説明

発泡プラスチック成形体及びその製造方法

【課題】延伸部位での発泡が制御され、意匠性の高い発泡プラスチック成形体及びその製造法を提供する。
【解決手段】少なくとも一部が延伸成形されたプラスチック成形体において、上記延伸成形されている部分には、面方向でみて発泡セルが形成されている発泡領域Xと発泡セルが形成されていない非発泡領域Yとを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器壁に気泡(発泡セル)が分布している発泡領域が形成されている部分発泡プラスチック成形体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、ポリエチレンテレフタレート(PET)に代表されるポリエステル容器は、透明性、耐熱性、ガス遮断性等の特性に優れており、種々の用途に広く使用されている。
【0003】
一方、近年では、資源の再利用が強く求められ、上記のようなポリエステル容器に関しても、使用済みの容器を回収し、リサイクル樹脂として種々の用途への再利用が図られている。ところで、このような包装容器では、意匠性を高めるために、着色剤などの配合により不透明に形成することがあるが、資源の再利用の点からは、着色剤の配合は望ましくない。リサイクル樹脂に透明性を確保することが困難となってしまうからである。
【0004】
上記のような観点から、着色剤を用いずに遮光性を付与したプラスチック成形体について種々検討されており、例えば特許文献1〜3には、所謂マイクロセルラー技術を利用して遮光性を付与したプラスチック成形体が提案されている。
【特許文献1】特開2006−321887
【特許文献2】特開2007−223141
【特許文献3】特開2007−320082
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜3等で提案されているマイクロセルラー技術による発泡は、不活性ガスを発泡剤として樹脂に含浸させ、このガスを加熱によって気泡(発泡セル)に成長させるというものであり、化学発泡と異なり、微細な発泡セルを全体的に均一に形成することができるため、発泡セルの形成による強度やガスバリア性の低下が小さいという利点がある。
【0006】
しかしながら、マイクロセルラー技術を利用した発泡も含め、従来公知の発泡成形体では、延伸成形を行ったとき、延伸成形部位での発泡のコントロールが難しく、延伸成形部位の全体が発泡領域となっている延伸成形体が知られているのみであり、例えば、延伸成形部位での発泡がコントロールされ、延伸成形部位の一部分に発泡セルが分布した発泡領域が形成された延伸成形体や該発泡領域中での発泡の度合いが位置によって異なるように発泡が制御された延伸成形体は知られていない。
【0007】
即ち、マイクロセルラー技術による発泡では、特許文献2,3等にも記載されているように、発泡のための加熱を選択的に行うことにより、発泡セルが分布している発泡領域と発泡セルが分布していない非発泡領域とを形成することができるが、このような選択的加熱によって発泡領域と非発泡領域とを形成する方法を延伸成形体に適用したときには、非発泡領域となるのは未延伸部分(例えば容器首部)であり、発泡領域となるのは延伸部分(例えば容器胴部や容器底部)であって、延伸部分に発泡領域と非発泡領域とを形成することはできない。また、延伸部分に形成される発泡領域中での発泡の度合いは均一であり、位置によって発泡の度合いを異なるように制御することができないのである。何故ならば、延伸成形に際しては、樹脂のガラス転移点(Tg)以上に加熱されるため、この加熱によって発泡セルの生成或いは発泡セルの成長が生じてしまうからである。
【0008】
このように、従来公知の発泡技術によるプラスチック発泡成形体において、延伸部位を有するものについては、延伸部位での発泡の制御が困難であるため、延伸部位の全体が発泡して遮光性が付与されたものしか知られておらず、従って意匠性が乏しいという問題があった。
【0009】
従って、本発明の目的は、延伸部位での発泡が制御され、意匠性の高い発泡プラスチック成形体及びその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記の発泡プラスチック成形体の1種である容器を製造するための容器成形用プリフォームを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、少なくとも一部が延伸成形されたプラスチック成形体において、
上記延伸成形されている部分には、面方向でみて発泡セルが形成されている発泡領域と発泡セルが形成されていない非発泡領域とを有している部分発泡プラスチック成形体が提供される。
上記の部分発泡プラスチック成形体は、胴部及び底部が延伸成形された容器であることが好ましい。
【0011】
本発明によれば、また、少なくとも一部が延伸成形されたプラスチック成形体において、
上記延伸成形されている部分の少なくとも一部には、その壁部に発泡セルが分布している発泡領域が形成されており、
前記発泡領域に存在している発泡セルは、厚み方向のセル数が、面方向で異なるように分布していることを特徴とする発泡プラスチック成形体が提供される。
上記の発泡プラスチック成形体は、胴部及び底部が延伸成形された容器であり、該胴部に分布している発泡セルは、厚み方向のセル数が、高さ方向或いは周方向で異なるように分布していることが好適である。
【0012】
本発明によれば、さらに、
ガスが含浸された樹脂成形体からなり、且つ二次成形部を有する一次成形体を用意し、
