが好ましい。特に、この方法に、加熱を開始した表面の一端側から機械的負荷を加えることで、前記単結晶層が表面の一端から一方向に剥離することになり、円滑に剥離を行うことができるからである。
【0030】
また、前記単結晶基板と前記光変換用セラミックス複合体基板を積層して得られた、前記単結晶層およびセラミックス複合体層からなる前記発光ダイオード用基板の前記単結晶層に、250nm以下の光を照射して、前記単結晶層の表面から所定深さ位置で該単結晶層の一部を剥離することができる。損傷を受けた、前記単結晶層のイオン注入領域がその構造を急速に回復するに十分な照射エネルギーを有する光を前記イオン注入領域に与えることで、イオン注入領域において、該単結晶層の一部を剥離することができる。
【0031】
前記発光ダイオード用基板の前記単結晶層に照射される光はレーザー光であることが好ましく、一般にはエキシマレーザー光、例えばArFエキシマレーザー光、KrFエキシマレーザー光等を用いることができる。前記レーザー光は、前記単結晶層に面照射されても、ライン状に照射されても良い。前記単結晶層のイオン注入量により、前記レーザー光の適切な照射エネルギーが選ばれる。前記単結晶層のイオン注入量が少ない場合ほど前記レーザー光の照射エネルギーを大きくする必要がある。
【0032】
このように単結晶層の一部を剥離することにより、前記単結晶層を薄膜化し、薄膜化後の研磨加工により更に薄膜化しつつ、鏡面研磨を施す。
【0033】
また、上記(c)レーザー加工を利用したサファイア層の剥離は、高出力の赤外線パルスレーザーを用い、接合基板の単結晶層の表面から所定深さ位置に、図3のような欠陥ドットを作製し、作製したドットに熱的、物理的に力を加え、ドットをつなぐことにより、単結晶層の一部を剥離することができる。レーザー加工に用いるレーザーは例えば、波長780nm、周波数10Hz、パルス幅150fsec、レーザー強度200μJである短パルスレーザーを用いる。欠陥ドットの作製方法は例えばレーザー光を市販の対物レンズ(10倍)を用いて接合基板の単結晶層内に集光させることにより、Al単結晶ウェハの主面に対して、その表面から所定深さ位置に欠陥を作製でき、ウェハを面方向に平行移動させることにより、ウェハ面内に欠陥ドットを作製できる。欠陥ドットを繋ぐ方法は例えば作製した接合基板のAl単結晶層側とセラミックス複合体層側の両方に真空吸着によるパッドを取り付け、それぞれのパッドを逆方向に回転させることで、Al23単結晶層の欠陥ドットが形成された領域に剪断応力を加えることにより、欠陥ドットを繋ぎ、セラミックス複合体層側に所定の厚さを残して、Al23単結晶層を剥離させる。単結晶層を薄膜化し、薄膜化後の研磨加工により更に薄膜化しつつ、鏡面研磨を施す。
【0034】
本発明に係る発光ダイオード用基板の単結晶層は、その上に発光ダイオード素子などの半導体を形成可能な従来の単結晶からなる層であり、例えば、Al、SiC、ZnO、Si及びGaNが挙げられる。
【0035】
本発明に係る発光ダイオード用基板の単結晶層は、CZ法、EFG法などによって融液から作製することができるが、それらは広く市販されているので、市販品の(0001)面、又は(11−20)面の表面粗さRaが1nm以下である2インチウェハを利用することができる。
【0036】
本発明に係る発光ダイオード用基板の光変換用セラミック複合体層は、蛍光体を含むセラミック複合材料で形成され、金属酸化物どうしが連続的にかつ3次元的に相互に絡み合って形成されている凝固体からなる。金属酸化物としては、単一金属酸化物、または、複合酸化物があり、前記単一金属酸化物または前記複合金属酸化物は、機能、例えば蛍光、を発現する元素等を含有している。このような凝固体は、原料金属酸化物を融解後、凝固して作られる複合材料である。単一金属酸化物とは、1種類の金属の酸化物であり、複合金属酸化物は、2種以上の金属の酸化物である。それぞれの酸化物は、三次元的に相互に絡み合った構造をしている。また、これらの絡み合った酸化物相の間に他の酸化物相が存在することもある。
