説明

発泡用樹脂組成物及びリグニン含有高分子発泡体

【課題】内部に均一な気泡が存在し不快な臭いが抑制されている上に、焼却処理した場合の炭酸ガスの発生量が削減されていると見做されるだけでなく、炭素を貯蔵しているとして今後評価される可能性のあるリグニン含有高分子発泡体及びそれを得るための発泡用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】高分子物質と、該高分子物質100質量部に対して5質量部以上100質量部以下のリグニン及び1質量部以上30質量部以下の発泡剤と、を含有する発泡用樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグニンを含む発泡用樹脂組成物及びそれを発泡してなるリグニン含有高分子発泡体に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子発泡体は、各種製品の包装材として幅広く大量に使用されているが、それだけに使用済みの包装材の処理が問題となっている。包装材の焼却処理もその一つであるが、焼却に伴って必然的に炭酸ガスが発生するので、焼却処理は地球温暖化の元凶と言われている空気中の炭酸ガス濃度の増加の一因となることは否めない。
【0003】
しかし、使用済みの包装材を焼却処理せざるを得ないときでも、包装材中に植物由来の成分が含まれていれば、焼却によって炭酸ガスが発生しても、植物由来の成分の含有量に応じて、炭酸ガスの発生量は割り引いて考えられるだけでなく、当該発泡体が製品として使われている間は炭素を貯蔵しているとして今後評価される可能性もあるので、植物由来の成分を含有する実用的な包装材を開発することには大きな意味がある。
【0004】
植物由来の成分として従来から採用が検討されているものとしては、デンプン、セルロース、デンプンを原料として得られる乳酸からのポリ乳酸、木粉等があるが、他に、これらに比較して検討が盛んとはいえないものの、リグノセルロースの構成成分であるリグニンがある。
従来から大量に入手可能なリグニンと言えば、木材を構成するリグノセルロースからパルプを製造するに際し、副生物として得られるリグニンスルホン酸がある。しかし、該リグニンスルホン酸と高分子物質と発泡剤とを溶融混練して得られる樹脂組成物から加熱下に高分子発泡体を製造すると、主としてリグニンに結合しているスルホン基及び付着している硫酸またはその塩の影響で高分子物質の発泡倍率が望み通りに向上せず、気泡の大きさも不均一になるだけでなく、発泡体の使用時に高分子物質の加水分解を引き起こす場合もあるので、必ずしも前記高分子発泡体は包装材としては適しているとは言えない。
【0005】
更に、前記包装材を焼却した場合には、リグニンに結合しているスルホン基及び付着している硫酸に起因して硫黄酸化物が生成し、燃焼ガスの処理がなければ、大気中に飛散して環境汚染の原因の一つになりかねない。
しかし、これらの難点が改良されれば、植物由来の成分を含有している分、炭酸ガスの貯蔵及び焼却時に発生する炭酸ガス量の削減を通して、空気中の炭酸ガスの増加の抑制に寄与できる材料となる。
【0006】
上記に関しては、ポリオレフィン系合成樹脂に発泡剤としてアゾジカーボンアミドを配合した場合の、押出発泡時のアゾジカーボンアミドの分解残渣の押出機内壁への固着を防止するため、微量のリグニンまたはリグニン誘導体を含有させた押出発泡用合成樹脂組成物が開示されている(例えば特許文献1参照)。
また、安価で物性に優れたポリウレタンとして、ポリウレタンの分子鎖中にリグニンスルホン酸またはその部分中和塩を組み込んだポリウレタン及びその製造方法が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭52−510号公報
【特許文献2】国際公開第02/102873号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、リグニンを含有させて高分子発泡体を製造しても、リグニンの含有量が少ない場合には実質的な炭酸ガスの発生量の削減には繋がりにくい。一方、従来のパルプ製造時の副生物として得られるリグニンスルホン酸を用いた場合には、例えばポリウレタン製造時にポリオールに可溶とできるため、ある程度以上のリグニンスルホン酸を含有させることができる。しかし、最終的な製品としての高分子発泡体を得る観点からは、リグニンに結合しているスルホン基及び付着している硫酸の影響を避けることができない。
従って、リグノセルロース中のリグニンを、リグニンスルホン酸とすることなく回収したリグニンを多量に使用して包装材として使用可能な高分子発泡体を開発することができれば、環境の維持・保全対応の包装材として認められ得る高分子発泡体として有用である。
【0009】
また、大量に供給可能なリグニンとして、リグノセルロースを原料とする糖化あるいはエタノール醗酵の過程で得られるものを、糖化液あるいはエタノール醗酵液から分離後、水で洗浄、乾燥しただけで使用した場合には、リグニン自体や、リグニン含有発泡用樹脂組成物及び当該発泡用樹脂組成物を発泡して得られるリグニン含有高分子発泡体に極めて不快な臭いが生じる。この理由としては、糖醗酵に使用される酵素あるいはエタノール醗酵に使用される酵母が、通常の洗浄では微量リグニンに残存し、これが前記の不快な臭いを発生させると考えられる。従って、リグノセルロースを原料とする糖化あるいはエタノール醗酵の過程で得られるリグニンを高分子発泡体の充填材として使用する場合には、リグニンから微量の残存酵素或いは酵母の処理が必要となる。
【0010】
本発明は、かかる状況に鑑みなされたもので、幅広い発泡倍率に対応可能で、均一な発泡を有し、また発泡前の樹脂組成物及び発泡後の高分子発泡体において不快な臭いが抑制され、しかも、リグニンの含有量に対応して焼却時には炭酸ガス発生量が抑制されたと見做されるだけでなく、国産の木材を原料とするリグニンを用いた場合には、気候変動枠組条約において、製品として使われている間は炭素を貯蔵しているとして今後評価される可能性のあるリグニン含有高分子発泡体、及びそれを得るための発泡用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、下記本発明により解決される。すなわち、本発明は、
<1> 高分子物質と、該高分子物質100質量部に対して5質量部以上100質量部以下のリグニン及び1質量部以上30質量部以下の発泡剤と、を含有する発泡用樹脂組成物である。
