説明

発振回路、アクティブタグ及び発振出力制御方法

【課題】出力特性の変化を抑制でき、構成を簡略化できる発振回路、アクティブタグ及び発振出力制御方法を提供すること。
【解決手段】交流電流を出力する発振回路3であって、電源部と、エミッタQ3、ベースQ2及びコレクタQ1を有し、コレクタQ1に電源部からの直流電圧が印加されるトランジスターQと、コレクタQ1に接続され、前記交流電流が出力される出力端子Tと、エミッタQ3から出力されるエミッタ電圧を測定する電圧測定手段(A/Dコンバーター)53と、電圧測定手段53によるエミッタ電圧の測定結果に基づいて、エミッタ電圧が一定となるように、ベースQ2に印加されるベース電圧を制御する電圧制御手段(CPU)6とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振回路、当該発振回路を備えるアクティブタグ、及び、発振出力制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電源を内蔵し、電波を用いた無線通信によって情報を送受信するアクティブタグと呼ばれるRFID(Radio Frequency Identification)タグが知られている。このようなアクティブタグは、当該情報を示す信号が重畳された交流電流を発生させる発振回路と、当該交流電流に応じた電波を出力するアンテナとを備える。このうち、発振回路として、トランジスター及び電圧制御手段を有する発振回路が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
この非特許文献1に記載の発振回路では、トランジスターが有するコレクタには、電源電圧が印加され、当該コレクタは、発振回路の出力端子と接続される。また、当該トランジスターのベースには、電圧制御手段からのベース電圧が印加される。そして、電圧制御手段が当該ベース電圧を調整することにより、発振回路の出力端子から出力される交流電流(出力電流)の電圧が制御される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Jie Nie、“SAW BASED TRANSMITTER DESIGN NOTES”、[online]、平成15年8月20日、RF Monolithics, Inc.、[平成21年12月21日検索]、インターネット<URL:http://cypress.rfm.com/products/apnotes/sawbasedtransmitter.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、アクティブタグの電源としては、電源電圧変動が比較的少ないリチウム電池が採用されることが多い。しかしながら、例えば、リチウム電池の電源電圧が3Vから2.5Vに略17%低下した場合、上記発振回路を備えるアクティブタグでは、発振出力波の電界強度は略30%低下してしまう。このような問題に対して、電波出力を一定化して通信距離変動を抑制するために、コレクタからの出力電流を測定し、その測定結果に基づいて、ベース電圧を調整する方法が提案されている。
【0006】
しかしながら、このような方法では、コレクタからの出力電流は高周波であるため、当該出力電流を測定する測定回路を接続すると、当該測定回路の浮遊容量が発振出力波に影響を及ぼして当該発振回路による発振が不安定になる場合がある。このため、測定回路を接続する場合には、高度な回路技術が必要となるという問題がある。また、発振回路は出力インピーダンスが比較的高いため、測定回路の入力インピーダンスを、発振回路の出力に影響を与えない程度に高くする構成が必要となり、発振回路の構成が複雑化するという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、出力特性の変化を抑制でき、構成を簡略化できる発振回路、アクティブタグ及び発振出力制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した目的を達成するために、本発明の発振回路は、交流電流を出力する発振回路であって、電源部と、エミッタ、ベース及びコレクタを有し、前記コレクタに前記電源部からの直流電圧が印加されるトランジスターと、前記コレクタに接続され、前記交流電流が出力される出力端子と、前記エミッタから出力されるエミッタ電圧を測定する電圧測定手段と、前記電圧測定手段による前記エミッタ電圧の測定結果に基づいて、前記エミッタ電圧が一定となるように、前記ベースに印加されるベース電圧を制御する電圧制御手段と、を有することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、電源部から供給される電源電圧が変動する場合でも、当該変動によって増減するエミッタ電圧に基づいて、電圧制御手段が当該エミッタ電圧を一定化するようにベース電圧を制御するので、発振回路から出力される交流電圧(出力電圧)を安定化することができる。
