説明

盛土の補強構造

【課題】地中鋼製壁体が設けられた補強区間と、未補強区間との境界部分の構造の変化を緩和し、地震時や洪水時に境界部分に損傷が集中するのを防止する。
【解決手段】連続する盛土1の略天端1aの範囲内に盛土1の連続方向に沿って二列に地中鋼製壁体2が設けられている矢板対策区間bと、未だ前記地中鋼製壁体2が設けられていない無対策区間cとの境界(対策工境界面a)がある。地中鋼製壁体2は、鋼矢板3を連結した鋼矢板壁からなる。地中鋼製壁体2の端部となる所定区間fの地中鋼製壁体2の鋼矢板3の剛性が、矢板対策区間b側から無対策区間c側に向かうにつれて徐々に低くなるように設定されている。例えば、使用される鋼矢板3の型式の番号が、矢板対策区間b側から無対策区間c側に向かうにつれて小さくなるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川等の堤防、道路・鉄道盛土等の河川、道路、鉄道等に沿って長く延在する盛土の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、河川等の堤防の盛土に対する補強として、盛土の法面に透水性の低い材料や不透水性の材料を被覆することや、盛土の法面の下端側となる法尻部分に盛土の延在方向(長さ方向)に沿って地中に鋼矢板壁を構築することが知られていた。
【0003】
しかし、法面の被覆では、盛土自体の強度の補強にならず、地震や洪水の際に、大きな外力が盛土に作用した場合の盛土(堤体)の破壊を防止することができない。また、地震時の液状化現象などによる基礎地盤の軟化や変形により盛土が不安定となることも防止できない。さらに、河川の堤防において、盛土からなる堤体下部の透水性の高い層を通じての堤体内部側への漏水を防止できない。したがって、前記基礎地盤の安定化を図り、前記漏水を防止する上では、上述のように法尻部分に鋼矢板壁を配置する必要があるが、この鋼矢板壁を用いた場合に、盛土の基礎部分の補強が行われても盛土部分の補強が行われず、例えば、洪水時に越水した場合に盛土部分が崩壊するのを防止することができない。
【0004】
そこで、盛土構造物の左右(堤防の場合に表裏または外内)の法面の上端部となる法肩同士の間や、これら法肩の間の天端(盛土の頂部)部分に、たとえば、支持層から盛土の略天端の高さに至る鋼矢板壁を盛土の長さ方向に沿って構築することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1では、表裏(外内)の両法肩の近傍にそれぞれ鋼矢板壁を構築することにより、盛土構造物の中央部に二列に鋼矢板壁を設けるとともに、盛土中の二列の鋼矢板壁の上端部同士を例えばタイロッド等の連結部材で接続することが提案されている。
【0005】
このように盛土の法肩から天端部分に二列に鋼矢板壁を構築することで、盛土内に二重鋼矢板締切り部が構成され、構造的に堅固な芯を形成し、盛土を補強することができる。これにより、洪水時や地震時の様々な外力条件に対応可能となる。例えば、洪水時の浸透、洗屈、越水や、地震時の慣性力や基礎地盤の液状化に対応可能となる。
すなわち、河川の堤防として用いた場合に、洪水や地震の際に、二列の鋼矢板壁により盛土の天端高さを維持することができるので、河川の氾濫を防止し、河川の氾濫により盛土が崩壊するのを防止することができる。道路や鉄道の盛土として使用した場合も、二列の鋼矢板壁の間部分を道路や線路として使用することで、道路や線路の崩壊を防止し、復旧作業を容易なものとすることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−13451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、河川堤防などの盛土構造物の上述のような補強構造を構築する対策は、堤防の距離が長く、1年間の計画の中で全区間の補強を完了することは、現実的でなく、数年にわたり補強工事が行われることが主流である。