前記一次成形体の二次成形部の一部を選択的に加熱して発泡を行なうことにより、二次成形部に発泡領域と非発泡領域とが形成された部分発泡一次成形体を作製し、
前記部分発泡一次成形体に残存するガスを放出し、
ガスが放出された部分発泡一次成形体の二次成形部を加熱延伸成形すること、
を特徴とする部分発泡プラスチック成形体の製造方法が提供される。
【0013】
本発明によれば、さらにまた、
ガスが含浸された樹脂成形体からなり、且つ二次成形部を有する一次成形体を用意し、
前記一次成形体の二次成形部を、面方向での加熱条件が異なるように加熱して発泡を行なって発泡一次成形体を作製し、
前記発泡一次成形体に残存するガスを放出し、
ガスが放出された発泡一次成形体の二次成形部を加熱延伸成形すること、
を特徴とする発泡プラスチック成形体の製造方法が提供される。
【0014】
上記の部分発泡プラスチック成形体或いは発泡プラスチック成形体を製造する方法においては、前記一次成形体が、容器成形用プリフォームであり、二次成形部が胴部であることが好適である。
【0015】
また、さらに、本発明によれば、容器成形用プリフォームにおいて、
少なくとも一部の壁部には発泡セルが分布している発泡領域が形成されており、
前記発泡領域に存在している発泡セルは、厚み方向のセル数が、面方向で異なるように分布していることを特徴とする容器成形用発泡プリフォームが提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、少なくとも一部が延伸されたプラスチック成形体の延伸部位にマイクロセルラー技術を利用して発泡セルが分布した発泡領域が形成されるが、特に重要な特徴は、ガスが含浸された樹脂成形体からなる一次成形体(例えば容器用プリフォーム)の二次成形部(延伸成形すべき部分であり、例えば容器用プリフォームの胴部及び底部)を加熱して発泡セルが分布した発泡領域が二次成形部に形成されている発泡一次成形体を得た後、延伸成形に先立って、この発泡一次成形体に残存するガスを放出させる点にある。
【0017】
即ち、二次成形部に発泡領域が形成されている発泡一次成形体を直ちに延伸成形に供すると、二次成形部の非発泡領域にガスが残存しておりしかもガラス転移点(Tg)以上に加熱されるため、非発泡領域で発泡が生じてしまう。また、発泡領域においても、発泡セルにガスが内蔵されているため、ガラス転移点(Tg)以上の加熱によって発泡セルが成長して大きくなってしまう。従って、このようにして得られる発泡成形体においては、二次成形部(延伸成形部)に非発泡領域を形成することができず、また、発泡領域内での発泡の度合いを調整することが困難となってしまい、例えば発泡領域では、ほぼ一律の遮光性を得ることはできても、発泡の度合いが異なり、遮光性の高い領域と遮光性の低い領域とを発泡領域中に形成することができないのである。
【0018】
しかるに、本発明においては、二次成形部に発泡領域が形成されている発泡一次成形体を延伸成形するに先立って、該成形体中に残存しているガスが放出されている。従って、延伸成形部位において、発泡領域と非発泡領域とを形成することができ、また、発泡領域では発泡の度合いを制御することができ、例えば、発泡の度合いが高く、遮光性の高い領域と、発泡の度合いが低く、遮光性の低い領域とを発泡領域中に形成することができる。
【0019】
かくして上記のような方法によって得られる本発明のプラスチック成形体では、延伸成形されている部位に発泡領域と非発泡領域とを有していたり、或いは発泡領域中に発泡の度合いが異なる領域、具体的には面方向でみて、厚み方向のセル数が多くて遮光性の高い領域とセル数が少なくて遮光性の低い領域を有しており、従って、発泡の度合いを種々変更することにより、外観を種々変更することができ、意匠性に優れているという利点を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
<発泡プラスチック成形体>
本発明の発泡プラスチック成形体の代表例であるブローボトルの一例を示す図1を参照して、全体として20で示すボトルは、首部21、胴部23及び底部25とからなっており、首部21には、螺子部21a及びサポートリング21bが形成されており、サポートリング21bより下の部分が胴部23となっている。
【0021】
上記のボトル20は、試験管状の発泡プリフォーム10をブロー成形(延伸成形)することにより得られるものであり、この発泡プリフォーム10は、ボトル20に対応して、首部11、胴部13及び底部15を有しており、首部11には、螺子部11a及びサポートリング11bが形成されている。即ち、ボトル20は、このプリフォーム10の首部11を固定した状態で所定のブロー型内に保持し、所定の延伸温度に加熱した状態で、発泡プリフォーム10の内部に延伸ロッドを挿入して軸方向に引き伸ばしながらエアー等のガスを吹き込んで膨張させることにより、ボトル20が得られることとなる。従って、この発泡プリフォーム10の胴部13及び底部15が二次成形部(延伸部)であり、首部11が二次成形されない部分であり、ボトル20の胴部23及び底部25が延伸された部分であり、首部21が未延伸部分となっている。
【0022】
本発明のボトル20では、延伸された部分に相当する胴部23及び底部25に、発泡領域Xと非発泡領域Yとが形成されている。また、未延伸部分である首部21は非発泡領域Yとなっている。例えば、図1の例では、延伸されている胴部23及び底部25の内、胴部23の中央部よりやや上方部分から下方の部分が発泡領域Xとなっており、この発泡領域Xよりも上方の部分が非発泡領域Yとなっている。従って、これに対応して、ボトル20の形成に使用される発泡プリフォーム10においても、二次成形部である胴部13及び底部15の内、胴部13の中央部よりやや上方部分から下方の部分が発泡領域Xとなっており、この発泡領域Xよりも上方の部分が非発泡領域Yとなっている。
