説明

皮膜被覆ポリカーボネート樹脂基材を用いて製造される樹脂積層体

【課題】エピスルフィド化合物との接着性が良好であり、且つエピスルフィド化合物に溶出することのない皮膜被覆ポリカーボネート樹脂基材の製造方法、および該皮膜被覆ポリカーボネート樹脂基材上でエピスルフィド化合物含有組成物を重合させて得られる透明性、接着性に優れた樹脂積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】分子内に6個のアクリロイル基を有するウレタン(メタ)アクリレート化合物を含有する紫外線硬化型組成物をポリカーボネート樹脂基材に塗工して、酸素の存在する雰囲気中で該紫外線硬化型組成物に紫外線を照射することにより、皮膜被覆ポリカーボネート樹脂基材を作製し、該皮膜被覆ポリカーボネート樹脂基材上でエピスルフィド化合物を重合させて接着性、透明性が良好な樹脂積層体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線硬化型組成物の硬化皮膜で被覆されたポリカーボネート樹脂基材の少なくとも片面上でエピスルフィド化合物を含有した重合性組成物を重合させて得られる樹脂積層体の製造方法および該樹脂積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック材料は軽量かつ靭性に富み、また染色が容易であることから、各種光学材料に近年多用されている。光学材料に要求される性能の一つとして、高屈折率が挙げられる。高い屈折率を有する光学材料については、屈折率1.7以上の光学材料を可能とするエピスルフィド化合物が多数見いだされている(特許文献1,2,3)。そしてエピスルフィド化合物を他のプラスチック材料にコーティングしたり、エピスルフィド化合物を用いて他のプラスチック材料同士を張り合わせたりするなど、エピスルフィド化合物と他のプラスチック材料とが複合化させた光学材料が望まれていた。その中でもエピスルフィド化合物とポリカーボネート樹脂の複合材料が強く望まれている。しかしながら、エピスルフィド化合物をポリカーボネート樹脂基材表面で重合させた場合、エピスルフィド重合体とポリカーボネート樹脂基材との接着性が弱い問題があった。また、ポリカーボネート樹脂基材がエピスルフィド化合物に溶出して透明な樹脂積層体が得られない問題もあった。
【0003】
一方、ポリカーボネート樹脂の表面を多官能(メタ)アクリレート化合物を含有する紫外線硬化型組成物の硬化皮膜で被覆する方法が従来広く知られている(特許文献4、5)。これは、ポリカーボネート樹脂の欠点である耐擦傷性、耐薬品性を補う目的であり、これらを更に改善する目的で、嫌気性雰囲気中で紫外線硬化型組成物に紫外線を照射する方法が開示されている。具体的には、不活性ガス雰囲気中で紫外線硬化型組成物に紫外線を照射する方法や、紫外線硬化型組成物の塗布面に透明フィルムを圧着させた状態で紫外線を照射する方法等が特許文献6、7、8に記載されている。しかしながら、これらの手法はポリカーボネート樹脂の表面を保護する目的でなされたものであり、さらに別の樹脂、特にエピスルフィド化合物を張り合わせることについては何ら検討がされていない。特許文献9では、紫外線硬化型組成物の硬化皮膜で被覆されたポリカーボネート樹脂上でエピスルフィド化合物を重合させており、紫外線硬化型組成物として(メタ)アクリレート化合物を含有する組成物を用いている。(メタ)アクリレート化合物としては、ウレタン(メタ)アクリレート化合物、ポリエステル(メタ)アクリレート化合物、エポキシ(メタ)アクリレート化合物等が例示されているが、種類や官能基数に関しては特に限定されていない。また、紫外線硬化型組成物に紫外線を照射する雰囲気については特に記載がないが、実施例ではすべて嫌気性雰囲気で紫外線を照射する方法が採用されている。この方法により得られた硬化皮膜で被覆されたポリカーボネート樹脂積層体にエピスルフィド化合物を重合させたが、該ポリカーボネート樹脂積層体との接着性は不十分であった(比較例1〜7参照)。
【特許文献1】特開平9−71580号公報
【特許文献2】特開平9−110979号公報
【特許文献3】特開平9−255781号公報
【特許文献4】特開昭53−104638号公報
【特許文献5】特開2001−113648号公報
【特許文献6】特開2000−234033号公報
【特許文献7】特開平1−308416号公報
【特許文献8】特開2004−130540号公報
【特許文献9】特開2005−280154号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、エピスルフィド化合物との接着性が良好であり、且つエピスルフィド化合物に溶出することのない皮膜被覆ポリカーボネート樹脂基材の製造方法を提供するとともに、該皮膜被覆ポリカーボネート樹脂基材上でエピスルフィド化合物含有組成物を重合させて得られる透明性、接着性に優れた樹脂積層体の製造方法および該樹脂積層体に関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは前記課題を解決すべく検討を行った結果分子内に6個のアクリロイル基を有するウレタン(メタ)アクリレート化合物を含有する紫外線硬化型組成物をポリカーボネート樹脂基材に塗工して、酸素の存在する雰囲気中で該紫外線硬化型組成物に紫外線を照射することにより、皮膜被覆ポリカーボネート樹脂基材を作製し、該皮膜被覆ポリカーボネート樹脂基材の少なくとも片面にエピスルフィド化合物を重合させた樹脂積層体は接着性、透明性が良好であった。さらに、エピスルフィド化合物にメルカプト化合物を添加した場合、樹脂積層体の接着性はさらに良好であった。これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0006】
1. 少なくとも分子内に6個以上の(メタ)アクリロイル基を有するウレタン(メタ)アクリレート化合物(a−1)を含有する紫外線硬化型組成物(A)をポリカーボネート樹脂基材に塗工し、酸素濃度0.5%以上の雰囲気下で該紫外線硬化型組成物(A)に紫外線を照射し、製造した皮膜被覆ポリカーボネート樹脂基材の少なくとも片面に分子内にチイラン環を有するエピスルフィド化合物(b−1)を含有するエピスルフィド系組成物(B)を重合させることを特徴とする樹脂積層体の製造方法。
