説明

皮下脂肪測定装置

【課題】従来の皮下脂肪測定装置は、超音波ビームを電子的に掃引するために複雑な電子回路を必要とし、装置の大型化と高価格となってしまうという問題があった。
【解決手段】超音波プローブを有し、超音波プローブに駆動信号を与えて超音波を送信させるとともに超音波プローブからエコー信号を取り込み、エコー信号に基づいて診断情報を生成する皮下脂肪測定装置であって、超音波プローブは超音波トランスデューサと、超音波トランスデューサの傾き角度を検出する角速度センサと、LED光源とレンズとイメージセンサとDSPからなる光学式位置センサを有し、超音波プローブの走査は手動で行い、超音波プローブの位置と角度および光学式位置センサから得られる生体組織情報からBモード画像を構成し皮下脂肪分布を断面画像として表示することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮下脂肪測定装置に関するものであって、皮下脂肪の光散乱透過特性を考慮することにより容易に使用することを可能とし、超音波エコーに基づいて生体組織界面情報を取得し、皮下脂肪の厚さの測定精度を向上させることのできる小型の装置に関する。
【背景技術】
【0002】
皮下脂肪の厚さを計測するために超音波診断装置を用いることができる。超音波診断装置は診断対象の内部を超音波ビームで走査して超音波エコー信号を受信し、超音波エコー信号の強度に対応した画像データを求め、それによっていわゆるBモード画像と呼ばれる二次元断面画像を生成する。超音波診断装置は一般的には病院等で用いるものであって、広く知られるところであるが、一般消費者が任意の場所や状況で使用することは想定されていない。しかし、情報端末機器の普及に伴って、高度な情報機器を消費者が個人的に携帯し、任意の場所や状況で使用することは一般化しつつあるので、従来では医療機関で用いられている超音波診断装置であっても、消費者が個人的に携帯し、任意の場所や状況で使用することが可能となれば利便性が著しく向上し、個人の健康管理に著しく寄与するものである。
【0003】
超音波エコー信号を利用して皮下脂肪の厚さを計測する装置を図5に示す(特許文献1参照)。この装置は、小型軽量な超音波プローブ801と、そのプローブ801に接続された超音波振動素子駆動・検出回路802と、超音波振動素子駆動・検出回路802から得られた超音波の反射信号によるエコー画像をデジタル遅延により視覚的に精細にするフォーカス調節回路803と、制御回路804と、データ通信回路805と、パーソナルコンピュータ820と、パーソナルコンピュータ820上に構築される装置のインタフェースとなる計測ソフトウェア810とで構成される。データ通信回路805はエコー画像情報をパーソナルコンピュータ820に転送するとともにパソコン820から制御回路804に制御信号を伝達する。計測装置本体870には超音波振動素子駆動・検出回路802、フォーカス調節回路803、制御回路804、データ通信回路805とが収められている。計測装置本体870をコンパクトにして、超音波信号処理をインターフェイスを備えたパーソナルコンピュータ820で行わせることで全体システムをコンパクトにして在宅でも使用可能としている。
【0004】
また、光学的に皮下脂肪の厚さを計測する装置もある(特許文献2参照)。この図6に示した装置では、所定の波長の光を生体に出射するレーザダイオード7、生体内を伝播して再び生体表面に現れた光を受光する複数のフォトダイオード8、9、10とが異なる光源−受光素子間距離に配置されている。フォトダイオード8、9、10で受光される光は皮膚4のみを伝搬してきた光17、皮膚4および皮下脂肪5を伝搬してきた光18、および皮膚4、皮下脂肪5、筋肉6を伝搬してきた光19とからなっている。皮膚4、皮下脂肪5、筋肉5の光の散乱透過特性とそれぞれのフォトダイオード8、9、10の受光量の関係から個体差を補正した上で皮下脂肪4の厚さを推定するものである。
【0005】
【特許文献1】特開2005−152605号公報(5、6頁)
【特許文献2】特開2003−265440号公報(8、9頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示した従来技術では、携帯型とは言っても、生体内2次元断面画像を取得するために複数のアレイ状に並べた超音波トランスデューサから少しずつ位相をずらして
