説明

発光素子及び発光素子の製造方法

【課題】低コストで作製することができ、良好な発光特性を得ることができる発光素子を提供する。
【解決手段】LEDが形成され、青色域の光を放射する発光層前駆体111と、発光層前駆体111が積層されるサファイアからなる透明層前駆体112と、青色域の光により黄色光が励起される蛍光体を含む蛍光層前駆体113とを用意する。透明層前駆体112の接合面112aと、蛍光層前駆体113の接合面113aにむけて荷電粒子5を放射し活性化する。その後、接合面112a、113a同士を接触させ、透明層前駆体112と蛍光層前駆体113を常温接合して、発光層前駆体111、透明層前駆体112および蛍光層前駆体113からなる発光素子前駆体115を得る。発光素子前駆体115を1対の電極15A、15Bを一つの単位として切断し、複数の発光素子10を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LEDを用いた発光素子及び発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LED(Light Emitting Diode)チップを用いて白色光を発光する白色LED装置が実用化されている。
このような白色LED装置として、再表2007−018039号公報(特許文献1)には青色域から紫色域の波長を有する光を発光するLEDチップと、このLEDチップから発光された光により励起される蛍光材と、からなる発光素子を用いて白色光を発光するシングルチップ型白色LED装置が記載されている。この白色LED装置では、LEDチップが青色光を発光する場合は、蛍光材としてセリウム添加イットリウムアルミニウムガーネット(YAG:Ce)を用い、LEDチップの青色光と、この青色光に励起されて蛍光材が発光する黄色光とが混色されることにより白色光を得る。また、LEDチップが紫色光を発光する場合は、複数種の蛍光材を用い、LEDチップの紫色光と、この紫色光に励起されて蛍光材が発光する赤色、緑色、青色、の三原色光とが混色されることにより白色光を得る。この複数種の蛍光材として、赤色用としてYS:Euを、緑色用としてZnS:Cu,Al又は(Ba,Mg)Al1017:Eu,Mnを、青色用として(Sr,Ca,Ba,Mg)10(POCu12:Eu又は(Ba,Mg)Al1017:Euをそれぞれ用いることができる。
【0003】
このようなシングルチップ型白色LED装置は、リード線の配線が施されたLEDチップの表面に蛍光体を含む樹脂が充填され、封止用樹脂材によりモールドされてパッケージ化されている。つまり、1つのパッケージごとにLEDチップを粒状の蛍光体が分散された樹脂で被覆する必要があり、製造コストが高くなる。また、蛍光体が樹脂に均一に分散されていないと、発光部位によって白色光にばらつきが生じる。さらに、パッケージごとに蛍光体の被覆量が異なると、複数のパッケージを利用する場合に、全体として白色光に色むらや照度むらが生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】再表2007−018039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、従来のシングルチップ型白色LED装置は、粒状の蛍光体が分散された樹脂で被覆するという工程に起因して、製造コストが高くなるとともに、良好な発光特性が得られない、という問題を有していた。
本発明は、このような課題に基づいてなされたもので、低コストで作製することができるとともに、良好な発光特性を得ることができる発光素子及び発光素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、1つのパッケージごとに粒状の蛍光体が分散された樹脂でLEDチップを被覆するという手間のかかる工程を採用するのではなく、発光素子の各要素を含む発光素子前駆体を切断することで多数の発光素子を効率よく製造することを検討した。その結果、発光部の前駆体及び蛍光部の前駆体をウェハ状に作製して、それらを表面活性化接合法により接合して発光素子前駆体とした後に、切断して個々の発光素子を得るという手順を採用することにした。
【0007】
本発明の発光素子は、光を放射する発光部と、発光部から放射された光により励起され励起光を発する蛍光部と、を備え、光と励起光とから白色光を発する発光素子であって、発光部と蛍光部とが表面活性化接合法により接合されていることを特徴とする。
