説明

発光素子用エピタキシャルウェハ及び発光素子

【課題】歩留を向上でき、信頼性も良好な発光素子用エピタキシャルウェハ及び発光素子を提供する。
【解決手段】n型基板1上に、少なくともn型クラッド層4と、量子井戸構造を有する発光層5と、p型クラッド7とが積層された発光素子用エピタキシャルウェハにおいて、n型クラッド層4は、Siを含む2種類以上のn型ドーパントを混合添加したエピタキシャル層を有し、かつn型クラッド層4の厚さが250nm以上750nm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体結晶からなる発光素子用エピタキシャルウェハ及び発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化合物半導体結晶からなる発光素子、例えば、AlGaInP系エピタキシャルウェハを用いて作製される発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)は、高輝度化に伴って、ディスプレイ、リモコン、センサー、車載用ランプなど様々な用途に広く用いられている。
発光素子用エピタキシャルウェハは、有機金属気相成長法(MOVPE法)、分子線エピタキシー法(MBE法)などを用いて、基板上に、少なくともn型クラッド層、発光層、p型クラッド層が順次積層された構造となっている。
【0003】
上記n型クラッド層のn型ドーパントとしては、主にTe(テルル)、Se(セレン),Si(シリコン)が使用されている(例えば、特許文献1〜3参照)。これらのうち、Te、Seをエピタキシャル成長に使用すると、Te、Seが反応炉内に残留し、その後の成長中において、この残留したTe、Seが結晶内に取り込まれる現象が起こる。これをメモリー効果と呼ぶ。Siでは、経験的に、この現象(メモリー効果)は発生しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−94780号公報
【特許文献2】特開2004−241463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、現在、発光素子には、期待される用途の拡大や従来技術との競合から、更なる低コスト化と安定した性能が求められている。
【0006】
しかしながら、n型ドーパントとしてSe、Teを使用した場合、メモリー効果により、意図しない層(たとえばp型クラッド層など)にn型ドーパントが混入して、動作電圧Vfが高くなるという悪影響が出る。メモリー効果は、比較的にウェハ周辺で強く発生するので、ウェハ周辺のVfが高くなるためウェハ周辺は素子作製に使用できず、その結果、チップ歩留の悪化を招いていた。
【0007】
一方、n型ドーパントとしてメモリー効果が無いSiを使用した場合、通電初期の発光出力Poが低く、また通電後のPoが高くなってしまい信頼性が低かった。
【0008】
本発明の目的は、歩留を向上でき、信頼性も良好な発光素子用エピタキシャルウェハ及び発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、n型基板上に、少なくともn型クラッド層と、量子井戸構造を有する発光層と、p型クラッド層とが積層された発光素子用エピタキシャルウェハにおいて、前記n型クラッド層は、Siを含む2種類以上のn型ドーパントを混合添加したエピタキシャル層を有し、かつ前記n型クラッド層の厚さが250nm以上750nm以下である。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様の発光素子用エピタキシャルウェハにおいて、前記Siを含む2種類以上のn型ドーパントを混合添加したエピタキシャル層は、Siの濃度が前記n型基板側から前記発光層側に向かって徐々に高くなり、Si以外のn型ドーパントの濃度が前記n型基板側から前記発光層側に向かって徐々に低くなるように形成されている。
【0011】
本発明の第3の態様は、第1の態様又は第2の態様の発光素子用エピタキシャルウェハにおいて、前記Siを含む2種類以上のn型ドーパントを混合添加したエピタキシャル層のn型ドーパントはSiとSeであり、Seの濃度は、Si及びSeの濃度に対して20%以上80%以下である。
【0012】
本発明の第4の態様は、n型基板上に、少なくともn型クラッド層と、量子井戸構造を有する発光層と、p型クラッド層とが積層された発光素子用エピタキシャルウェハにおいて、前記n型クラッド層は、Si以外のn型ドーパントを添加したn型第1クラッド層とSiをn型ドーパントとして添加したn型第2クラッド層とを有し、かつ前記n型クラッド層の全体の厚さが250nm以上750nm以下である。