【0012】
<2> 前記リグニンが、リグノセルロースを原料とする糖醗酵或いはエタノール醗酵後の溶液中に沈殿物として存在するリグニンを、濾過後、過熱水蒸気によって処理したものである<1>に記載の発泡用樹脂組成物である。
【0013】
<3> 前記過熱水蒸気の温度が、120℃以上230℃以下であり、過熱水蒸気でリグニンを処理する時間が1分間以上90分間以下である<1>または<2>に記載の発泡用樹脂組成物である。
【0014】
<4> 加圧発泡法または常圧発泡法による発泡に供される<1>〜<3>のいずれかに記載の発泡用樹脂組成物である。
【0015】
<5> さらに前記発泡剤100質量部に対して1質量部以上200質量部以下の発泡助剤を含む<1>〜<4>のいずれかに記載の発泡用樹脂組成物である。
【0016】
<6> 前記発泡助剤が、尿素、酸化亜鉛、酢酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸カルシウムから選択される少なくとも1つである<5>に記載の発泡用樹脂組成物である。
【0017】
<7> 高分子物質と、該高分子物質100質量部に対して5質量部以上100質量部以下のリグニン及び1質量部以上30質量部以下の発泡剤と、を含有する発泡用樹脂組成物を発泡させて得られるリグニン含有高分子発泡体である。
【0018】
<8> 前記リグニンが、リグノセルロースを原料とする糖醗酵あるいはエタノール醗酵後の溶液中に沈殿物として存在するリグニンを、濾過後、過熱水蒸気によって処理したものである<7>に記載のリグニン含有高分子発泡体である。
【0019】
<9> 前記過熱水蒸気の温度が、120℃以上230℃以下であり、過熱水蒸気でリグニンを処理する時間が1分間以上90分間以下である<7>または<8>に記載のリグニン含有高分子発泡体である。
【0020】
<10> 前記発泡が、加圧発泡法または常圧発泡法によるものである<7>〜<9>のいずれかに記載のリグニン含有高分子発泡体である。
【0021】
<11> 前記発泡用樹脂組成物が、さらに前記発泡剤100質量部に対して1質量部以上200質量部以下の発泡助剤を含む<7>〜<10>のいずれかに記載のリグニン含有高分子発泡体である。
【0022】
<12> 前記発泡助剤が、尿素、酸化亜鉛、酢酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸カルシウムから選択される少なくとも1つである<11>に記載のリグニン含有高分子発泡体である。
【0023】
<13> 前記リグニンの含有量が、高分子物質100質量部に対して7質量部以上80質量部以下である<7>〜<12>のいずれかに記載のリグニン含有高分子発泡体である。
【0024】
<14> 前記リグニンの含有量が、高分子物質100質量部に対して25質量部以上45質量部以下である<7>〜<13>のいずれかに記載のリグニン含有高分子発泡体である。
【0025】
<15> 前記発泡剤の含有量が、高分子物質100質量部に対して2質量部以上25質量部以下である<7>〜<14>のいずれかに記載のリグニン含有高分子発泡体である。
【0026】
<16> 前記高分子物質が、熱可塑性樹脂である<7>〜<15>のいずれかに記載のリグニン含有高分子発泡体である。
【0027】
<17> 前記熱可塑性樹脂が、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体、ポリオレフィン、ポリオレフィン共重合体及びアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体から選択される1つ以上である<16>に記載のリグニン含有高分子発泡体である。
【0028】
<18> 前記高分子物質が、エラストマーである<7>〜<15>のいずれかに記載のリグニン含有高分子発泡体である。
【0029】
<19> 前記エラストマーが、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、エチレン酢酸ビニル共重合ゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム及び熱可塑性エラストマーから選択される1つ以上である<18>に記載のリグニン含有高分子発泡体である。
【0030】
<20> 前記リグニンが、リグノセルロースを原料とする糖化あるいはエタノール醗酵の過程において得られるものである<7>〜<19>のいずれかに記載のリグニン含有高分子発泡体である。
【0031】
<21> 前記リグニンが、リグノセルロースを原料とするエタノール醗酵後の溶液から得られるものである<7>〜<20>のいずれかに記載のリグニン含有高分子発泡体である。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、幅広い発泡倍率に対応可能で、均一な発泡を有し、また発泡前の樹脂組成物及び発泡後の高分子発泡体において不快な臭いが抑制され、しかも、リグニンの含有量に対応して焼却時には炭酸ガス発生量が抑制されたと見做されるだけでなく、国産の木材を原料とするリグニンを用いた場合には、気候変動枠組条約において、製品として使われている間は炭素を貯蔵しているとして今後評価される可能性のあるリグニン含有高分子発泡体、及びそれを得るための発泡用樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を実施形態により説明する。
本実施形態の発泡用樹脂組成物は、高分子物質と、該高分子物質100質量部に対して5質量部以上100質量部以下のリグニン及び1質量部以上30質量部以下の発泡剤と、を含有するものであり、また、本実施形態のリグニン含有高分子発泡体(以下、「高分子発泡体」という場合がある)は、上記発泡用樹脂組成物を発泡してなるものである。
【0034】
本実施形態に用いるリグニンは、高分子発泡体用の原料として用いた場合にも、十分な発泡倍率で均一な気泡を有する高分子発泡体とすることができ、しかも硫酸等に起因した環境汚染なども引き起こさないものである必要がある。また微量ではあるものの、残存する酵素、酵母の悪影響も充分に除かれることが望ましい。すなわち、従来のリグニンスルホン酸とは異なる、スルホン基の結合及び硫酸成分の付着のなく、好適には残存する微量の酵素、酵母も処理されたリグニンを経済的な手法により得ることが要求される。