【0023】
即ち、図1に示されている本発明のボトル20は、延伸された部分に、発泡セルが分布して遮光性(不透明乃至半透明)となっている発泡領域Xと、発泡セルが分布しておらず、従って透明となっている非発泡領域Yとが形成されているのであり、延伸部分がこのように部分的に発泡されている容器は、これまで全く知られていない。
【0024】
尚、図1の例では、胴部13の上方部分が非発泡領域Yとなっており、その下方部分が発泡領域Xとなっているが、本発明は、このような位置関係で発泡領域Xと非発泡領域Yとを形成する態様に限定されるものではなく、延伸成形部(胴部23及び底部25)を部分発泡として発泡領域Xと非発泡領域Yとを形成する限り、外観や内容物の視認性などを考慮して任意の位置関係及び大きさで発泡領域Xと非発泡領域Yとを形成することができる。例えば、胴部23の下方及び底部25が非発泡領域Yとなっており、胴部23の上部を発泡領域Xとすることもできるし、胴部23の中央部のみを発泡領域Xとし、その上下を非発泡領域Yとすることもでき、さらには、胴部23の中央部分に窓枠状に透明な非発泡領域Yを形成し、他の部分を発泡領域Xとすることも可能であり、このような発泡領域Xと非発泡領域Yとの位置関係に応じて、発泡プリフォーム10の二次成形部(胴部13及び底部15)に発泡領域Xと非発泡領域Yとを形成することができる。
【0025】
また、本発明では、発泡領域X内で発泡の程度が異なる領域を形成することもできる。例えば、本発明のブローボトルの他の例を示す図2を参照して、このボトル20は、図1のボトル20と全く同じ形状を有しており、したがって、このボトル20を形成するための発泡プリフォーム10も、図1に示されている発泡プリフォーム10と全く同じ形状を有しているものである。しかるに、図2のボトル20では、延伸成形された部分(胴部13及び底部15)全体が発泡領域Xとなっており、未延伸部分である首部21のみが透明な非発泡領域Yとなっている。
【0026】
このような図2のボトル20では、発泡領域Xでの発泡の程度が位置によって異なるように形成されている。例えば、ボトル20の軸方向Hに沿って、発泡領域Xを下から順にH1、H2、H3の3領域に分割すると、一番下方の領域H1が最も発泡の度合いが高い領域となっており、中間の領域H2は、領域H1よりも発泡の度合いが低く、上方の領域H3は、最も発泡の度合いが低い領域となっている。即ち、下から上に行くほど、不透明度が低くなっていることとなる。勿論、発泡の度合いの変化は、この例に限定するものではなく、上記とは逆に、一番下方の領域H1を最も発泡の度合いが低い領域とし、上に行くほど、不透明度が高くなっていてもよく、中間の領域H2が最も発泡の度合いが高い不透明領域とすることもよく、軸方向に沿って、漸次、発泡の度合いが変化するように形成されていてもよく、外観等を考慮して、任意の形態で発泡の度合いが変化していてもよい。従って、このボトル20を形成するためのプリフォーム10の延伸成形部分(胴部13及び底部15)も、同様に、軸方向Hに沿った領域H1,H2及びH3では、同様の発泡度合いに調整されている。
【0027】
また、図2のボトル20では、軸方向Hに沿って発泡の度合いが変化する態様に限定されるものではなく、例えば、周方向Sに沿って、発泡の度合いが変化していてもよく、後述する発泡加熱に際して、加熱勾配を持たせて発泡することにより、任意の形態で発泡の度合いを変化させることができる。また、上記のような発泡領域Xにおける発泡の度合いの変化は、図1のボトル20に形成されている発泡領域Xに適用できることは言うまでもない。
【0028】
尚、上述した発泡の度合いとは、壁部の厚み方向に存在する発泡セルの重なり度合いを意味するものであり、厚み方向にオーバーラップする発泡セルの個数が多いほど、発泡の度合いが高く、壁部に入射した光の多重反射や散乱生じ、光の透過度が低くなり、透明性が低下し、逆の場合には、光の透過度が高く、透明に近い領域となる。
【0029】
上述したように、本発明の発泡プラスチック成形体、例えばボトルは、延伸成形部に不透明な発泡領域Xと透明な非発泡領域Yとが形成され、或いは延伸成形部に形成された発泡領域中に発泡の度合い(即ち、透明度)が異なる領域が形成されるため、極めて意匠性が高く、商品価値が高い。
また、図1及び図2では、発泡成形体の例としてボトルを示したが、ボトルに限定されるものではなく、延伸成形部を有している限り、カップ状の発泡容器であってもよいし、或いは発泡シートであってもよい。
【0030】
<発泡成形体の製造>
上述した発泡成形体は、従来公知の方法では製造することができず、以下に述べる方法によってはじめて製造される。
この製造プロセスを示す図3を参照して、先ず、所定の原料樹脂により作製された非発泡プリフォーム(樹脂成形体)50を用意し、この非発泡プリフォーム50を高圧下におき、不活性ガス(例えば炭酸ガスや窒素ガス)を含浸させ、不活性ガスを溶解させる(工程(a))。
【0031】
