説明

発振アノードを備えたX線管

ビーム軸に沿い投射する電子ビーム255を発生する電子源250と、発生電子ビーム255を偏向する電子偏向装置256と、電子偏向装置256に結合されビーム軸を空間的に制御する制御ユニット257と、ビーム軸内に配されたアノードであって電子ビーム255がアノード206の表面の焦点上へ突き当たるようにしたアノード206とを有するX線管205を記述している。これにより、アノード206は、発振する態様でz軸に沿い移動可能であり、アノード206の表面は、z軸に対し斜めに方向づけられ、制御ユニット257は、第1のz座標を有する第1の焦点位置106a,406aと第1のz座標とは別の第2のz座標を有する第2の焦点位置106b,406bとの間で焦点が略離散した形態で動くよう焦点255aを空間的に制御する。X線管205を備えたコンピュータ断層撮影システム100とX線管205を動作する方法も記述している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2つの空間的に異なる焦点に由来するX線を発生するように適合させられたX線発生管に関する。特に、本発明は、コンピュータ断層撮影に用いられるX線管に関する。
【0002】
本発明はまた、このようなX線発生管を具備するコンピュータ断層撮影システムに関する。
【0003】
さらに、本発明は、X線発生管を動作するための方法に関する。
【背景技術】
【0004】
幾つかの状況において、検査中の患者に対して1つの個所から他の個所へとX線を放出する焦点を迅速にシフトすることのできるX線源をコンピュータ断層撮影(CT;computed tomography)装置に備えることは望ましい。X線管の電子ビームの電磁気又は静電気的な偏向によりこのようなシフト動作をなすことが提案されている。
【0005】
米国特許出願に係る文献のUS4,002,917及びUS4,010,371は、様々なCT装置を開示しており、そこでは、このような電子ビーム偏向が、患者の身体の検査されるスライスにわたり横方向に当該スライスの長手方向に放射線パスをシフトさせ、又は患者の周りにおけるX線管の物理的回転にかかわらず患者に対しての或る特定の配置において当該放射線を保持するために用いられている。
【0006】
米国特許出願に係る文献のUS4,162,420は、回転可能でかつ軸について再配置可能な平坦エッジのアノードディスクを閉じ込めた外囲体を含むX線管を開示している。このX線管はさらに、当該アノードディスクのエッジに向かってビーム軸に沿い電子を投射するための電子ビーム源を閉じ込める。このビーム源は、当該アノードディスクのエッジに対して鋭い入射角でそのビームを方向づけ、当該外囲体における窓を通じて透過するX線を生成するように配置される。このアノードは、2つのスプリングにより弾性的に支持され、第1のスプリングは、アノードシャフトの上側端部に付けられ、第2のスプリングは、アノードシャフトの下側端部に付けられる。これにより、当該アノードは、当該外囲体に対して発振する態様で線形にシフトされることが可能となる。
【0007】
米国特許出願に係る文献のUS4,107,563は、CT装置において用いられて特に好適なX線発生管を開示している。このX線発生管は、回転アノードを有し、このアノードは、振動性の態様で当該アノードの回転軸に沿って線形にシフトされることができる。アノード発振は、いわゆる8の字溝によって実現され、これは、回転アノードのシャフトに形成され、回転シャフトの軸受に設けられているペグと機械的に相互作用するものである。アノードがX線管の外囲体に対してシフトされるとき、発生したX線の原点を表す焦点も、外囲体に対して移動させられる。記述されているX線発生管は、焦点の連続的な変位だけが可能なように発振性の動きが当該アノードの回転移動と直接的に繋がるという不利な点がある。但し、特にCTの分野での用途があり、これらの用途は、第1の焦点位置と第2の焦点位置との間でX線焦点の高速の切り換えを必要とする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
第1の焦点位置と第2の焦点位置との間でX線焦点の高速切り換えを可能にする改良型のX線管の必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この必要性は、独立請求項による主題によって達成することができる。本発明の有利な実施例は、従属請求項により記述される。
【0010】