この際、エミッタの出力インピーダンスは低いため、前述のコレクタからの出力電圧を測定する場合に比べ、電圧測定手段の入力インピーダンスを低くすることができ、発振回路の構成を簡略化できる。特に、エミッタと電圧測定手段との間に抵抗等のインピーダンス素子を直列に設けることにより、発振回路に影響を与えることなく、エミッタ電圧を適切に測定することができる。
従って、発振回路の出力特性を安定化でき、回路構成を簡略化できる。
【0010】
また、微弱電波を発振するための交流電流を出力する発振回路として構成した場合、従来のコレクタからの出力電圧を測定する構成では、微弱電波であるがために、測定回路により測定される交流電圧の信号レベルが低いので、当該測定回路での検出が困難であった。これに対し、本発明では、直流電圧であるエミッタ電圧を測定するので、高出力や微弱電波においても検出が可能となる。
更に、電源電圧を測定し、当該電源電圧に応じてベース電圧を制御する場合には、変動する電源電圧に応じた補正値をそれぞれ保持する必要があるため、当該各補正値を記憶する記憶手段を設ける必要があるほか、当該記憶手段の記憶容量が大きくなる。これに対し、本発明では、例えば、エミッタ電圧が目標電圧に近い値となるようにベース電圧を制御することで、発振回路の出力特性が変化することを抑制できる。従って、電源電圧を測定する場合に比べ、発振回路の構成を簡略化できる。
【0011】
本発明では、前記エミッタと前記電圧測定手段との間に設けられ、前記エミッタから出力される当該発振回路の発振出力波成分を除去するフィルターを有することが好ましい。
本発明によれば、フィルターによって、電圧測定手段に入力されるエミッタ電圧から、高周波成分である発振出力波成分が除去できる。これにより、電圧測定手段によるエミッタ電圧の測定を精度よく行うことができる。
【0012】
本発明では、当該発振回路の温度を検出する温度検出手段を備え、前記電圧制御手段は、前記温度検出手段による検出結果に基づいて、前記ベース電圧を制御することが好ましい。
なお、温度検出手段は、例えば、実際に温度を測定する温度センサー等の構成を採用することができるほか、温度に応じて抵抗値が変化し、これにより出力電圧に変化を生じさせるサーミスター等の構成を採用することができる。
【0013】
通常、発振回路に用いられる各電子部品は、環境温度等によって特性が変化するため、温度によっても発振回路の出力特性に変化が生じる。例えば、電源として採用され得るリチウム電池の電池電圧は、60℃では3.1Vであるのに対し、−10℃では2.6Vに下がるため、略17%の変動がある。また、トランジスターとして、バイポーラトランジスターが採用される場合には、低温域で導電特性が低下するので、発振回路の低温時の出力が低下する傾向にある。
これに対し、本発明では、温度を検出する温度検出手段の検出結果に基づいて、電圧制御手段がベース電圧を調整することにより、温度によって生じ得る発振回路の出力特性の変化を抑制することができる。
【0014】
また、本発明のアクティブタグは、前述の発振回路と、前記出力端子から出力される前記交流電流に応じた電波を送信するアンテナと、を備えることを特徴とする。
本発明によれば、前述の発振回路と同様の効果を奏することができ、これにより、アクティブタグから送信される電波による通信距離の変動を抑制することができ、当該電波を効率よく出力することができる。また、アクティブタグの消費電力を抑えることができるので、当該アクティブタグの長寿命化を図ることができる。
【0015】
