説明

発光領域を有する貴重印刷物の真偽判別装置及びその真偽判別方法

【課題】 本発明は、高価な分析装置を用いることなく、安価で汎用的な可視光レーザと発光した可視光のみを透過するフィルタを使用し、信頼性の判別結果を得ることができ、さらに、軽量、かつ、小型で簡易な調整により行うことができるため、誰でも容易、確実に貴重印刷物の真偽判別することができる発光領域を有する貴重印刷物の真偽判別装置及びその真偽判別方法に関する。
【解決手段】 本発明の真偽判別装置は、貴重印刷物を載置する保持部と、貴重印刷物にレーザ光を照射する光照射部と、フィルタを介して受光した可視光を光電変換し、受光した可視光の波長と強度に応じた検出波形に変換する検出器から成る検出部と、検出波形と、あらかじめ記録した真正な貴重印刷物の発光体の基準値を比較して真偽判別を行い、判別結果を出力する判別部から成ることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀行券、諸証券、郵券等の印刷物(以下「貴重印刷物」という。)に可視光のレーザを照射し、貴重印刷物に使用されている発光体の蛍光を検出することによって、該貴重印刷物の真偽判別を行う発光領域を有する貴重印刷物の真偽判別装置及びその真偽判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体又はりん光体等の発光体は、特定の波長の光で励起して、ある一定の波長の光を放出する特性を持っている。
【0003】
前述の励起波長と放出する発光波長、発光強度等の発光特性は、それぞれの発光体に固有の特性であるため、昨今のカラーコピーやパソコン、又は印刷機により作製された偽造印刷物の真偽判別を行う一手段として、特定の発光体を印刷や塗布等の手段を用いて印刷物やカード等の一部又は全面に付与し、当該発光体の特徴から印刷物やカード等の真偽判別を行う装置が知られている。
【0004】
その一例として、貴重印刷物に使用されている可視光により励起され、可視発光する発光体の発光寿命をアルゴンレーザを使用し、共焦点顕微鏡により検出することによって、貴重印刷物の判別を行う方法が開示されている。(例えば、特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−530916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、光源に高出力のAr(アルゴン)ガスレーザを使用しているため、広帯域の波長において高精度で詳細な結果を得ることができる反面、Ar(アルゴン)ガスレーザ自体は大型、かつ、非常に高価であり、発光の検出を共焦点スキャナを使用して画像処理を行うため操作が煩雑で分析に時間を要するという問題があった。また、大型分析装置のレーザの照射量、焦点等は、熟練者でなければ調整することが難しい問題があった。
【0007】
本発明は、前述した課題の解決を目的とするものであり、高価な分析装置を用いることなく、安価で汎用的な可視光レーザと発光した可視光のみを透過するフィルタを使用し、無駄なノイズを省いて、可視発光する発光体を検出することによって、信頼性のある判別結果を得ることができ、さらに、軽量、かつ、小型で簡易な調整により行うことができるため、どこでも場所を問わず、誰でも容易、確実に貴重印刷物の真偽判別することができる発光領域を有する貴重印刷物の真偽判別装置及びその真偽判別方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、少なくとも基材の一部に、特定波長の可視光により励起され、可視発光する発光体を印刷又は塗工により付与した発光領域を有する貴重印刷物の真偽判別装置であって、貴重印刷物を載置する保持部と、貴重印刷物にi)波長525乃至545nmの緑色域、ii)波長620乃至645nmの赤橙色域、又はiii)波長425乃至445nmの青紫色域のレーザ光を照射する光照射部と、i)の場合において貴重印刷物の発光体が発光した波長550nm以上の可視光のみを透過するフィルタを介して受光した可視光を光電変換し、ii)の場合において貴重印刷物の発光体が発光した波長650nm以上の可視光のみを透過するフィルタを介して受光した可視光を光電変換し、iii)の場合において、貴重印刷物の発光体が発光した波長450nm以上の可視光のみを透過するフィルタを介して受光した可視光を光電変換し、i)乃至iii)のいずれかで受光した可視光の波長と強度に応じた検出波形に変換する検出器から成る検出部と、検出波形と、あらかじめ記録した真正な貴重印刷物の発光体の基準値を比較して真偽判別を行い、判別結果を出力する判別部から成ることを特徴とする発光領域を有する貴重印刷物の真偽判別装置である。