本発明の第1の態様によれば、特にコンピュータ断層撮影に用いられているX線を発生するためのX線管が提供される。提供されるX線管は、(a)ビーム軸に沿って投射する電子ビームを発生するように適合させられる電子源と、(b)当該発生された電子ビームを偏向するための電子偏向装置と、(c)前記電子偏向装置に結合され前記ビーム軸を空間的に制御するための制御ユニットと、(d)前記ビーム軸内に配されたアノードであって、前記電子ビームが前記アノードの表面の焦点上へ突き当たるようにされたアノードと、を有する。そして、前記アノードは、発振する態様でz軸に沿って移動可能であり、前記アノードの表面は、前記z軸に対して斜めに方向づけられ、前記制御ユニットは、第1のz座標を有する第1の焦点位置と前記第1のz座標とは異なる第2のz座標を有する第2の焦点位置との間で前記焦点が実質的に離散した形態で動くように前記焦点を空間的に制御するよう適合させられている。
【0011】
本発明のこの態様は、当該アノードの連続的かつ非離散の発振運動がある場合でも、2つの異なるz位置の間の焦点の実質的に離散したスイッチングを達成することができるという発想に基づいている。これにより、2つの焦点がz軸に対して異なる半径距離を有するようにして当該アノードの表面を移動させられる。アノードの表面は、z軸に対して斜めに方向づけられているので、電子偏向装置により生じる半径方向の焦点移動も、z方向に沿う当該焦点の変化に寄与する。これにより、同期した形態でアノード移動と制御ユニットとを適切に動作させることによって、z方向に沿う焦点移動に対する移動アノードの寄与と、z方向に沿う焦点移動に対する電子ビーム偏向の寄与とは、z方向に沿う焦点の実質的に離散したスイッチングが達成されうるようにして重畳されることが可能である。これはまた、アノードの動き及び/又は電子ビーム偏向が離散していない場合にも成立する。換言すれば、電子ビーム偏向は、アノードの非離散性の動きを補償することができる。
【0012】
電子偏向装置だけでの焦点変位とは対照的に、アノードの動き及び電子ビームの半径方向の偏向の双方に基づいた記述される組み合わせの焦点変位は、z軸に対する2つの焦点の半径方向の距離の差が非常に小さいという利点を奏する。したがって、離散焦点スイッチングモードにおいてX線管を動作させる場合、対応の焦点とz軸の外側に配されている対象との間の半径方向の距離は、少しだけ変化する。これは、多くの用途において、半径方向の焦点移動が良好な近似において無視されうるという利点がある。
【0013】
特に、記述されるX線管が例えばコンピュータ断層撮影装置により得られるディジタルX線減衰データのサンプリングレートを増加するために用いられるときには、広い関心領域において高い空間解像度を得ることができる。この点において、サンプリングレートの増加は、検査中の対象に対してX線源の各投影角につき2つのデータセットが得られる場合に達成可能である。これにより、第1のデータセットは、X線が第1の焦点に由来するときに得られ、第2のデータセットは、X線が第2の焦点に由来するときに得られる。
【0014】
電子偏向装置及びアノードの機械的な動きの双方による焦点変位の他の利点は、電子ビーム偏向ユニットに関する条件が緩いことである。これは、焦点のz移動の主要部が、電子ビームを偏向することによって単独で生じる焦点z移動に比較して機械的なアノード移動により容易化されるという事実問題に基づいている。
【0015】
本発明の実施例によれば、このアノードはz軸の周りを回転可能である。これは、アノードの熱負荷密度は、電子ビームが離散焦点を2つしか発生していないときでも高エネルギ電子ビームにより発生した熱負荷がアノード表面における広い領域にわたり分布するので、大幅に低減可能であるという利点を奏することができる。
【0016】
本発明の他の実施例によれば、X線管は、アノードとX線管の外囲体との間に配されたスプリング素子をさらに有する。これは、特にアノードの高調波発振を簡単な弾性素子によって簡単に提供することができるという利点を奏することができる。
【0017】
好ましくは、X線管は、第1のスプリング素子がアノードの上側部分に付けられ、第2のスプリング素子がアノードの下側部分に付けられるものとした少なくとも2つのスプリング素子を有する。これにより、発振性の動きをなすこととは別にこれら2つのスプリングもz軸に平行なアノードの安定した案内に寄与しうるという利点を奏することができる。したがって、アノードの許容しない傾斜を、簡単かつ効果的な態様で回避することができる。
【0018】
なお、当該スプリング素子は、機械的装置及び/又は電気的及び磁気的それぞれの装置により実現可能である。例えば、磁気的なスプリング素子は、摩耗又は劣化を無視することができるという利点がある。
【0019】
