皮膚保湿剤および皮膚炎治療剤
【課題】 副作用が少なく、長期に使用しうる新たな皮膚皮膚炎治療剤/皮膚保湿剤を提供すること。
【解決手段】 たもぎ茸由来セラミドを有効成分として含有する皮膚皮膚炎治療剤/皮膚保湿剤が開示される。たもぎ茸由来セラミドは、皮膚炎発症に重要な役割を果たす2種類のケモカイン、すなわち、ランゲルハンス細胞からのケモカインCCL1産生阻害効果、および表面角化細胞からの皮膚炎誘発ケモカインCCL27産生の抑制効果を有する。また、たもぎ茸由来セラミドは、皮膚炎モデルマウスにおいて、保湿作用および皮膚炎発症抑制作用を示す。
【解決手段】 たもぎ茸由来セラミドを有効成分として含有する皮膚皮膚炎治療剤/皮膚保湿剤が開示される。たもぎ茸由来セラミドは、皮膚炎発症に重要な役割を果たす2種類のケモカイン、すなわち、ランゲルハンス細胞からのケモカインCCL1産生阻害効果、および表面角化細胞からの皮膚炎誘発ケモカインCCL27産生の抑制効果を有する。また、たもぎ茸由来セラミドは、皮膚炎モデルマウスにおいて、保湿作用および皮膚炎発症抑制作用を示す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たもぎ茸由来セラミドを有効成分として含有する皮膚炎治療剤および皮膚保湿剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚炎は種々の原因に対する皮膚の炎症反応であり、アトピー性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、接触性皮膚炎、手湿疹、じんましん、皮脂欠乏性皮膚炎、皮膚そう痒症、乾癬、多形滲出性紅斑などが知られている。このような皮膚炎の治療には、主としてステロイドおよび非ステロイド抗炎症剤が用いられており、またアトピー性皮膚炎の治療には抗ヒスタミン剤も用いられる。しかし、これらの治療法はいずれも対症療法にすぎず、再発を繰り返す例が多い。また、ステロイド剤には副作用が伴うため、その長期の使用には制限があった。
【0003】
したがって、副作用が少なく、長期に使用しうる新たな皮膚炎治療剤が求められている。
【特許文献1】WO98/44928
【非特許文献1】Gombert M, et al. The Journal of Immunology, 2005, 174: 5082-5091
【非特許文献2】Vestergaard C, et al. Experimental Dermatology, 2004, 13: 551-557
【非特許文献3】Makiura M, et al. The Journal of International Medical Research. 2004, 32: 392-399
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、たもぎ茸由来のセラミドが、高い保湿作用ならびに皮膚炎の発症および症状の抑制作用を有することを見いだした。すなわち、本発明は、たもぎ茸由来セラミドを有効成分とする皮膚炎治療剤ならびに皮膚保湿剤を提供する。本発明の皮膚炎治療剤および皮膚保湿剤は、アトピー性皮膚炎を始めとして様々な皮膚炎(脂漏性皮膚炎、接触性皮膚炎、手湿疹、じんましん、皮脂欠乏性皮膚炎、皮膚そう痒症、乾癬、多形滲出性紅斑)に対する予防および治療に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
たもぎ茸は、ヒラタケ属に属するキノコであり、北海道を中心として広く食用に供されている。たもぎ茸にはキノコ類に特徴的な糖脂質構造であるスフィンゴ糖脂質が大量に含まれており、その主成分は、9−メチル−4−トランス−8−トランス−スフィンガジエニンと2−ヒドロキシパルミチン酸から構成されるモノグルコシルセラミドである。スフィンゴ糖脂質、いわゆるセラミド成分は、細胞膜の安定化に重要な生理物質であり、細胞個体の膜安定化だけではなく、細胞間相互作用、ある種のウイルス受容体、アポトーシス誘導分子など多様な活性を有していると報告されている。
【0006】
米ぬかやコンニャク由来のセラミド成分が、細胞膜の安定化を誘導することにより皮膚の保湿効果を示すことは広く知られている。また、免疫調節に関しては、海綿由来のセラミド糖脂質が一部の免疫細胞(NKT細胞)だけを選択的に活性化し、抗腫瘍効果を示すことが報告されている(国際公開番号 WO98/44928)。しかし、セラミドが直接アレルギー発症機序を抑える効果や皮膚炎発症を抑制する効果は知られていなかった。本発明は、たもぎ茸由来のセラミドが皮膚炎誘発ケモカインの産生を抑制する効果を有し、モデル動物において皮膚炎発症を抑制しうるという発見に基づくものである。
【0007】
たもぎ茸からセラミドを抽出するためには、既知のセラミド抽出法の任意のものを用いることができる。まず、たもぎ茸の子実体または石突きを、そのまま、あるいは水または熱水で水溶性成分を除いた後に、乾燥する。方法としては、風乾、熱乾燥、真空乾燥など、慣用の乾燥方法のいずれを用いてもよく、乾燥後の水分含有量は、後の工程を考慮して適宜選択することができる。次に、乾燥試料を破砕して粉体とし、セラミドを抽出する。抽出溶媒としては、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール類、ヘキサン、クロロホルム等の、脂質を溶解することができる任意の有機溶媒を用いることができる。また、水とアルコール類の混合物を用いてもよく、アルカリ性エタノール溶液を用いてもよい。あるいは、超臨界抽出法により二酸化炭素で抽出してもよい。
【0008】
このようにして得られたたもぎ茸由来セラミドの有効性は、細胞からの皮膚炎誘発ケモカイン産生の抑制効果を調べることにより、あるいは皮膚炎モデル動物における保湿作用や炎症抑制効果を調べることにより評価することができる。
【0009】
