説明

直動案内装置用転動体収容ベルトおよび直動案内装置

【課題】無限循環路内の案内溝に段差があっても、その段差への連結腕部の引っ掛かりを緩和し得る直動案内装置用転動体収容ベルトおよび直動案内装置を提供する。
【解決手段】複数のボール46が転動しつつ循環する無限循環路28を備え、その無限循環路28内にボール46の並び方向に連続する案内溝60を有するリニアガイド10に用いられ、隣合うボール46同士の間に介在する間座部51と、無限循環路28の幅方向の両側で間座部51を相互に連結するとともに、間座部51の端面よりも外側に張り出して案内溝60に案内される一対の連結腕部52とを備え、ボール46を無限循環路28内の並び方向で整列させる転動体収容ベルト50であって、一対の連結腕部52は、前記並び方向に端部を有しており、それら一対の連結腕部52の端部は、それら端部位置が前記並び方向に前後して形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直動案内装置用転動体収容ベルトおよび直動案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
直動案内装置は、無限循環路内を転動しつつ循環する複数の転動体を介してスライダを案内レールに対して相対移動させている。しかし、直動案内装置では、スライダが案内レールに対して相対移動すると、各転動体は同一方向へ回転しつつ移動するため、隣合う転動体同士が擦れ合って転動体の円滑な転動が妨げられる。そのため、騒音が大きくなり、転動体の摩耗の進行も早くなる。そこで、従来から、騒音の発生を抑制し、円滑に直動案内装置を作動させるために、転動体を無限循環路内の並び方向で整列させる転動体収容ベルトが提案されている(例えば特許文献1〜3参照)。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の技術では、隣合う転動体同士の間に介在する間座部と、その間座部を相互に連結する連結腕部とを備えており、有端状に形成された転動体収容ベルトが開示されている。この転動体収容ベルトの連結腕部は、無限循環路の幅方向の両側で間座部をそれぞれ連結することで一対をなしており、無限循環路の幅方向で対称に形成されている。そして、それぞれの連結腕部が間座部の外周面よりも外側に張り出して形成されている。さらに、無限循環路内には、転動体の並び方向に連続する案内溝が無限循環路の幅方向の両側に形成されており、この案内溝に連結腕部が案内されるようになっている。このような構成により、この転動体収容ベルトは、転動体を無限循環路内の並び方向で整列させつつ、その連結腕部が案内溝に沿って案内されて、転動体と共に無限循環路内を円滑に循環することを意図している。
【特許文献1】特許第3243415号公報
【特許文献2】特開2002−122136号公報
【特許文献3】特開平10−318257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この種の直動案内装置では、その製造を容易にするために、無限循環路は、複数の無限循環路構成路を組み合わせて構成されるのが普通である。そのため、組み合わされた無限循環路構成路相互の連結部において、僅かな段差が案内溝に生じることを避けることは困難である。
例えば上記特許文献1に記載の技術では、スライダは、スライダ本体と、そのスライダ本体に配設されてスライダ本体とともに移動するエンドキャップとから構成されている。そして、スライダ本体には、案内レールに形成された転動体案内面に対向して転動体案内面とともに転動体軌道路を構成する負荷転動体案内面が形成される。また、エンドキャップには、前記転動体軌道路に連なるように方向転換路が形成される。さらに、スライダ本体には、その方向転換路に連通する転動体戻し通路が形成され、転動体軌道路、方向転換路、および転動体戻し通路が無限循環路構成路になっている。つまり、これらの無限循環路構成路が循環可能に連通して一の無限循環路を構成している。そのため、エンドキャップとスライダ本体との連結部、つまり方向転換路と転動体軌道路とが繋がる部分には、無限循環路内の案内溝に上述のような段差が存在し得る。そのため、この段差に転動体収容ベルトが差し掛かると、有端状に形成された上記一対の連結腕部の端部は、この案内溝の段差に引っ掛かりが生じる。特にこの例では、一対の連結腕部は、無限循環路の幅方向で対称になっている。そのため、端部での一対の連結腕部は、それぞれがほぼ同時に案内溝の段差に進入する。したがって、無限循環路内での転動体収容ベルトの円滑な循環が阻害され易く、スライダの円滑な運動が妨げられることになる。
