発光ダイオード
【課題】 毒性がなく、必要以上のコストアップをもたらすこともなく、演色性に優れたLED、並びにこのようなLEDに用いられる被覆材を提供する。
【解決手段】 青色〜緑色発光素子と該発光素子から発光される光の波長を変換する蛍光物質とを有する発光ダイオードであって、前記蛍光物質には、Euで付活したCaS蛍光物質、あるいは一般式AEu(1-x)LnxB2O8(AはLi,K,Na,及びAgよりなる群から選ばれる1種、LnはY,La,及びGdよりなる群から選ばれる1種、BはW又はMoであり、xは0以上1未満の数である。)で表される蛍光物質が含まれている。
【解決手段】 青色〜緑色発光素子と該発光素子から発光される光の波長を変換する蛍光物質とを有する発光ダイオードであって、前記蛍光物質には、Euで付活したCaS蛍光物質、あるいは一般式AEu(1-x)LnxB2O8(AはLi,K,Na,及びAgよりなる群から選ばれる1種、LnはY,La,及びGdよりなる群から選ばれる1種、BはW又はMoであり、xは0以上1未満の数である。)で表される蛍光物質が含まれている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラー化液晶ディスプレイの外部照射光としてのバックライト、フロントライト、室内照明等に用いられる演色性に優れた白色発光ダイオードに関するもので、特に光源として青色または緑色発光素子を取り付けるだけで白色発光を可能にした白色発光ダイオード、及び本発明の発光ダイオードに用いられるダイオード用被覆材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(以下、「LED」と称する)は、PN接合半導体で、順電圧を印加するとN領域からの電子とP領域からの正孔がPN接合部分に移動して、電子と正孔が再結合する際に発光する。自由になっていた電子が結合状態になるときに放出されるエネルギーが光となって放射されるため、LEDから発光される光は、狭い波長範囲の光、すなわち、赤色、青色といった単色である。
【0003】
一方、カラー化液晶ディスプレイの照明光源や室内照明としては、蛍光管さらには自然光に近い白色の光を発する必要がある。
【0004】
このため、カラー化液晶ディスプレイの照明光源や室内照明としてLEDを用いる場合、赤色を発光する赤色発光素子、青色を発光する青色発光素子、緑色を発光する緑色発光素子を組み合せて白色発光を得ているフルカラーLEDを用いている。
【0005】
しかしながら、フルカラーLEDの場合、各発光素子毎にアノード端子及びカソード端子が必要になるため、構造的に複雑な設計になるとともに、3種類の発光素子を必要とすることから、要求されるスペース、コストが高くなる。また、発光素子の一つが破損すると、色調のバランスがくずれ、目的とする発光色が得られなくなってしまうこともある。このような事情から、1種類の発光素子を用いて、白色光を発光できるLED(このようなLEDは白色LEDと呼ばれ、上記フルカラーLEDと区別されている)の研究が盛んに行なわれている。白色LEDを用いることにより、簡単な電気回路でバックライト等を駆動できるようになるので消費電力の低減を図ることができ、またインバータ回路等が不要となり、このため駆動回路の外形寸法が小さくなるとともに、電磁雑音をなくせるという利点がある。このような優れた利点から、白色LEDの開発が進められている。
【0006】
白色LEDの場合、1種類の発光素子を用いて白色光を発光する必要があることから、単色発光素子から発光された光の波長を変換して他の色を発光できる蛍光物質を組み合せて用いるのが一般的である。例えば、青色発光素子上にYAG(アルミン酸イットリウム)系蛍光物質を含有する層を設けた白色LEDが市販されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−152609号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
YAG系蛍光物質は、付活する元素の種類にもよるが、一般に緑から黄色の光が発光されるだけのため、YAGの励起波長の光を発光する青色発光素子とYAG系蛍光物質とを組み合わせて得られる白色LEDでは、赤色の光が不足する。このことは、赤色の表示物については、赤色がくすんで見えるという問題につながる。
【0009】
YAGの付活元素の種類を工夫することにより、例えばY3Al5O12においてYサイトをGdで置換することにより発光ピークを長波長側、すなわち赤色側にシフトさせて、赤色に近い蛍光を発光できるYAGを用いることも考えられる。しかし、このような方法では、対象とする物体が基準の光の下での色知覚にあっているかどうかの指標となる平均演色評価数(Ra)が85以上の白色LEDを得ることはできない。蛍光層における赤色系のYAGの含有量を多くすることにより、赤色の光を高めることもできるが、この場合、YAGが発光する黄色味の光の発光強度も高くなるため、結局平均演色評価数Raの値として85以上のものは得られていない。
【0010】
白色LEDにおいて、青色、緑色、黄色だけでなく、赤色の光も補償する方法として、赤色蛍光物質を用いることも考えられる。しかし、蛍光ランプ用深赤色発光蛍光物質として知られているマンガン付活ヒ酸マグネシウム蛍光物質はその毒性ゆえに現在生産が行なわれていない。また、マンガン付活フッ化ゲルマン酸マグネシウム蛍光物質は、高価であるため、軽量薄型化、低消費電力をメリットとする白色LEDをバックライトとして用いる用途には不適である。
【0011】
また、蛍光物質層に赤色顔料を混合することも検討されている(例えば特開平5−152609号)。しかし、顔料は他の色をカットすることにより、特定の色を目立たせようとする光のフィルターのようなものであるから、顔料の添加は、LEDとしての輝度の低下をもたらすことになるため、省スペース化、低コスト化、省消費電力を目的とする白色LEDには好適でない。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、毒性がなく、必要以上のコストアップをもたらすこともなく、演色性に優れたLED、並びにこのようなLEDに用いられる被覆材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の発光ダイオードは、青色〜緑色発光素子と該発光素子から発光される光の波長を変換する蛍光物質とを有する発光ダイオードであって、前記蛍光物質には、一般式AEu(1-x)LnxB2O8(AはLi,K,Na,及びAgよりなる群から選ばれる1種、LnはY,La,及びGdよりなる群から選ばれる1種、BはW又はMoであり、xは0以上1未満の数である。)で表される蛍光物質が含まれている。
【0014】
前記発光素子は、具体的には400〜600nmの光を発光する素子である。
【0015】
前記蛍光物質には、さらに、Ceで付活したYxGd3-xAl5O12蛍光物質(0≦x≦3)が含まれていることが好ましい。
【0016】
前記蛍光物質は、前記発光素子表面に積層された蛍光層に含まれていてもよいし、発光素子を封止する透明樹脂中に含まれていてもよいし、前記発光素子を透明樹脂で封止した封止体に被覆する被覆材に含まれていてもよい。
【0017】
前記被覆材は、基材ポリマー100質量部、AEu(1-x)LnxB2O8で表わされる蛍光物質2〜40質量部、及びCeで付活したYxGd3-xAl5O12蛍光物質を含有するポリマー組成物の成形体;あるいは基材ポリマー100質量部、Euで付活したCaSを2〜40質量部、及びCeで付活したYxGd3-xAl5O12蛍光物質を含有するポリマー組成物の成形体であることが好ましい。また、前記基材ポリマーは、ゴム及び/又は熱可塑性エラストマーであることが好ましい。
【0018】
また、本発明の発光ダイオードは、平均演色評価数(Ra)の値が85以上であることが好ましく、より好ましくは特殊演色評価数R9の値が80以上である。さらに、470nm±2nmの発光強度(Ia)に対する610〜640nmの発光強度(Ib)の比(Ia:Ib)が1:0.5〜1:2であることが好ましい。
【0019】
本発明の発光ダイオード用被覆材は、青色〜緑色発光素子が透明樹脂で封止された発光ダイオード本体に被覆して用いられる発光ダイオード用被覆材であって、基材ポリマーと、Euで付活したCaS蛍光物質又は一般式AEu(1-x)LnxB2O8(AはLi,K,Na,及びAgよりなる群から選ばれる1種、LnはY,La,及びGdよりなる群から選ばれる1種、BはW又はMoであり、xは0以上1未満の数である。)で表される蛍光物質、好ましくは、さらにCeで付活したYxGd3-xAl5O12蛍光物質を含んでいる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の発光ダイオードは、青色〜緑色発光素子を用いた従来の発光ダイオードよりも赤色の発光に優れている。従って、YAGと組み合せて用いることにより、蛍光灯や自然光に近い演色性に優れた白色ダイオードを提供することができる。
