説明

皮膚中ヒアルロン酸分解酵素阻害剤、皮膚中ヒアルロン酸増強組成物、並びにそのヒアルロン酸分解酵素阻害剤若しくはヒアルロン酸増強組成物を配合した皮膚外用剤、化粧料

【課題】ヒアルロン酸分解酵素を好適に阻害し、それによって皮膚中のヒアルロン酸量を増加させることができる皮膚中ヒアルロン酸分解酵素阻害剤、皮膚中ヒアルロン酸増強組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】低分子量ポリグルタミン酸又はその塩を、皮膚中ヒアルロン酸分解酵素阻害剤の有効成分とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚中のヒアルロン酸を分解する酵素を阻害する酵素阻害剤、及びそのような酵素を阻害して皮膚中のヒアルロン酸量を増加させることができる皮膚中ヒアルロン酸増強組成物、並びにそのような阻害剤若しくは組成物を配合した皮膚外用剤、化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生物由来のポリアミノ酸は生分解性及び生体適合性が高いことから、バイオ分野への応用が幅広く研究されている。特に、納豆菌が産生するポリグルタミン酸はこれらの機能以外に高い保湿性、ミネラル吸収促進作用などの特性を有していることから化粧品素材や食品に用いられており、バイオ新素材としての様々な応用が期待されている。
【0003】
一方、ヒアルロン酸は生態防御に関わる免疫系や電解質バランスのコントロールに関与するグルコサミノグリカンの一種である。皮膚中のヒアルロン酸の減少は肌の老化、弾力性や柔軟性の低下の原因となる。皮膚中のヒアルロン酸量を増加させるヒアルロン酸の産生促進剤を利用した化粧料も最近多く報告されるようになってきた(特許文献1参照)が、皮膚に塗布した場合、ヒアルロン酸量を顕著に高めるまでには至っていないのが現状である。
【0004】
これは、皮膚中でのヒアルロン酸の分解速度が速いためであると考えられている。皮膚中のヒアルロン酸は、生体内で合成されるとヒアルロン酸分解酵素による分解を受けるため、皮膚中のヒアルロン酸の半減期は約1日であることが知られている(非特許文献1参照)。ヒアルロン酸合成促進剤は、ヒアルロン酸量を高めるが、ヒアルロン酸分解酵素によって早く分解されるため、皮膚中のヒアルロン酸を十分に高めることは不可能であった。
【0005】
よって、皮膚中のヒアルロン酸は、ヒアルロン酸分解酵素によって容易に分解されるため、保湿機能や粘弾性機能が減少し、肌の老化、弾力性や柔軟性の低下の原因となる問題があった。
【0006】
ヒアルロン酸分解酵素は、皮膚中にも存在し、炎症に関与する酵素としても知られ、この酵素活性を阻害することで炎症やアレルギーを抑えることも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−209261号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Tammi R. et al,. J. Invest. Dermatol., 97,126〜130(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたもので、ヒアルロン酸分解酵素を好適に阻害し、それによって皮膚中のヒアルロン酸量を増加させることができる皮膚中ヒアルロン酸分解酵素阻害剤、皮膚中ヒアルロン酸増強組成物を提供することを課題とする。また本発明は、ヒアルロン酸分解酵素の阻害、皮膚中のヒアルロン酸量の増加により、皮膚の保湿機能や粘弾性機能を維持することができ、肌の老化、弾力性や柔軟性の低下を防止することができる皮膚外用剤や化粧料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、皮膚に浸透可能な低分子量ポリグルタミン酸は、ヒアルロン酸分解酵素を効果的に阻害して、皮膚中のヒアルロン酸量を顕著に高めることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、低分子量ポリグルタミン酸又はその塩を有効性分とすることを特徴とする皮膚中ヒアルロン酸分解酵素阻害剤を提供するものである。また本発明は、低分子量ポリグルタミン酸又はその塩を含有することを特徴とする皮膚中ヒアルロン酸増強組成物を提供するものである。
【0012】
