説明

白色マーキングされた樹脂構造体及びその製造方法

【課題】背景色に対する印字部分のコントラストが高く、汚損・損耗等により印字部分の意匠性が低下することがなく、高い視認性を保持することができる白色マーキングされた樹脂構造体を提供する。
【解決手段】本発明の白色マーキングされた樹脂構造体は、結晶性樹脂と非晶性樹脂からなり、結晶性樹脂と非晶性樹脂の配合割合[前者:後者(重量比)]が、20:80から80:20である樹脂成形体に、レーザー光線照射により白色マーキングが施され、且つ、該白色マーキングが施された白色マーキング部上に、透明塗料による塗膜が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光線を照射して樹脂の表面に発泡構造を形成することで白色マーキングが施された樹脂成形体の該白色マーキング部上に、汚損及び摩耗防止のための塗膜を有する白色マーキングされた樹脂構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インキによる印刷・塗装に替わる技術としてレーザー光線照射による印刷(レーザーマーキング)が普及しているが、被視認性・質感の向上のために、最近では背景色に対する印字部分のコントラストの高さが要求される場合が多い。しかし、マーキング直後にはコントラストが優れていても、その後の加工工程や運搬時の汚損、損傷、更には使用する過程においてマーキング部分の汚損、摩耗、摩滅によりコントラストが低下して被視認性・品質感等が損なわれることが従来より問題視されている。
【0003】
例えば、発泡マーキングにより印字したボタンを使用し続けていると、印字部分が黒ずんできて印字が視認しにくくなるような場合があるが、それは主に次の2つの理由によるものである。一つ目の理由は、発泡マーキング表面が凹凸であるために、使用時に手の垢や埃が付着し、汚れていないマーキング部分との対比で汚損として認識されることである。そして、この付着した汚れは凹凸部分に入り込んでいるために完全に除去することは不可能である。二つ目の理由は、ボタンを押す際の圧力でマーキング部分の発泡構造が押し潰され、コントラストの低下として認識されることである。
【0004】
以上のように、発泡マーキングの場合には、印字部分の表面が凹凸の発泡構造を有することにより、そこに光が散乱して白色印字として認識される、という特徴を有することから経時的な影響を受けやすく、また、経時的な影響による質感の低下が顕著であるため対策が求められている。
【0005】
この問題を解決する手段として、マーキング部に直接触れないように保護層を設けることが考えられる。例えばマーキング後にマーキング部分をコーティングすることが提案されている(特許文献1参照)。しかし、マーキング後のコーティングは、塗料中の溶剤によりマーキング部分の樹脂が侵されて、発泡構造が変化して文字の視認性が低下する場合があり、必ずしも好ましいとは言えない。また通常マーキング工程は部品組み立て後に実施されることが多いため、さらにその後にコーティングを施すことは、部品へ与える影響が懸念される。また、塗料の種類によっては加熱による塗膜乾燥、硬化工程が必要なものがあり、その熱処理により発泡構造が更に崩れてマーキング部分のコントラストをより低下させる恐れがある。
【0006】
その他、マーキング後に透明保護膜を設けて多層化する方法が提案されているが、保護膜を設ける際に加熱、圧着させる必要があり、その熱と圧力とで発泡構造が損なわれて、或いは、マーキング材との密着が不十分になることで、マーキング部分の視認性が低下するという問題がある。この問題に対して、多層化してからマーキングするという方法も提案されているが、マーキング時に保護膜との隙間が生じて文字のコントラストが悪くなったり、或いは保護膜の密着は十分であっても発色が不十分となる場合があることが問題となる。この原因をマーキング時に発生するガスの影響と考え、ガス透過性のよい材料を保護膜に使用して解決を図る試みが提案されている(特許文献2参照)。しかし、マーキング時のガス発生速度と保護膜のガス透過速度のバランスから考えると、この提案方法の効果には疑問が残る。
【0007】
以上のことから、発泡構造を形成することにより白色マーキングを行う場合に、その白色マーキング部分の汚損・摩耗を防止する目的で保護層を設ける方法について、優れた視認性を維持しながら保護層を設ける方法が見出されていないのが現状である。
【0008】
【特許文献1】特開2002−127599号公報