非発泡プリフォーム50は、押出し成形、射出成形、圧縮成形などの公知の成形手段により成形することができ、一般に、ボトル形状の容器を製造する場合には、前述した図1或いは図2で示された試験管形状を有しているものである。また、カップ形状の容器を製造する場合には、板状形状や椀形状を有している。勿論、ガスバリア層などを備えた多層構造を有する容器を製造する場合には、この非発泡プリフォーム50は、共押出し、共射出などにより、それに対応する多層構造を有するように成形される。また、最終的に成形される発泡成形体がシート乃至フィルム形状のものであるときには、この非発泡プリフォーム50は、シート乃至フィルム形状であってよく、最終的に成形される成形体の形状に応じて、任意の形状であってよい。
【0032】
非発泡プリフォーム50を構成する樹脂としては、不活性ガスの含浸が可能である限り特に制限されず、それ自体公知の熱可塑性樹脂であってよい。例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテンあるいはエチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン同志のランダムあるいはブロック共重合体、環状オレフィン共重合体などのオレフィン系樹脂;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体等のエチレン・ビニル系共重合体;ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、ABS、α−メチルスチレン・スチレン共重合体等のスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のビニル系樹脂;ナイロン6、ナイロン6−6、ナイロン6−10、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、及びこれらの共重合ポリエステル等のポリエステル樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリフエニレンオキサイド樹脂;ポリ乳酸など生分解性樹脂;などにより、非発泡プリフォーム1を形成することができる。勿論、これらの熱可塑性樹脂のブレンド物により、非発泡プリフォーム1が形成されていてもよい。特に容器の分野に適用する場合には、オレフィン系樹脂やポリエステル樹脂が好適である。
【0033】
かかる工程(a)における非発泡プリフォーム50への不活性ガスの含浸は、最終的に成形される発泡成形体中に形成する発泡領域Xにおける発泡の度合い(発泡セルの個数)に応じて、十分な量のガスを溶解させるように行われる。例えば、発泡セルの個数を多くして遮光性を高める場合には、ガスの含浸量を多くし、そうでない場合には、ガスの含浸量は少なく設定される。具体的には、非発泡プリフォーム50を加熱して高圧下での不活性ガスの含浸を行うこともできるし、非加熱下で行うこともできる。この場合、この温度が高いほど、ガスの溶解量は少ないが含浸速度は速く、温度が低いほどガスの溶解量は多いが、含浸には時間がかかることとなる。また、ガス溶解に伴いプリフォーム表面の結晶化度が高まり、後の発泡工程(工程(c))で表皮層7を形成することがあるが、不活性ガスの含浸温度が高いほどこの傾向が強まるので所望の発泡層構造となるよう適宜ガス含浸条件を調整する。
但し、加熱下でガスの含浸を行う場合には、非発泡プリフォーム50の温度が原料樹脂の熱結晶化温度以上とならないように行うのがよい。結晶化温度以上に加熱してしまうと、過度な結晶化が生じ、以下の発泡工程における発泡が制限されることとなるからである。
【0034】
また、不活性ガスが含浸された非発泡プリフォーム50は、上述した樹脂を用いて成形する際、押出機や射出成形機などの溶融混練部に不活性ガスを高圧で供給して樹脂に含浸せしめ、この状態で成形を行うことによって得ることもできる。
【0035】
次いで、この非発泡プリフォーム50を、加熱発泡させるのであるが、この加熱発泡に先立って、不活性ガスの一部を放出すること(工程(b))が好適である。即ち、この工程(b)では、不活性ガスが含浸された非発泡プリフォーム50を、冷却固化した状態で所定時間、常圧下(大気圧)に開放することにより、その表面から不活性ガスが放出され、これによって、不活性ガスが溶解していないかあるいは不活性ガス濃度が低くなった表層部53が形成されることとなる。常圧、常温下での不活性ガスの溶解度はほとんどゼロであるから、冷却固化されている非発泡プリフォーム50を常圧下に保持することにより、該プリフォーム50の表面から不活性ガスが徐々に放出され、上記のような表層部53が形成されることとなるわけである。以下の加熱発泡工程(c)により非発泡プリフォーム50の全体が発泡してしまうと、その表面に発泡による凹凸が形成されてしまい、平滑性が損なわれてしまうため、外観が損なわれたり、或いは印刷適正が低下してしまうなどの問題を生じるが、上記のようにして表層部53を形成しておくことにより、最終的に形成される発泡成形体の発泡領域Xの表面に、発泡セルが分布していない表皮層を形成することができ、発泡による表面平滑性の低下を回避することができる。勿論、このような平滑性が全く要求されない用途に適用する場合には、この工程を省略して、直ちに次の加熱発泡工程(c)を行うことができる。
【0036】
尚、上記の表層部53の厚みは、冷却固化した状態での常圧下に開放する時間によって調整することができる。即ち、この開放時間が長いほど、表層部53の厚みが大となり、開放時間が短いほど、表層部53の厚みは薄くなる。但し、この開放時間をあまり長くすると、不活性ガスがほとんど放出されてしまい、遮光性等の目的とする特性を得るに足る数の発泡セルを形成することが困難となってしまうので注意を要する。
【0037】