本発明の発光素子は、発光部と蛍光部とが表面活性化接合法により接合されて一体化された構造となっているため、従来の発光素子ように、蛍光材を分散させた樹脂によって発光部を一つずつ覆う必要がなく、製造コストを低減することができる。
また、表面活性化接合法を採用することにより、均質性の優れた蛍光部前駆体を用いることができるので、従来のシングルチップ型白色LED装置で生じていた白色光の部位によるばらつきや、白色光の色むらや照度むらを抑制することができ、白色光の発光特性を良好なものとすることができる。
【0008】
以上の発光素子は、発光部に対応する発光部前駆体と蛍光部に対応する蛍光部前駆体のそれぞれの接合面を活性化成分により活性化する工程と、活性化されたそれぞれの接合面を接触させて、発光部前駆体と蛍光部前駆体とを表面活性化接合法にて接合し、発光素子前駆体を得る工程と、発光素子前駆体を切断し、複数の発光素子を得る工程と、により製造することができる。
【0009】
本発明の発光素子は、少なくとも二つの形態を含んでいる。
一つ目の形態は、発光部が、発光層と透明層とを備えている。この発光層にはLEDが形成されている。また、透明層には、発光層が設けられ、発光層からの光を透過させる。そして、発光層は透明層を介して蛍光部と接合される。この発光素子は、発光層から放射された光が透明層を透過して蛍光部に到達して蛍光部を励起させる。
この発光素子は、前記製造方法において、発光層に対応する発光層前駆体と透明層に対応する透明層前駆体が積層されている発光部前駆体を用いることにより得ることができる。
【0010】
一つ目の形態において、発光部は、各々独立した複数の発光層を備えることができる。
この発光素子は、上述した製造方法において、独立した複数の発光層を一つの単位として発光素子前駆体を切断することにより得ることができる。
【0011】
また一つ目の形態において、蛍光部は、複数色の蛍光体が配置され、発光部はそれぞれの蛍光体に対応する発光層を備えることができる。
この発光素子は、以下のようにして得ることができる。つまり、複数色の蛍光体を配置して蛍光層前駆体を得る工程と、発光部がそれぞれの蛍光体に対応する発光層を備えるように、発光部前駆体と蛍光層前駆体とを位置合わせする工程と、をさらに含む。そして、発光素子を得る工程において、複数色の蛍光体を一つの単位として、発光素子前駆体を切断する。
【0012】
二つ目の形態による発光素子は、発光部が、発光層と透明層とを備えている。この発光層にはLEDが形成されているとともに、電極形成面を備えている。透明層には、発光層が設けられ、発光層からの光を透過させる。この形態は、蛍光部が、発光層の電極形成面に設けられ、かつ電極を収容する収容室を備える。この発光素子は、発光層から放射された光が電極形成面に形成された蛍光部に直に到達して蛍光部を励起させる。
この発光素子は、発光素子前駆体を得る工程において、発光層前駆体の電極形成面と蛍光部前駆体の間に設けられる互いの接合面を活性化させた後に接触させて、表面活性化接合法にて接合することで、作製される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低コストで作製することができ、良好な発光特性を得ることができる発光素子及び発光素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施形態の発光素子を備える白色LED装置の断面構成を模式的に示す図である。
【図2】第1実施形態の発光素子の製造方法を示す図である。
【図3】第2実施形態の発光素子を備える白色LED装置の断面構成を模式的に示す図である。
【図4】第2実施形態の発光素子の製造方法を示す図である。
【図5】第3実施形態の発光素子を備える白色LED装置の断面構成を模式的に示す図である。
【図6】第3実施形態の発光素子の製造方法を示す図である。
【図7】第3実施形態の蛍光部を形成する3種類の蛍光体の配置を示す概略的な平面図である。
【図8】(a)は第3実施形態の発光素子を備える白色LED装置の断面構成を模式的に示す図であり、(b)は(a)の発光素子を発光層側からみた平面図である。
【図9】第4実施形態の発光素子を備える白色LED装置の断面構成を模式的に示す図である。
【図10】第4実施形態の発光素子の製造方法を示す図である。
【図11】第4実施形態の発光素子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1に示す第1実施形態に係る白色LED装置1は、白色光を生成する発光素子10を備えている。