【0035】
一方、上記要求に対してリグニンの原料となるリグノセルロースに関して、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンからなるリグノセルロースを原料としてエタノールを製造する方法及びそのための装置や、リグノセルロースを原料として糖化液及び該糖化液からのエタノールの製造方法が開示されている(国際公開第08/047679号パンフレット、特開2008−104404号公報等参照)。
【0036】
上記の方法においては、エタノールはリグノセルロース中のセルロース成分を糖化後、得られた糖を発酵することで得られる。さらに、リグニンはこれらの工程を経た後も実質的には変化することなくリグニンとして残存し、糖化或いはエタノール化の反応終了後には液体中に沈殿物を形成する。従って、例えば両反応後のいずれかの液体を濾過すれば、リグニンを主成分とする固体状物質が得られ、この固体状物質からリグニンを分取し、回収すれば、リグニンスルホン酸とは異なり、スルホン基の結合及び硫酸成分の付着のないリグニンを経済的に得ることができる。
また、前記分取・回収時あるいは分取・回収後に酵素あるいは酵母の悪影響を除去できるようにリグニンを処理できれば、さらに発泡前の樹脂組成物及び発泡後の高分子発泡体に不快な臭いを発生させないリグニンを得ることができる。
【0037】
本発明者らは、前記リグニンスルホン酸を用いた場合の高分子発泡体の欠点を回避し、発泡前の樹脂組成物及び発泡後の高分子発泡体において発生する不快な臭いの抑制や、高分子発泡体を焼却した場合に発生する炭酸ガスの実質的な削減を実行化するため、種々検討の結果、例えば、前記のようなリグニンを多量に用いてリグニン含有高分子発泡体を製造した場合にも、十分な発泡倍率で緻密性(気泡が微細均一)を有し、不快な臭気の抑制された高分子発泡体が得られることを見出した。
【0038】
すなわち、本実施形態は、高分子物質に対しリグノセルロースからスルホン化工程を経ることなく分離されたリグニンと発泡剤とを含有させた、発泡用として最適な樹脂組成物及び該発泡用樹脂組成物を発泡して得られるリグニン含有高分子発泡体に関し、より具体的には、リグノセルロースを原料とする糖醗酵或いはエタノール醗酵後の溶液から得られるもので、反応液から分離したリグニンを水洗して、糖やアルコール成分を除去し、より好適には、その後過熱水蒸気によって処理されたリグニンと発泡剤とを含有させた樹脂組成物及び該発泡用樹脂組成物を発泡して得られるリグニン含有高分子発泡体に関する。
【0039】
(高分子物質)
本実施形態における高分子物質とは、熱可塑性樹脂またはエラストマーである。
本実施形態に適用可能な熱可塑性樹脂としては、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体、ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体で例示されるポリオレフィン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
また、本実施形態に適用可能なエラストマーとしては、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、エチレン酢酸ビニル共重合ゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、熱可塑性エラストマー等が挙げられるが、同様に、これらに限定されるものではない。
【0041】
(リグニン)
本実施形態におけるリグニンとしては、化学的な修飾等がなされていないリグニンが用いられるが、例えば、リグノセルロースを原料とする糖醗酵或いはエタノール醗酵後の溶液から沈殿物として得られるもので、反応液から分離したリグニンを水洗して、糖やアルコール成分を除去した後、過熱水蒸気によって処理されたものであることが好ましい。
リグノセルロースは、主として、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンから構成されており、植物の幹、茎、葉等の主成分である。従って、本実施形態におけるリグノセルロースは各種植物等から得られ、該植物等としては、例えば、ブナ、ユーカリ、米松、ヒノキ、スギ等の木材や、竹、笹等の竹類、イナワラ、ムギワラ、バガス、パルプ等だけでなく、これらから生じる古紙等の廃棄物等も挙げられるが、これだけに限られるものではない。
【0042】
前記リグニンは、例えば、前述の公報等に開示されているリグノセルロースの糖化後の懸濁液或いはエタノールの蒸留後の懸濁液を濾過して得られる。
具体的には、例えば、まずリグノセルロースを振動ボールミル、ロールミル等により20〜100μm程度に粉砕し、粉砕を行った前記リグノセルロースを液体媒体に混合する。このとき、混合液のpHが使用する酵素の至適範囲に調整される。次に、前記液体媒体に混合させた前記リグノセルロースに対して、セルラーゼ等の酵素を使用し、酵素糖化反応によって糖化液を生成させる(糖醗酵)。また、この生成した糖化液をパン酵母等により醗酵させて、エタノールを生成させることもできる(エタノール醗酵)。
【0043】
本実施形態に用いるリグニンとしては、前記糖醗酵後あるいはエタノール醗酵後の懸濁液を濾過することにより得ることができる。また、前記リグニンとしては、上記糖醗酵後あるいはエタノール醗酵後の懸濁液濾過に限定されず、前記糖醗酵あるいはエタノール醗酵の過程において得られるいずれのリグニンをも利用することができる。
【0044】
なお、前記糖醗酵後の懸濁液から得られるリグニンには糖が残存する可能性があり、この糖が残存した場合、リグニンが凝集し易くなる結果、高分子発泡体の製造時のリグニンのハンドリング性が損なわれる可能性があるだけでなく、高分子物質との混練時に糖分が炭化して、高分子発泡体の外観を損なう恐れもある。したがって、糖醗酵後に得られるリグニンを本実施形態の高分子発泡体に使用するためには、水洗等により糖をリグニンから充分に除去することが望ましい。
また上記観点から、本実施形態に用いるリグニンとしては、前記エタノール醗酵後の懸濁液を濾過したものを用いることが望ましい。
【0045】
