説明

発泡樹脂成形品の成形方法並びにその成形金型

【課題】カウンタープレッシャー工法により所要形状に成形され、スピーカグリル等のグリル孔を多数開設した発泡樹脂成形品の成形方法並びにその成形金型であって、型加工費を高騰化させることなく、製品端末近傍の凹凸形状部の成形性をアップさせる。
【解決手段】スピーカグリル20を成形するためのグリル孔形成用入子54の外周面と固定側金型50の型面との間の間隙54aに真空吸引機構60の真空吸引用配管61を連通させて、発泡樹脂材料Mの発泡成形時にキャビティCに滞るエアを上記間隙54aを通じて外部に排気することで、発泡樹脂材料Mの最終充填位置A付近の複雑な凹凸形状部(スピーカリング)21の成形性を高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スピーカグリル等の多数のグリル孔を開設してなる発泡樹脂成形品の成形方法並びにその成形金型に係り、特に、発泡樹脂材料の最終充填位置近傍においても複雑な形状の成形が可能となり、造形自由度を高めた発泡樹脂成形品の成形方法並びにその成形金型に関する。
【背景技術】
【0002】
図12は、車両のスライドドア(図示せず)の室内面側に装着されるドアトリム1を示す正面図であり、このドアトリム1は、軽量でかつ剛性が強固であり、しかも、耐衝撃性能に優れ、コストが廉価なことから、ポリプロピレン(PP)発泡体等の発泡樹脂成形品が多く使用される傾向にある。更に、このドアトリム1の表面下側には、備品を収容できるドアポケット1aが開設されており、そのフロント側には、多数のグリル孔2aを開設したスピーカグリル2が設けられている。次に、発泡樹脂成形品を素材としたドアトリム1の成形方法について以下説明する。まず、図13に示す成形金型3を使用して、発泡樹脂成形品であるドアトリム1を成形するが、この成形金型3は、可動側金型4と固定側金型5とから大略構成されており、可動側金型4は、昇降シリンダ4aに連結され、昇降シリンダ4aの駆動により所定ストローク上下動作を行なう。
【0003】
一方、固定側金型5には、連結する射出機5aから供給される発泡樹脂材料Mの通路となるホットランナ5b、ゲート5cが設けられており、射出機5aからホットランナ5b、ゲート5cを通じて、両金型4,5間に形成されるキャビティC内に発泡樹脂材料Mが射出充填される。そして、可動側金型4と固定側金型5のそれぞれの型面形状はドアトリム1の製品形状に合致して設定されており、このドアトリム1にスピーカグリル2を一体成形するために、可動側金型4及び固定側金型5にはそれぞれグリル孔2aを開設する入子6,7が取り付けられている。
【0004】
また、最近の発泡樹脂成形品の成形方法は、製品表面にシルバーストリーク等の外観不良が生じることがないように、発泡樹脂材料Mの供給時にはキャビティCの内圧を高く維持して、発泡反応を抑えながら発泡樹脂材料Mを供給するカウンタープレッシャー工法が採用されている。従って、可動側金型4と固定側金型5とを型締めした後、キャビティC内に圧空エアを供給した後、射出機5a、ホットランナ5b、ゲート5cを通じてキャビティC内に発泡樹脂材料Mを供給し、その後、可動側金型4を微小ストローク後退操作して、発泡スペースを確保し、キャビティCの内圧を低下させて発泡反応を行なわせることで、所望厚みのドアトリム1を精度良く成形している。尚、図14は、ドアトリム1におけるスピーカグリル2近傍部分を示す金型構造であり、可動側金型4及び固定側金型5にそれぞれ配置した入子6,7によりスピーカグリル2のグリル孔2aが多数開設されるとともに、スピーカグリル2の外周に沿ってシャープなコーナー形状が要求されるスピーカリング2bが形成されている。
【0005】
ここで、発泡樹脂成形品の成形方法において、発泡樹脂材料MをキャビティC内に射出充填した後、可動側金型4を後退操作させて発泡スペースを確保した状態で発泡成形を行なう従来工法としては特許文献1に詳細に示されているとともに、金型4,5内に入子6,7を配置して、発泡樹脂成形品の成形と同時にスピーカグリル2のグリル孔2aを一体成形する従来例としては特許文献2に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−120252号公報