その際に、計画区間の中で、施工が完了した矢板対策区間(補強区間)と、今後施工が予定される無対策区間(未補強区間)の境界部では、対策工(補強構造)の終点部と無対策部で構造変化点ができ、無対策区間で予定される補強工事が開始されるまで、この状態が保持されることになる。
【0008】
この状態で地震や、洪水等が発生した場合に、矢板対策区間では、上述のように堤体(盛土)の沈下や損傷が軽減されるが、無対策区間は大きく損傷する虞がある。さらに、矢板対策区間と無対策区間との境界面においては、大きな構造的な変化がある構造変化点であるため、損傷が集中し、無対策区間よりも破壊が生じやすくなることが懸念される。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、構造変化点となる矢板対策区間の終点部と無対策区間の境界となる部分において、外力が加わった場合の盛土の変形の差異を緩和する対策を講じることにより、できる限り構造の連続性を確保し、地震や洪水時の損傷を軽減できる盛土の補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の盛土の補強構造は、盛土に鋼矢板壁または鋼管矢板壁からなる地中鋼製壁体を前記盛土の連続方向に沿って設けることで前記盛土を補強するとともに、既に設けられた前記地中鋼製壁体の端部を境に、前記地中鋼製壁体が設けられた補強区間と、未だ前記地中鋼製壁体が設けられていない未補強区間とが存在する盛土の補強構造であって、
前記地中鋼製壁体の端部となる所定区間内の前記地中鋼製壁体を構成する鋼矢板または鋼管矢板の剛性が、前記補強区間側から前記未補強区間側に向かうにつれて徐々に低くなるように設定されていることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の盛土の補強構造は、盛土に鋼矢板壁または鋼管矢板壁からなる地中鋼製壁体を前記盛土の連続方向に沿って設けることで前記盛土を補強するとともに、既に設けられた前記地中鋼製壁体の端部を境に、前記地中鋼製壁体が設けられた補強区間と、未だ前記地中鋼製壁体が設けられていない未補強区間とが存在する盛土の補強構造であって、
前記地中鋼製壁体の端部となる所定区間内の前記地中鋼製壁体を構成する鋼矢板または鋼管矢板の設置位置が、前記補強区間側から前記未補強区間側に向かうにつれて前記盛土の中央から徐々に離れるように設定されていることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の盛土の補強構造は、盛土に鋼矢板壁または鋼管矢板壁からなる地中鋼製壁体を前記盛土の連続方向に沿って設けることで前記盛土を補強するとともに、既に設けられた前記地中鋼製壁体の端部を境に、前記地中鋼製壁体が設けられた補強区間と、未だ前記地中鋼製壁体が設けられていない未補強区間とが存在する盛土の補強構造であって、
前記地中鋼製壁体の端部となる所定区間内の前記地中鋼製壁体を構成する鋼矢板または鋼管矢板の根入れ長さが、前記補強区間側から前記未補強区間側に向かうにつれて徐々に短くなるように設定されていることを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の盛土の補強構造は、盛土に鋼矢板壁または鋼管矢板壁からなる地中鋼製壁体を前記盛土の連続方向に沿って設けることで前記盛土を補強するとともに、既に設けられた前記地中鋼製壁体の端部を境に、前記地中鋼製壁体が設けられた補強区間と、未だ前記地中鋼製壁体が設けられていない未補強区間とが存在する盛土の補強構造であって、