2. 前項記載の紫外線硬化型組成物(A)中に、分子内に6個以上の(メタ)アクリロイル基を有するウレタン(メタ)アクリレート化合物(a−1)と共重合可能な分子量が72以上400以下の化合物(a−2)が含有されることを特徴とする、第項1に記載の皮膜被覆ポリカーボネート樹脂基材の製造方法。
3. 前項2に記載の化合物(a−2)が(メタ)アクリレート化合物であることを特徴とする、前項2に記載の皮膜被覆ポリカーボネート樹脂基材の製造方法。
4. 第2項に記載の化合物(a−2)の含有量が紫外線硬化型組成物(A)100重量部としたとき0.01〜80重量部であることを特徴とする、第1から第3項のいずれかに記載の皮膜被覆ポリカーボネート樹脂基材の製造方法。
5. 第1項に記載の酸素濃度が0.5%以上21%以下であることを特徴とする、第1から第4項のいずれかに記載の皮膜被覆ポリカーボネート樹脂基材の製造方法。
6. 第1項に記載のエピスルフィド化合物(b−1)が一般式(1)であることを特徴とする、第1項に記載の樹脂積層体の製造方法。
【化1】

(式中、nは0から4の整数、mは0から6の整数であり、R,Rはそれぞれ独立に、水素原子またはC1〜C10の炭化水素であり、R,Rはそれぞれ独立にC1〜C10の炭化水素である。)
7. 第6項に記載の一般式(1)のエピスルフィド化合物が、ビス(2,3−エピチオプロピル)スルフィドおよび/またはビス(2,3−エピチオプロピル)ジスルフィドであることを特徴とする第6項に記載の樹脂積層体の製造方法。
8. 第1、第6および第7項のいずれかに記載のエピスルフィド系組成物(B)中に、メルカプト化合物(b−2)が含有されることを特徴とする第1、第6および第7項のいずれかに記載の樹脂積層体の製造方法。
9. 第1項から第8項のいずれか1項に記載の製造方法で得られる樹脂積層体。
10. 第9項に記載の樹脂積層体を用いて製造される光学材料。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法で得られる皮膜被覆ポリカーボネート樹脂基材の少なくとも片面にエピスルフィド化合物を含有するエピスルフィド系組成物(B)を重合させた皮膜被覆ポリカーボネート樹脂基材はエピスルフィド重合体との接着性が良好であり、且つ皮膜被覆ポリカーボネート樹脂がエピスルフィド系組成物に溶出することがないため透明性が良好な樹脂積層体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明の実施形態について説明する。本発明で用いられる紫外線硬化型組成物(A)には分子内に6個以上の(メタ)アクリロイル基を有するウレタン(メタ)アクリレート化合物(a−1)が含有される。すなわち、(a−1)成分を必須成分とすることで、酸素存在下での硬化させた紫外線硬化型組成物(A)の硬化皮膜の少なくとも片面にエピスルフィド系組成物(B)を重合させたときに十分な接着力を得ることができる。また、(a−1)成分を含有する紫外線硬化型組成物(A)の硬化皮膜は十分な架橋密度を有するので、エピスルフィド系組成物(B)が硬化皮膜に浸透して硬化皮膜を過度に膨潤させたりポリカーボネート樹脂基板を溶出させたりすることがなく、透明性の高い樹脂積層体を得ることができる。
【0009】
(a−1)成分の代わりに分子内に5個以下の(メタ)アクリロイル基を有するウレタン(メタ)アクリレート化合物を使用した場合には、紫外線硬化型組成物(A)の硬化皮膜の上でエピスルフィド系組成物(B)を重合させたときに接着性が不十分となる。また紫外線硬化型組成物(A)に紫外線を照射したときに、硬化皮膜の表面にタックが残りやすくなる。また(a−1)成分の代わりにポリエステル系アクリレート化合物やエポキシアクリレート化合物を使用した場合には、紫外線硬化型組成物(A)の硬化皮膜の上でエピスルフィド系組成物(B)を重合させたときに接着性が不十分となる。
【0010】
分子内に6個以上の(メタ)アクリロイル基を有するウレタン(メタ)アクリレート化合物(a−1)は、既知の合成方法により容易に得ることができる。具体的には、ポリイソシアネートとポリオールを先ず反応させ、次にヒドロキシ(メタ)アクリレートと反応させる方法や、ポリイソシアネートとヒドロキシ(メタ)アクリレートを先ず反応させ、次にポリオールと反応させる方法等が挙げられる。好ましい方法は、2官能ポリイソシアネートと2官能ポリオールを先ず反応させ、次にペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートと反応させる方法である。また反応触媒にはジブチル錫ジラウレート等の公知のウレタン化触媒を使用することができる。
ヒドロキシ(メタ)アクリレートとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシドールジ(メタ)アリレート、トリグリセロールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、エポキシアクリレート等が挙げられる。好ましいのは、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートである。これらヒドロキシ(メタ)アクリレートは単独で用いても又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0011】
ポリイソシアネートとしては、分子内に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネートが用いられる。具体例としては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、トルイジンジイソシアネート、ナフタリンジイソシアネート等の芳香族系や、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。これらは単独で用いても又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0012】