【0005】
また、スペースの制約などによって、コンパクトなリニアガイドが必要とされる場合には、寸法上、無限循環路の全域に渡って案内溝を設けることができない場合がある。このときは、案内溝のない部分から段差のある部分に転動体収容ベルトの先端がさしかかる際に、転動体収容ベルトの引っ掛かりが生じやすい。
また、例えば特許文献2に記載の技術では、有端状の一対の連結腕部が、上記特許文献1同様に無限循環路の幅方向で対称に形成された転動体収容ベルトが開示されている。そして、この転動体収容ベルトでは、その端部に位置する連結腕部に単純な面取りを設けている。しかし、このような単純な面取りが連結腕部の端部になされていても、一対の連結腕部は無限循環路の幅方向で対称なため、ほぼ同時に案内溝の段差に進入することに変りはなく、案内溝の段差に引っ掛かり易い。
【0006】
また、例えば特許文献3に記載の技術では、有端状に形成され、一対の連結腕部の両端部に、相互に連結可能な係止構造を有する転動体収容ベルトが開示されている。そのため、この転動体収容ベルトによれば、無限循環路内で対向する両端部を相互に連結することができる。しかし、この例においても、有端状の一対の連結腕部は、上記各特許文献同様に無限循環路の幅方向で対称に形成されている。したがって、一対の連結腕部はほぼ同時に案内溝の段差に進入するため、やはり、案内溝の段差に引っ掛かり易い。
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、無限循環路内の案内溝に段差があっても、その段差への連結腕部の引っ掛かりを緩和し得る直動案内装置用転動体収容ベルトおよび直動案内装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、複数の転動体が転動しつつ循環する無限循環路を備え、該無限循環路内に前記転動体の並び方向に延びる案内溝を有する直動案内装置に用いられ、隣合う転動体同士の間に介在する間座部と、前記無限循環路の幅方向の両側で前記間座部を相互に連結するとともに、前記間座部の端面よりも外側に張り出して前記案内溝に案内される一対の連結腕部とを備え、前記転動体を前記無限循環路内の並び方向で整列させる転動体収容ベルトであって、前記一対の連結腕部は、前記並び方向に端部を有しており、それら一対の連結腕部の少なくとも一端側では、それら端部位置が前記並び方向に前後していることを特徴としている。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、複数の転動体が転動しつつ循環する無限循環路を備え、該無限循環路内に前記転動体の並び方向に延びる案内溝を有する直動案内装置に用いられ、隣合う転動体同士の間に介在する間座部と、前記無限循環路の幅方向の両側で前記間座部を相互に連結するとともに、前記間座部の端面よりも外側に張り出して前記案内溝に案内される一対の連結腕部とを備え、前記転動体を前記無限循環路内の並び方向で整列させる転動体収容ベルトであって、前記一対の連結腕部は、前記並び方向に端部を有しており、それら一対の連結腕部の両端部は、一方が他方より前記並び方向で端部同士が相対向する側に向けて突出してそれぞれ形成されるとともに、前記無限循環路に組み込まれたときに、当該無限循環路内で対向する前記両端部のうち一端での前記他方より突出した連結腕部は、他端での前記一方より突出していない連結腕部に対向するように形成されていることを特徴としている。