【0021】
また、本発明の被覆材を用いれば、従来の発光ダイオードに装着するだけで本発明の演色性に優れた白色LEDとして利用することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態のダイオードの主要部分の構成を示す模式図であり、(a)はコーティングタイプ、(b)はフィルムタイプを示している。
【図2】本発明の第2実施形態のダイオードの構成を示す模式図であり、(a)は砲弾型、(b)はブロック型を示している。
【図3】本発明の第3実施形態のキャップ型ダイオードの構成を示す模式図である。
【図4】本発明の第3実施形態のブロック型ダイオードの構成を示す模式図である。
【図5】本発明の第3実施形態において係合部を有する被覆材を用いたLEDの構成を示す模式図である。
【図6】本発明の第3実施形態においてシートタイプの被覆材を用いたLEDの構成を示す模式図である。
【図7】LiEuW2O8の励起及び発光スペクトルである。
【図8】LiEu(1-x)YxW2O8系蛍光物質におけるxと発光強度との関係を示す発光スペクトルである。
【図9】LiEuMo2O8の発光及び励起スペクトルである。
【図10】赤色蛍光物質の含有量と発光強度との関係を示す発光スペクトルである。
【図11】白色LED4の発光スペクトルである。
【図12】白色LED5の発光スペクトルである。
【図13】白色LED6の発光スペクトルである。
【図14】白色LED7の発光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の発光ダイオードは、青〜緑色発光素子と、該発光素子から発光される光の波長を変換して赤色の光を変換できる蛍光物質(以下、「赤色蛍光物質」という)を用いたことを特徴とするものである。
【0024】
本発明で用いられる発光素子は、青〜緑色の光、具体的には400〜600nm、好ましくは400〜500nmの青色の光、500〜600nmの緑色の光を発光する発光素子である。後で説明するように、本発明で用いられる赤色蛍光物質は、これらの光で励起されるからである。
【0025】
青色発光素子として、GaN系青色LED;SiC系青色LED;ZnS、ZnSeなどのII−IV族青色LED等が挙げられ、緑色LEDとしては、GaP:N緑色LED、GaP系LED等が挙げられる。
【0026】
次に、赤色蛍光物質について説明する。
【0027】
本発明のLEDで用いられる赤色蛍光物質は、一般式AEu(1-x)LnxB2O8(AはLi,K,Na,及びAgよりなる群から選ばれる1種、LnはY,La,及びGdよりなる群から選ばれる1種、BはW又はMoである。)で表される化合物である。
【0028】
AEu(1-x)LnxB2O8(AはLi,K,Na,及びAgよりなる群から選ばれる1種、LnはY,La,及びGdよりなる群から選ばれる1種、BはW又はMoである。)は、Eu3+イオンの5D0→7F2遷移により614nm付近の光を発光する蛍光物質で、A,Bの元素の種類により励起波長及び発光波長は異なるが、共通して、470nm付近(青色)及び540nm付近(緑色)の光に励起して、620nm付近(赤色)の光を発光することができる。尚、A,Bの元素の種類が同じであれば、xの値に拘わらず励起、発光波長は同じである。
【0029】
一般式AEu(1-x)LnxB2O8(A=Li,K,Na,Ag Ln=Y,La,Gd B=W,Mo)において、xは0以上、1未満であり、好ましくは0である。すなわち、AEuB2O8のときに、615nm付近(赤色)の発光強度が最も高くなるからである。
【0030】
このような化合物は、蛍光物質を構成する金属Li、K、Na、Ag、Y、La、Gd、W、Mo、Euの酸化物、炭酸化物等を、所望の化学量論比率で混合することにより得られる。
【0031】
このように、赤色の光を発光する蛍光物質を積極的に含むことにより、赤色ダイオードを用いなくても、鮮やかな赤色を表示できる光源として利用可能なLEDを提供することができる。
【0032】
また、その他の赤色蛍光物質としては、Euで付活したCaSも挙げられる。Euで付活したCaSは、420〜600nmの光で励起して、630nmをピークとする570〜690nmの光を発光する。
【0033】
本発明で用いる蛍光物質には、上記赤色蛍光物質の他に、発光素子からの光で励起して赤色以外の色の光を発光する蛍光物質を含んでいてもよい。特に発光素子から発光する光と赤色以外の色の光を発光できる蛍光物質を含むことが好ましい。具体的には、アルミン酸イットリウム系蛍光物質が好ましく用いられる。
【0034】
アルミン酸イットリウム系蛍光物質(いわゆるYAG)は、Y3Al5O12のY原子位置の一部をGdで置換したガーネット構造を持つ安定な酸化物で、特に青色(400〜530nm)の光で励起して、550nmを中心に黄色〜緑色の光を発光する蛍光物質である。アルミン酸イットリウム系蛍光物質に添加する付活剤としては、セリウム、ユウロピウム、マンガン、サマリウム、テルビウム、スズ、クロム等の元素を挙げることができるが、これらのうちセリウムが好ましい。すなわちCeで付活したYxGd3-xAl5O12が好ましく用いられる。このようなYAG蛍光物質は、1種類だけ用いてもよいし、2種類以上用いてもよい。
【0035】
本発明のLEDから発光される光は、発光素子から発光される光と上記蛍光物質に由来する光との組み合わせからなるもので、発光素子の光(青色又は緑色)成分に、上記蛍光物質に由来する光が加算されて、発光色は発光素子の光である青色又は緑色から、白色に変わる。そして、上記赤色蛍光物質に起因して、従来では実現することが難しかった鮮やかな赤色を表示することができる。
【0036】
また、発光素子の光を赤色以外に変換できる蛍光物質を含むことにより、種々の色を実現できる演色性に優れた白色LEDを提供することができる。具体的には、YAGの種類を変えたり、蛍光物質の含有量を変化させたりすることにより、顔料の添加では達成することができなかった平均演色評価数85以上、さらには鮮やかな赤色の指標となるR9の値が80以上である演色性に優れた白色LEDを提供することができる。
【0037】
ここで演色性とは、照明光が物体色の見え方に及ぼす影響についての光源の特性をいい、演色性がよいほど、該当光源の下で物体の色知覚が規定の基準の光の下での同じ物体の色知覚にあっていることを示す。平均演色評価数Raとは、規定された8種類の試験色についての演色評価数の平均を示したもので、高いほど、あらゆる色彩に対する演色性が優れていることを示す。
【0038】
本発明のLEDは、第1の実施形態として、蛍光物質が上記発光素子の表面に積層された蛍光物質層に含まれている態様である。例えば、図1(a)に示すように、発光素子1の表面に、蛍光物質4を含んだコーティング剤をコーティングすることにより蛍光層2が形成されている場合であってもよいし、図1(b)に示すように、発光素子1の表面に、蛍光物質4を含んだ樹脂組成物からなるフィルムを貼付することにより蛍光層2′が形成されている場合であってもよい。このように蛍光層2(又は2′)が積層された発光素子1は、リード線(図示せず)が接続されたカップ3内に配置されてチップ型LEDを構成する場合もあるし、さらにこのチップ型LEDを透明樹脂で封止した封止体型LEDを構成する場合もある。
【0039】
蛍光層を形成するコーティング剤としては、赤色蛍光物質、必要に応じてYAG蛍光物質を含み、さらにバインダー、溶剤を含むコーティング剤が用いられる。フィルムにより蛍光層2′を形成する場合、基材樹脂中に上記蛍光物質を配合してなる樹脂組成物を用いてシート成形したフィルムを、バインダーを介して、あるいは焼き付けにより、発光素子に貼付すればよい。
【0040】
本発明のLEDの第2の実施形態は、蛍光物質を含有する樹脂組成物で、発光素子を埋設するように封止した封止型LEDである。例えば図2(a)は砲弾型の封止体を形成した場合であり、リードフレーム8に接続されたカップ3に発光素子1を配置し、これらをリードフレーム8が貫通できる基板にセットした状態で、基板10上に、蛍光物質4を含有する樹脂組成物で砲弾型の封止体11を形成している。封止体11は、発光素子1を埋設した状態で成形される。また、図2(b)は、ブロック型封止体を形成した場合であり、基板10′に印刷されたリード線に発光素子1が載置され、かかる状態で蛍光物質4を含有する樹脂組成物でブロック型の封止体12を形成している。
【0041】
上記封止体材料となる樹脂組成物は、透明樹脂を基材樹脂として、これに上記発光物質を含有してなる樹脂組成物である。基材樹脂としては、発光素子から発光する光の透過性がよい透明性の樹脂であればよく、所望により、耐久性、耐薬品性、絶縁性を有する樹脂である。具体的には、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、シリコーン樹脂等を用いることができる。
