説明

皮膚外用消炎鎮痛剤並びにその製造法

【課題】アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、乾癬等の皮膚疾患に伴う、発熱や発赤、炎症、痛み、腫脹等の炎症反応に対して、免疫応答によるインターロイキン1β並びにシクロオキシゲナーゼ2の発現を遺伝子転写レベルで特異的に抑制し、プロスタグランジンEの産生を阻害することで予防及び治療を果たし、かつ安全に外用素材に用いることができる天然の食品成分からなることを特徴とする皮膚外用消炎鎮痛剤を提供する。
【解決手段】20S−プロトパナキサトリオール(20S−protopanaxatriol)あるいは20S−プロトパナキサジオール(20S−protopanaxadiol)を含有することを特徴とする皮膚外用消炎鎮痛剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、20S−プロトパナキサトリオール(20S−protopanaxatriol;以下、PPTと略記する)あるいは20S−プロトパナキサジオール(20S−protopanaxadiol;以下、PPDと略記する)のうち少なくとも1つを有効成分として含有することを特徴とする皮膚外用消炎鎮痛剤に関する。より詳しくは、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎、乾癬等の皮膚疾患に伴う、発熱や発赤(紅班)、炎症、痛み(疼痛)、浮腫(腫脹)等(これらを以下、炎症反応と略記する)に対して、免疫応答によるインターロイキン1β(以下、IL-1βと略記する)とシクロオキシゲナーゼ2(以下、COX−2と略記する)の発現を遺伝子転写レベルで抑制し、その結果、炎症性のメディエーターであるプロスタグランジンE(以下、PGEと略記する)の産生を阻害することによって、炎症反応を予防及び改善することを特徴とする皮膚外用消炎鎮痛剤並びにその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
IL-1βは、生体内で免疫応答時に発現するサイトカインのひとつである。主に単球、マクロファージ及びその類縁細胞が細菌感染等の異物やウイルス等の外界からの刺激に反応してIL-1βを分泌する。分泌されたIL-1βは、標的細胞のレセプターに結合して細胞内のIL-1βシグナル伝達経路を活性化する。
【0003】
IL-1βシグナルは、細胞内でIkB(inhibitor kappa B)と結合しているNFkB(nuclear factor kappa B:免疫グロブリンk鎖遺伝子発現のエンハンサーのB断片)を解離させる。遊離したNFkBは核内に移行してCOX−2遺伝子の転写レベルを上昇させ、核膜にCOX−2を発現させる。
【0004】
COX−2はアラキドン酸代謝における律速酵素で、PGEの生合成を触媒している。従って、核膜に発現したCOX−2は炎症性のメディエーターであるPGEの産生を誘導する。
【0005】
細胞外に放出されたPGEは、局所の血流を増加させ、ブラジキニンとともに血管透過性を亢進させ、浮腫形成(腫脹)と炎症細胞の浸潤を増強させて組織を傷害する結果、炎症反応を惹起する。しかもPGEは、細胞内のcAMPレベルを上昇させ、その結果ポジティブフィードバックによってCOX−2の発現をさらに亢進して、炎症反応を増悪させることが知られている。
【0006】
従って、IL-1βの発現を遺伝子転写レベルで阻害する物質は、COX−2の誘導を介して産生されるPGEと関連して起こる炎症反応を予防及び治療するための医薬材料として有効である可能性がある。
【0007】
ところで、人参(Panax)属植物、特にその根は、多様な効能ゆえに、古来より万能薬として珍重されてきた。
【0008】
人参属植物には、高麗人参(Korean ginseng:Panax ginseng C.A.Meyer)、三七人参(Sanchi ginseng:Panax notoginseng (Burk.)F.H.Chen)、アメリカ人参(American ginseng:Panax quinquefolium L.)、竹節人参(Chikusetsu ginseng:Panax japonicus C.A.Meyer)、ヒマラヤ人参(Himalayan ginseng:Panax pseudo−ginseng Wall.subsp.himalaicus Hara)、及びベトナム人参(Vietnamese ginseng:Panax vietnamensis Ha et Grushv.)等が挙げられる。
【0009】
PPT並びにPPDは、ともに人参属植物に含まれる人参配糖体(ginseng glycoside)のアグリコン(aglycon)である。PPTは、ジンセノサイド(ginsenoside)Re,Rg群,Rh1,F1等のPPT系配糖体のアグリコンである。他方、PPDは、ジンセノサイドRa群,Rb群,Rc,Rg3,F2,Rh2等のPPD系配糖体のアグリコンである。
【0010】
本発明者は、人参配糖体が腸内細菌の働きでPPTに加水分解されて吸収されることをはじめて解明した(例えば、非特許文献1参照)。
【非特許文献1】Hasegawa H.et al.,PlantaMed.,62,453-457,1996.