【特許文献2】特開2001−1642号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、背景色に対する印字部分のコントラストが高く、汚損・損耗等により印字部分の意匠性が低下することがなく、高い視認性を保持することができる白色マーキングされた樹脂構造体を提供することにある。
本発明の他の目的は、背景色に対する印字部分のコントラストが高く、汚損・損耗等により印字部分の意匠性が低下することがなく、高い視認性を保持することができる白色マーキングされた樹脂構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、レーザーマーキング用熱可塑性樹脂に結晶性樹脂成分を一定量含有すると、マーキング部分の発泡構造が塗膜の形成の際の熱、溶剤等の影響を受けにくくなり、その上、樹脂成形体が寸法安定性に優れることを見出した。そして、該熱可塑性樹脂からなる樹脂成形体の表面に塗膜を形成することにより、マーキング部分が経時的に汚損、摩耗することがなく、視認性が低下することがないことを見出して本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、結晶性樹脂と非晶性樹脂からなり、結晶性樹脂と非晶性樹脂の配合割合[前者:後者(重量比)]が、20:80から80:20である樹脂成形体に、レーザー光線照射により白色マーキングが施され、且つ、該白色マーキングが施された白色マーキング部上に、透明塗料による塗膜が形成されている白色マーキングされた樹脂構造体を提供する。
【0012】
本発明は、また、結晶性樹脂と非晶性樹脂からなり、結晶性樹脂と非晶性樹脂の配合割合[前者:後者(重量比)]が、20:80から80:20である樹脂成形体にレーザー光線を照射して樹脂成形体に白色マーキングを施し、その後、該白色マーキングが施された白色マーキング部上に、透明塗料を塗布して塗膜を形成することを特徴とする白色マーキングされた樹脂構造体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、白発色可能な熱可塑性樹脂として、結晶性樹脂及び非晶性樹脂を一定の割合で含有する熱可塑性樹脂を使用するため、該熱可塑性樹脂を硬化して得られる樹脂成形体は寸法安定性に優れる。また、熱可塑性樹脂中に結晶性樹脂を一定量含有するため、樹脂成形体にレーザー光線を照射することにより形成された発泡構造は強固であり、該発泡構造上に塗膜を形成する際に使用する塗料中の溶剤や、その後の加熱硬化の際の熱により発泡構造が損なわれることがない。それにより、白色マーキングを形成する発泡構造を損なうことなく、白色マーキング部上に塗膜を設けることができ、塗膜の形成によるマーキング部分のコントラストの低下が起こることがない。また、白色マーキング部上に塗膜を設けるため、発泡構造が指等による圧力で押し潰されることを抑制することができる。また、手の垢や埃が発泡構造の凹凸部分に入り込むことがないため、経時的にマーキング部分のコントラストが低下することがなく、良好な視認性を維持することができ、質感を損なうことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[樹脂成形体]
本発明における樹脂成形体は、白発色可能な結晶性樹脂及び非晶性樹脂(以後、「白発色熱可塑性樹脂」と称する場合がある)からなり、レーザー光線の照射により照射部分の結晶性樹脂が発泡して凹凸の発泡構造を形成し、該発泡構造に光が散乱することによりその部分が白色として認識することができる。
【0015】
前記結晶性樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリフェニレンサルファイド系樹脂;ポリエーテルエーテルケトン系樹脂;液晶ポリマー;ポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート系樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリオキシメチレン系樹脂;フッ素系樹脂等を挙げることができる。本発明においては、なかでも、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート系樹脂等のポリエステル系樹脂が成形加工性、及びコストバランスの点で好ましい。本発明においては、上記結晶性樹脂を単独で、又は、2種以上を混合して使用することができる。
【0016】
前記結晶性樹脂の融点としては、例えば、80〜400℃程度、好ましくは100〜350℃程度である。結晶性樹脂の融点が80℃より低いと、塗膜を形成する際の加熱処理により結晶性樹脂が融解して、該結晶性樹脂により形成される発泡構造が損なわれ、マーキング部分のコントラストの低下を引き起こす場合がある。