低分子量ポリグルタミン酸又はその塩としては、好ましくは、分子量が400〜10000のものを用いることができる。
【0013】
このような皮膚中ヒアルロン酸増強組成物において、低分子量ポリグルタミン酸 又はその塩の他に、ヒアルロン酸合成促進剤を含有させることも可能である。このようなヒアルロン酸合成促進剤としては、たとえばアセチルグルコサミン若しくはその誘導体、及びレチノール若しくはその誘導体からなる群から選択される一種若しくは二種以上を用いることができる。
【0014】
さらに、本発明は、上記のような皮膚中ヒアルロン酸分解酵素阻害剤又は皮膚中ヒアルロン酸増強組成物を配合した、皮膚外用剤、化粧料を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、上述のように低分子量ポリグルタミン酸又はその塩を皮膚中ヒアルロン酸分解酵素阻害剤の有効成分として用い、或いは低分子量ポリグルタミン酸又はその塩を皮膚中ヒアルロン酸増強組成物に含有させたことで、ヒアルロン酸分解酵素を好適に阻害することができ、それによって皮膚中のヒアルロン酸の分解を好適に防止することができ、皮膚中のヒアルロン酸量を高めることができるという効果がある。
【0016】
また、低分子量ポリグルタミン酸又はその塩に、ヒアルロン酸合成促進剤を併用することで、皮膚中のヒアルロン酸量を一層増加させることができるという効果がある。
【0017】
さらに、このような皮膚中ヒアルロン酸分解酵素阻害剤、或いは皮膚中ヒアルロン酸増強組成物を皮膚外用剤や化粧料に配合することで、皮膚の保湿機能や粘弾性機能を維持することができ、肌の老化、弾力性や柔軟性の低下を防止することができるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の皮膚中ヒアルロン酸分解酵素阻害剤は、上述のように低分子量ポリグルタミン酸又はその塩を有効成分とするものである。また、本発明の皮膚中ヒアルロン酸増強組成物は、低分子量ポリグルタミン酸又はその塩を含有するものである。
【0019】
本発明における「ヒアルロン酸分解酵素阻害剤」は、皮膚中のヒアルロン酸の分解酵素を阻害する機能を有するものである。すなわち、皮膚に浸透することにより、ヒアルロン酸分解酵素に起因して生じるヒアルロン酸の減少を防止し、皮膚中のヒアルロン酸量を高めるという作用を有する。
【0020】
低分子量ポリグルタミン酸又はその塩としては、分子量が400〜50000程度のもの、より好ましくは400〜10000程度のもの、さらに好ましくは400〜2000程度のものを用いることができる。構成アミノ酸であるグルタミン酸はD体、L体又はラセミ体のいずれでも良いが、市場における入手の容易性、生体適合性や生分解性を考慮するとL体のグルタミン酸のみで構成されるポリグルタミン酸又はL体及びD体の混合型であるポリグルタミン酸の使用が好適である。逆に同一効果を有しながら分解性の低い、D体のグルタミン酸で構成されるポリグルタミン酸もまた使用することが可能である。
【0021】
このような分子量が400〜2000程度の低分子量ポリグルタミン酸は、重合度が3〜15のオリゴペプチドであり、γ−ポリグルタミン酸の加水分解等の処理、精製処理等によって、低分子化された成分である。すなわち、このような重合度が3〜15の低分子量ポリグルタミン酸は、オリゴガンマグルタミン酸である。γ−ポリグルタミン酸は、たとえば納豆の特徴である粘性成分の主成分であり、多数のグルタミン酸がγ−グルタミル結合で連結してなる分子量が10万〜600万のポリペプチドであり、水溶性の天然高分子である。
【0022】
このようなγ−ポリグルタミン酸は、複数のグルタミン酸がγ−グルタミル結合で連結してなる水溶性の生分解性ポリマーであり、グルタミン酸エステル−Nカルボン酸無水物の重合体から誘導されるか、またはバチルス属の微生物の発酵によって製造されるものである。バチルス属の微生物を用いる場合には、たとえば、高濃度グルタミン酸を含む培地に、バチルス属のγ−ポリグルタミン酸生産菌(たとえばBacillus subtilis var chungkookjang,KCTC 0697BP)を培養生産し、精製することで得られる。
【0023】
低分子量ポリグルタミン酸の塩としては、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛等の無機金属塩またはアンモニウム塩などが例示される。