発光素子10は、発光層11と、透明層12と、蛍光層13と、から形成される。発光素子10は、1対の電極15A、15Bを備え、また、発光層11と蛍光層13との間に透明層12が介在している。発光層11と透明層12とから、発光部14が構成される。
この発光素子10は、発光層11が放射する放射光と、発光層11の放射光により励起されて蛍光層13が発光する黄色の励起光とが混色することにより、白色光を生成する。
【0016】
発光層11は、例えばGaN系化合物の半導体からなり、青色域の波長を有する光を放射する公知のLEDチップを用いることができる。1対の電極15A、15Bは、発光層11上(図では下側)に形成されている。
透明層12は、例えばサファイアからなり、図中下面側に配置された発光層11からの放射光を蛍光層13に向けて透過させる。
【0017】
蛍光層13は、バルク状の蛍光体を用いて形成されている。ここでいうバルク状とは、粒状の蛍光体を樹脂に分散させたもののように、蛍光体を保持するための材料を含んでおらず、全体が実質的に蛍光体のみからなることをいい、例えば、後述するセラミックス焼結体を用いることができる。ただし、本発明は粒状の蛍光体が樹脂に分散された形態のものを用いることもできる。
蛍光層13は、透明層12の図中上面側に配置され、発光層11により放射され、透明層12を透過した放射光により励起されて励起光を発光する。
蛍光層13に用いられる蛍光体としては、例えば青色の放射光に励起され黄色光を発光するセリウム添加イットリウムアルミニウムガーネット(YAG:Ce)を用いることができる。
【0018】
発光素子10は、リードフレーム2A、2Bそれぞれの上端部に設けられたリード線接続部3A、3Bに、蛍光層13を上方にして接続され、砲弾状の封止体4により封止されている。封止体4は、透明性の高い樹脂材より形成されている。封止体4の樹脂材としては、エポキシ樹脂又はアクリル樹脂等の有機高分子材料からなる樹脂材、あるいは、シリコーン樹脂等の無機高分子材料からなる樹脂材を用いることができる。
発光素子10は、電極15Aに接続されたリード線16Aを介してリードフレーム2Aに電気的に接続され、また、電極15Bに接続されたリード線16Bを介してリードフレーム2Bに電気的に接続されている。発光素子10は、リードフレーム2A、2Bを介して図示しない電源から電力の供給を受けて、上述したように白色光を放射する。発光素子10により生成された白色光は、封止体4を透過して外部に放出される。
【0019】
次に、図2を参照しながら、発光素子10の製造方法を説明する。なお、全ての実施形態において、表面活性化接合法(真空雰囲気中で活性化された基板表面同士を接触させて2枚の基板を接合する方法)として常温接合法を用いた製造方法を例として示す。
図2に示すように、発光素子10は、発光層前駆体111が予め形成されたウェハ状の透明層前駆体112と、ウェハ状の蛍光層前駆体113とを、公知の常温接合により接合して発光素子前駆体115を形成する。発光層前駆体111は発光層11に、透明層前駆体112は透明層12に、また、蛍光層前駆体113は蛍光層13に対応する。そして、発光素子前駆体115から1対の電極15A、15Bを備える単位で切り出すことで発光素子10を得る。
透明層前駆体112としては、円板状のサファイアを用いることができる。透明層前駆体112の一方の面には、公知の薄膜プロセスなどを用いて、GaN系の化合物からなる発光層前駆体111を形成しておく。発光層前駆体111上には、得ようとする発光素子10の数に対応する対の電極15A、15Bがこの過程で形成される。なお、発光層前駆体111は、透明層前駆体112とは別の基板の上にGaN系の化合物からなる膜を形成しておき、その膜を透明層前駆体112に転写して設けることもできる。
蛍光層前駆体113としては、上述した黄色の励起光を発光する蛍光体(YAG:Ce)からなるセラミックス焼結体を用いることができる。
【0020】
図2(a)に示すように、まず、発光層前駆体111が積層された透明層前駆体112と蛍光層前駆体113とを、互いの接合面112aと113aを対向して配置させる。
次に、透明層前駆体112の接合面112aと、蛍光層前駆体113の接合面113aにむけて、イオンガン(図示無し)により荷電粒子(活性化成分)5を放出する。荷電粒子5としては、アルゴンイオンを用いることができる。荷電粒子5は、接合面112a、113aを被覆していた酸化膜等の不純物を除去し、接合面112a、113aを活性化する。この活性化処理により、結晶が本来持っている結合の手がむき出しになった表面が現れる。なお、この活性化処理は、真空雰囲気下で行われる。