【0009】
また、本発明の検出波形と、あらかじめ記録した真正な貴重印刷物の発光体の基準波形を表示する表示部を更に設けたことを特徴とする発光領域を有する貴重印刷物の真偽判別装置である。
【0010】
また、本発明の検出部と保持部を覆うように、外乱光の影響を避けるための遮蔽部を更に設けたことを特徴とする発光領域を有する貴重印刷物の真偽判別装置である。
【0011】
また、本発明は、少なくとも基材の一部に、特定波長の可視光により励起され、可視発光する発光体を印刷又は塗工により付与した発光領域を有する貴重印刷物の真偽判別方法であって、貴重印刷物にi)波長525乃至545nmの緑色域、ii)波長620乃至645nmの赤橙色域、又はiii)波長425乃至445nmの青紫色域のレーザ光を照射し、i)の場合において貴重印刷物の発光体が発光した波長550nm以上の可視光のみを透過するフィルタを介して受光した可視光を光電変換し、ii)の場合において貴重印刷物の発光体が発光した波長650nm以上の可視光のみを透過するフィルタを介して受光した可視光を光電変換し、iii)の場合において、貴重印刷物の発光体が発光した波長450nm以上の可視光のみを透過するフィルタを介して受光した可視光を光電変換し、i)乃至iii)のいずれかで受光した可視光の波長と強度に応じた検出波形に変換し、検出波形と、あらかじめ記録した真正な貴重印刷物の発光体の基準値を比較して基準値の範囲内であれば「真」、基準値の範囲外であれば「偽」と判別結果を出力することを特徴とする発光領域を有する貴重印刷物の真偽判別方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の発光領域を有する貴重印刷物の真偽判別装置及びその真偽判別方法は、バンドパスフィルタ又はエッジフィルタ等のフィルタを使用することによって、無駄なノイズを省いて、抽出したい範囲の滑らかな検出波形を得ることができる。よって、検出波形と、あらかじめ記録した真正な貴重印刷物の発光体の基準値を比較して、貴重印刷物を真偽判別する際に誤認識することが軽減され、信頼性のある判別結果を得ることができる。また、本発明の真偽判別装置は、光源に汎用的な可視光レーザと検出器を使用しているため、軽量、かつ、小型で簡易な調整により行うことができるため、どこでも場所を問わず、誰でも容易、確実に貴重印刷物の真偽判別を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の真偽判別装置のブロック図。
【図2】本発明の真偽判別装置の一例を示す構成図。
【図3】真偽判別装置の光照射部の一例を示す構成図。
【図4】光照射部のレーザの波長の一例を示す特性図。
【図5】真偽判別装置の保持部と検出部の一例を示す構成図。
【図6】本発明の判別部と表示部の一例を示す構成図。
【図7】本発明の発光体の励起波長の一例を示す特性図。
【図8】判別対象の真正印刷物の一例を示す平面図。
【図9】実施例における発光体の特性図。
【図10】実施例における真正印刷物の一例を示す平面図。
【図11】実施例における評価対象物の一例を示す平面図。
【図12】実施例における真偽判別装置の一例を示す構成図。
【図13】実施例におけるレーザの波長を示す特性図。
【図14】実施例におけるフィルタの特性を示す特性図。
【図15】真正印刷物の検出波形を示す平面図。
【図16】評価物の検出波形を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれることは言うまでもない。
【0015】
(ブロック図)
図1は、本発明の真偽判別装置の一例を示すブロック図である。本発明の真偽判別装置は、印刷物に光を照射する光照射部(1)と、フィルタを介して印刷物の蛍光を検出する検出部(4)と、検出した蛍光の検出波形の振幅と、あらかじめ記録した発光体の基準波形の振幅を比較し、印刷物の発光体の真偽判別を行い、判別結果を出力する判別部(5)から成る。なお、説明の便宜上、判別結果をモニタ等に表示する表示部(6)を更に設けている。
【0016】
光照射部(1)は、保持部(2)により所定の位置に保持された印刷物に可視光域のレーザ光を照射する。
【0017】