加えて、入念にリグニンを洗浄しても、糖化、発酵に用いる酵素、酵母がリグニンに残存するので、これらがリグニン含有発泡用樹脂組成物及びリグニン含有高分子発泡体に極めて不快な臭いを与える。そこで、この臭いの除去について鋭意検討した結果、リグニンの洗浄後、過熱水蒸気を用いて処理すれば、当該リグニンを含有する発泡用樹脂組成物及び該樹脂組成物を発泡して得られる高分子発泡体では悪臭が発生しないことが判明した。
【0046】
また上記過熱水蒸気処理において、過熱水蒸気の中に酸素が多く含まれると、リグニンが酸化劣化するために、リグニン含有高分子発泡体の強度等の性能が劣化するという問題を生ずるので、酸素濃度を低減することが好ましい。過熱水蒸気の中に含まれる酸素は、好ましくは8体積%以下、より好ましくは5体積%以下である。
【0047】
処理温度は120℃以上230℃以下が好ましく、140℃以上200℃以下がより好ましい。また過熱水蒸気とリグニンとを接触させてリグニンを処理する時間としては、1分間以上90分間以上が好ましく、より好ましくは3分間以上60分間以下である。
【0048】
過熱水蒸気の発生方法には、各種の方式が知られている。例えば(1)加圧・ヒーター加熱式、(2)パイプヒーターなどによる大気圧下直接加熱式、(3)大気圧下電磁誘導加熱式などであるが、過熱水蒸気中の酸素濃度をできるだけ低下させるためには、(1)よりも(2)、(3)の方式が有利である。また、(2)よりも(3)の方式が、より低温で活性な低濃度酸素過熱水蒸気を発生させることができ、より生産性が向上し、処理コストも下がる点で好適である。
【0049】
過熱水蒸気によるリグニンの処理は、ベルトコンベア式やバッチ式の乾燥機を用いて行うこともできるが、過熱水蒸気とリグニンとの接触を高めるためには攪拌翼のある乾燥機を用いることが好ましい。また連続式の処理装置としては、パドルドライヤーやロータリー式の乾燥機などが好適に用いられる。
【0050】
本実施形態において、リグニン含有高分子発泡体におけるリグニンの含有量は、高分子物質100質量部に対して、5質量部以上100質量部以下であることが必要である。好ましくは7質量部以上80質量部以下、より好ましくは25質量部以上45質量部以下である。
リグニンの含有量が5質量部以上100質量部以下であると、高分子発泡体製造時に十分な発泡が得られ、しかも得られた高分子発泡体における気泡の均一性が確保できる。また、リグニン含有高分子発泡体の焼却時の炭酸ガスの発生を実質的に抑制することができ、加えて、高分子発泡体の焼却時の炭酸ガスの発生量の抑制効果が大きいと見做され、所謂「グリーンプラスチック」として市場でも受け入れられ易いものとなる。
【0051】
(発泡剤)
本実施形態における発泡剤としては、無機系発泡剤及び有機系発泡剤のいずれもが使用可能である。
上記無機系発泡剤としては、例えば重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウムなどのアルカリ金属の炭酸水素塩等が挙げられる。また、有機系発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド(以下ADCAという)、アゾビスイソブチルニトリル、ジアゾアミノベンゼン、ジエチルアゾジカルボキシレート、ジイソプロピルアゾジカルボキシレート、アゾビス(ヘキサヒドロベンゾニトリル)等のアゾ系発泡剤;N,N’−ジニトロペンタメチレンテトラミン、N,N’−ジメチル−N,N’−ジニトロテレフタルアミンなどのニトロソ系発泡剤;4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)(以下OBSHという)、ベンゼンスルホニルヒドラジド、p−トルエンスルホニルヒドラジド、3,3’−ジスルホンヒドラジドフェニルスルホン、トルエンジスルホニルヒドラゾン、チオビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、トルエンスルホニルアジド、トルエンスルホニルセミカルバジド、p,p’−ビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)エーテルなどのヒドラジド系発泡剤;p−トルエンスルホニルセミカルバジド、4,4’−オキシビス(スルホニルセミカルバジド)などのカルバジド系発泡剤;トリヒドラジノトリアジン、1,3−ビス(o−ビフェニルトリアジン)などのトリアジン系発泡剤などが挙げられる。
【0052】
前記発泡剤の含有量は、リグニン含有高分子発泡体の発泡方法及び所望する発泡倍率によって異なるが、一般的には高分子物質100質量部に対して、1質量部以上30質量部以下とする必要があり、好ましくは2質量部以上25質量部以下、より好ましくは5質量部以上18質量部以下である。
1質量部以下では発泡剤から発生するガス量が少なく、発泡体として倍率が得られない。また、30質量部以上では発泡剤から発生したガスが高分子物質中に有効にとりこめず、ガスが抜け発泡体の表面が荒れ、また逆に倍率も得られにくい。
【0053】
(その他の添加剤)
本実施形態のリグニン含有高分子発泡体を得るには、その他の助剤を併用することも可能であり、その一例としては、発泡剤の分解温度を低下させるための発泡助剤及び高分子物質の溶融粘度を架橋により向上させるラジカル開始剤が挙げられる。
【0054】
前記発泡助剤に関しては、発泡剤として前記ADCAを用いた場合、ADCAの分解温度は約200℃であるため、高分子発泡体を製造するに際し200℃以上に加熱する必要がある。しかし、発泡助剤を併用して発泡剤の分解温度を下げられれば、160℃程度でも高分子発泡体が得られることになる。特に、本実施形態で用いるリグニンは高温で変質し易いので、分解温度を下げられる発泡助剤の併用は有効と考えられる。
【0055】