【0011】
さらに本発明者は、人参配糖体とアグリコンの生理活性を比較した結果、アグリコンこそが活性本体であり、人参配糖体はその活性前駆体(プロドラッグ:prodrug)であることを解明した(例えば、非特許文献2,3参照)。
【非特許文献2】Wakabayashi C.etal.,Ocol.Res.,9,411-417,1997.
【非特許文献3】Wakabayashi C.etal.,J.Trad.Med.,14,180-185,1997.
【0012】
PPT並びにPPDの生理活性については、in vitro系では、腫瘍細胞に対する傷害(例えば、特許文献1参照)及び腫瘍浸潤に対する阻害(例えば、特許文献2参照)、副腎髄質細胞によるカテコールアミン分泌に対する阻害(例えば、非特許文献3参照)、樹状細胞によるインターフェロンγ産生に対する促進(例えば、非特許文献4参照)、マクロファージによる一酸化窒素(NO)及びPGEの産生に対する阻害(例えば、非特許文献5参照)等が報告されている。また、in vivo系では、腫瘍細胞に対する増殖抑制(例えば、非特許文献6参照)及び腫瘍転移に対する阻害(例えば、非特許文献3参照)等が報告されている。
【特許文献1】特開昭58-131999号公報
【特許文献2】特開平09-176017号公報
【非特許文献3】Tachikawa E.et al.,Biochem.Pharmacol.,66,2213-2221,2003.
【非特許文献4】Takei M.etal.,Biochem.Pharmacol.,68,441-452,2004.
【非特許文献5】Oh GS.et al.,CancerLett.,205,23-29,2004.
【非特許文献6】Hasegawa H.,et al.,Biol.Pharm.Bull.,25,861-866,2002.
【0013】
しかし、PPT並びにPPDを皮膚に外用することによる、炎症反応に関わるメディエーターであるIL-1β並びにCOX−2の発現、及びPGEの産生に対する影響についての報告は、本発明者の知り得る限り未だ存在しない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来、皮膚疾患に伴う炎症反応に対して、ステロイド剤や非ステロイド系抗炎症薬が用いられてきた。これらの抗炎症剤はCOXの酵素活性を阻害することが、その作用機序として知られている。しかし、種類によっては、COX-1をも阻害してしまい、胃粘膜障害や腎障害といった副作用を併発する。
【0015】
なお、COXにはCOX-1とCOX-2との2種類のアイソザイムが存在する。COX-1は恒常的に各種組織に存在し、胃粘膜保護等において重要な役割を担うのに対し、COX-2はサイトカインや病原性物質等の刺激を生体が受けた時にはじめて産生が誘導される誘導型のCOXである。COX−1は、生理学的役割を果たしており、胃腸および腎臓の保護に関与していると考えられる。他方、COX−2は、病理的役割を果たしており、炎症状態において存在する主たるアイソザイムであると考えられている。
【0016】
恒常型のCOX−1は正常な組織にも広く存在し、正常な生理機能において重要な役割を果たしているので、COX−1を阻害することは望ましくない。したがって、新しい抗炎症剤の開発分野においては、COX−2のみを選択的に阻害する、しかも安全性が高い選択的COX−2阻害剤の提供が望まれている。
【0017】
本発明は、皮膚疾患に伴う炎症反応に対して、免疫応答によるIL-1βとCOX−2の発現を遺伝子転写レベルで特異的に抑制し、その結果、炎症性のメディエーターであるPGEの産生を阻害することによって炎症反応を予防及び改善し、かつ安全に外用素材に用いることができる天然の食品成分からなることを特徴とする皮膚外用消炎鎮痛剤の提供を目的する。
【0018】