【0017】
本発明における白発色可能な熱可塑性樹脂中の非晶性樹脂としては、特に限定することなく公知の非晶性樹脂を使用することができる。
【0018】
本発明における非晶性樹脂としては、例えば、構成単量体としてスチレン系単量体を含むスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリアクリレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、単独で、又は、2種以上を混合して使用することができる。また、用途に応じて、上記構成単量体と該構成単量体と共重合可能な単量体(例えば、マレイミド化合物、無水マレイン酸化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物等)との共重合体や、上記構成単量体とゴム質重合体との共重合体を含んでいてもよい。
【0019】
本発明における非晶性樹脂としては、上記非晶性樹脂のなかでも、ポリスチレン(PS)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル/エチレン−プロピレン−ジエン/スチレン共重合体(AES)、アクリレート−スチレン−アクリロニトリル共重合体(ASA)、スチレン−N−フェニルマレイミド−無水マレイン酸共重合体(MIP)、メチルメタクリレート−アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体(MMA−AN−ST−Bd)、スチレン−アクリルニトリル共重合体(AS)、スチレン−アクリルニトリルーブタジエン共重合体(ABS)等のスチレン系樹脂;ポリメチルメタクリレート系樹脂;ポリカーボネート系樹脂がより好ましい。これらの樹脂は、単独で、又は、2種以上を混合して使用することができる。
【0020】
結晶性樹脂と非晶性樹脂の配合割合[前者:後者(重量比)]としては、例えば、20:80から80:20程度であり、なかでも25:75から75:25がより好ましく、30:70から70:30が特に好ましい。結晶性樹脂と非晶性樹脂の総量に対する結晶性樹脂の配合割合が20重量%を下回ると、発泡構造の強度が不足するため、マーキング部分に塗膜を設ける際の塗料の溶剤、加熱等により発泡構造が侵され、その結果、塗膜を設けることによりマーキング部分のコントラストが低下する場合がある。一方、結晶性樹脂と非晶性樹脂の総量に対する結晶性樹脂の配合割合が80重量%を上回ると、白発色熱可塑性樹脂を硬化して得られた樹脂成形体が「反り」や「引け」等の変形を起こし易くなり、寸法安定性が低下する場合がある。とりわけ、塗膜の硬化等を目的として加熱する際に、結晶化が進行し、樹脂成形体の「反り」が大きくなる傾向がある。
【0021】
本発明における熱可塑性樹脂には、上記結晶性樹脂及び非晶性樹脂以外に、色材、高級脂肪酸又はその誘導体を含有することが好ましい。
【0022】
前記色材としては、有機又は無機の暗色系の染料又は顔料を少なくとも含むことが好ましい。暗色系の染顔料は、レーザー光線(例えば波長354〜1064nm)を吸収し、熱エネルギーに変換して、樹脂を発泡又はクレージングさせて白色マーキングを発現させる作用をする。
【0023】
暗色系染顔料としては、例えば、カーボンブラック(アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックなど)、グラファイト、チタンブラック、黒色酸化鉄などが挙げられる。これらの中でも、分散性、発色性、コスト等の面からカーボンブラックが好ましい。暗色系染顔料は単独で又は2種類以上組み合わせて使用できる。
【0024】
暗色系染顔料の平均粒子径は、例えば10nm〜3μm、好ましくは10nm〜1μmの広い範囲から適宜選択できる。暗色系染顔料がカーボンブラックの場合には、平均粒子径は、例えば10〜90nm、好ましくは12〜70nm、さらに好ましくは14〜50nm(特に16〜40nm)程度である。暗色系染顔料の粒子径が小さすぎると分散が困難になり、大きすぎるとマーキングが不鮮明になりやすい。
【0025】
暗色系染顔料の使用量は、前記白発色熱可塑性樹脂100重量部に対して、例えば0.0001〜5重量部、好ましくは0.005〜3重量部、さらに好ましくは0.033〜2重量部程度である。暗色系染顔料の量が少なすぎると、レーザー光線の熱への変換効率が低下して発色が不十分になりやすく、逆に多すぎると、マーキングが過度になり黄変色を起こしやすくなる。
【0026】