また、本発明の発振出力制御方法は、交流電流を出力する発振回路を制御する発振出力制御方法であって、前記発振回路は、電源部と、エミッタ、ベース及びコレクタを有し、前記コレクタに前記電源部からの直流電圧が印加されるトランジスターとを備え、当該発振出力制御方法は、前記エミッタから出力されるエミッタ電圧を測定する電圧測定ステップと、前記エミッタ電圧の測定結果に基づいて、前記エミッタ電圧が一定となるように、前記トランジスターのベースに印加するベース電圧を制御する電圧制御ステップと、を有することを特徴とする。
本発明によれば、前述の発振回路と同様の効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態に係るアクティブタグの構成を示すブロック図。
【図2】前記第1実施形態における出力回路の回路構成を示す図。
【図3】前記第1実施形態における制御処理を示すフローチャート。
【図4】前記第1実施形態におけるアクティブタグの出力特性を示す図。
【図5】本発明の第2実施形態に係るアクティブタグの発振回路を示す図。
【図6】前記第2実施形態における制御処理を示すフローチャート。
【図7】前記第2実施形態におけるアクティブタグの温度特性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態について、図面に基づいて説明する。
〔アクティブタグの構成〕
図1は、アクティブタグ1の構成を示すブロック図である。
本実施形態に係るアクティブタグ1は、微弱電波を送受信することにより、リーダー(図示省略)と無線で通信する無線通信装置である。このアクティブタグ1は、図1に示すように、発振回路3と、当該発振回路3からの出力電流(交流電流)に応じた電波を送信するアンテナ2とを備える。
【0018】
〔発振回路の構成〕
発振回路3は、電源部4、出力回路5及びCPU(Central Processing Unit)6を備え、当該電源部4から供給される直流電流から交流電流を生成し、当該交流電流をアンテナ2に出力する。
このうち、電源部4は、本実施形態では、電源電圧変動が比較的少ないリチウム電池が採用されているが、これに限らず、マンガン電池、アルカリ電池及びニッケル水素電池など、他の種類の電池でもよい。
【0019】
図2は、出力回路5の回路構成を示す図である。
出力回路5は、図2に示すように、発振部51、LPF(Low Pass Filter)52、A/Dコンバーター53及びD/Aコンバーター54を備える。
発振部51は、電源部4と接続される電圧源Vcc、コンデンサーC1〜C4、コイルL、NPN型のトランジスターQ、抵抗R1〜R4、SAW(surface acoustic wave)発振子Saw及び整合回路Zを有する回路である。
【0020】
具体的に、トランジスターQのコレクタQ1は、直列に接続されたコイルLを介して、電圧源Vccと接続される。この電圧源VccとコイルLとの間には、コンデンサーC3がコイルLに対して並列に接続され、当該コンデンサーC3はグランド(GND)に接続される。また、このコレクタQ1と発振回路3の出力端子Tとを結ぶ第1経路P1上には、コンデンサーC4が直列に設けられている。
また、トランジスターQのベースQ2には、抵抗R1を介してD/Aコンバーター54が接続される。この抵抗R1とベースQ2との間には、SAW発振子Sawを介して、整合回路Zが接続され、当該整合回路Zは、グランドに接続されている。
【0021】
更に、トランジスターQのエミッタQ3は、第2経路P2及び第3経路P3と接続される。
このうち、第2経路P2は、直列に接続された抵抗R3及びコンデンサーC1を介して、前述の第1経路P1におけるコンデンサーC4の上流に接続される。この第2経路P2は、抵抗R3とコンデンサーC1との間からグランドに接続される他の経路に分岐しており、当該他の経路上には、コンデンサーC2が直列に接続される。また、エミッタQ3には、他端がグランドに接続される抵抗R2の一端が接続される。
第3経路P3は、抵抗R4を介して、後述するLPF52に接続される。
【0022】
このような発振部51では、電圧源Vccからの直流電圧は、コイルLを介してコレクタQ1に入力される。一方、詳しくは後述するが、ベースQ2には、CPU6からの電気信号がD/Aコンバーター54及び抵抗R1を介してベース電圧として印加され、これにより、コレクタQ1からエミッタQ3に印加される電圧が制御される。そして、コレクタQ1からの出力電流は、第1経路P1を介して発振部51の出力端子Tに出力され、また、エミッタQ3からの出力電流は、第2経路P2及び第1経路P1を介して出力端子Tに出力されるとともに、LPF52に出力される。