前記所定区間内の前記地中鋼製壁体を構成する鋼矢板または鋼管矢板として、根入れ長さが異なる少なくとも2種類の鋼矢板または鋼管矢板が混合して設置され、前記補強区間側から前記未補強区間側に向かうにつれて前記鋼矢板または前記鋼管矢板のうちの短い方の前記鋼矢板または前記鋼管矢板が設置される割合が徐々に大きくなるように設定されていることを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の盛土の補強構造は、盛土に鋼矢板壁または鋼管矢板壁からなる地中鋼製壁体を前記盛土の連続方向に沿って設けることで前記盛土を補強するとともに、既に設けられた前記地中鋼製壁体の端部を境に、前記地中鋼製壁体が設けられた補強区間と、未だ前記地中鋼製壁体が設けられていない未補強区間とが存在する盛土の補強構造であって、
前記地中鋼製壁体の端部となる所定区間内の前記地中鋼製壁体を構成する鋼矢板または鋼管矢板の剛性が、前記補強区間側から前記未補強区間側に向かうにつれて徐々に低くなるように設定されている構造と、
前記地中鋼製壁体の端部となる所定区間内の前記地中鋼製壁体を構成する鋼矢板または鋼管矢板の設置位置が、前記補強区間側から前記未補強区間側に向かうにつれて前記盛土の中央から徐々に離れるように設定されている構造と、
前記地中鋼製壁体の端部となる所定区間内の前記地中鋼製壁体を構成する鋼矢板または鋼管矢板の根入れ長さが、前記補強区間側から前記未補強区間側に向かうにつれて徐々に短くなるように設定されている構造と、
前記所定区間内の前記地中鋼製壁体を構成する鋼矢板または鋼管矢板として、根入れ長さが異なる少なくとも2種類の鋼矢板または鋼管矢板が混合して設置され、前記補強区間側から前記未補強区間側に向かうにつれて前記鋼矢板または前記鋼管矢板のうちの短い方の前記鋼矢板または前記鋼管矢板が設置される割合が徐々に大きくなるように設定されている構造と、
のうちの少なくとも二つの構造が合わせて用いられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、前記地中鋼製壁体の端部となる所定区間内においては、補強区間側から未補強区間側に向かうにつれて徐々に地中鋼製壁体による対策の効果が低くなるように設定されている構造となる。すなわち、前記所定区間では、補強区間側から未補強区間側に向かうにつれて補強区間と未補強区間との構造的な差異が徐々になくなる構造なので、盛土の補強区間と未補強区間との間での構造の急激な変化が緩和される。これにより、地震や洪水等により盛土に外力が作用した際に、補強区間と未補強区間との境界部分に損傷が集中するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態に係る盛土の補強構造を示す概略平面図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る盛土の補強構造を示す概略平面図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係る盛土の補強構造を示す概略平面図である。
【図4】本発明の第4実施形態に係る盛土の補強構造を示す概略平面図である。
【図5】本発明の第5実施形態に係る盛土の補強構造を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
図1に示すように、第1実施形態の盛土の補強構造は、例えば、河川の堤防、道路・鉄道盛土等の盛土を補強するためのものである。
盛土1は、中央の最も高い部分が水平な上面を有する天端1aとなっている。そして、天端1aの左右には傾斜した法面1bがそれぞれ形成されて、法面1bの上端部側が法肩1cで下端部側が法尻1dとされている。
この盛土1の補強構造においては、盛土1の略天端1aの範囲内に鋼矢板3を連結した鋼矢板壁からなる地中鋼製壁体2が設置されている。なお、略天端1aの範囲内には、天端1aより少し外側となる法面1bの上端部である法肩1c部分も含まれる。
【0018】
地中鋼製壁体2を構成する鋼矢板3は盛土1と、その直下の基礎地盤を貫通し、支持地盤に根入れされる深さを持ち、盛土1の連続方向(長さ方向)に沿って連続的に設置されている。地中鋼製壁体2の頭部(上端部)は、盛土1の天端1aの高さ付近となる高さに位置している。この盛土1の補強構造においては、盛土1中に、二列に設けられた地中鋼製壁体2,2で締め切られた地盤からなる構造骨格部が形成されている。
