説明

発光素子封止用シリコーン樹脂組成物及びこれを用いたポッティング方式による光半導体電子部品の製造方法

【課題】ポッティング方式で封止すること及びレンズ形状(例えば、半球状、放物線形状等)に成形することが容易であり、ポッティング方式で成形された封止レンズが高い透明性を備えることが可能な、発光素子封止用シリコーン樹脂組成物の提供。
【解決手段】発光素子封止用シリコーン樹脂組成物であって、平均粒子径が1〜30nmのシリカを(A)及び(B)の総量に対して2〜25重量%含有し、該組成物の粘度(23℃)が10Pa・S超〜70Pa・S未満、チクソトロピック性が2.0〜5.5であり、封止がポッティング方式である組成物。また、発光素子を備えた基板に前記組成物を封止樹脂として使用したポッティングにより該封止樹脂をレンズ状に成形することを特徴とする、光半導体電子部品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷、真空印刷、ディスペンス等のポッティング方式による封止レンズ形成に特に適したシリコーン樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
無機ガラスは、高い透明性と耐熱性、寸法安定性を有するが故に、空間を分隔しながらも可視光を透過して視認性を妨げない構造体として、古くより幅広い産業分野で利用されてきた。このような優れた特徴をもった無機ガラスであるが、比重が2.5以上と重いこと、衝撃に弱く割れ易いこと、そしてレンズ加工に予想以上にコストがかかることが3大欠点であった。特に、近年になってあらゆる産業分野で軽量、薄肉化といったダウンサイジングが進行した結果、ユーザーから上記欠点の改善を求める声がますます強まってきている。
このような産業界からの要望に応える材料として、透明な熱可塑性、及び熱硬化性プラスチックに期待が集まっている。ここで、透明な熱可塑性プラスチックとしては、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、PC(ポリカーボネート)等を例示することができる。中でも、PMMAは有機ガラスとも呼ばれ、透明性に優れ、且つガラスの2大欠点を克服した材料として注目されている。しかしながら、これら透明プラスチックは無機ガラスに比較して耐熱性が著しく劣っており、用途が限定されるという問題があった。
【0003】
一方、透明な熱硬化性プラスチックとしては、エポキシ樹脂、硬化型(メタ)アクリレート樹脂、シリコーン樹脂等を例示することができ、これらは一般に上記の熱可塑性プラスチックよりも高い耐熱性を有している。この中で特に、エポキシ樹脂は、今までのLED用封止剤・接着剤として一般に使用されている。しかし、近年、白色LEDが注目される中で、これまで問題とされなかった熱や紫外線によるエポキシ樹脂の黄変やクラックが問題となっており、また、成形物の耐衝撃性が低く脆いという欠点がある。また硬化型(メタ)アクリレート樹脂は、耐熱性と成形性、成形物の物性等のバランスに優れているが、吸水率及びそれによる寸法変化率が大きいことが欠点である。
【0004】
熱硬化性プラスチックの中でもシリコーン樹脂は、耐熱性、耐候性、及び耐水性の点で優れているため、上記の各プラスチックの問題点を解決し、無機ガラスを代替する期待が現在のところ最も高い材料である。例えば、シリコーン樹脂を、LED素子のモールド部材等に用いること(特許文献1、2)、カラーフィルター材料に用いること(特許文献3)等が提案されている。しかし、これらの一般のシリコーン樹脂を用いた場合には、熱衝撃等でクラックが発生する等の問題や、レンズ形状への加工工程が複雑であるといった問題があった。
【特許文献1】特開平10−228249号公報
【特許文献2】特開平10−242513号公報
【特許文献3】特開2000−123981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、ポッティング方式で封止すること及びレンズ形状(例えば、半球状、放物線形状等)に成形することが容易であり、ポッティング方式で成形された封止レンズが高い透明性を備えることが可能な、発光素子封止用シリコーン樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記従来技術の問題点に鑑み鋭意検討を重ねた結果、下記組成物を使用するとポッティング方式によるレンズ形成が容易になること、形成されたレンズが高い透明性を備えていることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明に係る組成物は、下記の構成を備えた、ポッティング方式による発光素子封止用の組成物及び光半導体電子部品の製造方法である。
項1.