【0042】
封止用樹脂組成物において、樹脂基材100質量部に対して赤色蛍光物質の含有量は2〜40質量部であることが好ましい。また、YAGを含む場合、YAGと赤色蛍光物質との含有比率(YAG:赤色蛍光物質)は1:0.2〜1:4であることが好ましい。
【0043】
尚、第2の実施形態において、封止体の形状は、上記砲弾型、ブロック型には限定されない。また、発光素子に接続する端子の構造も限定されない。
【0044】
以上のように、蛍光物質を封止体の材料に含有させる場合、第1の実施形態よりも安定した色調の白色LEDを得易い。つまり、発光素子は大変小さいものであるため、素子表面に形成される蛍光層に含まれる蛍光物質は微量である。従って、蛍光物質の含有量のばらつきがLEDの発光特性に大きな影響を与えることになるので、高度な塗布技術、蛍光物質の含有量をはじめとする材料の高度な品質管理が要求されることになる。一方、封止体では、その体積に基づき、LED1個あたりに含有される樹脂量、蛍光物質の量が多くなるので、樹脂と蛍光物質の含有比率のばらつきが小さくて済む。また、封止体に蛍光物質を含有する第2実施形態は、生産上都合がよい。つまり、小さな発光素子にフィルムを貼付する作業は面倒で、歩留まりが大きくなる原因の工程であるのに対し、一般にLEDは封止型で市場を流通するので、封止型LEDを製造する工程において、封止材料に蛍光物質を添加すればよく、新たな工程を必要としないからである。
【0045】
本発明の第3の実施形態は、発光素子を埋設した封止体を被覆する被覆材に蛍光物質が含有されたものである。具体的には、図3に示すように、リードフレーム8が接続してなるカップ3に載置された発光素子1を封止してなる封止体20に、蛍光物質4を含有した被覆材21で被覆したものである。図4は、封止体がブロック型の場合を示しており、この場合に用いられる被覆材23は、封止体22の形状に合うように、ブロック型のものが用いられる。
【0046】
第3の実施形態で用いられる封止体の形状、端子の接続方法などは、特に限定されず、例えば、図5に示すように、被覆材21′の装着が安定するように、係止部24が突設した封止体20′であってもよく、この場合に用いられる被覆材21′は封止体20′の係止部24に係合する係合凹部25を有するものである。
【0047】
また、図6に示すように、発光素子1を埋設している封止体28の周囲を反射枠27で囲で直方体乃至円柱となし、発光素子1からの光が透過する上面に蛍光物質4を含有する被覆材を配置してもよい。
【0048】
被覆材は、基材ポリマーに上記蛍光組成物を添加してなるポリマー組成物の成形体である。基材ポリマーとしては、発光素子から発光する光の透光性のよい透明性のポリマーであればよく、所望により、耐久性、耐薬品性、絶縁性を有するポリマーである。具体的には、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、シリコーン系エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー等の樹脂を使用できる。これらのうち、封止体への被覆作業が簡単でしかも装着後は、取れにくい安定な被覆材を提供できるように、弾力性に優れたゴム、エラストマー又はこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0049】
被覆材料組成は、封止材料と同様に、基材ポリマー100質量部に対する赤色蛍光物質の含有量は2〜40質量部であることが好ましい。また、YAGを含有する場合には赤色蛍光物質との混合割合(YAG:赤色蛍光物質)は、1:0.2〜1:4であることが好ましい。
【0050】
被覆材の形状は、封止体に装着できる形状であればよく、必要に応じて、先端部分に集光機構を有していてもよい。かかる機構によって輝度を大きくすることができ、少ないエネルギーで効率的に照明作用を果たすことができる。集光機構としては、例えば先端部分の肉厚を他の部分より厚くしたレンズ構造などが挙げられる。
【0051】
被覆材の装着は、例えばキャップ形状であれば封止体に被覆するだけでもよいし、封止体が係合部を有している場合には、被覆材を係合させることにより、被覆材をはずれにくくすることができる。シート形状の被覆材の場合には、接着剤を介して、あるいは熱融着や超音波接着等により封止体に固着することが好ましい。
【0052】
以上のような構成を有する第3の実施形態の場合、封止材料には蛍光物質を含有させる必要はなく、基材樹脂で成形された透明体を用いればよいので、封止材の自由度が高まり、色調変更を容易に実現することができるという効果がある。つまり、封止材用樹脂組成物は、少なくとも1ロット分調製する必要があるので、材料の変更すなわち色調の変更が大掛かりなものとなり、多品種少量生産に適さない。この点、第3の実施形態では、被覆材の種類を変更するだけでLEDの色調を変更することができるので、封止材の材料を一定にしておけばよく、生産調整が行いやすいという利点がある。
【実施例】
【0053】
〔評価方法〕
(I)励起スペクトル
分光蛍光光度計FP−750(日本分光社製)を用いて、励起スペクトル(横軸に波長、縦軸に吸光強度)を測定した。
【0054】
(II)発光スペクトル
分光蛍光光度計FP−750(日本分光社製)を用いて、所定の励起波長に対する発光スペクトル(横軸に波長、縦軸に発光強度)を得た。
【0055】
(III)発光特性
LEDから拡散発光される発光色を、分光放射輝度計(Photo Research社製のPR704)を用いて、CIE(国際照明委員会)色度座標x,y及び輝度Lを測定した。
【0056】
輝度は大きいほど明るいことを示し、色度座標は座標の値が大きくなるほど、白色から離れて黄色味を帯びた色であることを示す。
【0057】
(IV)演色性
平均演色評価数Ra及び特殊演色評価数R9〜R15により評価した。
【0058】
平均演色評価数Raとは、規定された8種類の試験色についての特殊演色評価数の平均値に相当する演色評価数であり、特殊演色評価数(Ri)とは規定された試験色の各々について、基準の光で照明したときと試料光源で照明したときとの規定の均等色空間における座標の変化から求める演色評価数である。
【0059】
〔赤色蛍光物質LiEu(1-x)YxW2O8の調製〕
Li2O、Eu2O3、Y2O3、WO3を化学量論比で秤量しエタノール中でボールミルにて混合を行った。乾燥後粉砕し、アルミナ製るつぼに入れて大気中、1000℃で2時間焼成することにより、LiEuW2O8、LiEu0.7Y0.3W2O8、LiEu0.5Y0.5W2O8、LiEu0.3Y0.7W2O8、LiEu0.1Y0.9W2O8を得た。
【0060】
LiEuW2O8化合物の励起スペクトルを測定した結果を、図7に示す。図7から、465nm,536nmに励起帯が存在することがわかる。つまり、LiEuxLnW2O8系化合物は、青色LED、緑色LEDに対する赤色発光蛍光物質として有用であることがわかる。
【0061】
次に、上記で調製した蛍光物質について、励起波長を470nmとした場合の発光特性を測定した。得られた発光スペクトルを図8に示す。図8において、横軸は波長(nm)を示し、縦軸は発光強度を示している。
【0062】
図8から、LiEu(1-x)YxW2O8系化合物における620nm付近の発光強度は、xが0のとき、すなわちLiEuW2O8のときが最も大きかった。
【0063】
〔赤色蛍光物質LiEu(1-x)MoO8の調製〕
Li2O、Eu2O3、MoO3を化学量論比で秤量しエタノール中でボールミルにて混合を行った。乾燥後粉砕し、アルミナ製るつぼに入れて大気中にて600℃で3時間焼成することにより、LiEuMo2O8化合物を得た。
【0064】
このLiEuMo2O8の励起スペクトル及び励起波長を470nmとした場合発光スペクトルを測定した結果を、図9に示す。図9において、縦軸に吸光(又は発光強度、横軸に波長(nm)を示し、実線が励起スペクトルであり、破線が発光スペクトルである。
【0065】
図9から、LiEuW2O8化合物と同様に614nmにEu+3イオンの5D0→7F2遷移による赤色発光が得られることがわかる。また、励起波長は465,537nmにピークを持つことから、青色LEDだけでなく緑色LEDに対しても利用することが出来る。
【0066】
〔LEDにおける赤色蛍光物質の含有量と発光色との関係〕
シリコーンゴム100質量部に対するLiEu0.7Y0.3W2O8の含有量を表1に示すように変えた被覆材料用組成物を調製した。この組成物を用いて、肉厚0.35mmのキャップ形状の被覆材を成形した。この被覆材を、青色発光素子を埋設した封止体および緑色発光素子を埋設した封止体に装着し、20mAで積分球内で点灯させ発光色を測定した。測定結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1から、蛍光物質の含有量が多くなるにつれて、輝度が低下することがわかる。しかしながら、蛍光物質の添加量が増えるにつれて、x,yの値はそれぞれ増大し、赤味がかった色の光が発光されていることがわかる。