【0019】
なお、二列の地中鋼製壁体2,2は、例えば、タイロッド等の連結部材が長さ方向に沿って所定間隔毎に設けられているものとしてもよい。連結部材は、二列に地中鋼製壁体2,2間に架け渡されてこれらを連結している。これにより、洪水や地震等により大きな外力が作用した場合に、二列の地中鋼製壁体2,2の上部が変形するのを防止している。なお、連結部材を設けないものとしてもよい。
【0020】
この例においては、盛土1の長さ方向に沿って二列の地中鋼製壁体2が設けられているが、未だ施工途中となっている。すなわち、盛土1においては、既に一対の地中鋼製壁体2が設けられた補強区間である矢板対策区間bと、未だ前記地中鋼製壁体2が設けられていない未補強区間である無対策区間cとが隣接して存在していおり、既に構築された地中鋼製壁体2の端の位置が、これら矢板対策区間bと無対策区間cとの境界となる対策工境界面aの位置となる。
【0021】
この例では、2列の地中鋼製壁体2の端部となる所定区間fを構成する鋼矢板3の剛性が、矢板対策区間b側から無対策区間c側に向かうにつれて、徐々に低減されている。
また、この例における所定区間fは、地中鋼製壁体2の端から10mから20mの範囲程度となっているが、これに限定されるものではなく、状況に応じて10m以下(例えば、5m)や20m以上(例えば、30m)としてもよい。
【0022】
ここで、鋼矢板3の剛性の変更は、例えば、鋼矢板3を構成する鋼材の断面剛性を変えることや、鋼材の材質を変えることなどが考えられる。この例では、鋼矢板3の型式の番号が小さくなると鋼矢板3の断面剛性が小さくなることから、所定区間fで使用される鋼矢板3の型式の番号が、矢板対策区間b側から無対策区間c側に向かうにつれて小さくなるようにしている。また、矢板対策区間bの所定区間f以外の部分は、基本的に同じ型式の鋼矢板が用いられ、所定区間fの無対策区間cから最も遠くなる部分では、所定区間f以外の部分の鋼矢板3と同じ型式もしくは、その一つ下の番号となる型式の鋼矢板が用いられる。この所定区間fでは、無対策区間cに近くなるにつれて、使われる鋼矢板3の型式の番号が小さくなるように鋼矢板3が選択されて打設されている。
【0023】
これにより、上述のように、所定区間fを構成する鋼矢板3の剛性が、矢板対策区間b側から無対策区間c側に向かうにつれて、徐々に低減され、盛土1の所定区間fでは、矢板対策区間b側の方が全体の剛性が高く、無対策区間c側に向かうにつれて、盛土1の剛性が低くなる。
すなわち、所定区間fにおいては、矢板対策区間b側から無対策区間c側に向かうにつれて、地中鋼製壁体2による対策の効果が小さくなっており、所定区間fの無対策区間c側の端と無対策区間cとの境界部分の構造的差異を小さなものとしている。
【0024】
この第1実施形態の盛土の補強構造にあっては、矢板対策区間bと無対策区間cとの対策工境界面aにおける構造変化が緩和され、地震や洪水などによる外力が盛土1に作用した際に対策工境界面a近傍に損傷が集中してしまうのを抑制することができる。
【0025】
次に、本発明の第2実施形態を説明する。
図2に示すように、第2実施形態の盛土の補強構造においては、第1実施形態と同様に二列に地中鋼製壁体2が設けられるとともに、地中鋼製壁体2が設けられた補強区間としての矢板対策区間bと、未補強区間としての無対策区間cとがあり、それらの境界が対策工境界面aとなる。
【0026】
この地中鋼製壁体2の対策工境界面a側の端部が第1実施形態の場合と同様の所定区間fとされている。
この例では、所定区間fにおいて、地中鋼製壁体2を構成する鋼矢板3の剛性を変更するのではなく、鋼矢板3の設置位置を変更するものとなっている。所定区間f以外の矢板対策区間bでは、2列の地中鋼製壁体2を構成する左右の鋼矢板3は、それぞれ、例えば、天端1aと左右の法面1b(法肩1c)との境界部分に設置されている。
【0027】