【0021】
次に、図2(b)に示すように、活性化された接合面112a、113a同士を接触させ、発光層前駆体111が備えられた透明層前駆体112と蛍光層前駆体113とを常温接合する。前述のように、活性化された表面112a、113a同士を接触させると、互いに強い接合力が働き常温でも強固に接合される。こうして、発光層前駆体111と、透明層前駆体112と、蛍光層前駆体113とからなり、透明層前駆体112と蛍光層前駆体113が常温接合により接合され、一体化された発光素子前駆体115を形成する。
【0022】
発光素子前駆体115は、図2(c)に示すように、1対の電極15A、15Bを一つの単位として切断され、複数の発光素子10に形成される。得られた発光素子10は、その電極15A、15Bにリード線16A、16Bを接続し、さらに用意されたリードフレーム2の所定位置に所定の向きで配設される。さらに、封止体4により必要な部分を封止する工程を経て白色LED装置1が得られる。
【0023】
以上説明した発光素子10及びその製造方法の効果は以下の通りである。
発光素子10は、発光層11が放射する放射光と、発光層11の放射光により励起されて蛍光層13が発光する黄色の励起光とが混色することにより、白色光を生成する。そしてこの白色光が通過する経路上に、この通過を遮るものがない。これに対して、従来のシングルチップ型白色LED装置は、発光層よりも上側に位置する電極からリード線が引き出されているため、白色光の通過経路上にこれを遮るものが存在する。したがって、発光素子10は、従来のシングルチップ型白色LED装置よりも発光効率が高い。
発光素子10の蛍光層13は、均質性の優れたセラミックス焼結体からなる蛍光層前駆体113を用いるため、それ自身も均質性に優れる。したがって、発光素子10が単体として使用されるときの白色光のばらつき、あるいは発光素子10を集合体として使用するときの色むら又は照度むらを抑制でき、発光特性が良好な白色LED装置1を作製することが可能となる。
次に、発光素子10は、発光層前駆体111が予め形成される透明層前駆体112と蛍光層前駆体113とを常温接合することにより一体化された発光素子前駆体115を作製した後に、切断することにより製造される。したがって、蛍光体が分散された樹脂によりLEDチップをパッケージごとに覆うという手間のかかるプロセスを経ることなく、一度に多数の発光素子10を製造することが可能となるので、製造コストを低減することができる。
また、発光素子前駆体115を得るための接合は常温で行うことができるので熱を伴わない。熱が加わることにより損傷や歪み等が生じて劣化することが懸念される発光層前駆体111(発光層11)を健全なままに保つことができる。
【0024】
なお、透明層前駆体112の接合面112aおよび蛍光層前駆体113の接合面113aの相方あるいは一方に、接合性を向上する中間材を予め成膜しておき、透明層前駆体112と蛍光層前駆体113とを常温接合してもよい。中間材としては、例えばSiO、Al、TiO、S等のような、発光層11からの放射光の透過を阻害しない材料を用いることができる。
また、発光素子前駆体115は、発光層前駆体111が形成されていない透明層前駆体112と蛍光層前駆体113とを常温接合し、その後に透明層前駆体112上に発光層前駆体111を形成するという手順を経て作製することもできる。
これらは、以下の実施形態についても適用することができる。
【0025】
<第2実施形態>
以下、本発明の第2実施形態に係る白色LED装置100について図3及び図4を参照しながら説明する。なお、図1に示した構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付すことにより説明を省略する。
白色LED装置100は、一つの発光素子20が発光層(LED)21と一対の電極15A、15Bとからなる要素を二つ備えることを除いて、第1実施形態の白色LED装置1と同様に構成されている。発光層21自体は、第1実施形態の発光層11と同様にGaN系化合物からなる半導体により形成され、青色域の波長を有する光を放射する。なお、二つの発光層21と、透明層12とから、発光部24が構成される。
【0026】