【0037】
このような単一金属酸化物としては、Al、ZrO、MgO、SiO、TiO、BaO、BeO、CaO、Cr等の他、希土類元素酸化物(La、Y、CeO、Pr11、Nd、Sm、Gd、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)などが挙がられる。また、複合金属酸化物としては、LaAlO、CeAlO、PrAlO、NdAlO、SmAlO、EuAlO、GdAlO、DyAlO、ErAlO、YbAl、YAl12、ErAl12、YbAl12、11Al・La、11Al・Nd、3Dy・5Al、2Dy・Al、11Al・Pr、EuAl1118、2Gd・Al、11Al・Sm、CeAl1118、ErAlなどが挙げられる。
【0038】
本発明に係る発光ダイオード用基板の光変換用セラミック複合体層の材料は、研削加工や研磨加工を行い、2インチの大きさに加工され、ウェハ面が(0001)面、もしくは(11ー20)面であり、表面粗さRaが30nm以下に調整されることが好ましい。
【0039】
これらの材料は、現在開発されている光変換用セラミックス複合体において作製法が確立しており、また、白色発光ダイオード用の黄色蛍光体として蛍光強度が強いため、発光ダイオード用基板の光変換用セラミックス複合体として用いることができる。
【0040】
以下、本発明に係る発光ダイオード用基板の好ましい態様について更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0041】
単結晶層としてAl単結晶を用い、この上にInGaN系の青色発光素子を形成すると、青色発光素子から放出された光は、Al単結晶層に入り、さらに、光変換用セラミックス複合体層に入射される。青色光の一部はそのまま透過し、青色光の一部は光変換用セラミックス複合体層に吸収され、たとえば黄色の光が新たに放出される。光変換用セラミックス複合体層は、複数の結晶相が3次元的に絡み合っているので、この絡み合いにおいて、青色光と黄色光が有効に混合されて、放出される。
【0042】
本発明に用いるAl単結晶基板は、CZ法、EFG法などで融液から作製されるが、それらは広く市販されているので市販品を利用することができる。
【0043】
InGaN系の青色発光素子を作製するためにはAl単結晶と光変換用セラミックス複合体を接合することが望ましい。このため光変換用セラミックス複合体にもAl結晶を含むことが好ましい。Alを含む光変換用セラミック複合体を用いると、Al単結晶層との接合面において屈折率の差が非常に小さくなり、効果的に光を透過することができるようになる。特に、Al(0001)を基板面にするときには、光変換材料のAlは(0001)面で接合させることがより好ましく、こうすることで、Al相の接合部分では結晶方位による屈折率の差がなくなり、最も効率的に光の透過が行えるようになる。
【0044】
光変換用セラミックス複合体のAl結晶と共存する結晶相としては、少なくともセリウムで付活された複合金属酸化物であるA12型結晶であることが好ましい。構造式中AにはY,Tb,Sm,Gd,La,Er,Luの群から選ばれる1種以上の元素、同じく構造式中XにはAl,Gaから選ばれる1種以上の元素が、含まれる場合が特に好ましい。この特に好ましい組み合わせからなる光変換用セラミック複合体は、紫から青色の光を透過しながら、その一部を吸収し、黄色の蛍光を発するためである。なかでもセリウムで付活されたYAl12と、Al結晶の組み合わせは強い蛍光を発するため好適である。
【0045】