また、請求項3に記載の発明は、直動案内装置であって、請求項1または2に記載の直動案内装置用転動体収容ベルトを備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、端部を有する一対の連結腕部は、それら一対の連結腕部の少なくとも一端側では、それら端部位置が無限循環路内での転動体の並び方向に前後して形成されている。そのため、無限循環路内の案内溝の段差に当該端部が進入するに際し、端部での一対の連結腕部を、片側ずつタイミングをずらして段差に進入させることができる。したがって、案内溝の段差への連結腕部の引っ掛かりを緩和することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係る直動案内装置用転動体収容ベルト及びその転動体収容ベルトを備えた直動案内装置の一実施形態について図面を適宜参照しつつ説明する。
図1は、本発明に係る転動体収容ベルトを備えた直動案内装置の一実施形態のリニアガイドを示す斜視図である。また、図2(a)は、図1のリニアガイドのエンドキャップを取り外した正面図、図3は、図2(a)のリニアガイドでのX−X線部分における断面図である。
【0011】
図1および図2(a)に示すように、このリニアガイド10は、転動体案内面14を有する案内レール12と、その案内レール12に対して相対移動可能に案内レール12上に跨設されるスライダ16とを備えている。
案内レール12は、ほぼ角形の断面形状を有し、その両側面にそれぞれ2条づつ計4条の転動体案内面14が、その長手方向に沿って直線状に形成されている。
スライダ16は、図1に示すように、スライダ本体17と、スライダ本体17の軸方向両端にそれぞれ装着されたエンドキャップ22とを備えて構成されている。スライダ本体17およびエンドキャップ22の軸方向に連続した形状は、ともに略コ字形の断面形状である。
【0012】
スライダ本体17には、図2(a)に示すように、その略コ字形をした両袖部の内側に、案内レール12の各転動体案内面14にそれぞれ対向する断面ほぼ半円形の負荷転動体案内面18が計4条形成されている。また、エンドキャップ22には、図3に示すように、その負荷転動体案内面18の両端にそれぞれ連なる一対の方向転換路24が内部に形成されている。さらに、図2(a)および図3に示すように、スライダ本体17には、その一対の方向転換路24に連通して、負荷転動体案内面18に平行で断面円形の貫通孔からなる転動体戻し通路20が袖部の内部に形成されている。
【0013】
そして、図3に示すように、案内レール12の転動体案内面14と、これに対向するスライダ本体17の負荷転動体案内面18との間に挟まれた空間が転動体軌道路26をなしている。そして、一対の方向転換路24、転動体戻し通路20、および、転動体軌道路26が無限循環路構成路になっている。そして、これら無限循環路構成路によって環状に連続する無限循環路28が計4本構成されている。
さらに、同図に示すように、各無限循環路28内には、転動体としてのボール46が複数装填されている。そして、各無限循環路28内の複数のボール46は、転動体収容ベルト50によって転動体収容ベルト50とともに転動体列62を構成している。
【0014】
転動体収容ベルト50は、無限循環路28内で隣り合うボール46同士の間に介装される間座部51と、間座部51同士を無限循環路28の幅方向の両側で連結するベルト状の一対の連結腕部52とを備えて構成されている。そして、転動体収容ベルト50は、間座部51および連結腕部52で画成された空間が複数の転動体収容部になっており、その転動体収容部にボール46を所定の間隔で個別に収容して無限循環路28内での並び方向で整列させて転動体列62を構成可能になっている。なお、転動体収容ベルト50は、図2(a)に示すように、無限循環路28内で幅方向に張り出す連結腕部52が、スライダ16内の無限循環路28内に形成された案内溝60に、無限循環路28の幅方向の両側で案内されている。なお、転動体収容ベルト50は、方向転換路24の内部では、連結腕部52が弾性変形し、転動体列62全体が回動しつつ移動する。そのため、この連結腕部52の変形範囲に合わせた曲率を考慮して方向転換路24内では、案内溝60の溝幅を拡幅させている。
【0015】
次に、上記転動体収容ベルト50についてより詳しく説明する。
図4および図5は、転動体収容ベルト50を説明する図であり、図4(a)は、転動体収容ベルト50を展開した状態で示す平面図、同図(b)はその正面図である。また、図5は、転動体収容ベルト50の両端部が無限循環路内で相対向している状態を示す説明図であり、同図では転動体収容ベルト50の相対向する両端部を拡大して示している。
【0016】