ポリオールとしては、分子内に2個以上の水酸基を有するポリオールが用いられる。具体例としては、ポリ(プロピレンオキサイド)ジオール、ポリ(プロピレンオキサイド)トリオール、コポリ(エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド)ジオール、ポリ(テトラメチレンオキサイド)ジオール、エトキシ化ビスフェノールA、エトキシ化ビスフェノールS、スピログリコール、カプロラクトン変性ジオール、カーボネートジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。これらは単独で用いても又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0013】
以上、(a−1)成分の合成方法について記述したが、(a−1)成分としては、多くのものが市販され、容易に入手することができる。具体的には、日本合成化学(株)製、商品名、紫光UV−1400B、紫光UV−1700B、紫光UV−6300B、紫光UV−7600B、紫光UV−7605B、紫光UV−7610B、紫光UV−7620EA、根上工業(株)製、商品名、アートレジンUV−7630B、アートレジンUV−7640B、アートレジンUN−9000H、アートレジンUN−3320HA、アートレジンUN−3320HC、アートレジンUN−3320HS、アートレジンUN−901T、新中村化学工業(株)製、商品名、NKオリゴU−6HA、NKオリゴU−6LPA、NKオリゴU−15HA、NKオリゴUA−32P、NKオリゴU−324A、NKオリゴU−6H、ダイセル・サイテック(株)製、商品名、Ebecryl1290、Ebecryl1290K、Ebecryl5129、Ebecryl220、荒川化学工業(株)製、商品名、ビームセット575などが挙げられる。これらの中で特に好ましいのは、日本合成化学(株)製、商品名、紫光UV−1700B、紫光UV−6300B、紫光UV−7605B、および根上工業(株)製、商品名、アートレジンUN−3320HCである。これらは単独でも2種類以上を混合して使用してもかまわない。
【0014】
紫外線硬化型組成物(A)には、(a−1)成分と共重合可能な分子量72以上400以下の化合物(a−2)が含有されることが好ましい。(a−2)成分がポリカーボネート樹脂基材に浸透することにより、硬化皮膜とポリカーボネート樹脂基材との間で十分な接着性を得ることができると考えている。また(a−2)成分は紫外線硬化型組成物(A)の粘度を調整する役割も果たす。(a−2)成分としては、(メタ)アクリレート化合物、メルカプト化合物、ビニル化合物などが挙げられ、(メタ)アクリレート化合物が好ましい具体的には、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの中で特に好ましいのは、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレートである。これらは単独でも2種類以上を混合して使用してもかまわない。
【0015】
本発明の紫外線硬化型組成物(A)とは、(a−1)成分単独もしくは(a−1)成分と(a−2)成分との混合物である。好ましくは(a−1)成分と(a−2)成分との混合物である。(a−2)成分を配合する場合の配合量は、紫外線硬化型組成物(A)100重量部としたとき0.01〜80重量部であり、好ましくは5〜60重量部であり、より好ましくは10〜50重量部である。(a−2)成分の配合量が80重量部を超えると、紫外線硬化型組成物(A)に紫外線を照射したときに硬化皮膜の表面にタックが残りやすくなる。また紫外線硬化型組成物(A)の硬化皮膜の少なくとも片面でエピスルフィド含有組成物(B)を重合させたときに十分な接着性が得られなくなる。
【0016】
本発明の紫外線硬化型組成物(A)は有機溶剤に希釈して用いることもできる。有機溶剤で希釈することによって、紫外線硬化型組成物(A)の粘度の調整が可能となる。また有機溶剤がポリカーボネート樹脂基材の表面層を膨潤させることにより、紫外線硬化型組成物(A)の硬化皮膜がポリカーボネート樹脂基材と十分に接着するようになる。有機溶剤としては、トルエン、キシレン等の芳香族系、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル等のエステル系、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル系、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテルアルコール系、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエーテルエステル系等が挙げられる。これら有機溶剤は単独で用いても又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0017】
本発明の紫外線硬化型組成物(A)には光重合開始剤を添加することが好ましい。光重合開始剤としては一般に知られているものが使用できる。具体的には、2,2−メトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド等が挙げられ、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイドが好ましく、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトンが特に好ましい。これらは単独でも2種類以上を混合して使用してもかまわない。光重合開始剤を添加する場合の添加量は、紫外線硬化型組成物(A)100重量部に対して0.1〜15重量部であり、好ましくは0.5〜10重量部であり、より好ましくは1〜6重量部である。
【0018】
本発明の紫外線硬化型組成物(A)には光重合開始剤に加えて光増感剤を添加することが可能である。光増感剤としては一般に知られているものが使用できる。具体的には、キサントン誘導体、チオキサントン誘導体、アントラキノン誘導体、アントラセン誘導体、グリオキシエステル誘導体、カンファーキノン誘導体、ベンジル誘導体、ベンゾフェノン誘導体、ミヒラーケトン誘導体等が挙げられる。これらは単独でも2種類以上を混合して使用してもかまわない。光増感剤を添加する場合の添加量は、紫外線硬化型組成物(A)100重量部に対して0.05〜10重量部であり、好ましくは0.1〜5重量部であり、より好ましくは0.2〜3重量部である。