前記発泡剤の分解温度を低下させる発泡助剤としては、例えば、酸化亜鉛、酸化鉛、酸化マグネシウム等の金属酸化物;炭酸亜鉛、炭酸バリウム等の金属炭酸塩;塩化亜鉛、塩化カリウム等の金属塩化物;ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、酢酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カドミウム、ステアリン酸鉛、二塩基性ステアリン酸鉛、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸亜鉛、2−エチルヘキソイン酸亜鉛、二塩基性フタ酸鉛等の金属石鹸;三塩基性硫酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、塩基性亜硫酸鉛等の無機酸塩類;ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレート等の有機錫化合物;ジブチル錫ジラウレート系、ジブチル錫ジマレート系、カルシウム−亜鉛系、バリウム−亜鉛系等のPVC用複合安定剤;メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の一価及び多価アルコール類;尿素系化合物、スルホン酸金属化合物、スルフィン酸金属化合物、蓚酸、乳酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸等の有機、無機の酸性或いはアルカリ性物質及びその塩類;等を挙げることができ、これらの1種または2種以上を使用できる。
【0056】
これらの発泡助剤のうちでは、尿素、酸化亜鉛、酢酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸カルシウムから選択される少なくとも1つを用いることが、低コストで得られる高分子発泡体の安定性を高めることができる観点から望ましい。
また、前記発泡助剤の含有量は、成形方法によるが、発泡剤100質量部に対して1質量部以上200質量部以下とすることが好ましく、50質量部以上150質量部以下とすることがより好ましい。添加量が1質量部より少ないと発泡助剤の効果が得られず、結果として発泡剤が分解せず発泡体が得られない場合がある。添加量が200質量部より多くても効果は同じで、経済的に不利となる場合がある。
【0057】
前記ラジカル開始剤は、発泡に先立って、高分子物質の溶融粘度を架橋により向上させる目的で添加されるものであり、特に後述する加圧発泡(プレス発泡)や常圧発泡といった発泡方法をとる場合に発泡倍率を高くする上で有効である。
本実施形態において使用可能なラジカル開始剤としては、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド(DCP)、α,α−ビス(t−ブチルパーオキシ)−p−ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3−ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等が挙げられる。
【0058】
上記ラジカル開始剤は必ずしも必須成分ではなく、前記熱可塑性樹脂が例えばポリプロピレンである場合、或いは、前記エラストマーが加硫を必要とするゴムの場合には使用する必要はないが、その他の使用する場合の添加量は、高分子物質100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下が好ましく、0.5質量部以上2質量部以下がより好ましい。
【0059】
本実施形態においては、更に、必要に応じて、高分子物質に気泡核剤としてタルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、マイカ、クレー、ベントナイト、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化鉄、酸化チタン、マグネシア、カーボンブラック、グラファイトなどの無機フィラーなどを加えてもよい。
【0060】
本実施形態の発泡用樹脂組成物の製造を行う際には、高分子物質へのリグニン、発泡剤(必要に応じて発泡助剤)等の添加及びこれらの混合には、必要に応じて種々の方法を選択できる。
例えば、予め、高分子物質及び発泡剤(場合によっては、更に発泡助剤等)を溶融・混練してマスターバッチを製造し、これを高分子物質及びリグニンと混合・溶融混練してもよいし、高分子物質、リグニン及び発泡剤(場合によっては、更に発泡助剤等)を溶融・混練してもよい。
【0061】
本実施形態のリグニン含有高分子発泡体は、前記発泡用樹脂組成物を用いたものである。発泡剤を使用する場合の加熱発泡の方法としては、架橋剤を使用する加圧発泡法及び常圧発泡法と、架橋剤を使用しない押出発泡法及び射出発泡法とがあり、本実施形態では特に制限されないが、リグニンの含有量が増えるほど発泡しづらく所望の発泡倍率が得られにくくなることから、架橋剤を使用して発泡倍率を比較的高くできる加圧発泡(プレス発泡)法または常圧発泡法を用いることが望ましい。この場合、発泡剤等は流動パラフィン等を用いて、樹脂ペレットに展着させて用いることもできる。
【0062】
前記加圧発泡法としては、加圧一段発泡法あるいは加圧二段発泡法が主に用いられる。上記加圧一段発泡法では、(1)金型内に発泡用樹脂組成物を充填し、(2)金型内の発泡用樹脂組成物を加圧プレス機等により加圧(保圧)下加熱して、架橋剤と発泡剤とを分解させ、(3)金型を除圧して金型から架橋発泡体を取り出す、ことにより高分子発泡体を製造する。(2)の加圧下加熱を行う時間、温度、圧力は、用いる金型内の深さ、架橋剤および発泡剤により適宜定められるが、本実施形態では、時間は型内深さ1mmあたり0.5〜2分、温度は140〜165℃、圧力は11.8〜7.7MPa程度とすることが望ましい。
【0063】
また、前記加圧二段発泡法では、(1)金型内に発泡用樹脂組成物を充填し、(2)金型内の発泡用樹脂組成物を加圧プレス機等により加圧(保圧)下加熱して、発泡剤を部分分解させ、(3)金型を除圧して金型から中間発泡体を取り出し、(4)該中間発泡体を常圧下で加熱して未分解の発泡剤を分解させる、ことにより高分子発泡体を製造する。
【0064】
一方、前記常圧発泡としては、横型薬液浴上発泡法、縦型熱風発泡法、横型熱風発泡法などがあり、前記高分子物質、リグニン、発泡剤、架橋剤を発泡剤温度の分解温度以下で溶融混練、もしくは高分子物質、リグニン、発泡剤を分解温度以下で溶融混練し、電子線で架橋させ、常圧下において発泡剤の分解温度以上まで架橋させた発泡用樹脂組成物を加熱することにより発泡させる。
【0065】
本実施形態の発泡用樹脂組成物及びそれを用いた高分子発泡体の製造方法について、実施態様を例示しながら説明した。なお、前記マスターバッチの製造条件、発泡成形条件等は、高分子物質の種類、発泡剤の分解温度、発泡助剤の有無等を加味して適宜選択できる。