【0069】
〔YAG蛍光物質が共存するLEDにおける赤色蛍光物質の含有量と発光色との関係〕
シリコーンゴム100質量部に対して、Ce3+イオンを母体結晶に対し4mol%添加したY1.8Gd1.2Al5O12を20質量部、LiEu0.7Y0.3W2O8化合物を表2に示す量だけ添加した被覆材用組成物を調製した。この組成物を用いて、肉厚0.35mmのキャップ形状の被覆材を成形した。
【0070】
成形した被覆材を、青色発光素子(主発光波長468nm)を埋設した砲弾型封止体に装着して白色LEDを製造し、その発光スペクトル及び発光特性を測定した。発光特性を表2に、発光スペクトルを図10に、夫々示す。尚、図10における発光強度は、赤色蛍光物質の添加量0部の場合の468nmの発光強度を1とした場合の相対値を示している。
【0071】
【表2】
【0072】
表2からわかるように、LiEu0.7Y0.3W2O8の添加量が30部までは色度は白色から黄色方向にシフトしていくが、40部以上では逆に白色方向へシフトしている。また、添加量が増えるに従って、輝度が低下していくことがわかる。
【0073】
図10から、LiEu0.7Y0.3W2O8を添加することにより、468nmでの発光強度が低下するとともに、616nmに5D0→7F2遷移によるLiEu0.7Y0.3W2O8の発光ピークが表れることがわかる。そして、LiEu0.7Y0.3W2O8の添加量の増大に従って、468nmの発光度が低下するとともに全体的に発光強度が下がる傾向にあるが、616nmの発光強度が大きくなっていくことがわかる。具体的には、468nmの発光強度(Ia)と616nmの発光強度(Ib)の比(Ia:Ib)は1:0.5〜1:2であった。
【0074】
〔LEDにおける演色性ついて〕
LED1,2;基材ポリマー(シリコーンゴム)100質量部に、YAGを表3に示す量を添加して、被覆材用樹脂組成物を調製し、肉厚0.35mmの被覆材No.1,2を成形した。これを青色発光素子を埋設した封止体に装着して、演色性、発光特性を測定した。結果を表3に示す。
【0075】
尚、YAG蛍光物質としては、赤系YAG蛍光物質を用いた。
【0076】
LED3〜5;基材ポリマー(シリコーンゴム)100質量部に、YAG蛍光物質及び赤色蛍光物質(CaS:Eu)を表3に示す量を添加して、被覆材用樹脂組成物を調製し、肉厚0.35mmの被覆材No.3〜5を成形した。これを青色発光素子を埋設した封止体に装着して、演色性、発光特性を測定した。結果を表3に示す。さらにNo.4,5の発光スペクトルを図11,12に示す。
【0077】
尚、YAG蛍光物質としては、赤系YAG蛍光物質又は緑系YAG蛍光物質を用いた。
【0078】
LED6:基材ポリマー(シリコーンゴム)100質量部に、YAG蛍光物質及び赤色顔料(アゾ系)を表3に示す量を添加して、被覆材用樹脂組成物を調製し、肉厚0.35mmの被覆材No.6を成形した。これを青色発光素子を埋設した封止体に装着して、演色性、発光特性を測定し、その結果を表3に示す。さらに発光スペクトルを図13に示す。
【0079】
LED7:市販されている白色LEDで、青色発光素子にYAGを含む蛍光層が積層されたものを樹脂で砲弾型に封止したものである。尚、ここに用いられている青色発光素子は、上記白色LEDで用いた青色発光素子とは異なる。
【0080】
この白色LEDの演色性、発光特性を測定した結果を表3に示す。また、発光スペクトルを図14に示す。
【0081】
尚、図11〜14に示す発光スペクトルの縦軸は、発光ピークである青色(図11,13,14)又は赤色(図12)の光の発光強度を100とした相対発光強度を示している。
【0082】
【表3】
【0083】
No.2は、赤系YAGを用いているので、発光素子からの光458nmの他に、580〜600nmにもピーク(発光強度は青色の光の60%程度)が現われている。そして、500nm付近の光は少なくなっている。
【0084】
図13は赤色顔料を入れた場合の発光スペクトルで、そのスペクトルパターンは図14と類似しているが、強度の100%が図14では3.3×10-3であり、図13では1.62×10-3であることからわかるように、顔料を使用した場合には全体として発光強度が低下している。
【0085】
一方、図11,12は本発明に係るLEDの発光スペクトルであり、650nm付近にピークが見られ、そのピークは青色の発光ピークの60%以上の強度を有しており、また500nm付近で図13,14のような発光の落ち込みは認められなかった。つまり、400〜700nmまで、平均的に発光し、演色性が向上していることがわかる。
【0086】
以上のことは、表3において、赤色蛍光物質を含有する本発明に係る白色LEDだけがRa85以上を示しており、演色性が向上していることからも明らかである。
【0087】
つまり、No.2のように、赤系YAG蛍光物質の含有量を増やしても、Ra85以上は達成できないばかりか、YAGから発光される黄色の光も強くなりすぎて、鮮やかな赤色の指標となるR9を極端に低下させることとなった。一方、本発明に係る白色LEDは、YAG蛍光物質の種類に拘わらず、Ra85以上を達成できたばかりか、特殊演色評価数R9〜R15の値をそれ程低下させることもなく、演色性に優れていることがわかる。具体的には、赤系YAGを用いたNo.1,2や、赤色顔料を用いたNo.6、更に市販品のいずれと比べても優れた演色性を示すことがわかる。また、No.6は被覆材に赤色顔料が添加されているので、鮮やかな赤色の指標となるR9の値は増加したが、黄色の指標となるR10が極端に低下したばかりか、顔料の影響から、輝度が低下することとなった。
【0088】
尚、輝度については、市販品が特に高くなっているが、これは埋設されている青色発光素子の差によるものと考えられる。
【符号の説明】
【0089】
1 発光素子
2,2′ 蛍光層
4 蛍光物質
11,12 封止体
20,20′ 封止体
21,21′,23 被覆材
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラー化液晶ディスプレイの外部照射光としてのバックライト、フロントライト、室内照明等に用いられる演色性に優れた白色発光ダイオードに関するもので、特に光源として青色または緑色発光素子を取り付けるだけで白色発光を可能にした白色発光ダイオード、及び本発明の発光ダイオードに用いられるダイオード用被覆材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(以下、「LED」と称する)は、PN接合半導体で、順電圧を印加するとN領域からの電子とP領域からの正孔がPN接合部分に移動して、電子と正孔が再結合する際に発光する。自由になっていた電子が結合状態になるときに放出されるエネルギーが光となって放射されるため、LEDから発光される光は、狭い波長範囲の光、すなわち、赤色、青色といった単色である。
【0003】
一方、カラー化液晶ディスプレイの照明光源や室内照明としては、蛍光管さらには自然光に近い白色の光を発する必要がある。
【0004】
このため、カラー化液晶ディスプレイの照明光源や室内照明としてLEDを用いる場合、赤色を発光する赤色発光素子、青色を発光する青色発光素子、緑色を発光する緑色発光素子を組み合せて白色発光を得ているフルカラーLEDを用いている。
【0005】
しかしながら、フルカラーLEDの場合、各発光素子毎にアノード端子及びカソード端子が必要になるため、構造的に複雑な設計になるとともに、3種類の発光素子を必要とすることから、要求されるスペース、コストが高くなる。また、発光素子の一つが破損すると、色調のバランスがくずれ、目的とする発光色が得られなくなってしまうこともある。このような事情から、1種類の発光素子を用いて、白色光を発光できるLED(このようなLEDは白色LEDと呼ばれ、上記フルカラーLEDと区別されている)の研究が盛んに行なわれている。白色LEDを用いることにより、簡単な電気回路でバックライト等を駆動できるようになるので消費電力の低減を図ることができ、またインバータ回路等が不要となり、このため駆動回路の外形寸法が小さくなるとともに、電磁雑音をなくせるという利点がある。このような優れた利点から、白色LEDの開発が進められている。
【0006】
白色LEDの場合、1種類の発光素子を用いて白色光を発光する必要があることから、単色発光素子から発光された光の波長を変換して他の色を発光できる蛍光物質を組み合せて用いるのが一般的である。例えば、青色発光素子上にYAG(アルミン酸イットリウム)系蛍光物質を含有する層を設けた白色LEDが市販されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−152609号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