【0019】
本発明の紫外線硬化型組成物(A)には、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、消泡剤、レベリング剤、無機微粒子、有機微粒子、顔料、染料、帯電防止剤、防曇剤、艶消剤、艶出剤などを適宜添加してもよい。
【0020】
本発明の皮膜被覆ポリカーボネート樹脂基材は、紫外線硬化型組成物(A)をポリカーボネート樹脂基材に塗工し、酸素の存在する雰囲気中で紫外線を照射することにより製造される。すなわち、酸素の存在する雰囲気で紫外線を照射することにより、製造された皮膜被覆ポリカーボネート樹脂基材の上でエピスルフィド系組成物(B)を重合させたときに十分な接着性が得られる。本発明における酸素の存在する雰囲気とは酸素濃度が0.5%以上であるが、さらに好ましくは0.5%以上21%以下の雰囲気である。製造効率や製造コストを考慮すると空気雰囲気であることが好ましい。酸素濃度が0.5%未満の場合には、製造された皮膜被覆ポリカーボネート樹脂基材の上でエピスルフィド系組成物(B)を重合させたときに十分な接着性が得られない。また酸素濃度が21%を超えてもその効果に大きな変化はないばかりか、雰囲気を酸素ガスで置換する必要があるので製造コストが高くなる。
【0021】
紫外線硬化型組成物(A)の塗工方法は、スプレー、浸漬、カーテンフロー、ロールコーティング等の公知の方法を用いることができる。
【0022】
紫外線硬化型組成物(A)を塗工したポリカーボネート樹脂基材は、紫外線を照射する前に30〜120℃の温度で1分間〜1時間加熱することが好ましい。加熱することによって化合物(a−2)がポリカーボネート樹脂基材に速やかに浸透し、ポリカーボネート樹脂基材との接着性が良好な紫外線硬化型組成物(A)の硬化皮膜を得ることができる。
【0023】
紫外線の光源としては、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ガリウムランプ等の光源を用いることができる。
【0024】
紫外線硬化型組成物(A)の硬化皮膜の厚みは1〜50μmであり、好ましくは2〜30μmであり、より好ましくは5〜20μmである。硬化皮膜の厚みが1μm未満の場合には、その上でエピスルフィド系組成物(B)を重合させたときにポリカーボネート樹脂がエピスルフィド化合物に溶出して透明な樹脂積層体が得られないことがある。また硬化皮膜の厚みが50μmを超えた場合には、製造された皮膜被覆ポリカーボネート樹脂基材の耐屈曲性が悪くなる。
【0025】
本発明で用いられるエピスルフィド系組成物(B)にはエピスルフィド化合物(b−1)が含有される。エピスルフィド化合物(b−1)としては、分子内にチイラン環を有する化合物であれば特に限定されないが、より高い屈折率を有する光学材料が得られるので、一般式(1)で表されるエピスルフィド化合物が好ましい。
【化2】

(式中、nは0から4の整数、mは0から6の整数であり、R,Rはそれぞれ独立に、水素原子またはC1〜C10の炭化水素であり、R,Rはそれぞれ独立にC1〜C10の炭化水素である。)
一般式(1)のエピスルフィド化合物の具体例としては、ビス(2,3−エピチオプロピル)スルフィド、ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)エタン、ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)プロパン、ビス(2,3−エピチオプロピルチオ)ブタン、ビス(5,6−エピチオ−3−チオヘキサン)スルフィド、ビス(2,3−エピチオプロピル)ジスルフィド、ビス(3,4−エピチオブチル)ジスルフィド、ビス(4,5−エピチオペンチル)ジスルフィド、ビス(5,6−エピチオヘキシル)ジスルフィドが挙げられる。これらの中で特に好ましいのは、ビス(2,3−エピチオプロピル)スルフィド(n=0、R=R=水素原子、R=R=メチレン)、ビス(2,3−エピチオプロピル)ジスルフィド(n=1、m=0、R=R=水素原子、R=R=メチレン)である。
【0026】
本発明で用いられるエピスルフィド系組成物(B)には、メルカプト化合物(bc−2)を添加することが好ましい。メルカプト化合物(b−2)を添加することにより、皮膜被覆ポリカーボネート樹脂基材の上でエピスルフィド系組成物(B)を重合させたときに、高強度の接着性を得ることができる。またエピスルフィド系組成物(B)の重合体の黄着色を低減する効果もある。
【0027】
メルカプト化合物(b−2)としては、メタンジチオール、メタントリチオール、1,2−ジメルカプトエタン、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、ビス(2,3−ジメルカプトプロピル)スルフィド、1,2,3−トリメルカプトプロパン、2−メルカプトメチル−1,3−ジメルカプトプロパン、4−メルカプトメチル−1,8−ジメルカプト−3,6−ジチアオクタン、2,4−ビス(メルカプトメチル)−1,5−ジメルカプト−3−チアペンタン、4,8−ビス(メルカプトメチル)−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,7−ビス(メルカプトメチル)−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、5,7−ビス(メルカプトメチル)−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、1,2,7−トリメルカプト−4,6−ジチアヘプタン、1,2,9−トリメルカプト−4,6,8−トリチアノナン、1,2,8,9−テトラメルカプト−4,6−ジチアノナン、1,2,10,11−テトラメルカプト−4,6,8−トリチアウンデカン、1,2,12,13−テトラメルカプト−4,6,8,10−テトラチアトリデカン、テトラキス(メルカプトメチル)メタン、テトラキス(4−メルカプト−2−チアブチル)メタン、テトラキス(7−メルカプト−2,5−ジチアヘプチル)メタン、トリメチロールプロパントリス(2−メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアン、ビス(4−メルカプトフェニル)スルフィド、ビス(4−メルカプトメチルフェニル)メタン、2,2−ビス(4−メルカプトメチルフェニル)プロパン、ビス(4−メルカプトメチルフェニル)エーテル、ビス(4−メルカプトメチルフェニル)スルフィドなどが挙げられる。これらメルカプト化合物の中で、好ましいのは分子内に2個以上のメルカプト基を有するメルカプト化合物であり、特に好ましいのはビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)である。これらは単独でも2種類以上を混合して使用してもかまわない。