所定区間fでは、二列の地中鋼製壁体2のそれぞれにおいて、矢板対策区間b側から無対策区間c側に向かうにつれて、鋼矢板3の設置位置が法肩1cから法尻1dに向って設置位置を変えるようになっている。
すなわち、所定区間fにおいて、地中鋼製壁体2を構成する鋼矢板3の設置位置が、矢板対策区間b側から無対策区間c側に向かうにつれて、盛土1の幅方向の中央から離れるように設定されている。
【0028】
したがって、所定区間fにおいては、二列の地中鋼製壁体2は、それぞれ盛土1の連続方向に対して斜めに配置されるとともに、矢板対策区間b側から無対策区間c側に向かうにつれて互いに離れるように設置されている。
この例においては、所定区間fの盛土1の二つの法面1bにおいて、それぞれ鋼矢板3が法肩1cから法尻1dに至るように斜めに連結して打設されている。所定区間fの対策工境界面aとなる端では、鋼矢板3が法尻1d、すなわち、盛土1の側縁部に打設されている。
【0029】
また、所定区間fにおける鋼矢板3の上端の高さ位置は、鋼矢板3の設置位置における盛土1の法面1bの高さ位置と略同じで、法面1bに露出しないように、鋼矢板3の設置位置の法面1bの高さ位置より少し低いものとされている。
これにより、所定区間fにおいては、矢板対策区間bから無対策区間cに向かうにつれて、徐々に二列の地中鋼製壁体2の間隔が広がるとともに、地中鋼製壁体2の高さが低くなり、盛土1の剛性が徐々に低下する。すなわち、地中鋼製壁体2による対策の効果が徐々に低くなる。したがって、対策工境界面における構造変化が緩和された状態となる。
この第2実施形態の盛土の補強構造にあっては、矢板対策区間bと無対策区間cとの対策工境界面aにおける構造変化が緩和され、地震や洪水などによる外力が盛土1に作用した際に対策工境界面a近傍に損傷が集中してしまうのを抑制することができる。
【0030】
次に、本発明の第3実施形態を説明する。
図3に示すように、第3実施形態の盛土の補強構造においては、二列に地中鋼製壁体2が設けられるとともに、地中鋼製壁体2が設けられた補強区間としての矢板対策区間bと、未補強区間としての無対策区間cとがあり、それらの境界が対策工境界面aとなる。
但し、第3実施形態では、二列の地中鋼製壁体2の設置位置が盛土1の略天端1aの範囲ではなく、左右の法尻1d部分もしくはその近傍となっている。
【0031】
この地中鋼製壁体2の対策工境界面a側の端部が第1実施形態の場合と同様の所定区間fとされている。
この例では、所定区間fにおいて、第2実施形態と同様に、鋼矢板3の設置位置を矢板対策区間b側から無対策区間c側に向かうにつれて、盛土1の中央から離れるように鋼矢板3が設置されている。
第3実施形態では、所定区間f以外の矢板対策区間bにおける鋼矢板3の設置位置が法尻1d部分(盛土1の左右の側縁部)なので、それよりも盛土1の中央から離れる鋼矢板3は盛土1より外側に配置される。
【0032】
また、盛土1の法面1bより外側は、斜面となっていない可能性が高く、所定区間fに設置される鋼矢板3の上端位置は、基本的に同じ高さ位置で、鋼矢板3の設置位置の地面より少し下となる位置である。
したがって、所定区間fにおける二列の地中鋼製壁体2の上端の位置は、略同じ高さとされ、二列の地中鋼製壁体2の間隔が矢板対策区間b側から無対策区間c側に向かうにつれて離れるようになっている。
これにより、所定区間fにおいて、盛土1を補強すべき地中鋼製壁体2が矢板対策区間b側から無対策区間c側に向かうにつれて盛土1から離れるため、盛土1の剛性が徐々に低下するとともに、地中鋼製壁体2による対策の効果が徐々に低くなる。これにより対策工境界面における構造変化が緩和される。
【0033】
この第3実施形態の盛土の補強構造にあっては、矢板対策区間bと無対策区間cとの対策工境界面aにおける構造変化が緩和され、地震や洪水などによる外力が盛土1に作用した際に対策工境界面a近傍に損傷が集中してしまうのを防止することができる。
なお、この例では、盛土1の基礎地盤部分が補強されるが盛土1の補強に関しては、第1実施形態および第2実施形態の方が優れている。
【0034】