【0024】
上記のような低分子量ポリグルタミン酸又はその塩の他に、ヒアルロン酸合成促進剤を含有させることも可能である。このヒアルロン酸合成促進剤は、ヒアルロン酸分解酵素に対する阻害効果を示さない成分であれば特に限定されないが、たとえばグルコサミン若しくはその誘導体、又はレチノール若しくはその誘導体等が例示される。
【0025】
グルコサミン若しくはその誘導体としては、たとえばグルコサミン塩酸塩、グルコサミン硫酸塩、グルコサミン乳酸塩、N−アセチルグルコサミン等が例示される。
【0026】
レチノール若しくはその誘導体は、ビタミンA(レチノール)の一般構造を有するものおよび生理活性がレチノールと類似している構造変異体および化学構造がレチノールと類似している誘導体を意味する。具体的には、ビタミンA油、β−カロチン、レチノール、レチナール、レチノイン酸、パルミチン酸レチノール、酢酸レチノール、レチノイン酸トコフェリルおよびリノール酸レチノール等が挙げられる。

【0027】
さらに望ましくは、キチン・キトサンやそれらの誘導体を含有させることも可能である。キチン・キトサンやそれらの誘導体の種類も特に限定されないが、たとえばカルボキシメチルキチン、カルボキシメチルキトサン、キトサンのグリコール酸塩やピロリドンカルボン酸塩、乳酸塩、アスコルビン酸塩等の塩類、部分ミリストイル化キトサンピロリドンカルボン酸(たとえばPM−キトサン(商品名:ピアス株式会社製))等の部分アシル化キトサン塩や、部分ミリストイル化カルボキシメチルキトサン等の部分アシル化カルボキシメチルキトサン等が挙げられる。
【0028】
その他、その形態に応じて、化粧料、外用剤等で一般的に用いられる成分を本発明の効果や機能性を阻害しない範囲で配合できる。例えば、ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類、セタノール、ベヘニルアルコール等の高級アルコール類、流動パラフィン、スクワラン等の非極性油剤類、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル等のエステル系油剤類、小麦胚芽油やオリーブ油等の植物油類、トリメチルシロキシケイ酸、メチルフェニルポリシロキサン等のシリコン化合物類、パーフルオロポリエーテル等のフッ素化合物類等の液状油剤が挙げられる。また、水溶性高分子、保湿柔軟化剤、抗酸化剤、収斂剤、美白剤、抗菌剤、抗炎症剤、紫外線吸収剤類、紫外線散乱剤、水溶性ビタミン類、油溶性ビタミン類、酵素等の医薬部外品原料規格、化粧品種別配合成分規格、化粧品原料基準、日本薬局方、食品添加物公定書規格等の成分等が挙げられる。
【0029】
たとえば、化粧料として、1)局所又は全身用の皮膚洗浄料又は皮膚化粧料類、2)頭皮・頭髪に適用する薬用及び/又は化粧用の製剤類、3)浴湯に投じて使用する浴用剤、4)人体用の消臭・防臭剤、5)洗口剤等の口腔用剤、6)皮膚貼付用シート、化粧用シート、化粧用コットン、ウエットティッシュなどを意味し、固形、溶液、ゲル、エマルジョン、シート、スプレー、アンプル、カプセル、粉末(パウダー)など利用上の適当な形態とすることができる。
【0030】
具体的には、ローション、乳液、クリーム、スプレー、軟膏、ジェル、美容液、顔面用含浸シート、オイル、パック、ミストなどの基礎化粧料、洗顔料、クレンジングなどの皮膚洗浄料、シャンプー、リンス、ヘアートリートメント、ヘアートニック、育毛・養毛料などの頭髪化粧料、ファンデーション、口紅、アイシャドウ、アイライナー、マスカラなどのメークアップ化粧料などが挙げられる。
【0031】
たとえば、乳化化粧料として利用する場合は、液状油剤を乳化させて調製することが可能である。具体的な例としては、流動パラフィン、スクワラン、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソトリデシル、エチルヘキサン酸セチル、トリ-エチルヘキサン酸グリセリル、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリン、パルミチン酸セチル、イソステアリン酸−2−ヘキシルデシル、ステアリン酸ステアリル、ミリスチン酸イソステアリル、ジ−2−エチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、ジイソステアリン酸グリセリル、ジステアリン酸プロピレングリコール等のエステル系液状油剤やコメ油、コメヌカ油、月見草油、リノール酸、コムギ胚芽油、オリーブ油、ホホバ油、ブドウ種子油、カミツレ油、ローズマリ−油、ウイキョウ油等の植物系液状油、ホホバ油、卵黄油などの動物系液状油が例示される。