【0007】
【特許文献2】特開2001−260190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、発泡樹脂成形品をベースとしたドアトリム1を成形する従来方法のカウンタープレッシャー工法を使用する場合には、例えば、スピーカグリル2の外周に位置するスピーカリング2bのように、ゲート5cから遠隔地点となる発泡樹脂材料Mの最終充填位置近傍の凹凸形状部に高圧のエア溜まりが発生し易い。すなわち、発泡樹脂材料Mを初期投入した際には、図15(a)中aで示す凝縮した微小なエア溜まりが発生し、可動側金型4を後退操作して、可動側金型4と固定側金型5とのクリアランスを微小ストローク確保して発泡成形を行なう際には、図15(b)に示すように、エア溜まりの復元力が発泡力を上まわり、エア溜まりaが膨張してしまい、シャープなコーナー形状が要求されるスピーカリング2bを体裁良く成形することができないという欠点が指摘されている。
【0009】
このエア溜まりaを解消するために、例えば、可動側金型4にバキューム機構を付設するか、あるいは可動側金型4をポーラス型で構成して対策した場合には、型加工費が高騰するという欠点がある。同様に、固定側金型5に真空吸引機構を与えるためにバキューム吸引孔を開設する場合においても型構造が複雑になり、型加工費が高騰するという欠点がある。
【0010】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、発泡樹脂成形品を成形する工法として、発泡樹脂材料を射出充填する前に圧空エアを供給するカウンタープレッシャー工法を採用するとともに、発泡樹脂材料の射出充填後、可動側金型を微少ストローク後退操作する工法であり、発泡樹脂材料の最終充填位置近傍の凹凸形状部に高圧のエア溜まりが発生し易いという従来欠点を簡単かつ廉価な型構造で対応することで、造形自由度を高めた発泡樹脂成形品の成形方法並びにその成形金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明者等は、鋭意研究の結果、スピーカグリル等のグリル孔を開設するための入子の外周面と金型との間の間隙を真空吸引用通路として使用できることに着目し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、可動側金型と固定側金型との間に画成されるキャビティ形状に沿って発泡樹脂成形品を所要形状に成形するとともに、可動側金型と固定側金型にそれぞれ配置したグリル孔形成用入子により、スピーカグリルを一体に形成した発泡樹脂成形品の成形方法において、可動側金型と固定側金型とを型締めして画成されるキャビティ内に圧空エアを供給した状態で発泡樹脂材料を射出充填する発泡樹脂材料の射出充填工程と、可動側金型を型開方向に微小ストローク後退操作して、キャビティの内圧を調整して発泡成形を行なわせ、発泡樹脂成形品を所要形状に発泡成形する発泡樹脂成形品の発泡成形工程とからなり、上記発泡樹脂成形品の発泡成形工程において、固定側金型の型面とグリル孔形成用入子の外周面との間の間隙を通じて、キャビティ内のエアを真空吸引機構により外部に排気することで、発泡樹脂材料の最終充填位置近傍の凹凸形状部を精度良く成形するようにしたことを特徴とする。
【0013】
ここで、発泡樹脂成形品を成形するために使用する成形金型は、可動側金型と固定側金型とから構成されている。上記可動側金型は、昇降シリンダの動作により、型開き位置から型締め位置(下死点)まで型締め動作を行なう。更に、発泡樹脂材料の発泡スペースを確保するために型締め位置から微小ストローク後退させ、その後、型開き位置まで型開操作する。すなわち、可動側金型は型開き位置、型締め位置、型締め位置からややクリアランスを確保した発泡位置の3つのポジションをとることになる。一方、固定側金型には、射出機が連結されており、この射出機から供給される発泡樹脂材料の通路として、固定側金型にはホットランナ、ゲートが設けられている。すなわち、射出機から供給される発泡樹脂材料は、ホットランナ、ゲートを通じて金型のキャビティ内に射出充填される。