【0013】
本発明の第5の態様は、第4の態様の発光素子用エピタキシャルウェハにおいて、前記n型第1クラッド層のn型ドーパントはSeであり、前記n型クラッド層の全体の厚さのうち25%以上80%以下がSeが添加されたn型第1クラッド層である。
【0014】
本発明の第6の態様は、第1〜第5の態様のいずれかの発光素子用エピタキシャルウェハにおいて、前記量子井戸構造を有する発光層は、AlGaInP(0≦Al混晶比≦0.35)のウェル層を有し、かつ前記ウェル層の厚さが2.5nm以上6.5nm以下であり、前記n型クラッド層のキャリア濃度は2.5×1017cm-3以上7.0×1017cm-3以下である。
【0015】
本発明の第7の態様は、第1〜第6の態様のいずれかに記載の発光素子用エピタキシャルウェハを用いて作製された発光素子である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、動作電圧の面内均一性を向上でき、発光出力の信頼性も高い発光素子
用エピタキシャルウェハ及び発光素子が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る発光ダイオード用エピタキシャルウェハの断面構造図である。
【図2】図1のn型クラッド層を含む一部を拡大したもので、図2(a)は一実施形態に係る単層構造のn型クラッド層の断面図、図2(b)は他の実施形態に係る2層構造のn型クラッド層の断面図である。
【図3】本発明の第1の実施例及び比較例に係る発光ダイオード用エピタキシャルウェハの特性を纏めて示した図である。
【図4】本発明の第2の実施例及び比較例において、Si及びSeの添加量に対するSeの添加量の割合と、Vf差と、ΔPoとの関係を示すグラフである。
【図5】本発明の第3の実施例及び比較例において、n型クラッド層中のSe添加のn型第1クラッド層の厚さと、Vf差と、ΔPoとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係る発光素子用エピタキシャルウェハの実施形態を図面を用いて説明する。
【0019】
図1に、本発明の一実施形態に係る発光ダイオード用エピタキシャルウェハの断面構造図を示す。
この実施形態の発光ダイオード用エピタキシャルウェハは、図1に示すように、n型基板1上に、有機金属気相成長法(MOPVE法)により、n型のバッファ層2と、低屈折率膜と高屈折率膜を複数ペア積層した光反射層3と、n型クラッド層4と、量子井戸構造のアンドープの発光層5と、アンドープのスペーサ層6と、p型クラッド層7と、格子不整合を緩和するためのp型の中間層8と、p型の電流分散層9とを積層して形成したものである。
【0020】
n型クラッド層4は、Siを含む2種類以上のn型ドーパントを混合添加することで所定のキャリア濃度としたエピタキシャル層である。Si以外のn型ドーパントには、Se、Teなどが挙げられる。n型クラッド層4は、SiとSeとを混合添加したエピタキシャル層であることが好ましい。また、n型クラッド層4は、SiとTeとを混合添加したエピタキシャル層、あるいはSiとSeとTeなど3種類以上のn型ドーパントを混合添加したエピタキシャル層でもよい。
n型クラッド層4に、n型ドーパントとして、SiとSi以外のn型ドーパント(Se、Te)とを混合添加することにより、Se(又はTe)の単独添加の場合の問題(Se、Teのメモリー効果によって、特にウェハ周辺の動作電圧Vfが高くなり、歩留が低下する)と、Siの単独添加の場合の問題(通電初期の発光出力Poが低く、また通電後のPoが高くなり信頼性が低い)とをそれぞれ軽減できる。
【0021】
n型クラッド層4をSiとSeと混合添加したエピタキシャル層とした場合、Seの濃度は、Si及びSeの濃度に対して20%以上80%以下とするのが好ましい(後述の実施例の図2,図3参照)。
【0022】
n型クラッド層4中のn型ドーパントの分布としては、SiとSi以外のn型ドーパントとがほぼ均一に混ざった状態がある。