(A)下記平均組成式(1)
SiO(4−n)/2 (1)
〔但し、式中Rは同一又は異種の置換又は非置換の一価炭化水素基、アルコキシ基又は水酸基であり、置換又は非置換の一価炭化水素基であるRの0.1〜80モル%がアルケニル基であり、nは1≦n<2を満たす正数である。〕
で示される1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有する液状又は固体状のオルガノポリシロキサン、
(B)下記平均組成式(2)
R’SiO(4−a−b)/2 (2)
〔但し、式中R’は脂肪族不飽和炭化水素基を除く同一又は異種の置換又は非置換の一価炭化水素基であり、a,bは0.7≦a≦2.1、0.001≦b≦1.0、かつ0.8≦a+b≦2.6を満たす正数である。〕
で示される1分子中に少なくとも2個のSi−H結合を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン及び/又は下記一般式(3)
R’SiH(4−c) (3)
〔式中R’は上記と同様であり、cは1又は2である。〕
で示されるオルガノハイドロジェンシラン、及び
(C)付加反応触媒、
を含有する発光素子封止用シリコーン樹脂組成物であって、
(D)平均粒子径が1〜30nmのシリカを(A)及び(B)の総量に対して2〜25重量%含有し、該組成物の粘度(23℃)が10Pa・S超〜70Pa・S未満、チクソトロピック性が2.0〜5.5であり、封止がポッティング方式である組成物。
項2.シリカの平均粒子径が1〜15nmである項1に記載の組成物。
項3.発光素子を備えた基板に項1又は2に記載の組成物を封止樹脂として使用したポッティングにより該封止樹脂をレンズ状に成形することを特徴とする、光半導体電子部品の製造方法。
【0008】
本発明の組成物は、発光素子をポッティングにより封止するために使用される。その粘度(23℃)は10Pa・S超〜70Pa・S未満、好ましくは20〜50Pa・S、チクソトロピック性は2.0〜5.5、好ましくは2.5〜4.0、である。
【0009】
本発明において(A)成分は、本組成物の主剤(ベースポリマー)であって、下記平均組成式(1)で示される1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有する液状又は固体状の分岐状又は三次元網状構造(即ち、三官能性シロキサン単位(RSiO3/2、Rは前記に同じ)及び/又はSiO4/2単位を必須に含有する樹脂状又はレジン状構造)のオルガノポリシロキサンレジンである。
SiO(4−n)/2 (1)
〔但し、式中Rは同一又は異種の置換又は非置換の一価炭化水素基、アルコキシ基又は水酸基で、全Rの0.1〜80モル%がアルケニル基であり、nは1≦n<2を満たす正数である。〕
上記式(1)において、nは1≦n<2を満たす正数、好ましくは1≦n≦1.8を満たす正数、更に好ましくは1≦n≦1.5を満たす正数である。
【0010】
上記式(1)において、Rで示されるケイ素原子に結合した置換又は非置換の一価炭化水素基としては、通常、炭素数1〜12、好ましくは1〜8程度のものが挙げられ、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等、あるいはビニルノルボルネンから誘導される下記式
【0011】
【化1】

【0012】
〔式中、鎖線は結合位置を示す。〕で表される基
等のアルケニル基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基やシアノエチル基等が挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基等の通常、炭素数1〜6、好ましくは1〜4程度の低級アルコキシ基が挙げられる。
【0013】
この場合、Rのうち少なくとも2個はアルケニル基(炭素数2〜8のものが好ましく、更に好ましくは2〜6である)であることが必要である。なお、アルケニル基の含有量は、全有機基(即ち、好ましくは水酸基及びアルコキシ基を除く、上記の置換又は非置換の一価炭化水素基)R中0.1〜80モル%、好ましくは0.5〜50モル%、特に1〜30モル%程度とすることが好ましい。アルコキシ基、水酸基の含有量は合計で、通常、(A)成分のオルガノポリシロキサンレジンに対して好ましくは0〜5質量%、特に好ましくは0.1〜3質量%程度である。
【0014】
上記オルガノポリシロキサンの中では、高屈折率を得るために本オルガノポリシロキサンへのフェニル基の導入が有効であり、特に下記平均組成式(1−1)で示されるフェニル基高含有のオルガノポリシロキサンの使用が好ましい。