ランゲルハンス細胞は皮下真皮層内に存在する細胞で、皮膚から浸入してくるアレルギー性抗原に対する免疫応答に関与する細胞群であり、ランゲルハンス細胞の異常活性化により、アトピー性皮膚炎などのアレルギー反応が増悪すると考えられている。この異常活性化にはケモカイン(細胞走化因子)の1種であるCCL1(別名I-309, TCA-3)の過剰産生が本体であることが知られている(Gombert M, et al. The Journal of Immunology, 2005, 174: 5082-5091)。アトピー性皮膚炎患者においてはCCL1遺伝子の高発現が確認されており、抗原で刺激されたランゲルハンス細胞がこのCCL1を産生する細胞であることが知られている。従ってこのCCL1の産生を阻害する効果を示す物質は抗アレルギー効果があることが予想される。
【0010】
一方、表皮角化細胞は外来病原菌から生体を保護する皮膚バリアに重要な細胞群であり、角化細胞の損傷・炎症はアレルギー反応の誘発原因とも考えられる。特に角化細胞が産生する細胞走化因子CCL27(別名CTACK, ALP, ILC ESkine)は皮膚表皮細胞の損傷時に産生亢進されるケモカインであり、皮膚表皮部にT細胞の走化を誘導し外来抗原排除に働く(Vestergaard C, et al. Experimental Dermatology, 2004, 13: 551-557)。しかしながらその過剰産生は慢性的な皮膚炎を誘発するので、CCL27を産生調節する物質は抗皮膚炎効果を発揮できると予想される。
【0011】
以上の背景より、ランゲルハンス細胞や角化細胞の働きを負に制御する成分は抗アレルギー作用を有することが推定できるので、これら細胞に与えるたもぎ茸由来セラミドの効果を指標として、抗皮膚炎治療薬としてのたもぎ茸由来セラミドの効果を確認することができる。
【0012】
さらに、皮膚炎発症抑制効果は、皮膚炎発症モデルマウスであるHR−1マウスを用いて評価することができる。HR−1マウスは毛根の発達が阻害されている無毛(ヌード)マウスの1種で、ミネラルであるマグネシウムと亜鉛含量が低い特殊飼料を配合してマウスに自由摂取させると、約2週間目から皮膚の保湿作用が低下し痒みを伴うドライスキンを誘発する。このマウスは、皮膚炎症・細胞浸潤・血清IgE値増加などの諸症状を発症するアトピー性皮膚炎のモデルマウスとして用いられている(Makiura M, et al. The Journal of International Medical Research. 2004, 32: 392-399)。この低ミネラル特殊肥料にたもぎ茸由来セラミドを配合しセラミドをマウスに自由摂取させ、皮膚からの水分蒸散を測定し、および皮膚組織の病理切片を解析することにより、たもぎ茸由来セラミドの皮膚保湿剤としての有用性ならびに皮膚炎の予防薬及び治療薬としての有効性を評価することができる。
【0013】
本発明の皮膚炎治療剤/皮膚保湿剤は、当業者に公知の方法で医薬製剤とすることができる。経口投与用には、上述のようにして調製したたもぎ茸由来セラミドを、当該技術分野においてよく知られる薬学的に許容しうる担体と混合することにより、錠剤、丸薬、糖衣剤、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液等として処方することができる。あるいは、本発明の皮膚炎治療剤/皮膚保湿剤は、食品添加物として調製してもよい。非経口投与用には、たもぎ茸由来セラミドを当該技術分野においてよく知られる薬学的に許容しうる担体または賦形剤、例えば、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。特に、本発明の皮膚炎治療剤/皮膚保湿剤は、ローション、軟膏、クリーム、パック、貼付剤などの形態で、皮膚外用剤として製剤化することができる。
【0014】
本発明の皮膚炎治療剤/皮膚保湿剤は、好ましくは経口投与するか、または食品に添加して摂取するが、皮膚の疾患部に局所的に投与することもできる。本発明の皮膚炎治療剤/皮膚保湿剤の投与量は、症状、投与経路、患者の体重および年齢、併用する他の薬剤などにより異なるが、セラミドの量として例えば1日あたり0.6〜3mgを1日に1ないし数回投与することができる。
【0015】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
ランゲルハンス細胞の誘導
ランゲルハンス細胞はヒト末梢血単球よりPivarcsiらの報告(Pivarcsi A, et al. Journal of Immunology, 2004, 173: 5810-5817)に従い誘導した。概要を図1に示す。ヘパリン(清水製薬社製)を加えたシリンジを用いて健常人左腕静脈部より血液15〜20ml採取し無菌下でPBS(リン酸緩衝液)等量にて希釈した。等倍希釈血液を予め無菌プラスチックチューブに準備したリンフォセパール15ml(IBL社製)上に重層し、1500rpmで30分間遠心分離した。遠心後、リンフォセパール上の単核球層を回収し、PBSにて細胞を2回遠心洗浄した。単核球は最終的にRPMI1640培地、10%牛胎児血清含(Sigma社製)に希釈し、単核球中に約10%含まれるCD14陽性単球を、磁気ビーズ(AutoMACS, Monocyte Isolation kit II, Miltenyi Biotec社)を用いて分離し、約95%の精製度で採取した。このCD14単球をGM-CSF, IL-4, TGF-ベータ1を各50ng/mlの濃度で添加した培養液中で7日間培養した。その結果、大型の樹状突起を有している浮遊性の細胞を回収することができた。この細胞を抗Eカドヘリン抗体および抗ランゲリン抗体で染色し、フローサイトメトリで解析した結果、樹状細胞とは異なり、Eカドヘリンおよびランゲリン陽性のランゲルハンス細胞が誘導されていた。
【実施例2】
【0017】
ランゲルハンス細胞からの皮膚炎誘発ケモカインCCL1産生に及ぼすたもぎ茸由来セラミドの影響