あるいは、n型クラッド層4中のn型ドーパントは、n型クラッド層の一実施形態として図2(a)に示すように、Siの濃度がn型基板1(光反射層3)側から発光層5側に向かって徐々に高くなり、一方、Si以外のn型ドーパント(Se、Te)の濃度がn型基板1(光反射層3)側から発光層5側に向かって徐々に低くなるように形成してもよい。このように、メモリー効果を有するSe、Teの濃度がn型基板1(光反射層3)側から発光層5側に向かって徐々に低くなるように形成すると、Se、Teによるメモリー効果の悪影響をより低減できる。更に、メモリー効果の無いSiの濃度を、Se等とは逆の濃度分布とすることで、n型クラッド層4中の必要とするキャリア濃度を確保できる。
【0023】
n型クラッド層4の厚さは、これまでの実験・検討の結果から、250nm以上750nm以下が好ましい。また、n型クラッド層4のキャリア濃度は、2.5×1017cm-3以上7.0×1017cm-3以下が好ましい。
【0024】
また、n型クラッド層4は、n型クラッド層の他の実施形態として図2(b)に示すように、2層(あるいは複数層)構造であってもよい。
図2(b)に示す実施形態のn型クラッド層4では、Si以外のn型ドーパントとしてSeを添加したn型第1クラッド層41と、Siをn型ドーパントとして添加したn型第2クラッド層42とが積層形成された2層構造となっている(なお、n型第1クラッド層41をTe添加層、あるいはSe及びTeの混合添加層としてもよい)。
Seを添加したn型第1クラッド層41をn型基板1(光反射層3)側に設けた2層構造とすることにより、Seのメモリー効果によるウェハ周辺の動作電圧Vfの上昇を抑制できると共に、単層のSi添加のn型クラッド層の場合に生じる、通電初期の低い発光出力および通電後の発光出力の上昇等の問題を軽減できる。
n型クラッド層4の全体の厚さ(250nm以上750nm以下)のうち、25%以上80%以下がSeが添加されたn型第1クラッド層41であるのが好ましい(後述の実施例の図2,図4参照)。
【0025】
以上述べたように、n型クラッド層にSiを含む2種以上のn型ドーパントを混合添加することにより、またはn型クラッド層をSi以外のn型ドーパントを添加したn型第1クラッド層とSiを添加したn型第2クラッド層とで構成することにより、Se,TeなどSi以外のn型ドーパントによるメモリー効果を抑えることができる。これにより、特に、ウェハ周辺の動作電圧の上昇が抑えられ、ウェハ特性の面内均一性が向上し、ウェハ全面から良好な特性の発光素子を作製でき、歩留が向上する。また、Se,TeなどSi以外のn型ドーパントを用いることで、長期信頼性も良好な発光素子が得られる。
【0026】
量子井戸構造のアンドープの発光層5は、AlGaInP(0≦Al混晶比≦0.35)のウェル層を有し、かつウェル層の厚さが2.5nm以上6.5nm以下であるのが好ましい。
【0027】
発光素子の作製は、例えば、図1に示す発光ダイオード用エピタキシャルウェハに対して、n型基板1の裏面にn側電極を、p型電流分散層9の表面にp側電極をそれぞれ形成した後、ウェハをダイジングによりチップ化して各チップをステム等の支持体に実装して発光ダイオードを作製する。
【0028】
なお、上記実施形態では、n型クラッド層4を、Siを含む2種類以上のn型ドーパントを混合添加した単層構造、またはn型クラッド層4を、Si以外のn型ドーパントを添加したn型第1クラッド層と、Siを添加したn型第2クラッド層とが積層形成された2層構造とした。しかし、これら構造に限らず、これら構造を組み合わせた構造としてもよい。
例えば、n型基板側にSiを含む2種類以上のn型ドーパントを混合添加した層を形成し、その上にSiを添加したn型第2クラッド層を形成した2層構造としたり、あるいは、n型基板側にSeを添加したn型第1クラッド層を形成し、その上にSiを含む2種類以上のn型ドーパントを混合添加した層を形成し、更にその上にSiを添加したn型第2クラッド層を形成した3層構造としたりなど、種々に変更可能である。
【実施例】
【0029】
次に、本発明の実施例を説明する。実施例のLED用エピタキシャルウェハは、図1に示す上記実施形態の発光ダイオード用エピタキシャルウェハと同様の層構造を有する。
【0030】
(第1の実施例)