この転動体収容ベルト50は、図4(a)および(b)に示すように、有端状に形成されており、可撓性をもつ合成樹脂材料から射出成形によって、上記間座部51および連結腕部52が一体に成形されている。
一対の連結腕部52は、薄肉で長尺のベルト形状の部材であり、ボール46を収容するための円形のボール収容穴55が、長手方向に並んで形成されている。そして、このボール収容穴55は、その内径寸法が、ボール46の外径より僅かに大きな径をもって形成されている。
【0017】
間座部51は、図5に示すように、ボール46の外径より小さい外径を有する短円柱状の部材である。間座部51は、隣合うボール46の曲面に倣う球面状の凹曲面51a,51bを、その短円柱状の両端面それぞれに、無限循環路28内でのボール46の並び方向に向けて有している。つまり、間座部51は、上記一対の連結腕部52に対し、ボール46の並び方向で各ボール収容穴55の両側にそれぞれ配置されて、ボール46の脱落を防止可能な距離を隔てて相対向して上記転動体収容部を構成する。
【0018】
ここで、この転動体収容ベルト50は、一対の連結腕部52は、ボール46の並び方向に端部を有しており、それら一対の連結腕部の両端は、各端部位置がボール46の並び方向に前後している。すなわち、同図に示すように、その有端状をなす両端部での一対の連結腕部52は、一方が他方よりボール46の並び方向で端部同士が相対向する側に向けて突出してそれぞれ形成されている。
【0019】
より詳しくは、同図での左側の端部では、一方の連結腕部52Aは、凸の半円弧状に形成されている。また、他方の連結腕部52Bは、当該端部に位置するボール収容穴55と略同心の円弧で形成されており、その円弧の半径R1を、当該端部に位置する間座部51でのボール46の並び方向で外側を向く面51pに当該円弧がほぼ接する長さで形成している。そして、同図での右側の端部では、左側の端部同様に、一方の連結腕部52Aは、凸の半円弧状をなし、他方の連結腕部52Bは、当該端部に位置するボール収容穴55と略同心で、当該端部に位置する間座部51でのボール46の並び方向で外側を向く面51pにほぼ接する半径R1の円弧で形成している。
【0020】
さらに、この転動体収容ベルト50は、同図に示すように、無限循環路28に組み込まれたときに、当該無限循環路28内で対向する両端部のうち一端(この例では同図での左側の端部)での前記他方の連結腕部52Bより突出した連結腕部52Aは、他端での前記一方の連結腕部52Aより突出していない連結腕部52Bに対向するように形成されている。
【0021】
次に、この転動体収容ベルトおよびリニアガイドの作用・効果について説明する。
上述の構成からなるリニアガイド10は、スライダ16を案内レール12の軸方向に相対移動させると、無限循環路28内をボール46が回転しつつ移動し、ボール46とともに転動体収容ベルト50も無限循環路28内を移動する。このとき、無限循環路28内で転動体収容ベルト50の間座部51は、自分の移動方向の前方にあるボール46を押し、さらに、ボール46は自分の移動方向の前方にある間座部51を押す。これにより、転動体列62全体が無限循環路28内を循環移動する。そして、転動体列62は、転動体軌道路26においてスライダ16とは反対方向に移動し、転動体軌道路26の一方の端部から連続する一方の方向転換路24に入って移動方向を変え、方向転換路24から転動体戻し通路20に入ってスライダ16と同じ方向に移動し、他方の方向転換路24に入って再び移動方向を変えて転動体軌道路26へ戻るという循環を繰り返すことができる。
【0022】
そして、このリニアガイド10によれば、無限循環路28内には、ボール46同士の間に間座部51が介在しているので、ボール46同士が互いに直接接触することはなく、ボール46同士の擦れ合いにより騒音や摩耗が発生することは防止されている。また、間座部51同士を連結腕部52によって連結して転動体収容ベルト50としているので、各ボール46は、所定の間隔を維持しながら無限循環路28内を転動体列62として円滑に循環することができる。
【0023】