誘導ランゲルハンス細胞に(1x105 cells/ml)たもぎ茸由来セラミドを各濃度(1〜10μg/ml)で添加した。たもぎ茸由来セラミドは、凍結乾燥したたもぎ茸子実体から、クロロホルム/メタノールで抽出し、アルカリ処理した後に、水/クロロホルム/メタノールで数回洗浄し、フラッシュカラムおよびHPLCにより精製した。セラミドは70%エタノール溶液に1mg/mlで溶解しているため陰性コントロールとして同最終濃度のエタノールを培養溶液中に添加した。培養24時間後に、抗原刺激としてLPS(細菌成分, Sigma社)またはCpGオリゴ核酸(ウイルス成分, Sigma-Genosys社)を最終濃度1μg/mlで添加した。36時間後にランゲルハンス細胞培養上清を回収し、産生されたケモカインCCL1量をELISA法(R&D社)にて測定した。
【0018】
培養液中にたもぎ茸由来セラミドを添加培養し、ランゲルハンス細胞を顕微鏡で観察したところ、細胞の明らかな死滅、増殖抑制、形態変化は観察されなかった。24時間後の培養上清中に産生されたケモカイン量を測定した結果を図2に示す。ランゲルハンス細胞は抗原刺激を加えないとCCL1産生量が70 ± 5 pg/mlと僅かであるが、LPS抗原刺激で422 ± 17 pg/ml、CpGオリゴ核酸刺激で131 ± 14 pg/mlと産生が誘導された。この抗原刺激細胞にたもぎ茸由来セラミドを最終濃度1μg/mlで添加した場合、CCL1ケモカインの産生がそれぞれ270 ± 14 pg/ml(阻害率43%)と85 ± 4 pg/ml(阻害率75%)と有為に抑制された。
【0019】
次に、同様の処理をしたランゲルハンス細胞をプラスチックチューブに回収し、RPMI1640培地で遠心洗浄後、PE標識抗ヒトCD80抗体、抗ヒトCD86抗体、抗ヒトCD83抗体、抗ヒトCCR7抗体(いずれもeBioscience社製)を各5μl添加し4℃で1時間反応後、FACS(BD社製)にて細胞表面抗原の発現変化を解析した。その結果、抗原提示に必要な細胞表面抗原CD80, CD83, CD86, CCR7の発現は変化していなかった(薄い線−セラミド非添加:濃い線−セラミド添加)。これらの表面分子の発現はLPS刺激によって同等に誘導されていることから、このたもぎ茸由来セラミドの効果がランゲルハンス細胞に対する非特異的な抑制によるものではなく、ケモカイン産生に特異的に及ぼすものであることが示唆された。
【実施例3】
【0020】
角化細胞からの皮膚炎誘発ケモカインCCL27産生に及ぼすたもぎ茸由来セラミドの影響
ヒト皮膚角化細胞は三光純薬より購入し、培養液も三光純薬で指定された角化細胞培養用培地を用いて解凍後培養した。培養角化細胞(1x105 cells/ml)にたもぎ茸由来セラミドを各濃度(1〜10μg/ml)で添加し、培養24時間後に、抗原刺激として炎症性サイトカインTNFα(R&D社)を最終濃度50 ng/mlで添加した。36時間後に角化細胞培養上清を回収し産生されたケモカインCCL27量をELISA法(R&D社)にて測定した。
【0021】
表皮角化細胞を培養し、培養液中にたもぎ茸由来セラミドを添加し顕微鏡で観察した結果、細胞の明らかな死滅、増殖抑制、形態変化は観察されなかった。培養上清中に産生されたケモカイン量を測定した結果を図4に示す。表皮角化細胞から産生されるCCL27量は31.7 ± 0.3 pg/mlであるが、炎症性サイトカインTNF刺激で61.5 ± 0.5 pg/mlと約2倍の産生亢進が認められた。このTNF刺激角化細胞にたもぎ茸由来セラミドを最終濃度1μg/mlで添加した場合、CCL27ケモカインの産生が50.5 ± 1.3 pg/ml(阻害率37%)と有為に抑制された。
【0022】
以上の結果より、たもぎ茸由来セラミドは、皮膚炎発症に重要な役割を果たす2種類のケモカインCCL1, CCL27の産生を有為に抑制することから、アトピー性皮膚炎を始めとする皮膚炎の治療薬として有効であると示唆された。
【実施例4】
【0023】
HR−1マウス皮膚炎の病理解析
皮膚炎のモデル動物であるHR−1マウスを用いて、本発明の皮膚炎治療剤/皮膚保湿剤の有効性を評価した。3週齢のHos:HR-1雄性マウスを1週間予備飼育した後、実験に使用した。実験開始時の体重は10.5−16.9gであった。無処置群には普通飼料および水道水を、対照群および被検物質投与群は特殊飼料(HR-AD用精製飼料、粉末、日本農産工業株式会社製)および水道水を自由に接種させ、温度22 3℃、湿度50 20%、照明時間8:00−20:00および換気回数10−17回/時間に設定した飼育条件下で飼育した。
【0024】
4週齢のHR-1マウスを、体重を指標に層別連続無作為化法により各群に割り付けた。群分け後、普通飼料群(A群)を除き,BからD群に特殊飼料を摂取させた。さらにC、D群にはそれぞれ、被験物質が添加された特殊飼料を自由に摂取させた。たもぎ茸由来セラミドとしては実施例1と同様にして製造したセラミドを、米ぬか由来セラミドとしては市販のセラミド(ニップンセラミドRPS、日清製粉社製)を用いた。
【0025】
【表1】
【0026】
たもぎ茸由来セラミドの保湿効果
特殊飼料による飼育中、1週間に1回、背部皮膚の水分蒸散量(TEWL)を測定した。測定はTewameter TM300 (Courage + Khazaka)を用いて定法にしたがって行った。結果を図5に示す。特殊飼料を与えた対照群では、TEWLは時間と共に増加したが、たもぎ茸由来セラミド群では有意なTEWL増加の抑制効果が認められ、28日目および35日目では無処置群とほぼ同様の値であった。一方、米ぬか由来セラミド群では、対照群と有意な差が認められなかった。なお、試験期間中、飼料摂取量はほぼ一定しており、体重増加は各群について差がなかった。この結果から、HR−1マウスにおいて、たもぎ茸由来セラミドは、米ぬか由来セラミドと比較して有意に高い保湿作用を有することが示された。
【0027】
たもぎ茸由来セラミド摂取による背部皮膚状態の変化
6週目(10週齢目)に全例について皮膚の状態をデジタルカメラで撮影して観察した。HR−1マウスは通常飼料で飼育した場合はドライスキンを伴う皮膚炎の発症は認められないが、低ミネラルの特殊飼料を6週間摂取させた結果、図6左下に示すように乾燥肌状態が顕著に現れ、しわの数も増加した。これに対してたもぎ茸由来セラミドを摂取させたマウス(図6中)では乾燥肌状態が軽減されており、図6右の通常飼料摂取マウスと明らかな差異は認められなかった。