【0028】
メルカプト化合物(b−2)を使用する場合の添加量は、エピスルフィド系組成物(B)100重量部としたとき0.01〜50重量部であり、好ましくは1〜40重量部であり、より好ましくは5〜30重量部である。
【0029】
エピスルフィド系組成物(B)には重合を促進させる触媒を添加することが好ましい。触媒は主に熱硬化型触媒と光硬化型触媒が使用できる。
【0030】
熱硬化型触媒としては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルアニリン、ピリジン、N−メチルピペリジン、ピペラジントリエチレンジアミン、イミダゾール等のアミン類、これらアミン類とボランおよび三フッ化ホウ素とのコンプレックス、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィンの等のホスフィン類、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、セチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、1−n−ドデシルピリジニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムブロマイド等の第4級ホスホニウム塩、トリ−n−ブチルスルホニウムブロマイド、トリフェニルスルホニウムヨーダイド等の第3級スルホニウム塩、ジフェニルヨードニウムクロライド、ジフェニルヨードニウムブロマイド、ジフェニルヨードニウムヨーダイド等の第2級ヨードニウム塩、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸、炭酸等の鉱酸類およびこれらの半エステル類、3フッ化硼素、3フッ化硼素のエーテラート等のルイス酸類、有機酸類およびこれらの半エステル類、ケイ酸、四フッ化ホウ酸、クミルパーオキシネオデカノエート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、tert−ブチルパーオキシネオデカノエート、ベンゾイルパーオキサイド等の過酸化物、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−シクロプロピルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系化合物、ホルムアルデヒドとパライルイジンの反応物、アセトアルデヒドとアニリンの反応物、トリクロトニリデン−テトラミンの反応物等のアルデヒドとアミン系化合物の反応物、ジフェニルグアニジン、テトラメチルグアニジン等のグアニジン類、ジブチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素等のチオ尿素類、ジベンゾチアジルジスルフィド、2−メルカプトベンゾチアゾールの亜鉛塩等のチアゾール類、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N−ジエチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド等のスルフェンアミド類、テトラブチルチウラムモノスルフィド、ジペンタメチレンチウラムジスルフィド等のチウラム類、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ピペコリルチオカルバミン酸ピペコリウム等のジチオカルバミン酸塩類、イソプロピルキサントゲン酸亜鉛、ジブチルキサントゲン酸ジスルフィド等のキサントゲン酸塩類、モノ−および/またはジブチルリン酸、モノ−および/またはジオクチルリン酸等の酸性リン酸エステル類等が挙げられる。これら熱硬化型触媒の中で好ましいのは、アミン類、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩、ホスフィン類である。
【0031】
光硬化型触媒としては、光酸重合開始剤、光塩基重合開始剤等が挙げられる。光酸重合開始剤としては、ビス(フェニルスルホニル)ジアゾメタンやα−ジアゾ―α―フェニルスルホニルアセトフェノンなどのジアゾメタン化合物、芳香族ジアゾニウム塩、トリフルオロスルホニウムヘキサフルオロホスフェートやトリフルオロスルホニウムヘキサフルオロアンチモネートなどの芳香族スルホニウム塩、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェートや4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボーレートなどの芳香族ヨードニウム塩、芳香族ホスホニウム塩、芳香族オキシスルホキソニウム塩、ベンゾイントシレートや2−ニトロベンジルトシレートなどの芳香族スルホン酸エステル、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジンや2−(2’−メトキシスチリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジンなどのトリアジン化合物、メタロセン系化合物などが挙げられる。