【0023】
LPF52は、抵抗R4を介してエミッタQ3と接続され、当該LPF52には、エミッタ電圧が印加される。このLPF52は、当該エミッタ電圧から高周波成分である発振出力波成分を除去して、A/Dコンバーター53に出力する本発明のフィルターである。
A/Dコンバーター53は、本発明の電圧測定手段に相当し、LPF52から入力されるエミッタ電圧の平均電圧レベル(エミッタ電圧についてのA/D値)を測定する。
D/Aコンバーター54は、CPU6から入力されるデジタル信号をデジタル/アナログ変換して、ベースQ2に出力する。これにより、ベースQ2にベース電圧が印加され、当該ベース電圧の電圧値(以下「D/A値」と略す場合がある)に応じた電圧が、当該ベースQ2を介して、コレクタQ1からエミッタQ3に印加される。
【0024】
CPU6は、発振回路3、ひいては、アクティブタグ1全体を制御する。例えば、CPU6は、アクティブタグ1固有の識別情報等の情報を示すデジタル信号を、D/Aコンバーター54に出力し、当該情報が含まれる発振出力波を発振部51に生成させる。この際、CPU6は、エミッタ電圧を一定化させるために、A/Dコンバーター53からエミッタ電圧の平均電圧レベルを所定周期で読み込み、当該電圧レベルが予め保持した目標電圧に近い値となるようにベース電圧を制御する。具体的に、CPU6は、当該目標電圧に近い値となるような電圧のデジタル信号をD/Aコンバーター54に出力し、当該デジタル信号に応じたアナログ信号であるベース電圧をベースQ2に印加させる。すなわち、CPU6は、本発明の電圧制御手段に相当する。
【0025】
なお、このような目標電圧は、ROM(Read Only Memory)等の記憶手段(図示省略)に記憶され、適宜参照されるように構成してもよい。また、所定周期の具体例として、アクティブタグ1による電波出力を0.5秒ごとに行うとし、CPU6が100回の当該電波出力に対して、A/Dコンバーター53からの電圧値の読み込みを1回行うように設定すると、当該所定周期は、50秒に1回の周期となる。しかしながら、これに限らず、当該所定周期は、適宜設定可能である。
【0026】
〔発振回路の制御〕
図3は、発振回路3の制御処理を示すフローチャートである。
CPU6は、発振回路3の電圧源Vccから電力が供給されてから、エミッタ電圧を監視して、ベース電圧を制御(調整)する制御処理を実行する。
この制御処理では、図3に示すように、CPU6は、まず、ベースQ2に印加するベース電圧の電圧値(D/A値)を「0」に設定する(ステップS11)。
そして、CPU6は、エミッタ電圧の平均電圧レベルを起動時電圧としてA/Dコンバーター53から読み込む(ステップS12)。
【0027】
この後、CPU6は、予め記憶手段(図示省略)に記憶された目標電圧を参照して、起動時電圧が当該目標電圧を超えたか否かを判定する(ステップS13)。
ここで、起動時電圧が目標電圧を超えていないと判定した場合には、CPU6はD/A値を僅かに増加させる(ステップS14)。このD/A値の増加分は、エミッタ電圧が急激に増加しない程度の値に設定される。そして、CPU6は、処理をステップS13に戻し、エミッタ電圧が目標電圧を超えるまで、ステップS12〜S14を繰り返す。
【0028】
一方、起動時電圧が目標電圧を超えたと判定した場合には、CPU6は、再度エミッタ電圧を読み込むタイミング(測定タイミング)に至ったか否かを判定する(ステップS15)。なお、前述の具体例に沿う場合、CPU6は、A/Dコンバーター53からエミッタ電圧を読み込んだ後に行われた電波出力の回数(ベース電圧の印加回数)をカウントし、当該回数が100回を超えた場合に、測定タイミングに至ったと判定してもよい。或いは、エミッタ電圧の読み込み後の時間が50秒を経過した場合に、測定タイミングに至ったと判定してもよい。
【0029】
ここで、CPU6は、測定タイミングに至っていないと判定した場合には、当該測定タイミングに至るまで、エミッタ電圧の読み込みを待機する。
一方、測定タイミングに至ったと判定した場合には、CPU6は、A/Dコンバーター53からエミッタ電圧の平均電圧レベルを読み込む(ステップS16)。
そして、CPU6は、当該平均電圧レベルが前述の目標電圧を超えているか否かを判定する(ステップS17)。
【0030】