次に、本発明の第4実施形態を説明する。
図4に示すように、第4実施形態の盛土の補強構造においては、第1実施形態と同様に二列に地中鋼製壁体2が設けられるとともに、地中鋼製壁体2が設けられた補強区間としての矢板対策区間bと、未補強区間としての無対策区間cとがあり、それらの境界が対策工境界面aとなる。
【0035】
この地中鋼製壁体2の対策工境界面a側の端部が第1実施形態の場合と同様の所定区間fとされている。
この例では、所定区間fにおいて、地中鋼製壁体2を構成する鋼矢板3の剛性を変更するのではなく、鋼矢板3a〜eの根入れ長さ(鋼矢板3の地盤中の深さ)を変更するものとなっている。所定区間f以外の矢板対策区間bでは、2列の地中鋼製壁体2を構成する左右の鋼矢板3は、上述のように、基本的に支持地盤まで根入れされている。
【0036】
所定区間fでは、二列の地中鋼製壁体2のそれぞれにおいて、矢板対策区間b側から無対策区間c側に向かうにつれて、鋼矢板3a〜eの根入れ長さが徐々に短くなっている。すなわち、鋼矢板3a〜eの下端位置が徐々に浅くなっている。なお、鋼矢板3a〜3eの上端位置は、略同じなので、鋼矢板3a〜3eの全長も徐々に短くなる。
所定区間fの矢板対策区間b側の端部における鋼矢板3a〜eの根入れ長さは、例えば、上述の所定区間fを除く矢板対策区間bにおける鋼矢板3の根入れ長さと同じ、もしくは、それより少し短いものとされている。また、所定区間fの無対策区間c側の端部における最も短い鋼矢板3eの根入れ長さは、例えば、鋼矢板3eの下端の位置が盛土1の下端の高さ位置(法面1bの法尻1d近傍の高さ位置)となる長さである。
【0037】
地中鋼製壁体2を構成する鋼矢板3a〜eの根入れ長さが短くなると、鋼矢板3a〜eが外力により倒れ易くなり、所定区間fにおいて、矢板対策区間b側から無対策区間c側に向かうにつれて、対策の効果が低減することになる。これにより、盛土1の剛性が徐々に低下するとともに、地中鋼製壁体2による対策の効果が徐々に低くなり、対策工境界面aにおける構造変化が緩和された状態となる。
この第4実施形態の盛土の補強構造にあっては、矢板対策区間bと無対策区間cとの対策工境界面aにおける構造変化が緩和され、地震や洪水などによる外力が盛土1に作用した際に対策工境界面a近傍に損傷が集中してしまうのを抑制することができる。
さらに、この第4実施形態の盛土の補強構造にあっては、矢板を短くすることで透水層において水の浸透が生じる。矢板対策区間bと無対策区間cの境界部では、水の透水に関しても境界面となっており動水勾配が高くなる傾向があるが、矢板長さを無対策区間c側に向かうにつれて短くすることで、水の透水量も無対策区間cに向かって徐々に増加することになり、境界面での動水勾配の高まりを緩和する効果が期待できる。
【0038】
次に、本発明の第5実施形態を説明する。
図5に示すように、第5実施形態の盛土の補強構造においては、第1実施形態と同様に二列に地中鋼製壁体2が設けられるとともに、地中鋼製壁体2が設けられた補強区間としての矢板対策区間bと、未補強区間としての無対策区間cとがあり、それらの境界が対策工境界面aとなる。
【0039】
この地中鋼製壁体2の対策工境界面a側の端部が第1実施形態の場合と同様の所定区間fとされている。
この例では、所定区間fにおいて、地中鋼製壁体2を構成する鋼矢板3の剛性を変更するのではなく、鋼矢板3の根入れ長さの異なる2種の鋼矢板3、3eを混合して用いるものとなっている。一方の鋼矢板3は、所定区間f以外の矢板対策区間bで用いられている鋼矢板3と同じ根入れ長さを有する鋼矢板3とされている。他方の鋼矢板3eは、一方の鋼矢板3より根入れ深さが短いものとされ、例えば、根入れ長さが、鋼矢板3eの下端が盛土1の下端の高さ位置(法面1bの法尻1d近傍の高さ位置)となる長さとなっている。
【0040】
この例の所定区間fの地中鋼製壁体2においては、矢板対策区間b側から無対策区間c側に向かうにつれて短い鋼矢板3eの混合割合が長い鋼矢板3より徐々に多くなるように設定されている。