【0014】
更に、本発明においては、発泡樹脂成形品をキャビティ形状に沿って所要形状に成形するとともに、スピーカグリル等の多数のグリル孔を一体成形するために、可動側金型及び固定側金型の対応位置にそれぞれ接合面に多数の凹凸を備えたグリル孔形成用入子が設けられており、特に、固定側金型に配設されるグリル孔形成用入子の外周面と固定側金型の型面との間の間隙を真空成形時の抜気通路として、この間隙と連通する真空吸引用配管を有する真空吸引機構を成形金型に配置したことが構造上の特徴である。また、この真空吸引機構における真空吸引用配管を配置する部位としては、発泡樹脂材料の最終充填位置から200mm以内に設定することが望ましい。また、グリル孔形成用入子の外周面と固定側金型の型面との間隙は0.1mm以下に設定されている。
【0015】
上記発泡樹脂成形品の素材としては、熱可塑性樹脂中に発泡剤が混入されたものを使用する。例えば、使用する熱可塑性樹脂は、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アイオノマー系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂等から適宜選択される。そして、熱可塑性樹脂に対して混入する発泡剤としては、アゾジカルボンアミド等の有機発泡剤、あるいは重炭酸ナトリウム等の無機発泡剤を使用している。
【0016】
以上の構成から明らかなように、可動側金型と固定側金型との型締め動作により画成されるキャビティ内に圧空エアを供給した後、発泡樹脂材料を射出充填し、その後、可動側金型を型開き方向に後退動作させて発泡スペースを確保した状態で発泡反応を行なわせる際、グリル孔形成用入子の外周面と固定側金型の型面との間の間隙を通じて、発泡樹脂材料の最終充填位置近傍の凹凸形状部に溜まり易いエアを強制的に外部に排気できるため、スピーカグリル外周のスピーカリング等を精度良く形状出しすることができ、型加工費の高騰化を招くことなく、成形性能を高めることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明した通り、本発明に係る発泡樹脂成形品の成形方法並びにその成形金型は、成形金型のキャビティ内に発泡樹脂材料を射出充填した後、可動側金型を後退動作させて所定厚みの発泡スペースを確保して、発泡成形する際、特に、スピーカグリル等のグリル孔を一体成形するために配置されるグリル孔形成用入子の外周面と固定側金型の型面との間の間隙を有効に利用して、エアが溜まり易い凹凸形状部のエアを有効に排気処理することができるため、従来シャープな形状出しが困難であったスピーカリング等を簡単な型構造で廉価にしかも精度良く成形できるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明方法を適用して製作したドアトリムを示す正面図である。
【図2】図1中II−II線断面図である。
【図3】本発明方法に使用する成形金型の全体構成を示す概要図である。
【図4】図3に示す成形金型における固定側金型の型面形状を示す平面図である。
【図5】図3に示す成形金型におけるスピーカグリル対応部分の構成を示す説明図である。
【図6】本発明方法を適用したドアトリムの成形方法における発泡樹脂材料の充填工程を示す説明図である。
【図7】図6に示す発泡樹脂材料の充填工程における樹脂の流動状態を示す説明図である。
【図8】図6に示す発泡樹脂材料の充填工程におけるスピーカリング付近の樹脂の流動状態を示す説明図である。
【図9】本発明方法を適用したドアトリムの成形方法における発泡成形工程を示す説明図である。
【図10】図9に示す発泡成形工程におけるエア抜き状態を示す説明図である。
【図11】本発明方法の変形例を示すもので、クリップ座成形用の中子に真空吸引機構を付設した型構造を示す説明図である。
【図12】スライドドアに装着する従来のドアトリムを示す正面図である。
【図13】従来のドアトリムを成形する際に使用する成形金型の構成を示す説明図である。