超音波を発信し、超音波波面を制御して超音波ビームを掃引かつフォーカスしている。このような構成においては、据置型の超音波診断装置と同じように非常に複雑な電子回路を必要とし、高価格となってしまうことは明らかである。
【0007】
また、得られた生体内2次元断面画像でどの部位が皮下脂肪層であるかどうかの判断には超音波画像に関する熟練が必要とされていた。
【0008】
特許文献2に示されている従来技術では、測定部位の生体組織の多様性などもあり、個人差を補正しても、光の散乱透過特性から推定される皮下脂肪の厚さには、実際の皮下脂肪の厚さに対して±30%程度の誤差が生じていた。
【0009】
上述した従来技術による問題点を解消するため、本発明は、生体内部の状態を非侵襲で簡単な構成で実施できる精度の高い皮下脂肪測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため本発明の皮下脂肪測定装置では下記記載の構成を採用する。
【0011】
本発明の皮下脂肪測定装置は超音波プローブに結合する
LED光源とレンズとイメージセンサとデジタルシグナルプロセッサとを備える光学式位置センサと、
超音波プローブの傾き角度を検出する角速度センサとを有し、
超音波プローブの信号、位置および傾き角度とから
生体内の皮下脂肪を測定することを特徴とする。
【0012】
また、LED光源から放射され生体内を通過して生体内部から出射される光をイメージセンサで検出し、イメージセンサで検出される平均の散乱透過光強度の値を参照値として
皮下脂肪の厚さの範囲を光学的皮下脂肪厚の範囲として決定し、
超音波エコー信号から皮下脂肪界面を決定し、皮下脂肪界面間距離から超音波皮下脂肪厚として皮下脂肪の厚さを決定し、
超音波皮下脂肪厚が光学的皮下脂肪厚の範囲内のとき
超音波プローブの位置と角度とからBモード画像を構成し
皮下脂肪を断面画像として表示することが好ましい。
【0013】
また、LED光源から放射され生体内を通過して生体内部から出射される光をイメージセンサで検出し、散乱透過光強度の変化に応じてイメージセンサの露光時間が変化し、
露光時間の情報が信号として出力され、
露光時間の情報から皮下脂肪の厚さの範囲を光学的皮下脂肪厚の範囲として決定し、
超音波エコー信号から皮下脂肪界面を決定し、皮下脂肪界面間距離から超音波皮下脂肪厚として皮下脂肪の厚さを決定し、
超音波皮下脂肪厚が光学的皮下脂肪厚の範囲内のとき
超音波プローブの位置と角度とからBモード画像を構成し
皮下脂肪を断面画像として表示することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、超音波を利用して誰でも皮下脂肪の分布を生体内2次元断面画像として簡便に精確に測定することができ、極めて低価格で実現し、個人が容易に自己の皮下脂肪の分布を把握することができるという効果を有する。光学的方法で皮下脂肪と他の生体組織との光散乱吸収特性の差を利用して、皮下脂肪であるか判断し、皮下脂肪の厚さの決定は超音波エコー法で行うので、単なる光学式の皮下脂肪厚計測法に比べ断然精度がよく、光学式の皮下脂肪厚計測法に必然的な測定部位への依存性がまったくない。皮下脂肪の
厚さが二次元分布として表示されるので、したがって、超音波の専門家でない一般ユーザーでも使うことができる。
【0015】
超音波プローブの回転を検出する角速度センサと平行移動を検出する光学式位置センサを備えているので、曲率を有する生体表面における超音波プローブの空間的な移動を正しく再現することができる。超音波プローブの動きを検出する角速度センサに、測定者が適切な動きを与えることによって皮下脂肪測定装置全体の動作をコントロールすることが可能である。これにより、操作性が著しく向上し、また、機械的スイッチ類の数を少なくすることが出来るので、故障の軽減にも寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に添付図面を参照して、本発明にかかる皮下脂肪測定装置の好適な実施の形態を順を追って詳細に説明するが、あらかじめ若干の用語について説明する。まず超音波プローブの軸とは超音波トランスデューサの中心を通る超音波が出射される方向の軸であり、図3で軸400として示されている。角速度センサとは超音波トランスデューサの回転角速度を検出するもので、本発明では水晶を用いる振動ジャイロセンサである。