【0028】
皮膚掻痒行動
特殊飼料を6週間自由摂取させたHR−1マウス(10週齢)および各セラミド配合飼料投与群のマウスをビデオカメラにより30分間観察し、掻痒行動(スクラッチ行動・グルーミング行動・舐め行動回数を測定した。結果を図7に示す。グルーミング(毛繕い)行動と舐め行動は健常マウスでも認められる行動であり、特殊飼料摂取させたマウスでも増加していない。これに対してスクラッチ行動(ひっかき行動)は特殊飼料の配合により有為に増加しており、痒みを伴うアトピー性皮膚炎様の状態にマウスが達していることを示している。このスクラッチ行動はたもぎ茸由来セラミドを0.1%配合した特殊飼料摂取マウス群(C群)で有為に低下しており、ほぼ正常マウスと同様の行動回数であった。また米ぬかセラミド配合摂取マウスでもスクラッチ行動が低下していたが、これはこの群(D群)のマウスは他群マウスと比較して衰弱しており、全体の行動能力が低下しているためと考えられた。
【0029】
皮膚病理組織を用いる皮膚炎発症抑制効果の解析
特殊飼料を6週間自由摂取させたHR−1マウス(10週齢)および各セラミド配合飼料投与群のマウスをエーテル麻酔下で安楽死させた後、皮膚を1cm X 5cmの長方形サイズに切開し、皮膚組織(角質−上皮−真皮−脂肪層)を背部筋層から剥離し回収した。回収した皮膚組織は中性緩衝10%ホルマリン溶液(和光純薬)に浸け4℃で1晩以上固定した。固定した皮膚組織はパラフィン包埋し、スライドガラス上に剥離病理切片を吸着させた後、ヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)を行った。染色病理切片は顕微鏡(NIKON社製)で観察し200倍および400倍率画像をCCDカメラにて撮影しデジタルファイルとして保存した。
【0030】
HR−1ヘアレスマウスに普通飼料を摂取させた場合(A群)、図8および9に示すように正常の皮膚構造をとっている。特徴としては表面側から薄い角質層→細胞層が1層の表皮層(平均の厚さ15μm)→真皮層→脂肪層となっている。真皮層にはランゲルハンス様細胞が混在しているが細胞分布に偏りは見られず、正常の皮膚組織像を呈している。これに対して低ミネラルの特殊飼料を摂取させたマウス(B群)では図10および11に示すように、表皮部では角化亢進(角質層の多重化)、角化細胞死、表皮過形成(表皮肥厚)が認められ、保湿性が保たれていないドライスキン状態になっていた。平均表皮層の厚さは60μmと正常マウスの約4倍に増していた。さらに真皮部では上皮との境界部に大量の炎症性細胞の浸潤や赤血球の血管外滲出が随所に観察されており、典型的な皮膚炎症状を呈している。
【0031】
一方、特殊飼料にたもぎ茸由来セラミドを配合した飼料を摂取させたマウス(C群)では、図12および13に示すように、表皮細胞層の厚みが正常マウスに比べて若干増しているが、角化亢進による保湿阻害や細胞浸潤等の炎症所見は観察されておらず、皮膚炎の発症が明らかに抑えられている。比較検討の対象として同濃度の米ぬか由来セラミドを配合した特殊飼料摂取マウス(D群)では、図14および15に示すように、全く皮膚炎症状を改善しておらず、逆に悪化の傾向にあることが判明した。特に重度の角化亢進と真皮層のみならず一部では表皮層にまで炎症性細胞が浸潤していた。また赤血球の血管外滲出も随所で観察された。
【0032】
以上、行動学的解析および病理学的解析結果により、たもぎ茸由来セラミドは皮膚炎の発症を抑える効果を有していることが判明した。一方、比較対象の米ぬか由来セラミドでは皮膚炎抑制効果は全く認められず、この皮膚炎発症抑制効果はたもぎ茸由来セラミドの独自の効果である。たもぎ茸由来セラミドが皮膚炎誘発ケモカイン産生を抑制するという実施例2および3の実験結果と合わせると、たもぎ茸由来セラミドは、アトピー性皮膚炎を始めとして様々な皮膚炎(脂漏性皮膚炎、接触性皮膚炎、手湿疹、じんましん、皮脂欠乏性皮膚炎、皮膚そう痒症、乾癬、多形滲出性紅斑)に対する予防および治療に応用できると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
たもぎ茸由来セラミドを有効成分として含有する本発明の皮膚炎治療剤/皮膚保湿剤は、アトピー性皮膚炎を始めとする皮膚炎の治療薬として有効である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、ヒト末梢血からのランゲルハンス細胞誘導方法を示す。
【図2】図2は、ランゲルハンス細胞からのケモカインCCL1産生に及ぼすたもぎ茸由来セラミドの抑制効果を示す。
【図3】図3は、たもぎ茸由来セラミド添加によるランゲルハンス細胞の表面抗原発現変化の解析を示す。
【図4】図4は、表皮角化細胞からのケモカインCCL27産生に及ぼすたもぎ茸由来セラミドの抑制効果を示す。
【図5】図5は、皮膚炎誘発HR−1マウスの皮膚水分蒸散量を示す。
【図6】図6は、皮膚炎誘発HR−1マウスの背部皮膚の状態を示す。
【図7】図7は、皮膚炎誘発HR−1マウスの掻痒行動を示す。
【図8】図8は、正常HR−1マウスの皮膚組織を示す。
【図9】図9は、正常HR−1マウスの皮膚組織を示す。
【図10】図10は、皮膚炎誘発HR−1マウスの皮膚組織を示す。
【図11】図11は、皮膚炎誘発HR−1マウスの皮膚組織を示す。
【図12】図12は、皮膚炎誘発HR−1マウスにたもぎ茸由来セラミドを投与したときの皮膚組織を示す。
【図13】図13は、皮膚炎誘発HR−1マウスにたもぎ茸由来セラミドを投与したときの皮膚組織を示す。
【図14】図14は、皮膚炎誘発HR−1マウスに米ぬか由来セラミドを投与したときの皮膚組織を示す。