YAG系蛍光物質は、付活する元素の種類にもよるが、一般に緑から黄色の光が発光されるだけのため、YAGの励起波長の光を発光する青色発光素子とYAG系蛍光物質とを組み合わせて得られる白色LEDでは、赤色の光が不足する。このことは、赤色の表示物については、赤色がくすんで見えるという問題につながる。
【0009】
YAGの付活元素の種類を工夫することにより、例えばY3Al5O12においてYサイトをGdで置換することにより発光ピークを長波長側、すなわち赤色側にシフトさせて、赤色に近い蛍光を発光できるYAGを用いることも考えられる。しかし、このような方法では、対象とする物体が基準の光の下での色知覚にあっているかどうかの指標となる平均演色評価数(Ra)が85以上の白色LEDを得ることはできない。蛍光層における赤色系のYAGの含有量を多くすることにより、赤色の光を高めることもできるが、この場合、YAGが発光する黄色味の光の発光強度も高くなるため、結局平均演色評価数Raの値として85以上のものは得られていない。
【0010】
白色LEDにおいて、青色、緑色、黄色だけでなく、赤色の光も補償する方法として、赤色蛍光物質を用いることも考えられる。しかし、蛍光ランプ用深赤色発光蛍光物質として知られているマンガン付活ヒ酸マグネシウム蛍光物質はその毒性ゆえに現在生産が行なわれていない。また、マンガン付活フッ化ゲルマン酸マグネシウム蛍光物質は、高価であるため、軽量薄型化、低消費電力をメリットとする白色LEDをバックライトとして用いる用途には不適である。
【0011】
また、蛍光物質層に赤色顔料を混合することも検討されている(例えば特開平5−152609号)。しかし、顔料は他の色をカットすることにより、特定の色を目立たせようとする光のフィルターのようなものであるから、顔料の添加は、LEDとしての輝度の低下をもたらすことになるため、省スペース化、低コスト化、省消費電力を目的とする白色LEDには好適でない。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、毒性がなく、必要以上のコストアップをもたらすこともなく、演色性に優れたLED、並びにこのようなLEDに用いられる被覆材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の発光ダイオードは、青色〜緑色発光素子と該発光素子から発光される光の波長を変換する蛍光物質とを有する発光ダイオードであって、前記蛍光物質には、一般式AEu(1-x)LnxB2O8(AはLi,K,Na,及びAgよりなる群から選ばれる1種、LnはY,La,及びGdよりなる群から選ばれる1種、BはW又はMoであり、xは0以上1未満の数である。)で表される蛍光物質が含まれている。
【0014】
前記発光素子は、具体的には400〜600nmの光を発光する素子である。
【0015】
前記蛍光物質には、さらに、Ceで付活したYxGd3-xAl5O12蛍光物質(0≦x≦3)が含まれていることが好ましい。
【0016】
前記蛍光物質は、前記発光素子表面に積層された蛍光層に含まれていてもよいし、発光素子を封止する透明樹脂中に含まれていてもよいし、前記発光素子を透明樹脂で封止した封止体に被覆する被覆材に含まれていてもよい。
【0017】
前記被覆材は、基材ポリマー100質量部、AEu(1-x)LnxB2O8で表わされる蛍光物質2〜40質量部、及びCeで付活したYxGd3-xAl5O12蛍光物質を含有するポリマー組成物の成形体;あるいは基材ポリマー100質量部、Euで付活したCaSを2〜40質量部、及びCeで付活したYxGd3-xAl5O12蛍光物質を含有するポリマー組成物の成形体であることが好ましい。また、前記基材ポリマーは、ゴム及び/又は熱可塑性エラストマーであることが好ましい。
【0018】
また、本発明の発光ダイオードは、平均演色評価数(Ra)の値が85以上であることが好ましく、より好ましくは特殊演色評価数R9の値が80以上である。さらに、470nm±2nmの発光強度(Ia)に対する610〜640nmの発光強度(Ib)の比(Ia:Ib)が1:0.5〜1:2であることが好ましい。
【0019】
本発明の発光ダイオード用被覆材は、青色〜緑色発光素子が透明樹脂で封止された発光ダイオード本体に被覆して用いられる発光ダイオード用被覆材であって、基材ポリマーと、Euで付活したCaS蛍光物質又は一般式AEu(1-x)LnxB2O8(AはLi,K,Na,及びAgよりなる群から選ばれる1種、LnはY,La,及びGdよりなる群から選ばれる1種、BはW又はMoであり、xは0以上1未満の数である。)で表される蛍光物質、好ましくは、さらにCeで付活したYxGd3-xAl5O12蛍光物質を含んでいる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の発光ダイオードは、青色〜緑色発光素子を用いた従来の発光ダイオードよりも赤色の発光に優れている。従って、YAGと組み合せて用いることにより、蛍光灯や自然光に近い演色性に優れた白色ダイオードを提供することができる。
【0021】
また、本発明の被覆材を用いれば、従来の発光ダイオードに装着するだけで本発明の演色性に優れた白色LEDとして利用することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態のダイオードの主要部分の構成を示す模式図であり、(a)はコーティングタイプ、(b)はフィルムタイプを示している。
【図2】本発明の第2実施形態のダイオードの構成を示す模式図であり、(a)は砲弾型、(b)はブロック型を示している。
【図3】本発明の第3実施形態のキャップ型ダイオードの構成を示す模式図である。
【図4】本発明の第3実施形態のブロック型ダイオードの構成を示す模式図である。
【図5】本発明の第3実施形態において係合部を有する被覆材を用いたLEDの構成を示す模式図である。
【図6】本発明の第3実施形態においてシートタイプの被覆材を用いたLEDの構成を示す模式図である。
【図7】LiEuW2O8の励起及び発光スペクトルである。
【図8】LiEu(1-x)YxW2O8系蛍光物質におけるxと発光強度との関係を示す発光スペクトルである。
【図9】LiEuMo2O8の発光及び励起スペクトルである。
【図10】赤色蛍光物質の含有量と発光強度との関係を示す発光スペクトルである。
【図11】白色LED4の発光スペクトルである。
【図12】白色LED5の発光スペクトルである。
【図13】白色LED6の発光スペクトルである。
【図14】白色LED7の発光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の発光ダイオードは、青〜緑色発光素子と、該発光素子から発光される光の波長を変換して赤色の光を変換できる蛍光物質(以下、「赤色蛍光物質」という)を用いたことを特徴とするものである。
【0024】
本発明で用いられる発光素子は、青〜緑色の光、具体的には400〜600nm、好ましくは400〜500nmの青色の光、500〜600nmの緑色の光を発光する発光素子である。後で説明するように、本発明で用いられる赤色蛍光物質は、これらの光で励起されるからである。
【0025】
青色発光素子として、GaN系青色LED;SiC系青色LED;ZnS、ZnSeなどのII−IV族青色LED等が挙げられ、緑色LEDとしては、GaP:N緑色LED、GaP系LED等が挙げられる。
【0026】
次に、赤色蛍光物質について説明する。
【0027】
本発明のLEDで用いられる赤色蛍光物質は、一般式AEu(1-x)LnxB2O8(AはLi,K,Na,及びAgよりなる群から選ばれる1種、LnはY,La,及びGdよりなる群から選ばれる1種、BはW又はMoである。)で表される化合物である。
【0028】
AEu(1-x)LnxB2O8(AはLi,K,Na,及びAgよりなる群から選ばれる1種、LnはY,La,及びGdよりなる群から選ばれる1種、BはW又はMoである。)は、Eu3+イオンの5D0→7F2遷移により614nm付近の光を発光する蛍光物質で、A,Bの元素の種類により励起波長及び発光波長は異なるが、共通して、470nm付近(青色)及び540nm付近(緑色)の光に励起して、620nm付近(赤色)の光を発光することができる。尚、A,Bの元素の種類が同じであれば、xの値に拘わらず励起、発光波長は同じである。
【0029】
一般式AEu(1-x)LnxB2O8(A=Li,K,Na,Ag Ln=Y,La,Gd B=W,Mo)において、xは0以上、1未満であり、好ましくは0である。すなわち、AEuB2O8のときに、615nm付近(赤色)の発光強度が最も高くなるからである。
【0030】
このような化合物は、蛍光物質を構成する金属Li、K、Na、Ag、Y、La、Gd、W、Mo、Euの酸化物、炭酸化物等を、所望の化学量論比率で混合することにより得られる。