ここで、平均電圧レベルが目標電圧を超えていると判定した場合には、CPU6は、D/A値を減少させ(ステップS18)、処理をステップS15に戻す。
一方、読み込まれた平均電圧レベルが目標電圧を超えていないと判定した場合には、CPU6は、当該平均電圧レベルと目標電圧とが一致するか否かを判定する(ステップS19)。ここで、CPU6が、それぞれ一致すると判定した場合には、D/A値を変動させずに、処理をステップS15に戻し、また、一致しないと判定した場合(平均電圧レベルが目標電圧より低いと判定した場合)には、D/A値を増加させ(ステップS20)、処理をステップS15に戻す。
このように、本実施形態の制御処理では、ステップS16〜S20は、前述のタイミングで繰り返し実行される。
【0031】
以上説明した本実施形態のアクティブタグ1によれば、以下の効果がある。
(1)A/Dコンバーター53により測定されるエミッタ電圧の平均電圧レベルに基づいて、CPU6が当該エミッタ電圧を目標電圧との差が小さくなるように、換言すると、当該エミッタ電圧を一定化するように、ベース電圧の電圧値を制御する。これによれば、電源部4に接続される電圧源Vccの出力電圧が変化する場合でも、発振回路3の出力を安定化できる。
【0032】
図4は、アクティブタグ1の出力特性を示す図である。換言すると、図4は、CPU6による制御を行った場合と行っていない場合との発振出力波の電界強度の差を示す図である。なお、図4において、横軸は電源部4からの電源電圧(V)を示し、縦軸は当該電源電圧が3Vである場合にアクティブタグ1から出力される電波の電界強度(dB)との差を示している。
CPU6が前述の制御処理を実行しなかった場合には、図4において「◆」及び点線で示すように、電源電圧の変動により、出力される電波の電界強度に変動が生じる。このため、アクティブタグ1の通信距離に変動が生じてしまう。
これに対し、CPU6が前述の制御処理を実行することにより、図4において「●」及び実線で示すように、出力される電波の電界強度に変動が生じないようにすることができる。従って、アクティブタグ1の通信距離に変動が生じることを抑制できる。
【0033】
この際、エミッタQ3の出力インピーダンスは低いので、LPF52の入力インピーダンスを低くすることができる。このため、発振回路3の発振出力波を測定する場合に比べ、回路構成を簡略化できる。特に、エミッタQ3とA/Dコンバーター53との間にインピーダンス素子である抵抗R4を直列に設けることにより、高周波成分を減衰させることなく、エミッタ電圧を測定できる。
【0034】
更に、電源部4から供給される電源電圧を測定して、当該電源電圧に応じてベース電圧を制御する場合には、変動する電源電圧に応じた補正値をそれぞれ保持する必要があるため、当該各補正値を記憶する記憶手段を設ける必要があり、発振回路の構成及び制御処理が複雑化するほか、当該記憶手段の記憶容量が大きくなる。これに対し、本発明の発振回路3は、目標電圧を保持し、当該目標電圧と一致するように、ベース電圧を調整するので、当該発振回路3の構成及び制御処理を簡略化することができるほか、目標電圧が記憶手段に記憶されている場合でも、当該記憶手段の記憶容量を小さくすることができる。
従って、電源電圧が変化するために発振回路3の出力特性が変化することを抑制できるとともに、当該発振回路3の回路構成を簡略化できる。また、これにより、アクティブタグ1から送信される微弱電波による通信距離変動を抑制することができ、当該電波を効率よく出力できる。
【0035】
(2)LPF52により、エミッタQ3からA/Dコンバーター53に入力されるエミッタ電圧の高周波成分(発振出力波成分)が除去される。これによれば、A/Dコンバーター53によるエミッタ電圧の測定を精度よく行うことができる。
【0036】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
本実施形態に係るアクティブタグは、前述の第1実施形態のアクティブタグ1と同様に、測定されたエミッタ電圧の平均電圧レベルが目標電圧を超えたか否かに応じてベース電圧を制御するほか、当該アクティブタグの温度を測定して、当該温度に応じてベース電圧を制御する点で、アクティブタグ1と相違する。なお、以下の説明では、既に説明した部分と同一または略同一である部分については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0037】