【図15】図15は、皮膚炎誘発HR−1マウスに米ぬか由来セラミドを投与したときの皮膚組織を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、たもぎ茸由来セラミドを有効成分として含有する皮膚炎治療剤および皮膚保湿剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚炎は種々の原因に対する皮膚の炎症反応であり、アトピー性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、接触性皮膚炎、手湿疹、じんましん、皮脂欠乏性皮膚炎、皮膚そう痒症、乾癬、多形滲出性紅斑などが知られている。このような皮膚炎の治療には、主としてステロイドおよび非ステロイド抗炎症剤が用いられており、またアトピー性皮膚炎の治療には抗ヒスタミン剤も用いられる。しかし、これらの治療法はいずれも対症療法にすぎず、再発を繰り返す例が多い。また、ステロイド剤には副作用が伴うため、その長期の使用には制限があった。
【0003】
したがって、副作用が少なく、長期に使用しうる新たな皮膚炎治療剤が求められている。
【特許文献1】WO98/44928
【非特許文献1】Gombert M, et al. The Journal of Immunology, 2005, 174: 5082-5091
【非特許文献2】Vestergaard C, et al. Experimental Dermatology, 2004, 13: 551-557
【非特許文献3】Makiura M, et al. The Journal of International Medical Research. 2004, 32: 392-399
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、たもぎ茸由来のセラミドが、高い保湿作用ならびに皮膚炎の発症および症状の抑制作用を有することを見いだした。すなわち、本発明は、たもぎ茸由来セラミドを有効成分とする皮膚炎治療剤ならびに皮膚保湿剤を提供する。本発明の皮膚炎治療剤および皮膚保湿剤は、アトピー性皮膚炎を始めとして様々な皮膚炎(脂漏性皮膚炎、接触性皮膚炎、手湿疹、じんましん、皮脂欠乏性皮膚炎、皮膚そう痒症、乾癬、多形滲出性紅斑)に対する予防および治療に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
たもぎ茸は、ヒラタケ属に属するキノコであり、北海道を中心として広く食用に供されている。たもぎ茸にはキノコ類に特徴的な糖脂質構造であるスフィンゴ糖脂質が大量に含まれており、その主成分は、9−メチル−4−トランス−8−トランス−スフィンガジエニンと2−ヒドロキシパルミチン酸から構成されるモノグルコシルセラミドである。スフィンゴ糖脂質、いわゆるセラミド成分は、細胞膜の安定化に重要な生理物質であり、細胞個体の膜安定化だけではなく、細胞間相互作用、ある種のウイルス受容体、アポトーシス誘導分子など多様な活性を有していると報告されている。
【0006】
米ぬかやコンニャク由来のセラミド成分が、細胞膜の安定化を誘導することにより皮膚の保湿効果を示すことは広く知られている。また、免疫調節に関しては、海綿由来のセラミド糖脂質が一部の免疫細胞(NKT細胞)だけを選択的に活性化し、抗腫瘍効果を示すことが報告されている(国際公開番号 WO98/44928)。しかし、セラミドが直接アレルギー発症機序を抑える効果や皮膚炎発症を抑制する効果は知られていなかった。本発明は、たもぎ茸由来のセラミドが皮膚炎誘発ケモカインの産生を抑制する効果を有し、モデル動物において皮膚炎発症を抑制しうるという発見に基づくものである。
【0007】
たもぎ茸からセラミドを抽出するためには、既知のセラミド抽出法の任意のものを用いることができる。まず、たもぎ茸の子実体または石突きを、そのまま、あるいは水または熱水で水溶性成分を除いた後に、乾燥する。方法としては、風乾、熱乾燥、真空乾燥など、慣用の乾燥方法のいずれを用いてもよく、乾燥後の水分含有量は、後の工程を考慮して適宜選択することができる。次に、乾燥試料を破砕して粉体とし、セラミドを抽出する。抽出溶媒としては、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール類、ヘキサン、クロロホルム等の、脂質を溶解することができる任意の有機溶媒を用いることができる。また、水とアルコール類の混合物を用いてもよく、アルカリ性エタノール溶液を用いてもよい。あるいは、超臨界抽出法により二酸化炭素で抽出してもよい。
【0008】
このようにして得られたたもぎ茸由来セラミドの有効性は、細胞からの皮膚炎誘発ケモカイン産生の抑制効果を調べることにより、あるいは皮膚炎モデル動物における保湿作用や炎症抑制効果を調べることにより評価することができる。
【0009】
ランゲルハンス細胞は皮下真皮層内に存在する細胞で、皮膚から浸入してくるアレルギー性抗原に対する免疫応答に関与する細胞群であり、ランゲルハンス細胞の異常活性化により、アトピー性皮膚炎などのアレルギー反応が増悪すると考えられている。この異常活性化にはケモカイン(細胞走化因子)の1種であるCCL1(別名I-309, TCA-3)の過剰産生が本体であることが知られている(Gombert M, et al. The Journal of Immunology, 2005, 174: 5082-5091)。アトピー性皮膚炎患者においてはCCL1遺伝子の高発現が確認されており、抗原で刺激されたランゲルハンス細胞がこのCCL1を産生する細胞であることが知られている。従ってこのCCL1の産生を阻害する効果を示す物質は抗アレルギー効果があることが予想される。
【0010】
一方、表皮角化細胞は外来病原菌から生体を保護する皮膚バリアに重要な細胞群であり、角化細胞の損傷・炎症はアレルギー反応の誘発原因とも考えられる。特に角化細胞が産生する細胞走化因子CCL27(別名CTACK, ALP, ILC ESkine)は皮膚表皮細胞の損傷時に産生亢進されるケモカインであり、皮膚表皮部にT細胞の走化を誘導し外来抗原排除に働く(Vestergaard C, et al. Experimental Dermatology, 2004, 13: 551-557)。しかしながらその過剰産生は慢性的な皮膚炎を誘発するので、CCL27を産生調節する物質は抗皮膚炎効果を発揮できると予想される。