【0032】
乳化剤としては、脂肪酸モノグリセリド、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の非イオン系界面活性剤、塩化ベンザルコニウム等のカチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、アニオン界面活性剤等が例示される。
【0033】
水溶性高分子としては、アラビアゴム、クインシード、寒天、カゼイン、デキストリン、ゼラチン、ペクチン、デンプン、カラギーナン、アルギン酸又はその塩、ヒアルロン酸又はその塩、コンドロイチン硫酸又はその塩、エチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ニトロセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメタアクリレート、ポリアクリル酸塩、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレンイミン等が例示される。
【0034】
さらに本発明の皮膚外用剤、化粧料は、上記のような皮膚中ヒアルロン酸分解酵素阻害剤又は皮膚中ヒアルロン酸増強組成物を配合したものである。本発明の皮膚外用剤は、広く外皮(頭皮を含む)に適用や塗布することが可能な剤を意味するものであり、化粧料、医薬品、医薬部外品等の薬事法上の分類には特に拘束されず、広く適用することが可能である。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0036】
(実施例1)
本実施例では、γ−ポリグルタミン酸を原料として、低分子量ポリグルタミン酸を製造した。すなわち、γ−ポリグルタミン酸を、塩酸等による化学的な加水分解処理、或いはγ−ポリグルタミン酸分解酵素による酵素的な加水分解処理により、低分子量化した。この低分子量体をGPC(Gel Permeation Chromatgraphy)を利用することにより、分子量別に分画して、それぞれ分子量が400、800、1000、2000、10000を示す低分子量ポリグルタミン酸(カリウム塩)を調製した。
GPCのカラムとしては、Viscotek GMPWXL(2本連結)を用い、検出には、
Viscotek LR125 Laser Refractometer を用いた。分子量スタンダードとしては、ポリエチレングリコール(American Polymer Standards Corp.製)を用いた。分子量スタンダードであるポリエチレングリコールを指標にした分子量曲線から、低分子量ポリグルタミン酸(カリウム塩)の平均分子量を求めた。
(比較例)
一方、後述の試験例2等で、比較例として用いる高分子量のγ−ポリグルタミン酸としては、分子量が10万、50万、100万、200万を示すγ−ポリグルタミン酸を準備した。実施例1の低分子量ポリグルタミン酸(カリウム塩)と同様にGPC(Gel Permeation Chromatgraphy)を利用して分子量別に分画した。また実施例1と同様に、GPCのカラムとしては、Viscotek GMPWXL(2本連結)を用い、検出には、Viscotek LR125 Laser Refractometer を用いた。分子量スタンダードとしては、ポリアクリルアミド(American Polymer Standards Corp.製)を用い、その分子量スタンダードを指標にした分子量曲線から、高分子量のγ−ポリグルタミン酸の平均分子量を求めた。
【0037】
(試験例1)
本試験例では、低分子量ポリグルタミン酸のヒアルロン酸分解酵素に対する阻害効果を試験した。
【0038】
すなわち、上記実施例1のようにして調製された分子量が400、800、1000、2000、10000を示す低分子量ポリグルタミン酸を、それぞれ濃度1重量%に溶解させた。400unit/mlのヒアルロン酸分解酵素であるヒアルロニダーゼに、低分子量ポリグルタミン酸が濃度0.01重量%になるように添加した後、37℃で20分間反応させた。この酵素反応液に、0.4mg/mlのヒアルロン酸液を混合した後、37℃で20分間反応させ、0.4NのNaOHを添加して反応を中止させた。活性化剤として0.1mg/mlのCompound40/80と、2.5mMのCaCl2及び0.15MのNaClを混合した。