R’’(CSiO(4−p−q)/2 (1−1)
〔式中、R’’はフェニル基を除いたRと同様であり、p,qは1≦p+q<2、好ましくは1≦p+q≦1.8、更に好ましくは1≦p+q≦1.5であり、かつ0.20≦q/(p+q)≦0.95、好ましくは0.30≦q/(p+q)≦0.80、更に好ましくは0.30≦q/(p+q)≦0.70を満たす正数である。〕
(A)成分としてより好ましいのは、全有機基の20〜80モル%のフェニル基と、全有機基の10〜80モル%の炭素数2〜6のアルケニル基の少なくとも一つと、全有機基の2〜45モル%の炭素数1〜8のアルキル基の少なくとも一つとを有するオルガノポリシロキサンである。
【0015】
(A)成分のオルガノポリシロキサンにおけるシロキサン単位の具体的な種類としては、モノビニルシロキサン、モノメチルシロキサン、モノエチルシロキサン、モノフェニルシロキサン、ジビニルシロキサン、フェニルビニルシロキサン、メチルフェニルシロキサン、ジフェニルシロキサン、ジメチルシロキサン、トリビニルシロキサン、ジビニルメチルシロキサン、ジビニルフェニルシロキサン、ビニルジメチルシロキサン、ビニルフェニルメチルシロキサン、トリメチルシロキサン、ジメチルフェニルシロキサン、メチルジフェニルシロキサン、トリフェニルシロキサンなど、及びこれらのシロキサンの有機基の水素原子がハロゲン等で置換されたシロキサンなどが例示される。
【0016】
上記オルガノポリシロキサンとしては液状又は固体状であるものをベースポリマーとして使用し、25℃での粘度が0.01Pa・s以上のものが好ましく、0.03〜10,000Pa・sのものがより好ましく、0.05〜1,000Pa・sのものがよりいっそう好ましい。
【0017】
なお、(A)成分には、組成物の粘度や硬化物の硬度を調整する等の目的で、任意成分として、必要に応じて分子鎖末端のケイ素原子、分子鎖途中のケイ素原子あるいは分子鎖末端及び分子鎖途中のケイ素原子に結合したアルケニル基(例えばビニル基)を含有し、主鎖がジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖されたフェニル基含有あるいは非含有の直鎖状のジオルガノポリシロキサンを配合することもできる。
【0018】
次に、(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサン及び/又はオルガノハイドロジェンシランは、(A)成分のアルケニル基含有オルガノポリシロキサンとヒドロシリル化反応により組成物を硬化させる架橋剤として作用するものであり、下記平均組成式(2)
R’SiO(4−a−b)/2 (2)
〔式中R’は脂肪族不飽和炭化水素基を除く同一又は異種の置換又は非置換の一価炭化水素基であり、a,bは0.7≦a≦2.1、0.001≦b≦1.0、かつ0.8≦a+b≦2.6、好ましくは0.8≦a≦2、0.01≦b≦1、1≦a+b≦2.4を満たす正数である。〕
で示される1分子中に少なくとも2個(通常、2〜200個)、好ましくは3個以上(例えば3〜150個)のSiH結合を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン及び/又は下記一般式(3)
R’SiH(4−c) (3)
〔式中R’は上記と同様であり、cは1又は2である。〕
で示されるオルガノハイドロジェンシランである。
【0019】
R’としては、式(1)中のRにおける非置換又は置換の1価炭化水素基と同様の基を挙げることができるが、好ましくは脂肪族不飽和結合を有さないものがよい。
【0020】
上記オルガノハイドロジェンシラン及びオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、フェニルメチルハイドロジェンポリシロキサン、(CH)SiH、(CHSiH、(C)SiH、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C)SiO3/2単位とからなる共重合体などが挙げられる。好ましくはフェニルメチルハイドロジェンポリシロキサンである。
【0021】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、三次元網状構造のいずれであってもよいが、1分子中のケイ素原子の数(又は重合度)は3〜1,000、特に3〜300程度のものを使用することができる。
【0022】
また、(B)成分は25℃における粘度が、1,000mPa・s以下であることが好ましく、0.1〜500mPa・sであることがより好ましく、0.5〜300mPa・sであることがよりいっそう好ましい。
【0023】