ところで、本発明者は、PPTはそれ自身非常に高い生理活性を有しているが、腸管から吸収されるとただちに脂肪酸と結合して脂肪酸エステルになる特徴があることを解明した(例えば、非特許文献6参照)。すなわち、エステル化に伴ってその生理活性が変化してしまうのである。たとえば、PPTの細胞傷害活性はエステル化されると4分の1に減弱してしまう。その一方で、エステル化されたPPTには、免疫賦活活性に代表されるように、PPTにはなかった新たな生理活性が発現することも解明した(例えば、非特許文献6参照)。
【0019】
PPTの体内動態に関するこれらの知見は、in vitro系で得られたPPTの生理活性がそのまま生体内でも起こるとは期待できないことを示唆している。そして、この課題はPPDに関しても同様であることは容易に推察できる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者は、上記課題を解決すべく、安全に外用素材に用いることができる天然の食品成分を鋭意検索した。その過程で、PPTあるいはPPDを皮膚外用剤として用いると、炎症反応部位におけるIL-1β並びにCOX−2の発現が遺伝子転写レベルで抑制され、その結果、PGEの産生が阻害されて炎症反応が予防及び治療されることを見出した。しかもCOXに対する阻害様式がCOX−2に対する選択的なものであることも見出し、本発明を完成した。
【0021】
すなわち、本発明は、PPTあるいはPPDのうち少なくともその1つを有効成分として含有し、免疫応答によるIL-1β並びにCOX−2の発現を遺伝子転写レベルで特異的に抑制し、その結果、PGEの産生を阻害することによって、皮膚疾患に伴う炎症反応を予防及び治療することを特徴とする皮膚外用消炎鎮痛剤並びにその製造法を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。先ず、本発明の皮膚外用消炎鎮痛剤は、PPTあるいはPPDのうち少なくとも1つを有効成分として含有することを特徴とする。
【0023】
本発明おける「PPT」並びに「PPD」とは、分子式がC3052並びにC3052、化学構造式が式1並びに式2で表される化合物のことを指す。
【0024】
【化1】

【0025】
【化2】

【0026】
本発明の「特異的に抑制し」とは、COX−1の発現には影響を与えないで、COX−2の発現のみを選択的に抑制する(実施例2参照)ことを指す。
【0027】
本発明の皮膚外用消炎鎮痛剤へのPPTあるいはPPDの配合量は、外用剤全量中、0.0001〜20.0質量%、好ましくは0.001〜10.0質量%である。
【0028】
本発明の皮膚外用消炎鎮痛剤の使用量は、投与対象、症状等によって異なるが、約0.01mg〜100mg程度、好ましくは0.1mg〜10mg程度であり、これを1日1〜数回に分けて、または1回/1日〜7日の割合で皮膚に塗布する。
【0029】
また、本発明の皮膚外用消炎鎮痛剤には、上記必須成分以外に、下記に示されるような化粧品、医薬部外品、医薬品において通常用いられる各種成分や添加剤を必要に応じて適宜配合することができる。
【0030】
即ち、グリセリン、ワセリン、尿素、ヒアルロン酸、ヘパリン等の保湿剤;PABA誘導体(パラアミノ安息香酸、エスカロール507等)、桂皮酸誘導体(ネオヘリオパン、パルソールMCX、サンガードB等)、サリチル酸誘導体(オクチルサリチレート等)、ベンゾフェノン誘導体(ASL−24、ASL−24S等)、ジベンゾイルメタン誘導体(パルソールA、パルソールDAM等)、複素環誘導体(チヌビン系等)、酸化チタン等の紫外線吸収剤・散乱剤;エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酒石酸、酒石酸ナトリウム、乳酸、リンゴ酸、