本発明の他の実施例によれば、X線管は、アノードの発振性運動を発生及び/又は維持するためにアノードに結合される駆動手段をさらに有する。この駆動手段は、アノードに機械的及び/又は磁気的に結合されるようにしてもよい。純粋な磁気的結合は、当該駆動手段が移動可能な機械的部分を伴うことなく実現可能であるという利点を有する。
【0020】
本発明の他の実施例によれば、当該駆動手段は、発振アノードの共振周波数に実質的に等しい周波数をもってアノードを発振するように適合させられる。これは、アノードに所望の周波数で発振し続けさせるのに少しの力しか必要ないという利点がある。したがって、焦点位置の実質的に離散したスイッチングを、複雑な機械的装置を用いることなく実現することができる。
【0021】
この点につき、アノードの質量及び重量それぞれとは別に当該スプリング素子のバネ定数も、共振周波数に対する強力な影響を有することは明らかである。したがって、移動質量を考慮に入れることによって、1つ又は複数のスプリング素子は、システムの共振周波数が所定の焦点周波数と合致するようにしてデザインされなければならない。この状況において、焦点周波数は、第1の焦点位置から第2の焦点位置に、またこの逆に焦点が離散的に切り換えられる際の周波数を指定する。
【0022】
本発明の他の実施例によれば、当該駆動手段は、発振アノードの共振周波数よりも少し高い周波数でアノードを発振させるように適合させられる。これには、所望されないアノード振動を低減することができ、アノードが主としてz軸に沿ってピストンのようにして発振可能であるという利点がある。
【0023】
好ましくは、当該共振周波数より少し高い発振周波数は、駆動周波数の関数として発振システムの共振作用を呈する曲線に対して規定される。通常は、この共振作用を、最大値ω及び幅Δωを有するローレンツ曲線により良好に近似することができる。したがって、幅Δωは、発振系の減衰に強く依存する。
【0024】
発振周波数より少し高い周波数でアノードを発振させることは、下側周波数ω及び上側周波数ωにより規定される所定周波数範囲内の周波数でアノードが発振させられることを意味する。したがって、ωをωと等しくすることができ、ωをω+Δωに等しくすることができる。好ましくは、ωをω+Δω/20に等しくし、ωをω+Δω/2に等しくするのが良い。より好ましくは、ωをω+Δω/10に等しくし、ωをω+Δω/4に等しくするのが良い。
【0025】
本発明の他の態様によれば、(a)回転軸の周りを回転可能な回転可能ホルダと、(b)上述した実施例のうちのいずれか1つによるX線管とを有するコンピュータ断層撮影システムであって、そのX線源が、回転軸に略平行に当該z軸が方向づけられるように回転可能ホルダに実装されるシステムが提供される。このコンピュータ断層撮影システムは、さらに、(c)複数の検出素子を有するX線検出装置を有し、当該X線検出装置は、当該回転軸に対して当該X線源に対向して当該回転可能ホルダに実装される。
【0026】
本発明のこの態様は、上述したX線管は、ディジタル画像復元が少なくとも2つの減衰データセットの取り込みに基づき、各データセットが検査中の対象に対して異なる投影角をもって得られたものとするコンピュータ断層撮影のために有利に用いられることが可能である。復元される画像の空間解像度は、X線検出装置の空間分解能すなわち検出素子の空間的隔離に強く依存する。投影角毎に、すなわち回転可能ホルダの角度位置毎に、焦点位置の実質的に離散したスイッチングが行われる場合、2つのX線減衰データセットを取り込むことができる。これにより、検査中の対象の各ボクセルは、焦点位置のスイッチングにより、1つの焦点だけでのデータ取り込みと比べて当該検査中の対象の減衰及び吸収のそれぞれに関するより詳細な情報がもたらされるような2つの異なる角度で貫通させられる。
【0027】
本発明の実施例によれば、第1の焦点位置は、回転軸と交差し行をなす種々の検出素子に突き当たる第1の焦点に由来するX線の第1の扇は、回転軸と交差し当該行をなす種々の検出素子に突き当たる第2の焦点に由来するX線の第2の扇とインターリーブ化されるようにして、第2の焦点位置から空間的に分離される。
【0028】
好ましくは、このコンピュータ断層撮影システムは、X線減衰データのサンプリングレートが2倍になりうるように主として対称性のインターリーブ化を可能とするのが良い。これにより、回転の中心と交差する隣接のX線は、1つの焦点しか使わないときの場合における隣接X線の間の距離の半分に相当する距離だけ互いに分離される。
【0029】
なお、特に2つの焦点がz軸に対して同じか又は少なくとも略同等の半径距離を主として有するときに、対称性インターリーブ化に対応するいわゆる半行サンプリングが実現されるのは、回転軸の小さい部分に対応する領域内だけではない。この対称性インターリーブ化は、むしろ、回転軸に沿う広い領域内で実現されうるものである。