【0017】
また、本発明の主たる目的は超音波プローブを手動で生体表面に沿って移動させ、平行移動量および回転量を光学式位置センサおよび角速度センサで検出することによって複雑な電子回路構成を採ることなく、生体形状の立体的な構造に対応する生体内のBモード画像を簡便に取得し、皮下脂肪の厚さを決定することである。なお、Bモード画像は生体形状の立体的な構造に必ずしも精確に一致している必要はないのであるが、生体内の断面画像を評価する際に、実際の形状を反映したものが好ましい。
【0018】
まず、図1を用いて本発明の皮下脂肪測定装置の第一の実施の形態における超音波プローブ3の構造を説明する。超音波プローブ3は基板31、超音波トランスデューサ1、振動ジャイロセンサ2、光学式位置センサ500、基板31およびコネクタ34を備え、ケーシング38に収納されている。基板31は、超音波トランスデューサ1、振動ジャイロセンサ2、光学式位置センサ500およびコネクタ34の配設の役割も有している。超音波トランスデューサ1、振動ジャイロセンサ2、光学式位置センサ500は、基板31上の図示しない配線接続手段を介してコネクタ34に接続し、ケーブル39で受信部5および送信部4に接続されている。
【0019】
超音波プローブ3は被検体の表面に対してその前面を接触させ超音波の送受信を行うものである。超音波トランスデューサ1は電気音響変換素子であり、送信時には電気パルスを超音波パルスに変換し、また受信時には超音波信号を電気信号に変換する機能を有している。被検体は皮膚200、皮下脂肪202、筋膜204、筋肉206からなり、生体内部の音響インピーダンスの異なる各組織の界面から反射された超音波は送信時と同一の超音波トランスデューサ1で受信され、超音波トランスデューサ1は受信信号として超音波エコー信号を発生する。
【0020】
図2は、本発明の超音波による皮下脂肪測定装置の全体ブロック図を示すものである。この皮下脂肪測定装置は、超音波トランスデューサ1と振動ジャイロセンサ2と光学式位置センサ500とを実装した超音波プローブ3と、超音波を発生させるための駆動信号を生成する送信部4と、超音波トランスデューサ1及び振動ジャイロセンサ2からの電気信号を受信する受信部5と、超音波エコー信号と角度情報から生体内部情報をBモード画像としてモニタ上に表示するための信号処理を行う信号処理部8とを備えている。さらにこの皮下脂肪測定装置は、入力部7と、表示部9を備えている。なお、光学式位置センサ500はLED光源とレンズとイメージセンサとDSP(デジタルシグナルプロセッサ)からなり、レンズでイメージセンサ上に結像した被検体の表面の画像の相関演算をDSPを
用いて高速に行い、移動量を算出するものである。
【0021】
振動ジャイロセンサ2は圧電素子を振動させ、その圧電素子に回転角速度Ωが加わると、もとの振動に対し直角方向にコリオリ力が生じる性質を利用したものである。このコリオリ力を検出用圧電素子で出力電圧として取り出している。振動ジャイロセンサ2は回転角速度を検出するので、検出信号はADコンバータ57でデジタル化された後、積分演算器82で積分され、方位角度に換算されて、超音波トランスデューサ1の方位角度情報としてRAM86に記録される。
【0022】
送信部4はパルス発生器43と、パルス遅延回路アレイ42と、FETスイッチアレイ41を備えている。パルス発生器43は被検体の内部に放射する超音波パルスの基準パルスを発生する。パルス遅延回路アレイ42は送信に使用される超音波トランスデューサ1と同数の複数の独立な遅延回路から構成されており、送信時における超音波ビームの収束距離を決定し、所定の深さに超音波を収束するための遅延時間を与えるための遅延回路であり、複数個の超音波トランスデューサを異なるタイミングで駆動する。FETスイッチアレイ41は超音波トランスデューサ1を駆動するための高圧パルスを生成するFETスイッチアレイである。FETスイッチアレイ41はパルス遅延回路アレイ42と同様にして、送信に使用される超音波トランスデューサ1と同数の複数の独立な駆動回路を有しており、超音波プローブ3に内蔵された超音波トランスデューサ1を駆動し、超音波を放射するための駆動パルスを形成する。
【0023】
受信部5は信号ゲート51と、プリアンプ52と、対数変換アンプ53と、ADコンバータ54、57と備えている。
【0024】