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属封鎖剤;サリチル酸、イオウ、カフェイン、タンニン等の皮脂抑制剤;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン等の殺菌・消毒剤;塩酸ジフェンヒドラミン、トラネキサム酸、グアイアズレン、アズレン、アラントイン、ヒノキチオール、グリチルリチン酸及びその塩、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸等の抗炎症剤;ビタミンA、ビタミンB群(B1,B2,B6,B12,B15)、葉酸、ニコチン酸類、パントテン酸類、ビオチン、ビタミンC、ビタミンD群(D2,D3)、ビタミンE、ユビキノン類、ビタミンK(K1,K2,K3,K4)等のビタミン類;アスパラギン酸、グルタミン酸、アラニン、リジン、グリシン、グルタミン、セリン、システイン、シスチン、チロシン、プロリン、アルギニン、ピロリドンカルボン酸等のアミノ酸及びその誘導体;レチノール、酢酸トコフェロール、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸、エラグ酸、胎盤抽出液等の美白剤;ブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、没食子酸プロピル等の抗酸化剤;塩化亜鉛、硫酸亜鉛、石炭酸亜鉛、酸化亜鉛、硫酸アルミニウムカリウム等の収斂剤;グルコース、フルクトース、マルトース、ショ糖、トレハロース、エリスリトール、マンニトール、キシリトール、ラクチトール等の糖類;甘草、カミツレ、マロニエ、ユキノシタ、芍薬、カリン、オウゴン、オウバク、オウレン、ジュウヤク、イチョウ葉等の各種植物エキス等の他、油性成分、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色素等を適宜配合することができる。
【0031】
本発明の皮膚外用消炎鎮痛剤とは、例えば軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、浴用剤等、従来皮膚外用剤に用いるものであればいずれでもよく、剤型は特に問わない。
【0032】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0033】
また、以下の実施例で使用したPPTは、PPDを20質量%程度含有するものであるが、便宜上PPTと表記した。その抗炎症効果を評価するために、ステロイド剤であるベタメタゾン(betamethasone)を陽性対照として使用した。なお、データの統計解析はStudentのt検定によって行った。
【実施例1】
【0034】
[実験1:抗炎症効果の確認]
PPTの抗炎症効果をオギザゾロン(oxazolone)誘発マウス皮膚炎モデルを用いて評価した。このモデルは慢性乾癬皮膚炎モデルとして確立されたものである(例えば、非特許文献7参照)。雌性ICRマウス(6週齢)の腹部に、1.5%の濃度に溶かしたオギザゾロン(表中、OXAと略記した)のエタノール溶液100μLを塗布して感作した。感作1週間後から3日置きにマウスの両耳介に、アセトンとオリーブ油の混合(4:1)溶液に1%の濃度に溶かしたオギザゾロン溶液20μLを塗布した。被検薬は、アセトンとオリーブ油の混合(4:1)溶液に0.02%あるいは0.05%の濃度に調節し、その被検薬溶液20μLを、オギザゾロン処置(200μg/耳)30分及び3時間後に両耳介に塗布した。耳介の厚さはオギザゾロンの初回処置16日後にデジタル表示式マイクロメータ(株式会社ミツトヨ製)で測定した。データは、耳介の厚さをmm単位で表記した。結果を表1に示す。
【非特許文献7】Fujii Y.,et al.,Eur.J.Pharmacol.,456,115-121,2002.