例えば、一対の長い鋼矢板3の間に配置される短い鋼矢板3eの本数が、1,2,3のように徐々に増やされることで、短い鋼矢板3eの割合が多くされている。
【0041】
短い鋼矢板3eは、外力が加わった場合に長い鋼矢板3よりかなり倒れ易い状態となっており、短い鋼矢板3eの混合割合が多くされるほど、補強された盛土1の強度が低下することになる。したがって、所定区間fにおいて、矢板対策区間b側から無対策区間c側に向かうにつれて、対策の効果が徐々に低減することになり、対策工境界面aにおける構造変化が緩和された状態となる。
また、この第5実施形態の盛土の補強構造にあっては、第4実施形態と同様に、無対策区間cへ向かって水の透水が増加することになり、矢板対策区間bと無対策区間cとの境界部における動水勾配の高まりを緩和する効果が期待できる。
【0042】
この第5実施形態の盛土の補強構造にあっては、矢板対策区間bと無対策区間cとの対策工境界面aにおける構造変化が緩和され、地震や洪水などによる外力が盛土1に作用した際に対策工境界面a近傍に損傷が集中してしまうのを防止することができる。
なお、上述の第1実施形態から第5実施形態において、矢板対策区間bの地中鋼製壁体2を延長して無対策区間cに対策を施す場合に、所定区間fの無対策区間c側端部に鋼矢板3を連結して延長すると、所定区間fにおいて、盛土1の強度が低下してしまう。そこで、無対策区間cでの補強工事を再開する際には、所定区間fに地中鋼製壁体として打設された鋼矢板3等を引き抜いてから補強工事を再開することが好ましい。また、引き抜いた鋼矢板等を次の工事の終点部に転用することが可能で、工事終了まで繰り返し活用することでコストを抑制することができる。
【0043】
また、上述の第1実施形態から第5実施形態の盛土の補強構造の少なくとも二つを組み合わせて盛土の補強構造としてもよい。
例えば、第2実施形態から第5実施形態の盛土の補強構造において、所定区間fにおける鋼矢板3の剛性を、矢板対策区間側から無対策区間側に向かうにつれて低減する設定としてもよい。
【0044】
また、第4実施形態および第5実施形態の盛土補強構造において、所定区間fにおける鋼矢板3の設置位置を、矢板対策区間側から無対策区間側に向かうにつれて盛土1の幅方向の中央から外側に離れていく設定としてもよい。
また、第5実施形態において、所定区間fにおける鋼矢板3の根入れ長さを徐々に短くするものとしてもよい。この場合に、例えば、長い方の鋼矢板3もしくは短い方の鋼矢板3eの根入れ長さを徐々に短かくすることが考えられる。
【0045】
さらに、第1実施形態から第5実施形態の盛土補強構造を三つ以上組み合わせるものとしてもよい。
また、盛土1の天端1aの範囲に地中鋼製壁体2を1列に設けて、盛土1を補強するものとしてもよい。この場合に、第2実施形態および第3実施形態のように所定区間fにおいて、地中鋼製壁体2を盛土1の中央から離れるように配置する際に、盛土1の左右いずれか一方側に向って、盛土1の中央から離れるように鋼矢板3の設置位置を設定する。
また、鋼矢板3としては、鋼管矢板、ハット形鋼矢板、U形鋼矢板、Z形鋼矢板等の他の鋼矢板を用いてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 盛土
2 地中鋼製壁体
3 鋼矢板
3a〜e 短い鋼矢板
b 矢板対策区間(補強区間)
c 無対策区間(未補強区間)
f 所定区間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
盛土に鋼矢板壁または鋼管矢板壁からなる地中鋼製壁体を前記盛土の連続方向に沿って設けることで前記盛土を補強するとともに、既に設けられた前記地中鋼製壁体の端部を境に、前記地中鋼製壁体が設けられた補強区間と、未だ前記地中鋼製壁体が設けられていない未補強区間とが存在する盛土の補強構造であって、
前記地中鋼製壁体の端部となる所定区間内の前記地中鋼製壁体を構成する鋼矢板または鋼管矢板の剛性が、前記補強区間側から前記未補強区間側に向かうにつれて徐々に低くなるように設定されていることを特徴とする盛土の補強構造。