また、図3の例では、非発泡プリフォーム50の両面(外表面側及び内表面側)に表層部53が形成されているが、一方の面側(外表面側)にのみ表層部53を形成することもでき、一方側の表面にのみ発泡セルが分布していない表皮層を有する発泡領域Xを形成することができる。例えば、試験管形状の非発泡プリフォーム50の口部を閉じた状態で常圧下に開放したり、或いは板形状の非発泡プリフォーム50の一方の面(内面側)を適当な支持部材に密着させ、外表面のみを常圧の雰囲気に曝すことにより、一方側の面にのみ表層部53が形成され、従って、一方側の面にのみ表皮層を有する発泡領域Xを発泡成形体に形成することができる。
【0038】
次いで、上記のような表層部53が形成された非発泡プリフォーム50を、オイルバスや赤外線ヒータなどを用いて加熱することにより発泡成形を行う(工程(c))。この加熱により、不活性ガスが残存している非発泡プリフォーム50の内部において発泡を生じ、発泡セルAが分布した発泡層55を有する発泡領域Xが形成された発泡プリフォーム10(図1及び図2の発泡プリフォーム10に相当)が得られる。この場合において、非発泡プリフォーム50の表層部53では不活性ガスが存在していないかまたはその濃度が低い為に、加熱しても発泡しないかよほど注意深く観察しないと気泡が確認できない程度の実質的に発泡していない状態となり、発泡プリフォーム10中の発泡領域Xには発泡セルAが存在していない未発泡部分としてそのまま残り、表皮層57が形成されることとなる。
【0039】
発泡のための加熱の温度は、非発泡プリフォーム50を形成している樹脂のガラス転移点以上であり、このような加熱により、樹脂中に溶解している不活性ガスの内部エネルギー(自由エネルギー)の急激な変化がもたらされ、相分離が引き起こされ、気泡として樹脂体と分離するため発泡が生じることとなる。尚、この加熱温度は、当然、発泡プリフォーム60の変形を防止するために、融点以下、好ましくは200℃以下とするのがよい。この加熱温度が高すぎると、加熱後急激に発泡するためセル径の制御が難しくなり、外観も悪化し、さらには結晶化が進み二次成形性が低下する問題が発生する。
【0040】
上記のようにして発泡プリフォーム10中に形成される発泡領域X中に存在する発泡セルA(以下、球状発泡セルと呼ぶことがある)は実質的に球形状であり、等方に分布している。この発泡セルAの個数が多いほど、遮光性は高いが、球状である為、発泡セルAの厚み方向でのオーバーラップの程度は低く、この壁部を光が部分的に透過し、従って遮光性の程度は低い。しかるに、後述する延伸成形によって発泡セルAを引き伸ばして偏平状とすることにより、発泡セルの厚み方向でのオーバーラップの程度を高めることにより、光の散乱や多重反射の度合いを高め、遮光性が高められるわけである。
【0041】
ところで、発泡層5における球状発泡セルAのセル密度(表皮層7を除く領域での密度)は、前述した不活性ガスの溶解量に依存し、この溶解量が多いほど、セル密度を高くし、また球状発泡セルの径を小さくすることができ、溶解量が少ないほど、セル密度は小さく、発泡セルAの径は大きくなる。また、球状発泡セルAの径は、上記の加熱時間により調整することができ、例えば、発泡のための加熱時間が長いほど、球状発泡セルAの径は大きく、加熱時間が短いほど、球状発泡セルAは小径となる。
【0042】
従って、図1や図2で説明したボトル20を形成するための発泡プリフォーム10を得るためには、ガス溶解量に応じて、上記の加熱条件を制御し、発泡の度合いを調整する。即ち、何れの場合においても、未延伸部であり、非発泡領域Yとなる首部11については加熱を行わず、発泡セルAを形成させず、同時に、二次成形部(延伸される部分)についての加熱を選択的或いは加熱条件をコントロールすることが必要である。
【0043】
即ち、図1の発泡プリフォーム10を得る場合には、首部11と共に、二次成形部である胴部13及び底部15の一部(即ち、非発泡領域Yに相当する部分)を加熱せずに、他の部分を加熱する。例えば、オイルバスなどを用いて加熱を行う場合には、発泡領域Xに相当する二次成形部分のみを浸漬して加熱が行われ、赤外線ヒータなどを用いる場合には、発泡領域Xの周囲に赤外線ヒータを配置して選択的に加熱を行えばよい。
【0044】
また、図2の発泡プリフォーム10を得る場合には、二次成形部である胴部13及び底部15についてのみ選択的に加熱を行うが、この選択的加熱に際しては加熱勾配を設定することが必要となる。
【0045】
例えば、一定の温度に加熱するオイルバスや赤外線ヒータを用いる場合には、加熱すべき非発泡プリフォーム50を、首部11が加熱されない状態に保持しながら、加熱に伴って、漸次、上方に移動させるという手段を採用することができる。この場合には、下方部の加熱時間が上方部に比して長くなるため、下方部において発泡の度合いが高く、上方部では発泡の度合いが低くなる。これを利用して、軸方向Hに沿って、発泡の度合いが異なる領域H1,H2,H3を形成することができる。
【0046】
また、非発泡プリフォーム50の周囲に赤外線ヒータ等の加熱手段を配置して発泡のための加熱を行う場合、その位置に応じて加熱手段の出力を異なるように設定しておくことによって、発泡の度合いを調整することもできる。例えば、軸方向Hに沿って、上方に位置する加熱手段の出力を低く、下方に位置する加熱手段の出力を高く設定しておけば、下方領域において発泡の度合いが高く、上方の領域において発泡の度合いを低くすることができる。さらに、周方向Lに沿って出力を異なるように設定しておけば、周方向に沿って発泡の度合いを変化させることができる。
【0047】