【0035】
【表1】

【0036】
オギザゾロン(表中、OXA処置群と略記した)で感作した耳介は、皮膚の紅班、腫脹、硬化、あるいは剥離を惹起した。その程度は、オギザゾロンの塗布回数が増すにしたがって増悪した。初回感作から16日後に皮膚炎症反応の指標として耳介の厚さを測定した結果、オギザゾロン処置群の耳介は対照群に比べて4倍以上肥厚していた。オギザゾロン感作の前後で被検物を塗布した場合、PPT(表中、OXA+PPTと略記した)は、投与量に依存して、炎症反応による耳介の肥厚を抑制し、10μg/耳塗布した場合には、陽性対照として用いたベタメタゾン(表中、OXA+BETと略記した)と同程度の84%の抑制率を示した。
【0037】
初回感作から16日後の耳介を切除し、それぞれの群の組織標本を作成した。その病理組織像を図1に示す。オギザゾロン処置群(図中、B)では、皮膚表皮の腫脹と剥離が認められた一方、ベタメタゾン(図中、C)あるいはPPT(図中、D)処置群では、オギザゾロン刺激による皮膚表皮の腫脹と剥離が対照群とほとんど変わらない程度にまで顕著に抑制されていた。
【0038】
これらの結果より、PPTは動物実験において炎症反応による腫脹と剥離を予防及び治療する効果が確認できた。
【実施例2】
【0039】
[実験2:IL−1β,COX−1,COX−2の遺伝子転写量(mRNA発現量)に対する影響の確認]
初回感作から16日後の耳介を切除し、その組織を液体窒素下で凍結破砕した。常法に従ってトータルRNAを回収した。トータルRNA1μgよりRT-PCR法を用いてIL−1β、COX−1、COX−2のmRNAを増幅した。コントロールとしてグリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)の発現を確認した。反応にはRNA
PCR Kit(AMT)Ver.2.1(TaKaRa Biochemicals社製)を使用した。逆転写反応を42℃、1時間行った後、逆転写酵素失活のため99℃、5分間インキュベートした。PCR反応におけるプライマーと反応条件は以下に示した。
【0040】
IL−1β Sense: 5'-ATG GCA ACT GTC CCT GAA CT-3'
Antisense: 5'-GTC
GTT GCT TGT CTC TCC TT-3'
95℃,5min-(94℃ 1min,55℃ 1min,72℃ 1min)x32cycles-72℃ 7min
PCR product:508bp
COX−1 Sense: 5'-TGC CCA GCT CCT GGC CCG CCG
CTT-3'
Antisense: 5'-GTG
CAT CAA CAC AGG CGC CTC TTC-3'
95℃,5min-(94℃ 1min,55℃ 1min,72℃ 1min)x32cycles-72℃ 7min
PCR product:303bp
COX−2 Sense: 5'-GGA ACA CAA CAG AGT ATG CG-3'
Antisense: 5'-GAC
AGC CCT TCA CGT TAT TG-3'
95℃,5min-(94℃ 30sec,55℃ 30sec,72℃ 1min)x30cycles-72℃ 7min
PCR product:806bp
GAPDH Sense: 5'-ACC ACA GTC CAT GCC ATC AC-3'
Antisense: 5'-CCA
CCA CCC TGT TGC TGT AG-3'
95℃,5min-(94℃ 30sec,55℃ 30sec,72℃ 1min)x20cycles-72℃ 7min
PCR product:457bp
【0041】
反応終了後、2%アガロースゲルをTAEバッファーで電気泳動し、ethidium bromideで染色してUV照射下で該当するバンドを検出した。また、mRNA発現量は画像解析ソフト:NIH Image 1.62により定量し、ハウスキーピング遺伝子であるGAPDHの発現量との比(COX−1 or COX−2/GAPDH)の値を平均値±標準誤差にてグラフにプロットした。結果を図2並びに図3に示す。
【0042】
図2に示す通り、オギザゾロン処置群(図中、OXA)では、IL−1βのmRNA発現量が対照群(図中、CON)に比べて約38倍に増加していた。一方、PPT(図中、OXA+PPT)処置群では、オギザゾロン刺激によるIL−1βのmRNA発現の亢進が約1/4に統計的な有意差をもって抑制された。その抑制は、陽性対照として用いたベタメタゾン(図中、OXA+BET)と同程度であった。
【0043】