【0039】
前記反応溶液に1重量%の濃度のp−DABA(p−dimethylaminobenzaldehyde)を3ml添加し、37℃で20分間反応させた後、585nmで吸光度を測定するMorgan−Elson法で酵素活性を測定した。低分子量ポリグルタミン酸によるヒアルロン酸分解酵素の活性阻害率は、低分子量ポリグルタミン酸と反応させていない酵素活性値に対する、低分子量ポリグルタミン酸を反応させた酵素活性値に対する割合で計算した(Naoki fujitani,Journal of applied Phycology,13:489,2001)。
【0040】
前記反応溶液に1重量%の濃度のp−DABA(p−dimethylaminobenzaldehyde)を3ml添加し、37℃で20分間反応させた後、585nmで吸光度を測定するMorgan−Elson法で酵素活性を測定した。低分子量ポリグルタミン酸によるヒアルロン酸分解酵素の活性阻害率は、低分子量ポリグルタミン酸と反応させていない酵素活性値に対する、低分子量ポリグルタミン酸を反応させた酵素活性値に対する割合で計算した(Naoki fujitani,Journal of applied Phycology,13:489,2001)。
【0041】
その結果、表1に示すように、分子量が、それぞれ400、800、1000、2000、10000を示す低分子量ポリグルタミン酸は、すべてにおいて、ヒアルロン酸分解酵素の活性を90%以上阻害させた。従って、ヒアルロン酸分解酵素に対して優れた阻害効果を有することが明らかである。
【0042】
【表1】

【0043】
(試験例2)
本試験例では、低分子量ポリグルタミン酸による皮膚中ヒアルロン酸量の増強作用を試験した。
【0044】
三次元ヒト皮膚モデル(東洋紡製、TESTSKIN-high)の表面に、分子量がそれぞれ400、800、1000、2000、10000を示す低分子量ポリグルタミン酸(オリゴガンマグルタミン酸)の1.0重量%水溶液を50μl添加し、37℃、5容量%CO2存在下で6時間培養した。
【0045】
皮膚モデル表面を生理食塩水で10回洗浄した後、バイオプシンで採取された皮膚組織に1.0重量%TritonXを含有するリン酸緩衝液400μlを加えて、氷冷下でホモジナイズした。ホモジナイズした液をエッペンドルフに移し、10000rpmで10分間遠心分離した。上清液に含まれるタンパク量をProein Assay (Bio Rad)を用いて求めた。
【0046】
ヒアルロン酸結合性タンパク質(HABP)を利用したHA測定キット(Hyaluronan Assay kit、生化学工業株式会社)を利用することにより、皮膚中のヒアルロン酸量を求めた。更にタンパク量もProein Assay (Bio Rad)を用いて求めることにより、含有するタンパク量当りのヒアルロン酸量を求めた。その結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
表2からも明らかなように、分子量がそれぞれ400、800、1000、2000、10000を示す低分子量ポリグルタミン酸は、無添加のものと比較して、皮膚中のヒアルロン酸量が1.82〜2.95倍に向上しており、ヒアルロン酸を顕著に高める作用を有することが確認された。特に、分子量が400、800、1000の低分子量ポリグルタミン酸が、2.48〜2.95倍と皮膚中ヒアルロン酸の増強効果に優れることが分かった。
【0049】
一方、分子量が10万、50万、100万、200万を示すγ−ポリグルタミン酸には、明確な皮膚中ヒアルロン酸の増強効果は認められなかった。
【0050】
(試験例3)
本試験例では、本発明の低分子量ポリグルタミン酸とヒアルロン酸合成促進剤であるレチノールとの併用効果について試験した。
【0051】
三次元ヒト皮膚モデル(東洋紡製、TESTSKIN-high)の表面に、分子量がそれぞれ400、800、1000、2000、10000を示す低分子量ポリグルタミン酸(オリゴガンマグルタミン酸)の0.1重量%水溶液を50μl添加し、37℃、5容量%CO2存在下で6時間培養した。皮膚中のヒアルロン酸の定量は、試験例2 と同様の方法で行った。その結果を表3に示す。