【0011】
以上の背景より、ランゲルハンス細胞や角化細胞の働きを負に制御する成分は抗アレルギー作用を有することが推定できるので、これら細胞に与えるたもぎ茸由来セラミドの効果を指標として、抗皮膚炎治療薬としてのたもぎ茸由来セラミドの効果を確認することができる。
【0012】
さらに、皮膚炎発症抑制効果は、皮膚炎発症モデルマウスであるHR−1マウスを用いて評価することができる。HR−1マウスは毛根の発達が阻害されている無毛(ヌード)マウスの1種で、ミネラルであるマグネシウムと亜鉛含量が低い特殊飼料を配合してマウスに自由摂取させると、約2週間目から皮膚の保湿作用が低下し痒みを伴うドライスキンを誘発する。このマウスは、皮膚炎症・細胞浸潤・血清IgE値増加などの諸症状を発症するアトピー性皮膚炎のモデルマウスとして用いられている(Makiura M, et al. The Journal of International Medical Research. 2004, 32: 392-399)。この低ミネラル特殊肥料にたもぎ茸由来セラミドを配合しセラミドをマウスに自由摂取させ、皮膚からの水分蒸散を測定し、および皮膚組織の病理切片を解析することにより、たもぎ茸由来セラミドの皮膚保湿剤としての有用性ならびに皮膚炎の予防薬及び治療薬としての有効性を評価することができる。
【0013】
本発明の皮膚炎治療剤/皮膚保湿剤は、当業者に公知の方法で医薬製剤とすることができる。経口投与用には、上述のようにして調製したたもぎ茸由来セラミドを、当該技術分野においてよく知られる薬学的に許容しうる担体と混合することにより、錠剤、丸薬、糖衣剤、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液等として処方することができる。あるいは、本発明の皮膚炎治療剤/皮膚保湿剤は、食品添加物として調製してもよい。非経口投与用には、たもぎ茸由来セラミドを当該技術分野においてよく知られる薬学的に許容しうる担体または賦形剤、例えば、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することができる。特に、本発明の皮膚炎治療剤/皮膚保湿剤は、ローション、軟膏、クリーム、パック、貼付剤などの形態で、皮膚外用剤として製剤化することができる。
【0014】
本発明の皮膚炎治療剤/皮膚保湿剤は、好ましくは経口投与するか、または食品に添加して摂取するが、皮膚の疾患部に局所的に投与することもできる。本発明の皮膚炎治療剤/皮膚保湿剤の投与量は、症状、投与経路、患者の体重および年齢、併用する他の薬剤などにより異なるが、セラミドの量として例えば1日あたり0.6〜3mgを1日に1ないし数回投与することができる。
【0015】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
ランゲルハンス細胞の誘導
ランゲルハンス細胞はヒト末梢血単球よりPivarcsiらの報告(Pivarcsi A, et al. Journal of Immunology, 2004, 173: 5810-5817)に従い誘導した。概要を図1に示す。ヘパリン(清水製薬社製)を加えたシリンジを用いて健常人左腕静脈部より血液15〜20ml採取し無菌下でPBS(リン酸緩衝液)等量にて希釈した。等倍希釈血液を予め無菌プラスチックチューブに準備したリンフォセパール15ml(IBL社製)上に重層し、1500rpmで30分間遠心分離した。遠心後、リンフォセパール上の単核球層を回収し、PBSにて細胞を2回遠心洗浄した。単核球は最終的にRPMI1640培地、10%牛胎児血清含(Sigma社製)に希釈し、単核球中に約10%含まれるCD14陽性単球を、磁気ビーズ(AutoMACS, Monocyte Isolation kit II, Miltenyi Biotec社)を用いて分離し、約95%の精製度で採取した。このCD14単球をGM-CSF, IL-4, TGF-ベータ1を各50ng/mlの濃度で添加した培養液中で7日間培養した。その結果、大型の樹状突起を有している浮遊性の細胞を回収することができた。この細胞を抗Eカドヘリン抗体および抗ランゲリン抗体で染色し、フローサイトメトリで解析した結果、樹状細胞とは異なり、Eカドヘリンおよびランゲリン陽性のランゲルハンス細胞が誘導されていた。
【実施例2】
【0017】
ランゲルハンス細胞からの皮膚炎誘発ケモカインCCL1産生に及ぼすたもぎ茸由来セラミドの影響
誘導ランゲルハンス細胞に(1x105 cells/ml)たもぎ茸由来セラミドを各濃度(1〜10μg/ml)で添加した。たもぎ茸由来セラミドは、凍結乾燥したたもぎ茸子実体から、クロロホルム/メタノールで抽出し、アルカリ処理した後に、水/クロロホルム/メタノールで数回洗浄し、フラッシュカラムおよびHPLCにより精製した。セラミドは70%エタノール溶液に1mg/mlで溶解しているため陰性コントロールとして同最終濃度のエタノールを培養溶液中に添加した。培養24時間後に、抗原刺激としてLPS(細菌成分, Sigma社)またはCpGオリゴ核酸(ウイルス成分, Sigma-Genosys社)を最終濃度1μg/mlで添加した。36時間後にランゲルハンス細胞培養上清を回収し、産生されたケモカインCCL1量をELISA法(R&D社)にて測定した。
【0018】
培養液中にたもぎ茸由来セラミドを添加培養し、ランゲルハンス細胞を顕微鏡で観察したところ、細胞の明らかな死滅、増殖抑制、形態変化は観察されなかった。24時間後の培養上清中に産生されたケモカイン量を測定した結果を図2に示す。ランゲルハンス細胞は抗原刺激を加えないとCCL1産生量が70 ± 5 pg/mlと僅かであるが、LPS抗原刺激で422 ± 17 pg/ml、CpGオリゴ核酸刺激で131 ± 14 pg/mlと産生が誘導された。この抗原刺激細胞にたもぎ茸由来セラミドを最終濃度1μg/mlで添加した場合、CCL1ケモカインの産生がそれぞれ270 ± 14 pg/ml(阻害率43%)と85 ± 4 pg/ml(阻害率75%)と有為に抑制された。