図5は、本実施形態に係るアクティブタグの発振回路3Aを示す回路図である。
本実施形態に係るアクティブタグは、第1実施形態で示した発振回路3に代えて発振回路3Aを備えるほかは、前述の第1実施形態のアクティブタグ1と同様の構成を備える。また、発振回路3Aは、図5に示すように、出力回路5及びCPU6に代えて出力回路5A及びCPU6Aを備え、更に記憶部7Aを備えるほかは、発振回路3と同様の構成を備える。
【0038】
出力回路5Aは、発振部51に代えて発振部51Aを備え、更に切替部55を備えるほかは、出力回路5と同様の構成を備える。
発振部51Aは、発振部51の構成に加え、抵抗R5を介して電圧源Vccに一端が接続される温度検出手段としてのサーミスターThを有し、当該サーミスターThの他端はグランドに接続されている。このサーミスターThと抵抗R5との間には、切替部55を介して、A/Dコンバーター53の入力端子T4に接続される出力端子T1が設けられている。また、電圧源Vccと抵抗R5との間には、同様に、切替部55を介して、入力端子T4に接続される出力端子T2が設けられている。この出力端子T2は、A/Dコンバーター53により電圧源Vccの電圧値を監視するための端子であり、当該電圧源Vccの電圧値は、温度によって生じるサーミスターThの抵抗値の変化をA/Dコンバーター53により測定する際に利用される。
【0039】
切替部55は、LPF52の出力端子T3及び前述の出力端子T1,T2と接続されるとともに、A/Dコンバーター53の入力端子T4と接続される。この切替部55は、CPU6Aの制御下で、出力端子T1〜T3のいずれかと入力端子T4との接続を切り替える。このため、A/Dコンバーター53が、エミッタ電圧の平均電圧レベルを測定する場合と、サーミスターThを介して入力される電圧(発振回路3Aの温度に応じた電圧)の平均電圧レベルを測定する場合とは、切替部55により切り替えられる。
【0040】
記憶部7Aは、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable ROM)で構成され、CPU6Aに接続される。この記憶部7Aには、A/Dコンバーター53によって測定される温度に応じた平均電圧レベルに対応し、発振出力波の電界強度を一定とするための目標電圧の補正値が記憶されている。なお、記憶部7Aには、本実施形態では、当該平均電圧レベルと補正値とが関連付けられたLUT(Look-Up Table)が記憶されているが、これに限らず、パラメーターとして補正値が記憶されていてもよい。また、記憶部7Aは、EEPROMに限らず、ROM、RAM(Random Access Memory)及びフラッシュメモリーであってもよい。
【0041】
CPU6Aは、前述のCPU6と同様に、アクティブタグ1A全体を制御する。例えば、CPU6Aは、起動時のエミッタ電圧(起動時電圧)が目標電圧を超えるまでD/A値を増加させるほか、発振回路3Aの温度に応じて、前述の周期でD/A値を補正する。
【0042】
〔発振回路の制御〕
図6は、CPU6Aによる発振回路3Aの制御処理を示すフローチャートである。
CPU6Aは、前述のCPU6と同様に、発振回路3Aの電圧源Vccから電力が供給されてからエミッタ電圧(起動時電圧)を監視して、D/A値を制御(調整)する制御処理を実行する。この制御処理では、図6に示すように、CPU6Aは、前述のステップS11〜S15を実行する。このステップS15までは、切替部55を介して入力端子T4は、LPF52に接続される出力端子T3と接続されている。
このステップS15の判定処理にて、測定タイミングであると判定した場合には、CPU6Aは、切替部55により出力端子T1と入力端子T4とを接続し、A/Dコンバーター53により測定され、かつ、温度に応じた電圧値E0(温度についてのA/D値)を読み込む(ステップS26)。
この後、CPU6Aは、記憶部7Aを参照し、読み込んだA/D値に応じた補正値E1を取得し(ステップS27)、補正後の目標電圧を電圧値E0+E1に設定する(ステップS28)。
【0043】
次に、CPU6Aは、切替部55により出力端子T3と入力端子T4とを接続し、A/Dコンバーター53により測定されたエミッタ電圧の平均電圧レベルE2(エミッタ電圧についてのA/D値)を読み込む(ステップS29)。