【0031】
このように、赤色の光を発光する蛍光物質を積極的に含むことにより、赤色ダイオードを用いなくても、鮮やかな赤色を表示できる光源として利用可能なLEDを提供することができる。
【0032】
また、その他の赤色蛍光物質としては、Euで付活したCaSも挙げられる。Euで付活したCaSは、420〜600nmの光で励起して、630nmをピークとする570〜690nmの光を発光する。
【0033】
本発明で用いる蛍光物質には、上記赤色蛍光物質の他に、発光素子からの光で励起して赤色以外の色の光を発光する蛍光物質を含んでいてもよい。特に発光素子から発光する光と赤色以外の色の光を発光できる蛍光物質を含むことが好ましい。具体的には、アルミン酸イットリウム系蛍光物質が好ましく用いられる。
【0034】
アルミン酸イットリウム系蛍光物質(いわゆるYAG)は、Y3Al5O12のY原子位置の一部をGdで置換したガーネット構造を持つ安定な酸化物で、特に青色(400〜530nm)の光で励起して、550nmを中心に黄色〜緑色の光を発光する蛍光物質である。アルミン酸イットリウム系蛍光物質に添加する付活剤としては、セリウム、ユウロピウム、マンガン、サマリウム、テルビウム、スズ、クロム等の元素を挙げることができるが、これらのうちセリウムが好ましい。すなわちCeで付活したYxGd3-xAl5O12が好ましく用いられる。このようなYAG蛍光物質は、1種類だけ用いてもよいし、2種類以上用いてもよい。
【0035】
本発明のLEDから発光される光は、発光素子から発光される光と上記蛍光物質に由来する光との組み合わせからなるもので、発光素子の光(青色又は緑色)成分に、上記蛍光物質に由来する光が加算されて、発光色は発光素子の光である青色又は緑色から、白色に変わる。そして、上記赤色蛍光物質に起因して、従来では実現することが難しかった鮮やかな赤色を表示することができる。
【0036】
また、発光素子の光を赤色以外に変換できる蛍光物質を含むことにより、種々の色を実現できる演色性に優れた白色LEDを提供することができる。具体的には、YAGの種類を変えたり、蛍光物質の含有量を変化させたりすることにより、顔料の添加では達成することができなかった平均演色評価数85以上、さらには鮮やかな赤色の指標となるR9の値が80以上である演色性に優れた白色LEDを提供することができる。
【0037】
ここで演色性とは、照明光が物体色の見え方に及ぼす影響についての光源の特性をいい、演色性がよいほど、該当光源の下で物体の色知覚が規定の基準の光の下での同じ物体の色知覚にあっていることを示す。平均演色評価数Raとは、規定された8種類の試験色についての演色評価数の平均を示したもので、高いほど、あらゆる色彩に対する演色性が優れていることを示す。
【0038】
本発明のLEDは、第1の実施形態として、蛍光物質が上記発光素子の表面に積層された蛍光物質層に含まれている態様である。例えば、図1(a)に示すように、発光素子1の表面に、蛍光物質4を含んだコーティング剤をコーティングすることにより蛍光層2が形成されている場合であってもよいし、図1(b)に示すように、発光素子1の表面に、蛍光物質4を含んだ樹脂組成物からなるフィルムを貼付することにより蛍光層2′が形成されている場合であってもよい。このように蛍光層2(又は2′)が積層された発光素子1は、リード線(図示せず)が接続されたカップ3内に配置されてチップ型LEDを構成する場合もあるし、さらにこのチップ型LEDを透明樹脂で封止した封止体型LEDを構成する場合もある。
【0039】
蛍光層を形成するコーティング剤としては、赤色蛍光物質、必要に応じてYAG蛍光物質を含み、さらにバインダー、溶剤を含むコーティング剤が用いられる。フィルムにより蛍光層2′を形成する場合、基材樹脂中に上記蛍光物質を配合してなる樹脂組成物を用いてシート成形したフィルムを、バインダーを介して、あるいは焼き付けにより、発光素子に貼付すればよい。
【0040】
本発明のLEDの第2の実施形態は、蛍光物質を含有する樹脂組成物で、発光素子を埋設するように封止した封止型LEDである。例えば図2(a)は砲弾型の封止体を形成した場合であり、リードフレーム8に接続されたカップ3に発光素子1を配置し、これらをリードフレーム8が貫通できる基板にセットした状態で、基板10上に、蛍光物質4を含有する樹脂組成物で砲弾型の封止体11を形成している。封止体11は、発光素子1を埋設した状態で成形される。また、図2(b)は、ブロック型封止体を形成した場合であり、基板10′に印刷されたリード線に発光素子1が載置され、かかる状態で蛍光物質4を含有する樹脂組成物でブロック型の封止体12を形成している。
【0041】
上記封止体材料となる樹脂組成物は、透明樹脂を基材樹脂として、これに上記発光物質を含有してなる樹脂組成物である。基材樹脂としては、発光素子から発光する光の透過性がよい透明性の樹脂であればよく、所望により、耐久性、耐薬品性、絶縁性を有する樹脂である。具体的には、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、シリコーン樹脂等を用いることができる。
【0042】
封止用樹脂組成物において、樹脂基材100質量部に対して赤色蛍光物質の含有量は2〜40質量部であることが好ましい。また、YAGを含む場合、YAGと赤色蛍光物質との含有比率(YAG:赤色蛍光物質)は1:0.2〜1:4であることが好ましい。
【0043】
尚、第2の実施形態において、封止体の形状は、上記砲弾型、ブロック型には限定されない。また、発光素子に接続する端子の構造も限定されない。
【0044】
以上のように、蛍光物質を封止体の材料に含有させる場合、第1の実施形態よりも安定した色調の白色LEDを得易い。つまり、発光素子は大変小さいものであるため、素子表面に形成される蛍光層に含まれる蛍光物質は微量である。従って、蛍光物質の含有量のばらつきがLEDの発光特性に大きな影響を与えることになるので、高度な塗布技術、蛍光物質の含有量をはじめとする材料の高度な品質管理が要求されることになる。一方、封止体では、その体積に基づき、LED1個あたりに含有される樹脂量、蛍光物質の量が多くなるので、樹脂と蛍光物質の含有比率のばらつきが小さくて済む。また、封止体に蛍光物質を含有する第2実施形態は、生産上都合がよい。つまり、小さな発光素子にフィルムを貼付する作業は面倒で、歩留まりが大きくなる原因の工程であるのに対し、一般にLEDは封止型で市場を流通するので、封止型LEDを製造する工程において、封止材料に蛍光物質を添加すればよく、新たな工程を必要としないからである。
【0045】
本発明の第3の実施形態は、発光素子を埋設した封止体を被覆する被覆材に蛍光物質が含有されたものである。具体的には、図3に示すように、リードフレーム8が接続してなるカップ3に載置された発光素子1を封止してなる封止体20に、蛍光物質4を含有した被覆材21で被覆したものである。図4は、封止体がブロック型の場合を示しており、この場合に用いられる被覆材23は、封止体22の形状に合うように、ブロック型のものが用いられる。
【0046】
第3の実施形態で用いられる封止体の形状、端子の接続方法などは、特に限定されず、例えば、図5に示すように、被覆材21′の装着が安定するように、係止部24が突設した封止体20′であってもよく、この場合に用いられる被覆材21′は封止体20′の係止部24に係合する係合凹部25を有するものである。
【0047】
また、図6に示すように、発光素子1を埋設している封止体28の周囲を反射枠27で囲で直方体乃至円柱となし、発光素子1からの光が透過する上面に蛍光物質4を含有する被覆材を配置してもよい。
【0048】
被覆材は、基材ポリマーに上記蛍光組成物を添加してなるポリマー組成物の成形体である。基材ポリマーとしては、発光素子から発光する光の透光性のよい透明性のポリマーであればよく、所望により、耐久性、耐薬品性、絶縁性を有するポリマーである。具体的には、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、シリコーン系エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー等の樹脂を使用できる。これらのうち、封止体への被覆作業が簡単でしかも装着後は、取れにくい安定な被覆材を提供できるように、弾力性に優れたゴム、エラストマー又はこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0049】
被覆材料組成は、封止材料と同様に、基材ポリマー100質量部に対する赤色蛍光物質の含有量は2〜40質量部であることが好ましい。また、YAGを含有する場合には赤色蛍光物質との混合割合(YAG:赤色蛍光物質)は、1:0.2〜1:4であることが好ましい。
【0050】