なお、(A)成分のオルガノポリシロキサンがフェニル基を有する場合、(B)成分のオルガノハイドロジェンシラン及び/又はオルガノハイドロジェンポリシロキサンもフェニル基を有することが、透明性の確保、保存中の分離防止のためにも好ましい。この場合、上記式(2)のR’において、ケイ素原子に結合する全基(珪素原子に結合する水素原子とR’)のうち5モル%以上、より好ましくは8〜50モル%、更に好ましくは10〜30モル%がフェニル基であることが好ましい。
【0024】
上記(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサン及び/又はオルガノハイドロジェンシランの配合量は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して1〜100質量部、好ましくは2〜50質量部である。(B)成分の配合量がこれらの範囲にあると、作業性に優れ、また架橋が十分で硬化物の強度に優れる。
【0025】
また、このオルガノハイドロジェンポリシロキサン及び/又はオルガノハイドロジェンシランは、(A)成分のオルガノポリシロキサンあるいは該オルガノポリシロキサンと前記した任意成分としてのアルケニル基含有直鎖状ジオルガノポリシロキサンとの合計中のケイ素原子に結合したアルケニル基に対する(B)成分中のケイ素原子に結合した水素原子(即ち、Si−H基)のモル比が0.5〜5モル/モル、好ましくは0.8〜4モル/モル、より好ましくは1〜3モル/モルとなる量で配合することもできる。
【0026】
(C)成分の付加反応触媒は、(A)成分中のアルケニル基と(B)成分中のSi−H基とのヒドロシリル化付加反応を促進するための触媒であり、この付加反応触媒としては、白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類との錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などの白金族金属触媒が挙げられる。これらの中でも、工業的に入手が容易であり、少量の添加で目的を達することができる白金系化合物が好ましい。
【0027】
なお、この付加反応触媒の配合量は触媒量であるが、通常、白金族金属として(A)及び(B)成分の合計重量に対して0.1〜1,000ppm、特に1〜500ppm、とりわけ2〜100ppm程度配合することが好ましい。
【0028】
(D)成分はシリカである。(A)〜(C)成分に平均粒子径1〜30nmの微細なシリカを配合することによって、組成物の粘度がポッティング方式によるレンズ形状成形に適したものとなり、また硬化物の屈折率とシリカの屈折率とが近いものとなって高い透明性が実現できる。好ましい平均粒子径は1〜15nmである。
【0029】
シリカは、沈降シリカ、シリカキセロゲル、ヒュームドシリカ、溶融シリカ、結晶シリカ、これらのシリカをシラン化合物で疎水化処理したものであってもよく、好ましくは、シラン化合物で疎水化処理されたものであり、より好ましくはシラン化合物で疎水化処理されたヒュームドリカである。疎水化処理に使用されるシラン化合物としては、例えばモノメチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、オクチルシラン等を挙げることができる。これらのシリカは市販されており、例えば、日本アエロジル社の「アエロジル」を挙げることができる。
【0030】
シリカの好ましい配合量は(A)及び(B)の総量に対して5〜25重量%、より好ましい配合量は7〜15重量%である。シリカの配合量がこれらの範囲にあると、シリコーン樹脂とシリカの分散性が良好となってシリコーン樹脂の流動性を抑制でき、基板上に塗布し、孔板と基板とを離す際に、半球状に近いレンズ形成がなされ、その状態で形状を保持することができる。なお、シリカは白色の粉末であるため、配合するシリコーン樹脂の種類によっては形成される封止レンズがわずかに乳白色となることがある。透明性が重要な場合には、配合するシリコーン樹脂は、該樹脂が硬化した際に、シリカの屈折率と同一又は近似の屈折率を有する樹脂であることが望ましい。
【0031】