光塩基重合開始剤としては、O−フェニルアセチルアセトフェノンオキシムやベンゾフェノンオキシムN−シクロヘキシルウレタンなどのアシルオキシム誘導体、N−[[(2−ニトロベンジル)オキシ]カルボニル]シクロヘキシルアミンやN−[[1−(3,5−ジメトキシフェニル)−1−メチル−エトキシ]カルボニル]シクロヘキシルアミンなどのカルバミン酸誘導体、ビス(4−フォルミルアミノフェニル)メタンやビス(4−アセチルアミノフェニル)メタンなどのフォルムアミド誘導体、トリメチルベンズヒドリルアンモニウムアイオダイドなどのベンズヒドリルアンモニウム塩誘導体、シクロアンミンコバルト(III)テトラフェニルボレート錯体などのコバルト錯体誘導体、1−フェナシル−(1−アゾニア−4−アザビシクロ[2,2,2]オクタン)テトラフェニルボレートや5−(4’−フェニル)フェナシル−(5−アゾニア−1−アザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン)テトラフェニルボレートなどのα−アンモニウムケトン誘導体、1,1−ジメチル−1−(2−ヒドロキシ−3−フェノキシ)プロピルアミン−2−(p−シアノベンゾイル)イミドなどのアミドイミド化合物誘導体などが挙げられる。これら光硬化型触媒のなかで好ましいのは光塩基重合開始剤であり、より好ましいのは1−フェナシル−(1−アゾニア−4−アザビシクロ[2,2,2]オクタン)テトラフェニルボレートや5−(4’−フェニル)フェナシル−(5−アゾニア−1−アザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン)テトラフェニルボレートなどのα−アンモニウムケトン誘導体である。
【0032】
エピスルフィド系組成物(B)の重合を促進させる触媒を例示したが、重合促進効果を発現するものであれば、これら列記化合物に限定されるものではない。また、これら熱硬化型触媒および/または光硬化型触媒は単独でも2種類以上を混合して使用してもかまわない。触媒の添加量は、エピスルフィド系組成物(B)100重量部に対して、0.0001〜10.0重量部であり、好ましくは0.0005〜5.0重量部である。
【0033】
また、必要に応じて、重合を促進させる触媒に加えて、重合反応をコントロールする目的で重合調整剤を添加することも可能である。本発明のコーティング剤組成物の重合調整剤としては、ハロゲン化スズ系化合物、ハロゲン化ゲルマン系化合物、ハロゲン化アンチモン系化合物に代表される長期周期律表における第13〜16族のハロゲン化物などが効果的である。これら重合調整剤は単独でも2種類以上を混合して使用してもかまわない。重合調整剤を使用する場合の添加量は、エピスルフィド系組成物(B)100重量部に対して、0.0001〜10.0重量部である。
【0034】
エピスルフィド系組成物(B)には、耐候性、耐酸化性、機械的強度、表面硬度、接着性、屈折率、染色性等の各種性能改良を目的として、組成成分の化合物と一部もしくは全部と反応可能な化合物を添加することも可能である。この場合には、反応のために必要に応じて公知の重合硬化触媒を別途加えることができる。組成成分の一部もしくは全部と反応可能な化合物として、イソ(チオ)シアネート化合物類、エポキシ化合物類、(メタ)アクリレート化合物類、ビニル化合物類、アミン類、カルボン酸類、カルボン酸無水物類、硫黄原子を有する無機化合物、セレン原子を有する無機化合物等が挙げられる。
【0035】
エピスルフィド系組成物(B)は、含有される成分の一部または全部を触媒の存在下または非存在下、撹拌下または非撹拌下で−100〜160℃で、0.1〜480時間かけて予備的に重合させてから使用することも可能である。特に、エピスルフィド系組成物(B)中の化合物に固体成分が含まれ、ハンドリングが容易でない場合はこの予備的な重合が効果的である。この予備的な重合条件は、好ましくは−10〜120℃で0.1〜240時間、より好ましくは0〜100℃で0.1〜120時間で実施する。
【0036】
エピスルフィド系組成物(B)は、粘度を調整する目的で有機溶剤に希釈して用いても構わない。また、その他に紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、消泡剤、レベリング剤、密着剤、離型剤、無機微粒子、有機微粒子、顔料、染料、帯電防止剤、防曇剤、艶消剤、艶出剤などを適宜添加してもよい。
【0037】
エピスルフィド系組成物(B)を重合させる際の形態は、ポリカーボネート樹脂積層体表面にエピスルフィド系組成物(B)をコーティングする方法、ポリカーボネート樹脂積層体同士をエピスルフィド系組成物(B)で挟む方法、ポリカーボネート樹脂積層と他の基材をエピスルフィド系組成物(B)で挟む方法、ポリカーボネート樹脂積層体と鋳型の間にエピスルフィド系組成物(B)を注入する方法等が挙がられるが、これらの形態に限定されるものではなく、目的物を得るための種々の方法を採用することができる。
【0038】
エピスルフィド系組成物(B)の重合方法は、熱重合法、光重合法等が挙げられるが、これらの方法に限定されるものではなく、またこれらの方法を組み合わせて用いてもよい。また紫外線照射により重合させる場合には、低酸素濃度雰囲気中で紫外線を照射することが好ましい。
【実施例】
【0039】
実施例、比較例中における酸素濃度の測定及び各種物性の評価は以下の方法で行なった。
(1)酸素濃度の測定:酸素分析計(G−102、飯島電子工業(株)製)を用いて測定した。
(2)樹脂積層体の接着性の評価:JIS K5400に準拠し、樹脂積層体の表面をカッターナイフの刃で2mm間隔に縦横6本の切れ目を入れて25個の碁盤目を作り、市販セロハンテープを良く密着させた後、サンプル表面に対して直角方向に瞬間的に剥がした時、塗膜が剥離せずに残存した升目の数(X)をX/25で表示した。
(3)樹脂積層体の透明性の評価:樹脂積層体に蛍光灯の光を透かした状態で目視観察により評価した。クモリが確認できない場合をA、僅かにクモリが確認できる場合をB、明らかにクモリが確認できる場合をCとした。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
調合例1
(b−1)成分としてビス(2,3−エピチオプロピル)スルフィドが100重量部、5−(4’−フェニル)フェナシル−(5−アゾニア−1−アザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン)テトラフェニルボレート(PBG、下記構造式(2)で表される)が1重量部、レベリング剤としてシリコーンオイル(KF−351、信越化学工業(株)製)が0.1重量部からなる、エピスルフィド系組成物(B1)を調合した。