図3に示すように、二つの発光層21は、透明層12の図中下面に、所定の間隔を隔て形成されている。各々独立した発光層21には、一対の電極15A、15Bと、これらの電極に接続されたリード線16A、16Bが設けられている。各発光層21の電極15Aは、リード線16Aによりリードフレーム2Aに電気的に接続されている。各発光層21の電極15Bは、リード線16Bによりリードフレーム2Bに電気的に接続されている。
【0027】
発光素子20は、複数個の発光層前駆体121が透明層前駆体112上に形成されることを除いて、第1実施形態の発光素子10と同様に製造される(図4)。
GaN系化合物からなる半導体により構成される発光層前駆体121は、透明層前駆体112上に、所定の間隔を隔てて複数個形成される。発光層前駆体121ごとに、1対の電極15A、15Bが形成される。
【0028】
さて、図4(a)に示すように、1対の電極15A、15Bが設けられた発光層前駆体121を複数個備える透明層前駆体112と、蛍光層前駆体113とを、互いの接合面112aと113aを対向させる。この状態で、透明層前駆体112の接合面112aと、蛍光層前駆体113の接合面113aにむけて荷電粒子(図示無し)を放出して接合面112aと113aを活性化する。次いで、活性化された接合面112a、114a同士を接触させ、発光層前駆体121を備えた透明層前駆体112と蛍光層前駆体113とを常温接合する。これにより、複数個の発光層前駆体121と、透明層前駆体112と、蛍光層前駆体113とからなり、透明層前駆体112と蛍光層前駆体113が常温接合により接合され、一体化された発光素子前駆体116を形成する。
【0029】
発光素子前駆体116は、次いで、2対の電極15A、15Bを一つの単位として切断され、複数の発光素子20が形成される。各発光素子20は二つの発光層21を備えている。
【0030】
第2実施形態は、第1実施形態と同様の効果を備えるほかに、以下の効果をも備えている。
従来の白色LED装置では、LEDチップのサイズが小さいため発光領域が狭く、高出力化も課題の一つとなっていた。より広い発光領域を得るために、複数個のLEDチップを配列するアレイ化により、全体としてLEDチップのサイズを大きくすることが想定できるが、アレイ化された複数個のLEDチップに蛍光材を含有する樹脂で均一な被覆層を形成することは困難である。
しかし、上述した第2実施形態によれば、複数個の発光層前駆体121と、均質な蛍光体からなる蛍光層前駆体113とからなる発光素子前駆体116を切断するという単純な工程で、複数個(2つ)の発光層21を有する発光素子20を得ることができる。したがって、白色LED装置100の高出力化を低コストで実現することができる。
【0031】
<第3実施形態>
以下、本発明の第3実施形態に係る白色LED装置200について図5〜図8を参照しながら説明する。なお、図1に示した構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付すことにより説明を省略する。また、図5、図6および図8では、蛍光部の蛍光体にのみハッチングを施している。
白色LED装置200は、一つの発光素子30が、複数色の蛍光体が配列されて蛍光層33が形成されており、かつ、各色の蛍光体に対応して発光層31が設けられていることを除いて、第1実施形態の白色LED装置1と同様に形成されている。また、各色の蛍光体に対応して設けられた発光層31と、透明層12とから、発光部34が構成されている。
【0032】
図5に示すように、発光素子30は、3つの発光層31が透明層12上に形成される。各発光層31の内容は、これまでの発光層11、21と同様である。各発光層31には一対の電極15A、15Bが設けられており、第2実施形態と同様に、電極15Aはリード線を介してリードフレーム2Aに、電極15Bはリード線を介してリードフレーム2Bにそれぞれ電気的に接続される。このリードフレーム2A、2B及びリード線は、図示しない電源に接続されている。
【0033】
蛍光層33は、赤蛍光体33R、緑蛍光体33G及び青蛍光体33Bが、透明なガラス製のフレーム33Fに形成される厚さ方向に貫通する空隙に埋め込まれて形成されている。赤蛍光体33R、緑蛍光体33G、青蛍光体33Bは、透明層12を介して、各発光層31に対応する位置に配置されている。赤蛍光体33R、緑蛍光体33G、青蛍光体33Bとしては、発光層31が放射する紫色光または紫外光に励起され、それぞれ赤色、緑色、青色、の三原色の励起光を発光する蛍光材を用いることができる。具体的には、赤色用としてYS:Euを、緑色用としてZnS:Cu,Al又は(Ba,Mg)Al1017:Eu,Mnを、青色用として(Sr,Ca,Ba,Mg)10(POCu12:Eu又は(Ba,Mg)Al1017:Euをそれぞれ用いることができる。