【請求項2】
盛土に鋼矢板壁または鋼管矢板壁からなる地中鋼製壁体を前記盛土の連続方向に沿って設けることで前記盛土を補強するとともに、既に設けられた前記地中鋼製壁体の端部を境に、前記地中鋼製壁体が設けられた補強区間と、未だ前記地中鋼製壁体が設けられていない未補強区間とが存在する盛土の補強構造であって、
前記地中鋼製壁体の端部となる所定区間内の前記地中鋼製壁体を構成する鋼矢板または鋼管矢板の設置位置が、前記補強区間側から前記未補強区間側に向かうにつれて前記盛土の中央から徐々に離れるように設定されていることを特徴とする盛土の補強構造。
【請求項3】
盛土に鋼矢板壁または鋼管矢板壁からなる地中鋼製壁体を前記盛土の連続方向に沿って設けることで前記盛土を補強するとともに、既に設けられた前記地中鋼製壁体の端部を境に、前記地中鋼製壁体が設けられた補強区間と、未だ前記地中鋼製壁体が設けられていない未補強区間とが存在する盛土の補強構造であって、
前記地中鋼製壁体の端部となる所定区間内の前記地中鋼製壁体を構成する鋼矢板または鋼管矢板の根入れ長さが、前記補強区間側から前記未補強区間側に向かうにつれて徐々に短くなるように設定されていることを特徴とする盛土の補強構造。
【請求項4】
盛土に鋼矢板壁または鋼管矢板壁からなる地中鋼製壁体を前記盛土の連続方向に沿って設けることで前記盛土を補強するとともに、既に設けられた前記地中鋼製壁体の端部を境に、前記地中鋼製壁体が設けられた補強区間と、未だ前記地中鋼製壁体が設けられていない未補強区間とが存在する盛土の補強構造であって、
前記所定区間内の前記地中鋼製壁体を構成する鋼矢板または鋼管矢板として、根入れ長さが異なる少なくとも2種類の鋼矢板または鋼管矢板が混合して設置され、前記補強区間側から前記未補強区間側に向かうにつれて前記鋼矢板または前記鋼管矢板のうちの短い方の前記鋼矢板または前記鋼管矢板が設置される割合が徐々に大きくなるように設定されていることを特徴とする盛土の補強構造。
【請求項5】
盛土に鋼矢板壁または鋼管矢板壁からなる地中鋼製壁体を前記盛土の連続方向に沿って設けることで前記盛土を補強するとともに、既に設けられた前記地中鋼製壁体の端部を境に、前記地中鋼製壁体が設けられた補強区間と、未だ前記地中鋼製壁体が設けられていない未補強区間とが存在する盛土の補強構造であって、
前記地中鋼製壁体の端部となる所定区間内の前記地中鋼製壁体を構成する鋼矢板または鋼管矢板の剛性が、前記補強区間側から前記未補強区間側に向かうにつれて徐々に低くなるように設定されている構造と、
前記地中鋼製壁体の端部となる所定区間内の前記地中鋼製壁体を構成する鋼矢板または鋼管矢板の設置位置が、前記補強区間側から前記未補強区間側に向かうにつれて前記盛土の中央から徐々に離れるように設定されている構造と、
前記地中鋼製壁体の端部となる所定区間内の前記地中鋼製壁体を構成する鋼矢板または鋼管矢板の根入れ長さが、前記補強区間側から前記未補強区間側に向かうにつれて徐々に短くなるように設定されている構造と、
前記所定区間内の前記地中鋼製壁体を構成する鋼矢板または鋼管矢板として、根入れ長さが異なる少なくとも2種類の鋼矢板または鋼管矢板が混合して設置され、前記補強区間側から前記未補強区間側に向かうにつれて前記鋼矢板または前記鋼管矢板のうちの短い方の前記鋼矢板または前記鋼管矢板が設置される割合が徐々に大きくなるように設定されている構造と、
のうちの少なくとも二つの構造が合わせて用いられていることを特徴とする盛土の補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−214251(P2011−214251A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81334(P2010−81334)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】