光変換用セラミックス複合体における非常に重要な特徴は、各結晶相が独立ではなく、各相が不可分な関係として一体化していることである。上記のAl結晶とYAl12:Ceからなる光変換用セラミックス複合体の場合、単に2つの結晶が存在するのではなく、AlでもないYAl12でもない組成をもつ一種類の融液から同時にAl結晶とYAl12:Ce結晶が結晶化をした結果として2つの結晶が存在しているのであって、独立に2つの結晶が存在する場合とは異なる。この意味において2つの結晶は不可分である。このような凝固体は単なるAl結晶とYAG:Ce結晶が混在している状態とは本質的に異なっており、このため、このセラミックス複合体は特異な蛍光挙動を示す。
【0046】
光変換用セラミックス複合体を構成する凝固体は、原料金属酸化物を融解後、凝固させることで作製される。例えば、所定温度に保持したルツボに仕込んだ溶融物を、冷却温度を制御しながら冷却凝結させる簡単な方法で凝固体を得ることができるが、最も好ましいのは一方向凝固法により作製されたものである。一方向凝固をおこなうことにより含まれる結晶相が単結晶状態、またはそれに類似の状態で連続的に成長し、各相が単一の結晶方位となるためである。
【0047】
本発明に用いる光変換用セラミック複合体は、少なくとも1つの相が蛍光を発する金属元素酸化物を含有していることを除き、本願出願人が先に特開平7−149597号公報、特開平7−187893号公報、特開平8−81257号公報、特開平8−253389号公報、特開平8−253390号公報および特開平9−67194号公報並びにこれらに対応する米国出願(米国特許第5,569,547号、同第5,484,752号、同第5,902,963号)等に開示したセラミックス複合材料と同様のものであることができ、これらの公報に開示した製造方法で製造できる。
【0048】
本発明に係る発光ダイオード用基板の製造方法において、単結晶板と前記光変換用セラミックス複合体板の接合は、光変換用セラミックス複合体板及び単結晶板の接合面を高速原子ビームにより活性化し、この活性化した状態で両接合面を貼り合わせた後、加熱及び加圧処理を行うことによって行なわれることが好ましい。この単結晶板及び光変換用セラミックス複合体板の接合面を高速原子ビームにより活性化する前に、各接合面を洗浄しておく必要がある。その洗浄は、市販のアルカリ界面活性化剤、硫酸とリン酸の混合液、有機溶媒及び超純水を順に処理することによって行われる。
【0049】
各接合面の高速原子ビーム(FAB:Fast Atom Bombardment)による活性は、二つの基板を真空度1×10−5Pa以下に置いて行われることが好ましく、Arビームによりエッチングを行われることが好ましい。本発明に係る発光ダイオード用基板の製造方法は、このようにFABにより各接合面を活性化した状態で、各接合面同士を貼り合わせることにより、常温又は低温における接合を可能とし、また、接合界面に樹脂やガラス等の接着層を要しないため、熱膨張率に差がある材料の接合を可能となり、それゆえ、製造コストが安価となり、接合界面の光損失を抑えることができる。
【0050】
単結晶板と光変換用セラミックス複合体板の貼り合わせた後の加熱処理は、接合強度を増加させ、貼り合わせ後の加圧処理は、接合面積を増加させるという効果がある。加熱処理の範囲は、250〜1200℃であることが好ましく、500〜1100℃であることがより好ましい。また、加圧処理の範囲は、0.5〜10MPaであることが好ましく、2〜5MPaであることがより好ましい。このような加熱及び加圧処理の範囲内においては、接合基板の半導体成膜時に接合界面の剥がれが生じ難く、単結晶板と光変換用セラミックス複合体板の熱膨張差による割れが生じ難く、また接合圧力による剥がれが発生し難いため、安定的に接合基板を作製することが可能である。
【0051】