【0030】
なお、コンピュータ断層撮影システムが扇ビームを発生するX線管を使うことは必須ではない。コンピュータ断層撮影システムはまた、回転軸に交差するX線を検出するだけでなく回転軸を通過するX線も検出するために2次元検出アレイが用いられる円錐ビーム幾何学的形状によっても有益となる場合がある。これにより、回転軸と交差するX線について対称性のインターリーブ化は、回転軸とこの回転軸を通過するX線との間の増加する距離とともに劣化しうる。但し、単一焦点X線管と比較すると、説明する二重焦点X線管によるX線減衰データのサンプリングレートは、いずれにしても、高い空間分解能を有する画像を復元することができるように大幅に増加させられることになる。単一焦点X線管と比較されるさらなる利点は、いわゆる斜面又は風車アーチファクトを低減することができる点である。
【0031】
本発明の他の態様によれば、X線管を動作するための、特にコンピュータ断層撮影に用いられるX線管を動作するための方法が提供される。この提供される方法は、(a)発振する態様でz軸に沿ってアノードを動かし、そのアノードがz軸に対して斜めに方向付けられた表面を有するようにすること、(b)ビーム軸に沿って電子源から放出される電子ビームを方向付け、当該電子ビームが当該表面の焦点上へ突き当たるようにすること、(c)電子偏向装置により当該ビーム軸を空間的に制御し、当該焦点が第1のz座標を有する第1の焦点位置と第1のz座標とは異なる第2のz座標を有する第2の焦点位置との間で実質的に離散した形で動くようにすること、を有する。
【0032】
本発明のこの態様は、2つの動き、すなわちz軸に沿うアノードの発振運動とz軸に対して斜めに方向づけされている表面における焦点の半径方向の変化とを組み合わせることによって、これら動きのうちの少なくとも一方が非離散の形で行われたとしても、焦点の実質的離散したz切り換えを達成することができる。これにより、機械的な段階的動きを伴うことなく、離散した焦点切り換えを実現することができる。これは、実質的に離散したX線焦点切り換えは、システムがアノードの段階動作により生じる突然の運動量移動又は衝動的飛躍に耐えることができるように安定してデザインされる必要のない非常にシンプルな機械的システムで実現されうるという利点を有する。
【0033】
本発明の実施例によれば、第1の焦点位置は、回転軸に交差しかつ行をなす種々の検出素子に突き当たる第1の焦点に由来するX線の第1の扇が、回転軸に交差しかつ当該行をなす検出素子に突き当たる第2の焦点に由来するX線の第2の扇とインターリーブ化されるようにして、第2の焦点位置から空間的に分離される。
【0034】
好ましくは、第1の焦点変化は、X線減衰データのサンプリングレートが2倍になりうるような対称性インターリーブ化を可能にするのが良い。上述において既に述べたように、対称性インターリーブ化の場合、回転の中心と交差する隣接のX線は、単一の焦点にのみ由来する隣接のX線の間の距離の半分である距離だけ互いに分離される。
【0035】
なお、特に2つの焦点がz軸に対して同じか又は少なくとも同等の半径方向の距離を主として有するときには、かかる対称性インターリーブ化が実現されるのは、回転軸の小さい部分の内だけではない。対称性インターリーブ化は、むしろ、回転軸に沿う広い範囲内で実現されうる。
【0036】
本発明の他の実施例によれば、アノードは、正弦関数の態様で動かされる。これは、アノードが滑らかな高調波の動きを行い、この動きがアノードの懸架に対して比較的に小さい運動量移動しか生じない、という利点を奏することができる。これはここでは、実質的に離散したX線焦点切り換えを、非常に安定性の高い形でデザインされる必要のない非常にシンプルな機械的システムで実現することができる、という利点を奏しうる。
【0037】
なお、本発明の実施例を異なる主題について説明している。特に、或る幾つかの実施例は、装置タイプの請求項に対して説明しているのに対して、他の実施例は、方法タイプの請求項について説明している。但し、当業者であれば、他に特定しない限り、或る1つのタイプの主題に属する特徴の組み合わせに加えて、異なる主題に関係する特徴どうしの、特に装置タイプの請求項の特徴と方法タイプの請求項の特徴との組み合わせも、この出願により開示されているものとみなされることを上述及び以下の説明から推測することになる。
【0038】
本発明の上記態様及びその他の態様は、以下に説明される実施例の具体例から明らかであり、当該実施例の具体例について説明される。以下、本発明を実施例の具体例についてより詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