【0052】
【表3】

【0053】
表3からも明らかなように、コントロールの1.47倍の皮膚中ヒアルロン酸の増強効果を有する0.1重量%の低分子量ポリグルタミン酸(分子量:800)とコントロールの1.28倍の皮膚中ヒアルロン酸の増強効果を有する0.05重量%のレチノールを共存させることにより、コントロールの1.92倍の増強効果を示すようになった。このことから、低分子量ポリグルタミン酸とレチノールとを共存させることにより、皮膚中ヒアルロン酸の量を相乗的に高めることが明らかになった。
【0054】
(試験例4)
本試験例では、本発明の低分子量ポリグルタミン酸とヒアルロン酸合成促進剤であるN-アセチルグルコサミンとの併用効果について試験した。試験は、試験例3と同様の方法で行った。その結果を表4に示す。
【0055】
【表4】

【0056】
表4からも明らかなように、コントロールの1.55倍の皮膚中ヒアルロン酸の増強効果を有する0.1重量%の低分子量ポリグルタミン酸(分子量:1000)とコントロールの1.19倍の皮膚中ヒアルロン酸の増強効果を有する0.5重量%のN-アセチルグルコサミンを共存させることにより、コントロールの1.88倍の増強効果を示すようになった。このことから、低分子量ポリグルタミン酸とN-アセチルグルコサミンとを共存させることにより、皮膚中ヒアルロン酸の量を相乗的に高めることが明らかになった。
【0057】
(処方例1)(美容液)
本処方例は、一例として美容液の処方例であり、組成および配合比は次のとおりである。
【0058】
組成 配合比(重量%)
水素添加リン脂質 1.0%
スクワラン 1.5%
部分ミリストイル化カルボキシメチルキトサン 0.2%
アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体 0.1%
ブチレングリコール 2.5%
ジプロピレングリコール 5.5%
グリセリン 7.0%
メチルパラベン 0.1%
低分子量ポリグルタミン酸
(バイオリ−ダース製、カリウム塩、平均分子量:1000) 1.8%
精製水 残量
計 100.0%
【0059】
白濁の美容液の調製は次のようにして行った。すなわち、油相である水素添加リン脂質とスクワランを70℃で加熱溶解後、部分ミリストイル化カルボキシメチルキトサンやブチレングリコール等から構成される水相に徐々に添加させ、ホモミキサー(8000rpm、5分処理)で均一に分散させた。脱気下で40℃まで冷却し、低分子量ポリグルタミン酸を添加し、ホモミキサー(3000rpm、1分処理)で均一に分散させた。脱気、濾過することにより、粘性を有する美容液を得た。
【0060】
(処方例2)(化粧水)
本処方例は、化粧水の処方例であり、組成および配合比は次のとおりである。
【0061】
組成 配合比(重量%)
水素添加リン脂質 0.5%
パルミチン酸レチノール 0.1%
アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体 0.1%
ブチレングリコール 5.5%
プロピレングリコール 5.5%
メチルパラベン 0.1%
低分子量ポリグルタミン酸
(バイオリ−ダース製、カリウム塩、平均分子量:800) 0.8%
N-アセチルグルコサミン 0.5%
アルブチン 0.5%
精製水 残量
計 100.0%
【0062】
化粧水の調製は次のようにして行った。すなわち、油相である水素添加リン脂質とパルミチン酸レチノールを70℃で加熱溶解後、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体やブチレングリコール等から構成される水相に徐々に添加させ、ホモミキサー(8000rpm、5分処理)で均一に分散させた。脱気下で40℃まで冷却し、低分子量ポリグルタミン酸とN-アセチルグルコサミンを添加し、ホモミキサー(3000rpm、1分処理)で均一に分散させた。脱気、濾過することにより、化粧水を得た。
【0063】
(処方例3)(スプレー型化粧水)
本処方例は、スプレー容器でスプレーが可能な化粧水の処方例であり、組成および配合比は次のとおりである。
【0064】
組成 配合比(重量%)
酢酸トコフェロール 0.02%
酢酸レチノール 0.01%
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 0.3%