これらの結果より、PPTが免疫応答初期に発現するサイトカインであるIL-1βの発現をmRNAレベルで抑制することが確認できた。
【0044】
図3に示す通り、オギザゾロン処置群(図中、OXA)では、COX−2のmRNA発現量が対照群(図中、CON)に比べて約2倍に増加していた。しかし、オギザゾロンは生体内で恒常的に発現しているCOX−1のmRNA発現量には影響を与えなかった。PPT(図中、OXA+PPT)並びにベタメタゾン(図中、OXA+BET)処置群では、オギザゾロン刺激によるCOX−2のmRNA発現の亢進が有意に、しかも対照群と同レベルにまで抑制された。その抑制は両群とも同程度であった。しかし、PPT処置群では、COX−1のmRNA発現量は影響を受けなかったが、ベタメタゾン処置群では、COX−1のmRNA発現量に統計的に有意な減少が認められた。
【0045】
これらの結果より、PPTがIL−1βの刺激で誘導されるCOX−2の発現を特異的に抑制することが確認できた。しかも、PPTは、生体内で恒常的に発現しているCOX−1には影響を与えず、炎症時に誘導されるCOX−2のみを遺伝子転写レベルで特異的に抑制することが確認できた。
【実施例3】
【0046】
[実験3:PGEタンパク産生量に対する影響の確認]
初回感作から16日後の耳介を切除し、その組織を液体窒素下で凍結破砕した。常法に従ってPGEタンパク液を調製し、ELISA法にてPGEタンパク産生量を定量した。得られた測定結果を平均値±標準誤差にてグラフにプロットした。結果を図4に示す。
【0047】
図4に示す通り、オギザゾロン処置群(図中、OXA)では、PGEタンパク産生量が対照群(図中、CON)に比べて約2倍に増加していた。PPT処置群(図中、OXA+PPT)では、オギザゾロン刺激によるPGEタンパク産生の亢進が有意に、しかも対照群と同レベルにまで抑制された。その抑制は、陽性対照として用いたベタメタゾン(図中、OXA+BET)と同程度であった。
【0048】
これらの結果より、PPTがCOX−2の誘導で産生されるPGEをタンパクレベルで抑制することが確認できた。
【0049】
以上の実験1〜3の結果から、PPTが免疫応答初期に発現するIL-1β並びに、続いてIL−1βの刺激で誘導されるCOX−2の発現を遺伝子転写レベルで特異的に抑制し、さらにCOX−2を触媒として生合成されるPGEの産生をタンパクレベルで抑制することで、炎症反応を予防及び治療することが確認できた。
【0050】
次に本発明の皮膚外用消炎鎮痛剤の製造法に関する実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明する。
【実施例4】
【0051】
[クリーム]
(処方)ステアリン酸,5.0質量%;ステアリルアルコール,4.0;イソプロピルミリステート,18.0;グリセリンモノステアリン酸エステル,3.0;プロピレングリコール,10.0;PPT,0.01;苛性カリ,0.2;亜硫酸水素ナトリウム,0.01;防腐剤,適量;香料,適量;イオン交換水,残余.
(製法)イオン交換水にプロピレングリコールと苛性カリを加え溶解し、加熱して70℃に保つ(水相)。他の成分を混合し加熱融解して70℃に保つ(油相)。水相に油相を徐々に加え、全部加え終わってからしばらくその温度に保ち反応を起こさせる。その後、ホモミキサーで均一に乳化し、よくかきまぜながら30℃まで冷却する。
【実施例5】
【0052】
[クリーム]
(処方)ステアリン酸,2.0質量%;ステアリルアルコール,7.0;水添ラノリン,2.0;スクワラン,5.0;2−オクチルドデシルアルコール,6.0;ポリオキシエチレン(25モル);セチルアルコールエーテル,3.0;グリセリンモノステアリン酸エステル,2.0;プロピレングリコール,5.0;PPT,0.05;亜硫酸水素ナトリウム,0.03;エチルパラベン,0.3;香料,適量;イオン交換水,残余.
(製法)イオン交換水にプロピレングリコールを加え、加熱して70℃に保つ(水相)。他の成分を混合し加熱融解して70℃に保つ(油相)。水相に油相を加え予備乳化を行い、ホモミキサーで均一に乳化した後、よくかきまぜながら30℃まで冷却する。
【実施例6】
【0053】
[クリーム]
(処方)固形パラフィン,5.0質量%;ミツロウ,10.0;ワセリン,15.0;流動パラフィン,41.0;グリセリンモノステアリン酸エステル,2.0;ポリオキシエチレン(20モル);ソルビタンモノラウリン酸エステル,2.0;石けん粉末,0.1;硼砂,0.2;PPD,0.01;亜硫酸水素ナトリウム,0.03;エチルパラベン,0.3;香料,適量;イオン交換水,残余.