生体内部の音響インピーダンスの異なる組織の界面から反射された超音波は送信時と同一の超音波トランスデューサ1で受信され、超音波トランスデューサ1は受信信号としてエコー信号を発生する。このエコー信号は、信号ゲート51で送信信号から分離され、エコー信号のみがプリアンプ52、対数変換アンプ53、ADコンバータ54を介してRAM87に格納される。
【0025】
プリアンプ52は超音波トランスデューサ1によって電気信号に変換された微小信号を増幅し十分なS/Nを確保する。一般に被検体内からの受信信号は80dB以上の広いダイナミックレンジをもった振幅を有しているため、弱い信号を強調しダイナミックレンジを狭くして画像として表示可能となるようにするため、対数変換アンプ53は入力信号に対して検波を行い、超音波周波数成分を除去してその包絡線の振幅のみを検出し、同時にその振幅を対数変換する。ADコンバータ54はこの対数変換アンプ53の出力信号をAD変換する。
【0026】
入力部7は操作パネル71上から、装置の動作条件を入力するために用いられる。また様々な画質条件設定などの指示を行うこともできる。信号処理部8は受信した超音波信号と振動ジャイロセンサ2と光学式位置センサ500からの信号とから演算処理を行い、Bモード画像データを算出する。表示部9は液晶ディスプレイ91で構成され、Bモード画像データの表示を行うことができる。
【0027】
CPU81は受信部5および光学式位置センサ500からの信号をRAM86、87、88、89に一旦格納したのち、所定の演算アルゴリズムにしたがって座標変換85などを行い、表示部9に設けられた液晶ディスプレイ91にBモード画像として表示する。CPU81は、その内部にプログラムなどを記憶するROM、データや途中の処理結果などを記憶するRAMなどの記憶手段を有しており、ROMに記憶しているプログラムの指示に従って演算処理を行う一般的なマイクロプロセッサである。
【0028】
本発明の皮下脂肪測定装置は、超音波プローブ3を生体に押接し、目的の生体組織を超音波ビームが掃引するよう、手動で超音波プローブ3を生体表面上で走査することにより、生体内からの超音波エコー信号と振動ジャイロセンサ2で検出した超音波プローブ3の方位角度と光学式位置センサ500から検出した平行移動量から、座標変換85を施し生体内部組織のBモード画像を構成するものである。
【0029】
本発明で用いる超音波エコー法では、まず、送信部4のパルス発生器43でパルス幅200ns程度の電気パルスを基準周波数10kHz、すなわち時間間隔100μs間隔で生成し、この電気パルスをパルス遅延回路アレイ42に送り、超音波トランスデューサ1で発生する超音波波面が深さ方向の決められた点で順次収束するように、時間的に焦点位置が変化するいわゆるダイナミックフォーカスが実現するように遅延を与える。
【0030】
なお、本発明では超音波トランスデューサ1から放射される超音波のビーム進行方向での収束方法をダイナミックフォーカスとし、超音波ビームの掃引のみを手動で行っている。このようにすることで著しく電子回路の構成が簡単となり装置が小型となる。さらに、超音波トランスデューサ1から放射される超音波をダイナミックフォーカスとせず、固定の曲率を持つ超音波トランスデューサから放射され、球面波として伝播し、所定の位置で収束させるようにしてもよい。この場合は、さらに装置を小型・低価格とすることができる。ただし、この場合は超音波ビームの焦点深度は深くなく、得られる画像の鮮明度がダイナミックフォーカスに比べていくらか劣るが実用上は十分である。
【0031】
振動ジャイロセンサ2について説明する。振動ジャイロセンサ2は一般的な振動ジャイロセンサでよいが、本発明では3脚振動ジャイロセンサを用いる。3脚振動ジャイロセンサは、振動している圧電体に回転角速度Ωを加えたとき、もとの振動に対し直角方向に生じたコリオリ力を検出用圧電体で出力電圧として取り出すものである。振動ジャイロセンサ2は回転角速度を検出するので、検出信号はADコンバータ57でデジタル化された後、積分演算82が行われ超音波プローブ3の方位角参照情報としてRAM86に記録される。
【0032】