発光素子30は、発光層31の紫色光から紫外光の放射光と、蛍光層33の赤色、緑色、青色、の三原色の励起光とが混色されることで、白色光を生成する。
【0034】
発光素子30は、各々が1対の電極15A、15Bを含む複数の発光層前駆体131を透明層前駆体112上に形成することと、赤蛍光体33R、緑蛍光体33G、青蛍光体33Bを含む蛍光材をウェハ状の蛍光層前駆体133として用いること以外は、第1実施形態の発光素子10と同様に製造される。
蛍光層前駆体133は、図7に示すように、赤蛍光体33R(R)、緑蛍光体33G(G)、青蛍光体33B(B)をマトリックス状に配置されたものを使用する。なお、図7ではフレーム33Fの図示は省略する。
【0035】
発光素子30は以下の手順で製造される。
図6(a)に示すように、各々が1対の電極15A、15Bが設けられた複数の発光層前駆体131を備える透明層前駆体112と、蛍光層前駆体133とを、互いの接合面112aと133aを対向して配置させる。このとき、赤蛍光体33R、緑蛍光体33Gおよび青蛍光体33Bが各発光層前駆体131にそれぞれ対応するように位置合わせする。
次いで、透明層前駆体112の接合面112aと、蛍光層前駆体133の接合面133aにむけて荷電粒子(図示無し)を放出して接合面を活性化する。
次に、図6(b)に示すように、活性化された接合面112a、133a同士を接触させ、発光層前駆体131が備えられた透明層前駆体112と蛍光層前駆体133とを常温接合する。こうして、複数の発光層前駆体131と、透明層前駆体112と、蛍光層前駆体133とからなり、透明層前駆体112と蛍光層前駆体113が常温接合により接合され、一体化された発光素子前駆体117を形成する。
【0036】
発光素子前駆体117は、図6(c)に示すように赤蛍光体33R、緑蛍光体33Gおよび青蛍光体33Bを一つの単位として切断される。これにより、蛍光層33の赤蛍光体33R、緑蛍光体33Gおよび青蛍光体33Bの各々に発光層31が対応する複数の発光素子30が得られる。
【0037】
以上説明した発光素子30の効果は以下の通りである。
従来の白色LED装置では、赤蛍光体、緑蛍光体、青蛍光体からなるRGB蛍光体を1つのLEDチップで励起していたため、発光効率が低かった。赤蛍光体、緑蛍光体、青蛍光体のそれぞれにLEDチップを1つずつ対応させてこれらの蛍光体を励起すると、発光効率は向上することが想定される。しかし、LEDチップが大型化し、コストも上昇するという問題があった。
しかし、上述した第3実施形態によれば、常温接合を用いることにより、赤蛍光体33R、緑蛍光体33Gおよび青蛍光体33Bが区分して配列された蛍光層前駆体133と、発光層前駆体131が積層された透明層前駆体112とを精度よく位置合わせして接合することができ、赤蛍光体33R、緑蛍光体33Gおよび青蛍光体33Bに対し、発光層前駆体131が1つずつ対応する発光素子30を得ることができる。したがって、白色LED装置200の高出力化を低コストで実現することができる。
【0038】
なお、上述の第3実施形態では、赤蛍光体33R、緑蛍光体33Gおよび青蛍光体33Bを一列に配列した蛍光層33について説明したが、この配列に限られるものではない。例えば、図8(a)、(b)に示す白色LED装置300の発光素子40のように、赤蛍光体43R、青蛍光体43B及び緑蛍光体43Gを三角形状に配置して蛍光層43を形成することもできる。この発光素子40は、発光層41Rに対応する位置には赤蛍光体43Rが、発光層41Bに対応する位置には青蛍光体43Bが、発光層41Gに対応する位置には緑蛍光体43Gが、それぞれ対応するように配置されている。
【0039】
また、第3実施形態は、赤蛍光体33R、緑蛍光体33Gおよび青蛍光体33Bと3種類蛍光体を用いているが、これに限定されず、本発明は2種類の蛍光体を用いることを許容する。さらに、赤蛍光体33R、緑蛍光体33Gおよび青蛍光体33Bの3種類の蛍光体からなる蛍光層33に一つの発光層31が対応するようにしてもよい。
【0040】
<第4実施形態>
以下、本発明の第4実施形態に係る白色LED装置400について図9及び図10を参照しながら説明する。なお、図1に示した構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付すことにより説明を省略する。