本実施形態のリグニンを高分子物質に配合した樹脂組成物を発泡することにより得られる高分子発泡体は、電気・電子製品等の各種製品の包装材としても使用可能であり、しかも、使用後に該包装材を焼却処理したとき、リグニンの配合量に応じて、発生する炭酸ガスの量を削減できたと見做されるだけでなく、国産の木材を原料とするリグニンを用いた場合には、気候変動枠組条約において、前記高分子発泡体が製品として使われている間は炭素を貯蔵しているとして今後評価される可能性がある。
【0066】
以上、実施形態により本発明を説明したが、本発明は、上記の形態に限定されず、その発明の目的から逸脱しない範囲内において、任意の変更、改変を行うことができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により本実施形態を更に詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。なお以下において、特に断りのない限り、「部」は質量部を、「%」は質量%を各々意味する。
【0068】
<リグニンの製造>
本実施例に用いたリグニンは、リグノセルロースからスルホン化工程を経ないで得られるものであり、以下の(1)〜(6)の各工程によって製造した。
(1)リグノセルロース(木材等)の微粉末化→(2)セルロース成分の酵素による糖化→(3)生成した糖の酵母による醗酵→(4)生成したエタノールの蒸留→(5)蒸留残渣から個液分離によるリグニンの分離→(6)リグニンの洗浄→(7)リグニンの乾燥
【0069】
(リグニンA)
具体的には、まず、回転ボールミルにより粉砕した木微粉末(平均のサイズ:20μm)1部に対し水5部を入れ、攪拌しながら、これに酵素としてセルラーゼ(明治製菓製:アクレモニウムセルラーゼ)を入れた。次いで、6Nの塩酸を用いてpHを5.0に調節し、240rpmの攪拌下で45℃に加熱し、10〜30時間この状態を維持して糖化液を得た。
【0070】
次いで、前記糖化液に市販パン酵母等の酵母を入れ、温度を30℃、pHを5.0に保って、150rpmの攪拌下で約8時間、加熱・攪拌したところ、エタノールが生成した。その後、250rpmで攪拌しながら、反応槽の温度を95℃まで昇温し、エタノールを蒸留で分離した。
上記エタノール蒸留後の反応槽の残液中の固形分(リグニン)を遠心分離装置等で液体成分と固形分とに分離し、得られたリグニンを水洗して、糖やアルコール成分を除去した。十分に洗浄後、得られたリグニンを50〜60℃で乾燥して水分を除去した。
【0071】
(リグニンB)
リグニンAの製造において、(6)リグニンの洗浄と(7)リグニンの乾燥との間に「過熱水蒸気による処理」を加えた以外は、同様にして製造を行った。
上記リグニンの過熱水蒸気処理は、密閉型の加圧ニーダー(森山製作所製)にリグニンを投入し、攪拌しながら過熱水蒸気を内部に導入して行った。なお、実施例、比較例で用いた各々のリグニンの過熱水蒸気の温度及び処理時間は表2に示した。
【0072】
<実施例A1>
90〜100℃に加熱されたロールに、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)(商品名「ウルトラセン630」、東ソー(株)製)100部を投入し混練した。続いて、発泡剤としてアゾジカルボンアミド(ADCA)(商品名「ビニホールAC#3」、永和化成工業(株)製)5部、発泡助剤として尿素助剤(商品名「セルペーストK5」永和化成工業(株)製)2.5部及び酸化亜鉛(三井金属鉱業(株)製)2.5部、さらに前記製造例に従って得られたリグニンA10部を添加し、5分間混練した。最後に、ジクミルパーオキサイド(DCP)(商品名「パークミルD」、日油(株)製)1部を投入し、1分間混練し、ロールから取り出して、発泡用樹脂組成物を得た。
【0073】
160℃に加熱されたプレス装置の金型(縦:200mm、横:200mm、高さ:10mm)に、前記発泡用樹脂組成物を投入し、プレス圧力150kg/cm2で加圧した。10分後に圧力を一気に開放し、発泡成型物(高分子発泡体)を得た。この発泡成型物について、以下の特性を調べた。なお、以下の実施例、比較例における評価も同様である。
【0074】
(見かけ比重)
発泡体を適当な大きさに切り取り、小数点以下4桁まで計量できる電子天秤で重量を量り、目盛り付きメスシリンダーに水を入れ、その中に発泡体を全て沈め、目盛り上昇分を容積として測定し比重を求めた。その結果、見かけ比重は0.106であった。
(気泡径)
発泡成型物の内部を、走査型電子顕微鏡により視野内の100個の気泡について直径を測定し気泡径とした。その結果、気泡径は150〜200μmであった。
(気泡均一性)
発泡成型物の内部を走査型電子顕微鏡により観察し、目視判断で以下の基準により気泡の均一性を判断した。その結果、気泡均一性は◎であった。
◎:気泡径の最大と最小の差が100μm以下で、400mm2あたり、1mm以上の気泡が2個以下。
○:気泡径の最大と最小の差が100〜300μm以下で、400mm2あたり、1mm以上の気泡が2個。
△:気泡径の最大と最小の差が300μmより大きい又は、400mm2あたり、1mm以上の気泡が2〜10個。
×:気泡径の最大と最小の差が300μmより大きく又は400mm2あたり、1mm以上の気泡が10個より多い。
【0075】
<比較例A1>
実施例A1において、リグニンを前記製造例に従って得られたものから市販のリグニンスルホン酸塩に代えた以外は、実施例A1と同様にして発泡体の製造、特性確認を行った。
その結果、得られた発泡体の見かけ比重は0.150であった。気泡径は測定が困難であり、最大径1mm以上の気泡が400mm2あたり20個あった。また気泡均一性は×であった。
【0076】
<実施例A2>
実施例A1において、尿素助剤を5部、酸化亜鉛を5部、前記製造例に従って得られたリグニンを40部とした以外は、実施例A1と同様にして高分子発泡体の製造を行った。
得られた高分子発泡体の見かけ比重は0.102であった。また内部には気泡径が150〜200μm気泡が観察され、気泡均一性は◎であった。
【0077】
<比較例A2>
実施例A2において、リグニンを前記製造例に従って得られるものから市販のリグニンスルホン酸塩に代えた以外は、実施例A2と同様にして高分子発泡体の製造を行った。
得られた発泡体の見かけ比重は0.250であった。気泡径は測定が困難であり、最大径1mm以上の気泡が400mm2あたり28個あった。また気泡均一性は×であった。
【0078】
<実施例A3>