本発明では、色材として暗色系染顔料以外の染顔料を用いることもできる。このような非暗色系染顔料は無機又は有機の何れであってもよい。非暗色系染顔料として、例えば、白色顔料(例えば、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、リトポンなど)、黄色顔料(例えば、カドミウムイエロー、黄鉛、チタンイエロー、ジンククロメート、黄土、黄色酸化鉄など)、赤色顔料(例えば、赤口顔料、アンバー、赤色酸化鉄、カドミウムレッド、鉛丹など)、青色顔料(例えば、紺青、群青、コバルトブルーなど)、緑色顔料(例えば、クロムグリーンなど)などが挙げられる。非暗色系染顔料は単独又は2種類以上組み合わせて使用できる。
【0027】
これらの中でも、安価であり、隠蔽力、分散性に優れ、極めて鮮明な白色マーキングを可能とする白色染顔料(例えば、酸化チタン)が好ましい。白色染顔料は、レーザー光線を散乱させることで、前記暗色系染顔料によるレーザー光線の吸収効率を向上させて熱への変換効率を高めるため、暗色系染顔料と白色染顔料とを組み合わせて使用すると、極めて白色度の高いマーキングが得られる。また、白色染顔料を含有させることにより、レーザー光線の照射エネルギーを低くしてもマーキングが可能になる。
【0028】
非暗色系染顔料の使用量は、前記白発色熱可塑性樹脂100重量部に対して、例えば2重量部以下(例えば0.0001〜2重量部)、好ましくは1.5重量部以下(例えば0.01〜1.5重量部)である。非暗色系染顔料の量が少なすぎると、レーザー光線の散乱効果が乏しくなり、逆に多すぎると、マーキング色が染顔料の色相を帯びるようになり好ましくない。
【0029】
樹脂成形体中の色材の総量は、前記白発色熱可塑性樹脂100重量部に対して、一般に0.0001〜5重量部、好ましくは0.01〜4重量部、さらに好ましくは0.1〜3重量部程度である。
【0030】
前記高級脂肪酸又はその誘導体は、配合することにより、前記カーボンブラック等の色材の分散性をよくし、発色性を向上することができる点で好ましい。また高級脂肪酸の誘導体として高級脂肪酸の金属塩を配合すると、レーザー光線の吸収効率が向上し、白色度の高い白色マーキングが得られる。
【0031】
高級脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの炭素数12〜30程度の飽和又は不飽和高級脂肪酸が例示される。高級脂肪酸の誘導体には、塩、エステル、アミドなどが含まれる。高級脂肪酸の塩としては、例えば、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸銅、ステアリン酸鉛、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸リチウム、オレイン酸ナトリウムなどの高級脂肪酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、遷移金属塩などが挙げられる。高級脂肪酸のアミドとしては、例えば、エチレンビスステアリルアミド、ラウリン酸アミドなどが例示される。高級脂肪酸又はその誘導体としては、特にステアリン酸又はステアリン酸誘導体(塩、エステル、アミド等)が特に好ましく用いられる。
【0032】
高級脂肪酸又はその誘導体の使用量は、前記白発色熱可塑性樹脂100重量部に対して、例えば0.01〜5重量部、好ましくは0.02〜3重量部程度である。この使用量が0.01重量部未満では色材の分散性の向上効果が少なく、5重量部を超えると成形時に蒸発・揮散して金型汚染を起こす可能性が高くなる。
【0033】
本発明における熱可塑性樹脂には、必要に応じて、相溶化剤、難燃剤、帯電防止剤、充填剤、安定剤、滑剤、分散剤、添着剤、発泡剤、抗菌剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0034】
[塗膜]
本発明における塗膜は、白色マーキングが施された上に、透明塗料を塗布することによる形成することができる。前記白発色熱可塑性樹脂からなる樹脂成形体にレーザー光線照射により発泡構造を形成して白色マーキングを施した樹脂成形体の、該発泡構造上に形成することにより、発泡構造が指等による圧力で押し潰されることを防ぎ、手の垢や埃等が発泡構造の凹凸部分に入り込むことにより白色マーキング部分が黒ずむことを防ぐ効果を有するものである。
【0035】
塗膜は透明から半透明の樹脂で構成される。塗膜を形成する樹脂としては、特に限定されることがなく、公知慣用の樹脂を使用することができ、例えば、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、アルキッド樹脂、繊維素系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。これらは、単独で、又は、2種以上を混合して使用することができる。