白色LED装置400は、以下の点を除いて第1実施形態の白色LED装置1と同様に形成されている。
図9に示すように、発光素子50は、矩形の筒状をなす蛍光層53が電極15A、15Bを取り囲むようにして発光層11に接合されており、かつ、発光素子50を構成する透明層12がリードフレーム2Aの保持部3に固着されることにより、発光素子50が保持部3に保持されている。また、図9に示すように、電極15Aから引き出されたリード線16A及び電極15Bから引き出されたリード線16Bは、電極15A及び電極15Bの上方を収容室53Hを通過して、各々リードフレーム2A、リードフレーム2Bに電気的に接続されている。
発光素子50は、発光層11からの放射光が蛍光層53に直接到達して蛍光層53を励起する。ただし、一部の放射光は、透明層12を透過してリードフレーム2Aの表面で乱反射して蛍光層53に到達する。
【0041】
発光素子50は、以下の手順で製造される。なお、図10では、蛍光層53および蛍光層前駆体153のみを断面として示している。
図10(a)に示すように、蛍光層前駆体153と発光層前駆体111とを、互いの接合面111a、153aを対向して配置させる。このとき、ウェハ状の蛍光層前駆体153に形成された厚さ方向に貫通する収容室53Hが1対の電極15A、15Bに対応するように、発光層前駆体111と蛍光層前駆体153を位置合わせする。
ここで、蛍光層前駆体153は蛍光層53の前駆体をなすものであり、複数の収容室53Hが空けられている。この蛍光層前駆体153は、例えば第1実施形態の蛍光層前駆体113を得た後に、収容室53Hに対応する部分を穿孔することにより作製することができる。
次に、発光層前駆体111の接合面111aと、蛍光層前駆体153の接合面153aにむけて、イオンガン(図示無し)により荷電粒子(図示無し)を放出する。荷電粒子は、接合面111a、153aを被覆していた酸化膜等の不純物を除去し、接合面111a、153aを活性化する。なお、電極15A、15Bは、電極15A、15Bの表面部のみをあらかじめレジスト膜等で被覆し、荷電粒子から保護してもよい。
【0042】
活性化処理の後に、図10(b)に示すように、活性化された接合面111a、153a同士を接触させ、発光層前駆体111と蛍光層前駆体153とを常温接合する。これにより、発光層前駆体111と、透明層前駆体112と、蛍光層前駆体153とからなり、発光層前駆体111と蛍光層前駆体153が常温接合により接合され、一体化された発光素子前駆体118が形成される。
【0043】
発光素子前駆体118は、図10(c)に示すように、1対の電極15A、15Bを一つの単位として切断され、複数の発光素子50に形成される。
【0044】
このように、第4実施形態では、発光層11と蛍光層53とが一体化された複数の発光素子50を一度に作製することができるため、製造コストを低減できるなどの第1実施形態と同様の効果が得られる。加えて、第4実施形態では、蛍光層53と電極15A、15Bが高さ方向に重複して設けられるので、高さ方向のサイズが小さい発光素子50を得ることができる。
【0045】
また、蛍光層53の収容室53Hは、蛍光層53が1対の電極15A、15Bの周囲を囲うように設けられたが、図11(a)に示すように、電極15A、15B毎に蛍光層63の収容室63Hが設けられるように発光素子60を形成してもよい。また、図11(b)に示すように、蛍光層73にリード線16A、16Bが挿通できる通路を除いて、電極15A、15Bが蛍光層73により覆われる収容室73Hが設けられるように発光素子70を形成してもよい。
【0046】
以上では、常温接合法を用いて、蛍光層前駆体と透明層前駆体とを接合する方法、および発光層前駆体と透明層前駆体とを接合する方法について説明したが、本発明はこれに限定されず、プラズマ照射により接合面を活性化した後に接合する方法などを広く適用することができる。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0047】