本発明の組成物においては、(D)シリカの屈折率と樹脂成分が硬化した際の屈折率とが同一又は近似していると、ポッティングにより形成される封止レンズの透明性が格段に高くなるため好ましい。樹脂成分の屈折率は、例えばアッベ式屈折率計で測定することができるがこれに限定されない。また、樹脂の屈折率は、(A)及び(B)におけるR及びR’の選択によって調整可能であるがこれに限定されない。例えば、R及びR’として、メチル基、アルケニル基、フェニル基が使用されている場合、屈折率を低くする場合にはメチル基の割合を多くし、屈折率を高くする場合にはフェニル基の割合を多くする。このようにして(A)及び(B)を調整し、(A)及び(B)を硬化させたものの屈折率を測定し、(D)シリカの屈折率となるべく近い(A)及び(B)を選択すると、これらを配合した組成物の硬化物の屈折率が(D)シリカの屈折率と同一又は近似となり、形成される封止レンズの透明性が高くなる。ここで、(A)及び(B)の屈折率及び本発明組成物硬化体の屈折率はアッベ式屈折率計(25℃)で(D)シリカの屈折率の±0〜0.1であることが好ましく、±0〜0.05であることがより好ましい。
【0032】
本発明の組成物には、上記(A)〜(D)成分に加え、任意成分として硬化性、ポットライフを与えるために付加反応制御剤、硬度・粘度を調節するために、例えばジメチルポリシロキサン等の前記したフェニル基含有又は非含有のアルケニル基を有する直鎖状のジオルガノポリシロキサンの他にも直鎖状の非反応性オルガノポリシロキサン、ケイ素原子数が2〜10個程度の直鎖状又は環状の低分子オルガノポリシロキサンなどを本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。更に透明性に影響を与えない範囲で、必要に応じて波長調整剤、染料、顔料、難燃剤、耐熱剤、耐酸化劣化剤などを配合してもよい。
【0033】
なお、本発明組成物の硬化条件は特に制限されないが、120〜180℃、30〜180分の条件とすることが好ましい。
【0034】
本発明の組成物は、発光素子封止用レンズの原料となるものであるが、ここで発光素子としては主に、InGaN、SiC、AlGaInP、GaP、GaAlAs、InGaAs、GaAs等の化合物半導体素材を用いたものが、発光ダイオード(LED)用として使用される。また、発光素子により発せられる波長は、可視光を始め、近視外光、近赤外光の光で、300nm〜1200nmの領域を対称とする。本発明の組成物により形成される光半導体電子部品は、発光ダイオード(LED)が主な使用となるが、レンズ形状を構成する他の電子部品 例えば、ホトダイオード(PD)、ホトカプラ、面発光型半導体レーザー(VCSEL)、レーザーダイオード(LD)等にも応用可能である。
【0035】
次に、本発明の光半導体電子部品の製造方法は、発光素子を備えた基板に上記の本発明組成物を封止樹脂として使用したポッティングにより該封止樹脂をレンズ状に成形することを特徴とする。ポッティングとしては、ディスペンス法、印刷法等を採用することができる。
【0036】
本発明の製造方法の一例として真空印刷機を使用したスクリーン印刷を説明する。
まず、基板1上の所定位置に発光素子(図示せず)を搭載し、この基板1を、下チャンバー2に設置された昇降可能なテーブル3上に設置する。上チャンバー4には、開口部5を備えた孔版6及び2本のスキージ7,8が備えられ、孔版6上には封止用樹脂9が載せられている(図1a)。孔版の厚みは0.1mm〜5.0mmが好ましく、孔版の開口部系直径は0.5〜15mmが好ましい。
【0037】
次に、テーブル3を上昇させて前記発光素子が搭載された位置に応じて孔版6と前記基板1とを、前記発光素子が前記開口部5内に配されるよう接触させる(図1b)。なお、この説明では基板1を上昇させているが、孔版6を下降させてもよいし、孔版6と基板1の両方を移動させて接触させてもよい。
次に、必要に応じて真空条件としつつ、右スキージ7を下降して封止用樹脂9を移動させて孔版6の開口部5に封止用樹脂9を充填する(図1c)。なお、本発明の組成物9を孔版6上に載せる時期は、孔版6と基板1とを接触させた後であってもよい。
次に左スキージ8を下降し孔版6上の封止用樹脂9を除去する(図2a)。
次にテーブル3を微速で下降させて孔版6と基板1とを徐々に離す(図2b、図2c)と図示されたように基板1側の封止用樹脂9が徐々に変形しレンズ形状となる(図3a)。なお、この説明では基板1を移動させて孔版6と基板1とを離したが、孔版6を移動させて離してもよいし、孔版6と基板1の両方を移動させて離してもよい。なお、基板1と孔版6を離す速度が0.01〜1.0mm/秒であると封止用樹脂9がよりきれいな半球状となる。
【0038】
次に下チャンバー2を移動させて封止用樹脂9がレンズ状に形成された基板1を樹脂硬化工程に供する(図3b、図3c)。この基板1を加熱し、レンズ状の組成物を硬化させることによって、発光素子がレンズ状透明樹脂10で封止された基板1が得られる。加熱硬化条件は、例えば120〜180℃、30〜180分である。
【0039】