また、この発泡工程(c)において、発泡のための加熱を非発泡プリフォーム50の一方の面側(特に内面側)から行う場合には、球状発泡セルAは、内面側から順次形成される。従って、これを利用して、前述した不活性ガスの放出(工程(b))を行わずに、外面側に球状発泡セルAが存在しない表皮層57を形成することができる。即ち、非発泡プリフォーム50の厚みの全体にわたって球状発泡セルAが形成されるまえの段階で、加熱を停止すれば、外面側のみに表皮層57を有する発泡プリフォーム10を得ることができる。
【0048】
また、図3(c)に示されている発泡プリフォーム10は、発泡セルAが分布していない2つの表皮層57,57の間に発泡層5が存在する3層構造を有しているが、図4に示されているように、中心部に発泡セルAが分布していない芯層59を有する層構造、即ち、表皮層57/発泡層55/芯層59/発泡層55/表皮層57の5層構造とすることもできる。このような芯層59の形成は、発泡によるガスバリア性の低下や強度低下を抑制する上で好適である。
【0049】
例えば、前述した不活性ガスの含浸工程(a)において、非発泡プリフォーム50の壁の中心部分にまでガスが浸透する前に、高圧の雰囲気を常圧に戻して含浸処理を停止すれば、上記のような5層構造を形成することができる。即ち、非発泡プリフォーム50の壁の中心部分には、発泡源となる不活性ガスが存在していないため、前述した不活性ガスの放出工程(b)及び発泡工程(c)を行うことにより、壁の中心部に球状発泡セルAが存在していない芯層59が形成され、外面側及び内面側のそれぞれに形成された表皮層57と芯層59との間に球状発泡セルAが分布した発泡層55が存在する5層構造の発泡領域Xを形成することができる。
【0050】
再び図3に戻って、本発明においては、上記の発泡工程(c)の後、ガス放出工程(d)において、発泡プリフォーム10に残存する不活性ガスを放出する。即ち、発泡工程(c)による加熱発泡が行われた後、直ちに延伸成形を行わず、一旦、発泡プリフォーム50を冷却固化状態に復帰させ、この状態で大気圧下に保持し、前述した工程(b)と同様にして不活性ガスを放出するわけである。上記のようにして得られた発泡プリフォーム50中の発泡セルA中には不活性ガスが包蔵されており、また、非発泡領域Yとすべき領域中にもガスが存在しているため、これをそのまま延伸成形した場合には、延伸成形に際しての加熱によって再び発泡が生じ、発泡セルAの成長や新たな発泡セルAの生成などが生じてしまい、前述した発泡加熱による発泡の度合いの調整が全く意味をなさなくなってしまうからである。例えば、図1の発泡プリフォーム10において、2次成形部中の非発泡領域Yでは、延伸成形時に発泡が生じてしまい、得られるボトル20では、胴部23の上部も発泡領域Xとなってしまう。また、図2の発泡プリフォーム10において、発泡の度合いを小さく設定すべき領域でも延伸成形時に発泡を生じてしまい、発泡の度合いが高められてしまう。しかるに、本発明では、延伸成形に先立って残存するガスを放出しておくため、延伸成形時の発泡が防止され、従って、発泡プリフォーム10に発泡領域Xを形成する際に発泡度合いを調整することにより、これをボトル20などの延伸成形体の延伸成形部に発現させることが可能となるのである。
【0051】
上記の説明から理解されるように、かかるガス放出工程(d)では、発泡プリフォーム10中の発泡セルAを成長させることなく、残存するガスを次の延伸成形工程(e)でセルが過度に成長しない程度にまで放出することが必要であり、このために、発泡プリフォーム10が冷却固化した状態で、大気圧下に長時間保持せしめる。具体的な条件は、発泡プリフォーム10の大きさ(特に発泡領域の大きさ)やガス含浸量などによっても異なり、一概に規定することはできないが、容器などを成形する場合には、一般に40℃以下の温度で、1日間以上、特に3乃至7日間程度、大気圧下に保持しておけばよい。
【0052】
本発明では、ガス放出を行った後に、発泡プリフォーム10を延伸成形工程(e)に供することにより目的とする発泡成形体、例えば図1や図2で示されるボトル20が得られる。この延伸成形は、それ自体公知の方法で行われ、樹脂のガラス転移温度(Tg)以上、結晶化温度未満の温度にプリフォームを加熱してのブロー成形或いはプラグアシスト成形に代表される真空成形などによって延伸され、これにより、球状の発泡セルAが偏平形状に変形した発泡セルBが分布した発泡層55を有する発泡領域Xが形成される。かかる延伸成形によれば、球状の発泡セルAが偏平状に引き伸ばされるため、厚み方向での発泡セルBの重なり度合いが増すため、発泡領域Xの遮光性は増大するが、発泡領域Xと非発泡領域Yとの位置関係や発泡領域Xでの発泡度合いの変化形態は、発泡プリフォーム10に形成されていたものがそのまま発現することとなる。
【0053】
即ち、上記の延伸発泡成形体(例えばボトル)20においては、発泡プリフォーム10に対応して発泡領域Xと発泡領域Yとを有しており、また発泡領域Xは、発泡プリフォーム10の発泡領域に対応した層構造を有しており、例えば図3では、発泡セルBが存在していない表皮層57と内部に発泡セルBが分布した発泡層55を有する3層構造が示されている。従って、図4に示す5層構造の発泡プリフォーム10を延伸成形したときには、発泡層55の中心部に発泡セルBが分布していない芯層を有する5層構造の延伸成形体が得られることとなる。
【0054】