第1の実施例に係るAlGaInP系のLED用エピタキシャルウェハは、n型導電性GaAs基板上に、バッファ層としてn型GaAs層(キャリア濃度1×1018cm-3、厚さ500nm)を形成し、バッファ層の上には、発光層からGaAs基板側に放出された光を反射する働きを持つ光反射層を形成した。光反射層は高い屈折率の膜と低い屈折率の膜をそれぞれl/4波長の厚みで交互に積層した構造を取る。この実施例では、Al0.85Ga0.15AsとGaAsのペアを5ペア成長した。光反射層の上にはn型クラッド層としてn型(Al0.68Ga0.320.51In0.49P層(キャリア濃度5.5×1017cm-3、厚さ500nm)を形成した。n型クラッド層上に形成した発光層は、GaAs基板側から(Al0.55Ga0.450.51In0.49P層(バリア層、厚さ6.5nm)とGa0.51In0.49P層(ウェル層、厚さ4.0nm)のペアを15ペア積層させた量子井戸構造とした。発光層はドーパントを添加しないアンドープ層である。発光層の上にはアンドープのスペーサ層として(Al0.5Ga0.50.51In0.49P層(厚さ300nm)を形成した。そしてスペーサ層の上にp型クラッド層としてMgを添加した(Al0.7Ga0.30.51In0.49P層(キャリア濃度3×l017cm-3、厚さ800nm)を形成した。p型クラッド層の上にはp型クラッド層と電流分散層(コンタクト層)との格子不整合を緩和する中間層を形成した。中間層はZn添加のp型(Al0.15Ga0.850.51In0.49P層(キャリア濃度1.0×1018cm-3、厚さ300nm)とした。最上層は電流分散層としてZn添加のp型GaP層(キャリア濃度2.0×1018cm-3、厚さ9μm)を形成した。
【0031】
上記LED用エピタキシャルウェハのエピタキシャル層の形成には、MOVPE法を用いた。すなわち、必要とするIII族有機金属原料ガス、V族原料ガス及びドーパント原料ガスを、高純度水素キャリアガスとの混合ガスとして反応炉内に導入し、反応炉内で加熱されたGaAs基板付近で原料が熱分解され、GaAs基板上にエピタキシャル層が成長する。実施例のエピタキシャル成長では、Ga原料としてTMG(トリメチルガリウム)、Al原料としてTMA(トリメチルアルミニウム)、Inの原料としてTMI(トリメチルインジウム)、As原料としてAsH3(アルシン)、P原料としてPH3(ホスフィン)、n型ドーパントであるSiの原料としてSi26(ジシラン)、同じくSeの原料としてH2Se(セレン化水素)、Teの原料としてDETe(ジエチルテルル)を用いた。p型のドーパントであるMgの原料としてCp2Mg(ビスシクロペンタジエニルマグネシウム)、Znの原料としてDEZ(ジエチル亜鉛)を用いた。
【0032】
第1の実施例では、次のn型クラッド層構造を有する実施例および比較例のLED用エピタキシャルウェハを作製した。
【0033】
比較例のLED用エピタキシャルウェハでは、単層構造のn型クラッド層(キャリア濃度5.5×l017cm-3、厚さ500nm)のn型ドーパントに、
(1)Seを用いたウェハ(比較例1)、
(2)Teを用いたウェハ(比較例2)、
(3)Siを用いたウェハ(比較例3)を作製した。
【0034】
実施例のLED用エピタキシャルウェハでは、
(4)単層構造のn型クラッド層(キャリア濃度5.5×l017cm−3、厚さ500nm)のn型ドーパントとして、SeとSiを同時添加(Seの濃度とSiの濃度の割合は、Se:Si=2:1)したウェハ(実施例1)、
(5)単層構造のn型クラッド層(キャリア濃度5.5×l017cm-3、厚さ500nm)のn型ドーパントとして、TeとSiを同時添加(Teの濃度とSiの濃度の割合は、Te:Si=2:l)したウェハ(実施例2)、
(6)2層構造のn型クラッド層として、Seを添加した(Al0.68Ga0.320.51In0.49P層(キャリア濃度5.5×l017cm-3、厚さ250nm)を成長し、その上にSiを添加した(Al0.68Ga0.320.51In0.49P層(キャリア濃度5.5×l017cm-3、厚さ250nm)を成長したウェハ(実施例3)、
(7)2層構造のn型クラッド層として、Teを添加した(Al0.68Ga0.320.51In0.49P層(キャリア濃度5.5×l017cm-3、厚さ250nm)を成長し、その上にSiを添加した(Al0.68Ga0.320.51In0.49P層(キャリア濃度5.5×l017cm-3、厚さ250nm)を成長したウェハ(実施例4)、
(8)単層構造のn型クラッド層(キャリア濃度5.5×l017cm-3、厚さ500nm)の成長において、GaAs基板側から発光層に向かってn型ドーパント原料ガスの供給を、H2Se:93ccm(成長初期)→0ccm(成長終期)、Si26:0ccm(成長初期)→176ccm(成長終期)に変化させて形成したウェハ(実施例5)を作製した。各n型ドーパント原料ガスの供給量は、所望のn型ドーパント濃度(及びキャリア濃度)と、各原料のドーピング効率とにより決定した。