【化3】

【0041】
調合例2
(b−1)成分としてビス(2,3−エピチオプロピル)スルフィドが95重量部、(b−2)成分として2−メルカプトエチルスルフィドが5重量部、PBGが1重量部、レベリング剤としてKF−351が0.1重量部からなる、エピスルフィド系組成物(B2)を調合した。
【0042】
調合例3
(b−1)成分としてビス(2,3−エピチオプロピル)スルフィドが70重量部、(b−2)成分としてペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)が30重量部、PBGが2重量部、レベリング剤としてKF−351が0.1重量部からなる、エピスルフィド系組成物(B3)を調合した。
【0043】
実施例1
(a−1)成分として6官能ウレタンアクリレートオリゴマー(商品名、UN−3320HC、根上工業(株)製)が70重量部、(a−2)成分として1,9−ノナンジオールジアクリレート(商品名、V260、ビスコート260、大阪有機化学工業(株)製)が30重量部、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(商品名、IC184、イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)が3重量部からなる紫外線硬化型組成物(A)を、ポリカーボネート樹脂シート(登録商標、ユーピロン・シートNF2000U、3mm厚、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)の表面にバーコーター#09を用いて約20μmの膜厚で塗工し、70℃で3分間加熱した。続いて空気雰囲気中でメタルハライドランプ(1.5kW、120W/cm、岩崎電気(株)製)の紫外線を60秒間照射すことにより皮膜被覆ポリカーボネート樹脂基材を作製した。
次に該皮膜被覆ポリカーボネート樹脂基材の表面に調合例2で調整したエピスルフィド系組成物(B2)をバーコーター#09を用いて約20μmの膜厚で塗工し、石英ガラス製の窓がついた箱に設置して箱の中を窒素ガスで置換した。そして石英窓よりメタルハライドランプ(1.5kW、120W/cm、岩崎電気(株)製)の紫外線を60秒間照射すことにより樹脂積層体を作製した。樹脂積層体の接着性、及び透明性の評価結果を表1に示した。樹脂積層体の接着性、及び透明性は良好であった。
【0044】
実施例2
実施例1と同じ条件で紫外線硬化型組成物を塗工したポリカーボネート樹脂基材を石英ガラス製の窓のついた箱に設置し、箱の中を窒素で置換して酸素濃度が5.0%の雰囲気中で紫外線を照射し、樹脂積層体を作製した。樹脂積層体の接着性、及び透明性の評価結果を表1に示した。樹脂積層体の接着性、及び透明性は良好であった。
【0045】
実施例3〜5、実施例7〜19
表1に示した条件以外は実施例1と同じ条件で樹脂積層体を作製した。樹脂積層体の接着性、及び透明性の評価結果を表1に示した。
【0046】
実施例6
(a−1)成分としてUN−3320HCが100重量部、希釈溶剤としてPGMを40重量部、IC184が3重量部からなる紫外線硬化型組成物(A)を用いた以外は実施例1と同じ条件で樹脂積層体を作製した。樹脂積層体の接着性、及び透明性の評価結果を表1に示した。樹脂積層体の接着性、及び透明性は良好であった。
【0047】
比較例1
紫外線硬化型組成物を塗工したポリカーボネート樹脂基材を石英ガラス製の窓のついた箱に設置し、箱の中を窒素で置換して酸素濃度が0.1%の雰囲気中で紫外線を照射した以外は実施例1と同じ条件で樹脂積層体を作製した。樹脂積層体の接着性及び透明性の評価結果を表1に示した。樹脂積層体の接着性は不十分であった
【0048】
比較例2
ポリカーボネート樹脂基材の上に塗工された紫外線硬化型組成物の表面にポリエステルフィルム(ルミラーT60、38μm、東レ(株)製)を被覆することにより、無酸素の雰囲気中で紫外線を照射した以外は実施例1と同じ条件で樹脂積層体を作製した。樹脂積層体の接着性、及び透明性の評価結果を表1に示した。樹脂積層体の接着性は不十分であった
【0049】
比較例3〜7,比較例9〜11
表1に示した条件以外は実施例1と同じ条件で樹脂積層体を作製した。樹脂積層体の接着性、及び透明性の評価結果を表1に示した。
【0050】
比較例8
(a−1)成分であるUN−3320HCの代わりに2官能ウレタンアクリレートオリゴマー、(商品名、UV−7461TE、日本合成化学(株)製)を用いた以外は実施例1と同じ条件で樹脂積層体を作製した。樹脂積層体の接着性、及び透明性の評価結果を表1に示した。紫外線硬化型組成物(A)に(a−1)成分が含まれていなかったので、樹脂積層体の接着性は不十分であった。
【0051】
比較例12
(a−1)成分であるUN−3320HCの代わりに6官能ポリエステル系アクリレート化合物であるジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(商品名、DPHA、KAYARAD DPHA、日本化薬(株)製)を用いた以外は実施例1と同じ条件で樹脂積層体を作製した。樹脂積層体の接着性、及び透明性の評価結果を表1に示した。紫外線硬化型組成物(A)に(a−1)成分が含まれていなかったので、樹脂積層体の接着性は不十分であった
【0052】
比較例13
紫外線硬化型組成物(A)の硬化皮膜で被覆されていないポリカーボネート樹脂基材(登録商標、ユーピロン・シートNF2000U、3mm厚、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)の表面にエピスルフィド系組成物(B2)をバーコーター#09を用いて約20μmの膜厚で塗工し、石英ガラス製の窓がついた箱に設置して箱の中を窒素ガスで置換した。そして石英窓よりメタルハライドランプ(1.5kW、120W/cm、岩崎電気(株)製)からの紫外線を30秒間照射すことにより樹脂積層体を作製した。樹脂積層体の接着性、及び透明性の評価結果を表1に示した。ポリカーボネート樹脂基材を紫外線硬化型組成物(A)の硬化皮膜で被覆しなかったので、ポリカーボネート樹脂基材とエピスルフィド重合体との接着性は不十分であり、またポリカーボネート樹脂がエピスルフィド系組成物(B2)に溶出した為に樹脂積層体は白濁していた。