図面に描かれているものは概略的なものである。なお、種々の図において、同様又は同一の要素には、同じ参照符号か、又は第1の桁においてのみ対応の参照符号とは異なる参照符号が付されている。
【0040】
図1aは、X線源105とX線検出装置115とが組み込まれている回転可能ホルダ101を有するCTスキャナ100を示している。このホルダ101は、駆動モータ104と駆動機構とによって回転軸102の周りを回転させられる。駆動機構は、3つの駆動ローラにより象徴的に表わされている。ホルダ101の回転は、連続的又は段階的な形で達成可能である。
【0041】
CTスキャナ100は、さらにテーブル112を有し、このテーブルは、ホルダ101の中心に検査中の対象物110を位置づけることができるように配置される。テーブル112は、検査中の対象物110の異なる部分を検査することができるように回転軸102に平行な方向にガントリ101に対して移動可能とされるようにしてもよい。
【0042】
X線検出装置115は、少なくとも1行をなす相互接続された検出素子を含み、かかる行は、回転軸に平行に延びている。これら検出素子は、全てが前置増幅器118及びデータ処理装置125を介して個別に読み取られることが可能である。データ処理装置125は、測定された検出器信号を変換することができる。対象物110に対するX線源105の異なる投影又は視角の変化の下で減衰信号を測定することによって、データ処理装置125は、対象物110の3次元表現を復元することができる。復元された画像は、モニタ126及び/又はプリンタ127により出力可能である。
【0043】
データ処理装置125はさらに、モータ制御ユニット120と結合され、このユニットは、矢印117により示される回転方向において回転可能ホルダ101の動きを制御するために用いられる。
【0044】
X線源105は、アノード106を有するX線管である。アノード106は、回転軸102に平行な方向に延ばされる。ここでは示されていないカソードにより発せられた電子ビームは、2つのX線焦点のうちの一方、第1のX線焦点106a及び第2のX線焦点106b上へ離散して方向づけられることが可能である。好ましくは、これら2つの焦点106a及び106bは、図1aにおいて当該2つの焦点106a及び106bが互いに視覚的に区別されることができないように回転軸102に平行な行において出来る限り近接して方向づけられるのが良い。この結果、第1のX線焦点106aに由来する第1の放射ビーム107及び第1のX線焦点106に由来する第2の放射ビーム108も、互いに区別することができない。
【0045】
データ処理装置125はさらに、データ取り込みと、2つの焦点106aと106bとの間の電子ビームの空間的切り換えとの同期化をなすために電子制御ユニット(図示せず)と結合される。
【0046】
図1bは、X線管105、検査中の対象物110及びX線検出装置115の拡大描写を回転軸102に平行な断面図にて示している。これら2つの焦点106a及び106bは、回転軸102に略平行な行に方向付けられている。2つの焦点106aと106bとのX線焦点の離散した切り換えは、対象物110が、少し異なる投影角の下でX線ビーム107及び108により順次照射されるという効果を有する。したがって、X線検出装置115の各検出素子116は、2つの異なるX線減衰線積分、すなわち第1の焦点106aと検出素子116との間に延びる第1の線積分と第2の焦点106bと検出素子116との間に延びる第2の線積分を検出することができる。この結果、対象物110に対するX線源105及びX線検出装置115の系の投影角毎に、すなわちガントリ101の角度位置毎に、2つの異なるデータセットは、CTスキャナ100の空間分解能を増加させることができるような適切な態様で組み合わせることができる形で取り込まれることが可能である。
【0047】
図2は、異なるX線焦点に由来するX線を発生するように適合させられるX線管205を示している。X線管205は、シャフト230を有するアノード206を有する。シャフト230は、シャフト230がz軸に沿って線状にシフトしかつz軸の周りを回転することができるように案内される。回転ドライブ231は、アノード206の回転運動を可能とするために設けられる。アノード206の線状運動を可能にするために、発振ドライブ241が設けられる。ドライブ231及び241の双方は、機械的及び/又は磁気的相互作用によってシャフト230と相互動作することができる。
【0048】