【0035】
上記比較例1〜3,実施例1〜5それぞれのLED用エピタキシャルウェハからLEDチップを作製し、LEDチップの特性を測定した。得られた特性値は次の(i)〜(vi)である。その結果を図3に示す。
【0036】
(i)Po1[mW]:通電初期の発光出力
(ii)Vf1[V]:通電初期の動作電圧
(iii)Po2[mW]:240時間通電後の発光出力
(iv)Vf2[V]:240時間通電後の動作電圧
(v)ΔPo[%]=Po2/Po1×100:240時間通電後の発光出力Po2[mW]の、通電初期の発光出力Po1[mW]に対する割合
(vi)ΔVf[V]=Vf2−Vfl:240時間通電後の動作電圧Vf2から通電初期の動作電圧Vf1を引いた動作電圧の経時変化 (i)、(ii)は初期特性であり、また(v)、(vi)は信頼性を示す特性である。ΔPoは100%に近いほど,ΔVfは小さいほど信頼性が高いと言える。目安としてはΔPoが95〜110%、ΔVfが±0.1Vの範囲内にあることがよい。なお、動作電圧は、LEDチップに20mAの電流を流して発光させる際に必要な電圧とした。
【0037】
また、上記比較例1〜3,実施例1〜5のエピタキシャルウェハの面内均一性を調べた。比較例1〜3,実施例1〜5の各LED用エピタキシャルウェハに対して、ウェハ中央部と、ウェハ端から3mm内側に入った部分(ウェハ端部)とからチップを作製し、ウェハ中央部およびウェハ端部のチップにおける通電初期の発光出力Po1、通電初期の動作電圧Vflを測定した。得られた面内均一性の特性値は次の(vii)、(viii)である。
その結果を図3に示す。
(vii)Po差:ウェハ端部のチップにおける通電初期の発光出力Po1からウェハ中央部のチップにおける通電初期の発光出力Po1を引いた発光出力の差
(viii)Vf差:ウェハ端部のチップにおける通電初期の動作電圧Vflからウェハ中央部のチップにおける通電初期の動作電圧Vflを引いた動作電圧の差
これらPo差、Vf差が小さいほど、特性の面内均一性が良好であると言える。なお前述のΔPo,ΔVfは、ウェハ中央部のチップに対して行った。
【0038】
図3に示すように、比較例1(Se添加100%)、比較例2(Te添加100%)は、それぞれVf差が0.41V、0.45Vと高く、面内均一性が悪い。また比較例3(Si添加100%)は、ΔPoが264.3%と非常に大きく、ΔVfも0.24Vと大きく、信頼性が低い。それに対し、実施例1〜5は、Vf差は0.02〜0.05Vで、すべて0.1V以下と小さくVfの面内均一性が大きく向上していることがわかる。また、ΔPoは100.9〜103.1%であり、ΔVfも0.02〜0.06Vであり、信頼性も良好である。実施例は、その他の特性も比較例と同等かそれ以上の値を得ることができた。
【0039】
(第2の実施例)
第2の実施例では、上記第1の実施例中の実施例1(SeとSiを同時添加した単層構造のn型クラッド層)におけるSeとSiの割合を変化させた。Se及びSiの濃度(n型ドーパント濃度)に対するSeの濃度の割合[%]を変化させたときの、Vf差とΔPoの結果を図4に示す。
Se及びSiの濃度に対するSeの濃度の割合が20%未満では、ΔPoが大きくなり、Seの濃度の割合が80%を超えると、Vf差が大きくなってしまう。従って、SeとSiの混合添加において、Vf差,ΔPo何れも良好であるのは、Se及びSiの濃度に対してSeの濃度の割合が20%以上80%以下となるよう、n型ドーパント原料を供給しn型クラッド層を形成した場合であった。
また、実施例2(TeとSiを同時添加した単層構造のn型クラッド層)におけるTeとSiの割合を変化させた場合も、同様の結果が得られた。
推測できる。
【0040】
(第3の実施例)
第3の実施例では、上記実施例3のn型クラッド層である、Seを添加した(Al0.68Ga0.320.51In0.49P層(キャリア濃度5.5×l017cm-3、厚さ250nm)と、Siを添加した(Al0.68Ga0.320.51In0.49P層(キャリア濃度5.5×l017cm-3、厚さ250nm)の2層構造において、n型クラッド層の合計の厚さは500nmに保って、Seを添加した(Al0.68Ga0.320.51In0.49P層の厚さを変化させた。