(製法)イオン交換水に石けん粉末と硼砂を加え、加熱溶解して70℃に保つ(水相)。他の成分を混合し加熱融解して70℃に保つ(油相)。水相に油相をかきまぜながら徐々に加え反応を行う。反応終了後、ホモミキサーで均一に乳化し、乳化後よくかきまぜながら30℃まで冷却する。
【実施例7】
【0054】
[乳液]
(処方)ステアリン酸,2.5質量%;ワセリン,5.0;流動パラフィン,10.0;ポリオキシエチレン(10モル);モノオレイン酸エステル,2.0;ポリエチレングリコール1500,3.0;トリエタノールアミン,1.0;カルボキシビニルポリマー,0.05(商品名:カーボポール941,B.F.Goodrich Chemical company);PPT,0.01;亜硫酸水素ナトリウム,0.01;エチルパラベン,0.3;香料,適量;イオン交換水,残余.
(製法)少量のイオン交換水にカルボキシビニルポリマーを溶解する(A相)。残りのイオン交換水にポリエチレングリコール1500とトリエタノールアミンを加え、加熱溶解して70℃に保つ(水相)。他の成分を混合し加熱融解して70℃に保つ(油相)。水相に油相を加え予備乳化を行い、A相を加えホモミキサーで均一乳化し、乳化後よくかきまぜながら30℃まで冷却する。
【実施例8】
【0055】
[乳液]
(処方)マイクロクリスタリンワックス,1.0質量%;密ロウ,2.0;ラノリン,20.0;流動パラフィン,10.0;スクワラン,5.0;ソルビタンセスキオレイン酸エステル,4.0;ポリオキシエチレン(20モル);ソルビタンモノオレイン酸エステル,1.0;プロピレングリコール,7.0;PPT,0.01;亜硫酸水素ナトリウム,0.01;エチルパラベン,0.3;香料,適量;イオン交換水,残余.
(製法)イオン交換水にプロピレングリコールを加え、加熱して70℃に保つ(水相)。他の成分を混合し、加熱融解して70℃に保つ(油相)。油相をかきまぜながらこれに水相を徐々に加え、ホモミキサーで均一に乳化する。乳化後よくかきまぜながら30℃まで冷却する。
【実施例9】
【0056】
[ゼリー]
(処方)95%エチルアルコール,10.0質量%;ジプロピレングリコール,15.0;ポリオキシエチレン(50モル);オレイルアルコールエーテル,2.0;カルボキシビニルポリマー,1.0(商品名:カーボポール940,B.F.Goodrich Chemical company);苛性ソーダ,0.15;L−アルギニン,0.1;PPD,0.05;2−ヒドロキシ−4−メトキシ
ベンゾフェノンスルホン酸ナトリウム,0.05;エチレンジアミンテトラアセテート・3ナトリウム・2水和物,0.05;メチルパラベン,0.2;香料,適量;イオン交換水,残余.
(製法)イオン交換水にカーボポール940を均一に溶解し、一方、95%エタノールにPPD、ポリオキシエチレン、オレイルアルコールエーテルを溶解し、水相に添加する。次いで、その他の成分を加えたのち苛性ソーダ、L−アルギニンで中和させ増粘する。
【実施例10】
【0057】
[美容液]
(処方)(A相)95%エチルアルコール,10.0質量%;ポリオキシエチレン(20モル);オクチルドデカノール,1.0;パントテニールエチルエーテル,0.1:PPT,0.005;メチルパラベン,0.15;(B相)水酸化カリウム,0.1;(C相)グリセリン,5.0;ジプロピレングリコール,10.0;亜硫酸水素ナトリウム,0.03;カルボキシビニルポリマー,0.2(商品名:カーボポール940,B.F.Goodrich Chemical company);精製水,残余.
(製法)A相、C相をそれぞれ均一に溶解し、C相にA相を加えて可溶化する。次いでB相を加えたのち充填を行う。
【実施例11】
【0058】
[パック]
(処方)(A相)ジプロピレングリコール,5.0質量%;ポリオキシエチレン(60モル);硬化ヒマシ油,5.0;(B相)PPD,0.01;オリーブ油,5.0;酢酸トコフェロール,0.2;エチルパラベン,0.2;香料,0.2;(C相)亜硫酸水素ナトリウム,0.03;ポリビニルアルコール,13.0(ケン化度90,重合度2000);エタノール,7.0;精製水,残余.