そして、CPU6Aは、目標電圧E0+E1がエミッタ電圧E2より大きいか否かを判定する(ステップS30)。ここで、目標電圧E0+E1がエミッタ電圧E2より大きい(エミッタ電圧E2が目標電圧E0+E1より小さい)と判定した場合には、CPU6Aは、前述のD/A値を増加させ(ステップS31)、処理をステップS15に戻す。
【0044】
一方、CPU6Aは、目標電圧E0+E1がエミッタ電圧E2より大きくないと判定した場合には、当該目標電圧E0+E1とエミッタ電圧E2とが一致するか否かを判定する(ステップS32)。
ここで、CPU6Aは、目標電圧E0+E1とエミッタ電圧E2とが一致すると判定した場合には、D/A値を変化させずに処理をステップS15に戻す。また、CPU6Aは、目標電圧E0+E1とエミッタ電圧E2とが一致しない(エミッタ電圧E2が目標電圧E0+E1より大きい)と判定した場合には、D/A値を減少させ(ステップS33)、処理をステップS15に戻す。
このように、本実施形態の制御処理においては、ステップS26〜S33が所定のタイミングで繰り返し実行される。
【0045】
以上説明した本実施形態に係るアクティブタグによれば、前述のアクティブタグ1と同様の効果に加えて、以下の効果がある。
(3)図7は、本実施形態のアクティブタグ1Aの出力特性を示す図である。なお、図7において、横軸は温度を示し、縦軸はアクティブタグ1Aが最適条件(例えば、環境温度が25℃の状態)で使用された際に出力される電波の電界強度(dBm)との差を示している。
前述のように、アクティブタグに用いられる各電子部品(例えば、電源部4やトランジスターQ)は、使用される温度によって特性が変化し、ひいては、発振回路3Aの出力変動が生じる。例えば、図7において「◆」及び点線で示すように、CPU6AによるD/A値制御を行わなかった場合、25℃より低い温度で使用した場合、及び、25℃より高い温度で使用した場合には、最適条件での使用時との電界強度の差が大きくなる。
一方、図7において「■」及び二点鎖線で示すように、CPU6Aが、測定されたエミッタ電圧の平均電圧レベルのみに基づいてD/A値を制御した場合には、制御を行わなかった場合に比べ、最適条件下での使用時との電界強度の差は小さくなる。
【0046】
更に、図7において「▲」及び実線で示すように、CPU6Aが、温度に応じた補正後の目標電圧とエミッタ電圧の平均電圧レベルとが一致するようにD/A値を制御することにより、最適条件での使用時との電界強度の差が一層小さくなる。
このように、本実施形態の発振回路3Aでは、当該発振回路3Aの温度に基づいて、CPU6AがD/A値を調整することにより、発振回路3A、ひいては、アクティブタグの出力特性の変化を抑制することができる。
【0047】
〔実施形態の変形〕
本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
前記各実施形態では、CPU6,6Aは、測定タイミングであるか否かを判定し、測定タイミングであると判定した場合に、エミッタ電圧を読み込んで、ベース電圧の制御を行うとしたが、本発明はこれに限らない。例えば、電波出力後に逐次、前述のステップS16〜S20又はステップS26〜S33を実行してもよい。また、前記各実施形態では、当該測定タイミングは、50秒に1回としたが、本発明はこれに限らず、適宜設定可能である。
【0048】
前記各実施形態では、アクティブタグは、0.5秒周期で電波を出力するとしたが、本発明はこれに限らない。すなわち、当該周期は適宜設定可能である。また、受信手段を設け、リーダーからの電波の受信に応じて、アクティブタグが電波を送信するように構成してもよい。
前記各実施形態では、発振回路3,3Aは、エミッタ電圧の平均電圧レベルを測定するA/Dコンバーター53と、ベース電圧をベースQ2に印加するD/Aコンバーター54とを有するとしたが、本発明はこれに限らない。すなわち、エミッタ電圧を測定でき、かつ、当該エミッタ電圧に応じたベース電圧を印加できれば他の構成でもよく、例えば、オペアンプ等の帰還回路で構成してもよい。
【0049】
前記第2実施形態では、切替部55が、出力端子T3と入力端子T4とを接続する場合(A/Dコンバーター53がエミッタ電圧の平均電圧レベルを測定する場合)と、出力端子T1,T2と入力端子T4とを接続する場合(A/Dコンバーター53が温度に応じた平均電圧レベルを測定する場合)とを切り替えるとしたが、本発明はこれに限らない。すなわち、出力端子T1〜T3にそれぞれ接続されるA/Dコンバーターを設け、当該各A/DコンバーターからCPUがそれぞれの電圧値を読み込むようにしてもよい。