Seを添加した(Al0.68Ga0.320.51In0.49P層が占める厚さが125nm未満では、ΔPoが大きくなってしまい、Seを添加した(Al0.68Ga0.320.51In0.49P層が占める厚さが400nmを超えると、Vf差が大きくなってしまう。Vf差,ΔPo何れも良好であるのは、Seを添加した(Al0.68Ga0.320.51In0.49Pの厚さが125nm以上400nm以下の場合(n型クラッド層の全体の厚さのうち、25%以上80%以下がSeが添加されたn型第1クラッド層である場合)であった。更に、Se添加層の厚さを125nm以上350nm以下(n型クラッド層の全体の厚さのうち、Se添加のn型第1クラッド層の厚さが占める割合が25%以上70%以下)とするのがより好ましい。
また、実施例4のTeを添加した層とSiを添加した層とを積層させた場合も同様の結果が得られた。
【0041】
(第4の実施例)
上記第1の実施例のLED用エピタキシャルウェハの発光層は、GaAs基板側から(Al0.55Ga0.450.51In0.49P層(バリア層、厚さ6.5nm)とGa0.51In0.49P層(ウェル層、厚さ4.0nm)のペアを15ペア積層させた量子井戸構造としていたが、この第4の実施例では、ウェル層にAlを添加してAlGaInP層とし、そのAl混晶比を0.35程度まで変化させ、またウェル層の厚さを2.5〜6.5nm程度まで変化させた。つまり発光層の発光波長を変化させたが、同様の効果が得られることがわかった。なお、発光層の量子井戸構造のペア数は15ペアに限るものではない。
【符号の説明】
【0042】
1 n型基板
2 バッファ層
3 光反射層
4 n型クラッド層
5 量子井戸構造の発光層
6 スペーサ層
7 p型クラッド層
8 中間層
9 電流分散層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型基板上に、少なくともn型クラッド層と、量子井戸構造を有する発光層と、p型クラッド層とが積層された発光素子用エピタキシャルウェハにおいて、
前記n型クラッド層は、Siを含む2種類以上のn型ドーパントを混合添加したエピタキシャル層を有し、かつ前記n型クラッド層の厚さが250nm以上750nm以下であることを特徴とする発光素子用エピタキシャルウェハ。
【請求項2】
前記Siを含む2種類以上のn型ドーパントを混合添加したエピタキシャル層は、Siの濃度が前記n型基板側から前記発光層側に向かって徐々に高くなり、Si以外のn型ドーパントの濃度が前記n型基板側から前記発光層側に向かって徐々に低くなるように形成されていることを特徴とする請求項1記載の発光素子用エピタキシャルウェハ。
【請求項3】
前記Siを含む2種類以上のn型ドーパントを混合添加したエピタキシャル層のn型ドーパントはSiとSeであり、Seの濃度はSi及びSeの濃度に対して20%以上80%以下であることを特徴とする請求項1または2記載の発光素子用エピタキシャルウェハ。
【請求項4】
n型基板上に、少なくともn型クラッド層と、量子井戸構造を有する発光層と、p型クラッド層とが積層された発光素子用エピタキシャルウェハにおいて、
前記n型クラッド層は、Si以外のn型ドーパントを添加したn型第1クラッド層とSiをn型ドーパントとして添加したn型第2クラッド層とを有し、かつ前記n型クラッド層の全体の厚さが250nm以上750nm以下であることを特徴とする発光素子用エピタキシャルウェハ。
【請求項5】
前記n型第1クラッド層のn型ドーパントはSeであり、前記n型クラッド層の全体の厚さのうち25%以上80%以下がSeが添加されたn型第1クラッド層であることを特徴とする請求項4記載の発光素子用エピタキシャルウェハ。
【請求項6】
前記量子井戸構造を有する発光層は、AlGaInP(0≦Al混晶比≦0.35)のウェル層を有し、かつ前記ウェル層の厚さが2.5nm以上6.5nm以下であり、前記n型クラッド層のキャリア濃度は2.5×1017cm-3以上7.0×1017cm-3以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の発光素子用エピタキシャルウェハ。
【請求項7】
請求項1〜6いずれかに記載の発光素子用エピタキシャルウェハを用いて作製されたことを特徴とする発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−61185(P2011−61185A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48788(P2010−48788)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】