保持部(2)は、試料台(2a)と試料保持部(2b)から成り、印刷物を所定の位置に保持する。試料台(2a)は、制御部(H)の制御に従い、照射光(R)を載置した印刷物に対して所定の角度に照射するように、傾斜角及び傾斜方向を調整する。光照射部(1)は、その光軸方向が試料台(2a)の貴重印刷物(3)に対して所定の傾斜角度になるように調整する。なお、所定の角度とは、45度から65度程度である。45度未満では、発光体を効率よく励起することができないからである。また、65度を超えた場合は、レーザ光と発光した蛍光が干渉するからである。試料保持部(2b)は、ローラ、ベルト、エアー等の押圧手段により印刷物を試料台(2a)上に押圧することにより密着させて保持する。
【0018】
検出部(4)は、フィルタ(4a)と、蛍光検出器(4b)から成る。フィルタ(4a)は、光照射部(1)により励起して発光された波長のみを透過し、発光以外の外乱光を除去する。蛍光検出器(4b)は、制御部(H)の制御に従い、フィルタ(4a)を介して受光した可視光の波長と強度に応じた検出波形に変換する。制御部(H)は、光照射部(1)、保持部(2)、検出部(4)、判別部(5)及び表示部(6)の各部の制御を行う。
【0019】
判別部(5)は、演算部(5a)と記憶部(5b)、比較部(5c)、出力部(5d)から成る。演算部(5a)は、検出部(4)により、あらかじめ真正印刷物の発光体の波形を少なくとも二以上検出し、光電変換された二以上の波形の振幅と、記憶部(5b)にあらかじめ記録した印刷物の発光体の基準波形の振幅との差分値を二乗和によって算出し、得られた差分値のずれ幅を許容範囲とする。記憶部(5b)は、印刷物の発光体の基準波形をあらかじめ記録する。比較部(5c)は、あらかじめ記録した基準波形の振幅パターンと、検出波形の振幅パターンの形状とパターンマッチングさせて、演算部(5a)の許容値の範囲内において一致したものを真正と判別する。また、あらかじめ設定した基準波形を中心として、基準値±誤差として許容範囲を設定し、許容最大値と許容最小値の間に判別対象印刷物の検出波形が得られれば、判別対象印刷物は真正であると判別することもできる。出力部(5d)は、真偽判別の結果を出力する。
【0020】
表示部(6)は、検出した発光体の波形、真偽判別した結果をモニタ、音声等により表示する。
【0021】
(真偽判別装置)
図2は、本発明の真偽判別装置(A1)の一例を示す構成図である。本発明の真偽判別装置(A1)は、貴重印刷物(3)に可視光域のレーザ光を照射する光照射部(1)、貴重印刷物(3)を保持する保持部(2)、貴重印刷物(3)からの発光(L)を受光する検出部(4)、検出部(4)が検出した発光を光電変換し、光電変換された検出波形と、あらかじめ記録した印刷物の基準波形とを比較して真偽判別を行う判別部(5)と、判別部による判別結果を表示する表示部(6)から成る。
【0022】
光照射部(1)は、図3に示すように、貴重印刷物(3)にレーザ光を照射する。レーザ光(R)は、印刷物に可視光励起可視発光体を励起し、発光させる可視光域である、波長620乃至645nmの赤橙色域、波長525乃至545nmの緑色域、波長425乃至445nmの青紫色域の任意の波長のレーザを使用することができる。貴重印刷物(3)に対するレーザ光の照射領域の面積は、レーザ光の種類、レーザの出力等によるが、直径0.08mmから1.2mm程度である。なお、レーザ光の照射距離は、使用するレーザ光の種類、出力によるが、印刷物から3cm以下にすることが好ましい。発光体を効率よく励起、かつ、蛍光検出器との干渉をさけるためである。
【0023】
光源としては、赤橙色域であれば、図4(a)に示すような特性を示すAlGaInP系レーザダイオード、GaAs系レーザダイオード等、緑色域であれば、図4(b)に示すような特性を示すGaN系レーザダイオード、ZnMgSSe系レーザダイオード、Nd:YAGレーザ、青紫色域であれば、図4(c)に示すような特性を示すレーザダイオードの光源を使用することができる。レーザダイオードを使用するのは、余分な波長の光の量が少ないからである。また、消費電力が少ないため、装置を小型にできるからである。
【0024】