また、ディスペンス法により封止レンズを形成する場合には、前述のスクリーン印刷の場合と同様に発光素子を備えた基板と孔版とを接触させ、孔版の開口部にディスペンサーで所定量の封止用樹脂を充填し、前述のスクリーン印刷の場合と同様に孔版と基板とを離して封止用樹脂がレンズ状に形成された後に、この基板を樹脂硬化工程に供することによって発光素子がレンズ状透明樹脂で封止された基板が得られる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、高い透明性を備えた発光素子封止用レンズをポッティング方式で容易に製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
以下、実施例等により本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
以下の実施例、比較例及び試験例における測定は次のようにして行った。
<粘度・チクソ性測定>
サンプルをガラス瓶に入れ、そのガラス瓶を23℃のウォーターバスに1時間ほど放置。その後、B回回転粘度計にて2rpmと20rpmの時の粘度を確認。
チクソ性は、2rpm時の粘度と20rpm時の粘度の比をとり、数値化した。
<屈折率>
液状状態の樹脂組成物の屈析率を、25℃におけるアッベ式屈折率計を使用し、測定した。
<透過率測定>
1mm厚みのサンプル片を作成し、分光光度計にて、波長650nm、575nm、450nmの透過率を測定。また、後述の熱変性試験を経たサンプル片についても同様にして透過率を測定した。
<熱変色試験>
透過率測定で使用したサンプル片を150℃のオーブン乾燥器に入れて、3000時間後のサンプル片の変色度を目視により調べた。
【0043】
<実施例1>
シリコーン樹脂「KE−106」(信越化学工業社製;(A)のオルガノポリシロキサン、(B)のオルガノハイドロジェンポリシロキサン及び(C)の付加反応触媒を含有する)に、平均粒子径約12nmの微細シリカ「RY−200」(日本アエロジル製;ジメチルシリコーンオイルでコーティングされたシリカ)をシリコーン樹脂に対して10重量%となるように配合した。得られた組成物を粘度、チクソ性、屈折率、透過率測定及び熱変色試験に供した。結果を表1に示す。
【0044】
<実施例2>
トルエン、フェニルトリクロロシラン、ビニルメチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシランを仕込み、共加水分解後、重合し、(C)SiO3/2単位、(CH=CH)(CH)SiO2/2単位及び(CHSiO2/2単位からなり、平均組成が(CH0.8(C0.4(CH=CH)0.1SiO1.35で示されるオルガノポリシロキサン共重合体(シリコーンレジン)の50重量%のトルエン溶液を調製し、レジン融解物を作成した。珪素原子に結合したメチル基、フェニル基、水素原子(SiH基)の合計に対してフェニル基を15モル%有する水素ガス発生量が150ml/gである粘度10mPa・sのフェニルメチルハイドロジェンシロキサンを、先ほどのレジン融解物100重量部に対して、10重量部添加し、混合した後、150℃で溶出分がなくなるまで減圧下でストリップを行なった。これを室温まで冷却した後、反応制御剤としてエチルシクロヘキサノールを0.2重量部添加した。この混合物に白金触媒を白金原子として20ppm添加した。これで微細シリカ(屈折率1.46)と屈折率の近いものができ、更に実施例1で使用した微細シリカをシリコーン樹脂に対して10重量%になるように配合した。得られた組成物を粘度、チクソ性、屈折率、透過率測定及び熱変色試験に供した。結果を表1に示す。
【0045】
<比較例1>
微細シリカを配合しない以外は実施例1と同様にして組成物を調製した。得られた組成物を粘度、チクソ性、屈折率、透過率測定及び熱変色試験に供した。結果を表1に示す。
【0046】
<比較例2>
微細シリカの配合量を30重量%とした以外は実施例1と同様にして組成物を調製した。得られた組成物を粘度、チクソ性、屈折率、透過率測定及び熱変色試験に供した。結果を表1に示す。
【0047】
<レンズの製造>
実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2で得られた組成物を使用し、真空印刷機を用いてLEDを備えたガラスエポキシ基板上にポッティングを行なった。印刷条件としては、始め真空度0.1Torrまで真空引きしてから、スキージで樹脂を塗布及び充填した後、20Torrまで真空をあげて、返しのスキージで樹脂を掻きとった。その後、真空状態で、マスクから基板をゆっくりと剥がして、大気開放し、基板上に組成物を転写した。その後、この基板を150℃のオーブン乾燥器に1時間入れて、転写された樹脂を硬化して、硬化した組成物の形状及び外観色を確認し、図4〜6に示した。また、レンズの直径及び高さも測定し、表1に示した。なお、マスクの開孔部の直径は、φ3.0mm マスク厚1.0mmを用いた。さらに、基板をガラスエポキシ基板から配線が印刷された基板に変更し、実施例2の組成物を使用して上記と同様にしてレンズを形成した。ガラスエポキシ基板上に形成したレンズと配線が印刷された基板上に形成したレンズの外観写真を図7に示した。図7中、上段が上面写真、下段が側面写真であり、各写真中、左のレンズがガラスエポキシ基板に形成されたレンズ、右のレンズが配線が印刷された基板上に形成されたレンズである。