X線管205は、電子源250をさらに有し、これはz軸に対して横方向に配置される。ここで説明する実施例によれば、電子源は、熱陰極250であり、これは動作中に電子ビーム255を発生するものである。この電子ビームは、アノード206の頂部表面に突き当たる。これにより、焦点が規定される。かかる頂部表面は、当該焦点からX線ビーム258がz軸から外側へと向かって放射して投影するように、z軸に対して斜めに方向づけられる。
【0049】
焦点の厳密な位置を制御するため、X線管205は、電子偏向装置256をさらに有し、これは、電子ビーム255を偏向するように適合させられる。電子偏向装置256は、例えば磁気レンズのような既知の電子光学素子により実現可能である。電子偏向装置256は、必要な電気信号を電子偏向装置256に供給する制御ユニットに結合される。
【0050】
さらに、X線管205は、2つのスプリング素子240a及び240bを有しており、これらは、シャフト230の上端及びシャフト230の下端のそれぞれに取り付けられる。機械的及び/又は磁気的手段により実現可能なこれらスプリング素子は、X線管205の図示せぬ支持構造部にも取り付けられる。この支持構造部は、例えばX線管205の外囲体としてもよい。
【0051】
システムアノード206並びに2つのスプリング素子240a及び240bは、アノードの質量及びスプリング素子240a及び240bのバネ定数により与えられる共振周波数を有する高調波発振器に相当する。したがって、アノード206は、z軸に沿って正弦関数の動きを呈するのが好ましい。但し、アノード206の不完全な正弦波運動が発振ドライブ241により強制されるようにしてもよい。但し、実際の運動と完全な正弦波運動との不一致が著しいほど、X線管の支持構造部に作用する機械的力が大きくなる。これは、高調波の動きから大幅に偏倚する動きを制御することが非常に難しくなるという作用を有する。
【0052】
一方、説明されるX線管205が二重焦点X線管として用いられることになっている場合、焦点のz座標が連続的に動かないことが望ましい。少し異なる投影角の下で2つの異なるX線減衰データセットを取り込み、これら2つのデータセットの間における不鮮明化効果を低減するため、少なくとも実質的には2つの焦点の間において離散した態様で焦点が移動するのがどちらかと言えば望ましい。
【0053】
図3は、z軸に沿う焦点の理想的な段階的変化360とアノード206の高調波のz方向の動き361との不一致を描いた図を示している。この不一致は、双頭矢印により示される。この不一致は、高調波の動きと同期化した態様で周期的に変化することが分かる。勿論、全体の不一致は、当該高調波の動きの周期が段階的z方向の動き360の期間に等しくなるように選択されるときに最小化されることになる。
【0054】
ここで説明される実施例によれば、段階的動き360と高調波の動き361との不一致は、当該焦点の半径方向の動きも当該焦点のz座標の変化に寄与するような電子ビーム255の適切な偏向によって補償される。換言すれば、アノードの動き及び焦点の半径方向の動きを同期形態で適切に動作することによって、動いているアノードのz方向に沿う焦点移動への寄与と、半径方向の電子ビーム偏向のz方向に沿う焦点移動への寄与とを、z方向に沿う焦点の実質的に離散した切り換えが達成されうるようにして重ね合わせることができる。
【0055】
なお、出来る限り離散した焦点変化を達成するため、完全な正弦波運動から少し外れたアノード206の発振運動を生成することが好ましいと考えられる。これにより、焦点の実質的に離散した移動を起こすために、アノード運動の寄与を増大させてもよく、半径方向の電子偏向の寄与を低下させてもよい。
【0056】
電子ビーム偏向だけによるX線焦点の見掛け上離散した切り換えのための既知の技術とは対照的に、説明したX線管205は、半径方向の焦点変化が減るという利点がある。以下、この利点を図4a及び図4bを参照して説明する。
【0057】
図4a及び図4bは、第1の焦点406aに由来する第1の扇をなすX線407と、第2の焦点406bに由来する第2の扇をなすX線408とのインターリーブ化に対する半径方向に変化する焦点位置の影響を示している。
【0058】
図4aから分かるように、z軸に沿って発生するだけでなくz軸に対して放射方向に生じる焦点位置の変化は、不要な副作用を有する。これにより、Δz分その焦点位置を変化させると、回転軸402と焦点位置との間の放射方向の距離は、RからRへと、或いはその逆に変化する。この不要な作用は、第1の焦点406aに由来するX線407の第2の焦点406bに由来するX線408とのインターリーブが小さな領域470a内にだけ生じることの原因となっている。この領域470aは、回転軸402の比較的短い部分に沿って延びる。