図5(a)に示すように、保持部(2)は、光照射部(1)からのレーザ光(R)を印刷物に照射させるため、試料台(2a)と試料保持部(2b)から成り、貴重印刷物(3)を保持する。試料台(2a)は、光照射部(1)のレーザ光(R)の照射又は蛍光(L)の検出に影響を与えなければ特に限定されず、ガラス、プラスチック等の公知の材料により構成される。また、試料保持部(2b)は、貴重印刷物(3)を試料台(2a)に密着、かつ、光照射部(1)のレーザ光(R)の照射又は蛍光(L)の検出に影響を与えなければ、特に限定されず、エアーの吹き付け、ローラ、ベルト等の押圧手段により構成される。さらに、試料台(2a)は、レーザ光(R)を試料台(2a)の中心(2r)に対して所定の角度(θ1)に傾斜するように設けることもできる。試料台(2a)を傾斜させることにより印刷物の発光に適した角度により照射光を調整し、効率よく検出部(4)により発光を受光することができるからである。なお、貴重印刷物(3)にレーザ光(R)を照射する所定の角度(θ1)は、貴重印刷物(3)へのレーザ光(R)を照射する面に対して45度から65度程度である。45度未満では、発光体を効率よく励起することができないからである。また、65度を超えた場合は、レーザ光(R)と発光した蛍光(L)が干渉するからである。
【0025】
検出部(4)は、図5(a)に示すように、貴重印刷物(3)に対する光照射部(1)と同一面側、かつ、試料台(2a)の中心(2r)に対して線対称の位置に設けられ、印刷物の発光体の発光(L)を受光する位置に載置される。図5(b)の拡大図に示すように、検出部(4)は、発光波長のみを透過するフィルタ(4a)と、蛍光検出器(4b)から構成される。フィルタ(4a)は、図5(c)の一例に示すような印刷物の発光体の発光(L)した可視波長のみを透過し、外乱光と照射光の光を削除する。フィルタにより除去することによって、ピーク波長のみを検出するためである。また、フィルタ(4a)は、バンドパスフィルタ、シャープカットフィルタ、エッジパスフィルタ等の公知のフィルタを使用する。蛍光検出器(4b)は、フィルタ(4a)を介して発光を受光し、光電変換する。蛍光検出器(4b)は、発光を検出することができれば、特に限定されず、Siフォトダイオード、InGaAsダイオード等のフォトディテクタを使用することができる。なお、検出部(4)と、前述した試料台(2a)は、外乱光の影響を避けるため暗箱等の遮蔽部を更に設けることができる。検出部(4)と、前述した試料台(2a)を暗箱等の遮蔽部に覆うことによって、微弱な蛍光も精度よく検出することができるからである。
【0026】
判別部(5)は、図6(a)に示すように、演算部(5a)と記憶部(5b)、比較部(5c)、出力部(5d)から成る。演算部(5a)は、検出部(4)により、あらかじめ真正印刷物の発光体の波形を少なくとも二以上検出し、光電変換された二以上の波形の振幅と、記憶部(5b)にあらかじめ記録した印刷物の発光体の基準波形の振幅との差分値を二乗和によって算出し、得られた差分値のずれ幅を許容範囲とする。記憶部(5b)は、印刷物の発光体の基準波形をあらかじめ記録する。比較部(5c)は、あらかじめ記録した基準波形の振幅と、検出波形の振幅を比較して真偽を判別する。なお、良否の判別を行う手段としては、振幅の変位から少なくとも一つの特徴点を抽出して比較する特徴点抽出手段及び振幅の形状を比較するパターンマッチング等の公知の処理手段を使用する。出力部(5d)は、比較部(5c)による真偽結果を出力する。
【0027】
表示部(6)は、図6(b)に示すように、判別部(5)による判別結果を表示する。表示手段としては、特に限定されず、公知の表示機器を使用することができる。一例としては、オシロスコープ等を用いた波形表示、スピーカ等による音声表示、電気光学振幅変調器(EO−AM)等にRF入力コネクタを介して接続し、波長の強度変化をモニリングするものである。
【0028】
(真偽判別方法)
少なくとも基材の一部に、特定波長の可視光により励起され、可視発光する発光体を印刷又は塗工により付与した発光領域を有する貴重印刷物の真偽判別方法について下記に説明をする。
【0029】
第1の工程は、貴重印刷物にi)波長525乃至545nmの緑色域、ii)波長620乃至645nmの赤橙色域、又はiii)波長425乃至445nmの青紫色域のレーザ光を照射する。
【0030】
第2の工程は、第1の工程でi)の場合において貴重印刷物の発光体が発光した波長550nm以上の可視光のみを透過するフィルタを介して受光した可視光を光電変換し、ii)の場合において貴重印刷物の発光体が発光した波長650nm以上の可視光のみを透過するフィルタを介して受光した可視光を光電変換し、iii)の場合において、貴重印刷物の発光体が発光した波長450nm以上の可視光のみを透過するフィルタを介して受光した可視光を光電変換を行う。
【0031】
第3の工程は、第2の工程でi)乃至iii)のいずれかで受光した可視光の波長と強度に応じた検出波形に変換し、検出波形と、あらかじめ記録した真正な貴重印刷物の発光体の基準値を比較して基準値の範囲内であれば「真」、基準値の範囲外であれば「偽」と判別結果を出力して発光領域を有する貴重印刷物の真偽判別を行う。