【0048】
【表1】

【0049】
実施例1ではほぼ半球状態のレンズ形成ができた。更に、実施例2のように、微細シリカに屈折率を近づける調整をすると更に低波長領域での透過率が向上することになり、理想的な状態に仕上がった(図7)。比較例のように微細シリカを使用しない、或いは過剰量配合すると、レンズ形状が整わず、また更に透過率の低下を招く結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、発光素子の封止め技術の分野で利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明製造法の一例である真空印刷工法の一工程を示す。
【図2】本発明製造法の一例である真空印刷工法の一工程を示す。
【図3】本発明製造法の一例である真空印刷工法の一工程を示す。
【図4】実施例1及び2の組成物を使用して形成されたレンズの形状を示す。
【図5】比較例1の組成物を使用して形成されたレンズの形状を示す。
【図6】比較例2の組成物を使用して形成されたレンズの形状を示す。
【図7】実施例2の組成物を使用して形成されたレンズの外観写真を示す。上段が上面写真、下段が側面写真であり、各写真中、左のレンズがガラスエポキシ基板に形成されたレンズ、右のレンズが配線が印刷された基板上に形成されたレンズである。
【符号の説明】
【0052】
1 基板
2 下チャンバー
3 テーブル
4 上チャンバー
5 開口部
6 孔版
7 右スキージ
8 左スキージ
9 封止用樹脂
10 封止レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記平均組成式(1)
SiO(4−n)/2 (1)
〔但し、式中Rは同一又は異種の置換又は非置換の一価炭化水素基、アルコキシ基又は水酸基であり、置換又は非置換の一価炭化水素基であるRの0.1〜80モル%がアルケニル基であり、nは1≦n<2を満たす正数である。〕
で示される1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有する液状又は固体状のオルガノポリシロキサン、
(B)下記平均組成式(2)
R’SiO(4−a−b)/2 (2)
〔但し、式中R’は脂肪族不飽和炭化水素基を除く同一又は異種の置換又は非置換の一価炭化水素基であり、a,bは0.7≦a≦2.1、0.001≦b≦1.0、かつ0.8≦a+b≦2.6を満たす正数である。〕
で示される1分子中に少なくとも2個のSi−H結合を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン及び/又は下記一般式(3)
R’SiH(4−c) (3)
〔式中R’は上記と同様であり、cは1又は2である。〕
で示されるオルガノハイドロジェンシラン、及び
(C)付加反応触媒、
を含有する発光素子封止用シリコーン樹脂組成物であって、
(D)平均粒子径が1〜30nmのシリカを(A)及び(B)の総量に対して2〜25重量%含有し、該組成物の粘度(23℃)が10Pa・S超〜70Pa・S未満、チクソトロピック性が2.0〜5.5であり、封止がポッティング方式である組成物。
【請求項2】
シリカの平均粒子径が1〜15nmである請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
発光素子を備えた基板に請求項1又は2に記載の組成物を封止樹脂として使用したポッティングにより該封止樹脂をレンズ状に成形することを特徴とする、光半導体電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−231199(P2008−231199A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70852(P2007−70852)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(391003624)サンユレック株式会社 (28)
【Fターム(参考)】