延伸は、例えば最大延伸方向に沿った断面での発泡セルBの厚みtや長径Lが適当な範囲となるように、発泡プリフォーム10中の球状発泡セルAの径やセル密度などに応じて、適度な延伸倍率で行われ、例えば、軸方向(高さ方向)及び周方向の二軸方向に延伸されるブロー成形では、通常、この方向での延伸倍率が2乃至4倍程度となるように延伸され、軸方向のみについて一軸方向に延伸が行われるプラグアシスト成形などでは、この方向での延伸が最大延伸方向となり、上記と同様の延伸倍率で延伸が行われることが好適である。
【0055】
尚、上述した方法によって延伸発泡成形体を製造するにあたっては、不活性ガスの溶解量が増大するにしたがい、樹脂のガラス転移点は直線的或いは指数関数的に減少する。また、ガスの溶解によって樹脂の粘弾性も変化し、例えばガス溶解量の増大によって樹脂の粘度が低下する。従って、このような不活性ガスの溶解量を考慮して、各種条件を設定すべきである。
【0056】
本発明においては、上記のようにして製造されるプラスチック成形体(延伸発泡成形体)では、延伸成形時での発泡セルAの成長や新たな発泡セルの生成が有効に抑制されているため、球状発泡セルAが引き伸ばされて偏平状発泡セルBが形成されて遮光性が高められることを除けば、延伸成形に供される発泡プリフォーム10に形成されている発泡領域Xがそのまま延伸成形体20に発現される。
【0057】
尚、本発明において、延伸成形体20は、ボトルやカップ形状の容器であってよく、シート乃至フィルム形状であってもよく、用途に応じた任意の形状であってよい。
【0058】
また、延伸成形部に形成する発泡領域Xの遮光性を最も高めるためには、例えば、発泡プリフォーム10において、発泡層55における球状発泡セルAのセル密度が10乃至1010cells/cm程度とし、平均径が3乃至50μm程度となるように、ガス溶解量に応じて加熱温度や加熱時間を設定することが好適であり、このようなセル密度及びセル径を有する発泡プリフォーム10を延伸成形し、かかる発泡領域Xでの発泡セルBの最大延伸方向に沿った断面での厚みtの平均が1乃至15μm、及び最大延伸方向での長さLが10乃至400μm程度となるように各種条件を設定し、且つ厚み方向にオーバーラップする偏平状発泡セルBの個数を17個以上、好ましくは30個以上、最も好適には50個以上に設定するのがよい。このような発泡領域Xは、遮光性が著しく高く、紙容器にも匹敵する遮光性を示す。従って、軸方向H或いは周方向Lに沿って発泡度合いを調整する場合には、最も発泡の度合いが高い部分が上記条件を満足するように設定し、これを基準として、他の部分での発泡度合いを調整するのがよい。
【0059】
本発明においては、延伸成形部に遮光性を有する発泡領域Xと遮光性を有しておらず、透明な非発泡領域Yとを形成することができるばかりか、発泡領域X内での発泡度合い(透明性)を変化させることもでき、外観の自由度が高く、極めて意匠性の優れたプラスチック成形体を得ることができる。
【実施例】
【0060】
本発明を次の実験例で説明する。
(実施例1)
市販のボトル用PET樹脂(ポリエチレンテレフタレート)を用いて、射出成形により試験管状で胴部肉厚約3mmの500mlボトル用プリフォームを作製した。このプリフォームを30℃の耐圧容器内に設置し、圧力15MPaの二酸化炭素ガス雰囲気下で2時間保持して二酸化炭素ガスの含浸を行った。その後大気圧まで減圧し圧力容器内からプリフォームを取り出した。さらにプリフォームの口部を除いた胴部における底部側下半分の外面を90℃の湯中に10秒間浸漬して発泡させた後、冷水で冷却することで、プリフォーム胴部下半分が発泡した部分発泡プリフォームを得た。
このようにして得られた部分発泡プリフォームを室温、大気圧雰囲気下で1週間保持して残存ガスの放出を行なった後、延伸ブロー成形機内で赤外線ヒータにより約105℃まで加熱し、ブロー成形して内容量500mlのボトルに成形した。延伸ブロー成形は通常のプリフォームとほぼ同等の条件で成形可能であり、形状の異方性や肉厚ムラがなく良好だった。また得られた発泡PETボトルは、下半分が扁平状発泡セルによりパール調外観を有し、上半分は透明であり、意匠性および内容物視認性に優れた発泡ボトルであった。
【0061】
(実施例2)
実施例1と同様にして二酸化炭素ガスが含浸したプリフォームを得て、プリフォームの口部を除いた胴部における底部側から約85%の領域の外面を90℃の湯中に浸漬して発泡させた後、冷水で冷却して発泡プリフォームを得た。なお湯中への浸漬の際には、底部から順に10秒間かけて一定速度で湯中に浸漬させることで、プリフォーム面方向での加熱履歴が上方に向かって小さくなるようにして、加熱発泡を行った。
次いで実施例1と同様に残存ガスの放出を行った後、ボトルに成形した。延伸ブロー成形は通常のプリフォームとほぼ同等の条件で成形可能であり、形状の異方性や肉厚ムラがなく良好だった。また得られた発泡PETボトルは、底部から口部に向かって段階的に白色度が薄くなっており、意匠性に優れた発泡ボトルであった。
また、ボトル胴部断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、内外面に表皮層(非発泡)とその夫々の内側に発泡層、さらにその内側に基体層(非発泡)からなる5層構造を有しており、発泡層においては延伸方向に長く伸びた扁平形状セルが観察された。さらにボトル上下方向の各領域において、厚み方向でのセル数を測定しその平均値を評価したところ表1に示すとおり、底部から口部に向かって厚み方向のセル数が段階的に少なくなっていることがわかった。
またさらに、分光光度計((株)島津製作所UV−3100PC)を用い、積分球式測定法により波長500nmにおける全光線透過率を測定したところ、表1に示すとおり底部から口部に向かって段階的に全光線透過率が大きくなっていることが確認できた。