1,100,200,300,400…白色LED装置、2A…リードフレーム、2B…リードフレーム、3…保持部、3A,3B…リード線接続部、4…封止体、5…荷電粒子、10,20,30,40,50,60,70…発光素子、11,21,31,41R,41B,41G…発光層(LED)、53H,63H,73H…収容室、12…透明層、13,33,43,53,63,73…蛍光層、14,24,34…発光部、15A,15B…電極、16A,16B…リード線、33R,43R…赤蛍光体、33G,43G…緑蛍光体、33B,43B…青蛍光体、111…発光層前駆体、112…透明層前駆体、113,133…蛍光層前駆体、115,116,117,118…発光素子前駆体、111a,112a,113a,153a…接合面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を放射する発光部と、
前記光により励起され励起光を発する蛍光部と、を備え、
前記光と前記励起光とから白色光を生成する発光素子であって、
前記発光部と前記蛍光部とが表面活性化接合法により接合されていることを特徴とする発光素子。
【請求項2】
前記発光部は、
LEDが形成された発光層と、
前記発光層が設けられ、前記発光層からの光を透過させる透明層と、を備え、
前記発光層が前記透明層を介して前記蛍光部と接合されている、
請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記発光部は、
各々独立した複数の前記発光層を備える、
請求項2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記蛍光部は、複数色の蛍光体が配置され、
前記発光部は、それぞれの前記蛍光体に対応する前記発光層を備える、
請求項2に記載の発光素子。
【請求項5】
前記発光部は、
LEDが形成され、電極形成面を備える発光層と、
前記発光層が設けられ、前記発光層からの光を透過させる透明層と、を備え、
前記蛍光部は、
前記発光層の前記電極形成面に接合され、前記電極を収容する収容室を備える、
請求項1に記載の発光素子。
【請求項6】
光を放射する発光部と、
前記光により励起され励起光を発する蛍光部と、を備え、
前記光と前記励起光とから白色光を発する発光素子の製造方法であって、
前記発光部に対応する発光部前駆体と前記蛍光部に対応する蛍光部前駆体のそれぞれの接合面を活性化成分により活性化する工程と、
活性化されたそれぞれの前記接合面を接触させて、前記発光部前駆体と前記蛍光部前駆体とを表面活性化接合法にて接合し、発光素子前駆体を得る工程と、
前記発光素子前駆体を切断し、複数の前記発光素子を得る工程と、
を備えることを特徴とする発光素子の製造方法。
【請求項7】
前記発光素子は、
LEDが形成された発光層と、前記発光層が設けられ、前記発光層からの光を透過させる透明層と、を備える前記発光部と、
前記発光層が前記透明層を介して接合される前記蛍光部と、を備え、
前記発光部前駆体は、
前記発光層に対応する発光層前駆体と前記透明層に対応する透明層前駆体が積層されている、
請求項6に記載の発光素子の製造方法。
【請求項8】
前記発光部は、各々独立した複数の前記発光層を備え、
前記発光素子を得る前記工程において、
独立した複数の前記発光層ごとに前記発光素子前駆体を切断する、
請求項7に記載の発光素子の製造方法。
【請求項9】
前記発光素子は、
前記蛍光部は、複数色の蛍光体が配置され、
前記発光部は、それぞれの前記蛍光体に対応する前記発光層を備え
複数色の前記蛍光体を配置して前記蛍光層前駆体を得る工程と、
前記発光部がそれぞれの前記蛍光体に対応する前記発光層を備えるように、前記発光部前駆体と前記蛍光層前駆体とを位置合わせする工程と、をさらに含み、
前記発光素子を得る前記工程において、
複数色の前記蛍光体を一つの単位として、前記発光素子前駆体を切断する、
請求項7に記載の発光素子の製造方法。
【請求項10】
前記発光素子は、
LEDが形成され、電極形成面を備える発光層と、前記発光層が設けられ、前記発光層からの光を透過させる透明層と、を備える前記発光部と、
前記発光層の前記電極形成面に接合され、前記電極を収容する収容室を備える前記蛍光部と、を備え、
前記発光素子前駆体を得る前記工程において、
前記発光層前駆体の前記電極形成面と前記蛍光部前駆体の間に設けられる接合面を活性化させた後に接触させて、表面活性化接合法にて接合する、
請求項6に記載の発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−142326(P2012−142326A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292037(P2010−292037)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】