120〜130℃に加熱されたニーダーに、低密度ポリエチレン(商品名「ノバテックPE YF30」、日本ポリエチレン(株)製)100部に、発泡剤としてN,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)(商品名「セルラーD」、永和化成工業(株)製)を4部と、発泡助剤として尿素助剤(商品名「セルペースト101」永和化成工業(株)製)を4部と、前記製造例に従って得られたリグニンA5部と、最後にジクミルパーオキサイド(DCP)(商品名「パークミルD」日油(株)製)1部とを投入して混練し、発泡用樹脂組成物を得た。
【0079】
153℃に加熱されたプレス装置の金型(縦:200mm、横:200mm、高さ:10mm)に前記発泡用樹脂組成物を投入し、プレス圧力150kg/cm2で加圧した。20分後に圧力を一気に開放し、発泡成型物を得た。
得られた高分子発泡体の比重は0.09であった。また内部には気泡径が150〜200μmの気泡が観察され、気泡均一性は◎であった。
【0080】
<実施例A4>
天然ゴム(RSS#1)60部及びスチレン・ブタジエンゴム(JSR社製:1502)40部をニーダーにて混練した。次いで、これにハードクレー(クラウンクレー)50部、前記製造例に従って得られたリグニンA75部、酸化亜鉛2種(三井金属(株)製)5部、加硫促進剤DM1部、硫黄2.5部、発泡剤としてN,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)(商品名「セルラーD」、永和化成工業(株)製)13部、及び発泡助剤として尿素助剤(商品名「セルペーストK5」、永和化成工業(株)製)を13部添加し、混練して発泡用樹脂組成物を得た。
【0081】
125℃に加熱されたプレスの金型(縦:124mm、横:124mm、高さ:11mm)に前記発泡用樹脂組成物を投入し、プレス圧力120kg/cm2で加圧した。10.5分後にプレス圧力を開放して、成型物を取り出した。さらに150℃に加熱された乾燥機に成型物を入れ、11分後に取り出し、発泡成型物を得た。
得られた高分子発泡体は見かけ比重が0.091〜0.104であった。また、発泡体は表面平滑で、内部の気泡径は200〜250μmであり、気泡均一性は◎であった。
【0082】
<実施例A5>
120〜130℃に加熱されたロールに、低密度ポリエチレン(商品名「ノバテックPE LE200M」、日本ポリエチレン(株)製)100部を投入し混練した。続いて、発泡剤としてアゾジカルボンアミド(ADCA)(商品名「ビニホールAC−1L」、永和化成工業(株)製)16部、前記製造例に従って得られたリグニンA20部、最後にジクミルパーオキサイド(DCP)(商品名「パークミルD」日油(株)製)0.8部を投入し、混練して発泡用樹脂組成物を得た。
【0083】
120℃に加熱されたプレスの金型(縦:100mm、横:100mm、高さ:2mm)に前記発泡用樹脂組成物を投入し、プレス圧力50kg/cm2で3分、150kg/cm2で3分加圧後、プレス機を冷却し30℃以下まで冷却した。そこで得られた未発泡成型物を220℃に加熱された乾燥機で5分間加熱し、発泡成型物を得た。得られた成型物の見かけ比重は0.061であった。また内部の気泡径は500〜700μmであり、気泡均一性は○であった。
【0084】
<実施例A6>
ポリプロピレン(商品名「ノバテックPP MA3」、日本ポリプロ(株)製)100部に対して、前記製造例に従って得られたリグニン7部、炭酸水素ナトリウムを主成分とする無機系発泡剤マスターバッチ(商品名「ポリスレンEE405F」、永和化成工業(株)製)を2部、及び展着剤として流動パラフィン1部を添加し、混合して発泡用樹脂組成物を得た。
【0085】
前記発泡用樹脂組成物を、押出機(「東洋精機製ラボプラストミル50C150、押出機械式D2025」)により、シリンダーの設定温度を170℃(C1)、220℃(C2)、200℃(C3)とし、ダイスを170℃とし、スクリュー回転数を80rpmとして押出し、発泡シートを得た。
得られた高分子発泡体は見かけ比重は0.75と大きく、倍率が出ていない。また、発泡体表面はガス抜けにより荒れていたが、気泡径は100〜200μmで、気泡均一性は○であった。
【0086】
<比較例A3>
実施例A5において、リグニンA20部を105部に変更した以外は、実施例A5と同様にして発泡体の製造を行った。
得られた発泡体の見かけ比重は0.11、気泡径は400〜750μmであり、気泡均一性は△であった。
【0087】
<比較例A4>
実施例A5において、発泡剤16部を33部に変更した以外は、実施例A5と同様にして発泡体の製造を行った。
得られた発泡体の見かけ比重は0.20であったが、表面はガス抜けしており気泡径の測定は困難であり、気泡均一性は×であった。
以上の製造条件、結果をまとめて表1に示す。
【0088】
【表1】

【0089】
表1に示す結果から明らかなように、実施例の焼却処理した場合の炭酸ガスの発生量の削減が可能な高分子発泡体は、発泡倍率も十分で、内部に径が均一な気泡が存在していた。
一方、リグニン成分として従来のリグニンスルホン酸塩を用いたり、リグニン量、発泡剤量が本願の規定を外れる比較例では、発泡倍率や気泡の均一性等に何らかの問題を生じた。
【0090】
<実施例B1>
120〜130℃に加熱されたニーダーに、低密度ポリエチレン(商品名「ノバテックPE YF30」、日本ポリエチレン(株)製)100部と、発泡剤としてN,N'−ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)(商品名「セルラーD」、永和化成工業(株)製)を4部と、発泡助剤として尿素助剤(商品名「セルペースト101」永和化成工業(株)製)を4部と、表2に示した過熱水蒸気処理条件で製造されたリグニンB30部と、最後にジクミルパーオキサイド(DCP)(商品名「パークミルD」日油(株)製)1部とを投入して混練し、発泡用樹脂組成物を得た。
【0091】
また、153℃に加熱されたプレス装置の金型(縦:200mm、横:200mm、高さ:10mm)に前記の発泡用樹脂組成物を投入し、プレス圧力150kg/cm2で加圧した。20分後に圧力を一気に開放し、発泡成型物(高分子発泡体)を得た。
なお、得られた発泡成型物の見かけ比重は0.101、気泡径は150〜200μmであり、気泡均一性も良好であった。また、以下の実施例においてもこれらは同様であった。
【0092】