【0036】
また、本発明における塗膜としては、架橋構造を形成しないラッカータイプでもよく、アミノ樹脂、(ブロック)ポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物等の架橋剤と非架橋樹脂とを組み合わせて架橋硬化型として使用してもよい。その際には、必要に応じて公知慣用のプライマーを使用してもよい。
【0037】
塗膜は、マーキングによる印字を視認できる程度の透明性を有していればよく、例えば、塗膜(使用時の厚みにおいて)の全光線透過率は35〜100%であり、好ましくは45〜100%、さらに好ましくは50〜100%である。塗膜の全光線透過率が35%未満である場合には塗膜を通しての印字の視認が困難になる場合がある。
【0038】
塗膜の厚みとしては、通常1〜500μm、より好ましくは1〜100μm、さらに好ましくは1〜50μmである。塗膜の厚みが1μm未満である場合には印字された発泡層構造の保護が不十分になりやすく、500μmを超える場合は印字の視認が困難となる傾向があり、また、加熱硬化に高温で長時間の加熱を要するため発泡構造が損なわれ易くなる傾向がある。
【0039】
透明塗料は、印字の視認性及び発泡構造の保護性を損なわない限り、必要に応じて色材、相溶化剤、難燃剤、帯電防止剤、充填剤、安定剤、滑剤、分散剤、添着剤、発泡剤、抗菌剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0040】
[白色マーキングされた樹脂構造体の製造方法]
本発明に係る白色マーキングされた樹脂構造体の製造方法としては、結晶性樹脂と非晶性樹脂からなり、結晶性樹脂と結晶性樹脂と非晶性樹脂との配合割合[前者:後者(重量比)]が、20:80から80:20である樹脂成形体にレーザー光線を照射して樹脂成形体に白色マーキングを施し、その後、該白色マーキングが施された白色マーキング部上に、透明塗料を塗布して塗膜を形成することを特徴とする。
【0041】
前記樹脂成形体は、本発明における白発色熱可塑性樹脂を、例えば、押出成形、射出成形、圧縮成形などの慣用の成形法に供することにより製造することができる。樹脂成形体の形状としては、目的、最終製品の種類等に応じて適宜選択でき、例えば、角柱状、円柱状、平板状(プレート状)、シート状等の何れであってもよい。
【0042】
こうして得られる樹脂構造体にレーザー光線を照射することにより樹脂成形体表面に発泡構造を形成して、白色マーキングが施された樹脂成形体が得られる。白色マーキングは、該発泡構造に光が散乱することにより白く視認されることによるものである。マーキングに用いるレーザーの種類は特に限定されず、ガスレーザー、半導体レーザー、エキシマレーザー、YAGレーザーなどの何れであってもよいが、YAGレーザーが最も好適に使用される。マーキングの種類は特に限定されず、文字、記号、図柄、絵、写真等の何れであってもよい。
【0043】
本発明における塗膜は前記白発色熱可塑性樹脂からなる樹脂成形体の表面に透明塗料を塗布することにより形成される。透明塗料の塗布方法としては、特に限定することなく周知慣用の方法を使用することができ、例えば、透明塗料を霧化式塗装機を用いたエアスプレー方式、静電塗装方式、ローラーコート、カーテンコート等のコート方式、浸漬方式等が挙げられる。
【0044】
また、上記塗料は、本発明における樹脂成形体の表面に吹き付ける際、必要に応じて希釈シンナー等で希釈してもよい。塗布時の透明塗料の粘度としては、必要に応じて調整することができ、例えば、25℃におけるフォードカップ粘度(フォードカップNo.4)が10〜30秒程度である。
【0045】
透明塗料を塗布した後は、室温で乾燥させてもよく、加熱硬化してもよい。本発明においては、結晶性樹脂の融点未満の温度で加熱硬化することが、より強固な塗膜を形成することができる点で好ましい。なお、結晶性樹脂の融点以上の温度で加熱硬化すると、結晶性樹脂により形成された発泡構造が損なわれて、白色マーキングのコントラストが低下する傾向があるため好ましくない。
【0046】
塗膜の加熱硬化温度としては結晶性樹脂の融点以下であればよく、例えば、50〜220℃程度である。塗膜の加熱硬化時間としては、適宜調整することができ、例えば、10〜120分程度、好ましくは10〜60分程度である。
【0047】