また、このリニアガイド10によれば、各転動体収容ベルト50の連結腕部52は、案内溝60に係合している。そのため、転動体軌道路26内で各間座部51が倒れたりすることは防止されており、転動体列62の配列が乱れてその円滑な移動が妨げられることも防止される。さらに、転動体収容ベルト50の連結腕部52が案内溝60に沿って無限循環路28を案内されるので、転動体収容ベルト50が移動する際の振れは規制され、転動体収容ベルト50が連結腕部52の間に保持するボール46の振れも規制され、転動体列62全体が無限循環路28内を正確かつ円滑に移動可能となる。また、転動体収容ベルト50は、連結腕部52が案内溝60に係合するとともに、間座部51同士の間に保持されたボール46も凹曲面51a,51bによって支承し保持されているため、スライダ16を案内レール12から抜き出したときでも、スライダ16から転動体列62が脱落することが防止される。
【0024】
ここで、このリニアガイド10は、一対の方向転換路24、転動体戻し通路20、および、転動体軌道路26が無限循環路構成路になっており、これら無限循環路構成路によって環状に連続する無限循環路28が計4本構成されている。そのため、無限循環路構成路が相互に繋がる部分には、無限循環路内の案内溝に段差が存在し得る。しかし、このリニアガイド10によれば、一対の連結腕部52は、ボール46の並び方向に端部を有しており、それら一対の連結腕部の両端は、各端部位置がボール46の並び方向に前後している。そのため、無限循環路28内の案内溝60の段差に当該端部が進入するに際し、一対の連結腕部52は、まず、半円弧状の連結腕部52Aが段差に先に進入し、次いで、連結腕部52Aに比べて突出していない連結腕部52Bが段差に進入する。つまり、この転動体収容ベルト50によれば、一対の連結腕部52を片側ずつタイミングをずらして案内溝60の段差に進入させることができる。したがって、案内溝60の段差への連結腕部52の引っ掛かりを緩和することができる。
【0025】
また、このリニアガイド10によれば、各転動体収容ベルト50の連結腕部52は、無限循環路28に組み込まれたときに、当該無限循環路28内で対向する両端部のうち一端での連結腕部52Bより突出した連結腕部52Aは、他端での連結腕部52Aより突出していない連結腕部52Bに対向するように形成されている。つまり、突出部と非突出部とを対向させている。そのため、ボール46の並び方向での両端部間の距離を小さくすることができる。したがって、ボール46に負荷が作用する無限循環路28の領域で、荷重を負荷させることができるボール46の減少を抑えることができる。
【0026】
以上説明したように、この転動体収容ベルト50およびこれを備えたリニアガイド10によれば、案内溝60の段差への連結腕部52の引っ掛かりを緩和することができる。
また、上記実施形態の例では、案内溝が無限循環路の全周に連続して設けられた場合について述べたが、案内溝が部分的に設けられていない場合にも、転動体収容ベルトの循環をスムーズに保つ効果が得られる。例えば、図2(b)に示すものは、転動体軌道路のみにおいて、案内溝をもたないリニアガイドの例である。この例では、部分的に案内溝をなくすことで、形状の単純化を図り、低コスト化を狙っている。このようなリニアガイドでは、連結腕部の先端が、案内溝のない領域から、案内溝のある領域に移る際に、引っ掛かりが生じやすいが、本発明に係る転動体収容ベルトを用いれば、その連結腕部が、片側ずつタイミングをずらして案内溝のある領域に移るので、引っ掛かりを緩和できる。
【0027】
なお、本発明に係る直動案内装置用転動体収容ベルトおよび直動案内装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態では、本発明に係る転動体収容ベルトを備えた直動案内装置の一実施形態として、ボールを備えたリニアガイドを例に説明したが、これに限定されず、例えば本発明を、ローラを備えたローラガイドに適用することができる。
【0028】
また、例えば、上記実施形態では、有端状の転動体収容ベルト50の両端部で、一対の連結腕部は、一方が他方よりボール46の並び方向で端部同士が相対向する側に向けて突出して形成されている例で説明したが、これに限定されず、一対の連結腕部52は、ボール46の並び方向に端部を有しており、いずれか一方の端部で、端部位置がボール46の並び方向に前後している構成であればよい。しかし、転動体列62の循環方向のいずれの方向でも案内溝60の段差への連結腕部52の引っ掛かりを緩和する上では、上記実施形態のように、両端部で、一対の連結腕部を、一方が他方よりボール46の並び方向で端部同士が相対向する側に向けて突出して形成することが好ましい。