【0059】
空間分解能を高めるために知られている処理であるインターリーブ化は、異なる焦点に由来し、回転軸402と交差しかつX線検出装置415の同じ検出素子416に突き当たる隣接したX線は、1つの焦点にのみ由来し隣接した検出素子416に突き当たる隣接のX線の間の距離の半分に相当する距離だけ互いに離隔されるという点に基づいている。対称性インターリーブ化の場合、X線減衰データのサンプリングレートを2倍にすることができる。
【0060】
図4bから分かるように、主としてz軸に沿ってのみ生じる焦点位置の変化は、対応するインターリーブ化領域470bが小さなインターリーブ化470aよりも非常に大きいという利点がある。回転軸402に対する焦点406a及び406b双方の一定放射位置Rにより、対称性インターリーブ化は、z軸に沿って延びる比較的に大きな領域470bの中で実現可能となる。
【0061】
なお、上述したX線管205を用いるときは、必須の焦点の段階的z方向変化を得ることができ、これにより、焦点位置の放射方向における変化を最小化することができる。したがって、上述したX線管205は、改善されたインターリーブ化及びその結果による向上した空間分解能を有するX線減衰データの取得を可能にする。
【0062】
なお、向上したインターリーブ化効果を、回転軸402を全ての放射線が交差する扇ビームについて説明したが、回転軸に交差するX線を検出するだけでなく所定の距離につき回転軸を通過するX線を検出することのために2次元検出アレイを用いる円錐ビームの幾何学的構造からも有益性を得ることができる。これにより、回転軸を交差するX線について対称性のあるインターリーブ化は、回転軸と回転軸を通過するX線との間の増大する距離により劣化しうる。但し、単一焦点X線管と比較すると、説明した二重焦点X線管によるX線減衰データのサンプリングレートは、いずれにしろ、より高い空間分解能を持つX線画像を供給することができるように大幅に増加させられることになる。
【0063】
なお、「有する」なる文言は、他の要素又はステップを排除しないし、「1つの」や「1の」などの文言も複数を排除しない。また、異なる実施例と関連して説明した要素を組み合わせてもよい。さらに、請求項における参照符号は、当該請求項の範囲を限定するものと解釈してはならない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1a】回転軸に直角に方向づけられる簡単化された断面図であって、本発明の好適実施例によるCTシステムを示す図。
【図1b】回転軸に平行に方向づけられる簡単化された断面図であって、図1aに示されるCTシステムのX線源の2つの異なる焦点に由来するX線ビームを示す図。
【図2】発振ノードを有するX線発生管と電子ビーム偏向ユニットとを示す図。
【図3】z軸に沿う焦点の理想的な段階的変化とアノードの高調波の機械的な動きとの間の不一致を示す図。
【図4a】第1の焦点に由来するX線の第1の扇と第2の焦点に由来するX線の第2の扇とのインターリーブ化についての迅速に変化する焦点位置の影響を示す図。
【図4b】第1の焦点に由来するX線の第1の扇と第2の焦点に由来するX線の第2の扇とのインターリーブ化についての迅速に変化する焦点位置の影響を示す図。
【符号の説明】
【0065】
100 コンピュータ断層撮影装置/CTスキャナ
101 回転可能ホルダ/ガントリ
102 回転軸
103 駆動ローラ
104 駆動モータ
105 X線源
106 アノード
106a 第1のX線焦点
106b 第2のX線焦点
107 第1の放射ビーム
108 第2の放射ビーム
110 被検査対象
112 テーブル
115 X線検出装置
116 検出素子
117 回転方向
118 前置増幅器
120 モータ制御ユニット
125 データ処理装置(復元ユニットを含む)
126 モニタ
127 プリンタ
205 X線源/X線管
206 アノード
230 シャフト
231 回転ドライブ
240a/b スプリング素子
241 発振ドライブ
250 電子源/熱陰極
255 電子ビーム
255a 焦点
256 電子偏向装置
257 制御ユニット
258 X線ビーム
360 理想的な階段状のz方向の動き
361 アノードの高調波のz方向の動き
402 回転軸
406a 第1のX線焦点
406b 第2のX線焦点
407 第1の放射ビーム
408 第2の放射ビーム
415 X線検出装置/行をなす検出素子416
416 検出素子
470a インターリーブ化領域(小)
470b インターリーブ化領域(大)
Δz z軸に沿う焦点変化
回転軸402と第1の焦点406aとの間の放射方向の距離