本発明の基板上に形成する半導体層の一例としての窒化物半導体層は、複数の窒化物系化合物半導体の層からなる。複数の窒化物系化合物半導体の層は、それぞれ、一般式、InxAlyGa1-x-yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)で表わされる窒化物系化合物により構成されることが好ましい。そして、窒化物半導体層は、少なくとも可視光を発する発光層を有する。良好な発光層を形成するためには、それぞれの層で、各機能に最適な組成に調整した複数の窒化物系化合物半導体の層を積層することが好ましい。
【0052】
複数の窒化物系化合物半導体の層及びこれらの層の形成方法は、例えば、Jpn. J. Appl. Phys. Vol.34(1995), L798等に開示されているように公知の技術である。具体的には、基板上に、GaNのバッファ層、n電極が形成されるn型−GaN:Siコンタクト層、n型−Al0.5Ga0.9N:Si層、n型−In0.05Ga0.95N:Si層、単一量子井戸構造型発光層を形成するInGaN層、p型‐Al0.1Ga0.9N:Mg障壁層、p電極が形成されるp型‐GaN:Mg層をMOCVDなどの方法により、順に積層することにより得ることができる。発光層の構造は他に、多重量子井戸構造や、ホモ構造、ヘテロ構造あるいはダブルへテロ構造としても良い。このように作製した発光ダイオード素子を、図4に示すようなパッケージに入れ、電極と接続するだけで、白色発光ダイオードとして使用することができる。図4において、2は単結晶層、3はセラミックス複合体、4は発光素子(ダイオード素子)、5及び6は電極、7はパッケージである。
【実施例】
【0053】
次に、本発明に係る発光ダイオード用基板の製造方法の実施例について説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0054】
実施例1
α−Al粉末(純度99.99%)とY粉末(純度99.999%)をモル比で82:18となるよう、またCeO2粉末(純度99.99%)を仕込み酸化物の反応により生成するYAl121モルに対し0.03モルとなるよう秤量した。これらの粉末をエタノール中、ボールミルによって16時間湿式混合した後、エバポレーターを用いてエタノールを脱媒して原料粉末を得た。原料粉末は、真空炉中で予備溶解し一方向凝固の原料とした。
【0055】
次に、この原料をそのままモリブデンルツボに仕込み、一方向凝固装置にセットし、1.33×10−3Pa(10−5Torr)の圧力下で原料を融解した。次に同一の雰囲気においてルツボを5mm/時間の速度で下降させ、ガーネット型結晶であるY3Al512:Ceとα型酸化アルミニウム型結晶であるAl23からなる凝固体を得た。得られた凝固体は黄色を呈していた。
【0056】
凝固体の凝固方向に平行な断面組織を図5に示す。白い部分がYAl12:Ce結晶、黒い部分がAl結晶である。二つの結晶が相互に絡み合った組織を有していることが分かる。
【0057】
セラミックス複合材料から、(0001)面がウェハ面になるように、2インチ、厚み1.0mmを切り出し、研削盤で0.43mmの厚みに仕上げた、さらに一方の表面を研磨して鏡面にした。この平均表面粗さは、30nmであった。一方、Al単結晶は市販品の(0001)面のウェハを用いた。大きさは2インチ、厚み0.100mm、表面粗さは、1nmであった。
【0058】
次にセラミックス複合体ウェハの接合表面の洗浄を行った。洗浄工程は市販のアルカリ界面活性化剤、硫酸とリン酸の混合液、有機溶媒、超純水、IPAの順に洗浄を行い、110℃、30分の条件で乾燥させた。
【0059】
単結晶ウェハとセラミックス複合体ウェハの表面活性化接合を行い、接合基板を作製した。接合時の雰囲気は真空度5×10−6Paであり、FAB(Fast Atom Bombardment)のArビームにより1分間エッチングを行い、各板の表面を活性化した状態で、活性化した面同士を貼り合わせた後、加熱温度250℃、加重0.5MPaの条件下で2時間保持した。接合基板の断面組織を図6に示す。
【0060】