【0019】
次に、同様の処理をしたランゲルハンス細胞をプラスチックチューブに回収し、RPMI1640培地で遠心洗浄後、PE標識抗ヒトCD80抗体、抗ヒトCD86抗体、抗ヒトCD83抗体、抗ヒトCCR7抗体(いずれもeBioscience社製)を各5μl添加し4℃で1時間反応後、FACS(BD社製)にて細胞表面抗原の発現変化を解析した。その結果、抗原提示に必要な細胞表面抗原CD80, CD83, CD86, CCR7の発現は変化していなかった(薄い線−セラミド非添加:濃い線−セラミド添加)。これらの表面分子の発現はLPS刺激によって同等に誘導されていることから、このたもぎ茸由来セラミドの効果がランゲルハンス細胞に対する非特異的な抑制によるものではなく、ケモカイン産生に特異的に及ぼすものであることが示唆された。
【実施例3】
【0020】
角化細胞からの皮膚炎誘発ケモカインCCL27産生に及ぼすたもぎ茸由来セラミドの影響
ヒト皮膚角化細胞は三光純薬より購入し、培養液も三光純薬で指定された角化細胞培養用培地を用いて解凍後培養した。培養角化細胞(1x105 cells/ml)にたもぎ茸由来セラミドを各濃度(1〜10μg/ml)で添加し、培養24時間後に、抗原刺激として炎症性サイトカインTNFα(R&D社)を最終濃度50 ng/mlで添加した。36時間後に角化細胞培養上清を回収し産生されたケモカインCCL27量をELISA法(R&D社)にて測定した。
【0021】
表皮角化細胞を培養し、培養液中にたもぎ茸由来セラミドを添加し顕微鏡で観察した結果、細胞の明らかな死滅、増殖抑制、形態変化は観察されなかった。培養上清中に産生されたケモカイン量を測定した結果を図4に示す。表皮角化細胞から産生されるCCL27量は31.7 ± 0.3 pg/mlであるが、炎症性サイトカインTNF刺激で61.5 ± 0.5 pg/mlと約2倍の産生亢進が認められた。このTNF刺激角化細胞にたもぎ茸由来セラミドを最終濃度1μg/mlで添加した場合、CCL27ケモカインの産生が50.5 ± 1.3 pg/ml(阻害率37%)と有為に抑制された。
【0022】
以上の結果より、たもぎ茸由来セラミドは、皮膚炎発症に重要な役割を果たす2種類のケモカインCCL1, CCL27の産生を有為に抑制することから、アトピー性皮膚炎を始めとする皮膚炎の治療薬として有効であると示唆された。
【実施例4】
【0023】
HR−1マウス皮膚炎の病理解析
皮膚炎のモデル動物であるHR−1マウスを用いて、本発明の皮膚炎治療剤/皮膚保湿剤の有効性を評価した。3週齢のHos:HR-1雄性マウスを1週間予備飼育した後、実験に使用した。実験開始時の体重は10.5−16.9gであった。無処置群には普通飼料および水道水を、対照群および被検物質投与群は特殊飼料(HR-AD用精製飼料、粉末、日本農産工業株式会社製)および水道水を自由に接種させ、温度22 3℃、湿度50 20%、照明時間8:00−20:00および換気回数10−17回/時間に設定した飼育条件下で飼育した。
【0024】
4週齢のHR-1マウスを、体重を指標に層別連続無作為化法により各群に割り付けた。群分け後、普通飼料群(A群)を除き,BからD群に特殊飼料を摂取させた。さらにC、D群にはそれぞれ、被験物質が添加された特殊飼料を自由に摂取させた。たもぎ茸由来セラミドとしては実施例1と同様にして製造したセラミドを、米ぬか由来セラミドとしては市販のセラミド(ニップンセラミドRPS、日清製粉社製)を用いた。
【0025】
【表1】
【0026】
たもぎ茸由来セラミドの保湿効果
特殊飼料による飼育中、1週間に1回、背部皮膚の水分蒸散量(TEWL)を測定した。測定はTewameter TM300 (Courage + Khazaka)を用いて定法にしたがって行った。結果を図5に示す。特殊飼料を与えた対照群では、TEWLは時間と共に増加したが、たもぎ茸由来セラミド群では有意なTEWL増加の抑制効果が認められ、28日目および35日目では無処置群とほぼ同様の値であった。一方、米ぬか由来セラミド群では、対照群と有意な差が認められなかった。なお、試験期間中、飼料摂取量はほぼ一定しており、体重増加は各群について差がなかった。この結果から、HR−1マウスにおいて、たもぎ茸由来セラミドは、米ぬか由来セラミドと比較して有意に高い保湿作用を有することが示された。
【0027】
たもぎ茸由来セラミド摂取による背部皮膚状態の変化
6週目(10週齢目)に全例について皮膚の状態をデジタルカメラで撮影して観察した。HR−1マウスは通常飼料で飼育した場合はドライスキンを伴う皮膚炎の発症は認められないが、低ミネラルの特殊飼料を6週間摂取させた結果、図6左下に示すように乾燥肌状態が顕著に現れ、しわの数も増加した。これに対してたもぎ茸由来セラミドを摂取させたマウス(図6中)では乾燥肌状態が軽減されており、図6右の通常飼料摂取マウスと明らかな差異は認められなかった。
【0028】
皮膚掻痒行動
特殊飼料を6週間自由摂取させたHR−1マウス(10週齢)および各セラミド配合飼料投与群のマウスをビデオカメラにより30分間観察し、掻痒行動(スクラッチ行動・グルーミング行動・舐め行動回数を測定した。結果を図7に示す。グルーミング(毛繕い)行動と舐め行動は健常マウスでも認められる行動であり、特殊飼料摂取させたマウスでも増加していない。これに対してスクラッチ行動(ひっかき行動)は特殊飼料の配合により有為に増加しており、痒みを伴うアトピー性皮膚炎様の状態にマウスが達していることを示している。このスクラッチ行動はたもぎ茸由来セラミドを0.1%配合した特殊飼料摂取マウス群(C群)で有為に低下しており、ほぼ正常マウスと同様の行動回数であった。また米ぬかセラミド配合摂取マウスでもスクラッチ行動が低下していたが、これはこの群(D群)のマウスは他群マウスと比較して衰弱しており、全体の行動能力が低下しているためと考えられた。
【0029】
皮膚病理組織を用いる皮膚炎発症抑制効果の解析