(製法)A相、B相、C相をそれぞれ均一に溶解し、A相にB相を加えて可溶化する。次いでこれをC相に加えたのち充填を行う。
【実施例12】
【0059】
[固形ファンデーション]
(処方)タルク,43.1質量%;カオリン,15.0;セリサイト,10.0;亜鉛華,7.0;二酸化チタン,3.8;黄色酸化鉄,2.9;黒色酸化鉄,0.2;スクワラン,8.0;イソステアリン酸,4.0;モノオレイン酸POEソルビタン,3.0;オクタン酸イソセチル,2.0;PPT,0.1;防腐剤,適量;香料,適量.
(製法)タルク〜黒色酸化鉄の粉末成分をブレンダーで十分混合し、これにスクワラン〜オクタン酸イソセチルの油性成分、PPT、防腐剤、香料を加え良く混練した後、容器に充填、成型する。
【実施例13】
【0060】
[乳化型ファンデーション(クリームタイプ)]
(処方)(粉体部)二酸化チタン,10.3質量%;セリサイト,5.4;カオリン,3.0;黄色酸化鉄,0.8;ベンガラ,0.3;黒色酸化鉄,0.2(油相)デカメチルシクロペンタシロキサン,11.5;流動パラフィン,4.5;ポリオキシエチレン変性ジメチルポリシロキサン,4.0(水相)精製水,50.0;1,3−ブチレングルコール,4.5:PPT,0.1;ソルビタンセスキオレイン酸エステル,3.0;防腐剤,適量;香料,適量.
(製法)水相を加熱撹拌後、十分に混合粉砕した粉体部を添加してホモミキサー処理する。更に加熱混合した油相を加えてホモミキサー処理した後、撹拌しながら香料を添加して室温まで冷却する。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、PPTあるいはPPDを皮膚に外用することによって、免疫応答初期に発現するサイトカインであるIL-1βをmRNAレベルで抑制し、続いてIL−1βの刺激で誘導されるCOX−2を特異的に抑制し(実施例2参照)、さらにCOX−2を触媒として生合成されるPGEの産生をタンパクレベルで抑制する(実施例3参照)ことで、炎症反応を予防及び治療する(実施例1参照)ことが確認された。このように、本発明の皮膚外用消炎鎮痛剤は、毎日安全に塗布することが可能で、皮膚疾患に伴う炎症反応を予防及び治療するうえで極めて有用といえる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】オギザゾロン初回感作から16日後の耳介の病理組織像を示す(実施例1)。A:対照群、B:オギザゾロン(200μg/耳)処置群、C:オギザゾロン(200μg/耳)+ベタメタゾン(10μg/耳)処置群、D:オギザゾロン(200μg/耳)+PPT(10μg/耳)処置群。
【図2】オギザゾロン初回感作から16日後の耳介組織におけるIL−1βのmRNA発現量をGAPDH比で示す(実施例2)。
【図3】オギザゾロン初回感作から16日後の耳介組織におけるCOX−1及び−2のmRNA発現量をGAPDH比で示す(実施例2)。
【図4】オギザゾロン初回感作から16日後の耳介組織におけるPGEタンパク産生量を示す(実施例3)。
【符号の説明】
【0063】
図2〜4において、CON:対照群、OXA:オギザゾロン(200μg/耳)処置群、OXA+PPT:オギザゾロン(200μg/耳)+PPT(10μg/耳)処置群、OXA+BET:オギザゾロン(200μg/耳)+ベタメタゾン(10μg/耳)処置群。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
20S−プロトパナキサトリオールあるいは20S−プロトパナキサジオールのうち少なくとも1つを有効成分として含有し、免疫応答によるインターロイキン1β並びにシクロオキシゲナーゼ2の発現を遺伝子転写レベルで特異的に抑制し、その結果、プロスタグランジンEの産生を阻害することによって、皮膚疾患に伴う炎症反応を予防及び治療することを特徴とする皮膚外用消炎鎮痛剤。
【請求項2】
請求項1記載の皮膚外用消炎鎮痛剤の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−8896(P2007−8896A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−194541(P2005−194541)
【出願日】平成17年7月4日(2005.7.4)
【出願人】(305029689)有限会社 生薬発酵研究所 (4)
【Fターム(参考)】