【0029】
また、例えば上記実施形態では、転動体収容ベルト50の有端状をなす両端部での一対の連結腕部52は、一方が他方よりボール46の並び方向で端部同士が相対向する側に向けて突出してそれぞれ形成されるとともに、無限循環路28に組み込まれたときに、当該無限循環路28内で対向する前記両端部のうち一端での突出した連結腕部52Aは、他端での突出していない連結腕部52Bに対向するように形成されている例で説明したが、これに限定されず、例えば両端部の突出した連結腕部52A同士を相対向するように構成してもよい。しかし、ボール46の並び方向での両端部間の距離をより小さくし、ボール46に負荷が作用する無限循環路28の領域で、荷重を負荷させることができるボール46の減少を抑える上では、上記実施形態のように、無限循環路28内で対向する前記両端部のうち一端での突出した連結腕部52Aを、他端での突出していない連結腕部52Bに対向するように形成することが好ましい。
【0030】
また、例えば上記実施形態では、転動体収容ベルト50の端部での一対の連結腕部52を、半円弧状をなす連結腕部52Aと、端部に位置するボール収容穴55と略同心で、当該端部に位置する間座部51でのボール46の並び方向で外側を向く面51pにほぼ接する半径R1の円弧で形成した連結腕部52Bとによって構成した例で説明したが、端部での一対の連結腕部52の形状は、一対の連結腕部52を片側ずつタイミングをずらして案内溝60の段差に進入させ得る構成であれば、これに限定されるものではない。
【0031】
例えば、図6に端部の他の構成を変形例1として示す。
この例では、同図に示すように、各端部のうち、ボール46の並び方向で端部同士が相対向する側に向けて突出して形成されている連結腕部52Cと、連結腕部52Cに比べて突出していない連結腕部52Dとによって端部で互いに前後する一対の連結腕部52が形成されている。そして、これらの連結腕部52Cと連結腕部52Dとは、ボール46の並び方向で端部同士が相対向する側での稜線が直線的に繋がっており、幅方向の両角部それぞれが丸く面取りされている。なお、対向する端部同士は、上記実施形態同様に、一端での突出部である連結腕部52Cと、他端での非突出部である連結腕部52Dとが対向している。
【0032】
このような構成であっても、各端部での一対の連結腕部52を片側ずつタイミングをずらして案内溝60の段差に進入させることができる。したがって、単純な面取りによるもの、つまり、案内溝60の段差に一対の連結腕部52が両側で同時に進入し、段差を乗り越えるような構成に比べ、転動体列62を円滑に循環させることができる。また、上記実施形態同様に、対向する端部同士の突出部と非突出部とを対向させているから、ボール46の並び方向での両端部間の距離をより小さくし、ボール46に負荷が作用する無限循環路28の領域で、荷重を負荷させることができるボール46の減少を抑えることができる。
【0033】
さらに、各端部は、ボール46の並び方向で端部同士が相対向する側での稜線が直線的に繋がっているから、端部に顕著な凸形状をもたないので、転動体列62を円滑に循環させる上で好適であるとともに、例えば、転動体収容ベルト50を取り扱い中に、突出した端部が折損してしまうようなことも生じにくい。
さらに、図7に端部の他の構成を変形例2として示す。
この例は、同図(a)および(b)に示すように、対向する端部同士の間にボール46を介装するものである。なお、同図(a)は相対向する端部間にボール46を介装する前の状態で示す説明図、同図(b)はボール46を介装した状態で示す説明図である。
【0034】
この例での非突出部である連結腕部52Bは、上述した実施形態と同様である。そして、突出部である連結腕部52Eは、ボール46の並び方向で端部同士が相対向する側に向けて突出して形成されるとともに、端部同士の間に介装されるボール46に倣う凹曲面55aを有している。連結腕部52Eの突出した先端部は、円弧状に面取りされている。なお、対向する端部同士は、上記実施形態同様に、一端での突出部である連結腕部52Eと、他端での非突出部である連結腕部52Bとが対向している。ここで、上記凹曲面55aは、上記ボール収容穴55とほぼ同じ曲率の円弧になっており、連結腕部52E同士が組み合わされることによって、他のボール収容穴55と同様にボール46を拘束可能になっている。