光学式位置センサ500について図3を用いて説明する。光学式位置センサ500はLED光源510とライトガイド512とレンズ520とイメージセンサ530とDSP540とからなり、光学式マウス等に用いられているものである。光学式マウスではLED光源510で撮像部位の被検体を直接あるいは光学ガイドを用いて照射しているが、本発明では撮像部位となる皮膚表面から約15mm程度離した生体部位をLED光源510で照射し、生体内部を透過・散乱して撮像部位を照射する光を光源とする。このようにして照射された皮膚200の撮像部位の実像がレンズ520によりイメージセンサ530上に結像される。
【0033】
光学式位置センサ500が生体表面に対して平行に移動すると、イメージセンサ530上の皮膚表面の実像が移動し、DSP540によって前に取った像との相関演算が実施され、生体に対する超音波プローブ3の平行移動量が分かり、RAM88に格納される。イメージセンサ530が2次元であれば、この移動量は生体表面の座標上で2次元のベクトルとして求められる。したがって、角速度を検出する振動ジャイロセンサ2を直交する2軸方向に配設しておけば、生体内のデータを3次元的に取得することも可能となるが本発明では2次元の断面を表示することとして説明する。
【0034】
また、イメージセンサ530の画像情報は平均の散乱透過光強度を算出するために、CPU81からの要求によって、RAM89に格納される。
【0035】
なお、ボール、ローラー等を用いるメカニカルな位置センサでは、生体と音響結合を行うために超音波エコー法で通常用いられる液状ゲルのために、ボール等が滑ってしまい、正しい平行移動量検出が行えない。したがって光学式位置センサを用いることが好適である。
【0036】
本発明は、用手法(手動回転)で超音波プローブ3を生体に対して移動・回転し、超音波エコー法による2次元生体内断面画像を構成する装置である。以下に超音波プローブ3を手動で走査させ、生体内のBモード画像を得る方法について図1から図4を用いて順を追って説明する。
【0037】
まず、超音波トランスデューサ1から超音波を生体内に入射する。一定時間経過後に生体内部の音響インピーダンスの異なる組織の界面から反射された超音波エコーを受信し、超音波エコー信号は適切な処理を施された後で、RAM87に格納される。
【0038】
超音波プローブ3を手動で移動させながら、超音波プローブ3に実装された光学式位置センサ500は、イメージセンサ530で得られた皮膚面組織の画像の自己相関演算を行って、超音波プローブ3の平行移動量δL185を求める。同時に、振動ジャイロセンサ2は超音波プローブ3の回転角速度を検出する。検出された回転角速度の信号はADコンバータ57でデジタル化された後、積分演算82が行われ超音波プローブ3の方位角の微小変化量δθとしてRAM86に記録される。
【0039】
座標変換85は次のステップで行われる。超音波プローブ3の初期位置から出発して、平行移動量δLに回転角度δθを乗じた微小変位187を平行移動量δLに加えて、生体表面180上の座標に変換する。
【0040】
座標変換85で得られた生体座標に相当する表示部9上の点から、超音波プローブ3の軸400に対応する走査線405に、適切な信号処理を施したRAM87の値(エコー信号)をBモード2次元断面画像として表示する。このようにすることで、生体表面180の形状に対応するBモード画像表示が行えるので、測定者は表示されたBモード画像を見て、それが実際に生体のどの部位であるかを明確に知ることができるのである。
【0041】
次に、皮下脂肪の厚さの決定を行う方法について説明する。通常、皮膚近傍の組織は皮膚表面から順に皮膚200(表皮、真皮)、皮下脂肪202、筋膜204、筋肉206となっている。皮下脂肪202は音響インピーダンスがその他の生体構成要素の主成分である水と大きく異なるので、超音波は皮下脂肪202の両界面で強く反射される。一般の超音波エコー診断法では、その強い2層の間を皮下脂肪202と判断する。
【0042】
しかしながら、皮下脂肪202の細胞の質・大きさなどの個人ごとの違いや部位による差により、界面のみならず、皮下脂肪202の内部からも超音波エコー信号が反射してくる場合も多々あり、皮下脂肪202と他の生体組織との界面がはっきりしない場合もある。
【0043】
臨床検査技師などの熟練した超音波技術者は、Bモード画像から皮下脂肪層がどの位置かを正しく判断できるのであるが、Bモード画像を見慣れていない一般ユーザーはどの超音波エコー信号が皮下脂肪と他の生体組織との界面であるかの判別を誤ることが多々ある。
【0044】