こうして得られる白色マーキングされた樹脂構造体は、結晶性樹脂及び非晶性樹脂を一定の割合で含有するため、寸法安定性に優れ、また、結晶性樹脂が強固な発泡構造を形成するため、熱や溶剤により発泡構造を損なうことなく該発泡構造上に密着して塗膜を形成することができる。そして、レーザー光線照射による発泡構造上に、該発泡構造を損なうことなく塗膜を形成することができるため、塗膜の形成により発泡構造が損なわれることが原因で引き起こされる白色マーキングのコントラストの低下が起こることがなく、印字等の視認性が低下することがない。また、発泡構造が塗膜により保護されているため、指等による圧力で押しつぶされることがなく、手の垢や埃が発泡構造の凹凸部分に入り込むことがないため、経時的にマーキング部分のコントラストが低下することがなく、印字等の視認性を維持することができる。そして、マーキング部分のコントラストの低下を防ぐことで、コントラストの低下が原因の質感の損失を防ぐことができる。
【0048】
本発明に係る白色マーキングされた樹脂構造体は、例えば、コンピュータのキーボード等のOA機器、自動車部品(ボタン部品等)、家庭用品、建築材料などに幅広く利用できる。
【実施例】
【0049】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0050】
実施例1〜8、比較例1〜4
(白発色熱可塑性樹脂からなる樹脂成形体の作成)
表1、2に示す各成分をブレンドし、押出加工することによりペレットを製造し、このペレットから射出成形することにより厚さ2mmの樹脂成形体(マーキング発色樹脂平板:120mm×120mm)を作成した。
【0051】
(マーキング方法)
得られた樹脂成形体に、レーザー光線を照射して、樹脂成形体表面に、白色マーキング[10mm角BOX(線間距離75μm)を描写]を施した。レーザーとしてNd:YAGレーザー(波長1064nm)を使用した。照射条件としては、アパーチャーを径2mmに固定し、光源電流値(LC)、振動数(QS)及び印字スピード(SP)を下記の範囲で変化させ、最も明瞭な白色印字が得られる条件でマーキングを実施した。
光源電流値(LC):8〜20A
振動数(QS):1〜10kHz
印字スピード(SP):100〜1500mm/sec
【0052】
(塗膜の塗装方法)
上記の方法によりマーキングが施された樹脂形成体のマーキング部分をイソプロピルアルコールで脱脂し、塗膜形成用塗料を希釈シンナー[キシレン(質量比)/トルエン(質量比)=65/35]で塗料のフォードカップ粘度が20秒(フォードカップNo.4、25℃)になるように調整し、乾燥膜厚が25〜30μmになるようにエアスプレー塗装し、その後、120℃で20分加熱硬化し、試験体を得た。なお、塗料としては商品名「プラネットPZ−5クリア」(オリジン電気(株)製)を使用した。
【0053】
実施例及び比較例で得られた各試験体等について、下記の評価試験を行った。
【0054】
(1)白発色熱可塑性樹脂のマーキング性
実施例及び比較例で得られた白発色熱可塑性樹脂からなる樹脂成形体について、レーザー光線を照射して印字を施し、形状が正しく印字されているか否かを目視で観察し、下記基準に従って評価した。
評価基準
デザインどおりに印字されている:○
印字が不十分である:×
【0055】
(2)塗膜の密着性
実施例及び比較例で得られた試験体の塗膜表面に、カッターナイフで塗膜に切れ目を入れて樹脂成形体との間に空隙が生じるか否かを目視で観察し、下記基準に従って評価した。
評価基準
空隙が発生しなかった:○
空隙が発生した:×
【0056】
(3)印字の視認性
実施例及び比較例で得られた試験体において、塗膜の形成前後における印字の視認性の変化を目視で観察し、下記基準に従って評価した。
評価基準
印字が潰れることがなく、視認性に変化がなかった:○
印字が潰れ、視認性が低下した:×
【0057】
(4)寸法安定性
実施例及び比較例で得られたマーキングが施された樹脂形成体について、塗膜を加熱硬化する前に、図1に示すように、一方の端部を水平台に固定し、この水平台から他の端部下端までの距離(持ち上がり量Δh(mm))を反り量(初期値)として測定した。更に、該マーキングが施された樹脂形成体に塗膜を温度120℃、20分加熱硬化した後、上記と同様な方法で反り量(加熱硬化後)を測定し、下記式により反り量の増加率(%)を算出し、基準に従って評価した。
反り量増加率(%)={(加熱硬化後)−反り量(初期値)/反り量(初期値)}×100
評価基準
反り量増加率が60%未満:○
反り量増加率が60%以上:×
【0058】
(実施例及び比較例で使用した成分)
結晶性樹脂
PA:ポリアミド(PA6):商品名「A1030BRL」、ユニチカ(株)製