上記で用いたリグニンB、得られた発泡用樹脂組成物及び発泡成型物を各々1gずつ秤量し、100mlのガラス性栓付き三角フラスコに入れ、密栓して50度Cで30分間熱風乾燥機内に放置し、取り出して室温まで冷却したのち、三角フラスコの栓を抜いて嗅覚で臭いを調べ、以下の基準により各々の臭気の程度を判断した。結果を表2に示す。
◎:無臭。
○:極僅かな臭いがある。
△:不快ではないが臭いある。
×:不快臭あり。
【0093】
<実施例B2〜B10>
実施例B1において、リグニンの過熱水蒸気処理を各々表2に示す条件で行った以外は、実施例B1と同様に発泡用樹脂組成物の製造、高分子発泡体の製造を行った。なお、実施例B10では過熱水蒸気処理を行うことなく、水洗後のリグニンを50〜60℃で乾燥して水分を除去したものを用いた。
各々の臭気の程度を同様に表2にまとめて示す。
【0094】
【表2】

【0095】
表2に示す結果から明らかなように、過熱水蒸気処理を行った実施例ではリグニン、発泡用樹脂組成物、高分子発泡体のいずれにおいても、同処理を行わなかった実施例B10に比べて臭気が抑制されていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子物質と、該高分子物質100質量部に対して5質量部以上100質量部以下のリグニン及び1質量部以上30質量部以下の発泡剤と、を含有する発泡用樹脂組成物。
【請求項2】
前記リグニンが、リグノセルロースを原料とする糖醗酵或いはエタノール醗酵後の溶液中に沈殿物として存在するリグニンを、濾過後、過熱水蒸気によって処理したものである請求項1に記載の発泡用樹脂組成物。
【請求項3】
前記過熱水蒸気の温度が、120℃以上230℃以下であり、過熱水蒸気でリグニンを処理する時間が1分間以上90分間以下である請求項1または2に記載の発泡用樹脂組成物。
【請求項4】
加圧発泡法または常圧発泡法による発泡に供される請求項1〜3のいずれかに記載の発泡用樹脂組成物。
【請求項5】
さらに前記発泡剤100質量部に対して1質量部以上200質量部以下の発泡助剤を含む請求項1〜4のいずれかに記載の発泡用樹脂組成物。
【請求項6】
前記発泡助剤が、尿素、酸化亜鉛、酢酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸カルシウムから選択される少なくとも1つである請求項5に記載の発泡用樹脂組成物。
【請求項7】
高分子物質と、該高分子物質100質量部に対して5質量部以上100質量部以下のリグニン及び1質量部以上30質量部以下の発泡剤と、を含有する発泡用樹脂組成物を発泡させて得られるリグニン含有高分子発泡体。
【請求項8】
前記リグニンが、リグノセルロースを原料とする糖醗酵あるいはエタノール醗酵後の溶液中に沈殿物として存在するリグニンを、濾過後、過熱水蒸気によって処理したものである請求項7に記載のリグニン含有高分子発泡体。
【請求項9】
前記過熱水蒸気の温度が、120℃以上230℃以下であり、過熱水蒸気でリグニンを処理する時間が1分間以上90分間以下である請求項7または8に記載のリグニン含有高分子発泡体。
【請求項10】
前記発泡が、加圧発泡法または常圧発泡法によるものである請求項7〜9のいずれかに記載のリグニン含有高分子発泡体。
【請求項11】
前記発泡用樹脂組成物が、さらに前記発泡剤100質量部に対して1質量部以上200質量部以下の発泡助剤を含む請求項7〜10のいずれかに記載のリグニン含有高分子発泡体。
【請求項12】
前記発泡助剤が、尿素、酸化亜鉛、酢酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸カルシウムから選択される少なくとも1つである請求項11に記載のリグニン含有高分子発泡体。
【請求項13】
前記リグニンの含有量が、高分子物質100質量部に対して7質量部以上80質量部以下である請求項7〜12のいずれかに記載のリグニン含有高分子発泡体。
【請求項14】
前記リグニンの含有量が、高分子物質100質量部に対して25質量部以上45質量部以下である請求項7〜13のいずれかに記載のリグニン含有高分子発泡体。
【請求項15】
前記発泡剤の含有量が、高分子物質100質量部に対して2質量部以上25質量部以下である請求項7〜14のいずれかに記載のリグニン含有高分子発泡体。
【請求項16】
前記高分子物質が、熱可塑性樹脂である請求項7〜15のいずれかに記載のリグニン含有高分子発泡体。
【請求項17】
前記熱可塑性樹脂が、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体、ポリオレフィン、ポリオレフィン共重合体及びアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体から選択される1つ以上である請求項16に記載のリグニン含有高分子発泡体。
【請求項18】
前記高分子物質が、エラストマーである請求項7〜15のいずれかに記載のリグニン含有高分子発泡体。
【請求項19】
前記エラストマーが、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、エチレン酢酸ビニル共重合ゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム及び熱可塑性エラストマーから選択される1つ以上である請求項18に記載のリグニン含有高分子発泡体。
【請求項20】
前記リグニンが、リグノセルロースを原料とする糖醗酵あるいはエタノール醗酵の過程において得られるものである請求項7〜19のいずれかに記載のリグニン含有高分子発泡体。
【請求項21】
前記リグニンが、リグノセルロースを原料とするエタノール醗酵後の溶液から得られるものである請求項7〜20のいずれかに記載のリグニン含有高分子発泡体。

【公開番号】特開2010−254952(P2010−254952A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265437(P2009−265437)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(596049670)菱江化学株式会社 (8)
【出願人】(598112453)株式会社ジュオン (11)
【出願人】(000120847)永和化成工業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】