本発明は、超音波エコー法に求められる専門性を、光学的な測定により皮下脂肪の厚さの範囲を推定することで補いながら、超音波エコー法で精確に皮下脂肪の厚さを決定し分布を表示するという特徴を有している。
【0045】
LED光源510とイメージセンサ530を適当な距離、好適には15〜20mm離して設けると、LED光源510から出射された光は皮下脂肪202では散乱されながら透過するが、筋膜204、筋肉206では吸収されて光強度は減衰する。したがって、LED光源510から出射された光は一般的に皮下脂肪202が厚くなると増加する。皮下脂肪の厚さT(mm)と散乱透過光強度Iの関係は近似的にI=Io(1−exp(−T/C))と表せる(Ioは光学系により決まる定数、Cは標準的な生体の皮下脂肪の厚さ)。CPU81はRAM89に格納されたイメージセンサ530の画像情報から平均の散乱透過光強度を算出し、皮下脂肪の厚さと散乱透過光強度の関係式から皮下脂肪の厚さを推定する。このように推定された皮下脂肪の厚さを光学皮下脂肪厚と呼ぶことにする。なお、この関係式から得られる皮下脂肪の厚さには受光素子を複数個用いて個人差を補正しない場合には通常±50%程度の誤差が存在している。
【0046】
超音波エコー信号からは最大振幅の界面エコー信号を皮下脂肪202と筋膜の界面として抽出し、皮下脂肪202の厚さを決定することができる。このようにして推定された皮下脂肪の厚さを超音波皮下脂肪厚と呼ぶことにする。超音波皮下脂肪厚は皮下脂肪の正しい両界面を抽出できれば、超音波の波長程度の精度で決めることができる。超音波の波長は5MHzの超音波トランスデューサを用いた場合は300μm程度であり、極めて高精度で皮下脂肪の厚さを決めることができる。
【0047】
超音波皮下脂肪厚が光学的皮下脂肪厚の範囲にあるときは、推定された超音波皮下脂肪厚が真の皮下脂肪の厚さとして妥当であると判断できるので、測定が正常に行われたと判断し、決定に用いられた皮下脂肪界面の間を皮下脂肪として表示部9に超音波プローブ3の軸に対応する走査線405に皮下脂肪の分布として、バックグラウンドとは異なる色調で表示する。
【0048】
超音波皮下脂肪厚が光学的皮下脂肪厚の範囲外にあり、超音波皮下脂肪厚より大きいときは、超音波皮下脂肪厚の推定に用いられた界面エコー信号として深部からの超音波エコー信号が抽出されたためと判断し、浅い位置の超音波エコー信号を再抽出し、超音波皮下脂肪厚を再推定する。
【0049】
超音波皮下脂肪厚が光学的皮下脂肪厚の範囲外にあり、光学的皮下脂肪厚より小さいときも、同様に超音波皮下脂肪厚の推定に用いられた界面エコー信号として浅い位置からの超音波エコー信号が抽出されたためと判断し、深い位置の超音波エコー信号を再抽出し、超音波皮下脂肪厚を再推定する。
【0050】
以上のことを繰り返して、超音波皮下脂肪厚が光学的皮下脂肪厚の範囲に含まれるように皮下脂肪の厚さを決定し、皮下脂肪として超音波プローブ3の軸400に対応する走査線405に皮下脂肪分布として、バックグラウンドとは異なる色調で表示する。CPU81は、数回の試行で皮下脂肪の厚さが求められなかった場合は、Bモード画像には超音波エコー信号強度のみを表示し、測定者には皮下脂肪の厚さ決定のエラーとして測定者に通知し、再測定を促すのが好ましい。
【0051】
測定者は表示部9に表示されたBモード画像の皮下脂肪分布から関心のある部位についてカーソルで皮下脂肪の両界面の位置を指定し、皮下脂肪の厚さとして数値で表示させてもよい。
【0052】
とくに、本発明においては、皮下脂肪の厚さが二次元分布として表示されるので、測定データを視覚的に正しく捉えることが可能であり、したがって、超音波の専門家でない一般ユーザーでも精確な皮下脂肪を測定することができる。
【0053】
本発明の第2の実施形態として、対象物からの散乱透過光強度に依存して露光時間の変化する機能を有する光学式位置センサ500を用いることも出来る。この場合、CPU81でイメージセンサ530の画像情報から平均の散乱透過光強度を算出することなしに、露光時間の変化を示す情報を利用する。この場合も、皮下脂肪の厚さと散乱透過光強度の代用としての露光時間情報の関係式から皮下脂肪の厚さを推定する。
【0054】
このように、本発明により、個体に依存する皮下脂肪組織の超音波エコー信号の多様性に影響されずに、皮下脂肪分布測定が確実に行えて、さらに測定精度を向上させることができる。