接合により作成した基板のAl23単結晶層(0001)面上にTMG(トリメチルガリウム)ガス、TMA(トリメチルアルミニウム)ガス、窒素ガスおよびドーパントガスをキャリアガスと共に流し、MOCVD法で窒化物系化合物半導体を製膜し、青色発光層を得た。ドーパントガスとしてSiHとCp2Mgとを切り替えることによってn型窒化物系化合物半導体とp型窒化物系化合物半導体を形成し、pn接合を形成させた。具体的には、光変換用セラミック複合体層上にGaNのバッファ層を介して、n電極が形成されるn型−GaN:Siコンタクト層、n型−Al0.5Ga0.9N:Si層、n型−In0.05Ga0.95N:Si層、単一量子井戸構造型発光層を形成するInGaN層、p型‐Al0.1Ga0.9N:Mg障壁層、p電極が形成されるp型‐GaN:Mg層を形成した。pn各電極をスパッタ法により形成し、基板にスクライブラインを引き、外力を加えることにより分割し、図3のように発光ダイオードチップを得た。作製した発光ダイオードチップを用いフリップチップ型のパッケージを作製した。得られた発光ダイオードの発光スペクトルを図7に示す。
【0061】
実施例2
実施例1と同様の方法で作製したセラミックス複合材料から、(0001)面がウェハ面になるように、2インチ、厚み1.0mmを切り出し、研削盤で0.43mmの厚みに仕上げた、さらに一方の表面を研磨して鏡面にした。この平均表面粗さは、30nmであった。一方、Al単結晶は市販品の(0001)面のウェハを用いた。大きさは2インチ、厚み0.060mm、表面粗さは、1nmであった。セラミックス複合体ウェハと単結晶ウェハの接合を行い、作製した接合基板の単結晶面に半導体成膜を施し、白色発光ダイオードを作製した。
【0062】
実施例3
実施例1と同様に作製したセラミックス複合材料から、(0001)面がウェハ面になるように、2インチ、厚み1.0mmを切り出し、研削盤で0.43mmの厚みに仕上げ、さらに一方の表面を研磨して鏡面にした。この平均表面粗さは、30nmであった。一方、Al単結晶は市販品の(0001)面のウェハを用いた。大きさは2インチ、厚み0.100mm、表面粗さは、1nmであった。このAl単結晶ウェハの主面に対して、水素分子イオンを照射することで、その表面から0.0012mmの深さ位置にイオン注入領域を形成した。イオン注入条件は、加速エネルギーを300keV、照射量を1×1017ions/cmとした。
【0063】
次にセラミックス複合体ウェハの接合表面の洗浄を行った。洗浄工程は市販のアルカリ界面活性化剤、硫酸とリン酸の混合液、有機溶媒、超純水、IPAの順に洗浄を行い、110℃、30分の条件で乾燥させた。
【0064】
単結晶ウェハとセラミックス複合体ウェハの表面活性化接合を行い、接合基板を作製した。接合時の雰囲気は真空度5×10−6Paであり、FAB(Fast Atom Bombardment)のArビームにより1分間エッチングを行い、各板の表面を活性化した状態で、活性化した面同士を貼り合わせた後、加熱温度1000℃、加重0.5MPaの条件下で2時間保持した。また接合時の加熱により、Al単結晶層のイオン注入領域に水素ガスからなるキャビティが形成された。
【0065】
イオン注入領域が形成された接合基板のAl単結晶層側とセラミックス複合体層側の両方に真空吸着によるパッドを取り付け、それぞれのパッドを逆方向に回転させることで、Al単結晶層のキャビティが形成された領域に剪断応力を加えて、セラミックス複合体層側に0.0008mm程度の厚さを残して、Al単結晶層を剥離させ、Al単結晶層は0.0008まで薄膜化できた。その後、半導体成膜面の鏡面研磨を行うことでAl単結晶層は厚み0.0006mmに仕上げた。薄膜化した接合基板の単結晶面に半導体成膜を施し、白色発光ダイオードを作製した。
【0066】
実施例4