回転軸402と第2の焦点406bとの間の放射方向の距離
R 回転軸402と焦点406a,406b双方との間の放射方向の距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータ断層撮影に用いられるX線の発生その他の目的のためのX線管であって、
ビーム軸に沿って投射する電子ビームを発生するように適合させられる電子源と、
当該発生された電子ビームを偏向するための電子偏向装置と、
前記電子偏向装置に結合され前記ビーム軸を空間的に制御するための制御ユニットと、
前記ビーム軸内に配されたアノードであって、前記電子ビームが前記アノードの表面の焦点上へ突き当たるようにされたアノードと、
を有し、
・前記アノードは、発振する態様でz軸に沿って移動可能であり、
・前記アノードの表面は、前記z軸に対して斜めに方向づけられ、
・前記制御ユニットは、第1のz座標を有する第1の焦点位置と前記第1のz座標とは異なる第2のz座標を有する第2の焦点位置との間で前記焦点が実質的に離散した形態で動くように前記焦点を空間的に制御するよう適合させられている、
X線管。
【請求項2】
請求項1に記載のX線管であって、前記アノードは、前記z軸の周りを回転可能である、X線管。
【請求項3】
請求項1に記載のX線管であって、前記アノードと前記X線管の外囲器との間に配されるスプリング素子をさらに有するX線管。
【請求項4】
請求項3に記載のX線管であって、前記アノードの発振性の動きを発生及び/又は維持するために前記アノードに結合される駆動手段をさらに有するX線管。
【請求項5】
請求項4に記載のX線管であって、前記駆動手段は、当該発振するアノードの共振周波数に略等しい周波数で前記アノードを発振するよう適合させられる、X線管。
【請求項6】
請求項4に記載のX線管であって、前記駆動手段は、当該発振するアノードの共振周波数よりも少し高い周波数で前記アノードを発振するように適合させられる、X線管。
【請求項7】
コンピュータ断層撮影システムであって、
回転軸の周りを回転可能な回転可能ホルダと、
請求項1に記載のX線管であって、前記z軸が前記回転軸に略平行に方向づけられるように前記回転可能ホルダに実装されるX線管と、
複数の検出素子を有し、前記回転軸に対して前記X線管に対向して前記回転可能ホルダに実装されるX線検出装置と、
を有するシステム。
【請求項8】
請求項7に記載のコンピュータ断層撮影システムであって、
前記第1の焦点位置は、前記第1の焦点に由来し前記回転軸と交差しかつ行をなす種々の検出素子に突き当たるX線の第1の扇が前記第2の焦点に由来し前記回転軸と交差しかつ前記行をなす種々の検出要素に突き当たるX線の第2の扇とインターリーブ化されるように前記第2の焦点位置から空間的に離隔される、
システム。
【請求項9】
コンピュータ断層撮影に用いられるX線管その他のX線管を動作する方法であって、
発振する態様でz軸に沿い、前記z軸に対して斜めに方向づけられる表面を有するアノードを動かし、
ビーム軸に沿って電子源から発せられる電子ビームを方向づけしその電子ビームが前記表面の焦点へ突き当たるようにし、
第1のz座標を有する第1の焦点位置と前記第1のz座標とは異なる第2のz座標を有する第2の焦点位置との間で実質的に離散した態様で前記焦点が動くように電子偏向装置により前記ビーム軸を空間的に制御する、
方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、
前記第1の焦点位置は、前記第1の焦点に由来し前記回転軸と交差しかつ行をなす種々の検出素子に突き当たるX線の第1の扇が前記第2の焦点に由来し前記回転軸と交差しかつ前記行をなす種々の検出素子に突き当たるX線の第2の扇とインターリーブ化されるように前記第2の焦点位置から空間的に離隔される、
方法。
【請求項11】
請求項9に記載の方法であって、前記アノードは、正弦波の態様で動かされる、方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【公表番号】特表2009−536432(P2009−536432A)
【公表日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−508577(P2009−508577)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【国際出願番号】PCT/IB2007/051525
【国際公開番号】WO2007/129244
【国際公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】