【0035】
このような構成であっても、各端部での一対の連結腕部52を片側ずつタイミングをずらして案内溝60の段差に進入させて、上記実施形態と同様の作用・効果を奏することができる。さらに、この例では、対向する端部同士の間にボール46を介装しており、各端部での一対の連結腕部52Eの凹曲面55aによってボール46が拘束されるので、無限循環路28でのボール46に負荷が作用する領域で、荷重を負荷させることができるボール46の減少をより好適に抑えることができる。したがって、リニアガイド10の耐荷重性能の低下を防ぐことができる。
【0036】
さらに、図8に端部の他の構成を変形例3として示す。
この例は、対向する端部同士の間に二つのボール46を介装する点、および連結腕部52Fの突出した先端部の形状を除き、ほぼ上記変形例2と同様である。
すなわち、この例では、同図に示すように、対向する端部同士の間に二つのボール46を介装し、各ボール46をそれぞれの側の端部で拘束するものである。なお、連結腕部52Fの突出した先端部の形状は、端部同士が対向する側の稜線が直線状になっており、角部が約45度に面取りされている点が上記変形例2に対し異なる。
【0037】
このような構成であっても、上記実施形態と同様の作用・効果を奏することができる。さらに、この例では、実質的に転動体収容ベルト端部の間座部51を不要としているので、上記変形例2と同様に、無限循環路28でのボール46に負荷が作用する領域で、荷重を負荷させることができるボール46の減少をより好適に抑えることができる。したがって、リニアガイド10の耐荷重性能の低下を防ぐことができる。
【0038】
さらに、図9に端部の他の構成を変形例4として示す。
この例は、相対向する端部同士を、相互に移動可能なように繋ぐ連結構造をさらに備えている点が上記実施形態並びに各変形例に対し異なっている。
すなわち、この例では、同図に示すように、一方の端部(同図での左側の端部)には、ボール46の並び方向に延びる有底穴56aをその中央部に有する連結用間座部56を備えている。そして、他方の端部には、連結用間座部56の有底穴56aに対し、ボール46の並び方向に相互に移動可能なように適度な隙間をもって内嵌する外形形状をもつ連結軸部57aを有する連結用間座部57を備えている。なお、各連結用間座部56、57は、各端部に位置するボール収容穴55側に向けた面に、上記間座部51と同様のボール46の曲面に倣う球面状の凹曲面をそれぞれ有している。
【0039】
このような構成によれば、上記実施形態と同様の作用・効果を奏するとともに、さらに、連結用間座部56、57とによって相対向する端部が相互に連結されるので、方向転換路24での転動体列62の循環をより安定させることができる。また、この例では、連結用間座部56、57は、ボール46の並び方向に相互に移動可能なように連結されているので、転動体収容ベルト50全長の寸法精度の許容差を大きくすることができる。そのため、製造を容易にすることができるという効果がある。
【0040】
さらに、図10に端部の他の構成を変形例5として示す。
この例は、上記変形例4に対し、相対向する端部同士を、相互に移動しないように掛け止める連結構造を備えている点が異なっている。
すなわち、この例では、同図に示すように、一方の端部(同図での左側の端部)には、ボール46の並び方向に延びる有底穴56aをその中央部に有し、さらに、その有底穴56aの底部に転動体収容ベルト50幅方向に広がる拡幅部56bを有する連結用間座部56を備えている。そして、他方の端部には、連結用間座部56の有底穴56aに隙間をもって内嵌する外形形状をもつ連結軸部57aを有し、さらに、その連結軸部57aの先端に形成されて拡幅部56bに掛け止め可能なように有底穴56aの幅より広い幅をもつ掛止部57bを有する連結用間座部57を備えている。
【0041】