【0062】
【表1】

【0063】
(比較例1)
実施例1と同様にしてプリフォーム胴部下半分が発泡した部分発泡プリフォームを得た後、残存ガスの放出を行なわずに直ちにブロー成形したところ、延伸ブロー成形機内での加熱によりプリフォーム胴部上半分にも新たに発泡セルが生成してしまい、胴部全体が発泡したボトルが得られた。
また、延伸ブロー成形機内でのプリフォーム加熱工程において、発泡セルが過度に成長してイボ状に膨らむブリスター不良、延伸成形工程時に発泡セルが破裂するバースト不良や表皮層にヒビが入る表皮層割れの不良が発生した。これらの問題はヒータ出力を低くしてゆっくりと時間をかけて加熱したり、プリフォーム温度が低めになるよう設定することで改善傾向にあったが、成形速度を低下させる問題や成形可能範囲が狭いなどの問題があり、成形安定性に劣る問題があった。
【0064】
(比較例2)
実施例2と同様にして、発泡工程時の加熱履歴がプリフォーム面方向で底部から上方に向かって小さくなるようにして成形した発泡プリフォームを得た後、残存ガスの放出を行なわずに直ちにブロー成形したところ、延伸ブロー成形機内での加熱による発泡セルの再成長や新たな発泡セルの生成に伴って、ボトル胴部全体が発泡したボトルが得られた。目視観察ではボトル上下方向で外観上の違いは確認できなかった。
また、比較例1と同様に成形安定性に劣る問題があった。
【0065】
(比較例3)
実施例1と同様にして二酸化炭素ガスが含浸したプリフォームを得て、直ちに延伸ブロー成形機によりボトルを成形した。このとき、延伸成形機内の赤外線ヒータの出力を調整してプリフォーム上下方向に加熱分布を与え、容器胴部上下方向で発泡状態の異なる発泡ボトルの成形を試みたが、所望のボトルは得られなかった。すなわち、胴部の一部を発泡程度の低いものにする為にヒータ出力を小さくすると、加熱不足で延伸成形が行えない問題があった。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明のプラスチック成形体の代表例であるボトル及び該ボトルの成形に用いる発泡プリフォームを示す図。
【図2】本発明のプラスチック容器の代表例であるボトル及び該ボトルの成形に用いる発泡プリフォームの他の例を示す図。
【図3】本発明のプラスチック成形体の製造プロセスの基本概念を示す図。
【図4】本発明のプラスチック成形体の成形に用いる発泡プリフォームの発泡領域での器壁断面構造の例を示す図。
【符号の説明】
【0067】
10:発泡プリフォーム
20:ボトル
A,B:発泡セル
X:発泡領域
Y:非発泡領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が延伸成形されたプラスチック成形体において、
上記延伸成形されている部分には、面方向でみて発泡セルが形成されている発泡領域と発泡セルが形成されていない非発泡領域とを有している部分発泡プラスチック成形体。
【請求項2】
前記部分発泡プラスチック成形体が、胴部及び底部が延伸成形された容器である請求項1に記載の部分発泡プラスチック成形体。
【請求項3】
少なくとも一部が延伸成形されたプラスチック成形体において、
上記延伸成形されている部分の少なくとも一部には、その壁部に発泡セルが分布している発泡領域が形成されており、
前記発泡領域に存在している発泡セルは、厚み方向のセル数が、面方向で異なるように分布していることを特徴とする発泡プラスチック成形体。
【請求項4】
前記発泡プラスチック成形体が、胴部及び底部が延伸成形された容器であり、該胴部に分布している発泡セルは、厚み方向のセル数が、高さ方向或いは周方向で異なるように分布している請求項3に記載の発泡プラスチック成形体。
【請求項5】
ガスが含浸された樹脂成形体からなり、且つ二次成形部を有する一次成形体を用意し、
前記一次成形体の二次成形部の一部を選択的に加熱して発泡を行なうことにより、二次成形部に発泡領域と非発泡領域とが形成された部分発泡一次成形体を作製し、
前記部分発泡一次成形体に残存するガスを放出し、
ガスが放出された部分発泡一次成形体の二次成形部を加熱延伸成形すること、
を特徴とする部分発泡プラスチック成形体の製造方法。
【請求項6】
ガスが含浸された樹脂成形体からなり、且つ二次成形部を有する一次成形体を用意し、
前記一次成形体の二次成形部を、面方向での加熱条件が異なるように加熱して発泡を行なって発泡一次成形体を作製し、
前記発泡一次成形体に残存するガスを放出し、
ガスが放出された発泡一次成形体の二次成形部を加熱延伸成形すること、
を特徴とする発泡プラスチック成形体の製造方法。
【請求項7】
前記一次成形体が、容器成形用プリフォームであり、二次成形部が胴部である請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項8】
容器成形用プリフォームにおいて、
少なくとも一部の壁部には発泡セルが分布している発泡領域が形成されており、
前記発泡領域に存在している発泡セルは、厚み方向のセル数が、面方向で異なるように分布していることを特徴とする容器成形用発泡プリフォーム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−248413(P2009−248413A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97859(P2008−97859)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】