特殊飼料を6週間自由摂取させたHR−1マウス(10週齢)および各セラミド配合飼料投与群のマウスをエーテル麻酔下で安楽死させた後、皮膚を1cm X 5cmの長方形サイズに切開し、皮膚組織(角質−上皮−真皮−脂肪層)を背部筋層から剥離し回収した。回収した皮膚組織は中性緩衝10%ホルマリン溶液(和光純薬)に浸け4℃で1晩以上固定した。固定した皮膚組織はパラフィン包埋し、スライドガラス上に剥離病理切片を吸着させた後、ヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)を行った。染色病理切片は顕微鏡(NIKON社製)で観察し200倍および400倍率画像をCCDカメラにて撮影しデジタルファイルとして保存した。
【0030】
HR−1ヘアレスマウスに普通飼料を摂取させた場合(A群)、図8および9に示すように正常の皮膚構造をとっている。特徴としては表面側から薄い角質層→細胞層が1層の表皮層(平均の厚さ15μm)→真皮層→脂肪層となっている。真皮層にはランゲルハンス様細胞が混在しているが細胞分布に偏りは見られず、正常の皮膚組織像を呈している。これに対して低ミネラルの特殊飼料を摂取させたマウス(B群)では図10および11に示すように、表皮部では角化亢進(角質層の多重化)、角化細胞死、表皮過形成(表皮肥厚)が認められ、保湿性が保たれていないドライスキン状態になっていた。平均表皮層の厚さは60μmと正常マウスの約4倍に増していた。さらに真皮部では上皮との境界部に大量の炎症性細胞の浸潤や赤血球の血管外滲出が随所に観察されており、典型的な皮膚炎症状を呈している。
【0031】
一方、特殊飼料にたもぎ茸由来セラミドを配合した飼料を摂取させたマウス(C群)では、図12および13に示すように、表皮細胞層の厚みが正常マウスに比べて若干増しているが、角化亢進による保湿阻害や細胞浸潤等の炎症所見は観察されておらず、皮膚炎の発症が明らかに抑えられている。比較検討の対象として同濃度の米ぬか由来セラミドを配合した特殊飼料摂取マウス(D群)では、図14および15に示すように、全く皮膚炎症状を改善しておらず、逆に悪化の傾向にあることが判明した。特に重度の角化亢進と真皮層のみならず一部では表皮層にまで炎症性細胞が浸潤していた。また赤血球の血管外滲出も随所で観察された。
【0032】
以上、行動学的解析および病理学的解析結果により、たもぎ茸由来セラミドは皮膚炎の発症を抑える効果を有していることが判明した。一方、比較対象の米ぬか由来セラミドでは皮膚炎抑制効果は全く認められず、この皮膚炎発症抑制効果はたもぎ茸由来セラミドの独自の効果である。たもぎ茸由来セラミドが皮膚炎誘発ケモカイン産生を抑制するという実施例2および3の実験結果と合わせると、たもぎ茸由来セラミドは、アトピー性皮膚炎を始めとして様々な皮膚炎(脂漏性皮膚炎、接触性皮膚炎、手湿疹、じんましん、皮脂欠乏性皮膚炎、皮膚そう痒症、乾癬、多形滲出性紅斑)に対する予防および治療に応用できると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
たもぎ茸由来セラミドを有効成分として含有する本発明の皮膚炎治療剤/皮膚保湿剤は、アトピー性皮膚炎を始めとする皮膚炎の治療薬として有効である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、ヒト末梢血からのランゲルハンス細胞誘導方法を示す。
【図2】図2は、ランゲルハンス細胞からのケモカインCCL1産生に及ぼすたもぎ茸由来セラミドの抑制効果を示す。
【図3】図3は、たもぎ茸由来セラミド添加によるランゲルハンス細胞の表面抗原発現変化の解析を示す。
【図4】図4は、表皮角化細胞からのケモカインCCL27産生に及ぼすたもぎ茸由来セラミドの抑制効果を示す。
【図5】図5は、皮膚炎誘発HR−1マウスの皮膚水分蒸散量を示す。
【図6】図6は、皮膚炎誘発HR−1マウスの背部皮膚の状態を示す。
【図7】図7は、皮膚炎誘発HR−1マウスの掻痒行動を示す。
【図8】図8は、正常HR−1マウスの皮膚組織を示す。
【図9】図9は、正常HR−1マウスの皮膚組織を示す。
【図10】図10は、皮膚炎誘発HR−1マウスの皮膚組織を示す。
【図11】図11は、皮膚炎誘発HR−1マウスの皮膚組織を示す。
【図12】図12は、皮膚炎誘発HR−1マウスにたもぎ茸由来セラミドを投与したときの皮膚組織を示す。
【図13】図13は、皮膚炎誘発HR−1マウスにたもぎ茸由来セラミドを投与したときの皮膚組織を示す。
【図14】図14は、皮膚炎誘発HR−1マウスに米ぬか由来セラミドを投与したときの皮膚組織を示す。
【図15】図15は、皮膚炎誘発HR−1マウスに米ぬか由来セラミドを投与したときの皮膚組織を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
たもぎ茸由来セラミドを有効成分として含有する皮膚炎治療剤。
【請求項2】
皮膚炎がアトピー性皮膚炎である、請求項1記載の皮膚炎治療剤。
【請求項3】
たもぎ茸由来セラミドを有効成分として含有する皮膚保湿剤。
【請求項1】
たもぎ茸由来セラミドを有効成分として含有する皮膚炎治療剤。
【請求項2】
皮膚炎がアトピー性皮膚炎である、請求項1記載の皮膚炎治療剤。
【請求項3】
たもぎ茸由来セラミドを有効成分として含有する皮膚保湿剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2007−308394(P2007−308394A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−137006(P2006−137006)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【出願人】(500451632)株式会社スリービー (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【出願人】(500451632)株式会社スリービー (4)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]