【図14】従来のドアトリムの成形方法におけるスピーカグリル部成形時の状態を示す説明図である。
【図15】従来のドアトリムにおけるスピーカリング部分の不具合を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る発泡樹脂成形品の成形方法並びにその成形金型の実施例について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。尚、念のため付言すれば、本発明の要旨は特許請求の範囲に記載した通りであり、以下に説明する実施例の内容は、本発明の一例を単に示すものに過ぎない。
【実施例】
【0020】
図1乃至図11は本発明の一実施例を示すもので、図1は本発明方法を適用して製作したドアトリムを示す正面図、図2は同ドアトリムにおけるスピーカグリル部近傍を示す断面図、図3は同ドアトリムを成形する際に使用する成形金型の全体構成を示す説明図、図4は同成形金型における固定側金型の型面形状を示す説明図、図5は同成形金型におけるグリル孔形成用入子近傍の構成を示す説明図、図6乃至図10は本発明方法を適用したドアトリムの成形方法における各工程を示す説明図、図11は本発明方法に使用する成形金型の変形例を示す説明図である。
【0021】
図1,図2において、自動車用ドアトリム10は、車両のスライドドア(図示せず)の室内面側にクリップ等の固着手段を介して取り付けられており、このドアトリム10は、スライドドアのスライド動作時、相手部品と干渉することがないように、略フラット形状に設定されており、軽量でしかも側突時等に対応できるように適度な剛性を備え、かつ衝撃吸収機能を有するように、発泡樹脂成形品を素材として使用している。また、ドアトリム10は、機能性を高めるために、表面下側にドアポケット11が開設されているとともに、そのフロント側には、スピーカグリル20が一体に設けられている。このスピーカグリル20は、多数のグリル孔20aが縦横交差する方向に沿って複数個開設されており、スピーカグリル20の外周にスピーカリング21が室内側に向けて突出するように形成されている。尚、このスピーカリング21は意匠性を考慮して、シャープなコーナー形状を備えるように成形されるのが一般的である。
【0022】
特に、本発明においては、スピーカグリル20の外周に位置するスピーカリング21において簡易な型構造で良好な外観見栄えが確保されている。尚、ドアトリム10の素材としては、合成樹脂中に発泡剤が混入された発泡樹脂成形品が使用されており、使用できる合成樹脂は、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アイオノマー系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂等から適宜選択される。また、発泡剤としては、アゾジカルボンアミド等の有機発泡剤、あるいは重炭酸ナトリウム等の無機発泡剤が使用できる。
【0023】
次に、図3乃至図5に基づいて、成形金型30の構成について説明する。成形金型30は、可動側金型40と固定側金型50とから大略構成されている。更に詳しくは、可動側金型40は、昇降シリンダ41に連結され、この昇降シリンダ41の動作により所定ストローク上下動可能に制御され、可動側金型40は、図3に示す型開放位置と、発泡樹脂材料Mを射出充填するためにキャビティCを画成する下死点まで下降する型締め位置と、型締め位置から所定ストローク後退させて発泡成形を行なわせるための発泡位置の3つのポジションをとるように制御される。
【0024】
一方、固定側金型50は、射出機51が連設され、この射出機51から供給される発泡樹脂材料Mは、ホットランナ52、ゲート53を通じて可動側金型40と固定側金型50の型締めにより供給されるキャビティC内に射出充填される。可動側金型40及び固定側金型50は、型締め時にキャビティC内に発泡樹脂材料Mを射出充填することで、ドアトリム10を所要形状に成形できるように、所定の型面形状に設定されているとともに、ドアトリム10にスピーカグリル20を一体成形するために、可動側金型40にグリル孔形成用入子42が配置されているとともに、それと対応するように、固定側金型50においてもグリル孔形成用入子54が配置されている。特に、本発明においては、固定側金型50に設置するグリル孔形成用入子54の外周面と、固定側金型50の型面との間に0.1mm以下の間隙54aを意識的に設け、この間隙54aに真空吸引機構60を作用させたことが特徴である。すなわち、この間隙54aに連通するように真空吸引機構60における真空吸引用配管61が配管され、この真空吸引用配管61は、真空ポンプ62に接続され、真空吸引用配管61に開閉弁63が設けられている。