【0055】
以上説明したように、本発明の皮下脂肪測定装置によれば、誰でも生体内の2次元的な断面を超音波Bモード画像として取得し皮下脂肪の厚さの分布を簡便にかつ正確に計測することができる。
【0056】
本発明では、超音波プローブ3の空間的な動きを検出する振動ジャイロセンサ2を備えているので、測定者が超音波プローブ3に適切な動きを与えることによってソフト的に皮下脂肪測定装置全体の動作をコントロールすることが可能である。例えば最終位置で所定の時間、例えば2秒間静止させたら測定終了とする。これにより、操作性が著しく向上し、また、スイッチ類の数を少なくすることが出来るので、故障の軽減にも寄与する。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の皮下脂肪分布測定装置は装置全体を超小型軽量にすることができ、簡便に正しい生体内の断面画像が測定できることから、スポーツクラブ、フィットネス施設、健康ランドなどの場において使用することができる。また、一般的なパーソナルコンピュータに接続して使用することができるので、一般家庭の健康管理用としても適している。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の皮下脂肪測定装置の超音波プローブ部を説明する図である。
【図2】本発明の皮下脂肪測定装置のブロック図である。
【図3】本発明の皮下脂肪測定装置の光学式位置センサを説明する図である。
【図4】本発明の皮下脂肪測定装置における座標変換によりBモード画像を構成する説明図である。
【図5】従来技術を説明するブロック図である。
【図6】従来の皮下脂肪測定装置を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0059】
1 超音波トランスデューサ
2 振動ジャイロセンサ
3 超音波プローブ
31 基板
34 コネクタ
39 ケーブル
200 皮膚
202 皮下脂肪
204 筋膜
206 筋肉
500 光学式位置センサ
400 軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波プローブに結合する
LED光源とレンズとイメージセンサとデジタルシグナルプロセッサとを備える光学式位置センサと、
前記超音波プローブの傾き角度を検出する角速度センサとを有し、
前記超音波プローブの信号、位置および傾き角度とから
生体内の皮下脂肪を測定する
皮下脂肪測定装置。
【請求項2】
前記LED光源から放射され生体内を通過して生体内部から出射される光を前記イメージセンサで検出し、前記イメージセンサで検出される平均の散乱透過光強度の値を参照値として
皮下脂肪の厚さの範囲を光学的皮下脂肪厚の範囲として決定し、
超音波エコー信号から皮下脂肪界面を決定し、皮下脂肪界面間距離から超音波皮下脂肪厚として皮下脂肪の厚さを決定し、
前記超音波皮下脂肪厚が前記光学的皮下脂肪厚の範囲内のとき
前記超音波プローブの位置と角度とからBモード画像を構成し
皮下脂肪を断面画像として表示することを特徴とする
請求項1に記載の皮下脂肪測定装置。
【請求項3】
前記LED光源から放射され生体内を通過して生体内部から出射される光を前記イメージセンサで検出し、前記散乱透過光強度の変化に応じて前記イメージセンサの露光時間が変化し、
該露光時間の情報が信号として出力され、
前記露光時間の情報から皮下脂肪の厚さの範囲を光学的皮下脂肪厚の範囲として決定し、超音波エコー信号から皮下脂肪界面を決定し、皮下脂肪界面間距離から超音波皮下脂肪厚として皮下脂肪の厚さを決定し、
前記超音波皮下脂肪厚が前記光学的皮下脂肪厚の範囲内のとき
前記超音波プローブの位置と角度とからBモード画像を構成し
皮下脂肪を断面画像として表示することを特徴とする
請求項1に記載の皮下脂肪測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−77754(P2009−77754A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−247155(P2007−247155)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(000001960)シチズンホールディングス株式会社 (1,939)
【Fターム(参考)】