このような構成によれば、上記実施形態と同様の作用・効果を奏するとともに、さらに、連結用間座部56、57とによって端部が相互に連結されるので、方向転換路24での転動体列62の循環をより安定させることができる。また、この例では、連結用間座部56、57は、ボール46の並び方向に相互に移動しないように拡幅部56bに掛止部57bを掛け止めて連結されるので、連結部分がボール46の並び方向に移動しない。そのため、より確実な連結が可能であり、使用中に連結部分が外れ難いという効果がある。
なおまた、上記実施形態並びに各変形例は、上記説明した個別の例に限定されず、相互の構成要素の変更や組合わせを適宜実施可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る転動体収容ベルトを備えた直動案内装置の一実施形態のリニアガイドを示す斜視図である。
【図2】同図(a)は、図1に示すリニアガイドのエンドキャップを取り外した正面図である。また、同図(b)は、その変形例を説明する図である。
【図3】図2のリニアガイドでのX−X線部分における断面図である。
【図4】本発明に係る転動体収容ベルトを説明する図である。
【図5】無限循環路内で転動体収容ベルトの両端部が相対向している状態を示す説明図である。
【図6】転動体収容ベルトの端部の変形例(変形例1)を説明する図である。
【図7】転動体収容ベルトの端部の変形例(変形例2)を説明する図である。
【図8】転動体収容ベルトの端部の変形例(変形例3)を説明する図である。
【図9】転動体収容ベルトの端部の変形例(変形例4)を説明する図である。
【図10】転動体収容ベルトの端部の変形例(変形例5)を説明する図である。
【符号の説明】
【0043】
10 リニアガイド(直動案内装置)
12 案内レール
14 転動体案内面
16 スライダ
17 スライダ本体
18 負荷転動体案内面
20 転動体戻し通路
22 エンドキャップ
24 方向転換路
26 転動体軌道路
28 無限循環路
46 ボール(転動体)
50 転動体収容ベルト
51 間座部
52 連結腕部
55 ボール収容穴
60 案内溝
62 転動体列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の転動体が転動しつつ循環する無限循環路を備え、該無限循環路内に前記転動体の並び方向に延びる案内溝を有する直動案内装置に用いられ、隣合う転動体同士の間に介在する間座部と、前記無限循環路の幅方向の両側で前記間座部を相互に連結するとともに、前記間座部の端面よりも外側に張り出して前記案内溝に案内される一対の連結腕部とを備え、前記転動体を前記無限循環路内の並び方向で整列させる転動体収容ベルトであって、
前記一対の連結腕部は、前記並び方向に端部を有しており、それら一対の連結腕部の少なくとも一端側では、それら端部位置が前記並び方向に前後していることを特徴とする直動案内装置用転動体収容ベルト。
【請求項2】
複数の転動体が転動しつつ循環する無限循環路を備え、該無限循環路内に前記転動体の並び方向に延びる案内溝を有する直動案内装置に用いられ、隣合う転動体同士の間に介在する間座部と、前記無限循環路の幅方向の両側で前記間座部を相互に連結するとともに、前記間座部の端面よりも外側に張り出して前記案内溝に案内される一対の連結腕部とを備え、前記転動体を前記無限循環路内の並び方向で整列させる転動体収容ベルトであって、
前記一対の連結腕部は、前記並び方向に端部を有しており、それら一対の連結腕部の両端部は、一方が他方より前記並び方向で端部同士が相対向する側に向けて突出してそれぞれ形成されるとともに、前記無限循環路に組み込まれたときに、当該無限循環路内で対向する前記両端部のうち一端での前記他方より突出した連結腕部は、他端での前記一方より突出していない連結腕部に対向するように形成されていることを特徴とする直動案内装置用転動体収容ベルト。
【請求項3】
請求項1または2に記載の直動案内装置用転動体収容ベルトを備えていることを特徴とする直動案内装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−100757(P2007−100757A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−289228(P2005−289228)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】