実施例3と同様にAl単結晶層のイオン注入領域に水素ガスからなるキャビティが形成された接合基板を作製した。キャビティが形成された領域の端面に楔状の突起が接触するように、得られた基板の端面を白金製の冶具で固定し、Al単結晶基板側を下にして、基板を冶具ごと皿状白金製容器に装填した。白金製容器の底に赤外線を集光することで、基板を急速に加熱し、また同時にキャビティが形成された領域の端面から機械的負荷を加えて、セラミックス複合体層側に0.0008mm程度の厚さを残して、Al23単結晶層を剥離させ、Al単結晶層は0.0006まで薄膜化できた。その後、半導体成膜面の鏡面研磨を行うことでAl23単結晶層は厚み0.0006mmに仕上げた。薄膜化した接合基板の単結晶面に半導体成膜を施し、白色発光ダイオードを作製した。
【0067】
実施例5
実施例3と同様にAl23単結晶層のイオン注入領域に水素ガスからなるキャビティが形成された接合基板を作製した。得られた基板のAl単結晶基板側の主面に対して、その主面の一端からライン状に5kHzでArFエキシマレーザー光を照射し、そのレーザー光の照射を開始した主面の一端の反対側に向かって移動させて、セラミックス複合体層側に0.0008mm程度の厚さを残して、Al単結晶層を剥離させ、Al単結晶層は0.0008まで薄膜化できた。その後、半導体成膜面の鏡面研磨を行うことでAl単結晶層は厚み0.0006mmに仕上げた。薄膜化した接合基板の単結晶面に半導体成膜を施し、白色発光ダイオードを作製した。
【0068】
実施例6
実施例1と同様の方法で作製した接合基板のAl単結晶層薄膜化方法にレーザー加工を用いた。レーザー加工に用いるレーザーは波長780nm、周波数10Hz、パルス幅150fsec、レーザー強度200μJである短パルスレーザーを用いた。レーザー光を市販の対物レンズ(10倍)を用いて接合基板の単結晶層内に集光させ、Al23単結晶ウェハの主面に対して、その表面から0.0010mmの深さ位置に欠陥を作製した。ウェハを面方向に平行移動させることにより、ウェハ面内に欠陥ドットを作製した。
欠陥ドットを作製した接合基板のAl単結晶層側とセラミックス複合体層側の両方に真空吸着によるパッドを取り付け、それぞれのパッドを逆方向に回転させることで、Al23単結晶層の欠陥ドットが形成された領域に剪断応力を加えて、セラミックス複合体層側に0.0010mm程度の厚さを残して、Al単結晶層を剥離させ、Al単結晶層は0.0010まで薄膜化できた。その後、半導体成膜面の鏡面研磨を行うことでAl23単結晶層は厚み0.0005mmに仕上げた。薄膜化した接合基板の単結晶面に半導体成膜を施し、白色発光ダイオードを作製した。
【0069】
比較例1
実施例1と同様の方法で作製した接合基板のAl単結晶層薄膜化方法にレーザー加工を用いた。レーザー加工によりAl単結晶層は0.0010mmまで薄膜化でき、半導体成膜面の鏡面研磨を行うことでAl単結晶層は厚み0.0003mmまで研磨したが、接合界面が剥がれた。
【0070】
比較例2
実施例1と同様の方法で作製したセラミックス複合材料から、(0001)面がウェハ面になるように、2インチ、厚み1.0mmを切り出し、研削盤で0.43mmの厚みに仕上げた、さらに一方の表面を研磨して鏡面にした。この平均表面粗さは、30nmであった。一方、Al単結晶は市販品の(0001)面のウェハを用いた。大きさは2インチ、厚み0.150mm、表面粗さは、1nmであった。セラミックス複合体ウェハと単結晶ウェハの接合を行い、作製した接合基板の単結晶面に半導体成膜を施し、白色発光ダイオードを作製した。
【0071】
比較例3
実施例1と同様の方法で作製したセラミックス複合材料から、(0001)面がウェハ面になるように、2インチ、厚み1.0mmを切り出し、研削盤で0.43mmの厚みに仕上げた、さらに一方の表面を研磨して鏡面にした。この平均表面粗さは、30nmであった。一方、Al単結晶は市販品の(0001)面のウェハを用いた。大きさは2インチ、厚み0.330mm、表面粗さは、1nmであった。セラミックス複合体ウェハと単結晶ウェハの接合を行い、作製した接合基板の単結晶面に半導体成膜を施し、白色発光ダイオードを作製した。