PET:ポリエチレンテレフタレート、商品名「ベルペットEFG6C」、カネボウ合繊(株)社製
PBT:ポリブチレンテレフタレート、商品名「TRE−DM2」、ウインテックポリマー(株)製
PP:ポリプロピレン、商品名「サンアロマーPM870L」、サンアロマー(株)製
【0059】
非晶性樹脂
AS:スチレン(St)76重量%、アクリロニトリル(AN)24重量%からなる共重合体、220℃/10kg条件でのMI=32g/10分
ABS−1:St45重量%、AN15重量%、ブタジエン(Bd)40重量%からなる共重合体、MEK(メチルエチルケトン)30℃のη粘度0.47
ABS−2:St40重量%、AN15重量%、Bd40重量%、メタクリル酸(MA)5重量%からなる共重合体、MEK30℃のη粘度0.67
SEBS:無水マレイン酸変性スチレン/エチレン・ブチレン/スチレンブロック共重合体、商品名「タフテックM1943」、旭化成ケミカルズ(株)製
MIP:スチレン−N−フェニルマレイミド−無水マレイン酸共重合体、商品名「マレッカMS−NC」、電気化学工業(株)製
MMA−AN−ST−Bd:St22重量%、AN11重量%、MMA58重量%及びBd9重量%からなる共重合体(220℃/10kg条件でのMI=18g/10分)、ゴム平均粒子径250μm)
【0060】
色材
CB:カーボンブラック、市販品、平均粒径17nm
TiO2:二酸化チタン、市販品、平均粒径0.18μm
【0061】
充填剤
GF:ガラス繊維、商品名「CS−3PE941」、日東紡績(株)製
【0062】
その他の添加剤
酸化防止剤1:フェノール系酸化防止剤、商品名「イルガノックス1010」、チバスペシャリティーケミカルズ(株)製
酸化防止剤2:イオウ系酸化防止剤、商品名「スミライザーTPS」、住友化学工業(株)製
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
上記表1、表2より、実施例により得られた樹脂成形体は、樹脂成形体を形成する白発色熱可塑性樹脂が結晶性樹脂及び非晶性樹脂からなり、且つ、結晶性樹脂と非晶性樹脂との配合割合[前者:後者(重量比)]が、20:80から80:20であるため、レーザー光線照射により形成された、背景色に対するコントラストに優れた印字を施すことができ、また、白色マーキング部上に塗膜を形成することによりコントラストの低下を引き起こすことがなかった。また、塗膜の密着性に優れ、寸法安定性に優れることがわかった。
【0066】
一方、比較例1、2では、白発色熱可塑性樹脂中の結晶性樹脂の配合割合が、20重量%を下回るため、発泡構造の強度が不十分であり、白色マーキング部上に塗膜を形成することによりコントラストの低下を引き起こし、さらに、塗膜の加熱硬化処理により大きく変形した。また、比較例3、4では、白発色熱可塑性樹脂中の非晶性樹脂の配合割合が、20重量%を下回るため、塗膜を樹脂成形体に密着させることができなかった。その上、塗膜の加熱硬化処理により、「反り」が発生した。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】マーキングが施された樹脂形成体の塗膜形成前後における反り量の測定方法の概略を示す説明図(断面図)である。
【符号の説明】
【0068】
1 反りモデル
2 水平台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性樹脂と非晶性樹脂からなり、結晶性樹脂と非晶性樹脂の配合割合[前者:後者(重量比)]が、20:80から80:20である樹脂成形体に、レーザー光線照射により白色マーキングが施され、且つ、該白色マーキングが施された白色マーキング部上に、透明塗料による塗膜が形成されている白色マーキングされた樹脂構造体。
【請求項2】
結晶性樹脂と非晶性樹脂からなり、結晶性樹脂と非晶性樹脂の配合割合[前者:後者(重量比)]が、20:80から80:20である樹脂成形体にレーザー光線を照射して樹脂成形体に白色マーキングを施し、その後、該白色マーキングが施された白色マーキング部上に、透明塗料を塗布して塗膜を形成することを特徴とする白色マーキングされた樹脂構造体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−166275(P2009−166275A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−4184(P2008−4184)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【Fターム(参考)】