【0053】
比較例14
エピスルフィド系組成物(B2)を塗工したポリカーボネート樹脂シートを、紫外線を照射する前に30℃の温度で8分間加熱した以外は比較例13と同じ条件で樹脂積層体を作製した。樹脂積層体の接着性、及び透明性の評価結果を表1に示した。ポリカーボネート樹脂基材を紫外線硬化型組成物(A)の硬化皮膜で被覆しなかったので、ポリカーボネート樹脂基材とエピスルフィド重合体との接着性は不十分であり、またポリカーボネート樹脂がエピスルフィド系組成物(B2)に溶出した為に樹脂積層体は白濁していた。
【表1】

表中に用いた化合物の略号は以下の通りである。
PBG:既知の方法で合成された下記構造式(2)で表される5−(4’−フェニル)フェナシル−(5−アゾニア−1−アザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン)テトラフェニルボレート、光塩基発生剤として使用
【化4】

KF−351:シリコーンオイル、信越化学工業(株)製、レベリング剤として使用
UN−3320HC:6官能ウレタンアクリレートオリゴマー、根上工業(株)製
UV−6300B:6官能ウレタンアクリレートオリゴマー、日本合成化学(株)製
UV−1700B:6官能ウレタンアクリレートオリゴマー、日本合成化学(株)製
UV−7605B:6官能ウレタンアクリレートオリゴマー、日本合成化学(株)製
UV−7461TE:2官能ウレタンアクリレートオリゴマー、日本合成化学(株)製
EB−9260:3官能ウレタンアクリレートオリゴマー、EBECRYL9260、ダイセル・サイテック(株)製
UV−7550B:3〜5官能ウレタンアクリレートオリゴマー、日本合成化学(株)製
U−4HA:4官能ウレタンアクリレートオリゴマー、UKオリゴU−4HA、新中村化学工業(株)製
DPHA:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、KAYARAD DPHA、日本化薬(株)製
V260:1,9−ノナンジオールジアクリレート、ビスコート260、大阪有機化学工業(株)製
IC184:1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、イルガキュア184、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、光重合開始剤として使用
PGM:ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、希釈溶剤として使用

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも分子内に6個以上の(メタ)アクリロイル基を有するウレタン(メタ)アクリレート化合物(a−1)を含有する紫外線硬化型組成物(A)をポリカーボネート樹脂基材に塗工し、酸素濃度0.5%以上の雰囲気下で該紫外線硬化型組成物(A)に紫外線を照射し、製造した皮膜被覆ポリカーボネート樹脂基材の(A)層上に分子内にチイラン環を有するエピスルフィド化合物(b−1)を含有するエピスルフィド系組成物(B)を重合させることを特徴とする樹脂積層体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の紫外線硬化型組成物(A)中に、分子内に6個以上の(メタ)アクリロイル基を有するウレタン(メタ)アクリレート化合物(a−1)と共重合可能な分子量が72以上400以下の化合物(a−2)が含有されることを特徴とする、請求項1に記載の皮膜被覆ポリカーボネート樹脂基材の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の化合物(a−2)が(メタ)アクリレート化合物であることを特徴とする、請求項2に記載の皮膜被覆ポリカーボネート樹脂基材の製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載の化合物(a−2)の含有量が紫外線硬化型組成物(A)100重量部としたとき0.01〜80重量部であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の皮膜被覆ポリカーボネート樹脂基材の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の酸素濃度が0.5%以上21%以下であることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の皮膜被覆ポリカーボネート樹脂基材の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載のエピスルフィド化合物(b−1)が一般式(1)であることを特徴とする、請求項1に記載の樹脂積層体の製造方法。
【化1】

(式中、nは0から4の整数、mは0から6の整数であり、R,Rはそれぞれ独立に、水素原子またはC1〜C10の炭化水素であり、R,Rはそれぞれ独立にC1〜C10の炭化水素である。)
【請求項7】
請求項6に記載の一般式(1)のエピスルフィド化合物が、ビス(2,3−エピチオプロピル)スルフィドおよび/またはビス(2,3−エピチオプロピル)ジスルフィドであることを特徴とする請求項6に記載の樹脂積層体の製造方法。
【請求項8】
請求項1、6および7のいずれかに記載のエピスルフィド系組成物(B)中に、メルカプト化合物(b−2)が含有されることを特徴とする請求項1、6および7のいずれかに記載の樹脂積層体の製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の製造方法で得られる樹脂積層体。
【請求項10】
請求項9に記載の樹脂積層体を用いて製造される光学材料。

【公開番号】特開2008−29982(P2008−29982A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−207971(P2006−207971)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】