【0050】
前記各実施形態では、エミッタ電圧が目標電圧より低い場合に、ベース電圧の電圧値(D/A値)を増加させ、また、エミッタ電圧が目標電圧より高い場合に、ベース電圧の電圧値を減少させたが、本発明はこれに限らない。すなわち、エミッタ電圧と目標電圧とが一致するまで、ベース電圧の電圧値を増減させてもよい。
【0051】
前記各実施形態では、発振回路3,3Aは、アクティブタグを構成するとしたが、本発明はこれに限らない。すなわち、他の電子機器に、本発明の発振回路を採用してもよい。このような電子機器として、遠隔操作を行うための操作装置に挙げることができ、例えば、ラジオコントロールカー等の操作装置や、自動車のキー等のリモートコントローラーに、本発明の発振装置を採用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、発振回路に利用でき、特に、RFID(Radio Frequency Identification)タグに採用される発振回路に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0053】
1…アクティブタグ、2…アンテナ、3,3A…発振回路、4…電源部、6,6A…CPU(電圧制御手段)、52…LPF(フィルター)、53…A/Dコンバーター(電圧測定手段)、Q…トランジスター、Q1…コレクタ、Q2…ベース、Q3…エミッタ、S16,S29…ステップ(電圧測定ステップ)、S18,S20,S31,S33…ステップ(電圧制御ステップ)、T…出力端子、Th…サーミスター(温度検出手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電流を出力する発振回路であって、
電源部と、
エミッタ、ベース及びコレクタを有し、前記コレクタに前記電源部からの直流電圧が印加されるトランジスターと、
前記コレクタに接続され、前記交流電流が出力される出力端子と、
前記エミッタから出力されるエミッタ電圧を測定する電圧測定手段と、
前記電圧測定手段による前記エミッタ電圧の測定結果に基づいて、前記エミッタ電圧が一定となるように、前記ベースに印加されるベース電圧を制御する電圧制御手段と、
を有することを特徴とする発振回路。
【請求項2】
請求項1に記載の発振回路において、
前記エミッタと前記電圧測定手段との間に設けられ、前記エミッタから出力される当該発振回路の発振出力波成分を除去するフィルターを有することを特徴とする発振回路。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の発振回路において、
当該発振回路の温度を検出する温度検出手段を備え、
前記電圧制御手段は、前記温度検出手段による検出結果に基づいて、前記ベース電圧を制御することを特徴とする発振回路。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の発振回路と、
前記出力端子から出力される前記交流電流に応じた電波を送信するアンテナと、
を備えることを特徴とするアクティブタグ。
【請求項5】
交流電流を出力する発振回路を制御する発振出力制御方法であって、
前記発振回路は、
電源部と、
エミッタ、ベース及びコレクタを有し、前記コレクタに前記電源部からの直流電圧が印加されるトランジスターとを備え、
当該発振出力制御方法は、
前記エミッタから出力されるエミッタ電圧を測定する電圧測定ステップと、
前記エミッタ電圧の測定結果に基づいて、前記エミッタ電圧が一定となるように、前記トランジスターのベースに印加するベース電圧を制御する電圧制御ステップと、
を有することを特徴とする発振出力制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−211500(P2011−211500A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77471(P2010−77471)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【出願人】(597019609)株式会社 シーディエヌ (22)
【Fターム(参考)】