【0025】
このように、本発明方法に使用する成形金型30は、ドアトリム10にスピーカグリル20を一体成形するグリル孔形成用入子42,54を配置する一方、固定側金型50に配置するグリル孔形成用入子54と固定側金型50との間の間隙54aを真空吸引用通路としてこれに連通するように真空吸引機構60を配置するという簡単な型構造であり、特に、金型に真空吸引孔を開設するという面倒な型加工が不要となり、廉価に実施できる。更に、本発明方法に使用する成形金型30は、図4に示すように、4箇所にゲート53が配置されており、4箇所のゲート53からそれぞれ発泡樹脂材料MがキャビティC内の隅々にゆきわたるように充填されるが、特に、発泡樹脂材料Mの最終充填位置(図4中Aで示す)近傍の凹凸形状部であるスピーカリング21においては、コーナー部分にR垂れが発生することがなく、精度の良いスピーカリング21の形状出しが行なわれる。そのために、真空吸引機構60における真空吸引用配管61が図4,図5に示すように、発泡樹脂材料Mの最終充填位置Aから200mm以内の箇所に設けられている。尚、スピーカグリル20の外周に位置するスピーカリング21を成形するために、可動側金型40には凹部40a、固定側金型50には凸部50aがそれぞれ対応して設けられている。
【0026】
次に、図6乃至図10に基づいて、ドアトリム10の成形方法について具体的に説明する。まず、図6に示すように、可動側金型40が昇降シリンダ41の駆動により所定ストローク下降して、可動側金型40と固定側金型50とが型締めされる。そして、可動側金型40と固定側金型50との間の型締めが完了すれば、図示しない外部エア供給機構からキャビティC内にエアが供給され、キャビティCの内圧が所定の高圧に維持され、その状態で射出機51から発泡樹脂材料Mがホットランナ52、ゲート53を通じてキャビティC内に射出充填される。従って、キャビティCの内圧が高いため、発泡樹脂材料Mは発泡反応が生じることがなく、キャビティC内に迅速に供給されることから、製品表面にシルバーストリーク等の外観不良が発生しない。また、ゲート53は、本発明に係る成形金型30においては4箇所に設定されており、4箇所のゲート53から発泡樹脂材料Mが図7中矢印方向に流動するが、スピーカグリル20外周に位置するスピーカリング21に対応する金型部分(可動側金型40の凹部40a並びに固定側金型50の凸部50a)においても、図8に示すように発泡樹脂材料Mが流動して、発泡樹脂材料Mの樹脂圧によりエアが矢印方向に流れる。
【0027】
そして、キャビティC内に発泡樹脂材料Mが射出充填された後、図9に示すように、可動側金型40が昇降シリンダ41の駆動により、微小ストローク型開方向に動作して、クリアランスが若干大きく確保されて発泡反応が行なわれる。この時、図10に示すように、固定側金型50に配置されているグリル孔形成用入子54の外周面と固定側金型50の型面との間の間隙54aを通じて、キャビティC内のエアが外部に排気されるため、特に、エアが溜まり易いスピーカリング21においても、エアを迅速に外部に排気することができ、最終充填位置A近傍部分の複雑な凹凸形状部であるスピーカリング21についてもコーナー部分の形状出しをシャープに行なうことができる。
【0028】
このように、本発明方法を使用すれば、スピーカグリル20を成形するために使用するグリル孔形成用入子54の外周面と固定側金型50の型面との間の間隙54aを真空吸引用通路として有効に利用することで、真空吸引孔を金型に開設する必要がなく、簡単な型構造で精度の良い形状出しができ、スピーカグリル20やスピーカリング21の造形自由度を向上させることができるという効果がある。