ブチレングリコール 5.5%
メチルパラベン 0.1%
低分子量ポリグルタミン酸
(バイオリ−ダース製、カリウム塩、平均分子量:800) 1.0%
エタノール 1.5%
N-アセチルグルコサミン 0.5%
アルブチン 0.5%
精製水 残量
計 100.0%
【0065】
スプレー容器でスプレーが可能な化粧水の調製は次のようにして行った。すなわち、油相である酢酸トコフェロール、酢酸レチノール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油を70℃で加熱溶解後、ブチレングリコール等から構成される水相に徐々に添加させ、均一に溶解させた。脱気下で40℃まで冷却し、低分子量ポリグルタミン酸とN-アセチルグルコサミンを添加し、均一に溶解させた。脱気、濾過することにより、スプレー型化粧水を得た。
【0066】
(処方例4)親水クリーム
本処方例は、親水クリームの処方例であり、組成および配合比は次のとおりである。
【0067】
組成 配合比(重量%)
ステアリン酸グリセリル 1.0%
POE(20)セチルエーテル 0.3%
トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル 1.0%
ベヘニルアルコール 4.0%
ミリスチン酸プロピル 2.5%
酢酸トコフェロール 0.2%
ワセリン 1.0%
レチノール 0.03%
酢酸レチノール 0.1%
カルボキシメチルキチン 0.4%
ブチレングリコール 1.5%
グリセリン 7.5%
フェノキシエタノール 0.2%
低分子量ポリグルタミン酸
(バイオリ−ダース製、カリウム塩、平均分子量:1500) 2.5%
精製水 残量
計 100.0%
【0068】
親水クリームの調製は次のようにして行った。すなわち、油相であるステアリン酸グリセリル、POE(20)セチルエーテル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル、ベヘニルアルコール、ミリスチン酸プロピル、酢酸トコフェロール、ワセリン等を70℃で加熱溶解後、カルボキシメチルキチンやブチレングリコール等から構成される水相に徐々に添加させ、ホモミキサー(8000rpm、1分処理)で均一に分散させた。脱気下で40℃まで冷却し、低分子量ポリグルタミン酸(バイオリ−ダース製、カリウム塩、平均分子量:1500)を添加し、ホモミキサー(2000rpm、1分処理)で均一に分散させた。脱気、濾過することにより、親水クリームを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低分子量ポリグルタミン酸又はその塩を有効性分とすることを特徴とする皮膚中ヒアルロン酸分解酵素阻害剤。
【請求項2】
低分子量ポリグルタミン酸又はその塩の分子量が、400〜10000である請求項1記載の皮膚中ヒアルロン酸分解酵素阻害剤。
【請求項3】
低分子量ポリグルタミン酸又はその塩を含有することを特徴とする皮膚中ヒアルロン酸増強組成物。
【請求項4】
ヒアルロン酸合成促進剤をさらに含有する請求項3記載の皮膚中ヒアルロン酸増強組成物。
【請求項5】
ヒアルロン酸合成促進剤が、アセチルグルコサミン若しくはその誘導体、及びレチノール若しくはその誘導体からなる群から選択される一種若しくは二種以上である請求項4記載の皮膚中ヒアルロン酸増強組成物。
【請求項6】
請求項1若しくは2記載の皮膚中ヒアルロン酸分解酵素阻害剤、又は請求項3乃至5のいずれかに記載の皮膚中ヒアルロン酸増強組成物を含有することを特徴とする皮膚外用剤。
【請求項7】
請求項1若しくは2記載の皮膚中ヒアルロン酸分解酵素阻害剤、又は請求項3乃至5のいずれかに記載の皮膚中ヒアルロン酸増強組成物を含有することを特徴とする化粧料。

【公開番号】特開2010−270062(P2010−270062A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123157(P2009−123157)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000112266)ピアス株式会社 (49)
【出願人】(506010208)バイオリーダーズ コーポレーション (16)
【氏名又は名称原語表記】BIOLEADERS CORPORATION
【Fターム(参考)】