被覆材の形状は、封止体に装着できる形状であればよく、必要に応じて、先端部分に集光機構を有していてもよい。かかる機構によって輝度を大きくすることができ、少ないエネルギーで効率的に照明作用を果たすことができる。集光機構としては、例えば先端部分の肉厚を他の部分より厚くしたレンズ構造などが挙げられる。
【0051】
被覆材の装着は、例えばキャップ形状であれば封止体に被覆するだけでもよいし、封止体が係合部を有している場合には、被覆材を係合させることにより、被覆材をはずれにくくすることができる。シート形状の被覆材の場合には、接着剤を介して、あるいは熱融着や超音波接着等により封止体に固着することが好ましい。
【0052】
以上のような構成を有する第3の実施形態の場合、封止材料には蛍光物質を含有させる必要はなく、基材樹脂で成形された透明体を用いればよいので、封止材の自由度が高まり、色調変更を容易に実現することができるという効果がある。つまり、封止材用樹脂組成物は、少なくとも1ロット分調製する必要があるので、材料の変更すなわち色調の変更が大掛かりなものとなり、多品種少量生産に適さない。この点、第3の実施形態では、被覆材の種類を変更するだけでLEDの色調を変更することができるので、封止材の材料を一定にしておけばよく、生産調整が行いやすいという利点がある。
【実施例】
【0053】
〔評価方法〕
(I)励起スペクトル
分光蛍光光度計FP−750(日本分光社製)を用いて、励起スペクトル(横軸に波長、縦軸に吸光強度)を測定した。
【0054】
(II)発光スペクトル
分光蛍光光度計FP−750(日本分光社製)を用いて、所定の励起波長に対する発光スペクトル(横軸に波長、縦軸に発光強度)を得た。
【0055】
(III)発光特性
LEDから拡散発光される発光色を、分光放射輝度計(Photo Research社製のPR704)を用いて、CIE(国際照明委員会)色度座標x,y及び輝度Lを測定した。
【0056】
輝度は大きいほど明るいことを示し、色度座標は座標の値が大きくなるほど、白色から離れて黄色味を帯びた色であることを示す。
【0057】
(IV)演色性
平均演色評価数Ra及び特殊演色評価数R9〜R15により評価した。
【0058】
平均演色評価数Raとは、規定された8種類の試験色についての特殊演色評価数の平均値に相当する演色評価数であり、特殊演色評価数(Ri)とは規定された試験色の各々について、基準の光で照明したときと試料光源で照明したときとの規定の均等色空間における座標の変化から求める演色評価数である。
【0059】
〔赤色蛍光物質LiEu(1-x)YxW2O8の調製〕
Li2O、Eu2O3、Y2O3、WO3を化学量論比で秤量しエタノール中でボールミルにて混合を行った。乾燥後粉砕し、アルミナ製るつぼに入れて大気中、1000℃で2時間焼成することにより、LiEuW2O8、LiEu0.7Y0.3W2O8、LiEu0.5Y0.5W2O8、LiEu0.3Y0.7W2O8、LiEu0.1Y0.9W2O8を得た。
【0060】
LiEuW2O8化合物の励起スペクトルを測定した結果を、図7に示す。図7から、465nm,536nmに励起帯が存在することがわかる。つまり、LiEuxLnW2O8系化合物は、青色LED、緑色LEDに対する赤色発光蛍光物質として有用であることがわかる。
【0061】
次に、上記で調製した蛍光物質について、励起波長を470nmとした場合の発光特性を測定した。得られた発光スペクトルを図8に示す。図8において、横軸は波長(nm)を示し、縦軸は発光強度を示している。
【0062】
図8から、LiEu(1-x)YxW2O8系化合物における620nm付近の発光強度は、xが0のとき、すなわちLiEuW2O8のときが最も大きかった。
【0063】
〔赤色蛍光物質LiEu(1-x)MoO8の調製〕
Li2O、Eu2O3、MoO3を化学量論比で秤量しエタノール中でボールミルにて混合を行った。乾燥後粉砕し、アルミナ製るつぼに入れて大気中にて600℃で3時間焼成することにより、LiEuMo2O8化合物を得た。
【0064】
このLiEuMo2O8の励起スペクトル及び励起波長を470nmとした場合発光スペクトルを測定した結果を、図9に示す。図9において、縦軸に吸光(又は発光強度、横軸に波長(nm)を示し、実線が励起スペクトルであり、破線が発光スペクトルである。
【0065】
図9から、LiEuW2O8化合物と同様に614nmにEu+3イオンの5D0→7F2遷移による赤色発光が得られることがわかる。また、励起波長は465,537nmにピークを持つことから、青色LEDだけでなく緑色LEDに対しても利用することが出来る。
【0066】
〔LEDにおける赤色蛍光物質の含有量と発光色との関係〕
シリコーンゴム100質量部に対するLiEu0.7Y0.3W2O8の含有量を表1に示すように変えた被覆材料用組成物を調製した。この組成物を用いて、肉厚0.35mmのキャップ形状の被覆材を成形した。この被覆材を、青色発光素子を埋設した封止体および緑色発光素子を埋設した封止体に装着し、20mAで積分球内で点灯させ発光色を測定した。測定結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1から、蛍光物質の含有量が多くなるにつれて、輝度が低下することがわかる。しかしながら、蛍光物質の添加量が増えるにつれて、x,yの値はそれぞれ増大し、赤味がかった色の光が発光されていることがわかる。
【0069】
〔YAG蛍光物質が共存するLEDにおける赤色蛍光物質の含有量と発光色との関係〕
シリコーンゴム100質量部に対して、Ce3+イオンを母体結晶に対し4mol%添加したY1.8Gd1.2Al5O12を20質量部、LiEu0.7Y0.3W2O8化合物を表2に示す量だけ添加した被覆材用組成物を調製した。この組成物を用いて、肉厚0.35mmのキャップ形状の被覆材を成形した。
【0070】
成形した被覆材を、青色発光素子(主発光波長468nm)を埋設した砲弾型封止体に装着して白色LEDを製造し、その発光スペクトル及び発光特性を測定した。発光特性を表2に、発光スペクトルを図10に、夫々示す。尚、図10における発光強度は、赤色蛍光物質の添加量0部の場合の468nmの発光強度を1とした場合の相対値を示している。
【0071】
【表2】
【0072】
表2からわかるように、LiEu0.7Y0.3W2O8の添加量が30部までは色度は白色から黄色方向にシフトしていくが、40部以上では逆に白色方向へシフトしている。また、添加量が増えるに従って、輝度が低下していくことがわかる。
【0073】
図10から、LiEu0.7Y0.3W2O8を添加することにより、468nmでの発光強度が低下するとともに、616nmに5D0→7F2遷移によるLiEu0.7Y0.3W2O8の発光ピークが表れることがわかる。そして、LiEu0.7Y0.3W2O8の添加量の増大に従って、468nmの発光度が低下するとともに全体的に発光強度が下がる傾向にあるが、616nmの発光強度が大きくなっていくことがわかる。具体的には、468nmの発光強度(Ia)と616nmの発光強度(Ib)の比(Ia:Ib)は1:0.5〜1:2であった。
【0074】
〔LEDにおける演色性ついて〕
LED1,2;基材ポリマー(シリコーンゴム)100質量部に、YAGを表3に示す量を添加して、被覆材用樹脂組成物を調製し、肉厚0.35mmの被覆材No.1,2を成形した。これを青色発光素子を埋設した封止体に装着して、演色性、発光特性を測定した。結果を表3に示す。
【0075】
尚、YAG蛍光物質としては、赤系YAG蛍光物質を用いた。
【0076】
LED3〜5;基材ポリマー(シリコーンゴム)100質量部に、YAG蛍光物質及び赤色蛍光物質(CaS:Eu)を表3に示す量を添加して、被覆材用樹脂組成物を調製し、肉厚0.35mmの被覆材No.3〜5を成形した。これを青色発光素子を埋設した封止体に装着して、演色性、発光特性を測定した。結果を表3に示す。さらにNo.4,5の発光スペクトルを図11,12に示す。
【0077】
尚、YAG蛍光物質としては、赤系YAG蛍光物質又は緑系YAG蛍光物質を用いた。
【0078】
LED6:基材ポリマー(シリコーンゴム)100質量部に、YAG蛍光物質及び赤色顔料(アゾ系)を表3に示す量を添加して、被覆材用樹脂組成物を調製し、肉厚0.35mmの被覆材No.6を成形した。これを青色発光素子を埋設した封止体に装着して、演色性、発光特性を測定し、その結果を表3に示す。さらに発光スペクトルを図13に示す。
【0079】
LED7:市販されている白色LEDで、青色発光素子にYAGを含む蛍光層が積層されたものを樹脂で砲弾型に封止したものである。尚、ここに用いられている青色発光素子は、上記白色LEDで用いた青色発光素子とは異なる。
【0080】
この白色LEDの演色性、発光特性を測定した結果を表3に示す。また、発光スペクトルを図14に示す。
【0081】
尚、図11〜14に示す発光スペクトルの縦軸は、発光ピークである青色(図11,13,14)又は赤色(図12)の光の発光強度を100とした相対発光強度を示している。