【0029】
また、図11に示すように、スピーカグリル20を成形するためのグリル孔形成用入子54の他にも、ドアトリム10に一体成形するクリップ座22を成形するための中子55のスペース55aに真空吸引機構60の真空吸引用配管61を連通させることで、クリップ座22の成形時にこの部位にエア溜まりが生じることがなく、クリップ座22において精度の良い形状出しを行なうことができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上説明した実施例は、スライドドアの室内面側に装着されるドアトリム10に適用したが、用途はこれに限定されることなく、発泡樹脂成形品全般に適用できる。また、可動側金型40側にコア部、固定側金型50側にキャビティ部を設定することができるとともに、発泡樹脂材料Mの最終充填位置A近傍の複雑な形状部であればスピーカリング21に限定されない。
【符号の説明】
【0031】
10 自動車用ドアトリム
20 スピーカグリル
20a グリル孔
21 スピーカリング
22 クリップ座
30 成形金型
40 可動側金型
40a 凹部
41 昇降シリンダ
42 グリル孔形成用入子
50 固定側金型
50a 凸部
51 射出機
52 ホットランナ
53 ゲート
54 グリル孔形成用入子
54a 間隙
55 中子
60 真空吸引機構
61 真空吸引用配管
62 真空ポンプ
63 開閉弁
A 最終充填位置
C キャビティ
M 発泡樹脂材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動側金型(40)と固定側金型(50)との間に画成されるキャビティ(C)形状に沿って発泡樹脂成形品(10)を所要形状に成形するとともに、可動側金型(40)と固定側金型(50)にそれぞれ配置したグリル孔形成用入子(42,54)により、スピーカグリル(20)を一体に形成した発泡樹脂成形品(10)の成形方法において、
可動側金型(40)と固定側金型(50)とを型締めして画成されるキャビティ(C)内に圧空エアを供給した状態で発泡樹脂材料を射出充填する発泡樹脂材料(M)の射出充填工程と、
可動側金型(40)を型開方向に微小ストローク後退操作して、キャビティ(C)の内圧を調整して発泡成形を行なわせ、発泡樹脂成形品(10)を所要形状に発泡成形する発泡樹脂成形品(10)の発泡成形工程とからなり、
上記発泡樹脂成形品(10)の発泡成形工程において、固定側金型(50)の型面とグリル孔形成用入子(54)の外周面との間の間隙(54a)を通じて、キャビティ(C)内のエアを真空吸引機構(60)により外部に排気することで、最終充填位置(A)近傍の凹凸形状部(21)を精度良く成形するようにしたことを特徴とする発泡樹脂成形品の成形方法。
【請求項2】
スピーカグリル(20)を一体に形成した発泡樹脂成形品(10)を成形する発泡樹脂成形品(10)の成形金型(30)であって、前記成形金型(30)は、所定ストローク可動する可動側金型(40)と、発泡樹脂材料(M)を供給する射出機(51)と連設する固定側金型(50)と、可動側金型(40)及び固定側金型(50)にそれぞれ配置されるスピーカグリル(20)のグリル孔(20a)を開設するグリル孔形成用入子(42,54)とから構成され、前記固定側金型(50)の型面とグリル孔形成用入子(54)の外周面との間隙(54a)を真空吸引用通路として利用でき、発泡樹脂材料(M)の最終充填位置(A)近傍の凹凸形状部(21)に滞留するエアを外部に排気するための真空吸引機構(60)が配設されていることを特徴とする発泡樹脂成形品の成形金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−201759(P2010−201759A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48993(P2009−48993)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(000124454)河西工業株式会社 (593)
【Fターム(参考)】