【0072】
実施例と比較例において作製した白色発光ダイオードの蛍光強度を評価した結果を図8に示したところ、単結晶層の厚みを薄くすることによって、蛍光強度が強くなっていることが明確化され、蛍光強度と単結晶層の厚みは比例関係ではなく、単結晶層の厚みが0.100mmまでは急激に蛍光強度が向上する。但し、単結晶層の厚みを0.0003mmまで薄くしたところ、接合基板の界面の剥がれが生じる。このことから単結晶層の厚みは0.100mm〜0.0005mmが好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光ダイオード素子が形成可能な単結晶層と、単一金属酸化物及び複合金属酸化物から選ばれる少なくとも2つ以上の酸化物相が連続的にかつ三次元的に相互に絡み合って形成されている凝固体からなり、酸化物相のうち少なくとも1つは蛍光を発する金属元素酸化物を含有する光変換用セラミックス複合体層とが直接接合され、
前記単結晶層の厚みが0.100mm〜0.0005mmであることを特徴とする発光ダイオード用基板。
【請求項2】
前記単結晶層の厚みが0.060mm〜0.0005mmであることを特徴とする請求項1記載の発光ダイオード用基板。
【請求項3】
前記単結晶層が、Al、SiC、ZnO、Si、またはGaNからなる材料である請求項1又は2記載の発光ダイオード用基板。
【請求項4】
前記凝固体がAlと、セリウムで付活されたYAl12とから構成されていることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の発光ダイオード用基板。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか記載の発光ダイオード用基板の単結晶層の表面に発光ダイオード素子を形成した発光ダイオード。
【請求項6】
請求項3記載の発光ダイオード用基板の単結晶層の表面に青色を発する発光ダイオード素子を形成した、前記基板側から疑似白色を発する発光ダイオード。
【請求項7】
発光ダイオード素子が形成可能な単結晶層と、単一金属酸化物及び複合金属酸化物から選ばれる少なくとも2つ以上の酸化物相が連続的にかつ三次元的に相互に絡み合って形成されている凝固体からなり、酸化物相のうち少なくとも1つは蛍光を発する金属元素酸化物を含有する光変換用セラミックス複合体層とが接合された発光ダイオード用基板の製造方法において、
発光ダイオード素子が形成可能な単結晶基板の表面から所定深さ位置に、水素イオンまたは希ガスイオンあるいはこれらの両方を注入してイオン注入領域を形成する工程Aと、
前記単結晶基板のイオン注入した面が該光変換用セラミックス複合体基板側になるように、前記単結晶基板と前記光変換用セラミックス複合体基板とを直接接合する工程Bと、
前記イオン注入領域を境界として、前記単結晶基板の一部を剥離することにより前記単結晶基板をその厚みが0.100mm〜0.0005mmになるまで薄層化する工程Cとを備えたことを特徴とする発光ダイオード用基板の製造方法。
【請求項8】
前記単結晶基板が、Al、SiC、ZnO、Si、またはGaNからなる群から選ばれる材料からなることを特徴とする請求項7に記載の発光ダイオード用基板の製造方法。
【請求項9】
前記セラミックス複合体板がAlと、セリウムで付活されたYAl12とから構成されていることを特徴とする請求項7又は8記載の発光ダイオード用基板の製造方法。
【請求項10】
前記単結晶基板がAlであり、前記光変換用セラミックス複合体基板がAl結晶と、Ceで付活されたA12型結晶(式中、AはY、Tb、Sm、Gd、La、Er、Luの群から選ばれる1種以上の元素、XはAl、Gaから選ばれる1種以上の元素である。)を含むセラミックス複合体であることを特徴とする請求項7乃至9いずれか記載の発光ダイオード用基板の製造方法。