【0032】
(発光体)
次に、本発明の真偽判別装置の判別対象である発光体について説明する。発光体は、可視光線により励起され、可視光域の蛍光を発光する発光体であれば特に限定されず、無機発光体、有機発光体、蛍光顔料等を使用することができる。
【0033】
例えば、波長620乃至645nmの赤橙色域により励起され、赤橙色域の可視発光をする発光体としては、エルビウム(Er)及び塩素(Cl)が含まれる無機系化合物等がある。なお、一例としては、図7(a)に示すような発光特性を有するエルビウム(Er)及び塩素(Cl)を含有する無機系化合物がある。
【0034】
また、波長520乃至535nmの緑色域により励起され、緑色域の可視発光をする発光体としては、バルカンオレンジ(大日本インキ株式会社製)等がある。なお、一例としては、図7(b)に示すような発光特性を有する発光体がある。
【0035】
また、波長400乃至445nmの青紫色域により励起され、青紫色域の可視発光をする発光体としては、汎用的な印刷用顔料であるピグメントイエロー(大日本インキ株式会社製)等がある。なお、一例としては、図7(c)に示すような発光特性を有する発光体がある。
【0036】
(貴重印刷物)
次に、本発明の判別対象である貴重印刷物について説明する。図8は、前述した発光体を含む発光インキにより印刷された発光領域(b2)を有する真正印刷物(B1)を示す一例図であり、あらかじめ記録する基準波形を有する。図8に示すように、真正印刷物(B1)は、基材(b1)上に発光インキにより印刷された少なくとも一つの発光領域(b2)を有する。発光領域(b2)は、励起光の照射範囲よりも広いベタ、画線又は塗工が望ましいが、細画線又は網点の集合した彩紋模様等でもよい。基材(b1)は、特に限定されず、公知のコート紙、上質紙、プラスチック等を使用することができる。なお、真正印刷物(B1)は、発光体を含有するインキを使用した印刷物の一例であり、発光体を有する塗工液又は発光体を混抄した紙等の発光領域も検出することができる。
【実施例】
【0037】
以下の実施例においては、本発明における原理、機能及び効果を確認するため、市販装置の組合せにより構築したものを例示したものである。また、当該装置構成を基盤上に構築すれば、非常に小型の装置が構築できることは、言うまでもない。
【0038】
(真正印刷物)
発光体は、図9に示すように、532nmのレーザ光で励起すると550nm以上の可視光領域で蛍光発光する特性を有する、汎用的な市販の顔料であるバルカンオレンジ(大日本インキ株式会社製)を使用した。基材(b1’)に上質紙を使用し、前述したバルカンオレンジを5wt%配合したUVオフセットインキにより発光領域(b2’)を印刷して、図10に示す真正印刷物(B1’)を作製した。
【0039】
(評価物)
また、前述した真正印刷物(B1’)をカラーコピーして、発光領域(b2’)を複写領域(c2)として、コピー用紙(c1)に図11に示す「評価物C1」を作製した。
【0040】
(実施例1)
図12は、真偽判別装置A1’の一例を示す概略図である。真偽判別装置A1’は、光照射部(1’)、保持部(2’)、検出部(4’)、判別部(5’)、表示部(6’)から成る。なお、装置環境は、外乱光による影響を避けるため、保持部(2’)と検出部(4’)を暗箱(図示せず。)で遮蔽した。
【0041】
光照射部(1’)の光源は、市販の出力3mwのペンシル型レーザ(Nd:YAGレーザ)を使用した。レーザ光は、図13(a)に示すように、中心波長532nmの緑色域のグリーンレーザである。なお、図13(b)に示すように、光照射部(1’)は、真正印刷物(B1’)に対して60度の角度で設置した。
【0042】
また、図13(b)に示すように、保持部(2’)は、ゴニオメータを使用した。真正印刷物(B1’)は、ゴニオメータ上に水平に保持して設置した。
【0043】
検出部(4’)は、図14(a)に示す特性を有する550nm以上の可視光領域の波長を透過するバンドパスフィルタを介したディテクタ(ソーラボ社製 DET36A/M)を使用した。なお、検出部(4’)は、図14(b)に示すように、真正印刷物(B1’)に対して60度の角度で設置し、真正印刷物(B1’)から3cmの距離に固定した。
【0044】
表示部(6’)としては、オシロスコープを使用した。オシロスコープは、ターミネータを介してディテクタと接続した。
【0045】
光照射部(1’)からレーザ光を真正印刷物(B1’)に照射し、図15に示す真正印刷物(B1’)の532nmの励起光における発光波長を検出部(4’)により検出した。検出した発光波長は、表示部(6’)であるオシロスコープに出力した。