【0082】
【表3】
【0083】
No.2は、赤系YAGを用いているので、発光素子からの光458nmの他に、580〜600nmにもピーク(発光強度は青色の光の60%程度)が現われている。そして、500nm付近の光は少なくなっている。
【0084】
図13は赤色顔料を入れた場合の発光スペクトルで、そのスペクトルパターンは図14と類似しているが、強度の100%が図14では3.3×10-3であり、図13では1.62×10-3であることからわかるように、顔料を使用した場合には全体として発光強度が低下している。
【0085】
一方、図11,12は本発明に係るLEDの発光スペクトルであり、650nm付近にピークが見られ、そのピークは青色の発光ピークの60%以上の強度を有しており、また500nm付近で図13,14のような発光の落ち込みは認められなかった。つまり、400〜700nmまで、平均的に発光し、演色性が向上していることがわかる。
【0086】
以上のことは、表3において、赤色蛍光物質を含有する本発明に係る白色LEDだけがRa85以上を示しており、演色性が向上していることからも明らかである。
【0087】
つまり、No.2のように、赤系YAG蛍光物質の含有量を増やしても、Ra85以上は達成できないばかりか、YAGから発光される黄色の光も強くなりすぎて、鮮やかな赤色の指標となるR9を極端に低下させることとなった。一方、本発明に係る白色LEDは、YAG蛍光物質の種類に拘わらず、Ra85以上を達成できたばかりか、特殊演色評価数R9〜R15の値をそれ程低下させることもなく、演色性に優れていることがわかる。具体的には、赤系YAGを用いたNo.1,2や、赤色顔料を用いたNo.6、更に市販品のいずれと比べても優れた演色性を示すことがわかる。また、No.6は被覆材に赤色顔料が添加されているので、鮮やかな赤色の指標となるR9の値は増加したが、黄色の指標となるR10が極端に低下したばかりか、顔料の影響から、輝度が低下することとなった。
【0088】
尚、輝度については、市販品が特に高くなっているが、これは埋設されている青色発光素子の差によるものと考えられる。
【符号の説明】
【0089】
1 発光素子
2,2′ 蛍光層
4 蛍光物質
11,12 封止体
20,20′ 封止体
21,21′,23 被覆材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
青色〜緑色発光素子と該発光素子から発光される光の波長を変換する蛍光物質とを有する発光ダイオードであって、
前記蛍光物質には、一般式AEu(1-x)LnxB2O8(AはLi,K,Na,及びAgよりなる群から選ばれる1種、LnはY,La,及びGdよりなる群から選ばれる1種、BはW又はMoであり、xは0以上1未満の数である。)で表される蛍光物質が含まれている発光ダイオード。
【請求項2】
前記発光素子は、400〜600nmの光を発光するダイオードである請求項1に記載の発光ダイオード。
【請求項3】
前記蛍光物質には、さらに、Ceで付活したYxGd3-xAl5O12蛍光物質(0≦x≦3)が含まれている請求項1または2に記載の発光ダイオード。
【請求項4】
前記蛍光物質は、前記発光素子表面に積層された蛍光層に含まれている請求項1〜3のいずれか1項に記載の発光ダイオード。
【請求項5】
前記蛍光物質は、発光素子を封止する透明樹脂中に含まれている請求項1〜3のいずれかに1項に記載の発光ダイオード。
【請求項6】
前記発光素子は透明樹脂に封止されて封止体とされており、
前記蛍光物質は、該封止体を被覆する被覆材に含まれている請求項1〜3のいずれか1項に記載の発光ダイオード。
【請求項7】
前記被覆材は、基材ポリマー100質量部、AEu(1-x)LnxB2O8で表わされる蛍光物質2〜40質量部、及びCeで付活したYxGd3-xAl5O12蛍光物質を含有するポリマー組成物の成形体である請求項6に記載の発光ダイオード。
【請求項8】
前記基材ポリマーは、ゴム及び/又は熱可塑性エラストマーである請求項7に記載の発光ダイオード。
【請求項9】
平均演色評価数(Ra)の値が85以上である請求項3〜8のいずれか1項に記載の発光ダイオード。
【請求項10】
特殊演色評価数(R9)の値が80以上である請求項9に記載の発光ダイオード。
【請求項11】
470nm±2nmの発光強度(Ia)に対する610〜640nmの発光強度(Ib)の比(Ia:Ib)が1:0.5〜1:2である請求項1〜8のいずれかに記載の発光ダイオード。
【請求項12】
青色〜緑色発光素子が透明樹脂で封止された発光ダイオード本体に被覆して用いられるダイオード用被覆材であって、
基材ポリマーと、一般式AEu(1-x)LnxB2O8(AはLi,K,Na,及びAgよりなる群から選ばれる1種、LnはY,La,及びGdよりなる群から選ばれる1種、BはW又はMoであり、xは0以上1未満の数である。)で表される蛍光物質とを含んでいる発光ダイオード用被覆材。
【請求項13】
さらに、Ceで付活したYxGd3-xAl5O12蛍光物質を含む請求項12に記載の発光ダイオード用被覆材。
【請求項1】
青色〜緑色発光素子と該発光素子から発光される光の波長を変換する蛍光物質とを有する発光ダイオードであって、
前記蛍光物質には、一般式AEu(1-x)LnxB2O8(AはLi,K,Na,及びAgよりなる群から選ばれる1種、LnはY,La,及びGdよりなる群から選ばれる1種、BはW又はMoであり、xは0以上1未満の数である。)で表される蛍光物質が含まれている発光ダイオード。
【請求項2】
前記発光素子は、400〜600nmの光を発光するダイオードである請求項1に記載の発光ダイオード。
【請求項3】
前記蛍光物質には、さらに、Ceで付活したYxGd3-xAl5O12蛍光物質(0≦x≦3)が含まれている請求項1または2に記載の発光ダイオード。
【請求項4】
前記蛍光物質は、前記発光素子表面に積層された蛍光層に含まれている請求項1〜3のいずれか1項に記載の発光ダイオード。
【請求項5】
前記蛍光物質は、発光素子を封止する透明樹脂中に含まれている請求項1〜3のいずれかに1項に記載の発光ダイオード。
【請求項6】
前記発光素子は透明樹脂に封止されて封止体とされており、
前記蛍光物質は、該封止体を被覆する被覆材に含まれている請求項1〜3のいずれか1項に記載の発光ダイオード。
【請求項7】
前記被覆材は、基材ポリマー100質量部、AEu(1-x)LnxB2O8で表わされる蛍光物質2〜40質量部、及びCeで付活したYxGd3-xAl5O12蛍光物質を含有するポリマー組成物の成形体である請求項6に記載の発光ダイオード。
【請求項8】
前記基材ポリマーは、ゴム及び/又は熱可塑性エラストマーである請求項7に記載の発光ダイオード。
【請求項9】
平均演色評価数(Ra)の値が85以上である請求項3〜8のいずれか1項に記載の発光ダイオード。
【請求項10】
特殊演色評価数(R9)の値が80以上である請求項9に記載の発光ダイオード。
【請求項11】
470nm±2nmの発光強度(Ia)に対する610〜640nmの発光強度(Ib)の比(Ia:Ib)が1:0.5〜1:2である請求項1〜8のいずれかに記載の発光ダイオード。
【請求項12】
青色〜緑色発光素子が透明樹脂で封止された発光ダイオード本体に被覆して用いられるダイオード用被覆材であって、
基材ポリマーと、一般式AEu(1-x)LnxB2O8(AはLi,K,Na,及びAgよりなる群から選ばれる1種、LnはY,La,及びGdよりなる群から選ばれる1種、BはW又はMoであり、xは0以上1未満の数である。)で表される蛍光物質とを含んでいる発光ダイオード用被覆材。
【請求項13】
さらに、Ceで付活したYxGd3-xAl5O12蛍光物質を含む請求項12に記載の発光ダイオード用被覆材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−260393(P2009−260393A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183697(P2009−183697)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【分割の表示】特願2000−70878(P2000−70878)の分割
【原出願日】平成12年3月14日(2000.3.14)
【出願人】(597096161)株式会社朝日ラバー (74)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【分割の表示】特願2000−70878(P2000−70878)の分割
【原出願日】平成12年3月14日(2000.3.14)
【出願人】(597096161)株式会社朝日ラバー (74)
【Fターム(参考)】
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