【請求項11】
前記Ceで付活されたA12型結晶がYAl12:Ceであることを特徴とする請求項10記載の発光ダイオード用基板の製造方法。
【請求項12】
前記工程Cが、
前記単結晶基板と前記光変換用セラミックス複合体基板を積層して得られた、前記単結晶層およびセラミックス複合体層からなる前記発光ダイオード用基板に、熱的負荷または機械的負荷あるいはそれらの両方を加えることによって、
前記単結晶層の表面から所定深さ位置で該単結晶層の一部を剥離する工程であること、
を特徴とする請求項7乃至11いずれか記載の発光ダイオード用基板の製造方法。
【請求項13】
前記工程Cが、
前記単結晶基板と前記光変換用セラミックス複合体基板を積層して得られた、前記単結晶層およびセラミックス複合体層からなる前記発光ダイオード用基板に熱的負荷を加えて、
前記単結晶層の前記イオン注入領域に水素ガスまたは希ガスあるいはこれらの両方のガスのキャビティを形成した後、
前記イオン注入領域に熱的負荷または機械的負荷あるいはそれらの両方を加えることによって、
前記単結晶層の表面から所定深さ位置で前記単結晶層の一部を剥離する工程であること、
を特徴とする請求項7乃至11いずれか記載の発光ダイオード用基板の製造方法。
【請求項14】
前記単結晶層の前記イオン注入領域に加えられる熱的負荷が、急速な昇温加熱であることを特徴とする請求項12又は13記載の発光ダイオード用基板の製造方法。
【請求項15】
前記単結晶層の前記イオン注入領域に加えられる熱的負荷が、前記単結晶層の表面の一端から加熱し、徐々に加熱領域を表面全体に拡げる、または加熱領域を、加熱を開始した表面の一端の反対側に向かって移動させる方法よりもたらされるものであることを特徴とする請求項12又は13記載の発光ダイオード用基板の製造方法。
【請求項16】
前記工程Cが、
前記単結晶基板と前記光変換用セラミックス複合体基板を積層して得られた、前記単結晶層およびセラミックス複合体層からなる前記発光ダイオード用基板の前記単結晶層に250nm以下の光を照射して、
前記単結晶層の表面から所定深さ位置で該単結晶層の一部を剥離する工程であることを、特徴とする請求項7乃至11いずれか記載の発光ダイオード用基板の製造方法。
【請求項17】
前記発光ダイオード用基板の前記単結晶層に照射される光が、レーザー光であることを特徴とする請求項16記載の発光ダイオード用基板の製造方法。
【請求項18】
レーザー光の照射方法が、前記発光ダイオード用基板の前記単結晶層の表面に対して、その表面の一端からライン状にレーザー光を照射し、そのレーザー光を照射を開始した表面の一端の反対側に向かって移動させる方法であることを特徴とする請求項17に記載の発光ダイオード用基板の製造方法。
【請求項19】
前記工程Bが、光変換用セラミックス複合体板及び単結晶板の接合面を高速原子ビームにより活性化し、この活性化した状態で両接合面を貼り合わせた後、加熱及び加圧処理を行うことによって、前記単結晶板と前記光変換用セラミックス複合体板を接合することを特徴とする請求項7乃至18いずれか記載の発光ダイオード用基板の製造方法。
【請求項20】
加熱処理は、250〜1200℃で行ない、加圧処理は、0.5〜10MPaで行なうことを特徴とする請求項19記載の発光ダイオード用基板の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−216543(P2011−216543A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80855(P2010−80855)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】