【0046】
判別部(5’)においては、検出した真正印刷物(B1’)の532nmの励起光における発光波長を基準波形として記録した。
【0047】
次に、評価物C1に対し、上記同様にレーザ光を照射して図16に示すような発光波長を検出した。図16に示す評価物C1の検出波形の振幅と、図15に示す基準波形の振幅をパターンマッチングにより比較して不一致であったため、「偽」と判別した。
【符号の説明】
【0048】
A1、A1’ 真偽判別装置
1、1’ 光照射部
2、2’ 保持部
2a 試料台
2b 試料保持部
3 貴重印刷物
4、4’ 検出部
4a フィルタ
4b 蛍光検出器
5、5’ 判別部
5a 演算部
5b 記憶部
5c 比較部
5d 出力部
6、6’ 表示部
B1、B1’ 真正印刷物
b1、b1’ 基材
b2、b2’ 発光領域
C1 評価物
c1 コピー用紙
c2 複写領域
R レーザ光
L 発光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基材の一部に、特定波長の可視光により励起され、可視発光する発光体を印刷又は塗工により付与した発光領域を有する貴重印刷物の真偽判別装置であって、
前記貴重印刷物を載置する保持部と、
前記貴重印刷物にi)波長525乃至545nmの緑色域、ii)波長620乃至645nmの赤橙色域、又はiii)波長425乃至445nmの青紫色域のレーザ光を照射する光照射部と、
i)の場合において前記貴重印刷物の発光体が発光した波長550nm以上の可視光のみを透過するフィルタを介して受光した可視光を光電変換し、ii)の場合において前記貴重印刷物の発光体が発光した波長650nm以上の可視光のみを透過するフィルタを介して受光した可視光を光電変換し、iii)の場合において、前記貴重印刷物の発光体が発光した波長450nm以上の可視光のみを透過するフィルタを介して受光した可視光を光電変換し、
前記i)乃至iii)のいずれかで受光した可視光の波長と強度に応じた検出波形に変換する検出器から成る検出部と、
前記検出波形と、あらかじめ記録した真正な貴重印刷物の発光体の基準値を比較して真偽判別を行い、判別結果を出力する判別部から成ることを特徴とする発光領域を有する貴重印刷物の真偽判別装置。
【請求項2】
前記検出波形と、あらかじめ記録した真正な貴重印刷物の発光体の前記基準波形を表示する表示部を更に設けたことを特徴とする請求項1記載の発光領域を有する貴重印刷物の真偽判別装置。
【請求項3】
前記検出部と前記保持部を覆うように、外乱光の影響を避けるための遮蔽部を更に設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の発光領域を有する貴重印刷物の真偽判別装置。
【請求項4】
少なくとも基材の一部に、特定波長の可視光により励起され、可視発光する発光体を印刷又は塗工により付与した発光領域を有する貴重印刷物の真偽判別方法であって、
前記貴重印刷物にi)波長525乃至545nmの緑色域、ii)波長620乃至645nmの赤橙色域、又はiii)波長425乃至445nmの青紫色域のレーザ光を照射し、
i)の場合において前記貴重印刷物の発光体が発光した波長550nm以上の可視光のみを透過するフィルタを介して受光した可視光を光電変換し、ii)の場合において前記貴重印刷物の発光体が発光した波長650nm以上の可視光のみを透過するフィルタを介して受光した可視光を光電変換し、iii)の場合において、前記貴重印刷物の発光体が発光した波長450nm以上の可視光のみを透過するフィルタを介して受光した可視光を光電変換し、
前記i)乃至iii)のいずれかで受光した可視光の波長と強度に応じた検出波形に変換し、
前記検出波形と、あらかじめ記録した真正な貴重印刷物の発光体の基準値を比較して前記基準値の範囲内であれば「真」、前記基準値の範囲外であれば「偽」と判別結果を出力することを特徴とする発光領域を有する貴重印刷物の真偽判別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−226415(P2012−226415A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90807(P2011−90807)
【出願日】平成23年4月15日(2011.4.15)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】